歪み
冬イベントから目を逸らしたくて書いた。めちゃくちゃ後悔している。
(アイデアが突如浮かんだのでとりあえず文字にしました。更新は他の物と合わせて不定期になると思います)
僕はね、冬イベントから逃げたかったんだ・・・・・・
冬イベントは期間限定で、大人になるとクリアするのが難しくなるんだ・・・・・・。
間違いだろうが、悪魔だと言われようが関係ない。
これは自分が選んだ道だ。
彼女の幸せを掴むためなら、非情になろう。人間をやめてやろう。
それでこの願いが叶うなら・・・・・・簡単なことじゃないか?
『深海棲艦』
突如として世界各地の海から現れ、人類に攻撃を仕掛けてきた異形の敵。
突然の襲撃に人類は混乱を極め、一部の地域では敵の上陸を許してしまう。
その結果、数々の都市は壊滅的打撃を受けることとなり、多くの民間人が死んだ。
各国は協力体制を取り、上陸を許した地域のみを空爆。上陸部隊を撃破した。
しかし、制海権はすでに敵の手中にあり国家間での連携が困難となり、数年後には大規模な迎撃が不可能となった。
今では各国が自衛するだけで精一杯な状況であり、連絡ももちろん支援体制も崩壊していた。
そんな中、日本で『艦娘』という少女たちが各地で出現する。
艦娘たちは僅かではあるが一部の港湾部の制海権を奪還。
これは人類が何度挑戦しても決して成功できなかったことであり、それを簡単に成し遂げた彼女たちの調査はすぐに行われた。
調査の結果、艦娘というものに対して以下のことが判明。
・艦娘というのは少女たちに過去の戦争において活躍した艦の魂が宿った者たちを指す。
・艦娘というものは誰でもなれるというものではなく、適性を持った女性のみが艦娘となることができる。
・艦娘の艤装は艦の魂の依り代のようなもので、これがなければ艦娘として行動することは不可能である。艤装がない艦娘は同世代の少女とあまり変わることはないが、生身の人間よりも少し身体能力が高いという結果が出ている。
・食事は人間と同じものを摂り、好物なども個人で違う。生身の人間と変わらないようである。
・補給に関しては艤装の修復・安定化などで必要なものであり、入渠は敵の攻撃による艤装の損傷によって生じた瘴気のようなものからの汚染を清めるための行為である。
・度重なる戦闘で損傷が激しくなり、艤装としての機能を完全に失うとその艦娘は消失する。
(これは艦に因んで轟沈とする。なお、この実験に参加した者はその後全員死亡している)
・練度については艦としての魂が艤装に定着・シンクロしている指標となる。
(練度の高い艦娘は敵による攻撃回避・敵への攻撃命中率が高くなっている)
・妖精については現時点でも不明。艤装のメンテナンス、艦娘の支援、艦載機や偵察機を扱えることから過去の英霊が関与しているとされている。
以上を踏まえ、効率よく制海権を奪取・艦娘のコンディションを整えるためにも彼女たちを纏める存在が必要であると考えられており、これを統括・管理する者を『提督』と呼称。
なお、一部制海権の確保できた地域の港湾部を中心に反攻作戦最前線基地として『鎮守府』の設営も進められており、現在では5か所が稼働状態にある。
この5か所の鎮守府への作戦指示・支援体制など反攻作戦の立案を行う本部は『大本営』と呼ばれている。
各鎮守府の提督・体制などの詳細に関しては極秘事項。
「まったく、ウンザリだ・・・・・・」
電「これも司令官さんの仕事の1つなのです・・・・・・。電も手伝うので頑張りましょう」
「はぁ・・・・・・」
電「溜息をついても無駄なのです。これが終わらないと困るのは司令官なのですよ?」
「そうだが・・・・・・うーむ」
電「サボらないで手を動かしてください」
「分かったよ・・・・・・」
窮屈な机の上に置かれた書類の山。
その山に埋もれるようにして座る『電』という艦娘。この子がこの鎮守府での初期艦であり、秘書官である。
見た目は幼い少女なのだが怒ると怖い。可愛いじゃなく、怖い。
電「今、何か失礼なことを考えませんでしたか?」
「そんなわけないだろう」
電「ならいいのです。それよりも早くそちらの書類の山に取り掛かってください」
「はいはい」
どうして自分がこんな場所で事務仕事をしなければならないのか。
元はと言えば、身から出た錆なのだが・・・・・・愚痴っても仕方ない。
とりあえず今はこの紙切れを処分することにしよう。
そうして仕方なく事務作業に取り掛かろうとしたとき、ドアがノックされる。
大淀「提督、失礼します」
扉をゆっくりと開け、長い黒髪に眼鏡を掛けた少女が入ってくる。
彼女は『大淀』。れっきとした艦娘であるが主に鎮守府の運営と大本営への連絡係として動いてもらっている。
そんな彼女がこんな暇な時間にここに来るのは珍しい。何かあったのだろうか?
大淀「遠征部隊から帰投中に南西諸島沖にて大破状態の艦娘を一名保護したとの連絡が」
「大破か。容体は?」
大淀「かなり酷い損傷で、自力での航行もままならない、と」
そこまで損傷した艦娘がたった一人で南西諸島沖になぜいるのか?
可能性があるとすれば、艦隊行動中に敵艦隊の奇襲を受け交戦。大規模な損害を受け落伍したか、それとも・・・・・・。
大淀「どうされますか?」
冷静に自分の指示を待つ大淀の瞳は明らかに揺らいでいた。
それはそうだろう。自分の艦隊に所属していないとはいえ、同じ境遇にある大切な仲間だ。助けたいに決まっている。
「そのまま保護して帰投するように連絡を。戻ったらすぐに入渠だ」
大淀「了解しました」
一瞬だけホッとした顔を浮かべるものの、すぐに凛とした表情に戻り回れ右をして部屋から出ていく。
艦娘とはいえ、基本的には人だ。それも若い少女なのだから当然、ふと気が緩むときもあるだろう。
そういう意味では彼女は年相応の反応をしただけである。軍属とはいえ別にキッチリとしなくても問題はない。
そもそもここでは彼女たちが主戦力であり、重要な人材なのだ。そんな彼女たちに厳しく接することなどできるはずもない。
ただ単純に大淀という子は形から入るタイプ、ということだろう。
電「おかしいですね」
執務を続けながら電は疑問の声を上げる。
「大破状態の艦娘がいたことがか?」
電「いえ、そうじゃなくてですね・・・・・・基本的にはそういう状態の艦娘が出た時は、他鎮守府などに救援もしくは援護の報が入ると思うのです」
「そうだな」
電の指摘に肯定を返し、ゆっくりと執務机に戻って書類の山の一番上から紙を取る。
開発か。今のところ備蓄も支給物資も不足していないので、このまま艦載機を中心に開発してもらおうか。
電「ですが今のところそういった情報は一切出てきていないのです」
電の言う通り、現在他鎮守府からの救援・援護の要請は届いていない。
大破艦が出た時点で艦隊から提督へとすぐに情報は伝達されるだろうから、未だにそう言った話が出ていないのは不思議だ。
電「通信機器の故障とは思えませんし、かと言って艦隊が全滅・・・・・・するのはほぼ有り得ないのです」
全滅という言葉に少しだけ顔を歪めるものの、執務の手は止まることはない。
「そうだな。そもそも全滅したのであれば、一人だけ生き残るというのもおかしな話だ。それも瀕死に等しい艦娘が」
通常、深海棲艦というものは自分たちが沈むか戦域から離脱しない限りは攻撃をやめることはない。
過去に陸上に上陸を許したとき、空爆処理するしかなかったのもこれが一因でもある。
当該地域の人間の生存が絶望的なまでに奴らは破壊と殺戮を繰り返していた。
そんな化け物どもが死にかけの獲物を逃すはずがない。
電「もしかして・・・・・・」
電の表情が暗くなる。ある可能性を考えてしまったからだろう。
「・・・・・・捨て艦か」
電「・・・・・・ッ!」
『捨て艦』。
敵との決戦のため、盾や囮として数隻単位で同行させる文字通り捨て身の戦法である。
毎年のように問題視され、規制や罰則などが強化されているのだが一向になくなる気配がない。
我々が行っているのは戦争だ。犠牲はやむを得ないというのも仕方ない。
だがそれはきちんとした作戦を立て、最小限の被害で済ませようとするからこそ言えることである。
そもそも死にに行くような作戦で犠牲という言葉を使うことなど許されることではない。
「・・・・・・すまない、電」
電「し、司令官さんは何も悪くないのです!」
「だが、これは我々がなくすべき問題だ。それを今もなくすことができず、挙句の果てにはそれを行う輩がいる。これでは電たちに合わせる顔がない」
電「そんなことはないのです! 司令官さんが一生懸命に行動してくれているのはよく知っていますし、それに今こうしてここにいるみんなが無事なのも司令官さんのおかげなんです! だから・・・・・・だから謝らないでほしいのです」
拳をぎゅっと握りしめ、今にも泣きだしそうな顔で私の目を見つめる電。
彼女はいつもそうだ。自分が一番つらくとも、悲しくとも他人のことを考え、労り、そうして優しい言葉をかける。
「・・・・・・」
潤んだ瞳に反射して映る私は無表情で、自分でも何を考えているのか分からないような印象を受ける。
そんな男にすらこの子は優しく接し、時には悲しんでくれるのだ。
「ああ、分かった」
電「えへへ・・・・・・良かったのです」
泣きそうな顔から一変。本当に嬉しそうにはにかみ、ホッとした表情を浮かべた。
このSSへのコメント