提督「吹雪にプロポーズしたいんだが、どうすれば喜ぶと思う?」吹雪「えっ」
提督が吹雪の目の前で吹雪型に吹雪のノロケ話をただしていくだけのお話。
2020/01/27
一応完結しました。今後は誤字・脱字などに気がつき次第修正していきたいと思います。
―司令室―
提督「俺、吹雪のこと結婚したいくらいには好きじゃん?」
吹雪「じゃんて言われても、初耳ですよ!」
吹雪「そんな大事なこと、あっさりカミングアウトしないでください!」
提督「で、吹雪も多分満更でもないじゃん?」
吹雪「き、決めつけないでくださいよ! もうっ」
吹雪「まあ、私も司令官のことはその・・・・・・だ、大好きですけど///」テレッ
提督「と、いうわけで。これはもうプロポーズしかないわけだ」
吹雪「どういうわけですか。もっと段階を踏みましょうよ、カッコカリからとか」
提督「もう、正直辛抱ならん」
吹雪「何がですか!?」
吹雪「ナニをされるんですか私!」
提督「だけど、いざ行動に移そうと思うと何をどうすればいいか分からなくてな」
提督「なあ、どうすればいいかな?」
吹雪「ど、どどどどうって!?」
吹雪(なに、今私もしかして。いや、もしかしなくても)
吹雪(遠回しに司令官から告白されてるっ!?)アワワ
吹雪「し、司令官はどうしてそれを私に?」
提督「やはりお前に聞くのが一番だと思ってな」
吹雪「それは、そうでしょうけど」
吹雪(だって本人ですし///)
提督「・・・・・・」
吹雪「・・・・・・」
提督「・・・・・・なぁ」
吹雪「はひっ!」
提督「黙ってないでなんとか言ってくれよ」
吹雪「ちょ、ちょっと待ってくださいっ。いきなりのことでまだ混乱してt」
提督「叢雲」
吹雪「・・・・・・へっ」
叢雲「・・・・・・」カリカリカリカリ
叢雲「私に言ってたの?」ピタッ
提督「そうだ」
提督「他に誰がいると?」
吹雪(な、なんだ私に聞いたんじゃないのか・・・・・・)ホッ
吹雪「はっ!?」
吹雪(いやいや待って、それでもおかしいよね!?)
吹雪(私は依然としてここにいるんだよっ!?)
叢雲「で、なんの話?」
提督「叢雲・・・・・・聞いてなかったのか?」
叢雲「ええ、聞いてなかったわ」
叢雲「どこかの司令官がここ最近うわの空で」
叢雲「まったく片付かない書類の山を」
叢雲「運悪く秘書艦に任じられている私が、片付けなければいけないから」
叢雲「余計な雑音を耳に入れる余裕なんてなかったの」
叢雲「で、なんの話だったのかしら? 雑音さん?」
提督「・・・・・・すまん」ペコリ
吹雪「あの・・・・・・私もなんかごめんなさい」ペコリ
叢雲「あら、わざわざ謝罪するために声をかけたの? 殊勝なことね」
叢雲「でもそんなことしなくていいから、代わりに手を動かしてもらえると助かるわ」ニコリ
提督「アッハイ」カリカリカリカリ
吹雪(笑顔が逆に怖い)
吹雪(これからは、絶対怒らせないようにしよう。うん)
叢雲「・・・・・・」
提督「・・・・・・」カリカリカリカリ
提督「で、だ。 叢雲」カリカリカリカリ
提督「吹雪にプロポーズしたいんだが、どうすれば喜ぶと思う?」カリカリカリカリ
吹雪「まだ続けるんですか司令官! 懲りないですねもーっ」
叢雲「・・・・・・」チラッ
叢雲「はぁ」
吹雪(そのため息は何に対してのため息なんだろう)
叢雲「なんで私?」
叢雲「もっと適任がこの鎮守府にはいるでしょうに」
提督「ん? 誰だそれは」ピタッ
吹雪「そうだよ、言ってあげて。それは目の前にいるこのわt」
叢雲「白雪とか。あの子2番艦だし。私よりこの鎮守府長いし」
提督「おっ、それもそうだな」
吹雪「ずこー」ズコー
吹雪「いやいやいやいや」
吹雪(いやいやいやいやいやいや)
吹雪(いるじゃないですか! ここに! いちばん聞かなくちゃいけない艦娘が!)
吹雪(あ、いや、実際に聞かれたら聞かれたで困るんだけどね!)
提督「それじゃあ、そうだな。あとで白雪にも聞きに行くか」
叢雲「そうしなさい。そのためにもアンタはさっさとその溜まった書類を片付けt」
提督「で、参考までに叢雲。お前ならどんな風にプロポーズされたい?」
吹雪「えっ」
叢雲「は?」
叢雲「なに、新手のセクハラ?」
叢雲「憲兵を」スッ
提督「呼ぶな」
憲兵「ん? 呼んだ?」スッ
提督「お呼びでないのでお帰りください」
吹雪「し、司令官何を聞いてるんですか!?」
吹雪「しかも、寄りにもよって私の妹に」ポカポカポカポカ
提督「で、どうなんだ?」
吹雪「私のことは意にも介さず!?」
叢雲「答えたらちゃんと仕事してよ?」
提督「善処する」
叢雲「曖昧な返事ね・・・・・・もう」
叢雲「・・・・・・」
叢雲「そうね」
叢雲「私だったら、普通にプロポーズしてもらえればそれだけで嬉しいかもね」
吹雪「?」
吹雪(どういうこと?)
提督「普通とは?」
叢雲「飾らないでってことよ」
叢雲「一緒に夕食を食べてる時とか、一緒にテレビを見てるときとか」
叢雲「そういう他愛ない時間の合間に、真剣に一言“ケッコンしよう”」
叢雲「好きな人からその言葉がもらえるだけで、嬉しいって」
叢雲「この人のお嫁さんになって、支えてあげたいなって」
叢雲「そういうのに憧れるってことよ」
提督「・・・・・・」
吹雪「・・・・・・」
叢雲「なによ。黙りこくって」
提督「いや・・・・・・なんというかその」
吹雪「分かりますよ、司令官」
吹雪(私の妹がいい女過ぎてツラい)
叢雲「で、参考になったかしら?」
提督「ああ、まあな」
吹雪「・・・・・・」ホッ
吹雪(ようやくこの話題が終わったみたい)
吹雪(よかった。司令官と妹とのこんな会話、どんな顔をして聞いていればいいのか分からなかったしね)
提督「ところでついでなんだが」
提督「吹雪ともっとスキンシップをとりたいんだが、どうすれば喜ぶと思う?」
吹雪「ちょ、司令官っ!?」
吹雪「なに、聞いちゃってくれちゃってやがるんですか!?」
叢雲「ねえ、なんなのさっきから」
叢雲「アンタ馬鹿なの? 死ぬの?」ピキッ
吹雪「額に青筋がくっきり」ヒエ
吹雪「謝って、早く謝ってください。司令官」ユサユサ
提督「まあまあ、落ち着け。叢雲」
提督「これはさっきの質問の延長だ」
提督「日頃からもっとアピールして、好感度を上げたいってのもあるけど」
提督「ほら。プロポーズするにも、会っていきなりっていうのは違うだろ」
提督「プロポーズにはプロポーズにふさわしい雰囲気、ムード作りが必要だ」
提督「そのムード作りには何をするべきだと思うか。それを教えて欲しい」
叢雲「ムード作り?・・・・・・ああそういう」ナットク
吹雪「いや、納得して落ち着いてるけど」
吹雪「駆逐艦にそういう相談してる時点で、立派な案件だと思う」
叢雲「そうね・・・・・・ひとまず、吹雪がしてもらって嬉しいことをすればいいんじゃないかしら」
提督「してもらって嬉しいことか・・・・・・」ムムム
吹雪(司令官にしてもらいたいこと)
叢雲「ほら、いろいろあるじゃない。肩もみとか肩たたきとか」
吹雪「いや、なに。そのおじいちゃんみたいなチョイス」
吹雪「私そんなに肩こってるように見えるの?」
吹雪「むしろ叢雲ちゃんのほうが白髪だし、おb・・・・・・イエ、ナンデモゴザイマセン」
吹雪(でもそうだな・・・・・・司令官にやってほしいことかぁ)ウーン
吹雪(そうだ! 他の鎮守府の子達が自慢してた、この鎮守府ではしてもらってないあれを・・・・・・)ピコンッ
吹雪「司令官! 私は褒めてもらったときに頭を撫でてもらいt」
叢雲「あ、でも。頭なでなでは論外ね」
吹雪「えっ」
提督「ああ、それは論外だなもちろん」
吹雪「ええっ!?」
吹雪「何でですか、私なでなでしてもらいたいですよっ」
吹雪「あ・・・・・・違うんですっ。そういう意味じゃなくて。いや、そういう意味なんですけどっ」
吹雪(ああ、もうっ。いきなりなに言ってるんだろう私。分からなくなってきたよ///)カアァ
吹雪「とにかく、好きな男の人に頭を撫でてもらうのが嫌いな女の子はいません!」
提督「叢雲はどうよ?」
提督「もし、今俺が頭を撫でたら」
叢雲「まあ、アンタのコトはそれなりに認めてるし。嫌いじゃないけど」
吹雪「そうだよねっ。やっぱり本音は撫でてほしいに決まってr」
叢雲「そんなことした瞬間にかみちぎるわね」ニッコリ
吹雪「手に噛みつくくらい嫌なのっ!?」ガガビーン
提督「それは困るな。俺の代償がデカすぎる」
叢雲「そうよ、やめておきなさい」
叢雲「私も自分の髪を痛めつけたくはないわ」
吹雪「? どういう意味」
提督「なるほどっ。“噛み千切る”と“髪ちぎる”をかけたのか」ポンッ
提督「面白いことを言うなぁ。叢雲は」ハッハッハッ
叢雲「当然よ」フフンッ
吹雪(悲報、妹のギャグセンスが親父レベルだった件)
吹雪「それは叢雲ちゃんだけだよっ。司令官に撫でて欲しい子は沢山いますからっ」
吹雪「試しに誰かにしてみてください。絶対大丈夫ですから!」
提督「俺もさ、自分の考えがひょっとしたら間違ってるんじゃないかと思ったこともあったさ」
吹雪「ひょっとしなくても間違ってます。人として」
提督「いざ実際頭を撫でられたら、意外と嬉しく思ってくれるんじゃないかと間が差した時があったのさ」
提督「だから一度だけ、ある艦娘が着任の挨拶に来た時に、前髪にホコリがついてたから」
提督「“おっ、これはひょっとして頭を撫でるチャンスなのでは?”とさりげなく撫でてみようと思ったんだ」
提督「で、触った瞬間。指先が触れただけなのにだ」
提督「アイアンクローを食らった」
提督「爪が食い込むほどの、凄いやつをな」
提督「それ以来、ちょっと距離を置かれている」
提督「阿武隈に」
吹雪「いや、頭を撫でる相手っ」
吹雪「なぜ最初に阿武隈ちゃんをチョイス!? 睦月ちゃんとか電ちゃんとかもっと選択肢あったでしょ!?」
吹雪「あの子は前髪の決まり具合に人生をかけてるんですからそりゃ怒りますよ!?」
吹雪「それに新しく着任した艦なんてそりゃ、好感度なんて皆無なんですから当たり前です」
吹雪「あ、そうだ。夕立ちゃん!」
吹雪「夕立ちゃんの頭を撫でてた時、ありましたよね」
吹雪「司令官。吹雪、しっかり見てましたよ」フッフッフッ
提督「あ、言わずもがなだと思うけど、夕立は犬っぽい艦娘じゃなくて艦娘っぽい犬だからセーフな」
吹雪「なんですか、その超理論」
叢雲「まあ、あの子に関しては皆から撫でられてるし。セーフね」
叢雲「むしろ撫でることを強要してくるから。私も何度かさせられたわ」
叢雲(あの潤んだ瞳からの上目遣いは反則よね)
吹雪「うぐ、確かに。夕立ちゃんはいつも撫でて光線を出してるから」
吹雪「かくいう私もその撫でて光線に・・・・・・あれ、私ってそ夕立ちゃんになでなでさせてもらったことあったっけ? あれ?」
提督「結論、ただし夕立は除く」
叢雲「そうね、夕立は仕方ないわね」
提督「そうそう、仕方ないっぽい」
吹雪「」イラッ
叢雲「」イラッ
提督「ぶっちゃけた話さ」
提督「俺がもし艦娘で、自分の提督を好きになったとして」
提督「ある日唐突に頭を撫でられそうになったら」
提督「“あ、ちょっとすいません。嫌っていうわけでもないんですが・・・・・・一応手、洗ってきてもらえます?”って言って」
提督「一歩後ろに下がって距離をとるだろうな」
吹雪「反応がリアル過ぎて、ツッコミを窮する」
提督「だって嫌だろ? 仮に新人で若くても20代半ばだぞ?」
提督「オッサンに片足突っ込んでる掌だぞ? 絶対脂ぎってるって」バッチイ
吹雪「ブーメランですよ、司令官」
吹雪「あと、今相当数の頭なでなで愛好家の方々を敵に回しましたからね」
叢雲「好意があるとはいえ、所詮部下と上司でしかないしね」
叢雲「頭撫でられるとか、ちょっと馴れ馴れし過ぎるっていうか」
叢雲「一般企業で見た目の年齢差から例えると・・・・・・」
叢雲「社員食堂のおばちゃんに頭撫でられる中堅社員みたいな感じ?」
吹雪「うわぁ」
提督「本来褒められて喜ぶべきはずなのに、素直に喜べない微妙なラインだな」
吹雪「当人も周りの人間も、何とも言えない気持ちになる絵面ですね・・・・・・」
提督「俺の持論を述べても?」
叢雲「どうぞ?」
吹雪「あんまり聞きたくはないですけどね」
提督「恋人未満で女の子の頭を撫でていいのは、父親と祖父だけ」
吹雪「そんな極端な!?」
叢雲「それには激しく同意するわ!」
吹雪「ええ~」
提督「娘の頭を撫でる、それすなわち父親の特権」
叢雲「孫の頭を撫でる、それすなわち祖父の特権」
提督 叢雲「「長年にわたり並々ならぬ愛と労力を捧げた者のみに与えられる権利なのだ(よ)ッ!!」」
提督「叢雲・・・・・・」
叢雲「提督・・・・・・」
提督 叢雲「「」」ガシッ
吹雪(ふたりは一体誰目線の話をしてるんだろう)
吹雪「まあ、でもよかったかな」
吹雪(頭を撫でてもらえない理由が、司令官が私たちのことを嫌いだからじゃなくて)
提督「だけど勘違いしないで欲しい」
吹雪「いえここまで何も勘違いしようがないですむしろ勘違いであってほしいくらいです」
提督「俺は別に“アンチ頭なでなで”なのではない」
吹雪「“アンチ頭なでなで”とかいうパワーワード」
提督「俺が言いたいのは提督から艦娘へのなでなでが悪であるということ。すなわち」
提督「艦娘から提督へのなでなでこそ至高、それだけだ」ドーン
吹雪「うわぁ」ヒキッ
叢雲「うわぁ」ヒキッ
提督「なんで引いてるんだよ、同士叢雲」ズイッ
叢雲「同士なんて呼ばないで汚らしい。近寄らないで」シッシッ
吹雪(よかった、これに関しては叢雲ちゃんが同じ反応を示してくれて)ホッ
提督「いや、待て叢雲。考えても見てくれ」
提督「叢雲がもし男性だったとして、だ」
提督「雷だったら、頭を撫でるのと撫でられるのどっちがいい?」
提督「鳳翔さんだったら、頭を撫でるのと撫でられるのどっちがいい?」
叢雲「うぐっ、それは・・・・・・」タラリ
吹雪「なんでそんな核心を突かれたみたいな顔してるの? いや気持ちはちょっとだけ分かるけど」
提督「そうだ、絶対撫でられる方がいいっ。そうに決まっている!」ドーン
吹雪「司令官もドヤ顔止めてください。見てる方が恥ずかしいので」
叢雲「くっ。認めざるを得ないッ。アンタの言うことを認めざるを得ないわ、司令官」ダンッ
吹雪「そこ悔しがるところなの!? 机に両手を叩きつけるくらい悔しいことなの!?」
吹雪「というか、司令官は司令官で」
吹雪「マザコンなんだか、ロリコンなんだか、それとも甘えん坊なのか」
吹雪「もうわけわかんないです。これからどんな顔して会えばいいっていうんですか・・・・・・」
提督「で、そろそろ話題をもとに戻すとだな」スッ
叢雲「ええ、そうね。話題を戻しましょう」スッ
吹雪「ええっ、切り替え早ッ」
吹雪「私のこのテンションは一体何所にしまえば!?」
吹雪「はぁはぁ」ゼェゼェ
吹雪「ツッコミ過ぎて喉が渇いた」
吹雪(ちょっと落ち着こう)フー
叢雲「まあ、日頃の頑張りをねぎらってあげればいいんじゃないの?」
提督「ねぎらう、か・・・・・・」スッ
提督「普段からねぎらっているつもりなんだけどな」カツカツ
叢雲「アンタの言ってるねぎらうってあれでしょ?」
叢雲「遠征から帰ってきた艦隊に『ご苦労様』って声かけるとか、その程度でしょ?」
叢雲「そんなんじゃ駄目よ、駄目駄目よ」
提督「駄目駄目かぁ。手厳しいなぁ」ジャー
叢雲「いい、司令官?」
叢雲「女の子って言うのはね、“特別感”そして“さりげなさ”が大事なの」ピシッ
叢雲「自分が他の子より大事にされてるなって、感じられること」
叢雲「しかもあからさまにされるんじゃなく、日常の中でのさりげないしぐさにそれを感じられること」
叢雲「それが重要なのよ」
提督「そんなもんかなぁ」カツカツ
叢雲「そんなものなのよ」
吹雪(特別感・・・・・・さりげなさ・・・・・・)
吹雪(た、確かに。それは私もそうだと思う。けど・・・・・・)
吹雪(司令官はみんなに優しいから、誰かひとりを特別になんて出来ないだろうなぁ)
吹雪「まあ、そんな司令官だから。私は好きになったんだけど」ボソッ
提督「ほらっ」スッ
叢雲「ん?」
提督「これでも飲んで一服しよう」
提督「いつも頑張ってくれて、ありがとな。叢雲」ニッ
吹雪「あ、もしかして」
吹雪「コーヒー淹れてくれたんですかっ」パァ
吹雪(私が、喉が渇いたって言ったから)
吹雪「そうそう、これですよ。叢雲ちゃんが言ってるのは」
吹雪「こういうさりげない優しさ。司令官、吹雪は嬉しいですっ」
叢雲「あざといことしてくるわね」
提督「・・・・・・」
提督「?」
叢雲「っ・・・・・・アンタ、まさか」
吹雪「素でやってたんですね。末恐ろしいです」
吹雪(私の目につかないところで、司令官のこの無自覚テクニックを披露していないことを願いますよ)
叢雲「まあ、いいわ。貰ってあげる」スッ
提督「ほい、どーぞ」スッ
叢雲「・・・・・・」
叢雲「・・・・・・ありがと」ボソッ
吹雪「・・・・・・ふふ」ニヤニヤ
提督「ん、なにか言ったか?」
吹雪「あ、そこは普通に聞き逃すんですね」
吹雪(いつもの司令官で安心しました)
叢雲「っ」
叢雲「砂糖とミルクは入れてないでしょうねって言ったのよ。ばかっ」
提督「え、ここは褒められる流れじゃなかったの? 何故に罵倒」
吹雪「いえ、今回は普通に司令官が悪いです。反省してください」
提督「まあ、我々の業界ではご褒美だけれども」
叢雲「キモ」
吹雪「チワルイ」
叢雲「で、どうなのよ」
吹雪「あ、私のには砂糖とミルクをたっぷり入れてくれましたよね司令k」
提督「ふたりともブラックだ」
吹雪「アッハイ」
吹雪(分かってました。流石にそこまで求めるのは酷だって)ハハハ
叢雲「というか」
叢雲「なんでマグカップみっつもあるの?」
叢雲「ふたつで十分でしょ?」
吹雪「ええーっ」
吹雪「ちょっと叢雲ちゃん!?」
吹雪「さっきからちょっと態度が冷たいと思ってたけど」
吹雪「流石にその扱いは酷いよね!?」
提督「おいおい、叢雲」ハハハ
提督「吹雪もいるのに、ひとりだけ仲間ハズレにするのは可哀想だろ?」
提督「ほら、吹雪」
吹雪「あ、ありがとうございます。司令官」スッ
提督「」コトッ(机の上にコーヒーを置く)
吹雪「いやコッチもコッチで何気に酷いな、おい」
叢雲「・・・・・・」
叢雲「まっ」
叢雲「アンタの気がそれで少しでも晴れるなら、それでいいけど」
吹雪「他人事みたいに言ってるけど、叢雲ちゃんも私のことイジって遊んでたよね。さっき」
提督「」ズズズ
提督「ふぅ」
提督「染みるな、心に」
叢雲「」チビチビ
叢雲「・・・・・・そうね」
叢雲「ところでアンタってさ」
提督「ん?」
叢雲「私だったら頭を撫でたいの? それとも撫でて欲しいの?」ニヤッ
提督「ごふっ」ケホケホッ
吹雪「叢雲ちゃん!?」
叢雲「なにそんなにビックリしてるのよ?」
叢雲「もとはといえば、アンタが言い出したことでしょ?」
提督「それはそうなんだが・・・・・・」
叢雲「いいじゃない、他に誰もいないんだから」
吹雪「だから私がいるってばぁ」
提督「吹雪が見てるじゃないか」
吹雪「そうそうっ」
叢雲「別になにをする訳でもないじゃない」
叢雲「質問に答えるだけよ?」
提督「・・・・・・やれやれ」
提督(叢雲は意外と強情だから)
提督(言い出したら聞かないんだよなぁ)
提督「そうだなぁ」ポリポリ
提督「どちらかと言えば、叢雲には・・・・・・」
提督「頭を撫でてやりたいな」
叢雲「あら」
吹雪「えっ」
叢雲「意外ね」
叢雲「てっきり私も、頭を撫でられたいグループに入ると思ったのに」
叢雲「タイプ的に」
吹雪「ちょっと司令官」
吹雪「さっきまでの発言と、思いっきり矛盾してますけど」ジトー
提督「いやー」
提督「まあ、頭を撫でてやりたいというかさ」
提督「叢雲にはもっと、誰かに甘えて欲しいんだよ」
提督「人一倍気配りができて、仕事も出来るから」
提督「自分がやらなきゃって思い込んじゃうのも、分からなくないんだけどさ」
提督「ずっと気を張ってちゃ、疲れちゃうからさ」ズズズ
叢雲「・・・・・・」
吹雪「司令官」
提督「人生にも、ブレークタイムは必要なんだ」
提督「休む時間を見つけるのもそうだけど」
提督「自分が落ち着ける居場所を見つけるのも大切だ」
提督「俺でも、他の吹雪型のみんなでも。誰だっていいからさ」
提督「自分とっての心のコーヒーになってくれる」
提督「寄りかかった自分を優しく包んでくれる」
提督「そんな人を見つけて欲しいなって」
提督「俺はそんな風に思うんだよ」
提督「まっ、日頃から叢雲に甘えっぱなしの俺が言っても説得力ないかもしれないけど」ハハハ
提督「でも、それが出来るのがいい大人ってもんだ」
提督「叢雲」
提督「お前は仕事のできる、いい艦娘だ」
提督「けど俺は、叢雲にはいい大人の女になってもらいたいと思ってる」
叢雲「・・・・・・どう違うのよ、それ」
提督「全然違うさ」
提督「お前はいずれ“艦娘”じゃなくなる」
提督「戦争が終われば、お前は叢雲というひとりの女性になるんだ」
提督「人生の大半を占めていた“艦娘”としての叢雲(自分)がぽっかりいなくなる」
提督「そうなったときに、その穴を埋めてくれるものを今から捜しておきなさい」
叢雲「・・・・・・もう、いい加減にしてっ」
叢雲「そんなこっぱずかしいこと、よくもまあ真顔でぺらぺら出てくるわね」
提督「ははは、口だけは達者なもんでな」
提督「すまん」
提督「あ、それとも」
提督「もっと直接的に口説けって言ってる?」
吹雪「あのぉ、すみません司令官」
吹雪「これからプロポーズしようとしてる私の前で、これ以上私の妹を口説くのはやめていただけませんか」ピクピクッ
叢雲「吹雪怒ってるわよ」
叢雲「そろそろ止めておいたほうが、いいんじゃないかしら?」
提督「ほう」
提督「つまり、吹雪が見ていないところでならいいと?」
吹雪「し・れ・い・か・ん」
叢雲「ばーか」
叢雲「ほらっ」トンッ
提督「おっと」ヨロッ
吹雪「きゃっ」トスッ
吹雪(よろけた司令官の身体が私に///)
叢雲「ほら、とっとと行ってきなさいな」
提督「行ってこいって」
提督「どこに?」
叢雲「白雪のところよ。聞きに行くんでよ? あと」
叢雲「どうせ今日も行くんでしょ、あそこに」
提督「・・・・・・」
提督「でも仕事が」
叢雲「こんな時ばっかり仕事を理由に使わないの」
提督「叢雲・・・・・・」
叢雲「察しなさいよね」
叢雲「ひとりにしろって、言ってるのよ」
提督「・・・・・・」
吹雪「・・・・・・司令官」
提督「ああ」
提督「じゃあ、少しでてくる」
叢雲「あいよ」
叢雲「いってらっしゃいな」ヒラヒラ
吹雪「私も行きます司令官」
提督「ああ」
ギィー バタン
叢雲「・・・・・・ふぅ」
叢雲「・・・・・・」
叢雲「ったく」
叢雲「キザったらしくて聞いてらんないわ、もう」
叢雲「・・・・・・」
叢雲「私がアンタをコーヒーに選んだら」
叢雲「・・・・・・アンタは応えてくれるのかっていうのよ」ボソッ
叢雲「」スクッ カツカツカツ
叢雲「」スッ
提督の飲みかけのマグカップ「」
叢雲「・・・・・・」
叢雲「」クピクピクピ プハッ
叢雲「間接キス、なんてね」
叢雲「・・・・・・苦い」
叢雲「苦いわ、司令官」
叢雲「苦すぎて、このままじゃ私・・・・・・」チラッ
手つかずのマグカップ「」
叢雲「これは、吹雪の」
叢雲「折角司令官が淹れてくれたのに、全然飲んでないのね」
叢雲「あんまりそっけない態度とってるようだと」
叢雲「司令官のこと、私が代わりにとっちゃうわよ?」
叢雲「・・・・・・ふふ」
叢雲「冗談よ、吹雪」
叢雲「イジワル言って、ごめんなさい」
叢雲「」クピ
叢雲「甘い」
叢雲「砂糖とミルクをたっぷり入っていて」
叢雲(いかにも吹雪が好きそうな味)
叢雲(そして私が苦手な味)
叢雲「でも・・・・・・今日のは少し、飲めるわね」
叢雲「塩気が、ちょうど中和を・・・・・・して、くれてるからかしら」
叢雲「・・・・・・」
叢雲「アンタも早く帰ってきなさいよ」
叢雲「吹雪、お姉ちゃん」
―鎮守府廊下―
提督「……」
提督「しつこくしたから嫌われちゃったかな」
吹雪「そんなことないと思いますよ? 司令官」
吹雪「叢雲ちゃんはあんな感じでしたけど、実際はとっても嬉しかったと思います」
吹雪「ただ、急にあんなこと言われたから。照れくさかっただけです」
吹雪「私たち艦娘のこと、とっても大切にしてくれてるって」
吹雪「兵器としてだけじゃなく、ひとりひとりの将来を心配してくれてて」
吹雪「私だって、すごくすごく嬉しかったんです!」
吹雪「だから司令官・・・・・・」
提督「ん、あれは」
提督「おーい」
深雪「」ピクッ
深雪「お、司令官」
初雪「……」
初雪「……司令官、お疲れ様」ペコッ
磯波「お、お疲れ様です。提督」ペコッ
吹雪「深雪ちゃん、初雪ちゃん、磯波ちゃん」
吹雪「遠征から帰ってきたんだね、お疲れ様」
提督「ああ、3人とも遠征ご苦労様」
提督「もしかしてこれから、司令室に報告に来るところだったか?」
深雪「いーや、報告には天龍さんが……会ってないか?」
提督「会ってないなぁ」
吹雪「入れ違いになっちゃったんですね。きっと」
提督「まあ、司令室には叢雲がいるし。大丈夫だろ」
磯波「叢雲ちゃんが、ですか」
深雪「ああ。それなら、司令官よりも安心だな」ニカッ
初雪「……だね」
提督「手厳しいなぁ」ポリポリ
吹雪「あははは」
吹雪「私の妹がすみません、司令官」
提督「そうだ。ちょうどよかった」
提督「3人に質問なんだけどな。もしプロポーズされるならどんな風にされたい?」
吹雪「ちょ、司令官!?」
吹雪「白雪ちゃんだけじゃなくて、この3人にも聞くんですか!?」
吹雪「や、止めましょうよ。恥ずかしい」
吹雪(白雪ちゃんなら、無難な対応をしてくれそうだけど……)チラ
吹雪(磯波ちゃんはともかく、深雪ちゃんと初雪ちゃんは何を言うか)
深雪「プロポーズなぁ……ひょっとして司令官がこの深雪さまに?」
提督「して欲しいのか?」
吹雪「!」ビクッ
深雪「いや、全然」
吹雪「っ」ホッ
深雪「そうだな~」
深雪「どっかに呼び出して、ふたりっきりになって、正面から真剣に告白すればいいんじゃね?」
提督「ストレートだな」
吹雪「深雪ちゃんらしいといえば、らしいね」
吹雪(もっと、突拍子もない答えが返ってきそうでもあったけど、普通で良かった)
深雪「校舎裏とか、よさげじゃん?」
吹雪「うん、実に模範的な回答なんだけどね」
提督吹雪(深雪(ちゃん)が言うと、妙に殺伐とした発言に聞こえるから不思議だ(ですね))
提督「初雪はどうだ?」
初雪「……ん」
初雪「“一生甘やかしてあげるから、結婚しよう”、私はその一言とそれを実行してくれるならそれだけでいい」
提督「その台詞、望月あたりも手放しで喜びそうだな」
提督(試してみる価値はある、か・・・・・・)ゴクリ
吹雪「まあ、そもそもそんな事態に陥ったら」
吹雪「私がきっちり憲兵さんに通報するのでご安心を」ニッコリ
提督「」ゾワッ
提督(お、悪寒が・・・・・・)
提督「あー、えーと」
提督「い、磯波はー・・・・・・」
磯波「……」
提督「磯波?」
磯波「それで提督は・・・・・・吹雪ちゃんといつ結婚するんでしょうか?」
提督「そりゃすぐにでもしたいのは山々だが、練度がだな・・・・・・」
磯波「いえ、ではなく」
磯波「文字通り“結婚”です。吹雪ちゃんと本当に婚約なさる気はあるんですか?」
吹雪「け、けけけっ!? ここここここっ!?」
吹雪(はっ、今私あまりのショックにニワトリになってた!?)ブンブンッ
吹雪(で、でもでもそうだよね)
吹雪(カッコカリだったら、プロポーズって言わないもんね)プシュー
吹雪「・・・・・・」カオマッカ
提督「磯波、それは」タラリ
磯波「提督」
提督「・・・・・・」
提督「そりゃ、まあ。そうする気があるからこんなことしてるわけだし」
提督「その。いつかは・・・・・・な///」メソラシ
深雪(あ、逃げた)
吹雪「////」
初雪(あからさまに照れてるしね)
磯波「いつかって、いつですか?」グイッ
磯波「いつも近くにいて」
磯波「結果ももう出ているようなものなのに」
磯波「こんな茶番で遠回りして」
磯波「時間の無駄だとは思いませんか?」
磯波「いえ、正直時間の無駄です」
提督「」
吹雪「」
深雪(うぁ~磯波のやつ)
初雪(辛辣・・・・・・早くお部屋に帰りたい)
磯波「そもそも」
磯波「どうして提督は、叢雲ちゃんを秘書艦になさってるんですか?」
磯波「吹雪ちゃんが好きなら、吹雪ちゃんを秘書艦に置いて、もっとアプローチするべきでは?」
提督「ほ、本当なら俺だって吹雪を秘書艦に置きたいさ。けど」
磯波「けど?」
提督「そんなことをしたら、愛おしすぎて全然仕事にならないのが目に見えてるからさ・・・・・・」モジモジ
深雪「……」
初雪「……」
磯波「……」
吹雪「……////」
提督(何この空気、死にたい)
提督「そ、それに秘書艦を叢雲にお願いしてるのは立候補してくれたからだよ」
提督「俺が無理強いしているとかでは、決してない」
提督「“姉とアンタの問題は、私の問題でもある”って」
提督「あ、もちろんみんなも等しく、俺にとって大事な子たちだけど」アセアセ
磯波「叢雲ちゃんは、本当はやりたくないと思います」
提督「へ?」
磯波「叢雲ちゃんは責任感が強いから……提督さんが放っておけなくて秘書艦をやってるんです」
吹雪「え」
吹雪(司令官がどうしようもないのは周知の事実だけど)
吹雪(それをみなまで言っちゃうの? 磯波ちゃん)
提督「え」
提督(叢雲って、責任感で秘書艦やってくれてたの? 本当はいやいやだったの?)
提督「」ガクッ
深雪(まあ、叢雲の場合)チラ
初雪(別の理由もあるだろうけどね)チラ
吹雪(私の妹たちが意味ありげな視線を交わしてる)チラチラッ
磯波「別に提督と吹雪ちゃんの間を取り持つのは、私たち吹雪型であれば誰でも務まります」
磯波「けど、あえて吹雪ちゃんに似ていない叢雲ちゃんにお願いしているんです」
磯波「今日の報告だって、吹雪型の私たちがうかがっては提督に辛い思いをさせてしまうかと思って」
磯波「いつまで現実から目をそらすつもりですか? 提督」
磯波「いいですか、吹雪ちゃんは・・・・・・」
深雪「磯波」
磯波「」ハッ
磯波「ごめん、なさい」
磯波「言い過ぎ、ました」
深雪「・・・・・・磯波はこう言ってるけどさ、心配してるだけなんだよ」
初雪「散々吹雪に甘やかされた司令官が」
初雪「同じ吹雪型なのに、叢雲みたいに気が強い艦娘や」
初雪「深雪みたいな五月蠅い艦娘を横に置いて気疲れしないのかと」
深雪「なにげに初雪の中の私の評価ひどいな」
初雪「私だって、正直心配だよ」
吹雪「初雪ちゃん……」
吹雪(なんやかんや言っても、やっぱり私の妹は優しいんだから)シミジミ
初雪「司令官が変な性癖に目覚めないかって」
吹雪「初雪ちゃん!?」
吹雪「どんな心配の仕方してるの!?」
深雪「初雪・・・・・・流石にその言い分はちと厳しいぞ」
吹雪「そうそう言ってあげて深雪ちゃん」
深雪「だってもうそれ、手遅れじゃん?」
吹雪「深雪ちゃん!?」
提督「お前達、俺に一体どんなイメージを持ってるんだ」
吹雪「た、確かに司令官はちょっとあれな所もありますけど」
吹雪「部下思いで」
深雪「お節介で」
吹雪「ここぞと言うとき頼りになって」
初雪「普段はだらしなくて」
吹雪「慎重で、常にいくつも起こりうる事態を想定しているいい上司だと・・・・・・」
磯波「奥手で妄想癖ありの変態提督」
吹雪「さっきから私の言葉を嫌に変換するのは止めてくれないかな、みんな!?」
吹雪(というか磯波ちゃん、そんなに口悪かったっけ!?)
吹雪(まるで生まれ変わったかのように、言動が別人だよねっ!?)
深雪「そういや、司令官。司令室から出てきてるってことは・・・・・・これからどっかに行く予定だったか?」
提督「ん、ああまあな」
提督「白雪のところに行こうと思ってたんだ」
初雪「・・・・・・まさかとは思うけど、今の質問をしに?」
提督「なにか問題が?」
初雪「暇なのか、司令官?」
提督「ああ、お前達が一生懸命仕事をしてくれているおかげでな」
提督「もう戦争なんて終わったんじゃないかって錯覚するほどだよ」アッハッハッ
吹雪「司令官、それは流石に気を抜きすぎです」ハァ
提督「もちろんその後に“いつもの場所”に行く予定だよ」
初雪「・・・・・・ふーん」
初雪「まっ、そっちは聞いてないけどね」
磯波「・・・・・・」
深雪「そんじゃー、司令官」
初雪「私たちそろそろ行くからね」
磯波「あ、私はまだ言いたいことが……」
深雪「いいからいいから」ズルズル
初雪「みなまで言っちゃうのは野暮ってもんよ、磯波」ズルズル
初雪「司令官」
提督「ん?」
初雪「寄り道もいいけどさ、いい加減現実に目を向けなきゃ駄目だよ?」
初雪「いつまでも私たちが面倒みてあげることもできないんだからさ」チラッ
初雪「白雪なら今日はオフで、寮にいると思うから」
初雪「じゃねー」
吹雪「初雪ちゃん、それって・・・・・・」
吹雪「あっ」
吹雪(磯波ちゃん、ふたりに引きずられて行っちゃった)
吹雪(初雪ちゃんの台詞・・・・・・・ちょっと気になったけど)
吹雪(まっ、後で聞けば良いよねっ。部屋同じだしっ)
提督「・・・・・・」
提督(いつまでも面倒みてあげられない、か・・・・・・)
提督(そうだな、順調にいけばもうすぐこの戦争も終わる)
提督(ここにいる艦娘のほとんどは軍の任を解かれ)
提督(所謂、普通の暮らしに身を置くことになるだろう)
提督(軍に残るのは俺だけ)
提督(ここにいる時とは違って、彼女たちの生活を十全にサポートしてやることはできなくなる)
提督(兵器としてではなく、ひとりの女性として、私の元を旅立っていく)
提督(それは寂しいことでもあり、それ以上に喜ばしいことだ)
提督(もっとも、提督と艦娘)
提督(それ以外の縁を結べば、その限りではないだろうけどな・・・・・・)チラッ
提督「・・・・・・」
提督「3人と話してて気がつかなかったが」
提督「静かだな、今日の鎮守府は」
吹雪「この時間は遠征や演習で、皆さん出払ってますからね」
提督「それに、こんなに薄暗かったのか」
吹雪「そりゃ、昼間から電気を煌々とつけておく必要はありませんからね」
吹雪「節電です。節電」
吹雪「無駄な経費は出来るだけ削る」
吹雪「司令官が言い出したんじゃないですか?」
提督「そうか、日中は極力電気を消すように俺が指示したんだったか」
吹雪「そうですよ?」
吹雪(なにを当たりませなことを改めて)
吹雪(今日の司令官、ちょっと変)
吹雪(・・・・・・)
吹雪(ううん、いっつもこんなだったかな)フフッ
―駆逐艦寮 吹雪型部屋の前―
提督「」
提督「」コンコン
白雪「はーい」ガチャ
白雪「あ、司令官」
吹雪「私もいるよ、白雪ちゃん」
白雪「・・・・・・」
白雪「どうかなさいましたか?」
提督「いや、実はな」
提督「白雪を吹雪型2番艦と見込んで少し相談があるんだが・・・・・・」
白雪「分かりました」
白雪「どうぞ、あがってください」
吹雪「即答、なんだ」
提督「・・・・・・良いのか?」
白雪「ええ」
白雪「なんのおもてなしもできませんけど」
提督「では、お言葉に甘えて失礼する」
吹雪「私はただいま、でいいよね」
吹雪(一応、私もこの部屋で生活してるんだし)
白雪「どうぞ、自由におくつろぎください」セイザー
提督「ああ」アグラ
提督「休みの日に押しかけてすまなかったな」
白雪「いえ、私もそろそろ暇を持て余していたところでしたので」
提督「しかし、殺風景な部屋だな」
吹雪「司令官、隣失礼します」
吹雪「すみません、ここ座布団もなくて」
吹雪「つい最近まではあったんですけど、この間掃除の時に断捨離しまして」セイザ
提督「気にしなくて良い、こちらこそ不躾な質問だった」
白雪「・・・・・・いえ」
白雪「・・・・・・」
提督「・・・・・・」
吹雪「・・・・・・・」
吹雪(なんだろう、なんだか気まずい)
吹雪(白雪ちゃんたちと毎日過ごしている、自分の部屋のはずなのに)
提督「さて、白雪。早速相談なんだが」
白雪「はい」
提督「吹雪は俺の初期艦だというのは知っているよな?」
白雪「そうですね」
提督「そして、俺が吹雪に部下への信頼以上の思いを寄せていることも」
白雪「まあ、そうですね」
吹雪「///」
提督「そこで艦娘の中で1番吹雪との距離が近い白雪に聞きたいんだが」
提督「どんなふうにプロポーズすれば、吹雪は喜んでくれるだろうか」
白雪「・・・・」
白雪「・・・・・・」
白雪「・・・・・・・・」
提督「白雪?」
吹雪「そうだよね、普通反応に困るよねっ!?」
吹雪「司令官ったら、ずっとこんなことばっかり言ってるんだよ?」ジトー
吹雪「だって本人の、私いるまえでこんなこと聞いちゃってるんだもん、そりゃそんな反応になるよね」
吹雪「いいんだよ、白雪ちゃんっ。無理に答えようとしなくても」
吹雪「どーせ司令官のいつもの悪ふざけなんだし」
吹雪(それに真面目に答えられても、私が恥ずかしいし///)
白雪「・・・・・・・今日も」
白雪「今日もそんなことばかり聞いて回っていたんですか?司令官」
吹雪「そうなんだよ、聞いてよ白雪ちゃん」
吹雪「司令室にいたときも、私がいるのに叢雲ちゃんに同じようなこと聞いたんだよ?」
吹雪「ここに来るまでにすれ違った、磯波ちゃんや、深雪ちゃん。初雪ちゃんにだって」
吹雪「恥ずかしいから止めてって言ってるのに」
吹雪「司令官ったら、全然話を聞いてくれないの」
吹雪「どころか、あたかも私がいないみたいに平然とお話してるの」
吹雪「しかも、凄く楽しそうにね」プクー
提督「いや、まあ・・・・・・な」ハハハ
吹雪「笑い事じゃないですよ、司令官っ」
吹雪「昨日だってそうだったじゃないですか」
吹雪「今日と同じように叢雲ちゃんやみんなに聞いて回った挙げ句、結局・・・・・・」
吹雪「あれ?」
吹雪(“昨日”?)
吹雪(昨日も同じようなことしてた?)
吹雪(じゃあ、その前は?)
吹雪(私たちはいつからこんなことを・・・・・・)
白雪「いつ決心は固まりそうですか?司令官」
提督「固まってはいるんだが、どうにも方法が思いつかなくてな・・・・・・」
提督「それで吹雪型のみんなに協力を求めているんだが」
白雪「それは・・・・・・決心が固まっているとは言えないですよ」
提督「ははっ、ごもっとも」
白雪「今日は、天気が良いですね」
提督「そうだな」
提督「吹き抜ける潮風も心地良い」
提督「実にのんびりとした日だ」
提督「戦争中だというのにな」
提督「夢でもみているかようだ」
吹雪「・・・・・・」
白雪「夢なんかじゃありませんよ、司令官」
白雪「この穏やかな日々は司令官が、そして私たちが勝ち取ったもの」
白雪「まごう事なき、現実です」
提督「けど、こんな日がこれからも続くとは限らない」
提督「今は落ち着いているかもしれないが、相手は深海棲艦だ。いつなにをしてくるかわかr・・・・・・」
白雪「いいえ、司令官」
白雪「この平和は終わりません。なぜなら」
白雪「終わったのは戦争の方なんですから」
提督「・・・・・・そ」
提督「そうだな、そうだった」
提督「戦争は“ほぼ”終わった」
提督「数ヵ月にも及んだ最終決戦では我々人間側が辛勝してから、約1ヵ月」
提督「今はおかの復旧作業や、物資補給のための遠征、鎮守府近海の哨戒」
提督「時折上からおりてくる任務と言えば、せいぜい目撃された残存勢力の殲滅くらい」
提督「白雪の言う通り、戦争が終わったといっても差支えはないかもな」
提督「この鎮守府は比較的前線に近いこともあり、しばしば襲撃もされたが……」
提督「最終的には些細な……そう、大した被害もなくここまでこれた」
提督「みんなには、本当に感謝してるよ」
提督「ありがとう」ニコ
白雪「はい」
白雪「その一言で報われる子たちもきっと沢山いると思いますよ」ニコ
白雪「私もそのひとりです」
吹雪「・・・・・・」
白雪「だから司令官、もう良いんですよ」
白雪「司令官が私たちに責任を感じる必要は、まったくないんです」
提督「・・・・・・白雪」
白雪「司令官」
白雪「司令官は吹雪ちゃんがどうプロポーズしたら喜んでくれるのか、悩んでいるとおっしゃいましたよね?」
白雪「でも吹雪ちゃんなら、司令官が自分の思いを伝えてくれたのならきっと、どんなふうだって喜んでくれるはずです」
白雪「それは私たち以上に、司令官がよく知っていると思います」
白雪「司令官はどうプロポーズしていいか、悩んでいるんじゃない」
白雪「自分だけが幸せになっていいのか、そう悩んでいらっしゃるんです」
白雪「私たちに負い目を感じて」
白雪「私たちは司令官に早く幸せになって貰いたいんです」
白雪「吹雪ちゃんだって、今は口では言えないけれどそれを望んでいるはずです」
白雪「吹雪ちゃんだけじゃない」
白雪「この鎮守府に所属していた艦娘たちは全員、そう思っています」
提督「負い目、俺がお前たちに対して負い目を感じている?」
提督「そうだな、そうかもしれない」
提督「年端もいかない女の子を戦場に送り出すのに、心を痛めない人間なんていないさ」
提督「分かったよ、白雪」
提督「今日、俺は吹雪に告白する」
白雪「!」
白雪「提督、それじゃあ・・・・・・」
提督「ああ。白雪が背中を押してくれたおかげだ、ありがとう」
提督「だからもし成功したら、お願いをひとつ聞いてはくれないだろうか」
白雪「お願い?」
白雪「はい、こんな私ですが出来ることなr」
提督「吹雪との結婚式にはみんなで出席してくれなだろうか?」ポリポリ
白雪「!」
提督「どうかな」
白雪「司令官・・・・・・やっぱりまだ」
吹雪「・・・・・・司令官あの、それは」
白雪「司令官」
白雪「すみません、それはできません」ペコリ
吹雪「・・・・・・っ」
提督「!?」
提督「どうして?」
提督「幸せを願ってるって、そう言ったのは白雪じゃないか」
提督「そりゃ生活があるだろうし、全員が全員出席してくれるなんて思ってないけど」
提督「せめて白雪くらいは、今ここで快諾してくれても・・・・・・」
白雪「できません。それはもう、したくてもできないんです」
白雪「私も、他の子たちも」ウツムキ
提督「白雪」
白雪「すみません」
提督「そんな、どうして・・・・・・・」
白雪「司令官」
白雪「私たちと吹雪ちゃんとでは、もう住む世界が違うから」
提督「住む世界が、違う?」
提督「それは俺達と吹雪とがか?」
吹雪「・・・・・・」
白雪「・・・・・・」
提督「なあ、白雪。そうなのか?」
白雪「それは、ご自身で考えてください」
白雪「私がいくら言ったところで、きっと何も信じてはもらえないだろうから」
提督「・・・・・・っ」
提督「いるじゃないか、吹雪ならここにっ」
吹雪「・・・・・・司令官」
吹雪(司令官は自分のすぐ隣を指し示した)
吹雪(私の座っている、反対側を)
白雪「司令官」
白雪「そこには誰もいません」
白雪「少なくとも私には見えません」
提督「!?」
提督「俺が・・・・・・吹雪の幻覚を見てるっていうのか?」
白雪「いいえ、司令官」
白雪「あなたは何も見ていない」
白雪「現実から、ありのままの事実から目を逸らしているだけです」
白雪「昼間なのに閑散として、不自然に薄暗い構内」
白雪「あまりに不気味な静けさに、まるで放棄された廃墟のようだとは思いませんでしたか?」
白雪「あまりに殺風景な、潮風を感じるほどに風通しのいい部屋」
白雪「陸側に窓がついているこの部屋で潮風を感じるのは、おかしいとは考えませんでしたか?」
白雪「司令官、先ほど最終決戦が終結してから約1ヶ月とおっしゃいましたが・・・・・・」
白雪「最近、私たち吹雪型の艦娘以外で、誰か他の娘とは会いましたか?」
提督「もういいっ!!」バンッ
提督「もう・・・・・・いいよ、白雪」
提督「白雪、教えてくれ」
提督「最終決戦が終結してから、本来はどのくらいの時間が経ってるんだ?」
白雪「・・・・・・」
白雪「1年です」
提督「1、年・・・・・・」
白雪「はい、1年です」
提督「他の艦娘たちは?」
白雪「解体され、一般人と同じように生活している子たちがほとんどです」
白雪「軍に残る選択をした子もいましたが、転属してもうこの鎮守府にはいません」
白雪「今ここにいるのは、司令官が今日会った吹雪型の子達で全部です」
提督「そうか」
白雪「・・・・・・」
提督「・・・・・・」
提督「いままですまなかったな」
提督「お前たちに、もういない姉がいるように振る舞わせてしまって」
白雪「・・・・・・いえ」
提督「これからどうするか、決めてるのか?」
白雪「・・・・・・・いえ」
提督「そうか」フラッ
白雪「司令官」
提督「ちょっと、風に当たってくる」
ギィ バタン
白雪「・・・・・・」
吹雪「・・・・・・」
吹雪「白雪ちゃん」
吹雪「ごめんね、こんなことになっちゃって」
吹雪「今日の皆の反応で、私も薄々は分かってた」
吹雪「ううん」
吹雪「ホントは私、最初から気づいてたんだと思う」
吹雪「司令官が私を無視してるように感じたのは」
吹雪「司令官には私が見えてなかったからなんだね」
吹雪「私がもう、轟沈してるからなんだよね?」
白雪「・・・・・・」
吹雪「答えてくれないんだね」
吹雪「当然、だよね」
吹雪「司令官にも見えてないんだから、白雪ちゃんにも見えてなくて当然なのに」
吹雪「ごめんね、なんだか実感なくてさ」ハハハ
吹雪「ずっと司令官の隣にいたから」
吹雪「こんな状況になった今でも」
吹雪「実はドッキリでしたって、初雪ちゃんあたりがプラカードを持って」
吹雪「そこの扉から出てくるんじゃないかって、期待してたり」
吹雪「ははは、は・・・・・・はは」
白雪「・・・・・・」
吹雪「・・・・・・」
吹雪「でも記憶の奥を探ろうとすると、引っかかるものが確かにあるんだ」
吹雪「最終決戦への補給任務の帰り」
吹雪「私たちは運悪くヲ級率いる敵の航空戦隊に見つかって」
吹雪「駆逐艦だけの編成、装備も十全でなかった私たちは、為す術もなくて・・・・・・」
白雪「・・・・・・」
吹雪「ねえ、白雪ちゃん」
吹雪「私、これからどうしたらいいかな?」
吹雪「司令官、凄く悲しそうな顔してた」
吹雪「でも、私はもう司令官を励ましてあげることも」
吹雪「抱きしめて慰めてあげることもできない」
吹雪「私、嫌だよ」
吹雪「目の前で私の大好きな人が壊れていくのを、何も出来ずに呆然としているしかないなんて」
吹雪「もう、やだよぉ」ポロポロ
吹雪(昔は、戦うのが私たちで良かったって思ってた)
吹雪(私たちが頑張れば、司令官に危険が及ぶことはないから)
吹雪(大好きな司令官を守ることが出来れば、私は轟沈したってかまわないって本気で考えてた)
吹雪(もし私が轟沈しても、新しい“吹雪”がまた司令官を守ってくれるって)
吹雪(だから考えもしなかったんだ)
吹雪(私も司令官にとって、大切なヒト(艦娘)になるかもなんて)
吹雪(司令官に女の子として好いてもらえるなんて、兵器(艦娘)がそんなこと考えるのはおこがましいって)
吹雪「司令官の気持ちを勝手に決めつけることの方が、よっぽど思い上がってるよね」グス
白雪「吹雪ちゃん」
吹雪「!」
吹雪「白雪、ちゃん」
吹雪「・・・・・・見えてるの? 私のこと」
白雪「・・・・・・」
吹雪「そんなまさか」
吹雪「そ、そっか。司令官みたくただ私の名前を呼んだだk」
白雪「いいえ」
白雪「見えてるわ、吹雪ちゃん」
白雪「吹雪ちゃんこそ見えているの?」
白雪「自分のこと、司令官のこと」
白雪「そして、私たちのことを」
吹雪「どうしてっ」
吹雪「だって沈んだ私が見えるわけ」
吹雪「・・・・・・ううん、もうこの際そんなことどうでもいいの」
吹雪「お願い白雪ちゃんっ、私の声が聞こえてるなら」
吹雪「今すぐ一緒に、司令官のことを追いかけてっ」
吹雪「私の言葉を伝えて欲しいの!」
吹雪「お願い、白雪ちゃん」
白雪「吹雪ちゃん」
白雪「ごめんなさい、それは出来ないわ」フルフル
吹雪「!?」
吹雪「そんなっ」
吹雪「白雪ちゃん、どうして」
白雪「この問題は司令官と吹雪ちゃん、ふたりが解決しなきゃいけない問題なの」
白雪「そこに私たちは関わることができない、関わりたくてもね」
吹雪「……」
吹雪「司令官が、白雪ちゃん達をこんなことに付き合わせてたから?」
吹雪「私が、みんなを置いていっちゃう駄目なお姉ちゃんだったから?」
吹雪「私も司令官も……みんなには謝っても謝りきれないと思う」
吹雪「白雪ちゃんたちが怒るのも仕方ない。とも思うよ」
吹雪「でもっ」
吹雪「でも、今だけはお願い。苦しんでる司令官を助けてあげたいのっ」
吹雪「もう、私のために苦しまないでって」
吹雪「平和のために頑張った司令官が、1番苦しんでる世界なんて間違ってる!」
白雪「・・・・・・」
白雪「吹雪ちゃんはさ」
白雪「やっぱり他人のことばっかりだね」
白雪「“せめて”とか、“だけでも”とか」
白雪「吹雪ちゃんは自分か司令官、どちらかしか救われないと、救われちゃいけないと思ってる」
白雪「分かってるよね?」
白雪「吹雪ちゃんと司令官」
白雪「ふたりとも自分たちは救われちゃいけないって思ったから、今のこの状況があるんだよ」
吹雪「・・・・・・・っ」
白雪「止めようよ、もう」
白雪「終わらせるのは簡単なはずだよ」
白雪「歪なこの関係を作ったのは」
白雪「ふたりなんだから」
吹雪「・・・・・・白雪、ちゃん」
白雪「・・・・・・」
白雪「吹雪ちゃん」
白雪「私は、私たちは怒ってるよ」
吹雪「!」
白雪「私たちを立ち止まる言い訳にしてることに怒ってる」
白雪「幸せになる努力を放棄してることに怒ってる」
白雪「すごく、すごく怒ってるよ」
白雪「あなたからのお願いを私たちは聞いてあげられない」
白雪「吹雪ちゃんの願いを叶えられるのは、吹雪ちゃん自身だから」
白雪「吹雪ちゃんの言葉で、司令官を救ってあげて」
吹雪「白雪ちゃん・・・・・・私、自信ないよ」フルフル
白雪「何言ってるの、お姉ちゃんでしょ?」ガシッ
白雪「吹雪型1番艦、吹雪でしょ?」
白雪「司令官の初期艦でしょ?」
吹雪「・・・・・・」
白雪「・・・・・・」
吹雪「・・・・・・」
白雪「・・・・・・」フゥ
白雪「ねえ、吹雪ちゃん。良いこと教えてあげる」
吹雪「いい、こと?」
白雪「ええ」
白雪「一度しか言わないからよく聞いてね」
吹雪「う、うん」
白雪「司令官のことなんだけど」
白雪「実は、ああ見えて・・・・・・」
白雪「心はすごく乙女なの」
吹雪「・・・・・・」
吹雪「えっ」
吹雪「な、何の話? 白雪ちゃん」
白雪「私、見ちゃったの」
白雪「以前、司令官が深夜の鎮守府を島風ちゃんのコスプレをして徘徊してるのを」
吹雪「ええっ!?」
白雪「深雪ちゃんや、初雪ちゃんも見たって」
白雪「しかも頻繁に」
吹雪「・・・・・・ええ」
白雪「まあ、冗談なんだけどね」
吹雪「」
白雪「聞いてる、吹雪ちゃん?」
吹雪「もうっ」
吹雪「言っていい冗談と駄目な冗談があるんだよっ」プリプリ
白雪「ごめんごめん」フフッ
白雪「で、ちょっとは元気でた?」
吹雪「あっ」
吹雪「・・・・・・うん」
白雪「よかった」
白雪「やっぱり吹雪ちゃんには笑顔が1番似合うね」
白雪「そして吹雪ちゃんを1番笑顔に出来るのが司令官だった」
白雪「司令官とふざけあって、楽しそうにおしゃべりしてる吹雪ちゃんが私も好きだな」
吹雪「白雪ちゃん」
白雪「ねえ、吹雪ちゃん」
白雪「司令官が女装してるっていうのは嘘だけど」
白雪「司令官が乙女だっていうのは本当だよ」
白雪「吹雪ちゃん」
白雪「プロポーズしてくれないなら、吹雪ちゃんからプロポーズしちゃいなよ」
吹雪「!」
吹雪「えっと、その……それは」
白雪「……」
吹雪「……」
吹雪「……うん、そうだね」
吹雪「白雪ちゃん、私」
吹雪「司令官のところに行ってくるね」
白雪「うん」
白雪「司令官さんならきっと、あそこにいると思うから」
白雪「頑張って、吹雪ちゃん」
吹雪「」ギィ
吹雪「ねえ、白雪ちゃん」
吹雪「私、ちゃんとみんなのお姉ちゃん出来てたかな?」
白雪「・・・・・・」
白雪「今まで私達が“こんなこと”をしてきたのはね」
白雪「ふたりのためだよ」
白雪「吹雪ちゃんに幸せになって欲しいからだよ」
白雪「吹雪ちゃんが、私たちの大好きなお姉ちゃんだからだよ」
吹雪「そっか」
吹雪「ありがとね、白雪ちゃん」
吹雪「じゃあ、行ってきます」
白雪「いってらっしゃい」
白雪「・・・・・・もう、戻ってきちゃダメだからね」
バタンッ
白雪「・・・・・・・・」
白雪「ふたりともいるんでしょ?」
深雪「・・・・・・ああ」スッ
初雪「うん、いる」スッ
白雪「ぜんぶ聞いてた?」
初雪「まあね」
深雪「いやー」
深雪「ようやく踏み切れたようで、よかったよかった」
深雪「このままいけば一件落着じゃねーか?」
初雪「どうかな」
初雪「ここまでは前にも何度か来たことがあったよ。けど・・・・・・」
初雪「・・・・・・」
白雪「・・・・・・私達に出来ることはしたわ。後のことは当人達が解決すべきことよ」
白雪「信じて任せましょう」
白雪「あの子達に」
-岬-
ザザーン
提督「・・・・」
提督「・・・・・・・・」
提督「・・・・・・・・・・・・」
提督(俺はいつもここでこうしていた)
提督(草の上にしゃがみ込んで、蒼い空青い海をながめながら)
提督(膝を抱えて待っていた)
提督(作戦や遠征からかえってる彼女を、彼女たちを)
提督(今か今かと待っていた)
提督(みんな無事にかえってきてくれるだろうか、という不安と)
提督(基地で祈ることしかできない自分の不甲斐なさ、無力感をひしと感じながら)
提督(あの日もそうだった)
提督(前線に送り出した吹雪達の艦隊)
提督(連絡の途絶えた彼女たちをここで今か今かと待っていて)
提督(飛び込んできた細い黒煙に、慌てて双眼鏡を向けた俺の瞳に飛び込んできたのは・・・・・・)
提督(今日もそうだ。今日もこうして日が暮れるまで待つつもりだった)
提督(帰ってくるハズもないのに)
吹雪「司令官」ザッ
提督「・・・・・・」
吹雪「司令官さん」
提督「・・・・・・」
吹雪「聞こえてるんですよね?」
吹雪「私の声。ずっと、聞こえていたんですよね?」
提督「・・・・・・」
吹雪「・・・・・・」
提督「・・・・・・吹雪」
吹雪「はい」
提督「・・・・・・頼みがある」
吹雪「はい」
提督「今すぐ、ここから消えてくれ」
吹雪「・・・・・・出来ません」
提督「出来るんだよ」
吹雪「出来ません」
提督「するんだ」
吹雪「したくありません」
提督「するんだよっ!」
提督「お前は俺の幻想なんだろっ!?」
吹雪「確かに、私はあなたのものです」
提督「だったら命令通りにっ」
吹雪「でもっ、幻想じゃありませんっ」
吹雪「私はあなたの初期艦、あなたの艦娘」
吹雪「特型駆逐艦、吹雪型の1番艦 “吹雪”ですっ」
提督「!」
吹雪「確かにあの日、私は前線の補給任務からの帰路についていました」
吹雪「旗艦は天龍さん、そして今日会った吹雪型のみんな」
吹雪「練度の1番高い私は、殿を務めていました」
吹雪「『この任務がおそらく艦娘としての君達の最後の仕事になるだろう』、前線の指揮官からそう伝えられ」
吹雪「私をはじめ、各々思うところがあったでしょうが……やっぱりどこか気が抜けていたんだと思います」
吹雪「そうして、司令官がまつこの鎮守府が目視で確認出来た、最も気が緩んだその瞬間に」
吹雪「私たちは、ヲ級率いる航空戦隊に不意打ちを受け、そして……」
提督「……」
吹雪「そして……隊は壊滅しました」
吹雪「轟沈したんです」
吹雪「みんなみんな」
提督「……ああ」
提督「ああ、ああそうだっ」
提督「そうだよ」
提督「俺のせいだ」
提督「すべて俺のっ」
提督「連日の書類仕事に疲れ、無線の声に気が緩み」
提督「出迎えに行くことを怠った」
提督「たった一度、それを疎かにしたせいでっ」
提督「みんなを、お前を沈めてしまった」
提督「俺は、提督失格だ……」
吹雪「……」
吹雪「それで、あなたはいつまでそのままでいるつもりなんですか?」
吹雪「戦争はもう終わりました」
吹雪「なのに司令官さんは、未だに自らに失格の烙印を押した提督を続けている」
吹雪「正気と狂気の狭間で彷徨うことを選んだんです」
吹雪「終戦と共に、轟沈していった艦娘も過去になって、消えてしまうのがどうしようもなく怖いから」
提督「……」
吹雪「司令官、今の司令官の姿を見て私達(艦娘)の誰かが救われると思いますか?」
吹雪「あなたと出会い、あなたと共に笑い、共に泣き、共に戦い、あなたを好き想った全ての艦娘の誰が、今の苦しむ貴方を見たいと思いますか!?」
吹雪「さっき、叢雲ちゃんに言ってましたよね?」
吹雪「『お前はいずれ“艦娘”じゃなくなる』『戦争が終われば、お前は叢雲というひとりの女性になるんだ』って」
吹雪「戦争が終わって、あなたがなりたかったものは」
吹雪「そうやって”提督(過去の残骸)”にしがみつく、生きる亡霊ですか?」
提督「っ」
提督「うるさい」
提督「だまれだまれだまれっ」
提督「所詮、俺の脳内にしかいない、意識に留めておかなければ消えてしまうしかない存在で」
提督「俺に、説教するんじゃないっ!」
提督「俺の愛したその顔で、その声で」
提督「お前のいない事実を突きつける」
提督「お前は知っているハズなのに」
提督「それは、とても残酷なことだと」
吹雪「司令官……」
提督「……」
提督「けど、わかったよ」
提督「よーく、わかった」
提督「吹雪」
提督「俺は明日、ここの提督を辞める」
吹雪「!」
提督「自分の思い通りになる吹雪(妄想)がそんなことを言うのは」
提督「俺自身が、そんな吹雪を無意識に望んでいたからかもしれない」
提督「俺に気づかせるだけなら、他にいくらでもやりようがあっただろうに」
提督「お前は俺にとって最も残酷な方法を選んだ」
提督「けどそれはきっと、俺が唯一過去への未練を断ち切れる方法なんだろう」
提督「せめて俺が未来に向かって歩み出す一歩をお前に背中を押してもらって、見守ってもらいたかった」
提督「海で命を散らせたお前たちに、顔向け出来る自信がなくて」
提督「前を向いて歩く許可が欲しかった」
提督「それだけの事に気がつくまで、折り合いをつけるまで随分遠回りをしてしまった……」
吹雪「私達の許可なんて必要ありません」
吹雪「司令官の人生は司令官のものです」
吹雪「誰かに言われたでもなく、私が司令官を大好きなように」
吹雪「司令官の未来を奪うくらいなら、私達は喜んで貴方の過去になりますよ」
吹雪「それでもうだうだ考えているようなら」
吹雪「蹴りでも、砲撃でも、その背中にぶち込んであげます」ニコッ
提督「手厳しいな」
吹雪「何言ってるんですか?」
吹雪「貴方の育てた艦娘ですよ」フフ
提督「そうだったな」フフ
提督「軍学校時代の感覚がどうも抜けなくてな」
提督「終戦のことも考えて、もう少しお淑やかさを教えるべきだった」
提督「お前達がそんな風になってしまったのは」
提督「ひとえに俺の指導不足が原因だ」
吹雪「むっ」
吹雪「そうですよ、司令官が全部悪いんですからねっ」
吹雪「司令官がお忙しいから遠慮してましたけど」
吹雪「私を含め鎮守府のみんな、司令官ともっとお話ししたいって思ってました」
提督「ああ、俺もお前達ともっと話をしたかった」
提督「もっと色んなことを教えてやりたかった」
提督「提督じゃない、ひとりの人間として」
吹雪「……」
吹雪「まだ、遅くないですよ」
提督「そう言って貰えるだけでも報われるよ」
吹雪「……」
提督「……」
提督「吹雪」
吹雪「はい」
提督「俺はこれから、俺の幸せの形を見つけられるだろうか」
提督「俺はお前がいないこの世界に、どうやったって価値を見いだせない」
提督「ずっと見いだせないから、こんな風になってしまったんだと思う」
吹雪「……」
提督(澄み渡っていた蒼穹にも朱が混じり)
提督(夜の帳を運ぶ黄昏を告げる)
提督(本来、静かな夜の訪れは優しい夢路へと誘うものだが)
提督(今の俺にとっては、網膜を焦がさんばかりの陽差しがみせた白昼夢の幕引きだ)
提督(もうすぐこの悲劇(妄想)も終わる)
提督(けれど、いや、だからこそ)
提督(こんなになってしまう不甲斐ない俺だけど)
提督(ひとつ、けじめをつけなければいけないことがある)
提督(こんなこと始めてしまった責任として)
提督(安息につくべき彼女達を付き合わせてしまった責任として)
提督「だけど、思ったんだ」
提督「お前達が、俺が気づくまで待ってくれたように」
提督「今度は俺が、お前達を待つ番なんじゃないか、って」
提督「轟沈した艦娘がどうなるのか……」
提督「深海棲艦になるって話や、妖精さんになるって話もある」
提督「だったらひょっとして、次は普通の女の子にだって生まれ変わることもあるかもしれない」
提督「鉄さびと硝煙の匂いを知らない、平和を当たり前のように享受できる満ち足りた生活」
提督「それが許される、俺達が勝ち取った世界を俺はお前達が生まれ変わるまで守り続ける」
提督「そう思えば、俺は生きられるし、不思議となんだってやってやろうって気持ちがわいてくるんだ」
吹雪「……生まれ変われたとしても」
吹雪「司令官は私達のこと、分からないかもしれませんよ?」
吹雪「見た目だって、性格だって」
吹雪「ひょっとしたら性別だって違うかもしれません」
提督「でも、俺は変わらないだろ?」
吹雪「それは、そうですけど……」
提督「まあ、老けたら風貌も変わるかもしれないから……そうだな、この軍帽を目印にしてくれ」
吹雪「退役するのに、ですか?」
提督「お前達はおっちょこちょいなところがあるからな」
提督「目印ぐらいは欲しいだろ?」
吹雪「し、司令官には言われたくないですよっ」
提督「そのツッコミを期待してたよ」ハハハ
提督「まあ、機密なんかもあるから持ち出せるものは少ないがな」
提督「それでも戦果はそれなりに残したんだ、軍帽ひとつちょろまかしてもバチは当たらないさ」
提督「それに」
提督「この鎮守府の提督という役職は降りるが、それでも俺はお前達の提督まで辞めるつもりはないよ」
提督「俺はお前達の知っている提督であり続ける」
提督「お前達がいてもいなくても、ずっとな」
提督「……」
吹雪「……」
提督「……」
吹雪「……」
提督「……なあ、吹雪」
吹雪「……なんですか?」
提督「呼んでみただけだ」
吹雪「本当になんですか、もう……」
提督「吹雪」
吹雪「……」
提督「吹雪ぃ」
吹雪「……」
提督「吹雪ってば」
吹雪「もうっ、今度はなんd」
提督「好きだ」
吹雪「……」
吹雪「…………」
吹雪「」ボンッ
吹雪「な、ななな////」
吹雪「なんですかそれっ」
吹雪「なんで、なんで」
吹雪「今そんなこと……」グシッ
提督「卑怯なのは重々承知だよ」
提督「言わないつもりでいたんだけどな」
提督「でも今吹雪と話してて」
提督「“やっぱり好きだなぁ”って、心底思ったし」
提督「言葉にしなきゃって思ったんだ」
提督「今しか言えないから」
提督「もう“吹雪”としてのお前に、面と向かってなにかを言えることはないだろうから」
提督「だから卑怯でも、男らしくなくても」
提督「俺の本当の気持ちを、ちゃんと伝えたかったんだ」
吹雪「っ」ポロポロッ
提督「吹雪、俺はお前を愛してる。だから俺と」
提督「来世で結婚してください」
吹雪「じっ」
吹雪「司“令官……っ」グスッ
提督「泣くなよ」
提督「可愛い顔が台無しだろ?」スンッ
吹雪「だって、……だってっ」ズビ
提督「返事はまだいいさ」
提督「ついでの罵倒も考えといてくれ」
提督「俺はずっと待ってるから」
提督「だから、もし生まれ変わっても俺のことを好きでいてくれていたなら」
提督「その時は吹雪の方から、俺を見つけて」
提督「“愛してる“って抱きついてきてくれると嬉しいな」ニコッ
吹雪「司令官、私はっ」スッ
提督(吹雪が俺の胸に飛び込んでくる)
提督(俺の愛したその人の顔を濡らす涙は、一体どんな意味を持つのか)
提督(その解答を今の俺が得ることはない)
提督(そう告げるように夕陽は今、水平線へと消えた)
提督(それでも俺は、飛びついてくる彼女に手を伸ばす)
提督(たとえ決して触れる事ができなくとも)
提督(次の瞬間には視界から消えてしまおうとも)
提督(そしてそのまま瞼を瞑り、次の瞬間)
ドサッ
提督(俺の上半身は、地面へと投げ出された)
提督(胸元に愛する彼女の”重み”を抱えながら)
吹雪「今世でも、私はずっと一緒です」ギュ
提督「ふ……ふ、ぶき?」
吹雪「はい」
提督「吹雪、なんだよな?」
吹雪「はい、吹雪です」
吹雪「特型駆逐艦の1番艦で、司令官の初期艦で」
吹雪「今は司令官がとっても大好きな、ただの吹雪ですよ」ニコッ
吹雪「ほらっ」ギュッ
提督(吹雪はそう言って俺の手を握り)
提督(そのまま自分の頬にあてがった)
吹雪「司令官」
吹雪「私はここにいますよ」
吹雪「言ったでしょう?」
吹雪「幻想なんかじゃないって」
提督(温かい)
提督(彼女の頬から、そして甲に重なる掌から)
提督(生きている温もりがじわりと伝わってくる)
提督「どうして温かいなんて、……それに、触れられて」
吹雪「……確かに隊は壊滅的な打撃を受け」
吹雪「そしてみんな轟沈しました」
吹雪「白雪ちゃんや磯波ちゃん、初雪ちゃん、深雪ちゃん……」
吹雪「みんな、みんな……」
吹雪「けど、私は生き残りました」
吹雪「皆のおかげで、生き残りました」
吹雪「『1番損傷が少ないから、応援を呼んできてくれっ』って」
吹雪「応援なんて間に合うはずもない、そんなギリギリの状態で」
吹雪「『頼んだよ』、って」
提督「そう、だったのか……」
提督(いや、“そうだった”)
提督(俺はそれを知っていた、知っていてそして……)
吹雪「そして、姉妹を失ったことに耐えきれなくなった私が自ら司令官に進言したんです」
吹雪「私を轟沈したことにしてくださいと」
吹雪「でも思い出したんです」
吹雪「白雪ちゃんたち、私を逃がしてくれるとき言ってたんです」
吹雪「『幸せになるんだよ』って笑顔で背中を押してくれたんです」ポロポロ
吹雪(そして、さっきも)
吹雪「……司令官」
吹雪「司令官は優しいから」
吹雪「私のわがままを聞いてくれて、責任を一緒に背負ってくれて」
吹雪「いっぱいいっぱい待たせちゃいました」
吹雪「こんな初期艦で、艦娘でごめんなさい」
吹雪「司令官」
吹雪「私は貴方の声が好きです」
吹雪「凪いだ海ように穏やかで凜としたその声が」
吹雪「私は貴方の笑顔が好きです」
吹雪「帰港した私達の無事を、心の底から喜んでくれているその笑顔が」
吹雪「私は貴方の背中が好きです」
吹雪「落ち込んでいるとき背中合わせで一緒に体育座りをして」
吹雪「無言で貸してくれる、大きくて温かいその背中が」
吹雪「一晩じゃ全部言い切れないほど、いっぱいいっぱい好きなんです」
吹雪「私は貴方のそんな素敵なところもっともっと側で見ていきたい」
吹雪「もっともっといっぱい、司令官の素敵なところを見つけたい」
吹雪「司令官」
吹雪「貴方のことを幸せにしてみせます。だから私とっ」
吹雪「今世で結婚してください」
提督「……はい」
提督「よろこんで」
提督(祝福してくれているかのように瞬く星空の下)
提督(俺と吹雪はしばらくそのまま、地べたに抱き合って寝転がっていた)
提督(お互いの存在を確かめ合うように)
提督(自分の中の失ったものを埋めるように)
―早朝 鎮守府庁舎廊下―
吹雪「~♪」フフフーン
提督「ご機嫌だな、吹雪」
吹雪「それはそうですよっ、だって」
吹雪「ついに念願が叶ったんですから」キラッ
提督(さっきから吹雪はからしきりに掌をかかげ、その度ににやにやしている)
提督(見つめているのは、その薬指に鈍く光る銀色の指輪)
提督(それは俺が先程、彼女に送ったものだ)
提督(本来、練度が上限の99になった者しか嵌めることができないという話だったが、能力が向上するかはともかく嵌めるだけならできるようだった)
提督(一生使うことはない)
提督(そう諦めていて、けれどずっと胸ポケットに眠らせていたカッコカリの指輪)
提督(それが彼女の指に嵌まっている)
提督(そんな奇跡のような現実に、実際のところ俺も胸を躍らせていないわけではなかった)
吹雪「それにしても……」
吹雪「改めてみると、大分痛んでますねこの庁舎も」
吹雪「床は軋みが凄いし、すきま風も」
提督「……だな」
提督「まあ、当然と言えば当然だろ」
提督「俺もお前も1年間手入れをせずにいたんだ」
提督「むしろこのくらいで済んでいるのが不思議なくらいだ」
提督「誰かが手入れしてくれてたんじゃないかと思うくらいだよ」
吹雪「妖精さんとか、ですか?」
提督「……有り得ない話じゃないな」
提督(もっとも、戦争が終わってすぐに全ての鎮守府から妖精は姿を消していたけれど)
提督(まあ、俺の気が触れる前の記憶だから、確かな情報かは断言できないが)
吹雪「司令官、これからどうしましょう?」
提督「そうだな、どうしようか」
吹雪「……」
提督「……」
提督「とりあえず孤児院でも始めるってのはどうだ?」
吹雪「……あの司令官、真面目に考えてくださいます?」
提督「わるいわるい」
提督(……あながちふざけてるわけでもなかったんだがなぁ)
提督「まあ、でも最初にやることは決まっているだろ」
吹雪「そうですね]
吹雪「そうでした」
提督「……」
吹雪「……」
提督「ついたぞ」
吹雪「ええ、それじゃあ入りましょう」
提督「ああ」
―司令室―
ガチャ
提督「やあ、叢雲」
吹雪「おはよう叢雲ちゃん」
叢雲「はあ、ようやく来たわね」
叢雲「アンタたち10分も遅刻よ。昨日もあれから結局帰ってこなかったし」
叢雲「それに、その泥だらけの格好。仕事が少なくなくなって気が抜けすぎなんじゃないの?」
吹雪「……うん」
吹雪「ごめんね、叢雲ちゃん」
提督「ああ、今まですまなかったな。叢雲」
叢雲「……」
叢雲「…………はあ」
叢雲「その様子だと、全部思い出したみたいね」
提督「お陰様でな」
叢雲「ふん」
叢雲「御礼ならあの子たちに言いなさいな」
叢雲「1番頑張ってたのはあの子たちなんだから」
叢雲「司令官」
叢雲「吹雪のこと、私達のお姉ちゃんのこと」
叢雲「信用してあなたに預けるんだから、ちゃんと幸せにしないと承知しないからね」
提督「!」
提督「ああ、約束するよ」
提督「吹雪を絶対に幸せにする」
叢雲「」コクッ
叢雲「吹雪」
叢雲「ひとまずおめでとうって言っておくわ」
叢雲「でも肝心の相手はこんなだから、これからが大変よ」
吹雪「うん、分かってる」
叢雲「本当でしょうね?」
叢雲「今度は忘れたらただじゃおかないから」
雪「肝に銘じておきます」
吹雪「……」
吹雪「みんな、もういっちゃったんだよね?」
叢雲「そうね」
叢雲「でも昨日ちゃんと会えたんでしょ?」
吹雪「もちろん、ただ……」
叢雲「まさか」
叢雲「さよならを言えなかったのが心残りだとか」
叢雲「自分の代わりに他のだれかが幸せになればよかっただとか」
叢雲「ことここにおいて、そんなふざけたこと言い出したりしないでしょうね?」
吹雪「言わないよ」
吹雪「そんなことして欲しくて、みんなが今まで私達を支えてくれたわけじゃないって、今なら分かるから」
吹雪「ありがとうって、絶対に幸せになるよって言いたかったの」
叢雲「……そっ」
叢雲「そんなこと言えるようになるなんて、あれから少しは成長したのかしら」
叢雲「もしそうなら、あんたたちのこの“寄り道”も全部が全部無駄じゃなかったのかもね」
吹雪「そうかな」
吹雪「そうだね、そういうことにしておこうかな」クスッ
叢雲「ええ」
提督「……」
吹雪「ねえ、叢雲ちゃん」
叢雲「なに?」
吹雪「ありがとね」
吹雪「いままで私達に愛想を尽かさないでいてくれて」
吹雪「吹雪型のみんなにとって、私が良いお姉ちゃんだったか分からないけど……」
吹雪「でもこれから、あっちでみんなが胸を張れるような私になってみせる、から」
吹雪「だから、だか……ら、ね………」ポロッ
吹雪「あ、れ……あれ?」ポロポロ
吹雪「どうしよう・・・・・・涙が、止まらないや」
提督「……」グッ
叢雲「……吹雪」
叢雲「なに泣いてるのよ」
叢雲「今日はあなたたちにとって、新たな門出の日じゃない」
叢雲「それが端っからそんなぐしゃぐしゃな顔で、本当に私達が自慢に思えるお姉ちゃんになれると思ってるの?」フッ
叢雲「アンタもよ、司令官」
叢雲「帽子で隠したって、頬に伝う涙は隠しきれてないわよ」
提督「……っ」
叢雲「まったく、男前が台無しじゃない」
叢雲「そんなんでよくもさっきあんな約束を堂々とできたわね?」
吹雪「叢雲ちゃん」
吹雪「私、楽しかったよ」
吹雪「吹雪型のみんなだけじゃないっ、鎮守府のみんなと一緒にいられて」
吹雪「大変なことも辛いことも数え切れないくらいたくさんあったけどっ」
吹雪「でもそれ以上に、みんながいてくれて本当に幸せだった」
吹雪「だからその思い出を胸に、これから提督と生きていくね」
提督「叢雲」
提督「昨日、俺はお前に偉そうなことを言ってしまったな」
提督「自分のことも満足にできない者が何を言っているんだとお前は思ったかも知れない」
提督「思えばお前はお前に頼りっぱなしだった」
提督「俺が提督に着任してから数ヶ月後、お前はこの鎮守府に着任して」
提督「提督として、大人として振る舞おうと思ったけど・・・・・・」
提督「助けられるのはいつも俺の方だった」
提督「そりゃあ、こんな手の掛かる大人がいたら誰かに甘えるなんてできるわけもないよな」ハハ
提督「色んな意味で無責任な発言だった。叢雲、すまない」
提督「叢雲」
提督「お前が、お前達が来世で幸せになれることを祈ってる」
提督「またなっ、叢雲っ」グスッ
吹雪「ばいばいっ、叢雲ちゃんっ」ズピッ
叢雲「あんたたち・・・・・・」
提督「叢雲っ」
吹雪「叢雲ちゃんっ」
提督「叢雲っ!!」
吹雪「叢雲ちゃんっ!!」
提督「叢雲―――っ!!!」
吹雪「叢雲ちゃーーーーぁんっ!!!」
叢雲「……」
叢雲「…………」
叢雲「・・・・・・・・・・・・・・・」
叢雲「え、ええっと」
叢雲「あんたたち“ばいばい”とか“またな”とか、それ一体なんのつもり?」イブカシゲナマナザシ
吹雪「あれ?」
提督「え、これそういう流れじゃないの?」
提督(え、というかこれデジャヴ?)
叢雲「はぁ? こういう流れ?・・・・・・もしかして」ハッ
叢雲「あんたたちねぇ」ワナワナワナ
叢雲「なにふざけたことっ」ピシッ
提督「あたっ」ペチッ
叢雲「考えてくれてるのよっ」ピシッ
吹雪「あふんっ」ペチッ
吹雪「い、いたい・・・・・・なんで?」
吹雪「だって叢雲ちゃんもあの時」
叢雲「ったく、海にも出てないのに沈むわけないでしょ」
叢雲「そもそも私は編成されてた? あの艦隊に」
提督「天龍、吹雪、白雪、磯波、深雪、初雪・・・・・・本当だ」
叢雲「艦隊組んだあんたがなんで覚えてないのよ、呆れるわ」ハァ
叢雲「あの日私はアンタの秘書艦だったのよ・・・・・・これも覚えてないでしょうけど」
提督「そういえば・・・・・・いたな、隣に」
吹雪「そんな雑なっ!?」
提督「じゃあ、叢雲は生きてるんだな」
叢雲「ええ、そうよ」
叢雲「現にアンタが差し出したコーヒー受け取っていたじゃない。実体がなかったらできないことでしょ」
叢雲「なんなら、触って確かめてみる?」
提督「じゃ、じゃあお言葉に甘えて」ペチペチ
提督(俺は両手で叢雲の頬を包んだ)
提督「・・・・・・」フニフニ
提督(むにむにと柔らかい、体温を伴った人肌だった)
吹雪「・・・・・・」
吹雪(うっ、ちょっと羨ましい)
叢雲「・・・・・・ん」マブタトジ
吹雪(そして叢雲ちゃんが満更でもないのが気になる)
叢雲「もうそろそろ、いいかしら?」
提督「ああ、ごめん」
提督「そしてありがとう」ギュッ
提督「生きててくれて、本当にありがとう叢雲」
叢雲「ちょ、ちょっと」
叢雲「離れてくれるんじゃないの・・・・・・まったく」
叢雲「どういたしまして」ギュッ
吹雪「・・・・・・」
吹雪(もう、早々に浮気ですか)
吹雪(しかも私の前で堂々とだなんて度胸ありますね)ピキッ
吹雪(・・・・・・まあ)
叢雲(今回はしょうがないから、お咎めなしにしてあげます)フフッ
叢雲「・・・・・・」フッ
吹雪(大の大人である司令官)
吹雪(そんな彼がまるで小さなこどもが母親にするように、膝を折って叢雲ちゃんに抱きついて泣きじゃくっている)
吹雪(為す術なく抱きつかれている叢雲ちゃんと私は視線を交わし)
吹雪(私達は互いに苦笑いをした)
―1時間後 鎮守府正面門―
提督「さて、と」
提督「本当にこれからどうするかなぁ」
吹雪「どうしましょうね」
提督「とりあえず決まってるのは軍人を辞めることぐらいだが・・・・・・」
叢雲「はぁ?」ケゲンナカオ
吹雪「分かるよ、“司令官から軍人を取ったら何か残るの?って思ってるんでしょ”叢雲ちゃん。分かる凄く分かる」ウンウン
提督「吹雪お前、仮にもプロポーズを受け入れたばかりの相手に対してその物言いは酷すぎるぞ・・・・・・」
叢雲「いえ、軍を辞めるも何も、もうとっくに軍にはあんたの籍なんてないわよ?」
提督「・・・・・・は?」
叢雲「アンタの籍ないから」
提督「いや、2回も言わなくていいよ、聞こえてるよ」
提督「え、俺もう提督じゃないの」
叢雲「むしろ1年間も仕事しない奴をどうして軍が雇用し続けると思ってたの?」
叢雲「その脳天気さにこっちの頭が痛くなるわ」ヤレヤレ
提督「」
提督「ち、因みに退職金なんかは・・・・・・」
叢雲「あると思う?」ニッコリ
提督「アッハイ」
提督「いやまあ、最初から辞めるつもりではいたんだけど・・・・・・なんだかなぁ」
叢雲「あ、ちなみに吹雪。アンタも除籍処分になってるから」
吹雪「・・・・・・え?」
提督「結構エグいことさらっと言ったな叢雲」
叢雲「こんなこと溜めて言ったところでどうしようもないじゃない」
吹雪「ちょっと、待ってよ!?」
吹雪「確かに私もちょっとおかしくなってたからお仕事できてなかったけど」
提督(少し?)
吹雪「でも未だ艦娘としての力を持ってる状態で、社会に放りだすとかまさかそんな・・・・・・」
叢雲「いやあんたもあんたで、あの遠征から帰還した数日後に艦娘の力を取り除く手術受けてるから」
叢雲「とっくに軍人どころか艦娘じゃないわよ」
吹雪「なん、だと」
提督「どこかでみたようなリアクションだな」
提督「でもじゃあ、よく俺達ふたり今日までここにいられたな」
吹雪「ですね、精神病院送りになっててもおかしくないのに」
叢雲「そりゃあんた、私が頑張ったからに決まってるでしょ?」
叢雲「あんたが使えなくなってから今日まで、どれだけ私が腐心してきたか・・・・・・」
提督(それから叢雲は簡単にことの成り行きを説明してくれた)
提督(俺の精神が不安定になってから、秘書艦だった叢雲が司令官代理として後処理に奔走してくれていたこと)
提督(最終決戦が終結して3ヶ月で,すべての警戒態勢が解除されたこと)
提督(本部の司令室が解体され、この鎮守府も役割を終えたこと)
提督(ここにいない他の“元”艦娘たちの身の振り方)
提督(金剛や鹿島など、俺をこのままにしてどこかにはいけないと、抵抗する娘達も多かったらしいが、その艦娘含めて叢雲が全員を”説得”したのだという)
提督(まったく別の話だが、実はこの鎮守府の最高練度は吹雪ではなく叢雲だったりする)
提督(全然まったく脈絡のない余談だが)
提督(そして・・・・・・)
提督「なるほど、俺達はこの鎮守府の管理をする目的で軍に雇われていることになっていると」
叢雲「ええ一応ふたりとも名誉除隊という扱いだったし、この施設には一番詳しいし」
吹雪「だからってそんなのよく通ったね・・・・・・」
叢雲「下手に放り出して面倒な事態になるよりマシだと思ったんじゃない? 私が提案したらあっさり承諾してくれたわ」
提督「なんだかなぁ」
叢雲「・・・・・・ところで実は司令室の前でのあんたたち会話ちょっとだけ聞こえてたんだけど」
叢雲「この元鎮守府、外装も中もちょっとぼろっちいけど・・・・・・」
叢雲「でもちょっと整備すればたくさん人が住めると思わない?」
提督「!」
吹雪「!」
叢雲「そしてこれも偶然に、本当に偶然なんだけど。この施設と土地の権利書があるのよ。ここに」ピラッ
叢雲「数ヶ月前、ちょうどこの権利書が捨て値同然で売りに出されてて、ね」
提督「叢雲、お前どうしてそこまで」
叢雲「もちろん吹雪のため、ではあるんだけどね」
叢雲「実はもうひとつ、のっぴきならない理由があるのよ」
叢雲「知りたい?」
提督「教えてくれるのか?」
叢雲「ええ、もちろん」ニコッ
叢雲「知りたいなら耳を貸しなさいな」チョイチョイ
提督「ん、ああ」スッ
叢雲「私がここまでする理由はね」
チュッ
叢雲「こういうことよ」
提督「これは、どう、いう」
吹雪「」
叢雲「いやね」
叢雲「折角だし“いい大人の女になってもらいたい”って言葉の責任を取って貰おうと思って」
叢雲「好きよあなた、愛しているわ」ニッ
提督「なっ//」ホホオサエ
吹雪「むむむ、叢雲ちゃん!?」アワワワワ
吹雪「こ、この人は私のだよっ」
吹雪「これまでしてもらったことには感謝してるけど」
吹雪「でも、いくら叢雲ちゃんだって司令官の隣は譲れないからねっ!」ガシッ
提督(吹雪は俺の右手を引っ張って叢雲との距離を離した)
叢雲「事情が事情だけに1番目は譲ったけどね」
叢雲「色々済んだし。もう我慢しなくていいかなって、自分の気持ち」
叢雲「司令官の“もう片側”は空いてるわよね?」フフン
吹雪「両側とも私のです!」
叢雲「あら、そんなこといって大丈夫? 一文無しで今晩どうするつもりかしら?」
叢雲「私ならここに泊めてあげるわよ。もちろんお金なんて取らないわ」
叢雲「1泊につき一晩、その男の身体を好きにさせてくれるならね」ペロッ
吹雪「ぐぬぬ」
叢雲「ねえ、あなた」
叢雲「姉の婚約相手に振り向いて貰いたいんだけど、どうすればOKしてもらえると思う?」
おわり
2020/01/27
最後まで読んでいただきありがとうございました。
最初構想していたものより大分ズレてしまいました……まあ、この終わり方は個人的に気に入ってます。
たまにふと読み返したくなるようなSSになっていたら嬉しいです。
次は山風のSSを書こうと思ってます(書きかけのも進めないとなぁ)。
ではでは。
過去作に金剛4姉妹がワードウルフをするSSもあるので、よろしければそちらもどうぞ。
吹雪
『健康』を持て余す。
彼女、無防備過ぎるでしょう。
吹雪のキャラかわいいw叢雲はえろい。
吹雪が死んじゃってるパティーンにしかみえないんゴ…
吹雪のセリフ全部ガン無視して読んでも違和感なさすぎ……これはもう(察し)
吹雪が轟沈していると見せかけて実は吹雪以外が全員・・・
やっぱりか…途中からなんとなくわかってたなぁ… つらひ
完結お疲れ様でした。
叢雲も幸せになれるといいなあ
あ、吹雪と叢雲は生きてたんっすね〜
轟沈した子達も来世で幸せになってるといいね。1年経ったんだからそろそろ転生してもいい頃合じゃない?