結衣「壊れた絆」
いつもと変わりない一日を過ごしていたごらく部メンバーに訪れた突然の悲劇。助かるためには親友を犠牲にしなければならない…。狂気の裏切りゲームが結衣たちの精神を蝕みます。ここまでで何となくわかりますが、重度鬱展開なので、閲覧注意です。合わないと思ったらすぐに閉じて、精神衛生悪化を回避してください。
放課後 ごらく部
京子「ちなつちゃ~ん、お茶もう一杯」
ちなつ「自分でやってください」
京子「ひどい!?これが倦怠期夫婦の悲しみってやつか…」
結衣「いつから夫婦になったんだ」
ちなつ「そうですよ!私は結衣先輩のモノです!」
――
京子「いいさ、どうせ私はごらく部でも天涯孤独…」フッ…
あかり「そ、そんなことないよっ」アセアセ
京子「あーおなかすいた」ケロッ
あかり「無視!?」ガーン
ちなつ「茶番はそのくらいにしといてくださいね」
京子「もはやごらく部は変わってしまった。私の知る住処ではない」
結衣「いや、何も変わってないだろ」
――
京子「いいや、断じてちがうね!古き良きまったりした雰囲気がなくなった!」ボリボリ
ちなつ「思いっきりくつろぎながら何言ってるんですか。あと、女の子がおしりかいたら下品ですよ」
結衣「ごらく部は平常運転だろ。だいたい、特に目的があるわけでもないんだから、変わりようがないし」
あかり「あかりはいつもどおりのごらく部が好きだよぉ」
京子「ふ~、みんなわかってないね。何事もいつかは色あせていくもんだよ」
結衣「厨二病か」
――
あかり「ごらく部は変わらないよ。これからもみんなで楽しくやっていくもん」
京子「そんなこと言って、あかりとかは好きな男ができたら真っ先に退部してリア充生活まっしぐらになりそうだけどね」
あかり「あかりはそんなんじゃないよ~」
ちなつ「そうですよ、あかりちゃんがそんな存在感の象徴みたいな生活は謳歌しませんって」
あかり「それはそれでなんだか落ち込むよぉ…」
――
京子「今日はそろそろ帰ろうかな。5時半からミラクるんの再放送あるし」
結衣「まったくおまえはフリーダムだな」
京子「そう言いつつ自分も帰り支度してるじゃん。結衣はやっぱり私のことが好きなんだな」ニヤニヤ
結衣「ちげーよ。今日は帰ってから用事があるんだ」
京子「デッドナモリング2の続き?」
結衣「ナモリノゲヱム-海月-だよ。新しく買ったんだ」
京子「やっぱゲームじゃん」
結衣「ならおまえにはやらせん」
京子「結衣先輩すいやせんでしたァ!」ゲザァ
――
あかり「…クスッ」
京子「なんだよあかりー。哀れな京子たんを見て笑うのか」
あかり「ちがうよ。ただ、やっぱりいつもどおりのごらく部だなぁって思って」
結衣「確かに。こんなふうにばかなこともやって毎日のんびり過ごしてるのが私たちだよな」
ちなつ「私は結衣先輩のそばにいられるだけで幸せです!」
京子「まぁ、こういう何気ない毎日を送れることが一番の幸福なのかもしれん」シミジミ
結衣「さっきと言ってること真逆だな」
――
ちなつ「結衣先輩が帰るなら私も帰ります」
京子「ちなつちゃん、そのまま私の家に泊まっていってもいいんだよ」ホレホレ
ちなつ「丁重にお断りします」キッパリ
京子「ほげっ…」
あかり「あかりも帰ろうっと。結衣ちゃん、部室の鍵どこだっけ?」
結衣「さっき京子が座布団ローリングアタックで吹っ飛ばしたから、そのへんだと思う」
――
通学路
京子「結衣~、今日泊まっていい?」
結衣「ラムレーズン目当てか」
京子「おぬし、なぜわかった!?」
結衣「それしかないだろ、おまえ」
ちなつ「京子先輩!あんまり私の結衣先輩に迷惑をかけないでください」
あかり「ちなつちゃんのものなの!?」
――
結衣「…ん」
京子「何?どうかした?」
結衣「いや、気のせいかな。さっきから誰かに見られてる気がして」
京子「それは京子たんの輝く瞳が原因かな!?」
結衣「それはない」キッパリ
ちなつ「まさかストーカーですか?キャー、結衣先輩怖いです!」ガシッ
結衣「ちなつちゃん、苦しい…」
京子「ちなつちゃんの視線が元凶のような気がするけど…」
――
結衣「やれやれ、そろそろ家も近いから私はこっちに曲がるよ。それじゃまた明日」
京子「ご一緒しよう」
ちなつ「なら私も…」
結衣「あまり突っ込みどころが多いと疲れるんだけど」
京子「仕方ないな~。今日のところは勘弁してやろう」
結衣「そうしてくれ。帰ったら片づけもしないといけないんだ」
あかり「結衣ちゃん大変だね。それじゃ、また明日ね」
ちなつ「結衣先輩、明日も部室でお待ちしています!」
京子「ちなつちゃん、私への別れのキスは!?」
――
結衣「は~、今日はなんだか疲れたな」
結衣「まぁ、これがいつもどおりのごらく部か」
結衣「なんだかんだで楽しいからいいけど」
結衣「さてと、帰ったら洗濯物たたんで掃除機かけとかないと…」
結衣「ゲームする時間もキープしないとな」
――
???
結衣「…うぅ」
結衣「あれ…。私、何やってたんだっけ」
結衣「そうか、洗濯物たたまないと…」
結衣「疲れてたから寝ちゃったのかな」
結衣「…」チラッ
結衣「…!?」
結衣「何、ここ?私の部屋じゃない…?」
――
結衣「嘘…。何がどうなってるの」
男「やぁ、結衣ちゃん。突然驚かせてすまないね」ガチャ
結衣「!?」ビクッ
男「どうやらここがどこか気になってるみたいだね。それとも、ボクがどうして結衣ちゃんの名前を知っているのかが気になるかな」
結衣「…」
男「それじゃあ、一つずつ説明していこうか」ニコッ
――
男「まず、名前について。これにはなんてことのないタネがあるのさ」ヒョイッ
結衣「あっ…」
男「そう、結衣ちゃんの生徒手帳を拝借させてもらったんだよ。船見結衣ちゃん、間違いないね」
男「まぁ、手帳を見る前から名前については見当がついていたんだけどね」
男「あの金髪の子…京子ちゃんだっけか?あの子が結衣ちゃんの名前を元気のいい声で何回も呼んでたからね。そりゃあ見当もつくさ」
結衣「まさか、さっきの…」
男「ご名答!さっきは結衣ちゃんに気づかれたんじゃないかと思ってボクもひやひやしたよ」アハハッ
――
男「さてと、休む暇もなくて申し訳ないけど、次はここがどこかっていう話ね」
男「ここはボクの別荘。七森市からは車で2時間くらいかな」
男「おっといけない。車でご招待したことを自分から言っちゃったよ!」shit
結衣「…」ゾクッ
男「いやぁ、ごめんねホント。結衣ちゃんみたいなかわいい女の子がボクの別荘にいると思うと、テンションがあがっちゃってさぁ」
男「それにしても、結衣ちゃんまだ中学生なのにいいカラダしてるね。運動部に入ってるのかな」ニヤニヤ
結衣「…っ!」
男「あらら、そんなに怖がらないで。怖がってる結衣ちゃんもかわいいけど」ニシシ
結衣「や、やだ…。来るな…」
男「ほらほら、楽しいお話をしようよ」チャキッ
結衣「ひっ!?」
男「あぁ、これ?ヨーロッパはイタリアのベレッタ社製ハンドガンだよ。ボクは好きだな、この手に馴染む感じが」クルクル
結衣「や、やめて…。殺さないで…」ガクガク
男「おーっと手がすべったぁ!」カチッ
バン!
――
結衣「ひ、ひぃ…」ガク
男「ごめんごめん。うっかり手がすべって…。あらら、年代物の花瓶が壊れちゃった」
結衣「…っ」カタカタ
男「あぁ、安心して!ここは辺り一帯ボクの私有地だから、銃声は誰にも聞こえないよ」
男「もちろん結衣ちゃんの悲鳴もね」ニッコリ
結衣「あぁ…あうぅ…」
男「いいね。期待通りの反応だね」
――
男「それじゃあ、お話を進めよう。これは大事なお話だから。わかる?」
結衣「は、はい…」
男「結衣ちゃんはお利口さんだなぁ。さっきの銃弾を受けたら文字通りの天使さんになっちゃうことをよく理解してくれたみたいだ」
男「ボクの目的は一つ。結衣ちゃんと楽しいゲームをすることだ」ヒョイ
結衣「…!?」
男「まずはこの写真を見てもらおうかな」
結衣「…これって!?」
――
男「そう、結衣ちゃんの大事なお友だちだね。歳納京子ちゃん、吉川ちなつちゃん。それに赤座あかりちゃん。お互いの携帯電話に名前でリストされてるから友だちなのは間違いない。まぁ、さっきの仲の良さを見れば、そんなことは一目瞭然だけどね」
結衣「まさか京子たちもここに…」
男「その通り!みんなをご招待したよ」
結衣「京子たちに何をしたのっ!?」
男「まぁ、そう慌てないで。結衣ちゃんと同じように、ここに招待する間は眠ってもらったのさ。さっきの写真はそのとき撮ったものだよ」
男「今回のゲームの主人公は結衣ちゃんたちだよ」
――
男「それじゃあルールを説明しようか。さぁ、受け取って」スッ
結衣「…紙とペン?」
男「そう、どこにでもある代物だよ。だけど、今回のゲームを最高に熱くしてくれる小道具でもあるのさ」ニヤリ
結衣「…」
男「このゲームの趣旨を説明しよう。いわば、プロローグのデモムービーだね。ボクがこのゲームを主催した目的はたった一つなんだ」
男「…結衣ちゃんたちにひどい目に遭ってもらう。それも極上のね。それがこのゲームの目的だよ」ニコリ
――
男「ボクはかわいい女の子が苦しむのを見るのが大好きでね」
男「結衣ちゃんたちはみんなかわいいよ。最高の生贄だ」
男「痛いことや恥ずかしいこと…たくさんしてあげるからね」
男「ふふふ、怯えてるね。実にいいよ。いくら泣き叫んでも誰も助けに来てくれないからね」
男「あぁもう、何からしてあげようかなぁ?鞭でたたく?爪をはがす?タバコの火を押し付ける?バスルームに沈める?のこぎりで手足を切り取っちゃう?お目々をくり抜く?やりたいことがありすぎてボク困っちゃうよ」
男「結衣ちゃんは中学生だから、保健体育は習ってるよね?えっちなことだよ、わかる?結衣ちゃんは発育がいいから、イカせがいがありそうだなぁ。結衣ちゃんの大事なところ、壊しちゃうよ?」
男「ボクは本当に幸せ者だ!こんなかわいい女の子たちを好き放題できるなんて!殺しちゃうときはどうしようかな?ロープで吊るしてあげようかな?井戸の底に放り投げようかな?ガソリンをかけて燃やしちゃおうかな?包丁でおなかの中のもの全部かき出しちゃおうかな?」ワクワク
――
結衣「狂ってる…」ガタガタ
男「あれぇ、いまひどいこと言われた気がするよ?」チャキッ
結衣「うあぁ!ごめんなさい!許してくださいぃッ!」
男「いいよ~。かわいい結衣ちゃんの頼みだから、1回だけチャンスをあげようじゃない」スッ
結衣「はぁっ、はぁっ…。ううぅ…」グスッ
男「結衣ちゃんの泣き顔をこのまま見ていてもいいんだけど、京子ちゃんたちを待たせるのも悪いしね」
男「ルールの説明を再開しよう」
――
男「ボクがこのゲームを通してやりたいことはわかってもらえたかな?」
結衣「…」コクリ
男「よ~し、いい子だね。でも、さっきのはちょっと言葉足らずだったかな」
男「ボクは結衣ちゃんたちをひどい目に遭わせる。でもね…」
男「その生贄になってもらうのは、4人のなかの誰か一人だけだよ」ニコッ
――
結衣「ひとりだけ…?」
男「そう。ボクはフルコースよりも一品料理が好みでね。痛めつけるなら一人をじっくり味わいたいんだ」
男「生贄に選ばれた女の子の人生、全てを壊させてもらう」
男「けど、残りの女の子たちには、ボクの別荘を紹介するだけで十分だ。何もするつもりはない。後はおうちの近くまで送迎させてもらうよ。もちろん来たときと同じようにその間は眠ってもらうけどね」
男「つまりだよ!結衣ちゃんにも無事に助かるチャンスがあるわけだ!確率にして4分の3!こんなにおいしいチャンスはないよ!」
――
男「そして~、そのドキドキワクワクの生贄チャンスだけど…」
男「別にボクが決めてもいいんだけど、それはしないよ」
男「まぁ、結衣ちゃんたちみたいなかわいい女の子を前にすると、ボクの方が迷って選べないのが正直なところなんだけど…」
男「そこでだ!この紙とペンがこのショータイムの仕掛け人ですよ!」
男「すなわちぃ、誰を生贄にするかは結衣ちゃんたちが決めていいのです!」
――
結衣「そ、そんなことできるわけ…」
男「ん~、結衣ちゃんはいい子だからそういう風に言うと思っていたよ!期待を裏切らないね」
男「でも、それじゃあこのゲームが成り立たない」
男「だから、白紙投票が1個でもあったら、みんな仲良くひどい目に遭ってもらうことにしました!」
男「いやぁ~、ボクのポリシーには反するけど、こうでもしなきゃやってられないしね」
結衣「…」
男「ま、ルールをおさらいするとね。この紙にそこのペンを使って4人のなかの誰かの名前を書いてもらうわけ。一番票の多かった人気者が名誉ある生贄ちゃんになるってこと。簡単でしょ?」
男「このルールはこれから京子ちゃんたちにも説明しにいくからね。結衣ちゃんはラッキーだよ。一番早くに目を覚ましたから、こうやって最初にルールを聞けたわけだしね。考える時間は他のみんなより有利だ。ま、あんまり不公平にならないように時間は十分にとるけどね」
――
男「それからそれから、まだ大事な説明が残ってた。投票結果はお互いにわからないようになってるからね。わかるのは自分が生贄になったかどうかだけ。みんな部屋は別々だから、誰に投票するかは一人で考えてもらうことになるよ」
男「同数得票のミラクルが起きたら、そのときは票の多かった子全員に生贄になってもらうからね。ま、白紙じゃなくてもみんな仲良くボクのおもちゃになることもあるわけだ。人生何が起きるか分からないからね」
男「そこの時計で24時になったら票を回収にくるからね。それまでに決めておくんだよ。くれぐれも白紙には気を付けてね」
男「あぁそれと、トイレのときはそこの扉を開けてね。テーブルにはささやかだけど軽食と飲み物を用意したよ。生贄になるまでは、結衣ちゃんたちは大事なお客さんだからね」
男「それじゃあ、グッド・ラック…」ギィ
――
結衣「ま、待って…」
バタン ガチャ
結衣「行っちゃった…」
結衣「…」ゴクリ
結衣「…ダメだ、鍵がかけられてる」ガチャガチャ
結衣「どうしたらいいんだろう…」
結衣「…」チラッ
結衣「逃げる方法はなさそうだ…」ハァ
結衣「変なマネはできないな。殺されちゃう…」
――
結衣「京子…」
結衣「どうしてこんなことに…」
結衣「私のせいなのか…」
結衣「うぅっ…」
結衣「誰かを…選ばないといけないのか…」
――
結衣「うっ…」ヒクッ
結衣「白紙だと…みんなひどい目に遭って殺される…」
結衣「ダメだ…白紙投票だけはできない…」
結衣「誰かを選ばないと…」
結衣「…」
――
あかり『結衣ちゃん』
ちなつ『結衣先輩!』
京子『結衣~』
結衣「うっ、うぐっ…」
結衣「え、選べない…。選べるわけない…」ポロポロ
結衣「みんな…私の大切な友だちなんだから…」グスッ
結衣「いなくなっていい友だちなんて…一人もいない…」
結衣「私たちは…ごらく部の仲間だから…」
――
18:13 side 結衣
結衣「京子…あかり…ちなつちゃん…」
結衣「ごめん…私にはみんなを守る力なんてないよ…」
結衣「どうしたらいいのかわからない…」
結衣「みんな…」
結衣「…」
結衣「(頭のなかがぼうっとする…。何も考えられないや。考えたくもない…)」
結衣「…」
――
結衣「ん…」
結衣「はっ!?い、いけない、時間は?」
あかり「どうしたの、結衣ちゃん?」
結衣「あ、あかり!?無事だったのか?」
あかり「何のこと?」キョトン
結衣「あの男は?そ、それより京子たちは無事なのか!?」
京子「どうした結衣さんや。京子たんなら悠々自適だぞい」ノビー
結衣「な、何がどうなって…」
ちなつ「どうしたんですか、結衣先輩?顔が真っ青ですよ」
京子「ゲームのしすぎで悪い夢でも見たんだな。これだからゲーム脳は怖い!」
ちなつ「ゲーム脳って…それ都市伝説のレベルですよ」
京子「京子たんが言うんだからソースには自身があります」
結衣「夢…。そ、そうだよな。夢…」
あかり「結衣ちゃん、きっと疲れてるんだよぉ」
結衣「うん。夢だ。やれやれ、夢で良かった…」
京子「結衣~寝てないで遊ぼうぜ~」スリスリ
ちなつ「ちょっと京子先輩、気安く結衣先輩にベタベタしないでください!」
結衣「まったくしょうがないな…。それじゃあ、何かするか」ノソリ
結衣「疲れるけど…これがいつも通りのごらく部だよな…」
男「やぁ。お目覚めかい、結衣ちゃん?」ニヤニヤ
――
21:34 side 結衣
結衣「はっ…」ガバッ
結衣「あぁ…!そんな、嘘だ…。夢なんだ、これは夢なんだ…」ブンブン
男「結衣ちゃん、タイムリミットは刻一刻と近づいているよ。あらら、まだ決めてないんだ。仮眠もいいけど、24時の段階で白紙なら結衣ちゃんの指をこのナイフでバラバラにしちゃうよ」スッ
結衣「ひいぃっ!やだっ、やめてぇえ!!」ガクガク
男「もちろん、時間まではこちらとしてもゆっくり待たせてもらうよ」ニッコリ
結衣「あ、あわっ、はぁっ、はぁー」ブルブル
男「それでは賢明なご判断を!」バタン ガチャ
――
結衣「うぅ、もういやだ…。助けて、誰か…」ヒック
結衣「そ、そうだ。誰かに、誰かに投票すれば私は助かるんだ…きっと助かる…」ガチガチ
結衣「うぅ…」ブルブル
結衣「投票結果はわからないんだ…私が誰に投票したかなんてわからない…」
結衣「誰が生贄に選ばれようが、その時点で私は助かるんだ。恨まれることもない…」
結衣「そうすれば私は家に帰れるんだ。いつも通りの学校生活が送れるんだ…」
結衣「朝起きてゲームをして、少し時間に余裕をもって学校に行くんだ…」
結衣「クラスで綾乃や千歳と話して、きょ…」
結衣「きょう…こ…」
――
結衣「あああ、焦るな。どっちにしろ誰か選ばないと私は助からないんだ。誰か、誰か選びさえすればいいんだ…」
結衣「ばれない。誰に投票したかは絶対にばれない。あの男も言ってたじゃないか。私は無事に帰るんだ」
結衣「帰ったら、またいつもどおりの生活が待ってるんだ」
結衣「自分が助かるために…友だちを売ったやつとして…」
結衣「いいや!考えすぎだ!絶対にばれない。あの男が自分から人殺しを白状するようなことを言うはずないじゃないか」
結衣「もしあの男がこれからも同じようなことをして捕まったら?投票結果も白状するんじゃないか?」
結衣「そうしたら私は…」
――
22:49 side 結衣
結衣「あぁああぁああ!!どうしろって言うんだ!私にどうしろって言うんだぁあああぁ!」ダンダン
結衣「はぁっ、はぁっ。落ち着け、落ち着くんだ。今は助かることだけ考えればいいんだ…」
結衣「簡単なことじゃないか。誰か選べばいい話だ。3人もいるんだ。一人くらい死んでもいいやつだっているはずだ」
結衣「落ち着いて考えろ、きっと方法はあるはずだ」ハァーハァー
結衣「一人ずつ、選んでいこう…」
――
結衣「あかり…。まずはあかりだ」ハァハァ
結衣「あかりのやつ。きっと今ごろ、誰も選べないなんて泣きべそかいてやがるんだ」
結衣「そうだ。いつもそうだ。あかりのやつ、トロいくせに背伸びして私たちと一緒にいようとして…」
結衣「今回だって、私の足を引っ張るかもしれない。きっとそうだ。最後の最後に白紙で出して、私に地獄を見せる気なんだ」
結衣「死んだってかまやしない。もともといてもいなくても同じようなやつなんだ。いや、いるだけ邪魔で不快だ」
――
結衣「ちなつちゃん…」
結衣「いつもしつこいんだよな。私に気があるのか知らないけど、あれじゃあ逆効果だよ。ひくわ」
結衣「後輩だから大目に見てきたけど、うざったい。もう限界だ。この際だから死んでもらおうかな」
結衣「つーか死ねよ。大好きな結衣先輩のために死んでみろよ、あぁ!!私が助かるために死ねよ!」
――
結衣「京子…」
結衣「おまえのわがままにはもううんざりしてるんだよ」
結衣「ガキのころはぴーぴー泣いてたくせに、いい気になってんじゃねぇよ!」
結衣「おまえのお守りにはもう疲れたんだ。消えろ。死んじまえ!」
結衣「死ね!死ね!死ね…」
――
結衣「ふふふ…あははは」
結衣「問題は解決だ。簡単だったじゃないか」
結衣「私のまわりには死んで当然なやつばっかりじゃないか。何がごらく部だよ。私のまわりにゴミを集めるんじゃねぇよ」
結衣「時間はまだ充分ある…」
結衣「あとは…私の気分次第であいつらのなかから一人選んで書くだけだ」
結衣「いいんだ。死んで当然のやつらだ。私が助かるためには当然なんだ」
結衣「はぁっ、はぁっ…」
結衣「頭がくらくらする…。くそっ、あいつらのせいだ。私がこんなことに巻き込まれたのもみんなあいつらのせいだ!」
結衣「何か胃に入れないと…。のどもかわいた…」ムクッ
――
23:08 side 結衣
結衣「…」モグモグ
結衣「コーヒーあるのか。今は飲む気になれないな…」
結衣「オレンジジュースにしよう…」
結衣「…」ゴク
結衣「ふぅ…」
京子『…ぃ。結衣ぃ』
結衣「…」
京子『ゲームに負けたほうがおしるこだからね!』
あかり『えぇ~!?あかりぴっちょんオレンジがいいよぉ~』
ちなつ『京子先輩。負けたら自分でおしるこ飲み干してくださいよ?』
京子『合点承知!』
結衣「くそ、うぜぇ…。黙れよ、おまえら…」
――
京子『結衣~。そのチョコタルトちょーだい』
ちなつ『京子先輩よく食べますね』
京子『だっておいしーんだもん。ちなつちゃん、お茶いれて~』スリスリ
ちなつ『あ~もう、うざいから離れてください』シッシッ
あかり『京子ちゃんにはあかりの分を1個あげるよぉ~』
結衣「やめろ…。しゃべるな…」ガクガク
――
あかり『あかり、すっごく嬉しかったよぉ。結衣ちゃんがあかりのためにごらく部に入れてくれたこと』
ちなつ『結衣先輩、お待たせしました!今日はどこに行きますか?私、待ち遠しくて昨日は全然眠れませんでした』
京子『結衣、今日泊まってもいい?結衣と一緒じゃないと、私さみしいよ…』
結衣「や、やめろ。やめてくれ…」
あかり『結衣ちゃん、いつも迷惑かけてごめんね。あかりなんていない方がよかったよぉ…』
ちなつ『結衣先輩…。結衣先輩だけでも助かってください…』
京子『結衣ぃ…。どうして?結衣、約束してくれたのに。絶対に私のこと守るって約束してくれたのに…』
結衣「ごめん…みんな…ごめん…」ポロポロ
――
23:24 side 結衣
結衣「私には…どうしようもできないんだ」
結衣「私はみんなを犠牲にして助かろうとしたやつなんだ。それに…」
結衣「選べない…絶対に選べない…」
結衣「嫌いになろうと思ったって、できないんだ」
結衣「みんな、私にとって代わりのきかない友だちだから…」
結衣「みんな…ごめん…」
――
結衣「ダメだ…このままじゃみんな殺される…」
結衣「それだけは…それだけはダメ…」
結衣「でも、どうしたら…」
男『ま、ルールをおさらいするとね。この紙にそこのペンを使って4人のなかの誰かの名前を書いてもらうわけ』
結衣「4人…」
結衣「そうか…4人のなかから…」
――
00:04 side 結衣
男「いやぁ~お待たせお待たせ。後は結衣ちゃんの分で回収終了だよ」ガチャ
男「ちなみにみんなの投票結果はボクもまだ見ていません!」
男「さぁ~て、結衣ちゃんの投票結果は果たして!?」
結衣「…」スッ
男「確かに受け取ったよ。厳正な審査の結果、00:30には生贄を決定するからお楽しみに!」バタン ガチャ
結衣「…これでいいんだ」
――
00:08 special room
男「いや~今回のゲームも盛り上がったなぁ」
男「それでは、牛乳の炭酸割りをいただきながら、お待ちかねの開票確認に入ろうか!」グビッ
男「まずはクールだけど怯えた表情がたまらない、注目株の結衣ちゃんから!」
男「どれどれ~」ペラッ
男「ほうほう。これはまたいい仕事してますな~」ニンマリ
――
00:33 side 結衣
男「おい~っす!」ガチャリ
結衣「…」ゴクリ
男「いやぁ~、やっぱり結衣ちゃんはただの美少女じゃないね。今回のゲームの大立役者だよ!」
男「まさかまさか、自分で自分に生贄投票するとはね~」
男「こんな友だち思いの女の子はそうそういませんぜ!」
結衣「…覚悟はできてる。私は何をされてもかまわない。その代わり、京子たちは解放して」
男「ん~いいですな~。実にいい。美談ですよ美談」
男「それじゃ手早くやっちゃいますか」スッ
結衣「…」ビクッ
男「じっとしててね。スタンガンでビリっとくるけど」
結衣「…」コクリ
男「それじゃあ結衣ちゃん。おうちに帰るまでしばらく眠っててね」ニッコリ
結衣「え?」
ビリっ
――
翌日 七森総合病院 601号室
結衣「(気が付くと私は病院のベッドにいた)」
結衣「(首筋にスタンガンの火傷の痕がわずかに残った以外、怪我はしていない)」
結衣「(立ち合いの医者からはそう説明された)」
結衣「(両親をはじめとして親戚一同がベッドを囲んでいる。後ろの方にまりちゃんもいた)」
結衣「(私が無事に帰ってきたことで、みな安心して涙を流しているようだ)」
結衣「(私は助かったのだ)」
結衣「(助かった…?)」
結衣「(じゃあ誰が生贄にされたのか。どうして私じゃなかったのか。投票結果はどうなったのか)」
結衣「(疑問、不安、恐怖が一斉に襲ってくる)」
結衣「京子…あかり…ちなつちゃん…」
――
結衣「(頭のなかがぐるぐる回って混乱する。ダメだ。考えようとしても考えられない)」
結衣「(必死に冷静さを取り戻そうとするが、無駄のようだ。私が助かったことは、京子たちのなかから生贄が選ばれたことを意味する。最悪の結末だ)」
結衣「(私は怖かった。狂人の生贄にされることが。友だちを売ったことを非難されることが。監禁されている間、この恐怖に苛まれていた)」
結衣「(けれど、今はもっと恐ろしい現実に直面している)」
結衣「(大切な友だちを守れなかったことを)」
結衣「(泣き崩れる私を、母が優しく抱きしめた)」
――
結衣「(どうやら入院する必要はなさそうだ。特に外傷はない。ただ、精神はもうぼろぼろだ。しばらく学校には戻れない)」
結衣「(病室で目覚めてからしばらくして、警察の取り調べがあった)」
結衣「(私は自分の知っていることはすべて話した。あの異常な男のことを。狂気のゲームのことを)」
結衣「(刑事はいくつか質問をして引き上げていった)」
結衣「(誰が生贄にされたのか。私にはそれを聞く勇気はなかった。刑事の方も、私の気持ちを知ってか知らずか、犠牲になった仲間について話さなかった)」
結衣「(生贄には誰が選ばれたのか。他の仲間は解放されたのか。頭のなかでぐるぐると動き回る。今は何も考えずにただ眠りたい。考えることで気がふれてしまいそうだ)」
――
結衣の自宅
結衣「(その日の夕方には、私は病院を後にした。今日は両親の暮らす実家に戻る)」
結衣「(しばらくはこうして過ごすことになるだろう。アパートでの一人暮らしは当分取りやめだ。あの男のこと、ごらく部の仲間のこと。考えることをやめようにも、私を嬲るように記憶から染み出してくる。こんな状況で一人にされては発狂してしまう)」
結衣「(これから私はどうなるんだろう。ごらく部はどうなるんだろう)」
結衣「(考えても結論は出ない)」
結衣「(今はただ、静かに眼を閉じていたい)」
――
数日後
結衣「(私は部屋でぼうっとしている)」
結衣「(何も現実感がない。あのときの出来事は悪い夢ではなかったのか。そんな風にさえ思えてくる)」
結衣「(2日前に綾乃と千歳からメールがあった。私の無事を喜んでいてくれた。お見舞いに行きたいが、迷惑になりそうなので控えているとのことだった。私は、ありがとうとだけ返信した)」
結衣「(聞こうと思えば聞けた。クラスのことや、学校のこと。犠牲になった仲間のことも、当然聞けるはずだ。事件以来、私は新聞もテレビも見ていない。見るのが怖かった。家族も、そんな私を案じて、テレビの電源を切っている)」
結衣「(それでも現実から逃げ続けることはできない。私はいつかは学校に戻る。誰が犠牲になったかも知らなければいけない。悪夢に囚われたままではだめだ)」
結衣「(私はゆっくりとリビングへ向かった)」
結衣「(テレビの電源を点ける。何日ぶりだろう。事件以来ゲームもしなくなった)」
結衣「(虚ろな私の眼に、ニュース番組が映りだす)」
キャスター『速報です。七森市女子中学生集団誘拐事件に新たな動きがありました』
キャスター『県警は、被害者のなかでただ一人行方のわからなかった赤座あかりさん(13)を百合ヶ岳ふもとで発見したとの発表をつい先ほど行いました。現場からの中継です…』
――
結衣「あか…り…」
結衣「(私のなかで何かが音を立てて崩れ落ちた)」
結衣「(ごらく部でいつも私たちのことを気遣ってくれていたあかり)」
結衣「(ごらく部の存在を誰よりも大切にしていたあかり)」
結衣「(ごらく部に入ったことをあれだけ喜んでくれたあかり)」
結衣「(あかりの笑顔が目の前でちらつく)」
結衣「あかり…どうして…」
結衣「(もうあかりに会うことはできない。二度とだ)」
結衣「(私は力なく床に膝をついた。こぼれだす涙を抑えることなどできなかった)」
――
結衣「どうしてあかりが…」
結衣「(私は自分に一票を入れた。あかりが生贄に選ばれたとなると、二票が必要である)」
結衣「(結論は考えたくなかった。京子とちなつちゃんがあかりに票を入れたのだ)」
結衣「(けれど、二人を憎むことは筋違いだ。私自身、最後の最後まであかりたちに票を入れようとしていたのだから)」
結衣「(憎むべきは犯人だ)」
結衣「(それに、あかりが犠牲になったことを知って、京子たちはどうなるのか)」
結衣「(もちろん罪に問われることはありえない。しかし、あかりの死に一生責任を感じ続けることになる)」
結衣「(二人は大丈夫なのか。心配だが、自分から連絡をすることなどできるはずもない)」
キャスター『なお、あかりさんは衰弱していたものの、命に別状はないとのことで、七森総合病院に搬送されたとのことです』
結衣「えっ…!?」
――
結衣「(どういうことだ。あかりは無事なのか。本当ならこれ以上のことはないわけだが)」
結衣「(となると、犠牲になったのは京子たちのほうか?)」
結衣「(いても立ってもいられなくなった私は、すぐに2階に駆け上がってパソコンの電源を点けた)」
結衣「(ニュースサイトは七森市女子中学生集団誘拐事件のことで溢れかえっていた)」
結衣「…船見結衣さん、歳納京子さん、吉川ちなつさんは事件の翌日には発見。無事が確認された、か…」
結衣「(どうやら京子たちも無事のようだ。肩の力が抜けていった)」
結衣「(しかしそうなるとわからない。あの男の目的は何だったたのだろう)」
結衣「(ニュースサイトでは誘拐事件があったことしか触れられていない。しばらくネットサーフィンを続けたが、男の詳細を伝える情報はなかった。名前の割り出しもまだなのだろう)」
結衣「(もちろん、男の行った狂気のゲームについてもなんら情報はない)」
――
夜
結衣「(みんなの無事がわかったのは何よりだ。しかし、疑問は残る)」
結衣「(男の目的は何だ?)」
結衣「(考えていてもわからない)」
結衣「(そんな私の耳に着信音が響いた)」
結衣「(着信画面が示す名前はあかり…)」
結衣「(迷っていても仕方がない)」
結衣「もしもし、あかり!?」
あかり「結衣ちゃん、いま電話しても大丈夫?」
結衣「こっちは問題ないよ。あかり…昼にニュースで見て、ほっとしたよ。怪我とかはない?」
あかり「あかり、何もされてないよ。ただ、あの後ずっと閉じ込められてたの。食事とかは出されたけど、食欲がなくてほとんど食べられなかったよ」
結衣「良かった…。それを聞いて安心したよ」
――
あかり「結衣ちゃんの声が聴けて安心したよ」
結衣「あかり…」
あかり「あれからずっとみんなに会えなかったから、声が聴きたかったんだ」
結衣「そうか…」
あかり「どうかしたの、結衣ちゃん?」
結衣「どうして…」
あかり「え、なに?」
結衣「どうして私に電話を…」
あかり「さっきも言ったとおりだよ。みんな大丈夫だったか確認したかったんだ」
結衣「でも、私が…。私があかりに票を入れたかもしれないじゃないか」
あかり「それはないよ」
――
結衣「何でそう言い切れるんだ?」
あかり「結衣ちゃんは優しいもん。いつもみんなのことを考えてくれるから」
結衣「あかり…」
あかり「あかりね、結衣ちゃんならきっと自分に票を入れると思ったんだ。そうだよね?」
結衣「うん…」
あかり「だからあかりも自分に票を入れたよ」
結衣「…」
あかり「怖かったよ、すごく。あかりが死んじゃったら、もうみんなに会えないし、お姉ちゃんにも会えない。さみしくて、つらくて、どうしようもなかった」
あかり「でもね、きっと結衣ちゃんなら…こういうときもみんなのことを一番に考えると思った」
――
あかり「あかりはね、結衣ちゃんに憧れてたんだ。小さいころからずうっと、結衣ちゃんみたいに、強くてやさしい女の子になりたかった」
あかり「だからね、怖かったけど…あかりも結衣ちゃんみたいになりたいって思えた」
あかり「結衣ちゃんがあかりに勇気をくれたんだ」
あかり「結衣ちゃんが自分に票を入れたら、あかりが二票とらないとみんなが助からない」
あかり「京子ちゃんとちなつちゃんは、結衣ちゃんには絶対いれないって思った」
あかり「だから、あかりが一票を自分に入れれば…後は京子ちゃんかちなつちゃんが勇気を出してあかりに票を入れてくれれば…みんな助かるんだ」
あかり「あかり、生贄に選ばれたってわかったとき、怖くて倒れそうだったけど、みんなを守れたと思うと嬉しかったよ」
あかり「あかりもやっと結衣ちゃんみたいになれたんだって…」
――
結衣「あかり…みんなのことを守るために…」グスッ
結衣「あかりは立派だな…」
あかり「結衣ちゃんみたいになりたかったんだよ」
結衣「私は…あかりが思ってるようなやつじゃないよ。最後の最後まで、自分だけ助かろうとしてたんだ。みんなを犠牲にして助かろうとした卑怯者なんだ…」
あかり「ううん。結衣ちゃんは強いよ」
結衣「あかり…」
あかり「結衣ちゃんがいたから、あかり頑張れたんだよ」
――
結衣「あかり…お願いがあるんだ」
あかり「なに?」
結衣「もうわかってると思うけど、京子とちなつちゃんはあかりに票を入れたかもしれない。きっと、自分を責めてるはずだ。だから、今はそっとしておいてやってくれないか」
あかり「…わかった。でも、あかりは京子ちゃんもちなつちゃんも嫌いになったりしてないよ」
あかり「みんな無事だったんだから、また一緒に学校に行こう。ごらく部でのんびりして、放課後は楽しく遊ぼう」
あかり「あかりたちは変わらないよ。どんなことがあっても…」
――
結衣「(その後しばらくあかりとの電話が続いた)」
結衣「(おやすみと言って電話を切ったときはもう遅くなっていた)」
結衣「(身体は疲れている。でも、あかりと話すことで心がすっとした気がする)」
結衣「(私だってあかりに票を入れようとしていたんだ。その重荷はずっと残っていた)」
結衣「(その重荷を除けてくれたのは、ほかでもないあかり自身の言葉だった)」
結衣「(京子たちにも、あかりから直接連絡をやったほうがよかったかもしれない)」
結衣「(ただ、私自身これだけ精神的に追い詰められていた。まして京子たちの立場を考えると…複雑な気分だ)」
――
3日後 午前 七森警察署
男「ん~どのへんかなぁ」キョロキョロ
警官「なんだいあんた。そっちは立ち入り禁止だよ」
男「あぁ~、こいつぁすいません!ちょっと用があったもので」
警官「警察署に何の用だい」
男「自首しにきました」
警官「はぁ?冗談もたいがいにしな」
男「本当ですよ」
警官「何をやった?万引きか、痴漢か?」
男「七森市女子中学生集団誘拐事件です」ニッコリ
――
署内 取調室
男「住所はここに書いたとおりです。結衣ちゃんたちを脅した銃もそのまま応接間のテーブルに置いてあります」
刑事A「…すぐにウラをとれ」
刑事B「所轄にも指示を出します」
男「いや~、誘拐、監禁、傷害に後もうちょいで満貫でしたね」ケラケラ
刑事A「…目的はなんだ?」ズイッ
男「うわ~怖いな~。さすがホンモノの刑事さんは迫力があるや」
刑事A「…こいつッ」グッ
刑事B「だめですよ、こいつの挑発に乗っては…」
――
男「すごい迫力だ!もしボクが結衣ちゃんたちを本当に殺しちゃってたらえらいことになってたなぁ。くわばらくわばら」
刑事A「ふざけるな!貴様のイカレた犯行でどれだけあの子たちの心を傷つけたと思ってるんだ!」
男「はいはい、死刑でも無期懲役でもいいですよ。どうせ生きるのに興味はないしね。損害賠償?いくらでも払ってあげますよ。おじいちゃんの遺産が腐るほどあって何に使っていいか困ってるところだったんだ」
刑事A「クズだな…救いようのないクズだ」
刑事B「それは私も同意します」
男「でもねー、ボクがクズなら、友だちを売って助かろうとした京子ちゃんとちなつちゃんもクズだよ」アハハ
刑事A「…貴様ッ」プルプル
刑事B「Aさん、抑えてください。こんなやつ、殴る価値もありませんよ」
男「良識ある世間の皆様もきっとそう言うにちがいないよ」
刑事A「…ほざいてろ」
男「そうだと思うんだけどなー」ニヤニヤ
――
正午 結衣の自宅
結衣「(緊急テロップがテレビに躍り出たのは昼ごろだった)」
結衣「(七森市女子中学生集団誘拐事件の犯人の出頭。すぐにニュース報道が続いた)」
結衣「(テレビに映る犯人の写真は、間違いなくあの男だった)」
結衣「(終わった。これですべて終わったんだ。みんな無事で、犯人も捕まった)」
結衣「(あの日のことは早く忘れるべきなんだ。あれは悪い夢。そうすれば、京子もちなつちゃんも、いつもどおりの毎日を取り戻せる)」
結衣「(その後、あかりとしばらく電話をした)」
――
翌日 午後 赤座家
あかね「あかり、もう大丈夫なの?」
あかり「大丈夫だよ、お姉ちゃん。犯人も捕まったし、あかり学校に戻れるよぉ」
あかね「無理はしなくていいのよ、自分でも気づかないだけでまだ負担があるわ」
あかり「でも…あかり、学校で結衣ちゃんたちと会いたいよ。またいつもどおりに過ごしたい」
あかね「…わかったわ。お母さんたちにも相談してみる」
あかり「お姉ちゃん、ありがとう!」ギュッ
あかね「あかり…」
――
あかり「おなかすいちゃったよぉ」グー
あかね「食欲が戻ってきたなら良かったわ。何か作るわね」
あかり「わぁい。あかり、お姉ちゃんの手料理大好き!」
あかね「待っててね。すぐに作るわ」
あかね「何かすぐに作れそうなものは…この材料だと…おうどんかしら?」
あかね「ねぎはどこに置いてたかしら…」
あかね「あぁ、そうだわ。庭のところの段ボールに入れてたんだったわ」
あかね「早くあかりのために作ってあげなきゃ…」
――
赤座家 庭
あかね「…外が騒がしいわね。何かあったのかしら?」
あかね「ひとがいっぱい…」
ディレクター「おぉい、今だ。シャッター切れ!」
カメラマン「うっす」パシャパシャ
あかね「あの、いったいどうしたんですか?」
リポーター「あかりさんのお姉さんですね」
あかね「そうですけど…いったい何ですかこの騒ぎは?」
リポーター「率直に今のご心境をお聞きしたい。妹さんの友だちがあかりさんを見捨てて助かろうとしたことについて」
あかね「…何ですって?」
――
リポーター「いや、おつらいでしょうが、どうか取材にご協力を」
あかね「何を言ってるんです?さっぱりわけがわかりません…」
リポーター「実はですね、XX容疑者が出頭直前に我々マスコミ各方面に手紙とビデオテープを送ってきてましてね」
リポーター「自身の犯行計画、目的を詳細に述べていたんですよ。それによりますと…」
リポーター「やつは妹さんたちのなかから誰か一人を殺すと脅して、誰が犠牲になるかを4人に選ばせたんです」
あかね「そんな…ことって…」
リポーター「妹さんは立派でしたよ。自分から犠牲になろうと決めていたんです。そしてもう一票が入った」
リポーター「やつは初めからこれが狙いだったんです。友人同士の妹さんたちに犠牲者を選ばせて、人間のエゴを楽しむ。初めから殺害目的はなかったんです」
あかね「…です」
リポーター「はい?」
あかね「誰なんです。あかりを見捨てようとしたのは…」
リポーター「あかりさんの幼馴染、歳納京子さんですよ」
あかね「京子…ちゃん…」
――
リポーター「えぇ、おつらいでしょうな。あかりさんの幼馴染に裏切られたかたちになるわけですから。まぁ、全員無事で何よりでしたが…」
あかね「…」スッ
リポーター「あ、ちょっとお姉さん。まだ取材中ですよ!京子さんへの一言おねがいします!」
あかね「…」バタン
あかね「京子ちゃん…そう、あかりを…」
――
赤座家 リビング
あかり「どうしたの、お姉ちゃん。なんだか顔色が悪いよ」
あかね「ごめんね、あかり。なんだかお姉ちゃん、疲れちゃって…」
あかり「お姉ちゃん、ずっとあかりのそばにいてくれたから、疲れたんだよ。あかりがお昼を作るよ!」
あかね「あかりは…やさしいのね」スーッ
あかり「お姉ちゃん、泣いてるの?」
あかね「あかり…つらかったでしょ。お姉ちゃんが代わってあげたい…」ギュッ
あかり「お姉ちゃん?」
――
七森警察署 留置場
刑事A「これが…貴様の狙いか」
男「あっ、察するに午後のワイドショーを見ましたね」
刑事A「マスコミを焚き付けての非難合戦。クズの貴様の考えそうなこった」
男「みんな思ってますよ。京子ちゃんとちなつちゃんはクズだって」ヘラヘラ
――
結衣の自宅
結衣「(最悪の事態になった。あの男の狙いはこれだったんだ)」
結衣「(誰が誰を裏切ったか、それを白日の下にさらすためだったんだ)」
結衣「(午後のワイドショーはさながら悪夢だ。最初に、リポーターがあかりのお姉さんにインタビューをしようとしている生中継が流れた)」
結衣「(次に、京子とちなつちゃんの家の周りを報道陣が取り囲んでいる様子が流れた)」
結衣「(投票をせず、されることもなかった私の家の周りはまだ落ち着いているが、それでも取材スタッフがあたりをうろついている)」
結衣「京子…ちなつちゃん…」
結衣「(あかりは京子のことを憎んでいない。報道によると、ちなつちゃんは京子に投票したらしい。けど、京子はちなつちゃんを責める気などないだろう。自分を責めることで頭がいっぱいのはずだ。もちろん、私もあかりもちなつちゃんを非難する気はさらさらない)」
結衣「(取り返しのつかない事態はあの事件そのものでは起きなかった。もう済んだことなのだ。当事者の私たちがそう思っているんだから、もう放っておいてほしい。むしろ問題は事件が解決してからのほうだ。無関係な人間が面白半分で京子たちを非難することは許せない)」
結衣「(京子たちも含めて、私たちはみな被害者だ。決して加害者ではない)」
――
事件当夜 side 京子
京子「結衣…助けて…」シクシク
京子「私、死にたくないよ。何をされるのか想像するだけで、胸が苦しいよ…」
京子「どうして、どうしてこんなことに…。私、何も悪いことしてないのに…」
京子「こ、殺される…。殺されちゃう…」
京子「うっ…!は、吐きそう…。トイレ…」ヨロヨロ
――
京子「げほっ、げほっ!はぁ、はぁ…」
京子「うぅ、いやだよ。もういやだ。助けて…」
京子「名前…名前を書かないと…」
京子「結衣、私どうしたらいいの…」
京子「怖いよ、選べないよ…」
――
京子「あぁっ、もう時間がないよ!」
京子「死にたくない!死にたくないよぉ!」
京子「書かなきゃ、名前書かなきゃ…」フラフラ
京子「結衣…助けてよ…」
京子「うぅ…うっ、ひっく」
京子「…」
京子「ごめん…あかり…」キュッキュッ
――
事件当夜 side ちなつ
ちなつ「こんな…ことって…」
ちなつ「嘘、こんなのありえない」
ちなつ「私、死ぬの?殺されるの?」
ちなつ「ねぇ、結衣先輩。どこにいるんですか」
ちなつ「出てきてくださいよ。そこにいるんですか?」フラフラ
――
ちなつ「いま、お茶をいれますね」
ちなつ「結衣先輩の好みに合うように工夫しました」
ちなつ「ほら、おいしいですよ」
ちなつ「あぁもう、わかりました。京子先輩のもいれてあげます」
ちなつ「あはは、あかりちゃん。やめてよ、その話おかしくてお腹痛くなるよ」
ちなつ「あはは、あははは」
――
ちなつ「結衣先輩、大好きです」
ちなつ「結婚しましょう」
ちなつ「もー京子先輩は入ってこないでください」
ちなつ「おいたする子はめっ、です」
ちなつ「罰としてブラックリストに入れちゃいます。私と結衣先輩の披露宴には呼んであげません」キュッキュッ
――
事件当夜 side あかり
あかり「結衣ちゃん…」
あかり「結衣ちゃんなら、きっとこうするよね」
あかり「あかり、頑張って結衣ちゃんみたいになるよぉ」
あかり「さようなら。京子ちゃん、ちなつちゃん、結衣ちゃん…」
――
現在 ちなつの自宅
ともこ「ちなつ…寝ていないとだめよ」
ちなつ「どうして?私、これから結衣先輩に会いに行くから支度しないと」
ともこ「今日はもう遅いわ」
ちなつ「ねぇ、お姉ちゃん。この服、似合ってるかな?結衣先輩に気に入ってもらえるかな?」
ともこ「似合ってるわよ、ちなつ。でも、今日はもうお薬を飲んで横になったほうがいいわ」
ちなつ「えー。結衣先輩待ってるのに。あ、京子先輩。どこから入ってきたんですか。まったくもう、困りますよ」
ともこ「ちなつ…」
――
翌日 午後 七森公園
ともこ「はぁ…」
ともこ「これからどうしたらいいんだろう」
ピリリリ
ともこ「メール…誰からかしら?」
ともこ「…!」
from あかねちゃん
件名 時間あるかしら?
――
15分後
あかね「お待たせ、ともこ」
ともこ「あかねちゃん…」
あかね「急に呼び出してごめんね」
ともこ「ううん。私も時間はあるし」
あかね「はぁ…」
ともこ「だいじょうぶ?」
あかね「えぇ、ちょっと気が滅入ってるのよ。毎日のようにマスコミが家の周りをうろついていて」
ともこ「私のところもおんなじような感じだよ」
あかね「大学の近くまで押しかけてくるものだから、本当に困るわ。あれじゃあ、あかりが学校に戻るときも一悶着ありそう」
――
ともこ「あかねちゃんは大丈夫?あかりちゃんのために無理してない…?」
あかね「あかりのためと思えば頑張れるけど、この先どうなるのか不安はあるわ」
ともこ「うん…」
あかね「だから、ともこと久しぶりにゆっくり話したかったの。また今日から頑張れるように」
ともこ「そうだよね、私たちが頑張らないと…」
あかね「…?どうかしたの?」
ともこ「あかねちゃん。私もどうしたらいいかわからないんだ。ちなつがこれから先どうなるのか」
――
あかね「ちなつちゃん、今はどうなの?あかりも気にしてるんだけど、連絡をとっていいものか迷ってて」
ともこ「ちなつは…今はまともに日常生活も送れない状態なの」
あかね「えっ…?」
ともこ「見つかったときから、目は虚ろで独り言を延々と呟いてて…。今はもう幻覚まで見えてるの。部屋のなかで、ちなつにだけ見えるあかりちゃんやごらく部の友だちとしゃべっていて…」
あかね「そんなことに…」
ともこ「強いショックを受けて精神が混乱してるって病院では説明されて…。薬を飲んでるけど、本当に治るのか見当もつかないの」
あかね「…」
ともこ「それだけじゃないよ。テレビに週刊誌にネット、あることないこと好きに書いてて…。ちなつが不良だとか、家族関係に問題があるとか…。宛名のない脅迫状まで届いたわ。友だちを売った裏切り者は死ね、って」
――
あかね「…ごめんね」
ともこ「どうしてあかねちゃんが謝るの?」
あかね「私も…京子ちゃんがあかりに票を入れたって聞いたとき、京子ちゃんを憎んでしまったの」
ともこ「…」
あかね「あかりが戻ってこないあいだ、気がおかしくなりそうだった。みんなが解放されて、あかりだけが残されて…。最悪の事態も考えたわ」
ともこ「あかねちゃん…」
あかね「だから、どうしてって思ったの。どうして京子ちゃんはあかりを見捨てるの?あかりは京子ちゃんのことを見捨てなかったのに」
あかね「憎んだわ。京子ちゃんの選択で、あかりが殺されてしまう可能性もあったのだから」
あかね「でも、私は自分勝手だった。京子ちゃんがどれだけ怖い思いをしたか、考えないで憎んでいたのよ」
あかね「京子ちゃんは悪くないわ。もちろん、ちなつちゃんもよ」
――
あかね「この事件、もう終わったはずよね。あかりたちがみんな無事に解放されて、それで解決のはずよね…」
ともこ「うん…。でも、もう元には戻れない。ちなつたちも、私たちも」グスッ
あかね「…時間が解決してくれるかもしれないわ」
ともこ「そうだといいね…」
――
夕方 結衣の自宅
結衣「(臨時ニュースに私は愕然とした)」
結衣「(京子が自殺未遂を起こしたのだ)」
結衣「(家族が目を離した一瞬の隙に、部屋で手首に包丁を突き刺していた)」
結衣「(出血は強かったものの、傷口が動脈をずれたおかげで大事には至っていないそうだ)」
結衣「(救急車で搬送されるあいだ、京子はうわ言のようにごめんなさいと呟いていたらしい)」
結衣「(警察は一部の過激な報道合戦に対し、厳重に注意勧告を行った)」
結衣「(京子…。やはり限界まで自分を責め続けていたのだ)」
結衣「(もう、ごらく部は元には戻れないのかもしれない)」
――
夜
結衣「(私はやりきれない想いをどうすることもできなかった)」
結衣「(明日にはあかりとともに学校に戻ることを予定していたが、とてもそんな気持ちにはなれない)」
結衣「(申し訳ないが、あかりには電話で断っておこう)」
結衣「もしもし…」
あかり「結衣ちゃん…。だいじょうぶなの?」
結衣「うん。京子は無事みたいだし…。でも、今は何も頭に入ってこないよ。せっかく声をかけてもらって悪いけど、明日は休んでもいいかな」
あかり「もちろんだよ。結衣ちゃん、そんな状況じゃ、学校に行っても倒れちゃうよ」
結衣「ごめんよ、あかり。私、あの事件以来、全然前を向いて進む気力が起きないんだ…」
あかり「無理はしないほうがいいよ。京子ちゃんの怪我が治ったら、一緒に学校に戻ろう」
結衣「あかりはやさしいな…。そういえば、ちなつちゃんはどうなったんだろう」
――
あかり「…」
結衣「あかり?」
あかり「あ、あのね。お姉ちゃんがちなつちゃんのお姉さんに会って話を聞いてきたんだけど、ちなつちゃん、具合がよくないみたいなの」
結衣「ちなつちゃんもか。無理もないだろうけど…」
あかり「ちなつちゃん、幻覚が見えているって」
結衣「え、幻覚?」
あかり「事件のショックで混乱してるみたいで…。ごらく部のみんなの幻覚が見えるみたいだよ」
結衣「…京子もちなつちゃんも、もう元には戻れないのかな」
あかり「わからない。でも、あかりは京子ちゃんとちなつちゃんがきっと戻ってくるって信じてるよ」
結衣「あかり…」
――
3日後 七森総合病院
京子「あかり、ごめんなさい。ごめんなさい…。私が、私が悪かったよ。許してよぉ」グスッ
コンコン
京子「ひっ!?だ、誰!」
綾乃「…歳納京子、私よ。入ってもいいかしら」
京子「あ、あやの?」
綾乃「失礼するわ」ガラッ
京子「ど、どうして綾乃が…」
綾乃「決まっているでしょう、あなたのお見舞いよ。さっき廊下であなたのお母さまに会って、面会は大丈夫と聞いたから」
京子「ど、どうして私なんかのお見舞いに…」
綾乃「何を言ってるの。クラスのみんなも心配してるのよ」
京子「で、でも。私は…」
綾乃「何?」
京子「私は…あかりを見捨てて助かろうとしたんだ。ごらく部でいつも一緒にいて、小さいころからずっと友だちだったあかりを…」ひくっ
――
綾乃「だから…何なの?」
京子「私は…あかりを見捨てたんだよ。週刊誌やネットで書いてあるとおり、私は人殺しなんだ。誘拐犯人より、ずっとひどいやつなんだ…」グスッ
綾乃「そんなことないわ!」
京子「あ、あやの…」
綾乃「歳納京子、あなたは自分がどれだけ怖い思いをしたかわかっているの?殺すって脅されてたのよ。そんな状況でまともな判断ができたと思ってるの?」
綾乃「仕方がなかったのよ。あなたは悪くない。ごらく部の誰にも責任はないの」
京子「で、でも…」
綾乃「あなたを悪く言うやつがいたら、私がただじゃおかないわ!」
綾乃「もう許してあげて。あなたはずっと自分を責めてきた。自分自身を許してあげて、京子…」
――
京子「…ありがとう、綾乃。綾乃の言葉、すごくあったかくて、心がラクになったよ」ツゥー
京子「私、もう生きている価値がないと思ってた。友だちを売った裏切り者なんだから、生きていても仕方がないって」
京子「でも、私のことをこんなに思ってくれている友だちがいることを忘れてたよ…」
綾乃「あなたは何も悪くない。あなたが自分を責めていると、友だちも悲しむわ」
綾乃「そうでしょ、赤座さん…」
あかり「京子ちゃん」ガラッ
京子「あ、あかり!」
――
綾乃「ごめんなさいね。最初から顔を合わせたら、あなたが何も話せなくなると思って」
京子「あかり…」
あかり「京子ちゃん」
京子「ごめん。ごめんね、あかり…」ヒック
あかり「京子ちゃん、謝らなくていいよ。あかり、京子ちゃんのこと嫌いになったりしてないよ」
あかり「京子ちゃんが一人でつらい思いをしてると、あかりも悲しいよ。だって…」
あかり「京子ちゃんは、あかりの大切な友だちだから…」
――
京子「う、うぁああー!」グズッ
京子「ごめん、ごめんあかり…。あかりが私のことを友だちだって思ってくれてるのに、私は、私はあかりを見捨てて自分だけ…」
あかり「もういいよ、京子ちゃん。みんな無事に帰ってこれたんだから、全部解決したんだよ」
あかり「ごらく部はずうっと変わらないよ。あかりたちはずうっと友だちだよ」ギュッ
京子「あかり…」グスッ
――
綾乃「これで歳納京子も大丈夫ね」
あかり「杉浦先輩、付き添っていただいてありがとうございました」
綾乃「いいのよ、当然のことをしたまでだから。それに、仮に赤座さんから頼まれなくても、遅かれ早かれここには来ていたと思うし」
京子「綾乃もあかりもありがとう。私、もう自分が嫌で嫌で、だめになる寸前だったよ」
あかり「あかりは京子ちゃんのことが大好きだよ。何があってもそれは変わらない」
京子「あかりぃ…」
綾乃「私も、京子のことは大好きよ。だからここまで来て…」
綾乃「(あ、あら。私ったら何を言って…。っていうか、大好きって!?しかも、京子って無意識に呼んじゃってるし!?キャー!//)」
京子「ど、どうしたの綾乃?なんだか顔色が…」
――
あかり「京子ちゃん、怪我が治ったら協力してほしいことがあるんだけど」
京子「なに?私にできることなら、何でもするよ」
あかり「実はちなつちゃんが…」
京子「えっ、ちなつちゃんがそんなことに?」
あかり「ちなつちゃんは、京子ちゃんを選んだことで自分を責めてると思うんだ。だから、今度は京子ちゃんがちなつちゃんを助けてあげてほしいの」
京子「…わかった。みんなそろってこそのごらく部だからな」
――
数日後 ちなつの自宅
ちなつ「結衣先輩、大好きです~」
ともこ「ちなつ、お友だちが来ているわよ」
ちなつ「ほえ?みんなここにいるよ?」
あかり「ちなつちゃん」
ちなつ「あれ、あかりちゃん?さっき部屋にいなかったっけ?」
結衣「ちなつちゃん、調子はどうだい」
ちなつ「えぇーっ、結衣先輩が二人!私、幸せすぎて涙が出てきます!」
京子「…ちなつちゃん、久しぶり」
ちなつ「きょう、こ先輩…」
――
ちなつ「もーなんで来たんですかー?」
ちなつ「結衣先輩との披露宴には呼ばないって言ったじゃないですか」ムスー
ちなつ「結衣先輩~。いまお茶いれますね~」フラ
京子「ちなつちゃん」ギュッ
ちなつ「…!」
――
ちなつ「な、何するんですか。私には結衣先輩がいますから…」
京子「…」
ちなつ「離してください。怒りますよ!」
京子「ちなつちゃん。みんなでごらく部に戻ろう」
ちなつ「うっ…な、何言ってるんですか?部室はここですよ。もうみんな集まってますよ」
京子「戻ろう。私たちのごらく部に」
ちなつ「うっ、うぁああぁあー!」ドン
――
京子「っつぅ…」ヨロ
結衣「京子、大丈夫か!?」
京子「だいじょうぶ、転んだだけだよ」
ちなつ「触らないでください」ハァーハァー
あかり「京子ちゃんはちなつちゃんのこと…」
ちなつ「憎んでいるんでしょう!?そんなことわかってる!私が、私が京子先輩を見捨てたから、だから憎んでいるんでしょう!ちがいますか、京子先輩!?」
京子「ちなつちゃん…」
ちなつ「だから…そんな私に触らないでください。声もかけないでください。京子先輩を見捨てた私にそんな資格はないんです!」キッ
京子「私は、ちなつちゃんのことが大好き」ギュッ
ちなつ「…!?」
――
京子「ちなつちゃんはごらく部に来てくれた大切な後輩」
京子「いつもみんなを元気づけてくれる大切な存在」
京子「誰にも代えることのできない大事な友だち」
京子「私はちなつちゃんのことが大好き。みんなもちなつちゃんのことが大好き。だから、戻ってきてほしいんだ。ごらく部に」
ちなつ「でも、でも私は…」
京子「誰も悪くないんだ。仕方がなかった。あかりはそう言って私を許してくれた。いや、初めから憎んでなんていなかったんだ」
京子「私たちは友だち。ずっと、いつまでも。何があっても変わりはしない。お互いの想いが通じるかぎり」
京子「私は、ちなつちゃんのことを悪いだなんて思わない。結衣とあかりも同じ。私たちはいつもどおりに、ちなつちゃんに心を開いているよ」
京子「だから、後はちなつちゃん次第…」
ちなつ「…っ」
――
ちなつ「…わかってたんです、最初から」
ちなつ「私のしたことが、どれだけ恐ろしいことか。どれだけ京子先輩を傷つけることになるのか」
ちなつ「でも、怖くて。自分が助かりたくて、京子先輩を見捨てました」
ちなつ「自分の責任から逃れたくて…現実から目を背けてました」グスッ
京子「ちなつちゃん…」
京子「もう大丈夫、全部終わったんだよ。私たちはいつもどおり、ごらく部で楽しくやっていくんだよ」
京子「だから、泣かないで。どんなことがあっても、私たちは友だち。何か失敗をしても、そのときは仲間が許して迎え入れてくれる」
結衣「ちなつちゃん。ちなつちゃんが戻るまで、ずっと待ってるよ。どれだけ時間がかかっても、私たちは待ってるから」
あかり「みんな、ちなつちゃんの友だち。ごらく部の仲間だもん」
ちなつ「う、うえぇえ~ん」ギュッ
京子「おかえりなさい、ちなつちゃん。ごらく部にようこそ」ギュッ
――
結衣「(その日、ちなつちゃんの部屋で、ごらく部は再出発を誓った)」
結衣「(まだ時間はかかるかもしれない。でも、私たちはどんな困難も乗り越えられるはずだ)」
結衣「(互いに信頼し、支えあう仲間がいるのだから)」
結衣「(あの楽しい毎日に戻るまで、そう時間はかからない。私はそう思っている)」
結衣「(私たちはごらく部員)」
結衣「(何をするでもなく、ただのんびりと毎日を過ごす日々)」
結衣「(でも、そこにはどんな部活動にも負けない、大切な時間が流れている)」
結衣「(さて、ごらく部の再開初日は何をしよう)」
結衣「(まずは部室の掃除かな。京子はさぼらずちゃんとやるかな)」
結衣「(片付いたところで、ちなつちゃんがおいしいお茶をいれてくれる)」
結衣「(トランプに負けてしょげているあかりに、何か別のことをやろうかと提案する)」
結衣「(そうこうしているうちに、綾乃が勢いよく部室の扉を開けて…)」
結衣「なんだ、やっぱりいつもどおりだな」クスッ
――
数か月後 七森拘置所 運動場
男「はぁ~、やっぱり自首しないで逃げてればよかったかな。こんなむさいところじゃ、ボクのインテリジェンスに錆がついちゃうよ」
男「うまくやれば逃げきれたかもしれないしなぁ。でも、そうすると京子ちゃんとちなつちゃんのクズっぷりを世間様に公表するのは難しいしなぁ」
男「なかなかうまくいかないもんだね、人生って」ドン
男「あいてっ!ちょっと、どこ見て歩いてるんだい!?」
囚人「…」
男「まったくもう、ボクはキミたち下層民とちがって繊細なんだから。ぶつかって怪我でもしたらどうするんだい、えぇ!?」
囚人「…」
男「だめだこりゃ、猫に舌でも引っこ抜かれたのか」ガッデム
囚人「…」ブンッ
グシャッ
――
男「ほ、ほへ…?」
男「あひ、ボクの鼻が…」ダラダラ
囚人「…」ガバッ
男「ちょ、何すん…」
バキッ ガッ ドゴォ
男「ぶ、ぶはっ!助け…」
囚人「…」
ゲシッ グキッ グチャァ ドムッ
男「かッ…!」
ジュシュッ ブチィ グチュッ ドガッ
男「ぴ…」
ボゴォ ガスッ クジッ メコッ
男「…」
ガヅン ブシャア デキュシ ゾヅン
――
看守A「おい、何して…うわぁああ!」
囚人「…」
看守B「こいつはまた派手にやったな。よーし、落ち着け。そっちに行こうか」
囚人「…」ノソ
看守A「し、死んでますよね?」
看守B「そんなもん見ればわかるわ。あの元格闘家にまともに嬲られたらこうなるわな」
看守A「上にはどう報告しましょう?」
看守B「怪物を収容しろってのは上の命令だろ。責任もクソもあるかい。俺らは指示どおりの警備体制をとった。他の囚人にもあいつを刺激しないよう注意喚起した」
看守A「それじゃ、こいつが何か挑発したんでしょうか?」
看守B「ホトケに聞いてもわかんねぇよ。あ、でもこいつ例の誘拐事件起こしたでしゃばりじゃねぇか。大方よけいなことでも言ったんだろ」
看守A「そういえば、そうですね…」
看守B「にしてもアホだよな。おとなしくしてりゃ数年で出られたっつうのに、ここでおっ死ぬとは」
おわり
ごらく部のみんなが、立ち直ってくれてよかった……。
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あ
すごく面白かったです。