2019-07-08 00:43:48 更新

前書き

自分の短編の二番煎じの出涸らしです。
タイトルで釣っといてなんですがコメディです。




一瞬、ぞくりとした。



だがふと思い直し、平静を保つ。



朝潮は抱きしめて欲しいと言ったのだ。

そこにきっと他意はない。そう思って。




提督「あ、ああ。いいぞ。

どうしたんだ?急に甘えてきて」




動揺を少し言動に漏らしつつ提督は席を立つ。そして 視線を少女に合わしゆっくりと話しかけた。



提督「いや、別に言わなくてもいい。

ただ甘えたくなっただけなんだよな」



彼は 自分にも言い聞かせるようにそう言い 少女を軽く抱きしめた。父親が娘を愛でるようにしてゆっくりと 包み込むようにそれでいて力強く。



そうだ。俺の心が穢れていただけだ。抱擁で顔を赤くし それでも笑顔になってくれているこの子が、そういう意味で言う訳がないだろう。



そう、考えながら。



安心してから抱擁を解き 彼は朝潮を見据える。




彼女の頬は桃色に染まっていた。


…が、その表情は少しだけ困った様子だ。



それは提督をひどく不安な気分にさせる。

背中に氷が溶け入る感覚を感じる程に。



鼓動が早まり 脂汗が滲み出る自らの額を感じながら朝潮の言葉を待つ。



待つ時間は永遠に思われたが 実時間はきっとそうは長くなかったのだろう。



しばらくして朝潮はおずおずと口を開ける。




朝潮「ほ…抱擁の方、ありがとうございます!

その、とても嬉しい…です。ただ…」




…『ただ』?




提督「その…司令官に抱いてほしいというのは女として、という意味でして!」





卒倒しかけた。

というか本気で視界がグルッと逝った。




朝潮「…!?だ、大丈夫ですか?」



提督「…大丈夫、大丈夫…だ」




失いかけた意識を、口腔内に血が滲む程に噛み締める事でなんとか保つ。



…ここで辛くなり 倒れるのは簡単だ。


だが、まだ倒れるには義務が残っている。

どうしてこうなったのか聴く義務が!





提督「…何処…から、そんな情報を?…隼鷹か?」




否。違うはずだ。

彼女には前歴がある。そしてその際の刑罰(禁酒)は彼女の反省を促すに十分が過ぎる筈。




提督(刑を言い渡された時目死んでいたし。アレで二度目をやるとは思えねぇしな)




では一体誰が?

本当に 彼には目星がつかない。

誰も黒星(クロ)の候補が見当たらないのだ。



その疑問は 少女の一言で払われた。





朝潮「い、いえ。今度は隼鷹さんでは無く…

榛名さんにお聞きしました」





…断末魔の悲鳴を上げかけた。


何故、どうして、嘘だ。

そんな文言のみが脳髄を駆け巡る。





提督「…は……榛名…が…!?」




何とか、一言を放つ。




朝潮「はい。金剛さんと話をしていらっしゃった所を…その、図らずも盗み聞きしてしまいまして」



と、自らの無作法を恥じ入るようにして話す。


生真面目だなと思い 少し和む。

精神の限界をほんの少し遠ざける事が出来た。




朝潮「…ええと…少し興味深い内容でしたので。そのまま聞いていると、『抱かれたい』などの言葉が出てきたのですが」



提督「…成る程。朝潮の知っている意味では会話が成り立たないと思って、その意味を聞いたんだな?」



朝潮「!は、はい!その通りです!」




提督「…成る程、成る程な」





…ほんの少しだけ、提督の目に光が戻った。





提督「……ひょっとして。その、意味を質問した時。榛名は慌てていなかったか?」




朝潮「!何故それを?」





良し。心で拳を握る。



事故に近かったのだろう。


金剛と榛名が少しだけ明け透けに恋バナをしている最中の事。朝潮がそれを聞いた。



そして痴的…否、知的好奇心から朝潮はその会話について聞いたのだ。


聞かれた以上、すっとぼける事も出来ない。

ならば彼女は答えるしかなかった筈。



…これで榛名への疑惑は晴れた。



だがもう一つ。どうしても明らかにしなければならない事がある。



息が急に荒くなる。

一気に数十年も老け込むような錯覚に陥る。

指先がチリチリする。口の中はカラカラだ。




提督「…それで。質問された榛名は何と答えたのだ」



朝潮「…は、はい。『抱かれる』とは…」






朝潮「…は、はだ、裸で同衾する事だと!」




…安堵のため息が出た。


嗚呼、助かった。


朝潮は穢れてなどいなかったのだ。

少女を穢してしまった事故は無かった。



おお 裸というだけで顔を茜色に染め上げるその純真さの愛おしい事よ。


恥のあまり目をぎゅっと瞑る姿の 保護欲が湧く事これ以上無い。




提督「…そうかそうか。

そういう経緯だったか」




すっかり気を抜き提督は言う。その顔は老け込み、口腔は噛み締める余りに傷だらけだ。




朝潮「…はい。それで、どうでしょうか」





俯きながら、彼女はそう言う。




提督「ん?何が?」




極度の緊張から逃れ、半分呆けつつ返事をする。それが最悪の事態を招くとも知らずに。





朝潮「…私を抱いて頂けますか?」



提督「ああ、お安い御よ…え?」





…そう。何も解決していなかった。

根本的な問題は全て残っていた。


彼が解決した気になっていたのは、

いわばその問題の前座である事。


それをすっかり忘れきってしまっていたのだ。




朝潮「!!よ、宜しいのですか!ではっ!」




提督のその生返事を受けて、彼女は顔を更に赤くしつつ敬礼をする。


…そして、その上着を脱ぎ始めた!




提督「〜〜ッ!!や、やめろ朝潮!」




提督は顔面を蒼白にして、その脱衣を止める。

言葉と、その両の腕で少女の服を抑えて。






ガチャ





大淀「あの、先程からかなり物音がしていますが何かありまし…」





朝潮「は、離してください!」



提督「いいからその手を離せ!抵抗するな!」





大淀「……」





はっと。提督は自分に向けられる殺意を感じて、

そっちを迎え見る。



そこには、いつも彼の仕事の補佐をしてくれる艦である大淀が居た。



そして次に。自分を第三者的視点で捉えてみた。



はだけた少女の服を掴み、

抵抗するなと叫ぶ成人男性。

それを見て何を思うだろうか?




不思議と気分は落ち着いていた。

悍ましい笑顔を浮かべた彼女に対しても、もはやなんの感情も起こらなかった。



「懲罰房の中の気持ちは一体どんなだろう」

ただ、そんな事をボンヤリと思っていた。



そして身体の反射がそうしたのか。

自己の意識がそうさせたのか、一言叫んでいた。




「お、俺は悪くねぇ!!」







おわり



後書き

以上です。
朝潮好きな人には本当にごめんなさい。
大淀さん好きの人もすみません。


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2021-01-22 20:24:09

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1: SS好きの名無しさん 2019-06-24 05:59:26 ID: S:InHvlC

この人の朝潮大好き

2: SS好きの名無しさん 2019-07-04 23:24:52 ID: S:Ba5S3m

grass(訳:草)

3: ウラァー!!ハラショー!! 2019-07-09 09:32:10 ID: S:LiDfUt

俺「」無言 (血涙)

4: SS好きの名無しさん 2019-07-09 23:13:28 ID: S:YDsDBG

面白い

5: SS好きの名無しさん 2020-07-20 18:51:39 ID: S:Xm9WAn

続きが気になるぅ!


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