2020-08-01 23:39:19 更新

概要

とある せいたいへいき と
とある かんむすたち の おはなしです

※誤字修正しました


前書き

とある せいたいへいき と
とある かんむすたち の おはなしです


-錆びた涙-







--------------------------------------------------



  僕たちもわたしたちも外へ出て遊ぼう

  月の光が昼間のように明るいよ

  大きな輪っかや小さな輪っかを

  元気いっぱい転がして遊ぼう

  食べたり寝てたりしてるより

  友達と遊ぶほうが楽しいよ

  はしごを上ったり塀から飛んだり

  おなかがすいたらパンを食べよう

  でもパンがなくなったらどうしよう?

  そのときにはまた働いて稼ぐんだ




出典:マザーグース「Boys and girls」より

--------------------------------------------------















―さぁさぁ、お集まりの皆さん!

新製品紹介のお時間です!

お手元の資料をご覧ください!








うるさい…






少し、ハウリングした後に

『我々』を作った会社のスタッフが喉を振動させ

マイクを通して声を発する。








我々にスポットライトの光が当たる。

人工の光であるそれはあまり優しい明かりではなく

無機質な冷たい光。




その光で

目の前の鉄格子に自分の姿が映る

半袖の白いシャツ、半端丈の白いボトムス…

そこから覗く

この両手、両足の特殊な塗装を施された黒光りする

義手や義足はその光を

薄暗く鈍い光として照り返す。





左目の義眼がその光の『光度』を数値化し、視界の端に

表示する、念のために脈拍を確認する、

明らかに人では成しえないその機能。






任意に

『光度』『脈拍』『体温』

その他己の身体情報を次々に視界に表示させ

確認した後に表示ウィンドゥを閉じる。







―今回、ご紹介する製品は『こちら』!








パーティー会場。

敢えて言葉を選ぶなら、そう形容できるが

そこに立ち込める空気はドッシリと重い。






幾つも不規則に並べられた清潔なクロスを被せられたテーブル

その上に、用意された様々なご馳走、






魚料理


肉料理


中華


和食


洋食


ワイン


日本酒


ウィスキー…






重いどんよりとした空気のせいか

それらは全て、まるで恐れを成す邪神に捧げる

供物(くもつ)のように見える。










『兵器』を紹介する空気とはこんなものか…。


ライトに照らされるステージ、

その上に立つ、私を含む3つの陰。


そのなかでも私は中心にいた。


右隣に視線を移すと禿頭、顔面蒼白の少年。


血が通っているようには見えない。


酷く、顔色が悪い。


蝋人形のように無表情。



そして、同じ様な義肢。






両手に視線を落とす。


鉄の手首に、異なる素材の金属で作られた

特殊な合金製の手枷。




視線を正面に戻す。

目の前には天井から床にかけて伸びる鉄格子。







その向こうには、


前述したテーブルの上に奉られた料理、酒に手を伸ばしつつ

こちらに視線を向ける

立派な髭を蓄えた老人。

高そうな、ドレスに身を包んだ貴婦人、

髪をツーブロックに分けた、資産家の息子。

でっぷりとせりだした腹を持つ貫禄のある男。






どれも軍に介入する資金力を持った投資家達と

事前の説明で受けた。

その薄暗いパーティー会場にいる、




無駄に高価な衣服に身を包んだ人、肉、人、肉…。

欲という膿にまみれたその表情。

戦地に赴く兵士を『商品』とし

『命』をビジネスの道具として捉える

人でありながら人ならざる心を持った*********達。








彼らの姿を見て

自分の体を確認する、神経の通ってない人工の鋼の手足。

かつての人だった四肢の感覚は忘れつつある。









―皆さんはこう、お考えした事はありませんか?








―深海悽艦が我々人類を脅かし狩るのであれば









―我々がその深海悽艦を狩る、『捕食者』を作ってしまえば良い!









―わが社は業界でいち早くそれを実現しました!








―これ等はまだ、試験段階ですが

深海悽艦の臓器を一部流用しています。

ああ、ご安心下さい。

ちゃんとメーカー保証も完備しております。









―ご覧ください。見た目は『ごく普通』の

少年達です…が








―四肢の義肢化、ソレに加えて脳にCPUを組み込み

搭載されたOSがあらゆる環境をスキャンし








―適した戦術をアップロードし、戦闘をサポートしてくれます









ざわつく会場。


当たり前だ、深海悽艦を


人類の敵を取り入れた生体兵器なんて


聞いたことないだろう。









―ですが、ソレだけではありません。









スーツの懐からコルクで栓をされた


ポケットサイズの瓶を取りだし、軽く掲げた。






どよめく会場の『ご来賓』の方々。









―この『薬品』…深海悽艦の体液ベースを

体内に取り入れることで







―その真価を発揮します。







―これは彼らの中の移植された深海悽艦の

意識を一部、覚醒させ闘争本能を呼び覚まし







―さらに、体を変異させます。






―また、『捕食者』という名にふさわしいように

彼らは獲物の体液を啜る事でそれを

『燃料』に変える臓器も持ち合わせております。







―人間由来の消化器官も残してはいるのですが…いやはや








―皆様のテーブルに用意されているような

『食べ物』ではこの膨大な動力を動かすに不足するので…ハイ。








―これの大きなメリットとして戦いつつ、燃料が補給できる点ですね。








―ええ、これも深海棲艦の解剖で得られた技術です。








―あ、ハイハイ。

そうです。さすが○○会社の御子息様ですね!







―深海悽艦化です。







―この技術が発達すれば、もう人類が

脅かされる事も無いでしょう!






―そう!そうですとも!狂っています!







―ですが襲い来るは、向こうも『狂気』です!








―狂気をもって狂気を征するだけです!







―ああ、申し訳ありません。

つい熱くなってしまいました。







―私が言いたいのはただ1つです。

我々に資金提供をしてくだされば、

あなた方は『救世主の担い手』となり得るのです!










―通常戦闘時の兵装についてはお手元の資料をご参照くださいませ。










―ご静聴ありがとうございました。








沸き上がる拍手と歓声。







―さて、このあとは○○社の製品紹介ですね。

よろしくお願いいたします。







―デモンストレーションはまた後程。






―あ、そうそう。

それとあくまで『これら』は

『艦娘の補助役』でしかありませんので悪しからず。




―所詮は『人間ベース』なので…ね






―それでは、失礼致します。











-システムを起動します-


-脈拍 正常値維持-


-視界 良好-


-兵装 問題ありません-




無機質に脳内のOSが状態を読み上げる。




左目の視界を妨げない程度のウィンドウが


表示される。


稼働に問題点は見られない。






男オペレーター「イ-505、準備は出来たか?」




水面に浮かぶ、己の体。




パシャパシャと

軽くジャンプして関節を馴らしていく。



耳に備えられたインカムより伝わる

少しお歳を召された男性の声。


目の前に広がるは、コロシアム。



ただし、普通のコロシアムではない。

周りの壁が異様に高く囲まれているプールのようだ。

その内側には、まるでサッカーコートのスポンサー枠のように

数々の企業ロゴが掲載されている。

どこかにカメラでも仕込まれているのだろうか。

この映像がどこに流れるかなんてとくに興味は無いが。


でなければ、企業ロゴなんて貼る意味なんて無いのだから。


だが、掲載されているのは出資者の企業だろう。


そして、観客席。

そこには嫌な笑みを浮かべてここを

見下ろす富裕層の『ご来賓』の方々。






???「はい。戦闘可能です。」








数メートル先の同じ境遇の『歪(いびつ)な存在』へと生まれ変わった

オトモダチ2人…いや、2体に目を向ける。

それらも同様に、水面に浮いて亡霊のようにゆらゆら揺れている。

視線には光が無く、ただ冷たいガラス玉がこちらを覗いてる。



きっと私も同じ様な表情だろう。



でも…興味無い。





男オペレーター「沈めるなよ?」





嘲笑まじりの注意がインカムに届く。



きっと沈むのは私の方だ。





男オペレーター「交戦開始」




掛け声がコロシアムに響く。










ザ…ザザ…


ザー…


ブゥゥゥン…



-シ…しすテむ さいきドう しま…su-





闘技場の水面に全身を預けていた私は目を覚ました。





上手く体が駆動してくれない。






左目にノイズが走っている

参った、これではウィンドゥが

上手く確認出来ないし何より

戦闘に支障が出る。






ノイズの走った左目に身体情報を表示させる








-右腕欠損-



-体液流出-



-人工筋肉 断裂-



-フレーム 断裂-



-義肢接合部より出血-



-内臓破裂-








中々なダメージだと確認する。



右腕を見やると、ひじから先が爆ぜていた。






焦げ臭い









ねじ切れたように欠損していたからきっと

爆発に巻き込まれたんだろう。

右腕の付け根から、青黒い液体が流れていた。





血液と、深海棲艦の臓器を動かすための体液が

混じり合って出来た液体だ。




CPUに指示を出し、

任意に筋収縮を行い、

応急処置的に止血を施す。







-止血を確認-



-専門医師及び専門技師による診断を推奨します-



-専門医療ホームページへアクセスしますか?-





[ YES]

→[ NO ]








CPUの提案を却下する。


どうせこの後、専門スタッフから新しい臓器の交換と

義肢の交換、体液の補充が行われるのだから

わざわざ医療機関にアクセスする必要もない







直後、聞き覚えのある声が聞こえてきた。







社長「お買い上げありがとうございます!」




社長「またのお越しをおまちしております。」




社長「今後ともどうか、わが社をごひいきに!」



観客席の出入り口に立ち、次々と去りゆくお客様に

フカブカと頭を下げる太い胴周りの男性。





ああ、社長のお声だ。




前に検査を受けているときにスタッフが零していたのを思い出す。








―あの社長は全く、とんでもない守銭奴だよ。



―戦争孤児までビジネスに利用しちまうんだもんな。



―ウチのガキでなくてよかったよ。







守銭奴とは、どんな意味か分からなかったが


私とデモンストレーションをしたあの『2体』はどうやら


お買い上げされたようだ。







いつも通りだ。


体をゆっくり起こす。

両足は何とか動くものの、

腕が無いから上手くバランスが取れない。




痛覚はあってもそれを不要情報として

CPUが処理してしまうため

感じる事は無い。







便利だ。







よっこらせ…












-循環血液が不足しています-




-消化器官の機能を抑制し、自然治癒を優先-




-経口排出します-










直立した瞬間、

口から勢いよく体液、唾液、胃の中の物を

激しくぶちまけた。






体を『く』の字に曲げて

ドボドボと情けなくその場に垂れ流す、






グボッ…ブフッ…ボタタ…



ゲエェッ…



ハァ…ハァ…





ひとしきり吐瀉物を吐き終わると


2、3回呼吸をして再び直立の体勢をとる






良し…今度は吐かない。








私自身は…だが。






後で知ることとなったのだが。

その姿にまわりにいたお客様の中に失神した者や

吐く者も続出したらしい。




すると後ろから声を掛けられた





???「おーい、これで何人目だよ。

あとどんくらい人にゲロ吐かせりゃ気がすむんだぁ?」








振り返る。


私の専門スタッフの女性研究員だった。










コロシアムから引き上げられ

静まり返った観客席に上がると、研究員に肩を預けた。

フラフラとストレッチャーに横たわる。


そしてその隣に様々な機械が乗せられた台車を慣れた手つきで持ってくる。






女研究員「全く…あ~ぁ…いくらデモンストレーションだからって…」






金のラウンドフレームの向こうの青い瞳がこちらを覗く。






女研究員「また派手にぶっ壊しやがって…

ただじゃないんだぞ…あの禿げ社長め…」







ブロンドの長い髪をポニーテールで纏めている。







女研究員「もう少し…手加減してやりゃ良いだろうに…

向こうは最新型の『チ級』ベース2体で」






化粧っ気の無い顔だが、白くて整った顔立ちだし

若いから特にその必要性を感じないよなぁ…と

男性スタッフが呟いていたのを思い出す。






女研究員「こっちは初期型の『イ級』ベース1人だってのに…

うっわ…付け根ズタズタじゃん」







その美しい?(美的感覚が良くわからない)顔が歪む。

私の義手と接合部の金具の

付け根がねじれていたため痛ましく思ったのだろうか。







女研究員「しかも…よっと…。チ級ベースが優秀に見えるように

わざとあんたに『薬』を与えなかったりさ…ひでぇ事するよな」









女研究員「あれが無きゃ深海棲艦化だって、出来やしないのに…よ!」







ガコンと音を立てて、熱で変形し癒着した義手を付け根から外した。


そこからは、青黒い液体が粘性を持ちねっとりと糸を引いた。








女研究員「はん…まるでエイリアンだよな…これ」







外したそれを重そうに抱えると、

パーツが所狭しと並んでいる台車の上に乱暴に置く。



自虐的な笑みを浮かべて次々に修理用に処置を施してく彼女。


白衣が体液と血液で汚れるにも関わらず、

私の体に触れていくが

捲りあげた袖が勇ましい。



その額にはうっすら汗をかき始めていた。







イ-505「今の…私の仕事なので…」






口を開いて言葉を発する。


CPUからの無機質な声ではなく私自身の思考から発する声。





その発言を無視し

鋏(はさみ)を取り出して、服を裂いていく彼女。





そして、青痣や歪な形にへこんでいたり

裂傷になっている患部に手をやる





女研究員「痛むかい?」







イ-505「いえ、痛覚を遮断しているので」







パンッ






頭を叩かれた。






-頭部に僅かな衝撃を感知-




-異常ありません-







女研究員「『痛そうな傷』を触られたときは、『痛そうな顔』をするもんだよ。」





女研究員「痛むかい?」







理不尽というものだ






女研究員「い た む か い ? 」






……




イ-505「痛いです」









女研究員「よろしい♪」











社長「今日も『ナイスサンドバッグ』だったぞ、イ-505。」





私と女性研究員の元に社長がお腹を揺らして近づいてきた。




イ-505…




深海棲艦『イ級』の臓器を移植された私のナンバリング




イ-505「いえ…仕事です…ので」






私が顔だけ向けて返事をする。


はぁ、と露骨に心底嫌そうな溜息を吐く彼女。




社長「おや、○○君。君も毎回毎回、大変お疲れ様だね。」



女研究員「そう、思うんなら、少しは手加減してあげたらどうなんです?」



女研究員「新製品とか言っておきながら、こいつも一緒に紹介するなんて…」



社長「間違った事は言ってない。事前に説明はしておいたさ。

『3体の内、真ん中の製品だけは既製品ですのでご了承ください』とな。」






社長が

台車の上に置かれた私の『腕だった』ものに触れる。







女研究員「はい、そうですか…」







社長「不服かね?まぁ…『ソレ』と一緒に過ごせるのもあと僅かと思うと」






社長「少しは名残惜しいかな?」






女研究員「…あと…僅かって…どういう事ですか?」






社長「おや?まだ、通達が行ってなかったかね?『ソレ』の配属先が決定したのだよ?」






女研究員「いつ…ですか?」







社長「来週の月曜さ、手続きやら何やら面倒事があってね。

ま、残りの時間精々向こうの

『極貧鎮守府』の提督さんにご迷惑がかからんように」







社長「しっかりメンテナンスしてやりなよ?『責任者さん』?」






社長が女研究員の肩を叩いて、

この場を後にした。

女研究員はその後ろを振り返る事も無く、

ただただ拳をキツく握りめていた。






とある研究員の一言


『深海棲艦の能力を奪ってしまえば良いのでは?』


から始まったプロジェクト。




行き場を無くした戦争孤児を

『最安値』で施設から買い取り

実験を繰り返し

ついに成功し生まれた技術。




伝承に出てくる『吸血鬼』のような

おぞましい存在を彼らは作り上げ

制御する術を手にした。





深海棲艦の臓器を移植し、

外部からそれの体液を摂取することで

栄養源とし生きながらえる『能力』。




人の体をベースとしながらも、

それと渡り合うだけの能力を限界まで引き出す

義肢の開発『技術』。





そうして生まれた私達、歪な『製品』。




生まれながらにして

消耗品として生きる事を束縛され

人を捨てる事を余儀なくされ、艦娘でもなく、ましてや深海棲艦とも

定義づけられない。




あやふやで不確かで不明確な存在。







私達、『対深海棲艦兵器』の

試験運用は全鎮守府に義務付けられたものだ。




配属先の鎮守府は、元々のベースになった

『イ級』や『カ級』などの深海棲艦のクラス、

及び、演習成績から決定される。







そもそも、ベースになる深海棲艦は本人の適正による

軽巡に適性のあるものはそのまま軽巡の能力を受け継ぎ

ごく稀に戦艦クラスの者もいたが、

それでもその能力を最大限引き出せず『廃棄』処分となった者も見た事があった。








その中で私はただ駆逐艦に適性があっただけの話だった。














強い者、力のあるものは当然、戦果も上々な鎮守府で

艦娘とともに制圧任務や哨戒活動に従事したりする。







あくまで我々は艦娘のサポートに回る、

貴重な戦力たる艦娘を敵の砲撃や雷撃から守るための盾役

負傷した彼女達の救助、人間では行えない様々な

支援を行うのが最重要項目であり

それを遂行するための教育も受けてきた。








そして、数年、ずっとこの研究所で行われた新製品発表会で私が担ってきた

新商品がどれほど優秀かという比較対象にされてきた…

『サンドバッグ』としての役割から解放される日が来るという。







簡単な説明を受けたが、私の配属先は戦果もあまり上がらず

艦娘の人数も最小限といういわゆる『外れ』の鎮守府だった。







私の役割からすれば当然か。






…どうでもよかった。










女研究員「…」




キィ…キィ…


古臭いレトロの

オレンジ色のランプ揺れている。





それがぼんやりとした意識に入り込む。




うす暗く、女性物のパンティやブラ、工具、ゲーム機、

本、化粧品が散乱した研究室で目が覚める

いつの間にか気を失っていたようだ。


彼女の研究室兼私室に備えられた手術代の上で目が覚める

左目にはノイズは入っていなかった。

ゆっくり上体を起こす。






女研究員「お目覚めかい?」



イ-505「…はい」




女研究員「…血液が不足し過ぎて、意識を失っちまったんだよ。今はどうだい?」



左目の義眼に身体情報を表示






-全て異常なし-






全ての項目をチェックしたが正常値。


体液も血液も充分。


失われた臓器も復活している。


そして義手、義足。


これらはスペアパーツか。






女研究員「あんたがおねんねしてる間に変えさして貰ったよ…」






ギシッと音を立てて手術台の横に備えられた、

いささか年代物の丸椅子に腰掛ける。


そして、重いため息をついて彼女は

両手で顔を覆った。






女研究員「良かった…今回も…生きてた…」






小さく彼女は呟いたようだったが、

私の聴覚は目敏くそれを感知していた。





声が泣きそうな程、震えていた。



顔から手を放してしばし項垂れていたが

少しして

女研究員がこちらを見て、寂しそうな顔をする。







女研究員「ほら、女の子が悲しそうな顔をしてたらどうすんだっけ?」







昔、女研究員に教わった事を実行に移す。



新品の腕を持ち上げ、彼女の頭に手のひらを乗せる。







…ポスン






指の新品のアクチュエータが小さな駆動音を立てる






イ-505「ヨシヨシ…」






女研究員「…」





女研究員「よろしい…」




少し涙目の

彼女の頭を撫でながら昔を思い出す。













―やぁボク。今日からここが君のお家だよ?楽しくお勉強しようね。



黒い服を着たお兄さんが僕の手を引く。



とっても大きな白いお部屋に連れて来られた。


牛乳みたいに真っ白で綺麗だった。


きっと赤いクレヨンでお絵かきしたらもっと素敵になるよね。





ちょっと奥の方にまた違う、黒い服を着た3人のオジサン達がいた。




さっきの黒いオジサンが、真ん中のちょっとお腹の大きなオジサンに何か言ってる。






―適正結果です。診断結果は『イ級』ですね。正直あまり芳しくないです。

他は空母級や…悪くても軽空母だというのに…このガキだけです。









―まぁ…サンドバッグには使えますね。前のアレは割と簡単に『壊れて』しまいましたから。








いきゅう…?

こわれる…?


何を言ってるのか、わからなかった。










いだいぃ…ぃ…!!






やめ…でぇえ゛!






もういやだぁぁああ゛!








気が付いたら、腕が無くなってた



気が付いたら、足が無くなってた



気が付いたら、左目の色が兎さんみたいに赤くなっていた。



気が付いたら、僕の頭の中に『誰か』いた。冷たい言葉を話す誰か。



気が付いたら、痛いのが当たり前だった。





そんな生活が2年続いて、僕は壊れた。










―あなたが『イ級』?




…おんなのひと




―情けない顔してるわねぇ!ほら!しゃきっとなさい!




…なにいってんの?この人?




―今日からあんたは私と一緒に生活すんのよ。わかった?




…?






スパァン




-頭部に僅かな衝撃を感知-



-異常ありません-







―返事は?




…はい




―よろしい♪さ、レディファーストを叩きこんであげるわ♪

男の子は女の子に優しくするもんよ?




…れでぃふぁーすと?




―かっこいい男になるための必須項目よ?

頭のCPUにでも刻みこんでおきなさい







-記録しました-


…おぼえたよ?













女研究員「なに人の頭撫でながら湿っぽい顔してんのさ」






表情を変えたつもりは無かったが…






女研究員「お姉さんにはお見通しよん♪」








…私は…あなたの望むようになれたんでしょうか。







女研究員「…まだまだに決まってるでしょ…

まだまだ私の理想像には程遠いわよ…。」








女研究員「でもねぇ…あんた…いなくなっちゃうんでしょ…?」








女研究員「もう、何度…メンテ出来るかしら…」








女研究員「向こうに行ってもちゃあんとレディーファーストを貫きなさいよ?」








イ-505「…善処します。」






女研究員「小さな女の子には?」







イ-505「…お嬢さん」







女研究員「アタシくらいの女性は?」








イ-505「…お嬢様」








女研究員「『それなり』の女性は?」








イ-505「おばs」









スパァン




-頭部に僅かな衝撃を感知-



-異常ありません-









女研究員「もう一度…『それなり』の女性は?」








イ-505「…マダム」






女研究員「よろしい♪」











ゴトゴト…ゴトゴト…



揺れが酷い。


トラックで輸送される

私の目の前に置かれた、

私の基本兵装

メンテナンス道具

スペアのパーツ

保存液に漬けられた幾つかの臓器


振動に合わせてそれもカタカタと揺れる。




研究所を後にし、トラックに乗る前の事が頭を過ぎる。







―あいつの試験成績じゃあ、あそこがお似合だよな。





―やっぱ『サンドバッグ』さんだもんな。

ぶっちゃけ輸送費用払ってほしいんだけどな。

あんな奴の費用まで肩代わりしなくちゃいけないなんて…な。






―言ってやるなよ。ほら、あいつの『お姉ちゃん』がこっち睨んでるぞ。








―ああ、あそこにいるお嬢ちゃん?あれでも20代後半なんだよな?見えねぇ。




―な。知ってるかよ?あの女にさ弟いたんだってさ。

そいつ豪華客船のスタッフであちこち船で回ってたんだと。

『紳士』だったんだな。

んで渡航中に深海棲艦に襲われてらしいんだよ





―は~ん。で?





―でって…。その弟にさ、『サンドバッグ』くん、似てるんだとよ。






―ああ、だからあんなに肩入れしてんのか?弟君の代わりか?






―さぁな。あくまで噂だからな。








全部、耳が拾った。

事実は興味ない。












コンコンコン



ガチャ…




???「失礼します、提督。郵便受けにこんなものが」







朝方、鎮守府に一通の封筒が届きました。

本営からだったのですが…






提督「うん?」


ギシッ…ギシッ…






執務室を開けると筋肉隆々の人物、そうこの鎮守府の提督が

鏡に己を姿を映しつつ一つ20kgの鉄のダンベルを右手、左手と交互に

持ち上げていました。


体温が取り巻く空気よりも高いのかかるく湯気がたっていました。






???「まず、そのダンベルを下ろして下さい!

…本営かららしいです。いったいなんでしょう?」





…ゴトン…ゴトン




提督「ふむ、良い汗をかいた。…どれ?」



鈍い音をたてて、逞しい腕には不釣り合いなほどに小さな

封筒を破り、中身を取り出しました。




すると、その切れ長の目をこれでもかと

言わんばかりに大きく剥きました。


一瞬で興奮した事が手に取るようにわかります。






提督「ほう!めでたい!めでたいぞ○○!!今夜は宴だ!酒の準備だ!!」






???「ちょ、ちょっと待って下さい!いったい何がめでたいんですか!?」





提督「ついにこの鎮守府にも『対深海棲艦兵器』が配属になったんだ!」







…え?


噂でしか聞いた事の無い…



資材の乏しいこの鎮守府に…あの『対深海棲艦兵器』…ですか?








提督「こうしちゃおれん!○○!

部屋の掃除だ!ああ、あと生活用品も準備しなくてはな!」






その手に持った『それ』を机の上に置くと上着を手に掛け

退室しようとしましたが、

私がその手を引きとめます。







???「落ち着いて下さい!良く見たらこれ、配属は来週ですよ?」






途端、冷静になる彼。







提督「…」







???「…」








提督「おっと、提督早とちり。」





その血管の浮き出た太い手で軽く拳を作り

額にコツンとあてました。







???「もう、提督はせっかちさんですね♪」









提督「ハァーッハッハッハ!」










ゴンゴンゴン…







トラックの後部に備えられたドアを叩かれ

その跳ねかえる音で現実に意識を戻す。







左目の義眼に、脈拍だけをアクティブモードにして常に表示させていたが

ゆったりとした波形から、今はリラックスしているようだ。






ドアが乱暴に開かれ

光がこの『数年放置された物置』のように

埃っぽい輸送部を照らす。










作業員「着いたぞ。降りろ。」






イ-505「…はい。」






トラックから降りると

潮風が鼻孔を突いた。




穏やかな波音を聴覚が拾う。






そして、ムッとした熱気。


真夏である事を実感する。





ザザーン…


ザザァーン…








しばらくその音を聞いていたが

作業員の男性が、背中をドンと突いた。





振り返ると、眉をしかめてとても不機嫌そうな顔をしていた。

『早くしろ』とその表情が告げていた。





そして

暑いのだろうか、額に汗を浮かべていた。






ペコリと頭を下げて、まずは『人』では運べない

兵装の入ったボックスの取ってに手を掛ける。




二の腕に意識を集中させて引き上げる、

義手内の人工の筋肉が収縮。







ズシッ…







地面に下ろす。






作業員「…化け物が」







背後から蔑む声が低く聞こえた。

拡張された機能を持つ聴覚はそれをはっきりと捉えたが

ご丁寧にCPUが処理し、左目の視界に言語化し言葉を表示した。









イ-505「…」








ズン…と両手に兵装の入ったボックスを抱えて

輸送部から降りると、トラックが大きく揺れた。







今まで支えていた大質量の物体が無くなったため

サスペンションで無負荷状態の車高に戻る。







その表示された言葉を、しばらく見つめて

ウィンドゥを閉じた。












作業員の方と一緒に残りの軽い荷物を鎮守府の正門前に下ろすと、


彼は携帯電話を取り出すとどこかへ通話し始めた。





その携帯電話には可愛らしいストラップが揺れていた。

クマをデフォルメしたマスコットのようだったが、

そのクマの顔の裏には写真をはめ込む四角い穴が有り

そこには髭面の彼と、小さな女の子が笑った顔でケーキを取り囲んだ

写真だった。



確かこの作業員は最近9歳になる娘がいる。


奥さんは子供を置いて蒸発してしまったと聞いた。








妻に逃げられる、愛していた人に逃げられるとは…どういう気持ちなんだろう…。









わからない。









この彼から、『愛する娘』を取り上げたら、彼も『壊れる』んだろうか。









出口の無い迷路に迷い込んだように、

取り留めも無い思考が頭をループする。

自分の人間の脳が行う処理。

搭載されたOSはそれを止める事は無い。

私に許された人間らしい部分。









ふと、彼に目を向けると。


携帯端末で行け行けと鎮守府を指す。






作業員「提督さんは今、手が放せないんだと…ったく。」






作業員「代わりのモンが来るらしいがよ…

早くしてくんねぇかな…次がつっかえてんのに」





イラついているようだ。

帽子をいじくったり、ペンの先を噛んだりしている。





―人はね思い通りにいかないとイラつくもんだよ





―でもねぇ、紳士はそれを顔に出さないもんさ。








女研究員の顔が頭をよぎる。








―私は…そういう不要な物は、あまり感じないように作られています。






―感情が制御されていますので…






―んじゃ、その点では合格かね?











作業員「おい…来たぞ」




???「遅くなってスイマセン!」





正門の奥、数メートル先の鎮守府の

入り口と思われる古臭い扉が重く開くと

そこから不思議な服装をした

若いお嬢さんがこちらに向かってパタパタと走ってくる。




作業員「あ~♪どぅもぉ~♪いつもお世話になっておりますぅ♪」




私に対する態度とは真逆の猫撫で声を発して、

彼女を迎える。



そして、胸元のポケットから何か書類とペンを取り出し、

差し出した。







???「はぁ…はぁ…すいません、

提督、どうしても手が放せないって事で代わりに私が」






???「遅くなってしまって申し訳ありません!」








長い髪が乱れるのも関わらず深々と頭を下げる彼女。








作業員「いえいえ~♪まったく気にしてないので!

そんなに畏まらないでください!艦娘さん!」





…ああ、これが社交辞令というものか。

知識では知っている。

社会生活を円滑に行うための日本独自に発達した挨拶や褒め言葉。










???「…それ…で、この…人が…?」










作業員「あっははは!『これ』は人ではなく『物』ですよ!艦娘さん!

さ、この書類に受け取りのサインを」





怪訝な顔をする彼女の表情を無視してズイズイと

書類へのサインを求める。





そして、彼女はそのペンを取り書類の必要項目に記入して

作業員に手渡した。







???「はい!お疲れさまでした!これで良いんですよね!」






作業員「…はい、確かに!では、失礼します!

しっかりやれよ?イ-505!」









私の肩をポンポンと叩く彼。

それは笑顔だったが、目が笑っていなかった。





そして艦娘に軽く会釈した後にトラックの運転席に乗り込んだ。


乗り込む前に、艦娘の目に着かないように

ハンカチで私の肩に触れた手を拭っていたのが確認できたが別に気にする事ではなかった。




そして、慣れた操作でトラックを移動して、元の道を辿って次第に遠のいていった。







残された、私の荷物と私自身、そして…







???「それじゃ初めましてですね♪私は―」




榛名「金剛型3番艦の榛名です!よろしくお願いしますね♪」






笑顔で挨拶をする黒髪の彼女。







―女の子が笑顔になったら何ていうんだっけ?






またも女研究員の言葉を思い出す。






確か…










イ-505「素敵な笑顔を有難うございます。お嬢様」










表情を崩さず、相手に聞こえる程度の声に調節し

伝える。











キョトンと目を丸くした後に、頬に手を当て赤くなる彼女。

まるで、夏の熱気にやられたような…











榛名「お…お嬢様!?///」










…?








笑顔の女性にはそう言えと教わった。







イ-505「はい、お嬢様。」








そして彼女に向って敬礼する。



頭のCPUが左目にテキストボックスを開いて

そこの文字を読み上げるよう指示をだす。


口を開いて、それを読み上げる。


初めて会った相手にはこう伝えるよう私自身

社長より直々に指示を受けている。









イ-505「この度は○○社製品。『イ-505』をお買い上げ有難うございます。」



イ-505「艦娘及び人類保全のため尽力を尽くします。」







榛名「は、はぁ。」







呆気にとられている彼女、『榛名』と言ったか?








-艦種『戦艦』 金剛型-



-『榛名』登録しました-




…良し。








提督「おーい!榛名ぁ~!」









先程、榛名が出てきた入り口から

身長およそ190cmの、短くセットされた黒髪の

男性がノシノシと歩いてきた。

その肩には皺が入った年季の入った上着が掛けられていた。




上半身はタンクトップ姿だった。




白髪混じりの髪。

顔立ちからするとおそらく40代だろうか


しかしその

筋骨隆々の雄々しい体からは老いを感じさせない。







榛名「あ、提督!トレーニングお疲れ様です!こちら、先程到着されました…えと」








イ-505「イ-505です。この度は○○社の

製品をお買い上げ有難うございます。艦娘と…」






先程と同じ内容を読み上げようとした…その時








提督「ああ、いい、いい。そういう面倒くさいのは!」






…?







提督「それよりも…良く来てくれた!歓迎するぞ!

いやぁこれで少しはウチの娘達の苦労も和らぐだろなぁ!」






腰に手を当て大きな声で豪快に笑う彼。




一体何がそんなに楽しいんだろうか。



横を見ると、榛名がニコニコと微笑んでいた。








…?








提督「おっと!そうだ!おめぇさん!名前は!」









この提督はいささか

頭が弱いのだろうか。

先程、説明したはずだが…









イ-505「…」


イ-505「イ-505です。この度は○○社の

製品をお買い上げ有難うございます。艦娘と…」









ゴチン…




-頭部に僅かな衝撃を感知-



-異常ありません-







…殴られた。何故?




提督「だぁかぁらぁよ!!それはお前さんじゃなくて!『ただの製品番号』だろ!」




提督「お前さんの『名前』だよ!な・ま・え!あるんだろ?」




榛名「て、提督!いきなり頭を殴るなんて酷いじゃないですか!」




先程までニコニコと笑みを浮かべていた榛名が、私を庇うように提督と私の間に入る。





…名前…名前…






―なぁ、○○○?義手の調子はどうだい?ちょっと軽い素材を使ってな…





―○○○!!買い物付き合いな!もちろんあんたは荷物持ち!




―なによ?紳士はね、女性の荷物を持つものよ?









―○○○!!…あぁ、良かった…もう!

生きてたら返事をすること!死んでても返事をすること!









イ-505「」ボソッ







提督「ん?」







榛名「え?」







イ-505「いーご…イーゴです…『イーゴ』と呼ばれてました…。」














提督「イーゴ?変わった名前だな…。」





顎にその太い指を当てて

眉を顰(しか)める彼。








―イ-505?…長い!長いわよ!






―いちいち『イ-505醤油とって!』『イ-505肩を揉みなさい!』とか面倒よ!






―い の ごーまるご…い の ごーまるご…う~ん…







―あ!『イーゴ』!

あんた今日から『イーゴ』ね!

はい決まり!今から決まったわ!






―じゃあ今日から宜しくね『イーゴ』!








…私は…イーゴ…











榛名「よろしくおねがいします♪…い、『いーご』さん!」







提督「変な名前だなぁ…まぁ、今日からよろしく頼むわ。

それと着任初日で悪いが、

ちょっと確認したい事があるんで一緒に執務室に来てくれや…。」






イーゴ「はい…。」







執務室に入ると、ムッとした熱気に包まれた。




朝から閉めきっていたのに加え今の季節が

夏という事も災いした。


換気扇を回し、秘書艦の榛名と

対深海悽艦兵器、『イーゴ』を迎え入れる。



そして、予め本営から

受け取っていた彼に関する資料に目を通す。


実際に会ってみると

事前に得ていた情報と些か食い違う点が

見受けられたため、


その確認だ。






まずは外見のデータ。






提督(艶のある黒髪に…

下ろし立ての長袖の白シャツ

下半身は黒いタイトパンツ、

革靴か…)






提督(左目は確か、

赤い瞳の義眼と聞いていたが、

普通の黒目じゃないか?)






榛名「イーゴさん、お茶って飲めるんですか?」







提督(んで、白い手袋か…その下は義手だったか)







イーゴ「味覚はありませんが、

人の消化器官は残ってるので

消化吸収には問題ありません。」






唇に指を当て

表情を曇らせる榛名






榛名「味覚て…味がわからないって事ですか?」








提督(ふむ…)








提督(そしてベースとなった『深海悽艦』は

イ級…ランクは駆逐艦か…

まぁいきなり戦艦級のものが来られても、

こっちが困るがな…)







イーゴ「戦闘には不要ですので。)






無表情で答えるイーゴ。





提督(俺たちにはちょうど良いよなぁ…)






提督(戦力や、遠征任務の補助になるのは有難いが、

やっぱり『深海悽艦』を用いてる点で、少し不安が残る…万が一という事も無きにしもあらずだからな。)





提督(いざというとき時に俺たちが対処できるレベルじゃないと。)






榛名「そうですか…

香りが良くて美味しいお茶なんですけど、

榛名ちょっと残念です…」シュン








イーゴ「…」








―女の子が悲しい顔をしていたらどうすんだっけ?








…ポスン





榛名「!?」





提督(ふん?榛名の頭に手を?)







イーゴ「ヨシヨシ…」ナデナデ








榛名「あ、あのこれは?」







イーゴ「女の子が…悲しい顔をしていたら」







イーゴ「こうすべきだと、教わりました。」






提督(…)









提督(変なヤツだな)










提督(身長は、榛名と同じくらい…そんなやつが

頭を撫でるとこって…なんだかシュールだな。)





提督(にしても…こんな細っこいやつが本当に深海悽艦と渡り合えるなんて…いや、艦娘も似たようなもんか…)








提督「イーゴ。」









イーゴ「なんでしょう提督?」ナデナデ








提督「一心不乱に撫でてる所悪いんだが…」









イーゴ「はい」ナデナデ









提督「2、3質問したいんだがなぁ」








イーゴ「どうぞ」ナデナデ







提督「…やっぱりその撫で撫で止めてやったら

どうだい?提督気になるよ。」









イーゴ「?」ナデナデ









提督「いや『?』じゃなくてよ。」









イーゴ「榛名お嬢様はまだ

『困り顔』のようですが?」










榛名「///」ナデラレ








提督「そりゃ、撫でられ

続けられたら反応に困るがな。」








イーゴ「?」ナデナデ…





提督(『対深海悽艦兵器』てこんなヤツばっかなのか?)






イーゴ「質問とは?」






提督「やっと止めたか。うん、先ずはよ、

その左目だ。資料の写真だと赤い瞳の義眼だが?」





イーゴ「ああ、これ今は黒のカラーコンタクトはめてるんです。」






すると、イーゴは右手の手袋を外し、

シャツの胸ポケットに入れた。

袖から先は、人の手と同じ五本の指のシルエット、

同じ関節の数。


だが人の物と呼べるのは『形』だけ。



人の手は、鈍い光沢なんて持たない。



黒い義手がそこから覗いていた。





人ならざる者の掌。





慣れた手つきで左目に指をやり、


グリッと瞳の表面を撫でると、

黒目が外れ、



ウサギのような赤い目が現れた。




提督「…」



榛名「 ! 」






両の手のひらを口に当て

目を剥いて

榛名が驚きの表情を浮かべていた。





有機物と無機物の入り雑じった

生き物と呼べるかどうかも怪しい生き物を

初めて見たのだから仕方がない。






提督「そうか、カラーコンタクトだったか。

今その目には『何が』見えている?」






イーゴ「今は、デフォルトで『脈拍』です。」







イーゴ「普段はあまり多く情報は出さないようにしております。生活においても、戦闘においても視界を妨げるのはよろしくはないので。」







提督「そうかい。」







提督「そのゴツい箱の中はお前さんの『獲物』かい?」






イーゴ「『獲物』とは?」






提督「『兵装』か?って事だよ。」







イーゴ「はい、これ等は私の通常戦闘時における

装備一式です。」










イーゴ「私は旧式のため、新製品用の兵装とは

互換がとれないので、どうかご了承下さい。」









提督「なに、十分さね。にしても装備はそれだけかい?」









イーゴ「いえ、最低限の装備として、この義手には

『射突機』が装備されています。」











イーゴ「こちらの、重火器で殲滅出来ない場合や、

弾薬節約が目的ならば

この『射突機』で止めをさすように仰せつかってます。」






説明を受けたが、この要は

この『射突機』とは『くぎ打ち機』のような武器らしい。






イーゴ「ただ『質量を打ち出す』という簡単な構造故に

耐久、信頼性については開発班のお墨付きです。」






提督「そりゃ良い。」






提督「実戦の時にでも見せてもらおうかね。」







イーゴ「はい」








提督「質問は以上だ。今日のところはもう、休みな。」




提督「明日から、またここの説明してやるよ。」




提督「榛名、こいつを部屋に案内してやれ。」






榛名「は…はい!イーゴさんこちらへ♪」





榛名に案内され、自分の装備の入ったボックスを持ち上げ、

執務室をあとにするイーゴ。






提督「ああ、それと今夜1900に食事会開くからな!来いよ!」








イーゴ「…食事会…ですか」








提督「自己紹介も兼ねてな、料理はウチの娘共が作ったんだ。」









榛名「榛名達が腕によりをかけてお作りしたんですよ♪」









榛名が腕を曲げて、いわゆるガッツポーズを取るが

その可愛らしい笑顔はその直後、それを曇らせた。








榛名「あ…」







イーゴ「…」






そこまで言ってから、先程の事を思い出したようだ。





イーゴは…味覚が無い。











-1900



鎮守府食堂にて…





提督「よし!グラスは持ったかお前らぁ!」





少し大きなテーブルを私を含む数人が囲んでいる。


皆、艦娘のお嬢様達なんだろうか。





艦娘s「「「は~い!」」」


???1「…フン」





元気な彼女達の声が食堂に木霊する。


だが、一名、セミショートの髪を

お団子付きのツインテール、吊りスカートの女の子が

テーブルから少し離れた所にいます。


お腹が痛いんだろうか。

少し不機嫌な顔をしている。






提督「ではこれからイーゴくん着任おめでとうの会を始める!かんぱーい!」






艦娘s「「「かんぱーい!」」」







???1「……かんぱい」












イーゴ「」シャキシャキ







野菜の盛り合わせ








提督「がっはっは!飲め飲めお前らぁ!

今夜の酒は俺が用意してやったんだぞ!

上官のポケットマネーで飲む酒はうまいだろぉ!」







イーゴ「」パクパク







ポテトサラダ








???2「うふふ♪お酒なんて久しぶり~♪ん~美味しい」ゴクゴク





やや肉つきの良い女性が、頬を緩ませ

『アルコール』に下鼓を打つ。





イーゴ「」モシャモシャ






サーモンのカルパッチョ






???3「ちょ、ちょっと『???2』姉ェ!

飲むペース抑えてよ!前に部屋で飲んだとき思いっきり吐いたじゃない!」






少し慌てた様子で先程の女性に制止の言葉を掛ける。

同じ様な装いの、女性(こちらは少し細い体つきだ。)






???2「もぉ!それは忘れてって言ったじゃない!それに

今日くらい飲ませてよ~!

ね、提督~、無礼講でしょぉ?いぇ~い、ぶれーこー!!」









提督「はぁーはっはっは!そうだなぁ!無礼講だ!飲め飲めぇい!!」









イーゴ「」モヒモヒ






生姜焼き





イーゴ(この豚肉の食感良い。)








ガヤガヤ


ワッチャワッチャ









???4「…こんな隅~っこで…一人で飲んで…」







???4「…な~んか…不機嫌?」






???1「…別に…」クピ







???4「やっぱり…『アレ』?」






???1「…」






???4「ま~…いきなり仲間になる相手がね~…『深海棲艦』じゃあねぇ」






???1「…!」ピク






???4「あ、そうだ。ヤキトリ…貰って来たけど食べる?」






???1「…」ヒョイ…パク






???4「あ~…それアタシのモモ肉~…ま~いっか」














???5「は、榛名さ~ん。お手伝いします~!少し休んでて下さぁい!」






榛名「いいえ♪榛名は大丈夫です♪ありがとう???5ちゃん」ナデナデ






???5「///」








食堂の奥を確認すると、

榛名お嬢様と…桃色の髪に白い帽子を被った

小さなレディの姿が見えた。


料理や飲み物を準備しているんだろうか。






私も手伝うべきか…



立ち上がろうとしたら、提督に止められた。









提督「そろそろ、良いだろ…よーし!

さぁ自己紹介の時間だオラァ!」







提督「まず!『???2』!お前からだぁ!」ビシィ






???2「は~い♪」






阿賀野「阿賀野型 1番艦の『阿賀野』で~す♪よろしくね!いーごくん!」オテテ フリフリ







提督「次ぃ!『???3』!」ビシィ








能代「阿賀野型 2番艦『能代』です!よろしくお願いします!」ケイレイ








提督「ほれ次ぃ…ッてあれ?」








提督「あ、おめぇら!

何をそんなすみっこでモノ喰ってんだ!

ほれ、こっち来て新しい『家族』に自己紹介せんか!」






???4「へ~い」テテテ








???4「オッス」








イーゴ「?」







伏し目がちの髪の長いレディ







初雪「…初雪です…よろしく」







イーゴ「初雪…お嬢様ですか」







阿賀野「ぷっ…」








能代「ちょっ…阿賀野姉ェ…笑っちゃ…失礼…ぷふっ」









提督「はーっはっは!傑作だなぁ!『初雪』が『お嬢様』ったぁ!」









初雪「むぅ…そこまで笑われると…心外」








イーゴ「??」








提督「はぁ…愉快、愉快!さ…てと、

おい『???1』!お前もコッチ来いよ!」







???1「嫌よ…」ボソッ









提督「おいおい…俺と二人きりの時ならいざ知らず、

なにもこんな時までそんな、不機嫌にならんでも…」







???1「司令官うっさい!!」ダッ








提督「おいぃ…ああ、行っちまった。

嫌なら…なんでアイツ来たんだよ…」







初雪「ん~…あたしが誘った感じ…」








提督「あ~…なるほど…」








イーゴ「私は…何か…間違ったでしょうか…」







提督「いや、なぁに…。

ちょっと虫の居所が悪かっただけさね。

気を悪くしないでくれ。」









イーゴ「…私は気にしません…。」














???1「…うざいのよ…」





???1「私は…あんな奴…認めないから…!」













イーゴ「皆さま初めまして。

○○社『対深海棲艦兵器』イ級モデル『イ-505』です。

皆様の援助が優先事項です。」






イーゴ「追加補足ですが、

これは規定にはありませんが、

他に何か困りごとが有りましたら、なんなりとお申し付けください。」ペコリ







白雪「ん…そういえば…

女子トイレの電球が何個か切れかけてるのがあった。

新入り…頼んだ…!」









イーゴ「畏まりました。初雪お嬢様。」









能代「あ、そうだ私達の下着なんだけど…

ちょっとデリケートな物もあるのよね。

手洗いが一番なんだけ…ど

イーゴくん、お願いしても?」








イーゴ「畏まりました。能代お嬢様。」








ア、ワタシモ~


ジャア、アレモ オネガイシヨウカシラ…


アレト ソレト…


アレモコレモ…







提督「はーはっはっは!早速パシリだなぁ!イーゴ!」















阿賀野「zzz」スゥスゥ







能代「阿賀野姉ェったら…も~。」アタマカカエ







提督「なぁんだ!阿賀野はやっぱり酔い潰れちまったか!

能代そろそろお開きにするから阿賀野運んでやれ。」








能代「あ~んもう!だから飲ませたくなかったのに~!」







提督「はーっはっは!これで『また太った』なぁ阿賀野!ほれほれ」プニプニ










阿賀野「むぅ~…zzz」









能代「提督!お姉ぇのお腹突っつかないで下さい!」










提督「触り心地が良くてな~」








能代「だからって触んないで下さい!」









イーゴ「提督」







提督「あ?なんだ?イーゴ」







イーゴ「紳士は…あまり『婦女子』の肌に触れるべきではありません。」









提督「頭を撫でるのは良いのかよ?」











―頭を撫でるのは良いのですか?



―頭は別よ、『べ・つ』!

撫でられると安心するもんなのよ!



―ほれ!さっさと分かったら頭を撫でる撫でる



―はい…



―物分かりが良くてよろしい♪









イーゴ「頭をなでると…安心すると教わったので」







提督「研究所でか?」







イーゴ「ハイ」







イーゴ「紳士たるものを…教えて頂きました、

まだ勉強中でしたが…突然ここへの配属が決まったもので…」








提督「悪いことしたなぁ」








イーゴ「いえ…。あの…お聞きしても?」







提督「質問一つにつき500円な」








イーゴ「…では1000円ですね」








提督「冗談だよ…ほれ、どうぞぉ」







イーゴ「ありがとうございます。

私は…ここの事は、多少の情報は得ていましたが。

本当に艦娘のお嬢様方はあの方々だけなのですか?」







提督「ああ。まぁ…聞いただろ?外れの方の鎮守府だってよ。」









イーゴ「はい」









提督「ここ期待はされてないんだよな~…残念ながらよ…」








提督「おっと、こういうとアイツラまで外れ扱いだな…」










提督「あいつらは良くやってんだよ…ただ、活躍の場が無いだけなんだ」











提督「ここはな…

大体が遠征任務で他の大規模作戦をしている他鎮守府のために

資材のお使いしてんだよ。」









イーゴ「戦艦の…榛名お嬢様もですか?」








提督「あいつはまぁ…あの…あれだ、その内…な。」









イーゴ「はぁ…では次に…」









イーゴ「提督…提督は、最初からこの鎮守府で…?」










提督「いんや…」







イーゴ「…」








提督「元々はな~…俺も、それ~なりの所にいたんだよ…ホントだぞ?」







イーゴ「疑いません、大丈夫です。」








提督「そうかい」








イーゴ「それでは、なぜこの鎮守府に?」








提督「ちょいと昔に…ヤンチャしてな。」








提督「これも、そのうち話してやるよ…」









???5「て、提督!こちらのお皿、下げちゃっても良いですか?」








提督「ああ、ありがとよ…ん!?」







???5「ひゃあ!なんですか!?びっくりしましたよ」










提督「そういやぁお前まだ紹介してなかったよな!

榛名の手伝いしてたから気付かなかった。提督うっかり。」










???5「そういえば…。うん。初めましてイーゴさん!」








春雨「白露型 5番艦の『春雨』です!」











イーゴ「…よろしくお願いします。春雨お嬢様。」










春雨「はい♪」









イーゴ「…この手は…?」









春雨「握手です!さ、手を出して下さい!」










イーゴ「…ですが…」









春雨「ほらはやく♪」ギュム









春雨「え?カタい…?」










イーゴ「義手ですから」









春雨「…ッ…!?」










提督「…」










提督「そういや…昼の質問の続きぃ」











イーゴ「はい?」











提督「おめえさん…」















提督「『人』の部分て…どんぐらい残ってるよ?」










イーゴ「…」








イーゴ「まずは、見ての通り

四肢と左目については『この通り』ですので、人ではありません。」










イーゴ「また、外部の方々や、

民間人にも威圧感をなるべく与えぬよう、仰せつかってるので

この『手袋』や『カラーコンタクト』で隠すようにしています。」










イーゴ「次に、この体の内側についてですが、

『肝臓』『すい臓』『腎臓』も機能強化された人工臓器にすり替わっています」











提督「血液を綺麗にしたり、

薬物への濾過機能を強化してるってことかい?」












イーゴ「端的に言えばそうなります。

循環器系が『人のまま』では負担が大きすぎて途端に使いものにならなくなるので」














イーゴ「あとはそうですね、背筋、腹筋など大きな『筋肉』にしても、

有機物で生成された人工の物を移植してあります

自分の細胞を『基礎』にしてるので拒絶反応もありません。」












イーゴ「高密度の造りなので生体筋肉と比較しても面積当たりの出力は何十倍と違います。」











提督「なんか…とんでもない話しだな。」











提督「臓器に関しては、その…なんだ?循環器系以外は人間のままか?」










イーゴ「はい。後は、脳内にCPUが埋め込まれていて、

ここでマルチに状況把握、身体情報の確認などができます。

ちなみに消化器官及び、生殖器は人由来です。」









提督「だから、食えたり飲んだりできんのか…。」









イーゴ「はい、人の体の部分を維持するためには欠かせないので。」









提督「…さっきから、お前さん『かなりの量の日本酒』飲んでるけどよ」










提督「酔わないのも、その人工の肝臓のおかげかい?」











―あんたは酔わないから良いわよね~、うぅ、頭痛いぃ…




―そういう、体ですから。














イーゴ「…正解です。」











提督「ちょっと…寂しいよな、それ」











―それはそれで、ちょっと寂しいわね。










イーゴ「『二日酔い』という症状に悩まされるよりか、良いとは思いますが?」












提督「そういう、問題じゃあないんだよな~…。」










春雨「あ、あの提督。そろそろ…」










提督「ああ、そうだな。

どれ、んじゃあ明日は『演習』でもしてみるかね、テストがてら」







イーゴ「かしこまりました。」








提督「ゆっくり休めよ…ってお前、『寝る』のか?」








イーゴ「生体部を休ませる必要はあるので」









提督「そっか…んじゃお先に失礼するな。」ヨッコイセ









提督「おーい!お前らも、とっとと風呂入って

もう寝ろよぉ!明日に響くぞぉ!!」








提督「さっさと寝ない悪い子はぁ…

提督の『髭ジョリジョリの刑』だぞぉ!!」ウガァー







イヤァ!コッチコナイデ!


アレ、イタインダカラァ!


キャー!カレイシュウ!カレイシュウ!!


ダレガ カレイシュウ カァ!!









イーゴ「…部屋に戻りましょう…」











ザーン…


ザザーン…







鎮守府の横に設置されてある、

少し古くなった演習上にて








提督「よぉし!二手に別れてチームを組め!

一発被弾した者は、そのまま場外に出ろよ!」






阿賀野「はぁい♪皆頑張りましょー!」




白雪「…まだ…眠い…」




春雨「はぁい♪」













能代「さ、イーゴ!あなたの実力、見せてもらうわよ!」





???1「…っち、なんであたしがこいつと同じチームなのよ…」ボソッ




能代「満潮!聞こえてるわよ!そんな事言っちゃだめでしょ!」




満潮「…はいはい」




イーゴ「…普段通りで?」





能代「ええ、研究所だったかしら?あそこにいた時と同じようにね!」





イーゴ「かしこまりました。」







-システム起動します-






-脈拍 若干興奮気味です、視界…-







イーゴ(簡略的に頼む)







-全て正常値です-







-出力設定はどうしますか?-


→[30%]








イーゴ(いや…やっぱり)








→[20%]









-兵装選択-


→[連装機関銃 M134改]









※M134…6本の砲身が回転しながら弾を発射する。

いわゆるガトリング砲!

これは、さらに軽量化を加えた改良型だよ!








-弾種設定-


→[ゴム模擬弾]







イーゴ(設定は完了)




己の背後にある。


長いボックスを開けると、そこには

ガトリング砲が重い存在感を放っている。








ズシッ…ン










右手で持ち上げる。


重力が、質量が、宙に浮くのを拒むように下に働く。






だが、それを否定するように強靭な筋力で持ち上げる。





黒いタイトパンツに白いシャツ、赤い左目以外は


どこにでもいそうな少年だが




その、細いシルエットに似つかわしく無い




ゴツイ殺戮兵器。




彼とチームを組む2人の艦娘はその姿を見

、彼が『兵器』であることを再確認した。








能代「…」



満潮「…」







右手の平の親指の付け根にあるコネクタを


取っ手のコネクタに接触させてCPUとの設定の同期をとる。


出力を抑え、弾を模擬弾に変えたそれは


幼い人畜無害な心を持った猛獣と形容すべきか。









-同期を確認、撃てます-








イーゴ「準備できました」







革靴を脱いで、

演習場、入り口にそろえて置く。


義足の足裏を海面にそろえるように

直立する。




戦闘の前にいつもやる慣らし。





ポシャン…


ポシャン…





右手の凶器の質量を無視したような体遣い。











海面を滑る




蹴る




走る




避ける





阿賀野「うわーん!当たってよぉ!!」






ズドン…ドン…!





左目の義眼で20m先の阿賀野お嬢様の姿を確認。


体をスライディングのように滑らせ照準範囲から垂直方向に逸れます。


その動作を維持しつつ

右肩の筋肉を強張らせ、射撃準備に入ります。


勢いを無くし、失速したとこで

上体を起こし、砲身を向けて…








ヒュィィィ…






砲身が最初はゆっくりと回転し始め、徐々にそれに加速がつき…









-Fire-







ズガガガガガ…






阿賀野「ヒャァアアァ!!!」




-Fire-


ズガガガガガ…





阿賀野「イヤァァァ!!!」





-Fire-


ズガガガガガ…






阿賀野「ヒイィィィ!!!」






-Fire-


ズガガガガガ…




…ヒュィィィン










砲身の回転が止まり、弾を撃ち尽くした。





だが、模擬弾は全て外れ、

必死な様子でお逃げになった、

阿賀野お嬢様の周りを綺麗に穿っただけだった。





阿賀野「…あ、あれ?お、終わった…の?」









-Reload-






-Reload-







-Reload-









弾切れの表示が邪魔だ。



その場に立ちつくして、空になった

弾倉を落とす











初雪「…へ…」







初雪「…へぇ…」







初雪「…へっ…ブシっ!」








ズドン!





ヒュルルルル~…






イーゴ「?」











バゴン!



イーゴ「プベッ」






バタン






一同「「「 え…え~…弱っ! 」」」







初雪「ん…風邪ひいたかな」ズビビ






能代「い、イーゴ!?」








満潮(駆逐艦の一撃でノックアウト…って…こんなとこに配属になるから大した奴じゃないと思ってたけど…)







満潮「どんだけ弱いのよ…」ハァ














―紳士?



―そ。



―紳士とは?



―最高に格好良い男よ!モテモテよ?



―それは…べつにどうでも…











-システム再起動します-



-おはようございます-



左目に次々とスタートアッププログラム

のウィンドゥが表示されていく。



意識が覚醒すると、そこには白い天井。




ここは?




室内というのは把握できる。

そして今、自分が仰向けになっていることも。


体の上に掛けられているこれは…タオルケット…?


という事はベッドに横にでもなっているのか





ゴソ…






榛名「あ!大丈夫ですか?イーゴさん?」







榛名お嬢様?






榛名「良かった…

演習で初雪ちゃんの模擬弾が頭に直撃してから

意識が無かったので…」









初雪「こうかいはしてない…反省はしている」









初雪お嬢様も、

榛名お嬢様に並ぶような格好で椅子に座っています。







榛名「まず、無事に意識が戻って良かったです。」







イーゴ「ご心配を、おかけしました。」







バァン







提督「大丈夫かぁ?」ギシッギシッ







榛名「あ、提督」







初雪「ヨッ」








イーゴ「」ペコリ








提督「初雪、くしゃみで撃った砲撃で相手を倒しちまうなんてな…」ギシッギシッ








榛名「て、提督!そのダンベル降ろして下さい!」








提督「おっと、失礼」ゴトッ…ゴトッ







提督「っと…ちょいと

榛名、初雪、こいつと二人で話がしたいんだが…

席外してもらっても良いか?」





榛名「はい!大丈夫です。」







初雪「ん」







イーゴ「?」













提督「大丈夫か?」







イーゴ「はい、いつも通りに演習を行おうとしていたのですが」







提督「いつもあんなに反応が遅いのか?

実戦だったら、アレ死んでるんじゃねぇか?」





そうだ、ここには女研究員はいないんだ、

迂闊に『壊れて』もいられない。






イーゴ「提督、私達は『死ぬ』ではなく『壊れる』という表現の方が」









バゴン






頭を叩かれた。






-頭部に僅かな衝撃を感知-




-異常ありません-







提督「そんな事言うな」








提督「お前は『生きて』いるんだ。だから『死ぬ』、合ってる」







提督「今日からそう表現することな!忘れんなよ!」








-記録しました-



-自壊の表現を『壊れる』から『死』へと変更-





イーゴ「変更…しました。」




提督「んむ。」





イーゴ「あの…私の兵装は…?」




提督「あ~…あのクソ重いやつな。

お前の部屋の前に置いておいたぞ。」





イーゴ「お手数をおかけします。」






提督「気にすんな。」






提督「今日はもう、休め。日も暮れてきたしな。」








イーゴ「そう…ですね」




イーゴ(この部屋には…時計は無いのか…)




-現在時刻 17:10-




イーゴ(立派に夕方だ…

演習をしたのが11:00頃だったから約4時間か…)





提督「目が覚めた所、悪いがよ…明日はちょ~っと皆と遠出してもらいたいんよ。」






イーゴ「遠出…ですか?」




提督「ほら、あれだ、『遠征』だよ。お前さんには

遠征中の娘共の『護衛』をお願いしたい。」






イーゴ「ほとんど活躍が出来なかった私で務まりますか?」





提督「明日は『遠征任務』だからな。

ちょっとお使いに行って欲しいだけだからな。

そんな危険もないだろうさ。

まぁ、念のためにお前さんにも行って欲しいんだよ。」








提督「明日の任務についてなんだが、

こっからちょっと離れたトコのお偉いさん方からの

直々の『急な』指令だったから断る訳にもいかんかったんだよな~。

…ったく、よりにもよってあんなヤツからなんてな…」









イーゴ「?」








提督「あ…何でもない…」







提督「伝えたからな。」






イーゴ「はい、義手のメンテナンスは…行っておきます。」








イーゴ「確認したいのですが、明日の、その遠征任務の編成とは?」









提督「それならもう、決まってるぞ。明日はな―」











孫提督「うん…うん!

じゃあねオジイチャン!うん!僕、皆と仲良くやってるよん!」








孫提督「大丈夫だって!だって僕オジイチャンの孫だもん!」









孫提督「ばいばぁ~い♪次帰ったら、お小遣いちょーだーい♪」







ガチャ…チィン…








孫提督「ふぅ…年寄りの相手するのも疲れるな~」コキコキ









???「あ、あの…孫提督?」










孫提督「ん~?」










???「○○鎮守府への訪問のお準備は…」








孫提督「あ~…面倒くさいから…ほらアレ…なんだっけ?」








???「『対深海棲艦兵器』の?」







孫提督「そう!最近着任したじゃん?

『戦艦 ル級』クラスの『アレ』に荷物まとめさせてっから」








???「あのぉ…お言葉ですけど、あんまりそういう使い方は~」







孫提督「なぁに?僕に文句でもあんの?オジイチャンに頼んで『解体』しちゃうよ?」








???「も…申し訳ありません!」







孫提督「それで良いんだよ♪」







孫提督「さぁて…待っててね~『榛名』ちゃぁ~ん♪」







???「…」













-鎮守府より遠海-






春雨「よいっしょ…ん!」グイッ








春雨「これで…充分でしょうか?」ガコン







満潮「さぁ、ま…ウチの艦隊で回せる分と、

あと『大鎮守府』のお偉いさまへの

『貢物』分が確保できれば良いんじゃないのぉ?」









イーゴ「」ドポポポ…









春雨「もう!満潮ちゃん!

ちゃんとノルマ分の燃料のサルベージ終わったの!?」









イーゴ「」ザパァァァ









満潮「とっくよ。あんたの方が遅くてどうすんのよ?」ゴトン









イーゴ「」ドポポポ…









春雨「うぅ…!」








イーゴ「」ザパァァァ








満潮「それよりも…『アイツ』はどうなの?」









イーゴ「」ドポポポ…








春雨「『アイツ』?」








イーゴ「」ザパァァァ








満潮「あの…ほら…深海野郎よ…」








イーゴ「」ドポポポ…









春雨「『イーゴ』くんでしょ!『深海野郎』なんて…」









イーゴ「」ザパァァァ








満潮「…」





イーゴ「」ドポポポ…






満潮「あぁ!もう!

おっそいわねぇ!!トロトロ、トロトロとぉ!」









満潮「もっと早くタンクいっぱいぐらい回収できないの!」









イーゴ「申し訳ありません。あともう少し…」








満潮「さっきも『あともう少し』!だったでしょ!」








イーゴ「申し訳」











満潮「謝るんなら、とっとと手を動かせ!この『深海野郎』!」











春雨「ちょ、ちょっと満潮ちゃん!それ、言い過ぎです!」










イーゴ「…」










満潮「…」










満潮「なによ…なんか文句でもあんの?」ギロッ










イーゴ「いいえ、作業再開します。

春雨お嬢様、申し訳ありません。もう少々お待ちください。」ペコリ










春雨「いえ、私は大丈夫だけど…」









満潮「…っち…!…ヘタレ」ボソッ













-も…MO…モク…ヒョ…U…モクヒョウ ほそく-





-…!イ-505…コード…ニンシキ…『○○チンジュフ』…-





-サイジュウヨウこうもく…し…シレイ…ニヨリ…-






-せん…sENN…センメツUUUuuuuUUU!!!!-










春雨「?」







春雨「ね、ねぇ満潮ちゃん?」クイクイ







満潮「何よ?さっさと、鎮守府に運びましょ?」








春雨「今、何か聞こえなかった?」









満潮「さぁ?気のせいでしょ」









満潮「っていうか、

海面移動中にいきなり話しかけないでよ。

転んで燃料タンクこぼしたらどうすんの?」








春雨「でも、ほとんどイーゴくんに任せちゃって良いの?」









満潮「良いのよ…あの怪力ぐらいしか取り得ないじゃない…

演習でも散々な結果だったわけじゃない?」









イーゴ「…」ズッシリ









春雨「…う~ん、でもあの時は…」








満潮「…はぁ…」








満潮「あのさ…良い子ちゃんぶるのやめたら?」






春雨「…!そん…な…」






イーゴ「…?」ピタリ







満潮「自分が疲れるだけよ?」







春雨「わ、私は…そんな…違うよ…!ただ…少しだけで良いから

イーゴくんのこともう少し優しくしてあげたらどうかなって…」







イーゴ「…」






-識別コード 駆逐艦『ロ級』モデルロ-808-


-識別コード 駆逐艦『ハ級』モデルハ-303-


-他 『異常』シグナルを感知-



-チェックします-




-…-



-深海棲艦『覚醒薬』により『浸食』が始まっています-







-危険です-




-危険です-





-危険でs…




…プツン







イーゴ(警告邪魔)






イーゴ「…」








春雨「―そういえば、

今日ってウチの鎮守府に

この遠征任務を指示した提督さんが訪問に来るんだよね?」






春雨「何のお話かな?」







満潮「さぁ?阿賀野さんや能代さん、

それに初雪まで別の海域に遠征に行かせるなんて…」








満潮「今、鎮守府にいるの、

榛名さんだけじゃない…警備が手薄すぎるわよ。

いくら戦艦だからって…」








春雨「うん…あれ?」クルリ






春雨「イーゴくん?そんなとこに立ってないで…早く戻ろうよ~」






満潮「…はぁ、手間かけせんじゃないわよ!深海野郎!」








春雨「もう!…置いてっちゃうよ~!」








イーゴ(…どこだ…?)









-目標接近中-









イーゴ(…あれは、薬物の乱用で

意識を『浸食』された『製品』の反応…)










-目標接近中-





-目標接近中-











-でんち…バッ…BA…バッテリーぎれ…-







-すてりゅす…シュテリュす…『ステルス機能』かいじょ…しまス-







-コウゲキ…かいシィ…いたダキまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁSUuuuuu!!!!-











ザパァァッ!


ザパァァァァン!!






春雨「えっ!?」






満潮「な!?」





イーゴ「…!」










-距離訂正 至近距離-







-交戦に備えて下さい-







-健闘をお祈りします-























ハ級?[フシュゥゥゥ!!!]






突然の出来事




一つ目の歪な青白い輝きを放つそれが

春雨お嬢様に襲いかかる。


小型トラック程の大きさのある、黒い装甲を身にまとった暴力は

大きな顎を開き、白濁したそれを剥いた。



厚みのある凹凸がそれぞれ異なるノコギリ状の牙



その奥から覗く絡みつく

ねっとりとした粘膜を引いている舌。



まるで一つ目のティラノサウルスの頭部だけが

泳いでいるかのような。



深海棲艦 駆逐艦『ハ級』のように見えるそれは


ハ級とは…違う…





私達、『対深海棲艦兵器』が脅威と対峙する際に

使用する深海棲艦覚醒薬、それは私達の『捕食』能力を引き上げる代償として

短時間で服用する薬品の濃度、服用回数によって意識を『喰われる』。






研究所で一度、その完全に浸食され壊れた者の末路を見せてもらい

そのシグナルを確認させてもらった。







…感知したロ級モデルとハ級モデルのそれは『浸食』されていた。












ドボォォン!






春雨「キャァァァァ!!」






突然、現れ、奇襲まがいの

突撃をしてきた、ハ級を寸前のところで身を翻し

回避した春雨お嬢さまの隣で


喰いそびれたそれが海面に衝突し巨大な水柱を上げて

春雨お嬢様の姿が一瞬、消えた。






満潮「は、春雨ぇぇ!!」





イーゴ「…!!」





イーゴ「満潮お嬢様!!」






その水柱を突き破って



現れたのは―




ハ級ではなく





ザパァァァン!!







ロ級[キシャァァァ]ニタァ







巨大な牙にまみれた口腔が、満潮お嬢様に襲いかかる。








満潮「…え?」









イーゴ「!」










-出力設定-


→[80%]









背中に背負った燃料タンク

を背後に投げ捨て、

身を屈める。


本来は義肢と人間の生身の部分に負担をかけぬよう

徐々に出力を上げていくが




そこを80%まで、乱暴に引き上げる









両足の関節部の眠って久しい、

駆動部を瞬時に覚醒させていく

ギシギシとその命令主に

逆らうように唸りを上げるが、

お構いなしに前に駆けだす




一歩




二歩




三歩





足の裏が海面に着水するたびに小さな水しぶきの王冠を作る。





そして―







駆!






バシュ





駆駆!





バシュ




駆駆駆!





バシュ










ロ級(仮)がお嬢様に接触するまで距離2.0m






右腕を前方に伸ばす





ロ級(仮)がお嬢様に接触するまで距離1.5m





もっと…





ロ級(仮)がお嬢様に接触するまで距離1.0m







もっと…伸びろ!







ロ級(仮)がお嬢様に接触するまで距離0.5m








ドン!!








満潮「キャッ!」











満潮お嬢様を右腕で突き飛ばす。


彼女の小さな体は、2m程、横に飛び海面にその身を投げ出された。










イーゴ(満潮お嬢様申し訳ありません。

あとで怪我が無いかどうかちゃんと確かめまs…)













瞬間
















黒い物体が目の前を過ぎる。



そして再び、視界がクリアになった。



それの代償だと言わんばかりに私の『右腕』が失われた。











満潮お嬢様を突き飛ばした際に伸ばした右腕を


ロ級(仮)に『持って行かれた』




腕をその狂暴な牙にむしり取られる瞬間は


一コマ、一コマ…カメラで切り取ったようにやけにスロウに見えた





部品が周りに散乱する。


神経を代理する、束になった色とりどりの高密度の人工筋肉。


深海棲艦の体液をベースとした青黒い循環液。


それを支持する骨を代理するフレーム。







肘から先を奪われた。







衝撃で体も、持って行かれそうになったが


義足の関節をロックして踏ん張る。





義手と肉体の接合部がそれに

堪えかねて有機ボルトが捻じれて吹き飛んだ







血がパッと散る。







青い海に赤い斑点を付けたそれは

インクを数滴垂らしたように、落ちて波紋を作り

すぐに消えていってしまった。







左目に次々にエラーメッセージが表示されていく







-接合部より出血-


-循環液及び血液が流出中-


-脈拍 正常値 維持-


-体温低下中-


-止血してください-


-危険です-










イーゴ(…邪魔)






その場に片膝を着いてしまった。




そして、左目に表示されたウィンドゥを次々に処理し


次に自分がすべき行動に移る。











-兵装設定-


→[連装機関銃 M134改]







-!ERROR!-







イーゴ( !? )






-unknown-


-デバイスが見当たりません-


-兵装を確認した後、もう一度…-







イーゴ(…そうだ、装備はほとんど鎮守府に置いてきたんだ…)





体を持ちあげ

海面を移動しながら思い出す。




左目のディスプレイ上で兵装選択を行うが、

通常装備のほとんどが『unknown』状態だ。





今回の任務はほとんど危険の無い海域だからということで

最低限の装備、つまり重火器の類は所持せずに出撃してしまった。



おそらく春雨お嬢様や満潮お嬢様も同じような状態だろう。







当然、普段の通常装備であるガトリング砲も未所持だ。







イーゴ(今は…)








-現出力可能兵装-





-右腕射突機 破損-





-左腕射突機 稼働可能です-




イーゴ(…)




イーゴ(…あとは)









腰のホルスタに備え付けられた

2本とある細い筒状の注射器のような物体に―



『深海棲艦覚醒薬』に触れる







―良い?廃人になりたくなかったら乱用は避けな



―これは?



―徐々に人を捨てる薬だよ



―注射器のように見えますが?




―中に液体入ってるだろ?



―はい



―それ体に打ち込むことで、あんたは

『捕食者』に近付くんだよ



―代償はデカいがね



―今度の演習で打ってみるかい?



―…はい









-こちらはイ級モデル『イ-505』です-



-ロ級モデル及びハ級モデルに警告します-



-これ以上、我々に危害を加えるようであれば-




-こちらもそれ相応の対応をせざるを得なくなります-




-繰り返します。こちらは…-






イーゴ(筋収縮で止血…)



イーゴ(警告シグナルを相手に送っているものの…依然、反応は無しか…)








ロ級[Woooooooo!!!]


ハ級[Shiiiiiii!!!]










-警告はしました-



-応戦します-








黒い質量が魚雷のように

こちらに突撃してくる。





左手で、腰のホルスタから

針の短い注射器を取り出し、




生身の青白い首筋にその先端を

突き立てる。


針が食い込むわずかな感触を確認し


親指でシリンダを打ち込む



首筋からそれが注入される









…クワセロ…


…シニタクナイ…


…イタイ…イタイィ…!


…イキタイィ…ワタシハ…マダァ…!!!!




頭の奥から徐々に大きくなるその声

頭という壁に響いて、反響して大きくなる


重く深くネットリとした呪詛、


生きたいと思う願望が様々に形を変える

『生』という純粋な思い

『生』という純粋な憎悪





生きたいのに生きられない

自分だけが沈んで、

他者が生きているという事実への

憎しみ



それら矛盾し混沌した切望の声が

脳内を荒らす





沈んだ者の呪いの言葉





薬を打ち込む事で体に移植した

深海棲艦の心を解放して

一時的に意識の一部を明け渡す、その行為は



力を得る代わりに人間の意識に

ダメージを与える。






抑圧したはず、

遮断したはずの『痛覚』が

CPUの制御下を離れて

頭痛を引き起こす



メキメキと編み目のように張り巡らされた、

血管という血管に脳を閉めあげられるような感覚。







左目にノイズが走る。


画像処理を後回しにし、

CPUが高速処理で意識の制御を最優先

しているのがわかる。




次いで、ボコボコと血液が沸騰するような

全身を掻き毟りたくなるような痒み




そのかゆみはやがて、右腕の義手と

生身の接合部に集中し―





―肉が爆ぜた







そこから、人工の筋肉でない

幾つもの青黒い液体に

まみれたピンクの筋繊維のような

細長い触手が鞭を振るう如く

ヒュンヒュンとうねって

勢い良く飛び出す。





1本、2本、4本、8本…





階乗に増えていくそれは、肘から失われた

腕に幾重にも巻き付き次第に

とある形を形成していく




生身の肉と機械の接合部を覆うような




『剥き出しの臓物』




肘から先は心臓のように鼓動を繰り返す

極端に肥大化した肉の塊、






新しく形成された

右腕を大きく天に向かって

振るうと肉塊の至るところを突き破り

鱗のような物が覆い始める




やがてそれは一部を除いて

肘から先を覆った。




覆われない部分から一対の青く濁った

『目』がギョロリと覗いた。




そして、肉塊の先端がバックリと割れた

かと思うと上下に白濁した『牙』が

上、下と交互に生え始める。







春雨「あ、あれって…!」




満潮「…イ級!?」






二人は

一目でそれが何かと理解した。



普段から己たちが狩る、

忌むべき存在の一つ。



深海棲艦イ級だ。





イーゴの右腕、肘から先は

イ級の頭部と化していた。








左目のノイズが止む。



CPUの処理が終了した合図だ。




左目に青いフィルターがかけられたように

世界が薄い青に覆われた。









-適応完了しました-



-効果持続時間中に目標を駆逐して下さい-




ひどく冷静になる。



イーゴ(以前もこうだったか)






新しく形成された右腕を見下ろす。



自分の意識で開閉する


大きな顎。




その口腔から露出する長い舌。



舌なめずりすると




失ったはず『食欲』が芽生え始める。



イーゴ(とても、お腹空いた…)



イーゴ(とっても…)





視線を前に向けると二つの黒い影が

こちらに向かってくる。


右目を瞑り、

青い視界のみに環境を委ねる。


右手の顎を閉じる、

黄ばんだ粘液をまき散らし

舌を収納する。


右手を抱えるように

体を捻って…






ロ級[Haaaaaaaaaa!!]





顎が飛びかかる








目を疑いました。


右手を失ったイーゴくんが

首筋に何か、

注射器のような物を突き刺したと

思った次の瞬間に



腕が…ううん、



イ級が『生えて』くるなんて。




イーゴくんにあの二匹が!



燃料サルベージ用の器具と主砲のみの装備で

あの二匹に太刀打ちなんてできないよ!



ただみてるしかできない自分が歯がゆかった。





?




イーゴくんが体を捻って…?






ガゴォォン!!





!




まるで高密度の鉄の塊同士がぶつかり合うような激しい鈍い音が耳を貫きました。




ハ級の体が浮いた!?





イーゴくんが、捻った体を目にも止まらない

早さで反転させたのに数テンポ遅れて気がつきました。



下からすくい上げるように、ハ級の顎を砕いたんです。



折れた牙を散乱させながら、吹き飛ぶ

黒いソレ。



数メートル吹き飛んだ所で水しぶきをあげて

着水しました。



ハ級はそれから沈黙し、

動かなくなりました。







-出力設定-


→[Full]




体を反転させ、その勢いのまま

右手を水面から天に向けて

突き刺す。




ガゴォォン!




捕らえた確かな手応え、

衝撃が装甲を砕き、中の肉を穿ち

一直線に頭部を貫く。







バシャァァン!






小型トラック程もあるそれが

巨大な水しぶきを上げて落下する。


バシャバシャと駄々をこねる子供のように

しばらくのたうち回ると目から光を失った。


沈黙したのだ。





-ハ級モデル 反応ロストしました-
















振り上げた右腕が重力に従うように

肩から垂れた。



-右腕 温度上昇中-



-放熱します-



右肩の接合部からスチームが吹き出し

排熱する。



フシュゥゥゥゥ…



旧式の右腕、エネルギー効率が

最新鋭の物よりも出力も稼働効率も

遙かに劣るその義手がダラリと垂れる。




私の義肢は

一度、最大出力まで力を引き出すと

高温まで熱せられる。

そのため

身体保全を優先して安全機構が備わっていた。





熱の放熱、充填このサイクルを経て

やっと稼働できるようになる。




現在はまだ『排熱』のステップだ。




海面に蒸気が立ちこめ

霧を作る、潮風に流されて

さながら海抜0mに形成された小さな雲。





-右腕 熱量 再充填-




-体温 尚も低下中 注意してください-




高温に達した右腕とは真逆の現象


生体部分への

熱の供給を犠牲にした結果が

これだ。



体が震えてくる。


左目を前に向けると




屍と化したハ級の横を通り過ぎ


次にロ級が海面を進みこちらに接近して

くるのが視界に入る。





右腕は未だに再充填中だ。




血液を失い、体温という

熱をも義手に奪われ

意識が朦朧としてきた




これは痛覚とかそういう

レベルの問題ではない



身体が活動限界に近い事を示している。





左目の視界に映る世界の上下が曖昧に

なってくる。




生体部分の脆さを痛感した。








満潮「お、おい!深海やろ…イーゴぉ!」







満潮お嬢様の声で、

吹き飛びそうな意識を留める。






今度は左肘を折り

抱えるように体を捻る、

左腕の機関を覚醒させる。





-充填中-





…タイミングを見計らって…




ロ級[Syuuuuuuuuuuuuuu!!]




体を喰わんするばかりに凶悪な顎が

迫る。





-距離4.0m-



…まだ



-距離3.0m-



…まだだ




-距離2.0m-



…あと、もう少し



-距離1.0m-







-距離0.5m-




…!






右足の大腿筋に力を込め

片足が支えるには極端な負担の

出力を生み出す。


私の体は左横に弾けるように跳んだ。










-距離零-





…ッシ!!



自分が『いた』空間を

黒い凶暴が通り過ぎようとしていた。


横っ飛びの体を

左足で踏ん張り、

今度は逆の方の足で同じように

横に弾け跳んだ。



まったく異なる真反対のベクトルによって


両足を支える義足の人工筋肉が

内部でブチブチとちぎれるのが

わかる。



これをはずせば、もう動くことも叶わないだろう。







勢いそのまま体を捻り



そして…






-充填完了-






-射出-






ズ…ゴン!






鉄の塊を巨大な釘打機で打ったような

そんな鈍い音が海原に響く。



ロ級モデルの横の腹に左手の平から

飛び出したアンカーを打ち込む。



正面に突っ込んできたはずの体は


ベクトルを無理矢理90度変えられ

真横に吹き飛んだ。




水面に体を擦りつけるように滑り、

徐々に勢いを失い静止した。


ーあろうことか

満潮お嬢様の目の前で





イーゴ「満潮お嬢様お逃げ下さい!」




両足が機能停止し、

両膝を着いて倒れないようにするだけで

精一杯だった。



ロ級のダメージは確かに

深刻そうに見えた。


だが、運の悪いことに

致命傷に至らなかったようだ。


現に目の前の満潮お嬢様に襲いかかろうと

していた。





-充填完了 右腕使用可能です-



右腕の充填が終了した。


左目の視界から兵装選択ウィンドゥを

開く


-兵装選択-


→5inch単装砲



深海棲艦化の『遠距離兵装』


実際、イ級に装備されているソレは

私にも使用できた。


右腕をロ級の背に向けて

顎を目一杯開く。


すると唾液に塗れた

砲身が舌を押し退け

喉の奥から回転しながら

出現する。






-Fire-




ドン!!!



砲弾が一直線の軌跡を描いて

放たれる。


膝立ちという不完全な姿勢で

撃ったため、反動を吸収しきれず


体は後方に吹き飛んだ。






ゴォン!!








ロ級[Gyaaaaaaa…!!]







吹き飛ぶ瞬間に、ロ級の背に着弾を

確認する。



煙をモウモウと上げて、その黒い巨体は

満潮お嬢様に覆い被さるように倒れ込んだ。




満潮「キャァ!!」






バシャア!!




背中から海面に突っ込む。




左目のウィンドゥに、あるポップが

表示された。







-ロ級モデルの生体シグナルの消失を確認-












春雨「満潮ちゃん!」





上体だけを起こすと、

春雨お嬢様が絶命したロ級の下敷きになった

満潮お嬢様の手を引っ張り引きずり出そうと

していたのが目に入った。





ロ級の腹部の柔らかい部分が覆い被さった

おかげで大事には至らなかった。





ようやくその姿が確認できた


が、髪も服も

青黒いロ級の体液

によって汚れていた。




彼女は少し涙目で嘔吐(えず)いていた。

わずかに深海棲艦の体液を

口に含んでしまったのかもしれない。






一方、私は未だに動けずにいた。


右腕は充填中で稼働不能。

両足の人工筋肉は破断しており

体を支える事は出来ない。


左腕も射突機をフルの出力で放ったため

使いものにならなかった。



そんな私の姿を見て、

春雨お嬢様が満潮お嬢様を支えてこちらに

近付いてきた。



満潮「ゲホッ…コホッ」





春雨「イーゴくん!大丈夫!?」






イーゴ「…」




春雨「…い、イーゴくん?」





満潮お嬢様から…

とても良い『匂い』がする




春雨「?、なによ…なに見てんのよ」





その香りは嗅覚を伝い

覚醒した食欲を刺激する。



近付けば近付くほど濃厚になるそれ。







…クワセロ







ガバッ







動かないはずの体が駆動する。


上半身の筋肉を駆使し、

首をもたげて

春雨お嬢様の肩にもたれかかっている

満潮お嬢様に噛みつくように襲いかかる。





-制御下を離れています-




-危険です-



-システムをシャットダウンを推奨します-




-システムをシャットダウンを推奨します-





-危険で


イーゴ(邪マ…!!)





目の前の餌に襲いかかる。


小柄な少女に覆い被さる


じたばたと体の下でもがくが

再起動を果たした

両腕により、その行為は阻まれる。




満潮「ちょ・・・ば、ばか!

離れろこの深海野郎!」





春雨「い、イーゴくんダメぇ!」





右肩を何かに掴まれたが

それを振り切り

小さいその体を覆う


衣服を裂いた。


ほんの少しピンクを帯びた

まだ成長途上な未熟な胸、

くびれの少ない腰

が露わになる。


その肌は、深海棲艦の青黒い体液で

所々塗れている。



…ゴクリ



極上の餌を前にして

自分ものでない、

仮初めの本能が首をもたげる




舐めたい

食べたい



ああ、こんなにも魅力的なごちそうが・・・

少女という無垢な皿の上に塗りたくられた

『俺』にとってのごちそう




欲しい…



…ホシイ









春雨「きゃあ!」



満潮ちゃんを支えてイーゴくんに近付いたけど様子がおかしかった。


遠くから見てただけだったけど

体がボロボロなのは理解しているよ。


でも、顔色も悪くて膝立ちしている

その弱った体は

なんだか『幽霊』みたいにも見えた。




そんなボロボロなイーゴくんが満潮ちゃんに

襲いかかったのに、私は止められなかった。






油断していたんだ。



呆気にとられる私を後目に



私の肩から引っ手繰るように

嫌がる満潮ちゃんに

覆いかぶさり服を裂いた。


ダラダラと涎を流すその姿は

普段の紳士的な態度で私たちに接する

彼とは同一人物とは思えなかった。



獣のように、

主人に甘える大型犬のように

その体に付着した深海棲艦の体液を

『舐め』ていた。





やわらかい腹部、

しっとりと汗に塗れた首筋



それらを味わうように

執拗にじっとりとその舌を這わせていた。



満潮ちゃんは恥ずかしさからか

頬を赤くしていた。






満潮「はっ…あぁ…!

だ、ダメだってば…

目、目ェ覚ましなさいよ!!」





イーゴ「ジュルル…ゴクンゴクン…」






ぼーっとしてる場合じゃない!



満潮ちゃんが危ない!




早く止めさせないと!








春雨「イーゴくん!目を覚まして!」







彼のイ級の右腕に抱きつくけど、

凄まじい力で振り払われてしまった。





尻餅をついて

少しひるんでしまった。






こうなったら…






春雨「イーゴくん…ごめん!」






唯一装備していた単装砲を

外さないように無防備な比較的

面積の大きい彼の背に


良く狙って打ち込んだ






ドォン











着弾した砲弾の勢いそのままに

その体は吹き飛んだ。





そして、完全にのびた事を確認した後に

涙目でうずくまる

彼の唾液まみれとなった

満潮ちゃんに駆け寄った。





帰ろう…鎮守府に







-数時間前 鎮守府にて-






執務室の窓から


正門を見下ろすと

それが目に付いた





鎮守府の前に止まった

ネイビーのジムニー。





地球温暖化の原因は

車の排気ガスが原因だと最初に

説いたのは誰なんだろうなぁと無駄な事に思考を働かせる。




これから自分よりも階級が上の者と

打ち合わせをするのに

緊張などしていなかった、

むしろウンザリしていた






自分が左遷させられた原因の張本人と

会わなくてはならんのだから当然だ。








早く打ち合わせ終わんねぇかなぁ。









車両の助手席側から

とある男が降りてきた。






…相変わらずタルんだ腹してんなぁ





あいつは自分が、軍内部で

『狸』と呼ばれているのに気が

ついているんだろうか。






同僚の飲みでも良く話にでて

話題になる『狸提督』



最初は

数々の武勲を挙げた元帥殿のお孫さん

という事で周りの期待も大きかったが、




蓋を開けてみれば、その実

指揮能力も戦術に長けている訳でもなく

頭が切れる訳でもない、





ハッキリ言ってしまえば

平々凡々のセンスだった。




立派なのは

人一倍、その腹と横柄な態度



何かミスをし周囲の人達がやんわりと

注意する度に

『この僕を誰だと思っている!元帥の孫なんだぞ!』

の一点張りで数々の問題を軍内部で

引き起こしていた。



そもそも、海軍の提督になったのも

『艦娘の子達とニャンニャン出来るから』

というものだった。





テレビの取材の時は

その秘書の艦娘に書かせた

『人類平和のため』の原稿を

拳をふり挙げながら棒読みで

語っていた。





そんな元帥殿のお孫さんの『狸』が

助手席より降りた。




大きなせり出した腹と脂ぎった長めの髪を

揺らしながら、その姿を確認する。







来やがったか…ぼんぼんのガキめ。






気が滅入るのを無視して

携帯で榛名に電話をかける





提督「榛名、すまん。茶を準備してくれんか?」






提督「ああ、そうだ。

角砂糖10個入りの

甘いコーヒーでも…あ~イヤすまんな…気が利かんかった」






提督「…お前さんが嫌なら

部屋にいても良いんだぞ?」





提督「正直、

あいつに会うと思い出すだろ?」






提督「―ああ。まぁ、気にするな。

部屋でゆっくりしてな。」






…ッピ





提督「ふぅ…

どれ、『大きな子供』の

お守りでもしてくるかね。」










-鎮守府正門前-







ミィ~ン ミィ~ン

ミンミンミンミィン…




ジジジ…ジ








孫提督「あ゛ぁ゛!

もぉう!アッツイなぁ!

なんでこの僕がこんなクッソ暑い中

立ってなきゃイケナイんだよぉ!」






そんなこと言われましてもぉ







???「提督ぅ、あの、

天気に文句言っても仕方ありませんよ?」






太陽から逃げるように

私が作った日陰に入る彼。






私よりも大分背の小さいおかげで

彼一人分くらいなら余裕でカバーできる。







孫提督が帽子を脱いでパタパタを

自分の顔を扇ぐ。


ここからなら孫提督の頭見えるな~。


ってあれ?


孫提督…少し

頭が薄くなったような…?



あ、だから髪伸ばしてるんですか?


でも孫提督、それじゃちょっと不衛生ですよ







???「あの孫提督?髪伸びましたよね。

そろそろ切りませんか?」




孫提督「う、うううっさい!髪の事は

触れるなぁ!」






ん~…あれ?

それに

なんだか、前よりもおなか

大きくなったんじゃないですかぁ?



ベルトおなかに

見事に食い込んでるじゃないですか~






???「ん~、孫提督やっぱりちょっと

太られました?おやつしばらく

やめません?」






孫提督「うるせぇ!

お前だって人の事言えないだろうが!

お前が痩せろよ!

そうすりゃ涼しくなんだろ!

ああもう、『誰かさん』がいるせいで、

あっついあっつい!!」








うぅ、気にしてるのにぃ

確かに最近ちょっと(?)おなかにお肉

ついてきたけど…


脇腹掴めるけどぉ~


なにもそこまで言わなくてもぉ











孫提督「…っふん!」






孫提督「ったく…提督の奴は何してんだ!

この僕が待っているっていうのに!

相変わらず気が利かないデクノボウだよ!」





あの提督は決してデクノボウでは

無いと思うんだけどな~





あ、噂をすれば提督さん






提督「これは孫提督殿!

暑い中お疲れさまです。」





踵同士をつけ、敬礼をする提督さん、

盛り上がった肩が逞しいです。






孫提督「ふん!本当に疲れたよ、

早く屋内に案内してくれ。

暑くてかなわん!」





孫提督、いつの間にかスゴい汗です。


やっぱり痩せましょうよ~。






提督「それと、『蒼龍』ちゃんもな!

車の運転お疲れさま!」






ニカっと子供みたいな愛嬌のある笑顔

私…『蒼龍』に向けてくれる。


孫提督もムスッとしてないで

笑顔でいてくれたら良いのに。






孫提督「こいつの事は良い。

早く冷房のある部屋まで連れてけ」






不機嫌そうな顔で

袖で汗を拭う孫提督。




こういう扱いは

毎度の事だから今は慣れたけど

最初は傷ついたな~。





提督「はい、では、こちらに」




ニコニコと笑みを崩さない提督さんだけど

内心あんまり良くは思ってないんだろうな~









榛名「はい…申し訳ありません、失礼します提督」




…ッピ






榛名「…」





携帯電話の通話終了ボタンを押して

通信を切りました。



窓から、紺色のお車が見えました。




…あの方が来られたのだと理解しました。

以前から連絡はあったのでお越しになることは

わかっていましたが


やはりあのお方は榛名は苦手です。






早く打ち合わせが終わりますように




早くあのお方が帰られますように。



部屋のベッドの上で

榛名は膝を抱えて震えることしか

できません。





提督ごめんなさい







時計に目をやります

阿賀野さん達は無事に燃料のサルベージは

終わったんでしょうか。









-鎮守府廊下-





コツコツコツ…





孫提督「いいか?手筈通りだぞ?」ボソボソ



蒼龍「う~ん、打ち合わせに

孫提督が立ち会わないって

なんだか不安なんですけど…」ボソボソ




孫提督「うっさい!僕は忙しいんだ!

合同演習の打ち合わせ

くらいおまえ一人で十分だろ!」ボソボソ




蒼龍「はいはい」ハァ





蒼龍(でも…ここにきてまで

お一人で行動されるなんて…

一体どういう用事なんだろう)







コツコツコツ…






孫提督(そろそろ頃合いか…?)






孫提督「おぉーっと!僕としたことがぁ!」オデコ ペシーン





提督「?」





蒼龍(あ、このタイミングなんだ)




孫提督「ちょーっと車の中に

忘れ物をしてしまったぞぉぅ!」チラ





孫提督「これはイカンな!

まっことにイカンなぁ!

あれは大事なモノだからなぁ!取りにいかんとなぁ」チラリ






提督「あ~…少し打ち合わせの時間遅らせますかぃ?」





孫提督「イヤ!お互い忙しい身だ提督くん!」





孫提督「ここは妥協案として、蒼龍と

話しを進めててくれ!僕のことは構わず!」キリッ







提督「はぁ」






蒼龍(孫提督、演技へったくそですね~)







孫提督(っへ!脳筋め!

僕の抜群の演技力に

まんまとひっかかったな!)グヘヘ






孫提督「それでは、アデュー!」






ドスッドスッドスッ…





提督「…」




蒼龍「…」




提督「なぁ、蒼龍ちゃん?」




蒼龍「はい、何でしょ?」




提督「あいつ逃げた?」




蒼龍「はい」









ドスッドスッドスッ…





孫提督「ふぅ…ふぅ…ふぅ」




孫提督「確かここらへんの部屋だったよなぁ」ハァハァ




孫提督「待っててね~♪榛名ちゃぁ~ん♪♪」










-榛名自室-





榛名(なんだか今部屋の前で足音が…?)




ガチャ




ギィ…






榛名「!?」








孫提督「はぁ♪」



ギィィ…



孫提督「るぅ♪」



ィィィ…



孫提督「なぁ♪」


ィィ…



孫提督「ちゅぁ~~ん♪♪」ニタァァ







榛名「!?!?」ビクゥ!





孫提督「遊びにきたよぉ~、久しぶりだねぇ」





孫提督「僕に会えなくて寂しかったよねぇ~?」





榛名「ど、どうして…!?」





孫提督「んん??あんまり

嬉しすぎて声も出ない感じかなぁ~?」ハァハァ





榛名「い…嫌…」





孫提督「恥ずかしがっちゃってぇ♪

そんな君も可愛いゾ♪」






孫提督「今日は『とことん』

可愛がってあげるねえぇぇ!」ガバッ






榛名「ひっ…!」






孫提督「ああぁ~…

榛名ちゃんのふとももぉ~」スリスリ






榛名「…っ!!」ゾクゾクゥ!





孫提督「」クンクンクンクン




孫提督「」スゥハァスゥハァ




孫提督「ああ!榛名ちゃんの太股ぉ…良い匂いぃ~」







榛名「や、やめてください…!」グイィ





孫提督「んん、ホラァ、

『本部にいたとき』みたいにさぁ

熱ぅ~いキッスをしておくれよぅ」ンン~






榛名「あ、あのときは…孫提督様が…

無理矢理…」






孫提督「ん~?む・り・や・りぃ?」ピタッ





孫提督「ねぇ~ぇ榛名ちゃぁ~ん?

君さぁ…」




孫提督「自分の立場わかってるぅ~?

逆らえない立場だよね~?」スリスリ






榛名(太股に頬を…!?)






榛名「は…い」






孫提督「あの脳筋提督がぁ、クビにならずぅ?

こんなとことは言え…留まっていられるのはぁ?

だ・れ・の・おかげかなぁ~?んんん~~??」






榛名「孫提督のおかげ…です…」






孫提督「榛名ちゃんは賢いねぇ♪

バカじゃない女は大好きだよぉ僕♪

そう、ぜぇんぶ僕のおかげだよねぇ!」








孫提督「だからぁ、

『ここ』まで進撃しちゃってもいいよね?」








スリスリスリ…








サワサワ…スルン







榛名(す、スカートを抜けて…下着のなかに!?)





サワサワ…






榛名(局部に孫提督の指が、当たって…)





榛名「…っやぁ!孫提督!

お、お願いします!

それだけは…やめ…

榛名は大丈夫じゃありません!」グイグイ









孫提督「や~だネ♪」







孫提督「あれれぇ?

榛名ちゃん少し毛深くなった?」ショリショリ








榛名「ぅぅ///」






榛名「こ、これは…

訪問の連絡があって

孫提督がここに来るまでの期間

『処理』をするなって…だから榛名は」






孫提督「人のせいにするなんて

榛名ちゃんは悪い子だなぁ」







孫提督「悪い子にはオシオキしなきゃ」ニタニタ






榛名(助けて…誰か…提督…!)














春雨「はぁ…はぁ…」






ズル…ズル






満潮「ふんぬぅ…!」






ズルズル…






イーゴ「…」






春雨「み、満潮ちゃん!ちょ、ちょっと休憩しよ!」




満潮「だめよ!このままじゃ

手遅れになるかもしれないでしょ!」





春雨「そうかもだけど、

私たちだって少し休憩しないと

とても鎮守府まで持たないよ」





満潮「…わかったわよ」






…バシャ





春雨「…ふぅ」





満潮「はぁ…」





春雨「でも、なんとかここまで来れたね?」





満潮「そうね」





春雨「寒くない?ごめんね、私の上着、それしかなくて」





満潮「あ、あるだけマシよ…」





満潮「…ありがと」ボソッ





春雨「どういたしまして♪」





春雨「それにしても…」






春雨「だいぶ数は減っちゃったけど

燃料タンク…それと」






満潮「こいつ、ね」





イーゴ「…」





春雨「イーゴくんの右手、とれちゃったね」





満潮「ええ。あんたの砲撃食らって

吹っ飛んだあと、肩から義手ごと外れたんでしょ?」





春雨「うん、イ級の頭になった右手…

一応持ってきたけど」





満潮「こんな見た目が

物騒なモノ放置しておくわけには、いかないもんね」






イーゴs右手「…」






満潮「こいつ自身も気絶してるし、

全く…全部運ぶとなると骨が折れるわ」ハァ






春雨「でも…イーゴ君すごかったね…」






満潮「…」ビクッ






春雨「まるで…『別人』みたいだった」





春雨「私たち二人をカバーしながら一人で

駆逐しちゃうなんて…

演習のときとは全然違う…正直」





春雨「私、怖かった…」





満潮「…」





春雨「だって、目の色が

…顔付きだって…それに…右手」





春雨「これが…『対深海棲艦兵器』なのかな…」





春雨「あの『変なクスリ』を打ってから…」






春雨「満潮ちゃんの体についた深海棲艦の体液

凄い勢いで舐めてたよね」





春雨「…獣みたいに」





満潮「…!」ゾクゥ





春雨「…ぁ」





満潮「」カタカタカタ





春雨「…ごめん」





春雨「…そろそろ行こっか」





満潮「ええ、取り乱しちゃってごめんね…」









提督「―じゃあ、こういう手筈で」





蒼龍「はい~、お疲れさまです♪」





提督「今日もあっついね~、

蒼龍ちゃん麦茶飲むかい?」





蒼龍「あ~良いですね~、んでも」チラリ





提督「そうなんだよな~…」チラリ





クーラー「」モウムリッス





蒼龍「壊れてるんですね~」





提督「これじゃ、あの狸は

ここに5分もいられんだろうな」





蒼龍「ですね~」





提督「よくもまぁ、あんな狸といられるもんだよ」





蒼龍「もうなれましたね~、それに」





提督「それに?」





蒼龍「きっとあの提督の秘書艦が

務まるのは私ぐらいですよ~」ウーン





提督「献身的だね蒼龍ちゃん。

そうかもな~、俺があいつの艦娘じゃあ…」





提督「あいつを絞め殺しちまう」ハハハ





提督「しっかし…

あの『狸提督』様はいつも、あんな感じかい?」





蒼龍「まぁ…気まま、ワガママですから~」





蒼龍(それにしても、どこに行ったんでしょね~?)





提督「ん?」





提督「遠征組が帰ってきたみたいだな…」





提督「どれ、ちょっと顔でも出してくるかぁ。

前に迎えに行かなかったら阿賀野にモノ凄く

怒られたからな~」







ガタガタガタ








提督(なんだ?波止場が騒がしい?)











ガタガタ


バァーン!







提督「!」








蒼龍「え!?」








阿賀野「提督さん!高速修復剤の許可を!

能代が…能代が死んじゃう!!!」







提督「…何があった?」
















春雨「やっと着いたね」







満潮「はやくコイツを直してやんないと。

まだ心臓は動いてるみたいだけど…」







春雨「そうだね…?

ねぇ、なんだか鎮守府のほうが騒がしくない?」






満潮「…!ねぇアレ!」







春雨「初雪ちゃん!?…の、能代さん!?

ひどい傷…いったいどうして!」






初雪「…深海棲艦に…!」






初雪「必死に…戦った…でも」






初雪「のしろさんが…大破した」






春雨「と、とにかく早く陸に上がりましょう!!」











―イーゴぉ!!



―しっかりしな!あたしだよ!忘れちまったのかよぉ!!



―危険です!女研究員!下がってください!



―あれはイ-505ではありません!今はただの

深海棲艦です!



―イィィゴォォォ!!!







-システム再起動します-




-おはようごZAい…su-




-今日もいいteんきでsu-




-言語表示システムに破損アリ-




-修理が必要です-




-サポートセンターにアクセスしますか?-




イーゴ(…)









-サポートセンターにアクセスしますか?-




イーゴ(…)










-サポートセンターにアクセスしますか?-




イーゴ(…)






→[YES]

 [NO]





イーゴ(…)




→[YES]

 [NO]





イーゴ(…)





 [YES]

→[NO]






イーゴ(…私は…身体情報は?)




-右腕 破損-



-左腕 破損-



-両大腿人工筋肉 断裂-



-深海棲艦化薬 濾過 完了-



-筋出力 現在21%にまで低下-



-脈拍及び体温 最低値 維持-





イーゴ(要修理…)グッ






…ズリ



…ズリ…ズリ

















初雪「…そんな…そっちも…

『変な深海棲艦』が…?」







春雨「うん…こっちはロ級とハ級が…

でも砲撃とか…遠距離じゃなくて…

ほとんど白兵戦だったよ?イーゴくんが一人で

やっつけちゃったけど」






初雪「…だから、あんなにボロボロ?」





満潮「…ええ、そうよ。」





春雨「あと、満潮ちゃん、イーゴくんに…」





満潮「春雨!」





春雨「!?」





満潮「言わなくて良いわよ」





初雪「?」





初雪「…イーゴは?」





春雨「あれ?」





満潮「…!?…あの右腕もない!?」










ズリズリッ





イーゴ(断裂した筋肉を補助する形で

壁伝いでいけば、なんとかいけないことも無い)





ズリズリ…






イーゴ(スペアはあるものの義手は

無駄にはできない。まずは深海棲艦化した

右腕から義手を摘出しなければ。

修理すればまた使える)






ズリ…



ズ…



ヤメテクダササイ!!



ハルナチャァァァン







イーゴ(?)







イーゴ(榛名お嬢様のお部屋から声が?)













孫提督「でもさぁ、榛名ちゃんさイヤイヤ言うけどさ

実は期待してたんじゃないのぉ?」







榛名「!?」







孫提督「だって、僕に言われたからって『ココ』

伸ばすぅ?僕に見せなきゃ良いだけの話だよね?

こうなるのわかってて

伸ばしてたんだよねぇ?」ショリショリ








榛名「///」







孫提督「恥ずかしがってる榛名ちゃんもカンワイイ!!

さてそろそろ、オシオキしなきゃぁ…でもその前に」







榛名「?」







孫提督「ちょ~っと、ごっこ遊びしよっか♪」







榛名「ご、ごっこ遊び…ですか?」







孫提督「そう!『お医者さん』ごっこ!

僕がぁお医者さんでぇ榛名ちゃんがぁ患者さぁん♪」








孫提督「さぁさぁ!患者さぁん!ど・こ・が

悪いんでちゅかぁ~???」ハァハァ







榛名「ヒィッ!?」ゾワゾワッ








孫提督「お洋服脱ぎ脱ぎしましょね~♪」ガバッ







榛名「い、いやぁぁぁ!!」







コンコンコン






ガチャ…







イーゴ「あの、失礼しま」







孫提督「!?!?」






イーゴ「す」





榛名「ふぇ?」





イーゴ「…」






孫提督「…」







榛名「…」







孫提督「な、なに見てんだよ!

なんなんだよお前ぇぇぇ!?」






イーゴ「…」







-対象艦娘 戦艦 榛名の状況把握-


-着衣が酷く乱れています-



-息も荒いようです-


-医療機関へ Aくせす siますka?-



 [YES]

→[NO]






イーゴ(榛名お嬢様に跨るように被さってる

なかなかに貫禄のある男性)





イーゴ(このお方は―)









-人相から人物照合を行いますか?-




→[YES]

 [NO]






-…-


-…-



-照合結果 ○○鎮守府 提督-








イーゴ(…?このお方は確か…)








―これが今日のバイヤーのリストだと



―どいつもこいつも…やばそうなやつらばっかだねぇ



―ほらあんたも見てみな



―やっぱり鎮守府からきてるお方もいるもんだねぇ



―こいつなんか

○○元帥のコネで入ったお孫さんじゃねえか







-照合終了 ○週間前 ○○時○○分の 記憶データと一致-



-○○鎮守府 孫提督と90%一致-







イーゴ「あなたは『孫提督』ですね。

お初お目にかかります。

私はこの鎮守府に配属になりました

イ-505です」




孫提督「…!お、おまえ…たしかこの間の

研究所での製品発表会でズタズタにされた

『さんどばっぐ』?」





孫提督「ここに、配属されたのか」





イーゴ「はい。このような

お見苦しい姿で申し訳ありません」ボロッ





イーゴ「ところで…お二人はなにを?」







孫提督「…」






孫提督「…見てわかんないかなぁ、ポンコツぅ?」






イーゴ「…?」クルリ






孫提督「お前だお前!!!このポンコツ!」







イーゴ「その体勢とお二人のお召し物の肌蹴(はだけ)具合からすると」








イーゴ「『交尾』ですか?」





















孫提督「ハッ!ポンコツなりに

考えたようだなぁ

そうだよぉ~、僕と榛名ちゃんはぁ」グイッ








榛名「!?」







孫提督「愛し合っているいるんだよぉ~?」






孫提督「だから、しちゃうんだよぉ交尾ぃ~♪」







榛名「もう…」グス







イーゴ「…」







榛名「イヤ…ぁ」グスン









―女の子が泣いていたらどうすんだっけ?



―頭を撫でます





パァン





-頭部に僅かな衝撃を感知しました-




-異常ありません-








―それは『悲しい顔』をしたとき



―いいかい?女の子が『泣きそうな顔』をしたときは…










イーゴ「」フラリ








イーゴ「榛名お嬢様―」







ドン






孫提督(あんな体で僕を…突き飛ばしたぁ!?)







ズテン!






孫提督「プギャッ!」








イーゴ「大丈夫です、ご安心ください。」ギュウ







榛名「へぇぇ!?///」







イーゴ「イイコ…イイコ…」ナデナデ










―うん、よろしい♪










孫提督「!」ブチィ






孫提督「こんの…こんのぉ…ポンコツがぁ!」






孫提督「『僕の』榛名に手をだすなぁぁ!!!」ジャキ







榛名(!、銃!?)






イーゴ「」グルン






ガシィ









榛名「…!?」






孫提督「…な!?」







孫提督(ハンドガンを掴まれた!?これじゃ撃てない!)






イーゴ「こんなものを女性の

部屋で振り回してはいけません」グイッ





ベシッ







孫提督「プギィ!」








孫提督(ま、また転ばされた!?この…この僕を!!!)







ビリィ!!





榛名「あ」





榛名(イチゴ柄のパンツ)





イーゴ「あ」






イーゴ(バラ科の多年草『イチゴ』柄の下着)






孫提督(ズボンのお尻が破けて…パンツがぁ!)







孫提督「み、見るなぁぁぁ!!!」ウワァーン








ドアバァーン!







ウアァーン!オジーチャーン!!








イーゴ「一体、なんだったんでしょうか」ナデナデ








榛名「い、いーごさん///」







イーゴ「?」







榛名「その…榛名はもう大丈夫です///」







イーゴ「そうでした。失礼しました」パッ






イーゴ「肌蹴た服をお直し下さい。

私も身だしなみを整えてきますので」






榛名「ハイ///」イソイソ






イーゴ「では…」









初雪「あ…てーとく」




提督「おーいお前等ぁ!大丈夫かぁ!

高速修復剤、全員分持ってきたぞぉ」








蒼龍「みなさーん!大丈夫ですかぁ!?」







阿賀野「能代ぉ!今助けるからねぇ!」













孫提督(クソクソクソォ!!)





孫提督(あいつまで遠征に出てたのか…!!

おかげで計画が滅茶苦茶だ!!)





孫提督(まさか…ほかの連中も生きて

帰ってこれたのか!?確認しなきゃ)





孫提督(えぇい!なにより許せないのが…この僕に

あんな恥を…僕に対してあんな恥をかかせやがった!!!)






孫提督(許さねぇ…許さないぞイ-505ォォ!!)












孫提督「蒼龍!蒼龍はどこだぁぁ!!」オシリオサエ






蒼龍「あれ?

孫提督ぅもう用事は終わったんですかぁ」バケツ バシャァ






能代「…っぷはぁ!」






阿賀野「能代ぉぉ~」ダキツキ





能代「うわっ阿賀野姉ぇ!?ちょっ…痛いって!」ギリギリ






提督(ふぅ…大破は能代だけか…それにしても

なんで比較的、安全な海域の遠征でここまでダメージを

受けるなんて…いったい)







蒼龍「―あのぉ~提督すいませ~ん」








提督「ん?どうしたんだい蒼龍ちゃん?」







孫提督「どうもこうもない!僕は帰るんだい!

お見送りくらいしやがれ!」








提督「」イラァ









蒼龍「すいません」ハァ















提督「お疲れさまでした~」ハァ







ブロロロロロ…






提督「…」







提督「あ゛ぁ~やっと帰った帰ったぁ~」ノビ~






提督「っと、みんなに事情を聞く前に」






提督「風呂でも沸かしてやっかぁ~」







提督「風呂掃除、風呂掃除っと…」











グチュ…ブチュ




ブチィッ…




ミチミチミチィ…




イーゴ(摘出完了 片手一本ではやはり

作業効率が悪い時間がかかる)







ガショ…




-右腕 接続を認識しました-



-末梢神経系のリンクまで少々時間がかかります-



-しばらくお待ち下さい-





イーゴ(…)









イーゴ(あとは両足か、

まずはこの壊れた両足をはずさないと)







イーゴ(タイトパンツ…脱ぐ必要があるか…

右腕は…まだ指先までは動かせない…か)







イーゴ(しょうがない、左腕で…)グッ






ガゴン






イーゴ(…あ)





ボテッ






イーゴ(左腕…もげた)





イーゴ(どうしよう…脱げない)









コンコンコン…





イーゴ「はい、どうぞ」






榛名「失礼します、榛名です」






イーゴ「これは榛名お嬢様、お加減は如何ですか?」






榛名「はい、おかげさまで♪

先ほどは…あの…ありがとうございました」ペコリ





イーゴ「とんでもありません…紳士として

当然のことです。女性が涙を流すまで何かを

強要するのは…好ましくありません」







榛名「あ…ありがとうございます」







榛名(やっぱり…なんだか…表情が…読めない)








榛名(イーゴさん…ここにきてから一度も笑ってない…)







榛名(『紳士』っていう規範を元にして…動いている)





榛名(『お人形』みたい)






イーゴ「ところで榛名お嬢様」







榛名「はい!?な、なんでしょう!?」







イーゴ「婦女子にこのようなことを頼むのは大変

恐縮なのですが」






榛名「はい!なんでもします!!」フンス







イーゴ「脱がせて下さい」








榛名「…」







榛名「…へ?」








イーゴ(分かりづらかったか…)







イーゴ「下半身を露出したいんですが?」







榛名「…そ、その後は…何を?」






イーゴ「ハメようと思っているんですが」


イーゴ(義足を)






榛名「…///」モジモジ






榛名「そ、そのイーゴさん…有るんですか?///」


榛名(性欲が///)






イーゴ「ええ、有りますよ?」


イーゴ(スペアの義足なら)





榛名「は…榛名は…だだだ大丈夫です!!///」


榛名(たた、確か…イーゴさん達は…生殖器は

残ってるって…ま、まずは、おクチで奉仕すれば///)


榛名(だ、大丈夫、榛名は大丈夫!大丈夫は榛名!)


榛名(い、イーゴさんなら悪くありませんし///)







イーゴ「助かります。ではお願いします、義足を」





榛名「榛名をハメて下さい!!」






イーゴ「え」


榛名「え」








榛名「///」ウツムキ




イーゴ「顔をお上げ下さい、

ずっとその姿勢では首を痛めてしまいますよ?」





イーゴ「それで…先ほどもご説明しましたが

『義足をハメるために

タイトパンツを脱がせて欲しい』んです」





榛名「もう!だったら最初からそう言って下さい!!///」





イーゴ(何故、私は怒られている)







榛名「むぅ///と、とりあえず脱がせば良いんですよね」





イーゴ「はい、お願いします」スッ






ゴソゴソ…



シュルリ…







榛名「ッ!?」ピタ







イーゴ「どうかしましたか?」







榛名(機械と太股の付け根が…何度も切開したような

傷跡が…)





ピタリ




榛名(なんて…痛々しい)





榛名(それに人の肌の部分なのに…冷たい)







イーゴ「?…榛名お嬢様?」






榛名「あ、すいません!これ…どうやって外せば」








ガチャ…ギィ







満潮「入るわよ!ささささっきは…

い、いいい一応、お礼いっておいてあげr」





榛名「あ」





イーゴ「…?」パンツ イッチョウ






満潮「///」ブルブル






榛名「!」




榛名「み、満潮ちゃん!?違うんですよ!!これには

深いわけがあるんです!///」





満潮「///」ツカツカツカ





イーゴ「?」





パァァン




-左頬に激しい衝撃を確認-



-異常ありません-





満潮「ばかイーゴ!!」





ドア バタン!






榛名「あぁ…もう…」







イーゴ「…」






イーゴ「何故?」ホッペオサエ









ガシュ…



-新しいデバイスが確認されました-



-末梢神経の接続までしばらく時間が…-






イーゴ「ありがとうございました」





榛名「いえ…」





榛名「…あの、ほかに何かお手伝いできることはありますか?」





イーゴ「いえ、あとは私一人でできます。」





榛名「そう…ですか、では…」







コンコンコン…




イーゴ「はい」





提督「失礼するぜ、なに二人で乳繰りあってんの?」




イーゴ「ちちくり?」




榛名「あってません!!///」




提督「まぁ、んなことはどうだっていいんだが…

二人ともちょいと一時間後に執務室に集まってくれ」




イーゴ「はい」




榛名「…?」







-執務室-





提督「風呂に入ってさっぱりしたようだな」






能代「ご心配をおかけしました。」




阿賀野「のしろぉ~のしろぉぉ~心配だったよ~」スリスリ





能代「近い近い」




提督「さて…まずは皆、ソファに座って楽にしてくれ」




榛名「は、はい」




春雨「失礼します」




初雪「ん」





満潮「…」





ギシッ…



ギシギシッ…




提督「皆に聞きたいことがあるんだ」




提督「遠征先で何があった?

どうしてあんな傷だらけで?」




春雨「私と満潮ちゃん、そしてイーゴくんは」




春雨「おそらく…ロ級とハ級に襲われたと思います」




提督「おそらくって…どういうことだ?」




春雨「その…上手く伝えられないんですが…

普通の深海棲艦とはどこか違うというか…

妙な感じだったんです」




提督「妙な感じ?」




春雨「はい…深海棲艦が近づいてきたときは何かしらの

予兆が有るはずなんですが、私たちが対峙した

それは『いきなり現れた』んです」




提督「音も姿も検知できなかったっていうのか?」




春雨「…はい」





提督「ふむ…」




イーゴ「…」




能代「実は…私たちも同じでした提督」




初雪「おっかないのが…サルベージ中に」




阿賀野「あれは確か『軽巡ト級』みたいだったわね~」




能代「いきなり2隻、現れたと思ったら攻撃を受けて

私は大破してしまって」





初雪「逃げるだけでせいいっぱい」





提督「…そうか…

皆、まずよく無事で帰ってきてくれた」





提督「今日のところは皆、各自部屋に戻って休んでくれ

いろいろあって疲れただろう。俺も

頭を整理しなくちゃいかんからな」





ゾロゾロ…


タイヘンダッタネー




提督「ああ、イーゴ…」




イーゴ「?」




提督「おまえはもう少し俺につきあってくれ…」




イーゴ「はい…」










提督「…どう思う?」




イーゴ「何故私なのでしょう」




提督「『深海棲艦』を体内に飼っている奴の意見が

聞きたくてな…」






イーゴ「…」






イーゴ「あれは…私たちの成れの果てです」






提督「…あ?」






イーゴ「提督…私達兵器が薬品によって

深海棲艦化することはご存じですよね」







提督「ああ。適量摂取なら身体能力の向上に役立つが…

使いすぎると、制御しきれなくなって

自分が深海棲艦になって暴走したり…あまり良い報告は

きかんな」








イーゴ「その通りです。おそらく私達が出会ったあれらは

体のほとんどがベースとなった深海棲艦に

支配されていました。ああなっては頭のCPUが製品番号を

発信するだけの我々の敵でしかありません。」










イーゴ「受信したんです、あれらの生体信号を」









イーゴ「わずかに意識がありながら

体を乗っ取られるとは…どういう

気持ちなんでしょう」







提督「…さぁな、体

乗っ取られたことなんざ無いからわからんな」







イーゴ「…」






イーゴ「私も本日、『一本』使用しました」






提督「…」







イーゴ「仕方ありませんでした」







提督「…」







イーゴ「あのときは装備もままなら無かったので」








提督「過剰摂取で化け物になるんなら…その途中経過は

どうなる?」






イーゴ「不可逆的なものなんです」






イーゴ「あの薬品は私達の中に残った生体細胞を

媒介して―」







提督「あぁもう!むずかしい話しはすんな!

簡単に言うとどうなる!?」







イーゴ「深海棲艦化して強化し能力を得る代わりに

生体細胞が徐々に蝕まれ『死滅』します」






提督「…!」






イーゴ「そして、過剰摂取で

最終的に脳が死滅し深海棲艦の意識を抑圧するものが

何もなくなり、乗っ取られると

完全に私達は『人類の敵』となります」








イーゴ「そうならないように私達には『保険』が

かけられています」







提督「…保険?」







イーゴ「私達は頭部と脊椎の間に

爆薬を仕込まれています」






イーゴ「脳からの生体信号で制御されていますが

活動を停止したときに、これが作動し

自壊するように作られています。」




提督「…なんつー話しだよ」






イーゴ「わたしたちは『消耗品』なので」






提督「…ッ!」







イーゴ「それを前提におくと

一つ、不可解なことがあります」








提督「なんだ?」








イーゴ「今日、襲ってきたあれらは意識を飲まれ

人の生体部分は観測されませんでした」







イーゴ「なのに、爆弾が作動せずに

活動していました。」






イーゴ「誰かの手によって意図的に外されたとしか

思えません」






イーゴ「誰が、何のためにそのような事をしたかは

わかりません」






イーゴ「今日、軍のデータベースにアクセスして

他鎮守府の報告書を確認しましたが」






イーゴ「今日の私達のように

襲われた報告はありませんでした。」






イーゴ「誰かが狙ったようにあそこにアレらを

放ったものと見受けられます」







イーゴ「まるで海に出た私達を殺そうといわんばかりに」








提督「…わからんなぁ」






イーゴ「…」









提督「まぁ…なんだ…お前さんも今日は休め」





イーゴ「はい、失礼します」





提督「イーゴ!」





イーゴ「?」






提督「ありがとう」ペコリ






イーゴ「…何の事でしょう?」





提督「春雨と満潮を…娘達を…俺の『家族』を…助けてくれて…」






イーゴ「…」






イーゴ「当然の事です」






キィ…パタン






イーゴ「…」













-侵蝕率チェック中-





-しばらくお待ちください-






-…-




-…-





-侵蝕率 現段階で『21%』-





イーゴ「…」





-汚染臓器は以下のように…-






イーゴ(薬品一本の使用でここまで…)

















初雪「イーゴ…トイレの電球…交換たのんだ」





イーゴ「お任せください」











春雨「あ、あの…イーゴくん、お買い物手伝って

ほしいんだけど…」




イーゴ「お任せください」



イーゴ「今日のお夕飯のメニューは?」



春雨「はい♪春雨サラダですよ♪

いっぱい食べてくださいね♪」




イーゴ(三日連続で春雨料理…)




イーゴ「善処します」









能代「あ、イーゴ!ちょうどいい所に!」




イーゴ「なんでしょうか能代お嬢様?」




能代「一緒にさ阿賀野姉ェのダイエットメニュー

考えてくれない?」




イーゴ「…?阿賀野お嬢様ですか…ダイエットということは痩身目的ですか?」




能代「そうなの、最近、港町にさ美味しい

スイーツ屋さんができてね」




能代「阿賀野姉ェったら演習終わりとか

作戦終わったらすぐにいなくなっちゃうでしょ?」ハァ






能代「そこにコソコソ行って甘いものばかり食べてる

みたいなの、ほらパフェとかドーナツとか」






イーゴ「ああ、なるほど」





イーゴ「どうりで最近…」チラリ





能代「…ね」チラリ







阿賀野「ふんふ~ん♪♪」タプンタプン






能代「脇腹のお肉がね~、妹として心配」ハァ






イーゴ「魅力的な女性だと判断できますが?」






能代「…最終的にもらってくれる?」






イーゴ「…善処します」







能代「冗談よ」








イーゴ「残念です」








能代「本当にそう思ってる?」






イーゴ「はいとっても」





能代「随分優しい嘘ね」






阿賀野「ふんふ~ん♪♪」プヨンプヨン






-演習場-




満潮「ってー!」ドォン!





ヒュルルル~…







イーゴ(出力20%で避け)




バコン!!





イーゴ「んぎゃ」





バタン





満潮「ハァ、なんであんとき

みたいに動けないのよ」ヒタイオサエ





イーゴ「」キュウ











榛名「あの、イーゴさん」





イーゴ「何でしょう」





榛名「そろそろクリスマスパーティの準備を

したいんですけどちょっと手伝ってほしいんです」







イーゴ「くりすます?」






榛名「はい♪」





イーゴ「くりすます…」









―ほい




―?、これは?





―あれ?あんたクリスマスって経験ないんだっけ?





―それは?なんですか?

そしてこの…赤と緑の手のひらサイズの箱は?





―覚えておきな、クリスマスは元々は

昔の聖人の命日を淑々と…いや





―たのしいたのしい外国のお祭り行事だよ♪




―そしてそれはアタシからのクリスマスプレゼント♪

今年はアタシがサンタさんだよん♪

どう?こんな美人のお姉さんがサンタさんだよ?

うれしいでしょ♪




―さぁ喜べっ!!感謝しろ崇めろ褒めろ!!




―…




―ん?




―さんたさんとは?




―あ~…そこからか~











榛名「イーゴさん?」



イーゴ「っ…申し訳ありません。それで私はなにを?」



榛名「はい♪ちょっと力仕事なんですけど」



イーゴ「なんなりと」



榛名「良かった♪ここに皆さんへのクリスマスプレゼント

のリストがあります♪ちょっと町に出て買ってきてほしいんですけど…」



イーゴ「お任せください」










カチャカチャ





イーゴ「皆さん…とてもすてきな笑顔でした」






榛名「はい♪提督も珍しくとっても酔ってて

面白かったですね♪」





イーゴ「…はい」





カチャカチャ





榛名「…なんだかすいません…パーティの後かたづけの

お手伝いまで…本当は春雨ちゃんと一緒に

やるつもりだったんですけど…」






春雨「スゥスゥ///」ヨイツブレ


提督「グガァ…ゴガァ///」ヨイツブレ


能代「アガノネェ///」ヨイツブレ


阿賀野「エヘヘ…モウ タベラレナイヨゥ♪///」ヨイツブレ


初雪「スヤァ…///」ヨイツブレ





カチャカチャ…






榛名「満潮ちゃんはトイレに行ったまま帰ってこないし」







イーゴ「…いえ、気にしてません」







榛名「…っ」






イーゴ「これで…終わりでしょうか…ああ、皆さんを

寝室にお運びしないといけませんね

プレゼントも一緒に置いてきましょう」







榛名「お、お願いします、すいません」








イーゴ「…いえ、気にしません」







榛名「…」










イーゴ「すっかり遅くなってしまいました。

榛名お嬢様もどうかお早い睡眠を」





イーゴ「女性が夜更かしをしてはお肌に障りますよ」





榛名「はい…お、おやすみなさい。」







イーゴ「おやすみなさいませ。では失礼します」








榛名「あ、あのイーゴさん!」






イーゴ「…何か?」





榛名「これ…」ゴソッ





イーゴ「これは?赤と…緑の包み?」






榛名「めりーくりすます…ですよ」ニコ






榛名「開けてみてください♪」








イーゴ「」ガサッ




イーゴ(これは…白手袋?)




榛名「今使ってるの…ボロボロですよね?」




イーゴ「私のために?」




榛名「はい♪」






イーゴ「ありがとうございます、

私のような製品にここまでして頂いて…」







イーゴ「大変うれしく思います榛名お嬢様」ペコリ






榛名「どういたしまして♪」







イーゴ「ただ、申し訳ありません…」






榛名「どうしたんですか?」






イーゴ「私は…お返しになにも…準備できませんでした」






榛名「」ウ~ン






榛名「あ、そうです!それなら」





イーゴ「?」






榛名「『笑って』みせてください♪それが今年の

クリスマスプレゼントということにしておきますね♪」








イーゴ「…」







イーゴ「」グイッグイッ







榛名(両手の人差し指で口の端を上につり上げて…?)







イーゴ「に…にっこり」ニコォ






榛名「…」






イーゴ「」プルプル






榛名「…っぷ」






イーゴ「?」






榛名「あはははははは!!」オナカ カカエ







イーゴ「?」クビカシゲ







榛名「目が…目が笑って…

笑ってませんよ~!

っぷ、あはははは!!」






イーゴ「」ユビハナシ






榛名「はぁ…はぁ…ご、ごめんなさいぃ、

だって…おかしいんですもの~」アハハ






榛名「とっても素敵なプレゼント貰っちゃいました♪」






榛名「おやすみなさいイーゴさん♪」タタタ…






イーゴ「…」






イーゴ「えがお…」ホッペグイッ







イーゴ「…」






-表情筋肉の動きを登録しますか?-



→[YES]

 [NO]







-動作のタイトル名を設定してください-



登録 [笑顔]






イーゴ(登録完了…榛名お嬢様からのプレゼントを

内ポケットに入れて…)





イーゴ(部屋に戻ろう)クルリ







満潮「…」





イーゴ「満潮お嬢様?」






ツカツカツカ…








満潮「ん」グイ





イーゴ「?」





満潮「ん!!」ググイ





イーゴ(これは…一抱えある…プレゼントボックス?)




イーゴ「満潮お嬢様?これは…」




満潮「言わせんなバカイーゴ!!///」



満潮「クリスマスプレゼントよ///」プイッ



満潮「あんたの革靴もいつも同じので…

たまには新しい靴くらい買いなさいよ!!」




満潮「それ!私がわざわざお金払ってあげたんだから!!

大切に使わないと承知しないわよ!」





満潮「じゃあね!!おやすみ!!!」クルリ







ツカツカツカ…






イーゴ「満潮お嬢様」




満潮「なによ!!」






イーゴ「」ニッゴリ








満潮「…」






イーゴ「えがお…」





満潮「なにそれ、意味わかんない。

変な顔。じゃあね」






イーゴ「…」




-タイトル変更しますか?-


登録情報修正 [笑顔及び変な顔]








ツカツカツカ…





満潮「」ピタ





満潮「」キョロキョロ




満潮(やったやった!!

プレゼント渡せた♪偉いぞ私♪)ピョンピョン





満潮(しかもなに!?アイツ笑顔だったじゃない♪)ピョンピョン






満潮「はっ!!」キョロキョロ





シン…




満潮「ほっ」




満潮「さて、寝ようっと♪」スキップスキップ










イーゴ「?」




イーゴ(鼻の下が生温かい?)






ツゥー…






イーゴ「」ヌグイ






イーゴ(…鼻血?)











-研究所 女研究員自室-







孫提督「ねぇ~…女研究員ちゃん?」





女研究員「はぁ…何度、来ても答えは

同じなんだがね…」






孫提督「そんな事も言ってられないんじゃない?」






女研究員「あ?」







孫提督「君の大事な大事な…なんて言ったっけ」







孫提督「ああ!!そうそうイ-505!…

いや、『イーゴ』だっけぇ?」






女研究員「…」






孫提督「とってもとっても大切なんだよねぇ~?

『何か』あったら悲しいよねぇ~?」







孫提督「だからちょっと協力してほしいんだよぉ~、

ほら、前も言ったけど

僕の所にいる『ル級モデル』を」






孫提督「ちょ~っと改造してくれるだけで良いんだよ!」





ツカツカツカ…






孫提督「そしたらアレには手を出さないで

あげるよ?」アゴクイ






女研究員(こいつ臭いなぁ…)






孫提督「それに特典で!報酬も弾んじゃうよぉ!!

一生遊んで暮らせるくらいのさぁ!!」







女研究員「興味無いさね」







女研究員「それに…できるもんなら、やってみな…」







孫提督「んん?」






女研究員「あいつはね…『紳士』はね…

そんな弱くないからね…なにがあってもアタシは不安じゃないさ」








孫提督「ふ~~~ん…」イラ







孫提督「優秀な君ならもっと

賢い選択をすると

思ったんだけどね~」ピキピキ






孫提督「じゃあ良いよ…君なんかよりも

よ~~っぽど優秀な研究者なんかいっぱいいるもんね!!」








孫提督「あばよ年増ババァ!!!」ベェ








ツカツカツカ…


…バタン!!






女研究員「紳士はもうちょっと静かにドア閉めるもんだよ…」








女研究員「あと20代後半はババァじゃねぇ」









-研究所 入り口-




蒼龍「あれ?孫提督用事終わったんですか?」




孫提督「ふん!まったくあのババァじゃハナシに

なんねぇよ!!帰るぞっ!!さっさと車を用意してこい!」





蒼龍「はぁ~い」ズゾゾゾ…





孫提督「?」





蒼龍「」ズゾゾゾ…





孫提督「お前何飲んでんの?」





蒼龍「○ックシェイクのバニラ味ですけど?

Lサイズの」チュポン





孫提督「僕のぶんは?」





蒼龍「ありませんけど?」





孫提督「なっ…!じゃあソレよこせ!!」バッ







蒼龍「やだやだやだぁ!!まだ半分残ってるんですよ~!」







孫提督「うっさいうっさい!!僕の分を買ってこなかった

お前が悪いんだい!!だいたいまた太るぞ!」グググ…






蒼龍「孫提督も同じじゃないですかぁ!健康診断で

血糖値の項目ひっかかったじゃ無いですか!!」






孫提督「知るかっ!」バッ






蒼龍「ああ!私のバニラシェイクゥ~!!」






孫提督「」ズズズズッズゥゥ~…






孫提督「」プハ





蒼龍「うう」シュン





孫提督「さ、帰るぞ」ゲフッ





蒼龍「もう…」クスッ









-鎮守府 遠海-




阿賀野「満潮!そっち行ったわ!」





満潮「任せなさい!撃つわ!!」ドン!




ロ級[Gyaaaa…!!]




満潮「ざまぁみなさい♪」





ハ級[Fuuuuuu!!!!]ドォン






イーゴ(満潮お嬢様に砲身が!)





イーゴ「満潮お嬢様!!」







満潮「…!?」





ヒュルルル…





…ズゥン!!




満潮「っ!…」




満潮「いたく…ない…?」






イーゴ「…」ギシッ






満潮「あ、あんた…アタシを庇って…!?」






イーゴ(シャツが…破けてしまった)ブスブス








榛名「勝手は榛名が許しません!!!」ドドン!









ズ…ドドン






ハ級[Giaaaaaaaa…!!]ゴォン…








榛名「イーゴさん!」





初雪「おぉ~い大丈夫かぁ~?」






イーゴ「大丈夫ですご安心ください。」ケホッ





イーゴ「満潮お嬢様、お怪我は?」クルリ





満潮「」ポケ~




満潮「っは!」




満潮「あああんな砲撃…回避できたわよ!!

余計な事しないで!!」





イーゴ「…」




イーゴ「申し訳ありません」ペコリ






榛名「満潮ちゃん!!」






満潮「で、でも、特別にお礼は言ってあげるわ!!」






満潮「あ、ありがと///」ボソッ








イーゴ「どういたしまして」






榛名「…っ」ズキッ












-孫提督 執務室-




ゴチャァ…





蒼龍「まったくも~、またこんなに散らかしてぇ」





蒼龍「おっきな子供と変わんないわよね~」





蒼龍「…」ホウキ サッササッサ



蒼龍「…」ハタキ パタパタ



蒼龍「…」ショルイ マトメマトメ







蒼龍「ふ~」キレイキレイ








蒼龍「ふふっ♪」









-十数年前-




元帥「また失敗したのかね蒼龍?」



蒼龍「申し訳ありません」




元帥「同じ事を何度も何度も何度も…!」





元帥「」フゥ~






元帥「もういい…」





元帥「おまえには失望したよ…」




蒼龍「…」




元帥「その顔…今後私の前に出すな、不愉快だ」




蒼龍「…申し訳ありません」




元帥「…さっさと引っ込め」




蒼龍「…失礼…します」




-波止場-



ザザーン



蒼龍「はぁ」タイイクスワリ



蒼龍(私…なにやってんだろ…)




ザザーン




蒼龍(艦娘としてこの世に蘇ったのに…)




蒼龍(ミスばっかり…)




蒼龍(はぁ~あ…)






ザザーン




蒼龍「う~み~は…ひろいぃ~なぁ」




蒼龍「おおきぃ~なぁ~…」




蒼龍「はぁ~あ…」




蒼龍「飛龍…会いたいよぉ」グスッ











???「どうしたの?」



蒼龍「?」クルリ



???「おねえちゃん

泣いてるの?どうしたの

お腹空いたの?」



蒼龍(この子…たしか、小学生に

なったばっかりって言う

元帥のお孫さん?)




孫「どうしよう…う~んとぉ」ゴソゴソ





蒼龍(こんなに細くて…肌も白くて…女の子みたい)





孫「あ!あったぁ!!…はい♪おねえちゃんにあげる♪」





蒼龍(これ…キャンディ?)





孫「うんとね!あのね!悲しくなったり、

お胸がしくしくしたらね!誰かとね、

おいしーもの食べると元気でるよ!」




蒼龍「…」




孫「一緒に食べよっ♪」




蒼龍「…ッ!」ブワッ




蒼龍「ふえぇ~ん!!」




孫「お、おねーちゃん!?」




蒼龍「あ、ありがとね~!

お、お姉ちゃん元気でたよ♪」ボロボロ




孫「ほんとー!?やったぁ♪」




蒼龍「うん♪一緒に食べようねキャンディ♪」








-現在-







蒼龍「あんなこともあったなぁ~」ホッコリ





蒼龍「今じゃああの頃の美少年は

見る影もないけどね~」タハハ






ソウリュー!!


ソウリュー ハ ドコダー!?






蒼龍「はぁ、もう…」




蒼龍「はいは~い、今いきますよ~っと」










-鎮守府 廊下 深夜 -



イーゴ「ブッ…!ゴブフッ…!!」




ベチャッ


ビタタ…





イーゴ「」ハァハァ




イーゴ(おかしい…)




-侵食率 31%-





-汚染臓器 『肺』『食道』『胃』-





イーゴ(何故…)





イーゴ(何故…汚染が止まらない…?)












男研究者「報告します」





孫提督「ん~?」





男研究員「ル級モデルの改造結果ですが」





男研究員「無事に成功しました」




孫提督「おつかれちゃ~ん、んじゃ

下がって良いよん」





男研究員「はぁ…失礼します」





パタン




孫提督「…」




孫提督「ふ~ん、結構お金かかっちゃったね~」




孫提督「まぁいっか、どーせおじいちゃんのお金だしぃ」





孫提督「あの世にお金は持っていけないからね~

僕が有効活用してあげないと♪」












-研究所 ロビー -


ザワザワ


ガヤガヤ


アノ レポートガ…


ジッケンガ…


クレームタイオウ ガ…



ザワザワ







女研究員「久しぶりだねぇイーゴ」






イーゴ「お久しぶりです」






女研究員「あんた、随分痩せたね…」





イーゴ「そうでしょうか、あまり変わりは…」





女研究員「まったく!あんたのことだから

どうせ、一人でモソモソ、ぼっち飯なんだろ?

しかも最低限のカロリーだけ補給して終わりだろぃ?」





イーゴ「いえ…あの」




女研究員「あ~皆まで言うな!どれ!久しぶりに

お姉さんが美味しいもん食べさせてやろう♪」





イーゴ「あの…」






満潮「~!」イライラ





榛名「~!」イライライラ






女研究員「ん?なんだいこのお嬢ちゃんたち?」




イーゴ「私がお世話になってる鎮守府の艦娘の」





満潮「…満潮よ」ギロ




榛名「…榛名…です」ヤンデレフェイス




女研究員「オォウ、なかなかパンチの

あるお仲間さんだねぃ♪」




イーゴ「今日の私の検査についてくると…、

お二人が来ても

特にメリットになるような事はないと考えられますが…」




女研究員「ふ~ん?」





満潮(これが噂に名高い、イーゴと『同棲』してた)




榛名(女研究員さん…ですか!)




満潮(なに…なんなの…!イーゴって…)




榛名(こういうのが…好きなんですか!?)




満潮・榛名((年上長身細身ブロンドポニーテール眼鏡白衣が!?))





女研究員「?」




満潮(…)



榛名(…)



満潮・榛名(( 何一つ属性が被ってねぇ!!! ))ガックリ








-数日前-



提督「検査ぁ?」




イーゴ「はい、時間を頂けないでしょうか?」




提督「そりゃ構わないが…なんでまた?」




イーゴ「いささか気になる点があるので」




提督「詳しくは聞かせてはくれないのか?」




イーゴ「申し訳ありません」





提督「…まぁ…良いけどよ」




提督「しっかり診てきてもらえよ?」




イーゴ「はい」




提督「んで、検査って、お前のいた研究所?

お前ってここくる前はあそこで

女研究員と同棲してたんだろ?」ニヤ



イーゴ「どうせい?」




提督「一緒に住んでいたんだろ?」




イーゴ「はい、女研究員の厚意で

自室に私の居住スペースを設けて頂いたんです」




提督「…コッチに来てから連絡は?」




イーゴ「いえ、まったく」




提督「んじゃ、会うのは久々だろ?

しばらく時間やるよ…ゆっくりしてきたら良い」




イーゴ「私は睡眠時間さえ取れればー」




提督「休んでこい」




イーゴ「…」




提督「いいな?」





イーゴ「かしこまりました…」










満潮「」ジィ


榛名「」ジィ



満潮「ちょっと!!なんでアンタがここにいんのよ!!」

ヒソヒソ



満潮「盗み聞きなんて…良い趣味してるわねぇ」ヒソヒソ




榛名「ち、違います!これは盗み聞きでは

ありません!!」ボソボソ



榛名「た、たまたま、執務室の前を通り過ぎたら

声が聞こえたんです」ボソボソ





榛名「でも…同棲って…どういうこと

なんでしょう?」ボソボソ





榛名「それに来週、検査というのも

気になりますし…」ウーン




満潮「きょ、興味ないわね!」プイッ




榛名「またそんなこと言って…

あ、お話し終わったみたいです…こっちに

来ますよ!隠れましょう!」グイグイ




満潮「え、あ、ちょっ…!!」








イーゴ「失礼しました」




コツコツコツ…





提督「…」






提督「どぉれ…執務に戻るk」




ドアバァーン!




提督「ぐぉん!?」ビクッ!




榛名・満潮「「 提督 」」





提督「な、なんだイキナリ!?」





榛名・満潮「「 休暇を申請します(するわ)!! 」」





提督「え…いつ?」





榛名・満潮「「 来週いっぱい! 」」





提督(仲いいなぁコイツ等)




提督(っつーか戦力…まぁいっか)













女研究員「なんかおもしろい子たちだねぇ」





イーゴ「おかげでたくさん

『思い出』ができました」





イーゴ「あ」ソウダ





女研究員「?」






グイ…グイッ







女研究員「!」






イーゴ「…えがお」ニッゴリ






女研究員「…」






女研究員「…変な顔だねぇ、

紳士のする笑顔じゃぁないね」






女研究員「でも、悪くない♪」







-研究所 食堂-



女研究員「あいつ、

検査着に着替えてっからここでちょいと待っててな」




コポポポ




女研究員「ほい、コーヒー」



満潮「あ、ありがと」



榛名「スイマセン」



女研究員「んで~?なぁんで付いてきたのかな~♪」ニヤニヤ





女研究員「アイツの検査だけなんだし~、アイツだけ

くればよかったんじゃないのぉ?」ニヤニヤ





満潮「べべべ別にぃ!?

あいつが心配とかぁ!?

そんなんじゃないしぃ!?///」サトウ ザラザララ…





榛名「は、榛名はぁ、

てて提督に秘書艦としてぇ!

イーゴさんの検査結果を報告する

必要がありますのでぇ!?///」ミルク ボタボタタ…






女研究員「お二人さん、

珈琲が別の飲み物と化してるよ?」






満潮・榛名「「はっ!?」」







女研究員「おもしろいねぇお嬢ちゃんたち♪

安心しなよただ基本的な検査をして

終わりだから、それにぃ榛名ちゃん?」





榛名「は、はいぃ!」






女研究員「検査結果は後日、ちゃんと書類で

提督宛に届くはずなんだけどな~?

なぁんでわざわざ来たのかなぁ~?」ニヤニヤ





榛名「ひぅぅ///」





満潮「…」ジィ





榛名「な、なんででもです!!

榛名はこなくちゃいけないんです!!!///」オテテ ブンブン!





女研究員「ふ~ん」ニヤニヤ





満潮「」イライラ





女研究員「あ、そうそう満潮ちゃんもぉ?」





満潮「な、何よ」





女研究員「なぁんか、くちぶりからするとぉ~?

イーゴのこと嫌いなのかなぁ~??」





満潮「は、はぁあ!?べっつにぃぃぃ!?

ききき嫌いとかぁぁ???す、すすす………」





満潮「…好き///」ボソッ





満潮「とかぁぁ!?ぜんぜんっ…ぜんっっぜん!

なんとも思ってませんがぁぁぁ!?

付いてくるこないとかぁ!?アタシの

勝手ですしぃぃ!?」サトウ ボチャボチャボチャ…





満潮「///」コーヒーゴクリ




榛名「」ジィ




満潮「甘ァッ!!」




女研究員(どうしよう可愛い)







-検診室-



女研究員「さて、はじめるかね」




イーゴ「お願いします」




女研究員「まずは採血だね…」









-1時間後-







女研究員「…」ハァ






女研究員「あんた…いったい薬は

何本打ったんだい…?」





イーゴ「これまで一本だけですが?」






女研究員「…嘘は言ってないかい?」







イーゴ「自己情報開示の場合において

虚偽を疑われるような発言はできない仕様に

なっています」




女研究員「…ああ、そうだったね」





女研究員「…」





イーゴ「」ポスン




女研究員「?」




イーゴ「イイコイイコ」ナデナデ





女研究員「ありがとよ…」






女研究員「はっきり言うわ…」




イーゴ「はい」




女研究員「もう薬は使うな…」














女研究員「浸食率が30%超…残った生体臓器も

ボロボロ…」






女研究員「そこまで痩せたのも…うまく

栄養を吸収できてないせいだろ」






女研究員「最近…血は吐いたり…戦闘以外での出血は?」






イーゴ「最近、鼻血が…頻繁に」






女研究員「…」






女研究員「白血病の兆候も出てるんだよ…」






イーゴ「つまり?」







女研究員「…」







女研究員「前に検査したときよりも

凄い勢いで細胞全体が衰弱してるんだよ…」







女研究員「まるで、10本分の薬を一気に体ん中に入れたみたいにさ」







女研究員「通常、一本打っただけでここまでの衰弱はあり得ないんだ」





イーゴ「ですが」







女研究員「ですがも何も…アンタの中に仕込んだ臓器も摩耗が激しい、

どんだけ酷使したらどうなるんだってレベルさね…」







女研究員「結局、濾過が追いつかずに体ん中に蓄積し続けて

今もアンタの体も蝕んでるんだよ」







女研究員「アタシは医者じゃない…

ただの研究員だけど、出来れば『今すぐ』入院してほしい」









イーゴ「…」







女研究員「あそこの鎮守府だったら酷い戦闘も無いし、

いわゆるブラック鎮守府でも無い、提督はまともな人さ…」







女研究員「でもね…」







女研究員「『薬』を使わなきゃ対応できない戦闘が起きたんだろ」





女研究員「こんな事なら…配属を許可するんじゃ無かったよ…」






女研究員「たしかにアンタ等、対深海棲艦兵器の役割は艦娘を守る盾だよ」





女研究員「これはアタシ個人のお願いだけどねぇ」






女研究員「もう…戦わないで」





イーゴ「…」






女研究員「また、いつ薬を使う機会がくるかもわかんないのよ…

このまま戦闘を続けても…命の保証は出来ないさ」






イーゴ「女研究員…」






イーゴ「私の体は後、どれ程薬に耐えられますか?」







女研究員「…」







イーゴ「私は消耗品ですので」













正直、夏は苦手


だって汗はかくし


紙はよれるし


虫は出るし


カビは生えるし…



でも、大好きな弟が実家に帰省する季節だから


好きか嫌いかだったら…割かし好きかも










弟「じゃあ姉さん、行ってくるね」





姉「んー、行ってらっさい」カリカリカリ






弟「本当なら姉さんと一緒にあの豪華客船に乗って

今回の優雅な海の旅を楽しみたかったんだけど…」






姉「仕方ないだろー、アタシは学会に提出する報告書作成で

忙しいんだからさぁ」カリカリカリ






姉「それに一緒に行くっていったって

アタシは客だとしても、あんたは向こうのスタッフでしょうに…」カリカリカリ






弟「あはは!そうだね!でも、ほら仕事終わった後に

夜の海、一緒に眺められたら良かったなってさ…」







姉「そりゃ残念、またの機会だねぃ」カリカリカリ







弟「うん、その時までにはもっと

立派な紳士スタッフとして

姉さんをエスコート出来るようにしておくよ」







姉「んー、楽しみにしてるよ~ん…」カリカリカリ








弟「あ、ウチの会社の送迎用の車だ…

じゃあ、行ってきます…」






…弟は

深海棲艦の出ない海域のルートを航行する

豪華客船のスタッフであちこちの海を回っていた






弟「ばいばい」







弟はこの航海から帰ってくる事はなかった











イーゴ「では…後はよろしくお願いします。」





女研究員「ん、お疲れさん、アンタ…」






イーゴ「なんですか?」





女研究員「よかったね」




イーゴ「?」




女研究員「ちゃんと受けいられてるようじゃないか

安心したよ」





イーゴ「はい」













満潮「結構、日が傾いてきたわね…

検査終わったんなら、さっさと帰るわよイーゴ」





イーゴ「はい満潮お嬢様」






榛名(そういえば満潮ちゃん、

『イーゴ』ってちゃんと呼ぶようになったんですよね、良かった♪)





榛名「あ、そうだ。

帰りに、夕飯の食材買って行っても良いですか?」





満潮「急いでよね」




イーゴ「荷物お持ちしますよ」




榛名「ありがとうございます♪そういえば検査結果って

どうだったんですか?」






イーゴ「…」






―良いかい?命令だよ。今後しばらくはこの事は

他言無用だよ。




―具体的には?





―しばらくは、しばらくだよ。

あんたの体のためさ。

それと…





―今後、出力は50%を超えちゃ駄目、

深海棲艦化も、もちろんね





―それでは戦力に





―命令!





―…申し訳ありません、承諾できません





―じゃあ…『お願い』





―生きて








―善処します








イーゴ「…」





イーゴ「戦闘、日常活動に支障はありません」










女研究員「なんだ…こりゃ…!」





男研究員1「女研究員さんに言われて過去のデータ

細かくチェックしてみたら

顧客からの気になるクレームがあって

伝手をつうじて調べてみたんですが…昔の薬品って粗悪品だったんですね」






男研究員1「見て下さいよ、この昔のデータ。

薬品一本の使用で、ここまで侵蝕しちゃったら確かに

大幅に能力は上がりますが…体がいくつあっても足りませんよ…」





男研究員「あの…イ-505て暴走歴があったんですよね」





女研究員「ああそうだよ。瀕死に追い込んでなんとか機能停止させたことはあったけどね」






男研究員1「過去にあの粗悪品を服用して暴走経験のある対深海棲艦兵器は

その影響で体が薬品に敏感になってるみたいですね。」






男研究員1「それ以降の服用で『加速的』に侵食が進むように

なる副作用なんて…しかも蓄積するって…

こんな興味深い報告、こちらの研究所には提出されてませんよ」







女研究員「これまで、

他の対深海棲艦兵器で同じような報告ってあったんかい?」






研究員1「私が持ち出せた資料はそれだけなんで、

なんとも…」







男研究員1「意識飲まれずにあと何本打てますかね~」








男研究員1「いやぁ…是非とも解剖して

実験したいですね~イ-505ぉ!絶対楽しいですよ~

何であんな良いおもちゃを手放したんですかぁ?」









女研究員「配属させて正解だったねかもね…」











-地下研究所 仮眠室-







ジリリリ







忌々しい時計の音で目が覚める


就業時間が不規則だと体に堪える。


若い頃なら平気だったが、年はとりたくないもんだ。



どれ、さっさと起きて


愛しい愛しい『ベイビィちゃん』に会いに行くかね。








-地下研究所 サンプル監視室-







男研究員2「お疲れ~、ほいコーヒー。

どうよ?ル級の調子?」








男研究員3「ん~、ありがとさん。今は落ち着いてるよ。

最初は拒絶反応がヒドくて暴れて

制御上手くいかなかったけどさぁ」







男研究員2「そりゃ良かった。

んでも交代制とはいえ24時間で

監視なんてな~ついてねぇよな」







男研究員3「ま~こんな化け物作っちゃったんだし

怖がるのも無理ないとは思うけどよ」







男研究員2「自分で監視しやがれってんだよ

あの豚提督」







男研究員3「はぁ~あ、マジでブラック」







男研究員2「コーヒーが?勤務体勢が?」









男研究員3「…どっちもだよ」ズズズ














男研究員2「つか、なんでこんなモン作らせるようにしたんだろな。

ル級モデルなんてわざわざ改造する必要なんて

ないだろうに…」







男研究員3「知らんよ、金持ちの考えることなんて…」








男研究員2「だよなぁ。…こんなのと毎日深夜まで

一緒にいる俺らの身にもなってほしいぜ」







男研究員3「まぁ、保存液入りのカプセルで保管されてるって言ってもなぁ、やっぱ怖いもんは怖いよな。

なんだよコレさ」







男研究員2「さぁな…とにかく悪趣味ってのはな…」










巨大な培養液に体全身が浸けられた

『化け物』


人の頭部は本来、脳を保護するために

骨、筋肉、皮膚、髪の毛と幾重にも組織が

覆い被さっているモンだが


コイツに限っては別かもな


なんたって鼻から上が

黒い骸骨みたいな

仮面で覆われて

るんだからよ。



最初に受けた説明では体のあちこちに拘束具が

仕込まれているって聞いてたがよ




これもその一種か?




頭部の骸骨みたいな仮面に加えて、

体中に巻き付けられたベルトのようなもの


キツく締められているのか

所々が肉に食い込んでいる。



見れば見るほど醜い生き物…化け物だ。




俺らふつうの人間でいうところの

目の部分は雑に

くり貫かれたように穴が開いてるが

そこから白濁した両目が覗いている。






気持ちわるい





仮面は、頭頂部から上顎までを頭の丸い

ラインに沿って覆っていたが

その下、つまり鼻の下はむき出しだった。



いや、剥き出しってのは

黒い仮面で覆われてないってことじゃなくて…



頬の肉とか唇とかが無くてよ…

筋肉組織みたいなもの、

歯茎、歯そのものが露出してんだよ。







気持ち悪い







んで、胴体は血色悪い皮膚

山のようにゴツゴツした

ボディビルダーのような筋肉




両腕、両足は

標準の義肢よりも一回りも二回りも太い

こいつ専用のモノ




コイツが深海棲艦化で、ル級の能力を得たとして

どこまで力を引き出せるんだろうか





改造を施した今、どれ程能力を

制御できるのか





好奇心とも恐怖ともとれる

妙なザワつく感覚がとにかく気持ち悪ィ。








?








ル級モデル「」ニタァ










!?









男研究員2「!?」ガタ





男研究員3「あ?どした?コーヒーこぼしたぞ?」







男研究員2「あ、いや…おまえ…見たか?

アイツ今、こっち見て『笑って』なかったか?」








男研究員3「あぁ?んなわけねえだろ?コイツ今眠ってんだぞ?ほら」









ル級モデル「…」







男研究員2「あ、ああ。そう…だな。気のせい…だよ…な?」






再び、保存液が入ったカプセルに目をやると

ソレは目を閉じていた



見間違いか…疲れてんのかなぁ。






有給とっかな








=システム起動します=





=全内部兵装 稼道可能=






=優先任務表示します=






=○○鎮守府所属 高速戦艦『榛名』以外の艦娘の排除=





=高速戦艦『榛名』の捕獲=





=任務確認終了=






=出力設定=



[Full]









=深海棲艦薬 注入=









=動けます=







[FIRE]













ズ…ド…ォォォォン



















本当に今日はついてない



やっぱり有給とって休みゃ良かった


そしたらこんなに苦しい思いをすることも



なかったのに






男研究員2「ぐ…げ…ふぅ…!!」




男研究員2「なにが…起きたんだ…?」




男研究員2「?、カプセルが…!?」





巨大な


クレーターが目の前に。



そこに有ったはずのモノがポッカリと消えている。



その周りには、消えた対象のものと思われる


カプセルのガラス片、薬品注入用のケーブル類等々



ありとあらゆるモノが散らばっている。




しかし肝心の『それ』がどこにもいない。




背をイヤな汗が伝う。



心臓がウルサいくらいに

鼓動する。


頭を振り

最悪な思考を消し去る




あれが動くはずがない


動くはずがない





だって


眠っていたハズ…





さっきまで後ろにいた


男研究員3に注意を促すように


声を吐く



男研究員2「おい…あの化け物…消えてんぞ…

おい?」クル




首を背後に向ける











『絶望そのもの』が二本足で

その巨体を支えていた。



右手は男研究員3の頭部とそこから


力なく垂れ下がる上半身、


左手には彼の下半身だったものが


真っ二つに分断されていた









思考が停止した




なにも出来ずに現実を受け入れるしかない。







もう…


今日は本当についていない






男研究員2だったものが


投げ出され彼の血にまみれた


太い丸太のような腕が振りあげられた








グシャ…












いったい何が起きたんだ?



最初は地震かと思ってたけどどうやら違ったようだ


テレビをつけても震度の表示もないし


横揺れとか縦揺れとかそういう類のものでもなかった



まるで地下が爆発したような…






揺れが収まって研究所の廊下にでたら


悲惨な状況だった





女研究員「…なんだよ…こりゃあ…!?」





数々の研究員の遺体




それらが天井、壁、床と遺体をハケのようにして

擦りつけられたような跡が所々につけられている




手術や兵器のメンテナンスで慣れているとはいっても


この死臭には耐えられない




さっきまで何事もなく日常生活を送っていた彼らの身に

何が起きたと言うんだ?




思わず、口を抑えて顔をしかめる。




そして事の真相を確かめるために


廊下に歩を進める






…ズルッ



…ズル




ちょうど突き当たりの曲がり角から点滅した光が漏れている、きっと照明が壊れているのだろう。



この湿った何かを引きずるような音はそこから聞こえている




!?




耳を澄ますとこちらに近づいているようだ





何故かわからないが隠れなければいけないような気がした



イヤな予感か女の勘か…



自分の部屋に再び戻り、ドアを廊下が確認できるていどの

隙間をあける







……ズル




…ズル




なんだ…ありゃ…



身長2m近くの巨体、四肢の代わりの太い義肢

体中に巻き付けられた黒いベルトのようなもの


黒い仮面、むき出しの歯や筋肉組織



確かな足取りで、こちらに近づいてくる。





その足首に絡みついているソレが

引きずられている事で湿った音を発していたようだ。


長い腸、その先に続く、人だった上半身という肉塊




ズル…ズル…ズル…






口を抑えて、今にも叫び出しそうな声を

体の内に押し込める



ソレが部屋の前を通りすぎる




そのころには


背中はびっしょりとイヤな汗をかいて

不愉快だった





あの化け物は…?


いつからこの研究所にいたんだ?






アタシは知らない…














孫提督「そろそろ、かなぁ…」



蒼龍「なにがそろそろ何ですかぁ?」



孫提督「ぅお!?な、なんでもない!

さて、撮り溜めしてたアニメを消化しないとなぁ

いそがしいなぁ(棒)」



蒼龍「…」



蒼龍「孫提督…何か隠してませんか?」



孫提督「…なんも」プイ



蒼龍「」ジィッ



孫提督「」ダラダラダラ



蒼龍「孫提督?私の目を見てください」



孫提督「ななななんで!?」



蒼龍「いいから!!!!」



孫提督「ぴぃ!!??」










-数年前 本営-





テクテクテク…




孫提督(むっふっふっふ…おじーちゃんのコネで

提督になれたぞ~)



孫提督(いやぁ人望も階級もお金で買える時代に

なったんだもんね~、良い時代ぃ♪)ゲヘヘ




テクテクテク…




孫提督(さぁて…今頃、待合室では

僕の最初の艦娘が待ってるんだよねぃ

誰かな~)フンフフン♪




孫提督(あそこの曲がり角を

曲がって)





テクテク


…ドンッ!




???「きゃっ!」ドサッ



孫提督「あいたぁ!!」ズデン




孫提督「どこに目ぇつけてんだゴラァ!!

この僕にぶつかるなんて、どういう了見だぁ!?

謝れ!土下座しろ!

心より深くお詫び申し上げ…」





孫提督「!?」






榛名「あ、す、すいません」アセアセ





孫提督「…」ポー






榛名「…お怪我はありませんか?立てますか?」スッ





孫提督「…」ガシィ




榛名「!?」ビク



榛名(手をつかまれた!?)



孫提督「君だ…」




榛名「…え?」




孫提督「君こそ僕の鎮守府にふさわしい艦娘だ!!

うん、そうだ!!間違いない!!ああ神様!!

あなたはなぁんてすばらしいんでしょう!

このような女神を僕の元に届けてくださるなんて!」




榛名「あ、あの…」




孫提督「おっとすまなかったね!!さぁ早く

僕の艦隊への登録申請をしにいこうか!」グイッ




榛名「で、ですから一緒にはいけません!

は、榛名はもう所属してる鎮守府があるんです!」




孫提督「ははは!………は?」




榛名「すいません…実はですね」









提督「ゴラァァァァ!!榛名から手を離しやがれ!!

この豚ぁぁぁ!!!」ゲシィ







豚提督「ンブヒィィィ!!!」ゴロゴロゴロ…ビタン






提督「はぁはぁ…だ、大丈夫か榛名!?」





榛名「あ、はい、榛名は大丈夫です…けど」チラ




提督「逃げるぞ榛名!そんな変質者ほうっておけ!

ったく!部外者の侵入を見逃すなんて本営が聞いて

呆れるぜ」




榛名「て、提督、そんなに強く引っ張らないでぇ!」





パタパタパタパタ…









孫提督「ふ、ふふふ…に、逃がさないよ…」














それから僕は


榛名ちゃんのことを調べて調べて調べあげたよ


あの忌々しい筋肉バカ提督のこともね、


元々はあいつも本営側の人間だったけど


僕を足蹴りにしたことを餌にしたら


簡単にクビにする準備が出来たよ~



そしたら榛名ちゃんどうしたと思う?


僕のところにさぁ『提督をクビにしないでください!!』


だってさぁ!!もうさ!健気だよね女神だよね!!





だから、僕もねぇ海よりも器が大きい人間だからさぁ


考えてあげたよぉ、



やめさせない代わりに榛名ちゃんが僕に出来る


精一杯の愛の証が欲しいなぁってね。



そしたらどうしたと思う!?


熱ぅいキッスだよ!?



ま~、あんときは唇に軽くふれるぐらいだったけどぉ?


きっと恥ずかしかったんだよね!?


あ~、あと少し涙目だったねぇ。



嬉し涙だよねぇ、ほら僕ら愛し合ってるじゃん?








でさ、この間久々に会いにいったじゃん?





愛しあうためにねぇ?


そのために


邪魔が入らないよう

あそこの鎮守府のやつらに

わざわざ『遠征任務』だしてやったんだよな~




あと、少しでも僕と榛名ちゃんが

一緒にいられる時間を稼いで欲しかったからね~





特別なルートで手に入れた


ステルス改造済みの対深海棲艦兵器を遠征先に


放ったけど…ん~まぁ結果として


それなりに、愛し合えたけどさ




どうせならアイツ等、沈んでくれた方が良かったけど…


そしたらほら、一艦隊沈めたとなればさ?




あの脳筋提督なんか無能ってことで切られるじゃん?



そしたら榛名たんは僕が引き取れば良いし!?


アイツは居なくなるしで良いこと付くしじゃん!!









そう…




あの、バカさえいなきゃなぁ~!!




イーゴだよイーゴ!!




ああ!思い出しただけでイライラする!

あんのポンコツめぇ!!



ん~…


…まぁ、僕をバカにした罰にお灸を据える目的でね


今回、僕の所に配属されたル級ベースの対深海棲艦兵器を改造してさ


アイツ等には怖い目あってもらおうかなぁってね~




だいじょーぶだいじょーぶ♪


ただちょ~っと僕をバカにした奴らに


怖い目にあってもらうだけだからさ♪




今頃、ル級モデルが


あの鎮守府に向かってる途中じゃないかな~?








孫提督「…ってな」キリ






蒼龍「」






孫提督「お、おい」






蒼龍「」






孫提督「な、なぁ、そーりゅー?」





蒼龍「孫提督…一つ良いですか?」






孫提督「は、はい?」






蒼龍「…」






蒼龍「最低…」ボソ












いつもと変わらない朝


今日はどこへ遠征に向かうのだろう





予備の少なくなった義肢の整備をしながら


同時に身体情報を確認する、


相変わらず体調はヒドいようだ。







最近の朝の日課は目が覚めてから


トイレに駆け込み


吐く事だった


吐くこと事態に抵抗は無い


苦痛も無いのだから


ただ嘔吐したあとは口臭に


気を遣わなければ、女性の多い場所では


清潔感を保たなくてはいけない








…明らかに悪化しつつある




私の体の3割は既に浸食が、深海棲艦そのものの


細胞に変異しつつあるようだ





服を着替える際に


時折己の半裸を鏡に映すことがあるが




最近人間でない部分が


義肢以外にも増えた





それを指で表面をなでるように触れていく




左脇腹から右胸にかけて生えてきている

『黒い鱗』のような堅い物質



それを女研究員に検査してもらった結果

『駆逐艦イ級』の装甲と成分が一致してしまった。







他にも、左の肩胛骨から腰にかけて

同じような黒い鱗が生えている



幸い、衣服で隠せる範囲に

その物質は集中していたため


気付かれることはなかったが



戦闘には支障が出始めていた


体への負担を抑えるため出力を


グッと下げて戦いに臨んでいたためだ。




そろそろ皆さんも疑問に思い始めてくる頃

だろう。



この頃の私の役目は攻撃に参加するよりも


皆さんの壁や、盾になることが多かったのだから


仕方が無い疑問に思われるのも無理はない





白血病の症状も表れ始めていたが


そこは薬で抑制することが出来るから


まだマシだった










-鎮守府近海-







=…=






=目標地点観測=







=○○鎮守府=







=障害がある場合は速やかに排除、

『榛名』の捕獲を優先=







=任務遂行します=











-鎮守府 波止場-





阿賀野「あ、イーゴぉ♪

一緒にパフェ食べに行きましょ~♪」トタタタ




イーゴ「阿賀野お嬢様、

せっかくダイエットに成功

したのによろしいのですか?」




阿賀野「い、良いのよ!!がんばった自分へのご褒美よ!」




イーゴ「最近、何かと自分へのご褒美という名目の

余剰カロリーを接種する機会が多いような気がしますが」




阿賀野「良いの良いの!!」



阿賀野「それにイーゴ、最近なんだか顔色悪いし、また痩せたんじゃない?

…そう!あなたは逆に太らないといけないの!

あなたのために言ってるの!」




イーゴ「…」




阿賀野「…」ワクワク




イーゴ「かしこまりました、

では準備をしてきますので

…待ち合わせは、正門で?」





阿賀野「やった♪うん!

それでOKよ♪じゃ、また後でね♪」





イーゴ「はい」











-未確認の信号を確認しました-









イーゴ「…?」クルリ






イーゴ(波止場から遠くに…黒い影が…あれは人か?)





阿賀野「どうしたの?イーゴ?」







イーゴ「…」




イーゴ「…」








阿賀野「ねぇイー」







イーゴ「!?」






イーゴ「阿賀野お嬢様!伏せてください!!」グイ









阿賀野「え」グラ










ド…ゴォォォォォン!!






イーゴ(鎮守府に…砲撃?方角からすると…

あの人影!?)




阿賀野「きゃぁああ!な、なになに!?」





イーゴ「ここはたった今、

砲撃を受けました…阿賀野お嬢様、

私の影に隠れて移動してください。」





阿賀野「あ、ありがとう」










-装備保管庫-




イーゴ(さっきの砲弾がまさか、装備を保管している

倉庫に着弾するなんて…これでは、お嬢様達の装備が)






阿賀野「そんな…兵装保管庫が、私達の装備が…!」ペタン





ドタドタドタ




提督「おい!何があった!?」



阿賀野「て、提督!!鎮守府が…鎮守府が!」



イーゴ「おそらく、あそこの人物がこちらに攻撃を

仕掛けてきたのでしょう」




提督「あ、あそこだぁ!?…あ、あの小さな影か!?

あんなところからか!?」




イーゴ「あれは…」








-製品番号識別中…-





-…-




-照合終了しました-




-照合結果 『戦艦ル級ベース対深海棲艦兵器』-




-『ル-101』です-








イーゴ(こちらに攻撃を仕掛けてきたということは…)





-ル-101聞こえますか?こちらは○○鎮守府所属の

イ級ベース『イ-505』です-



-直ちに攻撃を停止してください、繰り返します

直ちに攻撃を停止してください-



-もし攻撃をやめない場合、こちらもそれ相応の…-








カッ…




…ズドォォォン!!





提督「うぉぉあ!?」



阿賀野「きゃああ!」



イーゴ(波止場が砲撃でえぐれた!?)



提督「あ、阿賀野!!みんなを集めてくれ!

応戦…って!保管庫がぁ!?」




阿賀野「どうしよう提督…阿賀野たち戦えないよ!」




イーゴ「提督、阿賀野お嬢様あなた方はみなさんを

つれて安全な場所へ…皆様の準備が整うまで私が

時間を稼ぎます」





阿賀野「だ、大丈夫なの!?あそこからここまで届くなんて…あれって戦艦の深海棲艦なんじゃ」





イーゴ「深海棲艦であり、私の同類です」





阿賀野「…え」





イーゴ「時間がありません」




ズド…ォン!






イーゴ「ご安心を」





提督「…」




提督「…わかった…頼んだぞイーゴ…!

俺は、本営に応援要請してくる!」タタタ…




阿賀野「みんなのことは任せて!」





阿賀野「…ごめんね…!」タタタタ…





イーゴ「…」





ドン…!!



ズ…ドドン!!




イーゴ(砲撃の威力は凄まじいものの…命中率が

未熟すぎる…まさか、起動したてか?)





イーゴ(いったい、なんの目的でこの鎮守府を襲うかは

わからないが、危害を加えるのであれば)








ジャコン…






-兵装選択-


[両腕射突機]





-出力設定-


[50%]








イーゴ「駆逐します」











ドォォン!




=…=




=着弾確認出来ず=




=仰角修正=




=第6射 発射準備に取りかかります=



=放熱=





=対象鎮守府より通信=



=通信対象『イ-505』=



=砲撃の停止を要求しています=



=砲撃を中止しますか?=



 [YES]

→[NO]





=放熱及び充填完了 発射しますか?=


→[YES]

 [NO]




ドォォン!!






=…=





=目標 着弾観測出来ず 放熱します=




=…=





=対象鎮守府より接近中の物体アリ=







=イ-505です=






=障害として排除します=











抜けるような青空


きっと皆さんだったら


『気持ちの良い空ね』とか


お出かけをしようとか


気分を高揚させるんだろう…




これからたった一機で


戦艦に応戦しなくてはいけないというのに


不思議と脈拍は安定している。


脳内麻薬という類のものでもない。








次第に距離が近づく脅威


その体が視界に入り始める






すでに深海棲艦化しているのか?




両手の義手からは


長い二つの砲身が覗いていた


先ほど波止場を吹き飛ばしたのは、

あの砲だろう






一直線に向かっていたベクトルを


直角に曲げる


水飛沫を上げて、方向転換し




ル-101を中心として円を描くように

水面を駆る




その巨体は


ノロノロと緩慢な動作で


こちらに砲身を向け始めていたが


未だに私を視界に入れることは叶わないようだ




速力ではこちらが上だ


ならば、背後をとりつつ近づき


射突機でダメージを与えれば


単機でも勝機はあるはずだ








海面を駆けながら両腕の兵装の機関を

稼働させる


これでいつでも発射できる



あとはタイミングを計算して…






すると先ほどまでこちらを捉えようと

動いていた巨体がピタリと動きを止めた




この機を逃す手は無い


ちょうど、私から見てソレは背



出力を50%に抑えているとは言っても


私の標準速度なら後ろを捕るには


十分だ






円を描くように移動していた足を


その背に向ける







駆!







ガコン





-両射突機 充填完了-









=兵装変更=



→[射突機改]








=出力変更=



[20%]→[50%]








ル-101[]グルン






!?







砲身が体に収納されて



振り向いた!?




動きが先ほどまでと全然…!!









ル-101[…]ガシッ








胸に手を…!



まずい…こんな無防備な体勢では







ズゴン!







イーゴ「…!!」








-装甲貫通 装甲貫通-





-血液が流出しています-




-貫通物質を取り除き止血してください-




-止血してください-




イーゴ「…!!このっ…!」







黒い巨体が右手を私の胸に手を当てた



次の瞬間



指が体にめり込み肉を掴まれ固定される





そして


その手のひらから


絶対的な質量が発射される




アンカーが胸部装甲を貫いて中の肉をかき分け


背から飛び出す





傷口から、血が流れ警報音が脳内に響く


左目の義眼に次々とエラーメッセージが表示される



この一撃だけで甚大な被害を被っていた





急所は外れたものの衝撃は凄まじく


周りの肋骨を何本か砕かれたようだ




離れなければ





左腕の充填を解除し、右手でル級モデルの


顔面を鷲掴みにする





[Fire]






ゴォン!







右手の平からアンカーを打ち出し


黒い仮面にたたき込む




衝撃により、打ち出した方向とは真逆に


力が働き、背中の方向に大きく飛んだ






距離にして、およそ5m


着水し、再び巨体と対峙する、



だが大きく空いた傷口からドボドボと


赤い液体が垂れ流れる


白いシャツがみるみる内に塗れていく


そこを手で押さえつつ


視線を前に向ける






黒い巨体は再び静かにそこに佇んでいる


黒い煙が顔面を覆っていたが



潮風で流れるとそこには、傷一つついていない様子の


黒い仮面、その両目は


先ほどまで、白濁していたソレとは異なり


青白い光を放っている






深海棲艦化による現象だった






そして、射突機にこびりついた私の体液を


むき出しの口元に持っていき


赤黒く変色した舌でキャンディを

与えられた子供のように

舐め取っている









-筋収縮で止血しますか?-



→[YES]

 [NO]






イーゴ(これで止血は出来たが…

ごっそりと肉を

持って行かれた)






胸に空いた穴を確認する



穴の周囲の筋細胞を収縮させて

出血は抑えたがそれまでに失った血液の量は

計り知れなかった


私達、兵器はただでさえ生体部分が少ない

つまり絶対的な血液量も少ない



深海棲艦化とは生体細胞を人ならざる細胞

に置き換えて能力を引き出しているに過ぎず

力を得るため消費し続ければならない








腰のホルスターに手をかける


そこにぶら下がる4本の針の短い注射器









―良いかい?深海棲艦化も勿論だめだよ?







とある女性の声を思い出し、その手を引く









―お願い














…パシュ





小石を水面に投げ入れたような軽い音が耳に届く




視線を戻すと、先ほどまでル-101がいたはず空間から


姿が消えていた


あるのは、ただただ小さく広がる波紋










パシャッ








-急速接近中の物体アリ 注意しt





ガゴォォォォン



視界が大きくぶれる



ル-101が高速で、自分の死角に回り込んで


強烈なハイキックを叩き込んだと


認識したのは自分の体が水面に沈んでからだった






意識せずともビクビクと痙攣するこの体、


中枢神経をやられたのだろうか






左目の義眼に亀裂が生じ、


大きなノイズが走っている


砂嵐状態だ








仰向けに倒れた体は未だに小刻みに痙攣を繰り返し


コントロールが効かない





わずかに動く右目を動かすと


ル-101がこちらをのぞき込んでいる





首を掴まれ、持ち上げられる




ブン



真上に信じられない怪力で放り投げられる



重力に従い真っ逆様に頭上から再びル-101の元に


落ちていく、



自由の利かない右目が捉えたのは


大きく右腕を引いた黒い巨体







その瞬間はやけにスロウに見えた






右手の平から覗く先端部が露出したアンカー


巨体の前を私の体が通り過ぎ



ちょうど腹部が彼の懐の位置に重なる





そして―






バゴン





重く鈍い音






アンカーが腹部を叩き、衝撃が内部を破壊し

生体の臓器と人工の臓器が機能を失い始めるのがわかる



打ち出されたソレの方向に従い体が吹き飛び

水切りのように二回、三回と水面にぶつかっては跳ねる





頭部が水面に激しく擦られ、それがブレーキとなる制止力

を生みだし、やがて私の体は止まる










仰向けに体が沈み

ジワジワと己の周りに赤いインクが広がる


体の痙攣は収まったが、今度は別の箇所がひどい


ダメージを受けた




アンカーは私の腹部、腹膜を裂いた




ようやくいう事を利き始めた右手で


バックリと割れた腹を撫でる、


ヌルヌルとした粘度の高い液体の感触を感じとり


指先に引っかかるが何かをつまむ



首を持ち上げ、確認する








―腸がはみ出ている







おそらく人間のままであったなら


この時点でショック死は確実だ




意識はある




まだ戦える




早く体勢を立て直さねば



イーゴ「…」










…体が動かない

















=対象の生命状況を確認します=





=…=





=脈拍 僅かに反応アリ=








=完全排除を推奨します=






=頭部破壊であればほぼ100% 機能を停止できます=







=脚部による頭部の圧死をおすすめします=




→[YES]

 [NO]





















prrrrrr…





蒼龍「おかしいですね~、研究所に繋がりませんよ~?」ピッ







孫提督「んな馬鹿な?今日は通常稼働日だろ?」






蒼龍「って言っても出ないものは出ませんよ~?どうします?」






孫提督「ふ~ん、まぁ、ほっときゃ良いんじゃない?」シランプリ






蒼龍「」ジィ






孫提督「うぐっ…!!だって…」






蒼龍「だっても何もありません!!ちょっと驚かすと言っても物事には限度があります!!

ヤツ当たりに対深海棲艦兵器の子を向かわせるなんて!!」






孫提督「あ、あいつが悪いんだ!!あいつがさっさと僕に榛名ちゃんを渡せば」







蒼龍「まだそんな事言ってるんですか!!ほら!!行きますよ!!」グイグイ






孫提督「ちょちょちょちょっと待ったぁ!!行くってどこへ!?」






蒼龍「決まってるでしょ!!研究所ですよ!ほら今から車

持ってきますからね!」







孫提督「なぜ!?」






蒼龍「なぜって…

研究所にル-101の起動停止措置の連絡が出来ない以上、

直接出向くしかないじゃないですか!」






孫提督「…はいはい」






孫提督(ぶぁ~か!誰が大人しく待つかよww)







蒼龍「…逃げようなんて考えてませんよねぇ?」ニコリ







孫提督「…」






孫提督「モチロンダトモ」















-研究所(半壊)-



孫提督「なんだこりゃあ!?」





蒼龍「研究所が…一体なにがあったの?」





孫提督「お、おい蒼龍!!これって人…だよな?」





蒼龍「…ぅ、ぐちゃぐちゃになってて判別し辛いですけど、確かに人…ですね…」




孫提督「う…」




蒼龍「孫提督?」




孫提督「う゛ぉえ゛ぇ゛ぇ゛」ビタビタ




蒼龍「孫提督!?しっかりして下さい!!」




孫提督「」ゲェゲェ








???「だれかそこにいるのかい!?」



蒼龍「!?、生存者?」



???「あいつは…?あの化け物はもういないのかい?」スッ



蒼龍「あなたは…?」



孫提督「お、女研究員!?生きてたのか!?」



女研究員「なんで…アンタがここに?」














女研究員「―あんた自分がやった事…わかってんの?」







孫提督「そん…な、嘘だ…嘘だ!!こんなつもりじゃ」







パァン






孫提督「ひぃ!!」ズテン






女研究員「ふざけんなよこの豚ぁぁ!!」





女研究員「なにが『こんなつもりじゃ無かった』だぁ!?

人が死んでるんだぞ!アンタがル級モデルの改造を

指示したんじゃないのか!あぁ!?」





女研究員「あんたの責任だろうが!!ええ!?」





孫提督「ひ、ひぃぃ!僕は悪く無い僕は悪く無いんだぁ!」





孫提督「僕の言う事を聞かない奴らが悪いんだ!」





孫提督「お、おい!!そそそ蒼龍!!僕を助けろ!命令だぁ!!」





女研究員「…っち!」





蒼龍「…」





孫提督「蒼龍!!早くしろぉ!」





蒼龍「孫提督…」





孫提督「な、なんだよ!はやく」





蒼龍「いい加減にしてください…」















-鎮守府-








初雪「装備が無いと…足手まとい…」









満潮「だからってこのまま何もせずに

指を咥えて待ってろって言うの!?」









初雪「そうは言ってない、

ただ…駆けつけても…なにも出来ない…」シュン






能代「確かに…感情にまかせて、

迂闊な行動は出来ないものね」






阿賀野「で、でもはやく応援に行かないと

イーゴが…!」






榛名「…」






提督「…お前等がイーゴを大切に思う気持ちは

よくわかる…俺だって同じ気持ちだ

すぐにお前等をアイツの所に向かわせたいさ」






提督「だがな、現実問題…いま『お前等は戦えない』」







榛名「…ッ!」






提督「だが、『出来ること』ならある」





能代「何が…出来るでしょう、

戦えない私達が出来ることは―」








提督「初雪、満潮、春雨」






初雪「んお?」





満潮「…」





春雨「はい!」






提督「お前等は近隣住民への避難指示を」







提督「万が一のためにな…」







提督「続いて阿賀野、能代」








阿賀野・能代「はい!」









提督「両艦は鎮守府内の重要書類、貴重品類の

運び出しを」







榛名「あ、あの提督!榛名は…榛名にも

何か指示を」







提督「あぁ、もちろんだ!榛名、

お前は俺と一緒に鎮守府に残ってここから

近い鎮守府への応援要請をかけまくってくれ」







榛名「はい!」







提督「良し!!さぁ取り掛かった取り掛かった!!」






榛名(待ってて下さいイーゴさん!)


















-…し…て…む…サイキ…ウ…-






頭がぼん…やりする…





思考が…働いてくれない…





何も…感じない…





ゆっくり、ゆっくりと息を吸い込む




右の肺が潰されているせいか




呼吸が上手くできない






霧がかった霞んだ視界が海面を捉え


その青さを確認する、





そうだ、私はル級モデル『ル-101』から強烈な打撃を


受けたのだった。





一度意識を失ってはいたもののなんとか

再起動が叶ったようだ





体は相変わらず、海面に背を預けて

沈んだまま、赤黒いインクの流出は止まっていた

ものの各機関部の反応は鈍い…








イーゴ(身体情報を…表示…)






イーゴ(?)







そうだ、義眼は打撃によるダメージで


使いものにならなかったのだ


ディスプレイ表示でなく


音声による被害情報を要求する








-音声ガイダンスに切り替えます-




-被害情報は次の通りです-





-頭部複雑骨折-




-頸椎に複数箇所 ヒビが確認されます-




-右肺機能停止-





-血中酸素濃度 低下中-





-血液量 大幅低下-





-臓器 一部露出中です、戦線離脱し

早急な治療を推奨します-






-危険です 危険です-








-危険です 危険です-





-危険です 危k…






プツン






イーゴ(このままではまともに…動けないか…)










関節のフレームがひしゃげたのか歪な音をたてる


ギシギシと義手が軋む。





腰につけた


ホルスターに再び手を伸ばす












―もう戦うな













―生きて











イーゴ「…」









イーゴ(約束を守るのが『紳士』です…)










イーゴ(ですが…)











イーゴ(女研究員…申し訳ありません)






イーゴ(提督を…)







ギッ







イーゴ(阿賀野お嬢様を…能代お嬢様を…)







ギシッ







イーゴ(初雪お嬢様を…春雨お嬢様を…)







ギシッギシィ






イーゴ(満潮お嬢様を…)





ギィィ





イーゴ(榛名お嬢様を…)










イーゴ(紳士という名前で拘束され

お守りできないような『約束』ならば)














イーゴ(『紳士』なんか―)


















歯を食いしばり義手に力を込める



ギリギリと力を込めすぎたせいか



奥歯が軋みをたてて割れる












イーゴ「やめてやる!」













-感情抑制システムから警告-




-深刻なエラーを検知-










ホルスターから一本


禁断のソレを抜き取り


左胸に突き立てる










シャコン…







…ドスッ







-…-




-浸食率36%-






-浸食率40%-






-浸食率43%-








-変異します-



















ドグン…















=警告=




=警告=





=排除対象のイ-505より深海棲艦化の反応アリ=







=早急な排除を推奨=








=出力変更しますか?=




→[60%]





=変更中…しばらくお待ちください…=












メキメキと体中の細胞が軋む


肉が、骨が、臓器が


再構築を始める


はみ出た臓器がズルズルと体の中に再び収納され


あるべき位置に戻る





その上にかぶさるように青い発光とともに


皮膚を覆い始める黒い鱗、その鱗でさえも


さらに変異を始め


真っ黒な装甲が鎧のように胴体を覆った








筋肉が目覚める







意識の半分を、脳の半分を

ペンキを塗りたくられたように

別の何かに支配される







頭の中にズッシリと質量を持った声が響く


愛する人と共に生きはずだった時間を奪われたものの慟哭


生きる事を拒絶されたものの叫び


死を強要された呪詛


受け入れられない現実を

突き付けられ瓦解した精神の断末魔







深海棲艦は艦娘が命を落とした際に

人類に復讐する脅威として蘇った姿だと説いた学者は誰だったか






事の真相はわからないが







この頭に木霊する声はどこから来るのか…



この声は私の脳細胞一つ一つを焼くように犯す


体の組織が神経が過敏になる


頸椎のヒビが再結合を始める




抑制したはずの神経が反応し始め


明瞭になる五感







ノイズの走る左目に景色が浮かび上がり

視力を取り戻す




視界が薄い青に覆われる




深海棲艦化が間もなく終了する合図だ




次々と表示されていくウィンドゥ





-最終浸食率 47%維持-




-各機関部 再構築 完了-




-体液 低下中 深海棲艦を捕食し エネルギーを補充してください-











通気性の良くなった肺が再構築される





空気を吸い込み、新鮮な酸素を取り込み始める










上半身をムクりと体を起こす






潮風を全身で感じる










ああ…とても気持ちが良い…









チャプ…チャプ







ゆっくりと歪に所々を黒い装甲で覆われた体を起こす




海面に足の裏を付け



直立する






真っ青な空に向けて


両手をグッと伸ばす






義手と生身の接合部から


弾けるように触手が生える





細胞が人ならざる、悍(おぞ)ましく見た者を


不快に…吐き気を催させるような


異形なソレ




ワラワラと蠢く不気味かつ


粘膜を纏った妖艶ささえ感じさせる


肉の束は義手を包み込むように


螺旋を描きながら



巻きつき始め


やがてそれは


血液を体液へと変換させる臓器へと


変化し、


肉塊の先端は目の前の脅威を噛み砕く


更なる脅威と化した狂暴な『顎』へと変異する







両腕に新たに顕現する肉塊


ドクンドクンと脈打つ


むき出しの筋肉と白濁した牙




青白く、ネオンのように妖しい輝きを放つ


四つの大きな目






その筋肉の微細な隙間から、ドロドロとヘドロのように


粘度を持った液体が滲み出たかと思えばそれは瞬間的に硬化し


ミクロンレベルで


何百、何千、何万とウェハース上に積層的に装甲が重なり始める






両腕に顕現した己の内側の溢れる暴力


捕食者として理性の首輪で縛り付けた絶対的な『力』








天に掲げていた―







ブン…!!




―駆逐艦『イ級』の頭部を振り下ろす










ズシンと肘から先に感じる確かな質量


それが安心感を与える







『両腕の顎』を何度も開閉すると「早く喰わせろ」と


言わんばかりにグルルと低く唸るような声が漏れる









デロリと長く青黒い舌で両腕を『舌舐めずり』する
















瞼を劇場のオペラカーテンを降ろすように



ゆっくり静かに閉じる











深く息を吸う…




吸って吐いて…










潮風を肺いっぱいで感じて













イーゴ[[Vooooぉぉoooぉooooォォォoooooo!!!!!!]]













全身の血管、神経系の諸々すべてに


供給される溢れる力は


行き場を失い






人間のソレでは発声できない音を作り出し


『咆哮』する






深海棲艦薬は


喉さえも、発声器官さえも創り変えてしまった






音波はビリビリと周りの海面を振動させ


波紋を作る











青空に向けた視線を目の前に向け直す






『左目の化け物が捉える異形の視界』






『右目の人間が捉える日常の視界』







共通して捉える目の前の






黒い脅威




















ル-101[深海棲艦化を検知 速やかに排除しまs














シュパッ…






ゴキン…







ル-101[イ-505より攻撃を受けました]





ル-101[両腕 破損]





ル-101[体液流出中]





ル-101[想定外のスペックです]




ル-101[異常事態発生]










-出力変更-




→[70%]






身をかがめ


グンとその身を前に投げ出す






筋力が増強された人工筋肉が


強烈な瞬発力を生み出し


海面を大きく跳ねると





タイトパンツが衝撃に耐えかねて


脹脛(ふくらはぎ)に当たる箇所が爆ぜて


そこからギシギシと軋む義足が露出した








身が驚くほどに軽く感じる


その一歩一歩の推進力は躯体を瞬間的に


ル-101の懐に運び至近距離にまで近づく











グバァ…









唾液の絡みつく


両腕の顎を


可能な限り開き―












!!!Bite!!!!












太く逞しいル-101の義手を白濁した牙が襲う


肩にイ級の二つの頭部が喰らいつき


一気に顎を閉じると


バキバキと何かが砕ける音を捉える






接合部よりスチームを吹きあげ排熱し


更に圧を高めていく









ギギギ…






…ゴギン









丸太のような腕の内側で骨格を成すフレームが


折れる感触










イーゴ[[vooooouuu!!!vaaaa!!!!!]]





心地の良い感覚をその

両腕に感じ

抑えきれない興奮を咆哮する








バッと青黒い体液がシャワーのように


その対象より吹き出し


『俺』の白いシャツを醜く濡らしていく




皺だらけになり、ボロボロになったシャツは


その時点でさえ衣服の役目を果たさなくなったというのに


さらに身につける意味を失った






顔をその黒い仮面に向けると


青白く濁った目が僅かにピクピクと


痙攣している






先程まで自由自在に動かしていた腕が急に動かなくなり


戸惑っているのか





それとも目の前に現れた自分の同類が


瀕死の状態から急激な勢いで復活したことによる


本能レベルの『恐怖』を感じているのか









―どうでもいい








そのまま噴出する液体を全身の浴び続ける


体中が体液に塗れるのに時間は掛からなかった






スゥゥゥゥ





そして鼻から息を大きく吸い込んで






ハァァァァ…






たっぷりと


蕩(とろ)けるように甘く官能的な、香りが


敏感になった鼻孔を貫き


脳を溶かして


本能を呼び覚ます






抑制された食欲を激しく駆り立てる


舐めつくしたい、しゃぶりつくしたい








嗚呼…嗚呼



嗚呼aaAAa@@AAaaa










…イタダキマス















=スペック判別不能=



=スペック判別不能=



=スペック判別不能=






=『イ-505』のカタログを検索中=





=…=






=このような変異は仕様上 有り得ません=



=ダメージ表示します=





=両肩 大幅破損=


=体液 流出中=


=射突機 使用不能=


=16inch三連装砲 使用不能=


=フレーム 歪度 大幅に上昇中=


=接合部 破損=







=危険です=





=出力変更しますか?=



→[YES]

 [NO]








=出力修正=



[60%]→[80%]










ル-101[深海棲艦覚醒薬 限界値まで再注入]







=!警告!=





=規約に則り、独自の判断での限界値までの使用は禁止されています=






=規約に則り…








ル-101[強制…コマンド使用]






ル-101[パスワード入力]






ル-101[********-***]







=…=







=パスワード一致 生産臓器より覚醒薬 使用=









=幸運を祈ります=












ル-101[[…]]









ル-101[[にんMU…ぞっKOう…しま…SU]]






ル-101[[…Iiiiaaaa…!!!]]













市長「深海棲艦ですか?」





初雪「ん…でっかいの…」





春雨「なんとか皆さんを避難させることは可能でしょうか?」





市長「可能ですが…それなりの時間は必要です艦娘さん…」





市長「避難勧告をだして、

消防署と警察署に指示を出して

各町村の指定された避難所へ移動するに…

どれほど時間が…かかるか」





市長「それに…

避難が必要な程、おそろしいヤツなんでしょう?

艦娘さんたちがここにいて…

今はだれが食い止めてるんです?」






初雪「わたしたちの仲間」






初雪「とっても弱くて、とっても強い…だいじょうぶ」フンス





市長「…」





市長「どっちですか?」






春雨「えと…えと…」アセアセ







満潮「安心して…本当に『強い』から…」






初雪「ほう」





春雨「ふふ♪」クスッ





満潮「なによ!///」





初雪・春雨「べつに」ニヤニヤ





満潮「ニヤニヤすんなぁぁ!///」





市長「?」











-執務室-






提督「―本当に助かる」





提督「―ああ…すまん…頼もしいよ」





提督「―詳しい事はまた…ああ、ありがとう」





ガチャ…チィン




榛名「提督…

こちらは駄目でした…やはりここの場所まで

距離があるようで…」






提督「ああ、すまんな…こっちは大丈夫だった、

昔馴染みの連中が、応援に戦艦を手配してくれたよ…」





榛名「そう…ですか」





提督「…」





榛名「…」





榛名「提督…あと…出来る事は…」






提督「…」





提督「もう…ほとんど無ぇけど…

まだ一つ残ってるさ」







提督「なぁ榛名…

俺達、提督がお前ら艦娘を遠征であれ出撃であれ」







提督「海に送り出した後に思う事は一つなんだよ…」







榛名「…」








提督「何でも良いから帰ってこい」







榛名「…!」





提督「だからお前も強く祈れ、

『無事に帰ってきてほしい』

『生きて帰ってきてほしい』

んで戻ってきたら―」






提督「今度はお前があいつの

頭を撫でてイイコイイコしてやれよ」







榛名「…は…い、…っはい!!」






榛名「榛名!一生懸命!祈ります!」










グジュル…


ジュルル…


ブジュル…




ニチュブチュ…






……ブヂン






イーゴ「Haaaa…aa…a」クチャクチャ









…ゴクン








その巨体を押し倒しマウントポジションから


両腕の顎、人間の口で


肉を貪る、胸の肉、腹部、肩、首




美味…






舌に乗るドロドロとした液体を啜り


口の中に含んだ肉を嚥下する






両腕の顎も、変異により


消化器官が生まれ何度も咀嚼し


飲み込む






体に組み込まれた機関が取り込んだ体液を


エネルギーに変える





力が満ちてくる


体の末端まで力がみなぎってくる





しかしそれと同時に一回咀嚼するたびに


頭の中から大切な何かが失われていく






己が持つ、本来の


暴力を抑えつけるはずの理性、


弱きに手を差し伸べる思いやり







それら僅かに残っていたはずの『人間性』が


メッキのように剥がれていくのを感じる




それとは逆に剥き出しになっていく


貪欲なまでの『食欲』











美味い…うまい…uまi…







?





コイツ…

目が…段々



『金色』に…?










=覚醒薬 適応完了=




=Flag Shipモード に移行します=








ル-101[[ I I I I A A A !! ]]









-対象の…変異を確認…-




-カタログにない変異です-




-注意して下さい-






青白い目が一瞬で金色に輝き始めた








瞬間











両腕が弾かれた



対象の体と義手の接合部分から俺と同じように


触手が勢い良く生える



その勢いに負けてがっちりと固定していた


はずの両腕がほどかれたようだ




俺とは

比較にならないほどに多い肉の束


それが同じ様に義手にまとわりつき始め


巨大な『肉の盾』を形成し始めた



大きく脈打つ筋肉の束


そして束の隙間から飛び出るヘドロのような液体




それが筋肉を覆い尽くし瞬時に頑強な黒い装甲に変化し始める










己の両腕とは比較にならないほどの強大な質量



その威圧感に気圧されてしまった





現れたソレは紛れも無く『戦艦ル級』の両腕に

装備されている兵装だった










ル-101[[AAAAAiiii!!!!]]







イーゴ[[ !? ]]











グワシュ!!










隙を突かれた





ル-101が両腕のソレを


俺の体に両脇から挟み込むように


叩きこんだ







積層構造の体の装甲が凹んで、


内部を強烈に圧迫する


衝撃に耐えかねて胴体が悲鳴を上げた








ギシギシギシィ…ベキン








イーゴ[[Buu…!!fuu]]ゲボゴボ







体液混じりの未消化の


肉を口からぶちまける



カタカタと体が再び痙攣する




早く…防御姿勢を取らないと







目の前に迫る黒い塊







ズゴン…







体勢を整える暇を与えられず、顔面を殴られる


体がバラバラになりそうな感覚を感じつつ


体は吹き飛ぶ


水しぶきをあげて背面から海面に倒れ込む






バッシャァ









イーゴ[[グッ…ッゲェ…!]]














スゴンスゴンズゴン!!!










轟音を上げてめちゃくちゃな角度で


黒い巨体が、砲を俺に向けて撃ちまくる


当らないこそ爆風で体が蹂躙される




顔が、衣服が、皮膚が焼かれ爛れる


髪が燃え始める






イーゴ[[u…a…]]





バシュ!




ル-101[[ooooooo!!]]






巨体が海面を跳び凄まじい勢いで近づく




そしてその勢いを利用して体を大きく回転




加速と遠心力、そして巨体が持ち得る腕力


から打ち出される質量に対して、この細い体が


耐えられるはずもなかった











ゴォォォォン!!!











イーゴ[[…a……]]









折れるフレーム









ゴッ!…ゴッ!…ゴッ!…








馬乗りに覆いかぶさり


マウントポジションを逆に取られ


幾度も顔面を右に左に殴られる







…バキン








再び頭蓋骨が割れる








ガシ…メキ…メキメキメキ…







両肩を掴まれ左右に思い切り引っ張られる


真反対の強烈なベクトルが働き


軋みをあげて―














…ブチィ













―ちぎれた











ブシュゥゥゥ












肉と義肢を繋ぐ接合部のパーツごとゴッソリと


『持って行かれた』


露出した肉から今度はこちらが青黒と赤の混じり合った


シャワーを吹き出す事となった



噴水のように噴き続ける体液




馬乗りになったル-101の体を濡らしていく





対象のソレは、俺の腕を背面にまるで


気に入らない玩具を与えられ駄々をこねる子供のように


乱暴に放り投げた











- da…だmeーじ…計測…不nou -








-シス…ム……しゃっ…と…down…-








体が大きく二、三回


陸に打ち上げられた


魚のようにビクンビクンと跳ねる









イーゴ[[…a……ッ…]]ガクン








段々…瞼が…重くなってきた…とても…眠い…







ねむいなぁ…








…ぁぁ…













=タイショウ…沈黙 を…カクニン=






=最重要任務 『榛名』捕獲 ゾッコウ可能でス=











ブロロロロロ~






女研究員「だぁぁ!!もう!おっそいねぇこの車ぁ!!

もっとスピードは出ないのかい!?

早く行かないとル級モデルが起動しちまうかもだろ!?

アイツに教えてやんねぇと…」





蒼龍「仕方ないじゃないですか~コレ軽なんですもん」







女研究員「つか、なんで

アンタ等揃いも揃って携帯電話の

電池切れてんだよぉぉぉ!!」








孫提督「僕は悪くない僕は悪くない…」ブツブツ








女研究員「あ゛~辛気くさいねぇ!!

シャキっとしな!シャキっとぉ!!」ゲシゲシ








孫提督「ひぎぃ!」









女研究員「落ちこんでだって

死んだ奴らは帰ってこないんだよ!」








女研究員「それよりも

今後、自分がどうすべきか!考えてるんだな!」








孫提督「」ガタガタガタ








蒼龍「あ、あの~女研究員さん…もうそれぐらいで」







女研究員「あ゛~ん?」ギロリ







女研究員「そもそもだなぁ!」ワキバラ ガシィ








蒼龍「ひぁぁ!!」









女研究員「あんたが甘やかすから!」オナカ プニプニ







蒼龍「ちょっwww」







女研究員「この豚が!!」プニプニ








蒼龍「やめっwwww」






女研究員「図に!」プニプニ







蒼龍「くふふwwww」







女研究員「乗るんだろうがぁ!!」プニプニプニプニプニ








蒼龍「ごめんなさひぃぃ~wwwwwww」








グワングワン






孫提督「ぎゃぁぁ!!!

そ、そーりゅー!まえ…前見てぇぇ」ギャァァ





ホギャァァァァ!!














-港町 小学校(仮避難所)-




ワラワラ


ガヤガヤ




シンカイセイカン ダッテェ コワイネ~


イツニナッタラ カエレルノカナ…





初雪「は~い…こちら四人家族用のシートで~す

ブランケットの貸し出しもしてま~す」






ガヤガヤ








春雨「お、お水ならたくさんありますからね~!

みなさん譲り合いをお願いしま~す!」







漁師「おう!ハルちゃん!」







春雨「あ、漁師さん!良かった…鎮守府に一番近い

民家が漁師さんのお家だったから心配だったんです…」






春雨「ここにちゃんと避難できたんですね」






漁師「ああ!消防の奴らに案内されてな!

それよりもその…『しんかいせーかん』ってのは

今、どこまで来てんだ?」







春雨「それが…じつは…」








漁師「ん?」








春雨「…もう、すぐそこまで…鎮守府近海に」








漁師「な!?…おいおいおい…大丈夫なのかよ」









春雨「だ、大丈夫です!!いま私たちの仲間が

必死に…必死に食い止めてくれていますから!」







ガヤガヤ





満潮(非常用の発電機は…動くわね…)ガチャガチャ…







満潮「ふぅ…」パタン…







満潮「…」








満潮(大丈夫…大丈夫…だって

アイツが負けるはずがないじゃない…)








満潮(深海棲艦化すれば…負けるわけないでしょ…)







満潮(わかってる…わかってるわよ!!)







満潮(なのに…)







満潮「」カタカタカタカタ








ギュウ…




満潮(肩を抱いても…震えが収まらない)カタカタ…









満潮(どうしてこんなに不安なのよ…)















=浸食率 79%=








ル-101[[AA…ii…]]ズルズル…








=浸食率 85%=










ル-101[[A…i…]]ズルズル…







=最終浸食率 86%維持=






ル-101[[…]]ズル…ズ…








=目標鎮守府 圏内に入りました=










バシャッ…バシャッ…

















=○○鎮守府到着=








=『榛名』の捜索を開始します=









ル-101[[asdfghjkl;:zxcvbnm,./\ !!!!!!]]







ズル…ズル…ズ…












執務室の窓から見える


澄んだ青空


青い絵の具を真っ白な画用紙にこぼしたように


どこまでも青くてきれいな空




みなさんの遠征任務と


提督の執務が終わった後に


お出かけにでも誘おうかと思っていたました






こんなにお空がきれいなんですもの


お出かけしないと


もったいないですものね




勿論、イーゴさんも一緒に…







榛名のそんな淡い願いは泡沫のように


簡単に弾けて消えてしまいました







港に現れた


触手の化け物によって…











執務室の窓から港に目を向けます





波止場に這い上がってきたソレは


まさに『肉の塊』と表現するに相応しく


ピンクや赤、かつて筋肉組織だと思われるそれは


体の表面を覆うように蠢いていて


とても分かり辛いけれど…頭に腕、両足



確かに『人のシルエット』を象っていました










全長3mほどの肉塊は波止場をハイハイを覚え立ての


赤ん坊のように四つん這いでしばらく制止していました




ですがしばらくして


その触手まみれの頭部を左右に振りつつ


湿った音を立てつつ移動し始めました
















…なにかを探している?







その背から覗く


『戦艦ル級』の両腕の兵装


羽のように対になって飛び出ています








それでこの肉塊は




榛名たちの鎮守府を

襲ってきた深海棲艦だと理解しました






榛名「もう…鎮守府まで」






提督「おいおいおいおい…

なんだ…あの…化け物は…!!」







榛名「…い、イーゴさん…は…?」








榛名「なんで…戻ってこないんですか…?」






提督「…榛名…」







榛名「う…そ…そんな…」









提督「榛名…」







榛名「提督…!!榛名、様子を見てきます」ダッ





ガシッ






提督「待てよ榛名」







榛名「提督…放してください」






提督「だめだ」







榛名「お願いです……!」







提督「行って何になる?」








榛名「…それは…榛名は腐っても戦艦です!!壁ぐらいには…!」








提督「榛名…!」ギュ










提督「イーゴがそれを望むと思うか?」










榛名「…」








提督「あんな化け物相手に艤装なしに

突っ込んでみろ…」








提督「わかるだろ…」









榛名「…ッ…」








提督「逃げるぞ」







提督「間もなく応援が到着するはずだ、

それに見ろアイツ、動きがまるで亀みたいに

ノロいじゃねぇか」








榛名「…」








提督「…今はとにかく一緒に逃げてくれ」








提督「阿賀野と能代も、避難しているはずだからな…」








榛名「…」






提督「…」





…ポスン






榛名「…!?」






提督「俺で悪いが…」






提督「イイコイイコ」ナデナデ






榛名「…」




榛名「…ぅ」グスッ




提督「…」ナデナデ





提督「鎮守府の裏に俺の車がある、

駐車場に向かうぞ」







榛名「…グスッ…はいっ!」













=二つの熱源 対象鎮守府より確認=







=内一つ 『榛名』の類似点 多数確認=





=照合します=





=…=





=照合結果 捕獲対象と一致しました=






=捕獲対象『榛名』発見=







=捕獲します=











-鎮守府裏 駐車場-






提督「」ハァハァ




榛名「」フゥフゥ




提督「はぁ…あ゛~、何気に遠いぃ疲れたぁ…」





榛名「はぁ…はぁ…地上だと…やっぱり

榛名の体力は平均以下かも…しれませんね…」ハハハ




提督「艦娘だから…

なぁ…海の上とは…違う…よな」フゥ





提督「さ、乗れ乗れ、いくらアイツが遅くても

もたもたしてると追いつかれるかもしれんからな」




榛名「はい…?」




提督「どうした榛名?はやくしないと…」





榛名「提督…?なにか聞こえませんか?」





提督「えぇ?なんもー」







…シン






提督「…」




榛名「…」





…ズシン




提督「!?」




榛名「!?」







…ズシンズシン!!






ズシンズシンズシン!!












=『榛名』補足=




=捕獲開始=


















榛名たちが捉えた地響きは


次第に大きくなってきました



そして良く耳を澄ますとソレは


湿った布をいっぱいに入れたビニール袋を


地面に叩きつけたような、重い水分を含んだ


音でもありました








鎮守府の正面は港でしたが


裏には砂利の敷き詰められた


駐車場がありました










刹那







大きな足音のテンポが速まりました







突如鎮守府から現れたグロテスクな巨体


ですがその巨体から想像もつかない速度で


こちらに近づいてきました




歩幅が大きいせいもあるのか


榛名たちがその姿を確認し


車に乗り込もうとしていると


あっという間に距離を詰められ


正面に立ちはだかりました






太陽の光を遮る触手の巨体


間近に来ると磯の匂いと何か生物が


腐ったような汚臭に思わず顔を


覆ってしまいました





隣をちらりとみると提督も同じように


その逞しい手のひらで口元を覆って咳きこんで


いました




榛名たちがそうして怯んでいる隙をついてきました









巨体が右手を振りあげたと思った瞬間…








ドゴン!!








鉄塊に肉塊がぶつかる鈍い轟音







触手にまみれた大きな拳が


車のボンネットを潰しました




その衝撃で運転席側にいた提督が、


助手席側にいた榛名がそれぞれ真横に


吹き飛びました










榛名「きゃぁぁぁ!!」



提督「うぁぁあ!!」









榛名の体はしばらく空を舞い


その後砂利に打ちつけられました



頭部から地面に落下したせいか


打ち所が悪かったせいか


視界が歪み


意識が朦朧としてしまいました





顔に走る激痛


腹部に感じる鈍痛


太股を骨の芯まで響く痛み



その他様々な『痛』という感覚が


どんな五感の感覚よりも優先して


榛名の混乱した脳に情報を送り続けてきます




フラフラとした視界のまま






ようやっと聴覚が誰かの声を捉えました










―逃げ……!!は…なぁ!!










誰の声でしたでしょうか?










ああ、提督…そうです…





提督をお助けしないと






…一緒に逃げないと…





…一緒に…












ル-101[[ \;:/;@[]::\::@::;!!!!!!! ]]









目の前に黒いミミズを


全身に這わせたような


大きな人がいました









…シュルシュル…







黒い人の手は拳が分解されました


その手は触手が幾つも束なって手の形を


形成していただけでした









黒いミミズが榛名の


股、首筋、手首、腹部…至る所に


透明度の高い粘膜をまき散らしながら


絡みつき始めました







…ガシッ









…首筋にまとわりついた瞬間

粘膜が口元に付着し弾みで少しだけ

飲んでしまいました










…苦い









口に含む苦い味覚、


ヌルヌルとした不快な触覚、


ニチャニチャとした

粘膜による嫌悪感を爆発させる聴覚


触手がワラワラと蠢く暴力的な視覚


思考を停止させるほどの脳を蹂躙する

汚臭は嗅覚を陵辱します






五感すべてで


気持ち悪さを感じつつも体は依然として


思い通りには動いてくれません








いつの間にかその巨体の触手は


本数を大幅に増やし榛名の体を覆い尽くしました












榛名「…ぁ///」











袖の内に入り込む黒いミミズ


腋の下を這い


チロチロと蛇の舌のように腹部を舐め回し


スカートの下にまで潜り込んだソレは


下腹部を伝って下着の中を粘膜でいっぱいに


しました


さらに太股に、

未熟な木を寄生植物のツタのように

螺旋状に絡みソックスの中にまで入り込んできました










榛名「は…ぁ…ぅぅ///」







情けないことに


辱めによる不快感を感じつつも陵辱によって


恍惚として体が火照ってしまいました














=『榛名』捕獲=



=クライアント『孫提督』所属

鎮守府まで帰投します=














…to be continued



ここまでお疲れさまでした後篇はこちらになります↓

http://sstokosokuho.com/ss/read/1710


後書き

つづくよ!

・あの…叢雲の浮き出たあのアバラを
こう…なんか…ごりごりしたい…だめ?

・時雨のほっぺをずっとモチモチモチモチモチモ(ry
していたい…だめ?

・磯波の手を、もぉ~…ずっとニギニギしたい…
嫌な顔されてもニギニギしたい…だめ?

・あの…青葉いるじゃん?すっごい恥ずかしい格好させた後に
デジカメで撮り続けたい…泣きじゃくっても撮り続けたい…だめ?


このSSへの評価

19件評価されています


SS好きの名無しさんから
2019-07-28 21:11:47

SS好きの名無しさんから
2019-07-19 11:30:53

SS好きの名無しさんから
2019-03-22 12:59:23

SS好きの名無しさんから
2018-11-12 22:54:01

マザーレギオンさんから
2016-07-30 00:05:52

SS好きの名無しさんから
2016-02-22 16:32:50

SS好きの名無しさんから
2015-09-06 20:45:59

SS好きの名無しさんから
2015-04-01 10:57:13

SS好きの名無しさんから
2015-04-02 00:31:15

ひまな人さんから
2015-03-31 18:04:34

山椒さんから
2015-03-31 01:48:11

SS好きの名無しさんから
2015-03-16 00:43:22

駄犬さんから
2015-03-12 04:22:00

ラインさんから
2015-03-11 16:16:46

SS好きの名無しさんから
2015-03-10 17:07:08

SS好きの名無しさんから
2015-03-09 21:36:14

SS好きの名無しさんから
2015-03-09 00:23:45

SS好きの名無しさんから
2015-03-08 23:49:28

SS好きの名無しさんから
2015-03-08 16:37:53

このSSへの応援

26件応援されています


SS好きの名無しさんから
2019-07-28 21:11:47

SS好きの名無しさんから
2019-07-19 11:30:50

SS好きの名無しさんから
2019-03-22 12:59:25

SS好きの名無しさんから
2018-11-12 22:54:04

マザーレギオンさんから
2016-07-30 00:05:47

SS好きの名無しさんから
2016-07-05 18:22:37

SS好きの名無しさんから
2016-02-22 16:32:53

SS好きの名無しさんから
2015-04-01 10:57:16

SS好きの名無しさんから
2015-03-31 20:52:09

ひまな人さんから
2015-03-31 18:04:30

山椒さんから
2015-03-31 01:48:12

sat.さんから
2015-03-27 03:54:50

パスタさんから
2015-03-16 20:27:02

SS好きの名無しさんから
2015-03-16 00:43:24

SS好きの名無しさんから
2015-03-12 13:14:14

駄犬さんから
2015-03-12 04:21:53

SS好きの名無しさんから
2015-03-10 21:48:24

SS好きの名無しさんから
2015-03-10 17:07:11

コルベニクさんから
2015-03-10 00:22:55

SS好きの名無しさんから
2015-03-09 21:36:09

SS好きの名無しさんから
2015-03-09 00:23:56

SS好きの名無しさんから
2015-03-08 23:49:18

SS好きの名無しさんから
2015-03-08 16:37:54

SS好きの名無しさんから
2015-03-08 14:25:55

SS好きの名無しさんから
2015-03-08 12:31:39

ラインさんから
2015-03-08 12:01:07

このSSへのコメント

30件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2015-03-12 13:14:58 ID: KMOru4BB

毎回組み合わせが違って飽きないです!更新頑張ってくださいm(_ _)m

2: らんぱく 2015-03-12 16:17:39 ID: aCXKJU0z

〉1コメのSS好きの名無しさん
コメントありがとうございます。
もしかして、『海底の花束』をオススメしてくださった方でしょうか。
そうでなくても、本当にありがとうございます
いつも『どんな人』と『艦娘』を絡ませようか妄想しています。

3: ライン 2015-03-12 20:45:07 ID: WZm1R9rG

おっ……だんだんと盛り上がってきましたね……。
ここからが楽しみです!頑張ってください!

4: らんぱく 2015-03-13 19:48:35 ID: TU2ZOJgV

>ラインさん
コメントありがとうございます。
例のごとく、また徐々に更新していきますので
どうかよろしくお願いします。

5: 葉っぱの妖怪 2015-03-14 04:22:08 ID: vJFjO3OV

これはこれで面白い....
イーゴに満潮がデレる日が来ることを望んでみたい
あと自分の読解力が低いせいかもしれないのですが、イーゴが男なのか女なのか分からないので教えていただきたいです

6: らんぱく 2015-03-14 19:49:14 ID: S88dGLMc

>葉っぱの妖怪さん
コメントありがとうございます。
すいません、私の表現力不足ですね
イーゴくんは男の子です。

7: 葉っぱの妖怪 2015-03-16 04:14:21 ID: 9QyiPA6j

>蒼龍ちゃんはお腹にすこしお肉があるとうれしい
激しく同意です!!
イーゴったら激しく(意味深)しちゃって・・・
ヒロインは満潮確定ですよね?

8: らんぱく 2015-03-16 21:30:17 ID: UulIAWiz

>葉っぱの妖怪さん
コメントありがとうございます。
同志よ、私と握手しましょう。
満潮がヒロインかどうかは…
今後の展開次第という事で
どうか…

9: 葉っぱの妖怪 2015-03-17 04:38:40 ID: FfWsQSbH

すいません、ちょっと豚を処理しに行ってきます。探さないでください。蒼龍が不憫過ぎます

10: らんぱく 2015-03-18 20:04:04 ID: WE0QkB-x

>葉っぱの妖怪さん
コメントありがとうございます。
はて豚ですか?
…あ、私の事ですね…逃げます、探さないで下さい。
ごめんなさい。でも私自身、蒼龍好きなので彼女を
不幸な結末にするつもりはございませんよ~!

11: 葉っぱの妖怪 2015-03-21 20:31:53 ID: _yYky_qY

あれ?あの豚提督と蒼龍がいい感じに見える....
目が悪くなったのかな...眼科行ってこよっと





満潮が着々とデレてくれているようで2828がとまりません

12: ライン 2015-03-21 21:00:12 ID: nteQDzNa

満潮のデレがきましたね……最高ですわw

あれ……もしかして、蒼龍はそこまで豚提督のこと……うぅん……どうだろう……。

13: らんぱく 2015-03-22 21:54:18 ID: TdyzUETM

>葉っぱの妖怪さん
コメントありがとうございます
お使いのお目目は正常ですご安心ください。
豚提督もとい孫提督と蒼龍との関係はこれから
追々と…ね
満潮のキャラのデレ匙加減が難しいです。
…むぉぉ

>ラインさん
コメントありがとうございます
孫ていとk…もう『豚提督』でいっか!!
この二人の過去話しは追々と…ね。
満潮の挙動を書くのが楽しいですハイ
なんでしょね~…とりあえず一言
朝潮型はガチ

14: SS好きの名無しさん 2015-03-29 21:34:10 ID: epXPlYMF

凄い、ただただ凄い
らんぱくさんの作品を見たのはこれが初めてなのですが、見事に引き込まれました

15: SS好きの名無しさん 2015-03-29 22:16:10 ID: aIy8eYjr

豚終了のお知らせかな?
ル級モデルは榛名には攻撃仕掛けないんだから、榛名が近距離射撃をやればいけ・・・あっ、保管庫やられてたんだった

我が鎮守府は『脱衣所』と『青畳』を購入して青葉と共に覗きを・・・あれ、あの艦載機はなんだ?演習するという報告は受けてないぞ?それにこっちに迫ってk

16: SS好きの名無しさん 2015-03-30 02:51:01 ID: kOjXwgHC

いやあ面白い
こういうオリジナルの要素を入れると大抵はめちゃくちゃな感じになってしまうとおもうんですが、イーゴ君も馴染んでいますし何より戦闘が活き活きしていると思います!
登場人物も丁度いい人数だし、これは続きが読みたくなってしまうなぁ...
榛名かわいい

17: らんぱく 2015-03-30 20:54:08 ID: qUcv1G7k

>14コメのSS好きの名無しさん
コメントありがとうございます。
うはぁ、自分にはもったいないお言葉です(ガタガタガタ
嬉しくてコーヒー吹きました

>15コメのSS好きの名無しさん
コメントありがとうございます。
Yes榛名,No豚提督
瑞鶴「全機爆装、準備出来次第発艦!
目標、母港執務室の提督、やっちゃって!」

>16コメのSS好きの名無しさん
コメントありがとうございます。
なるべく話しが破綻、矛盾しないようにとか戦闘描写が伝わるようにと
色々と気を遣って、不安になりつつ書いていたので
安心しました、ありがとうございます。
榛名はイチイチ可愛いので困ってます、ああもう…



18: ひまな人 2015-03-31 17:56:38 ID: 8ZuWjIFx

阿賀野お嬢様はいつのまに痩せたのかよ・・・はや・・・

是非とも教えてもらおうか・・・その方法とやらを(笑)

19: らんぱく 2015-03-31 19:15:45 ID: ub9hrXm9

>ひまな人さん
コメントありがとうございます
というか…オススメまでして頂いて
なんかもぉぉ…嬉しくて失禁しそうです


イーゴ・能代「じゃあこのメニューで」

阿賀野「単機で演習10回なんて楽勝ねぇ♪
一ヶ月のメニューがこれだけなんて♪♪」ルンルン

イーゴ・能代「え」

阿賀野「え」

イーゴ・能代「…」

阿賀野「…」

阿賀野「一日?」

イーゴ・能代「」ウン

阿賀野「ファーww」

20: ライン 2015-03-31 20:30:21 ID: s1sG6sBV

イーゴォ……死ぬなよ……
イーゴには無事でいてほしい……

どうなってしまうのでしょうか……気になる!!

これからも頑張ってください!

21: らんぱく 2015-03-31 21:10:08 ID: ub9hrXm9

>ラインさん
コメントありがとうございます。
あわばばばばば…!
らららラインさんから『オススメ』して頂けるなんて…恐縮です!
結末まであと、も~ちょっとですので、どうかもう少し
なまぬるくお付き合いを頂ければ…ではでは

22: SS好きの名無しさん 2015-04-01 03:37:08 ID: wVRVE-MM

イーゴ!!死ぬなよ!!
お前が死んだら満潮のデレが見れないだろうが!!!

叢雲のあばらをゴリゴリしたいだと!?俺はサワサワしたいです

23: らんぱく 2015-04-01 19:41:50 ID: VwRVVuqI

>22コメのSS好きの名無しさん
コメントありがとうございます
この後、イーゴの生死はどうなるのか
満潮は更にデレンデレンするのか…
最後はどうなるんでしょねー(棒)

仕方ないですね~じゃあ叢雲の上半身およびアバラは預けますので
私は下半身で妥協しましょう(恍惚

24: 葉っぱの妖怪 2015-04-02 03:54:20 ID: rcVyf96b

イーゴが死んだ・・・だと・・・?
榛名逃げて、超逃げてえぇぇぇぇぇ!!!

ログインされてないのにコメント撃ってたでござる。
15コメと22コメは私だ。
それと叢雲は私の秘書艦だ。譲らんぞ

25: らんぱく 2015-04-02 21:04:27 ID: dgqptAbP

>葉っぱの妖怪さん
コメントありがとうございます
貴方様でしたか!

イーゴくんは所詮『イ級』ですので

むぅ…良いもん良いもん!
おいで磯波ちゃん!オッサンと良い事しy(ry

26: ひまな人 2015-04-02 23:33:15 ID: sMn1y5kO

何、イーゴが‼

よし、俺が代わりnt(血で真っ赤に汚れている)

27: 葉っぱの妖怪 2015-04-03 03:07:02 ID: Q5NRH-C1

リ、リアル青鬼・・・かな・・・?
おい豚提督、さっさと来て中止命令出せよオラァ!!

青葉は撫で撫でして赤面したところを撮って、ソファーの上でイチャイチャするのが最高。異論は認める

28: らんぱく 2015-04-03 20:11:42 ID: L9AdzK5G

>ひまな人さん
コメントありがとうございます
ちくしょぅ…!(泣)
無茶しやがって…!!じゃあ私がnt(汚物で汚れて読めない

>葉っぱの妖怪さん
コメントありがとうございます
ところがどっこいやっぱり物事は中々上手くいかないもので…
『時 既に遅し』ってやつです

異論どころか激しく同意です握手しましょう

29: SS好きの名無しさん 2018-11-12 22:55:23 ID: S:_axI6a

とても面白かったです!!

続きが楽しみになってきました!!

30: らんぱく 2018-11-16 18:57:15 ID: S:jwsiLK

29コメさん

うわあぁ!!ありがとうございます!!!

こんな何年も前の作品に…

嬉しいです!後編の方も是非にー!!


このSSへのオススメ

2件オススメされています

1: ひまな人 2015-03-31 18:04:10 ID: 8ZuWjIFx

考えることがおもしろいです。(作者の)

是非読んでみて下さい!

2: ライン 2015-03-31 20:31:12 ID: s1sG6sBV

らんぱくさん独特の世界観は本当に見ている人を惹き込んでくれます。

ぜひぜひ、読んでみてください!


オススメ度を★で指定してください