2024-07-07 02:51:17 更新

概要

ちょっと暗い提督の話しです。


前書き

こんにちは。
今回は地の文を盛り込んだ内容にしてあります。
ちょっとだけ長いです。
人によっては不愉快に感じる場面があるかも
わかりません。解体について独自解釈が入ってます。


提督「優しい嘘」




「?」





静かに意識が覚醒する。

真っ白な空間。



両足でしっかりと立っているのは感じてはいる。

ここはどこだろう。



寒いとか暑いとか、気温があるような感覚が

あるわけではない。敢えて言葉に起こすなら



「適度な温度」



寒くもなく、暑くもない。

快適と言えば言葉は良い。




視線を足元に落としてみる。





お気に入りの黒い革靴を履いている。

光沢があり、長年私の足を守り続けてくれて

思い出深い革靴。




ああ、これは




―に勤めていた時

―が誕生日に買ってくれた大切な…










―って、誰だ?





脳にフィルターが掛けられたように

酷く記憶が曖昧だ。




確かに、大切な人とここでは

無い場所で何か、大事な…

とても大事な事を成し遂げようとしていた。




あまりに要領を得ない思考に

嫌気が差し辺りを見回す。




どこまでも白い空間が広がっている。




本当にどこなんだ?




その場で

軽くジャンプしてみる。




トントンッ




硬い感触を足の裏に感じる。

音は響かない。




しっかりとした感触に安堵すると同時に

疑問が生まれる。




規模は不明だが

広い空間だ。



音が響かない事に違和感を覚える。



とにかく『床』のようなものは存在している。

この空間の広さが気になる所ではある。



今度は両手を眼下に

持ってくる。




両手を覆うのはこの空間同様

真っ白な手袋。




それが私の両手を覆っている。




手を何度か閉じては開いてみる。




ふむ、

これは紛れもなく私の手である。

当たり前だが。




その手で顔を触ってみる。




ペタペタ…




頬をつねって横に引っ張って

手を離すと、元に戻る。




ちょっと痛い




グニグニと化粧水を揉みこむように

頬に力を加えたり弱めたりする。




感覚を確めようと

手袋を外し同じように

顔に触れる。




顔から伝わる体温、

触ってみてわかったが

手先はヒンヤリと冷えている。

冷え性なのか。




弾力さと骨張った感覚を

同時に手に覚える。




…どうやら私は若いらしい。


改めて

自分の体を確かめる。



体の至るところは

筋肉の盛り上がった所がある




筋張った

両肩、胸板、太腿―




帽子を取り、髪を触る



生い茂っている。



股を摩る



私は所謂(いわゆる)

『男性』らしい




一通り、己の体を調べた。




ざっくり纏めると

おそらく20代後半、細身の男性。




腹や、臀部には無駄な肉は

付いてなかった。




服装は

どこかの式典にでも出るのかと

疑われそうな程、真っ白な服。





確かこれは海軍の士官服。

二種軍衣。



しっくりくる感覚に

奇妙さを覚える。





おかしい―





なぜ何も覚えてない―





記憶の手掛かりが無いか

ズボンのポケットを弄る




―?




手のひらサイズの

カサカサとした物が右手に触れる。




それをズボンの右ポケットから




ゆっくり引き抜くと

それは色褪せ、

まるで長く握り潰されていたように

クシャクシャな皺だらけの…

所々に黒い染みのついた写真だった。




そうこれは写真




欠如しているのは

自分の存在に関する記憶のみで

知識という物はある程度保持しているようだ。




現に、先程から様々なものを認識出来ている。




靴、服、手袋、帽子

そして写真…


写真に目を落とすと


見慣れない場所がそこには写っている。


中心にいる男性は一体…?



--------------------------------




男性を中心に

その周囲は女性に囲まれていた。




金髪の青いドレスのような服装の

健康な体つきの女性。




栗色の髪の快活そうな

巫女服のような装いの女の人。




自信の無さそうな弱々しさを

感じさせる少女。しかし

その表情はとても穏やかなように感じる。




桜色の長い髪をサイドに纏めた、

優しい笑みを浮かべている少女。




線の細い体をしていながら

鋭い眼光を備えた整った顔立ちの

少女。




………

……





懐かしさを覚える、

私は彼女達を知っている。




ただ、『知っている』という事実を

知っている。




彼女達が何者で私とどういう関係にあったのかは

思い出せない。




友人なのか、家族なのか。



しかし

どの娘も

私にとってかけがえの無い存在。




確かに強くそう感じる。





この男性は?




気の弱そうな眼。

細い顔。



帽子から覗く黒い髪。




その頬は少し緩み、わずかに

赤みを帯びている。




依然として、頭から情報が取り出せない…




この黒い染みはなんだろう。




しばらくその写真を見つめて

ある事に気付いた。




写真の中の男の左隣にいる

女性も自分同様に少し頬を朱に染めている





―…です、よ…します




―賑やかな…ね




―私で…ですか?





頭が痛い。




ギリギリと

締め付けるような

脈打つような頭痛を感じ

顔を顰める




思い出すな思い出すな




この痛みは

頭がそう訴えているようにさえ

感じる




記憶を刺激する声

鈴を鳴らしたような、良く響く声

ずっと聞いていたいと思った声



その声で私を呼んでほしい







しばらくして頭痛は引いていった。


再び写真に視線を戻す。



他の女性よりも僅かに

私に寄り添うような姿勢に見えなくも無い。




他に手掛かりは…?




写真をクルクルと回転させたり、

裏返してみるが特に目星(めぼし)い

ものは見当たらない


が、これから様々な

情報が読み取れた。




これは、どこか港のような

場所で撮影されたもののようだった





海が写っていたし、

見切れてはいたが貨物船のような

船の一部が紛れていた。





いつ撮られたものか

撮影日が記入されておらず

把握出来ない。




気掛かりなのは

この黒い染み



所々に不揃いに模様をつけている。





しばらくして

考えることは放棄し、

これ以上はこの場に留まっていても

仕方がないと判断した。






動こう。






右足を一歩前に踏み出す。





歩き方は忘れてないらしい。






少しだけ頬が緩む。





その調子で左足、




右足…左足…右足…





……







白い空間はどこまでも続いた。

体感的におそらく五時間程度。




体に疲労は感じず

歩くペースも変わらない。




不思議なことに喉の渇きもない。

小腹が空いたというか、空腹感もない。




ただ、こうも周りに変化がないと

精神的に辛いものがある。




一定のリズムで動かしていた

両足を一度ピタリと止め

辺りを見回す。




…うーむ




壁というか、突き当たるものもない

というのも些か奇妙だ。





こんな広い施設、記憶にない。




歩いている間に色々な可能性を

考えた。




誘拐説

私は、誘拐犯に捕らえられ人質として

この施設に閉じ込められ薬によって

記憶障害を起こしている…いや無いな。

自由の身にしておくはずがない。





テレビ番組の企画説

これはとあるテレビ番組の企画で

私はそれに半ば強制的に

参加させられている。

疲れたもう嫌だ、とでも言えば終わるのか?




試しに声を出してみる。





おーい








おーいぃ









返事は無い。




誰かいませんかー










耳を澄ましてみても返事が返ってくる様子は

無かった。



テレビの企画説は無しっと。



再び歩き始めた。


歩きながら腕を組み

また考える。





おかしい




おかしすぎる




一番、

想像したくない事が良く働かない頭を過ぎる。




ここは死後の世界なのではないか。




困った事にこれが、良く当てはまるのではないか…

疲労感を感じない、喉の渇きも無い

これらに説明がつく。




五感ははっきりしているものの

空腹感さえも覚えないのは異常だ。




私は死人なのか?




歩く―



歩く―




……





どうすれば…





考えれば考えるほど

気が狂いそうになる





ここが死後の世界だと仮定して

生前の記憶が思い出せないことが

狂気に拍車をかける。





思い出せない





心がすっかり疲弊し、

ついにその場に腰を下ろしてしまう。




重いため息を吐きながら項垂(うなだ)れる。




ずっと一人なのか




ここで

誰もいない所で




静かに狂っていくのか…









―ッ




「!」






今、確かに聞こえた物音





ハッと首を持ちあげる。





視線を前に向ける。





「…?」





目の前に飛び込んできた、

新しい情報。





遠くに、おそらく数100m

遠くにポツンと

黒い影が確認できた。




この暴力的なまでに

真っ白な世界に存在する黒。





走る






走る






もつれて転びそうになる





走る





影の数メートル手前で

減速する。










興奮が抑えきれなかった




気が狂いそうだった世界に

変化が生じたのだ。

素晴らしい。




焦げ茶の扉はレトロな造りだった、

木製の至る所が傷んではいるものの

中々趣のある装飾が施されている。


金のドアノブはシンプルな形で

こちらもくすんで経年を感じさせる。



おかしなことに気付いた。




扉だけだ。



扉だけが、ここにある。




ペタペタと触りながら

グルッと廻り込んでみても

裏には変化が無く

おかしな所は見当たらない。




間もなく一周しようとした




次の瞬間





クイクイッ



「!?」



突然

後ろから

右袖を引っ張られた。





本能が危険を察知したとき

反射という形でそれから身を守ろうと

引っ張られた方向とは真逆に

勢いよく飛び退く。





そして視線が『それ』を捉えた。





「…」




そこに佇んでいるのは

写真の中にいた女性の一人、

いや女性というには些か歳がいくつか

足りないように感じる。




少女がそこにいた。





赤いリボンタイに

白いシャツ

黒いベストにスカート

桃色の髪



細身の鋭い眼光を放つと

前述したが

少なくとも写真の中の彼女はまだ

軟い表情を浮かべていた、

そこには『喜』や『楽』といった感情も

少なからず見て取れたが今

目の前にいるこの子の表情は




ただ無表情という事ではない。

『怯え』『悲』といった真反対の

苦悶の色を浮かべている。




重く表情が沈んでいるのだ。

特徴的な鋭い眼には光が無い




どうして、そんなに悲しそうなんだ…




突然目の前に現れた少女に

しばらく戸惑うしかなかった。




「…君は、誰なんだ…」




「―」



問いかけるとパクパクと

何か語りかけるように口を開いたが

そこから声が発せられる事は無かった。


「―っ」


少女は肩を落とした。


眉を八の字に曲げ、口をキュッと

閉じた。


そして徐に

自分のリボンタイを乱暴に取り払い

床に投げ捨て

白いシャツのボタンを解き始めた。




「何を―!?」




思わず少女の両手首を抑える。

背格好からは想像もつかない力だ。




少女は私の手を振り払いながら

何度も自分の服のボタンを

解くのを試みる


何度か繰り返すうちに

遂に最後のボタンが外された。


何がしたいというんだ





少女はその

シャツの前を両手でゆっくりと

開いた。




恥ずかしがる訳でもなく

ただ淡々と




「…!!」



白いインナーを、これもゆっくりとまくりあげる。


そこに表れた

真っ白な肌に刻まれた痛ましい程の

傷の数々、裂傷痕、下腹部からくびれた

脇腹に伸びた針の縫い目、

所々に確認できる青い打撲の痣…



思わず眼を背ける。




「―ッ…!」



―見ていられない



酷過ぎる。



こんな小さい体に

起きた悲劇を想像すると

眩暈がした。




半ば無理やり両目を再び少女に向ける。

依然として彼女は無防備に肌をさらけ出し

両手を垂らしている。




腹部の数々の傷の印象が強く

気付かなかったが




その首には横切るような

深い傷跡が刻まれている。




何か、切れ味の悪い刃物で

抉られたような…。




―まさか!?






「君は…」





「声が…?」





桃色の髪の少女は

眼を閉じて静かに頷く。





喉の傷に触れようと

近づき手を伸ばす。




眼を大きく見開き

驚きの表情を浮かべて顔を庇うように

手を挙げて、私の手を払う。





「ごめん。」





一言謝罪の声をかけたが



カタカタと怯えたように

体を小刻みに震わせていた。



「私は何もしないよ。

その傷は誰に?」





応えは返ってこなかった。




彼女を座らせ、私も隣に座って

宥め続けた。





数分して落ち着いたのか。






顔を覆っていた手を下ろして

今それは体育座りしている膝の上に

乗っている。




もう少ししたら彼女に

何か聞こうか。




ここがどこで、君が何者なのか。




この写真の事を尋ねてみようか。




考え事をしていたら

視線を感じた。



視線の元を辿ると

隣に座る少女と眼が合った。



こちらをじっと見つめている。



…?



そろそろと

私の右手を掴み

手のひらが上を向くように

誘導し、指先で手の平に何かを

描き始めた。




これは…日本語?




途中途中で彼女に確認しながら

首を横や縦に振られた。



認識した言葉は


『し』


『ら』


『ぬ』


『い』




―しらぬい



―不知火




―し…い!



―な…を…して…か!!



―…を…して…さい!



まただ、

細い血管を無理やり

押し広げるような、脈打つ痛みと共に

頭を木霊する声。


凛としていながらも

怯えを含んでいる声。





頭を両手でかきむしるように抱える、




帽子が足元に落ちる。




脂汗が滲んでくる。




―…を…さい!



消え入りそうに弱った声を最後に

頭痛は治まったが、引きずるような痛みが

続いている。


ぎゅうっと閉じていた眼を開いて

少女を見る。


心配そうにこちらを覗いている。




「大丈夫だよ。

心配してくれているのかい?」





頷く。




「ありがとう。」




「しらぬい…不知火は君の名前?」




今度は深く頷く。




「そうか。不知火…ちゃん。

君は…どうしてここに?」



彼女に対する疑問を

伝える。



困ったように眉を顰(ひそ)める。




そして扉を指さす。




「あそこに何が?」




言葉を使わなければ伝えづらいのか

先程のように手のひらに文字を

書いてくれるでもなく

ただ静かに扉を指さす。




「…あの扉を開ければ良いのかい?」




静かに扉を指し続ける不知火。




重い腰を上げて、扉に近づき

ドアノブに手を掛ける。



「君は来ないのかい?」




ドアノブに掛けた手とは逆の方を

後ろで体育座りを続ける彼女に

差し出すが。




首を横に振る。





一人で行けと?




警戒するように

ドアノブに向き直り。

それを


回して、引く。



「!?」



驚いてばかりだ…


扉の先があった。

これを先があると言って良いのか。


扉の先には黒い空間が広がっていた。


自らが存在している純白の空間とは

正反対のあまりにも

暗過ぎる










ごくりと生唾を飲む


この先に何が。






ドンッ





「?」






視界が大きく揺れた。




暗闇に身を投げていた。




いや投げられた。



後ろからなにか、質量のあるものが

当たり、それによって体は

扉の先に飛んでいた。



闇に身を投じながら私が最後に

確認したのは


不知火の申し訳なさそうな

顔、今にも泣きだしそうな顔



意識は暗転した。













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執務室に向わなければいけません。


本音を言えば、胃がキリキリと

痛みます。




何を言われるか不安だからだと思いますが。



しかしそれを顔に出すわけにはいきません。



旗艦である私がこのような表情をしていては

指揮に関わります。



何より、他の子達に被害が及ぶ危険性が高まります。



それはなんとしても避けなければいけません。



今の彼はどんな行動に出るか

わかりませんから。






「司令の様子は?」






うんざりそうに

金髪の少女は応える




「相変わらずっぽい。」





会話をするたびに特徴的な

語尾だと思います。




着任当初の彼女は

天真爛漫な性格で皆さんを

振りまわしていましたが


誰とでも分け隔てなく接する彼女は

もちろん人気者となりました。

いるだけで場が和む所謂(いわゆる)

ムードメーカー的な存在でしたが…


環境の影響というものは

恐ろしいです。


天性の明るさを持った彼女を

短期間でここまで追いこむなんて


今の彼女はすっかり

自身を無くし塞ぎこんで

しまっているようです。



「そう…ですか。」




「不知火…辛いっぽい?

やっぱり出撃は延ばして

もらった方が良いっぽい!」





自身も辛いはずなのに

自分の事のように

仰ってくれます。


彼女が、根っこから優しい心の持ち主だと

感じた瞬間でした。



しかし、元々のスケジュールでは

今日が予定日です。


そして間もなく出撃時間です。




「いえ、大丈夫です。

お気遣い感謝します夕立。」




隠しきれない疲労が

顔に出ていたのでしょうか。


ただ単に彼女の感が

働いたのでしょうか。


確かに、この時の私は心身共に

疲れ切っていました。


碌に確保できない

睡眠、食事、入浴でさえも…


隙間なく詰め込まれる

遠征、出撃の繰り返しで

目の下の隈は酷くなり

肌は荒れ放題となっていましたが

それに構うほど余裕はありません。




「絶対大丈夫じゃないっぽい!!」



私はまだ、甘いですね。

自分よりも遥かに低い

練度の娘に

悟られてしまうなんて。



『不知火に何か落ち度でも?』



このような言葉を吐いていた

事が懐かしく思えます。



もはやそんな余裕なんて今の

不知火には残っていません。



「夕立、声が大きいです。

司令の様子はあとは私が

見ますので貴女は部屋で

休んでください。

いまは少しでも体力を

温存すべきです…。」



淡々と告げる。



「不知火こそ、休むっぽい!

もうふらふらじゃない!」




両肩を掴まれ、

揺すられる。



ああ、そんなに動かさないでください。


実は中破中なんですから…。





意識はそこで途絶えた。





次に目を覚まし



視界が認識したのは

少し汚れた白い天井。



消毒液の臭いがツンと鼻を突く。



鎮守府内に用意されている

医務室だった。




「目が醒めた?」




「…はい。」



体をゆっくりと起こそうとしましたが

至る所が痛みという情報を脳に叩きこんできます。



不甲斐ない。


ふんばりが効かずに再びベッドに

倒れこむなんて。



「不知火ちゃん!」



駆け寄る緩いウェーブのかかった

金色の髪の女性。


「ご心配をおかけしました愛宕さん。

もう…大丈夫です。」


酷く心配そうな顔をされます。


早く、執務室に行かなければ。




「大丈夫よ、しばらく横になっていても。」



優しい笑顔で不知火に語りかけて下さいます。

この方は聖母か何かですか。



「いえ、しかし…」



「夕立ちゃんがね、提督に訴えてくれたの。

お願いだから休ませて欲しい、もう皆限界っぽいってね。」


和ませてくれようとしてくれたのでしょう。


似てもいない夕立の真似をする愛宕さんは

少し滑稽でした。

ありがとうございます。



そんな愛宕さんも、大分疲れているようでした。


不知火同様、まともに睡眠は取れていないのでしょう。


ストレスのせいか元々艶のある髪は

所々にダメージが有り、撥ねていました。


「申し訳ありません…。」



「貴女は十分頑張ったの。

卑下しないでね。」



やはりこの方は聖母です。



「夕立は、その…

無事なんでしょうか?」



身の心配をしなくてはいけないのは

頭では理解しているつもりですが


不知火のために司令に申し出た

彼女がやはり気がかりで仕方ありません。



「…大丈夫よ。」



…一瞬、答えるのを

躊躇ったように見えましたが…。


話を聞くと

執務室の前で騒ぎ

不知火が気絶したあとに司令が

部屋から出てきたようです。


そこで夕立の訴えがあり、現在に至ると。



「夕立にお礼をしなくてはいけませんね。

彼女は今どこに?」




聞こえなかったのでしょうか。


言い方を変えて

再度伝えます。


愛宕さん、夕立は部屋にいますか?



なぜ、そんな困った顔をなさるのですか?



「不知火ちゃん…良く聞いて。」


「貴女は三日眠っていたの。」




一瞬、この聖母は何を言っているのかと

耳を疑いました。


三日?


そんなはずはありません。



不知火が意識を失ったのは

つい先ほどの事です。


今日の日付を、医務室の

部屋の壁に掛けられている

時計を確認しました。


不知火が最後に確認した

日から三日…日付が経過していました。



酷く嫌な予感がし、激しい運動も

していないのに心臓が早まるのを感じ

額を汗が伝います。



「夕立ちゃん、解体されたの。」



『かい…たい…?』


『解体』


二つの単語が頭をループしました。


「不知火ちゃんがここに運ばれた後、

夕立ちゃん、提督に執務室にくるように

言われて…」



気が遠のくのを感じました…。


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……



次第に意識が戻り始める。


やけに頭がふらつく


目の前には机


その上に、組まれて放り出された二本の足。


それが自分の物だとすぐに認識した。


あの空間で同じ革靴を履いていた。


それが、今だらしなく


目の前に投げ出されている。



この視線の具合、両足。


椅子に深く腰かけているようだ。




体がとてもだるい、

気分もなんだか落ち着かないふわふわとしている。


まるで…酒でも煽っているかのような。



書類が散乱している部屋。


所々が薄汚れている。


あまり清掃が行き届いている様子は無い。


現に埃っぽい。


そこには「弾薬支給申請書」「施設増築依頼書」


「遠征報告書」「演習企画書」



床にはそれら、書類が至る所に

散乱している。


他には、酒瓶の数々…。


足の踏み場もないとはこの事を言うのだろう。


ウィスキー、リキュール、

日本酒、焼酎


これまた様々なアルコールのボトルである。



(!?)



突如、右手が自分の意志とは関係なく

不気味に動いた。


何か、冷たいものが口に押し当てられ

液体状のものが口腔を埋め

喉を侵す。


この鼻に抜ける香りと

焼けるような感覚は、



(ウィスキーか!?)



そして、嚥下。


高濃度のアルコールが食道を通過し

胃に流れる。


じわっと胃が熱くなる。



胃がすっからかんの状態で

酒を飲んだ感覚だ。



二、三回喉を鳴らし

キュポンと音を立て

酒瓶を唇から放す。


力なく、右手が酒瓶を握ったまま

肩から垂れる。



(喉が痛い。)



すぐに違和感を感じる。


自分の意志とは無関係に右手が動いたのだ。


なぜ…


思った矢先に今度は首が横を向く。


縦に長い姿見が目に写る。


そこには頬がこけ

酷くやつれ

無精髭を蓄えた

貧相な男がいた。


あの白い空間で身に纏っていた

士官服と同じものを着用していたものの

それは、クタクタにくたびれている。


私はこいつを知っている

こいつは…



(…この男は…!)



あの写真で気の弱そうで

頬を朱に染めていた童顔の男。



わずかに面影が残っている。


かけ離れた雰囲気に戸惑いを感じるが

この顔立ちはまぎれもなく

あの男だ。



どうして私が、この男を

見ている?



姿見のすぐ後ろには

ショウケースのような棚が

用意されている。


ガラス越しに数々の勲章が確認出来た。



『○○鎮守府

 ○○提督殿』






―!!

―!―!?



部屋の扉から


騒ぎ声が聞こえる。


幼い少女のような…



目の前に放り出された両足が

重ねを解き、机から

足を下ろす。


元は、光沢が有ったであろう

豪奢な造りを感じさせる重厚な

机も角が欠けていたり

傷が付いている。




のろのろと億劫そうに立ち上がり


扉の前に歩を進める。



ここまでの動きの流れは全て

私の意思とは無関係だ。


頭という檻に意識だけが

閉じ込められ、別の何かが

体だけを操作しているような

不愉快な感覚。



おぼつかない足取りで

ドアノブに手を掛けた。



千鳥足じゃないか。

右手に持ったウィスキーボトルは

700mlタイプのものだ。


これをどれぐらいの期間で飲んだのか。


短時間でここまで飲んだのなら

明らかに飲み過ぎである。



無造作に扉を開ける。





「て、提督さん…!」




金髪の黒いリボンを

頭に結んだ少女が

そこに座り込んでいた。




「…何をしている夕立…。」


(!?、口が)



「今日はこれから出撃だろう。何をそんなとこで

座り込んでいる。不知火も油を売ってないで

さっさと出撃準備に取りかかれ。」



自分の意思とは関係なく

吐き出される冷たい言葉の数々


夕立に膝枕をされているよう

に倒れ込み

抱きかかえられているように

身を預けている彼女…


不知火を見下ろす。



「提督さん!不知火は、限界っぽい!

だって…こんなに傷だらけで…」



「心配するな、緊急救命装置は積んでいるだろう。

轟沈レベルまで追いこんでも命に支障は無いはずだ」



「たとえ体は無事でも、このままじゃ

心が駄目になっちゃうっぽい!

お願いだからもう休ませて!」


「…。」


(右手を挙げて…?)


「ふざけんな…」


静かに言い放つと、


右手のそれを床にたたきつける。


けたたましい音とたてて

瓶が割れる。


「ッ!」


大きな目を潤ませ、

不知火の頭を守るように

抱えて体を縮こまらせた。



「ふっざけんな!

お前らが勝手に中破、大破してくんのが

悪いんだろうが!!!休みたかったらな!

クソ深海棲艦…戦艦クラスの一隻や二隻、沈ませてこい!」



「で、でも…でも夕立達は

駆逐艦だしぃ…相手に出来るのは精々

軽巡レベルしか…。」



「…。」



空いた右手で

夕立という名の

少女の髪を無理やり掴む。



「痛いッ!提督さんやめてぇッ!!」



(ばッ…!何やってんだ!やめろ!)



ギリギリと力任せに夕立の

髪を上に引っ張る。


それでも尚、不知火を庇うような姿勢は

崩さない。


キュッとキツく閉じた両目の

端から大粒の涙がこぼれた。



(頼むから…ッ!)



「うぅ…ぐすっ…痛いよぉ」



「…」



込めた力を解く。


小さく悲鳴を上げ

膝立ちの状態から

尻もちをつく夕立を

冷たい視線で見下ろすのを感じる。


「…不知火には三日の休暇を与える、

目が覚めたら伝えろ。

ここはお前が掃除しておけ。

あぁそれと夕立、

後で話がある1700に執務室に来い。

わかったな。」



「ぐすっ…」



「返事は」



「はい…っぽい。」



(惨い…)



ウィスキーの

臭いが周りに立ちこめ

ツンと鼻を突き抜ける。


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「そう…ですか。」



今さら珍しいことではありません…。


ここでは特に。


同じ様に提督に逆らったり、

反論した艦娘はどの艦種であろうと

解体されてきたのを不知火は知っています。


伊達にここで長く働いていませんから。


ただ不明なのは

解体された艦娘がどうなったか。



わかりません。



噂では

艦娘の頃の記憶を末梢され

普通の人間として生活している説や


そのまま命を奪われている説。


艦娘としてここに存在している身としては

前者であってほしいと強く願いますが。



記憶など、どうやって操作するのか

その実、どうなのか。



「これで何人目かしらね。

もう数えるのも疲れちゃった。」



諦めたように苦笑する愛宕さんは

肩を竦めました。





ガチャ…ギィ




医務室のドアが軋みながら

ゆっくりと開きます。



この医務室の扉の装飾は

不知火は好きでした。


少し、レトロな雰囲気の

見ていて落ち着くような

少しくすんだ金のドアノブも中々

不知火的には高評価です。


それがあった、空間には

右手に酒瓶を持った司令が―




ああ、また飲んでらっしゃるのですね。




喉を鳴らしてお酒を煽る彼の姿は

見ていてとても痛ましく感じます。





そんな司令がこちらに―。





「…不知火」




「司令…。」




「て、提督!」




「準備しろ、出撃だ。」




「承知しました…。」




「提督…もうちょっとだけ様子見るくらいは

時間あるでしょ?不知火ちゃんはまだ、

起きたばかりなの。ね?」




愛宕さん、いけません。




今の司令に逆らっては―




「おい。」






ボトルの中に残った

お酒をそんなにいきなり飲んでは

体に毒です。




しれ―





ガシャァン





司令が医務室の壁にボトルを

叩きつけました。




それの下半分は爆ぜ、

鋭利な刃物に姿を変えました。




「!」




「出撃と言ったら出撃だ。何度も

同じ事を言わせるな。」




その凶器を私たちに向けます。




深海棲艦の攻撃を受けても不知火達は

そのダメージを身にまとう服が

障壁として肩代わりしてくれますが

それはあくまで艤装を装備し

船としての能力を得る、つまり

艤装の加護があってこそ出来る芸当です。




地上、艤装を装備していない

不知火達など

船の記憶を持った人間に変わりは

ありませんでした。



当然、刃物や銃弾はこの肉を裂きます。





「提督、それを

下ろして頂戴。」





愛宕さんが不知火の前にでます。




「愛宕…お前もだ。お前も出撃だ。

旗艦はそうだな、いつも通り不知火、お前だ。」




「いい加減にしてよ!

もう、うんざりなの!

不知火ちゃんも私も!」




正直、驚きました。

普段とてもおっとりしている彼女が

ここまで激昂する姿を不知火は見た事が

ありませんでしたから。



愛宕さん、不知火なら大丈夫ですから

お願いです。

逆らわないでください。



「なんでこうなっちゃったの…

ねぇ!あなたはそんな…

そんな人じゃなかったでしょ!」




「出撃準備だ。」



やはり耳を傾けてはくれませんか。



「由良ちゃんのときも、

そうやって突き放したの?

夕立ちゃんにしたように解体したの?」




「あの子が沈んだから?

自分のせいで勝手に沈めたくせに…

不甲斐なさのストレスを私たちに向けないでよ!!!」




「…」





一瞬の事でした、司令が左手で愛宕さんの首を

掴んで、床に抑え込んだのは。





「…ッ!」




「図に乗るなよ愛宕。」



喉元を絞め上げ

抑えつけたまま司令は愛宕さんの上に

馬乗りになりました。




そして右手を振り上げ―





それ以上はいけません!





「司令!不知火は大丈夫です!

いつでも出撃できます!

愛宕さんを放してください!」



気が付いたら不知火は

ベッドから飛び降り、

司令が振り上げた右腕を

不格好にまともに力の入らない両腕で

巻きついていました。




ですが、やはり

病み上がりの体は思うように

動いてはくれませんでした。



「邪魔を…するなぁっ!」



肘で腹部を打たれ

前につんのめってしまいました。




それと同時に愛宕さんが苦しみから

開放されようと体を大きく

横に揺らしました




司令はバランスを取ろうと

大きく手を振り…


そして―












---------------------------------------------



鈍い感覚が手に伝わる


次いでバランスを崩し

横滑りする右手





グシュッ



ズルッ



赤い閃光がパッと散った



---------------------------------------------










情けない事に

その場に膝をついてしまいました。





「ブッ…ゴフッ!」



ゴボゴボと

白い首から湧き出る血の泉。



命の象徴。




それが不知火の首から

次々と流れます。




それは横一線の

傷口からドロドロとシャツを赤黒く染め上げ

腿を伝い、

血の池を作ります。



体に力が入らず、血だまりに

沈みます。



「し、不知火ちゃん!?」




愛宕さんの声が聞こえます。




体がとても寒いです。




顔から血の気が引くのを感じます。




不知火は、死ぬのでしょうか。




船として戦いで沈んだ身としては

第二の人生、いえ船生をまさか

地上で失うとは、なんとも不思議な気分です。



「…ぁ。」



「提督邪魔!!!

早く止血しないと…!」


呆然とする司令を跳ね除け

その体から想像もつかない

素早さで

医務室に設置されてる引き出しから

清潔な白いタオルを取り出し、不知火の首に

押しつけます。


タオルは不知火の血で

すさまじい勢いで赤に染まっていきます。


ぼんやりする意識の中、


司令の顔が視界に入りました。



酔いが安全に醒めたのか


すっかり青ざめていました。


あぁ、司令

どこか御気分が優れないのですか?


不知火は大丈夫ですよ。


すぐに…すぐに…



……



近くで張り上げている

声のはずが段々と遠のいていく感覚。





視界の端に、医務室の窓が見えました。


そういえばそろそろ窓ふきの掃除当番は

不知火でしたね。



なんて良い天気なんでしょうか。



今日は良い事があると思っていたのですが。



そうです。

『彼女』を言葉を借りるなら…



はぁ…



……空はあんなに青いのに―



不知火の意識は再び

闇に落ちて行きました。




----------------------------------------------




頭の中のフィルターが剥がれるような

奇妙な感覚、


思い出した…。



私は…


『僕』は…




軍に属していた身だ



鎮守府という場所で



提督として深海棲艦と戦う任務を

遂行していた。



「艦娘」と共に。







―本日より、着任しました○○です!




―不知火です。ご指導、ご鞭撻よろしくです。




―あはは、表情硬いよ不知火ちゃん!




―し、不知火ちゃん…!?

 司令!ちゃんづけは

控えて下さい!

 不知火のことは呼び捨てで構いません!




―し~らぬ~いちゃん!




―しぃぃれぇぇいぃぃ!




―あはは!ぬいぬいこわ~い♪




―ぬいぬい言うなぁぁぁ!




―あはははは!





………

……




―ぱんぱかぱ~ん、私は愛宕!

 提督、よろしくお願いしますね!



―あ、あはは、おっき…いや

よろしく…お願いいたしまひゅッ!

 …噛んじゃった。



―司令…

 いささか不知火とは態度が違うようですが。

 そして格好悪いです。



―いやだってぬいぬいと違って

 こぉんな、おっきい…



―ふんっ!



―イッタァァ!





………

……




―大分、にぎやかになりましたね司令



―ねぇ、本当に増えたよね~



―司令




―ん~?




―ありがとうございます




―どったの?ぬいぬい?




―あえて突っ込みません。

 ただ、噂ですが鎮守府によっては

 不知火たち艦娘を道具のように扱い、

 轟沈を当然のように捉える所もあると

 聞いたことがあります。

あなたは常に私たちを思って行動して下さいます。

時にそれが過保護と捉えざるを得ない行動も

 見受けられますが、嬉しく思います。





―うん。





―他には…その他、鎮守府では

 不知火達を性欲処理のための…




―それいじょうはいけない





―はい、失言でした。




―よろしい。

 ぬいぬ…不知火、僕はね、

 君達艦娘は神様だと思っているんだ。



―神…ですか?



―そう。君たちは

 深海棲艦から僕たち人類を守ってくれる

 女神さまだよ。

 遠い昔に人の勝手で作られて、人の勝手で

 沈められてそれでも僕たちを

 こんな愚かしい人類を

 愚行ばかりの僕たちを助けてくれるなんて

 神様以外いないよ!



―司令



―なぁに?



―サムいです。



―ごめん。




―嫌いではないですし

 『女神』と呼ばれて悪い気はしません。




―ありがとう、ちょっと元気出た。 


---------------------------------------------------



―型超弩級戦艦、姉の―です。

 妹の―ともども、よろしくお願いいたします。





…ドキッ





―よよよようこそ○○鎮守府へ!

歓迎するですよ!―ちゃん!


―え…ちゃん…ですか?



―ひゃい!なんか変で

ありますでしょうか!?


―いえ、変…というわけでは無いですけどぉ…。

お顔…赤いですよ?



―司令、不知火のときもそうでしたが

 馴れ馴れしいですよ。



―フフフフレンドリィに

 行きたいのさ~



―司令、いつにも増して変ですよ?



―ぬいぬい酷い



―ぬいぬい言うな



―賑やかな艦隊ですね

 クスクスッ



―(天使だ…)




---------------------------------------------------


………

……




―ケ、ケッコン…カッコカリ…ですか?





―う、うん




―私で…私なんかで…良いのですか?





―君じゃなきゃだめなんだ、

 君じゃなきゃ嫌なんだよ。

 



―『扶桑』




―…




―僕じゃ…駄目かい?





―……す





―え…?





―私も…貴方をお慕いしています提督。






―なんで泣くのさ





―嬉し泣き、ですよ





―ははは、なんだそりゃ





―ありがとう、ありがとう




-----------------------------------------------




―提督おっそーい!



―提督さん、皆集まってますよ?



―すいませんすいません!

思いの他準備がかかってしまって!


―えぇ~?提督いつもと変わんないじゃ~ん



―鈴谷ちゃん酷い!

 提督ちゃん泣いちゃうよ!


―うわっ、自分の歳

考えなよ!キモい!



あはははは

………

……





―はいはーいそれじゃぁ撮りますよー!

みなさーん目線お願いしまーす!





パシャッ




―はいありがとうございま~す!



―次々!次は一緒に青葉も撮ろうよ!



―えぇ~!?あ、青葉は撮られるのは~…



―良いから良いから!


―ああ!

 鈴谷さんそんなに

 手ぇ引っ張らないでぇ~!


--------------------------------------------------



―今度の作戦は結構な規模ですね提督?


―うん、危険度はいつにも増して高いよ。

無理はしないでよ扶桑?


―ふふふ、大丈夫よ提督。

いつも通りにやってくれば良いんですから。


―うん!



--------------------------------------------------




―ドモドモ~♪提督~、

お写真の現像、完了しましたー!


―いやーそれにしても

我ながら良く撮れてると思いますよ~!

お二人のこの

ゆっる~い笑顔がなんとも

いやはや~♪



―青葉さん、やめて

テイトク顔から火出そうなの




―そういえば~、人間の方々の

結婚式では「披露宴」なるパーティが

開かれるんですよね!



―青葉さん良く知ってるね。

結構、結婚願望強いの?



―ちちち違いますよぉ!

たまたまテレビで、その特集の番組を

見たり、雑誌を読んでいて知っただけですよ~!


―アオバサン ハ カワイイナァ



―むぅ~、棒読みはやめて下さい



―あはは!

う~ん、さすがに

披露宴とか…そういうのは難しいけど

簡単な気持ち程度のパーティくらいは

開いても良いかもだよね。



―良いですね~♪

青葉、とっておきのお酒

知り合いの準鷹さんから頂いてるんですよ

皆さんが戻られてから開けましょ開けましょ♪



―青葉さん最高!最高青葉さん!




---------------------------------------------




あの日から

「神様」では無くなり

僕の目に映る彼女たちは

「少女」になった。





―…


―…





―轟沈…です



―…



―司令?



―…あぁ…



―撤退…



―司令…?



―第2艦隊 旗艦鈴谷に伝えてくれ



―司令、あともう少しで敵主力を叩けます…




―不知火…




―不知火…頼むから



―…承知しました



---------------------------------------



―司令、報告書をお持ちしました。

 承認の捺印を…



―あぁ




―司令?




―そこに、置いていてくれ

明日…朝一で…取り掛かるさ…。



―司令、過度の飲酒は

褒められた行為ではありません


―あぁ


―…司令



-------------------------------------------------



―司令!何を…何をなさっているのですか!

お止めください!



―あぁ…不知火、見てくれよ

由良の髪…長すぎだろ?

戦闘には邪魔だよね?

だからさぁ、切ってあげてるのさ…



―やめて提督さん!髪が…!

由良の髪がぁ…!



―彼女は今でも十分に戦果を

出しているではありませんか!

そんなこと…お止めください!




―いやぁああぁぁ!!!



ザクザク



ザク…



ブチブチ



ブチィ…






--------------------------------------------------







―由良さんは?



―髪の毛、切られたショックで

 部屋に籠っているよ…



―そう…ですか。




―ねぇ、不知火?




―なんですか?時雨?




―提督は、どうして…




―どうしてこんなに酷い事を

 するようになったのか、ですか?



―…うん。



―不知火には

 分かりかねます。



―そう、だよね



―申し訳ありません。



―大丈夫だよ。うん、僕は

提督の事を信じているから。

きっと扶桑が沈んだから…

ちょっとだけ、混乱しているんだよね。



―有難うございます。




―あは♪なんで不知火がお礼を言うのさ




―不知火も同じ気持ちだからです。



―うん、安心したよ。

僕も、さ。



―由良さんの様子、見てくるね。

まだきっと落ち込んでるだろうから。




―お願いします、あぁそれと

司令が呼んでいました。

後で執務室にと。




------------------------------------------------




―司令、失礼します。

コーヒーをお持ちしまし…





―時雨、歯を立てるなよ。



―ンッ…!クフッ…!

ジュポジュポ

ジュルル




―何…を



―時雨、こぼすなよ。

全部飲め

ドクッドクッ



―コクッコクッ…ケホッ…コホッ




―何をしているんですかぁぁあ!!!!




―ふぅ…

 時雨から誘ってきたんだよ。

 僕じゃないさ。なぁ時雨?



―…



―時雨?



―コホッコホッ…そう…そうだよ不知火…

僕も年頃の女の子っていうわけさ

前から、興味は、あったんだ。

 提督に、協力してもらったん…だよ



―ならば…何故あなたは

泣いているのですか!



―あれ…?なんでだろうね。

う、嬉し泣きかな…あはは



―続きはまた今夜、な

さぁ部屋にお戻り




―…うん

ゾクッ




―不知火、君はこぼしたコーヒーを

片づけてから戻りなさい。




―…




―なんだよ




―…いえ




―そんな目で、僕を見るな




―見るなよ…











「見ないでくれ…」


最後の一言は

消えゆく煙のようにか細く

誰にも届かなかった




------------------------------------------------



記憶が戻る感覚、

幾重にもかさねられたフィルターが

一枚、また一枚と

少しずつ剥がれ落ちる感覚。


明瞭になるソレ。


最初に感じた、

記憶が戻る快楽


平和な、皆が柔和な笑顔を浮かべて

過ごした日々



突如

暴力に走った自分



思い出す度に

吐き気を催す



目をそむけたくなる真実


しかし、記憶は容赦なく

彼の脳を蹂躙する。



彼女達、艦娘に対する



虐待の数々



(嘘…だ)



(違う…私じゃない…)



(あれは…私じゃ…ない…!!)



(誰か…嘘だと、言ってくれよ)


---------------------------------------------









…目が痛くなるほどに

真っ白



「…」



「…」



戻ってきた…。




しばらくなにも考えられなかった。

 

拘束された意識の中で

次々と流れ込んできた

視界の数々、

聴覚に残り木霊する



艦娘の嗚咽と悲鳴



恐る恐る


すぐ右横に目をやる


膝立ちで呆然としている

私を見下ろすように彼女は佇んでいる。



悲しそうな

表情で…。



「…ごめん」



私は何を言っている?



ごめん?


こんな一言で許されるとでも

思っているのか…?




「不知火…」




「『僕』は…ぁ…ぁ」




寒さをこらえるように

両肩を抱きしめ、うずくまる。



「あ…ぁぁぁ」




ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい

ごめんなさいごめんなさい

ごめんなさいごめんなさい

ごめんなさい

ごめんなさい



ご…な…いぃ…




もう、とにかくどうする事も出来ず


ただただ

謝るしかない…



こんな事で

許されるはずもない…


許されて良いわけがない…


私は僕自身を許せない





「…。」



うずくまった視界に

不知火の靴の先が見えた。


震える体から

首を擡(もた)げる



そこには

鋭い眼光の彼女。



彼女が身を屈めると


思わず体を震わせる。



何をされても構わないと覚悟はしていたが

いざ、そのような挙動をとられると

反応せざるを得ない。



右手が顔に近づいてくる。




最初は殴られるのか

安いものだ




目を瞑る



「―」



「―?」



頬に感じる温もり



「な…んで?」



不知火は手袋に包んだ両手を

私の頬に優しく添えていた。


手袋越しに感じる優しい体温



彼女は目を細めて、




口を動かした



『だいじょうぶ』



「?」



たしかに大丈夫と口の動きから

把握できた。しかし、何が大丈夫だと?


そういえば、あの扉は?


ここで再び目を覚ましてからあの

扉は見なくなっていた。


最初から存在していなかったかのような…




「私は…だって…君は…」






言葉を紡ぐ



「死んだ…んだろ?」




首が締め付けられるような

息苦しさを感じた。


--------------------------------------------



彼女は頷きもせず、横に首を

降るわけでもなく

ただ、ただ私を見下ろしている。


どう捉えて良いのか分からず


しばらく沈黙が流れる。



彼女が

扉があった空間とは逆方向に顔を

向けた。


今度は、彼女の目に

少しの、ほんの少しの光が

戻ったように見えた。



それにつられ


力なくそちらに目を向ける。



「あれは?」



私の歩幅で考えて20歩あるかないかという

距離にまた「扉」があった。



その扉は

最初のそれとは質感が異なり。


無機質な

金属のドア


囚人達の収容所の

ドアのように

檻状の窓が人の目線の高さの位置に

備えられている。


檻の間の隙間からは中は暗く

窺うことは出来ない。





「あれもまた…そうなのかい?」




なにも言わず、見据える彼女


これ以上、私に何を見ろと言うのか

あの先には何があるのか。

わからない。



わからないから怖い。



これ以上、あんなものを

突きつけられたら



今度こそ私の精神は

ばらばらになってしまうかも

しれない…。



しかし、このままここにいても

何も始まりはしない。



わかっている。



でも怖いんだ!






両肩に感じた温もり、

背から伝わる確かな温かみ

まるで母に包まれているような

安堵感



「しら…ぬい?」



服の下は私が付けたであろう

傷だらけの

線の細い彼女が後ろから


そっと寄り添うように

私の方に手を添えて


背中に身を預けていた。



「ごめん」



「信じるよ…。」



それに応えるように

右手で、彼女の手に触れた





「ずっと、傍にいて

くれたんだもんね。」




「行ってくるよ」




取っ手に手をかけ

金属の擦れ合う軋んだ音とともに


押しながら呟く


「ぬいぬい」



振り向かず

黒い空間にその身を委ねる。




『ぬいぬい言うな』



「!?」




全身が暗い闇に覆われた瞬間


懐かしいそれが

聞こえたような

そんな気がした。




意識が再び暗転する




-------------------------------------------------





扶桑が沈んだ。



沈んだ



シズンダ








世界が色が褪せて見えた。


今日のような


彼女と見た青々とした空も


彼女が好きだと言った


花の色も


彼女が美味しいと言って

年頃の女の子のように頬張っていた

スイーツを食べても


全ての感覚が鈍い


それに触れている

感覚が無いというか。


扶桑がいない毎日は

虚しくて堪らなかった。


何かしなければ


駄目になってしまう。

僕と言う人間が壊れてしまう。


頭で理解しても


気力が一向に沸く気配は無い。

ただただ気持ちが焦るばかりだ。


今日も

ただ、簡単な事務処理をして

夜を迎えて

眠りに就く。


朝、目が覚めて

ベッドの空白の悲しさに

打ちひしがれて

嗚咽と共に身を起こす生活の

繰り返し。


もう、心が持たない


「―れい」


「司令。」


そういえば今は執務中だった。

駄目だね集中力も、もう持たないや。


「ああ…。」


生返事だよなぁこれ。


「今日の遠征は…。」


あぁ、そっか。


遠征組…なんか面倒だなぁ


「…いつも通り。」


ごめんね不知火


「…かしこまりました。」


「司令。」


「…なんだい?」


「月並みな言葉で


申し訳ありません。」


「どうかお気を確かに。


不知火が…不知火達が


いつでもお傍にいます。」


なんで君はそんなに…


「あぁ…。」


優しいんだ。


僕は…もう


誰も沈めたくないよ…。



-------------------------------------------------


あれから僕は

どうするのが、何が一番

彼女達のためになるのか考えた。


考え

狂ったように艦娘に関する

論文、報告書等を漁った。


未だ彼女達の存在について

ブラックボックスな部分が多い。


まずは艦娘について

もっと知る必要がある。


彼女達のためにも。


寝る前も惜しんで調べた。

調べた。


-------------------------------------------------



僕は間違っていた。


『神は死んだ』

と説いたのは哲学者の

ニーチェだというのを学生のとき

授業で聞いた事を思い出した。


何が…『神様』だ。

何が…『女神様』だよ。


あの子達は「少女」だ。

艤装を使えるだけの、なんの事は無い。

僕たちと同様に

普通にご飯を食べ、寝て、起きて

恋をする権利を持つ少女たちだ。


そんな少女たちに僕たちは

過酷な運命を背負わせてしまっている。


彼女が沈んでから、気づくなんて…。


あの頃の僕は、戦果や軍内部での評価等

全てが上手くいって

舞い上がっていたのか。


だから扶桑を…




……

………


艦娘のメンタルケアについて

艤装による加護の試験結果について

艦種ごとの疲労度の差のレポートについて

艦娘の轟沈報告例について


中でも一際、

僕が熱心に調査した分野があった。


『艤装展開条件』


『艦娘解体時の記憶保持』



どちらも同じ

研究者が記した物だった。



とても興味深かった。



艤装は本来

整備室に保管されているが

彼女たちの任意で

己の周りに出現させる事が出来る。



その光景は

第三者からすれば

突然、何も無い空間に

鉄の塊が現れるように見える。



そして艤装の出現条件は艦娘の

戦おうとする意識、つまり

戦意の有無によって

左右されているようだった。



研究者は

とある酷いPTSD(心的外傷後ストレス障害)

を患った艦娘の協力を仰ぎ

この論文を残したようだった。


サンプルに協力してくれた

艦娘は、劣悪な環境の軍施設で

任務を遂行していたが、そこでは

まさに道具のような扱いを受け

まともに修復を受けさせてもらえない

事が長期に渡り、心を壊してしまった。



戦意の喪失。



患う前から彼女は

艤装の展開が最近うまく

いかないと度々まわりの艦娘に

零していた、というのだ。


さらに、整備室から

直接艤装を引っ張り出してきても

装備した所で

砲弾が打てない、魚雷が

発射できないなどの大きな不具合例が

列挙されていた。



事実、論文内にて

研究者が、『艤装の展開を』と

指示を出すと、今まで空気を吸うように

当たり前に出来ていた

艤装の装備が出来なくなっていた。

との記述があった。



艤装が装備出来なければ

彼女達は脆い人間の少女に過ぎない。


それは艦娘としての道を完全に

閉ざされた事を意味する。


艤装を装備出来なくなり

艦娘生命を断たれた

彼女達はどうなるのか…


そこまで言及された

論文は数少なかった。



僕は、その論文を書いた

研究員に実際に会って話しをしたいと

彼の所属していた研究所に申し出た。


しかし、その人物は

すでに研究室を離れ、今は

引退し田舎に住んでいるとの事だった。


彼に縁のある人物を訪ね

ようやく連絡先を突き止めた。


そして

メールを送り、返事を待った。


内心、無謀だと思った。


その後返事は届いた。

メールに自分は提督であると添えたのが

功を奏したのか、話を聞かせてもらえる

機会を得た。


---------------------------------------------



研究員の男性は

意外にもさほど遠くでもない

所に住んでいた。


その日の執務は

簡単なものの処理は不知火に任せ

僕の承認の印を押すだけの

書類だけは手をつけないよう指示を出しておいた。


そして鎮守府近くの街から出ているバスに乗り

郊外の田舎町へ。


そこは、

まさに絵にかいたような田舎。


丁度今日が晴れているせいか

ポカポカと暖かく長閑(のどか)な

雰囲気が漂う。


山肌に囲まれた集落。


すこし郊外に出るだけでこうも

違うものか。


メールに添付してもらった

住所通りに良く舗装はされてない道を辿る。



てくてく歩いていく先には

小高い丘があった。


そのピークに静かに存在する。

小さな家。


白い壁が特徴的な家だった。

無造作な柵に囲まれた申し訳程度な規模の

畑もあった。


割と自給自足もしてるのか?

高給取りだった

元研究員なのに?


入り口のドアの前に立ち

チャイムを鳴らす。


「はいよー」


少ししゃがれた年齢を感じさせる男性の声。


「早かったなぁ提督さん。」


現れたのは


白髪混じりの短くカットされた頭。

黒いタートルネックに

ブラウンのパンツ



非常にカジュアル。


初老の男性は


僕の顔を見るや否や


中へと迎え入れた。



----------------------------------------------------



「突然の申し出を受けて頂いて

感謝致します。」



案内された

客間は洋間だった。


シンプルな造り。

四隅にはそれぞれ異なる

木製の動物のオブジェ。


中央に小さなパーティでも

開けるサイズのガラステーブル


それを挟むように置かれてる


座り心地のよさそうな

黒皮のソファ。


「楽にしてくれ。」


手でソファに座るように誘導される。


「はい…恐縮です。」



その向かい側に座る彼。

腰が悪いのか、その動きは緩慢だった。




コンコンコン




「コーヒーをお持ちしました。」




丁度僕たちが座るタイミングで

、若く長い銀髪が特徴的な女性が

プレートにコーヒーカップを

乗せて入ってきた。


「ありがとよ。」


「どうも有難うございます。」


コーヒーカップを置く際に

こちらと目が合った。


まつ毛も長く美しい。

見惚れてしまう。


「…珍しいですね。あなたにお客様なんて。」


「ほっとけ。」



元研究員の男性はヒラヒラと手を振って

ひっこめひっこめと合図を出したようだった。


ごゆっくりとと一言告げると

彼女は洋間から退室していった。



「…娘さんですか?」



「まぁ、そんなとこだ。」



物言いに引っかかる所を感じたが

今は無視する事にした。


彼の話しを纏めるための

手記の準備をしていると

呆れたように溜息を吐いた。



「酷い顔だな。」



初対面の相手に失礼な人だ。

ちゃんと身だしなみは整えてきた

つもりだったけど。


「…そうでしょうか。」


「睡眠はとれているのか?」



「あまり…」



「食事は?」



「あまり…」



「自分の管理も出来ない人間が

艦娘のケアについて興味を持つなんてな。」



「変ですか。」



「ああ、酷く滑稽だよ。」



さっきからイチイチ

失礼な人だ。



「…艦娘の解体について教えて下さい。」



無駄話をしに来たわけじゃないんだ。

早く意見を聞かせてくれ。



「単刀直入だな。

何をそんなに焦ってる?」



素直に答えてくれよ…



「解体された彼女達は

どうなるんですか?」




「はぁ…艤装のレポートは読んだのか?」




「はい。戦意を喪失した

艦娘は艤装の顕現はおろか

扱う事も出来なくなると。」



「そうだ。俺に協力してくれた

彼女も艤装が装備出来なくなっていたよ。」



「その後、どうなったんですか?」



「…死んだよ。」



少し間を空けて

ぶっきらぼうに言葉を吐いた。



「…」



「…そんな怖い目をすんな。」



するなという方が無理だ。



「正確には、艦娘たる『精神が死んだ』

って言うべきかねぇ。」


何言ってんだ?


「わかるように仰ってください。」



「少しは考えなよ。」



「『薬』使ったんだよ。」



「何の…?」



「解体用の、さ。」



----------------------------------------------------



「解体はなぁ。

一連の流れの事を言うんだよ。

あんたら、解体申請の書類にハンコ押した後、

対象になった艦娘のその後って知らねぇだろ。」



確かに解体申請をしたあとの

その後の事は知らなかった。


知る者が少なかったのだ。


解体という行為自体

あくまで執行するのは

本営である。


僕たち提督は

艦娘を観察し

目に余る子は本営に

報告し、お上が最終判断を下す。


「まずは戦意の喪失の確認。

自身の艤装展開状況と、提督の判断に委ねられる。

次に、艦娘自身の退役の意思の確認。

これは言葉の通り、本人に委ねられる。」



「ここまでは、あんたら提督がよく知ってる手続きさ。

最終ステップ、『薬』の服用さ。

意思の確認は鎮守府側、

薬の服用は中央に艦娘が移送されてから

お上が決定すんだよ。」



一気に喋って疲れたのか

一息ついてから

また、語り始めた。


「その薬ってのはよ。艦娘の体内で

彼女達の脳に働き掛けるのさ。

ある一部分の記憶を集中的に破壊すんだよ。」



「まさか。」



「ここまで言えば、わかんだろうが。

艦娘としての記憶を破壊すんだよ。

残るのは『個』としての自分の人格と知識。

艦娘の頃の記憶なんざ、綺麗さっぱりさ。」



俄(にわか)には信じがたい。



「それで、艦娘たる精神の死亡?」



「ああ。」



「その後は、優しい優しいお上様が

戸籍を与えてくれんだとよ。

そこの手続きやらは、良く知らんが。

特殊人権取得者だとよ。学校にも通えるように

なるらしいな。最低限文化的な生活ってか?」


皮肉めいた表情を浮かべて

天井を見上げた。



「つまりは、『人間』になっちまうんだな~。」



「解体は…」



「あ?」



「一番手っ取り早い、解体に至る方法を

教えて下さい…。」




「あんた…。」



「随分と自分勝手だな。」



ここは察して欲しかったな…。



「…」



答えに詰まっていると



「知らんからな。」



----------------------------------------------------



―環境をガラッと変えちまうのさ


―今までの緩い空気のぬるま湯

から緊張感が常に漂うピリピリとした

空気にさ。もう、ここに戻ってきたくない。

とてもじゃないがいられない。

こんなとこ、はやく出ていきたい。

簡単だろ?



机の上に置かれた

大量の淀む液体の入った瓶。



―アンタが『失望』

されれば良いんだよ。



ショットグラスに注ぎ、


一気に喉の奥に流し込む。



何度も何度も。



内臓が焼けるような…。




この頃から

僕は飲み慣れないアルコールを

浴びるように飲み始めた。



酔わないと出来ないんだ…



お酒の力を借りないと出来ないんだ…



彼女達を…



あんなに愛しい艦娘達の



心を侵すなんて…。


----------------------------------------------------


本営に感づかれるのを遅らせ、

慎重に解体を進めなければならない、

僕の手で。


正直、どんな事情があろうとも

艦娘を道具のように

扱う鎮守府を野放しにしておく

本営を僕は信用できない。


書類上は『轟沈』『行方不明』という形に

しておき解体した子は孤児院や

施設に送れば良い。


今時、戦争孤児なんて珍しくないだろう。


足がつかないようにしなくては。




そして艤装展開を不能にするため

まずは彼女達から向けられる

信頼を完膚無きまでに

失墜させる必要があった。



だから…




―屑だなぁ…お前ら


―こんなことも出来ないのか…


―何度大破すりゃ気ぃ済むんだよ!


―提督様に奉仕しろよホラァッ!




彼女たちに

罵声を浴びせて

夜に泣いた。



彼女たちを犯し

夜に吐いた。



…彼女たちを傷つけ

隠れて何度も謝った。


……



廊下を歩くと、


視線が突き刺さる


すれ違うみんな


まるでぼくを


きたないものをみるような


めつきニなりまシタ。


ヨカッタヨカッタ



--------------------------------------



コンコン



「…」



「失礼…します。…っぽい。」



少し怯えた様子の夕立。



今日に至るまで、何人もの

艦娘達を解体してきた。

どうにか本営に気付かれず、

やっと、ここまで。



「提督さん?」



夕立が先に口を開く



「なんだい?」



「ぶたないの?」



「ぶたないよ…。」



「蹴らないの?」



「蹴らないよ…。」



「ゆ、夕立の『ここ』に」



己の下腹部に手をやる彼女。

見ていてつらくなる。



「…しないよ。」



「じゃぁ、なんで?」



「夕立。」



「ぽいッ!」



特徴的な返事をする彼女。

本当に愛嬌のある女の子だ。



「君は今艤装を展開しても上手く

顕現させにくいとか

そういう感覚はあるかい?」



まずは、艤装の状態の確認



「提督さん、なんで知ってるっぽい?…っあ」



確認終了。



「そう…か。」



「次に夕立、

君は今、海に出るのが怖いかい?」



意思の確認



「提督さん。夕立最近おかしいっぽい。

前まで、演習も実戦もすっっっごく楽しかったっぽい!

でも…」



「でも?」



「もう…最近、怖くて仕方ないっぽい…。」



「僕が原因だろ?」



そう思うように仕向けてきたんだから。



「うん…」



「だって…中破しても…大破しても…

進撃させようとするっぽい…。

緊急救命装置で轟沈は回避できても…

帰ってきたら、

提督さんが…その…

ぶつっぽい。怖いっぽい。」



一度、意図的に植えつけられた

恐怖という感情は

芽を出すととどまることなく

本人の意識とは裏腹に

メキメキと成長し

その心にツタを這わせ蝕む。



「夕立、もう戦わなくても

良いって言ったら君はどうする?」



退役の意思の確認



「提督…さん?どうしたの?」



早く答えてくれ…。



「…ごめん」


彼女の鳩尾に

拳で衝撃を与えた


「え…!?」


白目を剥いて

その華奢な体を僕に預けた。



……




「寝たか?まったく。狭苦しくて

体が強張っちまった。」



執務室に備えられてある

掃除用具用のロッカーから

元研究員の男が腰を抑えながら

姿を見せる。


長い時間体を

窮屈にしていたため

関節が痛むらしい。



「すいません協力して頂いて。」



「あんたがどう、動くのか

興味持っただけだよ。」



正直、助かる。



「それにしても…あんたよぉ…。」



眠り、僕の膝の上に

頭を預ける彼女と僕の顔を

見比べながら呟いた。



「なぁんで、

ここまですっかね?」



「僕は…たとえ…恨まれても

彼女たちには生き延びてほしいんです…。」



「…。」




「深海棲艦なんか…

他の鎮守府の方々がどうにかしてくれます…!

今の、この国にはあの子達以外にも

大勢の艦娘たちがいます…。」



思いをぶちまける。

我ながらなんと身勝手な意見か。



「戦地に身を置く立場の人間の

言うことじゃ無いなぁ。」



「今あの子達がいるのは戦場です。

わかっています。綺麗事です。

エゴです。でも―」




僕の気持ちは―




「大切な人たちに

生きてほしいって願うのは

エゴじゃ…ないですよね?」



「僕は…あの子達がこの先

生きていける可能性の高い方を

選択しますよ。」



ただ、それだけなんだ。



「…そうかい。」



諦めたように僕の顔をそらす。


そろそろ最終ステップ。


本来、中央で行われる

この作業を僕個人の認識で

行い



「夕立。起きて」



これが表沙汰になったら

どうなるのやら。

そうならないよう細心の注意を

してきたつもりだが



「ん…ぅ?ていとくさん?」


寝ぼけ眼の目をこすりながら

目を覚ます彼女。


「夕立、これを飲んで。」



その小さな

口元に、カプセル状の薬を差し出す。



「それなぁに?」



きょとんと目を丸くさせ、

首をかしげる。



「気にせず飲むんだ」



お願いだ。



「イヤッ…教えてくれないなら

飲まないっぽい!」



首を伸ばして、薬を口元から

遠ざけようとする。



「夕立…あまり困らせないでおくれ。」



「教えてやりゃ良いだろ。」



困ったように頭をボリボリと

掻いて呟いた。



「…おじさんだぁれ?」



「僕の…古い友人だよ夕立」




また嘘をつく

ここまで嘘ばっかりだ。



嘘 嘘 ウソ



「初めましてお嬢ちゃん。

安心しな、そりゃただの精神安定剤だよ。

そこの提督サンがお嬢ちゃんのために

用意したんだとよ。」



精神安定剤?



「提督さんほんと?」



「あぁ。ほんとだよ。」



―嘘だよ



「…。」



僕の顔をジッと見つめ

しばらく考え込んだが



「わかったっぽい。

提督さんは本当は

やっぱり優しいっぽい♪」



物分かり良すぎだろ


どうせ、嘘だと疑われると思ったのに…

無理矢理でも飲ませるつもりだったのに。


何で…信じるんだよ

また、艤装が展開出来るようになったら

どうするんだよ…



僕を信じるなよ…



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「こんにちは、

白露型駆逐艦「夕立」よ。よろしくね!」


彼女が着任したのは、

僕と扶桑がケッコンしてから

間もなく経った頃だった。



「うん、よろしくね!

着任したてで疲れたでしょ?

今日はゆっくり休んでね。」



「っぽい!」



「ぽ…ぽい!?」



「っぽい!」


片手をぴょんと上げて

特徴的な返事をする彼女に

最初は呆気とられたもんだったけど


「っぽい!!」



「あはは!提督さんノリ良いッぽい!」



そんな夕立の姿に何度も癒され元気づけられた。



「何やってるんですか司令、それと夕立」


こんなやりとりを幾度となく行い

その度に不知火に呆れられたものだった。


------------------------------------------


「提督さん提督さん

これなぁに?これなぁに?」



ただ元気が良すぎるのも

問題がある。



「あぁ!夕立ちゃぁ~ん!

あんまり、執務室のもの

触らないで~!!」



彼女によって破壊された備品も

少なくは無い。



本当に犬のように人懐っこい性格、

もし尻尾が生えていたらきっと

四六時中ふりっぱなしだっただろうな。



…不知火が激怒し

しばらく夕立を

執務室の出入り禁止にしたのも

良い思い出。



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「提督さん…。」


「ねぇ、提督さんが

元気無いと夕立達も悲しいっぽい。

また、遊んでほしいっぽい。」


「…。」


「提督さん、

こっち向いて欲しいっぽい…。」


「…。」


「…提督さぁん…。」


------------------------------------------


………

……



夕立は

薬を受け入れた。


喉が上下するのを確認して

悲しい気持ちになる。


慣れないなぁ…。



------------------------------------------



「提督さん…何だか夕立

凄く眠いっぽい…。」


大きな目を擦りながら

うとうとと頭を何度も傾けては持ちあげる。


「眠っていいんだよ夕立」


彼女の頭に優しく手を置き

長い髪に沿うように撫でる。


「でも…そろそろ…

しゅつげ…き…ぽい…」



完全に目を閉じて穏やかに呼吸をする

彼女の顔を見て、二回目の「夕立」の

生涯を終えたのを感じた。



「もう良いんだよ。」



「ゆっくり、お休み。夕立。」



「君とは、あまり長い時間は

過ごせなかったけど」



「ありがとう。お疲れ様。」



元研究員の男性が

横から夕立の顔を覗きこむ。



「これで、次に目ぇ覚ましたときは

まっさら綺麗な頭でお目目パッチリだな。

もちろんあんたの事なんて忘れてるがな。」



知っています。



「はい」



「それとあんた、随分やらかしてんだな。」



「何が?」



「ここまで来るにあんたから

教えて貰ったルート通りに隠れながら

来たけどよ、見かけるやつら

笑顔なんて見せてくれなかったぞ。」




「良いことです。」



「良いことかねぇ。」



「結果としては、皆には戦意喪失、

提督という存在には不信感を持って

貰わなきゃならないんです。」



「でないと、

何処かでまた彼女達は

利用されてしまいます」



「不信感を抱かなくとも艤装が

展開が出来るうちは、その可能性は

捨てきれません。」



それだけは回避しなければ。



「なぁ。」



「あんた自分勝手なんだな。」



「何を今更。」



即答する。


再び夕立の方に顔を向ける。


「このお嬢ちゃんはどうすんだい?」



「解体はもう済みました。

あとは目を覚ます前に

施設に送るつもりです。」



「仕事が早いなぁ。」


-------------------------------------------------



君はもう戦わなくて良いんだよ


キミはモウ戦わなくて良いんダヨ


キミハ モウ タタカワナクテ イインダヨ

………

……



次第に鎮守府には

戦える艦娘は少なくなっていった。


本営にばれるのも

時間の問題だった。


当然戦果も出せないのだから

当たり前か。


近いうちに鎮守府に

様子を確かめにくるというのだ。


今更来てももう遅いさ。


あと、もうちょっと…。


-------------------------------------------------


日常は様々な人の習慣の重なり。



しかし、この時勢、

それが崩れるのは珍しい事ではない。


だって相手は人外なのだから。



「なんで…なんで深海棲艦が!?」



それはあまりにも唐突な出来事だった。



つい先ほど観測された敵影。


確認できた艦種は

軽巡ト級2隻、駆逐イ級2隻




確実にこちらに向かっている…



なんで?



もう、この鎮守府には戦えるだけの

戦力は残されていない。



だから狙われた?

ならば、この情報はどこから漏れた?



いや…

今は戦うことを考えるな。

逃げるんだ。

逃がすんだ。

彼女を。

ここに、ただ一人残された『あの子』を。



考えろ…考えるんだ…



まだ時間はある…



ここで食い止める。

食い止めなきゃいけないんだ。

大丈夫、一人でも…






一人は…やだなぁ


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いつも通りだ

いつも通りに振舞えば良いんだ。


いつも通り、酒びんを片手に持って


あの子に横柄な態度で接して…



「良いか…命令だ。

時雨、この薬を飲め。」



「何なんだい…これは?」



少し虚ろな目で、

僕を見る時雨。


あとはこの子だけ…


最後まで、僕の元に残ってくれた少女。

どんな仕打ちをしても、次は

必ず、優しい表情で迎えてくれた少女。

僕に絶望せず、信じ続けてくれた少女。


…工程を飛ばすしかない、もう



「黙って言う事を聞け。」



時間が無いんだ。



「嫌だよ。」



断るよね、そりゃ。



「時雨…。」



「提督、君はいつも

僕達に理不尽な要求をしてきたよね。」



それでも君はここに居続けてくれた。



「僕なりに考えたよ…。」



考えるなよ。



「黙れよ」



「扶桑が沈んでからだもんね。」



「黙れって…」



「疲れただろう提督?」



「だま、れ…って…」



駄目だ声が震える



「もう良いじゃないか。

そんなフリをするのはさ。」



君はいちいち勘が鋭すぎるんだよ。



「つらかっただろう…。」



「しぐ…れ…ぇ」



「提督…話して。本当の事を…

君が、どんな思いでここまで来たのかを」



しばらく時雨の体に

上半身を預け静かに泣いた。


………

……




伸長が幾つも低い

体の小さな少女に聞かせるには

あまりにふさわしくない

言葉を浴びせ続けた。



それでも、表情を変えることなく、

時折、頷いて聞いてくれた。


聞いてくれたんだ。




「そうだったんだ。」


「ごめん。全部、僕の自己満足なんだ。」


「ううん。やっぱり君は何も変わって

無かったんだね。」



僕の手元から

薬を受け取ると


「これを飲めば良いんだよね?」


それを片手で弄る


「時雨…。」



「僕は、君の事を忘れてしまうんだね。

ここの事も。」



切ない表情で

見回す。



「…。」



「でも、君は…

覚えていてくれるんだよね。」



こちらに向き直す彼女。



「…。」



何て言えば…

僕は、再び彼女達に

君に会う権利なんて、あるのかな



「そこは素直に頷いてよ」



困ったような笑顔を浮かべる。



「君が覚えてくれている限り、

僕らはきっとまた会えるよ。」



目を細めて、僕の頬に

手をやる少女。


温かい。


その体温を確かめるように

いつまでも覚えていられるように


手をゆっくり握る。



「ああ。」



「ありがとう。一足先に休ませてもらうね。

…『次の僕』によろしくね。」



君は、忘れちゃうんだよ。

ここのことなんて。

楽になってくれて良いんだよ。



「てい…とく、この薬は…すごく…眠くなるね…。」



青い瞳が、重たそうに閉じつつある。

その姿は、夕立と重なった。



「…眠って良いんだ…」


「うん…おや…すみ」


「うん。お休み時雨。」



ゆっくり…

とても穏やかな表情で

白露型駆逐艦『時雨』は二度目の

命を引き取った。


-------------------------------------------------



「で?俺に連絡をしたと?」


「他に頼れる人が外部にいないもので。」



時間的に近くに住んでいる彼に

頼るしかなかった。



「寂しいやつだなお前さん。」



元研究員の男性は

車の前で腕を組んで

僕の手で深い眠りについている

時雨に目をやる。


「ほっといて下さい。後はお願いします。」


「今運んだとこで、

もう間に合わないと思うがねぇ。

俺らも巻き込まれるんじゃね?」


「考えがあります。大丈夫です。

あなたはあの子を連れてここから全速力で

逃げる事だけ考えて下さい。」



彼女の体を男性に預ける。



「…わかった任せろ。アンタは?」


「私は『後片付け』に。」


「そうかい。」


「じゃあな。あの娘っ子はちゃんと施設に送っとくさ。」


「お願いします。」



………

……



車の助手席に時雨を乗せた

車の影は次第に遠のいていった。


それを確認すると…



「さて…。」



-------------------------------------------------



ドォン

ドドォン



施設のあちこちの

遠隔操作式の爆薬を仕込み

それを何度も

爆破させ、深海棲艦を牽制しつづけるが

いつまで持つか

その数は十分ではないし

なにより、ダメージを与えるに

距離が遠すぎる。



タイミングを良く

考えないと。



轟音に次ぐ轟音



砲撃による爆発を

なんとか回避しながら



腕時計に目をやる


20分、どこまで

彼らは逃げだせただろう…。

そろそろ、頃合いだろうか


もう、仕掛けた爆薬も底を着いた。



一階にある、施設の外に抜ける

通路への扉がある。



まずは、そこを目指そう。



………

……



あった。

廊下の着きあたりにある、


無機質な

金属のドア


囚人達の収容所の

ドアのように

檻状の窓が人の目線の高さの位置に

備えられている。


檻の間の隙間からは中は暗く

窺うことは出来ない。


でも、あれはたしかに


海とは逆方向の

外に続いているはず



施設一階の廊下の壁にもたれながら、

壁を挟んで背後にある港を

窓から確認し…




一気に、駆ける。




突如、海に面する




壁が崩れる







グパァ








大きな白濁した歯








バクン!!









「え…?」





右腕が―




「あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ!!!」






ト級が、すぐ近くに迫っていた、


障害物を破壊しながらこちらに

近づいてきたようだった。




確認した白濁の歯はト級のそれだった



それが

大きな口を開き、僕の右腕を

食いちぎった。





人の体は簡単に言ってしまえば


蛋白質の袋で出来た血袋だ。


循環すべき機関を失えば、血は

そこから流れ続ける。



それを物語るように、

僕の右腕『だった』ものの付け根から

血が溢れる、溢れる。



士官服を真っ赤に染め上げる。



神経が痛みという情報を

次々ととめどなく脳に送り続ける。




「い゛ぃ゛い゛ぁ゛ぁ゛!」



どうにかなりそうだった。



投げ出され、

転がった体を起こそうとするが

上手くいかない。



―逃げないと



必死に呼吸し、意識を繋ぎとめる。


体を中途半端に起こす






バゴン





視界が大きくぶれる。



次いで体の骨が

バラバラになりそうな感覚。



真横からト級に殴り飛ばされたようだった。



僕の体は真横に吹っ飛び、

無機質なドアに叩きつけられ、

その敷居を跨いだ。




目的は、果たした

果たしたものの


もう体が動かない。


ついに痛みさえも感じなくなってしまった。


-------------------------------------------------



血まみれの左手で、ギュッとそれを

握りしめる。



扶桑とのケッコンを果たした、

次の日に青葉が撮ってくれた


あの頃、

笑顔で過ごした日の



―写真



ああ、あの頃に戻りたいなぁ



扶桑がいて、皆がいて

一緒に笑って、怖がって…




「…」




「…」



呼吸が苦しい



あ…薬…



目の前に、ある『薬』が転がっていた。


予備として研究者の男性から

もらった、あの



解体用の薬…





―この薬って人が飲んだらどうなるんです?


―物好きだなぁそんな事知ってどうすんだか。

…艦娘と同じで脳に作用するが。効果が違う、

人の場合強く効きすぎんだ。服用直後に効きやがる

酷い昏睡、人格障害や記憶障害、人によっちゃ

半身不随になったって報告も聞いた事があるな。

ようは人間にとって、そりゃ劇薬ってことだよ。









ゴクン


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-------------------------------------------------



薬を服用した事までは

把握した。


ここは…



また、戻ってきたのか。





やっぱり白いままなんだな

ここは。あんな血生臭い物を見せられた後は

嫌になるくらい目にしてきたこの白も

少しは愛おしく思えてきた。




―不知火はどこに?




いつの間にか、彼女も

扉も無くなっていた。




―最初みたいだ



最初にここで意識を

覚醒したばかりの時を

思い返す。



「やぁ。」



後ろから声を掛けられる。

聴きなじみある声。



「…。」



なぜなら私自身の声だからだ。


その声の主は、私、いや『僕』だった。



向い合う。



「お前は。」



「お前なんて酷いなぁ。僕は君じゃないか。」



私と全く同じ容姿の、あの青年。



「そうだな。君は私だ。いや、私が君なのか。」



「一杯どうだい?」



どこから取り出したのか

その右手には散々、目にしたウィスキーボトル



「…。」



「なんてね。僕だって正直お酒は苦手さ。」



スッ…パリン



右手を持ちあげ、握力を弱めたようだ



ボトルは音を立てて

割れ、水溜りを作る。



「なんで薬を?」



「…もう疲れちゃったんだ。」



「?」



「ぶっちゃけさ、もう解放されたかったんだ…。

目的は果たせたみたいだからネ。」



「…。」



「僕の目的はそう。

鎮守府に所属する艦娘の『解体』だよ。

解体して、後は戦争とは縁の無い人生、

自分の人生を送ってほしかったんだ。

船として利用されるだけの一生じゃなくてさ。」




「戦う事を望んでる艦娘だっていたんじゃないのか?」




きっといたはずだ。




「うん、いたよ。好戦的な娘がね。

でもさ、君が良くわかってるだろ?

僕達はさ自分勝手なんだよ。」



「…。」




「あそこで薬を使ったのは…

死ぬつもりだったのか?」



「YESとも言えるしNOとも言えるね。」



どっちだよ…。



「あの元研究者のおじさんの言葉を借りるなら

自分たる『精神の死亡』かな?

懸けだったんだ、もう楽にもなりたかったけど

あわよくば

君を作り出す目的もあったんだ。

ほら多重人格障害ってやつ?

懸けだったけど、上手くいって良かったよ。」



「なんで…?私を?」



「さっきも言ったけど『僕』は疲れちゃったんだ。

でも現実に留まって『生きなきゃ』いけないんだ。」




「待ってくれ、私は生きているのか…?」



「安心しなよ。生きてるよ。」



「じゃあ、なんで…」



「仕事の引き継ぎって重要だよね。」



「…?」



「さっきの質問に答えるよ。ほら

なんで自分の精神を破壊してまで

君を作り出し現実に留まろうとするのかってやつ。

生きる事が、僕の罪滅ぼしだからだよ。」



「解体された彼女達は艦娘の頃の

記憶はなくなってるさ。勿論、

僕がした虐待のこともね。

…でも…僕は…僕たちはさ、

覚えてるわけなんだよねぇ。」



「君だって、僕の記憶を覗いて。

感じたんでしょ?

あの子達を殴る感触や蹴る感触、

彼女達の中に発散した快感も。」



気分が悪い。



「やめてくれ…思い出しくない。」



僕の顔が非常に、無垢な

笑顔を私に向ける。



「そう!それだよ!『思い出したくない』よね!!

胸糞悪いよねぇ!!

でも思いだして…『悔みながら生きる』!!!

それこそが!僕の、僕達に出来る最大の贖罪だよ!!!」



興奮気味に語りだす。



「私を作りだした理由は…まさか」



「自分が『逃げる』ため…か?」



「私に、『生きる』事を押しつけて…。」



「…。」



「自分は…死んで逃げるのかよ…。」



「そんな事言ってもさ、もう遅いんだよ。」



「もうさ…僕っていう精神は、ボロボロなんだ。

薬がとどめを刺した感じ?」



両の手のひらを上に向けて

「ヤレヤレ」といった仕草をする。



「そろそろ僕は、『逝』くよ。」


「ごめんね。」



困ったように、苦笑いを浮かべて

私に背を向ける。



「僕のために、彼女達のために。」


「君は『生きて』」


「僕は、先に扶桑に会いに行くよ。」


「バイバイ。」



手を振りながら、彼は歩き出した。


一歩、進むごとに彼は光の粒子となり


ついに消えた。



彼を見送った後

私も、心が 酷く

疲れて 眠くなっていた。



―寝よう



―ここでも、

どこでも良いじゃないか、私も疲れたんだ。



―おやすみ




その場に尻を着き

体を横に倒す


ゆっくり目を閉じる


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「や、お待たせ」



「もう。

ずっと、待ってたんですよ?」



「提督?」



「ん~?」



「随分、自分に

いじわるなんですね」クスクス



「もう知ってるでしょ?

そんな僕とケッコンしちゃった

君は不幸かな?」



「いいえ―」



「幸せ、ですよ」



「…ありがとう、ありがとう」



「今度はずっと、一緒です。」


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*報告書 件の鎮守府調査について*


以前より、不審な行動をしていた鎮守府を

調査予定であったが、

対象への移動中に、同伴の

加賀が深海棲艦の影を件の鎮守府方面より確認。


優先事項を変更後、

これらを殲滅。



加賀一隻のみで対処できたものの

こちらも小破の被害を受けた。



鎮守府に関しては

我々が駆け付けた際には、半壊状態であった。


いささか、不可解な点として

挙げるならば、『誰も』いなかったという点だ。


半壊状態のアレならば、

少なくとも小破等、

ダメージを受けた艦娘がいても

おかしくは無いはずだが、確認されず。



また、該当鎮守府の責任者である

○○提督の姿も確認出来ず。

その行方は不明のままである。



加賀の修復が終わり次第

再調査を行う予定である。



―了


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煙草に火をつけて


瓦礫を踏みしめながら


彼に近づく。




「よう」



生きてるのか死んでるかも

わからんなこれ。



「あの、時雨ちゃんだっけ?あの子

ちゃんと施設に届けたぞ。」


「それにしても、あの

正規空母の加賀だっけ?ありゃすげぇな

深海棲艦、跡形も無く沈めたじゃないか。」



さっきの圧倒的な戦闘を

影で見ていたが正直

戦慄した。



血まみれの彼を

見下ろす。


あんなに白い士官服が

赤黒く染まっている。



「グロいな。」



頭を掻く。


「病院にぐらい連れてってやるよ。

感謝しろよ。」



右腕の付け根を

包帯できつく縛って止血した後


彼を背負って

再び、歩き始めた。


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風が冷たいです。


そよそよと

鼻をくすぐられるような

感覚で目を覚ました。



気がついたときは


ベッドの上


見慣れない天井



鎮守府の医務室とは違って

清潔な匂いです。


それに混じって

花の香りも漂ってきました。



こんなに瞼を開けるのも

辛いなんて

新鮮な感覚でした。



顔を動かす、ぼやける視界を左に向けます。


ベッドの横にある、小さなテーブル。

そこには花束、フラワーアレンジが飾られていました。




―ガーベラ



「彼女」が好きだった花。


「彼」はこの花を思いだすように

執務室に飾っていましたが…。




「不知火ちゃん!

良かった…意識が…。」



病室のドアを開けて

こちらに小走りで近づく

青い、綺麗なドレス。





愛宕さん?




その緩いウェーブのついた長い金髪には

本来の艶が戻っていました。


目にも光を

取り戻したように潤んでいます。


―おはようございます



口をあけて

声を出しました。



?



おかしいです。


声が出ません。


もう一度…



喉が震えてくれません。


空気が漏れるような音が出るだけです。



「不知火ちゃん…やっぱり。」



落胆したように、彼女は肩を落とします。




「大丈夫、きっと声は出るようになるわ。」



不知火は自分の喉に手を当てました。


包帯がグルグルと巻きつけられています。



思い出しました、不知火は

あの時、司令に…



「あんな、男の事は…

もう思い出さない方が良いわ。」




「?」





「あなたが眠ってる間に、『アイツ』は

次々に艦娘を、私達の仲間を解体したの。

もう、今の鎮守府には時雨ちゃんしかいないの…

なんで、あんなとこに居続けるのか。私には

わからないわ。」




「人の皮を被った化け物って

あいつみたいな事を言うのね。」



「―」


愛宕さん。

違います。


不知火は知っています。


司令が、艦娘を傷つけた日の夜は

独りで、ずっと泣いていたのを


-----------------------------------------------




いくらなんでも

あれは酷すぎます。


あれでは、時雨が…


時雨が…報われません。



彼女は

あんなに司令の事を信頼していたのに…



見損ないました司令。




もう、嫌です。



執務室に着きました。


手には『解体申請書』。


これで、不知火は解放されます。



「ぅ…ぅぅ…」



!?


また誰か…


司令!いい加減に…!






「ごめんよ…ごめんよぉ…!!!」




そこには、机に肘をつき

手のひらで顔全体を覆った司令がいました。



その様子は誰かを嗜虐するときの

司令と同一人物とは思えない姿でした。


肩を情けないほどに

ガタガタと震わせ

その細い指の間からは


ポタポタと涙が

流れていました。


呪詛を吐くように

何度も謝罪の声を漏らしていました。


何度も何度も…




不知火は

その書類をくしゃくしゃに丸め、

執務室から離れ自室に戻りました。




もう一度だけ、あなたを信じます。



-----------------------------------------------




不知火は乱暴に

ホワイトボードに書きなぐり

愛宕さんに差し出しました。



『司令は今、鎮守府に?』



「ええ、おそらくはね。

私は、不知火ちゃんを病院に運んでからずっと

ずっとここに、鎮守府の外にいたから…。」



そうですか。

体が癒えたら、

戻らなくてはいけませんね。



そのとき…



「どいて!」


「急患だ!!」


「輸血の準備を!」


「先生はどこだ!?」



病室の開いたドアから

大勢の病院の職員の方々が

廊下を駆けて行くのが見えました。


『どうかしたんでしょうか?』


「さぁ?ちょっと聞いてくるわね。」




愛宕さんが戻ってきたのは病室を出て、


30分が過ぎてからでした。


その顔はまるで、恐ろしいものでも見たかのように

青ざめていました。



「不知火ちゃん…鎮守府が…。」



「鎮守府が…無くなっちゃった…。」



司令の顔が浮かびました。


-----------------------------------------


話しを聴くと、鎮守府は深海棲艦の攻撃を受けて

半壊。


では時雨は、司令は?




「実は…」



「さっき、救急で運ばれた患者さんが…提督なの。」



眩暈がします。



-----------------------------------------


----------------------------


-------------







風が冷たい。



「…」




体がだるい。


おぼろげな

意識をなんとか集中させ、

周りを確認する。



体中に繋がれた

チューブ、機器の数々。




―ああ、そうだ

帰ってきたんだ。




ここは…病院?



「目が覚めたかな?」



白衣の老人。


ネームプレートに

名前が書いてあった。



「ここは?」



「見て分からんかね?」



「病室?」



「正解だよ。」



「私は…どうして?」



医師だと名乗る

男性から聞いた。


とある男性が

半壊状態の鎮守府から病院に

運んでくれた事を。



きっと、彼だ。



深海棲艦は、本部の人間と

そのパートナーである正規空母が

処理してくれた事を。


あれから、5日経過している事。



自分は、右腕を失ったことを。




「―以上だよ。」




「有難うございます…。」




疲れた…


これから、どうすれば良い。


軍にはどれほど情報が流れている?


それに、彼女に会いに行かなきゃ。




「所でさ」



「君にお客さんだよ。」




医師が、

手招きをして

迎え入れる。



線が細く小柄な桃色の髪の彼女、


あの、真っ白な世界で

私に出会ってくれた、

私に記憶を取り戻すきっかけを与えてくれた、

『僕』を見守ってくれた、

傍にいてくれると言ってくれた彼女、


『僕』が殺めてしまったはずの…




「―」



どんな顔をして…


何て言えば良い?


どう呼べば良い?




…いや、これで良いんだ。




「おはよう、ぬいぬい」




彼女は、優しい表情を浮かべて

ホワイトボードに何か書き始め

こちらにそれを突き付けた。







『ぬいぬい言うな』





-完-



---------------------------------------------------------------

以下 後日談






----後日談#1------------------------------------------------


「しいちゃん!そろそろ起きなさ~い!」



お母さんの声で目が覚める。


この時期は朝が辛いなぁ。


うんと背伸びをすると

部屋の壁に目をやる。


ハンガーに掛けられた

僕の通う高校の

制服。


中々、可愛いから気に入ってるんだ。



パジャマを脱ぐと


壁に掛けられた鏡に

自分の姿がうつる。



うん…この胸は、

中々大きくなってくれないね。


右手の平で、軽く揉む。



う~ん…。



なんだか朝から

少しブルーな気持ちになっちゃった。


軽く身支度をして


キッチンに向かう。


はやく朝食片づけないと

お母さん、煩いからね。



「おはよう!」



「やっと起きた!」


「ごめんてば~!」


-------------------------------------


「あれ?お母さーん、

牛乳もう無いよー?」


「あら?もう?じゃあ、しいちゃん、

帰りに買ってきてくれない?」



「えぇ…『ぼく』が、かい?」



「『わ た し』!」



これは、ぼく…いやわたしの

中々抜けない癖なんだ。


女の子のはずなのに

自分の事を『ぼく』なんて言っちゃうんだ。


ぼ…わたしは施設の出身で

子供の生まれなかったここの夫婦に

養子として引き取られたんだ。


それ以前の記憶が無いのは

おかしいけど。


施設の職員さん曰く、深海棲艦からの

襲撃をうけて記憶喪失になったらしい。


今はこの環境にも慣れたよ。


学校には友達もたくさんいるからね。



中でも一番…「ぼく」と

仲良くしてくれてるのは、



「しいちゃん

遅いっぽ~い!!」




ちょっと語尾が特徴的な

金髪の女の子の

『ゆうちゃん』。



ゆうちゃんも、ぼくと同じで

施設の出身。


家は隣同士で、その関係もあって

休みの日も良く一緒に遊んでるんだ。



そんなゆうちゃんが

御立腹なのは

きっとぼくが

待ち合わせに少し遅れたからだろう。




「ゆうちゃんごめん!

さ、行こうか。」




「む~、しいちゃん、

最近ちょっと『春眠暁を覚えず』っぽい!」




最近、寒いのと温かいのが

絶妙なバランスなんだよ

勘弁しておくれよ。



「ごめんごめん!

今日のお昼のジュースは

僕の奢りで良いから

許してよ。」



手と手を合わせて、

許しを請うと



「許すっぽい!!」



パッと華やぐ彼女の表情。


たんじゅ…いやいや

シンプルな思考は素敵だと思うよほんと。


談笑しながら登校する時間は凄く楽しい。





そういえば今日から、テスト期間だった。



………

……




ばいばい


またね


クラスの皆と軽く挨拶をして


教室を出る僕と

ゆうちゃん。



「しいちゃん、陸上って今日は

休みっぽい?」


「うん、さすがにテスト期間中は

どこの部活でも休みになるだろう?

ゆうちゃんとこのハンドボール部もじゃないかい?」


「そうだったっぽい!」


思いだしたように

ピョンと跳ねる

ゆうちゃん


「忘れる事かなぁ…まぁいいか

一緒に帰ろ?」



「あ!しいちゃんしいちゃん!

ちょっと寄り道していって良いっぽい?」



「うん、またあそこかい?」



容易に

見当がつく。



「ぽい!」



「良いよ、ぼくもお母さんから

おつかい頼まれていたしね、

ついでに。」




僕達の住む、この政令指定都市には

僕達と同じで戦争孤児で

施設出身の人が多いんだ。


ぼくとゆうちゃんは良く

僕達の通学路の途中にある


パン屋さん

ベーカリー『PANPAKA-PAN』

に行くんだけど、


ここで働いている従業員の

お姉さんのAさんもその一人で

部活が無い日にここに

よく通うんだ。


緩いウェーブの綺麗な金髪のお姉さんで

とても…そう、とても恵まれた体をしていて

正直羨ましいよ。うん。


男性のリピーターさんも

多いのも頷けるね。




あ、そうだった牛乳。



僕はAさんとゆうちゃんに

挨拶を済ませて


近くのスーパーに向かった。




………

……





「え~と、牛乳、牛乳。」



乳製品のコーナーに行き、

賞味期限を確認しながら

吟味する。


あんまり変わりないね。


適当なそれを手に取り

レジに向かった。




スーパーを出ると、

少し日が傾いていた。



するとクゥと情けない音が

お腹から聞こえた


時間的にもそろそろ

夕飯の時間だもんね。



お腹すいちゃったな



早く帰ろう。



足先を

家路に向けて俯き気味に

歩き出すと



ドン



「いたっ…!」



良く前を見ずに

歩いたせいか、誰かにぶつかってしまった。



「大丈夫ですか?」



ハンチング帽を目深に被った男性

の人だ。



その男性は尻もちをついてしまった僕に


手を差しのべてくれた。



―?



繋いだ右手に違和感を覚える、

なんだか…堅い?


その細い腕からは

想像も出来ない力で

ぐっと引き上げられた。



「お怪我は?」



「いいえ。ありがとうございます。」



スラッとしてるなぁ。



「すいません御嬢さん。

ボーっとしてしまいまして。」


「いえいえ!僕も悪いんです、

よそ見しちゃってて。」



途端、彼の顔がキョトン

とした表情になった。


目を丸くして

こちらをじっと見つめてきた。




あれ?



この男の人…どこかで…?





―僕は、君の事を忘れてしまうんだね。ここの事も。





なんだか…懐かしい感じ…?



「あの…」



「僕達、どこかで?会ってませんか?」



顔を隠すように帽子を被り直した彼



「いえ、気のせいですよ。」



ペコリと

頭を下げて、

道を再び辿ろうとすると


彼の横を通り過ぎて

しばらく歩いた後


後ろから声を掛けられた。



「あの!」



思わず振り向いてしまった。


そこには

先程の彼が帽子を取って

こちらを向いていた。



「初対面で失礼だとは思いますが、

御嬢さんは今、幸せですか?」





決まってるじゃないか





「うん、とっても」




そう伝えると、

やや童顔の気の弱そうな彼は

涙を堪えるように口の端を

少し震わせていた。



「そう…ですか。

突然失礼しました。」



彼は、目を潤ませて軽く頭をさげて

会釈すると

再び帽子を目深に被り出して

僕とは逆方向にゆっくり歩き始めた。




不思議な人だったなぁ。


僕も早く帰ろう、


お母さんが夕食を作って


待ってるはずだから。



----後日談#1-完-----------------------------------------------









----後日談#2--------------------------------------------------



「おかーさん、おなかすいたねー。」



手に伝わる

ほんのりとした体温。


小さな手を握りながら

16時頃の

スーパーに安売りのキャベツを狙いに来ました。



『そうですね。

こんやは なにが たべたいですか?』



ボールペンでさらさらと

手のひらサイズのメモ帳に

記すとそれを

見せます。


即答する我が子



「はんばーぐ!」



困りました。

ハンバーグは、先日

夕飯で出したばかりです。

やはり今日は野菜中心のメニューに

しましょう。




バランスは大事です。



施設にいた頃は

自分でもそれなりに

台所には立っていたつもりでしたが



あの頃はあまり、バランスを考えず

少量の野菜、炭水化物で十分でしたが

子供の事を考えると

バランスを最優先すべきでしょう。




『いえ こんや は、おやさいにしましょう。』




「おやさいきらーい。」




それでは困ります。

今のうちに好き嫌いは

無くしておくべきでしょう。


そうです、あれです。

先日、『ママ友』から

教えて頂いた『レンコンのはさみ焼き』


丁度、冷蔵庫に蓮根がありますし

あれを試してみましょう。



『そんなこと を いってはいけません。


おやさいさんたち も おいしくたべてほしくて


がんばっておおきくなったのですよ?』



『あなた も おかあさんから、きらいだと

いわれたら かなしいでしょう?』



「…うん。おやさいさん、ごめんなさい。」



しょんぼりと反省し

カゴの中の野菜に謝罪する

愛おしい我が子。



ここまで素直に育ってくれて

お母さんは嬉しいです。



この子は絵本が好きで

朗読用のCDをかけてあげたら

驚くほどに言葉を覚えてくれました。

おかげで簡単なものですが

私の書いた文字を理解してくれます。



店員さんが値札に×を

つけ20%引きの値段を書き始めました。


戦争の始まりです。



………

……




「ちょっとアンタじゃまよ!」


重量級のマダムの肘が

私の顔に食い込みます



フフ…!

4歳の子を持つお母さんを怒らせたわね…!!



その重量ボディでどこまで出来るかしら!



「な!?はやい!?」



あっという間に2玉 獲得です。



………

……



「おかーさん、すごいね~。」



『つまらないわね、

もっと骨のある敵(主婦)はいないのかしら。』




思わず筆が乗ってしまい

メモ帳に綴った文字を広げてしまいました。



「お、おかーさん?」



満足気にドヤ顔で

スーパーを後にしました。



------------------------------------------------------


退院し、不知火は

しばらく司令…『元』司令の

マンションに住まわせて頂く事になりました。



今後の方針を決めるまで

との条件の下です。


しかし、その生活もあまり

長くは続きませんでした。



ある日の、いつもと

変わりない日の夜の出来事です。



「不知火」



不知火が夕飯で使用した

食器を洗っていると

司令が後ろから話しかけてきました。



『なんですか司令?』



一旦その手を止め


冷蔵庫にマグネットで

ぶら下がっている

室内での会話用の

ホワイトボードに

書き、それを

司令に見せます。



「君も、解体されてくれないか?」



いきなり何を…



「もう、思い出したくもないだろう?」




不知火は―




『私はあなたを忘れたくありません。』



「不知火」



そんなに困ったような顔をしないで下さい。



「でも、そうしないと…今後君は

艦娘に復帰する事も、人間になれることも出来ず

社会の補償を何も…受けられなくなってしまうんだよ。」



「そんなこと…『僕』が望むはずはないだろう。

それは君が良く知っているはずだよ。

これは、ズルズルと引きずってはいけない問題なんだ。」




そうでした。

この世界はあまり、生きやすい世界では

ありませんでした。


それに前の司令も、解体を望んでいます…ですが




『そうですね。失言でした。

甘んじて薬を受け入れましょう。ただ』




『不知火の最後のお願いをきいてもらえませんか?』




「なんだい?」




『私が忘れて、

あなたが一方的に覚えてるのはずるいです。

だから』




言わなくては…。

こんな形になってしまいましたが




『だから、不知火の「中に」あなたを刻みこんで下さい。』




文字通りの意味です。

あなたの『情報』を不知火に塗りたくってほしいんです。



「…不知火、馬鹿な事はよしなさい」




『好きです司令』




言ってしまった。




「…。」



『駄目なんです。あなたの事を思うと』




そのペンを

司令が止めました。




「良くお聞き。

君は、薬を飲んだ後、

服用前の事は忘れてしまうんだ。

そんな状態で君に子供が出来たなんて…

きっと君は後悔する…。」



『しません。』



これは言いきれます。



『不知火は、後悔しません。

きっと次の不知火も後悔なんてしません。』



だって、愛しいこの人の子供なら


不知火が、不知火で無くなっても

愛する自信があります。


理屈ではないんです。


柄でもありませんが。



『でも、教えて下さい。』



『次は、いつ会えますか?』



--------------------------------------------------


この子…


娘の父親は、わかりません。

私が身籠った事が発覚したのは

施設で目が覚めて2ヶ月が経過してからでした。


体の傷を見た、施設の職員さん曰く

施設に来る前

暴行されてその際に孕まされたのではないのか?

と推測を立てましたが


私にはそんな事はどうでもよかったのです。



なぜか嫌悪感など抱く隙もないくらい

ただただ、愛おしく。

ひたすらに愛情を注いでいました。



入居当時

私自身、年齢は不明でしたが


当時の検査結果では14歳の体だったと

思います。


世間的に14歳はまだまだ

子供です。


子供が子供を産んだと、当時は

白い目で見られましたが

施設の方々を含め私に味方をしてくださる

人達が意外にも多くいました。



-----------------------------------------------


教室に入るとクラスの女子が

声を懸けてくれます。



「あ、ぬいちゃん、おはよう!」



………

……




当時の、私の持ち物は

メモ帳と私の名前だけが刻まれた認識票


それだけでした。

そこに刻まれていたのは


『不知火』という名前でした。



………

……




『これが、初めてハイハイをした時の写真です。』



時折、クラスの子からせがまれて

娘の写真を見せるのですが

見せる度に悶絶する彼女達をみると

中々面白いものです。



「きゃー!可愛いぃぃ!!」



『これが、初めてお母さんと呼んでくれたときの』



「いやー!プリティ!」



今では、クラスの女子からも娘は人気者です。



「これが授乳のときの写真です。」



「男子こっち見んな!!」


………

……



今では、子供を保育園に預けて

通学するという形態をとっています。


特殊人権取得者という事で

お国からの援助金のおかげで最低限

生活は出来ていますが、今は

アルバイトもして生活を稼いでいます。



満足な生活ではありませんが

充実した

幸せな日々です。


------------------------------------------------


さて、今日ははやく寝ましょう


明日は特別な日ですから。



私が、当初手にしていたメモ帳には

こう書いてありました。



『20XX年5月21日の午前10時

○○鎮守府跡地で』



高校の授業で習いましたが

この○○鎮守府は数年前、

深海棲艦の襲撃を受けて

廃墟になったと。


その原因となったのが

とある不誠実な提督の

失態で起きた事件だと。


ただ、おかしな事に

艦娘の死体や提督本人の

死体が上がってないとの事でした。


非常に不可解です。


そんな場所が記されたこの

メモ帳。




私にどんな関係があるかどうかは

分かりませんが…。


その日は丁度、明日です。


その文字は明らかに

私の筆跡とは異なりましたので

他人が書いたものだと判断できました。


ですが他人と一言で片づけてしまうには

心苦しさを覚えます。


そのメモ帳には

この文しか記されていなかったのですから。




------------------------------------------------



穏やかな潮風です。


この感覚は、とても懐かしいです。


以前、ここには

見学で訪れた事があります。


今はここも

この政令指定都市の観光事業の一部に盛り込まれており

、観光客がひっきりなしに訪れています。


今日は休日ということもあり。

老若男女。ミリタリーファッションの集団等

様々な人たちがいます。



ここで良いのでしょうか。



跡地を囲うように

今でも立入禁止のテープが

張られていますが、その周辺には

撮影スポットやお土産屋など露天なども

出店し、


さらに休憩用のスペースとしてベンチまで

設けられています。


晴れていますから

とても気分が良いですね。


娘もご機嫌な時に良く着る

スカーフ付の薄いグリーンのワンピースを着ています。


今日はおとなしくしてくれそうです。





あぁ、ほっぺにソフトクリーム

が着いてますよ。




それを指にとり

舐めとるとお土産屋さんの前にディスプレイされている

時計に目をやります。


間もなく10時です。


一体ここで何があるのか


あのメモが何なのか


これでわかります。



………

……




突然、私達の左手側に

ほっそりとした男性が音も無く

ゆっくりと座りました。



「…」



「…あのメモをした者です。」




突然すぎます。


驚きました。


ソフトクリームを食べて

満足そうに

私に膝に頭を載せて眠っている娘を

起こさないように顔だけそちらに向けます。



グレーのジャケットに

タイトな黒のパンツ

チェックのハンチング帽




この…人が…



一体…



「お子さん…可愛いですね。」



この人は、私とこの子を親子だと見抜きました。

傍から見れば、姉妹にしか見えない私たちを。



『あなたは、一体誰なんですか?』




「…お時間、ありますか?」




「お話しましょうか。

今までの全てを、私が何者で、

あなたが何者だったのか」






「ぬいぬい」





温かさと、寒さが絶妙なバランスの風が

私たちを包みました。


温もりを感じたのは

娘の体温や

風のせいだけでは無いのでしょう。


その『言葉』の響きが、懐かしく

心地良いです。




------------------------------------------



―不知火



―はい



―この日に、またここで会おう。



―…司令



―大丈夫。もし君が子を産んで、

その子に愛情を注いでくれるなら、

それはきっと私を受け入れてくれたっていう事。

そしたら私たちはきっとまた、会えるはずだから。



―はい。




―きっと、その頃には私も結構おじさんだがね。



―構いません。司令は、司令です。



―もう『司令官』じゃないんだがね。



―その日までお休み



―ぬいぬい




―…





―ぬいぬい言うな。



----後日談#2-完-----------------------------------------------


後書き

これで完結です。
ここまで、読んで頂いて
本当に有難うございました。

だいぶ自己解釈が入っていて読みづらかったと思います。
大変お疲れさまでした。


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1: SS好きの名無しさん 2015-02-08 21:34:22 ID: WuEYFo24

今後の展開に期待

2: らんぱく 2015-02-08 23:32:46 ID: OgcnOp_E

わぁい、ありがとうございます。

3: 駄犬提督 2015-02-10 14:26:44 ID: LTQl9ZHm

こういう雰囲気、結構好みです!
応援してます!

4: らんぱく 2015-02-10 14:31:05 ID: Otz3OVRo

駄犬提督さん
気に入って頂けて良かったです
今後も生暖かく見守ってもらえると
なんか嬉しいです♪

5: SS好きの名無しさん 2015-02-16 21:39:27 ID: L3YTjCI0

後日談とかはない感じです?
いずれにせよ、完走お疲れさまでした!

6: らんぱく 2015-02-16 21:43:41 ID: 8W6GlreA

後日談は、現在
新作と合わせて執筆中です。
ありがとうございます。

7: ポテトチップス 2015-02-16 22:11:03 ID: Bc6Njl6T

新作の方楽しみにしてます。

8: らんぱく 2015-02-17 08:57:32 ID: rYOkqOWU

ポテトチップスさん
コメント有難うございます
おかげさまでモチベーション向上中です。

9: SS好きの名無しさん 2015-02-19 04:30:11 ID: DeIEEOh4

ぬいぬいが幸せそうでなによりです。
とにかくぬいぬいちゃん。授乳の時の写真、見せてもらってもいいd(このコメントは爆破されました)

10: らんぱく 2015-02-19 08:11:17 ID: V4zsrkt4

9コメのSS好きの名無しさん
なんだか読み返してみたら、あのEDだと
あまりに救いが無かったので二人には幸せになってもらいました。

おっと、授乳のシーンは私が美味しk(この先は血で汚れて読めない)

11: SS好きの名無しさん 2015-04-08 20:43:58 ID: ulrbnwjf

感動した!
鬱っぽいなぁ〜と感じての泣けるEND・・・期待してます。

12: らんぱく 2015-04-08 20:53:19 ID: IsBhrXEu

>11コメのss好きの名無しさん
コメントありがとうございます
もしかして初めましてでしょうか?
嬉しいコメントありがとうございました

ほぎゃぁぁ…期待してもらえるなんて嬉しいです
今後もどうかよろしくお願いしますね♪

13: XLIV Lotus 2016-01-15 03:08:42 ID: 02rPv1o6

迂闊だった
泣いてしまった

14: SS好きの名無しさん 2016-07-06 18:52:39 ID: SzgMNKj6

やべ、涙でノートが濡れた、感動し過ぎだと思うけど涙が、、、
部活で小説書くんですけどあなた様の作品を参考にさせていただきます。
ぬぁぁぁ他のも読みたいけど時間が足りねぇ~

15: らんぱく 2016-07-07 20:54:46 ID: N_tMT91m

13コメのXLIV Lotusさんへ
返事が遅くなってしまって申し訳ありません。私のSSで感動して頂けた様で……嬉しいです!

14コメントのSS好きの名無しさんへ
有難うございます。
私のような、綻びだらけの文章を
参考にして頂けるなどと、身に余る光栄でございます。単純に嬉しいです。
他の作品も、ふと、思い出した時にでも読んで頂けると嬉しいです。

16: SS好きの名無しさん 2017-07-04 23:43:44 ID: vkZLmmkO

ここまで心に来る艦これSSは初めてだ・・・

17: らんぱく 2017-07-08 11:50:44 ID: IbWxzAbx

>16のss好きの名無しさんへ

有り難うございます!!
ひゃー!!作者冥利につきます!!
うれしいです!!

18: SS好きの名無しさん 2017-10-16 22:06:37 ID: 0Jlh3dMe

すごい感動しました、ssで泣いたのは久しぶりです。

19: らんぱく 2017-10-20 19:43:37 ID: VIUpZ_wi

>18のSS好きの名無しさんへ

ひゃー!ありがとうございます!
とても嬉しいです!

20: SS好きの名無しさん 2019-02-08 00:47:01 ID: S:1tXoiN

素晴らしいです...(泣)
今まで出会ったSSの中でぶっ飛んで一位ですよ...
今後の話などにも期待してます!頑張って下さい!


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1: SS好きの名無しさん 2015-03-01 22:15:07 ID: Epjwj6UN

感動しました。
素晴らしいとしか表現できません。

また、いろいろな作品を書いてくださいね。
待ってます。


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