2015-07-15 21:00:07 更新

概要

とある こうこうせい と
とある かんむす との おはなし

おしまい♪おしまい♪


前書き

とある こうこうせい と
とある かんむす との おはなし


-紫陽花に潮騒-






#1





-----------------




花の藍を見ると思いだす




花をノロノロと這う蝸牛を見ると思い出す




湿った風に揺れる黒髪、




僕を見つめる碧眼、




瑞々しい弾力のある白い柔肌




風体に似合わない大人びた




言動を囀る幼い桜色の唇




…紫陽花の咲く季節に




僕は彼女と出会いました




-----------------









寺が好き




シトシト…ポタポタ…




古臭くて




シトシト…ポタポタ…




男「…」ペラッ




カビ臭くて




シトシト…ポタポタ…




男「…」ペラッ




変に落ち着く




シトシト…ポタポタタ…




だからかわかんないけど




男「…」ペラッ




シトシト…ポタポタタ…




ここで本を読むと




男「…」ペラッ




シトシト…ポタポタタ…




頭に良く入る




男「…」ペラッ




おーわりっ




男「ふぅ…」パタン




シトシト…




まだ湿っぽい




男「うーん」ノビー




男「雨、強くはないけど…霧雨みたいな感じ」




男「土の香りもする」




男「梅雨だね…」




MAIL!!MAIL!!




男「ん?」




男「メール?」




電池が危うい…どうしよ…




まずは内容確認




----------------------------




from:友人

to:男


今どこ?




from:男

to:友


アジサイ寺なう




from:友人

to:男


また?




from:男

to:友


yes




from:友人

to:男


寺で読書中?

この時期までそれだと

その内カビでも生えるんじゃね?




from:男

to:友


もう生えてるなう




from:友

to:男


帰って除菌しろ除菌




----------------------------------




男「」パタン




そういえば、いまどき『~なう』ってつかうかね?




男「仕方ない…走って帰ろうか…」




体にまとわりつくような湿っぽさ、ここが盆地って思い知るなぁ




男「うぅ~、しとしとしてる…ん?」




目の端に咲く





…青


…紫


白…


…青


…紫


…藍



…藍




白…





綺麗




だからここが好き




男「あぁ、紫陽花…結構咲いたんだなぁ」




花は良い




紫陽花は良い




蝸牛も良い




梅雨は嫌いだけど好きな所もいっぱいある




男「ちょっと見てこう…」タタタ








男「うわぁ!!お寺の裏道まで紫陽花でいっぱいだ!」




このまま真っすぐ行くと、良く通学に使う道路に出る




この間、交通事故があった所




男「綺麗だな~、小ぶりなのと大きいのと…全部可愛いや」




そのままトツトツと、制服が霧雨に湿気るのも関わらず




ゆっくりと歩を進める




とってもひやっこい




男「あ、カタツムリ」




しばらく紫陽花道を歩くと、これはこれは




蝸牛がノロノロと紫陽花の葉を這っているではありませんか




カタムツリ「ンションショ」ヨジヨジ




男「いいぞ頑張れ!」




思わず応援してしまう




カタツムリ「ヨイショヨイショ」ヨジヨジ




男「~!!」ブルブル




カタツムリ「トウチャーク!」パンパカパーン




男「ぃよしゃー!!良くやった感動した!!スタンディングオベーションものだ!!」パチパチパチ




スタンディングオベーションとはつまり、歓喜のあまり思わず

立ち上がって拍手をしてしまうことです




この蝸牛には特別功労賞を授与すべきであると思います敬具




黒髪の少女「…」ジィッ




…はて?




男「…?」パチパチ




これはこれは、コチラを見つめるのは『傘の似合う』イワユル『黒髪美少女』というものです




黒髪の少女「…」




知ってます

僕はこういうものを知っています

これは俗に言う




男「…」パチ…




『黒歴史』という記憶の傷跡で後々に飲み会の席で散々ほじくり回された挙句の果てに

突っ込まれ続け、焼きごてのようにジュウジュウと…何が言いたいのかと言うと…




男「やぁ」




黒髪の少女「…やぁ」




いっそ殺してくれー!




男「…見てた?」




黒髪の少女「うん、面白いね」




…まじでかー…




男「~///」




顔からヴォルケーノ///




黒髪の少女「蝸牛…」






男「?」






黒髪の少女「蝸牛…見てて飽きないよね」





男「あ、ソッチ?」




黒髪の少女「他に何があるんだい?」




男「いや…なんも」




男「君は…誰?」




黒髪の少女「ぼ」




あ、これはいけない!




男「あ、ちょっとストップ!」




思わず手のひらで黒髪美少女に制止を求めます




黒髪の少女「?」




これではお祖父さんに怒られます

お祖父さんがいってました、名前を聞くにはまず…




男「名前を聞く前にはまず自分から名乗りましょう!

初めまして!僕は『男』、改めまして…君は?」




これでばっちり!





黒髪の少女「ふふ」





黒髪の少女「君は面白いなぁ♪」





明らかに僕よりも年下なのに余裕のある微笑みは

周りの紫陽花が負けてしまうほどに美しかった







黒髪の少女「ふふ、初めまして、僕は―」











ポツ…





男「んぉ?」





黒髪の少女「え?」





ポツ…サァァァァ





降ってきた





男「あー…」ボタボタ





冷える

図書館の本が濡れちゃう、どうしよう

とりあえず抱えて





男「」ギュッ





黒髪の少女「き、君!早く僕の傘に入って濡れちゃうよ!」グイグイッ





男「うん」





黒髪の少女「早く早く!」





僕の背丈分彼女から傘が遠ざかってしまった

悪いことしちゃった

傘の裏には表と違う柄が描かれてあった

表は紫陽花のように爽やかな藍色で

その内側には『青空』が描かれてあった、素材が良いのかな?

なんだか本物の青空みたいに雲とか青とかくっきりホワイトでさわやかブルーだ

これ僕も欲しいな





黒髪の少女「良いでしょ?この傘」





男「うん、こころおどる」





黒髪の少女「あはは!本当に君は面白いね♪」





笑われた、笑われたけど不愉快じゃない、良い感じだ

そして、これまたケラケラ笑う姿は花のような優雅さを醸し出している

なんか魅力的





男「あ、ここだと冷えるし」





黒髪の少女「うんそうだね、近くにお寺があったよね、そこまで行こうよ」





逆戻りかー





男「ナイスアイデアだね」





家が遠ざかるなーこれ










-お寺-





シトシト…ポタタ





ポタタ…シトシトト





強くもなく、かといって弱いわけでもない雨が降り続いてる

雨が降ったときのジメっとした寒さはちょっと苦手

そんなお寺で膝を抱えて座る、僕と黒髪ちゃん





―お寺の線香の匂いは大好きだ





男「雨降るねー」





黒髪の少女「そうだね」





男「肌寒いねー」





黒髪の少女「そうだね」





男「早く止まないかなー」





黒髪の少女「雨はいつか止むさ」





男「そうだねー」





黒髪の少女「そういえば、これは君の本かい?」





いいえ、図書館の本です





男「ううん、僕の学校の図書館の本、ちょっと濡れちゃってる?」





体育座りで並ぶ僕と黒髪ちゃんの間にポツンと置かれた本





四隅がちょっとヨレてる

あ、先生に怒られる?





黒髪の少女「うーん…ちょっとだけ…かな?」ペラリ





めくる彼女

ペラペラ乾いた音が続いたかと思うとページをめくる音に水分が含まれてきた…

oh…ジーザス!





黒髪の少女「な、中も『ちょっと』だけ濡れてるね」アハハ





『ちょっと』の定義広いっすね





黒髪の少女「…」ペラリ





…ん?





黒髪の少女「…」ペラリ





…あれ?





黒髪の少女「…」ペラリ





…なんか、読みふけってない?





男「あ、あの~」





黒髪の少女「~」ウルッ





…!





男「え!?えぇ!?」





黒髪の少女「なんだい!この酷い男は!!主人公の発明品を悪い事に利用するなんて!!」ウルル





…へ?





黒髪の少女「…しかも!主人公の死んだお兄さんは…」





黒髪の少女「こんな男を事故から救ったっていうじゃないか…これじゃ主人公が報われないじゃないよ!!」ウルウル





男「いや…え…ぇ?」





あ、可愛い





黒髪の少女「う…っ…ひぐっ…!」ペラリ





あ、まだ読むんだ





黒髪の少女「うぁぁん!!」





男「今度は何!?」





黒髪の少女「良かったよ…ハッピーエンドだったよ…うん!やっぱり物語の終わりはこうでなくっちゃね!」





男「そ、そっか…良かったね」





黒髪の少女「ベ○マックス!!ベイマーッ○ス!」ウワーン










程なくして…

なんで僕こんなことしてんだろ





黒髪の少女「うっ…良かったぁ…良かったよベイマック○…」グスグスッ





なんで僕、この子の肩撫でてるんだろ





男「本…好きなの?」





黒髪の少女「うん!本ならなんでも好きさ!君は、よくこのお寺に来るの?」





男「うん、ここは本を読むに調度良くって」





黒髪の少女「その制服…高校生かい?」





男「正解」





黒髪の少女「へぇ、そうなんだ」





黒髪の少女「ねぇ」





ズイッと上半身を寄せてくる彼女





…ぬくい






黒髪の少女「また、何か本を持ってきて欲しいんだ!身近にある本は全部読んじゃったし…」





黒髪の少女「君が面白いと思った本をお願いするよ」




『本屋さんに行けば良いじゃないか』なんていえない

だって女の子は秘密が多いってお祖父ちゃんが言ってたから

きっと秘密にするだけの理由があったりなかったりなんじゃないかな?





…ん?





男「いいよ」ウン





…そういえば





男「僕って言ってたけど本当は君って男の子?女の子?それとも男の娘?」





黒髪の少女「き、君は面白いけど失礼な人だね」ムッ





黒髪の少女「僕は女の子だよ?ほら、少しはあるでしょ?」ギュッ





両の二の腕で、胸を寄せて上げて…何か変わったかな?





男「?」キョトン





黒髪の少女「君は失礼な人だね」





黒髪の少女「ほ、ほら!少しはあるだろう!?」ヨイショヨイショ





いやー、どうみても緩やか~な勾配しか目に入ってこない





黒髪の少女「はあ…お世辞でも何か言うべきだろう?」パッ





黒髪の少女「なんだか寄せて上げてたら腕が疲れたよ…」





男「ごめんねー」





黒髪の少女「ふふ♪ま、面白いから良いけどね♪」





あーこの笑顔やばい





黒髪の少女「そうだ!自己紹介の途中だったよね」





黒髪の少女「僕は―」





黒髪の少女「僕は『時雨』!…この近くに住んでるんだ、よろしくね男くん!」





男「時雨ちゃん?」





時雨「うん!」





男「…しぐしぐ?」





時雨「やめておくれよ!」





男「…ぐれぐれ?」





時雨「今にもグレそうだね!却下!」





男「…じゃあー」





男「しいちゃん」





時雨「!」





―しいちゃん





よろけるしいちゃん

その体を畳に倒れる前に受け止めた





…軽い





時雨「ず、頭痛が…ごめんね」





男「気にしない」





時雨「『しいちゃん』か…なんだかちゃんづけされるとコソバユいよ///」





男「しいちゃん」





時雨「や、やめてってば///」





男「しいちゃん」





時雨「…だ、だから!き、君は…呼ぶ方は恥ずかしく無いのかい!?///」





男「?」





時雨「君は失礼な上に、素直だね…」クスッ










―一つ本に条件を出しても良いかな?





―なに?





―なるべく、昔のものが良いな、古くて枯れた匂いのする本とか誰かの伝記ものでもいいよ





―レトロファンとかアンティーク好きなの?うん、だったら何冊か良いのを知ってるかもだよ





―それはよかった!ありがとう!










数日後…




-学校 図書館-





学校の二階に奥にある図書室、

ここの司書職員の先生は美人、僕も目が潤う





先生目的できてる生徒もチラホラホラチラ…

本を読む振りをして視線は先生に向けられている、

邪なオーラを感じます、主に下半身的な





カウンターには図書委員の女子生徒が二人、

なんかガールズトーク?うらやましい






しいちゃんはどんな本が好きかな?

僕が面白いと思った本で良いって言ってたものの…





男「ふんふふ~ん♪」





本は背表紙を眺めてるだけでも楽しいから良い、

特にシリーズもののハードカバーはそれはそれは圧巻、

なんか優越感に浸れるっていうのかな?問題点は家に

おいておくと非常にカサバる…非常に!かさばる!!










男「貸し出しお願いしまーす」





カウンターに置かれる、諸々伝記モノとか等々etc…





しいちゃんはどれが好きかなー





図書委員「もしもーし、貸し出し期間は?」





男「あ、一週間で」





図書委員「随分借りるね全部一人で読むの?」






男「んー……」






図書委員「?」





男「ハイ、ヒトリデ ヨミマス」





図書委員「…あ、嘘?」





男「なぜわかった!…あ」





図書委員「っぷ」





図書委員「素直すぎるよ~男くん!」アハハ





男「面目ない///」





図書委員「ううん、いいよいいよ男くんらしいから!」





男「///」










-家-





ガラガラ…ピシャッ





この戸、立て付け悪い

お祖父ちゃんの家だから仕方ないかー





男「ただいまーお祖父ちゃ~ん」





祖父「ん、おかえり」





白髪でほそいナナフシみたいなお祖父ちゃん、本が大好き花が好き

70を越えてるけどシャンとした背筋が自慢





お昼寝してたのかな?眠そうに寝室からしょぼしょぼ歩いてきたけど

僕はお祖父ちゃんに軽く応えると

カバンを玄関において、仏壇

までノソノソと寄っていく





蝋燭に火を灯して、線香に熱を移す、そして鐘をカンと鳴らして合掌、

すっかり身に付いた習慣





男(お父さん、お母さんただいま)





祖父「…ん~、なぁ」





男「なに?」





祖父「ゆべし、貰ったんだけど食べるか?」





男「ゆべし!食べる食べる!!」





祖父「まだだめ」ヒョイ





男「ぅ…!」





祖父「お座り」





男「ワン」シュタッ





祖父「お手」





男「ワン」パッ





祖父「チンチン」





男「ワン!」ゴソゴソ





祖父「やめろ違うソッチじゃない」





男「知ってる冗談だワン」ヒョコ





祖父「一周回ってワン」





男「へっへっへ!」クルクルクル…





男「ワン!」





祖父「テスト」





男「…」





祖父「テスト」





男「♪~♪~」クチブエ





祖父「ゆべし…」





男「へへぇ!お納めくださいませませぇ!!

恥ずかしながら赤点ぎりぎりの点数にございますぅぅ!!」ウヘヘェイ





祖父「…なにこれ」





男「い、いんぐりっしゅ…」





男「に、日本人だから…ほら…ね?」





祖父「そうだよな、日本人だもんな」





男「ほっ…」





祖父「これは?」





男「国語…」





男「…あ」





祖父「…61点…」





祖父「外国語も母国語もガタガタじゃねぇか!!」ペチーン!!





男「はーん!」












-お寺-




お祖父ちゃんに精神HPを

サクリファイス(刈り取ら)れたあと

結局ゆべしも貰えずに、本の入ったリュックを背負ってここに来た

あ゛ー、雨に濡れた土の匂いって良い~




…よっこいしょ




ドッカリと大量の本をお寺の前に置く








―じゃあ、連絡先、交換しようよ僕のアドレスは




―あ、ごめん僕ケイタイは

持ってないんだ、ごめんね




―そうなの?




―今時珍しいかな?




―んー、持ってない人もいるよ普通さ




―そうかな?




―そうさ、あ、でも君は普通と違うかも




―どうして?僕、君の気に障るような事言ったかい?




ーううん、そうじゃなくてさ君はなんだかお人形さんみたいに『綺麗』で『可愛い』なぁって




―…ふ、普通に、そういうこと言うかなぁ~///き、君はどうしようもなく自分に素直だね///




―うん、良く言われる




―おまけに…とても変わってる




―それも言われる




―だろうね




―結局本はどうすれば良いんだい?




―そうだね…じゃあこのお寺の前に置いておいてよ!読んだら、印にアジサイの花を本の前に置いておくから




―うん




―ありがとう…とてもうれしいよ




―あ、雨…




―うん、やっと上がったんだね。

帰りは気をつけてお帰りよ、ぬかるんでるから…

特にここから道路に行く途中なんかはすごく滑るから




―…ははは…




―ん?どうしたんだい?




―なんだか、僕よりも年下みたいなのに、すごく…こう…大人だな~って




―あはは♪見た目はこんなのだけど、ボクは君よりも…




―あ、いや…なんでもないよ…帰りは気をつけて…まだ降りそうだから…




―うんまた明日、しいちゃん




―…ふふ、また明日…男くん…









#2









珍しく今日は晴れてる





寺の軒下に本をおいて、僕も少し腰を降ろす





晴れた日のアジサイも良いもんだ





ふんふふ~ん





気に入ってくれるかな

おもしろくなかったって言われないかな

楽しいと良いな





男「しいちゃん、今日はアジサイ寺に来てないのかなぁ…」キョロキョロ





寺の前、中、裏庭…

いないなぁ、しいちゃん





少ししたら帰ろ…今日の夕飯当番、僕だし





お姉さん「あら?君…」





男「?」





和服美女?





お姉さん「昨日も来てたよね?」





白い肌、桜色の和服に…

桜色の髪…赤い…目?





お姉さん「こんにちはー?」





あ、見惚れちゃってた

すごく綺麗だ

人じゃないみたいだ





男「こんにちは」





軽く会釈





お姉さん「ふふ、こんにちは♪ねぇ、君昨日もここにいたよね?」





男「はい」





男「お姉さんは」





お姉さん「?」





男「お姉さんは…なんでここに?」





お姉さん「お姉さんは、実はここの

お寺の管理組合の組員なの、ちょくちょくここに来てたんだけど」





男「はぁ」





お姉さん「君の隣にある、その本…まさかここに捨てようなんて思ってないよね?」





訝しげに眉をひそめて僕を睨む

あ、勘違いされる前に言っておかないと





男「えと…ちょっとこれには、深いような浅いような理由がありまして…」










いつの間にか、一緒にお寺の軒下で体育座りでお話ししてた

いくつくらいなんだろう?

20歳そこそこ?でももっと若いような…?





お姉さん「―へぇ~、お友達に本を?」





男「はい、なんだか変わった子で、

古い本を読みたいとかなんとか、なんなんでしょね?」





お姉さん「君も結構変わった感じだけど?」





男「良く言われます」





お姉さん「あはは♪本当に変わってるね」





お姉さん「あら?もうこんな時間、

ごめんねお姉さんそろそろ帰らないと、最後にちょっと見回り

して帰るわ。君も帰りは気をつけてね」





桃色の髪をなびかせて、僕に優しく微笑んでから

竹箒を持ってお寺の裏にゆっくりとした歩調で

行ってしまった





男「さよなら…」





男「…」





男「美女だ」












数日後












-自宅-





男「ただいまー」





相も変わらず立て付けの悪い戸を引く

教科書やノートの入った鞄をドサッと無造作に居間に放り投げる





男「行ってきまーす」





踵を返して外に向かう





祖父「おーい、帰りは何時くらいだぁ?」





男「あとでメールする~」





返事も適当にさっさとアジサイ寺に向かう






本、読んでくれたかなー










祖父「まったく…帰ってくるや否や…最近、どこに出かけているんだか…」





祖父「よっ…いてて」





居間に無造作にひとりぼっちにされた鞄をとるためにしゃがむと

ミシミシ間接が鳴る

キビキビと動いて頃が懐かしい

すると壁にかけられた写真に目が留まる





孫の小学校の頃から現在までの軌跡

さすがに小さい頃のソレは色褪せていても記憶はそうでない


思わず仏壇に目がいく

自分の息子と、その妻の

写真

写真の中の二人はとても穏やかに微笑んでいる


あの子がまだ幼稚園に入ったか入らなかったか位の頃


孫は親を失った

昨今では、すっかり珍しくなくなった『深海棲艦』の被害者だ



皆で海水浴に行っていたときの事、

駆逐艦イ級に襲われ、あの子を逃がすために二人は帰らぬ存在となった


苦い苦い思い出





祖父「まったく、勝手に逝きやがって」






思い出す度に

『私がまだ現役であれば』

という後悔が波のように押し寄せてくる





すると、鞄の隣に光沢のある手のひらほどの大きさの箱が目に付く














携帯電話だった





祖父「…」





祖父「携帯を携帯しなさい」





ため息しかでてこない










-お寺-





見えてきた

アジサイ寺





駐輪場に自転車を停めてっと…





しいちゃんはいるかな





あ…



時雨「…」





軒下でしいちゃんが体育座りで本のページをめくっている

その視線は真剣そのもので可愛い





その隣にはしいちゃんの傘が立てかけられている





端から見ると文学少女だね

三つ編みが良い感じ





男「おーいしいちゃーん」





自転車の漕ぎすぎて

足がガタガタだけどなんとか軒下までたどり着く





時雨「ふぅ…」





一息ついたようでパタンと表紙を閉じる黒髪美少女

そしてこちらに一瞥くれる





時雨「やぁ男くん」





時雨「本、もう全部読んでしまったよ」





早っ!





時雨「紫陽花の花、本の上に置いていこうと思ったんだけど

丁度さっき全部、読み終わったから、返すね」





男「そ、そうなんだ、早いね」





時雨「読書は好きだからね♪これくらいならすぐに読んでしまえるよ」





男「そっか、じゃあ…次は……」





時雨「…」





時雨「…ねぇ」





男「ん?」





時雨「今度は図書館の本じゃなくってさ、男くんの持っている本が読みたいな」





男「僕の…持ってる本?ジャンルとかばらばらだけど?」





時雨「なんでも良いよ、キミが面白いと思ったものを持ってきておくれよ、どうやら」





時雨「どうやらボクとキミは感性が似てるようだからね」





時雨「借りた本も全部楽しかったよ」





男「ふ~む……」





だめだ…やっぱり気になる…





男「ねぇ、しいちゃん」





時雨「なんだい?」





男「どうして…そんなに本にこだわるのさ?」





時雨「…」





男「それに…本が読みたかったら自分で市の図書館とか―」





時雨「男くん」





男「ん?」





時雨「本、楽しみにしてるね」





男「…」





空を見上げるしいちゃん





時雨「空気が湿っぽくなってきたね…そろそろお帰りよ」





僕もそれにつられて空を仰ぐ





男「…うん、なんだかじめっとしてきたね、しいちゃんも…」





男「?」





視線をもう一度目の前に向けると、

しいちゃんの姿と傘はなくなっていた…


まるで最初からいなかったように…


ただただ、静かに大量の本が

そこに鎮座していただけだった











お姉さん「あ」





男「…」





お姉さん「ねぇキミ!」





男「?」





後ろから瑞々しい声を掛けられ振り向くと、桶と柄杓を持った和服美人

打ち水でもしてたのかな?





お姉さん「今日も、お友達に本を?」





男「えと、貸した本を返してもらおうと思ってきたんですけど」





お姉さん「けど?」





男「さっきまで、その子いたんですけど…あれぇ?」





お姉さん「ふぅん?その子、恥ずかしがり屋さんなのかしら?」





男「そうなんですかね?」





お姉さん「どんな子なの?この近くに住んでる子?」





男「僕も詳しくは知らないんですけど」





男「本が好きな、三つ編みで蒼目の小動物みたいに可愛い女の子です」





お姉さん「ひょ、表現が凄いね」





男「あ」





お姉さん「どうしたの?」





男「あ、いえ」





男「また、本を貸してほしいて言われたんですけど」





男「いつ渡そうかなって」





お姉さん「前に貸した本のときは?」





男「お寺の軒下に置いておくって約束をしてて…」





お姉さん「それで、その子は読んでくれてたの?」





男「はい」





お姉さん「じゃあ、それで良いんじゃない?また軒下に置いておけば?」





男「あー、それもそうですね、頭回らんかったです」





男「ありがとございます」





男「お姉さんは、今日は?」





お姉さん「周りの雑草に除草剤かけようと思ってね♪」





お姉さん「この時期は花も元気だけど、雑草も元気だからね」





男「あー、じゃあその桶の中って」





お姉さん「うん、重曹で作った除草剤、環境に優しいんだよ?」





男「へぇ~」





男「あ」





お姉さん「今度は、なに?」





男「お手伝いします?」





お姉さん「え、え?い、いいよ!管理組合の仕事なんだから」





男「でも、女性には優しくしなさいってお祖父ちゃんが」





お姉さん「あはは…う~ん気持ちは嬉しいけど、本当、大丈夫だから、ね?」





男「そうですか…」





男「」シュン





お姉さん「…」





お姉さん「じゃあ、一つだけお願いしても良いかな?」





男「!」





男「はいはーい!」





お姉さん「あはは♪元気が良くてよろしい♪」











お寺の周りは案外、汚れてた

花の根本に捨ててある、空き缶、空き瓶、お菓子の袋、

ファミ○キの包み紙、それらを手元のゴミ袋に投げ捨てていく…





男「…」ヒョイ





おもちゃの空箱…ほかにもいろんなモノが落ちている





男「」ヒョイ





…あ、蛙





蛙「ゲコ」





男「ゲコゲコ?」





蛙「ゲッ」ピョンピョン





蛙をアジサイの花の群生に追い返してまた、腰を屈めてゴミを拾い始める





男「…」ゴソゴソ





男「!」





お寺の裏に捨ててあった雑誌を手にして硬直して

剛直する僕…健康的な男の子であればだれもが反応する

『アレ』な露出のヒジョーに高いお姉さ方が多々掲載されてある

『アレ』が…!今、目の前に…!………





後ろ良し…前良し…





ペラリ…





男「お゛ぉ~…!」





ペラリ…





男「…ほ~…」





ペラリ…





男「…あららららぁ…」ムフムフ





時雨「…」





ペラリ…





男「やっぱり、お尻良いよねぇ…」





時雨「胸ではないんだね?」





ペラリ…





男「うん、僕どちらかといえば、イイカンジのお尻に敷かれたi…」





時雨「…イイカンジのお尻に…なに?」ニコニコ





男「…あ」ペラリ





時雨「続けてどうぞ♪」ニコニコ





男「…」パタン





男「…」





時雨「♪」ニコニコニコ





男「…」





時雨「♪♪」ニコニコ





男「…見た?」





時雨「『ドキドキ鎮守府!溢るる母性!鳳翔さんの筆下ろし大作戦』…とか?」ニコニコ





男「!!」





時雨「『戦艦榛名はどこまで大丈夫?ギリギリを攻める~ぅ!!真夜中の榛名』…とか?」ニコニコ





男「も…もう…」フルフル





時雨「『犯罪?無垢な少女でムスコはムクムク!

雷ちゃん、究極のお世話焼き!全く駆逐艦は最高だぜ特集!』…とか♪」ニコニコ





男「か、勘弁しt」





時雨「見てないからご安心よ♪」ニコニコ





男「…」





男「…一から!!」





男「十まで!!」





男「全部!!」





男「見られてるじゃないかぁ!!」











音もなく、いつの間にか僕の後ろに花のように佇んで

傘を小脇に抱えたしいちゃんに言葉をかける

直立のしいちゃんに、屈んでエロ本を手にする僕と

イキリタツ僕の主砲、屈んでいる分しいちゃんからは見えない…と良いなぁ





男「いつから?」





時雨「君が器用に蛙と会話してたところから」





男「最初からだね」





時雨「うん」





時雨「蛙くんはなんて?」





男「『紫陽花の葉っぱには毒があるんだぜ食べるなよ?』だってさ」





時雨「そうなんだ」





男「らしいね」





時雨「あはははは」





男「ははははは」





乾いた笑いが曇り空に吸い込まれていく

いっその事、雨降ってくれないかなぁ

おもいきりと…





時雨「ホント?」





口から出任せなり





男「ごめん嘘」





時雨「君は失礼な上に素直で、嘘つきだね」





笑顔でなじられる





男「うっ…しいちゃんに言われると傷つく」





時雨「あはは♪」





頬を持ち上げていたずらに

コロコロと笑うしいちゃんはやっぱり愛らしい





時雨「ところで―」





時雨「いつまで、その破廉恥な本を手に持ってるんだい?」





男「おっと、そうだった捨てないとね」





男「いやぁ、えろいえろい」ガサガサ…





おかしい…、ゴミ袋に本を捨てようと思っているというのに手が―





男「…」





時雨「?」





時雨「どうしたのさ?早くゴミ袋から手をお離しよ?」





脳が言うことを聞いてくれない、

これはそう僕の中の『漢』という性本能が目の前のそれに反応して、

肩を、肘を、指を制御し、頑なに『離す』のを拒んでいる…そう、つまり





男「しいちゃん…本能がさ、『捨ててはならない』って叫んでるんだよぉ~っ、これ持ち帰っても…」





今夜のお楽しみにと

小さな歩幅でニコニコと

近づいてくるしいちゃん





時雨「おとなしく捨てようね?」ニッコリ





男「…んぐっ」





時雨「す て よ う ね ♪」ニコォ





笑ってるのに、怒ってる





可愛い分、ものすごく怖い





男「…」





僕に残された選択肢はただ一つ





男「yes boss」バサッ





然りしいちゃんに従うしかない之










男「―でさ、その主人公はね、産まれたときはさ80歳のお爺ちゃんなんだけど」





空き缶ひょい





時雨「うんうん」





男「年をとると、どんどん若返っていくんだー」





男「自分は、若返っていくのに、周りの友達や家族はふつうに年をとっていくんだけど」





泥まみれの何かの紙袋ポイッ





時雨「すごい話しだね」





男「そう、その出会った人たちにもいろんなドラマがあってさこれがなかなか面白いんだよ~」





男「娼婦とか、船の船長とか…あとは、人妻とかシェイクスピアが好きな人とか」





時雨「面白そうだね!その映画ボクも、観てみたいな…なんて言うタイトルなんだい?」





男「うん、確か…」





しいちゃんと軽く話題を投げあったりして

話しをしながらゴミ拾いを続けていると段々としいちゃんからの返事は来なくなってきた

ついには先ほどまで鈴の音のようなかわいらしい声が聞こえなくなってしまった





男「しいちゃん?」





変に思って、屈んだ状態で後ろを向くと彼女の姿はなかった

代わりに桃色のお姉さんがこちらに、

上品な様子で歩幅も小さく歩いてきているのを確認した






お姉さん「おーい男くーん!お疲れさまー!」





百合のような上品な佇まいからは

想像もできないほどに幼く少女のような笑顔を作るお姉さん





お姉さん「そろそろ休憩にしよー!」





男「は~い」





男「しいちゃん…どこに行っちゃったんだろ…」





お姉さんがくる前に姿を消したしいちゃんが気になるよ

なんでなんの前触れもなく急に消えたりしたんだろ…





お姉さん「…どうしたの?」





男「いえ…さっきまで、僕の近くに女の子いたと思うんですけど…」





お姉さん「え?女の子?見なかったけど?」





男「…え?」





僕の周りをよく見ると、僕以外の足跡は、全く見あたらなかった

ぬかるんでいて、少し圧をかければくっきりと痕跡がわかるはずなのに





風がしめっぽい





この世のものとは思えないほど

可愛いって表現できるしいちゃんだけど

その存在の痕跡までこの世のものとは思えないなんて…





これじゃまるで…





お姉さん「どうしたの?」





男「あ、いえ…」





お姉さん「顔色悪いよ?手伝い過ぎて疲れちゃった?」













男「なんでも…ないです」















お姉ちゃん「今日は、ありがとうね、おかげでお寺、すっかりきれいになったよ♪」





男「どういたしまして」





お姉ちゃん「はい」





お姉ちゃんの白い手から渡される、ジュース缶





男「これは?」





お姉ちゃん「今日のお礼」





ライチジュースだ





男「ありがとございます」





素直に受け取る僕

お祖父ちゃんが言ってた

遠慮しすぎるのも悪いって





お姉ちゃん「…ちょっと教えてほしいんだけど」





男「なんでしょ?」





お姉ちゃんがちょっと怪訝そうな顔で僕の目を見つめてくる、ホントに綺麗な人だなぁ

お姉ちゃん「君と、その、ここで友達になった女の子ってどんな子?」





男「お姉さんみたいに綺麗な子です」





お姉ちゃん「ちょっ…!///」





お姉ちゃん「あ、あんまり年上をからかわないの!///」





頬を赤らめるお姉ちゃん、ますます綺麗





お姉ちゃん「コホン///」





お姉ちゃん「それで、その子の特徴とか?」





男「黒髪です」





お姉ちゃん「さっき聞いたね、ふむふむ」





男「三つ編みです」





お姉ちゃん「…へぇ~」





男「日本人なんですかね?青い目でした、肌も白かったっけ?」





お姉ちゃん「…そう」





男「あとは…会う時はいつも傘もってます」





お姉ちゃん「!?」





お姉ちゃん「内側が青空柄の?」





男「…?そうですよ?」





なんで





男「なんでお姉ちゃんがそのことを?」





お姉ちゃん「…っ…!」





小さく息を飲むお姉ちゃん

呼吸が苦しそうに、胸が上下してる

顔色もなんだか悪いみたい





男「大丈夫?」





お姉ちゃん「だ、大丈夫よ…」





お姉ちゃん「た、ただ当てずっぽうで言ってみただけなの…気にしないで…」





男「うん…?」





お姉ちゃん「ちなみに…その子の名前は?」




















男「時雨ちゃん、僕は『しいちゃん』って呼んでます」





お姉ちゃん「!?」





お姉ちゃんのただでさえ大きな兎のような両目がクッと見開かれた、まるで何か確かな事を確信したかのように





しめっぽい風がますます強くなってきた





お姉ちゃん「…」





男「…どうしたの?」





お姉ちゃん「な、なんでもないわ…大丈夫、大丈夫よ…!」





お姉ちゃん「……『しいちゃん』…良いあだ名ね」





男「僕が考えたんですけどね」





お姉ちゃん「そう…なんだ」





男「?」





お姉ちゃん「今日は、気をつけて帰ってね…」





お姉ちゃん「ぬかるんでるから…特にここから道路に行く途中なんかはすごく滑るから」





―帰りは気をつけてお帰りよ





―ぬかるんでるから





―特にここから道路に行く途中なんかはすごく滑るから





男「…」





男「しいちゃん?」





お姉さん「…」





ポツ…





…ポツ…





………ポツ…





…ポツ…





お姉ちゃん「降ってきちゃったね…」





男「わわっ!あ、ジュースありがとございました」





一礼して、塗れてしまった肩を抱いて

帰路につくことにしよう













-お寺 裏-





サァァァァ…





お姉ちゃん「時雨…」





お姉ちゃん「起きちゃったの?」





サァァァ…





お姉ちゃん「そう…この間ここで交通事故が起きたんだったね…石碑…倒れちゃってるもんね」





お姉ちゃん「ここは曲がる所が無いから、暗いときに雨なんか降って、ましてや夜中だったら…」





お姉ちゃん「こんな、カーブミラーもないとこ…見えないもんね」





















ザァァァァァ……





お姉ちゃん「『しいちゃん』」





ザァァァァァァ……






#3






先生「良いかぁ、ここでテストででるかもだぞぅ」





眠い、激しく眠い

ただただ眠い





男「zz…z」ウツラウツラ





男子1「お、おい起きろって男っ!」ヒソヒソ





眠い…





男子1「ここテストにでるんだってよっ!」ヒソソ





男「5時間目は眠くなる候…」シロメ





男子2「ぶふっwwwひでぇ顔ww」





男「顔が…ひどいのは…生まれつき候…」





男子2「じょ、冗談だよ」





男子1「おまえ、地味に女子に人気あんの自覚無いだろ?」





男「zzz…」





先生「はぁ…男子1」





男子1「はい!」ガタッ





先生「遠慮しなくていい蹴り起こしてやれ」





男子1「い、いいんですか?」





先生「かまわんヤレ」





男子1「…」





男「zzz」





男子1「せいやぁぁぁ!」ガゴッ





男「んほぉぉぉっ!!!」ズテン





男「…っは!×××されてた夢を…っ!」





男子1「目覚め悪いなぁ!」





先生「おはよう」





男「…おはようございます」





先生「…授業続けるぞぉ」





先生「ほれ、さっさと机起こして席に着け、男子1ご苦労」





男子1「い、いえ」





男「よっこいしょ」ガタガタ





先生「続きなー」





先生「んで、今から40年前に、

今の紫陽花寺の近くで深海棲艦と艦娘との戦いがあったのは知ってるよね?」





先生「命がけで戦ってくれた艦娘さんの中には

残念ながら命を落とした子も少なくは無かったみたいでー」





先生「…へーっきしょ!ちっくしょいぃぃ!!」





先生「」ズビビ





先生「風邪引いたかな?んでそこで沈んだ

艦娘さんの名前が近年、明らかになったそうなんだ」





先生「ほら、おまえ等の教科書新しいだろ?

たぶんその事書いてあるから良くチェックしておけよぉ?

テストで艦娘さんの名前ンとこ加点でっかくしておくからなぁ」





キーンコーン


カーンコーン





先生「じゃあ、宿題」トントン





生徒s「え゛ぇ゛っ!」





先生「まぁまぁ落ちつきなさい」





先生「…宿題の分で20点プラスすから」ボソッ





生徒s「ヒャッホォォォィ!」





先生「その沈んだ艦娘さんたちについて調べてくること、元の艦種と姉妹艦、あとは所属鎮守府な」





生徒s「はーい」





男「めんどっちぃ」





他の人たちに比べて綺麗な教科書を

適当にペラペラめくると、そこに聞き慣れた文字が二つ飛び込んできた









男「…」













男「…白露型の…」









男「『時雨』…?」






―ボクは時雨






男「…」







男「…『しいちゃん』?」











放課後





頭の中がしいちゃんでいっぱいだ

白露型、時雨…

数十年前のこの地域で起きた

深海棲艦襲撃で…





『轟沈』…





…艦娘さんたちのおかげで

深海棲艦は退けられたみたいだけど何人かが沈んだみたい

少なくとも教科書にはそう書いてあった


そして、沈んだ艦娘さんたちを悼むために

『紫陽花寺』の裏には記念碑がたてられ、その魂を鎮めたらしい


そして前の深夜に起きた交通事故


寺裏の暗い曲がりくねった道路、曲がりきれずに車が道路脇の木に衝突したみたい


その影響で石碑が倒れたってニュースで流れた


蒸し暑いせいなんかじゃなくて、いやないやな冷たい汗が背を伝う




お祖父ちゃんは…昔の事何か知ってるかな

教えてくれるかな…










貴重な梅雨時の晴れだって言うのに気持ちは悶々としている


特に部活もしているわけでも無いから、うちに帰って

しいちゃんに本を届けよう…そして……





…そして…どうしよう…





たてつけが悪すぎる戸を必死にガタガタ揺らしてこじ開ける


そのストレスすら忘れるほどに僕の頭の中はこんがらがっていた


居間のハジっこに手提げ鞄を放り投げる



こんな状態でも両親への線香を焚くのは忘れない


仏壇の鈴を二、三回、カーンカーンと叩いて鳴らした後

テレビを点けて横になる


この間、お祖父ちゃんと一緒に畳を替えた

藺草の香りが鼻孔に心地よい











-白露型-





-時雨-





-三つ編み-





-青目-





-色白-






-『ボク』-





全部全部、教科書に書いてあった通りだ

当時の艦娘としての『時雨』の姿

全部…当てはまっちゃったよ…





なんだか考えすぎて…疲れちゃった…





しいちゃん…





しいちゃんは何者?









―ボクは時雨





―この近くに住んでいるんだ





……………





近くに住んでるのは嘘?





じゃあ…しいちゃんは






何処からきたの?





なんで教科書なんか、なんで轟沈した艦娘の所になんか名前が書いてあるのさ…





ゆっくり瞼が落ちていく





意識が黒く覆われた





―内側が青空柄の傘?





お姉ちゃんの声が聞こえたような気がした










醤油の匂い…?


甘辛い…?


ぼんやりとした夢見心地の意識が少しずつ回復していく


……煮物?





むくっと体を起こすと、右頬にジンジンした痛みを感じる触ると凹凸が確認できた

なぞるとそれが畳のでこぼこだと気がついた



…痕になっちゃった





祖父「起きた?」





台所と居間の間にぶら下がってる暖簾から、ヒョッコリ顔を出すお祖父ちゃん





男「祖父ちゃん?いつの間に?」






祖父「ついさっきちょっとした裏庭の草むしりから」





いつもより少し、前屈みになってるのは

腰を少し痛めたからかな?






男「そうなんだ」






祖父「それよりか、お前よぉ」






少しウンザリそうに、頭をガシガシ掻いて

寝巻の袖口から四角いソレを取り出す






男「なぁに?」





祖父「携帯を携帯しないって、それでも現代ッコか?」コレコレ





男「忘れてた…」





祖父「今度からちゃんと持っておきなさい、繋がらないと不便なんだからよ」





男「あ、はい」





男「あ、そうだ」





祖父「あン?」





男「お祖父ちゃんさぁ」





男「元・海軍関係のお仕事だったじゃん?」





祖父「ああ」





男「当時の艦娘の事についてさ、知ってる?」





祖父「あー…なんだっけかなぁ」





男「白露型で」





祖父「…」





男「『時雨』って名前の」





祖父「…!」





男「…」





男「お祖父ちゃん…?」





男「…おじいちゃんは、ここで起きた、深海棲艦襲撃の事…なんか」





祖父「さぁなぁ…海軍って言っても…その、なんだ…」





祖父「……知らんなぁ…」





男「…そうなんだ」





祖父「ああ」





祖父「…手」





男「?」





祖父「…夕飯できた、手ぇ洗ってこい」





男「…」





男「…うん」トタトタ…










孫を手洗いに促したあと

夕食の盛りつけをしていたが


うっかり、箸を床に落としてしまった


草むしりで、少し痛めた腰をさらに曲げて


それを震える指で拾い上げる





祖父「…はぁ…」





指がいうことを利かないからため息がでるのか、それとも





祖父「……」





血は争えないことに苛立ちを覚えてなのか





祖父「まさか…な?…」





祖父「君なはずがないだろ…」





孫が口にした『時雨』の名前を親しみを込めて独りごちる













祖父「『しいちゃん』…」









-土曜日-





祖父「んじゃ、老人会行ってくる」





男「気をつけてー」





お祖父ちゃんをお見送り

ピシャッと戸の閉まる音を聞いた





男「さて…」





フンと鼻息を吐いて

本棚を漁る





僕の持ってる本って言ってもねぇ…





なんかあるかな?


芥川なんて読むかな?





もちょっと探そ










男「んあー」





居間に大の字で転がる


んー

意外と僕って本、読んでるようで読んでない的な?


目星い本が無いなぁ…


風景の写真集とかは、おっぱi…いや、いっぱいあったけど…風景の!



二、三冊もあれば良いかなぁ





そうだ!お祖父ちゃんも本いっぱい持ってたっけ?

ちょっと拝借するくらいなら別に…ね?










-祖父自室-





襖を開けてお祖父ちゃんの四畳半の部屋に入る





キシ…キシ…





シンとしてて、畳に触れる靴下の音まで聞こえるみたい



音が良く聞こえる





沈香のお香を焚いてるお祖父ちゃんの部屋は良い匂いがするから好き


隅の奥行きのある年代モノの本棚の中にある本にまで

良い匂いが染み着いているみたいで、前に本を借りたときもお香の良い匂いがしたっけ?





何が良いかなぁ?





…うわっスゴい、日に焼けてるよこの本

これなんか、背表紙がカスレて読めないよ…


なんか無いかな?なんか無いかな?





う~ん、もっと奥の方まで見てみよ…









-一時間後-





男「ないー」





居間で同じ行為を祖父の自室でも行う


背を伸ばして大の字になると骨がポキポキ鳴った





男「ふはぁーぁ…」




なんか…ピンと来るものない



仕方ないよね


とりあえず適当に


太宰あたりを…





お祖父ちゃんの机の上…なんだろうこの本、





スゴく古い表紙ベリベリにはがれてたりするのに


なんでこんなに、大事そうに?















……日記?


















19××年 6月18日(晴レ)


上官のススメで、着任から日記を付けることにした

いつまで続くかわからないが

とりあえずは続けてみる

三日坊主にならない事を祈る





19××年 6月19日(晴レ)


今日、本営から

白露型の『春雨』と言う子が着任した


不思議な髪の色の子で

とてつもなく可愛い





可愛い





19××年 6月20日(晴レ)


今日から春雨の事を

『ハルちゃん』と呼ぶ事にした


私が勝手に決めた


二人でささやかな着任祝いをした


盛り上がった


『ほしがりません勝つまでは』なんて知ったことか


たった二人しかいないんだからこれぐらい別に良いだろう





19××年 6月21日(晴レ)


暑い





19××年 6月22日(晴レ)


暑い





19××年 6月23日(雨)


雨降った






19××年 6月24日(雨ノチ晴レ)


蒸す





19××年 6月29日(晴レ)


ハルちゃんが駆逐艦イ級1隻を仕留めた


やったね


帰ってきたとき

ボロボロで焦ったけど入渠すれば大丈夫って言ってた


心配






19××年 7月4日(曇リ?)


ハルちゃんが復帰


最初は無理しないで他鎮守府への資源調達に専念してもらおう


無理はいかん


無理は


聞けば、他鎮守府では

何かに理由をつけては艦娘を

集めるだけ集めて、解体して私腹を肥やしている誠にけしからん輩もいるらしい


艦娘一人一人もちゃんと向き合ってやれんくせに何が提督か










19××年 7月8日(晴レノチ曇リ)


今日、早朝に波止場を散歩していたらボロボロの女の子が倒れていたので保護した


ぼんやりした目をしていて質問しても何も答えてくれなかった


青目の男の子?


外国の子?


でも黒髪



ごわごわしてる


雨に濡れた犬みたいな臭いがした


行く宛も無いようでとりあえずは鎮守府で保護しよう


ハルちゃんにはしばらく黙っておこう


…なんか


…なんかめんどうくさい



19××年 7月10日(雨)


初めて彼から話しかけられた


『風呂場はどこか?』


第一声がこれって…あ、でも確かに香ばしい臭いがする






風呂場に連れていき彼の体を洗おうとしたら


顔を赤らめて思い切り頬をぶたれた


わずかなささやかな

ほんのささやかな微々たる乳房と

薄い股間を確認


『彼』は『彼女』で


女の子だった








19××年 7月12日(雨)


保護してから数日

口を開いてくれなかった彼女と和解


食欲もでてきたようで


お互いに自己紹介


彼女は自分を『シグレ』と名乗った






19××年 7月13日(晴レ)


シグレが見つかった


怒られた


ハルちゃんはシグレを知ってた


シグレも白露型の子らしい


そういえば本営からいただいた


提督の手引きにも書いてあったっけ?


『艦娘は海上で出会う可能性アリ』


『または流れ着く可能性もわずかに』


ということは彼女は後者だったみたい?だよね?






19××年 7月14日(晴レ)


本営に連絡して

正式にシグレを鎮守府に迎え入れた


彼女自身は戸惑っていたけど

実際、史実について訊ねて

いくと次々と質問に答えてくれてそうすることで

『時雨』としての記憶を取り戻していってるみたいだった



可愛い







19××年 7月15日(晴レ)


今日は遠征







19××年 7月16日(晴レ)


ササヤかながらの時雨の着任祝いをしようと思います


今日から時雨を『しいちゃん』と呼ぶことにした


『ハルちゃん』

『しいちゃん』

『私』


ちょっとだけにぎやかになった…かな?






19××年 7月19日(晴レ)


飲み過ぎた頭痛い






19××年 7月20日(晴レ)


しいちゃんがボロボロで帰ってきた


艤装も髪も、身につけているものがほとんど焼けていた


軍人とは言っても


血は苦手


しいちゃんの手当をして入渠させた後


情けないことに卒倒してしまった


ハルちゃんに、広間のソファに運ばれたみたい


今はここで、日記を書いてる


我ながら、良く続くもんだと感心






19××年 7月21日(晴レ)


今日は私の誕生日

なんだか最近、年をとるのが早くなったような気がしないでもない


でも心は17歳のままで

まるで成長してないような














19××年 10月11日(秋晴レ)


ふむ、久々に休む


みんなとお月見でもしようか?


少しだけ、艦娘も増えたし


少しは賑やかになるかな?


扶桑は料理得意かな?


任せてみようかな?





19××年 10月12日(××)


腹痛により

しばらくやすむ


扶桑に料理を任せた私の判断は間違っていた




19××年 10月15日(曇リ)


やっと回復


まともに飯が食べられんかったせいか痩せた


というか腹が抉れた


午前中、扶桑が全力で謝りにきた


部下の失敗は上司の失敗


私の判断の失敗なのでお咎めなし


「次はおいしく作ります」ってやる気マンマンだったけど


殺る気マンマンでもあるから

やめて貰おう


胃がいくつあっても足りない









19××年 3月3日(晴レ)


桃の節句


男家系だったから今まで関係なかったけど


ひな祭りってお金かかるなぁ


ハルちゃんも、しいちゃんも

ふぅちゃんも、那珂さんもみんなみんなに着物を着せてあげた


とても似合っていた


ふぅちゃん…扶桑には赤と白の例えるなら

金魚のような派手な着物を

普段は控えめだけど端正な顔立ちを持つ彼女は

目立とうとするとどこまでも映える


恥ずかしそうだったけど艶やかだった



やまちゃん…山城にも

ふぅちゃんとちょっとだけ柄の違うモノを贈ったら

涙を流しながら喜んでた

いつもムスっとしてるけど笑うとこんなに可愛いじゃないか


那珂さんには桃の花柄の少し

金が入った着物

勝手に着崩してイロンナ格好をして

遊んでたから見てて面白かった



まぁちゃん…摩耶にはもっと女の子らしい格好をしてもらおうと

お化粧を那珂さんにお願いしたら…

誰かと思った…なんというか………

誰?という印象

女は幾つも顔を持つって母様は言ってたけど本当


まぁちゃんには一番高いモノを仕立てたから

やっぱり素材が良いと美しさが際だつよ


普段が男勝りなところもあってか

ますますその差が愛おしく感じる


まぁちゃんが可愛いかった

可愛いまぁちゃん!

うなじがきれいだよまぁちゃん!



ハルちゃんには

髪の色に合わせて桜柄の少し子供っぽい柄のもの

普段まとめてる髪を下ろしてとかしてあげたらグッとお嬢様っぽくなった


しいちゃんにはやんわりした雲柄の薄い青の着物

ハルちゃんと同じく髪を下ろすと清楚で別人のようだった


最初に出会った頃の彼女からは想像もできないほどに清潔感のある愛らしさだった



書きすぎて手が痛い


今日はもうやめる







19××年 5月5日(晴レ)


今日は端午の節句

別名、男の子の日


といっても男は私と、しいちゃんだけだか…

訂正、しいちゃんは女の子です(所々が不自然な染みがで出来ている)


男は私だけなので小さな鯉のぼりを執務室の机の上に置いた


これはこれで良い



お酒が飲める組で柏餅で晩酌


子供の日に乾杯


結構矛盾してること書いてるなこれ


お酒と煙草は20歳から!







19××年 6月6日(雨)




この時期になると思い出す

私が初めて鎮守府にきたときのこと

雨が降ってて近くの寺に紫陽花がたくさん咲いてた














全部、瑞々しく元気に咲いてた


ハルちゃんとも出会ってから間もなく一年


しいちゃんと出会った日も近いからまとめてお祝いしようか







19××年 6月10日(雨)




先日、先輩が艦娘と結婚した

とても驚いた

あんな硬派な先輩が、ましてや艦娘と


世間はどう反応するんだろう


だって、人格はあっても女性として体をなしていても


要は『戦車』や『飛行機』と結婚するようなもんじゃないかな?


でも相思相愛なら、誰も何も言う権利ってないよなぁ


難しくて良くわからない


今日はもうやめる




19××年 6月13日(曇リ)


ササヤかながら、ハルちゃんとしいちゃんと私の

一周年記念で

二人に贈り物をした、ハルちゃんには良く似合いそうな金色の髪留め


しいちゃんには

彼女が好きな雨の日も楽しんでもらえるようにと


内側が『青空柄』の傘


二人ともとても喜んでいた



贈り物は良い


人を喜ばせるし、


その喜んでいる様を見て


こっちまで嬉くなる






19××年 6月18日(雨)


しいちゃんが傘を持ってどこかにでかけた


なんだろ?




19××年 6月19日(晴レ)


ハルちゃんがどこかに出かけた


なんだろ?




19××年 7月21日(雨)


今日は休日

朝、起きて廊下を歩いていても誰とも会わなかった





ところが


広間に入ったら


大きな拍手で迎え入れられた


壁に飾られた派手な装飾


『誕生日おめでとう』の


大きさがバラバラなイビツな文字


笑顔のみんな


ハルちゃんとしいちゃんとを

中心にした鎮守府の子たち


呆気にとられていると

二人が私に近づいてきて

顔を赤らめながら何かを

差し出した


ハルちゃんからは小さな箱?


万年筆だそうだ


そういえば今使っているものが使いづらいって愚痴ったっけ?


ずっと使えそうな良いものだ



白地に金の細い装飾で上品な仕上がりの…これ高いよね?



しいちゃんからは

ちょっと大きめの包み


開けてみたら

私が彼女に贈った内側が青空柄の傘の、外側が色違いのものだった


良く見つけてきたものだ



『しいちゃんとお揃いだ』と思わず口に出したらハルちゃんが彼女をにらんだような気がしたけど


気のせい



料理は全部


まぁちゃんと那珂さんが

作ってくれたみたい


意外や意外


二人とも料理がとても

上手だった


ただ振る舞う機会が無かっただけみたい


とっても楽しかった












パタンと本を閉じる


まだページは残っていたけどちょっと頭を整理したくて

閉じた



…お祖父ちゃんは詳しくは知らないけど海軍関係のお仕事だった


…お祖父ちゃんの誕生日は7月21日だった


…お祖父ちゃんの愛用の万絵年筆は―




机の上のペン立てに目をやる




…お祖父ちゃんの愛用の万絵年筆は薄く手の痕のついた万年筆


白地に金の装飾の入った…








…なんで?












じゃあお祖父ちゃんの傘は…?






カタンと玄関から戸の開閉の音、お祖父ちゃんが帰ってきた


気がつけば長い時間よみふけっていた…


この日記は…


お祖父ちゃんの?










襖がサッと開く音





祖父「なんだ、いたのか?」





男「ねぇ、お祖父ちゃん」





祖父「あん?」





男「これって…誰の日記?」





祖父「……」





男「…なんでこんなに艦娘について詳しく書いてあるのさ?」





祖父「…人の日記を勝手に読むのはいかんだろ」





男「やっぱり!じゃあお祖父ちゃんは」





祖父「元・提督にございます」





男「ねぇ…聞きたいことが山ほどあるんだ…」





祖父「…」





祖父「私からも聞きたいことがあるんだけど」





男「お先に」





祖父「…おまえが会ったしいちゃんは傘を持っていた?」





男「うん」





祖父「内側が」





男「青空柄の」





祖父「…」





祖父「…」





祖父「はあ…」





祖父「どうしてこう…艦娘と縁があるのか…」





男「…」





祖父「…」





祖父「『しいちゃん』は元気そうだったかい?」





男「うん…」





男「本を…スゴい読みたがってた…」





祖父「本?」





男「うん」





祖父「…」





祖父「…!」





祖父「そっか…まだ『覚えてた』んだなぁ」





祖父「書いた本人はすっかり忘れてたってのになぁ」





男「…?」





祖父「まだ、時間はある?」





男「なんぼか…」





祖父「残り…まだあるだろ?」





祖父「全部読んでいけばわかるよ…」





男「メンドく」





祖父「そこまで読んでおいて今更、面倒くさいも何もないだろ?」





男「…ぅ」





祖父「こっちだって、恥ずかしい思いを我慢して読ませてやってるんだ」





祖父「感謝してほしいくらいだよ?」





男「…」





男「…うん」





僕はもう一度…日に焼けて枯れた表紙に手をかけた










19××年 2月14日 (晴レ?)


今日はバレンタインデェで

女性が男性にチヨコレイトを贈る日らしい


昔に母様から聞いたことがある


私には無いのかとまぁちゃんに聞いたら

『普通は男からは言わないもんだぜぇ?』と窘められてしまった


その後でまぁちゃんからチヨコを貰った渡した時の顔が忘れられない


なんであんな恥ずかしそうな顔を?


そういえばこれは義理かと問うと


脱兎の如く逃げてしまった


他にも

ふぅちゃんは無言でくれた

…彼女のは食べるのが長くなりそうだ…1gずつたべていけばなくなるはず…


やまちゃんからは義理です!義理ですからね!と強調された後に貰った


那珂さんからは

『アイドルは特定の人にチョコなんて贈らないのごめんね☆』と言われてしまった…悲しかった


代わりにウィンクをしてもらった


可愛かった



ハルちゃんからは、広間で私が一人で本を読んでいるときに、振るえる手で渡してくれた顔が真っ赤だった


風邪ひいた?


受け取ってしばし談笑


時間はあっと言う間に過ぎて

もう就寝時間だった


ハルちゃんを寝床に促したあと


私はウィスキィを一杯


そのときにまた一人


広間に客人が


「もう寝る時間だ」と口を出す前に


何かで口をふさがれてしまった



甘かった





客人の正体はしいちゃんで寝間着姿だった


甘いもののソレはチヨコ


頭が混乱していたけれども


半端にチヨコをクワエ続けているせいで唾液はでるわ、

チヨコは溶けるわで口周りがエラいことになった


仕方がないので

顎を上下させる


ゴリゴリと強かな食感を覚える


無言でソレを頬張る私

顔を赤らめてモジモジと身をよじらせこちらを見やる

しいちゃん


寝る前に甘いモノを食べていたら母様に怒られるなぁと思う


でも美味い


食べ終わった後にジッと私を見るしいちゃん

頬が赤い


『ボクには聞かないのかい?』


なにを?


『本命か義理なのかさ』


どっち?


『本命だよ』


言うや否やそそくさといなくなってしまった


困った


本命らしい







堂々と…


困った









19××年 7月21日 (晴レ)


早いもので今日で着任して5年


長いようで短い

深海棲艦は倒しても倒してもきりがなく

資源繰りが厳しい


襲撃当時よりかは収まったもの

いったいいつまで続くんだ?







19××年 8月5日 (雨ノチ雷)


(ミミズが這ったような字で読めない)




19××年 8月-日 (曇リ)






19××年 -月-日 (雷)


最近、悪天候が続く

こうも天気が悪いと深海棲艦の動きも悪くなるのか

今日はどこからも

被害報告が無く、天気に反して心持ちが晴れやかでもある


そういえば先日の

雷の日に眠れないという理由でハルちゃんが私の寝室に忍びこんできた


ハルちゃんがお腹の上でゴロゴロするからちょうどぬくくて犬を抱いてる夢を見た








19××年 -月-日 (雷)


悪天候ばっかり

今日も出撃は無し






19××年 -月-日 (雷)


ハルちゃんに続いて

しいちゃんが今度は布団に潜り込んできた

雨は好きなはずなのに?

本人曰く

『雨と雷は別物だよ』らしい


ゴロゴロ鳴る度にビクっと振るえるので少し抱いた


砲撃の音には慣れても

自然的な音は本能的に怖いんだろうな


私もとても怖かった


しいちゃんは良い匂いがした












19××年 -月-日 ()


告白された


ハルちゃんと

しいちゃんから



頭がまわらない


なんだか嘘みたいだ


二人とも妙に近い距離が近いと思った


そういうこと?


自分を異性として見てくれるのは嬉しいけど


なんか…もうちょっと待ってほしい気持ちもある


急になんか決められるか








19××年 -月-日 ()


今日の

お仕事も終わり


なんて伝えればいいんだろう


世間を知らず、男を知らず

戦うことを余儀なくされ

そのために生かされている彼女二人に


意外と

今後の戦意に関わる重要な事柄だし…






19××年 -月-日 ()


二人にちょっとしたゲェムを申し込んだ

この日記の最後のペェジに私の想いを認めることにして

鎮守府の『どこか』に隠してみつけて貰う


ちょっとしたお遊び


よってこの日記もここでオシマイにする






































親愛なる―へ














男「お祖父ちゃん」





祖父「ん?」





男「最後のページ…」





男「最後のページさ、ぐちゃぐちゃに塗りつぶされて読めないよ?」





男「それに…この後はどうなったのさ?」





祖父「…その後のことはここに書いてあるんだなこれが」





男「歴史の…教科書?」





祖父「…ん」ペラペラ





祖父「ほれ、ここのページ」





男「……」





男「…19××年…10月20日」





男「○○県、○○市、○○地区の紫陽花寺の近海に深海棲艦の襲撃…」





祖父「続けて」





男「…」





男「この急な襲撃に当時の提督は…」





男「当日に鎮守府を留守にしており、これに対応すべく艦娘達は

知恵を出し合い迎撃、なんとか退けることは出来たものの」





男「『扶桑』『山城』『摩耶』…『那珂』…」





男「……『時雨』の5隻は轟沈、名誉ある戦死を遂げた」





男「その鎮魂の意味をこめて記念碑がたてられ…」





男「……」パタン





男「しいちゃん?」





男「提督はお祖父ちゃん…だよね?」





祖父「大正解」





男「…っえ…ね、ねぇおかしいよ!なんでしいちゃんのことは書いてあるのに…

ハルちゃん…春雨ちゃんはどうなったのさ!!なんで教科書のどこいも書いてないの!?」





祖父「ちょっと待ってろ」





男「?」




祖父「ほれ、麦茶…まずは飲んで一息つきな?」




男「…」ゴクゴク




男「…」コトン




祖父「一気に飲んだな」




男「…続きは?」




祖父「…」














数十年前…





春雨「」ゴソゴソ





時雨「」ゴソゴソ





春雨「…う~ん…無いなぁ、提督の日記ぃ」





時雨「今日で探して結構経つのに、見つからないね…」





春雨「…どっちの名前が書いてあるのかな…」





時雨「さぁ…どっちだろう」





時雨「…」





春雨「…」





春雨「どっちの名前が書いてあっても…」





時雨「恨みっこ無し、だよね?」





春雨「うん!だってそういう条件だもんね!」





時雨「…」





時雨「…うん」





時雨(ボクの名前が書いてあると良いなぁ)





春雨(私の名前…書いててくれてるかなぁ…)






















摩耶「なぁ、提督よぉ」




提督「ん?」




摩耶「なんで、春雨と時雨よ、キトウしたら

すぐに鎮守府のあちこち犬みたいにチョロチョロしてんだ?なんか探してんのか?」




提督「ふふ、まぁ『お宝探し』のようなものですよ」




摩耶「ふぅん?」




摩耶「まぁ、あんたの事だからどうせまた変な事考えてんだろ?あんまりアイツらを巻き込むなよ?」




提督「いや、今回は私が巻き込まれたというか…」




摩耶「?」




扶桑「提督ぅ~」




提督「ん?どうしたの、ふぅちゃん?」




扶桑「なんだかぁ、本営から通達があってぇ」




扶桑「この封筒なんですけどぉ」




提督「ふん?」




ビリリ




提督「…あぁ…そういえば近々、中央会議があったんですね、資料をまとめておかなくては…」




扶桑「それはそれはお忙しいですねぇ」




提督「困った事にね」




提督「あ~、じゃあ近々お留守番頼みますよ」




扶桑「はぁい、まかされました」




提督「凄く…不安…」










提督「それでは行ってきます」




摩耶「ん、行ってら」




時雨「気をつけてね」




扶桑「本営に行ったら、資材の追加申請をついでにお願い出来るかしら提督?」




山城「姉さまの頼みなんですよ!聞けないなんて言わせませんよ!」




那珂「ねぇねぇ提督~、那珂ちゃんね、新しい姿見欲しいなぁ~」




提督「…」




提督「前向きに検討致します」ダッ




那珂「あっ!逃げた!大人ってズルイ汚い!」




摩耶「」キョロキョロ




摩耶「そだ、春雨は?」




山城「風邪で部屋で横になってるらしいけど?

まったく体調管理も出来ないなんて!」プンスコ














-艦娘寮 春雨自室-





春雨「」ケホケホ




春雨「」ズビビ




春雨「う゛ぅ…」グデン




春雨「今日も…探したいのに…」




春雨「提督…日記、どこに隠したのかな…?」




春雨「こんなに探してるのに…」




春雨「トイレにも…お風呂場にも…天井裏にも…どこにも…ない…」ウトウト




春雨「…なんて…」




春雨「」スゥ…










時雨「…春雨…大丈夫かな?」




摩耶「あ?あ~、そっか、今、風邪引いてるんだっけ?

あれか?なんか粥でも持っていった方が良いのか?」




時雨「そうだね、でもボクが春雨の看病するから大丈夫だよ摩耶さん」




扶桑「ふふ、本当に時雨は春雨ちゃんが好きねぇ」クスクス




時雨「うん!」




時雨「だって…ボクと春雨は…!」







山城「み、みなさん!た、大変です!」




時雨「山城?どうしたの?」




扶桑「そんなに慌てて…なにが起きたの?」




那珂「慌て過ぎるのもお肌に悪いよォ?シワ増えちゃうゾ☆キャハッ☆☆」




山城「」イラッ




摩耶「」スパァン




那珂「顔は止めてぇ!」




摩耶「んで?どした山城?」スパパァン




山城「え、ええ」




山城「さっき、連絡があって…」




山城「…」




山城「『深海棲艦』です」




山城「…こちらに近づいてきています」




山城「いえ、正確には人里に一番近く、海に面している…紫陽花寺の近海です」




扶桑「そんな…!」




時雨「つ、都合が悪すぎるよ!」




摩耶「い、急いで近隣住民に避難指示をしないと…」




扶桑「時雨、あなたは艦娘権限を使って近くの施設の管理者に連絡を、

すぐに動ける那珂、摩耶は出撃して敵勢力の牽制に向かって山城は艤装展開後

細かい調整が終わり次第、すぐに対象海域に」




扶桑「私も、応援要請を出した後にすぐに駆けつけるから…」




時雨「ふ、扶桑…ボクも…ボクも…!」




扶桑「…時雨?」




時雨「ボクだって艦娘だ!一人で引きこもって避難勧告だけなんて…そんなの!」




扶桑「避難勧告も重要よ?それに……」




扶桑「春雨…様子みてあげてて?」ニコ




扶桑「あの子一人でここに寂しく残るなんて…寂しいでしょう?」




時雨「…っ!」




扶桑「大丈夫よ?きっと相手だって手薄よ、提督がいなくたって私たちなら大丈夫…ね?」




山城「……」




時雨「……」




時雨「…うん…」




扶桑「良い子ね時雨♪」




扶桑「…」




扶桑「さぁみんな、交戦よ!準備を急いで!」













春雨「…あれ?」




春雨「…みんなは…?」




春雨「…出撃?」ゲホッ




春雨「…時雨…は」




春雨「…今なら…時雨より先に見つけられるかなぁ…」フラフラ




春雨「提督の日記…」




春雨「…まだ…調べてない所っていったら…」フラ




春雨「執務室…」






ガチャ…パタン…











時雨「はい…お願いします…今、ボク達、艦娘が応戦中ですので…はい」





―チン





時雨「…春雨…春雨は…」





時雨「…大丈夫かな……?」





時雨「…皆、出撃して、2時間…」





時雨「…」





時雨「…」





時雨「…やっぱり…駄目だよ…!!」ダッ










春雨「…ない」





春雨「やっぱり、見つからない…提督」ヨタヨタ





春雨「ホントに…日記なんてあるの?」




春雨「…はぁ」トスン











-紫陽花寺 近海-





那珂「」





摩耶「」





扶桑「はぁ…は…あ…」





山城「」





扶桑「はぁ…あと…い…」





扶桑「あとぉ…一隻ぃぃ!!!」





扶桑「仰角修正!!撃てぇぇぇぇぇ!!!」













……ッドォォン!!







扶桑「はぁ…あ…」バシャッ





扶桑(…駄目…もう…)





扶桑(やっぱり…提督がいないと…)





扶桑(駄目ねぇ…)





扶桑(もう体も限界ね)





ザバ…ザバァ…





扶桑「まだ…いるのね…あはは…」






扶桑(…)





扶桑(…お化粧くずれ…なんて生温いものじゃない…わね…)





扶桑(皆をつれて…)





扶桑(戻ったら…ちゃんと入渠して…)





扶桑(…提督をお迎え…しないと)























ザァァッ








イ級「グ゜パ゛ァ゛ア゛ァ゛!!」





扶桑「…」





扶桑(…駄目ねぇ…戦艦…なのに…駆逐艦に…)





扶桑(食べられちゃう…のかしら…?)





扶桑(…右目が…潰れて…しまったわね…良く見えないわ…)





扶桑(ああ、でも―)





扶桑(はぁ)





扶桑「…」






扶桑「空は…あんなに…青いのに…」








ブチュリ…





















時雨「早く…もっと早く!!」ザァァァ





時雨「ボクだって…艦娘なんだ!」





時雨「確か…ここのはず…」





時雨「…?」




ジャポン…





時雨「…これ……」





時雨「摩耶さんの…艤装の一部…?」





時雨「…みんなは…みんなは…!?」




チャポン…





時雨「!」バッ





扶桑「…」





時雨「ふ、扶桑!なんて…ひどい傷…!みんなは!?深海棲艦は!?」





扶桑「…」





時雨「扶桑?」





扶桑「」ユラッ





扶桑「」バシャッ





時雨「…うっ……!」





時雨(小腸や…大腸…こ、これは子宮…?)





時雨「そ、そんな…下半身がごっそり…」





時雨「…これじゃあ…っ…!」





時雨「山城!」バシャバシャ




時雨「摩耶さん!」




時雨「那珂…ちゃん…」ハァハァ





時雨「みん…なぁ…」





時雨「?」







グチャ…ブチュ…


メキメキ…


バグッ…ゴリッ…





那珂「」





時雨「 」





イ級1「モシャモシャッ」





イ級2「ブヂュブヂュ…」





イ級3「ブヂンッ」





那珂「」プシュアァァァ





時雨「な…か…ちゃん…?」






時雨「…」





モギッ…バグッ…


グチュリ…





時雨「?」クルリ





ホ級1「バリッ…メキメキッ」





時雨「…や…」





山城「 」





ホ級1「ブジュル…ジュル」





ブチン…





山城「」ゴトン






時雨「山…城…!」






ホ級2「バグッ…ゴグッ」






摩耶「…ぅ」





ホ級2「ミチチ…ブチチィ」





時雨「摩耶さんっ…!」





時雨「こ、この離れろ…離れろぉぉぉ!!!」





時雨(艤装を展開!)





時雨「当たれぇぇぇ!!」






ドンドドン!!!



ホ級1・2「+*{}````@@@?」ギョロギョロ





時雨「ちょ、直撃したのに…!?」





ホ級「Yeeeeeeeeeeeeeeeee!!!!!!!」グパァ





時雨(早いっ!?)





時雨「このっ」グルッ





…パシュ




ザバァァァ






時雨(あ、危なかった…間一髪避けられたけど…あんなの今まで出会ったホ級なんかじゃない!!)





時雨(耐久性も速力も…段違いじゃないか!)





時雨(砲撃じゃないとしても、物理的に直撃なんてしたら…いくら艤装をつけてても…)





時雨(…みんなは…こいつらに…!?)





時雨「…っく!」





時雨(戦艦、軽・重巡の艦隊で勝てなかった相手に…)





時雨(ボクが勝てる訳ないじゃないか!!)





時雨「…でも…」





摩耶「」




那珂「」




山城「」




扶桑「」





時雨(みんなをおいてボクだけ逃げるなんて…そんなの…)





時雨(……そんなの!!)




時雨「できるわけがない!」ガチャリ





時雨「」スゥ…





時雨「」ハァ…





時雨「…」





時雨「…」キッ





時雨(ボクじゃあ、みんなをつれて逃げる事なんてできない)





時雨(退路がないなら…戦うしかないじゃないか!)













…ポン





時雨「…え?」





摩耶「…よ」ゼェゼェ





時雨「摩耶さん!?」





時雨「う、動けるのかい!?」





摩耶「…正直…かなりつらい」ゼェゼェ





時雨「…摩耶さん!艤装が…」





摩耶「もう…ほとんど機能なんかしちゃいねぇよ」





摩耶「あ~ぁ…ははは、お前は悪い子だなぁ…待機っつったのに…」





時雨「…」





摩耶「時雨…逃げるぞ…」





摩耶「扶桑と山城はあたしに任せな…背負って逃げる…」





摩耶「お前は…げふっ…」





摩耶「お前は那珂を頼むよ…」





時雨「…だって…摩耶さん…だってぇ…」





摩耶「アタシは『摩耶様』だぜ?」





摩耶「重巡…なめんなよ?」





時雨「…ぅ…」





摩耶「頼むよ…お前ならできるって…」





時雨「…」





摩耶「…はぁ…」





摩耶「アタシは崖に沿って逃げるよ…時雨は」





摩耶「時雨は紫陽花寺まで逃げな?」





時雨「なん…で」





摩耶「…住民の避難勧告はしたんだろ?だったら本営にも

連絡はいってるはずだろ?」





時雨「だ、だったら一緒に…!」





摩耶「方向が一緒だったら…生存率…低くなんだろ…」





摩耶「それに深手でも……この摩耶さまが…」





摩耶「負けるわけないだろ?」





時雨「…ッ…!」





摩耶「な?」





時雨「…でも」





摩耶「いけ」





時雨「…だって」





摩耶「いけ…!!」





時雨「…ぅ」





摩耶「いけってば!!」





ガシッ!





摩耶「ダメージの残ってるアタシと、まだ無傷のアンタ!!どっちが」





摩耶「どっちが生存率が高いか!!ガキだってわかんだろっ…」






摩耶「ごふっ…ぅ…っ!」ビチャビチャ…





摩耶「はぁ…頼むよ…逃げてにげて逃げて…目ン玉金色の…この…わけわかんない深海棲艦の事…伝えてくれよぉ…」





摩耶「じゃないと…」





摩耶「じゃないと…ここまで傷ついたアタシたちが…バカみたいじゃないか…」






時雨「…」






時雨「」グイッ







摩耶「ああ…那珂と一緒に…逃げて…」







摩耶「また、後で…な?」






摩耶「すぐに…コイツらなんか…一掃してやるよ」






時雨「…うん!」







摩耶「…」







摩耶「じゃあ、1、2、3で…散るぞ…」







時雨「うん」







摩耶「1…」







時雨「…2」






摩耶「…3!」ダッ!







時雨「っ!」ダッ!

















那珂「」ダラン






時雨「はぁ…はぁ…!」







時雨「追ってこない…?」


















摩耶「」ゴフッ





摩耶「もう…扶桑も山城も…助からないよな…これ」





摩耶「」チラリ





イ級1「baaa…」ザ…


イ級2「baaa…」ザザ…


イ級3「baaa…」ザザザ…


ホ級1「iiiiii…」ザパァ…


ホ級2「uuuiiiii」ザパパァ…





摩耶(八方囲まれたかぁ…)





摩耶「いや、無理だって…戦艦でも勝てなかった」





摩耶「わけわかんない奴らだぜ…?」





摩耶「勝てるかよ…」ガックリ





摩耶「コイツ等…なんか金色に光ってら…」





摩耶「んだよ…金ぴかだったら強いってか?」





摩耶「どうすっかなぁ…」





摩耶(時雨…逃げられたかなぁ)





摩耶「」フゥ…





摩耶「来い!」グッ





ホ級「yee…!」





イ級1「shaaaaaaa!!!」


イ級2「juraaaaaaaa!!!」


イ級3「vooooooooooll!!!!」



摩耶「重巡なめんなコノヤロぉぉぉ!!」







ドン…ドォン!



















摩耶「」





ホ級1「ハグッ…ミチチ」





ホ級2「ボリボリ」













時雨「ここまで…はぁ…はぁ…」バシャ






時雨「ここで…隠れていたら…たぶん大丈夫…」





時雨「那珂さん…」ドサッ





那珂「…」





時雨「那珂さん…アイドル…だもんね」





時雨「『顔』以外…大火傷じゃないか…」






時雨「とりあえず…この岩場に…」ストン





那珂「…ぅ」ピクリ




時雨「那珂さん!?」





那珂「き…きゃはっ…ちょっとだけ…失敗しちゃった…☆」ペロリ





那珂「…ぶふっ!」





時雨「那珂さん…喋っちゃだめだよ!!こんな…こんなひどい火傷なのに…皮が…!!」






那珂「あはっ…☆…アイドルの気にしてること言っちゃ…いけないんだ時雨チャン♪」メッ








時雨「だって…こんなに…こんなに首の下から…ズタズタなのに…血…血だって…今までみたことないくらい…っ!」








那珂「…!」







那珂「あ~ぁ…」クスッ







那珂「ねぇ~ぇ時雨チャン?」







時雨「な、なんだい?」







那珂「」スッ






時雨(ボクの頬に手を?)






那珂「逃げて?」ニコリ






時雨「えっ」







ドン…







那珂「フン!!」







ホ級3「viiiiiioooooooooooooo!!!!!」







那珂「こ…の…ぉぉぉ゛おっぉ゛!!!」ギギギギ






ホ級3「juraaaaaaaaa!!!」







那珂「逃げて!…時雨チャン逃げて!それでこのことをー!」







ホ級3「syaaaaaaaaaaa!!!」バグン!!






…ブチン






那珂「…え?」







時雨「…那珂…さん?」










時雨(…那珂さんの上半身と…下半身が…)













ブシュゥゥゥ…!










那珂「 ~!!! 」











那珂「…痛い…よぉ…提督…」










那珂「那珂ちゃん…とっても…」










那珂「痛いよ…ぉ…」







那珂「 」







ホ級3「…」グルン






ホ級3「」ユラァ








時雨「!」







時雨「や…やめー!」







ホ級3「」バグリ!






ホ級3「」バリ…ボリ…






時雨「ぁ…ぁ…」






ホ級3「」ゴリ…ゴリ…






時雨「那珂…さん…那珂さん…!!」ダッ






時雨「那珂さんから…離れろぉぉぉ!!!」







……










時雨「」ゲホッ






時雨「」ボタタ






時雨「…」






時雨(海面に…ボクの血が…流れてく)






時雨「…絵の具…みたい…」






時雨(これなら…たぶん…大破…くらい…?)






時雨「ボクも…もう…だめかな……」






時雨「痛い…」ズキッ






時雨「…」






時雨「右手も…お腹も…えぐられちゃった…」






時雨「」チラリ






ホ級3「 」






時雨「でも…倒せたよ…」






時雨「…っはぁ…」






時雨「那珂さん……っ」






時雨「…」






時雨「戻ろう…」






時雨「…」






時雨「提督…痛いなぁ…」






時雨「提督に…あいたいなぁ…」






時雨「提督に…」






時雨「…なでてほしいなぁ…」










ゴポゴポ…









イ級「」ザパァ







時雨「…?」クル





















イ級「」ガパァ











イ級「」バクン








時雨「 」


















ゴリッ…!




















-鎮守府 執務室-






ゴソゴソ…






春雨「う~ん…ケホケホッ」







春雨「ほこりっぽい…」






春雨「あ…『ぽい』って夕立ちゃんみたい…ケホッ」






春雨「提督ったら…ぜんぜん掃除してない…」






春雨「…」






春雨「…ないなぁ…提督の日記」






春雨「…」






春雨「…今日は…もういいかな…」









春雨「」スクッ






ゴトン!







春雨「ひゃあぁ!!」








春雨「…?」







春雨「提督の上着…いつもは…肌身はなさず…羽織っていくのに…」







春雨「風に揺られてかな?…上着が床に落ちたけど…」







春雨「なんであんなに…『鈍い音』が?」







春雨「…」







春雨「…!」バッ






春雨「」ゴソゴソ






春雨「内側のポケットに…硬い感触?」ゴソゴソ






春雨「ゲホッ…」ゴソ






春雨「あ…」






春雨「…手帳?」






春雨「」スッ






春雨「」パラパララ…






春雨「…」ペラリ…






春雨「…」ペラリ






春雨「…」







春雨「…あった」パタン










春雨「…提督の…」














春雨「…気持ち」











#4











明日笑えるかな

また落ち込んだら励ましてほしいなあ

泣きだしたらすぐには止まない泣き虫な人に

優しい傘をかざせたら


明日は晴れるかな、もし雨降りでも笑ってゆけるかな

その先のコト、今はわからないけど

泣き虫空に可愛い傘


あなたに優しいこの歌をかざすよ…



出典:高橋優/泣き虫空に可愛い傘(※一部抜粋)
















男「…」





祖父「…私が報告を受けて、会議そっちのけで戻ってきたときにはすでに春雨だけだったんだ」





祖父「…」





祖父「あとは…責任能力を問われたけど、民間への被害は零だったから、なんと更迭は免れたんだよ」





祖父「ただ、みんなを失った私の自信の喪失は著しく」





祖父「臆病になってしまったんだ」





祖父「当然、職務にも影響はでるんだな」





祖父「そこでな…」





祖父「私は決めたんだよ…」





男「なにをさ?」





祖父「『提督業務』をやめることさ」





男「…」





祖父「最初に私は、春雨…ハルちゃんを艦娘から退役させた」





男「…そんなこと…できたの…?」





祖父「友人のツテを通じてな…○○鎮守府所属『白露型駆逐艦 』『春雨』は『PTSD』により任務続行不可能って診断書を書いてもらったのさ」





祖父「艦娘にも感情、性格、思考があるからなってもおかしくはないってね」





祖父「最初は上も認めなかったけどな…何度も何度も、申請してるうちについに折れてな」





祖父「ハルちゃんと私は同時期に退役…」





男「…」





男「春雨…ハルちゃんは」





祖父「ん?」





男「…ハルちゃんは艦娘をやめたあと…どうなったの?」





祖父「…」





男「…」





祖父「…さぁな」





男「お祖父ちゃん!!」





祖父「…」





男「ここまできて…話しといて…秘密はないでしょ…」





男「教えてよ…」


















祖父「一つ、言っておきたい事があるけど良いかい?」






男「なぁに?」





祖父「艦娘はなー」





祖父「『老化が遅い』んだよ」













-紫陽花寺-


昨晩はとても強い雨が降った

紫陽花寺に行くと

それはそれは立派な『雑草』がボウボウと生い茂っていた、時期が時期なだけに成長が著しい


その逞しさは賞賛に値するけど…

今は歓迎できない


紫陽花に行くはずの栄養が雑草に取られてしまう

せっかくここまで大きくなったのに






お姉ちゃん「一晩も明けると、雑草も元気ねぇ」





お姉ちゃん「さて…やりますかぁ…」セノビー





お姉ちゃん「まずは除草剤を準備して…」





私が、お寺の正門の前から掃除をしようと向かうと

こちらに歩いてくるヒョロリとした人影が二つ

目を細めると

それは男くんと……………



















…『提督』















祖父「…」





男「…」





お姉ちゃん「…っ…」





男「お姉ちゃん…」






祖父「久しぶりだね…」






祖父「『ハルちゃん』」






春雨(お姉ちゃん)「なんで…?」







春雨「どうして会いにきちゃったの…?」






祖父「『艦娘』との縁が切れなかったもので…」







祖父「…こいつがな…『私達の孫』がな…しいちゃんに会ったらしいんだ」






男「…私達の孫…?」







春雨「…やっぱり…」








春雨「…そうなんだ君が…」








春雨「…」クスッ








春雨「初めまして男くん♪春雨お祖母ちゃんです♪」







男「…え…」









男「祖母…ちゃん…?」














時雨「男くん…こないなぁ…」





時雨「男くん!?」バッ





男「やぁ、しいちゃん」





祖父「…」





春雨「…」





時雨「その人たちは…?」





男「…」





男「僕のお祖父ちゃんとお祖母ちゃん…」





時雨「…お祖父ちゃんと…え?」





時雨「…」





時雨「おかしくないかい?」





時雨「お祖母ちゃんって言うには…若すぎるよ?」





男「本当だよ」





男「本当のホントさ」





男「しいちゃんに嘘つかないよ僕」







男「…」






男「」ニコリ









ーしいちゃん






ーおはようしいちゃん





ーおやすみ、しいちゃん






ーがんばったね、しいちゃん







時雨「!」ドキッ






祖父「なぁ男よ」





男「なぁに?」





祖父「時雨は…どこにいるんだい?」





男「どこって…」





春雨「見えないよ?本当に…いるの?」





男「…っ!」





時雨「…そこの人たち…何を言ってるの?」





男「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんにはしいちゃんが…」






男(見えない…?)






時雨「…あ、そうだ男くん…本は?なにか面白そうな本は持ってきてくれたかい?」





男「…」






男「しいちゃん」






時雨「ん?なんだい?」







男「しいちゃんが読みたがってる『本』って…」ゴソゴソ







男「これの事じゃないかな?」







時雨「…?」






時雨「…それは?」





男「…読んでみてよ」





時雨「さわっても…?」








男「」コクリ








時雨「…」






































時雨「」スッ






時雨「!!」





-初めまして…ボクは時雨





-て、提督…似合う…かな?





-扶桑、提督まだ腹痛で寝込んでたよ?





-山城、提督ってチヨコレイトは好きかなぁ?





-摩耶さん、今度のお休み街にお洋服買いにいかないかい?





-那珂さん、お肌またきれいになったね♪








-ていとく…
















-提督…傘…ありがとう










時雨「…ぁ……!」








-春雨…提督は…











-わたさないよ











時雨「あ゛ぁあ゛ぁ゛あ゛!!!!!」







男「しいちゃん!!」







時雨「っは…っはぁ…お、思い出した…」








時雨「提督が会議に行って…その日、春雨は」






時雨「体調不良で……」






時雨「そうだ!日記…提督の…日記!!」ガサッ!






時雨「最後の…最後のペ-ジ……!」ペラペラペラ…









祖父「日記が勝手に…」







春雨「めくられている?」











『親愛なる - へ』






時雨「…名前が……」










時雨「名前のところが…」








時雨「なんで…なんで…一番…知りたいところなのに…!」












時雨「なんで書いてないんだよ!!」









時雨「どうして-!」









祖父「しいちゃん…」









時雨「…」








時雨「…男くんの…お爺さん?」







時雨「…ボクは…見えないんだよね…?」









祖父「もし、聞こえてたら…謝らせてほしいんだ…」








祖父「…あのとき…海でひとりぼっちにさせてすまなかった…」








祖父「…いてやれなくて…本当に申し訳ない…ずっとずっと言いたかったのに…伝えたかったのに…」









祖父「ごめんね…」






時雨「…!」







祖父「久しぶりだねしいちゃん」








祖父「私はすっかり年老いてしまったよ」








祖父「お揃いの黒髪だねって言ってくれたのに、勝手に一人でこんなに白くなってしまったよ」








祖父「君を撫でた指だってほら…こんなに枯れ枝みたいにガサガサだよ」









祖父「君を見ていた眼だって…だいぶ弱くなってしまってね、もうあまり遠くのも近くのものも見えないんだ」








時雨「…ていとく…」








春雨「…時雨」









時雨「…男くんの…その…お祖母さん?」







春雨「いるなら…返事…してほしいな」







時雨「?」







春雨「時雨」






時雨「…は」






時雨「春雨…?」






時雨「ああ…」





時雨「そっか…」





時雨「そうなんだ…」





時雨「…」





時雨「ねぇ」





時雨「ねぇ男くん」





男「なぁにしいちゃん?」





時雨「提督に…君のお祖父さんに聞いてほしいことがあるんだ…」





男「?」





時雨「…」






時雨「最後は」






時雨「日記の最後の名前…どっちを書いたのか…」






時雨「教えてほしいな…」






男「…」







時雨「お願いだよ…」






男「…っ…」






時雨「ね?」







男「お祖父ちゃん…」







祖父「…ん?」






男「しいちゃんがさ…」






祖父「ああ」







男「しいちゃんが…」






男「日記の最後の名前…どっちを書いたのか…教えてだってさ」







祖父「…」








春雨「提督…」








祖父「…はぁ…」










祖父「…そんなこと言わすのか…」









男「お祖父ちゃん…お願いだよ…」







男「逃げないでよ…」














祖父「…しいちゃん」











祖父「私の目の前に来てくれるかい?」











時雨「うん」











…トコトコ













男「お祖父ちゃん…今、しいちゃんさ」









男「お祖父ちゃんの目の前にいるよ…お祖父ちゃんが」









男「お祖父ちゃんがプレゼントした…傘もってさ」















祖父「そっか…持っててくれたんだな」









祖父「あぁそっか一緒に、埋めたんだしな、そりゃそうか…」













祖父「しいちゃん…」














時雨「うん…」













祖父「『愛してる』」











春雨「…っ」















時雨「………」












時雨「…か」














男「…?」











時雨「ばか!!」








男「!?」









時雨「お、遅い遅い‼遅いよ!!遅いんだよっ!!」








時雨「ぼっ…ボクが…ぁ…っ…!!」









祖父「…『大好き』だよ」












時雨「ボクが…どれだけ…どれだけ、その言葉を…聞きたかったか…!!」





祖父「遅くなって…」









祖父「…ごめんね」















祖父「なぁ、男…」






男「ん?」






祖父「いま、しいちゃん目の前にいるんだよな」






男「うん」






男「今、じいちゃんの目の前で泣いてるよ」






祖父「そっか…」






祖父「しいちゃんの背丈だから…この位置かな?」






祖父「」スッ






時雨「!」






時雨「て、提督!?ボクの姿が…」






男「見えてる?」






男「ねぇ…お祖父ちゃん…しいちゃんの姿…見えてる…

の?」






祖父「見えるわけないだろ」






男「じゃあなんで…なんで」






男「しいちゃんを抱けてるのさ…」






祖父「…」ギゥゥ






祖父「しいちゃんの背丈ぐらい、首の位置くらい…」






祖父「しいちゃんの腰の位置くらい…髪の長さくらい」






祖父「わかるに決まってるだろ…」






時雨「…………」






時雨「………」






時雨「……」






時雨「…」






時雨「…うん」






時雨「うん゛…」






時雨「ていとく…」






時雨「…ていとく…」






時雨「」ギゥゥ






時雨「会いたかった…」






時雨「ずっとずっと…!…ずっとずっとずっと会いたかったんだよ!」






祖父「…」






男「…っ!」






時雨「目が覚めたら…誰もいないんだ…ボクの好きな提督も、鎮守府も…目の前にお寺があって…ボクは良く知ってて…」





時雨「さみしかった…」






時雨「」グスッ






時雨「…日記に…日記の最後に…ボクの名前を書いてくれていたんだよね…」






男「…しいちゃん…!」






祖父「しいちゃんが…なんだって?」






男「『日記の最後にボクの名前を書いてくれてありがとう』だってさ」





祖父「…」





祖父「ああ、そうだよ」






祖父「名前を書いたのはしいちゃんの方だよ…」







時雨「…あはは……」






時雨「提督は…」













時雨「優しい『嘘つき』さんだね……」






















時雨「ありがとう…すっきりしたよ…」






男「しいちゃん…」






時雨「男くん…」






男「?」







時雨「ちょっとお話ししたい事があるんだ…」






男「そっか…」







男「じいちゃん、ばあちゃん…」







祖父・春雨「?」








男「ちょっと…お寺の正門で待っててくれないかな?」








男「しいちゃんが、僕と二人で話したいって…」







祖父「?、しいちゃんの姿は見えないんだから、なにも移動しなくたって…」






春雨「提督…」ギュッ








祖父「…」






祖父「…わかった…」





祖父「…行こう…春雨」




春雨「ええ」





















ポツポツ…










ザァァァ







…ザァァァ…







…ザァァァ…







時雨「紫陽花…綺麗だね…」







…ザァァァ…






男「うん」







…ザァァァ…







時雨「軒下にこうして、並んで座ってると…思い出すね」







…ザァァァ…







男「…」






時雨「君と出会ったときの話さ」








…ザァァァ…








男「…」






男「うん…」








時雨「…」








…ザァァァ…






時雨「実は、君をみた瞬間にさ…初めて提督と会った事を

思い出してね…顔を重ねちゃったんだ…だから、もしかしたらって…」










時雨「そうしたら…」







時雨「本当に孫だっていうじゃないか」









…ザァァァ…








時雨「あえてよかった、男くん」








時雨「君に会ってなかったら…ここで眠ってなかったら」








時雨「あの…事故が起きなかったら」







時雨「提督が…春雨と結ばれていなかったら…」







時雨「君が…産まれてきてくれなかったら…」





時雨「ボクは…ずっとサマヨい続けていたんだと思う」





時雨「わだかまりを残したまま、鬱々とした重い、鉛みたいな気持ちのまま」





時雨「苦しみ続けていたんだよ…」





時雨「君にあえてよかった…男くん」





時雨「…」





時雨「男くん」





男「?」





時雨「…手…握っててくれないかい?」





時雨「…」





男「…」





時雨「…」





時雨「…そろそろお別れなんだ」





時雨「最後に…君を覚えておきたいんだよ…」





時雨「君の姿を見るだけじゃだめなんだ」





時雨「君の声を聞くだけじゃだめなんだ」





時雨「君にさわりたいんだ…君の体温を…覚えておきたいんだよ…」





時雨「このまま…逝くのは…一人で消えていくのは怖くて

怖くて…たまらないんだ…」





男「…」






時雨「お願いだよ…言葉の通り…」






時雨「ボクの『一生のお願い』さ」





男「……」ギュッ





時雨「!」





男「」ギゥゥ





男「…」





男「…しいちゃんの手…温かいよ」





男「…ほっとするなぁ…」





時雨「…」





時雨「君はお祖父さんに…提督に似て…」





時雨「とっても『嘘つき』さんだね…」






時雨(ボクの手は…こんなにも…)










時雨(冷たいのに…)









男「」ギゥゥ







時雨「」スゥ





男「!!」





男「しいちゃん…!?」





男「体が…」





男「体が……!」





男「…透けて……」






時雨「本当にお別れみたいだね…」






時雨「君の手は…男くんの手は温かくて…安心するね」






時雨「安心したら…力が抜けちゃった…」









ザァァァ…









ァァ…









ア…………








男「しいちゃん…」






男「雨上がりのさ…雨上がりの紫陽花も綺麗だよね…」






男「晴れた空に…紫陽花なんてオツな、もんさ」





男「そういえば…しいちゃんの傘もさ…」





男「…」









男「しいちゃん…」









男「…」









男「しいちゃん…?」








傘「…」







男「………」









男「……」









男「…」








男「大事な傘を…忘れていっちゃ…だめじゃないか…」








男「」ギュッ









男「またね……」














この日









梅雨が明けた




























祖父「しいちゃんはなんて?」






男「うん…、僕に『会えてよかった』だって」





祖父「そうか…」





男「お祖父ちゃん…」





祖父「あ?」





男「日記の最後に書いた名前…本当は…」





春雨「…」





男「本当は『春雨』なんでしょ?」





男「お祖母ちゃんの名前書いたんでしょ?」





祖父「…」





春雨「……」





男「だって…じゃなかったら…!」





男「…僕は何なのさ!お祖父ちゃんとハルちゃん、お祖母ちゃんが結ばれたから…母さんができて…それで僕ができたんでしょ!」





男「…なんで…名前、消したりしたんだよ…」





男「あそこで…ハッキリ『春雨』って書いてあった方が…」





男「しいちゃんがどれだけ楽になれたか…」





春雨「男くん…お願い…提督の話も聞いて…」





祖父「…」





祖父「すまん…」





祖父「さっきも言ったけどな?」





祖父「艦娘さんと…私たち人間とじゃあ…体の時の流れがエラく違うんだよ…」





男「…」





祖父「…子供ができたさ…」





祖父「…でもな?」





祖父「…その特徴は子供には反映されないんだよ」





祖父「日記読んだならわかるだろ?戦艦、金剛と結ばれた先輩の話だよ」









男「……!」









祖父「あの二人の間にも子供ができて、そりゃ私だって」






祖父「祝福したさ…」





祖父「でもなぁ…」





祖父「今じゃ…先輩は…『向こう』に逝っちまったし」





男「…な…」






祖父「単純な『老衰』だよ…当たり前だろ?」






祖父「人間なんだから…」







男「…っ!」







祖父「金剛は…金剛さんは…今も若く美しいまま、娘さんと暮らしているよ…」





祖父「まぁ…あれじゃ…どっちが『お母さん』かわからんがなぁ…」





祖父「…」






祖父「…愛する人に先立たれて、精神はボロボロで」







祖父「先輩を失った金剛さんは声が枯れるまで、先輩の上着を抱きしめて」







祖父「泣き続けたんだってよ」








祖父「一時は施設に預けられたんだとな…」







男「…そんな……」







男「…聞きたく…ない…」








祖父「現実を直視しろ…逃げるな…」










男「…!」








祖父「これが『現実』だよ」



























男「じゃあ…母さんは…」





祖父「ごくごく普通の女の子だったよ…どこにでもいるような、なぁ」





祖父「小さい頃は良いさ、赤ちゃんだったり、幼稚園生だったり…ただ…」





祖父「小学生…特に高学年になると顕著に感じるだろ」





祖父「『どうしてお母さんは年をとらないの?』」





男「…!」





男「そんな…だったら初めから『お母さん』じゃなくて『お姉ちゃん』だったら…」





祖父「いずれにしても」






祖父「春になっても」







祖父「夏になっても…」






祖父「秋になっても冬になっても『ほぼ全く変わらない』人が隣にいるんだぞ?」






祖父「自分ばかり大きくなって」






祖父「…」






祖父「『遊び相手』になれても『家族』にはなれないんだよ…」





祖父「ましてや『母親』なんて…」





春雨「……っ…!」





男「それが…それが、自分の好きになった相手の前で言う

事かよクソジジイ…!」





祖父「『子供の身』になって考えた上での発言かクソガキ?」






男「…!」






祖父「友達との家族関連の会話のギャップや、学校の授業参観…家庭訪問…」





祖父「家族がいる前提の世の中で、『人と違う事』がどれだけ世の中で淘汰されているのかわかってるのか?」





男「それは…」





祖父「正義とか愛とか、善とか悪とか…そういう話じゃないんだよ」





祖父「『艦娘を家族』にしてちゃ…『普通の家族』ではいられないんだよ…」





祖父「普通の家族を持たない子供が、その先どれだけ人生を苦労するのか…わかんないだろ?」





男「いつだよ…」





祖父「あ?」





男「いつから…そんな風に…」





祖父「春雨が子供を産んで…まぁおまえの母さんで、私の娘な…あの子を手に抱いた瞬間…」





祖父「この子の先の人生はどうなるんだろう…、このままハルちゃんと『普通に』生きていけるんだろうか…」





祖父「いろんな事を考えたよ…」





男「…考えて…」





男「…考えて…お祖母ちゃんを捨てたのかよ…」





男「最悪だ…あんた…最低なヤツだ…!」





男「ひ、人に…ひとに子供産ませといて…」





男「その人を捨てるなんて…」





祖父「…保証は?」





男「…!?」





祖父「仮に…私と、ハルちゃんがそのまま生きたとするだろ?」





祖父「…普通に生きていける保証なんてどこにもないよな?」






祖父「…世の中に駆逐されて、社会の常識に押しつぶされて行くところを失うだけだよ、リスクしかないんだ」





祖父「『艦娘と生きる』のはそういうことなんだ」







男「…だからって…」






祖父「だから私は…ハルちゃんを『捨てた』」






春雨「…」






祖父「『二度と会う事はない』ように約束までしてね」






祖父「ところが…おまえがしいちゃんに出会ったばっかりに…」






祖父「私は嘘つきになってしまったよ」






男「ー!」






男「じゃあなんで!」






男「なんで今まで、こんな日記…!」






男「大事そうに持ってたんだよ…」






祖父「…」






男「なんで、そんないやな土地なのに引っ越さなかったんだよ!!」






祖父「…」






男「ただ後ろめたかっただけなんだろ…」






祖父「…」






男「ハルちゃんと済し崩しに…くっついて子供まで産ませて…、しいちゃんにハッキリとした返事をない形になって…」






男「…申し訳なくなって…だから名前だけ消すなんて情けないことしたんだろあんたは…!」






男「ただ…」






男「ただ祖母ちゃんの事も…しいちゃんの事も…忘れられなかったんだろ!」






祖父「…」







祖父「…スッキリしたか?」






祖父「…」






祖父「帰るぞ…」






男「待てよ!」






男「逃げるなよ…」






男「あんた…ここでも逃げるのかよ…」





男「人に『逃げるな』って言っておいて…!」





男「あんたは…最低のー!」






ガシッ





スパァン!!






男「…」






祖父「…」






春雨「~!」プルプルプル








男「お…祖母ちゃん…?」









春雨「!」バシン!








春雨「お祖父ちゃんになんてこと言うの!!」







バシン!







春雨「…さっきから黙ってれば…!」









バシンバシン!










男「イタッ!…イタタ…!」







春雨「謝りなさい!!お祖父ちゃんに…」







春雨「お祖父ちゃんに…」







ポタポタ…







春雨「『提督』に…謝りなさい…」グスッ








春雨「っ…~ぅ…」グス








春雨「…ごめんね…ごめんねぇ…ぇ…!!」







春雨「ごめんね…男くん…!」









祖父「…」








春雨「痛かったね…!ごめんね…!!」






男「…ぃ」






春雨「…?」






男「うえ゛ぇえ…ぇ゛…っ」






男「う゛ぁ゛あ゛っ…ごめんな゛さっ…い゛」






男「ごめ゛んなざいっ…ぃ!!」






男「ご…さ…い…っ゛…」









ガサッ…パタン







祖父「…?」










祖父(しいちゃんの…『傘』…)











祖父「…」








ーボクは君を許すよ










祖父「…!」










祖父「…ぇ…?」キョロキョロ










男「うぁ゛ぁあ゛ぁ゛ん゛」ゴメンナサイィィ








春雨「ふぇぇええぇん!!」ゴメンネェェ









祖父「…」








祖父「そっか…」









祖父「もう…『許されて良い』んだね…」









祖父「しいちゃん…」








祖父「…」









祖父「なぁ…ハルちゃん…」









春雨「なんです…か?」グスッ








祖父「今更だけど…」








祖父「もう一度…さ」











祖父「もう一度…私と…」












祖父「私たちとー」
















梅雨が明けたその日








とても大切な人と別れた







ジメッと蒸し暑い









紫陽花の綺麗な









ちょっと

耳を澄ませば『潮騒』が聞こえてきそうなほどに

海のように蒼い蒼い空が印象的な








そんな暑い…夏の午後だった




















紫陽花に潮騒…





…end

















…数年後












小説家「」カタカタカタ…







小説家「」カタタン







小説家「ふぅ…ん…」ギシッ







小説家「っふはぁ…」










小説家「書けた書けた…ちょっと一休み…」









小説家「…」









小説家「ん-…やっぱり結構忘れてるところあるなぁ」









小説家(男)「もっとしいちゃんと話したことあると思ったんだけどなぁ…」








小説家「…」







テレビ『ーというわけで、そろそろ紫陽花の見頃も終わりですねー』










小説家「…あー」










小説家「…もうそんな季節なんだなぁ…」








小説家「あ…そうだ」ゴソゴソ











ビリッ








小説家「あ゛!表紙破けた!!」








小説家「まぁ…でも仕方ないっかぁ…よくよく考えたらこれ…何十年と使われ続けてきた日記だしなぁ」








小説家「…それは置いといて…」








小説家「」カキカキ








--------------------





20XX年07月XX日(晴天)


今日は

しいちゃんのお別れした日です




もう会えないしいちゃんへ


遠くへ行ってしまったしいちゃんへ


向こうでお祖父ちゃんと仲良くね






僕は今はとても幸せです







お祖母ちゃんと

二人で仲良く暮らしてるよ

相変わらず、背は小さいままだよ






ねえ、しいちゃん?







今度、僕の書いた物語…


「ーーーーー」っていうんだけどね




これが本になるんだ


出来上がったら

一番の一番の一番にしいちゃんに贈るよ



僕としいちゃんと

お祖父ちゃんとしいちゃんと

お祖母ちゃんとしいちゃんのお話


出会ったお話と別れたお話です

出会ってよかったと思った人のお話



またあえたら良いなと思います


あえたらなんて言おう?


あえる内に大事な人に素直な気持ちを

伝えるのは自分が思っている以上に大切なことで

言わなかったら、とっても後悔してしまうもので


だからいえる内に言っておきたかった

あえる内に言っておきたかった


「出会えてよかった、本当にありがとう」

















しいちゃん






春雨お祖母ちゃんは

あれから

とある『艦娘保護団体』

に所属して活動してるんだ


艦娘と人間との社会的保証の充実化とか、

僕にはまだ難しくてよくわからないけど


きっと僕らは上手くやっていけると思う













……上手くやっていこうと思う











---------------------------



『紫陽花に潮騒』後日談


…end



---------------------------


後書き

おしまい♪
おしまい♪
※リクエスト作品です、あいであ提供者に最大限のはくしゅを


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SS好きの名無しさんから
2022-02-25 23:28:22

llightさんから
2019-04-21 09:43:21

SS好きの名無しさんから
2017-12-27 12:51:39

すずとすさんから
2015-11-19 12:44:13

SS好きの名無しさんから
2015-11-02 15:39:00

SS好きの名無しさんから
2015-08-31 01:14:31

2015-07-14 21:13:13

SS好きの名無しさんから
2015-07-06 14:43:54

SS好きの名無しさんから
2015-06-29 21:51:10

たぬポンさんから
2015-06-21 21:33:44

蒼葉さんから
2015-06-11 22:25:15

2015-06-09 07:57:59

AQさんから
2015-06-09 01:25:13

SKさんから
2015-06-08 22:18:42

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たぬポンさんから
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フランさんから
2015-06-09 21:06:01

山椒さんから
2015-06-09 20:39:23

2015-06-09 07:58:00

AQさんから
2015-06-09 01:25:15

SKさんから
2015-06-08 22:18:43

このSSへのコメント

29件コメントされています

1: SK 2015-06-08 22:19:22 ID: tJBZCGWp

新作ですね!

めっちゃ面白そう!更新待ってます

2: AQ 2015-06-09 01:26:49 ID: Ct8Hm8HY

季節柄ぴったりですねー
最近かたつむりを見かけないのは僕だけでしょうか
続きお待ちしております

しぐ…いや、一体誰なんだ!

3: 葉っぱの妖怪 2015-06-09 03:38:57 ID: 9GxtNgH7

寺か・・・今度は誰も死なずに済みそうだ(フラグ
しぐ・・・黒髪の少女も季節にあっていていいと思います

4: 山椒 2015-06-09 20:43:12 ID: sgsEIcDb

ひゃっはぁ新鮮な新作だァ!

これからどんな暗雲が立ち込めて、それを裂く光が現れるか

ゆるーり更新待ってます

5: SS好きの名無しさん 2015-06-09 22:15:04 ID: QVYLrEoZ

救いがあるといいが

6: らんぱく 2015-06-10 21:10:42 ID: VvpHcChr

>SKさんへ
コメント有難うございます
面白そうと感じて貰えて嬉しいです♪
今後もどうかどうか

>AQさん
コメント有難うございます
紫陽花と艦娘は
組み合わせてみたかったんですよ!
かたつむり…こちらは
会社の周りにウゾウゾいましたー
しぐ…一体だれなんだ!(笑

>葉っぱの妖怪さんへ
コメント有難うございます
誰も、死なないと良いですねー
しぐ…彼女は季節ぴったりですよねー!

>山椒さんへ
コメント有難うございます
物語のプロットは出来ていますが…
ムフフどうなりますかね
ぬる~く更新していきますので
宜しくお願いします

>5コメのSS好きの名無しさんへ
コメント有難うございます
なるべく今回は救いが必要な程
過酷な物語にはしたくないですね
ちょっと重いモノが続いたので

7: フラン 2015-06-10 22:46:49 ID: f8aTbgcV

もしかしたらですけどこの時雨はあの時雨であのしいちゃんですか?だとしたら他の子も......
なんにせよとても期待してます!

8: 葉っぱの妖怪 2015-06-11 03:22:40 ID: TiAT_v6z

だ、大丈夫!俺なんか国語のテスト54点だったから!!

9: らんぱく 2015-06-11 21:11:46 ID: HDGt8Hzm

>フランさんへ
コメントありがとうございます
いやーどうでしょーねー、あのしいちゃんですかね~?
期待して頂けて嬉しいです
今後もどうかどうか

>葉っぱの妖怪さんへ
コメントありがとうございます
握手しましょう、テストは苦い思い出が多々…
艦これして忘れましょうそうしましょう
ではでは

10: AQ 2015-06-12 21:25:27 ID: wdb1c_g5

更新お疲れ様です
しいちゃんかわええ…
あと少年、美女に会いすぎだぞ!

11: らんぱく 2015-06-14 09:15:42 ID: IgE0ZG2b

>AQさんへ
コメントありがとうございます
ひぃっごめんなさい!しゅ、主人公補正という事でどうか
お許しくださいぃ

12: 山椒 2015-06-18 18:51:47 ID: bFAcxyOt

アイエェェエエエ!

ニンジャ!?ニンジャナンデ!?

まさかの展開
ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙続きイ゙イ゙イ゙イ゙

13: AQ 2015-06-19 08:37:09 ID: pyQAB3no

んん!?
普通に終わるわけないと思ってたけどいやはやまさかの…

続きが!気になり!ます!

14: フラン 2015-06-19 23:04:45 ID: EDTr5Lbc

あのしいちゃんでは無かったっぽいですね...
でも!続きが早く読みたいです!

15: らんぱく 2015-06-21 20:35:37 ID: K7cTSDbE

>山椒さん
コメントありがとうございます
ニンジャ!ではないですねww
もう少しで佳境に入りますのでどうかどうか

>AQさん
コメントありがとうございます
むふふ、普通には終わらせたくないんですよねぇww
続きは!もう少々!お待ちを!(笑

>フランさん
コメントありがとうございます
はい、あのしいちゃんでは無いっぽいです
これから物語は少し動きますので
今後もどうかどうか

16: ひまな人 2015-06-23 03:34:47 ID: 0ijMEW0L

いやー 自分的にしいちゃんは前から

すきだったからなー

んっ、何だろうこの不思議な展開は?

17: らんぱく 2015-06-28 09:41:12 ID: 4tzdoFY6

>ひまな人さんへ
コメントありがとうございます
返事が遅れてすいません
しいちゃん、時雨はボクっ子可愛いですよね
むふふちょっとだけ回想入ります♪

18: AQ 2015-06-29 01:54:45 ID: mD3m1M5g

更新乙です

顛末の分かる回想の悲しいことよ…
最後の読めない話ですが皆んなが幸せになると信じて!

続きお待ちしております

19: 葉っぱの妖怪 2015-06-29 21:15:50 ID: bf0m_uyG

ねえええええさまああああああああああああああああああああ!!!!!

か、覚悟していてもキツいっすよ・・・アカンよ・・・
バットエンド不可避ですよ・・・

20: らんぱく 2015-07-05 09:03:01 ID: OXcQeY57

コメントが遅れてしまってすいません

 >AQさん
コメントありがとうございます
みんなの運命は周知の事実ゆえに
みんな幸せに…なるかなぁ…

>葉っぱの妖怪さん
コメントありがとうございます
姉様ファンの方々ごめんなさいごめんなさい
えと…さ、最後までチャンネルはそのまま!

21: アテナ 2015-07-06 21:38:45 ID: FaiJ1m3_

こんばんわ。名前変更しましたSKことアテナです。

そろそろ終りそう?な展開ですかね。てかまさかお寺の姉さんが春雨だったとはww 予想外過ぎました笑

22: らんぱく 2015-07-11 02:08:37 ID: S2hgGYoD

>SKさん、もといアテナさんへ
コメントありがとうございます
はい‼お寺のお姉さん=春雨ちゃんでした
予想外を狙っていたので、そう反応いただけると嬉しいです
お察しの通りそろそろ終わりますよ!

23: アテナ 2015-07-14 10:37:50 ID: iL1RzVuw

うおお!やっぱ終わらせ方最高だよー!
さて次の作品は何かなー笑

24: 葉っぱの妖怪 2015-07-14 11:21:35 ID: EEMP0NC2

完結お疲れ様です!!
提督の決断、春雨の行動、男の叫びに感動しました!
次の作品も楽しみにしてます

25: 山椒 2015-07-14 14:07:43 ID: ObwCwB31

完結お疲れ様でした

時雨が居なくなって、「その日、梅雨が明けた」って所、ぞくっとしました

その後の、今居る人間の決着
「艦娘」と「人間」の関係性を、「心」が超える
流石としか言い様がないです

素晴らしい作品を、ありがとうございました<(_ _)>

後日談、待ってます

26: らんぱく 2015-07-15 20:50:57 ID: qcoiluR6

アテナさんへ
コメントありがとうございます
わぁい嬉しいです!
つ、次はもう少々お待ちくださいぃ

葉っぱの妖怪さんへ
コメントありがとうございます!
提督は春雨よりも子供を優先したために云々かんぬん…
感動して頂けたら何よりも嬉しいです

山椒さんへ
コメントありがとうございます!
おぉ!まさにこっちが感じて欲しかった気持ちを表現
してくださったようなコメント嬉しいですwww
このコメントが載るくらいには後日談が上がってるかもです、ではでは次の作品でもどうかよろしくお願いします

27: SS好きの名無しさん 2015-08-16 01:30:57 ID: K-53ao9K

素晴らしい作品でした!最後の方は号泣してました。゚(゚´Д`゚)゚。

28: matu 2016-01-07 18:17:02 ID: T5K_kMEY

やばかった(涙腺が・・・

凄く泣けました

29: らんぱく 2016-01-07 19:14:07 ID: KtDrtrvE

27コメのSS好きの名無し様
コメントありがとうございます
うぉぉ…嬉しい感想です…
…時雨は思い入れのある艦娘なので
書いてる本人もつらかったです

matuさん
コメントありがとうございます
そう仰って頂けると大変嬉しいです
次の作品でもよろしくお願いいたします


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