【第10章】明日を繋ぐ鎮守府と変わり行く提督
繋ぐ希望
繋ぐ明日
繋ぐ鎮守府
君が君である為に
また笑える為に
変わり行く自分に戸惑いながらも歩いて行こう
それが俺だから
俺の決めた道だから
これは【捨てられた鎮守府と捨てられた提督】の続編の【おんぼろ鎮守府と捨てられた提督】の続編の【おんぼろ鎮守府と歩み続ける提督】の続編の【大切な鎮守府と歩み続ける提督】の続編の【大切な鎮守府と道を照らす提督】の続編の【君の居た鎮守府と道を照らす提督】の続編の【君の居た鎮守府と裏と表を行く提督】の続編の【帰るべき鎮守府と裏と表を行く提督】の続編の【帰るべき鎮守府と変わり行く提督】の続きになります!まず、それらから見てもらわないと全く分かりません
0章はとりあえず本編を見てから見る事をオススメします。てか、更新してるのか?
増えるの!まだ増えるのかぁああ!これ以上増えると本当ワケワカメですね!
豆腐の味噌汁が好きです
専門用語とかは全く分かりませんし、文章もおかしかったりしますが、中傷コメなどはせず、気にいらない方はそっと戻るボタンを押して忘れてください
それが貴方の為です
それでも良い方はどうぞ見てやってコメントを残してやってください
キャラ崩壊注意ですよ!本当に注意ですよ!
他にも出る場合があります
【川内】
西鎮守府所属で主に裏の方で動く事が多い
最近はある艦娘の動向を追っていたが・・
提督とは昔に那珂ちゃんのライブ(路上)でニアミス?している
【神通】
所属不明で何をしているかも分かっていない
提督父の五人の初期艦の一人で提督の事を産まれた時から知っているが本人は会わせる顔がないと思っている
(更新情報)だが、吹っ切れたのか提督に対して鬼教官と化した
マヨコーラシリーズが大好き
【鈴谷】
南鎮守府の秘書艦で南提督の命令は必ず遂行する程に従順だが、その本心は・・
提督父の五人の初期艦の一人で提督と一緒に入渠ドッグに入るとバケツと同じ効果が出る体質を作ってしまった娘でもある
【羽黒】
おんぼろ鎮守府とは反対側の町外れにある孤児院で子供達の面倒を見ている
だが、彼女は元艦娘ではなく海軍にも所属していない艦娘で本来なら捕まってしまうのだが隠れて暮らしている
彼女の存在を守る為に孤児院にいた青年がおんぼろ鎮守府へと忍び込み捕まってしまっている
叢雲、電、青年、三人を失ったと思った彼女は・・・
【曙】
三代に続いた登面鎮守府を一人で壊滅させて海軍に捕まってしまう
とある施設で提督と出会うまでは一言も喋る事がなく解体を望んでいた
大井とはなんやかんやで仲が良い?
【叢雲】
提督とは孤児院で初めて出会い提督の甘い考えに呆れて相手にしていなかったが電が着いて行ってしまった事で提督を敵視
電を連れて帰ろうとするが明石に邪魔をされて大破状態で病院にいた提督を説得の末に襲い負けて海軍に捕まってしまった
とある施設で再会を果たすが・・
【吹雪】
とある施設で出会い右腕がなく戦う事もしなくなり軍刀になる事を望んで解体されるのを待っていた
提督父の五人の初期艦の一人で赤ちゃんの頃の提督とは何回もお風呂に入っていたりもしている
提督とは唯一赤ちゃんの時以外にも面識がある
頑張る事が報われると思っていたが頑張らない事で報われる道を探そうとしている
おんぼろ鎮守府で初の〇〇をする
無人島での駆逐棲姫との戦いを終えた提督達は帰路に着く
春雨の残した思いを彼女自身の未来に繋げる事を決意する提督
野良艦娘達の辛さを知りも前へと進む事を選んだ研修生達
長い長いクルージングはたくさんの大切な事を教えてくれた忘れられない日になった
各々の新たな決意を胸に西鎮守府へと帰投するのだった
疲れ果てて眠る研修生達を背に提督は日が登らないうちに西鎮守府を去った
南鎮守府へ向かう為に
物語は提督が西鎮守府を去る少し前
研修生達が寝静まり執務室での提督と西提督の会話から始まるのだった
ー西鎮守府執務室ー
西提督「という事で明日はと言うより今日だが夕方までは自由時間として気難しい話しとか式とかなんてのはすっ飛ばして研修生達のこれからを祝ってパーティーをしようと思う。だからそれまでは好きに休むなりなんなりさせておいてやってくれ」
提督「分かりました。みんなにはそう伝えておきます。でも良いんですか?7日目も一応は研修期間ですよ?」
西提督「彼等は十分研修をした。俺が教官なら卒業しても良いと思える程にはな。だからお前も今日はゆっくり休め」
提督「正直もう眠いですし明日はゆっくりさせてもらいますよ」
西提督「おんぼろ鎮守府の面々も今日は泊まっていくそうだし研修生達に話す機会を与えてはどうだ?」
提督「そうするとバレそうな気はしますが面白そうですね」
みんなには俺が研修生だと言う事をもう一度言っておけば大丈夫だろう
不知火が露骨に嫌そうな顔をするけど
西提督「それと分かってるとは思うが研修報告書には今日の事はそのまま書くなよ?」
提督「あ・・・」
やばい!報告書の存在を忘れていた!全く書いていなかった・・後で書かないと
西提督「ん?大丈夫か?」
提督「あ、はい、大丈夫です。報告書はちゃんと書いておきます」
西提督「いや、ちゃんと書いてはまずいと思うが?」
提督「ちゃんと適当に書いておきますから大丈夫です!」
一日目とか何してたっけ?覚えてない・・
これは徹夜か?
西提督「そうか、なら安心だな。帰って早々呼びだして悪かった。そろそろ休むと良いと言いたいが・・」
提督「ん?」
西提督「なぁ、友よ。人間が艦娘達に出来る事とはなんだろうな」
提督「え?」
西提督「共に海へ出て戦う事か?それとも安全な鎮守府で指揮をする事か?」
西提督「人間は海へ出ても足手まといにしかならない。それはお前だって分かっているだろう?まさか今回の事で自分は共に戦う事が出来るなんて思っていないよな?」
提督「思ってるわけないですよ。あれは俺の我儘で本当ならもっと簡単に終わらせる事が出来た。運が良かっただけなんです」
寧ろ俺一人の力なんて少しの助けにもならないと知らされた
俺は共に海へ出ても何も出来ない
提督「っ・・悔しいですよ。彼女達に戦わせる事しか出来ない・・俺がどんなに頑張っても越えられない壁がある」
西提督「・・・・・・」
提督「だからって指を咥えて見ているつもりはないですが」
提督「俺は俺の出来る事をするつもりです」
西提督「そこまで分かってそう言えるなら何も言う事はない」
提督「これを確認したかったんですか?」
西提督「いや、ここからだ。俺の個人的な考えではあるが」
提督「聞かせてください」
西提督「うむ、お前が来てから西鎮守府は大きく変わった。艦娘達が目に見えて生き生きとしている」
西提督「その表情や行動や言動がどれを取っても俺だけの居た西鎮守府にはなかった」
西提督「研修生達が来てから更にそれは強くなった。艦娘達が歳相応の女の子の様に愛おしく思う様になったんだ」
西提督「ふっ、自分でも笑ってしまうが父親の気分とはこう言うものなんだと思う」
西提督「もう、彼女達は俺の娘と言っても良いかもしれない」
提督「妙高さんは違いますよね?西提督さんが父親なら妙高さんは母親ですね」
西提督「茶化すなよ否定はしないがな」
提督「西提督さんの気持ちは分かりますよ。彼女達は兵器だと言われてますが普通の女の子なんですよ」
西提督「・・・・・・」
提督「彼女達にも幸せになる権利があるんです。それは今でなくても先の未来でも」
西提督「本当にそうか?」
提督「え?」
西提督「本当に彼女達の未来を考えて良いのか?」
提督「っ、それは彼女達には未来を幸せを夢見る事もしてはいけないと?」
西提督「違う。俺は彼女達の幸せを願っている」
提督「なら西提督さんはどう言うつもりで」
西提督「部分解体された艦娘ならすぐにとは言わないが平和な社会でゆっくりと成長して女としての幸せを掴む事が出来るだろう」
西提督「だが、現役の艦娘達はどうだ?此処は平和か?身体は成長するのか?」
西提督「彼女達は兵器と恐れられ戦う事を強いられて明日には死ぬかもしれないと怯えながら死ぬまで生きるだけなのか?」
提督「それは・・・」
西提督「俺は此処にいる娘達には幸せになって欲しい・・だけど、俺は戦う事を強いる事しか出来ない・・」
西提督「艦娘が人間に恋をしても伝える事はしない・・それが普通なんだ。彼女達は自分を兵器と自覚して・・その恋心を押し殺す事しか出来ないんだ」
提督「っ・・・・・」
西提督「なぁ、例えばだ艦娘に一ヶ月後に約束をしたとしよう。彼女の観たがっていた映画のチケットが手に入ったとな」
西提督「嬉しい筈だろ?でもな彼女は凄く悲しそうな顔をするんだ・・嫌なんかじゃない。寧ろ嬉しい・・だが、一ヶ月後に自分は此処にいるのか?生きているのか?そう思うだけで苦しくなって泣いてしまったんだ」
西提督「その苦しさは一ヶ月後まで残ってしまう・・残ってしまったんだ」
提督「西提督さん・・」
もしかしてこれは例え話しではなくて
本当にあった
西提督「約束をした自分を恨んだ!憎んだ!どうしてこうなってしまったんだって・・」
西提督「どうすれば良かったんだって・・」
西提督「でもやっと気づけたんだ」
西提督「今から映画に行こうって・・未来じゃない今を見てやらなければいけなかったんだ」
提督「今を・・・・」
西提督「艦娘は普通の女の子でありそうでない。それは覚えておかないといけない事だ」
西提督「彼女達は歳をとらない永遠に生きる事も出来る。だが、人間の一生より早く死ぬ娘が殆どなんだ」
西提督「提督!だからこそ俺は彼女達に未来ではなく今を見せてやりたいんだ」
提督「・・・・・・・」
西提督「その為に出来る事を考えた。そして一つの答えに行き着いた」
提督「それは・・その答えは!」
西提督「彼女達にせめて女としての幸せを感じさせてやる事だ」
提督「っ!」
それってもしかして
西提督「提督、これは強制じゃない。俺からのお願いだ。これからもし艦娘達から夜の事を求められる時があったら」
西提督「受け入れてやって欲しい」
提督「待ってください!そんな簡単に」
西提督「簡単ではないんだ」
提督「え?」
西提督「お前だから言えたんだ。艦娘と人間を分け隔てなく愛せるお前だからこそ」
提督「愛せるだなんて・・俺は」
そんな人間じゃないんだよ俺は・・
西提督「艦娘にとって思いを伝えると言う事は兵器としての自分を知った上でそれを覚悟した上で言うんだ」
西提督「それは出撃よりも怖く大破より苦しい事なんだ。でも、それを隠し続ける事が一番苦しい・・と思っている」
西提督「俺もこれからそう言う事があったら妙高に相談する事になるが受け入れようと思ってる。まぁ、俺には言ってくる奴はいないがな」
提督「でもこんなの・・」
西提督「不誠実だと思うか?」
提督「・・言ってる事は理解出来ます・・でも、俺は・・俺には」
求められても満足させてやる事は出来るのか?
更に苦しくさせてしまうだけでは?
俺は彼女達の勇気に答える勇気を持てるのか?
西提督「怖いか?彼女達の好意が」
提督「怖いなんて思わない思う筈がない寧ろ嬉しいですよ」
西提督「なら、それで良いじゃないか難しく考える必要はない」
西提督「こんな事を言ったがこれは俺の勝手な考えだ押し付ける気はない。お前が思う今を彼女達に見せてやれば良い」
提督「俺が思う今か・・」
俺は明日には死んでしまうかもしれない彼女達に何をしてやれるんだ
何を見せてやる事が出来るんだ
西提督「・・・・・・・」
西提督「すまない。思い悩ませてしまったな今の話しは忘れてくれ」
提督「いえ、それが俺の出来る事なら・・俺しか出来ない事なら」
俺にはその答えはまだ分からない
だけど、分からないからと何もしないわけにはいかない
西提督さんが示してくれたこの道が
それが彼女達を守る事になるなら
彼女達に未来と言う不安ではなく今を見せる事が出来るのなら
提督『俺は一生童貞でも良い!』
あの時武蔵さんに言った一生童貞宣言を
中途半端にしていた思いを捨てて
提督「俺は!喜んで童貞を捨ててやる!」
撤回させてもらいます!!
西提督「提督・・そうか、お前ならそう言ってくれると信じていた!」
提督「あ、だけど、最初はそう言うのではなくデートから始めてお互いをよく知った上で」
西提督「ふっ、ヘタレだな」
提督「ヘタレで良いんですよ。こんなヘタレ好きになるなんてあり得ないですからね」
あ、言ってて悲しくなった・・
西提督「そうか?俺が知るだけでも結構好いてる奴はいるぞ?阿武隈とかお前の前に出る時はしきりに前髪を整えていたりするし、荒潮はお前の背中を愛おしそうに見ているぞ」
提督「へ?」
西提督「朝潮の奴もお前を見てる時は目が輝いているぞ?愛宕もお前の前だとパンパカパーンのテイションが少し上がっている」
提督「ふぁ?」
西提督「イムヤだってカロリーメイト(メープルシロップ味)をくれたなんて余程の事なんだぞ?雷は・・うん、何も言うまい」
西提督「刺されるなよ」ボソッ
提督「えっと・・これって・・」
西提督「ふふ、案外すぐに来るかもしれないな友よ」
提督「はわわわ!」
え?モテ期?モテ期が来たんですか!
西提督「どうだ今度彼女達とゆっくり話す時間をー、ん?」窓の外を見る
提督「西提督さん?」
西提督「・・・・・・」
提督「外に誰か?」
西提督「よし!善は急げだ荒潮を呼んで来よう!荒潮ーーーー」
荒潮とか洒落にならない!事案が発生してしまう!
提督「っ!あ、もうこんな時間ですか!そろそろ部屋に戻ります!失礼しました!」ダッ
ガチャ
ドン
西提督「・・・・・・・」
西提督「・・気を遣わせてしまったか止めるべきなんだろうが」
西提督「すまない・・俺にも守りたい場所があるんだ」
窓の外を見ながら呟くのであった
西提督「っ・・・くそ・・」
ー西鎮守府廊下ー
提督「ん?明石さん?」
窓から外をジッと見つめている
その表情は普段の明石さんとは違って少し悲しそうに見えた
マリッジブルーとか?
ないな
明石「提督か・・どうしたの?眠れないの?」
提督「いえ、西提督さんと少し話していたんだけど明石さんはどうしたんですか?」
西提督さんも窓の外を見ていたけど何かあるのか?
そう思い見ようとしたら
明石「見ない方が良いよ」
提督「え?」
明石「嘘、見てほしい」
提督「明石さん?」
明石さんがこんな曖昧な事を言うなんておかしい
目を見ると少し赤くなってる
何かあったのは確かだ
明石「いや、その・・何やってんだろ」
明石「ごめん少し船の上で呑み過ぎたみたい・・さっきの事は忘れて部屋に戻るね」
提督「待ってください」ガシッ
明石「・・離して」
提督「何があったんですか」
明石「っ・・何もない」
提督「嘘です。自惚れかもしれないけど明石さんは俺を待ってたんじゃないんですか?俺に何かして欲しいんじゃ?」
明石「っ!」
態々部屋から離れた此処に居たのも偶然じゃない筈だ
提督「話してください」
明石「本当自惚れよ・・ただ私は此処で酔いを冷ましていただけ」
提督「冷ますなら此処じゃなくても良かった筈です。何故部屋から離れた此処にする必要が?」
明石「偶然よ。もう行くから」
提督「待ってください!」
偶然だとしても泣いている事実はあるんだ
何かはあったんだ
分かってる。俺じゃあ力不足なんだって
でも、少しでも頼ってくれようとしたかもしれない
助けて欲しかったのかもしれない
例えそれが間違いだったとしても
気付いた後の後悔よりはマシだ!
俺は明石さんの力になりたい
その為になら
提督「明石さん俺は頼りないかもしれない!だけど何でも良い。力になる事は出来ないんですか?俺はそんなに信用出来ませんか!」
提督「まだ、俺は貴女を・・守れないんですか」
まだ、貴女の背に隠れていなければいけない程に弱いんですか・・
気付いてないと思ってるけど裏で色々とフォローしてくれてるのは知ってんですよ?
少しでも返せませんか?
いえ、返します!
明石「提督・・」
提督「明石さん・・君が泣いた理由を教えて欲しい・・俺が出来る事をさせてください」
明石「・・・・・・」
提督「君が窓の外を見れば分かると言うなら見るよ。見るなと言うなら見ない」
提督「言ってくれないと分からないんですよ・・」
明石「っ・・・・」
提督「違っていたとしても、その・・寂しいなら・・そんな夜があるなら!」
明石「?」
明石「・・寂しいなら何してくれるの?」
提督「俺で良ければ・・な、慰めますから」
明石「へぇ・・ナデナデでもしてくれるの?」
提督「いえ、大人の意味で言ったんです」
明石「・・・・・・え?」
提督「嫌ならいいんです。でも、俺でも良いって言ってくれるなら・・貴女を抱かせてください」
明石「っ!本気?」
提督「こんな事で冗談なんて言わない」
明石「へぇ〜・・じゃあ、好きなの?私の事」
提督「はい、好きです」
明石「そんなはっきり言うんだ」
俺を最初に信じてくれて此処まで支えてくれた明石さん
嫌いになんてなれないし
好きか嫌いかと言われれば
好きとはっきりと言える
その言葉に嘘はない
提督「嘘は苦手ですから、俺は明石さんの事を異性として好きです」
明石「そう言う目で見れるんだ。こんなガサツで可愛げもないのに」
提督「そんな事ないですよ明石さんは可愛くて魅力的な女の子です!」
明石「ふ、ふ〜ん、女の子とか言っちゃうんだ」
提督「何かおかしかったですか?」
明石「ううん、別に」顔近づけ
提督「っ!」
明石「ねぇ、可愛いって本当に本当?」
提督「本当に本当です」
明石「女の子って本当に思う?」
提督「思います!」
明石「そうか、そうなんだ」
明石「じゃ、良いよ」目を瞑り
提督「明石さん」
明石「慰めてよ・・忘れさせてよ・・本当は結構辛いんだ」
提督「分かりました。それが望みなら・・」スッ
明石さんも大事な仲間だから元艦娘だとしてもそれは変わらない・・彼女達の為なら俺は
不誠実だとしても
提督「っ・・・・」
本当に良いのだろうか・・俺がやってるのは弱っている人に漬け込んでいるだけなのでは?
明石「ねぇ・・もう一回言って好きって・・」
提督「っ!」
いや、そうだとしても苦しみを少しでもなくせるなら
後で、責められても、蔑まれても
今だけでも愛そう・・彼女を
提督「好きだよ明石さん・・」
明石「ん、私も好きだよ」
明石「提督だから言うんだからね?」
提督「あぁ・・・」
俺は覚悟を決め彼女へと唇を近づけてキスをー
提督「っ・・・・・」
明石「・・・・」ポロポロ
出来なかった・・
泣いてる娘に・・後悔を背負ってしまおうとしてる娘を
そのままには出来ない!
まだ、間に合うかもしれないんだ!
明石「提督?」
提督「ごめん」スッ
明石「あ・・」
彼女をゆっくりと離して迷わず窓の外を見た
提督「あれは・・・・」
明石「なんでしないの・・・」
提督「・・出来ないよ今の明石さんには」
明石「っ・・・なによ・・ヘタレただけじゃない」
提督「だね・・でも、今すればお互いが後悔するだけだよ・・」
明石「生意気に・・折角覚悟を決めたのに・・恥かかせて最低」
提督「・・すみません」
明石「謝んないでよ・・」
提督「はい・・」
明石「・・・なんで見たの」
提督「見ないと俺が後悔しそうだったからです」
現に見なかったら後悔してた
そして何も知らずに後悔させていた
提督「明石さん説明してくれますね?どうして外に大井さんと北上さんがいるんですか?」
北上さんを背負ってまだ立つ事も難しいであろう大井さんが一歩一歩西鎮守府の外へと向かっている
此処から逃げようとしているのか?
明石「・・馬鹿」ボソッ
提督「何か言いました?」
明石「ヘタレ野郎って言ったの!はぁ・・凄く恥ずかしい・・」
顔を真っ赤にしてる明石さんは凄くレアだけど
提督「あの・・ハンカチをどうぞ」
明石「拭いてやる甲斐性くらい見せなさいよ!」
提督「すみません・・」
明石「だから!・・はぁ、もういい・・本気になった私が馬鹿みたい。良い?他の娘にこんな中途半端な事したら許さないからね?分かった?」
提督「はい!明石さん恥をかかせてすみませんでした!明石さんが魅力に欠けたとかではー」
明石「もういいから!黙る!この話しはお終い!良い?」
提督「は、はい!」
最低な事をしてしまった。でも、今は気持ちを切り替えないと
それをした意味がなくなってしまう
提督「なら、改めてどう言う事ですか?何故外に大井さんが」
明石「見たら分かるでしょ?さっきから殆ど進んでないけど逃げようとしてる」
明石「この事は私だけじゃない西鎮守府の艦娘達もおんぼろ鎮守府の娘達も気付いてる」
提督「西提督さんも気付いていた」
なのに黙っている。みんなも明石さんも
提督「どうして止めないんですか」
明石「止めると言う行為がどれだけの事になるか分かる?」
明石「彼女達は南鎮守府から逃げて来たお尋ね者だってのは知ってるよね?」
提督「それは知ってますけど」
研修生達から大井さん達はそんな事をしないと何か理由があるんだと聞いた
俺もそう思ってる。北上さんとは話してはいないけど大井さんはそんな事をする様な娘には思えない
明石「彼女達が悪い悪くないは関係ないの。あるのは南鎮守府が彼女達を探しているという事」
明石「もし、匿っている事がバレてしまえば・・少なくとも西提督は罪に問われ此処に居られなくなる」
提督「そんな・・」
明石「そうなったら此処にいる娘達は解体されるか使われても酷い扱いを受けるかしかない」
明石「普通の艦娘達の様に扱われるなんて事は絶対にない。なんでか分かる?」
提督「元が野良艦娘だからですよね」
明石「そう、元が野良艦娘ってのは良く思われてなくてね。西提督だから周りは何も言えずにいるけど」
提督「西提督さんが居なくなれば・・」
明石「西鎮守府は確実に崩壊する。下手をすれば西提督を守る為に戦いが起きてしまうかもしれない」
提督「それだけじゃない西提督さんが居なくなれば無人島の娘達もどうなるか・・下手をしたら白紙になる事もある」
いや、また信用を失ってしまったら今度こそ止められない
少なくとも犠牲は出てしまう
明石「今、彼を失うと言う事は艦娘と人間との大きな一歩を無くしてしまう。それを分かってるから大井は北上を連れて此処を去ろうとしてるのよ」
提督「俺達の為に・・」
西提督さんは出て行けなんて絶対に言わない
そうなると分かってても匿う
でも、自ら出て行こうとしてるのを止める事も出来ない・・
今すぐにでも止めて此処に居ろと言いたい筈なのに
みんなを守る為に言えないんだ
他の娘達も分かってても見守る事しか出来ない
凄く辛いだろうな・・
明石「正直言うよ・・私はさ後悔してる。こうなるって分かってて北上を生かしてしまった事を」
提督「それが明石さんの涙の理由なんですね」
北上さんを生かしてしまった事
それが明石さんの後悔なんだ
明石「泣いた事は言わないで欲しいけど・・うん、そう、私が勝手に生かしてしまった。この先辛い運命しかないのに」
提督「でも北上さんは人質として大井さんといるって事になってますから捕まっても大井さんは罰を受けるでしょうが北上さんは酷いことにはー」
明石「ううん、傷を診たから分かったんだけど艤装は殆どなくなってしまっていたけど問題は無理矢理艤装を外しているって事なのよ」
提督「なんだって無理矢理って!」
明石「リンクしてる状態のまま外すなんて凄く痛かっただろうな・・それをもし大井が見たらどうするかな?」
提督「そんなの助けるに・・そうか!」
提督「大井さんは北上さんを助けようと南鎮守府から逃げた!」
北上さんを守る為に一人で南提督に歯向かったんだ
そして追われる事になった
明石「実験か何かだったのかもしれないけど捕まったら何をされるか想像出来ない」
提督「北上さんの傷は見ましたけど・・あの傷は南提督がやったんですね・・」
南提督・・許せねえ!女の子にあんな傷を残すなんて
そう言えば大井さんのおでこにも切り傷を残していたな
どんなゲス野郎なんだ
明石「私はそう思ってる。証拠はないけど・・仮に彼女達が証言しても意味はないけど」
提督「くっ・・」
落ち着け・・今此処で怒ってもどうにもならない
もし、今、目の前に南提督が居たらやばかったけど
今はそうじゃない
今確認したいのは一つだ
これだけの事を知っててそれでも
提督「・・明石さんは助けたいって思うんですよね?」
窓の外の彼女達を見ながら言う
明石「うん、彼女には北上には生かしてしまった責任を取りたい」
明石「今のままじゃ南提督に捕まる前に北上は大井をその手で・・」
《うぁあああああ!!
明石、提督「「っ!」」
外から悲鳴が
窓から大井が叫んでるのが見えた
苦しんでる?
明石「もしかして!北上が!」
提督「何が起こったか分からないけど行こう!」
明石「待って!彼女達に関わると!」
提督「分かってる!西鎮守府が駄目なら!おんぼろ鎮守府として彼女達を助ける!これなら文句ないだろ!」
と言うか明石さんもそれを望んでいるのはもう分かってる
最初から有無も言わさずに決めれば良かったのに
せめて相談して欲しかったよ
明石「提督・・・・」
明石「もう仕方ないな!」ダッ
急いで外へと向かう途中に何人かの西艦娘の娘達が心配そうに見ていた
提督「任せろ!」
明石「あんた達は部屋に戻りな!」
君達は何も見ていない。それを察してみんなが部屋へと戻っていった
それと同時におんぼろ鎮守府のみんなが待っていたかの様に集まってくる
如月「提督!」
まるゆ「私達も!」
不知火「手伝います!」
提督「目立ってどうする!解散!」
如月、まるゆ、不知火「「「っ!」」」ガーーン!
明石「私達に任せな!」
みんな疲れてる筈なのに無茶しやがって!さっさと休め!
二人で大井さんの元へと向かった
北上さんを背負っている大井さんが苦しそうに蹲っている
北上さんは背中にしがみ付いている
提督「大井さん!」
大井「提督・・さん・・うっ!」
北上「うぅ・・・」ギュゥウウウ!
大井「き、北上さん・・うぅ!」
提督「何が起こって」
明石「北上は!起きてるの!」
北上「・・来ないで・・いやぁああ!」ギュゥウウウ!
大井「うぁあああああ!」
提督「ちょっ!北上さん!大井さんが苦しそうだから!なんて力だ!引き剥がせない!」
こんな力でしがみ付かれたら大井さんが潰されちゃう!
提督「おい!北上!離せ!!」
北上「いや・・・・いやいやいや!」シュッ
北上さんの手が俺に
提督「っ!」
明石「あぶない!」
バシッ!
提督「明石さん!俺を庇って・・」
明石「う・うぅ・・中々良い一発ね・・こっちは大丈夫だから!」
提督「くっ!」
何が大丈夫だ血が出ているのに・・
でも、北上さんはまるで艤装を展開してると言っても良いくらいの力はあるんじゃないか?
艤装は展開されてないのにどうして
明石「それより北上は悪夢にうなされているの!無理に起こしてはだめ!」
明石「あんたの馬鹿みたいな幻想を!なんでも良いから聞かせてあげて!」
提督「分かった!」
幻想か・・・そんな事今まで言った事ないぞ?
明石「お願いね・・」 バタッ
提督「っ!」
明石さん・・一発でノックアウト
俺が当たったらどうなるか
いや、そんなのは関係ない!
幻想なんて言われても分からないけど俺は俺の思った事を伝える!
提督「北上さん!もう大丈夫だから!誰も君を虐めたりなんかしない!」
大井「うぅ・・提督・・さん」
北上「っ!!」ギュゥウウウ!
提督「俺が守るから君も大井さんも必ず守るから!」
大井「うぁあああ・・北上さん!」
提督「大井さんが苦しんでるよ?そろそろ離してあげてくれないか?」
北上「うぅ・・うう!」ギュゥウ
提督「南提督の事は聞いたよ・・怖かったよね?でも、もう大丈夫だよ。もうあんな目には合わせないから」
北上「う・・・うぅ・・」ギュゥ
提督「約束する・・南提督はこの手で・・・」
提督「この手で・・」
俺がどうにか出来る相手ではないよな・・
まぁ、でも・・
提督「髪の毛むしるくらいはやってみるからさ」ナデナデ
北上「・・・・っ」ギュッ
提督「いてっ!」
太もも辺りをつねられた・・
北上「すぅーーーー」
それで満足したのか大人しく眠ってくれたようだ
提督「やっと収まったか・・」ナデナデ
可愛い寝顔しやがって・・痛かったぞ
大井「どうして・・・・」
提督「いてて、つねられたところから少し血が」
いや、少しどころじゃないな血が滝みたいになってる・・つねられたところが浅くて良かった
少し足がふらつくけど立てるな
提督「さぁ、戻りましょう歩けますか?」北上抱え
明石さんは・・まぁ、明石さんだから大丈夫だろう
後で回収するので待っててください
大井「待って!自分が何をしたか分かってるの!」
提督「分かってますよ・・西鎮守府を巻き込むつもりはないですから安心してください」
大井「っ!何を言ってるの!研修生の貴方に何が出来るんですか!また、自分を犠牲にすれば良いと思っているんですか!いいですか?今回ばかりは駄目なんです!下手をすれば貴方が司令官になれる未来もなくなってしまうんですよ!」
提督「・・・・・・」
大井「貴方達にはもう十分助けてもらいました。感謝していますありがとうございます」
提督「・・・・・・」
大井「本当ならこれからの貴方達研修生の成長を見たかったけど・・」
提督「なら見れば良いじゃないか」
大井「簡単に言わないでください!」
提督「諦めてんじゃねえよ!」
大井「っ!うるさい!何も知らない癖に!もうほっておいてください・・迷惑なんですよ!」
提督「そっちこそ何も知らない癖に!却下だ馬鹿野郎!」
大井「なっ!」
これ以上話しても意味はない大井さんを無視して歩く
北上さんはこっちの手にあるし来るだろう
大井「ちょっと!おーーい!」
あ、でも、これだけ言っておこう
提督「俺は一度でも自分が犠牲になればなんて思った事はないですから勘違いしないでください」
提督「俺は此処で終わる気はないですから」
そう言ってまた歩きだす
これだけは勘違いさせたままなのは嫌だから
大井「・・・・・・」
大井「もう・・研修生の癖に何カッコつけてんのよ」
大井「信じても良いのかな・・」ボソッ
歩いて行く提督の背を見ながら呟くのだった
提督「もうこっちも覚悟決めてんだよ・・くそが」
こんなに良い娘達に南提督は!
怒りでどうにかなってしまいそうなのを抑える
北上を抱えて少し後ろを大井さんが着いて来るのを確認しつつ医務室へと向かうのだった
川内「ふ〜ん・・どうやら言った通りになりそうだね神通」
神通「・・・・・・」
川内「西提督も気付いたと思うし動くしかないよね」
こっそりと提督を見つつ何処か嬉しそうに呟くのだった
まだ、夜は続く
それから少し時間が経ち
ー西鎮守府医務室ー
夕張「ほぉ〜ら大人しくしようね」口押さえ
大井「っーーー!(提督さん助けて!)」プルプル
提督「ん〜・・こうならどうだろうか?」書き書き
大井「ーーーーーーっ!(提督さん!)」手を伸ばし
夕張「おっと!集中してんだから邪魔したらダメだよ?」ガシッ
大井「っ!」
夕張「しーーだよ?」
大井「っ・・・・・」ウルウル
夕張「よしよし、良い子だね〜ご褒美!だよ!!」注射器
チクッ
張り紙【おんぼろ鎮守府第二出張所(西鎮守府とは全く関係ありません)おんぼろ鎮守府の者以外の入室を禁ずる】
提督「これで良いだろう」ペタペタ
医務室の前に張り紙を貼る事で西艦娘達も西提督さんも入れないし西鎮守府とは関係ない事も書いたから万が一があっても大丈夫
だって此処はおんぼろ鎮守府第二出張所だから!
俺って天才だな
夕張「ふぅ・・提督、とりあえずは北上さんも明石も大丈夫だよ」
夕張「大井さんの方もさっきまでぶつぶつ言ってたから黙らせー、じゃなくて疲れて眠ったから当分は起きないと思うよ」
提督「そうですか良かった。夕張さんすみません疲れてるとは思ったんだけど助かりました」
大井さん安らかに眠っている
信じてくれたのかな?
スカートが大胆にめくれてるのは信用の証なのか?
夕張「ううん、こっちこそ明石の願いを聞いてくれてありがとう。凄く気にしてたから」
夕張「それで足は大丈夫?」
提督「ええ、何とか歩けますし明石さん回収と治療ありがとうございます。寝てるところを起こすのは駄目だと分かっていたんだけど今は夕張さんしか頼れる人がいなかったから」
おんぼろ鎮守府だけでどうにかしないと西鎮守府には頼れない
夕張「ううん、気にしないで、夜這いかと思ったけど」
提督「ちょっ!俺はそんな事」
夕張「ふふ、少し期待してたんだよ?」
提督「からかわないでください!」
夕張「ふふ・・ごめんねお姉さん久しぶりに提督と話せた気がして舞い上がってたよ」
提督「たく・・そう言われて悪くはないですけど」
夕張「ちゃんと言えてなかったね。お帰りなさい提督」
提督「うん、ただいま夕張さん。って言ってもまだ西鎮守府ですけどね」
夕張「帰る場所は場所であって場所ではない。私にとっての帰る場所は提督なんだよ?」
提督「夕張さん・・うん、俺も夕張さんや明石さん如月達がいる場所が帰る場所だと思ってますよ」
夕張「・・・・・・」
提督「夕張さん?」
なんでそんな泣きそうな目を・・
夕張「そう思ってくれるなら安易に私達の帰る場所を無くすような事はしないでね?心配したんだからね?」
提督「すみません。でも、安易にはー」
夕張「分かってる!分かってんだよ!安易じゃないから厄介なんだよ!と言うか問題はそこじゃない!」
夕張「もう貴方の道を着いて行くって決めたんだから・・背中が常に見える場所で歩いて・・じゃないと迷うから・・もう迷いたくないから・・」
提督「・・・・・・」
夕張「ごめんね。ちょっと感情的になっちゃった」
提督「夕張さん・・俺はみんなの居場所を守るから夕張さんを一人にはさせないから・・だから!背中じゃなくて一緒に隣を歩いてください」
提督「じゃないとすぐに転けてしまうんで」
一人じゃ何も出来ません
提督「支えてください」
貴女の手で
提督「俺は貴女を支えますから」
俺の手で
それがきっと艦娘と人間とのあるべき姿だと思うから
夕張「・・少し見ない間にかっこよくなっちゃって。本当に夜這いされても良かったかもね」
提督「夕張さんそう言う冗談は」
夕張「冗談だと思う?」
提督「え?」
夕張「試してみる?」
提督「・・・本気ですか?」
貴女もなんですか・・俺は最低な人間なんですよ?
艦娘だから・・元艦娘だからって・・
夕張「・・・・・・」
提督「・・・・・・」
夕張「ふふ、今はやめておくかな?その気があるならデートでも誘ってね?」
夕張「まぁ、その時は覚悟していてよね?なんせ元艦娘ですから。動き出した時間の責任はとってね?」
それって・・そう言う事なんだよね?
まだ、その答えは今の俺には出せないや・・
でも、今答えを出さなかったことに安心している自分もいた
また、逃げたのか俺は・・
提督「っ・・・・・」
夕張「ふふふ」
提督「・・・まだ、勝てませんね夕張さんには」
夕張「人生経験が違うからね?あ、でも、歳について触れると怒るから」
提督「夕張さん歳はいくつですか?」
夕張「おい、こら」
提督「ははは、っ、いてて、まだ足が痛みますね」
歩けない程ではないけど当分は風呂に入る時が大変そうだ
夕張「浅いけど抉れてたからね痛いと思うけど北上さんも悪気があってやったんじゃないって事だけは分かってあげてね?本人は軽くつねったつもりだと思うし」
提督「あれで軽くですか・・夕張さんは知っているんですか?」
夕張「ん?知っているとは?」
提督「明石さんは何かを言おうとしていた。でも、今は聞けない。夕張さんは何か知っているんじゃないんですか?」
提督「明石さんが本当に北上さんをそのままに出来ない理由は北上さんの力と関係している違いますか?」
夕張「・・・・・・」
提督「南鎮守府の事もあるのは分かります。でも、明石さんの言い方はそれよりも重要な事があるように言ってました。それが力の事なら納得出来るんです」
提督「あれは北上さんの今後の生活に大きく関わる・・もう少し遅かったら大井さんは北上さんの手で・・」
そうなったら北上さんは正気でいられるのだろうか?
いや、もうそうなったら手遅れだった
間に合って良かった
夕張「う〜ん、言って良いのかな・・」
提督「知っているなら教えてください。お願いします」
夕張「・・そうだね。此処まで来たら言わないと駄目だよね。明石も多分言うつもりだったと思うし」
夕張「うん、提督の言う通りだよ北上さんの力・・と言うより障害が明石の一番の理由だよ」
提督「障害?」
夕張「提督は艦機能障害って知ってる?」
提督「いえ、知りません。そんな名称初めて聞きました」
夕張「やっぱり知らないよね?普通はそうだよ。艦機能障害はね艦娘としての本来の力を持たない娘をそう呼んでるの」
提督「北上さんがそうだと?」
夕張「うん、北上さんの場合は艦娘としても人としても生きるには難しい状態になってしまっているの」
提督「それがあの力の暴走ですか」
夕張「あれは暴走じゃないんだよ」
提督「え?違うんですか」
夕張「説明すると艦娘と艤装の関係から話さないといけないけど」
提督「お願いします」
夕張「分かった。艦娘って艤装を展開すると人間とは比べ物にならないくらいの力を発揮するよね?」
提督「はい、艤装を展開すれば鉄の棒なんて簡単に折ってしまうでしょうね」
それこそ本気で抱きしめられたら全身の骨がバキバキになってしまうだろうな・・
夕張「此処で問題です。その力は何処から来てるでしょうか?」
提督「え?艤装を展開したら力が出るんだから艤装からですよね?」
夕張「そうなると北上さんは艤装展開していなかったのにどうしてあんなに力が強かったのかな?ってなるよ?」
夕張「まさか北上さんはゴリラとか言わないよね?」
提督「言いませんし思ってもいませんでしたよ」
夕張「ふふ、なら良かった。艦娘としての力は私達自身にあるんだよ。艤装じゃないんだよ」
提督「なら、艤装は何故?」
夕張「まず、前提として聞いて欲しいんだけど、艦娘は自分の力を自分自身で使う事は出来ない」
夕張「例外はあるけど」ボソッ
提督「え?力はあるのに使えないって」
夕張「ざっくり言うと私達の中にある力の源が力を出してそれが私達の中に良い具合に充満する事で力を発揮出来るんだけど制御が出来ないから艤装がやってくれているってわけ」
夕張「分かった?」
提督「本当にざっくりだな・・」
夕張「詳しく言うから大丈夫」
夕張「提督の為に例えで教えてあげるね」
提督「例え?」
そう言うと近くのホワイトボードに何かを書き始めた
夕張「あれ?出ない?」
インクが出ないのか四苦八苦しているがやがてインクの出るペン(油性)を見つけ書き始めた
【力の源】→【窯】
【力】→【窯の火】
【艦娘】→【部屋】
【艤装】→【おっちゃん(派遣)】
提督「・・・・・・」
なんか派遣社員がいるんだけど・・
夕張「以上の例えを見ながら聞いてね?左が本当で右が例えね」
派遣社員が例えられた・・
夕張「部屋の中には窯があって常に燃えてるの」
夕張「でも、危ないから普段は窯は蓋を閉めてる何故か?常に燃えてるわけで中には火があるから開けてると窯から火が出てきて部屋を火でいっぱいにするの」
夕張「その部屋が火でいっぱい状態なのが艦娘で言う戦闘状態なの」
夕張「逆に窯の蓋を閉めて火を出ない様にしてる状態が艦娘で言う普通の状態」
夕張「でも、閉めていても中で火は燃え続けているから多少火は出なくても熱エネルギーは出るから普通状態でも普通の人間よりは身体能力が高い」
夕張「ここまでは良い?」
提督「えっとつまり、艦娘の力の源から力が出て身体を巡ってる状態が艤装展開状態で出てない状態が普通の状態って事かな?」
夕張「火は燃えてるから蓋を閉めてても?」
提督「あ、出てない状態でも多少の力の漏れはあってそれが普通の人より身体能力が高い理由だと言うことですよね?」
夕張「うん、正解!」
提督「でも、艤装が出てきてませんね」
夕張「焦らないで次はおっちゃん出てくるからね?おっちゃんの説明始めるからね?」
提督「そこは艤装って言おうよ・・」
夕張「では、いざ蓋が閉まっている時誰が開けるのか?部屋?窯?窯の火?」
夕張「違います!おっちゃんです!」
提督「艤装が力を開放するって事ですね」
夕張「そう、おっちゃんが窯の蓋の開け閉めをしてくれてついでに火が大好きだから部屋に充満させるとはしゃいで力をどんぱちします」
提督「おっちゃん・・」
夕張「これが、艤装展開された艤装の主砲などを使っている状態」
提督「つまり艤装自身も開放した力を使って撃ったり走行出来たり出来ると」
そうなると燃料とか弾薬っているのか?それとはまた違うって事かな?
夕張「そう、でも、このおっちゃんはしゃぎながらちゃんと火の調整をしてるの」
提督「調整?」
夕張「火を部屋に充満させるって言っても限度があるでしょ?キャパシティを超えても火を出し続けると部屋が壊れちゃうからね」
夕張「今の部屋にあった火の量を出してくれるの」
提督「それって毎回必要な力の量が変わってるって事?」
夕張「うん、そうだよ。だって部屋は成長するから」
提督「ん?ああ、艦娘の事だったよね?」
なんか例え要らないような・・
余計分かりにくくないか?
夕張「練度が上がれば部屋が大きくなって火もたくさん出るようになるの。そうすればそれだけ強くなるって事」
提督「つまり、練度に合わせた力を艤装は調整して引き出してくれているって事ですね」
夕張「そう!!」
テイション高いな・・
でも、そうなると艦娘達は元から力をMAXまで持ってるけど練度を上げる事で本来の力を取り戻してると言った方が近いかもしれない
だって、窯はもうその火力を出せる状態で部屋が狭いから調整しないといけないだけで
だとするなら・・練度がMAXになった時彼女達に艤装は必要なのか?
練度って必要なのか?
元から持ってる力をなんで制約する必要があるんだ?
これじゃあ、まるで人間を・・・
夕張「提督どうしたの?難しい顔して・・難し過ぎて頭壊れた?」
提督「壊れてないですよ正常です。それよりなんかテイション高くないですか?」
夕張「いやね?明石にいつも言われてたのお前の説明は分からんって、だから理解してくれるのが嬉しくて嬉しく」
提督「はは、確かにおっちゃんを例えに出されたのは初めてでしたから少し困惑しますけど、分かりやすいですよ続きお願いします」
夕張「おお、お姉さん少し、いやかなり君にドキリと来たよ!呼び捨てで呼んで」
提督「続きをお願いします!夕張さん!」
俺はヘタレだよ!
夕張「はい!」
夕張「それからおっちゃんはちゃんと使った後の窯の後片付けもしてくれるから」
提督「艤装展開解除もしてくれると」
夕張「うんうん、で、また必要な時におっちゃんが来て」
提督「力を開放してくれると」
夕張「これが普通の艦娘の状態ってところかな?」
夕張「で、次が本題なんだけど北上さんの事ね」
提督「はい」
夕張「分かっての通りまずおっちゃんがいない」
提督「なかったですね艤装」
夕張「おっちゃん引き継ぎも出来ずにリストラになって・・これだから派遣は」
提督「正規の艤装の外し方をしていないって事ですね」
夕張「私さ・・本気で提督と結婚考えても良いよ」
提督「続きをお願いします」
夕張「・・・・うん」
夕張「でもね?運が良かったんだよね北上さんは」
提督「どう言う意味ですか?」
夕張「調べたから分かったんだけどおっちゃんが、いえ、艤装が無理矢理外されたのはそうなんだけどその後に誰かが艤装を展開できない様にしてくれていたと思うんだ」
夕張「その時にね?窯の蓋が閉まってくれたの」
夕張「でも・・多分無理矢理リストラしたおっちゃんを呼び出しちゃったんだろうね・・今更なんだって話で」
提督「無理矢理ないはずの艤装を展開した」
夕張「怒ったおっちゃんが窯に蹴りを入れておっちゃんは窯の蓋と共に吹っ飛んだ」
提督「えっと艤装が力の源を壊した?」
夕張「・・・・・・・」
提督「いや、違う・・艤装が完全になくなって開放状態のままで閉じられなくなった」
夕張「新婚旅行何処がいい?」
提督「そろそろ落ち着きましょうよ夕張さん」
夕張「・・うん、ごめん。つい嬉しくて」
提督「まぁ、その・・今度食事くらいは行きましょう」
夕張「うん、楽しみにしてるね」
提督「はい」
夕張「さっき言った事覚えてるのかな?」ボソッ
提督「夕張さん?」
夕張「ごめん何でもないよ?それで続きなんだけど、窯の蓋が吹っ飛んだから閉める事は出来ないし閉めるおっちゃんもいない」
夕張「火は調整もされずやりたい放題に出てそれは部屋を内側から壊す程の勢いがあったと思う」
夕張「あと少し明石の処置が遅かったら内部爆発してたと思う」
提督「艤装がないとそんな事になるなんて・・」
夕張「でね・・明石は迷ったと思うんだ助けるべきか人思いに殺すべきか」
夕張「それで助ける道を・・ううん、苦しい道を選ばしちゃったんだ」
夕張「ごめん言い直すね。明石はね?助ける(殺す)か、苦しむ(生かす)道かを迷ったんだよ」
提督「・・・・・・」
夕張「多分だよ?これは本人に聞かないと分からないけど・・」
提督「ん?」
夕張「提督が居たから苦しむ道を選んでしまったんじゃないかな?って責めてるわけじゃないんだよ?信用して言ったんだよ?」
提督「・・かもしれませんね」
提督「でも、選んだのは明石さん自身です。明石さんの強さがそれを選んだんですよ」
夕張「・・・・・・・」
夕張「・・やっぱり提督は良い男だよ。明石が気に入るのも分かる」
提督「ただのヘタレですよ」
夕張「うん、ヘタレだけどヘタレじゃない・・好きだよ私」
提督「ありがと」
夕張「うん」
提督「でも、今は説明をお願いします。北上さんはどうなったんですか?」
夕張「あ、ごめんね?北上さんの窯は一定の火の量を出すようにする事で閉じなくても閉じられなくても火によって自身の力で死ぬ事はなくなったんだよ」
夕張「でも、もう・・調整してくれるおっちゃんもいない」
提督「もしかしてその調整って」
夕張「あらゆる力の調整をしてくれなくなってるの」
夕張「艤装展開でもね?私がもしまだ現役の艦娘で提督を艤装展開状態で力強く抱きしめたとしたらどうなると思う」
提督「背骨がバキバキにー」
夕張「ならないよ」ダキッ
提督「っ!」
いきなり抱きしめられた
柔らかいこの感触と女の子特有の香りが・・たまらん!
提督「あ、あの夕張さん?」
夕張「こうなるんだよ?」
提督「え?」
夕張「艤装はね感情にも反応してくれて好きな人大切な人とかにはね全力で抱きしめてもこの力なんだよ」
夕張「電ちゃんが艤装展開状態で殴りかかってきても何時もの普通の状態と変わらない力になるって事だよ」
夕張「逆にムカつく奴とかなら全力で抱きしめたら背骨どころの話しじゃなくなるけどね」
ドキドキで何も耳にはいらない・・
提督「あ、あの夕張さん・・・・」
夕張「あ、ごめんね離れるね」
提督「え?あ、はい」
それでも・・もうちょっとぐらい良かったかもな・・
夕張「北上さんは艤装展開状態と変わらない力を持って解除も出来ないし力も調整出来ないから」
夕張「悪夢にうなされて咄嗟に大井さんを抱きしめた」
夕張「それだけなんだよ今回の事は」
夕張「本人からしたらあんな事をするつもりはなかったし提督を傷つけるつもりもなかった」
夕張「悲しいよね・・大切な人をその手で抱きしめる事も出来なくなってしまったんだよ」
夕張「相手が人間なら触れる事も怖いよね・・」
提督「・・・・・・・」
俺には想像出来ない苦しみなんだろうな・・
夕張「これが今の北上さんに起こってる事だよ。そして明石は・・」
夕張「その手でたくさんの人を傷つけた・・北上さんと同じ障害で」
提督「え?」
夕張「明石もそうなんだよ。ずっと前に艤装を正規の方法で外さずにね。それからたくさん苦しんだんだよ」
夕張「死のうとも考えたらしい・・でも、生きた。生きてたくさん苦労してね。やり遂げたんだよ」
夕張「自分で制御するって方法をね」
提督「明石さんにそんな過去があったなんて・・」
だからなんだね・・その苦労が苦しみを
誰よりも知ってる自分が選ばせてしまった事に
後悔してまた苦しんで
俺に助けを求めたんだ
夕張「話せるのはここまでだよ。後は明石から話してくれるのを待ってあげてきっと近い未来話してくれるかもしれないから
提督「はい、俺はそれまで待ちます」
そして俺のするべき事が完全に決まった
選ばせて後悔させてしまっている
それをその後悔を越えようとしている
なら俺は
全力で北上さんを大井さんを助ける!
その抱きしめる力を取り戻してあげたい
提督「明石さんには北上さんに教えてやらないとな」
夕張「部屋でも窯を調整出来るってね」
北上さんが北上さん自身で力を使えるように力になろう!
提督「あぁ!」
その時ドアが開く!
川内「なにしてんのさ・・」
提督「誰だ!此処はおんぼろ鎮守府第二出張ー」
川内「西鎮守府だから馬鹿なの!こんな張り紙して!」
提督「西鎮守府は関わらないでください」
川内「もう遅い!完全に関わってるから君の所為でこっちも大変なんだから」
提督「だからこれ以上」
川内「もうこうなったら向こうが来る前にこっちから行くしかないんだよね」
提督「えっと・・行ってらっしゃい?」
川内「君も行くの!」
提督「え?」
川内「準備して日が昇る前には出るよ」
提督「何処に?ドライブ?悪いけど今それどころではー」
川内「もう!南鎮守府!行くんでしょ?」
提督「っ!」
川内「助けてくれるんでしょ?大井も北上も・・西鎮守府も」
提督「当たり前だろ」
川内「なら、これからドライブに行かない?途中コンビニくらいなら寄るけど?」
提督「その誘い喜んで」
突然現れた謎の少女
彼女に着いて行く事が助ける道になるのかは分からないけど・・
提督「行きましょう」
川内「うん、良い目だね」
提督「君こそね」
その瞳の輝きに賭けてみようと思う
闇の奥から見えるその光に
川内「へぇ・・良いね君!」
提督「・・・・・・・」
まだまだ夜は続きそうだ
夕張「置いてけぼりか・・・でも、そうだね・・私は私の出来ることをするからお願いね」
夕張「提督さん」
謎の少女に連れられ食堂へと向かった
お腹が空いたのだろうか?
仕方ない
提督「久しぶりにやるか」
厨房へと足を運ぶ
川内「さてと、ってどこ行くの」
提督「え?厨房ですよ?誰もいませんし簡単なものなら作りますよ」
白米と卵があれば得意料理の卵かけご飯が出来るんだけど・・
提督「ご飯がないか・・」
正確にはあるが水に浸かった炊けてない米で朝になると炊き始めるようになっている
万策尽きたか・・
カップ麺とかは・・いっぱいあるな!
どの味が良いのかな?
提督「今作りますから」カップ麺(マヨコーラエクストラバージンオイル味)袋開け中
川内「いや、そんなの要らないから座りなよ」
提督「え?でも、誰もいませんよ?」カップ麺(マヨコーラエクストラバージンオイル味)お湯入れ中
川内「別にお腹空いてるから来たわけじゃないの!ちょっと話しがあるから」
提督「あ、そうなんですか」カップ麺(マヨコーラ以下略)蓋閉め
川内「大体こんな夜中食べるのは身体によくないよ?」
提督「はい、気をつけます」
川内「よろしい」
提督「では、話しとは?」
川内「確認だよ」
提督「確認?」
川内「さっきは半分強制的に連れて行くような感じに言ってしまったけど強制じゃないんだよ?」
提督「それって・・」
川内「どう?頭冷えた?」
提督「っ・・どう言う意味ですか」
川内「場の雰囲気やその時の勢いで言ってしまう事はあるよね?」
提督「・・俺がそうだと言いたいんですか?」
それは覚悟もないまま簡単な気持ちで行こうとしてると思われていると言う事だ
提督「馬鹿にしないでもらえますか!俺は本当に!」
川内「だったら声を荒げないで私の目を見て言ってくれる?言ったでしょ?私がしたいのは確認だって」
川内「もし此処で行かないを選択しても誰も責めない。私も何も思わない」
川内「君は・・本当に戦う覚悟があるの?人間とそして艦娘と」
川内「味方同士戦う事を本当に覚悟してるんだね?」
提督「っ・・・・・・・」
そう言われてしまうと改めて自分のしようとしている事が大変な事なんだと気付く
そうだ。俺は味方である人を相手に・・南鎮守府の艦娘達も含めて
戦う事になるかもしれない道を進もうとしてる
彼女はそれを本当に知った上で聞いてくれてるんだ
馬鹿にされてたわけじゃない
彼女の最後の警告であり優しさなんだ
川内「・・・・・・・」
提督「ありますよ・・」
川内「仲間同士で血を見る事になっても?」
提督「っ・・それは」
提督「でも、守る為ならしなきゃいけない覚悟なんだってのも分かってます」
川内「分かってても出来なかったらそれは腐ってしまった覚悟・・まだ知らない方がマシだよ」
提督「そうですけど・・」
川内「で?本当は?」
提督「っ・・・・」
川内「うん、もう良いよ。疲れたよね?休んで?研修終わらせて君は君の鎮守府を守れば良い」
提督「ま、待ってください」
川内「話に付き合ってくれてありがとね?・・じゃあね」
そう言って去って行く彼女の背を見て
俺の覚悟はそんなものなんだって・・
いや、行きたい!何が出来るか分からないけど!
俺は!
提督「待ってください!」
立ち止まる彼女は無言のまま振り返らない
本当ならもう遅い筈なのにチャンスをくれている
優しい娘だ
提督「俺も連れて行ってください」
川内「・・・・・・」
何も言わない。でも、彼女の足は止まっている
今生半可な事を言えば足は動き出し、もう止まってくれないだろう
提督「嘘を言っても貴女は見抜くから本音を言いますよ」
でも、そんな生半可で甘々な考えが俺なんだ
提督「怖いですよ。ちびりそうですし、殴り合いになったら負ける自信もあります」
提督「大事な場面で悩んだり、向けた銃はきっと撃てない・・」
提督「敵も味方もみんなが手を取り合って仲良く出来ればって思ってます。そんなあまちゃんなんですよ俺は」
川内「・・・・・・」
提督「大切な人を場所を守る為に行くのは分かってます。それは俺も同じですから・・」
提督「でも、俺は血も争いも見たくない・・見る覚悟なんてないですよ」
もう、涙も血も斬るのは嫌だから・・
だから、そんな光景は無くしてやる!
提督「これが俺の本当の気持ちです」
覚悟なんてない方が良いんだ
それだけ耐えなければいけないんだから
川内「君は・・・・」
振り返り彼女が目が真っ直ぐとこちらを見つめる
提督「俺も行きますから」
川内「今言った事に偽りは?」
提督「ないです」
川内「覚悟はなくても見ないといけない場面があるかもしれないよ?」
提督「でも、逃げたりはしません向き合いますから」
向き合って・・そして奴の毛を引きちぎる
北上さんとの約束だ
川内「それを覚悟と言うんじゃ?」
提督「いえ、誓いです」
川内「誓い?」
提督「はい、俺の為に生き抜いてくれた彼女達との誓いです」
我慢でも耐えるわけでもない
俺が俺である証になるから
川内「やっぱり良い目してる。成る程、西提督が気に入ってるわけだよ。彼のど真ん中ストライクじゃん」
川内「でも、だからなんだろうな・・妹も彼だからあんなに楽しそうに夢を追えたんだ」
川内「もう一度立ち上がる事が出来たんだ・・」
提督「お願いです。君と一緒に」
川内「川内」
提督「え?」
川内「私の名前、川内だから覚えておいてね?遅くなったけど、あの時はありがとね?」
提督「あの時って・・え?初対面ですよね?」
川内「ううん、違うよ。でも、直接話した事ないけどね」
川内(君が那珂を支えてくれていたのは見ていたから)
提督「う〜ん、そう言われると何処かで会ったような・・」
川内「また、会ってあげてね?」
提督「え、あ、はい」
誰に?
川内「じゃあ、行こうか今度こそ」
提督「っ!はい!」
川内「なら、準備してきて成功しても失敗しても西鎮守府には当分の間は来れないと思ってね?」
提督「え?なんでですか?」
川内「西鎮守府が関係してるってバレるよ?」
提督「あ、それは困りますね。なら、もう帰る支度する勢いでしてきます」
研修は途中でサボる事になるけどごめんなさい
川内「うん、立つ鳥跡を濁さずだね」
提督「はい、これが終わったらおんぼろ鎮守府に帰ってからハゲに研修レポートを投げ渡してさっさと帰っ・・・」
そう言えばレポート書いてない・・
提督「やば」
川内「どうしたの?」
提督「レポート書いてなかった・・」
書かないと・・ハゲがグチグチ言う・・それだけ長くハゲと同じ空気を吸わないといけない
絶対にやだ
さっさと渡してさっさと帰っていただくには・・
提督「あ、あのさ、一時間くらい時間くれないかな?」
川内「え?一時間も?ん〜分かったけど一時間だからね?」
提督「うん!ありがとうーー!」ダッ
レポートを一時間で書いてやる!
一日目から色々と思い出さないとな
川内「準備に一時間も掛かる程荷物が多いのかな?」
川内「ん?」
《カップ麺(マヨコーラエクストラバージンオイル味)》
川内「・・・・・・」
その後、レポートを書き終えて眠っている研修生達の枕元にモンエナを置いてモンエナ式お別れ会をして川内さんの所へと行った
川内さんからご馳走様と言われたがなんだったのだろうか?
ー研修生部屋ー
提督が部屋を出た直後
金髪「・・みんな起きてるか」モンエナ
メガネ「うん、起きてる」モンエナ
黒髪「こんなにモンエナいらないから・・提督は」大量のモンエナ
黒髪「・・・・・・」ゴクゴク
金髪「ん?黒髪、先輩呼びじゃなかったか?」
メガネ「お付き合いおめでとう」
黒髪「違うから色々あったの」
金髪「色々ね〜」ニヤニヤ
メガネ「キスはしたかい?」
黒髪「殴るよ?なんなら!魚雷出そうか!」
黒髪「ふぅ・・気合い入れよ」ゴクゴク
金髪「やめろよ?マジで出そうとするなよ?」
メガネ「本当に出るのかい?気になるな!頑張れー!」
黒髪「ふぬぬぬぬぬ!」
金髪「ちょっ!マジでやるなって!お前ら今はそんな事してる暇じゃないだろ大将の事!」
黒髪「あ・・・」
メガネ「うむ、提督さんはこのまま行くつもりなのだろうか」
金髪「だろうな・・だからって俺達は連れて行ってもらえないだろうな」
黒髪「良いのかな・・全部任せちゃって」
黒髪「げふ・・」ゴクゴク
メガネ「北上さん達を助けると約束したのは僕達だ・・本当なら僕達がどうにか出来れば良いけど研修生じゃ何も出来ない」
金髪「それを言うなら大将もそうだろ?研修生だからってのは言い訳だ」
メガネ「そうだね。ごめん」
金髪「謝んなよ。そう言ってないと腹が立って仕方ないってのはある・・何も出来ない自分にな」
黒髪「ねぇ、行かない?研修はサボる事になるかもしれないけど・・ペナルティだって研修生だし学校側と西提督さんからお説教と宿題が増えるくらいだと思うし」
黒髪「このまま眠れずに朝を迎えて後悔を残したまま研修を終えてもスッキリしないよ」
金髪「サボりか・・」
黒髪「うぅ・・」ゴクゴク
メガネ「うむ・・」
黒髪「ダメかな?」
金髪「俺さ」
メガネ「僕さ」
金髪、メガネ「「友達とサボるって憧れだったんだよな」」
黒髪「っ!なら、サボろうよ!サボっちゃおう!イェーイ!」
金髪「よし!こうしちゃいられねえ!お前ら準備しー」
黒髪「もう出来てる」制服
メガネ「ちょっと待ってね」制服
数十個ある眼鏡から一つを取り出し装着
メガネ「完了だ」
黒髪「くぅ〜〜」ゴクゴク
金髪「お前ら・・準備した状態で布団に入ってたのかよ」制服
メガネ「そう言う金髪だって制服がシワだらけだよ」
金髪「お前こそ・・あれ?シワなくね?」
メガネ「ふっ、修行が足りないね」
金髪「どんな修行だよ!でも、凄いな・・」
黒髪「はぁ〜〜」ゴクゴク
黒髪「ねぇねぇ!金髪金髪!」グイグイ
金髪「引っ張るなって何だ?」
黒髪「スカートで布団に入ると布団の中でスカート全開だからね。ふふ〜」
金髪「おい、そんな情報はいらん。てか、さっきから異常にテイション高くないか?おかしいぞ?ん?空き缶?」
黒髪「おかしくないし」モンエナゴクゴク
黒髪の足元にモンエナの空き缶が数個ある
そう言えばさっきからゴクゴク聞こえてきてたけど全部黒髪だったのか!
金髪「馬鹿!飲み過ぎだ!」
黒髪「ほらほら、飲め〜」ガシッ
メガネ「ぼ、僕は炭酸はゆっくりと飲む派でー」ゴクゴク
黒髪「ほれほれーー!」押し込み
シュワァアアア!
メガネ「うううう!」
黒髪「もう一本!」カシュ
金髪「今何処から出した!てか、もうやめろ!」ダッ
シュワァアアアアアア!
メガネ「うわぁあああ!」眼鏡バリーーン
金髪「メガネ!」
馬鹿野郎!もう黒髪だけど馬鹿野郎!メガネは炭酸は弱いからゆっくり飲まないとダメなのに!
金髪「もう飲むな!そう言うのは一日一本だ!」ガシッ
黒髪「離せーー!メガネがもっと飲むって」ドボドボ
メガネ「」ダラダラ
金髪「飲んでねえよ!口に当たって流れてるだけだから!」
黒髪「お前にメガネの何が分かる!お前にメガネが救えるか!」
金髪「今救ってんだよ!ああ!お前いい加減にしろ!」ゴツン
黒髪「いたっ!んん!今のは痛かったよ!ふぬぬぬぬ!」
黒髪「ふぬ!」チビチビ魚雷(モンエナ塗装)
金髪「あ!出すのモンエナだけにしろよ!」
メガネ「」
黒髪「女の子に手を出したらいけないんだから!」シュッ
金髪「伏せろ!!」メガネに覆い被さる
メガネ「汗臭い・・・」
金髪「総員対爆防御!!」
ドカーーーーン!!
提督が出発してから数分後西鎮守府の研修生部屋辺りで小さな爆発が起こった
規模はドアが外れるくらいで部屋はちょっと壊れたくらいだった
巻き込まれたと思われる三人の研修生は奇跡的に軽症だったが、念の為に三日間の入院をさせられてしまい研修を病院で終える事になったのだった
ー病室ー
朝潮「角度気に入りません・・やり直しです」花瓶の花取り替え中
阿武隈「ええ・・・もう52回目だよ・・」
西提督「此処に研修を終えた事を証明する。おめでとう・・本当におめでとう!」
金髪、メガネ、黒髪「「「すみませんでした」」」
こうして研修生達の研修は終わった
大切な友達を見つけて
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーー
ーーー
ー車内ー
提督「・・・・・」
川内「あ、そこ左」
運転手「はい・・・」
運転手「・・・・・」チラッ
提督「ん?」ニコッ
運転手「・・・・・」プイッ
提督「・・そんな逸らさなくても」ガーン
てか、誰?
謎の運転手それは一体
車を走らせて少しが経つ
南鎮守府へと向かっているとは思うけど暗くて何処を走っているかも分からない
まぁ、昼間でも分からないと思うけど
川内さんと謎の運転手と共にこれからどうするのか・・
それも今は分からない
これからの事を考えるので不安で仕方がない
そんな中
運転手「・・・・・・」チラッ
提督「・・・・・」チラッ
運転手「・・・・・・」プイッ
提督「・・・・・・」
なんだ?さっきから見られてる?
何か視線を感じてしまう
ちなみに車は八人乗りの普通自動車(ヴェルファイア)で運転手は運転席で川内さんが助手席に座って後ろ席を俺が座っている状態だが、広く軽トラとは大違いで特に座り心地が最高だ
とっ、それは良いとして問題は・・
運転手「・・・・・・」チラッ
何度も此方を見てくるが態々後ろを何度も意味なく見ないと思うけど俺の被害妄想なのかな?
提督「ん?」ニコッ
運転手「・・・・・」プイッ!!
提督「・・・・・・」
うん、やっぱり見られてる
前を向いて運転して欲しいけど、驚く程に安全運転なんだよな
揺れがないのも凄いけど信号を止まる時のカクッてのがないのも凄い
大和さんとは大違い
しかし、こう何度も見られているのは何か言いたい事があるのかもしれない
最初に会った時に一悶着あったのだが・・その事かもしれない
出発直前に車の前で待っていた運転手
軽トラだと思っていた俺はヴェルファイアを見て驚いたっけ
そして運転手は帽子を深くかぶっており服装もタクシーの運転手の様な服だけど女性だと言うのは分かった
膨らみで
とりあえず挨拶をしたんだけど
運転手『乗って・・』
提督『初めましておんぼろ鎮守府の提督と言います。よろしくお願いします』
川内『うん、挨拶大事だね!』
運転手『・・・・乗って南鎮守府まで行くから』
川内『じゃあ、行こうか提督は後ろに乗ってね』
提督『あの運転手さん』
運転手『っ・・なに?』
提督『提督です。よろしくお願いします』
運転手『・・・・はい』
提督『提督なんです』
運転手『はい・・分かってますから』
提督『なら、貴女は?』
運転手『?』
提督『貴女の名前を教えてください』
川内『へぇ・・・』
運転手『・・なんで?』
提督『どう呼べ良いか分かりませんし、これから共に行くんですから相手の事を知っておくのは必要ですよね?』
運転手『呼ばなくて良いし・・知らなくて良い』
提督『で、でもそれじゃあ!』
運転手『信用できませんか?』
提督『そう言うわけでは・・いえ、そうですね。何者かも分からない人と一緒に行動するのは少し不安です』
提督「俺達がこれからしようとしてる事を考えるなら尚更です」
運転手『そうですか・・なら』ナイフ
提督『っ!』
ナイフの持ち手をこちらに向けて差し出す
提督『何ですかこれは』
運転手『信用出来ないと不安だと思うなら・・これで斬ってください』
提督『冗談でも笑えないですよそれは・・』
運転手『いえ、本気です。貴方にはその資格があります』
川内『・・・・・・』
提督『なんだよそれ・・どんな資格だ・・言ってみろ!!』
今思えば彼女を斬った感触を思い出してしまって自分でも異常に怒ってたと思う
運転手『知りたい?・・なら、言ったら斬ってくれる?』
提督『っ・・お前なんなんだよ!なんでそんな事が本気で言えるんだよ!』
その声と雰囲気で嫌と言う程彼女が本気だと言うのが分かる
分かってしまう・・・・
まるで春雨や白雪の様に・・それが信じてやまない
あるべき道だと本気で思っている
此処までになると信念と言ってもいい
良い事悪い事とかそんなレベルじゃない
提督『っ・・・・』
だからこそ、何を言ってもダメだ
関わってはいけない
じゃないと・・また、俺は・・
運転手『私はね貴方のー』
提督『言わなくて良い!もう聞きませんから・・』
そう言って逃げる様に言葉も聞かずに車へ乗り込んだ
川内『行こっか』
運転手『・・・・・』
それから会話と言う会話はなく今の様な感じが続いている
チラッと見てくるけど、目を合わすと逸らしてしまう
逃げた俺に対して思う事があるのか
それとも君は俺の事を知ってて・・君の正体とで
君を縛ってしまっているのかな?
だとするならこのままには・・
川内「・・・・・・・」
川内「ねぇ、コンビニ寄ってよ喉が渇いた」
運転手「時間がないからダメです」
川内「えー!ケチ!良いじゃん!」
運転手「たださえ予定より一時間遅いんですからダメです」
川内「私の所為じゃないのに・・」
川内さんと話す時は普通に出来てる
俺と話す時だけ俯いて感情のない声になるのは
でも、それは意図的にやってる事であり、何かが邪魔してしまっているだけなんだ
やっぱり話せば何か変わる筈だ
彼女の事を少しでも知りたい
知ってあげたい
逃げるな俺
ユーモアに会話に介入しろ!
提督「すみません。俺がトイレが長くて一時間待ってもらいました。お腹壊しやすいもので・・はは」
運転手「・・・・・・・」
川内「ぷっ、あははははは!トイレ行ってたんだ一時間も良く頑張ったね」
提督「あはは・・本当情けないですよね」
運転手さん黙っちゃったか・・
と思ったら
運転手「・・・・・・・」
運転手「・・出たの?」
提督「え?」
何が?
運転手「・・一時間もトイレに入って出たの?」
提督「あー、出ましたよ。すみません汚い話しをしてしまって」
運転手「・・そう、ポンポン痛くない?」
ポンポン?あ、お腹の事か
提督「い、痛くないですよ。心配してくれてありがとうございます」
運転手「・・・・・・・」
提督「・・・・・・・」
会話がなくなった
てか、いきなりトイレの話しとか・・恥ずかしい
もう南鎮守府に着かないかな・・いや、でも、まだ心の準備が・・
運転手「・・大丈夫ですから」
提督「え?何がですか?」
運転手「一時間遅れても大丈夫ですから気にしないでください」
提督「あ、はい」
フォローしてくれたのかな?
悪く思われてるわけではないのかもしれない
だったら話したい
お近づきになりたいな
俺だって男なんだから女の子に嫌われたままなのは辛い
川内「あ、コンビニあるよ此処を右だよ!一時間くらい大丈夫なら良いよね?」
運転手「それとこれとは別です。直進します」
川内「そんな・・・コーヒー」
運転手「水がありますから我慢してください」
川内「えー!黒く濁った水が飲みたいの!」
運転手「オイルでも入れますか?」
川内「うぅ・・提督」
よし、此処は俺も運転手さんに続いて肯定する事で間を埋める作戦だ
ごめんなさい川内さん
提督「川内さん悪いですが俺も運転手さんの言う通りだと思いますよ。水があるし俺達はドライブをしてるわけではないですしこの間に作戦会議とかをー」
その時それは唐突に来た
運転手さんが言って
俺が運転手さんを肯定する
だけど、俺のポンポンは鳴った
グゥ〜〜
川内「あは♡本音聞いちゃった」
俺の腹は川内さん肯定派の様だ
帰って来てから遅いと言う事もあって朝までカロリーメイト一個で我慢する様にしていたが一番鳴ってはいけない場面で鳴らしやがった
川内「ねぇ!ねぇ!お腹空いたよね?空いたよね!見てあそこにコンビニあるよ?最近のコンビニって弁当も馬鹿に出来ないくらい美味しくなってるんだよ」
添加物半端ないぞ?
提督「いえ、俺は大丈夫ですから」
と言うか深夜に食うなって言ってたよね?
提督「お腹は空いてなー」グゥ〜〜
ちょっとポンポンは黙ってろ
川内「ふふ、提督のお腹は嘘が嫌いみたいだね」
川内「お腹の調子は悪くても性格は良いみたいだね!」ドヤ顔
上手くないからな
提督「・・・・・・・」チラッ
運転手「・・・・・・」
心なしか怒ってる様に見える
手が震えてる
運転手「行きましょう」
提督「へ?」
車は直進せずにコンビニへ
川内「うん、大好き!」
提督「あ、あの良いんです?」
運転手「・・待ってて」
運転手はささっと降りてコンビニへ入っていった
お手洗いかな?
今のうちに川内にコーヒーくらいは買っておこうかな?
提督「俺ちょっと行ってきましょうか?」
川内「待ってて良いよ。でも、ありがと」
川内「運転手を信じて待ってよ」
提督「まぁ、そう言う事なら待ちますか」
俺にもコーヒー買ってきてくれると嬉しいな
川内「ねぇ、その間に運転手の正体知りたくない?」
提督「え?」
川内「教えてあげても良いよ。それからどうするかは考えれば良いと思うよ?正直見てて歯痒いからさ?」
川内「提督なら悪いようにはしないって信じてるから」
提督「・・・・・・・」
川内「どう?」
提督「彼女が俺にとってどう言う人なのか、そして彼女にとって俺はなんなのか気にはなります」
提督「でも、彼女の口から聞きたいです。勝手に知って良い内容じゃないと思うんです」
それが大惨事を起こさないとも限らない
川内「う〜ん、そっか・・じゃあさ?名前だけは?紹介したいし」
提督「まぁ、名前だけなら良いかな?」
俺も自己紹介してるわけだし
流石に名前を聞いてどうにかなるとは思えない
聞いても知らないフリをしてれば良いし
川内「うん、彼女はね?私の妹で神通って言うのよろしくね?ちなみに私も神通も軽巡ね」
提督「川内さんはそうだとしても彼女も艦娘だったんですね。そして妹とは」
道理で仲が良いと思った
そして信じてあげている
川内「もう一人妹が居るけど、まぁ、いずれ分かるよ」
提督「ん?分かりました」
もう一人の妹の名前も気になるけど、いずれ分かるなら待とう
それにしても神通か・・・・
俺は知らないな
提督「川内さん、神通さんは俺の事知ってんですよね?」
川内「うん、よく知ってると思うよ?実際関わったのは短い期間だろうけど、こっそり見てたりとかはしてたよ
え?何それストーカー?
提督「俺は監視されていたんですか?」
川内「う〜ん、これ言って良いかな?まぁ、いっか」
川内「神通は監視してたと言うよりある人が近づけない様に細工をしていたんだよ」
提督「ある人?」
川内「うん、実はそれを最近神通から話してもらって西提督に伝えたら、その人の居場所を特定する様に頼まれて提督と会わせないように動いていたんだよ」
川内「で、最近までは目立った動きはなかったんだけど、演習で勝ったって言う情報を聞いてから動き出したらしいよ。そして近いうちに西鎮守府に来るんじゃないかな?ってなってる」
川内「まぁ、私と神通が動く限り会わせる事はないけどね?嘘情報を流して神通と話して地球一周でもさせてみようかな?ってなってる」
そこまでする人って・・・もしかして
いや、でも、あれは結構前だし
でも・・
提督「その人って誰なんですか」
川内「青葉だよ」
提督「っ!」
青葉さんか・・・・
提督「他にもう一人くらい居ませんでしたか?」
川内「あ、衣笠もいたね」
提督「やっぱりか・・」
あの二人か・・
怒ってるのかな?それとも・・
川内「理由は聞いてないけど、何かあったんだよね?神通は絶対に近づけさせないでって言ってたし」
提督「・・・・・はい、なんで神通さんが知ってたのかは不思議ですけど」
でも、あれは今思えば俺の所為で・・ただ、それを認める程の余裕がなかった
でも、この選択は間違いじゃなかった
今だから言える
今だからそう思えるのかもしれない
俺は彼女の想いを踏み台にして今此処に居るんだ
提督「聞いてくれますか?」
俺の馬鹿な話しを
川内「うん、教えて」
あれは母さんが亡くなった時だった
過労だった
母さんが無理していた事は知っていた
でも、母さんだから大丈夫だって勝手に決め付けて・・いや、構ってやれる程に余裕がなかったってのもあったけど、それはただの言い訳だった
葬式が終わり、これからどうなるかも考える余裕もなかった
もう、辛くて悲しくて・・ただ、雨の中泣く事も出来ずに
流れる雨粒を涙だと自分に言い聞かせて
馬鹿みたいに叫んだ
そんな時に青葉さんと衣笠さんが現れた
青葉さんは傘の中に入れてくれた
青葉『風邪引くよ?提督くん』
提督『良いんだよ・・ほっておいてくれ』
青葉『でも!』
提督『いいからほっておいてくれ!』
青葉『っ・・ごめんなさい』
提督『っ・・・・』
衣笠『悲劇の主人公気取って楽しい?』
青葉『ちょっと!衣笠!』
提督『だったらなんだよ!ほっておけよ!』
衣笠『最初からほっておくなら近づかないって馬鹿なの?』
提督『なんだと!』
青葉『もう!衣笠!やめて!喧嘩する為に来たんじゃないでしょ!』
衣笠『あまり情けない顔してるから言いたくなったのよ。本当にあの人の息子なの?』
青葉『うん、提督母の息子だよ。この子は』
提督『・・・・・母さんの知り合いかよ』
青葉『うん、青葉って言うの、こっちは衣笠で私は親友と言っても良かったかもね。よく昔は一緒に仕事してたよ?師匠なんて呼ばれてたし』
衣笠『あんたとは大違い』
提督『・・・・・・』
青葉『いい加減にしないと怒るよ・・』
衣笠『っ・・ごめんなさい。元気付けようと思って』ボソッ
青葉『ねぇ、提督くん雨も酷いし中に入らない?』
提督『俺は此処で良いです・・俺が殺したようなものだから・・このまま死んでしまった方が・・』
衣笠『っ!あんたね!馬鹿な事を言っー』
青葉『衣笠黙ってて!』
衣笠『っ!』
青葉『提督くんどうしてそう思うの?』
提督『・・・・・・・』
青葉『そっか・・・』
何も言っていないのに
そう言うと持っていた傘を放り投げた
青葉さんも雨でビショビショになっていく
衣笠『青葉!もう!』
それに続いて衣笠さんも傘を捨てた
近くに傘はあるのに三人が雨でビショビショに濡れている状態だった
もうこの時点で青葉さんは全部理解したんだと思う
青葉『涙出ないね』
提督『っ・・・』
そしてこう言った
青葉『提督母が苦しんでるのは分かってたんだけど、何もしなかった・・』
青葉『ごめんね・・』
提督『っ!!』
そこからはもう酷かった
何故知ってたのに助けてあげなかったと
親友だったのに見て見ぬ振りをしたのかと
ガキのように喚いて
その時涙が出たんだ
自分の所為じゃないと
偽る事でやっと泣けた
最低な奴だった
全部自分の事なのに・・
でも、青葉さんは悲しそうな顔をしながら、ごめんねと繰り返した
しかし、衣笠さんは良しとしなかった
衣笠『じゃあ!あんたは息子の癖に!一番近くに居たのに何もしなかったの?気付けなかったの?』
提督『っ・・・・』
分かってる二人は悪くない
でも、そうしないとその時の俺は壊れてしまっていた
青葉『衣笠、提督はまだ子供なんだから責めないで』
衣笠『っ・・そうだね彼は子供だ』
提督『なんだよ・・なんだよ!』
それが俺にとっては馬鹿にされている様に見えてしまっていた
衣笠『何も出来ない子供』
提督『っ!』
気付くと衣笠さんに掴みかかっていた
提督『馬鹿にするんじゃねえよ!』
もう止まらなかった
衣笠『・・可哀想に』
無理矢理にでも振りほどいて欲しかった
でも、彼女は無抵抗で
提督『やめろ!』バシン
それを俺は叩いてしまった
赤く腫れた頬
目に涙を浮かべても尚その目は俺を離す事なく見ていてくれた
提督『あ・・・・』
衣笠『気が済んだ?気が済まないなら・・もっと叩いて』
提督『お、俺は・・なんて事を・・』
衣笠『それで前を見れるなら叩きなさい!』
青葉『・・・・衣笠』
その言葉に自分がどれだけ馬鹿な事をしてしまったのかを分かってしまい
叩いてしまった頬を撫でて
衣笠さんから溢れ出した涙を見て俺も涙が止まらなかった
でも、謝罪の言葉が出なくて・・
俺を見るその目は涙に濡れていたけど、確かに俺を俺として見ていてくれていたんだ
その場にへたり込んでまた泣いた
ただ・・泣いた
何も出来ない子供だって事に気付いて・・
そんな俺に青葉さんは言った
青葉『これからは私達が君の母親の代わりになるからね?一緒に行こ?』
青葉『もう苦しまなくて良い。寂しい思いはさせないから』
青葉『貴方と共に人生を歩んで・・終えてあげるから・・それが償いだから』
提督『償いってなんだよ・・』
こんな俺にそんな優しい声をかけてくれた
でも、俺は安いプライドを守る為に
そしてこんな俺なんか救われなくても良いと自暴自棄になって
提督『行かない・・ほっておいてくれ!!』
手を差し伸べてくれた二人を拒絶した
衣笠『強がるな!子供の癖に!あんたはね!これからどんな目に合うか分かってるの!』
衣笠『あんたじゃ絶対に耐えきれない辛い事が待ってる!守ってくれる人も誰もいない!そんな所にあんたが生きていけるわけないでしょ!』
売り言葉に買い言葉だった
そんな言葉に反抗して
提督『あんた達の助けなんて要らない!二度と!俺に近づくな!!』
提督『もう・・俺なんか・・どうなってもいいんだよ!』
青葉『でもね?提督くん』
提督『償いも何も必要ない・・その為に俺は・・俺は貴女の償いの為に居るんじゃない!』
青葉『っ!』
衣笠『そんな事言わないで!もう・・いいから自分を責めないで?ほら、こっちにー』
青葉『・・待って・・駄目』
衣笠『邪魔しないで!今助けてあげないと彼は』
青葉『ううん、その彼がそう言うなら・・仕方ないよ・・』
衣笠『どうしてよ・・どうしてなのよ・・』
青葉『彼女が見てる・・これ以上はこっちが危険』ボソッ
衣笠『くっ!どこまで苦しませれば』
衣笠『良いの?この子はこれから苦しい道を歩む・・それを知ってて提督母と同じ様に信じて手遅れになってから、また泣くの?』
青葉『・・・・・・・』
今思うとこの時の二人の様子は変だった
青葉さんは何かに気付いたのかそれ以上言う事はなかった
でも、衣笠さんは
青葉『帰ろ・・・彼自身が動かないと何も出来ない』
青葉『彼の言う事も間違いじゃないから・・自分自身考えたい事も出来た』
青葉『私自身彼をどう見ているのか・・』
衣笠『諦めないから・・』
青葉『うん・・・』
衣笠『提督!』
提督「っ・・・」
衣笠『・・あんたの事だからすぐに弱音を吐いて・・自殺なんて考えたりするかもしれない』
衣笠『そんな情けない奴助けてやれるのは・・私だけ・・辛いなら助けてあげるから!連絡して!絶対だからね!待ってるからね!』ポロポロ
そう言って涙と雨に濡れたメモを渡された
そこには彼女の連絡先が書いていた
青葉『待ってるからね・・無理しないで』
本当に馬鹿な奴だった・・それを煽りだと思い馬鹿にされたと感じて
絶対に掛けてやるかと
それが俺が此処まで来れたお陰でもあったかもしれない
どんなに辛くても一人になっても
彼女達に連絡したら負けだと、逃げだと・・それだけを思って生き抜いた
それが支えられていると
本当の意味で今気付いたのかもしれない
提督「って事があったんです」
川内「そうなんだ・・」
川内(成る程ね。神通はその時その場に居たんだ。きっと声を掛けようにも掛けられなかったってところかな?)
川内「それからは?何かアプローチはあったの?」
提督「直接来る事はなかったですが何通も手紙をくれてはいたんですよ」
大丈夫?とか心配する内容や全く関係ない今日あった事なんかも色々と
少しその内容が楽しみに感じていた時期もあったけど・・
提督「でも、無視してました。返事を書こうともしましたけど結局書けずです。最後に手紙が来たのは司令官になる前です。結局読まずに置いてきてしまいましたが」
提督「本当・・最低ですよね俺」
川内「ううん、その時を考えるとそうなるのは仕方ない事だよ。提督は悪くない」
提督「いえ、悪いのは俺です。青葉さんや衣笠さんの気持ちを無視して、今の今まで何も出来ずにいた」
川内「思ったんだけどさ聞く限りだと衣笠さんはー」
提督「分かってますよ。わざと叩かせる様にしたんですよ衣笠さんは」
そうする事で俺の悲しみを和らげようとしてくれていたんだ
提督「泣いてしまったのは誤算だったんでしょうけど」
でも、だからと言って
提督「どんな理由があれ女の子を叩いたらダメなんですよ。男として人として最低なんです」
川内「う〜ん・・やっぱり悪いのは向こうだよ。そう思わせてる背負わせてしまってるってのは考えないといけなかったし」
川内「提督がどう思っても私は君は悪くないと勝手に思ってる」
提督「川内さん・・」
川内「でも、これからどうするかは君次第だよ。聞かなかった事にするのも一つの選択」
提督「そうだな。うん、俺は・・」
いつかはしなければいけないとは思っていたけど
会おう
会って謝って俺は元気ですって伝えよう
謝って許される事じゃないかもしれないのは分かってる
どうして今頃になってまた探し始めたのかも気になる
提督「川内さんお願いがあります」
川内「分かった」
提督「まだ、何も言ってませんけど」
川内「もう、変な小細工はやめるって事で良いんだよね?神通にも伝えておくね?」
提督「はい、でも、俺から会いに行く勇気はないですから・・ヘタレかもしれないけど待ちます」
待って来てくれた時にもう一度話そう
今度は子供ではなく
大人として
川内「・・ふふふ」
それから数分後に神通さんは大量の袋を抱えて戻って来た
その殆どが俺の為に買ってきた弁当やら腹痛の薬やら酔い止めやらエナジードリンクやらスッポンドリンクなど
計二万円相当の物を貰ってしまった
でも、神通さんは今まで俺の事を守ってくれていたんだ
川内さんに話す前に青葉さん達が来てしまっていたら、きっとまた子供のままだった
また、泣かせてしまっていた
もう俺は大丈夫だから
提督「運転手さん」
運転手→神通「・・・・・・」
そんな貴女に感謝を込めて
提督「ありがとうございます」
神通「・・・・・・・」
少し笑った様に見えたのはきっと気の所為だろう
川内「やっぱり缶コーヒー最高!」
提督「普通の飲み物がマヨコーラしかない・・コーヒーがない・・」
あれ?やっぱり嫌われてる?
神通「〜〜♪」←マヨコーラ大好き
提督「うぇ・・・」ゴクゴク
神通「ふふふ、可愛い」チラッ
神通「提坊」ボソッ
車は南鎮守府へと更に進んで行くのだった
川内「さて、そろそろ本題に入るよ」
神通「・・・・・・」
提督「はい!」
彼女達の事も気になるけど、今は今を全力で乗り越えてやる!
提督「では、本題を」
これから重要な作戦の話しがある筈だ!気を引きしめろ!
川内「まぁ、本題って言っても言う事は一つなんだどね?」
提督「はい!」
ゴリ押し作戦とか?それとも野となれ山となれ作戦とか?
どちらにせよ川内さんの事だ。きっと何か考えがある筈だ
どんな作戦だろうと信じよう
神通「休みなさい」
川内「寝て」
提督「はい?」
はい?
川内「クルージングの事聞いたよ。疲れたでしょ?着くまで眠ると良いよ」
提督「ま、待ってください!作戦は?これからの事を話さないと!着いてからじゃ遅いですよ!」
神通「必要ない・・今はね」
提督「どう言う事ですか」
神通「今は何も考えずに寝て」
提督「でも・・気になって」
川内「信じてくれないかな?」
提督「ずるいですよ・・その言い方・・」
神通「・・・・・・」
川内「お願い・・このままじゃ倒れちゃうよ?」
川内「君が倒れたらみんなが悲しむ・・折角ここまで来れた事も頑張りも全部なくなる」
川内「人生にゲームの様にセーブは出来ないけど休む事は出来る。それは常に動き続けなければいけないゲームには出来ない事なんだよ?」
川内「ワンライフノーセーブノーライフだよ提督」
提督「川内さん・・」
なんで自分の事じゃないのにそこまで・・いや、足手纏いになるからかもしれないけど・・
正直疲れてないと言えば嘘になるけど、まだ動ける
だけど・・
神通「・・音楽かけようか?」マヨコーラ天国CD
提督「はぁ・・分かりました。二人はどうするんですか?何処かで止まって仮眠でもとりますか?」
神通「このまま進みます・・」
川内「私達の事は気にしないで夜は慣れてるから」
提督「気になりますよ・・俺だけ休むなんて」
神通「大丈夫」
提督「え?」
神通「もう、置いて行ったりはしないから」
提督「置いて行く?・・何を言って」
神通「もう、見捨てたりしないから側にいるから・・ね?」
優しく子供をあやすかの様に囁いたその声は
心が痛く胸が熱くなった
やがてそれは大きな安心感を感じるようになった
緊張していた気持ちも不安な気持ちも今は感じなくなった
もう置いていかれないんだ。なら、眠っても大丈夫かな?
何故か分からないけどそう感じる自分がいた
提督「あれ?・・」
目頭が熱くなってきた・・
神通「だから、お休みなさい提督」
どうして・・どうして
提督「っ・・・はい」ポロポロ
こんなに貴女のその声が懐かしくて・・
安心出来るんだ
でも、それを聞く前にどっと疲れが押し寄せてきて
そのまま眠りに落ちた
提督「」..zzzZZ
川内「眠ったね。まだまだ、子供だよ提督は」
神通「過酷な事があり過ぎて常に気を引き締めていないといけない状態が解けてなかった・・それが疲れを感じなくなる程に身体に重くのし掛かっていた」
神通「守る為に置いていかれない為に自分を壊してしまったら意味がない。そうなったら・・彼も提督母の様に・・」
神通「やっぱりそうなる前に海軍から」
川内「そうはならないよ」
神通「どうしてそう言えるの?」
川内「まだ子供でいてくれてるからだよ」
川内「子供でいてくれるうちはその前に弱音をはいてくれる。泣いてくれる。逃げてくれる」
川内「大人になると色々な面で強くなった気でいられるけど、違う・・本当は強くなんかない。自分の弱さに気が付かなくてしまっただけ」
川内「だから、弱音を言う事も泣く事も逃げる事も出来ずに気付いた時には手遅れになってる」
川内「たとえ気付いても気付かないフリをして泣く事を逃げる事を恥に感じる。生きる為には必要な事なのに」
川内「子供と大人・・どっちが提督の言う大人何だろうね?」
神通「・・・・・・・」
川内「だから、提督は今は大丈夫だよ。その涙が証だから」
神通「昔は泣かなかった・・それを強さと勘違いして何もしなかった・・何も出来なかった・・」
川内「だから今がある。神通のしなかったは今へと繋がった。それで良いんじゃないかな?」
神通「本当にこの道で良かったのかな?」
川内「それは提督次第だよ。私達に出来るのは彼が道から落ちない様にちょっと支えてあげる事だよ」
神通「そうね。だけど・・」
川内「楽になる為の償いなんて青葉達と変わらない」
神通「っ!知っていたんですね・・」
神通「大丈夫・・これでは終わらせないから・・一生をかけても」
川内「そうじゃない・・私が言いたいのは」
神通「・・言わないで分かってるから」
川内「分かってるなら言わない・・難しいね償いって。でも、何かあったらお姉ちゃんを頼って?」
神通「えぇ・・ありがと」
川内「っ・・・・」
そこで会話は終わってしまった。無言の中車は走り続ける
提督「」..zzzZZ
川内「提督・・君は君のままで良い。子供で良いんだよ・・」
無理に大人になる必要はないんだよ
それから数時間後に太陽が顔を出し、車は南鎮守府から少し離れたコンビニへと到着した
川内「朝日が・・・眠い」
神通「・・・・・」膝枕
提督「」..zzzZZ
神通「大きくなったね・・泣き虫さん」ナデナデ
神通「もう見守るのはやめにする・・貴方を一人の男として軍人として・・でも、最後に」
彼女の顔がゆっくりと提督の顔に近づき…
提督は夢を見た
覚えのない筈のたくさんの家族に囲まれた
あの日の夢を
神通「行ってきなさい貴方の道を・・背は私が押すから!」スッ
神通「いつまで寝ている!!」
バシッ
朝日が眩しいラジオ体操が流れてそうな時間帯
二つの影が見えた
ー南鎮守府裏口ー
ゴスッ!
「ふにゅ!」
川内「ほら、こっちこっち」
提督「ちょっ、ちょっと待ってくださいよ・・はぁ・・はぁ・・」フェンス上がり中
川内「このぐらいで情けないよ提督」
提督「何も聞かされずに神通さんにビンタで起こされたと思ったらそこらの鬼教官も泣き叫ぶくらいの顔で準備をさせられて車から投げ出されて健闘を祈るとか言われてから川内さんと10キロ走ってこっそりと南鎮守府の裏口のフェンス登って侵入する。自分でも着いて来れたのが奇跡だって思うよ」
起きてから身体の調子が良くなった様な気がしている
なんだろう軽くなったと言った方が良いかもしれない
やっぱり疲れてたんだな
提督「・・・・・・」
それにしても神通さん怖かったな・・
俺何かしたかな?
川内「バレない為にはこのぐらいしないと車でなんか入ったら即バレるよ?」
提督「いやでもさ・・バレてるじゃないですか」
弥生「うぅ・・・」タンコブ
川内「ちょっと油断したかな?次は大丈夫!もう朝でみんな起きてる気を付けて行くよ」
提督「その前に彼女どうするんですか?見たところ駆逐艦だと思いますけど」
フェンスを上がって侵入した先に偶然いた彼女は川内さんの問答無用のチョップで頭を押さえて蹲っている
川内「本当なら一発で殺れたんだけど、今回はそう言うのは無しにしたいから気絶するくらいに手加減したんだけど難しいね・・もう一回やったらいけるかな?」スッ
弥生「あ、いや・・」ウルウル
提督「そのもう一回はなしにしましょう!」
彼女を庇うように前に出て殺人チョップをしようとしてる川内さんに言う
いつの間にか彼女が俺の背中に隠れるように抱きついていた
川内「敵だよ?どいて?」
提督「敵って・・彼女は艦娘でしょ!寧ろ被害者側で」
川内「失望させないでよ・・その娘は確実に南鎮守府の艦娘だよ?」
川内「命令とは言え仲間を沈めてきた娘達なんだよ?大井と北上は何から逃げて来たの?二人を海まで追いつめたのは誰?答えて!」
弥生「っ!」
提督「っ!そ、それは・・此処の娘達かもしれないけど・・彼女だって証拠は」
川内「そう、証拠はない。だからこそ油断出来ないんだよ。命令だから仕方がないって言わないよね?命令されたら許されるの?」
川内「命令を実行した時点で共犯なんだよ。実行した実績がある・・それはもう敵なんだよ」
提督「だけど・・こんな怯えてる娘にっていない?」
気付く彼女は俺の背ではなく前へと出てていた
提督「あ、ちょっと!」
弥生「大井と北上は無事なの?」
川内「そう言うアピールいらないから」
弥生「教えて・・二人は無事?」
川内「敵に教えると思う?」
弥生「教えてくれたら何されても良い・・でも、教えてくれないなら叫ぶ」
川内「そう、なら叫ぶ前に」シュッ
提督「よせ!」ダッ
弥生「っ!」目を瞑る
ゴスッ
弥生「あれ?」
提督「ぐふ!」
川内「何してんの庇うなんて」
提督「は、腹が・・うぇ・」
弥生「大丈夫?吐きそう?吐く?」サスサス
提督「んぷっ・・大丈夫引っ込んだ」
弥生「本当に?」スッ
提督「あぁ、本当だよ」
だから自分の服の両端を持ってエチケット袋がわりに口元に持ってこなくていいから
弥生「ほっ・・」
川内「提督・・邪魔しに来たの?なら・・容赦しないよ今度は吐くまで殴るよ?」ギロッ
吐くまでと言われてもあと一発で吐くよ?
弥生「吐かせない・・」
川内「どいて」
弥生「どかない・・」
川内「なら・・」
提督「川内さん!彼女は嘘はついてないよ。本当に二人が心配で聞いてる」
川内「根拠は?」
提督「勘です」
川内「勘?」
提督「はい、勘です。何故かは分からないですけど彼女はそんな娘じゃないって思えるんです・・うぷっ・・」
弥生「まだ、痛い?やっぱり吐く?」サスサス
提督「もう大丈夫だよありがと」ナデナデ
弥生「えへへ・・」
川内「ふむ・・勘か・・勘なら仕方ないかな?分かった。でも、このままには出来ないから着いて来てもらうけど良い?抵抗するなら」
弥生「しない・・彼に着いて行く。彼の匂い落ち着く姉妹と一緒にいるみたい」
提督「ありがと俺も君を他人とは思えないよ」ナデナデ
弥生「貴方のナデナデ好き・・」
可愛いな
妹がいたらこんな感じなのかな?
提督「俺は提督って言うんだ君は?」
弥生「弥生・・駆逐艦です。あ、あのよろしくね?」上目遣い
提督「っ!」
本当になんだろう?妹の様に見えてきた
お兄ちゃんって呼ばせてみるか?いやだが・・
南憲兵「遅いと思ったら此処にいたのか」
提督「お前は!」
しまった!憲兵だ!捕まえられてしまう!
提督「川内さん!ゲロボディブローだ!」
相手が憲兵なら容赦しなくて良い吐くまで殴れ!
川内「そんな技はない」
提督「なん・・だと!」
弥生「やろうか?」ツンツン
提督「大丈夫だよ。偉いね一人でボディブロー出来るんだ」
弥生「えへ・・へへ」
南憲兵「っ・・こいつが例の協力者?」
川内「そう、時間に関しては少し予定変更があって遅れた」
提督「ん?」
仲間?
南憲兵「警報機を切っているんだから時間通りにしてもらわないとこっちも困るのだが、まぁ良いこっちへ」
川内「行くよ提督、弥生も来てね」
弥生「うん・・」提督の手握り
提督「どうなってんだ?」握り返す
南憲兵に連れられ南憲兵の詰所へと向かうのだった
弥生「〜♪」チラッ
提督「ん?」ニコッ
弥生「ん」ニコッ
南憲兵「あいつ・・やはり」ギロッ
提督「っ!」
今嫌な視線を感じた様な?
殺気の様な・・・
提督「・・・・・・」チラッ
南憲兵「・・・・・・」ギロッ!
あ、俺なんか睨まれてる・・・前見て歩こうよ・・
本当に着いて行って大丈夫なのか不安になる提督だった
弥生(お兄ちゃん・・♪)
睨まれたまま南鎮守府の憲兵の詰所へと連れて行かれた
客室と思われる場所につくとドアを閉めて鍵をかけた
南憲兵「此処ならあいつの目も届かないだろうが・・」
川内「とりあえず近くに気配もないし覗かれてもないね。それじゃあ今の南鎮守府がどうなってるか教えてもらえるかな?」
提督「成る程、常に鎮守府にいる憲兵を仲間にする事で最新の情報を手に入れられる。そこから作戦を考えて行くんですね」
川内「ん?作戦ももうあるらしいよ?概要もよろしく」
提督「おお、流石です!それじゃあ、お願いします」
南憲兵「・・・・・」ギロッ
提督「っ・・」
まだ睨んでる
俺、何かしたか?
南憲兵「川内、そいつは本当に信用出来るのか?」
提督「・・・・・・」
川内「出来るから連れてきたんだけど?」
南憲兵「俺はそいつを信用出来ない。出て行ってもらおうか」
川内「ふむ・・・・どうする?提督、信用されてないみたいだけど?」
提督「会ってすぐなんで信用しろとは言えませんけど・・絶対に逃げたりしませんから!俺には守りたい人達がー」
南憲兵「そう言う意味じゃない!人としてお前を信用出来ないんだよ!」
提督「なっ!」
南憲兵「お前の様な奴は俺は大っ嫌いなんだ!本当ならこの場で撃ってやりたいくらいだ!」ガチャ
提督「っ!」
弥生「だ、ダメ!」
川内「・・・・・・」
提督「あの・・初対面ですよね?」
南憲兵「あぁ、そうだ。初対面だ」
提督「何かしたんですか俺が・・知らないうちに貴方を怒らせるような事を」
南憲兵「言わないと分からないのか?俺はな。艦娘達を助けたいんだ」
提督「それは俺だって同じです!」
南憲兵「嘘をつくな!」
提督「嘘じゃない!じゃなければ態々此処まで来ない!」
南憲兵「どうだかな・・もしかしたら南提督の仲間だったりするかもしれないしな」
提督「っ!ふざけんな!あんな奴と一緒にするな!」
南憲兵「一緒だ!今まで艦娘達に何をしてきた!」
提督「俺は何も!」
南憲兵「もうそう言うのいいから早よ言え!最低野郎!」
なんでここまで言われなければ
提督「だから俺はー」
南憲兵「いい加減にしろ!」
提督「いい加減にするのはそっちだろ!さっきから根拠のない因縁ばかり言ってなんなんだよ!」
南憲兵「根拠のない?あるから言ってんだろうが!!このロリコン野郎!!」
提督「はぁ?何を言ってるんだ?」
何故ロリコンって言葉が出てくる
本当に俺は何をした事になっているんだ?それともこれは・・
弥生「南憲兵・・・」
怒ってくれたのか弥生が真剣な顔で前に出ようとした
でも、それを手で止めた
提督「弥生・・ありがと。大丈夫だから」
弥生「・・・・分かった」
南憲兵「弥生には好かれてるようだが彼女も時期に泣かされる事になる。今なら弥生の為に見逃してやるから出て行け」
提督「言いたい放題言いやがって・・」
川内「・・・・・・」
南憲兵「事実だろ。犯罪者が!」
提督「っ!なら・・なら!見せてみろよ!」
南憲兵「は?」
提督「証拠を見せてみろって言ってんだよ!このクソ憲兵が!」
弥生「っ!」ビクッ
川内「はぁ・・もうめちゃくちゃ」
提督「本当にあるなら見せてみろよ!俺が彼女達に手を出してる証拠を!」
絶対にない。こいつは嫉妬して因縁を付けてきてるだけだ
これ以上時間を掛けられない。最悪こいつなしでやる事も考えよう
南憲兵「そうか・・お前の為に、いや、弥生の為に見せないようにしたがそこまで言うなら・・これを見ろ!!」
そう言って一枚の写真を見せられた
提督「え?」
川内「へぇ・・・・」
弥生「・・・・・・」
それは紛れない俺の写真だった
研修5日目の運動場での阿武隈さんと協力して三日月を倒したあの日の三日月が出てくる前の運動場で倒れてるスカートオープン状態の娘達のスカートを直している時の写真だった(第7章【輝く三日月】を参照)
ただ、それは俺が当事者だから分かる写真だ
この写真は知らない人が見ると倒れてる娘のスカートをめくってる様にしか見えない
いや、無理矢理ボコボコにしてスカートをひん剥こうとしてる様にも見える
提督「ん?」
と言うか写真に写ってる娘・・口を押さえて顔を真っ赤にして恥ずかしさに耐えている
提督「え?うそ・・・・」
みんな気絶してると思ったけど、この娘起きてるじゃん!
起きてるなら言ってよ!なんでバレないようにしてんだよ!これじゃあ・・完全に暴漢者じゃないか!
てか、誰が撮ったんだよ!!
南憲兵「どうだ?言い訳出来るか?お前はこうやって抵抗出来ない事をいい事に無理矢理乱暴してたんだろ」
提督「いや・・これは・・その・・」
なんて言えば良いんだよ・・三日月にやられた娘達のスカートを直してましたなんて言って信じてもらえるわけがない
俺が逆に言われたって信用できない
南憲兵「出て行け・・」
提督「っ・・これは違うんです!」
南憲兵「出て行け・・」ガチャ
銃を構える。次はないと言いたいのだろう
理由を話しても信じてもらえないだろう
どうするか・・
ツンツン
提督「ん?なんだ弥生」
南憲兵「文句でも言いたいのだろう。黙って聞けよ」
提督「・・・・弥生」
もしそうなら逃げずに聞こう・・
弥生「・・・・・」モジモジ
少し恥ずかしそうにしてモジモジしている
手は自身のスカートを強く握りしめている
まさか?
やがて真剣な表情をして目に力が込もると同時に手に更に力が入り
提督「弥生!」ガシッ
弥生「っ!」
南憲兵「本性を現したな!」ガチャ
川内「撃つな!!」バッ
俺は弥生のスカートを掴んだ。それはめくろうとしたのではなく
南憲兵「そこを退け!お前も撃たれたいのか!そいつは弥生のスカートをめくろうと!」
川内「よく見て!提督はめくろうとしてんじゃない!」
南憲兵「え?」
提督「弥生・・どう言うつもりなんだ」
弥生「・・お兄ちゃんが見たいなら見せてあげる」
提督「見せなくて良いから、スカートを上げようとしないでくれ」
そこの変態憲兵が喜ぶだけだ
南憲兵「止めていたのか・・」
川内「もう銃を向けなくて良いでしょ?」
川内「と言うよりこれ以上意味ない事で仲間を疑うなら・・それなりの覚悟をしてもらうよ?」ギロッ
南憲兵「っ・・」
川内「どうする?」
川内「これ以上私の顔に泥を塗りたい?いや、自分の顔にかな?」
南憲兵「っ!・・・すまない」
川内「君と提督は違う」
南憲兵「あぁ・・・・」
川内「諦めたお前と一緒にするな」
南憲兵「・・・・あぁ」
弥生「・・見たくないの?」
提督「あぁ、見たくない」
弥生「・・私はいらない?」
提督「違う!そうじゃない!俺が言いたいのは見せる必要がないって」
弥生「必要のない娘なんだ・・」
提督「なんでそうなるんだ・・」
南憲兵「これが今の現状なんだ。何も役目を貰えずに放置されてしまっている娘が此処にはたくさん居る」
南憲兵「艦娘にとって戦う事は本能に近い。それが鎮守府に居ても何もさせてもらえない。それは艦娘にとって辛い事なんだ。何もさせてもらえてないから待遇も最悪で食事も満足に出せてもらえない。そして限界が来た時に役目を貰える。でも、それが最後になる」
提督「どう言う事だ」
南憲兵「帰って来ないんだ・・」
南憲兵「南提督から呼ばれた娘達は帰って来ないんだ・・後日轟沈したと報告される」
提督「っ!」
南憲兵「俺はそれを見てる事しか出来なかった・・やっと役目が貰えると喜んでいる娘達を止める事も出来ない・・一度逃げた奴は・・どうあがいてもダメなんだって知らされた・・」
提督「逃げた?」
南憲兵「あぁ、俺は一度戦う事から逃げた・・そしてまた戻ろうとした。でも、もう力もない・・ただ喚くだけの半端者になってしまった」
提督「何があったんですか」
南憲兵「みんなを守る為に一度戦場から離れて司令官の道を進もうとしたんだ・・」
提督「・・・・・・」
南憲兵「だが、結局なれなかった・・海軍学校にすら入学させてもらえなかった」
提督「それで憲兵になったんですか?」
南憲兵「あぁ、守る為に選んだ道が潰えて結局は見てる事しか出来なくなった・・」
南憲兵「進んだと思ったら・・もう進めなくなってしまった。これが限界なんだ・・」
提督「・・・・・・」
限界か・・俺もみんながいなかったらとっくに限界を感じていただろう
だからこそ俺はこれ以上彼を責める事は出来ない
南憲兵「先ほどの暴言の数々すまなかった。さっきの弥生のスカートの件を見て分かった。お前はあんな事をする人間ではないと」
提督「分かってくれて良かったよ」
南憲兵「これは悪質なコラだな。送ってきた奴には後で文句を言ってやる」
提督「う、うん、そうだね〜」
コラ画像ではないと言ったらややこしくなりそうなので黙っておこう
南憲兵「改めてよろしく。君を提督を信じようと思う」
提督「ありがとう。精一杯力になるよ」
南憲兵「ふふ、それはこっちのセリフだ。だが、一つだけ教えて欲しい」
南憲兵「君は何者なんだい?」
提督「え?」
何者って?何を言って・・
川内「そろそろ時間じゃない?ゆっくり話すのは全てが終わってからにして」
南憲兵「・・そうだな。弥生」
弥生「・・なに?」
南憲兵「辛いだろうが逃げちゃダメだ。後少しの辛抱だから持ち場に戻れ」
南憲兵「南提督は艦娘の数は把握している。逃げ出したと分かれば何をされるか分からない」
弥生「っ・・でも・怖い・・」
提督「弥生、信じてくれよ。俺たちを」
その言葉に川内さんと南憲兵さんも頷く
弥生「・・・・・・」
不安そうな顔をしていたが、やがてその顔から不安はなくなり
弥生「提督、川内、南憲兵・・待ってる・・私達を助けて」
南憲兵「っ!」
そう言って彼女は部屋を出て行った
約束は必ず守るからな
提督「南憲兵さん教えてください。作戦を」
南憲兵「・・・・・・」
提督「南憲兵さん?」
弥生の出て行ったドアを驚愕したような顔で見たまま固まっていた
川内「壊れた?叩く?」
提督「古いテレビじゃないんだから」
そんな荒療治で治るのか?
南憲兵「・・・・・」ポロポロ
川内「あ、しゃがみ込んで泣いてる」
提督「本当にどうしたんですか!何処か痛いんですか」
南憲兵「すまない・・少しだけ待ってくれ」
南憲兵「初めてなんだ助けてくれって言われたのが・・今まで相談された事はあったけど誰も助けてって言ってくれなかった。それは俺に・・私にその力がないと分かっていたからだ!」
提督「でも、今は違う。助けを待ってる人が居る。勝手に限界なんて決めてないで行きましょう」
提督「限界を嘆くのは死んでからでも遅くはないです南憲兵さん」手を差し伸べ
南憲兵「長門・・・」
提督「ん?」
南憲兵「長門だ。限界を決めた時に一緒に捨てた名だ」手を掴む
提督「良い名前だ」引き起こす
南憲兵「もし今回の作戦が上手くいったら、その名を呼んでくれ」
提督「分かった。その時は一緒に迎えに行きましょう。その名を」
南憲兵「あぁ・・ならその時は・・そ、そのデートでもしてやるよ」
提督「はは、面白い冗談だけど飯くらいは行きましょう男同士で」
南憲兵「むっ・・そうか、うん、楽しみにしてるよ男同士な!」
提督「?」
なんか棘のある言い方の様な
川内「ありゃ?気付いてない?まぁ、良いか」
南憲兵「サラシ巻いてるし髪もバッサリ切ったけど酷くない・・私だってまだ・・」ブツブツ
提督「あ、あの、どうしたんですか?南憲兵さん」
南憲兵「なんでもない!それより約束は守れよ!」
提督「お、おう、それは必ず」
なんか怒ってるのか?分からん
川内「ふふ、やっぱり面白いな」
南憲兵「はぁ・・改めて礼を言うありがとう。画像は嘘だったかもしれないが君の噂は本当なのかもしれないな」
提督「噂?」
南憲兵「今だから言うが、その噂に少し嫉妬したんだ」
提督「え?どんな噂なんですか」
南憲兵「ふっ、それは噂じゃなくなった時に教えてやろう。案外すぐかもしれないぞ」
そう言って今までとは違う余裕のある笑みだった
その目に確かな強さを感じた
提督「・・・・・・」
提督は思った。この人には絶対に勝てないと
それだけの差を感じた
少しだけほんの少しだけその強さに嫉妬した
この人は俺の遥か先を行っている。そして進もうとしている
それは俺のとは比べものにならないくらいの信念がないと出来ない
俺の目指すべき道なのかもしれない
まだまだなんだな俺は
南憲兵(『陸軍と海軍を繋ぐ最後の希望』少なくとも私はそれが本当なんだと思う・・いや、そう信じよう。この青年を)
南憲兵「もう逃げるのはおしまいだ!これより作戦の概要を説明する!時間もないので一度だけしか言わない!よく聞くように!」
提督「はい!」
大井さん、北上さん、そして弥生待っててくれよ
必ず助けるから俺達が
そう強く心に決め作戦が開始された
ーー西鎮守府港ーー
まだ、日も登っていない朝
駆逐漢に乗り込む人達が居た
彼女達はおんぼろ鎮守府に所属している艦娘と元艦娘だった
みんなが出港の為の準備を急いでいた
その中心に立っていたのが夕張だった
夕張「みんな急いでおんぼろ鎮守府に帰るよ!」
まるゆ「・・・・・・」
不知火「・・・・・」.zzzZZ
鳳翔「立ったまま寝てる・・」
如月「そんなに急がなくてもせめて日が昇ってからにすれば良いのにそんなに元帥に会いたいの?」
夕張「気持ち悪い事言わないでよ・・提督が南鎮守府へ向かったのはさっき話したよね?」
如月「えぇ、やっぱりって思ったけどそれがどうしたの?」
夕張「心配じゃないの?」
如月「心配にきまってるじゃない。でも、必ず帰ってくるって信じてるから」
夕張「だよね。私もそう思ってる。提督なら必ず帰ってきてくれるって」
如月「あら?夕張がそんな事を言うなんて意外ね何か悪い物でも食べたの?ぺっぺっする?」
夕張「いやいやしないからその人差し指を口の中に入れようとしないで!」
如月「貴女がハッキリとそう言うなんておかしいわ・・」
夕張「まぁ、自分でもそう思うけどさ」
如月「何かあったの?」
夕張「心境変化ってところかな?私さ、おんぼろ鎮守府に来てなんとなくでやってたところもあって、おんぼろ鎮守府の一員って感じではなかったんだと思う」
夕張「怒らないで聞いて欲しいんだけど、提督がもし死んでおんぼろ鎮守府がなくなっても泣いてたとは思うけど仕方ない事だって割り切って普通に生きてたと思う」
如月「今は違うの?」
夕張「うん、もう此処(おんぼろ鎮守府)が私の生きる場所になってるから・・提督が死んだら」
夕張「私も死ぬ」
如月「・・・・・・」
夕張「重いよね」
如月「私も似たようなものだから思わないわ」
提督と私は繋がっている・・
夕張「そっか・・」
如月「好きなの?」
夕張「うん」
如月「そう」
夕張「でも、今はまだこのままの日常を歩んでいきたい」
夕張「だから、その為なら私も戦う。提督の帰ってくる場所を守らないと」
如月「・・元帥ちゃんね」
夕張「うん、捕まってる子もどうにかしないと絶対にあの子を使って提督に何かするつもりだよ」
夕張「だからさせない。提督が安心して帰ってこれるようにしたい」
如月「成長したのね」
夕張「一緒に来てくれる?」
如月「当たり前よ。みんなそのつもりで来てるのよ。帰る場所なんだから」
夕張「ありがと」
鳳翔「エンジン温まりましたよ。いつでも行けます」
まるゆ「なら急ぎましょう。何か胸騒ぎがする・・」
不知火「電・・・・」
夕張「じゃあ、みんな行きますか!駆逐漢抜錨!」
こうして駆逐漢に乗ったおんぼろ鎮守府の面々はおんぼろ鎮守府へと出発したのだった
まだ、月が顔を出している
どんどんと遠くなる西鎮守府
あ、なんか爆発した。私達への祝砲かな?研修生室辺りだと思うけど大丈夫かな?
西鎮守府・・ありがと
夕張「・・・・・」
海・・綺麗だな
こんな事今まで思った事もないのに不思議
如月「ちょ、ちょっと速くない」
鳳翔「このくらい普通ですよ普通」
不知火「お、落ちる」ゴロゴロ
まるゆ「酔った・・」
夕張「・・・・・・・」
きっとこの感じが私は大好きなんだね
守りたいって心から思う
夕張「誰もが誰かの為に動き自分の場所を守ろうと必死になってる。いつからだろうね。そんな必死な姿がカッコ悪いってバカみたいって思うようになったのは」
夕張「一番欲しかったのに一番遠ざけていた。欲しいのに欲しくない。そんな矛盾に苦しんでさまよって・・嫌いになって傷の舐め合いをして」
夕張「それが普通になって自分が分からなくなって・・涙も枯れて・・・」
夕張「ようやく見つけたんだよ。私の私達の居場所を」
夕張「ね?明石」
明石「」
明石はまだ起きていない。何度か起こしてみたけど起きる気配はない
傷はもう大丈夫な筈だけど・・
安らかな顔をして眠っている
このままずっと寝てるつもりなの?明石
夕張「眠っていて良いの?」
夕張「明石、枯れた涙も傷の舐め合いも終わり」
夕張「もう起きなきゃだよ?じゃないと・・全部失うよ」
夕張「ねぇ・・起きて!」
明石「」
夕張「・・・・・・」
夕張「はぁ、此処で起きたらカッコよかったのにね・・仕方ない」
夕張は一言明石の耳元で囁いた
夕張「ーーーーー」
明石「」
夕張「ふふ、本気だからね」
そう言うとみんなの元へと行った
夕張「如月ちゃん風で髪の毛凄いことになってる」
如月「え?そう」
夕張「少しは気にしようよ」
少し後方を走る不知火
不知火「落ちた・・・」
一人残された彼女は
明石「」
夕張『提督は貰っちゃうよ?』
明石「」ピクッ
閉じていた思いと共に再び目を開けるのだった
ーおんぼろ鎮守府ー
日が昇り皆が起き朝礼も終わった頃
鎮守府の入り口に吊るされた卯月が今日も朝を告げる
卯月「いい加減に許してーー!」
如月のフリをしていたが、胸の大きさやらその他諸々の理由によりすぐにバレてしまい吊るされていた
今この鎮守府に居るのは大本営の者だけになってしまっている
一人を除いて
電は孤児院に居た青年を助ける為に何度も大本営の艦娘に挑み入渠ドッグに何度も戻されている
電には直接言われていないが青年がこのままだと危ないというのは分かっていた
だから、何度も何度も挑んだ
助ける為に
でも、それがあまりにしつこいので特別措置がされてしまった
それは、入渠ドッグの生命保護機能だけを作動させて入渠ドッグに入れる状態だ
つまり、回復はしないが、入っている間は生命の危機はない
電「」
ボロボロにやられた電は力なく入渠ドッグに浮いている
身体を動かす力も残っていない程にただ浮いている
でも、苦しくはない寧ろ心地が良い
このまま寝てしまえば目が覚めた時には司令官が全てを終わらせてくれている
青年の事も司令官なら・・・・
でも本当にそれで良いの?
司令官が帰ってくるまで青年は無事だって保証はあるの?
また、人任せにして自分は逃げるの?
それが嫌で司令官と共に強くなろうって決めたんじゃないの?
目の前の大切な人を守れずに何が強くなりたいだ!
今青年の味方でいてやれるのは私だけ!私しかいない
守る!何があっても守る!もう、大切な人を失いたくない!!
電「っ・・・」ピクッ
身体を動かすと激痛が襲う
でも、青年はこれ以上に辛くて苦しい思いをしている
電「っ!!」ビクッ!
此処で何も出来なかったら私は!電は!司令官の隣に立つ資格もない!!
電「うぅ・・」グググッ
私が私でいられなくなって!
電「しまうんだぁああああ!!」ザバーン!
入渠ドッグから飛び出す
大和「何!」
見張りをしていた大和が駆けつける
大和「っ!何やってるの!すぐに入渠ドッグにー」
電「邪魔するなぁああ!」艤装展開
大和「ちょっ!」
ドォーーン!!
ーおんぼろ鎮守府執務室ー
元帥「なんだ今の音は!」
大淀「今すぐ確認を!」
その時ドアが勢いよく開く
大和「はぁ・・はぁ・・」大破
元帥「何があった」
大和「逃げて・・狙いは・・」バタッ
元帥「おい!大和!大淀すぐに入渠ドッグに!」
大淀「今すぐは無理そうですね」艤装展開
元帥「っ!」
電「っ・・お前さえいなければ守れる・・」フラフラ
そこに居たのは立っているのも不思議なくらいボロボロで普段とは程遠い奥から湧き上がる様な怒りを表した目をしている電の姿だった
彼女の目には何が写っているのか
それすらも考えるのが恐ろしいと感じてしまう
そう、それはまるで人類の敵である奴等の様に
元帥「本当にあの電なのか・・」
大淀「・・・・・・」ギロッ
電「・・・・・・・」ギロッ
一人の少女が大本営へ一人戦いを挑んだ瞬間だった
同時刻
ー南鎮守府ー
二人の人物が南鎮守府の前に立つ
でも、それは提督でも川内でもなかった
作戦概要は簡単だった
今日この鎮守府では鎮守府監査がある。偶然ではない。そうなる様に南憲兵さんが動いた様だ
そこで本来来るであろう監査官の方は神通さんがお相手してくれるので来ない
まぁ、その監査官も南提督から金を貰ってまともな監査もしない奴なので神通さんとのデートを楽しんでくれば良いと思う
そして俺と川内さんは監査官に変装して奴の化けの皮を剥がしてやる作戦だ
南憲兵さんはこの日の為に少しずつ奴の汚職の証拠を集めていた。でも、あと一歩が掴めていない
もし、今回その場を発見する事が出来れば集めた証拠により確実に司令官から引きずり降ろせる
その場を見つけた瞬間捕まえて南憲兵さんに引き渡す
監査官にはその権限がある
そしてその瞬間南憲兵さんはその司令官を豚箱へ送る事の出来る権限が手に入る
そうなれば大井さんも北上さんも弥生も南鎮守府のみんなが救われる
絶対に失敗は許されない
その為に今の姿では怪しいという事で変装をしないといけなかった
南憲兵さんが言うには、金に執着していておじさんで偉そうなのが好ましいらしいがいきなり変装なんて言われても出来るはずがなかった
川内さんは慣れてるが俺は絶対にボロが出てしまう
断ろうと思ったが、その時に不思議な感覚が襲った
そう、今言われた条件に合う人物を俺は知っている。しかも変装も出来るほどによく知っている
いや、彼自身と言われても良いかもしれない
俺はすぐにコピー機を借りて拡大コピーをしてハサミで切ってお面を作った
そして少しおじさんくさいスーツに身を包み、南憲兵さんから借りれるだけの千円札を借りた
そう、その名は
提督→野口「さて始めようか秘書の河内よ」
千円札で有名な野口◯世だ
何故か知っているが理由までは分からなかった
川内→河内「油断なき様にお願いいたします」
そして川内さんは野口の美人秘書だ
この二人で今から潜入が始まる
一歩足を踏み入れると
鈴谷「南提督は忙しいとの事で案内をさせていただきます。秘書艦の鈴谷です」
鈴谷か・・南憲兵さんが言っていた
鈴谷だけは気をつけろと
野口「ふむ・・監査官の野口だ」
河内「秘書の河内です」
鈴谷「・・それでは早速ご案内します。どうぞ」
さて、作戦スタートだ!
それぞれのおんぼろ鎮守府のみんなの戦いが始まった
監査が始まった
鈴谷さんの後ろを歩きながら廊下を進む
お互い会話はない
鈴谷さんはこっちを気にも止めずに歩いている
まるでそこに俺なんていないかの様に
漂う雰囲気からも冷たさしか感じない
でも、それだけじゃない様な気がする
普段の俺ならその冷たさに黙ってしまうだろう
河内「・・・・・」チラッ
野口「・・・・・・」コクリ
でも、この作戦に全てが掛かっている
バレてしまえば全てが水の泡になり南憲兵さんの苦労も全部が意味をなくしてしまう
それだけは絶対にあってはならない
歩き出した今を壊すわけにはいかない
俺は俺であり俺でない
だから全力で俺は
野口「退屈させるのが仕事か?鈴谷」
鈴谷「どう言う意味ですか?」
さらに上の全力で
野口「この野口、客人であり退屈させる様な奴を案内に黙っている紳士ではないぞ」
野口(凄くうざいおっさん)を演じよう
お面(千円札野口拡大コピー)をつけてるので本音もスラスラ言えそうな気がする。顔が見られていないってある意味良いかも
野口「さぁ、何か私を楽しませる心温まる話しをするが良い!」
もっとフレンドリーに話しませんか?
河内「では私が、アイドルを目指している妹が冴えない青年とー」
野口「黙れ」
河内「はい」
鈴谷「・・・・・・・」
野口「貴様の司令官は相手を見ずに案内しろと言ったのか?ん?私も舐められたものだ」
それにしても俺の演じる野口・・俺なら殴ってるくらいにうざい・・
だが、それが野口であり俺だ!
本気の想い貫かせてもらう!
鈴谷「成る程そう言う事ですか」
野口「やっと分かったか」
鈴谷「今回はそう言うパターンで来ましたか。それでいくらですか?」
野口「ん〜〜?」
鈴谷「結局は皆さんお金さえ渡せば解決します」
鈴谷「それは途中までちゃんと見てる様にしてからもありますし最初から難癖をつけて貰おうとする人もいますね」
野口「・・・・・・」
河内「とんだ茶番ですね」
鈴谷「そう、茶番です。ですが悪いとは思いません。寧ろ助かります」
鈴谷「こんな茶番に付き合う時間は惜しいです。お金で済むならさっさと終わらせませんか?」
鈴谷「いくら払えば合格にしてもらえますか?」
野口「・・・・・・・」
河内「そうですね。意味の無い事に時間を使うのは無駄ですね」
鈴谷「話しの分かる方で助かります」
河内「ですが今とは全く関係ない話しですね」
鈴谷「は?」
野口「うむ、口説くならまだしもこの発言は減点対象だ。河内」
河内「はい、減点了解」カキカキ
鈴谷「・・そうですか。そう言うパターンもありましたよ?結局は同じ結果になりますが残念ですね。茶番に付き合わないといけないとは」
鈴谷「忠告です。此処に来る監査官はたくさんいましたが中には本当にちゃんと監査をして・・不合格を出した人間もいます。ですが、此処は動いている。その意味分かりますよね?」
河内「途中でお腹でも壊してトイレに行ったのでしょうか?」
野口「うむ、紙がなく不合格の紙を使って流してしまったのだな」
河内「紙もちゃんと補充していないとは・・」
野口「此処の司令官は紳士ではないな」
鈴谷「・・・忠告はしましたよ」
野口、河内「「ふっ」」ニヤリ
鈴谷「っ・・こちらです。まずは食堂へと案内します」
野口「小娘」
鈴谷「・・・・・・」
野口「これは茶番だ。楽にすれば良い茶番なんだからな?この野口そう言う茶番は好きだぞ?」
鈴谷「・・そうですか」
鈴谷「なら、精々茶番のうちに本音を言ってくださいね」
こうして三人は食堂へと向かった
ー南鎮守府食堂ー
そこにあるのは何時もの日常
笑顔も楽しいお喋りもない。その中で毎回一日だけ笑顔もお喋りもあるそのんな食堂になる
非日常の光景である
監査官が来る時だけみんなは偽りの笑顔で迎える
そして私は普段は作らない様な・・作らせてもらえない御馳走を作っての御機嫌とり・・
この時でさえみんなにお腹いっぱい食べさせてあげる事も出来ない
だからと言って改善される事もない
意味のない・・苦の時間
だって何度言おうと結果は変わらないから・・
でも、もう限界・・結果が変わらないならせめて・・
ガチャ
監査官が来た
普段はシーンとした食堂が賑わう
賑わっているのにそれがその声が笑顔が見てるだけで辛い
鈴谷さんと一緒に・・今回は二名だ
一人は秘書らしいけど、もう一人は千円札のあの人の顔のお面をした変人だ
色んな監査官が来たけどこんなヘンテコな監査官は初めて
もうやる気もないのだろう
この変人も秘書も二人共買収されているだろう
監査官「随分と賑やかな食堂だな」
秘書「えぇ、そうですね」
鈴谷「食堂はこんなものでしょう。ね?伊良湖さん」
伊良湖「・・・そうですね」
鈴谷「・・・・・」ギロッ
伊良湖「っ、はい、皆さん元気いっぱいですよ」ニコニコ
何をやっているのかな・・私は
本当ならこんなの間違ってるって言ってやりたい
言ってやりたいけど・・
伊良湖「こちらへどうぞ」
だけど、そんな辛い時間をこれ以上見るのは限界
どうせいつかは捨てられる
捨てられるなら最後に
無駄だと分かっても足掻いて・・
ごめんねみんな
監査官→野口「名乗るのが遅れたな。野口で紳士だ」
秘書→河内「秘書の河内です」
伊良湖「この食堂を任されている伊良湖です。よろしくお願いします野口さん、河内さん」
野口「うむ、初めてこの鎮守府でまともな挨拶の出来る奴に会ったな」
伊良湖「え?」
河内「お気になさらず」
鈴谷「・・・・・」
もしかしてまだ買収されていない?
ならちゃんと見て・・いえ、どうせ頑張って作っても不味いと因縁を付けられてお金を要求するんでしょうね
どうせ不味いと言われるなら
とびっきり不味く作ってやる!
伊良湖「今、料理を持ってきますのでお待ちください」
野口「うむ、普段皆が食べているもので頼むぞ」
河内「妙に凝ったのとか作ったら減点です」
伊良湖「あ、はい」
因縁を付ける気満々だった
でも、今日でそんな日々ともさよなら出来る
この滅茶苦茶に作ったモナカを!
伊良湖「普段皆さんにおやつで作ってあげているモナカです」
嘘・・本当は作ってあげたいけど作ってあげられていない・・
涙が出そうなのを必死に堪えて笑顔をつくってモナカをテーブルにおいた
その瞬間
河内「っ!」ガシッ
パクッ
秘書さんがモナカを手に取り勢いよく口に入れた
普通は監査官が形だけでも食べていたのに
私の料理を食べる事すらしなくなったなんて
何の為に私は居たんだろう・・・・
いえ、最後くらいは!
伊良湖「野口さんも食べてください一口サイズなのでどうぞ一口で」
なんとしても食べさせてやる!
マヨネーズとかコーラとか普段は一緒なんて有り得ないもので作ったモナカ!
マヨコーラモナカ
河内「毒はありませんし一応食べられますよ」モグモグ
野口「毒味なんてしないでください!もし何かあったら俺は」
伊良湖「え?」
河内「野口!!」
伊良湖「っ!」ビクッ
野口「あ、毒味ご苦労」
伊良湖「い、今のは」
なんか口調が変わった様な
河内「何かありましたか?」
野口「それよりこれを食べても良いのだろう?」
伊良湖「あ、はい、どうぞ」
一瞬感じが変わったような気がしたけど・・
気になる・・
野口「・・・・・」チラッと
パクッ
お面の下を少し上げて食べている口が少し見えたけどやはり若い唇・・絶対におじさんって歳ではない
なんか少し可愛いかも
演技かな?でもなんで?キャラ作り?でもなんで?夏休みデビューと似たような感じの?でもなんで?監査官デビュー?でもでもなんでなんで!
何者なのか凄く気になる
野口(今朝神通さんに無理矢理口に押し込まれたマヨコーラパンアンパン風味と同じ感じの味だ・・慣れてきたかも・・ん?)モグモグ
伊良湖「むぅ〜!」ジーーーー
野口「な、何かな?この野口に惚れたのかな?」
伊良湖「その仮面外してくれませんか?食事中に付けているのは紳士としておかしいと思います」
野口「仮面?そんなの何処にある?」
伊良湖「そう言うの良いから素顔を見せて・・ね?」
野口「この高貴なる顔が素顔だ」
伊良湖「その高貴なる顔が邪魔なの」
野口「ふっ、照れているな」
河内「野口ブロマイド写真ならありますのでどうかそれで」
伊良湖「いらない!」
鈴谷「・・・・・」モナカ
パクッ
鈴谷「っ!」
伊良湖「お願い見せて?ね?ね!」
野口「存分に見ろ!この千を司る顔を」
伊良湖「だからそれはー」
鈴谷「伊良湖!」
伊良湖「っ・・」ビクッ
鈴谷「これはどう言う事?」モナカ
伊良湖「な、何の事でしょうか」
鈴谷「こんな滅茶苦茶な物作れって誰が言ったの?」
河内「残りは神通に持って帰りましょう」ボソッ
野口「やめなさい」ボソッ
伊良湖「これが私の腕前ですが?今まで無関心だったから気付かなかったのでは?いえ、作らせてもらえませんでしたものね?モナカなんて!」
伊良湖「私の作るモナカはこの味ですが何か?」
もうどうでも良い・・どうなっても良い・・
一泡でも吹かせられたらそれで・・
野口「普通に美味しいと思うが?」
鈴谷「はぁ・・そうですか。それなら良かったです」
伊良湖「くっ・・そうですか」
予想してた反応だとはしてもやはりムカつく
伊良湖「でしたらたくさん作ったので残さず全部食べてくださいね!」
鈴谷「時間も余り無いので余計な事をしないでください」
伊良湖「いえいえ、これもこれから監査で大変だろうし敬う意味でたくさん作ったのですよ?美味しいと言っているのだし良いですよね?」
伊良湖「それとも一口でお腹いっぱいだとか言うつもりですか?そんなので合格を出して良いんですか?」
野口「・・・・・」
鈴谷「伊良湖!」
伊良湖「ちゃんと監査してください!一口だけで分からないでしょ!」
伊良湖「私はこんなので納得しません!」
鈴谷「もう良い!次に行きましょう」
野口「いや、まだだな」
鈴谷「は?美味しいならもう良いでしょう!」
河内「私達は監査官ですよ?」
野口「ただの客ならそれで良いだろう」
河内「ですが」
野口「他でもない料理人が納得していないのに」
河内「なぜ合格を出せると?」
野口「鎮守府の味というのがある」
河内「それは私達では分かりません」
鈴谷「・・・・どうしたいんですか」
野口「どうしたいか?簡単だ」
河内「食堂のコックである伊良湖さんが納得をして監査官である野口がそれを承諾して合格となるのです」
野口「まずは自らを信用する事から始まる。自らを信用出来ない奴をどうして合格が出せる。本人が不合格と叫んでいるのを何故無視をする事が出来る」
野口「この野口とて自らを紳士と認めなければ紳士とは呼べない。例え他の者達が紳士と呼ぼうがな」
鈴谷「それはおかしいです。鎮守府監査の合否をこちら側が決めるなんて本来はー」
野口「それをお前が小娘が言うのか?」
鈴谷「っ・・伊良湖、納得しなさい」
伊良湖「出来ません。モナカは残されているんですよ?納得出来ませんよね?」
河内「ねぇ、持って帰ったらダメ?」ボソッ
野口「はしたないですよ」ボソッ
鈴谷「これは命令です!」
伊良湖「・・・・・・」
鈴谷「伊良湖!あんたは!」
野口「待つのだ。食べれば納得すると言っているのだ。食べれば良い」
鈴谷「随分と協力的ですね・・やはりお金が欲しくなりましたか?」
野口「ふっ、払ってみるか?」
河内「・・・・・・」不合格判子構え
鈴谷「・・・・・・」
野口「・・・・・・ふっ」
鈴谷「っ・・やめておきます。さっさと食べてください」
伊良湖「本当に全て食べたなら考えても良いです」
そう、考えてはみる
考えてはね・・
野口「では、頂くか河内、小娘手伝うが良い」
鈴谷「仕方ない・・」パクッ
河内「え?・・あ〜っと、コホン!」
河内「食べても意味はないかと思いますが?」
野口「ほう・・」
鈴谷「っ!」モグモグ
鈴谷「っ、おぇ・・伊良湖!食べたら納得するんですよね?」
伊良湖「考えてはみます」
鈴谷「ほら、考えてみるって言ってるしさっさと食べ・・考えてみる?」
河内「・・・・・・」
河内「やっと気付きましたか」
伊良湖「・・・・・・」
野口「・・・・あ、考えるだけなのか」ボソッ
鈴谷「くっ・・どうすれば納得するの!お金?お金が欲しいなら!」
伊良湖「どうすれば納得するかって?するわけないじゃない!!」
伊良湖「主力艦達に食べさせて他の娘達は必要最低限と言ってるけど必要最低限ですら食べさせてあげられない!」
伊良湖「貴女には分かりますか?食べないと戦えない主力艦達はお腹を空かせた娘達の視線に耐え、それ以外の娘達は悲しそうに見ているんですよ?」
伊良湖「彼に抵抗した娘達には食わせるなと命令された事もありました。でも・・こっそりあげましたよ。そしたら、その娘達は危険な海域に行かされてそのまま・・」
野口「・・・・・・・」
河内「・・・・・・・」
伊良湖「おやつを作ってやれない。倒れた娘にご飯をあげる事すら許されない。会話も笑顔もない。悲しみと苦しみしかないこんな食堂に納得出来ると本気で思ってるんですか!」
鈴谷「・・・・・・・」
伊良湖「秘書艦の貴女が何か言ってやる事は出来ないのですか?少しでも改善させようとは思わないんですか?一人が無理なら私も!」
鈴谷「必要ない・・だって思わないから・・思っちゃいけないから」
伊良湖「そんなに自分の命が惜しいですか!」
鈴谷「伊良湖は勘違いしてる。彼女達は苦なんかじゃない」
伊良湖「あの涙が苦以外の何になるんですか!」
鈴谷「涙ね・・言いたくなかったですが伊良湖がこっそりみんなのご飯を増やしているのは分かっているんですよ?」
伊良湖「っ!」
鈴谷「バレないと思いましたか?食料の備蓄から資材まで全て見ているのは私ですよ?」
伊良湖「っ・・・・」
鈴谷「倒れるほどの娘達はもう居ませんよね?食料の備蓄を誤魔化して提出してあげてんですよ?それで良いじゃないですか」
伊良湖「でも、それでも!本当に最低限で」
鈴谷「最低限にしてあげてんですよ?」
伊良湖「お腹いっぱい食べせてあげたいんです!」
鈴谷「伊良湖は残酷だね」
伊良湖「え?」
鈴谷「満足させてやる事が本当に正解だと思ってるの?」
鈴谷「満足させて幸せにさせてあげてそれがなんの意味になるの?弱くさせてるだけだよね?」
伊良湖「そんな事はないです!彼女達は命を懸けて戦っている。海では常に死ぬかもしれない恐怖や不安での苦を迫られている。ならせめて鎮守府でだけでも安心出来る場所であり幸せを感じさせてやりたいって事が残酷なんですか!」
伊良湖「海でも鎮守府でも苦しむ事が正解だと言うんですか!!」
鈴谷「ずっとは続かない・・艦娘である限り絶対にね」
伊良湖「っ!」
鈴谷「幸せが当たり前になった時・・崩れたらどうなると思う?」
野口「・・・・・・・」
鈴谷「幸せを感じさせてやりたいなら!崩れた時の絶望を苦の責任を取る覚悟があるの?ないよね?そんな自己満足の偽善なんて」
伊良湖「私は・・偽善なんかじゃ・・偽善なんかじゃない!責任を取る覚悟ならあります!」
鈴谷「口でならどうとでも言える!無理なんだよ!本当の苦を知ったら・・もう立てない・・・・」
伊良湖「鈴谷さん・・貴女・・」
鈴谷「伊良湖・・本当の苦はね幸せの中にあるんだよ。私達は・・それを知ってしまえばもう戦えない!それは生きる意味を失う事になるだけ・・」
伊良湖「っ・・・・」
鈴谷「艦娘は弱い・・どんなに力を付けてもどんなに修羅場を越えてきたとしても・・・・」
伊良湖「だからって・・理不尽に沈んでいった娘達は!」
鈴谷「それが運命なんだよ」
伊良湖「そんな・・認めない!私は認めない!認めたくない!助けられた命を運命なんて言葉で片付けないで!」
鈴谷「これだけ言っても認めませんか・・ならもう無理矢理!」ダッ
伊良湖「っ、い、いや!」ビクッ
野口「ストップだ!」
河内「食堂は走ってはいけませんよ」
鈴谷「どいてください。今認めさせますから」
野口「無理に認めさせても意味はないだろう」
河内「それを目の前でやられて黙っている程腐ってはいませんよ?」
伊良湖「二人とも・・・」
鈴谷「本当の事を事実を言っただけだけど?それを認めさせるのも秘書艦の仕事です。邪魔しないでください」
鈴谷「良いですか?艦娘は所詮は・・物です。使い古されて捨てられるのが・・本来のあるべき姿なんです!」
鈴谷「それは変わらないし・・変えられないんです!」
野口「ふむ・・・・とりあえずこれで涙を拭きなさい」千円札
鈴谷「え?」ポロポロ
野口「先程から涙が溢れるように出ているが」
鈴谷「こ、これは違う!汗が目からで!あれ?止まらない」ポロポロ
野口「はぁ、ジッとしてて拭いてあげる」ふきふき
野口「運命だとか馬鹿みたいな言葉を並べて良く言うよ。自分が一番認めてない癖に」
鈴谷「っ・・・・・・」
野口「海軍をよく知ってるよ。知ってて諦めようとしてるけど・・君のその強さがそれを許そうとしていない」
野口「確かにそれは弱さかもしれないね。その弱さにみんなを巻き込んでんじゃねえよ馬鹿」
鈴谷「っ!」ポロポロ
野口「やっぱり千円札は吸水性悪いな・・どんどん出てくる」ふきふき
鈴谷「もう離して・・」ポロポロ
野口「なら涙を止めろ」
鈴谷「これは気にしないで」
野口「気になる」
鈴谷「なら向こう行け見るな」
野口「監査官に見るなは無理だ意地になるなって。それにしても本当に千円札使えないな・・」ふきふき
鈴谷「・・・・・・」ポロポロ
野口「ねぇ、わざと出してない?」
河内「常識的に考えてそれでは目を傷めるのでこれを」ハンカチ
野口「お、おう、ありがとう」
鈴谷「さっきから口調が変わった・・やっぱり演技だったんだ・・馬鹿はお前だ・・」
野口「何の事かな?後私は馬鹿ではない紳士だ」
鈴谷「誤魔化さないで」
野口「そう言う自分だって口調変わってるぞ?馬鹿だな」
鈴谷「・・・・・・」ポロポロ
野口「悪かったよ。ごめんごめん、涙は女の武器だとか言うけどさ使い過ぎると脱水症状になるぞ?」ふきふき
鈴谷「うるさい」
野口「ハンカチは吸水性抜群だな」
鈴谷「どうして・・どうして貴方の言葉は一つ一つがこんなに心に響いて胸が痛むの?」
野口「動悸とか?病院行く?」
鈴谷「真面目に答えてよ」ポロポロ
野口「よく泣くな・・」ふきふき
鈴谷「うるさい!この女泣かし!変態紳士!」
野口「いつ俺が変態紳士になったんだよ!」
河内「・・・・これはまずいかもしれませんね」ボソッ
河内「伊良湖さんちょっと良いですか?」
伊良湖「え?あ、はい」
河内「お願いがあります。此処を守る為に」
河内「ーーーーーーーーー」
伊良湖「っ・・分かりました。それで此処を守れるのなら。ですが、彼は・・」
河内「信じていますから」
河内→川内「じゃあ、お願いね伊良湖」
そう言って川内は姿を消した
鈴谷「それよりお願い教えて貴方は何者なの!どうしてこんなに・・懐かしい気持ちになるの!」
野口「だから野口だって!言ってるだろ!純粋なる紳士のな!」
鈴谷「嘘!じゃあ素顔見せて!」
野口「これが素顔だ!見ろ!高貴だろ」
伊良湖「・・・・・・・」
彼を信じていいのだろうかな?
鈴谷「見せないとまた泣くから本気で泣くから!」
伊良湖「でも、鈴谷さん凄く生き生きとしてる・・やっぱり彼女も・・」
彼女の冷たい心を此処まで溶かした彼なら例え正体が分からなくても
今のこの暗闇では信じて良いのかも知れない
伊良湖「よし!いっちょやりますか!」
久しぶりにやる気が出てきた。もし彼が野口が司令官だったら
・・・・・・・・・
ふふ、きっと退屈しないんだろうな
貴方を信じます
伊良湖「場所を全てにして音量最大っと」カチカチ
河内さんに頼まれた事それは
ピンポンパンポン〜〜
野口「ん?」
鈴谷「放送?」
伊良湖《食堂から全艦娘へと通達!第一回モナカ大祭りを開催致します。モナカをお腹いっぱい食べたい娘達は食堂へどうぞ〜》
彼を司令官を此処へ誘き出す事
ピンポンパンポン〜〜
鈴谷「伊良湖これはどう言う事!」
野口「あれ?河内さんは」
伊良湖「野口さん」
野口「え?はい」
伊良湖「河内さんから頑張れとの事です」
野口「へ?」
鈴谷「放送で今のを撤回しないと!食堂が大変な事に」
ドドドドドドドドドド!!
野口「ん?地震?」
伊良湖「さて、私も頑張りますか!」
扉ドン!!
艦娘達「「「モナカくださーーーーーーい!!」」」
鈴谷「きゃっ!」
野口「うわっ!人混みに流される〜」
伊良湖「さて、後は・・司令官だけですよ」
普段から反抗的な私だからこそ本気だと思ってくれてますよね?司令官
早く来てください。貴方を待っているんですよ
ー南鎮守府執務室ー
南提督「伊良湖の奴め!どう言う事だ!」ダッ
食堂へと走る南提督
誰もいなくなった執務室
シュタ
川内「・・・・・・」ニヤリ
ガチャ
誰かが入ってくる
川内「っ!」
弥生「やっぱり今の放送は・・」
川内「ほっ・・・」
弥生「南提督は?」
川内「提督がどうにかしてくれてる」
弥生「そう・・じゃあ・・今此処には誰もいない」
川内「そう言う事」
川内、弥生「「・・・・・」」ニヤリ
ー南鎮守府食堂ー
南提督「これはどいう事だ!」
艦娘達「「「っ!」」」
鈴谷「っ!南提督・・」
伊良湖「・・・・・・」
後は彼に賭けるしかない
お願い・・此処を救って野口さん
野口「・・・・・・・」
野口「初めましてだな南提督よ」
南提督「あ?誰だ」
野口「紳士であり監査官である野口だ・・」
野口「覚えとけや!このクソ禿げが!!」中指立て
南提督「っ!!貴様!」
伊良湖「野口さん・・」
ほんの少しだけ光が見えた様な気がした
河内じゃなくて川内さんに頑張れという一言で南提督を押し付けられてしまった現状で俺はどうすれば良いのか
咄嗟に出てしまった言葉に後悔はない
これでも抑えた方だ
野口「お分かりかな?クソハゲ提督殿」
ハゲと言うと何故か全くと言って良いほど関係ないけど精神的にダメージを受ける
本当に俺には関係ないけどこんな奴にでも俺の中の慈悲の心が働いてるのだろう
本当にハゲとは関係ないけど
南提督「お前は自分が何を言ってるのか分かってるのか」
野口「自分の発言には責任を取れる程には理解しているつもりだが?」
南提督「ほう・・そうか」
伊良湖「はわわわ!」
周りの艦娘達も怯えている様に見える
冷や汗がさっきからダラダラ垂れている。野口のお面をつけていなかったら動揺しているのがバレバレだっただろう
野口「むっ」
あ、でもこのお面コンビニの印刷用紙だから普通に汗が滲んでる
その動揺を知ってか知らずか
南提督「ふん、まぁ良い。聞かなかった事にしてやる。それよりこいつは誰だ鈴谷」
鈴谷「・・・・・・・」
南提督「ちっ、おい!鈴谷!」
鈴谷「っ!、はい」
南提督「ぼーっとしてんじゃねえぞ!」
鈴谷「す、すみません」
伊良湖「あの、これどうぞ」ハンカチ
野口「ん、あ、ありがと」
こっそりとハンカチをくれた
お面を破らない様に気を付けつつ汗を拭いて滲んだ箇所を拭いておく
今日はよくハンカチをよく貰う
モテ期か?
ないな・・
南提督「これはどう言う事だと聞いてる」
鈴谷「南提督が見た通りだと思います」
鈴谷「この監査官達が・・・っ!」
鈴谷「っ・・・・一人いない」キョロキョロ
南提督「何をしてる!もういい!おい、お前は本当に監査官か?」
鈴谷「成る程そう言う事ですか」ボソッ
鈴谷「なら・・」
野口「そう言ってるが?もう一度最初の会話を再現してやろうか?」
野口「覚えとけや、からね」
南提督「そんなふざけた格好でよく言いやがる」
南提督「これは失礼しました。監視官殿」
わざとらしく頭を下げる南提督
周りの艦娘達がそれを見て小さく騒めく
野口「価値の無い頭を下げても意味は無いぞ?」
南提督「お前さっきから露骨に煽ってばかりだな?何か隠してるのか?そのお手製のお面もくしゃくしゃになってきてるぞ?」
野口「っ・・・・」
合っている。正直言うと焦りに焦って思ったことを考えなしに口に出している
無言だけはダメだと思いどうにか言っているが此処まで言われたら
南提督「おいおい、足震えてるぞ?大丈夫か?監視官さんよ?」
南提督「いや、偽監視官の間違いかな?ん?」
野口「っ!」
冷や汗が一気に吹き出るのを感じた
咄嗟に拭ってしまった
野口「あ・・」
付けているお面はもう汗でほぼ透けてさっき拭ったので破れて顔が半分以上出ている
伊良湖「っ・・若い」ボソッ
野口「な、何を言ってるのかな?」
南提督「分かりやすい程に動揺してるな。と言うかガキじゃねえか」
南提督「どうやら偽物で間違いないようだな。本物はどうしたとかどうやって入ったとかは後で聞けば良いが自分が何をしたか分かってるよな?」
野口「・・・・・・」
もう隠せないか・・
お面を外して野口から俺へと戻る
野口→提督「・・・・・・」
南提督「観念したか取り押さえろ」
数人の艦娘達が少し躊躇うが腕を後ろにして組み伏せられてしまう
提督「っ・・・・」
その時組み伏せた娘が小さな声でごめんと言っていた
こっちこそごめん。こんな事をさせて
でも、それを声に出す事は出来ない
南提督は床に伏せられた俺を虫けらを見るような目で見下ろす
南提督「まだこんな馬鹿がいるとはな」
こうやって組み伏せられると不知火と元帥のあの時を思い出す
また、腕の骨でも折られるのかな
いや、それで済めばまだ良いか
怖いな・・・・
南提督「どんな理由があろうと一般人が許可もなく鎮守府へと入る事は殺されても文句は言えない」
伊良湖「待ってください彼はまだ若いです。世間知らずなだけかもしれません。一度くらいは若気の至りという事で許してあげても」
南提督「見たところ未成年のガキではあるかもしれないがそれで許される場所ではない事も分かるよな?それを許していたらこんな馬鹿が増えるぞ」
伊良湖「そうかもしれませんがお願いです。手荒な真似は・・」
南提督「それはこいつ次第だな。こんな馬鹿が此処まで出来るとも思えない。協力者がいると見ていいだろうな。南憲兵も協力者だろうな。馬鹿な事をする」
南提督「いや、寧ろ南憲兵が首謀者で何かしようとしてるのかもしれないな。あいつは何を考えてるか分からん」
南提督「おい、お前知ってる事を全て言えば命だけは助けてやる」
提督「・・・・・・」
伊良湖「ねぇ、悪いようにはしないから言って。無いなら無いで良いから」
組み伏せられている俺の前でしゃがみこんで子供に言い聞かせる様に伊良湖さんは言った
その手で頭をナデナデしながら
南提督「名前は?此処に来た目的はなんだ。誰に頼まれた」
提督「・・・・・・」
言えない。川内さん達を裏切れない
伊良湖「ただの好奇心で入ったんだよね?ほら、なんだったかな?動画を撮ってえすえぬえす?に投稿して炎上?だっけかな?させて優越感に浸るのが流行ってるのよね」
伊良湖「それとも、えっと・・インスタ・・クラブ?グラブ?蟹?でなんか投稿して・・なんかなるんでしょ?分かるよ。私もやってるから」
何を言っているんだろう?
でも一つ言えるのは伊良湖さんは少なくとも川内さんが居た事は知ってるはずなのにそれを言わない
助けようとしてくれてるんだ
提督「・・・・・・」
南提督「ちっ!退け!」
伊良湖「っ!乱暴はやめて!」
伊良湖さんを無理矢理退かせて
南提督「おい、何か言えよ」ガシッ
提督「っ・・・・・」
ガンッ!
髪を掴み上げて顔面を床に叩きつけられる
鼻血が垂れるが拭く事も出来ない
組み伏せている娘が拭こうと手の力を弱めようとしたが
南提督「余計な事をするな!」
伊良湖「無抵抗の人間に何してんですか!」
南提督「黙れ!」バシッ
伊良湖「きゃっ!」
提督「っ!」ギロッ
南提督「なんだその目は!」ガンッ!
提督「ぐぁ!」
南提督「おい、黙ってたらどうにかなると思ってるのか?ああ?」ガシッ
提督「っ・・・・・・」
南提督「まだ言わないか!」ガンッ
提督「ぐっ!」
伊良湖「やめてお願い!」
伊良湖さんが南提督にすがりつく様に懇願していた
頼む!もうやめてくれ!
南提督「くっ!触れるな!」
伊良湖「私がちゃんと聞いて後で報告しますから!やめてください!」
南提督「お前はいつから俺に指図出来るほど偉くなった」
これは・・
伊良湖「指図なんてしてません!お願いしているんです!」
南提督「そうか・・そう言う事か」
やめろ・・
伊良湖「え?」
南提督の手が腰にある軍刀を掴む
南提督「お前もこいつの仲間だったんだな」シャキン
軍刀の刃が伊良湖さんへと向けられる
伊良湖「ひっ!」
提督「なに軍刀を仲間に向けてんだ!それは簡単に抜いていいものじゃない!」
叫ぶがもう俺の声は聞こえていないようだ
いや、聞く価値がないんだ
提督「くっ!離してくれ!このままじゃ伊良湖さんが!頼む離してくれ!」
そう言うが俺を組み伏せている彼女の手は弱まる事はなく
辛そうに顔を背けていた
提督「っ!」
俺の責任だ。自分のことばかり考えて無言を貫いた
伊良湖さんがこうする事は予想出来た事なのに
周りをちゃんと見れていなかった
作戦に執着し過ぎてしまっていた
馬鹿野郎が!
提督「南提督・・・・」
南提督には勝てる気がしない
このまま傍観をして時間を稼ぐのが良いんだろうな
彼女の血はきっと多くの時間を稼いでくれる・・
でも、そんな事・・・・
春雨『っ・・・・』ニコッ
提督「っ!!」
クソくらえだ!!
南提督「この裏切り者め!」
軍刀が振り下ろされー
伊良湖「いやっ!」
提督「大井と北上だ!!それが俺が此処に来た理由だ!!」
南提督「・・・・・・」ピタッ
伊良湖「っ・・・」
提督「俺は二人を知ってる。それはあんたにとっても困るんじゃないのか?」
南提督「ただのガキじゃねえようだな」
南提督「どこで知ったのか知らんがそのくらいの情報少し調べれば分かる。うちの所から逃げ出したってな。それがなんで困るんだ?」
提督「全てを知ってるからだ」
南提督「全てだと?」
提督「無理矢理艤装を外す実験をしている事や今のこの鎮守府の状況をな」
南提督「・・・・それで?それを知って何しに此処に来た。監視官の真似事までして」
提督「あんたに会いに来た。本当なら対等な立場で話し合いたかった。その為には軍の関係者として会う必要があったし、こんなガキじゃ舐められてしまう」
提督「だから、知り合いの監査官をしてる人に無理を言って頼んで海軍の事も調べて・・此処に来れたんだ」
勿論だが嘘だ
騙されてくれ
南提督「調べたか・・なら、今の状況を理解してるよな?もうお前は対等でもない。例え監査官だとしても司令官と対等?馬鹿じゃないか?」
南提督「伊良湖が世間知らずだと言ったがそれ以上にアホだな」
伊良湖「っ・・・・・」
提督「あぁ、自分の甘さに反吐が出そうだよ」
助けると息巻いておいて実際は情けない姿を晒して他人を危険に晒している
自分がまだまだガキだって事に腹が立って仕方ない
こんな姿を川内さんが南憲兵・・長門さんが見たらきっと幻滅するな
まぁ、どうせ幻滅されるなら
提督「頼みがある・・」
南提督「あぁ?」
提督「俺は二人の居場所を知ってる。だけど二人とも動ける状態じゃないし一人はもう艦娘としては生きていけない状態だ」
提督「二人はもう現役復帰は無理だろう」
南提督「だから?」
提督「二人を見逃してくれ。捕まえようとはしないでくれ」
提督「そしてこんな実験をもうやらないと誓って欲しい」
南提督「お前本気で言ってるのか?」
提督「それから艦娘達の事も考えてやって今のやり方を変えてみんなが笑える様なルールに変えてくれ」
南提督「お前・・」
提督「そうしてくれたら二人の事も今回の事も全部黙っておく」
南提督「まじかよ・・アホどころじゃねえぞ・・大アホだ。自分の今の状況も海軍の事も何も知らない」
南提督「よくも此処まで来れたな?凄いぞ逆に」
提督「・・・・・・」
南提督「で?そんな大アホなお前はそこまでして何が目的なんだ?」
提督「守りたいんだ大切な人を場所を」
そう、どうせ幻滅されるなら
とことん大甘な自分をぶつけよう
砂糖でも吐きやがれ
南提督「守りたい?艦娘をか?」
提督「あぁ」
俺が生きて絶望して
全てを失ったと思った
あの時に
光を見せてくれた
提督「俺にとって艦娘達は大切な存在なんだ。この命を賭けても悔いはないくらいにね」
感謝してもしきれないくらい感謝している。西提督や黒髪、メガネ、金髪達やたくさんの人達と出会えたのも全てが艦娘達のおかげなんだ
俺が俺である証なんだ
南提督「・・・・・・」
提督「笑えよ。大甘だって言えよ」
その言葉にこっちも笑ってやるよ
伊良湖「貴方は・・・・」
南提督「・・気に入らない」
提督「・・・・・」
南提督「足もガクガクだった。組み伏せられている状況に恐怖を感じていた。抵抗も出来ない状況の筈だ」
南提督「歳相応の反応だった」
南提督「なのに今は違う・・何かが変わった。ガキという枠には収まらない」
南提督「司令官・・の器を持ってると言えば言い過ぎかも知れないが」
南提督「今のお前の戯言を笑える程俺は無能じゃない。その言葉をそのままには出来ないな」
南提督「少し話そうか」
提督「・・・・・・」
南提督「軍人とはなんだ?」
南提督「何の為に戦い、何の為に生きる」
提督「・・・・・」
南提督「守る為だ。だが、それは艦娘じゃない。人間だ。そしてそれは地位も力も持たない一般人達だ」
南提督「彼等は軍の為に税金という支援をしてくれている。奴等が現れてから更にその税金に海軍支援金という月にいくらか払わないといけない金まで増えた」
南提督「今の景気は海という大きな財産を失い大きく下降している。その中で彼等は軍を支援してくれている。中にはその所為で生活がままならない人達もいる」
南提督「住む場所もその日の食料も心配しないといけない。そんな所もあるんだ」
南提督「軍人とは本来一般人達の代わりに苦しむ道を通りそして憎まれる存在であり」
南提督「人類の進歩の一番先を行っていなければいけない、分かるか?」
提督「結局なにが言いたい」
南提督「そんな軍人が一般人に守られるなんて事はあってはならない。ましてや軍人が軍人を甘やかすなど支援してくれている一般人達の冒涜以外のなにものでもない」
南提督「一般人の代わりに苦しむのが軍人だ。そして新たに現れた艦娘と言う存在。それは軍人の為に苦しむ存在だと思わないか?」
提督「なに言ってんだよ。思うわけないだろ!」
南提督「人間は産まれた時から色々道がある。戦う道もあるがそれ以外もある」
南提督「だが、こいつらはどうだ?最初から兵器を持っていて人間には出来ない破壊が出来る」
南提督「こいつらに戦う以外の道があると思うか?それ以外の価値があると思うか?」
提督「ある。お前が知らないだけだ」
南提督「こいつらに赤ん坊が抱けるか?」
提督「抱ける。その資格が彼女達にはある」
伊良湖「っ!」
南提督「お前はこいつらの唯一の価値を否定しているんだぞ!」
提督「あぁ!それが唯一の価値ならそんな価値否定してやる!価値に価値なんてないんだよ!」
提督「生きる者に価値なんて必要ない!」
南提督「ちっ!いい加減に現実を見ろ!こいつらは同じのがたくさんいる!死のうがなんだろうが代わりはたくさんいる!人間はそうじゃないだろ!」
提督「彼女達にも一人一人違う想いがある。外面しか見てないのか!」
提督「本当に兵器だけの存在なら彼女達は人の姿をしなくても良かった。涙も笑顔も心も想いも必要ない」
提督「都合のいい解釈で本当にあるものを見ない。そんな戯言に意味なんてない」
南提督「戯言だと!」
提督「戯言だ!」
提督「もう一度言う!大井さんと北上さんから手を引け!そしてふざけた実験もやめろ!」
南提督「お前は人類の進化を否定している!実験があり犠牲があるから人類は進歩してきた!拷問器具が今で言う車を生み出し解剖があったから医学が発達した」
南提督「お前はその為に死んでいった者たちを否定している!俺はこの先の未来の為に彼女達に犠牲になってもらっている!それは今まで人間がやってきた事だ!艦娘達も人間と変わらないなら同じ様にしてなにが悪い!」
南提督「正式な部分解体は資材も金も結構掛かる。それがもし簡単に出来れば新たな道を開けるチャンスをもっと多くの艦娘達に与えてやる事も出来るかもしれないんだぞ!」
南提督「北上の犠牲はこれからの未来になる!」
提督「っ・・・・・」
南提督「これが悪だとするなら!これは必要悪だ!俺は俺の守りたい存在の為にたった一人の大切な家族の為に悪になろう!」
南提督「その覚悟が俺にはある!命でも賭けてやる!」
提督「そんな覚悟・・」
南提督「否定するか?俺の守りたい存在を」
提督「その守りたい存在の為に悲しむ人がいるんだぞ」
南提督「生きるとはそう言う事だ。誰かが笑えば誰かが泣く。誰かが死ねば誰かが生まれる。それがこの世界でのルールだ」
南提督「俺はそれを知って操作しているだけだ。代わりに泣く存在をな」
南提督「お前は今俺の守りたい存在を脅かしているんだ」
提督「・・・・・・・」
ある人が言っていた
戦争は政治であり必要な事である
正義の反対はもう一つの正義
戦いはお互いの信じる正義によって起こる
南提督には守る人が家族がいる
その為には他を犠牲にしても良いと思っている
それが本当の覚悟だと言うのも分かる
他者を傷つける事はそれだけの覚悟がいる
生き抜くとは死を踏み越えているという事
どんな綺麗事でも絶対に覆せない生と死
必ず生の死を越えて生きている
それを否定してはいけない
それを知って生きている人間は本当の意味で人の一つ先を行く存在なのかもしれない
これからに必要な人間なんだ
それでも
俺は・・
提督「なら俺は踏み越えるよ貴方を」
南提督「なら俺は全力で阻止するまでだ。認めるよ。お前は俺の脅威だ」
提督「・・・・・・」
南提督「生きて帰すわけにはいかないな」
提督「その軍刀で斬るのか?」
南提督「ふっ、これは人間は斬れない。日本刀の偽物のような物だ」
提督「・・・・・・」
南提督「俺が直々にこの手でなぶり殺してやる。楽に死ねると思うなよ?」
南提督「勿論拘束させたままだがな。西鎮守府の西提督なら一対一の殴り合いとか言いそうだが、俺は確実に脅威は消させてもらう」
南提督「最後に名前を聞いてやる」
提督「・・・野口だ」
川内さん・・時間は稼ぎます
南提督「本名を聞いてる」
提督「野口◯世だ」
南提督「・・・・・・」
南提督「最後だ・・北上と大井の居場所を言うなら生かしてやる」
提督「嘘をつくなよ。脅威をそのままにするなんてしないだろ?」
南提督「ふっ、お前とは違う形で出会いたかったな。本当に残念だ。人類の敵が!」
そう言うとそのまま近寄り組み伏せられている提督の顔を踏みつけた
提督「っー!」
だから後はお願いします。どうか死ぬまでに・・みんなを助けてやってください
南提督「そのまま掴んでろよ」
伊良湖「ダメ・・やめて!」
南提督「伊良湖も拘束しておけ!こいつと同じ目に合わせたくなかったらな!」
伊良湖「っ!」
周りの娘達はゆっくりと近寄りそっと伊良湖に触れた
抵抗しないでと目で訴えながら
その目からは涙が溢れていた
伊良湖「やめて・・こんなの・・」
抵抗したらこの娘達は伊良湖を組み伏せて提督と同じ様にしなければいけなくなる
それだけはさせたくない
伊良湖「ごめんなさい・・ごめんなさい野口さん」ポロポロ
目の前で殴り蹴られる提督の姿を見ながらただ泣く事しか出来なかった
その頃執務室では川内と弥生そして彼女の姿があった
最初からおかしいと思ってはいた
でも、そんな事を気にしても仕方がないと思っていた
どうせ変わらないと分かっているから
いや・・違うかな
変えさせないの間違いかな
鈴谷「絶対に変えさせない」
それは絶対であり得ないことであり生きる意味でもあった
でも、それを揺るがそうとする存在が現れた
それはあの人と同じ強い意志を持ち、時折何を言ってるのか分からないけどドキドキさせてワクワクさせてくれる存在だった
それは最初の一言から感じていた
でも、あり得ないと言い聞かせていた
それでも話せば話す程に彼を思い出した彼を感じた
気付くと私は自分に被せていた殻を剥がされかけていた
硬く外れなくなっていた殻を簡単に外してしまう彼に恐怖を感じた
また、希望を持ってしまうと
そして分かってしまった
何事もなく終わる事は無理だと
そうでないように祈り
気付かないフリをする
でも、それも限界だった
彼は・・野口は偽物だ
そしてもう一人の秘書がいなくなっていたのに気付いた時
彼等の本当の目的に気付いた
この世界にもまだそんな奴がいるんだと少し嬉しくも思った
でも、関係ない
彼等は敵であり・・私の残った目的を壊してしまう
もし南提督が失脚すれば・・助けられなかったあの子の様に・・
それだけはあってはならない
次こそは・・・
鈴谷「守る!」
あの場にあの野口と言う男の秘書がいなくなっていた
あの男はやはりあの人に似てる
何かをやらかそうとしてる
もし向こう側にいられたならどれだけ・・いえ、関係ない
それが分かりすぐにその場から走り出した
あの人の様に隠しきれていない
あの人をよく知るからこそ分かる
あいつらは!私の全てを奪おうとしてる!
でも、簡単な気持ちじゃない
覚悟を持ってる
鈴谷「くっ・・・」
本当に悔しい・・こんな日が来るなんて
もう背けられない
野口も秘書も敵だ!
ー南鎮守府執務室ー
ガチャ
鈴谷「っ!」
川内「やあ、ノックぐらいしたら?」
鈴谷「・・・・・」ギロッ
川内「そんなに睨んでどうしたの?」
鈴谷「なに偉そうに南提督の机に座ってるの?」
こいつが全てを奪おうと
あいつの様にまた壊そうとしている
川内「ん?司令官の気分を味わってたのどんなに頑張っても私じゃこの椅子に座る事は出来ないから」
少し寂しそうに言う
その顔の所為で言ってしまっただけの一言
鈴谷「諦めなければ何事も達成出来る日は来る・・」
川内「・・・・よく言えるね」
鈴谷「っ・・忘れて」
川内「忘れない。ありがと」
鈴谷「っ・・・・」
本当にやりにくい
鈴谷「目的の物は手に入ったの?」
川内「目的?いや〜一度で良いから司令官の机と言うのに座ってみたかったんだよ。その机にどれ程の物が背負われているのか・・・・ね?」
そう言うと書類を取り出して机の上に乱暴に置いた
川内「凄いよね。此処の司令官は自分のやっている事が正解だと疑っていない。こんなに堂々と書かれていたらそりゃあ見つけられないよ」
鈴谷「・・返せ」
川内「まぁ、これを提出はしてないんだろうけどね。この内容は面白くないね」
鈴谷「返せ」
川内「全部知ってたの?それとも知ろうとしなかった?」
鈴谷「返せ!」
書類を奪おうとする鈴谷
川内「堂々と背負う事を放棄してる人が此処に座る事が?」
鈴谷「何を偉そうに!その机に座るな!」
ガシッ
川内を掴む鈴谷
川内「いっ・・やっぱ力強いね!私じゃあ勝てないよ。全てにおいてね・・でも!」
川内「弥生!」ポイッ
書類を丸めて一つにして執務室の出口へと投げる
鈴谷「っ!何を」
その時
出口の近くにあった南提督の上着専用洋服ダンスのドアが開く
ガタッ!
弥生「うぇっ・・」
鈴谷「っ!弥生何をして!」
その書類を拾うと
川内「後はお願い!」
弥生「鈴谷・・ごめん!」ダッ
走り出した
鈴谷「っ!なんて事を」
すぐに追いかけて奪わないと
ガシッ
鈴谷「っ!」
川内「もう少し遊ばない?」
鈴谷「自分が何したか分かってるの!今ならー」
見逃してやる
そう言おうとするが
川内「分かってるし鈴谷には勝てないのも分かる。圧倒的力の差があるね」
鈴谷「なら離さないと」
川内「今彼がどうなってるか分かる?」
鈴谷「はぁ?」
川内「きっと身体を張って南提督を抑えてくれている。時間を稼いでくれている」
鈴谷「だからなによ!」
川内「こっちも身体張らないとダメなんだよ。今度は私の番だよ」
鈴谷「っ、まさか!」
これも作戦のうちで
川内「鈴谷と南提督の二人を抑えればこの鎮守府で自ら動こうと思う娘はいないよ?例えこの作戦に気付いた娘がいたとしてもね」
鈴谷「くっ、そんな事は!」
川内「ないって言える?本当に彼女達は動いてくれると思う?」
鈴谷「っ、なんて事・・」
こんな事すぐに気付けた筈なのに!
川内「最初から彼に全部押し付ける気なんてないよ」
川内「もう一回お礼言わせてもらうね?気付いてくれてありがとうね」ニヤリ
鈴谷「っ!この!離せ」バシッ
川内「っ・・力差はあっても掴んでおけるくらいは出来るよ?」ガシッ
ガッシリとホールドされる
川内「ううん、良い匂いがするよ?香水何使ってるの?ドルガバのライトブルー?」
鈴谷「関係ないでしょ!」
鈴谷「この!!」艤装展開
川内「ふん!」艤装展開
鈴谷「なっ!」
艦娘!
その可能性は考えてたのに
川内「それじゃあ・・お話ししようか?同じ艦娘同士ね」
川内「ねぇ、その香水の名前は?」ニコリ
鈴谷「っ!!」
してやったりと笑う彼女に私は自分が最初から転がされていた事に気付き
そしてそれを少しでも良かったと思ってしまったことに苛立ちが隠せなくなり
鈴谷「なら!お前から!!」ドゴッ
川内「ごふっ!」
一瞬手の力が弱まった思ったが
川内「・・ふふ、それだけ?」ガシッ
再び強く掴み攻撃するわけでもなく
川内「次は?」ニコリ
笑った
馬鹿にするわけでもない曇りもない笑顔で
でも
鈴谷「この!!」
その笑顔が怖く感じた
そして誰かを信じているその顔が気に入らない
そんな人はもういない
いないのだから・・
鈴谷はもう止められなかった
ただ、その苛立ちを川内へとぶつけるのだった
弥生は書類を拾うと走った
鈴谷が来る事を知っていた川内は強引に南提督の上着を吊るしている洋服ダンスに押し込んだ
そして自分が鈴谷を抑えておくから書類を持って南憲兵の元へと走れと言った
加齢臭に包まれた上着の中吐きそうになりそうなのを我慢してその時を待った
川内の声とともに飛び出し書類を持ち走った
あと少し遅かったら吐いていたと思う
あの後大きな音がしたが
川内は言った
『私や彼に何があったとしても立ち止まらずに走ってそれを届けて』
だから振り返らずに走った
その言葉を信じて
弥生「っ!」
でも、食堂の前を通った時に足が止まる
沢山の艦娘達に囲まれ
その真ん中で彼は・・お兄ちゃんが押さえつけられ南提督に殴られていた
周りの娘達はただ泣きそうな顔で事を見ているだけで
でも、伊良湖さんだけは押さえつけられている中でも必死にやめるように叫んでいる
お兄ちゃんを押さえつけている娘も目を背けている
この中に味方は一人しかいない
その中でお兄ちゃんは
そう思うと
何も出来ないかもしれないけど
私も近くに居てやりたいと
食堂へと足が向けられる
弥生「お兄ちゃん」
でも、その時
南提督「どうだ!今ならやめてやっても良いぞ!大井と北上は何処だ!」
提督「っ・・言わねえよ・・絶対に言うかよ!」
ドゴッ
また殴られる
提督「っ・・俺が死ぬまでに吐かせられるならやってみろやぁあああ!!」
南提督「こいつ!!」
そうだ・・お兄ちゃんも戦っている
一人じゃない
私も川内も南憲兵も
離れているけど
信じて戦っている
弥生「っ、行こう」
書類を持つ手に力が入る
その時何人かと目が合ってしまった
弥生「っ!」
しかし、彼女達は何も言わなかった
南提督「ん?なんだ?」
弥生「あ・・」
やばい振り向きそうだ
「うわぁああああん!」
一人が大きな声で泣き出し
皆がそれに続くように泣き崩れ出した
南提督「ちっ!うるせぇぞ!テメェら!」
提督「・・・・」チラッ
弥生「っ・・・」
提督「・・・・・」ニコッ
弥生「っ!」コクリ
私は頷いて再び走った
提督「最低な奴だな!女の子泣かしやがって!」
提督「司令官としての器はもうないな!」
痛むはずなのに叫ぶ様に言った
南提督「うるさい!」ドゴッ
再び聞こえてくる殴る様な鈍い音を背にして走る
南提督「っ!」
提督「っ・・・」
鈴谷「っ!」
川内「っ・・・」
二人の為に
みんなの為に
弥生「待ってて!みんな!」
ー南鎮守府憲兵詰所ー
南憲兵「・・・・・・」
彼は
いや、彼女は待った
ただ目を瞑りその時を待った
今自分が動いても意味はない
だからこそもし事が起こった時すぐに動ける様に準備をして
後はただ彼らを信じて
待った
南憲兵「・・・・・・」グワッ!
電話を手に取った
弥生「南憲兵!」
目に涙を溜め飛び付いてくる彼女を抱きしめる様にして書類を受け取り
南憲兵「後は任せろ!弥生は此処で待っててくれ」
そう言って撫でてやった
証拠は揃った
後は本部へと連絡をして奴の悪事を報告して申請をして
南憲兵「面倒だ!!そんなのは後だ!」
もう充分と言う程待ち過ぎていた南憲兵は動かずにはいられなかった
南鎮守府中へと走り出した
弥生「お願い・・・」
一人祈る弥生だった
ー南鎮守府食堂ー
南提督「おい、起きろ」ガシッ
提督「」
南提督「ちっ、さっきまでの威勢はどうした!何か言え!」
提督「」
南提督「くそが!」
動かなくなってしまった提督
顔には無数の痣に血の跡
こうなってまで誰も止めようとしなかった
泣き疲れた彼女は呟くよう言う
伊良湖「・・・・何をやってるのよ・・これが・・軍のやる事なの?」
そして怒りを含み皆んなに大声で叫んだ
伊良湖「ねえ!そうなの!みんなを守ろうとしてる人をこうやって見殺しにする事が軍のやり方なのに!」
みんなは目を伏せていた
涙が落ちているのも見えるけど
もうそんなのは関係ない
この娘達は、そして私は
彼を見捨てた
あ、そうか。そう言う事なのか
伊良湖は気付いた
伊良湖「人間達が正しかった。いえ、南提督が正しかった」
伊良湖「私達は守ってもらう価値なんてなかった・・・・私達には助かる資格なんてない!」
あんなに愛おしく思っていた艦娘達が今では自分を含めて憎い
伊良湖「・・・・・」
大きな後悔と憎悪に包まれた彼女には優しさなどもうなかった
うん、壊そう
全てを壊してしまおう
そう思った時
提督「」ピクッ
伊良湖「野口さん!」
その気持ちが彼が生きているという事だけで吹っ飛んだ
もう掴んでいる娘達も押しのけて野口の元へと走り押さえてる娘を押し退けて彼に庇うように覆い被さる
これ以上何かさせるつもりはない
伊良湖「良かった・・良かった・・」ポロポロ
提督「いら・・こ・・さん」
こんなに生きてる事を嬉しかった事は今までになかった
そして大きな後悔と憎悪は彼を艦娘達以上に愛おしく思う気持ちへと変えた
伊良湖「もう大丈夫だからね?」ナデナデ
提督「っ!・・だめ・・だよ・・」
何か気付いた様子だったがすぐに眠るようにゆっくり目を閉じた
もう彼の為なら鎮守府を海軍そのものをなくしてしまってもいいと思える程の闇が生まれてしまった瞬間でもあった
南提督「おい、伊良湖をどかせろ」
しかし、その言葉に反応する娘達はいなかった
もう彼女達も彼が生きていた事に安堵してこれ以上従う事を放棄したのだ
後悔していたのは伊良湖だけではなかった
南提督「役立たず共が!おい、伊良湖どけ」
伊良湖「いや」
南提督「他の奴らがどうなっても良いのか?」
伊良湖「良い」
即答だった
その言葉に周りの娘達も頷いた
自分達の価値を見出したのだ
助かる資格のない存在だと
伊良湖「すぐに治療の準備をしなさい!」
その声には優しさはなかった
その声に何人かの娘達が医務室へと走り出した
南提督「お前ら勝手な事を!」
伊良湖「こいつも押さえろ!」
この人の顔を見るとまた苦しくなる
自分が憎くてみんなが憎くて
どうにかなってしまいそう
数人が南提督を押さえ込む
南提督「お前ら自分がなにをしたか分かってるのか!」
ああ・・憎いな・・本当に自分が憎い
伊良湖「うるさい人ですね・・そうだ」
調理場へと向かった伊良湖の手には包丁があった
南提督「そ、それをどうするつもりだ!」
伊良湖「分かってるでしょ?しっかり押さえてなさい」
彼女達の目には怯えも何もかもなくなっていた
あるのは無だった
南提督「や、やめろ!お前達も離せ!こんな事があると知れば大変な事になるんだぞ!艦娘達の立場は!」
伊良湖「うるさい」ザシュ
南提督「っ!」
伊良湖「もう立場なんて関係ないんですよ。もう・・・」
もう、戻れないんだから・・・・
南提督「ばけ・・もの・・が・・」バタッ
伊良湖「・・・・・知ってます」
南憲兵「南提督!お前の悪事も此処まーっ・・何が起きてるんだ」
返り血に染まった伊良湖に血だらけで倒れている南提督
それはどう見ても分かってしまう状態だった
南憲兵「っ・・・伊良湖、大人しくするんだ良いな?」
伊良湖「まだ、彼女が残ってるんで・・・・退いてもらえますか?」
その目は本気だった
本気で・・
南憲兵「・・これ以上罪を重ねるな」
伊良湖「罪?おかしな人ですね?罪なんて・・生まれた時からあるでしょうに・・・だって私達は艦娘なんですよ?」
南憲兵「生まれた時からある罪なんてない。とにかく今は彼を助けないといけない分かるか?」
伊良湖「あ、そうでした。野口さんを助けないといけないですね。こんな屑達はほっておいて」
さっきまでと打って変わって何時もの伊良湖さんの様な元気なトーンになる
そして背を向けた彼女に
南憲兵「すまない!」ガンッ
伊良湖「っ!」バタッ
南憲兵「今のお前は危険だ。眠っていてくれ」
「彼を!」
他の娘達も心配なのか焦っているのが分かる
南憲兵「分かってる」
提督の傷の確認をする
南憲兵「傷の割には脈も安定しているし命には別状はなさそうだが急いだ方がいいな」
提督「」
南憲兵「よく頑張ってくれたな」
その傷は名誉ある傷だぞ
本当にお前に惚れてしまいそうだ
「あ、あの・・これ」救急箱
南憲兵「ん?そんな救急箱じゃ意味がない!怪我のレベルが違う!医務室へ運べ!」
「あれは?どうします?」
南提督「」
あれと呼ばれるとは自業自得とは言え哀れだな
南憲兵「・・・・運べ。こいつが死ぬのは此処じゃない」
今治療をすれば助かるかもしないが助ける価値はない
と言うよりも刺されたにしては血の量がそんなにだな
ほっておいても大丈夫かもしれない
だが、それでも、同じ軍人だった
見捨てる事は出来ない
いや、違うな。軍人だからじゃない。伊良湖を殺人犯にする事だけは避ける
その為だけに
お前を助ける努力をしよう
「お医者さん呼びますか?」
南憲兵「いや、今の惨状は見せられない。治療は俺がしよう」
血に汚れた食堂を去るのだった
彼女を残して
伊良湖「」ピクッ
ー南鎮守府執務室ー
鈴谷「この・・この・・」ペチ・・
川内「・・・・・」
途中までは力一杯殴られていた
艤装展開をする余裕もなくなりいよいよ死ぬのかなと思った時
鈴谷も艤装展開を解除して
それからはただペチペチとしていた
痛くもないしこっちもすでに手を離しているが追いかけようともしない
川内「行くか殺すかしたら?」
鈴谷「もう手遅れだって分かってるから無駄な抵抗してるの・・」ペチペチ
鈴谷「ううん、違う。野口に貴女の強さに・・完敗したのかな?」
川内「鈴谷・・・」
鈴谷「なんだろうね。やっぱり思い出しちゃうな・・あの日を」
苦しくて大変な時もあったけど耐えて耐えて守ってきたあの日を・・
鈴谷「もう無理だよ・・・これ以上戦いたくないよ・・」ポロポロ
抱きしめられて泣かれる
川内「いてて・・・これは肋骨折れてるかな」
川内「はぁ・・よしよし」ナデナデ
鈴谷「でも、最後だけ守らせて・・お願いあるの・・」
川内「ん?」
鈴谷「南提督と私が捕まったら」
ガチャ
伊良湖「・・・・・・」
川内「伊良湖?」
なんだろう終わった筈なのに
どうしてそんな顔をしているの?
そしてどうしてそんなに血だらけなの?
川内「伊良湖そこから動かー」
鈴谷「どうやら終わったみたいだね・・」
鈴谷「虫のいい話だってのは分かってる。だけど私が捕まったらー」
伊良湖「っ!」ダッ
川内「右に避けて!」
鈴谷「え?」
伊良湖「っ!」シュッ
鈴谷「っ!」サッ
伊良湖「くっ」シュッ
鈴谷「やばっ!」
川内「やめっ!」ドゴッ
伊良湖「うっ!」
川内「どう言うつもり!終わったんだよね?」
鈴谷「っ・・伊良湖、その血は?」
川内「野口に何かあったの?」
伊良湖「彼は無事よ・・でも、苦しんでる。憎んでる・・悲しんでる。だから此処にいる」
川内「彼は憎んだりなんかしない!そんなに弱くない!」
伊良湖「違う!憎んでるのも・・悲しいのも私よ・・もう止まらない止められない!」
伊良湖「貴女の境遇も思いも全てが何もかもが彼を苦しめていた。こんな結果を生んでしまった!」
鈴谷「伊良湖・・・・」
伊良湖「責任を取らないとね?」
鈴谷「・・・・・・」
川内「どうやら止めないといけないみたいだね。もう艤装は展開出来ないと思うけど鈴谷やれそう?」
鈴谷「ううん、そうだね。責任とる時が来たのかもね」
川内「鈴谷?」
鈴谷「全ての責任は私にある。殺るなら私だけにして此処の娘達も貴女自身も許してあげて」
伊良湖「私が一番許せないのは・・自分なんですよ?もうね?苦しいの・・こんなに自分が憎いなんて・・こんなに悲しいなんて初めてでどうにかなりそう!」ポロポロ
鈴谷「伊良湖・・ごめんね」
ゆっくりと近寄る
川内「ちょっと!鈴谷!」
鈴谷「貴女を追い詰めてこうなってしまう事も分かっていた。自分の事しか考えずに逃げ続けた」
鈴谷「それでも心のどこかでは貴女だけは許してくれるって思ってたのかもしれない・・でも」スッ
伊良湖の涙を拭い優しく頬を撫でる
手に血が付くけどこの血は伊良湖のじゃない
うん、誰なのかも分かる
汚い血だ。本当なら私が汚れるべきだった
もう、手遅れにさせちゃったんだね
私の所為で
私の代わりに汚れてくれた
鈴谷「こんな事をさせてしまってごめんね?」
伊良湖「鈴谷・・さん・・」
持っている包丁が震えている
此処でやめてしまっても伊良湖は苦しむ
何か決定的な結果を終わりをあげないと
伊良湖は壊れてしまう
自身の憎しみで
鈴谷「伊良湖・・」スッ
伊良湖「っ!」
伊良湖の包丁を持つ手を私の首へと置いた
包丁の刃が首に当たっている
後は少し伊良湖が力を入れれば包丁は私の首を切る
それがこの憎しみと苦しみを終える
中途半端に良心を知ってしまっている彼女への一つの決断をさせてくれるだろう
伊良湖は私と違って強いから
伊良湖「鈴谷さん・・」
包丁を持つ手に力が入る
やっぱり強いな伊良湖さんは
川内「本当に良いの?これから先良くなるかもしれない。未来を捨てるの?」
鈴谷「余計な事を言わないで!この先に何があるの?もう何も見えないよ」
川内「それはちゃんと前を見てないから。これから見ればいいよ。見方が分からないなら教えるから」
川内「貴女のような人が此処で終わったらダメだよ。逃げ続けた先にあるのは新たな道だよ。それを探そう?」
鈴谷「・・・・・・」
川内「人も艦娘だって間違えて知って生きていく・・それが生きる道だよ。鈴谷はまだ間に合うよ」
鈴谷「・・ありがとう・・もっと貴女と早く出会って聞きたかった」
鈴谷「でも、もう良いんだ・・」
川内「っ、伊良湖も此処で鈴谷を殺しても何も」
伊良湖「分かってます。でも、それでももう汚れてしまった・・そんな自分と今までの自分が責めてくるの・・何がしたいのって」
伊良湖「見捨てておいた癖に彼の為とか言って結局は自分の為で・・・・私は此処で終わりたくない!壊れたくない!だから、前の自分を完全に断つ為に・・鈴谷さん貴女を・・」
鈴谷「うん、良いよ」
川内「駄目・・伊良湖はこっち側に来たら駄目!何か方法はある筈なんだよ!まだ諦めたら駄目!」
伊良湖「ありがと」
鈴谷「ごめんね巻き込んで後はお願い」
川内「っ!待ってまだ最後のお願いを聞いてないよ!」
鈴谷「・・・・南提督にはね?海軍養成学校に娘さんが居るんだけど・・凄く良い娘なんだよ。だからこそ此処に来る時に・・ね?落としてやろうと思ったの・・この道を進ませない為に」
川内「っ・・だったらその子の為にも居てやらないと」
鈴谷「もういい。これ以上その子の未来を勝手に決めるのはやめる。死んだ提督に重ねるのもやめるよ。きっと強く生きてくれる」
川内「っ!彼は」
鈴谷「お願い」
伊良湖「・・ごめんね。鈴谷さん」スッ
伊良湖「さようなら」
最後に冷たく言われたその言葉に鈴谷は目を瞑る
包丁に力が入りそして
川内「っ!!」
もう駄目だ
そう思った時
提督「何やってんだよ!」
そこにはボロボロの包帯巻き巻き姿の提督がいた
立ているのも辛そうだが走った
伊良湖「あ・・野口さん」
包丁が床へと落ちる
鈴谷「え?」
その顔に見覚えがあった
提督「この!」シュッ
その声に見覚えがあった
でも、彼じゃない
そう、彼じゃないけど会いたかった
守りたかったあの人の私の大事な大事な!
提督ちゃん!!
提督「うぉおおお!」
その何をしようかバレバレのフォームで避けてくださいと言わんばかりに振りかぶって
もう可愛い!!
殴るの?私を?
うん、殴って!!
当たりやすい様に少し位置を修正する
目指すはクリティカル
鈴谷「提督ちゃー」
提督「馬鹿ちんが!!」ドゴッ
鈴谷「ふぐっ!」
提督は鈴谷を問答無用で殴り飛ばした
そして提督も殴った勢いで鈴谷へ倒れこむ
南憲兵「こらっ!起きたと思ったらいきなり走り出しやがって!」
南憲兵「っ!伊良湖!」ダッ
南憲兵「何をしようとしている!」ガシッ
伊良湖「あ、これは」
伊良湖をそのまま投げ飛ばした
伊良湖「ふぎゃ!」
南憲兵「大人しくしろ!」
伊良湖「いたた、しますから!」
南憲兵「本当だろうな!」ギュ〜
伊良湖「いたたた!」
提督「いてて・・てか、なんで笑ってんだよ。でも、ちょっとやり過ぎたごめん」
鈴谷「え?笑ってる?本当に?えへへ、あ、起きなくて良いよ?このまま倒れ込んだ状態で良いからね?大きくなってーーーー!!それに優しーーーーーーい!!」ギュッ〜
提督「いててて!何のことだよ!」
川内でも無理だった二人をあっという間に倒す人間と元艦娘だった
川内「はは・・本当に面白いと言うか・・カッコいいと言うか・・」
川内「ちょっと・・キュンとしたかもしれないし・・やばいかも」
どうにか最悪の事態は免れたがまだ本筋は終わっていない
川内「まぁ、とりあえずはひと段落はつけそうかな」
そう思いつつ倒れ込むのだった
川内「はぁ・・久しぶりかもな・・」
こんなに感情を込めて叫んだのは
失いたくない存在・・それは失ってしまえば悲しくて何も出来なくなる
だからそんな存在はいらない
でも、出来てしまった。そしてそれを守ってくれた
川内「ありがと提督さん」ボソッ
その声には今までにない感情が込められているのに本人も気付かなかったのであった
ー青年編ー
ーおんぼろ鎮守府懲罰房ー
青年「・・・・・・」
また、朝を迎えた
後どれだけの朝を迎える事が出来るのだろうか
青年「如月さんはどうしてるだろう」
昨日あんな事があったのもありまた顔を見るのが少し恥ずかしかったりする
多分今日も朝ご飯を持ってきてくれると思う
きっとまた不安になって泣いてしまう
安易な優しさは逆に人を不安にさせてしまう
だから俺はそれが怖くもあり嫌いでもある
青年「これ以上背負わせてしまっては駄目だ」
如月さんは俺以上に不安と恐怖に侵されているように感じた
何かは分からないけどそれは多分近いうちに爆発する
そうなったら如月さんは・・
青年「電も騒いでいたのに全く来なくなった」
今を受け入れてくれたのか・・それとも幻滅されたのか
分からないけど元気にしているならそれで良い
こんな兄でごめんな・・電
青年「そして提督は何やってるんだよ」
本当ならこんな事になって如月さんが苦しんでいる状態をほって置いて良い筈がない
此処の司令官である提督という男を殴ってやりたい
何かの用事で出ているとしても何日も何もしていないのは司令官としてどうかと思う
本当に電の言う様な司令官なら知ればすぐにでも帰ってくる
でも、それがない
知らないなんてのはない
ここの司令官として報告は絶対に届いている筈だ
呑気に何処かで知らん振りでもしているのだろう
こんな事になっているのに・・
ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーー
その頃の提督は
ーとある車内ー
神通「さっさと支度しろ!歯を磨け!着替えろ!朝食を食べろ!こら!暴れない!」マヨコーラアンパン突っ込み
提督「っ!!」ジタバタジタバタ
提督(こ、殺される!パンで殺される!)
神通「さぁ!もう容赦しないからね!」
川内「神通、吹っ切れたみたいだね」
南鎮守府への潜入を開始する準備をしていた
ーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
戻っておんぼろ鎮守府
ーおんぼろ鎮守府懲罰房ー
海軍は本当にクソだ・・
少しの間でも司令官を目指していた自分が恥ずかしい程に
青年「・・・・・・」
そろそろ前へ進もう
青年「すぅーーー!はぁーー!」
大きく息を吸って深呼吸をする
目を瞑り後悔をする
此処に来てしまった事、電を信用してやれなかった事、如月さんに背負わせてしまった事、孤児院のみんなを・・守ってやれなかった事
思いつく限りの後悔をした
そして
青年「後悔の時間は終わりだ」
前を見て立ち上がり
青年「なにやってんだよ。あれこれ考える前に行動するってのが俺じゃなかったのかよ」
考え過ぎていくレベルになれば最早解決策は見つからない
それは分かっていた筈だった
だからこそ行動をして見つけるしかない
なのに最近の自分はそれが出来ていなかった・・情けない
でも、気付けた。いや、思い出せた
今俺のするべき事!それは!
青年「よし!死のう!」
無駄な足掻きはやめて来世に期待しよう
由良「随分ポジティブに言いますね」
青年「ん?」
いつの間にか艦娘が入ってきていた
確か、大本営の・・どうでも良い奴の名前を覚えるのは苦手なんだが・・確か・・ゆら?なんか違うな。
由良「ん?」
青年「ん〜〜!」
由良「ん〜〜?」
青年「むら」
由良「むら?」
青年「村田か」
うん、なんかそれっぽい
由良「はい?」
青年「村田、何の用だ?」
由良「ん〜?」
青年「もしかして・・」
死刑実行か?クソ!遅かったか好き勝手にされるなら先に死のうと思ったのに
青年「まぁ良い。好きにしろ村田」
由良「んん?村田?何処にいるの?」キョロキョロ
青年「だが、お前らの思い通りに死んでやらねえからな?村田」
無表情に死にかけのアルパカの様に何も面白くもなく死んでやる
由良「村田・・・・もしかして私の事?」
青年「他に誰がいる」
由良「私って村田だったんだ知らなかった」ポカーン
青年「おい、村田、用がないなら帰れ。いや、あっても帰れ」
ドアを指差して帰れコール
由良「あ、ご飯持って来た朝ご飯」
青年「・・・・・・・」
毒の実験か・・
由良「えへへ、私の分も持って来ちゃったから一緒に食べようかな?」
目の前で苦しんで死ぬ様を見たいのか同じ艦娘でもおんぼろ鎮守府の人達とは大違いのクソだな
青年「どう言うつもりだ趣味が悪いな」
由良「え?お味噌汁に納豆はダメだった?美味しいよ?好き嫌いはダメ」
青年「・・まぁ、良いか」
思い通りになるのは癪だが仕方ない
村田お望みの味噌汁に口を付ける
青年「ん?」
美味い・・そして苦しくない
いや、これはかなり俺好みの味だ
由良「昨日、間宮さん(大本営)と間宮さん(おんぼろ鎮守府)による取っ組み合いの喧嘩の末にお互いが部屋に篭ってしまったんだけど夜にまた喧嘩があって二人とも入渠ドッグに入ってるから私が作ったんだよ」
由良「間宮さんの取っ組み合いの喧嘩なんか中々見られないからね。夜のも見たかったな」
青年「っ!」モグモグ
由良「美味しい?実は料理はそれなりに得意なんです」ドヤ!
もう何を言ってるか聞いていなかった
最近は不安やら後悔で味も感じなかった
だからこそ久しぶりにまともに食べたのかもしれない
青年「美味いな・・」ポロポロ
自然と涙が出てくる
由良「良かった。偶には料理するのも悪くないかも」
青年「・・・・毒は入ってないのか?」
由良「?」
由良「もしかして・・あ、そっか、そうだよね。不安だったよね」
青年「・・・・・・」
由良「そんな事する人は大本営にはいないよ。食べ物でそんな事するなんて絶対にしてはいけない」
由良「約束する。私達は絶対にそんな事はしない。」
青年「お前らを信用なんかしない」
由良「うん、それで良いよ。でも、本当にそんな事をしたら元帥も間宮さんも怒るとかのレベルじゃなくなると思うから・・」
由良「元帥は分からないけど、大本営の艦娘達の中には食べ物にトラウマがある娘達も居るんだ」
青年「どう言う事だ?」
由良「ある娘は君がされると思った事をされて死にかけたりした娘もいる」
青年「っ!」
由良「今でもね。その娘は自分の食べる物には誰かが毒味をしてくれないと食べられないんだ」
由良「大丈夫だって分かってても万が一を考えて怖くなって身体が動かなくなってしまう」
由良「どうしてこうなっちゃったんだろうな・・」
由良「どうして信じてしまったのかな・・・」
青年「村田・・・・」
それって一体・・
誰なんだろうな
由良「はは・・ごめんね。こんな話しをして・・だからってわけじゃないけど信用はしなくて良いから毒が入ってないって事だけは理解してくれると嬉しいな」
青年「・・・・・・」
由良「まだ怖い?」
青年「いや、確かに苦しくないしそこは信じるよ」
青年「疑って悪かった。謝る」
由良「ありがと・・」
そこまでは海軍もクソじゃないって事か
だが、嫌いなのは変わらない
再び食べ始める
この納豆味噌汁毎朝飲めたら最高だな
青年「ん?」
ふと村田を見ると
由良「っ・・・・・あ」ポロッ
食べようとしているが箸が口に運ばれるまでに手の震えで落ちてしまってる
うまく運べても口の中へ入れようとしない
汗も酷く呼吸も少しおかしい
焦りと不安
そして恐怖を感じている
本人は隠しているつもりなのだろう
孤児院の子達もそう言う事があるから分かってしまう
やはりそう言う事なんだな
由良「自分で作っても駄目なのかな」ボソッ
青年「・・・・・・」
青年「おい、さっさと食えよ。冷めると納豆味噌汁も不味くなるぞ」
由良「あ、うん、そうだよね。今食べるから」
由良「っ・・・・」
焦れったいな・・
青年「要らないなら貰うぞ」ヒョイ
由良「あ・・」
青年「早く食わないと全部食うぞ?」
そう言って一品ずつ少し取って見えるようにして口へと運んだ
由良「・・・・・」ジーーーー
青年「なんだよ。10代後半はこのぐらいじゃ足りなかったんだ」
由良「なら、残りもいる?」
青年「いらん。食べかけになったけど食えよ?食い物を大切にしてるんだろ?」
青年「まさかさっきのは嘘とか言わないよな?捨てるとか言ったら怒るぞ」
由良「君は・・・・」
青年「早よ食え。本当に冷める」
由良「ふふ、うん、食べないとね」
由良「っ・・・」パクリ
由良「うん、美味しい。やっぱり私って料理上手いかも」
青年「・・・・・」
何やってんだろ俺は
青年「村田、聞きたいんだが」
由良「由良」
青年「ん?」
由良「私、昔の記憶が飛んでるから由良って名前にもあまりしっくりこないし、君が言う村田ってのが私の本名かもしれない。それでも君には由良って呼んで欲しい」
由良「由良って呼んで」
青年「・・・・・村田」
由良「いやいや呼んでよ」
青年「なんか嫌だ」
由良「良いから呼んでよ。ほら、ね?お願い・・・・」
青年「はぁ・・由良、これで良いか」
由良「っ!」
青年「由良?」
由良「」
青年「おーい、由良」
叩けば直るか?
由良「っ、びびっと来た・・」
青年「はい?」
由良「君に由良って呼ばれると由良だって思える。凄いよ!こんなの・・こんな気持ち・・初めてだよ」
青年「そうかよ」
由良「なんか少し前向きになれそうな気がしてきた。ありがとう。青年くん」ニコッ
青年「っ、あぁ・・・・」
ありがとうか・・
我儘かもしれないけどその言葉が欲しくて
そうやって笑ってくれる顔が見たくて
ただそれだけで俺は幸せだったんだ
まさか、敵側に言われるとは
青年「そうだな。なら1つ頼みを聞いてくれないか?」
だが、悪くない。美味しいご飯も食べる事が出来たし、欲しかった言葉も聞けた
由良「私に出来ることなら言ってみて」
今の俺の存在はきっとこれから大きな負を生んでしまう
どっちに転んでも悲しませてしまうのは確定している
なら、最悪の事態になる前に
青年「悪いけど殺してくれないか?」
彼女はポンコツそうに見えて頭が良いように思える
俺の気持ちも理解してくれる筈だ
由良「逃げても良いんだよ?」
青年「知ってる。わざと逃げられるようにしてくれていたのもな」
懲罰房の鍵を開けていたり由良が見張りの時はわざと席を立っていたりしていた
逃げるチャンスはあった
由良「やっぱり分かってたんだ」
でも・・・
由良「やっぱり思った通り青年くんは私と似てる」
それでも逃げない・・いや、逃げられない
由良「自分の事より他を優先している。ううん、それが生きる意味になっている」
由良「優先じゃなくてそれしか出来ない」
それが俺の生きてこれた道だから悪いとも思っていない
他人にも自分にも期待はしない
でも、他人を大切な人を支えてやりたい、笑顔にしてやりたい
だけど、その中に自分は要らない
俺は輪の外で良い
青年「・・・・・・」
それで良いんだ
由良「私もそうだから・・同じ匂いがしたから話してみたいと思ったんだよ。おんぼろ鎮守府の娘達に守られていたから近づけなかったけど」
青年「彼女達は?」
由良「緊急任務で出ているよ。卯月がやらかして如月まで行ってしまったけどね」
青年「如月さんが海に!」
卯月がやらかしたとかはどうでも良いが今の如月さんが海へ出るのは危険過ぎる
青年「何故止めなかった!如月さんは!」
由良「危ないよね。でも、触れられないし触れてはいけない。私達は闇には触れない。責任を持てる覚悟がない限りは」
青年「なんだよそれ逃げてるだけじゃないか」
由良「そうかもしれない。でも、闇に触れるとはそれだけ危ないんだよ。相手も自分もね」
由良「卯月はそれを覚悟でやらかした。だからそれそうの罰を受けてもらっている」
由良「やってしまった事がバレてしまった責任をね」
バレてしまった責任・・
やってしまった事に責任があるのではなく、それをした事をバレてしまった事に責任がある
つまりバレなければ良かった
そう言う意味であり、それを含めての覚悟なんだ
青年「卯月は?」
由良「正門前に吊るしてある。昼には昼休みを知らせるサイレンの如く叫びます」
卯月はニワトリかなにかなのか?
青年「昼と言ってもまだ朝飯時だぞ?何時間吊るすんだ?」
由良「さぁ?分からないけど伝統だからね」
青年「伝統?吊るすのがか?」
由良「うん、昔から大本営ではやらかした娘達は吊るされるんだよ」
青年「吊るした後は何かするのか?」
由良「ううん、吊るすだけ」
青年「どこの伝統なのか」
由良「聞いた話では北条家って言う所が発端らしくて、そこではやらかした執事やメイドが夜な夜な吊るされていたとかいないとかってのがあって何かしらあって大本営でもする様になったらしいよ」
青年「凄く曖昧な伝統だな」
由良「伝統ってそんなものでしょ?」
青年「もう少し信憑性はあると思うが?と言うよりそれただのパクリだろ北条家に許可取ったのか?」
由良「さあ?北条家って言うのがあったかも怪しいレベルだし?でも少々のことを気にしてたら禿げるよ?」
青年「そう簡単に禿げてたまるか若人舐めんなよ」
遺伝という逃げられない運命はあるけどな
由良「ふふ、青年くんは面白いね」
青年「何が面白いんだよ。やらかして吊るされてる奴の方が面白いと思うが?」
由良「て思うじゃん?でもね。卯月はわざとバレる様にしてたんだよ」
青年「余程のドMか」
伝統も性癖に使われるだけとは悲しいな
由良「ううん、卯月はね多分私よりも深い闇を持ってる。だからこそ彼女は慎重に動くし見捨てる判断も的確にする。彼女が本気を出せば万に一つの足跡も残さない」
青年「そんな奴がわざとバレる様にしたのは」
由良「大本営のみんなへの謝罪の意味もあると思う。手を貸すと言う事は裏切りにもなるから」
青年「見た目に反して真面目なんだな」
妙なところで頑固だったりしそうでめんどくさそうな性格してそうだけどな
見た目と性格が真反対の奴ってのはただのアホなのか本当の自分すら分からなくなってしまっているのか
卯月は前者になるのだろうか?
それだけの闇を抱えていると言う事なのかもしれない
由良「彼女は一人なんだよ。でもね私思うんだよ。青年くんなら卯月と仲良く出来るんじゃないかなって」
青年「冗談だろ。変な笑い方する奴とはごめんだ」
それに俺はもうすぐ死ぬ
もう未来を考える必要はない
由良「あの笑い方は本当に笑ってるわけじゃなくて」
随分と卯月の事を言うな
何かあるのか?
いや・・そうだとしても
青年「もう良いだろ?知ったって仕方ない」
由良「あ・・でも」
青年「話が逸れたな。もう一度言おう」
由良「・・・・・・」
青年「今より酷い状況になる前に殺してくれ」
これ以上おんぼろ鎮守府の人達に迷惑をかけられない
これ以上助けられるかもと言う期待を押し付けられない
青年「期待が絶望になる前に頼む」
由良「・・・・・・・」
青年「頼む」
由良「一応聞いて良い?なんで死にたいの?」
青年「それしか道がないからだ」
由良「本当にそう思う?本当に可能性はないの?」
青年「どうやっても俺ではどうも出来ない」
由良「もし出来ると言ったら?」
青年「え?」
由良「出来るなら足掻いてみる?」
足掻くか・・やる気が起きないな
何も見えない今では
青年「・・・・いや、もう疲れたし」
由良「その時点で諦めてる。情けない!出来る事をやってない!」
青年「・・・・・・」
うるさいな・・
由良「嘘つき!変態!禿げ!」
由良「えっと後は・・」
本当にうるさいな・・
由良「・・・意気地なし。最期まで逃げ続けるの?」
青年「っ!逃げるだと!」
何でそこまで言われないと
俺は!逃げてなんかない!
由良「そう、逃げてるよ!卯月を見習え!」
青年「うるせえよ!お前に何が分かる!」
由良「分かるよ!人の為に生きるのがどれだけ大変でどれだけ辛いか・・それが幸せだって自分を偽るのがどれだ惨めかも・・」
青年「っ・・・」
痛い所を突くなよ・・
分かってんだよ
分かってんだけどそれしか知らないならそれを生きる道と思って生きるしか出来ないじゃないか
じゃないと俺はとっくに潰れていた
青年「人は簡単には変われない。変わるってのは今の自分を否定するって事になるんだぞ?」
青年「今の俺を否定したら何も残らない!」
そして今の俺では何も出来ないのが分かっている
分かっているから・・
由良「・・・・・・・」
青年「あぁ、認めるよ!これ以上生きてたら俺には何も残らなくなる!それが怖いんだ!」
勿論おんぼろ鎮守府の人達の事も気にしているのは本当だけどそれよりも一番は何も残らなくなる恐怖だ
そうなった時俺はどうなるのか
それを考えるだけで恐ろしい
青年「俺は意気地なしなんだよ!」
由良「本当に青年くんは似てるね・・」
由良は立ち上がりドアの方へと歩く
青年「何をしようと」
由良「青年くんの可能性はまだある。少し考え方を変えるだけで見えてるものは変わる。そして道が見えてくる事もある」
由良「生き方も同じだよ。人は簡単には変われない。でも、可能性はたくさんあるんだよ。それさえ見つける事が出来れば君は一人になんかならない」
青年「可能性・・・」
本当にあるのだろうか
青年「でも、見えないんだ・・見えないのに前を向けなんて言われても無理なんだよ」
由良「なら、私が照らしてあげる。見えるように支えてあげる」
由良「だから青年くん」スッ
由良は俺に向けて手を差し伸べ言った
由良「人の為に生きるんじゃなくて今度は偽らずに自分の為に生きて」
青年「由良・・でも俺は」
由良「青年くんは此処で終わったらダメなんだよ!君は変われる強さがあるんだよ!」
青年「・・・・・」
由良「それが無理なら私の為に生きて」
由良「私が貴方の生きる意味になるから・・だから!」
由良「一緒に変わろうよ」
青年「変わるか・・・」
差し伸べられた手には大きな光が見える様だった
そしてその先に道が見えた
これが可能性なのか
面白いじゃないか・・燃えてきた!!
青年「電を優先するぞ。お前は二の次だ。それでも良いのか?」
由良「うん、良いよ。私は青年くんのきっかけで良い」
青年「ふっ、なんだよそれ」
自然と笑みが溢れる
由良「言ったでしょ?私と青年くんは似てるってそう言う事だよ」
青年「嫌味か?」
由良「それが青年くんなんでしょ?」
青年「はは、それが由良ってわけだな」
由良「嫌味?」
青年「いや、俺と由良が似てるって事だよ」
由良「ふふ、そうだね」
青年「手を貸してもらって良いか?」
ふと考える
由良「うん」スッ
俺と由良はどう言う関係になるのかと
青年「悪い」ガシッ
差し出された手を掴み再び立ち上がった
青年「後悔するなよ」
恋人?違う
由良「ふふ、させないでね?」
友人?違う
あ、そうか・・俺と由良は
青年「あぁ、行こうか相棒」
由良「っ!・・うん、行こう青年」
その見えた光を信じて
まだもう少しだけ足掻いてみるか
握られた手を見てそう思う青年だった
ーおんぼろ鎮守府廊下ー
懲罰房を出た後周りの娘達に怪しまれない様に腕を後ろに拘束された状態で歩く
由良「痛くない?」
青年「大丈夫だ。もう少し強くしてもいいぞ」
由良「ふふ、もっと密着したいの?」
青年「言ってろ」
由良「はーい」
青年「で?何処へ行くんだ?」
由良「執務室に行って元帥に許してもらえる様に言ってみる」
青年「ゴリ押しかよ」
由良「まぁね嫌い?」
青年「いや、わりと好きだ」
由良「だよね」
青年「でも大丈夫なのか?」
あの禿げ話しも聞いてくれるか怪しいが・・
由良「元帥ってさ意外と優しい所あるし多分だけど元帥は青年を殺すつもりはないと思う」
青年「根拠は?」
由良「もしそうならとっくに殺してると思うから」
由良「彼は昔に大事な部下を亡くしているらしくてそれからは敵だと認識した者には容赦ないって聞く」
由良「こんな事言いたくないけど何度か秘密裏に消す様に言われて実行した事もあるの」
青年「殺したのか?」
由良「うん、私が怖い?」
青年「いや、一度は殺してくれって頼んだくらいだからな別に怖くねえよ」
もし本当に殺したいならこんなまどろっこしい真似はしない
由良「やっぱり変わってるね」
青年「お前もな」
由良「酷いな〜」
二人でまた小さく笑った
何がおかしいのかも分からないのに
でも、不思議と悪くなかった
由良「だからってわけじゃないけど青年を生かしてるのは意味があると思う。そこを私と青年で会話から読み取って言葉で攻める事が出来れば・・ワンチャンあるかもよ」
青年「良いのか?何かしら罰はあるんじゃないか?」
由良「表に出せてない事ならそこを更に攻める。まぁ、吊るされる事も覚悟しておこうかな一緒に吊るされようね」
青年「それで済んだら今度美味いもんでも食いに連れて行ってやるよ。外出くらいは出来るだろ?」
由良「お、期待してるね?」
青年「程々にな」
本当に不思議だ・・
別に電達や孤児院の子供達を下に見ていたわけではない
兄として立派であろうとした
それに幸せを感じていたのも事実
だけど、今は本当の意味で由良と対等に話せている感じがしていた
ほんの少しだけ
本当に少しだけだけど・・執務室がもっと遠くにあって欲しいと思っていた
でも、そんな時間は
執務室を着く前に終わってしまった
ドォオオン!!
青年、由良「「っ!」」
大きな音がした
青年「なんだ!」
由良「分からない!」
その時誰かが吹っ飛ばされて来た
大和「っ!!」
そして
由良「危ない!」ドン
青年「うわっ!」
ドン!
由良「きゃっ!」
青年「由良!」
俺を庇った由良を巻き込み後ろへと飛ばされる
由良を心配しなきゃいけない筈だが目の前の大和を吹っ飛ばした相手から目を離せなかった
青年「電・・・」
電「まもる・・まもる・・・」フラフラ
傷だらけの電の姿だった
目は虚ろでその奥は濁っていた
本当に電なのか疑ってしまうが
間違いない俺の知ってる電だ
青年「電・・電なにやってんだよ!」
電「まもる・・まもるから・・青年」ブツブツ
青年「っ!もしかして俺を助けようと・・でも、そんな事をしたら」
お前まで捕まってしまう
止めないと!
青年「俺はもう大丈夫だから戻っー」
電「邪魔するなぁああ!」シュッ
青年「え?」
電が腕を振りかぶり
その拳を俺に
由良「だめぇえええ!」サッ
俺と電の間に滑り込んだ由良は
ドゴッ!
由良「ぐはっ!」
青年「がはっ!」
電のパンチを生身で受けてすぐ後ろにいた俺には衝撃が走りそのまま吹っ飛ばされて
ドンッ!
由良「っ!」
青年「ぐあっ!」
壁に叩きつけられた
青年「うぅ・・電・・」
薄れゆく意識
目の前には由良が倒れている
青年「おい・・由良・・起きろよ・・おい・・」
電「・・・・・・」フラフラ
青年「電・・もしかしてお前・・」
目がよく見えてないのか
電が近づいてくる
とどめを刺そうとしているんだ
逃げたいけど動けそうにない
青年「電・・・・」
お前はそこまでして守りたいのか
電「・・邪魔・・するな・・」シュッ
青年「っ!」
来る攻撃に目を瞑るが
コツン
電に何かが投げられた
電「っ!」
大和「こっちよ・・はぁ・・はぁ・・まだ終わってないでしょ!」
電「っ!」ダッ
大和「そこの人!由良を入渠ドッグへ連れて行って!」ダッ
そう言って大和は走っていきそれを電が追いかけていきどうにか助かった
青年「電・・うっ・・」
俺も追いかけないといけないが
やばい限界かも
由良を入渠ドッグがなんだっけ
それより由良を助けないと・・
青年「・・由良」
そこで意識がなくなった
電が初めて孤児院に来た時
彼女は何かに怯えていた
俺は声をかけたりして仲良くなろうとした
でも、彼女はそれを拒んでいた
何に怯えているのかも教えてくれなかった・・
周りとは打ち解ける中で俺とは距離を置いていた
それは日が増すことに大きくなり
俺を見ると目を逸らして震えていた
何故かは分からないその感情に俺はイライラする様になった
そして遂に爆発してしまった。俺は電に詰め寄って何が気に入らないのかを問い詰めた
泣きながら震える電は小さな声で言った
『海に出たくないと』
電は俺の事を何処かの鎮守府の人だと思っており落ち着いて来たら連れ戻されると思っていたらしい
電は前の鎮守府で酷い目にあって姉妹達と逃げ出したがみんなはその時に敵に襲われて目の前で・・
それを聞いた時俺は震える電を抱きしめて言った
『もう海になんか出なくて良い鎮守府になんか行かなくて良い』
『俺がなんとかするから大丈夫だ。お兄ちゃんを信じてくれ』
そして俺は考えた
どうすれば力のない俺が電を安心させてやるか
そして導き出した答えが力を持てば良いだ
俺が司令官になり電を海に出なくても良い立場として鎮守府に置く
そうすれば電はもう海軍に怯える事もない
その為に頑張った
でも、それは途中で提督と言う男がバラバラに壊してしまった
そう、あの提督が電を無理矢理連れて行ったのだと
思っていたから・・
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーー
ーーーーー
ーおんぼろ鎮守府廊下ー
青年「うぅ・・」
電・・お兄ちゃんが守ってやるから・・もう怖がらなくて良いから・・
だから・・
青年「いてて・・少し意識が飛んでたか・・」
身体中が痛いがどうにか動けそうだ
青年「そうだ。由良はどうなって」
俺の事なんかほって置いて行ってくれてるなら良かったが・・
由良は倒れたままだった
青年「由良、おい、由良」ユサユサ
揺らしてみるが反応はない
青年「まじかよ・・」
手には血がべったり付いていた
電に殴られた辺りが正直見るに堪えない状態だった
生きてるのかさえ・・これでは分からない
これを電が・・
青年「頼む。由良起きろって!由良!」
由良「うぅ・・・」
青年「由良!」
由良「いったぁい・・・・げほっ!」
青年「由良!大丈夫か!」
由良「うぅ・・ごめんね。血で汚しちゃった・・ね」
青年「何言ってんだ。俺を庇ってそうなったんだろ何してんだよ馬鹿!」
由良「酷いな・・でも、艤装展開するの忘れるくらいに焦ってて・・失いたくないって思ったら・・・うぅ!」
青年「もう良い!喋るな!今何とかする!」
由良「駄目だよ・・行かないと・・電をどうにかしないと・・暴走してる・・あのままだと・・ゴホッ!」
口から血が飛び出る。それが俺に掛かるが今は関係ない
由良「ごめんね・・」
青年「気にするな。それよりあのままだと電はどうなる」
これ以上喋らせるのは駄目だと思うけど聞かないと
青年「すまん後少し頼む」
由良「良いよ・・・青年の為だもん・・」
段々と声が弱くそして小さくなって来ている
由良「でも、卯月の方が・・詳し・・い・・かな・・」
青年「由良?おい!由良!!」
由良「ねぇ・・今度の・・デートは・・何処に連れて・・行って・・くれるの・・・ふふ」
青年「由良・・」
駄目だ!もう俺の声が聞こえてない!
由良「私は・・大丈夫・・・少し休ん・・入渠・・から・・・早く・・行って・・・」
最後にそう言った由良は目を瞑ってしまった
青年「由良!!」
由良「」
青年「くそっ!」
電をどうにかしないといけない!
どれくらい気絶してたかは分からないしこれ以上時間は掛けられない。卯月の所へ行って電を探さないといけない
でも・・・・
由良「」
由良を・・相棒をこのままで良いのか?
二の次だとは言ったけどそれでも・・
誰かを呼んでくるか?いやだがそれで来るなら気絶した間にどうにかなっていた筈だ
もう此処はそんなのに構ってる暇がない程にやばいんだ
だが、どうする?病院に連れて行くにしても
青年「間に合うか・・」
由良の呼吸や顔色そして傷の具合からして途中で力尽きてしまう可能性もある
諦めて電を探す方が無駄な時間は省ける
省けるが・・
青年「どうにかならないのかよ・・」
そう言えば気絶する前に大和が言っていた
大和『そこの人!由良を入渠ドッグへ連れて行って!』
青年「入渠ドッグか・・」
海軍の勉強を本格的に始める前にやめてしまったが入渠ドッグは聞いた事がある
青年「確か負傷した艦娘の傷を・・・治す!」
そこへ行けば由良を
青年「ん?これは鍵?」
入渠ドッグと書かれている鍵だ。なんで此処に?
青年「そう言えば大和が電に何かを投げていたな」
まさかちゃんとヒントを残しておいてくれていたとは
大和に感謝しないとな
これで確信した
その入渠ドッグが此処にもあるんだ!
青年「入渠ドッグなら・・ワンチャンあるか!」
電の事は気になるし早くどうにかしたい
青年「軽いな」由良を背負う
だけど、言ったよな由良
青年「お前の為に生きないといけないんだから早々に奪わないでくれよ」
俺の生きる意味を
青年「今助けるからな!由良!」
そして走った!身体中が痛いけど
入渠ドッグを目指して
青年「何処だぁあああ!!」
由良「っ・・」
少しだけ目を開いた由良は安心した様に再び目を瞑った
ーおんぼろ鎮守府入渠ドッグー
入渠ドッグと書かれた部屋を見つけ入る
青年「此処か!」
浴槽は5つあるが一つは壊されているそして二つは使用中
間宮(おんぼろ)「」プカ〜
間宮(大本営)「」プカ〜
青年「・・・・・」
そう言えば由良が言ってたな夜喧嘩して入渠ドッグに入ってるって
でも、これ生きてるのか?二人とも力なくうつ伏せ状態で浮いてるけど・・
水面に顔が浸かってるけど大丈夫なのか?
仰向けなら色々と見えちゃいけないものも見えてるから良かったと思うが・・
青年「おっとそれより由良だ」
残りの二つあるうちの一つを使おう
青年「えっと、どうやるんだ?」
ちゃんと勉強しておくべきだったな
鍵穴に鍵を入れて回す
青年「ん?これか?」ポチッ
入渠準備というボタンを見つけ押す
すると浴槽にお湯とは違う液体が溜まり始める
青年「よし!後はこれが浴槽いっぱいになれば良いんだな」
青年「由良、後少しだから待ってろよ」
まだ、必死に生きようとしている
もう少しだけ耐えてくれ
青年「そうだ。今のうちに服を脱がしておこうか」
使っている二人も服を脱いでいたし服のまま入るのは駄目なのかもしれない
青年「由良、服を脱がすからな」
返事はない
本当ならあまり見ない方が良いが、傷が酷いから気をつけないといけない
悪いけどガン見させてもらう
青年「うっ・・これは酷い・・」
本当に生きてるのが不思議な程に酷い傷だ
だが、それとは別に
青年「生傷が多いな・・」
刃物で切られた様な傷が身体中にある
見た感じでは自分で付けたわけでもないだろうし敵が付けたとも思えない程に綺麗に切れている
そうそれはまるで抵抗すらしていない
いや、出来ない状況と言うべきか
服で隠れる場所に付けられているのもまた陰湿だ
青年「人か・・」
なら、やった奴は何処かの司令官クラスの人間か
青年「本当にクソだな・・海軍は」
後は下着か・・ごめんな
由良「うぅ・・いや・・やめて」
青年「由良?」
気付いたのか?いや、これは無意識の反応か
脱がされる事に大きな恐怖を感じている
青年「由良、俺だ。服を脱がせるからな」
由良「もう・・切らないで・・いや!」スッ
彼女の抵抗する手が頭に当たる
ガンッ!
青年「うっあああ!」
大きな衝撃で一気に意識が飛んでいきそうになる
頭から血が垂れる
由良「やめて・・痛いの嫌!」ジタバタジタバタ
青年「っ!!」ガシッ
だが、何とか耐えて由良の手を押さえつけた
艦娘は力が強いのは知ってるが艤装も展開していない状態でも普通の人とは違う力がある
人間と艦娘の違いを強く感じた
だけど、そのくらいの差なんて関係ない!
まだ、人間レベルなんだ
強く押さえる事になるが抵抗はさせない
青年「大人しくしろ!じゃないと傷口が広がる!」
由良「いや・・いや!やめて!」バシッ
青年「ぐぁ!」
振りほどかれた手で叩かれる
また意識が飛びそうになるが唇を噛み抑えた
青年「くっ!由良!」ガシッ
駄目だ。今の由良は過去のトラウマが表に出てしまっている。夢であっても由良にとっては現実になってる
そんな時に呼びかけても俺の声は傍観者にしかならない
なら、これは賭けだ・・由良が壊れてしまうかもしれないが
青年「由良!」
呼びかける
言い方変えながら何度も呼びかけた
怒った様に言ったり冷たく言ったり変態の様な感じにと、とにかく色んな言い方のパターンを変えて言った
由良のトラウマに闇に少しでも触れる事が出来れば
そして
青年「おい!兵器が!」
兵器扱いをするクソ司令官という感じで呼びかけた時
由良「っ!」ビクッ
反応があった
俺の声が傍観者になってしまうなら加害者になれば良いんだ
その言い方のまま言う
青年「大人しくしないとまた切るぞ?」
由良「ご、ごめんなさい・・」
青年「次はないぞ?」
由良「は、はい・・言う事・・聞くから・・姉妹達は・・」
青年「っ・・・・」
似てるってそう言う事だったのかよ
くそっ!腹が立つ。こんな事をした司令官に
そして、それを利用した自分に
その後は抵抗もせずに脱がせる事が出来た
ただずっと震えていた
まだ夢から覚めない様だ
下手をすればこのまま・・
青年「・・・・・・」
由良「うぅ・・・・」
その怯えている姿が孤児院の子供達と重なり
ナデナデ
由良「っ!」
青年「大丈夫、俺がなんとかする。お兄ちゃんを信じてくれ」
由良「お兄ちゃん・・・・」
子供達をあやす様に
あの時電に言った様に
気付くと同じ様にしてしまっていた
青年「あ、俺は何をして」パッ
気付いて手を離した時には
由良の震えはなくなっていた
辛そうではあるが怖がっている様ではなくなっていた
青年「覚めてくれたか・・良かった」
まだ危ない状況ではあるが
青年「入渠準備が終わったみたいだな」
後は入れてやれば
青年「おっとその前に」
孤児院で子供達を風呂に入れてやる事は多かった
だからこそ最初に確かめる癖があった
子供達の敏感な肌を守る為に温度が適切かを
それが仇となるとも知らずに
青年「どれどれっと」
入渠の液に手を入れる
ジュウっと音がすると
青年「いったぁああ!」
焼ける様に痛みが走り
パラパラ
青年「っ!髪の毛が抜けた・・」
ほんの少しではあったが確かに髪の毛が落ちている
青年「なんだよこれ!こんな脱毛剤の風呂に由良を入れたら」
由良の毛が全て抜けてしまう
青年「くっ、場所を間違えたか?」
だが、そこの二人は使えているわけだし入渠ドッグと書いてある
青年「何か他にあるか?」
周りを見渡すと
青年「ん?なんだこのバケツ」
修復と書かれているバケツを見つける
中には液体が入っており
青年「フローラルの香りがするな。もしかしてこれは・・」
いや、試した方が早いな
由良の脱がせた血の付いた服に少しかけてみると
青年「おお!血が取れたし服も綺麗になってる」
成る程これは服を修復してくれる洗濯用洗剤か
青年「これ欲しいな」
子供達の遊んだ後の汚れを取るのに羽黒姉ちゃんと試行錯誤を繰り返したっけな
何処の汚れかで数社の洗剤から調合して作るのも大変だったしこれがあれば楽勝だ
青年「っと、こんな事してる場合じゃない!もしかしたら操作を間違えたのかもしれないが分からない」
だが、今聞ける人はいない
いや、まだいる!
青年「あの浮いている二人のどちらかに聞こう」
だけど、あの危ない液に浸されている可能性も考えて触れない様に声をかける
青年「おい!起きてくれ!入渠ドッグの使い方を教えてくれないか!緊急なんだ頼む!」
間宮(おんぼろ)「」
反応がない
青年「頼むから起きてくれ!由良が危険なんだよ!起きろや!」
間宮(大本営)「」
こっちも反応がない
青年「くっ!役立たずが!」
どうする!何か棒を持って来て起きるまで突いてみるか?
青年「ん?何か張り紙がされてる?」
【ただ今特別処理がされております。二人が顔を合わせると大変危険な事になりますので像も永眠する睡眠薬により寝させています。起こさぬ様にお願いします。間宮安全保証委員会】
青年「像も永眠って・・」
それ二人も永眠してんじゃないのか?
気にしても無駄か
青年「くそっ!二人は起きないか!考えろ」
こうなれば由良に聞けるか分からないけど聞くしかない
青年「由良、ごめんな。教えて欲しい入渠ドッグはどうやって操作すれば良い?」
由良「」
青年「由良?」
あれ?おかしい
青年「由良?おい!由良!!まさか・・」
由良「」
青年「呼吸が止まってる!」
人工呼吸しなきゃ!いやだがこの傷ではダメだ!
青年「間に合わなかった・・」
落ち込んでる場合ではないけど・・それでも
青年「っ、まだだ!」
まだ可能性は捨てきれていない
由良、お前が教えてくれた事だ!
由良を抱えて湯船へと向かう
青年「間違えていない可能性に賭けるしかない」
少しは思っていた。人間と艦娘は違う
だから、この液体も人にとっては強力な脱毛剤かもしれないが艦娘にとっては強力な回復液になるのではと
青年「由良、間違ってたらごめんな」
そう言って由良を湯船へと入れた
青年「頼む・・」
俺の時とは違い髪の毛が抜けたり肌が爛れたりしていない
それよりも
青年「すげぇ・・」
傷口からの血は止まり塞がっていくのが分かる
結構な時間が書かれているがそれだけの時間で完治できると考えると凄い事だった
由良「ぶはっ!げほっ!」
青年「由良」
呼吸を再開している。良かった
由良「っ・・・あ」
目を開けた由良と目が合う
青年「間に合ったな」
まだ喋る事は出来ないが確実に回復してるのは分かる
青年「本当に良かった・・」
安心したがまだする事はある
今度は卯月の所へ行って電を助けないと
青年「由良、俺はもう行くからな!」
由良「っ!・・あ・・・れ・・」
由良が力を振り絞って指をさした
青年「ん?」
その先にあったのはバケツだった
青年「バケツ?」
洗濯用洗剤をどうするんだ?
服を洗いたいのか?そんな急いでいる状況なのに洗ってくれなんて頼むわけもない
なら、バケツじゃなくてその後ろにある
青年「シャンプーとリンスにボディソープに洗顔と毛剃り用のムース?」
女の子だしな血で汚れた身体を洗いたいんだろう
他にもごちゃごちゃと色々あるが分からないので最低限の物を持つ
こっちは時間がないから
青年「悪いな全部かけてやるから自分で洗ってくれ」ブチューー!
由良「っ!」
シャンプーとリンスは頭にかけて、ボディソープは身体にかける
洗顔は・・
青年「うむ・・・・」洗顔
由良「っ・・」ウルウル
顔にぶっかけた
青年「毛剃りは・・いらんな」ポイッ
チャポン
間宮(大本営)「」ピクッ
見た感じでは剃るところはない
後は自分で洗ってくれるだろう
バケツの中に服を全部入れておけば汚れも落ちるだろう
青年「・・・・・・」育毛剤
自分の頭にかけた
気になったわけではない一応だ
由良「っ!ま・・・て・・ち・・が・・」
青年「じゃあな!元気になったらまた会おうな!」
そう言って入渠ドッグを出た
目指すは卯月のいる正門だ
青年「卯月次はテメェだぁあああ!」
由良「・・・・・・・」
由良「・・バ・・カ」
でも、ありがとうお兄ちゃん
心でそう思う由良だった
ついでに言うとどうせならトリートメントも欲しかったなと少し思ったと言う
由良を入渠ドッグへと連れて行き次は卯月を探す
自身の傷の痛みも忘れ青年は走った
ーおんぼろ鎮守府廊下ー
青年「急げ!」ダッ
早く卯月を見つけて電を助ける方法を聞かないと本当に手遅れになってしまう
青年「っ!」
本当なら今から電の所へ向かいたい
あの時の殴ろうとしていた電の姿を思い出すと少し・・いや、凄く怖かった
確実に殺そうとしていた
だけど・・それでも・・
青年「電・・もう少しだけ待っててくれ」
俺は電を嫌いになれないから・・
助けてやりたいから!
今の俺は無力だ!
助けてやれる力を方法を見つけて行くから!
青年「卯月!いないか!いるなら出て来い!」
正門付近にいるとは言っていたが万が一も考え叫ぶ
青年「ちっ!やっぱり正門に吊るされてるのか?」
この建物は無駄に広いから時間が掛かる
焦ってしまう・・
青年「くそっ!」
足が上手く動かない!もっと早く走ろうとすると転けそうになる
何故だ?
こんな遅くないはずなのに!どうして?どうしてこんな時に!!
俺は!!
青年「うわっ!」ズテン
大きく転んだ
青年「はぁ・・はぁ・・くそっ!」
起き上がろうにも身体が上手く動かない
焦りで頭も混乱してくる
青年「立てよ・・立てよ!」
怒りと悔しさで目の前が真っ白になっていく
このまま眠ってしまえばどれだけ楽だろうか・・
きっと目を覚ました時には何もかもが終わっていて・・そして
青年「っ!」
違う!
ガンッ!
大きく頭を振り地面へと頭突きをした
青年「ぐっ!痛えな」
真っ白になりかけた視界が元に戻った
全身の力を抜いて考える
このまま眠っていて良いはずがない。逃げてしまってはいけない
今の自分のするべき事を
焦る事や怒りに震える、それが今やる事なのか?
落ち着け・・一つ一つ確実に終わらせないと
今できる事を今出来る力でやるんだ
じゃないと結局は何も出来ずに終わってしまう
それだけだは駄目だ!
立ち上がりそして
青年「ふぅー・・よし!」ダッ
息を整え走った
遅くても何でも良い
確実に前へ進め!
青年「ん?」
それから廊下を進み続けると目の前を大きく通せんぼしている何かを見つける
青年「これは・・」
天井に突き刺さっている誰かだ
顔だけ天井に刺さり身体はそこからぶら〜んと垂れ下がっていた
一体何があったんだ?アッパーでもされて天井突き破ったのか?
青年「誰だ?」
とにかく身体が大きいから通りにくいな
青年「死んでるのか?」
全く動かないが
???「」ぶら〜ん
青年「ん〜・・あ!」
こいつは武蔵じゃないか?確かこのぐらいの体型だったな
一度だけ話した事はあったが
武蔵『ふ、軟弱者だな』
と一瞥されたっけな。まぁ、あの頃は死に怯えていたからな
イラッとはきたがな
青年「これも電がやったって事なんだよな・・」
このままにしておくのは良くないがこっちも急いでるし軟弱者じゃない武蔵なら大丈夫だろう
言われた事根には持ってないぞ
青年「それじゃあ、通るぞっと」
隙間を通って武蔵を通り抜けー
???→武蔵「っ!」ビクッ!
青年「うわっ!ビックリした!」
いきなり動き出した
急いで通り抜けた
武蔵「っ!!」ジタバタジタバタ!
青年「おお、ちょっ!激しいな」
天井に刺さった顔を抜こうとしているのだろうがジタバタとして激しく動きまわっている
武蔵「」ピタッ
青年「諦めたか?」
武蔵「っ!!」ジタバタジタバタジタバタジタバタ!!
さっきより激しく動き始めた
青年「そんな激しくすると顔取れるぞ・・」
激しい動きと重なり宙に浮いてる武蔵は大きく顔を起点にヌンチャクの様にブンッ!と動き回る
助けは、危なくて近寄れないし・・まぁ、頑張れ
生きてて良かったと思いつつ再び走りー
武蔵「ふぇ〜くらいのこわい〜」
孤児院の子『ふぇ〜くらいのこわいよ』
それは唐突に
青年「ん?」ピタッ
何だ今の小さい子の声は?孤児院の子達を思わせる
気のせいか?
武蔵「こわいよ〜こわいよ〜やまと〜」ジタバタジタバタ
孤児院の子『こわいよ・・おにいちゃん』
それは何かをくすぐる
青年「・・・・・」
なんだろうこの気持ちは・・懐かしいような
武蔵「ふぇ〜くらいよ〜」
孤児院の子『くらいのいや・・』
分かってる・・この気持ちがなんなのかは分かってる
だが、こいつにか?
俺はこいつに今・・感じてるのか?孤児院の子達と同じ兄心を
青年「き、気の所為だ!」
時間もない走るぞ!
武蔵「おしっこ・・もれる・・」ブルッ
孤児院の子『おしっこ・・もれた〜』
青年「もう!!」ガシッ
床やシーツを汚されたら困る!
武蔵「ふえっ!!」
青年「ほら、今助けてやるから漏らすなよ!お兄ちゃんがなんとかしてやるから!」
武蔵「ふぇっ!やめて!いじわるしないでー!はじめてなのーー!」ジタバタジタバタ
青年「ちょっ!暴れるな!」
武蔵「ふぇー!ふぇええ!やまとーーー!!」ジタバタジタバタ
バシッ
青年「ぐはっ!」
今日は叩かれてばかりだ・・
青年「武蔵!!」
武蔵「ふぇっ・・」ピタッ
青年「大きな声出してごめんな?」
武蔵「ふにゅ〜」
青年「暗いところからだしてあげるから大人しくするんだよ?」
青年「良いな?」背中ナデナデ
武蔵「・・・・・」
青年「よし!引っ張るから頑張って耐えてくれよ!軟弱者じゃないなら出来るよな!」ガシッ
武蔵「っ!」
それから何度か引っ張ると
ガシャン!顔が抜けるより早く天井が壊れ
武蔵「あ・・光だ」
青年「おらぁあああ!」
ガンッ!
武蔵「ぶぇっ!」
そのまま武蔵を地面に叩きつけた
青年「あ、やば・・」
武蔵「」ピクピク
青年「まぁ、生きてるだろ。うん、じゃあ、後は自分で入渠行けよ」
そう言って青年は再び走って行った
武蔵「・・・・・バカ」
ーおんぼろ鎮守府正門ー
青年「やっと着いた」
少し時間を食ったけど此処に卯月がいる筈だ
後は
青年「卯月は何処だ?」
周りを見渡してみるがそれらしき人はいない
青年「卯月!いるんだろ?出て来てくれ!」
呼びかけてみるが返事はない
青年「まさかいないのか?困ったな・・」
このままじゃあ俺は何も出来ずに・・
青年「卯月!!出て来やがれ!!」
返事はない
青年「くっ!由良の所に戻るかそれとも・・ん?」
正門前にあるポールが目に入る
国旗を掲げる時に使う太くて長い数メートルはあるポールだ
長く使われていないようにも思えるがそんな事はどうでも良い
青年「吊るされてるとは聞いたがそことはな」
卯月と思われる人がポールの先にロープで吊るされていた
卯月「」..zzzZZ
青年「おーい!卯月!」
卯月「」チラッ
お、気づいてくれた
青年「聞きたいことがあるんだ!」
卯月「」プイッ
あれ?無視した?
青年「お前卯月だろ?無視してんじゃねぇぞ!」
卯月「ふわぁ〜」大あくび
青年「はは、卯月?卯月さん?」
卯月「」..zzzZZ
なるほど・・そう言う事するんだ
いい性格してるな!
青年「なら無視出来ないようにしてやるよ!」
ポールへと行き卯月を吊るしてるロープへと手をかける
青年「確か、この結んでる部分を外せば、うわっ!」パッ
ロープが一気に外れ
青年「やばっ!」ガシッ
青年「おもっ!」パッ
卯月「っ!」
卯月はそのまま落下
尻から着地!
卯月「ぴぎゃぁあ!」
青年「うわっ・・思いっきり落ちたな」
卯月「うぅ・・お尻が痛い・・」
青年「大丈夫か?」
卯月「大丈夫に見える?見えるなら眼科行け」
青年「大丈夫そうだな。聞きたい事がある」
卯月「ねぇ?大丈夫じゃないよ?お尻凄く痛いんだけど」
青年「割れてんだから気にするな。それより」
卯月「それよりって何?謝らないの?」
卯月「うーちゃんのお尻にこんなひどい事して謝らないの?」
青年「無視した事には?」
卯月「ふん」プイッ
青年「はぁ・・なぁ、本当に時間がないんだ聞かせて欲しい事があるんだよ」
卯月「知らない」プイッ
青年「っ・・・・・」
今のはマズかったか・・
こう言うタイプは下手に出ると調子に乗るからな
青年「謝って欲しいなら後でいくらでも時間をかけて謝る・・償いもする」
青年「だから今はお願いだ・・電を助けて欲しいんだ」
卯月「・・・・・」
青年「いきなり来て勝手な事だとは分かってるけど聞いてくれ」
青年「今鎮守府内で起きてる事をお前がどれだけ知ってるか分からないけど大変な事になってる」
青年「今、電は暴走してる・・理由は俺だ。俺の所為で・・電は・・」
卯月「・・・だから何?」
青年「俺には助けてやれる力もない・・でも、このままだと俺は何も出来ずに・・死ぬ」
いや、死よりも・・きっと辛く苦しい
青年「それだけは駄目なんだ・・それだけは助けてくれたおんぼろ鎮守府のみんなや・・相棒の由良に申し訳ないんだ・・」
卯月「相棒?・・その血は由良のだよね?」
青年「あぁ、訳あって怪我をして入渠ドッグまで運んだ時に付いたんだ。そしてお前なら何かを知ってると由良が教えてくれたんだ」
卯月「由良は無事なの?」
青年「大丈夫だ。危なかったけどギリギリ間に合った。俺は由良がいなかったら死んでた。一番あってはいけない死に方をしていた。それを避けることが出来た。あいつには本当に感謝しないといけない」
卯月「ふ〜ん・・由良がね?相棒か・・」
青年「信用出来ないか?」
卯月「うん、出来ない。騙して何かしらの手で由良に手をかけた様にしか見えない」
青年「もしそうならどうする」
卯月「殺す・・楽に死ねると思うな」
青年「それは怖いな。信じてもらえるとは思わないがお前の事も言ってたぞ?何でも俺とお前が案外合うとかよく分からない事言ってたよ」
卯月「っ!」
卯月「へぇ・・そうなんだ」
卯月「こいつが?嘘でしょ?」ボソッ
青年「なぁ、信じてくれなくて良い。ことが終わればケツの事も全部償う。だから力を貸してくれお願いだ!」
青年「俺には電は助けられない!俺には無理なんだ!怖いんだよ!それでも・・助けてやりたいんだ!」
青年「頼む!」土下座
青年「俺にはもうお前にしか頼る相手がいない!ケツでもなんでも舐めろと言うなら舐める!」
卯月「っ!変態!そんなのご褒美でしょ!」
青年「は?何を言ってるんだ?俺はそれ程本気なんだ!何が嬉しくてお前のケツを舐めないといけない!」
卯月「ねぇ?喧嘩売ってるの?うーちゃんのお尻は綺麗だし需要あるからね!」
青年「は?嘘だろ?」
卯月「ほれほれ〜うーちゃんの魅力に酔っちゃう?」フリフリ
青年「お前な・・」
駄目だ。卯月の流れに持っていかれるとこのまま時間だけが経ってしまう
お前のケツが綺麗だろうがなんだろうが知るかってんだ
青年「卯月」
卯月「ん?あれ本当に酔った?」
青年「もう時間がない!」ガシッ
卯月「ちょっ、ちょっと!」
青年「電を助けてくれ!電が助かるなら・・俺はどうなっても良い!」
卯月「っ!本気で言ってるの?」
青年「本気だ!俺は本気でー」
卯月「馬鹿!」バシンッ
青年「っ!」
今日は本当によく叩かれる
卯月「簡単にそんな事言うな!」
青年「簡単じゃない!俺は!」
卯月「黙れ!」ガシッ
青年「うっ!」
卯月「お前の覚悟は!由良の相棒になったなら責任持て!あの娘はね・・由良はね。相棒なんて簡単に言わない・・私だってなれなかった。そんな相棒になったんでしょ?簡単に捨てんなバカ!」
青年「簡単じゃねえよ!それ程俺は!」
卯月「もし本当に由良の相棒ならいくらでも手を貸すよ。証明して」
青年「証明と言われても・・」
卯月「ないの?なら終わり」
卯月「ただで帰れると思うなよ」ギロッ
なんて目をしやがる!
青年「っ、ない。証明出来る程の物はない」
卯月「じゃあ、嘘なんだ」
青年「嘘じゃない」
卯月「どう信じろと?」
青年「どうも何もない俺は嘘は言ってない。それだけだ」
卯月「馬鹿なの?」
青年「かもな・・だけど手は貸してくれ」
卯月「ふざけた事言うと・・本当に殺すよ?」
青年「やれよ。どうせ此処で手を貸してもらえなかったら死ぬしかない」
青年「だが、後で由良に何を言われるか覚悟してろよ?あいつは一筋縄じゃいかない」
卯月「っ、へぇ、脅すんだ」
青年「どう取るかはお前次第だ」
卯月「うぅ〜ん・・このくそガキ・・」
青年「っ・・・・」
冷や汗が止まらない
でも、それを顔に出すな
悟られるな
まだ手を持っているように余裕を見せろ
青年「どうだ?殺すか?」
頼む!
卯月「はぁ・・由良が好みそうな子」
卯月「もし、由良が死んでたら許さないから」
青年「っ!じゃあ!俺を」
卯月「信じない。でも、鎮守府内の問題だし何かしら動かないと後で怒られるかも」
卯月「面倒だけど今は動かないとね」
青年「俺はどうすれば良い!何でもする!」
卯月「と言っても詳しく聞かせて?電はどうなってた?」
青年「分かった」
俺は自分の知ってる限りの情報を話した。途中であった武蔵の事は必要ないと思い話さなかった
本人も言って欲しくないだろうしない
青年「何度も呼びかけたけど俺だってことも分かっていなかった」
卯月「・・・・・」
青年「どうにかできないのか?」
卯月「もし本当に話し通りなら手遅れね」
青年「っ!そんな・・」
卯月「我を完全に失ってしまっているなら今のうちに始末しないともっと大変な事になる」
青年「電を殺す気か」
卯月「それしかない。じゃないとみんな殺されちゃうよ?」
卯月「それとも電を大量殺戮者にする?」
青年「っ・・そんな」
間に合わなかった・・
助けられなかった・・
電・・ごめんな。守ってやれなくて・・ごめんな
こんな情けない兄で・・
せめてこれ以上電を苦しめてしまっているなら・・
俺が!
青年「卯月・・どうやったら倒せる」
卯月「喚くと思ったのに冷静なんだね」
青年「教えてくれ」
卯月「・・・・・・・」
卯月「それを知る前にもう少し足掻いてみても良いんじゃない?」
青年「これ以上無駄に苦しめるなら・・俺が殺す!例え刺し違いになったとしても」
人間が艦娘に勝てる筈はない。だが、自爆覚悟なら・・
卯月「覚悟を決めるのも良いけど少しぐらい信じてみたら?電は弱い子なの?」
青年「強いさ・・俺よりも強い意志を持ってる」
それを俺は壊してしまったんだ
だからこそ命を賭けても電を止めてやらないといけない
卯月「だったら信じてみたら?クソガキの言う状況はイマイチ過ぎて大雑把にしか分からない。そこから言うと手遅れだと思う」
卯月「でも、実際を見てない。もしかしたらまだ間に合うかもしれない」
青年「だが・・」
卯月「しゃんとしなさい!助けられるかもしれない可能性があるんだよ」
青年「本当に・・本当にまだ間に合うのか?」
卯月「もしかしたらだよ?必ずじゃない。可能性があるだけ」
卯月「でも、駄目だった時の覚悟も今持っておいて良い?」
青年「それでも良い!可能性でもなんでも良い!教えてくれどうすれば!いや、一緒に来てくれ!」
卯月「本当は此処の番をしておかないといけないけど本格的にやばそうだし行こっか案内お願い」
青年「あぁ!任せてくれ!多分だけど執務室に居ると思うから走るぞ」
卯月「うん」
手遅れかもしれないけど
それでも1%でも可能性があるなら!
電!今行くから待ってろよ!
お兄ちゃんがどうにかしてやるから!
ーおんぼろ鎮守府正門ー
卯月「ん?ちょっと待って」
青年「卯月どうした?」
卯月「ごめん行けないかも」
青年「卯月?」
卯月の視線の先には此方へと向かってくる一人の女性を見ていた
青年「誰だ・・いや、あれは!」
そう、彼女は青年も知っていた
いや、知っているどころではない。一緒に暮らしてきた仲間であり家族である
青年「羽黒姉ちゃん・・」
彼女の目には見た事ないほどの怒りが見えた
それは青年でも漏らしてしまってもおかしくない程だった(提督なら漏らしてる)
卯月「彼女、戦う目をしてる・・」
青年「え?」
羽黒姉ちゃんが?
羽黒「此処の司令官は何処?」ギロッ
卯月「うーちゃんわからなーい!」ニコッ
羽黒「は?舐めてますか?」
卯月「あ?教えると思う?」
青年「っ!」
なんだよ。この重い空気は喋る事も出来ない
本当にあの優しかった羽黒姉ちゃんなのか?
青年「ね、姉・・ちゃん・・」
やっと絞り出す様にして声が出た
羽黒「っ!青年!無事だったんですね!」
先程の恐ろしいまで殺気が一気になくなりいつもの羽黒姉ちゃんになった
それがまた少し怖かった
だけどやっと普通に喋れる
青年「ね、姉ちゃん何しに来たんだ?」
羽黒「何しにって貴方を助けに来たんだよ!」
青年「羽黒姉ちゃん・・」
そんな危険なのにわざわざ来てくれたのか
嬉しい・・と言う気持ちもあったが今帰るわけにはいかない
羽黒「っ!酷い怪我・・一体誰が!」
青年「あ、これは」
羽黒「良いよ。言わなくて良い・・此処の奴らがやったんだよね?」
青年「いや、間違ってはないけど今は電を!」
羽黒「分かってる。電ちゃんの事も叢雲ちゃんの事もそして貴方の事も・・貴方の苦しみに気付いてあげられずにごめんね」
羽黒「貴方の苦しみをこの鎮守府にまとめて返してあげるから」ギロッ
青年「っ!姉ちゃん!今は争う場合じゃないんだ!聞いて」
羽黒「さぁ、先に帰ってて?後はお姉ちゃんが終わらせるからね?」
青年「っ!姉ちゃん!これは俺が終わらせないといけないんだ!」
羽黒「何言ってるの?そんな危ない事させない。貴方は帰りなさい」
青年「でも!」
羽黒「青年・・言う事を聞きなさい。貴方じゃ無理なの分かる?」
青年「っ!分かってる!でも!これだけは・・これだけは俺がやらないと!」
青年「お願いだ!俺を信じてくれ!」
羽黒「信じる信じないじゃない。貴方はまだ子供なの。我がまま言わないで帰りなさい・・貴方では無理よ」
青年「姉ちゃん!」
なんだよこれ・・どうして信じて
青年「っ!」
この感じは
電『電はやれるのです!信じて欲しいのです!』
青年『信じる信じないじゃ。俺はお前が心配だから。お前には無理なんだ』
電『お兄ちゃん!』
俺だって同じことをしてるじゃないか!
青年「はは、こんなきついとはな・・」
家族だからこそ信じて欲しかった
信じて背中を押して欲しかったんだ
なのに俺は・・電を否定する事しかしてないじゃないか
なにやってんだ俺は・・
羽黒「青年?疲れたの?歩けない?そうよね酷い怪我だもんね。連れて帰ってあげるね」
羽黒姉ちゃんがこっちにやってくる
いつもの優しい笑顔で
でも、今はそれが何より辛い
だけど逃げる気も何も起きない
羽黒「さぁ、帰ろ」
羽黒姉ちゃんの手が俺へと
バシッ
羽黒「いっ!」
青年「っ!」
その手を彼女は卯月が払い退けた
卯月「さわんな!」
羽黒「邪魔するの?」
卯月「邪魔してるのはそっちでしょ?」
青年「卯月・・」
卯月「クソガキ!立て!」
青年「は、はい!」
卯月「行け!」
青年「え?」
卯月「終わらせるんでしょ!私じゃ足りないかもしれないけど背中押してあげるから!ほら!」バシッ
青年「いったぁあ!強く叩き過ぎだ!」
卯月「クソガキ・・ううん、青年よく聞いて」
卯月「呼びかけなさい。もっと強く全力で呼びかけなさい。今の彼女にもし聞こえるとするなら青年、貴方の声だけ」
青年「卯月・・俺は・・君を」
卯月「ほら行け!早く!」
卯月「お兄ちゃんなんでしょ?お尻くらい拭いてやりなさい」
青年「っ!」ダッ
青年は走った由良からそして卯月から貰った勇気を持ち
青年「卯月!」
卯月「もう、何?」
青年「卯月のケツ舐めたくなる奴の気持ち少しだけ分かった気がするよ!」
卯月「っ!あ、アホ!」
卯月「たく、何言ってんだか・・バカ////」
羽黒「青年に何教えてんの?あの子にはまだ」
卯月「過保護も程々にしないと弱い子になっちゃうよ?」
羽黒「何を言って」
卯月「・・あの子もいつまでも子供じゃない。信じてあげるのも親であり姉の代わりでもある貴女の役目なんじゃない?」
羽黒「・・・・貴女に何が分かるの」
卯月「分かるよ。まぁ、私の場合は送り出したのは姉だけどね・・それでも近いからこそ分かってあげたいんだよ。それが無謀だとしてもあんな姿見せられたら・・信じるしかないじゃん」
羽黒「そんなの失ってないから言えるのよ!あの子は・・本当の親も兄弟も失って・・ううん、私が守ってあげられなかった・・だから」
羽黒「あの子だけはあの子達だけは私が守ってあげないと!」
卯月「気持ちは痛い程分かるよ・・でも今あの子は成長しようとしてる。それを止める権利は親にも姉にも私達にもない!」
羽黒「貴女は何も分かってない!成長するなら私だって送り出したい!でも、今は成長と言ってもレベルが違い過ぎる!もしかしての可能性で送り出すなんて出来ない!親なら姉ならそれが当たり前なんです!」
羽黒「私だって失うのが怖いんだから!大切な家族を失うのが怖い!」
卯月「ごめん。私にその気持ちは分からない。成長していかないと強くならないと死ぬだけだったから・・だけどそれでも男が漢になろうとしてる背中を止められないよ・・」
卯月「良い子じゃん彼は」
羽黒「当たり前です。みんなのお兄さんをやっていてくれて凄く優しい子なんです。その怒りに気付いてあげられなかった。だからこそ少し突っ走ってしまったあの子を止めてあげないと」
卯月「突っ走ってなんかないよ。ちゃんと前を見てる」
羽黒「・・・・・・」
羽黒「もう話しても無駄みたいですね」
卯月「うーちゃんはもっとお話ししたいな」
卯月「だから此処にいて」
卯月「ううん、行かせないよ」
羽黒「そうですか邪魔するなら戦うしかないですね」
卯月「そっちがまだ考えを変えないならそうするしかない」
羽黒「これが最後です。あの子だけでも連れ帰らせてください」
卯月「出来ないよ。うーちゃんには」空を見上げ
卯月「背中押したからね」艤装展開
羽黒「そうですか・・なら!かなり久しぶりですけど艤装展開!」バチッ
羽黒「あれ?ちょっと待ってください」バチッバチッ
卯月「ん?これはもしや?」
羽黒「少しブランクがある様ですが待っててください!ふん!」ビリ
卯月「いやいや、待って!」
羽黒「はぁあああああああああ!!この感覚来ました!」ビリビリ
卯月「あ、ストップ!艤装展開やめて!」
羽黒「今更遅い!まだまだ現役の娘には負けません!」ゴゴゴゴゴ
卯月「違う!艤装点検最後いつしたの!」
卯月「爆発するよ!」
羽黒「へ?あ・・」艤装展開
ピカッ!
羽黒「あれ?艤装が光って・・進化?」
羽黒「あつ!あちち!これは!なんか焦げの匂い!」
卯月「ああ!もう!」ダッ
羽黒「あぁ・・孤児院のみんな・・青年、ごめん・・お姉ちゃんは」
卯月「間に合えーーー!!」
卯月「ふぬ!」艤装しがみつき
羽黒「え?」
卯月「爆破軽減!うーちゃんバリアー(ゴリ押し)」
ドカーーーーーーーーーン!!
羽黒「きゃぁあああああ!」
卯月「ふぬぬぬぬぬぬぬ!!」
青年「っ!なんだこの爆発!」
青年「羽黒姉ちゃん・・卯月・・・」
青年「いや、二人を信じよう!」ダッ
青年は執務室へと走った
羽黒「ふにゅ〜」大破
卯月「感謝してよ・・はぁ」大破
なんとか無事の二人だった
ーおんぼろ鎮守府執務室ー
大淀「今の爆発は?」
元帥「今は前だけを見ろ!立ち上がったぞ!」
大淀「は、はい!」
電「・ま・・も・・る」ギロッ
大淀「いい加減しつこいですね・・元帥どうしましょう」
元帥「決断するべきか・・提督お前ならどうする・・」
ー駆逐漢ー
明石「嫌な感じが強くなって来た・・」
夕張「鳳翔さんもう少しスピード上げられる?」
鳳翔「お安い御用です♪」
如月「・・・・・・」
不知火「ぬい!」
如月「そうね、心配ね」
まるゆ「ふむ・・・・・・」
まるゆ「このざわめき・・ただの動悸なら良いんですが」
おんぼろ鎮守府へと急ぐ如月達だった
ーおんぼろ鎮守府入渠ドッグー
間宮、大本営間宮「「」」
由良「・・・・・・」
痛みは感じない
後数時間で全治する
でも・・
このまま終わるのを待ってて良いのかな?
彼は困ってないかな?
卯月ちゃんと上手く話せてるかな?
気になる・・
でも、彼はバケツを渡してはくれなかった
きっともう後は任せろと言いたいのだろうけど・・
そうじゃない!
由良「っ!」ピクッ
私達は相棒なんだよ
一緒に乗り越えなきゃ意味がない!
由良「青年・・私はまだやれる」グッ
ゆっくりと入渠ドッグから出ようと動き出す
まだ傷はほとんど治っていない
出た瞬間に激痛が襲い、そのまま死ぬ事もある
だけど
由良「バケツは」チラッ
少し遠くにあった
何故か衣類を入れられてるけど
由良「あそこまで行けば」
由良「ふぅー・・よし!」
目標を定め入渠ドッグから出た
ズキッ!!
とんでもない激痛が襲う
由良「うぁあああああ!!」
痛みで蹲ってしまいそうになる、目をつぶってしまいそうになる
だけど、それをしてしまったら終わりだ
一瞬でも痛みに従ったらそこで死ぬ
由良「くっ!」グッ
這う様にして少しずつバケツへと近寄る
無限に思える距離をただ進む
自分が真っ直ぐ進んでるのかも分からない
だけど進む
由良「ぐっああ!」
意識が薄れてゆく
とんでもない激痛から眠気へと変わる
由良「まだよ!!」
床には大量の血が見える
由良「ごほっ!」ビシャ
吐血により呼吸もしずらくなる
自分がなんなのかもよく分からない
由良「あ・・・あぁ・・・」
もう駄目だ・・ごめん青年・・私もう・・
眠気に従い目をつぶってしまいそうになった時
ドカーーーーーーーーーン!!
由良「っ・・」
大きな爆発音がした
由良「青年!」
青年に何かあったのかもしれない。苦しんでるかも、たすけを待ってるかもしれない
由良「ふぬぬぬぬ!」
バケツへの再び手を伸ばす
距離感も分からない。まだ遠くかもしれない。だけど・・
由良「届いて!」
この先を一緒に進みたい人がいる
それだけで少しの可能性に懸けたい!
バケツのフチに手が当たり
由良「っ!うぉおおりゃぁああ!」
バッシャアン!
自身へとバケツをかけた
傷はあっという間になくなり痛みもなくなった
由良「はぁ・・はぁ・・ごめん青年・・少しだけ・・ほんの少しだけ・・やす・・ませ・・て」ガクリ
由良は眠る様に気絶した。再び動く為に
東鎮守府
それは他の鎮守府と違い事務関係をメインにやっている鎮守府であり艦娘は在籍しているが皆出撃などはせずに事務作業や電話の対応や他の鎮守府の監査に行ったりという事をしている。言わば此処は海軍専用の市役所の様な所である
今回はそんな東鎮守府の司令官である東提督と一人の少女の話しである
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ヘボ子、それはとある一人の少女に名付けられた呪いの様なものである
その少女は普通の家庭に普通に産まれて普通の名を付けられていた
だが、その普通の名を呼ばれる事はなく、産まれた時には看護婦には
『元気なヘボい女の子ですよ!』と言われ
両親からも
『難しい事は言わない。ただ普通にへボく育ってくれれば良いんだよ。ヘボ子』と言われ
知らない人にもヘボ子と呼ばれてしまっている程だった
彼女はヘボいと言われる事に誇りを持っていた
しかし、育っていくうちに気付いてしまった
ヘボい意味
【下手なさま、腕前のつたないさま】
「ん?これって・・」
ヘボいって言葉は悪口ではないのかと?
そして両親から一度たりとも本名を呼ばれていないと
それに気付いたのが中学の時で人間不信になってしまい人と話す事に恐怖を覚えてしまっていた
だけど、周りは自分の名を呼んでくれない。ヘボ子と馬鹿にしてばかりだった
でも、逃げてはダメと思い、どうしてそう呼ばれるのか考えて色々と悪いと思うところを治したりするけど、誰も自分の本当の名を呼んでくれない
そんな生活に限界が来た時だった
周りから避けられている男の子が居た
ヘボ子は半分自暴自棄になり彼に声を掛けた
「一人で暇なんです?」
そう声を掛けた時、周りは止める様に声を掛けてくれる
あいつはには関わるなと
馬鹿にしている癖によく分からない人達だ。私がどうなろうと構わないのにどうして心配するの?
ヘボ子呼び以外は普通に接してくれている。まるで普通の友達の様に
でも・・
それが怖かった・・
なにを考えてるのか、その笑顔の奥になにを隠してるのか、それを考えるのにも疲れていた
その点今声を掛けて彼見た目からも態度から不満を撒き散らしている。分かりやすいからこそ関わりたいと思う
いや、一人でいることに疲れているんだ
そんな私の一言彼は
「うっせえよ。変な名前の奴が向こうへ行ってろ」
その言葉に衝撃を覚えた
変な名前?私の名前が変?
「わ、私の名前って変?」
そう聞き返してしまう程に
そしてそれが
「あ?みんなヘボ子って言ってるが変じゃない方がおかしいだろ?なんだ?虐められてるのか?」
その言葉に衝撃を受け少し固まってしまっていた
それを肯定とみたのか彼はこう続けた
「なにがヘボ子だよ。そんな事を多人数で言う奴らの方がよっぽどヘボいだろうよ。そう言う奴は無視した方が良いぞ」
「お前は別に・・ヘボくないと思うぞ」
この名前を変と言って、そして私の身を案じてくれた
暗い闇から彼が手を引っ張ってくれた
私の恋の始まりだった
私は彼が好きになってしまった
そこからの行動は早かった。彼の事を知ろうと調べまくり、彼に声を掛けては煙たがれる
そんな毎日を過ごしているうちに両親を含む周りのヘボ子呼びを気にならなくなっていたと言うよりも分かってしまった
周りのその呼び方は本当に悪意なんてなく、理由は分からないけどヘボ子を本当に名前だと疑っていない
おかしい話しだけど、悪意がないと分かってこの名前も悪くないかな?と思いつつもやはり意味が意味なのであまり呼ばれたくはない
だけど、もう嫌な気分にはならなくなった。これも彼のお陰でそう思える様になった
ますます彼が好きになり、私は彼の行く高校を調べ、偶然を装って入り、3年間彼を見ていた
中には彼に罰ゲームで声を掛ける輩も現れたりしたけど、そう言う輩には彼に声を掛ける前に地獄を見てもらったりと色々暗躍をしていたのもあり、あまり声を掛けられなかったけど私は彼と過ごした3年間は最高だった
そして勿論彼の行く大学へ行くために勉強をして
気付くと海軍養成学校へと入っていた
そこまで来て私はやっと正気に戻ったと言っても良い
なにをやっているんだと自分を責めた
彼の為にとは言え高校時代に地獄へ落とした人達に少しの謝罪を心の中で祈り
そしてそんなほんの少しの謝罪を一通り終えると、彼にアタックしようと決心した
そんな矢先に急遽1年生にはなかったはずの鎮守府研修が始まってしまった
4年生との合同であるらしい
焦りと戸惑いはあったけど、これはチャンスと思った
1年生達は希望の鎮守府を選ぶ事が出来る
彼と同じ鎮守府を選べばそこから一気に仲良くなれると
私は彼の希望する鎮守府を調べると、どうやら鎮守府研修に乗り気ではなく先生からもあまり良く思われていない
なんでも裏切り者の息子だとか言っていた
彼も何かに苦しんでるんだ
そう思うとますます一緒の鎮守府に行かないとと気合が入る
彼はこのままだと東鎮守府が研修先になるらしい
東鎮守府は書類関係などがメインで人気がなく希望者0らしく
逆に西鎮守には行ってみたいと言う研修生が多いが、西提督が拒否しており誰も行けずらしい
ともあれ希望者0の東鎮守府に行けば彼と二人で研修をすることが出来る
私は周りの反対を押し切り東鎮守府を希望先にして、受理された
彼の闇も私のこの名前の事もそして未来も
大きく変わると心震わせてドキドキの毎日が始まる期待して
眠れぬ夜を越えて
そして東鎮守府に行った
だけど・・・そんなドキドキの毎日はなくなった
だって
彼は金髪くんは・・いなかった
ヘボ子「・・・・・・」
東提督「いらっしゃい」ニコリ
陽炎「此処に来るなんて物好きだね」ニヤニヤ
ヘボ子「う・・」
東提督、陽炎「「う?」」
ヘボ子「嘘だぁあああああ!!」
陽炎「(爆笑)」
ーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーー
それから数ヶ月後
ある日の昼下がり東鎮守府の執務室で書類と戦う一人の少女と一人の男が居た
一人は此処の司令官でありくたびれた覇気のなささもあり初老ぐらい?と思われるがまだそこまでではないが、ぽっくり逝くんじゃないかな?とか過労死が歩いてるとか言われている男だ
そしてもう一人はまだ学生でありながら鎮守府研修が終わった後もバイトとして東提督の補佐を半端強引にやらされてしまっている女の子である
ー東鎮守府執務室ー
東提督「さてと少し休憩しようか。書類ばかりで疲れるね。お茶を淹れよう」
???「えっと此処は誤魔化して書いて此処をこうして・・」カキカキ
東提督「ふむ・・仕事熱心なのは良いけど少し休もう。頑張り過ぎは疲れるよ?」
???「此処は分からないけど・・後で熊野さんに聞いてっと」カキカキ
東提督「おーい」
???「あ、でも愚痴聞かされるかもしれないし・・はぁ・・鬱だ」
???「ん?物資申請書?固定電話の支給を要求する?却下よ!理由も酷いし、まるゆが煩いって何よ」
???「自分で買えっと、本当に無駄な書類は燃やそうかな」
???「おんぼろ鎮守府って名前もふざけてるし・・なんでこれが最優先でされてるか不明・・」
東提督「・・・・・・」
東提督「ヘボ子君」
ヘボ子「その名で呼ばないで!ヘボって何よ!ヘボって」
東提督「休憩だよ」ニコッ
ヘボ子「あ、はい」
それから少しして二人で湯呑みを持ち一息つく
ヘボ子「ふぅ〜美味しい。熊野さんの紅茶には程遠いですけど」
東提督「少しは慣れてきたかい?」
ヘボ子「慣れてきたと言うより私なんでこんな事になってんですか?」
東提督「ん?」
ヘボ子「まぁそれは今は良いです。それよりも本当にこの鎮守府は出撃もしないしやってる事は市役所でやるような書類とか電話対応とか監査とか人でも出来るような事ばかりなのになんで東提督さん以外は艦娘なんです?」
ヘボ子「ハーレムが良いんですか?もう枯れてそうなのに」
東提督「はは、まだそんな歳じゃないけど・・そうだね。そろそろ考えていかないといけないね」
ヘボ子「考える?枯れる前にワンチャン?私は嫌ですよ?好きな人いますし」
東提督「はは、もう自分の娘と言っても良いくらいの歳の娘をどうこうしようなんて思わないよ」
東提督「ただ、その好きな人ってのは気になるね・・誰だい?」
ヘボ子「教えませんよ。絶対に」
東提督「ちゃんと付き合うってなったら紹介するんだよ?僕が根性を試してあげるからね」
ヘボ子「あれ?東提督さんっていつから父親になったんですか?」
東提督「はは、君が好意をもつ人間だ。きっと良い子だとは思うけどね」
ヘボ子「まぁ・・悪い人じゃないですから」
口は悪いけど悪い人ではない。それは分かる
と言うよりも今では研修が終わってから性格がガラリと変わっていた。口調も前よりも優しくなり、誰も寄せ付けないオーラは消え去り、たくましく感じると言うか他の人達とは何か違う感じがした
学生とは思えない?と言うのかな?研修先は西鎮守府だと聞いたけど何かあったのかな?
そしてなによりも皆が最初に困惑したのは研修が終わった後の金髪くんは坊主で、背中に薙刀を背負っている。細かい傷跡も多くそれが彼を更に大きく見せた
先生も軍人ではあるけど、金髪くんの方が先生達よりもそう見えるくらいで
その大きな変化とギャップからクラスの女子に人気が出て声が掛けにくくなってしまった
金髪くんは一人じゃなくなった
それを喜ぶべき悲しむべきか複雑だ
ヘボ子「はぁ・・それで何を考えるって?」
話を本題に戻そう。これ以上は私が虚しくなる
諦めるつもりはないけど、とりあえず保留で
東提督「考えるってのはこの先の東鎮守府の事さ」
ヘボ子「この先ですか・・うーん、考えるだけで禿げそう」
東提督「同感だよ・・本当に・・」
そう言ってどこか遠くを見上げる
ヘボ子「東提督さん?」
東提督「元はね逆だったんだよ。この鎮守府に艦娘は一人もいなかったんだ」
ヘボ子「え?そうなんです?じゃあ、なんで今は」
東提督「少し昔話しに付き合ってくれるかな?君には知っていて欲しいからね」
ヘボ子「機密的なヤバいやつとかやめてくださいよ?聞いたら一生飼い殺しとか」
東提督「大丈夫だよ。誰も興味もないだろう僕が此処の司令官なった時の話しさ」
ヘボ子「私も凄く興味ないですよ」
東提督「どうやってなれたと思う?」
ヘボ子「あれ?聞こえなかったのかな?興味が全然なー」
東提督「ふふ・・・」ギラン
ヘボ子「お・・偶に漏らしそうなくらいの鋭い眼光を見せるのやめてくれませんか?」
本当に漏らしかけたのは秘密
東提督「どうしてだと思う?」
ヘボ子「うぅ・・脅しじゃないの・・流れに流されてなんとかなく気付いたら此処に来てたとかじゃないですか?」
ヘボ子「断れなさそうですし」
東提督「確かにそれはあってるけど、実は僕はね昔は」
東提督「陸軍に居たんだ」
ヘボ子「へ?」
そう言って見せられた写真にはムキムキの男の姿が写っていた
ヘボ子「えっと・・誰?」
東提督「僕だよ」
ヘボ子「ちょっと興味が湧いてきました。顔って交換出来るんですね。アンパンのヒーローですか?」
東提督「はは、なら話させてもらうよ」
ヘボ子「あ、その前にお茶のおかわりを」
東提督「はいはい」
ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーー
家政兵
それが昔の東提督だった
昔は陸軍が海軍に取り入ろうと様々な兵種があった
車の洗車をするスペシャリスト、洗車兵
庭の手入れはお任せ木も何もかも伐採、庭兵
トイレの汚れもこいつ一人で割と綺麗、便所兵
服のクリーニングは任せな!その鍛えた陸軍の脚力で店まで行って出してきて時間になったら取りに行くクリーニング兵
犬の散歩からフンの回収までお手の物、犬兵
と言う感じにありとあらゆる手で取り入る事で陸軍自体をなくならせないように必死だった
陸軍の艦娘が少ないと言うのも一つの理由だった
現在でも殆どはなくなったが憲兵や数種の兵種は残っており海軍に派遣されている
その中でも家政兵はレンジャー課程を修了している事が必須科目であり、忙しくて大変な司令官達の為に炊事洗濯掃除などをやってくれるお手伝いさんの軍人バージョンだ
と言うか家政婦だ
艦娘と司令官の洗濯物を別々にしてくれる優しいけど複雑な気持ちになれるアフターケアまでしてくれる
昔の東提督はムキムキで鋭い目つき
西提督と同じくらいの筋肉で仮に二人を並べるとどちらが西提督か東提督か分からなくなる程だ
ただ、性格は違っており熱血の西提督とは違い不器用で人見知りもありコミュニケーションをあまり得意とせずに周りからは冷静沈着な怒らせるとヤバい奴と思われているのが東提督だった
実際はみんなと話したかったけど初手で相手が怯えてしまっている
そこからの眼光煌く笑顔を見せれば大抵の人は漏らす
その眼光は現在の彼も変わらず持っており、それに耐えられているヘボ子がおかしいのだ
そう言う性格もあり海軍への家政兵として派遣を頼まれた時も断れずに渋々東鎮守府へと行く事になったのだ
泊まり込みでと言うのもあり慣れない場所で最初は嫌々でやっていたが東提督の息子の世話や家事洗濯掃除などをやっている事に喜びを感じ始めていた
ただ、毎日が凄く大変だったのは変わらなかった
そしてそんな生活が一年続いたある日
家政兵「うむ・・・」
皆が寝静まった夜、東鎮守府の一室であり今は家政兵の自室となっている場所で家政兵は勉強をしていた
家政兵「キャラ弁とは奥が深いな・・この国民的アニメらしいサゾエさんの花ゾワさんで決定だな。ケツアゴは海苔で作れば良いんだな」
明日東提督の息子に持たせる遠足の弁当の勉強をしていた
小学生で懐かれているのもあり家政兵もそれが嬉しくてキャラ弁作ってと言われ二つ返事で了承してしまった
まずはキャラ弁とは何か?から調べてアニメのキャラクターを弁当にすると言う事がやっと分かってきたところだった
ふと時計を見ると
家政兵「む、もうこんな時間か・・」
そろそろ明日の仕込みをしてから眠るとしよう
手帳を開き予定を確認する
いつもやっている家事洗濯掃除は勿論息子の送迎に買い出しと近所の奥さんとの井戸端会議(情報共有)などとやる事がたくさんある
特に井戸端会議は重要で主婦の持つ情報網は馬鹿に出来ない程で最近は三丁目の三好さんの夫が痔だと言う情報を手に入れる事が出来た
ボ◯ギノールを郵便受けに入れておいた
近所の人達のフォローも完璧だ
家政兵「やはり静かだな・・」
この鎮守府は広いが泊まっているのは家政兵と東提督それにその息子の三人で後は定時帰りの軍人でもない派遣社員達だった
東提督の奥さんは数年前に亡くなってしまっている
まだ甘えたい年頃なのだろうが目に涙を溜めて我慢する息子はきっと将来強い人間なると確信している
だが、甘えたいなら甘えて欲しいと思っている。母親の代わりにはなれないが寂しさを少しでもなくしてやる事はしてやれる
いや、してやりたい
だからこそ何時もこのハート形のエプロンをしている。そろそろ甘えてきても良いんだが
まだ漏らし癖が治らない。これもどうにかせねばなるまい
ふと立ち止まる
家政兵「・・・・・・」
昼間はガヤガヤしているが夜は本当に静かだ
でも、そんな昼間と夜とのギャップが好きではあったりする
家政兵「この生活も悪くないな・・」
そう思えるのは良い事なのだろうか?そう疑問にも感じたのだった
家政兵「どうするか・・」
調理室で仕込みをしながら考える
家政兵「花ゾワさんのケツアゴの曲線は海苔で出来るが・・葉巻はどうするか?」
一層の事本物を入れてみるとか?
いや、万が一食べてしまったら大変な事になる
だが、海苔では葉巻のあの感じは出せないし何より栄養バランスに乱れが出る
だからと言って葉巻を無しにしてしまえば花ゾワさんのアイデンティティがなくなってしまうし花ゾワさんの双子の妹と見分けがつかなくなる
姉が葉巻で妹がセブンスターを加えている以外には見分けが付かない
一層の事花ゾワさんの彼氏のゲス夫にするか?いや、あの顔は食欲をなくすな
やはり作るならヒロインの花ゾワさん(姉)だ
いや、ヒロインはサゾエさんか?ヒロインは人妻か・・
いや、花ゾワさんだ
家政兵「・・・ダメだ」
それからも考えてみるが答えは出ずに中途半端になってしまうのでキャラ弁はもう少し勉強してからにしようと結論が出た
明日の東提督の息子への謝罪の言葉を考えながら普通の弁当の仕込みをして自室へと戻る
しかし、その途中
執務室から光が漏れていた
家政兵「む・・・まさか」
今日もなのかと思い執務室へと入る
そこには机に突っ伏して眠っている東提督の姿があった
書きかけの書類を見るとまた無理をしているのが分かる
家政兵「・・・・・・」チラッ
書類の量を見るがどう見ても一人で出来る範囲を軽く超えている
家政兵「派遣の奴らは何をしてる・・」
いくらなんでも任せ過ぎている
彼等は派遣と言う立場もあり東提督が気弱な性格なのを良いことに自分の仕事を押し付けているのだ
それが最近は段々と酷くなっている
仕事をしているのか?
家政兵「言うべきか?・・」
しかし、家政兵が仕事にとやかく言う事は出来ないし唯でさえ向こうは家政兵をよく思っていない
家政婦の真似事をするだけで軍人として公務員と同じ様に手当てまで出ての給料
派遣からしたら面白くないだろう
だが、彼等は分かっていない
それだけの過程があり責任の元にあるから今がある
派遣を悪くは言いたくないが彼等は、いや、此処に来る奴らは逃げ続けた結果だと言う事を嫌と言うほど感じる
頑張っている奴らもいるが東提督の人が良い事を知りサボろうとする奴らが多いのも書類の量から見て分かる
このままでは東提督は倒れてしまう
そっと東提督を抱えてベッドへと下ろして上着を取りベルトやボタンを緩めてそっと毛布をかける
息子さんの為にも貴方は倒れてはいけない
家政兵「・・・・・」
倒れて良いと言うのならそれは元から独り身の僕なんだ
負担を受けるのが本来の軍人のあるべき姿なんだ
執務室へと戻り書類に目を通す
今まで仕事を見ている時間もあった
ペンを持ち東提督の筆跡を真似して書き始める
目が覚めた東提督は驚いたがどうなっているのか分かっていなかった
それで良い。これは全部貴方がやった
これで少しは負担も減るだろうと思っていたが
東提督が頑張る中で一部の派遣達は更に押し付ける様になった
その度に東提督は夜の時間を使いやっていた
もうこっそりとやる事も出来なくなった
だから堂々とやる事にした
ー東鎮守府執務室ー
東提督「何時もやってくれていたんだね。ありがとう」カキカキ
家政兵「いえ、これも家政兵としての仕事ですから・・」カキカキ
東提督「すまない・・」
東提督「その、それで家政兵として頼みたい事があるんだが、今度息子の参観日でね?私は行けそうにないから・・君が」
その言葉にペンを持っている手に力が入る
ペンがバキッと悲鳴をあげて絶命した
東提督「ど、どうしたんだい?」
家政兵「東提督さん、こんな事は言いたくないですがいつまでこんな生活を続けるつもりですか・・・」
東提督「・・・・・・」
家政兵「この量は異常だ!もう派遣達に好き勝手にさせているのがおかしいんだ!貴方が言わないなら僕が」
東提督「やめて欲しい!」
家政兵「っ、何故ですか!」
東提督「彼等の言い分も分かるんだ。だから・・」
家政兵「息子さんは・・どうなるんですか父親の貴方が!」
東提督「家政兵これ以上この事について口を出す事を禁じる。すまない」
何故そこまで一人で背追い込もうとしているのかが分からなかった
でも、調べた事ですぐに分かった
派遣の中に息子と同じ学校に通っている奴が居てグループを形成している
問題のある不良達として
もし、派遣の一声で息子の身に危険が起きてしまえば
そう、東提督は派遣達から脅されているのだ
そしてそう言う状態になってしまっているのにまだ相手の事を考えてしまっている
この事を知れば派遣達は大変な事になる
それを知ってまだ耐えるのか
優しさ・・いや、そんな優しさなど軍人として失格だ
これも東提督の弱さの所為で起きてしまった事だ
もっとハッキリとしていれば付け込まれる事もなかった
自業自得だ
だからこそなんだろう
一人で背追い込んでいる
東提督さん
本当にそれで良いのだろうか
詳しくは知らないが、貴方の奥さんは・・過労で
そう思う中で何も出来ない自分を奮い立たせた
唯一の自分を鍛える時間を全て無くして書類仕事の他にも事務作業を覚えた
少しでも負担を減らそうと頑張った
かなりの数の書類を二人で減らすことが出来ていた
筋肉に蓄えられた養分達は無情にも脳に持っていかれる
ストレスで十円ハゲが出来る
それで更にストレスが増える
良い事もあった。サゾエさんの花ゾワさん(姉)のキャラ弁が完成した
要らないと言われた・・
笑顔で誤魔化したら息子くんはまた漏らした
まだ治らないか・・
ストレスで更に抜ける髪の毛
遂に育毛剤を手に取る屈辱
だが、耐えた
耐えられた
しかし、そんな生活はレンジャーである僕は耐えられたかもしれないが元々事務系の東提督には耐えられず
いや、耐え続けていたのが遂に
細い一本で繋がっていた紐が切れた
プツンと倒れる東提督
そう、それは派遣達が原因だった
彼は自分達も軍人として雇えと言う様になった
しかも僕にバレないように東提督だけを脅す様にしていた
でも、それでも耐え続けていた
息子が不登校になってしまうまでは
遂に強硬手段に出たのだ
ボロボロになった息子
病院で目を覚まさなくなってしまった東提督
やがてそのまま東提督は退役
息子は転校という形で東鎮守府から去った
どうする事も出来ないししない
彼なら乗り越えてくれるだろうと信じているからだ
当面の生活が出来る様に手続きだけはしてやった
せめて新しい地で頑張って欲しい
海軍とは無縁の生活をしてくれ
家政兵「・・・・・・」
自業自得だ
いつかはこうなると分かっていたのに何もしていなかった
東提督に全ての責任がある
だが、それでも思ってしまう
何も出来なかった
分かっていたのに
そんな後悔をして苦しくて
初めて泣いた
雨の中一人叫んだ
そしてそれから悩みに悩んだ
それでも書類は減らない
十円ハゲが五百円規模になる
次の跡目は俺だと派遣のリーダー格が言う
目を開けているのが辛くなるから薄目になる
陸軍からは戻って来いと言われる
気付くと筋肉は何処へ?
そして海軍からは司令官になる気はないかと言われた
そう、東提督は自分に何かあった時は東鎮守府のその全ての権限を陸軍である僕に譲ると正式な書類に書いていたのだ
今までの実績やらの大量の書類と共に
何もしてなかった?
いや、していたんだ
僕に託すと言う事を
馬鹿野郎が・・
でも・・
そうか、ならもう遠慮はいらないな
自然に笑みがこぼれる
こんなに怒りが込み上げてるくるのは初めてだ
だが、復讐なんて事はしない
家政兵→東提督「着任だ!」
ヒョロヒョロの弱そうな見た目になってしまったが今までの歩いてきた道は裏切らない
陸軍へ行きレンジャーの仲間に頭を下げる
もう陸軍ではない
だけど、陸軍の力が必要だった
今まで仲間というのはいなかった。孤高を貫くと言うより輪に入れなかったのもあるが
レンジャー仲間だった人は変わり果てた僕を見て驚く
そして肩にそっと手を置き
サムズアップ
「任せな!」
泣きそうだった
派遣達にクビを言い渡し代わりに軍人になりたいならさせてやると言った
東提督「さぁ!派遣達よお望みの軍人になれる道を示してやったぞ」
あきつ丸「さぁ!このバスに乗って共に国の為に戦うであります!」
神州丸「押さない、走らない、死なない、お、は、し、を守って乗ってくださいね」
逃げる派遣達
追いかける屈強なレンジャー達と陸軍の艦娘達
あきつ丸「ふはは!そんなに嬉しいでありますか!」
派遣「嫌だ!やめろ!死にたくない!」
神州丸「おいでー」ガシッ
派遣「あ〜そんな強引に・・でも良い・・」
あきつ丸「・・・・・ちっ!」
東提督「一人も逃すな!!」
もう既に必要書類は書いてやった
後は身柄を確保すれば彼等も望みの軍人になれる
前東提督・・これが本当の優しさだ
そして、前東提督の息子をボコボコにしたクソガキ、じゃなくて子供は許してあげよう
親が悪いのであって子は悪くない
だけど、小学生の癖にあのチャラ男姿はかなり酷い
陸軍子供レンジャー部隊への入隊願書を書いて提出してあげた
人不足の陸軍は子供だろうと願書と言うのがあれば即確保に向かう
その瞬間全権を軍に委ねると言うことになるので逃げる事は出来ない
そう、それは願書とは言うが別名、地獄への片道切符とも言われている
今頃そのひね曲がった根性を叩き直してもらっているだろう
そして自分のやった事の意味に気付いてくれれば彼等には上へと行けるチャンスでもある
甘いな僕は・・・・
そして誰もいなくなった東鎮守府には何人か軍の人が手伝いで入ったりしたが
一ヶ月でハゲて倒れる
人を呑み込み(強制命令)ハゲたら出られる(病院へ)
その過酷さからハゲタカ鎮守府とも呼ばれる時期があった
どんなフサフサでも死体に群がるハゲタカの如く髪が失い病む
なので何時も教えてもすぐに居なくなってしまい遂には一人で東鎮守府を運営している状態になった
それが数カ月続いた
そして限界が来た
ー東鎮守府執務室ー
東提督「くっ・・目が霞む・・書類が減らない!」
東提督「また髪が抜ける・・これ以上は抜ける髪がなくなる!」
めまいで書類が更に倍に見える
東提督「全部燃やせば・・ダメダメ!」
手の震えが止まらずに胃の痛みがやばい
東提督「うぅ、文字が!胃薬がもうない・・」
冷や汗がダラダラ出る
東提督「はは、この喉の渇きと寒気・・レンジャーの訓練を思い出す・・うぇ」
東提督「少し休憩を・・お茶を淹れて・・あれ?身体が思うように動かない」
海の中を歩いているけど上手く進まない
そんな感覚とめまいと眠気で上手く頭が働かない
これは夢?
それとも現実?
僕は誰だ?
なんでこんな事をしているのだろう
頭がふわってしてきた
東提督「ぶはっ!・・・」
口から出たのは血だった
東提督「はぁ・・はぁ・・夢じゃないな・・」
バタッ
遂に倒れてしまった
そして気付いた時には病院に
なんて事はなかった
だって此処には誰も居ないのだから
薄暗い執務室
乾いた血の上で目が覚める
東提督「うぅ・・・」
気持ちが悪い
目が覚めたのが奇跡だと思う
だけど、もう一度目を閉じたら
もう終わりだ
東提督「ぬぅ・・」
這いながら電話へと手を伸ばす
でも机の上にある電話には床に倒れてる東提督の手が届くことはなく
東提督「た、頼む・・・」
それでも伸ばした
死にたくない
このまま終わるなんて嫌だ
目が段々と重くなる
伸ばした手の力が抜けていく
東提督「・・・・すまない」
そのまま意識がなくなっていった
その時机が揺れて電話が床へと落ちた
そして落ちた衝撃で緊急ボタンが押された
救急車が来た
目を開けるとそこは今度こそ病院のベッドだった
医者の言うには生きてるのが不思議な程だと言った
そして退役する事を勧められた
それを否定も出来なかった
入院して数週間が経ち自分のこれからについて考える
東鎮守府に帰ると思うと吐き気と心臓の痛みがする
どうやらトラウマになってしまっている様だ
もうやめて田舎でゆっくりと暮らそうか
そう思った
そしてふと気付く
此処は海軍の病院
前東提督もいる筈だ
聞くと簡単に合わせてくれた
ー病室ー
東提督「・・前東提督さん」
ベッドで安らかな顔をして眠っている
あの倒れた日からずっと目覚めていない
目覚めるかも分からないらしい
聞いた話では僕が倒れた日辺りから段々と臓器も弱ってきている
多分もう長くはないらしい
涙が溢れてくる
前東提督が守ろうとした鎮守府も託してくれた思いも
全部ダメになってしまった
東提督「僕は・・どうすれば良いんだ・・」
このままだと東鎮守府は誰も継ぐ人がいないので運営は出来ない
つまり崩壊
積み上げてきた今までも思い出も全てなくなる
東提督「前東提督さん!僕は何も成せませんでした!」ポロポロ
あの時の前東提督の判断が正しかった
どんなに使えない派遣でも残しておけば何かあっても残ってはいた
醜くても残す事に意味があったんだ
でも、僕はそれを全て消してしまった
本当に何も考えてなかったのは
僕だった
東提督「すみませんでした・・すみませんでした!!」
何も答えない前東提督に土下座をした
それからまた数日が経った
退院が許された
でも、無理は絶対にするなとキツく言われた
そして退役する事を強く勧められた
東鎮守府の司令官を示すバッヂをポケットに入れて
本部へ行って退役する事を言いに行こう
流石に病院から言われたと言われれば止める事も出来ない
これで自由なんだ
笑えよ
頼むから
笑わせてくれ
東提督「・・これで良いのか」ポロポロ
枯れたはずの涙がまた出る
そして病院を出ようとした時
「いや!」
女の子の声が聞こえた
男「いいからこっちに来い!」
女の子「いや!お願い!なんでもするから!」
何かあったのかもしれないけど関わると面倒な事になりそうだ
東提督「あの娘どこかで・・いや、どうでもいいか」
男「抵抗するな!」
女の子「生きたい!このまま何も出来ずに終わるなんて嫌!」
東提督「っ!」
あの娘はもしかして
女の子「なんでもするから!お願い私を見捨てないで!」
男「いい加減に!!」スッ
女の子「っ!」
ガシッ
東提督「何しているんだ。周りを見なさい」
男「おい、離せよ!」
東提督「暴力はいけない何があったんだい?」
男「関係ないだろうが!」
東提督「関係ならある。と言うより此処は海軍専門の病院だ。海軍関係者しかいない。関係ない奴なんていない」
男「チッ、それでもお前関係ないだろう」
東提督「あるから聞いているんだよ。その娘は艦娘だね?」
男「そうだよ。使えない奴でな!折角使ってやろうってのに抵抗しやがって」
女の子→艦娘「っ・・・・」
東提督「捨て艦戦法でもさせるのかい?頭の悪い司令官がよく使う」
東提督「中にはそれが普通だとか当たり前だとか言うがそんなのは出来ない奴の言い訳だ」
男「俺はそんなんじゃねえ!こいつは今まで一度も出撃してないんだ。何かあると思って検査したら!とんだ不良品だ」
東提督「不良品?」
男「あぁ、こいつ艤装展開出来ないんだ。つまり戦えない。使えない兵器だ。ゴミじゃねえか」
稀に出ると言う障害を抱えた艦娘か
大抵は解体されてしまう
今あるのも当たり前の光景なんだ
でも、この娘は・・
東提督「それで?そのゴミをどうするんだい?」
男「解体して少しでも資材の足しにしてやるってのに抵抗しやがる」
艦娘「・・・・なんでもするから」
東提督「・・・・・・」
男「だから!資材にしてやるって!」
東提督「ねぇ、君は本当になんでもするのかい?」
艦娘「する!するから・・助けて」
東提督「・・・・そうか。辛い道になるよ覚悟はあるかい?」
艦娘「ある!何かを残せるなら!役に立てるなら覚悟はあるから!」
その目は真っ直ぐにただ真っ直ぐに本気だと言うのを証明してくれた
その時風が吹いた
その風を浴びた時に心がスッーとなり不安も苦しさもなくなった様に思えた
なくなったと思った道が彼女を通して見えた
東提督「来なさい。僕が戦う以外の道を教えてあげよう」
帰ろう東鎮守府に
艦娘「はい!」
ポケットにしまったバッヂを付ける
男「お前何勝手に!って!それは!」
東提督「ん?まだ何かあるのかい?」
男「は、ハゲタカ鎮守府の死神だ!ハゲにされるーー!!」ダッ
そう言って逃げていった
なんだったんだろう?まぁ良いか
東提督「さぁ行こう」
艦娘「あ、あの一つだけ教えてください。何故助けて・・」
東提督「ん?深い意味はないよ。ただ、君が僕に見えたからほっておけなかっただけさ。いや、あと一つあるな」
彼女の頬に手を伸ばし優しく撫でる
艦娘「あ・・・」
そして目を見て言う
東提督「君の目が綺麗だったからかな」
その目に道が見えたからなんて恥ずかしくて言えなかった
それから僕は障害を抱えて解体されかけた娘達を集めた
その為に今まで貯めた貯金も使った
そして彼女達に仕事を教えた
最初は上手くいかなかったけど
昼も夜も騒がしい鎮守府は新鮮で疲れもストレスも感じる暇なんてなかった
少しずつだけど手伝ってくれるフォローしてくれる人達の助けもあり東鎮守府は安定の道へと進んだ
そして数年が経ち
東鎮守府の運営も落ち着いた時
前東提督が亡くなった
長くないと言われていたのに数年も耐えたのだ
一度も目を覚ましてはくれなかったけど最期は笑っているようだった。きっと見届けてくれていたんだ。そしてやっと安心出来たんだな
弱くなんかなかった貴方は強い人だ
僕が目指すべき強さを持った人なんだ
そしてそれを境に
牡蠣の養殖を始めた
出来るかは分からないけど残りの貯金を使い切った
これは前東提督さんとの会話を思い出したからだ
東提督『牡蠣ですか?』
前東提督『あぁ、若い頃に食べたのがすごく美味かった・・いつか海が平和になった時に一緒に食べに行こう』
東提督『はい、是非』
たったこれだけの会話だった
それでも心の中で牡蠣の存在が大きくなっていたのは確かだった
一緒に食べに行く事は出来なかったけど貴方が絶賛した物だ。きっと美味いに決まっている
そして出来た時には持って行きますから
だからそれまで見守っていてください
ーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
ーーーー
ー現在ー
ー東鎮守府執務室ー
東提督「そんな事があって今に至るんだ」
ヘボ子「えっと・・何処まで創り話しです?と言うか此処の娘達ってみんな訳あり!熊野さんも?嘘だよね?」
東提督「全部本当だよ」
ヘボ子「いやいや、熊野さん普通だし、それにそんな事があった人がこんなヒョロヒョロな人なわけないでしょ!」
東提督「そんな事があったからヒョロヒョロなんだよ?人に歴史ありさ」
東提督「それにみんなその訳をコンプレックスに感じている。聞く事だけはやめて欲しい。いつか話してくれるまで待ってやって欲しい」
ヘボ子「なによ。そんな野暮な事しないから嘘だとしてもね!」
東提督「信じてもらえないかな?」
ヘボ子「じゃあ、最初に出会った艦娘は誰ですか?貴方の話し聞いてみますから」
東提督「もう忘れてるんじゃないかな?かなり前だし」
ヘボ子「やっぱり嘘じゃん」
東提督「ん〜本当なんだけど」
その時コンコンとノックする音がするが返事も待たずに誰かが入ってきた
陽炎「東提督、終わった書類置いておくよ」
東提督「うん、ありがとう。今日はもう良いから休みなさい」
ヘボ子「私も帰って良いですか?」
陽炎「はぁ・・やっぱり忘れてる。今日は前東提督の墓参りでしょ!」
東提督「あ・・」
ヘボ子「あれ?スルー?帰って良いよね?準備するよ?」
陽炎「本当にしっかりしてよ。段々ボケてきたんじゃないの?介護してあげようか?死ぬまでちゃんとお世話してあげるから」
東提督「はは、まだ大丈夫だよ。牡蠣は?」
陽炎「持ってきたよ。生きてるうちに行こ。新鮮が一番!」
東提督「そうだね。じゃあ、ヘボ子君後は頼んだよ」
ヘボ子「お疲れ様でー・・はい?」
陽炎「ヘボ子、頼んだよ。ほら、荷物を置いてペンを持って!時期東鎮守府の司令官頑張れ!」
二人は執務室を後にした
ヘボ子「・・・・・・はい」
ヘボ子「って!結局本当なのかどうか分からないじゃない!てか、また押し付けられたぁああ!徹夜だぁああ!」
ー前東提督墓ー
墓の前で手を合わせる二人
僕達が来る前に誰か来たのか綺麗に掃除されて線香もまだ煙りをだしている
息子くんかな?
それにたくさんの花束は元派遣達とその子供達からかな?今では立派な軍人になっていると聞いてる。中には東鎮守府の過酷さを知り尚此処へ戻りたいと言う人も居るが、此処に縛られる必要はないと断っている
君達は君達の未来を歩んでほしい。もう、僕達は許しているのだから
そしてゆっくりと顔を上げる
陽炎は手を合わせたままだった
東提督「気付いたら貴方の歳を跨いでしまったがまだ貴方には程遠く感じる」
陽炎「・・・・・・」
東提督「貴方の生きた時代も僕の生きてる今も意味はあったんだ。無駄なんてないんだよ」
もしかしたらその答えを出す為に今までがあったのかもしれない
その一つの答えを見つける為に
本当に時間が掛かった
東提督「面白い子達が居るんだ。その子達のこれからを考えるとね。楽しみで仕方がない。だからまだそっちには行けないから牡蠣置いておくから食べてくれ」
僕はまだ牡蠣を見ると腹痛がするからそっちに行くまでには治しておくよ
陽炎「・・・・・・」
東提督「今が楽しいよ。友よ」ビシッ
敬礼をした
歩き出す東提督
陽炎が顔を上げた
陽炎「心配しないで彼のこれからも最期も一人にはさせないから。そっちに行ったら一緒に三人で牡蠣食べようね」
陽炎「ありがとう」ビシッ
敬礼をした
そして東提督の後を追った
少し強く吹く風が二人のこの先をそしてこれからを生きる者達への
敬礼の様に見えた
東提督「さぁ、行こうか」
陽炎「はい!」
東鎮守府は今日も無事に運営しています
そしてその日の深夜東鎮守府から若い女性の声で「書類燃やしてやるぅうう!」と言う声が聞こえると近所の三丁目の三好さんの夫から苦情が来たと言う
痔はまだ治ってないらしい
また東提督は一日たりとも欠かせずにやってきたボ◯ギノールを郵便受けに入れる作業を終えるのだった
東提督「良い事すると気持ちが良いな」ニコリ
その笑顔が東提督の一番輝いている時であった
【今と過去を繋ぐ風】
終
【明日を繋ぐ鎮守府と変わり行く提督】
終
【明日を繋ぐ鎮守府と今を生きる提督】に続く
なんやかんやで此処まで続くと誰が予想出来たのか・・終わりはいつ来るのか!
それは、多分唐突に来ますが、それまでは付き合ってくれると嬉しいです
展開が遅くてすみません・・これでも結構端折ってたりはするんですが・・
何処かへ行く時とかの間の会話って結構重要だと思うんですよ!
とか、色々考えると一章で終わらせる西鎮守府編が此処まで来てしまった・・後悔はない!!!
コメントなどくれると凄く喜びますよ!!引くぐらいに!
これにて10章も終了です!此処まで応援してくれてありがとうございます!11章でまた会えると良いですね!
楽しみにしてます!頑張ってください!
1番さん!
ありがとうございます!また、よろしくお願いしますね!( ´ ▽ ` )
もうね、すっごく好き!
3番さん!
私も貴方が大好きです!!
まじで楽しいこれからも頑張ってください❗
全力で応援します
鈴谷の心が気になるこの頃。待ってました!無理しない程度にがんばってください!
応援してます!頑張って下さい!
5.6番さん!
まじで!!ありがとうございます!全力で応援してくれると凄く嬉しいです!!
7番さん!
気分気ままに書いてるので大丈夫ですよ!鈴谷さんはもう少しお待ちください〜
8番さん!
応援ありがとう!程々に頑張ります!!
面白い作品を有難うございます!応援してます!無理しない程度に更新頑張って下さい!
10番さん!
此方こそコメントありがとうございます。その言葉だけでも凄く励みになります。飽きられないように頑張るので、ダメな点とかあったら教えてくださいね?
どうも!
9章とドラえもんSSでしこたま長文コメとリクエストを書きなぐらせてもらった者...って言えばわかりますかね?
もう冗談抜きでポテ神さんのSSを1日一回は見なきゃ気がすまなくなって何度も過去作含めて読み返すのが日課になってしまっています(^_^;)
Twitterもまだアカウントは持ってないけど毎日見てます(^_^;)
更新される度に「うおお!更新されてる!読むぞおお!この時のために俺は生きてきたんだ~!」って勢いで読みまくってますし!
もし本になるって言ったら言い値で10冊位買いたいぐらいポテ神さんの作品を読むのが生き甲斐になってますよ!
もう僕の人生の教科書みたいなもんですから(*´ω`*)
そう言う訳だから勝手に常連を名乗らせてもらうし、当たり前だけど応援してます!
あ、でも他の方の言う通り無理はしないでマイペースで良いですからね?
仕事も変わって慣れないことが多くて大変な時期なのにそれでも更新してくれて有難い限りです。
一気読みさせて頂きました!
最&高!
もう大好き、愛してる。頑張って。
10章お疲れ様です!
このSSは今まで見た中でとっても感動したり、とても考えさせられるSsだなぁと思いました!
毎回更新が楽しみです!
これからも頑張って下さいね!
今まで読んだssの中で一番面白いです。楽しみにしているので絶対失踪とかしないでください
かけ!書くんだジョー!
現実の残酷な波にのまれながらも、足掻きまくる提督さんは敬礼もんですね!
最高に胸熱だぜ!
歴史に載らない重巡火縄「見ているだけがもどかしいなぁ...」
1章から通しで読みました続きが気になります頑張って書いてください応援してます
12番さん!
お久しぶりです!返事が遅れてごめんなさい!またまたまたまたこんな長文コメントありがとうございます!!
ちょっと大袈裟に言い過ぎだとは思いますけど!これからもどうか!常連でファンでいてください!新しい仕事頑張ります!!
13番さん!
俺も最&高ですよ!そのコメいいね!
14番さん!
俺の方が愛してますから!!
15番さん!
自分自身書いていて考えさせられる所もあるのでそういうのが伝わってもらえるのは嬉しいです!
16番さん!
一作品失踪ではないですが、何年も続きをかけていないのがあるのでそれの二の舞にはしないように頑張ります!!
17番さん!
それ死亡フラグ
18番さん!
これからも提督の活躍に乞うご期待!
歴史にはならなくても凄い人はたくさんいますぜ?
まぁ〜君!
ありがとう!でも、更新を待ってるのは貴方の作品もですよ!!
何度も読み返しながら待ってましたよ〜。
色々と大変かも知れませんが、無理せずに、頑張らずに続けて下さいね?
久し振りの更新待ってました!とても面白いです!これからも頑張って下さい!
やったぁぁあ更新だぁあ
本当に良いSS
今まで艦これSSは沢山読んできたけど
この作品はその中でもトップクラスに素晴らしい作品!
応援してます、豪雨が過ぎた途端、急に暑くなってきたので
夏バテ、熱中症にはくれぐれも気をつけて下さい!
22番さん!
なん度も読み返してくれるなんて・・君は余程ひまなんだね!!でも、ありがとう!!頑張るので応援よろしくお願いします!!
23番さん!
その言葉で書く気がぐんぐん湧いて来ます!!もう少し掛かると思いますがお待ちください!!
24番さん!
やったぁああ!コメントだぁああ!!
多趣味人さん!
名前からして趣味がいっぱいあるんですね!羨ましい・・自分は趣味を探して色々奮闘中です!
トップクラスなんて勿体ないお言葉ありがとうございます!!
先日宇和島の三間町に災害救援活動ボランティアに参加してきましたが、豪雨の影響は思ったより酷い状況でした・・全然人が足りてない状況なので、ボランティアに参加出来る人は(かなりの重労働です)して欲しいと思います。
実に面白い。府ははははは!!
(良いss過ぎて錯乱)
もっと書いてくれればお兄さん喜んじゃう♪
自分学生(重度のとある病気w)&愛知県在住なので参加できませんが公共施設等での募金活動には微力ながら参加させてもらってます。ssもボランティアも頑張って下さい。応援してます!!
更新あぁりがとうございまぁああす!
この作品を最近知り、前の3連休で一気に見させていただきました、とても面白いです。
久しぶりに物語に深くハマりました。
語彙力が足らず上手く言い表わせないので簡単にいいます、読んでいて楽しいです、応援していますよ〜。
いやー、終わりと言うのは必ずあるけどこのシリーズは終わってほしくないですねぇ。いつも楽しみにしてます。更新頑張って下さい!
27番さん!
頑張って書くんじゃぁああああ!
微力でも何かをやってる事は素晴らしいことです!誇ると良いでしょう!
28番さん!
またまた更新じゃぁアアア!
29番さん!
貴重な連休を・・ありがとうございます!感激です!良かったらこれからも応援よろしくお願いします
30番さん!
何事にも終わりはありますが、終わり方が良ければ良い感じに残るので、そう言うのを目指してます!!
忙しいと思いますが
お身体を大事にして更新頑張ってください!
更新待ってます!
確かに終わって欲しくないなぁ
1章を読んで、夢中になって
2日掛けて9章までイッキ読みしてしまった…
10章も続きがとても楽しみです。
このssに出会えた事に感謝を…
次の更新を楽しみに待ってますね。
32番さん!
ありがとうございます!程々に頑張るつもりです!最近思うんですが、もう少し展開を早くした方が良いですかね?全く進んでないのでイライラする人もいるのかなって思ったりします
33番さん!
人生と同じ様に終わる時を考えるのではなく今を考えれば良い!終わりを考えちゃうと多分今もたのしくないと思いますよ?終わる時は終わります!!そしたらまた何か始まります!
34番さん!
2日かけて読むとは相当な暇人ですね!ですけど、嬉しいですありがとうございます。僕も貴方に読んでもらえてコメントに感謝を
更新感、激
お、更新されてんじゃーん
弥生ぐうかわ
初めてSSを読んだのがこの作品でしたが一気見してみたら更新が続いているとは!
かげながら応援していますので頑張ってください!
いい作品です。
頑張ってください!!!
やっとss投稿速報復活しましたね。
頑張ってください。
何度も読み返してます。
続きも楽しみにしていますので、ゆるゆると頑張ってください。
…0章も…チラッ
あと個人的に大和が着任してくれると良いなぁっと思ったり。
提督と大和の飾らずのケンカ友達的な掛け合いがなんか良いなぁと。
続き楽しみにしてます!
でもお体にも精神にも色々と気をつけてくださいね(笑)
気長に待ってます。
あととっても面白かったです!
とても面白い作品です続きをのんびり待ってます
一日で全部読みきりました。
これからも頑張ってください。
応援しています
36番さん!
コメント感、劇!!
37番さん!
更新しましたぜ!弥生は可愛い当たり前です!
38番さん!
初めてがこの作品でありがとうございます。遅いですが更新していくのでこれからもよろしくお願いします!
39番さん!
ありがとうございます!これからとよろしくお願いします!
40番さん!
やっと更新しました!そして遅くなりましたが復活おめ!!
南辺鶯さん!
何度も読み返してくれるとは・・ありがとうございます!!0章もそのうち更新すると思いたいです!!
大和と提督の関係実は自分も気に入っていたりします!着任すると資材が・・
42番さん!
1日で読みきるとは・・相当な暇人ですね!ありがとうございます!寒くなってきましたし風邪には気をつけて、のんびりと待っててくださいね!
龍騎士さん!
こちらも1日とは・・正直ビックリです!飽きずにここまで読んでくれてありがとうございます!これからものんびりと待ってくれると嬉しいです!!
気づいたらなんか更新きてたし
いいぞもっとやれ
また良い感じに続きが気になるな
楽しみに待ってます^^
自分的にはまだ終わらない方がいいかな・・・終わらせて欲しくないかな・・・
でも作者さんの想いもありますしまだまだ楽しみにしてますよ!
自分的にはまだ終わらない方がいいかな・・・終わらせて欲しくないかな・・・
でも作者さんの想いもありますしまだまだ楽しみにしてますよ!
どうも。いつもの長文常連です。
気づけばもう11月って今年もあっという間でしたね。
このシリーズに偶然たどり着いたのは去年の9月ぐらいだからもう早いもんです。
それにしても久し振りに更新されてるのを見たら興奮したせいか反射的に声に出して「うおおおおお!」って思いっきし遠吠えしちゃいました!(オオカミ男かよっ!)
でも執務室でやったら憲兵さんにうるさい外でやれ!って壁ドンされた...(大汗)
でも期待を裏切らないけど良い意味で予想を裏切るグッとくる展開に興奮しっぱなしでしたよ!
何だろうな?この感覚。
いつも毎回録画してまで何度も見ていた超面白い上にキャラが大好きだったアニメが映画になって、しかもストーリーが超絶に超絶を重ねててブルーレイ出るなら初回限定版真っ先に予約してやんぞコラ!ってなるぐらい面白かったときと同じ感覚だ。
とにかくこれからもヘタレだけどガッツある提督の活躍期待してますよ!
うおおお更新だぁああ
お帰りなさいませ。
更新楽しみにしてました。
リアルも忙しく、だんだん寒い季節になってきましたが、無理せず身体を第一に頑張って下さい。
引き続き楽しみにお待ちしてます
("⌒∇⌒")
更新待ってました!!無理のない更新で頑張ってください!楽しみにしてます!
面白すぎて禿げそうです
楽しみにしてますズイ(ง ˘ω˘ )วズイ
すごく面白かったです。
頑張ってください
次の話を楽しみに待ってます!あまり無理をなさらない様に!
このシリーズ大好きです!
続き楽しみに待ってます!
忙しいと思いますが
お身体にお気をつけてください。
更新お待ちしております。
みなさん!コメントを一気に返すのをお許しください!
遅れましたがあけましておめでとうございます!
終わって欲しくないとか、楽しみにしてますとか、身体を労ってくれる様なコメント・・そして、長文をくれる語彙力の高いコメント!皆さんのコメントには勇気付けられてばかりです。これからも頑張っていきますのでどうぞ生暖かい目で見守ってください!
更新きたぁぁぁぁぁ
ありがたいです
これからも頑張ってください
マジで大好きだわ!
これからも是非!頑張ってくださいΣ(・ω・ノ)ノ!
どうも。我輩はいつもの長文自称常連野郎である。
名乗る名はまだ無い。(ストーリーの千円札の人繋がりでこう名乗ってみた←)
...死ぬほど待ってたぜ!
俺の生きがい!最高級の娯楽!
そう言っても言い過ぎだって言われたって俺は全然言い過ぎじゃ無いと思うくらい嬉しかっった!
勇気をもらえた気がした!
ありがとう!そして、君と、物語の中の提督と、おんぼろ鎮守府のみんなと、君の作品に出会って心が溢れた全ての人たちと、ついでに俺に、希望と明るい未来へつながる道が開かれる事を、俺はいつでも願っている!(西提督語風に言ったので意訳すると、死ぬほど面白いのでいいぞもっとやれって意味っす)
うおおお待ってた、ずっと待ってましたよおおおお。☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
胸熱でハラハラ展開すぎてぶっ倒れそうです
更新を楽しみに待ってますΣ(・ω・ノ)ノ!
更新キタコレ!
またまた一気にコメントを返す事を許してくださいね。
もうすぐ平成も終わります。令和になっても書き続けると思うのでよろしくお願いします。
何時もの長文の方や更新を楽しみに待っていてくれる方など、本当に力になっております。
これからも皆さんと共に令和で頑張りましょう!
そしてもっとコメントちょうだーーい!
この作品凄い面白いです!ss書いてる時にネタギレになった時に見ると元気
アイデアなどが貰えます、体調を崩さない程度で頑張ってください!
もう…ね。
凄く待ってた!
更新されるのを楽しみに待ってるので、無理しないで書き続けてくださいね!
更新感激いええぇえい
小説に出しても良くね?
出してくれたら買いますよ!
普通に面白いし
更新お待ちしております!
最高
いい話し...最高ですっ! ずーっと更新待ってます! 頑張ってください!
更新来たああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
うぁぁああああ更新だぁああああああああああああああああああああああああああ
うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお更新だぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!
うわああぁぁぁぁぁぁ2ヶ月も遅れたあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ更新だあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
みなさん!あけましておめでとうございます!今年もどうかよろしくお願いします。
みなさんのコメやオススメコメなどもたくさんしてもらい、本当に感謝しています!待っててくれる人がいてくれるのが本当に励みになります。これからもどうかコメなどで応援してもらえると調子にのります!
あけおめです(*^ー^)ノ♪
待ってましたぁぁぁ!
このまま終わってしまうのでは無いかと不安に思いつつ、時々覗いたり読み返したり…。
続いてくれて安堵しきりです(*´ω`*)
これからも無理無く頑張って下さい!
あけましておめでとうございます。
更新、待ってました!!
続きが気になって毎日のように確認したました。(暇人?そうなんです(´・×・`))
気長に待ってます。
頑張ってください。
明けまして更新だぁぁぁあやたぁああ
艦これSSの存在を知り、今日まで色々な作品を読んできましたが、私が艦これSSにハマったのは貴方のこの作品に出会ったからです。
お身体に気をつけながら投稿を続けて下さい、何度も読み返すくらいどハマりしてます笑
頑張ってください。自分はこの小説を読んで、艦これアーケードで最初の艦娘を電にしました。投稿頑張ってください
一応少しずつ更新はしてるのか?
結構好きなタイプのss なんで頑張って