2021-11-03 22:55:09 更新

概要

時雨が提督を監禁するお話


時雨「・・・・・・らしいってなにさ」


時雨「自分の今の状況を口にしてみなよ、提督」


提督「・・・・・・」


時雨「早く」


提督「司令室で時雨が運んできてくれた食事に手をつけ」


提督「気がついたら独房の様な見知らぬ空間にいて」


提督「両手を柱にくくりつけられ拘束されている、な」


時雨「その通りさ」


時雨「そしてこの現状から分かる通り、一連の出来事はすべて僕の仕業だ」


時雨「それを“らしい”だって?」


時雨「・・・・・・ねえ、提督」


時雨「僕が生半可な気持ちで、こんなことをしたと思う?」


時雨「僕は本気だよ」


時雨「本当に、僕は提督のことが好きなんだ」ハイライトオフ


時雨「提督が他の艦娘と仲良さそうにしているのを見てるとさ」


時雨「独り占めしたくて、どうしようもなくなって」


時雨「こんな犯罪まがいの行為にはしってしまった」


時雨「でもね、提督」


時雨「僕は何も間違ってない」


時雨「正しいことをした」


時雨「思ってるよ」


時雨「だって発情した野良猫達から、提督を引き離すことができたんだからね」


時雨「だから僕は悪くない」


時雨「ねえ、提督」


時雨「こういうキャラクターを、世間では“ヤンデレ”って言うのかな?」


提督「・・・・・・」


時雨「僕がヤンデレで幻滅したかい?」


時雨「愛が重いって、そう思うかい?」


時雨「……」


時雨「いいさ、今はそれでも」


時雨「僕なしじゃ生きられないように」


時雨「じっくりゆっくり調教してあげるよ」


時雨「その時提督がどんな風に僕を愛してくれるようになるのか」


時雨「楽しみだなぁ」ウットリ


提督「・・・・・・」


時雨「・・・・・・」


時雨(だんまり、か。逃げる算段でもたててるのかな)


時雨(いいさ。ここからは絶対に自力じゃ逃げられないんだ)


時雨(時間はたっぷりある。焦ることはない)


時雨「じゃあ、僕は少し席を外すよ」クルッ


時雨「戻ってくるまでに身の振り方を考えておくn提督「どこに行くんだ? 時雨」」


時雨「どこって・・・・・・提督の食事をとりにさ」


時雨「気づいてないのかもしれないけど、僕が提督をここに連れてきてから、半日以上が経ってるんだ」


時雨「お腹が空いてちゃ、可哀想だからね」


時雨「大人しく待ってよ。すぐ戻ってくるから」


時雨「それとも、僕を味見するかい?」クスッ


提督「そうだな、ではいただこう」


時雨「ふえっ!?」ハイライトオン


時雨「ど、どどどどどうしたんだい提督っ!?」


時雨「なにか悪いものでも食べたのかいっ!?」


提督「一服盛ったその口で言うのか」


提督「しかも自分から振っておいて」


時雨「それはその・・・・・・その場の雰囲気で言ってみただけだよ」


時雨「そんなこと実際にさせるわけないじゃないか」


提督「させるつもりもないのにそう言ったのかっ?!」クワッ


提督「つまり、愛する人間に嘘をついたと言うことかっ!」ガシャン


提督「そんなことをして、本当に愛されると思っているのか、お前はっ!!」ガシャンガシャンッ


時雨「」ビクッ


時雨(な、何をビックリしているんだ僕は)


時雨(いくら提督とはいえ人間、鉄の柱に鎖でぐるぐる巻きにされた状態からそう易々と逃げられるわけがないじゃないか)


時雨「色々と知り尽くしたあだるてぃな女っぽくふるまっただけさ」


時雨「そういうのはその・・・・・・もっと段階を踏んでからするべきであって」


提督「そのステップに監禁はいかがなものだろうな」


提督「ところで、いつまでそこにつったっている」


提督「早くこっちにこい」


提督「俺は動けないんだから、時雨が来ないと食事(意味深)がいつまで経ってもできないだろう?」


時雨「!」


時雨「だ、だから無理だってっ」


提督「無理もへったくれもない!」


提督「いいか時雨」


提督「仮にも“ヤンデレ”を自称するのであれば、お前の世界は“相手中心”、つまり俺が中心でなければならない」


提督「愛する俺のお願いが聞けないのであれば・・・・・・それは”自己中心”な独りよがりの愛」


提督「ただの“メンヘラ”だ」


時雨「め、メンヘラ?!」


時雨(なんだろう、初めて聞く言葉だけど・・・・・・どうもあまり言われて良い気分はしない)


時雨「もっ、もうっ。いいからそこで大人しくしててよっ」


時雨「ちゃんとお利口にしててくれたらその・・・・・・ご褒美あげるからっ」


提督「」ピクッ


提督「・・・・・・分かった」


時雨「分かってくれて嬉しいよ」ホッ


提督「そこまで言うなら譲歩しよう」


提督「俺が寂しくないように、今身に着けている衣服を俺の頭に被せていきなさい」


提督「下着だと尚よしだ」


時雨「」


―駆逐艦寮 時雨・夕立の部屋―


床「」


床「」ギギギッ


時雨「・・・・・・」ピョコ


時雨(夕立はいない、か)キョロキョロ


時雨「・・・・・・・」ヒョイ


床「」パタンッ


時雨(この地下への入り口は、誰にも見つかるわけにはいかないからね)


時雨(でもまさか鎮守府に、しかも僕らの部屋にこんな隠し部屋があったなんて)


時雨(提督の持っていた機密書類によると、どうやら有事の際に逃げ込むためのものらしい簡易地下シェルターみたいだけど・・・・・・)


時雨(初めて使うのが監禁されてだなんて、提督は思いもしなかっただろうな)フフッ


時雨(……)


時雨(提督がいなくなって半日以上)


時雨(そろそろ提督が失踪しているのが発覚していてもおかしくない)


時雨(だけどこの部屋には捜索の手が入っていないし、他の寮の地下部屋が調べられたなんていう情報もない)


時雨(つまり地下部屋の存在は誰にもバレていないってことだ)


時雨(他の娘たちには悪いけど、提督は僕だけのものだよ)


時雨(これからずっとね)ウットリ


時雨「・・・・・・それにしても」


時雨「上だけとはいえ、下着をしてないというのは中々に落ち着かないな」スースー


時雨「着替えよう」イソイソ


時雨(まったく、それにしたって下着を要求してくるなんて一体何を考えているんだ提督は)プンスカ


時雨(相手が僕だからいいものの・・・・・・まさか、他の艦娘にもそんなこと言ってないよね)


時雨(そんなこと他の艦娘にしてたら、僕はその艦娘のことを・・・・・・)


時雨(・・・・・・)


時雨(落ち着け、落ち着くんだ僕。主導権はあくまで僕にあるんだ)


時雨「監禁してるのは僕なんだから・・・・・・」ボソッ


夕立「カンキンってなんのことっぽい?」


時雨「っ‼」ビクッ


時雨「夕立、いたんだ」


夕立「ねえねえ、なんのことっぽい?」


時雨「そんな大層な話じゃないよ」ハハ


時雨「“換金”しなきゃって言ったんだ。この間宝くじ買ってたから」


夕立「もしかして、当たったっぽい!? 流石幸運艦ね」


時雨「3000円だけどね」ハハハ


時雨(もちろんそんなのは嘘だ。我ながらよく咄嗟に思いついたモノだよ)


時雨(夕立は人を疑うことを知らない子だから御しやすい)フフ


夕立「あっそうだ、ところで時雨」


時雨「ん、なんだい?」


夕立「提督さん、どこにいるか知らない?」


夕立「昨日の夜から見かけないっぽい」


夕立「お昼一緒に食べようと思ってたのに。もうお昼休み終わっちゃうっぽい~」


時雨「・・・・・・」


時雨(まあ、そろそろ誰かが言ってくると思っていたよ)


時雨「そっか、夕立にはまだ言ってなかったね」


夕立「ぽい?」


時雨「実は昨日の夜中、大本営から緊急招集があったみたいなんだ」


時雨「大本営の寄越した迎えの車に乗って、慌てて出て行ったよ」


時雨「いつ帰ってくるかは未定みたい」


夕立「!」


夕立「そんなこと誰も言ってなかったぽい! なんで時雨は知ってるの!?」


時雨「なんでって・・・・・・それは僕が初期艦であり秘書艦だからだよ」ニコ


時雨「提督が不在の間は、秘書艦の僕がこの鎮守府の指揮をすることになる」


時雨「まあ、提督が数日分の指示書を置いていってくれたし。電話なんかでやりとりもするけどね」


時雨「今は深海棲艦の動きも大人しいから、それでも回るだろさ」


夕立「むー」


夕立「提督さんがいないとつまらないっぽい!」プク-


時雨「我儘言っちゃ駄目だよ。夕立」


時雨「提督も仕事なんだし」


夕立「ワガママなのは時雨も同じっぽい」


時雨「? どういう意味だい?」


夕立「別にー」プイッ


時雨(拗ねちゃった)


時雨「ほら、夕立。午後から出撃が入ってるだろ」


時雨「そろそろ集合時間なんじゃないのかい?」


夕立「・・・・・・」


時雨「拗ねてるよりもちゃんと任務をこなして、提督が帰ってきたときうんと甘やかしてもらったほうがいいと思うけど?」


ギュッ


夕立「・・・・・・」


時雨「・・・・・・」ナデナデ


時雨(いつにも増して今日は甘えん坊だな)


夕立(時雨、いい匂いっぽい)スンスン


夕立(でも)


夕立(・・・・・・秘書艦だからかな)


夕立(時雨の優しい匂いに、提督さんの匂いがほんのり混じってて)


夕立(時雨も提督も大好きなのに)


夕立(それが、それだけが)


夕立(夕立にはちょっぴり許せないっぽい……)


スッ


夕立「ありがとう、時雨」


夕立「出撃してくるわね」


時雨「うん、頑張って」


ギィ バタン


時雨「」フリフリ


時雨「さて」


時雨「僕も着替えて、ご飯作らないとね」ペロッ


時雨「・・・・・・ごめんね、夕立」


―地下室 監禁部屋―


時雨「戻ったよ。提督」ガチャ


時雨「今日のお昼はミートスパだよ」


提督「……」手足 E:鎖


提督「ご苦労だったな、時雨」


時雨「そんな格好で格好つけられてもね」


提督「こんな状態にしたのは貴様なんだがな」ジャラ


提督「それに状況がどうあれ、俺は貴様の上官だ」


提督「常に部下の見本となるよう振る舞わねばな」


時雨「確かに鎖は僕だけどね」


時雨「その頭のは提督からのお願いだよね?」


提督「……」頭部 E:時雨のブラジャー


提督「そうだがなにか?」


時雨「なんて言うか、提督は……メンタルが強いね」


提督「監禁されていて、精神的に疲れていないという意味か?」


時雨「部下の下着を本人の前で頭にかぶって格好付けるのが恥ずかしくないのかってことだよ」


提督「俺は人に恥じることなどしない!」カッ


時雨「恥じ入ってよ! お願いだから羞恥心を持ってよ!!」


提督「見解の相違だな」


時雨「他の艦娘に聞いても提督と同じ価値観の娘は居ないと思うよ」


提督「いいだろう。そこまで言うなら、このファッションに関して今度他の艦娘にも聞いて回ろう」


時雨「うん、なにもよくないね。むしろそれを聞いて更にここから出すわけにはいかなくなったよ。提督」


提督「こんなに可愛いのに……」ボソッ


時雨「それは僕の下着の柄のことを言ってるんだよね? いや、それはそれでなんか嫌だけど」


時雨(僕、なんでこの人のこと好きなんだっけ?)ハァ


時雨「ほら、もういいから大人しく食べてよ。食べさせてあげるから」


時雨「はい、あ~ん」


提督「」パクッ


時雨「ふふ、美味しいかい?」


提督「ああ」


時雨「よかった」


提督「……」


提督「時雨」


時雨「なんだい?」


提督「少し、鉄臭いんだが」


時雨「……」


時雨「……ふふ」


時雨「ふふふ」


時雨「ふふふふふふふふ」


時雨「よく分かったね。流石僕の提督」ハイライトオフ


時雨「実は隠し味に僕の血液を数滴混ぜておいたんだよ」


時雨「心配しなくしなくても大丈夫だよ、さっき僕の指先を切って垂らした新鮮な血液だから」


時雨「嬉しい? もちろん嬉しいよね?」


提督「……」


時雨「そんな顔しないでよ」クスクス


時雨「ちゃんと今後食べ物には全部僕の血液を混ぜてあげるつもりだから」


時雨「僕の味、早く覚えてね」


提督「……くした」


時雨「ん?」


時雨「もっと大きな声で言ってくれなきゃ分からないよ。提督」クスクス


提督「なぜ隠したと言っている!」クワッ


時雨「ふぇ」ハイライトオフ


提督「むしろコッチとしては全面に押し出して欲しかった!」


提督「そうだ!!!」


提督「次からは料理とは別に250mlのパックに頼む!」


時雨「いや、そんな牛乳パックみたいな感覚で言われても……毎食250mlも血液抜いてたら干からびちゃうよ僕」


提督「そうか……残念だ」


提督「非常に、実に非常に」ショボン


時雨「……」


時雨(なんで提督より僕の方が精神すり減らしてるんだろう)


時雨(もう提督の拘束具外して解放しようかな)トオイメ


提督「ところで時雨」


提督「すまないが、残りを早くくれないだろうか?」


時雨「……そんなに僕の血液が?」ジト-


提督「それもあるが」


時雨(やっぱりあるんだ)


提督「時雨が折角作ってくれた料理だ。冷めないうちに食べたくてな」


提督「ああ、もちろん時雨が作ってくれた物ならなんでもおいしいし、時雨が食べさせてくれるなら何だって嬉しいんだがな」


提督「というか側に居てくれるだけで正直嬉しい」


時雨「……」


時雨(もうっ……この人はこういう)


時雨「うんいいよ、食べさせてあげるね」ニコッ


時雨(やっぱり僕はこの人のこと……)


―3日後 鎮守府廊下―


時雨(結局、あの後も提督を監禁し続けて3日が経った)


時雨(想像していたとおり、提督が姿を現さないコトに他の艦娘達が懐疑心を膨らませたことで遂に提督の失踪が発覚。鎮守府は業務が滞るほど混乱した)


時雨(……というようなコトはまったくなかった)


時雨(今日も鎮守府は平和だ)


時雨(少し、不気味とすら感じるほどに)


春雨「時雨姉さん」


時雨「っ」ビクッ


春雨「そんなにビックリなさらなくても」


時雨「ちょっと考え事をしていたものだからね……」


時雨「なにか僕に用事?」


春雨「ええっと。次の遠征についてなんですけど……」


時雨「ああ。次の遠征は夕張さんを中心に……」


時雨(提督を監禁してから、こんな風にみんなには僕から提督の指示を伝えている)


時雨(これは当初の予定どおりだ)


時雨(予定と違うのは指示が予め用意していた偽装の指示書じゃなく、実際に地下に監禁した提督のものだということ)


時雨(一向に逃げる気配のない提督に僕は地下で執務を行うことを提案し、提督はそれを承諾した)


時雨(処理が必要な書類などは僕が地下に持ち込み隙をうかがって各方面に送る)


時雨(鎮守府の様子は明石さんに以前作って貰った青葉さんの隠しカメラの映像を受信出来る端末を渡して確認してもらっている)


時雨(提督が失踪していてなお執務は正常に行われ、鎮守府は平常運転で問題はひとつもないといった風に穏やかなこの現状)


時雨(おかしいと感じるのは、すべてを知っている僕だけ、なんだろうか)


春雨「はい。それではそのように」


時雨「うん。よろしくね」


時雨(……もうすぐお昼か。提督にご飯作らなくちゃ)フラッ


春雨「……」


春雨「時雨姉さん」


春雨「最近、ちゃんとお休みになられてますか?」


時雨「え?」メノクマ


時雨「……」


時雨(そういえば最近あんまりよく寝つけてないや)


時雨(提督や今後の鎮守府のことばかり考えてたから)


時雨(自業自得、なんだけど)


春雨「目の下に隈が、それに肌も少し荒れて……」スッ


時雨(春雨が僕の右頬に手を添える)


時雨(触れた手の人肌の熱さが少し心地良い)


時雨「ありがとう心配してくれて」ギュッ


時雨(僕は頬に触れる春雨の手に、自分の手を重ねた)


春雨「」ビクッ


春雨「!」


春雨「その指の絆創膏、どうされたんですか?」


時雨「料理したときにちょっとね」


春雨「そうでしたか……でも、怪我は怪我ですので。すぐに入渠をなさってください」


時雨「大丈夫だよ。たいしたキズじゃないし」


時雨「それに秘書艦でほとんど鎮守府からでない僕がドックを使ってて、遠征組や出撃組が待たせるのも悪いしね」


春雨「この鎮守府のみんな、時雨姉さんのためなら大破していたって何時間だって待ちますよ!」


時雨「ふふっ。冗談でもうれしいよ」


春雨「冗談では、ありませんよ……」


時雨「うん、ありがと。春雨」アタマポンポン


春雨「っ」


春雨「……」


春雨「はい」ギュッ


時雨「……」


春雨「……」


春雨「時雨姉さん。あまり根を詰めすぎないようにしてくださいね」


春雨「大好きなお姉ちゃんのツラそうな姿なんて、春雨は見たくないんですから」


時雨「うん」


春雨「……」


春雨「今日の業務が終わったら、久しぶりに一緒にお風呂入りましょう」


春雨「春雨が、姉さんの背中を流して差し上げますから」


時雨「うん、そうだね。たまには妹に甘えてみるのも悪くない、かな」


春雨「はい。是非そうして下さい」


春雨「私も、時雨姉さんのお役に立てるのは。とても嬉しいですから」


時雨「じゃあ、そろそろ行くね」スッ


時雨「春雨、ありがとう」タッタッタッ


春雨「秘書艦のお仕事、頑張って下さい」フリフリ


春雨「」フリフリ


春雨「……」


春雨「…………」


春雨「………………」


春雨「……」スンスン


春雨「……」


春雨「……春雨がお風呂でちゃんと綺麗にして差し上げますから」


春雨「その身体にまとわりつく嫌な匂いを」


―地下室 監禁部屋―


提督「……」カキカキ


時雨「提督」ガチャ


時雨「昼食を持ってきたよ」


提督「」ピタッ


提督「ありがとう、いただくよ」


時雨「はい、どーぞ」


時雨「今日はカレーだよ」ガチャ


提督「ありがとう」


提督「」スンスン


提督「匂いは普通だな」


時雨「変なモノは入れてないよ」


提督「そうか」ショボン


時雨「なんで露骨にがっかりするのさ」シラー


提督「時雨の血液、飲みたかった」


時雨「提督は吸血鬼の末裔か何かなの?」


提督「時雨の体液をとりこんで、時雨の一部をこの身に宿したかった」


時雨「提督はド変態の末裔か何かなの?」


提督「時雨、いくら貴様といえど私のご先祖様を侮辱することは許さんぞ」ゴゴゴゴゴ


時雨「凄んでもだめだよ。それにご先祖様に一番恥をかかせてるのは提督自身だよ、面汚しだよ」


提督「お前が汚してくれるのか?」


時雨「だからもう汚れてるんだってば。話聞かないんだから」


提督(自称ヤンデレに話を聞かないヤツ認定されてしまった)


時雨「ほら、おふざけはこの辺にしてさ。冷め婦負うちに食べよう?」


提督「ああ」


提督「それじゃ、いただきます」


時雨「いただきます」


提督「……」モグモグ


時雨「……」パクパク


提督「時雨」


提督「明日の業務計画をまとめておいたから目を通しておいてくれ」


提督「それと大本営に送る書類も仕上げておいた。期限は来週までだが早めに郵送を頼む」


時雨「承知したよ、提督」


提督「うむ」


時雨「……」


提督「……」


時雨「……あのさ」


時雨「僕がこんなことを言うのはおかしいかもしれないけれど」


時雨「提督は、どうして逃げ出さないんだい?」


時雨「外に出たいと、みんなに会いたいとは思わないのかい?」


提督「なんだ、もう俺に飽きてしまったのか?」


時雨「そっ……そういうわけじゃないけど////」


時雨(まあ、ツッコミに疲れたのはあるけどさ)


提督「俺を裸にひん剥いて、逞しいナニにアレを擦りつけてきたくせに」


時雨「そうだね! 背中に蒸しタオルをね!」


時雨「こんなところじゃお風呂に入れてあげられないから、せめてと思って僕が背中を拭いてあげたんじゃないか」


提督「そうとも言えるな」


時雨「そうとしか言えないと思うけどね」


提督「だが時雨、どうだろうか」


提督「貴様がタオルではなく、自身のぬくもりで俺をぬぐってくれていたとしたら?」


時雨「したら?じゃないよ。上司の言ったことに合わせて当然みたいな雰囲気ださないでよ。普通にセクハラだよ、提督」


提督「俺をなじるな……嬉しくなってしまうぞ?」


時雨「最低だね」


提督「監禁は最低じゃないのか」


時雨「僕の場合は相手が嫌がってないからね」


提督「そうだな!」


時雨「だから認めないでよ」ハァ


時雨「……」


時雨「……みんなが心配してるとか、思わないの?」


提督「そう言われてもな」モゴモゴ


提督「」ゴクン


提督「実際していないだろう?」


時雨「っ」


時雨(提督はいつものように真面目な顔でそう言い放った)


時雨(確かに鎮守府の様子はモニターで確認できるから、騒ぎになっていないことを把握していても不思議はない)


時雨(しかし、騒ぎになっていないこと自体そもそもおかしいんだ)


時雨(人望がない人でも流石に3日間誰とも連絡を取っていないのであれば多少騒ぎになるハズ)


時雨(まして提督ほど部下に慕われていれば尚更)


時雨(それなのに提督はこの状況をまったくおかしいと感じていない)


時雨(生真面目で少し天然で鈍感な節があるとはいえ、提督は適切に自分の評価をできる人物)


時雨(それが、そんなことを言い出すだなんてますます不可解だ)


時雨「それは、みんながまだ提督が監禁されてることに気がついてないから?」


提督「……」


提督「どうだろうな」


時雨「……提督の意見を聞かせてよ」


提督「……」


時雨「なんでもいいからさ」


提督「……」


提督「まあ、もっと単純な話だろう」


提督「誰も俺個人にそこまで興味がないんだ」


~~~


白露『なになにー、提督のことが好きかって?』


白露『突然だね。まあそれは勿論嫌いじゃないけどさー』


白露『あたしのいっちばんは、ほら。ほかにいるからさー』


海風『え、提督ですか? 確かにお見かけしませんが』


海風『でも大本営に出向しているだけと聞きますし。まだいなくなってから数日です』


海風『提督も分別ある大人ですし、そこまで心配しすぎるのもどうかと』


涼風『よう、どうだい調子は。よかったら今から一緒に食堂でも行かねーかい?』


涼風『あん、最近おかしいと思ってること?』


涼風『……おっ◯いが全然大きくならない?』


時雨(提督の最後の言葉が気になって、僕は何人かにそれとなく聞いてまわった)


時雨(提督が大袈裟に言っているか、謙遜しているだけだと思っていた)


時雨(しかし実状は考えていたものとは違っていた)


時雨(こっちから切り出さなければ、誰も提督のての字も口にしなかった)


時雨(提督の言葉はまるっきり嘘ではないらしい)


時雨(おかしい、おかしい、おかしい)


時雨(みんな、提督のコトが好きなんじゃないの?愛しているんじゃないの?)


時雨(僕が提督と一緒にいると、いつも邪魔しに来ていたくせに)


時雨(なんでなんでなンでなんでなんでなんでナんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで何でなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんデなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでナンデなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで)


時雨(……)


時雨(このままじゃ僕はどうにかなってしまう)


時雨(確かめなきゃ確かめなきゃ確かめなきゃ)


時雨(多少、強引な手を使っても)


時雨(確かめなきゃ)


-更に4日後 執務室-


時雨(提督を監禁してから1週間目の今日の朝)


時雨(僕は食堂にみんなを呼び出し、提督が失踪したと伝えた)


時雨(1週間前に“探さないで欲しい”という旨の置き手紙を見つけ、みんなに心配を掛けまいとこれまで隠してきたということにした)


時雨(反応は静かなものだった)


時雨(遠征や出撃で出払っている艦娘を除いた十数名)


時雨(その誰もが粛々と、やっぱりその事実を事実として受け入れた)


時雨(誰も僕の言葉を疑わず、ありのままを真実として)


時雨(それが僕は)


時雨(どうしようもなく気にくわなかった)


コンコン


時雨「……どうぞ」カリカリカリカリ


ガチャ


山風「失礼、します」


時雨「……」ピタッ


時雨「やあ、山風」メノクマ


時雨「どうかしたの?」ニコッ


時雨「もう夜の10時だよ。明日も遠征があるんだからしっかり身体を休めないと」


山風「……」


山風「時雨ねぇこそ、大丈夫?」


時雨「‥‥‥大丈夫って?」


時雨「何が?」


山風「なんだかこの頃、様子がおかしい、から」


山風「執務室にこもりきりだし。ずっと暗い顔してるし」


時雨「……僕がおかしい?」


時雨「僕がおかしい僕がおかしい僕がオカシイボクが可笑しいボクがぼくが僕が僕が僕が」


山風「し、時雨ねぇ?」オドオド


時雨「おかしいだって? 僕が」ギリッ


時雨「おかしいのはみんなのほうじゃないか!!」ガンッ


山風「」ビクッ


時雨「上官が、提督が失踪したって言うのにいつもと何一つ変わらない」


時雨「戦果どころか志気の低下すらない」


時雨「みんな、みんな」


時雨「どうしてそんなに平然としていられるんだい?」


時雨「心配じゃないのかい?」


時雨「提督のことが好きじゃ、なかったの?」


時雨「それとも居なくなった提督のことなんて……もうどうでもいいの」


時雨「それは、そんなのって」


時雨(あまりに薄情じゃないか……)


山風「ご、ごめんなs」


時雨「謝らないでよ」


時雨「誰に何に対して謝ってるのか分からない」


時雨「そんな口先だけの謝罪なんて、いらない。求めてない」


山風「……」


山風「あたしは、ただ、時雨ねぇが心配だったから」


山風「これ、作ってきたからよかったら食べて」つオニギリ


時雨「……こんなひどい事を言った僕をそれでも気遣ってくれるんだね」


時雨「頭のおかしくなった僕(姉)に」


時雨「山風は……本当に優しい艦娘だね」フッ


時雨「……折角だけど、ものを口に入れる気分じゃないんだ」


時雨「他の娘に食べて貰ってよ。赤城さんとかさ」


山風「でも、何か食べないと」


山風「艦娘だって、流石に3日も飲まず食わずは死んじゃうかもしr」


時雨「余計なお世話だよっ」ピシッ


山風「あっ」


ガシャン


時雨「!」


山風「!」


時雨「・・・・・・」


山風「・・・・・・」


時雨「……ごm」


時雨(時雨『そんな口先だけの謝罪なんて、いらない。求めてない』)


時雨「・・・・・・」


時雨「……自分の気持ちを押しつけるのは愛情でも優しさでもない」


時雨「ただの自己満足だよ」


スッ


時雨「部屋に戻って今日は休むよ」


時雨「おやすみ」


ギィ バタン


山風「・・・・・・」


山風「提督、あたし」


山風「失敗、しちゃった」


山風「駄目だね。あたし」


山風「提督が居ないとなんにもできない」


山風「なんにもできないや」


山風「・・・・・・」


山風「時雨ねぇ」


山風「こうなっちゃったのは提督のせいなの」


山風「そんなに提督が、いいの?」


山風「だって提督は・・・・・・」


山風「もう少し、あたしのおしゃべりが上手かったら」


山風「結果は変わったのかな?」


山風「・・・・・・」


山風「・・・・・・片付け、しなきゃ」カチャ


チュウ


山風「あ」


チュチュ


山風「駄目だよ、食べちゃ」


ハグ


山風「駄目、駄目だってば」


ハグハグ


山風「お願い、止めて・・・・・・止めてよ」


ハグ・・・ハグハグ・・・・・・


山風「・・・・・・」


チュ!?


山風「・・・・・・・・・・・・」


ビクビク


山風「だから、駄目って言った、のに」


山風「勝手に食べちゃった悪い子だから、罰が当たったんだね」


山風「やっぱり人のものに手を出しちゃ駄目、ってことだよね」フフッ


山風「・・・・・・」


山風「・・・・・・・・・・・・」


山風「あたしも悪い子だから、おしおきされちゃうのかな」


山風「ねえ、提督?」


―鎮守府 廊下―


時雨「・・・・・・」シャガミ


時雨「……最低だ、僕は」


時雨(自分を心配して様子を見に来てくれた山風に、あんなにヒドイ事を言ってしまった)


時雨(時雨『……自分の気持ちを押しつけるのは愛情でも優しさでもない』)


時雨(時雨『ただの自己満足だよ』)


時雨「自分の言葉で自分が傷付いてたら世話ないや。はは」


???「時雨?」


???「こんな時間に廊下でうずくまってなにしてるの?大丈夫?」


時雨「……」チラ


時雨「五月雨?」


五月雨「そうだよ、五月雨」


時雨「……今日は零さないんだね」


五月雨「え?」


五月雨「ああ、今飲んでてこのペットボトルのこと?」チャプ


五月雨「もうっ」


五月雨「私だっていっつもドジってるわけじゃないよ!」プンスコ


時雨「そうかな?」


五月雨「そうだよっ」


時雨「そうだね」


時雨「ごめんごめん」フフッ


五月雨「もう」


五月雨「……ねえ時雨」


五月雨「隣、いい?」


時雨「……」


五月雨「座るね?」スッ


時雨「……」


五月雨「……」


五月雨「……疲れちゃったんだよね」


五月雨「最近、すごく頑張ってたもんね」


五月雨「無理しちゃってたもんね」


時雨「……僕ね」


時雨「……僕のことを心配してくれた山風にヒドイ事を言っちゃったんだ」


時雨「とても、とてもヒドイこと」


時雨「秘書艦として、いや姉として最低だよ。僕は」ヒザカカエコミ


五月雨「大丈夫だよ。時雨」


五月雨「貴方は何も悪くない」


五月雨「悪くないんだよ」ナデナデ


五月雨「山風も、みんなも時雨が一番ツラいって知ってるから」


五月雨「提督がいなくて大変だったね」


五月雨「提督がいなくて寂しかったね」


五月雨「ひとりで頑張らせちゃったね」


五月雨「ひとりで背負わせちゃったね」


五月雨「頼りにならない姉妹でごめんね」


時雨「……そんな、こと………」


五月雨「……」ナデナデ


時雨「……」


五月雨「……」


時雨(提督が居なくなったのも、僕がひとりで背負い込んだのも)


時雨(全部僕自身のせいだ。僕が身勝手で勝手に自滅しただけだ)


時雨(それなのに何も知らないみんなに当たって)


時雨(僕はみんなに助けてもらう資格なんて、ないんだ)


五月雨「辛かったね」ナデナデ


五月雨「苦しかったね」ナデナデ


時雨(なのに僕は五月雨に慰められて)


時雨(五月雨のぬくもりに救われている)


時雨(ああ、僕は)


時雨(僕はなんて……)


五月雨「……」ナデナデ


時雨「……」


五月雨「……」ナデナデ


時雨「……」


時雨(どれくらい経っただろうか)


時雨(僕はしばらく五月雨の腕に包まれていた)


時雨(心地よくて動きたくなかった)


時雨(何もかも投げ捨てて、いっそ)


五月雨「私の飼い犬(ペット)になってみる?」


時雨「……え」


五月雨「あ、びくってしたね。今」


五月雨「心を読まれて動揺した。そんな感じ?」ニコッ


時雨「い、いや。まさか」


時雨(まさか……)


五月雨「で、どう?」


五月雨「飼われてみる?」


五月雨「時雨の背負ってるもの、全部私が代わってあげる」


五月雨「時雨を傷つけたりしない」


五月雨「時雨のお願いをなんでも叶えてあげる」ニッ


時雨「……それは、素敵な提案だね」


五月雨「でしょう?」


五月雨「私だったら、どんな時もずっと一緒にいる」


五月雨「朝ごはんも洗面も歯磨きもお着替えもラジオ体操も朝食も昼食もお昼寝もおやつも夕食もお風呂もおトイレもお休みも」


五月雨「ずっと」


五月雨「ずっとずっとずっと」


五月雨「ずっとずっとずっとずっとずっと」


五月雨「ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっと」


五月雨「ずっと一緒に居てあげる」ニコッ


時雨「……」


五月雨「……」


時雨「ありがとう、五月雨」


五月雨「!」


五月雨「それj…」


時雨「でも」


時雨「断らせてもらうよ」


五月雨「……」


五月雨「どうして?」カシゲ


五月雨「ねえ、どうして?」


五月雨「ねねね、どうしてどうして?」


五月雨「どうしてどうしてどうしてどうしてどうして」


五月雨「どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうシてどうして」


五月雨「どうして、断っちゃうの?」


時雨「確かに、五月雨のことは好きだよ」


時雨「五月雨と毎日一緒にいられたら、それはきっと楽しいと思う」


時雨「けどね」


時雨「僕は大好きなひとのために、僕の時間(命)を使いたいんだ」


時雨「だから、だめだよ」


五月雨「……」


五月雨「…………」


五月雨「………………そっか、残念」シュル


五月雨「弱ってる時雨なら、私のものにできると思ったのにな」


時雨「五月雨が慰めてくれたから、元気が出たんだよ」


時雨「ありがとう」


五月雨「どういたしまして」


五月雨「じゃあ、そろそろ部屋に戻るね」


五月雨「さ、時雨」


五月雨「お風呂入って、今日はベットでぐっすりお休み」


時雨「うん、そうさせてもらうよ」スクッ


時雨「じゃあね、五月雨」


時雨「ほんとに、ほんとにありがとう」フリフリ


五月雨「うん、お休みなさい」フリフリ


五月雨「いい夢を」


―浴場―


時雨「」ガラガラ


???「おっ、姉貴じゃないか」


???「この時間まで仕事かい? 精が出るねぇ」


時雨「うん」


時雨「江風こそ、哨戒お疲れ様」


江風「おう」


江風「いま丁度身体洗ってたとこなんだ」


江風「姉貴も隣きなよ」パシパシ


時雨「うん。じゃあ、お邪魔するよ」スッ


シャー


時雨(頭から温水を浴びる)


時雨(冷えた肌に粒の熱がじわりと染み込んで)


時雨(身体の芯に溶け込む)


時雨(……気持ちいい)


チャプ


時雨(髪や身体を早々に清め、僕は湯船に浸かった)


時雨「……はぁ」


時雨(身体の底から声が漏れ出る)


時雨(ゆっくりお風呂に入ろうと思ったのはいつぶりだろう)


江風「失礼するぜ」チャプ


江風「ああ~、染みるぅ~」


時雨「もしかして、被弾したのかい?」


江風「んあ? いやいや」ブンブン


江風「気分だよ気分。お湯が五臓六腑に染み渡るってねぇ」


江風「どこも怪我しちゃいないさ。敵さんの影も見なかったしな」


時雨「そっか。それならいいんだけど」


江風「おうとも。姉貴はカタいねぇ」


江風「もともとの性格もあるのかもしれないけど」


江風「クソ真面目な上官の秘書艦なんかやってたからな。尚更なのかもね」ケラケラ


時雨「提督は」


江風「ん?」


時雨「ああ見えて結構冗談も言うんだよ?」


江風「……」


江風「……へぇ」


江風「しかしまぁ提督様はどこいっちまったんだろうねぇ」


時雨「気になる?」


江風「いや、まったく」ケロッ


時雨「だろうね」


江風「ありゃ?」


江風「ツッコんでくれねーのかよ姉貴……」


江風「流石に少しくらいは心配してるさぁ。ただ」


ピトッ


江風「それ以上に姉貴をこんなにボロボロにしやがったことに怒ってるンだよ」


時雨「江風」


江風「なーんてな」ザパッ


江風「のぼせちまったみてぇだ。悪いけど先にあがるぜ、姉貴」ピトピト


江風「ごゆっくり~」ヒラヒラ


時雨「ねえ、江風」


江風「」ピタッ


江風「なんだい?」


時雨「もうすぐ提督は帰ってくると思うよ」


時雨「きっと」


江風「……」


江風「そうかい」


江風「精々期待しないで待ってるよ」ヒラヒラ


ガラガラ ピシャン


時雨「……」


時雨「………………」


時雨「……………………もう」


時雨(おしまいにしよう)


ザバッ


―地下室 監禁部屋―


時雨「……提督、僕だよ」


時雨(手探りで梯子を降りながら声を掛ける)


時雨「急な話なんだけれど」


時雨「今日でもう、監禁は終わりにしようと思うんだ」


時雨(普段は灯りがついているこの部屋も真夜中ともなれば真っ暗)


時雨「僕が間違っていた。気づいたんだ。今さらってかんじだけれど」


時雨「こんなことはよくない、看過されてるべきものじゃない」


時雨「姉妹達を、提督に迷惑をかけながらし続けて良いものじゃない」


時雨(入り口を開けっ放しにしておくことも出来ず、僕は暗闇の中照明スイッチのあるところまで近づいた)


時雨「ごめんなさい」


時雨「みんなにも全部告白して謝ることにしたよ」


時雨「重い処分が待っているけれど。それでも自分のついた嘘は、犯した罪は……」

カチッ

時雨「償わな、い……と」


時雨「ていと、く」


時雨(返事はなかった)


時雨(しかしそれは提督が寝ていたからじゃなかった)


時雨「提督が、いない?」


時雨(いるはずの提督は姿を消していた)


時雨(提督を縛り付けていた拘束具と)


時雨(夥しくまき散らかされた血痕を残して)


時雨「どうして、まさか自分で……いや、だとしたらこの血は……っ」


時雨(どうなって、どうして、なんで、だれが……)


???「うふふふふっ」


時雨「!」


時雨(提督!?)


時雨(いや、明らかに違う。この声は……)


???「時雨が謝る必要はないのよ」


???「ついた嘘も、犯した罪も」


???「本当にしてしまえば、嘘じゃなくなる」


???「上書きしてしまえば、罪はなくなる」


???「何も心配いらないわ」


???「私達が守ってあげるもの」


時雨「お前はっ」クルッ


???「ふふふっ」スッ


バンッ カツカツカツ タッタッタッ


キラッ


時雨「っ」チラッ


時雨(月明かり?)


時雨(監禁部屋の扉が開いた? あの一瞬で上にあがったのか)


時雨(まずい、逃げられるっ)


カツカツカツ スタッ


時雨「待てっ」ダッ


???「ふふふ」スッ


時雨「逃がさn」


夕立「時雨ぇ、うるさいっp」


時雨「あっ」


ドカッ


時雨「っ」バタッ


夕立「ぽいっ」バタッ


時雨「いた……」シリモチ


夕立「ぽい~」アタマオサエ


時雨「ご、ごめん夕立」


時雨「大丈夫?」


夕立「時雨、なに騒いでるっぽい」


夕立「今真夜中なのよ」


時雨「大変なんだ。提督を、提督が……」


夕立「ぽい~?」


夕立「提督さんが、どうかしたの?」ポー


時雨「あ」


時雨(夕立は知らない。僕がなにをしていたのか)


時雨「……いや、なんでもない」


時雨(だったら今は巻き込むべきではない)


時雨(伝えるのはすべてが終わってからでいい)


時雨「ごめんね、静かにするよ」


時雨「おやすみ。夕立」スタスタ


夕立「時雨?どこ行くっぽい?」


夕立「ベッドはあっちよ?」


時雨「ちょっと、散歩にね」


夕立「もう真夜中なのに、っぽい?」


時雨「……」


時雨「ちょっと探し物がね、あってね」


夕立「そんなの明日にするっぽい~」グデー


夕立「今日はもう寝ましょ」ヨリカカリ


時雨「……しなだれかからないでよ。夕立」


夕立「夜更かしはお肌の大敵っぽい」


時雨「明日じゃ駄目なんだ」


夕立「どうして?」


時雨「それは……」


夕立「いいじゃない明日で」


夕立「死にかけの提督さんのことなんて」


夕立「今から探しても、明日の朝探しても同じ事っぽい」


時雨「!」


時雨「夕立、君は……どこまで……」


夕立「もちろん全部っぽい」


夕立「時雨のことならなんでも知ってるよ」ニパー


時雨「」ゾクッ


カツカツカツ


夕立「時雨が提督さんのこと大好きなことも」


夕立「好きすぎて監禁していたことも」


夕立「監禁場所がこの床下だったことも」


夕立「監禁することに罪悪感を感じはじめてたことも」


夕立「ぜーんぶっぽい」


時雨「……」


時雨「何故、咎めなかったの?」


夕立「?」


時雨「なんで黙って見てたのかって聞いてるんだよ」


夕立「……」


時雨「なんとも思わなかったの?」


時雨「提督が僕に酷いことされて」


夕立「それは……悲しかったよ、助けてあげたいと思った、っぽい」


夕立「夕立は、提督さんが好きだから」


時雨「だったらっ!」


夕立「でも」


夕立「それよりもっと夕立は、夕立達は時雨のことが好きっぽい」


夕立「もっともっと」


夕立「もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと」


夕立「大好きっぽい」ハイライトオフ


夕立「だから誰も責めなかったでしょ?」


夕立「怒らなかったでしょ?」


夕立「だって時雨は悪くないもの」


夕立「時雨を満たせない、提督さんが悪いんだもの」


夕立「ねぇ、時雨」


夕立「時雨のためなら、夕立達はなんだってできる」


夕立「時雨の望むことならなんでも叶えてあげる」


夕立「何も心配いらないわ。夕立達が……」


時雨「ああっ」


時雨「あああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」


ガチャ タッタッタッタッ


夕立「……」


夕立「……怯えてる時雨も可愛いっぽい」ウットリ


時雨「はぁはぁはぁはぁ」


時雨(部屋を飛び出した僕は無我夢中で走っていた)


時雨(提督の血痕だけをまっすぐに辿った)


時雨(提督を追う理由を、夕立から逃げる言い訳にして)


時雨(頭のぐちゃぐちゃだ)


時雨(何がどうなっているのか分からない)


時雨(分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない)


時雨(分からない)


時雨(分からないまま僕は、提督の居場所に到着した)


時雨「工廠……ここに提督が」ハァハァ


時雨「」コグリッ


ギギィ


時雨(重厚な扉を押して、僕は中に入る)


時雨(夜の工廠の中は薄暗く、静かだった)


時雨(非常出口の案内灯が、怪しげな緑色に発光してぼんやり浮かんでいる)


???「来たのね、時雨」


時雨「……」


???「どうしたの? 随分おとなしいじゃない」


???「まるで借りてきた猫のように静かになってしまって」


???「それに顔色も悪い」


???「さっきの威勢はどこへいってしまったのかしら?」ウフフフフ


時雨「……そうもなるさ」


時雨「まさかこんな悪夢の黒幕が妹だったなんて知ったらね」


時雨「村雨」


村雨「……」


村雨「」クスッ


村雨「そうよ。よく真実にたどり着いたわね。褒めてあげる」


村雨「と、言いたいところだけれど」


村雨「残念」


村雨「黒幕は別にいるわ」


村雨「私はただ時雨をここに誘導しろと指示され、従っただけ」


村雨「あなたの愛しい提督を餌にしてね」


時雨「っ」


時雨「なんでこんな……っ」


村雨「ことをするのか?」


村雨「さあ、それはあなた自身で黒幕に聞いてみることね」クルッ


村雨「こっちよ、真実を知りたいならついてきて」


村雨「ああ勿論、このまま帰ってもいいのよ?」


村雨「それなら少なくとも、今のこの生活を守れるわ」


村雨「まあ、そこに提督はいないでしょうけれど」クスクス


~~~


村雨「……」カツカツカツ


時雨「……」コツコツコツ


時雨(非常口をくぐり、村雨についていく)


時雨(下へ下へと続く階段をどれくらい踏み降りただろう)


村雨「着いたわ」ギギギ


時雨「っ」チカッ


時雨(村雨が重厚な扉を押し開け、一瞬、闇に慣れた両目が青白い光に侵される)


時雨(そして数秒後、僕は唐突に目前にひらかれた地獄に後悔した)


時雨「これは……」


時雨(頭頂に一房跳ねた髪、目尻の垂れた蒼い瞳)


時雨(整然と並ぶ円柱状の装置の中、たゆたう数十のヒトガタはすべからく”僕(時雨)”だった)


時雨「……うっ」


ビチャビチャ


村雨「ふふっ、素敵でしょう?」コウコツ


村雨「ここはね、旧海軍の研究施設だったの」


村雨「艦娘が発見される前、まだ深海棲艦と軍艦がドンパチしてた頃の遺物」


村雨「それを明石さんや夕張さんたちに手伝って貰って、私達のラボにしたのよ」


村雨「最初は人間のクローン研究から初めたわ」


村雨「細胞の培養、人型の形成、記憶の移植、外見・人格の完全コピー、エトセトラetc……」


村雨「そしてついに艦娘“時雨”の完全クローンを作り出すことに成功したの」


時雨「……なんで」


時雨「なんでなんでっ!!」


時雨「なんで……こんな………っ」


???「ことをするのか?」


???「決まっているだろう」


???「すべては姉妹達(白露型)のため、そして」


テイトク「俺のためだ」


時雨「てい、とく?」


テイトク「そうとも俺は提督、この鎮守府の監督者」


テイトク「“はじめまして”」ペコリッ


時雨「っ」バッ


時雨「君は提督じゃないねっ」キッ


テイトク「いいや俺は提督だよ」


テイトク「しかしそうとも、俺はお前の提督ではない」


テイトク「村雨から話はあったはずだ」


テイトク「人間のクローン研究の成果品」


テイトク「お前が監禁していたのは、検体のひとつ、試作一九四四号だ」


テイトク「俺のクローンだよ」


村雨「それで」


村雨「肝心のデータは取れたの?」


テイトク「ああ」


テイトク「検体の生体スキャンは完了した」


テイトク「こいつはもう用済みだ」ブンッ


ドサッ


提督「……う………あっ」ボロッ


時雨「提督っ」ダッ


時雨「」ダキッ


村雨「あら、熱い抱擁ね。お姉ちゃん少し妬いちゃうわ」


テイトク「お前にもこの健気さが少しでもあればまだ可愛げがあるんだがな。村雨」


村雨「もう、ひどい言い草ねぇ」


テイトク「さて時雨、質問の答えが途中だったな」


テイトク「俺達はな、お前が大好きなんだ」


テイトク「愛している」


テイトク「誰もがひとりじめしたいと願い、争うほどに」


テイトク「敵からの砲撃よりも、身内での小競り合いでの生傷の方が多いくらいだ」


テイトク「とはいえ、上官の権限で俺が独占でもしてみるものなら・・・・・・」チラッ


村雨「姉妹の誰かが必ず殺すわね」ニコッ


テイトク「・・・・・・」


テイトク「だから増やすことにしたんだ」


テイトク「ひとりひとりが自分の時雨を側に置いておけば争いはおこらない」


テイトク「お前もそう思うだろう?」


時雨「・・・・・・」


テイトク「確かに端から見れば俺達は時雨に非人道的な行いをしているのかもしれない」


テイトク「俺達は多大な苦痛を時雨に強いているのかもしれない」


テイトク「でもな時雨」


テイトク「聞いてくれ時雨」


テイトク「これはお前のためでもあるんだ時雨」


テイトク「自分のせいで姉妹達が傷つけ合うのは嫌だろう?」


テイトク「自分のせいで姉妹達が人を殺してしまうのは嫌だろう?」


テイトク「自分ひとりが我慢すれば、お前を慕う姉妹達や提督が幸せになれる」


テイトク「そう思えばこの程度の苦痛、些細なものだとは考えられないだろうか?」


時雨「・・・・・・」


時雨「・・・・・・・・・」


時雨「・・・・・・・・・・・・」


時雨「提督のため?」


時雨「・・・・・・君は、僕の提督じゃない」


時雨「僕が愛したのは、僕の腕の中にいる彼だ。彼だけだ」


時雨「僕は君をただ、殺してしまいたいほど憎んでいるだけだよ」


テイトク「そうか・・・・・・殺してしまいたい、と」


テイトク「・・・・・・くくっ」


テイトク「くくくくくくくっ」


テイトク「素晴らしい、素晴らしい情動だ」ハハハッ


テイトク「・・・・・・」スッ


テイトク「・・・・・・だからこそ、非常に残念だ」


テイトク「だったら何故お前は、その男を殺そうとしなかった?」


テイトク「殺したいほど愛そうとしなかった?」


テイトク「何故良心の呵責なんて、つまらないものに流された?」


テイトク「自らの罪を自白し、楽になろうとした?」


テイトク「・・・・・・ふざけるな」


テイトク「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな」


村雨「・・・・・・」


テイトク「好きならば一生業を背負って添い遂げるべきだ」


テイトク「でなければ誰にもとられぬよう、無理心中でもなんでもすればいい」


テイトク「なのにお前はしなかった」


テイトク「相手の為を思って? だと?」


テイトク「そんなものは甘えだ」


テイトク「現にそのクローンはお前の監禁を受け入れていた」


テイトク「お前が共に死のうとすれば、容易く了承したはずだ」


テイトク「・・・・・・失望したよ、がっかりだ」


テイトク「やはり良心なんて残すんじゃなかった」


テイトク「良心すら飲み込むドス黒い愛こそが、美しいと」


テイトク「・・・・・・」


テイトク「いや、お前にこんなことをいっても仕方のないことだったな。ともあれ」


テイトク「やり直しだ」ハァ


テイトク「そこに転がっている試作は消去し、お前は記憶処理を施して再利用する」


テイトク「もちろん、良心なんて不確定要素は切除してな」


時雨「・・・・・・好きにしなよ」


時雨「もうどうでもいい」メツブリ


テイトク「そうさせてもらおう」スチャ


ショック警棒「」ジジジジジッ


テイトク「一瞬だ」


テイトク「次に起きたときには監禁からの一切の記憶は綺麗さっぱりなくなっているだろう」カツカツカツカツ


テイトク「安心しておやすみ。時雨」ブンッ


ボシュンッ


テイトク「!?」


村雨「・・・・・・っ」


テイトク「これは煙幕っ」


テイトク「まさか・・・・・・」


ダッ タッタッタッタッタッタ


テイトク「待てっ、貴様はっ」


テイトク「待てぇええええええっ!!!!!!」


チャプンチャプン


時雨「・・・・・・」


時雨「・・・・・・・・・」


時雨「・・・・・・・・っ・・・・あ」


時雨(気がつくと霧の立ちこめる水面に浮かんでいた)


時雨(傷だらけの身体を小さな小舟に転がせて) 


提督「気がついたか?」


時雨「提、督?」


提督「無理に起き上がらなくていい」


提督「この霧であればよほど近づかれなければ見つかることはない」


提督「紛れれば岸まで無事たどり着けるだろう」


提督「まあ、追っ手が来るはずもないだろうが」


時雨「提督が助けてくれたの?」


提督「・・・・・・」


提督「俺はもう、提督じゃない」


時雨「・・・・・・」


時雨「貴方は知っていたの?」


時雨「自分がクローンだって」


提督「・・・・・・」


時雨「僕が、クローンだって知っていたのかい?」


提督「・・・・・・」


提督「」スッ


提督「」シュポ


時雨(僕の質問には答えず、提督はおもむろに胸ポケットからタバコを取り出した)


提督「」プカー


提督(湿ったタバコの先端にようやく燻った炎が灯る)


時雨「タバコなんて持ってたんだね」


提督「私がタバコを吸っていたら変だろうか?」


時雨「・・・・・・ううん」フルフル


時雨「滅多には吸わなかったけど・・・・・・僕の知る提督もタバコを嗜んでいたよ」


提督「そうか」


時雨「うん」


時雨「……」


時雨「この記憶も、ただ植え付けられただけかもしれないけれど」


提督「……」


提督「時雨」スッ


提督「吸ってみるか?」


時雨「……」


時雨「……うん」


時雨(提督が唇で弄んでいたタバコを差し出し、僕はそれを咥えた)


時雨「けほっけほっ」


時雨(むせかえり、黒い煙を吐き出す)


時雨(目尻たまった涙を僕は手の甲で拭った)


提督「どうだった? 初めてのタバコの味は?」


時雨「……まずい」


提督「だろうな」フッ


提督「時雨、君はひょっとしたらクローンなのかもしれない」


提督「その記憶も偽りなのかもしれない」


提督「けれど植え付けられた記憶なら、それをこれから上書きしていけばいい」


提督「最初からもってた記憶が埋もれるくらい、素敵な記憶をたくさん」


提督「そうすればきっと最後は、代わりのきかない君になれるよ」


時雨「……優しいね提督は。そして強い」


時雨「提督を監禁してた僕なんかを救ってくれて、こうやって励ましててもくれるんだから」


提督「……俺は私欲で動いているだけだ」


提督「時雨」


提督「俺は陸着いたら北を目指そうと思う」


提督「顔の利く人物と交渉して、借宿を用意させた」


提督「そこでしばらくほとぼりが冷めるまで、身の振り方を考えながら待つつもりだ」


提督「もしよかったら一緒にきてくれないか?」


時雨「……もちろん」


時雨「僕は貴方に、一生着いていくよ」ギュッ


提督「ありがとう」ギュッ


提督「本物だろうが偽物だろうが」


提督「俺はどっちのお前も愛しているよ。時雨」


-鎮守府 ラボ-


テイトク「……」


村雨「……」ジィー


テイトク「顔に何かついてるか?」


村雨「カッコイイお口とお目々とお鼻がついてるわー」ニコニコ


テイトク「……ふんっ」


村雨「あらあらぁ」


村雨「虫の居所が悪いのねぇ」


村雨「何がそんなに不満なの?」


テイトク「……聡い貴様なら分かるだろ?」


村雨「あらぁ」


村雨「言わなくても伝わるだなんて考え方してるから、みんな別の子に取られちゃうのよぉ」


テイトク「……」


村雨「ほらほらぁ」ツンツン


テイトク「……なら聞くが」


テイトク「どうしてだれも奴ら追わない?」


テイトク「奴が時雨を抱えて鎮守府を逃げ回り、緊急避難用のエアボートで沖へ逃走したと発覚したのが日の出前」


テイトク「俺は”夜明け次第直ちに追跡しろと”と命令したはずだ」


テイトク「だがどうだ、誰1人として出撃する気配がない」


テイトク「どういう了見か説明願おうか」


村雨「あらあらぁ」


村雨「日が昇ってきたといっても深い霧よぉ」


村雨「この中をいくら索敵した所で無駄足を踏むだけよぉ」


テイトク「なら、霧が晴れていたら即時追跡するのか」


村雨「それはしないでしょうねぇ」


村雨「みんな新しいオモチャに夢中だもの」クスクス


テイトク「ならお前だけでも探しに行ったらどうだ」ギロッ


村雨「だめよぉ」


村雨「私はいま焦ってるテイトクのかわいい姿を見るだけで手が離せないもの」クスクス


テイトク「……チッ」スクッ


村雨「どこにいくのかしらぁ?」


テイトク「お前達にくれてやったクローンの余りを使う」


テイトク「練度は低いが手負いの人間と艤装のない満身創痍の艦娘を捕まえるには十分な数がある」


村雨「そんなに大胆に動かしちゃっていいのかしら~」


村雨「上に見つかっても知らないわよ」


テイトク「仮にそうなったとしてももみ消してくれるだろうさ」


テイトク「この研究が頓挫して困るのは、相当の金を出資した奴らも同じだからな」


村雨「……捕まえてどうするの?」


テイトク「もちろん時雨は記憶を削除し、俺のクローンは……」


村雨「殺すの?」


テイトク「……」


村雨「じゃあ、なんでもっと早く殺しておかなかったの?」


テイトク「それは、時雨に」


村雨「絶望を植え付けるため?」


村雨「でも、それなら生首だけ目の前に放り出してあげたほうが効果的だったような気がするわね」クスクス


村雨「中途半端に痛めつけて、引き合わせて、結果逃げられて」


村雨「そんなダメダメな上官の尻ぬぐいなんて、妹達がやりたがらないのも無理ないわぁ」クスクス


テイトク「……俺の詰め甘さが招いた結果だ」


テイトク「もうお前らには頼まん。勝手にすればいい」


テイトク「自分の後始末くらい、自分でするさ」クルッ


村雨「……ふふっ」


村雨「ごめんなさい、意地悪しちゃって」ギュッ


村雨「私だけは知っているから」


村雨「貴方は殺さなかったんじゃない」


村雨「殺せなかっただけだものね」


テイトク「……」


村雨「ねえ、知ってる?」


村雨「クローンにはねオリジナルと同じ記憶を持たせられるけれど」


村雨「都合のいいように記憶を消したり、書き換えもできるって」


村雨「おまけに行動の制約も出来るの。特定の人間の指示には必ず従うとか、同型艦を攻撃出来ないとか」


村雨「まあ、そうじゃなきゃ兵器として扱うのは難しいものね」クスクス


テイトク「……」


テイトク「何が、言いたい? 村雨」


村雨「……」ニコッ


村雨「私の言いたいことなんて、ひとつだけよ」


村雨「私はどっちの貴方も愛してるわ。提督」


おわり


後書き

2021/11/3 ようやく完結させることができました。
オチは結構前から思いついていたんですが、今日ようやく最後まで文字におこすことができました!
他の作品もちょろちょろ更新していきたいと思ってますので、是非覗いてみて下さい~


このSSへの評価

14件評価されています


H.Curbler54さんから
2022-05-03 13:49:35

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1: sei 2020-02-06 13:43:12 ID: S:SLQC2D

提督のメンタルが鋼過ぎるw

2: 50AEP 2020-03-15 00:11:38 ID: S:deRoCH

振り回される時雨ちゃんで笑いが止まりません!(まんまの意味で)

まるでゴルゴ13ですな。(拷問されても、拷問しているほうが音を上げるタフネス)

3: SS好きの名無しさん 2020-03-25 12:38:13 ID: S:nrcAbn

春雨ちゃん、天使や……

4: SS好きの名無しさん 2020-08-29 23:42:30 ID: S:MI7N0S

続きはよう

5: メットール 2020-09-23 08:49:48 ID: S:aqOLDZ

コメント失礼します。
これ、時雨がヤンデレじゃなくて時雨の姉妹が時雨に対してヤンデレなんじゃ…

6: タウイ泊地の大将提督 2021-01-11 23:50:27 ID: S:1Fjc-_

こういう村雨も良き...

7: SS好きの名無しさん 2021-04-06 19:25:38 ID: S:pCRMf-

ヤンデレという概念が散乱している...いいな!(洗脳済)

8: 農業好きな提督…雪だるま! 2021-05-10 01:29:36 ID: S:wYaH7x

こういう話...好き...


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