第1巻 第106話 ウメハラ
2017年9月25日(Fri) 13:00 佐張(さわり)大学水町キャンパス
ここは佐張(さわり)大学。
凡矢理市から都の中央深部の東区を通り越して更に北に10数km離れた凡矢理市から見て北東にある料理が盛んで飲食店が立ち並ぶ町、水町市にある大学だ。
学力は並か、中の下程度の学力の生徒が集まりそこまで上位では無いC〜Dランク程度の大学だが、栄養学部がある都内で数個だけの大学の1つであり、料理部やそれに準じたサークルなどが幾つもある、建築場所の水町市自体の特色を色濃く反映した私立大学だ。
学生数は約5〜6,000人。
佐張(さわり)大学 水町大学 16号館 講義室
小野寺 (えへへ、嬉しいな。一条君の事3年ぶりに「楽君」って呼べたし、新しい鍵とペンダントまで貰っちゃった。それに………)
小咲は再び、13ヶ月前に楽の気持ちが自分から千棘に移った事を自ら悟り、それを覚悟で楽に告白し そしてフラれた いや、自ら楽の心変わりを悟り身を引いた事を思い出した
小野寺 (それに何より、一条君はあの時私の告白にしっかりとしたケジメを付けなかった事を謝って、またお礼まで言ってくれた。
分かってたよ「楽君」。あなたがそう言う誰にでも公平で誠実な人なんだって。
だからこそ私は………2回も あなたに恋をしたんだよ。
初恋と2度目の恋。いや、2度目の恋だと思っていた中学と高校の恋は実は………初恋の続きだったんだよね。
でも………)
小咲は再び今から13ヶ月(1年と1月)前の記憶を手繰り寄せた。
今度は………自分を振った いや、無言で告白の結果を悟った自分に頷(うなず)き、自(みずか)らよりも千棘を選んで千棘を恋人として迎えに行った時を思い出していた
回想
自分の告白を聞いた後、振り返り自分に背を向けて千棘が待っている大岩の方に向かう楽
楽 「小野寺 ありがとう」
回想終わり
小野寺 (私にとっては、「ホンモノ」だった恋と約束が「ニセモノ」
になった時
千棘ちゃんにとっては、「ニセモノ」だった一条君への恋が「ホンモノ」になった時)
小野寺 (いまでも大好きだよ、一条君。
でも………今はもう一条君が1番大事なのは千棘ちゃんなんだね。)
? 「……………なーに真剣そうな顔してるの?寺ちゃん。」
小野寺 「えぇっ!?」
考え事をしていた小咲に隣から友人が話しかけて来た
? 「寺ちゃんったらさっきから、そうやってずっと手に持った物を見つめながら1人で何だか寂しそうな顔したり、軽く笑ったりしてたじゃない。」
小野寺 「あっ、蕾ちゃん。それはね………」
小咲の隣に座り話し掛けて来た彼女の名前は
梅原 蕾(うめはら つぼみ)
小野寺の佐張大の同じ栄養学部の友達で、
赤みを帯びた茶髪のセミロングヘアを花の蕾の髪留めでポニーテールにしている
小咲は佐張(さわり)大学の入学式で苗字の一文字目が「う」と「お」だから席が比較的近く、
また、お互いに同じ高校からこの大学に来た同性の人間がいなかった事から話し出し性格もあった事から意気投合し、夏休みに入る頃にはすっかり意気投合して、自由行動が多過ぎて中々友人・知人が作り辛(づら)い大学生活における貴重な友人となった。
彼女は高校時のるりと千棘以外の友人同様、小咲の事を「寺ちゃん」と呼ぶ。
蕾 「寺ちゃん、何を見てたの?」
小咲 「いや、それがね………これ………」
カチャ
小咲は蕾につい2〜3時間前に楽と千棘から譲り受けたばかりの、新しい錠とペンダントを見せた。
蕾 「わーー!!何コレ?キレーーな鍵とネックレスだねー!!
あ!もしかしてコレが寺ちゃんが子供の頃、初恋の男の子と約束したペンダント!?」
小咲 「いや、違うの。これはね……………」
小咲は講義中故(ゆえ)に教授に聞こえない様に小声で、蕾に楽と千棘から聞いた話の一部始終と新しい鍵とペンダントを受け取った経緯を話した。
蕾 「へーえ!寺ちゃんの初恋の男の子、寺ちゃんの為にこの新しい青い鍵とペンダントを作って来てくれたんだー!!」
蕾は青い雫(しずく)の穴が空いた鍵と、それで「錠」が開く氷型の青いペンダントを眺めながら話した
蕾 「そうなんだー!良かったね、寺ちゃん。
私、正直寺ちゃんの初恋の人の事、ヒッドイ人なんじゃ無いかって思ってたんだー!」
小咲 「え!?」
小咲は蕾の発言に少々驚いた
蕾 「だってだって、寺ちゃんの初恋の人って、寺ちゃんからの告白を聞いた時、
自分から断りも謝りもせずに寺ちゃんの方がもう1人の片想いの人の方が好きになったのを悟って、「今はもう違うんだよね?」って言って、「うん」って頷いただけだったんでしょ?」
小咲 「え?あ…うん………」
蕾 「でも、その人はその時は新しい彼女さんの事で頭が一杯だっただけで、ちゃんと寺ちゃんの告白を自分から断らなかった事を謝って、新しい約束の鍵とペンダントをくれたんでしょ?
誠実でいい人じゃん!」
小咲 「……………うん。アハハ………そうだね。」
小咲は蕾に言われて改めて確認出来た。
自分の初恋の相手、楽が誠実で心優しい人間だったと言う事を。
第106話 完
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