「朝潮の願い」
提督が着任しなくなって数か月、駆逐艦朝潮が海辺で提督の帰還を待ち望んでいる中・・・
「司令官! おはようございます!!」
執務室に響く元気な声。
「さぁ、今日も1日頑張って行きましょう!!」
駆逐艦朝潮、忠実で真面目な艦娘で、現代で言うなら「優等生」と言った感じだ。
「司令官! 今日の編成はいかが致しますか?」
上官に対しても礼儀正しい言葉で話し、どんな命令にも忠実に従う。
「分かりました! 司令官が命令とあらばこの朝潮、いつでも従う覚悟です!!」
提督も朝潮の忠実さに惹かれ、秘書艦として置いている人間も多い事だろう。
「それでは司令官! 駆逐艦朝潮! 旗艦として出撃して参ります!!」
朝潮が出撃のため、艤装を装着しに工廠場へ・・・提督は机で彼女の無事を祈る。
提督も朝潮もこの時が一番、幸せな時間だったに違いない・・・
・・・・・・
「・・・・・・」
朝潮が海辺でずっと・・・いや、何か月も海辺で誰かを待ち続けていた。
「・・・・・・」
海の景色を眺めつつ、昔の事を思い出す朝潮。
・・・・・・
・・・
・
「司令官! 今日の書類をお持ち致し・・・」
朝潮が執務室に入ると、そこに提督の姿は無かった。
「・・・今日はまだ着任していない、忙しいのですね。」
着任リストを見ると、今日の提督の着任記録が無い。
「別に驚くことではないですね、毎週この曜日は着任されませんから。」
今日に限らず、毎週この曜日に提督は着任しない・・・朝潮は、別件で多忙なのだろうと提督を気遣う。
「いつもの事です、この朝潮! 司令官の分まで働きます。」
机に座り、大量の書類を整理し始めた。
「司令官が戻って来ても、すぐに仕事が始められるように・・・朝潮、頑張ります!!」
そう言って、執務仕事に没頭する朝潮。
しかし、提督が着任しなかったのはこの日だけではなかった。
「今日も休み、ですか・・・」
2日連続は初めてで、朝潮は心配になる。
「・・・取り乱してはいけない! 司令官が戻って来るまでこの朝潮が頑張ればいいだけ!」
戻ってくることを信じつつ、朝潮は提督の代わりに皆への指示や執務仕事をこなしていく。
・・・しかし、朝潮の願いとは裏腹に提督は翌日も着任する事は無かった。
・・・翌日も。
その翌日も・・・
1週間連続で提督は着任せず、朝潮は最早ただ事ではないと感じた。
「明石さん、工廠ポイントはどれくらい残っていますか?」
ここは明石の工廠場、提督はよく課金をするため工廠場では常にポイントが常時チャージされている。
「工廠ポイントは・・・現時点で5000ポイントですね。」
「5000ポイント・・・」
提督は必ず1か月に最大5000ポイントをチャージする、月の間に消費した場合、次の月に5000ポイントに
なるようにチャージするのだが、今月はまだ消費されていない。
「司令官の身に何かあったのでしょうか?」
朝潮は心配で明石に打ち明ける。
「・・・最近、この鎮守府以外にも別の拠点とかが普及して再着任する提督も増えていますからね・・・」
明石によると、この鎮守府(艦これ)以外に、別の拠点(分かりやすく言えば別のゲーム)が普及し、
今までこの鎮守府で生活していた提督が移り住むことも多々あるようだ。
「そうなんですか・・・」
「はい、別の鎮守府ではもう2年も提督が着任していない話を聞いたことがあります。」
「!? 2年、ですか!?」
「ええ、秘書艦や艦娘たちは提督がいつ帰って来てもいいように、自分たちで出撃や遠征をこなしていました。」
「・・・・・・」
「それでも、提督は戻って来ません・・・でも、皆は提督の帰りをひたすら待ち続けています。
例え、提督が別の拠点に移動したと言う事実を知ったとしても。」
「・・・・・・」
明石との会話後、朝潮は部屋へと戻る。
・・・・・・
「司令官・・・」
天井を見上げながら、朝潮は呟く。
「朝潮や他の皆の事を嫌いになったのでしょうか・・・」
着任した最後の日は提督自身、特に異常はなかった・・・いつものように「また明日」とだけ言って、
「司令官は戻って来ますよね?」
違う鎮守府では2年経っても戻って来ない提督もいることを先ほど明石から聞かされたが、
「司令官が皆を捨てて別の拠点に移動するはずがありませんよね・・・」
朝潮はそう信じていたが、内心は不安で仕方なかった。
「そうだ、今日から日記を書こう! 司令官が戻って来る日まで起きた出来事を全部記録して・・・」
机の引き出しから、新しい日記を取り出し、
「〇月〇日、晴れ。 今日は明石さんの工廠場へ赴き、ポイントを確認しました。」
朝潮は今日の出来事と、経過報告を書いて行った。
翌日も、
「今日はこの朝潮、競争訓練で1位を取りました。 出来れば、今日司令官に褒めて欲しかったです!」
2日後、
「駆逐艦島風が司令官の大事なお皿を割ってしまいました・・・すぐに接着剤でくっつけましたが、跡が残りました。」
朝潮は忠実にその日その日の出来事を鮮明に記録していく。
・・・・・・
・・・
・
それから2カ月、
朝潮は海辺で提督の帰りを待っている。
海辺で待つようになった理由は定かではないが、提督が船で来ると思っていたようで毎日のように海辺で座りながら
提督の着任をずっと心待ちにしている朝潮。
「司令官、朝潮は戻ってくるのをずっと待っています!」
早朝から海辺へ、昼食を摂りながら待ち続け・・・鎮守府の門限間近までずっと海辺に、
朝潮はずっと待ち続けた。
・・・・・・
半年が経過、季節は冬。
「今日は雪が降りました・・・もうすぐクリスマスになります、今年のケーキとプレゼントはいかが致しますか?」
いつものように、日記に出来事を書いて行く朝潮。
「今日はとても寒かったので、各部屋にストーブを支給させました。 本当は司令官の許可が必要ですが、
止むなく秘書艦である私が許可を出しました。」
黙々と書いて行く朝潮、
「今日は・・・姉妹と喧嘩をしてしまいました・・・どうすれば仲直り出来ますか?」
徐々に書く腕が震えて行き、
「今日起きたことは・・・特に・・・ありません・・・」
朝潮の表情は徐々に悲しくなり、
「・・・司令官。」
書く事を止め、泣きだす朝潮。
「司令官はもう帰ってこないのですか? もう、この鎮守府には戻って来てくれないのですか?」
提督が着任しなくなったその日から朝潮は待ち続けた・・・1週間経っても、数カ月経っても、
仲間や姉妹に「もう帰って来ないよ」と言われようとも、朝潮は帰ってくると信じて待ち続けた。
「朝潮! 司令官に会えなくて、とても辛いです!!」
涙が日記に落ち、その日のページを濡らしてしまう。
「司令官・・・ううっ、司令官。」
机の上で日記を握りしめ、1人部屋で泣き続ける朝潮。
・・・・・・
・・・
・
「もう日記を書くのは止めよう。」
朝潮が日記を持って海辺に向かう。
「ずっと待ったけど、司令官は恐らく別の拠点に移ったのかも・・・」
信じたくはないが、長期間戻って来ないと「もしかしたら」と思ってしまい、諦めがついてしまった朝潮。
「司令官、本当なら直接伝えたかったですが・・・」
朝潮が海辺に向かって叫んだ。
「今までずっとこの鎮守府への着任、お疲れ様でした!!」
それだけ言うと、朝潮は部屋に戻ろうとしたが、
「? 何だろうあの光は?」
海面に照らされた謎の光、朝潮は光に近づくと、
「!? きゃあっ!?」
バランスを崩して、海に落ちてしまった朝潮。
「・・・・・・」
朝潮は海中でそのまま意識を失ってしまう。
「う、う~ん・・・ここは?」
目覚めると、朝潮はどこかの室内にいた。
「・・・・・・」
もちろん朝潮にはそんな記憶が無い。
「確か、海辺でバランスを崩して海に落ちてから・・・」
それ以降の記憶が何故か思いつかない。
「・・・・・・」
朝潮は室内を見渡す、
「! ここって。」
朝潮にはこの場所に身に覚えがある。
「そうだ、ここは司令官と私が一緒にいた場所・・・執務室だ!」
提督の机と朝潮がいつも使用している秘書艦の机が並んでいて、
「でも、どうして私はここに戻って来て・・・」
海に落ちた以降の記憶が無く、朝潮は悩むが、
「・・・あれ?」
朝潮はあることに気付く。
「司令官の机の書類が乱雑になったまま・・・」
提督は書類整理が大雑把で、よく朝潮が側で補助をしつつ作業していた。
「乱雑になっているってことは・・・司令官が戻って来た!?」
朝潮は提督の机に近づき、
「・・・またここに戻って来ますよね? それなら、この日記を置いておけば読んでくれるはず。」
そう思い、朝潮は書類の側にこれまでの出来事を綴った自分の日記を置いた。
「・・・司令官が戻って来たことを皆に知らせないと。」
朝潮は執務室の扉を開いた。
「!? 急に光が!?」
朝潮が光に包まれ、意識を失った。
・・・・・・
・・・
・
「朝潮・・・朝潮!!」
姉妹艦の満潮が何度も呼び掛ける。
「・・・ううっ、 ・・・み、満潮?」
朝潮は目を覚ます。
「!? 良かった、目を覚ましたわ! 明石さん! 朝潮の意識が戻った!」
満潮の言葉に明石と仲間が担架を運んで、朝潮を乗せる。
「・・・ここは?」
状況が分からず朝潮が問うと、
「何も覚えていないの!? 海に落ちたのを見て一向に浮上しないから、私たちが朝潮を助けに来たのよ!」
「・・・・・・」
そう、やっぱり私は海に落ちていたんだ・・・
朝潮は改めて思い出すが、
「・・・・・・」
じゃあ、さっき執務室にいた光景は夢? それとも幻?
「・・・・・・」
夢だったのか幻だったのか・・・それ以上に日記を持っていない事に気付いて、
「・・・日記は? 私の日記を知らない?」
満潮に聞くが、
「日記? 助けた時には何も持っていなかったわよ!」
「・・・・・・」
なくした・・・司令官に見てもらうはずの大事な日記が・・・
「とにかく、今は安静にしていなさい! 一歩間違えれば死ぬとこだったのよ。」
「・・・・・・」
朝潮は明石たちによって運ばれた。
・・・・・・
その後、工廠場でゆっくりと休み、部屋へと戻る朝潮。
「・・・・・・」
部屋内をくまなく探すが、日記は見つからない。
「どうしよう・・・司令官がいなくなった日から今日まで起きた出来事を綴った大切な日記なのに・・・」
海に落ちた時に日記を手から放してしまったのだろうか、朝潮には後悔だけが残る。
「今日までの出来事と、司令官が戻った時に見てもらいたかった思い出が全て・・・」
朝潮はショックのあまり俯いていた。
あれから1週間後、
「さて、今日の資料はと・・・」
朝潮がいつものように書類整理を始めた。
「遠征は、満潮を旗艦にして・・・出撃はまた戦艦の金剛さんに頼んで、と。」
執務の大半を朝潮一人で行っていて、
「遠征から帰還しました。」
遠征から皆が帰還した。
「お疲れ様です! 軽食を用意しておきましたので、休憩しながら召し上がって下さい!」
皆に対しての采配も良く、朝潮は提督の代わりに頑張っていた。
「悲しんでばかりではいけない、司令官が戻って来ないなら・・・私が皆を支えて行かないと!!」
そう心に言い聞かせ、今日も執務に奮闘する朝潮。
・・・・・・
「司令官、お元気ですか? 朝潮はいつも司令官のお帰りを・・・」
夜になると、朝潮が提督宛てに手紙を書く。
「金剛さんや蒼龍さんが「提督がいないから寂しい」と言っております・・・」
朝潮だけではない、他の皆も提督の着任を待ち望んでいた。
「それでも、皆出撃と遠征任務はきちんと行ってくれます。 司令官に「褒めて欲しい」と駆逐艦の夕立さんが訴えております。」
その日の出来事を昔書いていた日記のように、鮮明に手紙に書いて行く。
「私は今日、出撃でMVPを取りました。 私も夕立さんみたいに頭を撫でて欲しいです・・・」
この手紙が届く事は無い・・・それでも朝潮は手紙を書き続ける。
「違う拠点に移動していても構いません・・・せめてもう一度だけ、司令官の顔が見たいです。」
そこまで書いて、急な睡魔に襲われ・・・
「ふぁ、そろそろ部屋に・・・明日もここで仕事するんだから、このまま寝てもいいかな。」
朝潮は欠伸をした後、机に座ったまま寝息を立てた。
・・・・・・
・・・
・
早朝、4時? いや、5時だろうか?
ガチャッ! (扉を開ける音)
執務室に誰かが入って来た。
カッ、 カッ、 カッ (足音)
「う~ん・・・はっ!」
足音に目を覚ます朝潮、その瞬間昨日書いた手紙が地面にひらひらと落ちる。
「あっ・・・」
朝潮が拾う前に執務室に入って来た人間が手紙を拾ってその場で内容を読みあげる。
「・・・・・・」
声を聞いたその瞬間、朝潮の目に涙が溢れる。
「・・・・・・」
すぐに振り向き、相手を確認する。
朝潮よりも長身で、白い上官服。 手には・・・朝潮が書いていた日記を持っていた。
「・・・・・・」
朝潮は手を構えて相手に向かって大きく叫んだ。
お、おかえりなさい、司令官!!!!
「朝潮の願い」 終
艦これを最近プレイしていない、長期間やっていない時のゲームの秘書艦(今回は朝潮)は
こんな風に思っているのかなぁと想像しながら書きました。
作品拝見させて頂きました。
最近色々忙しくて艦これできていなくて…この作品を読んだら罪悪感がのしかかってきて今PC開いちゃいました…
とっても素敵でした!朝潮ちゃんが幸せになることを祈っています!
狸蟹さん、コメントありがとうございます~♪
狸蟹さんのSSも読んで見てとても面白かったです、これからも頑張って
SS書いてください~♪
私は本家はプレイした事がありませんが面白かったです。(^^)d
≫キリンちゃん様、わざわざありがとうございます!お互いSS書きとして頑張りましょう!
私もしばらく開いてない艦これをこのSS見た後開いた・・・( ;∀;)