2020-06-30 23:47:06 更新

前書き

今回も今回とてn番煎じです。





提督「ああ、頼むッ!この通りだ!」←土下座



明石「いやいやいや!どうしたんですか急に!

急にここに来たと思ったら土下座までして!

今の私、困惑しかないですよ!」



提督「…ある夢を見たんだ」



明石「夢、ですか?」



提督「いや、天啓と言うべきかな…

まあ取り敢えず聞いてみてくれよ」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




その娘はがばりと寝床から身を起こした。



目は見開かれ身体には汗が滲んでいる。



酷い悪夢を見たのだ。



それは、自らが好いている人に嫌われる夢。

それも彼の身勝手ゆえでは無い。


否。寧ろ、その彼は常に優しかった。


常に優しく、常に平等で。

怒っている所や人に誹りを言う所など見た事が無い…それ程柔和な人だった。


そんな彼が、怒った。

そんな彼が、嫌悪した。


そんな彼が、自分を疎外したのだ。


纏わり付いてくるなと。

目障りだと。我慢の限界だ、と。


我慢?


そう、彼はずうっと我慢をしていたのだ。

その娘の全てに対して。


その態度の全ては、彼のその我慢が弾けただけだったのだ。


彼はただ、自らの思っている事を正直に吐き出しただけの事だったのだ。



勿論、それら全ては彼女が手前勝手に見た夢だ。現の事では無い。


もし今、彼の所に行ったとしてどうなるか?


彼はいつも通りに笑い掛けてくれるだろう。

いつも通りに優しく話しかけてくれるだろう。



(我慢なんてしていない。

しているはずが、無い…)



娘は気分を変える為に外に出て、夜風に当たりながら、何度もそう思おうとした。


だが思おうとするたび、その脳裏にその夢の中の彼の顔が浮かぶ。


あの軽蔑と嫌悪、憤怒が混じったような、彼の見た事の無いあの顔を。


他ならぬ、自分に向けられた顔を。


そしてその顔が浮かぶたびに息が荒くなり、胸が苦しくなる。



(いやだ…違う。違う。違う!)



そうしてひたすらに夜風を浴びていた…その時だった。



『おや−−−。どうしたんだ?夜遅くに。

それも、こんな場所で』



彼女は声を掛けられた。

愛しきその『彼』…提督に。


いつもなら、そんなシチュエーションになった時、彼女はとても喜んで彼と楽しく対話をする。


いつもならば。



だが彼女にとって不都合な事に、今の状態はその『いつも』ではなかった。



『……!』



彼の人懐こい顔を見る。軍人らしい筋肉の付いた体躯も。愛おしい、その全てを見る。


それと共に、脳裏にあの全てがよぎる。


嫌悪の目。容赦の無い罵倒。我慢の限界…



気づけば、彼女は後ずさっていた。



『お、おい。どうした?ひょっとして、何か気を悪くさせちまったか?』



困惑する提督。



そしてその顔は。

今の彼女の目には、その困惑の表情は困惑の表情では無く。最も恐ろしい物に…

つまりは、嫌悪の表情と映った。





『…!嫌わないで…!』


ピピピピ ピピピピ ピピピピ







提督「………」パチリ




ムクリ




提督「…夢、か」



提督「ああクソっ、こんないい所で…!」




【起床時刻也】




提督「ああー…朝、かぁ。」



提督「あーあ…あのまま、あの娘がどういう反応したのか知りたかったのになぁー」イソイソ



提督「……いや、待てよ?」ピタリ



提督「…まさか、この先は現実で見ろと言う事か?神が俺に向かってそう言っているのか?」



提督「…ああ、そうだ!そうに違いない!

これは天啓だ!これを現実にやれというのが俺の使命なんだ!」



提督「よっしゃ、そうと決まればこうしちゃいられない!明石だ!明石の元に急ぐぞ!!」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





明石「…で、つまり。

貴方は私に夢を操る機械を作らせて、特定の娘に貴方に…提督に嫌われる悪夢を見せて。

で、それからその娘とコミュニケーションを取ろうとしているという訳ですか。それで、その娘の反応がどうなるかを見ようと」



提督「説明ご苦労。

ざっと言うとそう言う事だ」



明石「…何処からツッコんで欲しいんですか」



提督「ツッコミどころなんて無いだろ」



明石「…まず何で提督一人でそんなに騒いでたんですか?ていうか、何でそんな発想に思い至ったんですか?で、夢を操って悪夢を見せようとするって、どんだけ性格が歪んでればそんな発想に思い至るんですか?」



提督「おおう、一息に言い切りやがったな…まあそんな事はどうでもいいんだ、重要な事じゃ無い。だからそれらの問いにも答えん」



提督「問題は一つ。この機械をお前が作ってくれるか、だ。機械そのものが無けりゃ話にならんからな。皮算用にすらならん」



提督「と、いう事で。頼む、この通りだ。

夢を操れる機械を作ってくれないか?」



明石「…作った所で、私の利益がありません」



提督「…前の時のようにインカムをつけよう。あともう一つ、今度は小型カメラもな。それでお前は、曇った顔の娘達を見逃さない筈だ」



明石「…そんな事で、乗ると思いますか?」



提督「ああ、乗るさ。乗るとも。

何せお前は俺と同類だからな」



明石「…同類?」



提督「ああ。お前も俺も、愉悦を感じる為なら何でもやる。艦娘達の良い表情を見る為ならば何でもやる…そんなヤツだ。そうだろう?」



明石「て、提督と一緒にしないで下さい!!」



明石「………」



提督「前と異なり、今回は俺は強制しない。

お前が嫌だと言うならばそれを拒否しろ」



明石「……!」




提督「さあ、どうする?どうするんだ明石!」





明石「…最高の顔を見せる。それが条件です」




提督「GOOD!それでこそお前だ!」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




【数日の後】




明石「出来ました!」



提督「うおお、ゴツい見た目だな…

こりゃ前みたいに持ち歩きは出来ないな…」



明石「いかんせん機能が複雑なもので…小型化する時間も無かったし…で、でも!機能は恐らく文句の付けようがありませんよ!」



提督「ほう。射程距離は?」



明石「この鎮守府中です!」



提督「発動させる条件は?」



明石「目の前のそこのスイッチを押すだけです!」



提督「相手を選ぶ事は?二人以上への同時使用は?」



明石「勿論出来ます!」



提督「パーフェクトだ明石。

では早速やっていこうじゃないか!」



明石「お、早速ですね。

最初は誰にやるつもりですか?」



提督「そうだなぁ…」



提督「……」



明石「…提督?」



提督「…いやな、本当に咄嗟のアイデアだった上、これが出来るまでワクワクするだけして、誰にやろうかとか全然考えて無かった」



明石「ええ…馬鹿ですか貴方は」



提督「う、うるせぇな。

…そうだな、夕立なんてどうだろう?」



明石「夕立ちゃんですか?それまた何で」



提督「言っちゃ悪いが、あいつは結構能天気な奴だからな。アイツで効果があるんならば他の奴にも効果があるだろうって事さ」



明石「ああ、実験も兼ねるんですか。

…ほんと、息をする様に下衆の思考をしますね、」



提督「おうありがとよ。さて、そうと決まれば…ここで操作できるのか?」



明石「あっはい、そこで対象や見せたい夢などを選んで、最後に決定ボタンを押せば発動します」



提督「オッケイ。…良し、決定ッ!」




カチリ




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





【翌日】




提督「聴こえてるか、見えてるか?」



明石『はいはいバッチリですよー』



提督「良し。…しかしアレだな。夢という性質上、一日に一人…無理しても数人ぐらいにしか出来ないのはネックだな」



明石『まあそればかりは…提督が増えないとどうしようもないですからね』



提督「っと。夕立発見。さて、様子はどうかな?」




夕立改二「……」




提督「ふーむ…心なしか元気が無いな。

これなら成功かな?」



明石(ちょっとふらふらしてる様な気も…

大丈夫かしら?)



明石『そういえば、執務室で仕事しないで、こんな所をほっつき歩いてて良いんですか?』



提督「仕事なら終わらせて来た。

と、いう事で接触してくるから話せなくなるぞ」



明石(に、人間離れしてる…

この人はこの意欲をもっと他の所に使えばなぁ)




提督「おーい、夕立」



夕立「!!」ビクッ



提督「よお、元気か?」



夕立「あ…て、提督さん!こんにちは!」ニコリ



提督(ムム、笑顔。だが…)



明石(不自然な笑顔…取り繕ってるって感じね)



提督(俺が夕立に見せた夢は、ずばり、触れ合いに辟易した俺が突き飛ばして罵倒するといったような…そんなものだった)


提督(どうやらかなり効果があったようだな。

今迄通りならば、夕立は既に飛びついてきたりのボディタッチ的なものをしてくる筈だ)




夕立「何か用事っぽい?」



提督「いや、特に用事って訳でも無いがな。

ただ話し掛けただけさ。駄目か?」



夕立「…ううん、全然駄目じゃないっぽい」



提督「そうか。…そうだ、ここで会ったのも何かの縁だ、何か食べに行くか?」



夕立「本当!?やった、提督さん大好きっ…」ガバッ



ピタリ



夕立「…っぽい」



提督「…なあ、どうかしたか夕立?」



夕立「え?」



提督「こう言うと何か、まるで催促してるみたいで気持ちが悪いかもしれんが…今日はヤケに大人しいというか、こう、触ってこないというか」



夕立「き、今日はそんな気分じゃ無いだけっぽい」



提督「…そうか?俺には今、わざわざ行動を中止したように見えたが。本当に何もないのか?」



夕立「……ッ」



提督「…夕立?」



夕立「…何も無いっぽい。」




提督「…夕立!」



夕立「ひっ…!」ビクッ



夕立「…ご、ごめんなさい…

て、提督さん、お、怒らないで…」




提督「…夕立」



夕立「…ッ!提督さんが嫌な事はもうしないから、提督さんがやれって行った事なら何でもするから、だから…!」



提督「…待て、話を聞いてくれ、夕立。

俺は怒ってなんかないんだ。…大きい声を出してすまなかった。誤解させちまったな」



提督「俺は怒ってない。

俺はただお前の事が心配なんだ」



夕立「……!」



提督「…もし俺が信用出来ないと言うなら、言わなくても構わない」



夕立「!そ、そんなこと!」



提督「でも、出来たら話してくれないか?」




夕立「…うん」



夕立「…ねえ、提督さん。

…夕立の事、きらい?」



提督「まさか。そんな筈は無い」



夕立「じゃあ、いつも夕立がしてる行動にイライラしてたり、してない?」



提督「勿論さ」



夕立「じゃあ、それじゃあ!提督さん、私の事好き?」



提督「……」



夕立「…好きじゃ、ないの…?」ジワァ




【提督、抱擁】




提督「済まない。そんな風に思わせてしまった。辛い想いをさせてしまったな」



夕立「…!!」



提督「大好きだよ、夕立。嫌いな訳が無いじゃないか」



夕立「…う、うう…!」



夕立「提督さ〜ん…!」グズグズ



提督「うわ、服に鼻水を垂らすな!」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





提督「成る程、俺に嫌われる夢を」



夕立「うん…夢の中で、提督さんが触るのが嫌だって。我慢の限界だって言って、私の事を突き飛ばしてきたっぽい」



提督「…大丈夫だよ。俺はお前のそう言った行動全てが好きだし、嫌がって我慢なんかしていないから…というか思う訳が無いからな」ナデリ



夕立「んっ… ありがとう、提督さん」



提督「とんでもない、俺も好きでやってる事だ。礼を言われる筋合いなんてないさ」



夕立「本当にありがとうっぽい!」スリスリ



提督「話を聞いてくれ」



夕立「…ねぇ、提督さん!これから先も提督さんに抱きついたり、今みたいにすりすりしてもいいっぽい?」



提督「ん?ああ、勿論いいとも」



夕立「そ、それで…またこういう夢を見ちゃったら…また提督さんに、話を聞いてもらっていい…?」



提督「…いつでも来るといい」



夕立「!うん!ありがとう提督さーん!」




【夕立はそのまま走り去って行った】




提督「あ、おい!一緒に何か食いに行くんじゃ無かったのかー!?おーい!」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





提督「良し良し、いい感じだ。

俺の考えていた感じにとっても近いぞ」


提督「…にしても夕立は、結構思い詰めるタイプみたいだな…これからはそれを踏まえて接しないとな」



明石『いやー、全部貴方が仕込んだ事って知ってるこっちからすると、こういう人を邪悪って言うんだなーなんて事を思ってましたよ』



提督「いつも明るかったり気丈に振る舞っている娘の、その顔が曇っている所…やはりとても良い物だ。

そして、それが晴れる所もな」



明石(あ、この人この手の悪口には最早反応すらしないや)



提督「しかし…夕立は後に取っておくべき逸材だったかもしれん。使い方を覚えてる最中の今に、手を出すべきじゃなかったな」



明石『と、いいますと?』



提督「もっと使い方に慣れてから夕立に対してこれをやれていたなら、もっともっと良い顔を作り出せたかもしれん。ま、後の祭りだがな」



明石『何を変な拘りを見せてるんですか』




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





明石「さて、次はどの娘にするんですか?

まさかやらないなんて事は無いでしょうし。」



提督「その通り、やらないなんて事は無いぞ。

…次のターゲットはズバリ、霞だ!」



明石「また駆逐艦の娘ですか…

…ひょっとして提督ってロr」



提督「違うわ。これはただ駆逐艦の割合が多いだけであって、そこに他意は無い」



明石「まあそう言う事にしときましょうか。

…ところで、霞ちゃんにやるって事はやっぱり…?」



提督「…うん。まあぶっちゃけ、霞はこの装置を使う相手の大本命に位置する娘だ。」



明石「…ですよねー…

実際、この装置ってこういう娘を狙い撃ちにするようなものじゃないですか。本当に性格の悪い…」



提督「作った時点で貴様も同類だろ」



明石(…何も言い返せないや)



提督「ま、お前の思っている通りだよ。

この装置は、その娘からの俺に対しての負い目があればあるほど、反応が面白くなる」



提督「逆に言うなら、素直だったり、あまり迷惑を掛けてないと…少なくとも自分で思ってる娘にはあまり効かない。こんな事はあり得ないと夢と現に区切りをつけれるような娘にも然りだ。」



提督「その点、霞、満潮あたりはトップクラスに負い目もあるし自分自身が罵声を浴びせてるという実感もある。…うーん、最高だな!」



明石「…そこら辺の娘達は、ボロボロに心が傷付いている様な過去がありますからね?せめてそんな手酷い悪夢は見せないようにしてあげて下さいよ?」



提督「なぁに、それ位は解ってるとも…

つー事で夢のセッティングを始めよう」



明石「…あの、因みに霞ちゃんにはどんな夢を?」



提督「ん。まあ大した物じゃあないよ。ただ普通に」



提督「霞の度重なる罵倒に耐えかねた俺が霞の目の前で絶望し、拳銃自殺するってだけだ」



明石「よ、容赦ゼロじゃないですか!!」



提督「?不服か?」



明石「いや流石にドン引きっていうか…

もう少しこう、何というか…手心と言うか…」



提督「痛くなければ覚えませぬ」



明石(ああダメだ話が通じない… ごめんなさい霞ちゃん、私はとんでもない物を…)



提督「という訳で、セット完了!

準備オッケー!あそれ、レッツ・ゴー!」




カチリ




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





【再び翌日】




提督「外はいい天気だよな。

鳥たちは歌い、花は咲き誇る」



提督「こんな日こそ、霞のような娘には…

悪夢を見てもらうべきだろう。違うか?」



明石『確実に違うと思います。

ていうか悪夢は既に見てるんでしょうが』



提督「細かい事はどうでもいいのさ。

という事で今俺は執務室の前にいる。

で、霞は今日秘書艦だ。」



明石『あら、タイミングぴったりですね。

…もしかしてそこらも考えてのセレクトで?』



提督「いや、ただ都合の良い偶然だよ。

…それじゃあ逝ってくる」




ガチャ




提督「おはよう、霞」



霞「…ん、おはよ」



提督(さて、様子はどうかな?)



提督「いやぁ、相変わらず早いな。

俺も遅れて来たって訳じゃあ無いんだが…」



霞「少し前に来るくらいが普通なのよ。

あんたも軍人なんだしそれ位しなさいな」



提督「はは、手厳しいな」



霞「甘え過ぎなのよ、このクズ」




提督(…ふむ。ざっと見たところ、あまり変わった様子は見られないな)



提督(…ちょっと顔色が白く見えるか?

でもまあ、それくらいか。)



提督(正直少し以外だ。もっとこう、色々と反応というか影響というかがあると思ったが…)



提督(…この態度はツンデレのツンじゃあなく、ただ単に俺が嫌いだったのか?うーん、そんな事は無いと考えてたんだがなぁ…)



提督「済まん済まん…

まあそれじゃ、仕事するか」



霞「…言われなくても解ってるわよ」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





提督(…?)



提督(なんか、霞…今日はミスが多いな)



提督(勿論支障が出るとかいうレベルじゃ無いが、それでも自他に厳しい霞らしからぬような…)チラリ



霞「……」カリカリ



提督(…ひょっとして、あの俺の見せた悪夢のせいで寝不足だったりするのか)



提督「…なあ霞。お前、大丈夫か?」



霞「は?何がよ」



提督「体調が、だ。もしかして体調を崩してたりしてるんじゃないかと思ってな」



霞「…そんな事無いわ。平気よ」



提督「そうか?自覚が無いだけで、疲れてるのかもしれない。少し熱があるのかも」



霞「大丈夫だってば!」



提督「…本当か?本当は無理して…」




霞「大丈夫って言ってるでしょ!

いちいち構わないでよ!」パシッ




提督「痛っ…」




霞「……ッ!」



提督(差し出した手を振り払われる、か…

覚悟してたとはいえ、少しは凹むな)ショボン



提督「…済まない。余計な事をしてしまった」



提督「全く、こんなヤツが上司で悪いな。

なんて……」



提督「…霞?」




霞「…」



霞「……」




バタリ




提督「!?お、おい!霞!?霞!!」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「大丈夫って言ってるでしょ!」




咄嗟に、差し出された手を打ち、振り払った。


瞬間。彼の目が、顔が。哀しさを帯びた。


ぞくりと悪寒が走るようなそんな顔。


それは、つい今朝方に夢にて見た彼の絶望の顔と酷く似通っていた。


度重なる罵倒に堪え兼ね、遂に絶望の一線を超えてしまったその顔に。



本当は全く似てなぞ無かったのかもしれない。

だが少なくとも、彼女はそう思った。

思ってしまったのだ。



(違う。私は、礼を言わなきゃ。

気を遣ってくれてありがとうって…

気をかけて、心配してくれてありがとうって)



ざりざりと、悪夢のフラッシュバックが彼女の思考をノイズの様に妨げる。回らせるべき舌は止まり、動かさねばならない唇は動かない。




「…済まない、余計な事をしてしまった」


『済まない、本当に済まない…

俺は、いつも余計な事ばかりを…』




彼が、提督が、謝罪を口にする。


彼の言う事が、彼女の悪夢と重なる。


彼女の見た夢が、彼女の認識を蝕んでいく。




「全く、こんなヤツが上司で悪いな…」


『俺のような無能は…

もうお前たちの上に立つべきでないんだ…』




(違う。やめて。違うの、私はそんな。

そんなつもりじゃ)



心中の訴えを他所に、提督がホルスターから拳銃を取り出し、そして自らの口内へ。上顎へと押し当てる。


現実の提督が行っていないその行為を、彼女は夢を記憶した脳と、悪夢を錯覚したその網膜で見ていた。



(違うの。私は、貴方を責めてはいないの)



心の中の声は、一言も発す事が出来ない。

身体は、金縛りにかかった様に動かない。



『こんな俺を…許してくれ…』



(お願い、銃を下ろして。口からそれを出して)



『さよならだ』



(やめて。やめて!やめて!!)




パァン




(あ、あああ、ああああ、あ!)




彼女の耳が、現実では発せられていない銃声を聞き。

彼女の目が、現実では無い飛散する脳漿を見た時。



彼女の意識は既に夢に連れ去られていた。





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





【in 仮眠スペース】





霞「…あれ?」



提督「よう霞。おはようさん」



霞「…ごめん。あたし、どれ位寝てた?」



提督「…安心しろ。そう大して時間は経ってないよ」



霞「…そ。それじゃあ仕事を再開しましょ」



提督「今日はお前は非番だ」



霞「…何ですって?」



提督「俺がさっきそう決めた。だからお前は今日お休みだ。ゆっくりしてるといい」



霞「ちょっと、アンタ…」



提督「そんな顔で仕事をするつもりか?

そんな、ファンデーションだらけの白い顔で」



霞「…ッ!」



提督「濃ーい隈を粉塗りたくって何とか隠した、そんな酷い状態で仕事なんて出来る筈が無いさ。だから休んでてくれ。」



霞「でも!」



提督「…取り繕って何かをしても綻びはいつか出る。なら、綻びなんて作らないようにやった方が良い」



霞「……」



提督「…霞。お前は、弱みを見せたくないんだろう。だからそんな白い面をしてでもここに来て、そして何事も無いかのように振る舞った。そうだろ?」



提督「でも、弱みくらい誰にだってあるんだ。

だからな。隠す必要なんて無いんだよ」



霞「……」



霞「…それでも、私がやらないと。

…私がちゃんとしないといけないのよ」



提督「…」



霞「それに、私が体調を崩したってどうでもいい。そんな大した事じゃないもの」



提督「…おい、霞」



霞「…何?」




ギュッ




霞「きゃっ…!は、離…」



提督「…お前は色々と背負い込み過ぎだ。

もう少し俺を信用してもいいじゃないか」



霞「…!」



提督「言いたくないなら何があったかは言わんでもいい。でも。それで何かがしんどいのなら、そのしんどい物を俺に任せてくれてもいいだろ?」



霞「…でも」



提督「そんなに俺が信用ならないか?」



霞「でも、だって… いいの?」



提督「勿論。なんてったって、俺はお前たちの提督なんだからな」



霞「…それのせいでアンタの心が追い詰められちゃったら、どうするのよ」



提督「そん時はそうなる前にお前にも任せる。

お互い無理しない程度にしてな」



霞「…私なんかに任せて、いいの?」



提督「俺は、お前ほど叱咤激励をしてくれるような頼もしい奴を他に知らん」



霞「こんな、罵倒ばかりの娘が?」



提督「おや、俺はいつもお前の罵倒で元気を出しちまってたのか」




霞「…」



霞「……」ギュッ



霞「…ねえ。信じて、いいのよね」




提督「当たり前だ。

だから今日はゆっくり休め。な?」




霞「イヤよ」




提督「ああ…」


提督「…って、えぇ!?

いやいや、ここは頷く流れだろう!」



霞「うっさいわね、私がやるべき分くらいやんないと目覚めが悪いでしょ。だからちゃっちゃと終わらせるの」



霞「どうせアンタの事だし、大して時間は経ってないなんてのは嘘なんでしょ」



提督「!」ギクッ



霞「で、私が起きるまでアンタは仕事に手を付けないで、ずっと私の側にいたんでしょ」



提督「!!」ギクギクッ



霞「やっぱりね… ほら、今からでもその分も含めてやっちゃうわよ!」




ズルズル




提督「…いや。でも、お前…」



霞「…ねえ、『司令官』」



提督「ん?」



霞「ありがとう。頼りにしてるわ」



提督「…おう」



霞「言いたい事はそれだけよ。

それじゃ行きましょ、クズ」ズルズル



提督「解ったから引きずるのを止めてくれ」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




明石『…無反応なんて見当違い。でも、霞ちゃんはその苦しみを他人に…提督に見せまいと、取り繕ってたんですね』



提督「…ああ」



明石『?どうしたんですか、馬鹿に元気が無い。提督的に今のは成功ではないんですか?』



提督「いや、その…俺はもっと、罵声が飛んでこなくなるとかの軽いイメージをしてたもんだからさ…その…何というか…」



明石「…?」



提督「ちょっと…やり過ぎたっていうか。

少し反省をしてるんだ」



明石『…成る程。

…では、もうこの機械は使わないと?』



提督「それはそれとして全然使うけど」



明石『クズですね』




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




提督「そんじゃあ次だな、次」



明石「あ、マジでやるんですか」



提督「当然。反省とは次に活かす為にあるものだろ?」



明石「は、はぁ…それじゃあ、今度は誰に?」



提督「ふむ、そうだなぁ…

…よし、榛名にしよう」



明石「あら、榛名ちゃんですか?

…なんかちょっと意外ですね…」



提督「ん、そうか?」



明石「はい。だって以前提督がこの装置は負い目があまりない良い娘には効かないって言ってましたし」



提督「あー、そうだな。確かにそんな事言ってた」



明石「それに、霞ちゃんと同じ基準でターゲットを決めるなら曙ちゃんとかになるんじゃないかなーと思ってて」



提督「曙は前回組だから保留だ。

…でだな。今回榛名なのは少し思いついた事があっての事だ」



明石「はぁ。というと?」



提督「まず、今回の榛名に対しては俺に嫌われる旨の夢は見せない」



明石「…まあ、前の霞ちゃんの時点でもそうでしたもんね。気づいてるかどうか知りませんが、今回の企画割とブレブレですよ」



提督「うるさい、俺が楽しけりゃいいんだよ。

…ま、とりあえず榛名への夢の内容は明日へとお楽しみって事で…」カチャカチャカチャ



明石(あ、もういじり始めてる。

ていうか操作覚えるの早っ)



提督「…うし!それじゃあ、榛名!

良い夢を見ろよ!ポチッとな!」




カチリ




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






【翌日】




提督「さぁて、と。榛名はどこかな?」



明石『早速ですね。 …で、そろそろ教えて下さいよ。昨夜どんな夢を見せたんですか?』



提督「そう焦るな。この後に教えるつもりだから、ちょいと待ってな」



明石『はぁ(いやに焦らすわね)』



提督「お、榛名だ。丁度いいな。そんじゃちょっくら行ってくる」




提督「よお、榛名」



榛名「! 提督…えっと、何か御用でしょうか?」



提督「あー、済まん。特に用は無いんだがな…

その、なんというかだな」


提督「…お前と話しをしたくってな?もし良かったらなんだが、少しの間付き合ってくれないか」



榛名「…!はい!榛名でいいならお相手しましょう!」



提督「…俺から言い出した事だけど、いいのか?何かやる事があったりはしないか?」



榛名「いえ、榛名は大丈夫です!

…それより、立ち話もなんですし…その…」



榛名「…は、榛名の部屋に来ませんか?」///



提督「え、だが…」



榛名「!す、すいません、嫌ならば、その…」



提督「はは、嫌な訳が無いだろう。俺にとっては得しか無いんだからさ」


提督「そうだな…それじゃあ、折角だし、お邪魔させてもらっていいか?」ニコリ



榛名「は、はい!」




明石(出た、提督のやけに爽やかな笑み。

あれにドキリと来ない娘は少ないでしょうね)



明石(にしても…なんというか、提督も榛名ちゃんもどちらもただ普通に仲睦まじくしてる様にしか見えないわ。…一体、どういう…?)




【その後、榛名の部屋に入った後も悪夢に関する様な事は一切行われなかった。明石は砂糖を吐いた】





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





明石「で、どういう事なんですか?」



提督「さて、なんの事やら」



明石「いやいや、しらばっくれるのは無理があるでしょう。榛名ちゃんとはただイチャイチャしてただけだったじゃないですか」



提督「ああ、そうだな」



明石「そうだなって… あれですか?結局、あの装置はもう使わない事にしたんですか?」



提督「…今回は幾つか小細工を用いるつもりでな。

同時に、結構長期に渡って行うつもりなんだ」



明石「?」



提督「…ただ悪夢を見せるだけじゃあ、いつしか、あくまであれはただの夢だと思うヤツが出てくる」


提督「それじゃ駄目だ。それでは俺が詰まらない」


提督「そして、榛名も恐らくその中の一人だろう。

俺が見せようと思っている夢を今見せても割り切ってしまうだろう。何てったって、金剛型の姉妹の絆は途轍もなく強固だからな」



明石「…?何の事を…」



提督「だからこその小細工。

だからこその昨日見せた夢だ。俺は昨日、榛名にあいつと仲睦まじく話す夢を見させた」


提督「そして今日、榛名は俺と仲睦まじく話した。

まるで夢と同じようにな。」


提督「一日だけなら偶然に思うかもしれない。

だが、それが何度も続いたらどうだろうな?」



明石「……!!」



提督「さあ、次回は2日後。

次は…そうだな。デートにでも誘う夢を見せよう」



明石「提督…あなた…」ドン引キ



提督「さあ榛名、良い夢を見るんだ。

…その後の悪夢をより最悪にする為にな…」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




榛名「……ッ!!」ガバッ



榛名「……」



榛名「夢、よね…」



榛名「……」



榛名「……私は…」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





提督「さあ、遂に参りました。本命の日です!」



明石「あ、朝っぱらテンション高いですね… 」



提督「当然だろう。今日この為に何日も何日も費やしたんだ、テンションが上がらぬ訳がない」



明石「では、今回見せた夢を聞かせていただいても?」



提督「ああ。今回見せたのは、俺にケッコン指輪を渡された榛名が次第に姉妹内から疎まれていき、嫌悪されていくってものだ」



明石「あー…成る程。確かに前言っていたように、榛名ちゃんは普通ではただの夢として受け取るでしょうね」



提督「だろう?だからこそのここまでだ。だからこその小細工。何度も何度も見た夢が再現させられてからこうなったのなら、盲信とはいかぬとも何か感じる筈だ」



明石「…ん?ケッコン指輪を渡すんですか?」



提督「あぁ。さっきそう言っただろうが」



明石「いやでも」



提督「っと、榛名発見。という事で話せないぞ」



明石「アッハイいってらっしゃい」




提督「よう、榛名」



榛名「!提と…」



提督「どうしたんだ?ひどい顔だぞ。

何か悪い夢でも見たか?」



明石(うわ、白々しい)



榛名「…いえ、大丈夫です。少し疲れが溜まっちゃっているだけですので」



提督「それはそれで良くないんだけどな…

あー、その、だな」



榛名「?何かご用でしょうか?」



提督「えーっと、もし暇だったりしたらなんだが、

少し付き合って貰えないか?」



榛名「…!」



提督「いやほんと、急を要する事でも無いんだがな?

用事って程の事でも無いしな?」



榛名「…いえ、榛名で良いのならばお相手します!」



提督「そ、そうか。じゃあ済まんが、付いてきて貰えるか?」



榛名「はい!」



提督(…さて。今まで、取り敢えず見せた夢と殆ど同じ行動を取ってる。ここまで続くのなら、榛名はこの後、指輪が渡されるのではという思案をするだろう)



提督(…いや、実際しているようだな。なぜなら…)チラッ



榛名「……ッ」///



提督(…あんな複雑な表情は。頬を赤らめながら顔を顰める、なんて複雑な表情はしない筈だもんな)





【提督達、人目の付かぬ場へ】




提督「…良し、ここなら誰も聞いてないかな?」



明石(私が聞いてますけどね)



提督「で、だな。榛名。

お前、最近練度が99になったな。おめでとう」



榛名「あ、ありがとうございます」



提督「…あー、駄目だな、このままじゃ尻込みして言えなくなってしまいそうだ。…榛名よ」



榛名「…はい」



提督「単刀直入に言ってしまおう。

このケッコン指輪を受け取って貰えないか?」



榛名「…!!」



提督(俯いたな…やはり夢を意識しているな。

さあどうする、どうなる?どういう反応を)



榛名「ありがとうございます、提督…!

その指輪、是非とも受け取らせて頂きます!」



提督(するのか…

ってあれ、普通に受け取るのか。しかも判断が早いし。表情にも陰りが見えない。どういう事だ?夢は夢として割り切ったのかな?)



提督(…少し揺さぶってみるか)



提督「…無理は、しなくていいぞ?」



榛名「え?」



提督「いや、なんて言うかな…

君の顔に焦りというか陰というか…そんなのが見えた気がしてな。勘違いなら悪いが…」



榛名「……」



提督「当然だが、この指輪は提案であり強制じゃあない。そりゃ受け取って貰った方が嬉しいがな。

だから、嫌ならば拒否してくれ」


提督「悩みがあるとかならば、それを言えばいい。

取り敢えず聞く事だけは出来るからな」



提督(本当は全然陰りなんて無かったが…

さあ、何か反応が起こるか?)



榛名「…」




榛名「……ッ」




榛名「………」ボロボロ




提督「…!?ど、どうした榛名!?」





榛名「…ぐすっ…好きなんです」



榛名「提督が、大好きなんです」





提督「そ、そうか(…?)」



榛名「…最近、提督と榛名は二人で色んな事をしました。部屋で話をしたり、買い物へと行ったり…」



榛名「そしてその度に夢を見ました。

その全ての、行った通りの夢を」



榛名「だから、夢を見る度に胸をときめかせてきました。夢を見る度提督の顔が頭から離れなくなりました」



榛名「そして今日また、夢を見ました」



榛名「…悪夢でした。金剛お姉様も、誰も彼もが榛名を疎む、そんな夢を見ました」



提督「…」



榛名「…なのに」



提督「?」



榛名「それなのに、榛名は嬉しかったんです。

提督に好意を向けられ、指輪を渡されるという事が。それだけで嬉しく思ったんです」



榛名「…榛名は…」



榛名「私は、いつだって皆を守りたいと思っていた筈なんです」


榛名「…なのに私は、皆に嫌われるはずの夢を見た事より、提督から指輪を渡された事に重きを置き、そしてそれに喜びを感じていました。

…感じてしまいました」



榛名「それはつまり、私は艦隊の皆よりも、姉様たちよりも提督を想っていたという事…」



榛名「…いえ、本当は、皆の事も大切に思って無かったのかもしれません。本当はただ、自分がただ『いい子』である為に。

私はそんなに醜い子じゃないと。そう自分に思い込ませる為だけに、艦隊の皆を大事なものとしていたのかもしれません。」



榛名「…私は身勝手です。榛名は、榛名は…」




提督「……」




榛名「…ぐすっ、すみません、急にこんな事を言ってしまって…」





提督「…榛名。一度この指輪は保留にしよう。

このまま受け取ってもらっても、お前が危ない」



榛名「!!は、榛名は…!」



提督「『大丈夫』…じゃないだろう。

お前は、その見た夢のせいでひどく不安定な状態だ。そんな時にこの指輪を渡されても、ただ辛いだけだ。…お互いな」



榛名「…!でも、私は…!」



提督「何と言われても、今は渡さないぞ」



榛名「…」



提督「…ただ、一つだけ言っておくよ」



提督「…お前は、悪夢で心を傷付け、自らの心の中にある筈の信念にまで疑念を抱き、疑念に苦しみを感じた。…とても大変な事だ」


提督「だが、その苦しみは、そのままお前の優しさを表してる事に気がついているか?」



榛名「…?」



提督「本当にお前が他の娘に好意など持っておらず、ただ自らを騙す為の上っ面の感情だったのなら、お前はそんなに苦しむ筈がない」


提督「他の娘に対し思いやりがあるからこそ、お前はここまで苦しみ、悩んだんだ」


提督「そして、その思いやりこそが優しさなんだ。優しさと想いがあるからこそ、お前は今、苦しんでいるんだ」



榛名「……」



提督「…お前は本当に優しい娘だよ、榛名。だからどうか、その苦しみを誇ってくれ」




榛名「…ありがとう、ございます…」ポロポロ



提督「そして、そうだな。

それらの悩みが少しでも軽くなったら…」



提督「…そうだな、今度はお前から俺の所へ来てくれないか?生憎、指輪を渡す勇気を使い果したんでな」



榛名「……!は、はいっ!」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





提督「何だかちょっと意外だったなぁ。もっとこう、榛名は貰うか貰わないかの狭間で揺れるものだと思ってたが」



提督「ま、それだけ俺が愛されてるって事か」



明石「そういうのって自分で言ってて虚しくなりませんか?」



提督「うっせぇな…まあともかくとして、榛名も中々良い顔を見せてくれたじゃないか。見たかあの綺麗な泣き顔からの晴れ渡った笑顔」



明石「いや…はい」



提督「最初泣き出してしまった時のあの光の無い目。

あれだけでここまで時間を掛けた甲斐があった。

そう思わないか?」



明石「まあ、そうですね」



提督「…さっきからどうした?何か考え事か?」



明石「いや、その、何というか…

さっきも言いそびれたんですが」



明石「榛名ちゃんに指輪渡す事を確定させて良かったんですか?」



提督「…何?」



明石「いやだって提督、まだケッコンしてなかったですし、結構な事件にもなるんじゃ?」



明石「その事も含め…色々、大丈夫なんですか?」



提督「…ばっかお前、それくらいは予測範囲内で…」



提督「もちろん大丈夫…」



提督「……」



提督「……大丈夫じゃないわ。

やっべ、何も考えて無かった」



明石「…先見の明が無いにも程があるでしょう」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




提督「……」



明石(流石に悩んでるな…

こんな事になっちゃったし、もうやらないんじゃ)



提督「……よし、葛城。次のターゲットは葛城だな」



明石「…あ、あれ?やるんですか」



提督「ん?そりゃやるよ。何を言ってんだ」



明石「いやでも…榛名ちゃんとケッコンしましたし…バレたらマズイんじゃあないんですか?」



提督「なあに、昔の偉い人もバレなきなゃイカサマじゃねぇって言ってるし、へーきへーき」



明石「えぇ… …もし何かあっても私は一切弁護とかしませんからね?」



提督「薄情だな… まあそんな気はしてたが」



提督「さて、話を戻そう。装置の準備は出来てるか?」



明石「あっはい。ええ、それはもう。いつでも動かせますよ」



提督「よしよし流石だ。

じゃあ葛城に照準を定めてだな…っと」



明石「にしても、葛城ちゃんですか。

また何というか…」



提督「はは、この装置が良い感じに効きそうだろ?どう反応するのか楽しみじゃねえか」



明石「…ちなみに、どんな夢を見せる予定で?」



提督「至ってシンプルなもんだよ。原点回帰と言ってもいい。俺が軽口にも近い悪口にキレて、相手を嫌うってだけの夢さ」



明石「ああ…最初の考え通りってとこですね」



提督「そういう事…んじゃ、スイッチオン!」



カチリ




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






提督「よう葛城。元気か?」



葛城「あ、おはよう…って、どうしたのあなた!」



提督「ん?」



葛城「その隈の事よ!…凄い事になってるけど」



提督「あ…隈出来てるか。最近、寝てないからかな」



葛城「…それって大丈夫なの?」



提督「…まあ大丈夫だろ。仕事に支障は出てないしな」



葛城「そういう事じゃなくて!

…あなたが無理して倒れたらどうするのって事よ!」



提督「あーいや、無理なんてしてないよ。

別に不調も無いしな」


提督(…実際、この隈も相手の反応が楽しみで寝れてないっていう下らない理由だし)



葛城「嘘。だって、無理でもしなきゃそんな隈なんて出来るはずがないもの」



提督「…そんなに濃い隈か?

まあ、そんな心配しなくてもいいって。

本当にただの軽い寝不足だから、な?」



葛城「…そう。そう、なの…」



提督「ああ。…それに、多少の無理ならするさ。お前らの為ならちょっとくらいはな」



葛城「……ッ!」



提督(さて、これで納得してもらったら本命の会話の方に…)



葛城「…ならずっと無理してればいいじゃない」



提督「…ん?」



葛城「ずっと無理してればいいじゃない!…ずっとずっと無理して、私達の事も考えないで!そうやってずっと働き詰めになってたらいいじゃない!」



提督「お、おい?どうした?」



葛城「自分だけ無理してればいいなんて考えて、もし何かあっても周りの事なんて考えもしないで、残された人達の事を思わないで!」




提督「…待った葛城、一旦落ち着…」




葛城「うるさい、うるさい!あなたなんて…」




葛城「提督なんて!

そのまま死んじゃえばいいじゃない!」





提督「……」





葛城「……」ハッ




葛城「ご…ごめん、なさい。私…」




提督「…葛城」




葛城「……!」ビクッ





ナデリ




提督「…済まなかった。

辛い事を言わせちまったな。」



葛城「…!」



提督「…謝らなきゃならないな。俺は…」



葛城「…やめて、謝らないで!」



葛城「…悪いのは私なのに…!ただ、私がひどい事を言っただけなのに…」



葛城「自分の事しか考えてなかったのは私なのに…嫌われても仕方の無い事を言っちゃったのに…!」



葛城「…そんなに優しくされたら、私…!」



提督「…違うんだ、悪いのは俺なんだ…

もう一つ、謝罪しなきゃならない事があるんだ」



葛城「…?」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





葛城「…はあ!?ただの趣味で寝不足になってただけ!?何よそれ!」



提督「…済まない」←肝要な事は隠し、事情説明



葛城「…はぁ〜〜…全く、真面目に心配した私が馬鹿みたいじゃない」



提督「…心配、してくれていたんだな。」



葛城「うっ……

……まあ、だって。それは、ね?」



提督「はは、ありがとうよ。

…あと、そうだ。さっき言ってた言葉あるよな?」



葛城「…どれの事?」



提督「『嫌われても仕方の無い事言っちゃったのに』ってヤツさ。あれ、絶対に無いからな。」



葛城「は?…どういう事?」



提督「俺がお前たちの事を嫌いになるなんて事は絶対にあり得ないって事さ」



葛城「…〜〜ッ!あなたッ…!」




提督「キレられる前に退散!」ドヒュン




葛城「あっ、待てこの…!」



葛城「…はぁ、全く…」




葛城「……」///






提督「あ、やっぱり最後に一つ」



葛城「きゃっ!な、何よ!」



提督「あれは何て言おうとしてたんだ?

さっき少し言いかけてた『そんなに優しくされたら私…』ってやつ」



葛城「え?それ、は…」




葛城「…」




葛城「……〜〜ッ!」//////




提督「ヤバっ!今度こそ退散ッ!」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−







提督「…うーん」



明石「…納得行かないんですか」



提督「ああ…何か今回、初めて上手く行かなかった気がする。見せた悪夢の内容とはあんまり関係の無い笑顔の曇らせ方になってしまった」



明石「…確かに、提督の身を案じた結果、言い過ぎて自滅をしてただけですもんね」



提督「強いて言えば撫でようと手を伸ばす時に警戒していたが…それだけだしな」



明石「葛城ちゃんにはあまり悪夢の効果が無かったんでしょうか?」



提督「そういう訳でも無いと思うんだけどなぁ。いやー、今回もコンセプトは間違っちゃいない筈なんだけど…」


提督「ま、ともかく今度は夢の内容も、もっと熟慮しておかなきゃな」



明石「…まあ正直、それでまた数日がかりの企画出されてもそれはそれで少し困りますけどね」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




提督「なあ」



明石「はい?」



提督「嵐なんかどうだろう」



明石「随分と急に言い出しましたね。

…ていうかまた駆逐艦の娘ですか」



提督「駆逐艦は数が多いんだからしょうがないだろう。数が多い分これを試したい相手も多いのさ」



明石「まあ確かに多いですからねぇ。

他の艦種と比べても一回りくらい。

…それで、どうして嵐ちゃんを?」



提督「ん。そうだな…

嵐には『一見ボーイッシュ』って所に惹かれてな」



明石「…?どういう事ですか?」



提督「…嵐は、一人称は『俺』で、サバサバとした言動。元気もあって、まさにボーイッシュって言葉が似合うような艦娘だ」


提督「だが、間違いなく女の娘だ。その見た目も、そして心もな。彼女と少しでも過ごせばそれが解る。言葉の端々や行動からもな。

…だから『一見』ボーイッシュなんだ」



明石「は、はあ…成る程…

でも、それと今回の選択に何の関係が?」



提督「…今回、俺は悪夢を見せない」



明石「…?提督に嫌われる夢、ではなく、悪夢すら見せないんですか?」



提督「ああ。寧ろ俺が見せるのはその逆。

俺に好かれる夢さ」



明石「…??ますます意味が…」



提督「…詰まる所、この夢を操る機械が創り出してくれてるのは差異であり、ギャップなんだよ」


提督「現実で優しい俺が夢では恐ろしい人間となっていた差異。現実には無いような事とそれがあってしまった悪夢のギャップ。俺達は、彼女らがそれに相対する姿を見てきたのさ」



提督「今回も同じさ。

俺はこの機械で、現実と夢に差異を作る。

そして、嵐をその違いに直面させるんだ」




明石「……」ポカン




提督「まあ、取り敢えず見ているといい。

お前も満足するような結果になる筈さ」カチャカチャ



提督「では行くぞ!

今回のテーマは『思い込み』だ!」



カチリ




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





【一週間の後】




提督「…よし」



明石『あの日から、随分と待ちましたね。

今日、何かあるんですか?」



提督「ん。まあな。ある、な」



明石「…煮え切らない態度ですね?」



提督「今日はな、嵐が秘書艦の日なんだ」



明石「…あー、成る程」



提督「ああ、で、俺はこの日の為に一週間程待ったのさ。何だかんだ、秘書艦の時に絡むのが一番都合がいいからな」



明石「都合、ですか?」



提督「相手に、二人きりだという心理を作らせるし、色々と仕掛けるチャンスが多い。そして何よりも…」



提督「…憲兵さんにしょっぴかれそうになる確率が段違いに減る」



明石「…何回か、そういう事があったんですか?」



提督「…黙秘権を行使する」



明石(…この人、いっそしょっぴかれた方が良いんじゃ…)



提督(聞こえてるぞ貴様)



明石『ナチュラルに心を読むのは止めてくださいって。てかどうやってんですかそれ』



提督「さて、茶番は終わりだ。

今から執務室だ、お前とは喋れなくなるぞ」




コンコン キィ パタン





提督「嵐は…まだ来てねえか…ん?」





バターン!!





嵐「わ、悪りぃ司令!遅れちまった!」



提督「よう嵐、元気いっぱいだな。

大丈夫、俺も今来たところさ」



嵐「そ、そうか…?」



提督「それより、お前凄い勢いで扉に当たってたが、大丈夫か?」



嵐「へーきだって!全く、大袈裟だなぁ」



提督「いや、しかし音も凄かったし…

特に、その肩…」スッ



嵐「きゃっ!」ビクッ




提督(…『きゃっ』か)




嵐「あ、いや…!今のは…」///



提督「…おや、どうした?

やっぱり、肩痛めてしまったんじゃ」



嵐「い、いやいや大丈夫だって!

それよりほら、仕事しちまおうぜ!な?」



提督「…まあ、お前がそういうならそうしようか。ただ…」



提督「無理だけは、してくれるなよ?」



嵐「あ、ああ…」



嵐(……いつも通り、いつも通りだ、俺!

たかが変な夢見ちまっただけだろうが…!)






提督「…嵐。嵐?」





嵐「え?な、何だよ?」



提督「何だよ、じゃなくって…書類を進める手が止まってるぞ」



嵐「…悪ぃ、すぐやるよ」



提督「…汗ばんでるな。暑いのか?」



嵐「!!あ…ああ、ちょっとだけな。」



提督「部屋が閉め切ってるからな…

篭ってしまったかもしれん」




嵐(…閉め切ってる、か…)



嵐(…)



嵐「…なあ提督。

ちょっと…服、脱いでもいいかな?」



提督「……」



提督(さて、ここまで計画通り進んだな。…今回見せた夢の内容はズバリ、俺が嵐のはだけた服を見てつい興奮し…ゲフンゲフン、といった内容だ)



提督(その甲斐あってか嵐は相当俺を意識しているようだ。それこそ肩に触れただけで嬌声に近い悲鳴をあげるほどに…)



提督(…そして、その意識した状態で。

顔を赤らめ。…服を脱ぐ。…これで嵐の意図してる事が読めない程に鈍感じゃない)



提督(だからこそ…)




提督「おう、いいぞ。

暖房も少し弱めようか」



嵐「…あ、ああ、頼む」





提督(…だからこそ、俺はそれを無視する)



提督(それを無視し、嵐に、俺が嵐を女として全く見ていない…と思い込ませる。自惚れだった、思い込みだった…と思わせる!)



提督(…さぁ、どうする、どうなる嵐?)




嵐「……」シュン…



嵐「…こ、こっち見るなよな!」



提督「はは、言われずとも見ないよ。

安心しろ」



提督(…衣擦れの音がする。…正直ガン見してしまいたいが、ここは確固たる意志を持って見ない)




嵐「…よし、もういいぜ」



提督「おう…って、また随分と大胆な格好だな。今度は寒くなるんじゃないか?」



嵐(軽装)「ハハ、そしたら司令に暖めてもらうか!」



嵐「…あ!い、今のは、その、変な意味じゃなくって!」///




提督「はいはい、大丈夫、わかってるさ」




嵐「…あー、そうか」



嵐「……」ガリガリ




提督(よし、いい調子だ。この調子でどんどんフラストレーションを貯めていこう)




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





嵐「…コホン」



提督「……」




嵐「…」ムッ



嵐「司令…司令ったら!」



提督「ん?何だ?」



嵐「いや、何だって…その…!」



嵐「…俺のこの格好見て、何か…

その、ないのかよ?」



提督「……?」



嵐「…ッ。悪い、何でも無い」



提督「そうか。ならいいんだが…

なんか済まないな」



嵐「…何で司令が謝んだよ」



提督「いや…寒いんなら暖房をまたつけようか?」



嵐「大丈夫。ていうか、寒くなったらまた服を着るから」



提督「…それもそうか」



提督「…どうも様子が変だな、嵐。

具合が悪いならそこで仮眠するか?」



嵐「いや、そんな」



提督「遠慮はしなくていいぞ。仕事なら後で倍やってもらうからな」



嵐「それ聞いたら絶対仮眠なんかしねぇよ」




提督(…よし、今だ)




提督「まあまあ、それは冗談としてだ。

一休みくらいしたらどうだ?

気持ちがリフレッシュするかもしれないぞ」




提督「…ああ、ひょっとして俺が何かすると思ってたりするか?確かに、薄着だもんな」



嵐「…ッ」





提督「だがまあ安心しろ。

俺はお前をそういう目で見ちゃいないから」





嵐「あ……」




嵐「……」




嵐「そう、か」




提督「おおよ、何とも思ってない」




嵐「…」




提督「だから安心して–––」





嵐(そっか。そりゃそうだよな。

司令が俺をそういう目で見てる訳ないよな)



嵐(こんな女所帯なんだ、俺以外にも色んな人がいるし…)



嵐(…何よりこんな、俺みたいな半端者をそんな目で見るはずが無い。分かってたじゃねぇか、全く)




嵐「なあ、司れ–––」ポロポロ



提督「!?」



嵐「!?」



嵐「え?あれ、何でだ?悪ぃ、ちょっと待ってくれ。おかしいな…」



嵐「何でかな。急に、ぐすっ、涙が止まらなくなっちまって。寝不足かな?はは。すぐ止めっからさ、その」




嵐(…わかってるんだ。わかってたんだ。アレはあくまで夢だって。俺に都合の良いだけの夢なんだって…)



嵐(でも、何で涙が出るんだ。

何で、どうして踏ん切りが付かないんだ。

俺は諦めないといけないのに。

…いつも、諦めようとしてるのに)





提督「…」ギュッ




嵐「…ッ!ぐす、は、離せって!…離してよ!」



提督「……」




嵐「…ッ。何とか、言えよ…」




提督「…ごめんな。酷い事言って」




嵐「…やめろ」



嵐(俺を受け入れないでくれ)



提督「…お前に、無用な心配をかけたくなくって言ったんだ。だから」




嵐(…優しくされたら、尚更––)




提督「…泣くな、嵐。」




嵐「……うん」




嵐(…尚更、諦められないじゃないか…)




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





嵐「…俺は、他の娘や姉さんたちみたいに『女の子』してない。身嗜みも、一人称だってそうだし、身体つきも…」



嵐「…それでも、何か期待してたんだ。

司令が俺を好きじゃないかなって。…俺の事が好きだって言ってくれないかなって…」



嵐(だから…だからこそ、俺は心の中で『あれ』を求めてた。司令を、愛する事。…司令から雌として愛される事)



嵐「でも、そんな事はあり得ない。司令が俺を選ぶなんて事は無い。…だからこの気持ちにもいつかケリをつけないと。…そう思ってたんだ」



嵐「…ごめん、困るよな。急にこんな事言われても」



提督「…いや、ありがとう。それを言う事は凄く大変だったし、辛かっただろ」




嵐「…あと、恥ずかしい」



提督「我慢しろ、俺もだ」




提督「…まあその。正直言ってだ。

さっきの何とも思ってないてのは強がりでな。さっき薄着になった時からなるだけ意識しないようにしてたというか…」



嵐「…」



提督「だからまあ…自己評価を高めろとか、そんな事は言うつもりも無いが…そんなに卑下する必要も無いと思うぞ」



嵐「…そっか。そうだな。」



嵐「……でさ。その…」



提督「ん?」



嵐「…さっきの。ほとんど告白みてぇなもんだと思うんだけど…えっと、返事、してもらってもいいかな…」




提督「……」




嵐「……」





提督「…すまない、ちょっと保留を」




嵐「…うっわ、サイテー!」



提督「すまん…」




嵐「全く、肝心なところで優柔不断なんだからな…まあいいよ!もう、決めたからな!」




提督「?いったい何」





チュッ




提督「を…」




嵐「…もう勝手に折り合いをつけねぇ!

諦めないし、妥協しない!誰にだって、姉さん達にだって譲ったりしない!」



嵐「司令と、ケッコンする!」




提督「」




嵐「…へへ。恨むんなら自分を恨めよ?

誰にでも見境なく優しくすっからいけねぇんだからな。この女誑し」



提督「おいおい、女誑しって…

なんてまた聞こえが悪い…」



嵐「事実だから仕方ねぇだろ?…それじゃな!

覚悟しとけよ、司令!」



嵐「俺は一途で、しつこいぞ!」





【嵐はその勢いのまま去っていった…】





提督「…じゃあなってお前…

お前は今日の秘書艦だろうに…」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





明石「…それで?」




提督「そのまま呼び戻したよ。

仕事はまだ残ってたからな」



明石「鬼畜ですかアンタ」



提督「勢いで言った後に連れ戻したからな。

あの後はしおらしい事しおらしい事」



明石「…貴方、一人で仕事くらい終わらせられるでしょう。わざわざ呼び戻したのって…」



提督「はっは、何のことやら?」



明石(うっわうざい)




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





明石「では、次どうなさるんです?」



提督「…」



明石「…?提督?次は」



提督「いや、聞こえてるよ。すまん、ちょっとな…」


提督「そろそろ足元を掬われそうな…

煮え湯を飲まされそうな…そんな気がして」



明石「まあ確かに因果応報の運命的にそうはなりそうですけど…じゃあ、そろそろやめときます?」



提督「馬鹿を言え。運命が俺を取り囲むってんなら俺は運命を欺く。続けるさ。今度は如月にやってやる」



明石「決め言葉のつもりかもですがサムいですよ、それ」



提督「うるせぇ」



明石「しかし如月ちゃんですか…どういったものを見せ…いや、ひょっとして」



明石「…うちの如月ちゃんて一度沈みかけた事ありましたよね?…まさか…」



提督「そのまさかさ」



明石「…うわぁ…」



提督「まあ流石に手心は加えるさ。そんなに酷いようにはしないからヘーキヘーキ」



明石「前そう言って全く容赦しなかったじゃないですか!」



提督「そんな前の事なんて覚えてないなぁ」



明石「いやいや、ちょっと前の事でしょう…ってあれ?」



提督「つべこべ言ってないでほら、やるぞ…ってまぁ一人でやるんだが」ガチャガチャ



明石「あ、ちょっと物思いに耽ってるあいだに…」



提督「ほいじゃ行きましょう。

レッツゴー!」ポチッ





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






夢だった。それを見て直ぐに夢だと分かった。明晰夢だった。



(これは、いつもの…)



戦いがひと段落つき、ほんのちょっぴり。

ほんのすこしだけ油断をしてしまうのだ。


当然、逃れようとする。どんどんと迫り来る鉄火を逃れようとするが、叶わない。


何をしようが、自分は撃たれる。


撃たれ、討たれる。


動悸が激しくなり、震えが全身に回るが、その震えすらも徐々に出来なくなる。


身体が動かなくなる。血が通わなくなり、みるみる冷たくなっていくのを感じる。身体の中の空気が無くなり、どんどんと水に沈む。


口から塩水が入るその不愉快な冷たさ。苦しさ。目から、身体の穴から、海の水が入る激痛。


…いやだ。いやだ、いやだ!!



助けて。誰か。司令か–––






…ろ



……しろ!





提督「如月!?おい、しっかりしろ!!」



如月「!!…はぁ、はぁ…」



如月「…?司令官?

…助けに来てくれたのね…」



提督「?何を…

いや、そんな事より!お前大丈夫か!?」





【in 如月部屋】





如月「…あぁ、そっか、私…

…ごめんなさい。もう大丈夫よ、司令官」



提督「大丈夫なワケがあるか!」




如月「!!」ビクッ




提督「…魘されて泣いている人間が。

大丈夫なワケ、無いだろう…」



如月「…ごめんなさい。心配させるつもりは無かったのに」



提督「なんで謝るんだ。…どうして…」



提督「…どうして頼ってくれない。どうして泣いてた事について話してくれない。…慣れているからか?…そんなに慣れる程、同じような悪夢を見ているのか?」



如月「…もう。女の子からそんな根掘り葉掘り話を聞くものじゃありませんよ、司令官?」



提督「いいや聞くね。…恨むなら、こんな男が上官になった運命を恨むんだな」


提督「…俺に出来る事なら何でもしよう。

だからどうか、一人で抱え込まんでくれ」



如月「…そう、ね。身体が冷えちゃった。

同衾してくれませんか?なんて…」



提督「ああ、いいぞ」



如月「えっ」



提督「言ったろ、何でもするって。

隣失礼するぞ」



如月「……はい」




提督「ふう、流石にキツイな」



如月「うふふ、でも暖かいわ?

ありがとう、司令官」



提督「ああ、どういたしまして」




如月「…司令官」





ギュッ




提督「……」



如月「…怖かった、怖かった…!」



如月「忘れようと思ってても思い出しちゃって、ずっと忘れられないんじゃ無いかって。こわかった…!」


如月「…忘れられないで、どうしようも無い如月を見て、司令が失望するんじゃ無いかって怖かった…」



提督「…失望なんてするわけ無いだろ」



如月「…ごめんなさい」



提督「…必要以上に、君の心の中に立ち入ったりするつもりは無い。これ以上君の傷をほじくり返す気も。…ただ後一つだけ、教えてくれ」



提督「君の為に、俺は何をしてやれる?」




如月「…じゃあ、一つだけいいですか?」


如月「『大丈夫だ』と言って欲しいんです」



提督「…」



如月「ふふ、嘘になってしまうから言えない…なんて顔をしてますね」



如月「…でも、そんな事無いんです。…司令官がそう一言言ってくれれば、それはもう嘘なんかじゃ、無いんです」



提督「…そうか」



如月「ええ。だから…」




ギュッ




如月「…っ」



提督「…大丈夫。大丈夫だよ。

お前達は俺が守るから」



如月「…はい」


如月「…もう少し、このままで」



提督「気の済むまでしてるといいさ」



如月「ありがとう、司令官。愛してるわ」



提督「…ああ。」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





明石「随分と迫真の演技でしたね。

自分が夢を見せた癖に」


明石「というか如月ちゃんも夢うつつだったからか全く言及しなかったですけど何で部屋に行ってたんですか?」



提督「…」



明石「?提督?」



提督「いやな、俺、その…夢が操作される前日はその娘の部屋を見るって習慣をつけてて」



明石「…えぇ…」



提督「ん、どうした」



明石「いや、なんか…猟奇殺人犯のエピソードみたいな事言うのやめてほしいんですが」



提督「…で、部屋を見回ったら部屋の外までうめき声が聞こえて来てな。ついつい気にして入ってしまったという訳だ」



明石「は、はあ。…ん?前日って事は、ひょっとしてまだ夢を…」



提督「…ああ。如月に悪夢見せるの、今回中止だ。ちゅーし」カチャカチャ



明石「…成る程、演技じゃ無かったんですね…」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




提督「…ふむ…俺はウチの娘が苦悩してる姿を見たいが…ガチで辛くなってるところを見たいワケではないんだよなぁ…」



明石「…何をしみじみと言ってるんです?」




提督「いや、何か思ってな」




明石「そうですか…

ていうかそれ一行で矛盾してません?」



提督「いーや、してないね。

俺が言うんだ、間違いない」



明石(傲慢な事この上ない…)



提督「…よし決めた、次は村雨だな」



明石「…まーた駆逐艦ですか」



提督「またとはなんだ、またとは。

いいだろ別に」



明石「いやまあ別にいいんですが…

ええと、理由は?」



提督「微妙に重い感じの娘だからな。色々と」



明石「変態臭い」



提督「不敬罪に処すぞ。

…まあいい。重すぎず、かつ軽すぎず。今の心境には持ってこいってところだから。理由はそんなところだな」



提督「で、夢の内容はまたのお楽しみにしておくって事で…」



提督「よし、それでは、Go!」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





村雨(…あれ?ここ、何処だろ。浜辺?)



村雨(ええっと… 他に誰か…

!あのシルエットは…!)




村雨『提督ー!おーい!』



提督『 –––––– 』



村雨『…ん?何て言った?提督ー!

もっと大きな声で!』



村雨(…あれ?村雨、いつのまにこんなに提督の近くに来てたっけ)




提督『 ––––…』




村雨『…?えっと…提督?

村雨、何か機嫌損ねちゃったかな?

それとも、イタズラか何か…』




提督『…–––– 』 サラ…



村雨『……!?』


村雨『て、ていと…!』




提督『……』サラサラ…





サラ…



村雨『…あれ?提督…?』



村雨『…提督?』



村雨(…?何が、起きたの?)



村雨(…これが。この手の中にあるのが『提督』?こんな、砂が?このまま消えて…?)



村雨(…いや、違う、こんな…こんなの、違う。違うはずだ。だって、提督はずっと ––)




村雨『あはは…や、やだなー。こんなので村雨が騙される訳がないじゃない。ほら、隠れないで出てきてよ…!」








村雨『…ねえ提督、どこ?もう、冗談はやめてよ。隠れないで、ねえ。…お願いだから、お願いだから…!』









村雨『…ッ!謝るから…何か、嫌な思いさせてたなら、謝るからッ!だから、だからッ!

お願い、嘘だって言ってよ提督!!』



村雨『はぁっ…はぁっ…!』









村雨『…うう…う…!』



村雨『…ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい…提督、提督…ああ、あ…』






−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–






提督(さて、村雨には目の前で俺が消える悪夢を見せた。夢特有のよくわからないシチュエーションでな)



提督(で、俺はいつも通りに朝、ここに…執務室に居る…んだが…)




村雨「…」



提督「…ええと。そろそろ…」



村雨「…」



提督(…どうやら俺が来るずっと前から待っていたらしく、俺が部屋に入った瞬間立ち上がったと思ったら急に抱きついてきて…)



提督「…な。何があったかぐらいは話してくれてもいいだろ?だから、せめて顔を上げてくれないか」



村雨「…」フルフル



提督(困ったな…まあ何があったかってのは十二分に理解してるんだが…このまんまじゃちょっとした仕事すら出来ない)



提督「わかった。取り敢えず何も聞かない。だから、何か話す気になったら…良かったらだが…話してくれ」



村雨「…ごめん」



提督「…?」



村雨「迷惑だって、面倒くさいって事…自分でも分かってる。…でも、それでも、もう少しこうさせて欲しいの」



提督「ああ、村雨の気が済むまで付き合う。

俺はお前たちの『提督』だからな」



提督「…だから、なんだ。…あまり泣くな」




村雨「…ひっく……だって…

急に怖くなっちゃって…」



提督「何がそんなに怖いんだ?」



村雨「…ぐすっ。

今、村雨に優しくしてる提督は明日になったら居なくなるんじゃないかって…」



提督「…」



村雨「…これまでずっと考えないようにしてた事が…明日になっても、大事な人がそこで微笑んでる確証は無いって。それが頭から離れないんです」


村雨「明日にはこの艦隊の仲間も、白露型の皆も、提督も。村雨の手が届かない場所に居るかもしれないって…」



提督「…ずっと、考えないようにしてたのか。ずっと、心の奥にそんな考えがあったんだな」



村雨「…うん。考えてもキリが無いし、考えてると震えが止まらないから、忘れてた…ううん、忘れた気になってた…なのに」



提督「…忘れるなんて悲しい事を言うな。

それは、忘れちゃいけないものだよ村雨」



村雨「…こんなに辛いなら、こんな感情忘れちゃいたい。そんな細やかな我儘もダメなの?提督は許してくれない?」



提督「ああ、駄目だ。

…喪う事を恐がる事は当然の事だ。だからこそ、それを受け止めなきゃいけない。」



村雨「そんな綺麗事、聴きたくないッ!!」



提督「…」




村雨「…村雨は、ずっと提督と一緒に居たいよ!!梅雨が来たら一緒にてるてる坊主を作って。バレンタインのチョコを送って!次第に暖かくなる気候に春を感じて…ずっと…!」



村雨「そんな!…そんな普通の時間を、提督と、姉妹達と、皆と!ずっとずっと過ごしてたい!!」


村雨「それが無くなる事を怖がるな、なんて、村雨には出来ない…!」



提督「…いいか。俺はいつか死ぬ」



村雨「!!」



提督「寿命ともいかないだろう、職業柄。人知れずか、凄惨にか。いづれにせよ、多分お前たちより早く死ぬ事になる」




村雨「…やめて…!」




提督「…人間は限られた時間の中に生きるものだ。…だから死を受け入れろなんてカルトじみた事は言わん」


提督「でも、だからこそ限られた生で、何かと繋がろうとする。きっとそれが『人』なんだ」



村雨「…」



提督「恐れを忘れちゃいけない。忘れたら、その繋がりすら手放してしまう事になる」



提督「…それに。恐れが大きいほど、皆への想いも大きいんだって、保証してくれてるとも思えるだろう?」



村雨「…それでも、ヤだよ。

忘れないと、村雨は何も出来ない。今だって、怖くて怖くて震えが止まらないの」



提督「それなら俺を頼れ。忘れさせてはやれないが、和らげるくらいならできる。…お前が背負いきれない想いの分は俺が代わりに背負ってやる」




村雨「…ううぅ…提督…提督…!」




提督「…だから、気が済むまでこうしてるといい。顔も、まだあげなくていい」



村雨「…うん。…でも」



提督「…ん?」



村雨「…『お前たちより早く死ぬ』って所だけは撤回してもらうわ。村雨が、ぜーったいそんな事させないんだからね」



提督「…そうか。そいつは頼もしい」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–






明石「…ずっと、考えてたんですね。自分の大切な人が皆いなくなってしまったら…って。それを意識的にトラウマとするくらい」



明石「…今回、何処かの誰かさんがそんなトラウマをほじくり返してましたが」



提督「ち、違… 俺、そんなつもりじゃ…」



明石「何を被害者ぶってるんですか」



提督「だって…もっと『提督いなくならないでー』くらいの微笑ましさをイメージしての悪夢だったのに…こんな心の傷に触れようとは思ってなかったのに…」



提督「…ていうか最近俺カウンセラーみたいになってないか?」



明石「自作自演だっていう事実を無視すれば、ですけどね」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–





提督「…そろそろ、さ」



明石「?」



提督「そろそろ駆逐艦以外の娘に使ってみようと思う」



明石「あぁ、何かと思えばそんな事ですか…

まあ、そこらの選択はご自由になさってどうぞ」


明石「…というか既に何回か駆逐艦じゃない娘にやってるじゃないですか。何を一大決心みたいに言ってるんです」



提督「そこらはニュアンスだよニュアンス。

最近やってなかったのは事実だしな。

しかしそうだな…」ガチャガチャ



提督「…うん、千代田。行ってみようかな」



明石「千代田ちゃんですか。これまた唐突というか突拍子も無いというか…

…見せる悪夢の内容は?」



提督「千歳と俺がケッコンする夢なんてのはどうだ。慕ってる姉が俺に盗られる…なんてな。どうだ、かなり面白い事になりそうじゃないか?」



明石「…それ、提督にヘイトが向いちゃったりしませんか?いや夢と割り切ってくれるかもしれませんけど…」



提督「…」



提督「…ま、まあ、流石に大丈夫だろ。

危害を与えてくるような事をする娘ではない筈だし…」




提督「…中止はもう出来ないし…」



明石「…ああ、既にもう…」



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–





ああ、幸せだな。


私の愛する千歳姉が。

敬愛し、想いを馳せ、ただただ好きである姉が、あんなにも幸せそうな顔をしている。

我らが提督の隣で。頬を赤らめ、口角を上げて嬉しそうに、楽しそうに。


…それを見つめる事は私の願いだった筈だ。

悲願、切なる思いだった筈。



なのにどうして涙が溢れるんだろう。

どうして滂沱が止まらないのだろう。


嬉しいから?そう。きっとそうだ。

これは嬉し涙であって、何かを悔しんでのものなんかでは決して無い。


その目が千歳姉ではなく、その隣の男を追うのも、他意があってでは無いのだ。



ふと。目が合い、二人がこちらに来る。


微笑んで、私の名を呼んでくれる。

千代田、と。


姉と提督が、二人が微笑みかける。



千代田。

千代田。



私の視線が向くのは…




千代田。



ああ、その顔で微笑みかけないで。




千代田。



千代田!




「千代田!」





千代田「ッ!は、はい!?」



提督「…おい、大丈夫か?

まさか体調不良とかじゃあないだろうな」



千代田「…ごめんなさい、少しだけ呆けちゃってた。体調を崩してる訳じゃないから」



提督「…そうか。それじゃ、ぼーっとするのは仕事を終えてからにしてくれ」



千代田「…はい。ごめんなさい、提督」



提督「いやまあ気にしてないが…

どうしたんだ、少し変だぞ?」



千代田「ううん、本当に大丈夫。

…心配してくれてありがとう」



提督「なら良いんだが」





失態だ。まさか見た夢にうつつを抜かして仕事に手がつかなくなる、なんて。



ふと、提督を見る。



仕事は、出来る。流石にこの短い期間で成り上がっただけある。


顔立ちも…まあ、悪くない。

鼻はそこそこ高いし目もぱっちりしてる。

服のセンスは…軍服だから解らないけど…


間違いなく変人だ。…まあ、変人じゃなきゃこんなに多くの個性的な娘たちと仲良くなんて出来ないんだろうけど。


総合的に、千歳姉ぇがもし結ばれても、提督は千歳姉ぇを幸せにしてくれると思う。



じゃあ何であの夢を見て、私はあんなにも嫌な気分になったんだろう。



提督が気に入らないから?


いや、そんな事はない。確かに変な人ではあるけど心根も優しく誰かを思いやれるとても良い人だ。悪し様に思うはずは無い。


つくづく不思議だ、何故こんなに…

こんなにも、あの夢のことを思うともやもやするのか…






––– 判っテるクセに






千代田「–––ッ!!」ガタッ



提督「…!?どうした!?」



千代田「…!ううん、何でも…」



提督「何でも無い訳無いだろう。

…鏡を見ろ。真っ青だぞ」



千代田「…え?」



提督「…そろそろ良い時間だ。休憩にしよう。

待ってろ、茶淹れてくる」



千代田「……」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





提督「…うん、だいぶ顔色は良くなって来たみたいだな」



千代田「…ごめんなさい、迷惑かけて」



提督「まあ、お前らの体調管理も俺の仕事だからな。…で?」



千代田「…『で?』って?」



提督「…何か抱え込んでるんじゃないのか。

トラウマでもフラッシュバックしたか?

それとも…人間関係とかか?」



千代田「…」



千代田「…変な声が聞こえるの。

チょっと前から、頭に響くような」



提督「…!それは…」



千代田「ただの幻聴なら良いんだけど、どうもその声が私の心の外に出ていない部分を代弁してるみたいな…そんな気がして…」



千代田「…提督。私、おかしいのかな?」



提督「……それは…」



千代田「……」



提督「……」




提督「…わからん」



千代田「えぇー…」



提督「イヤ、そりゃあ俺にだって分からん事はある…ていうか分からない事ばかりだよ、俺なんて。特にお前らの事はな」



千代田「…じゃあ何で聞いたのよ?

話すだけ、損だったじゃない」



提督「いやあ、損じゃないさ。

…ほら、顔色が良くなった」



千代田「…え?」



提督「…確かに俺はお前らの事分からないけどさ、これでも分かろうとしてるんだ。その為に話をしてるんだからな」


提督「それに、悩みってのは話すだけでも気が楽になったりするもんだ。こういう民間療法的なのは結構、馬鹿にできないぞ?」



千代田「…なんて言うか。とっても行き当たりバッタリで、軍人の発言とは思えないわ」



提督「そうだな。俺にできる事は案外少ないし、歴戦のお前らには頼りないかもしれないな。…でも、君の助けになる事は出来る」



千代田「…そういう台詞は、千歳姉ぇに言ってください。こっちも貴方についての愚痴を聞くのも大変なんですから」



提督「はいはい、そうする事にするよ。

まったく、手厳しいこって」




千代田「…でも、ありがとう」



提督「…応」




千代田「…私、提督の事応援するわ」




提督「!そうか」




千代田「うん。特に『私達を理解する』って所…千歳姉ぇの為にも、ちゃんとしてよ?」



提督「ああ、これからも頑張ってくさ。

…そうだな。お前にさえ『千歳にお似合い』と思わせられるくらい立派になってやるよ」




千代田(……)






…うん。多分、判ってる。

私が、あの見た夢の何を疎ましく思っているのか。誰を妬ましく思っているのか。


でも、だからこそ今はこれで良い。


今のこのぬるま湯の関係が私には丁度良い。






––– 今ハ、ネ。






千代田(……)



千代田(…黙ってて)





提督「…ジョ、ジョークだからな?だからその…そんな黙りこくられたら怖いんだが…千代田?」




千代田「…!」



千代田「…ごめんなさい。

うん、楽しみにしてるわ」ニコッ





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





提督「ただいまっと…

しかしあんまりだったなぁ、期待ハズレだ」



明石「……」



提督「幻聴の症状が大きかったみたいだしなぁ…夢なんて構ってる暇なんて無かったんだろうか?うーん」



明石(…あの、青白い肌とノイズが掛かりかけてる声。それに自分の抑圧している本音の発露…)



提督「…おーい、何とか言えよ。どうしたんだ?」



明石「!い、いえ。その…知っているものに似ていたというか…」



明石(…感情や嫉妬や羨望を押し込め、そして押し込めたそれらが限界を超えると艦娘は深海の如く暗い心の闇に捉われる…)



明石(そしてそれを、その闇に心が囚われた姿を我々は深海棲艦と呼ぶ…なんて、はるか過去に否定された俗説がある、けど…まさか…)



明石「…いや、まさかね」



提督「?」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




提督「夢、夢、夢か…」



明石「ん?何です?」



提督「いやな。こうやって色々と夢を見せてきた訳だけど、結構奥深いというか複雑だと改めて思ってな」


提督「古来から夢は霊的な物とも結び付けられて考えられてきた。予知夢や吉兆を表す夢で民族を成り立たせるなんてのもあった程だ。今はそれ程じゃないがそれでも、占いとかじゃあ夢占いはポピュラーだ」


提督「で、夢ってのはまた、今でも何で見るかっていう確たる正解は無いらしい。故に神秘性があるんだろうな」



明石「…?うんちくタイムですか?」



提督「語れる程知りやしないがな…

まあ要は俺たちは未だに『夢』に対して、どこか特別視をしているって事さ」



明石「…成る程だから今までの…その、実験でも。突拍子が無かったり、あり得ない物であっても見た内容を意識してしまうんですかね?」



提督「ああ…だから、な。あんまり他の娘を出す悪夢を見せたくは無い。出すにしてもその絆が確たるものである姉妹とかだった」



明石「確かに、そういえばそうでしたね。

考えての行動だったんですか?」



提督「一応。…で、それを今言ったのは。

今度はある娘に見せる夢に、姉妹以外の他の娘を登場させるからだ」



明石「…相手を聞いても?」



提督「北上だ」



明石「…あー、成る程」



提督「だからその…もし何かまずい事になっちまったら尻拭い頼む」カチャカチャ



明石「嫌ですよ!?

…ってああ!もうやってる!」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




北上は無干渉だった。



何事にも過度に干渉せず、かといって不干渉ではなく、故に無干渉である。

そんな生き方を旨にしていた。



北上は無干渉だった。


色恋沙汰など稚気じみた妄想であると考えていたしそうであると考えられるその自分が、自分にとっての理想の形であると思っていた。




––––……は……だな…!


––– ……とう…います……北上さん…!





…北上は無干渉『だった』。


北上は無干渉でありたかった。



それこそがきっと、周囲の全てが上手くいく暮らし方だったから…



彼女は、その親友の白無垢が赤く染まっていく姿を見下ろしながらそう考えていた。




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–





提督「さて、北上は…と。

どっかにいるはずなんだが」



明石「あれ、まだ居たんですか?

てっきりもう出たのかと」



提督「もうじき出るつもりだよ。ただ北上が何処にいるかなーなんて当たりをつけてただけだしな」



明石「え?今日…というより昨日、見せたんですか?その、夢を」



提督「?ああ。で、いつも通り見せた翌日にはその娘の予定を一日オフにして…」



明石「…!提督、急いでください!

止めに行かないと!」



提督「?何だ、何をそんなに焦って」



明石「さっき見たんです!!出撃に向かってる北上ちゃんを!だから早く!!」



提督「!?…分かった!」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




北上「いやー、ごめんね提督。

あたしったらすっかり勘違いしててさ」



提督「…そうか」



北上「うんうん。…だからさ、そんな顔よしなって。幸せが逃げちゃうよー」



提督「……嘘つきめ」



北上「?」



提督「お前は…」


提督「……」



北上「何?そこまで言ったんならさ、全部言っちゃいなよ」



提督「…そうだな」




提督「お前は…何にも本気じゃないよな」




北上「うわ、急に貶してくるじゃん…」



提督「いや、貶しなんかじゃ無い。…寧ろその逆だ。何かに手を抜くでも、何かにだけ力を入れるでもなく平等に力を抜いて。それで尚全てに対して必要とされている働き…いや、それ以上をするんだ。それは本当に凄い事だと思う」


提督「…本当に、凄い事だ。好きなものにしか情熱を抱けない俺からすりゃ理想的とも言える」



北上「いやー、そんなつもりじゃないんだけどね。あたしはいつだって全力だよ?」



提督「は、どの口が言う」



北上「あはは、酷いなぁ」




提督「…お前、さっき本気で死のうとしたんじゃないのか」



北上「……」



提督「…明石が、言ってたよ。

弾薬から装備まで全部演習用の物だったってな。それを持って海域に出て、出来ることなんて自死くらいだろうが」



北上「とんだ誤解だよ提督。さっきも言ったじゃん、すっかり勘違いしてただけ。」


北上「…聴きたい事はそれだけ?ならスケジュール通りの休日を楽しんでくるね〜」





ガシッ




北上「……ねぇ、離してほしいんだけど」



提督「…」



北上「今は手を掴むのだってセクハラになるんだよ。ほらほら、汚名を被りたくないなら早く離してってば」




ダキッ




北上「…ッ!?…ちょっと、離…!」



提督「…お前に居なくなられてほしくない。

それだけなんだ。」



北上「…」




ギュッ




北上「…だいじょぶだよ」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





北上「さーて、一旦落ち着いた所で。

何か言う事は?」



提督「急に抱きついてすいませんした」



北上「よろしい、許してしんぜよう。

…でさ。私もちょっと弁解っていうかさ」



北上「…別に、死のうとなんてしてないよ。

今回のは本当にうっかりっていうか、腑抜けてただけだから」



提督「…え、本当に?」



北上「ほんとほんと。まあそんな大ポカかましちゃうくらいにぼけっとしちゃう出来事が有ったのもそれはそれでマズイんだけど」



提督「まあ確かにな…しかし、そうなると思い込みでお前の事とやかく言っちまったのか。…すまない」



北上「…まあ心配してくれての言葉だし、別にいいよー」


北上「あとそれと…」



提督「…?それと、何だ」



北上「…やっぱいいや」



提督「おいおい、そこまで言ったなら言えよ」



北上「んー、やっぱり面倒くさいし…

多分提督なら解ってくれるだろうから」



提督「…また無理難題を言うな。お前が心の中にしまったままの事を理解しろって?」



北上「でも、きっとやってくれるんでしょ?それに…」



北上「…あたし。

提督になら裏切られてもいいからね」



提督「…はぁ、またよくわかんない事を。

俺がお前たちを裏切る訳無いだろうが」



北上「……♪」



提督「?何だよ」



北上「何でも。…んじゃあねー」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





北上(…『あとそれと』。

あたしは平等に手を抜くなんて器用な事が出来る奴じゃない。…あたしは何かに本気にならないんじゃなくって、なれないだけ)


北上(本気になって、何かを本気で信じて、その本気を裏切られるのが怖くて。怯懦した挙句、いつのまにか本気になれなくなってただけなの)



北上(何かに本気で取り組んで、努力して、失敗してその努力を裏切られたり…)


北上(……本気で、誰かに友愛を抱いて。勝手に誰かを愛して。それが裏切られて…手前勝手に裏切られたその自分が、今朝見た悪夢のような事をしてしまうのかって事が心底恐ろしくて堪らないだけ)



北上「…でもそれでも。ようやく、何かを真剣に好きになれそうなんだよ、提督。」



北上(…『裏切られてもいい』か。

我ながら何て重い一言なんだか)



北上「………」



北上「…あー、恥ず。帰って寝てよっと…」






−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–





提督「…ってな感じでな。

何とか事なきを得たよ」



明石「…あの。事無き得てますか、それ?

ていうかそんなにまで気を抜かせたのってほぼ間違いなく…」



提督「まあ、うん。そうだろうな…」



明石「ですよね…

…あの、そろそろ止めときません?これで何か艦隊の方に支障が出てしまったら元も子もないじゃないですか」



提督「バカ言え、やめてたまるか!今回の失敗は…確かにその、酷い物だが。それなら今回の失敗を教訓にすりゃいいだけだろう!」



明石「このクサレ…!

北上ちゃんに言ってた一言は嘘ですか!」



提督「…いや、まあ…お前たちには居なくなって欲しくないってのは本心だけどさ…」



明石「へ?あ、ああ、そうですか…」



提督「…あー、なんかすまん…」



明石「い、いえ…」



提督「…それとこれとは話が別だからな!」



明石「この外道!!」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–





明石「…ええと。結局次はやるんです?」



提督「ん。ああ、やるさ。やるとも。

次のターゲットは川内だ」



明石「川内ちゃん…夢、見せられるんですか」



提督「?どういう事だ?」



明石「いやだって夜中歩き回ってますし、寝てないんじゃ?」



提督「お前な…川内を妖怪夜戦マンとでも思ってるんじゃないのか?」



明石「そ、そこまでは思ってません!」



提督「そうじゃなくてもアイツは夜フツーに寝るし、夜戦以外の事も考えてるさ。だからこそこれを使えるし、使おうと思ってんだからな」



明石「…確かに、例え夜戦の事しか考えていないなら夢を見せられても何の意味も無いですからね」



提督「そういうこった。

さて、閑話休題。早速だが起動だ!」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–






提督(さて、仕事も終え悪夢もちゃんと見せた事だし今日は早めに寝るか。明日が楽しみだっと…)




キィィ





提督(…!?扉が開いた?

…来客の予定は無いが…)



提督(敵襲か?いや、なら扉を開けるなんて悠長な真似はしないはず。なら一体…)





川内「………」フラ…




提督「…?川内、か?

一体どうしたんだこんな夜中に」




川内「……!」ガッ




提督「ぐあっ!?」



提督(…!?何が起きた…?

首が…締められているのか?川内に?)



提督「かっ…な…ぜ…」




提督(……)


提督(抵抗は…無駄か)




提督「……川…内…」




川内「…え?」




スルッ




提督「ゲホッ…い、命拾いしたか…」



川内「…? 提督?何で?私は今…あれ?」



提督「…ふぅ。ようやく息が整った。そっちも取り敢えず、落ち着いたみたいだな」



川内「…ね、え。

今、もしかして私、提督の事…」



提督「そこも含めて。…とりあえずゆっくり話そうか。幸か不幸か秋の夜長。時間はたっぷりあるからな」



川内「…うん。」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




提督「……まあ、そのなんだ。

別に俺は気にしてないぞ。これで後遺症が残るとかなったら大人気なく怨んだかもだが」



川内「…」



提督「勘違いして襲った相手も俺が最初で最後だったってのも良かった。結果的に全く被害が無いからな?」



川内「…」



提督「それにほら、別に叛意があった訳じゃないってのも分かってるしな。お前は目の前に『見えて』た敵をただ倒そうとしてただけだ。だから…」




川内「解体して」



提督「…滅多なことを言うな」



川内「だって! …だって、私は。敵か味方かさえも分からなくなってたんだよ?それも夜の暗さのせいでもない、心の問題で!」



川内「…そんな頭がおかしくなった欠陥品なんて、解体された方がいい」



提督「例え冗談でもそれ以上言うな」



川内「どれだけ戦いに狂っても味方だけは守ろうと思ってた!敵をどれだけ殺したとしても、大切な人達だけは守りたいって!」



提督「…良い心がけだ。

そのまま想い続けるといい」



川内「なのに私は。

一番守りたかった人を、この手で…」



川内「…だから、お願い。解体して」



提督「解体、と。

次に言ったらマジにキレるぞ」



川内「でも!」



提督「でももヘチマも無い。…お前がどう思っていようが俺はお前を罰したりはしない。目論見が外れて残念だったな」



川内「……残酷だね」



提督「…そうだな。罪悪感を持つ者に何もしないのはある意味罰を与えるより残酷、か」



提督「まあその、なんだ。失敗なんて誰にでもあるさ。月並みな慰めだが、これで…」



川内「ただ失敗をしたから辛いんじゃない!」



川内「…私、提督の為なら何をしたって良かった。怖かった筈の夜戦が楽しみになっても、どれだけ敵の血に塗れても、それが提督の為ならって、そう思ってたのに…」


川内「なのに私はそんな手で提督を殺そうとした!深海棲艦と提督すら判らなくなって…!このままじゃ提督だけじゃなくて、妹達にまで…!」



川内「…私、嫌だよ。

それだけは耐えられない。だから…!」



提督「…『解体して』か?」




川内「…殺して」




提督「……」



川内「……」




提督「…この…」




提督「…大馬鹿野郎!!」ズビシッ



川内「痛った!?」



提督「言うに事欠いてそれか、えぇ!?

つーか独断で部下を殺そうもんなら俺がクビになるわ!んな事もわからんのかバーカ!」ビシッ ビシッ



川内「なっ!?何急に怒ってるのさ!ていうか何度も何度も叩くな!バカになっちゃうってば!」



提督「やかましい!バカはバカになったくらいでちょうどいいわこのバカ!」



川内「さっきからバカバカうるさい!

てかバカって言う方がバカなの!」



提督「ほんっとお前は…

いいか、まず一つ!お前は貴重な戦力だ!夜戦は危険だし、お前みたいなプロフェッショナルは絶対に必要なんだよ!」


提督「で二つめ!お前がもし居なくなったら他の奴らはどう思う?親しくしてる駆逐艦達は?姉妹は?士気が低下するなんてもんじゃないぞ!」



川内「……ッ」



提督「…そして、三つめ。」


提督「…お前が居ない夜なんて、俺は嫌だ」




川内「……」



川内「……へ?」ポカン



提督「…ほれ。わかったならもう行け。

俺はもうそろそろ寝る」



川内「…ねぇ、もっかい言ってよ」



提督「うるせぇ、さっさと寝てろ。

幻覚も寝不足のせいなんじゃないのか?」



川内「……提督も、結構バカだよね」



提督「なんだと?」



川内「アハハ、凄い顔!」


川内「…私みたいな夜戦バカと提督みたいなバカ。バカ同士お似合いかもね?」



提督「なーに言ってんだ。

ほら、さっさと行っちまえ」



川内「ごめんごめん。それじゃまたね。」



川内「…その、今日は色々とごめん、ね」



提督「しおらしいのなんて、らしくないぞ」



川内「…うん。おやすみ」



提督「ああ、お休み」




バタン




川内(……)



川内(困ったなぁ。何も解決してないや。

幻覚を見てた事も、仲間も襲いかねないのもなーんにも)



川内(やった事といえば、本当に提督と話したくらい。何やってるんだか)



川内(…でも、不思議と。

もう大丈夫な気がする。話しただけなのに、少し、笑いあっただけなのに…)



川内(前みたいに…ううん。

前よりも、うんと心が軽い)




川内「…よーしっ!夜戦だ、夜戦!!」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





提督「…どうだ?故障か?」



明石「うーん…バグとはまた違いますね。夢を見せていた事に違いは無い、といいますか」



提督「白昼夢、か?」



明石「そうですね。陳腐な言い方ではありますがそれに近いです。提督が設定した夢が、起きている彼女にそのまま見せられて…」



提督「ご覧の有様、か。

…実験的に、見せた夢がパニックホラーチックにしてたのがミスだったのかもなぁ」



明石「パニックホラーって…

どんなのを見せたんですか?」



提督「俺とかがゾンビみたいになってて…って感じの悪夢。どうやら今回の場合はそれが白昼夢として川内の心の恐怖に重なって…」



明石「提督達を深海棲艦に見せた、と。つまり例によって例のごとく提督の自業自得ですか。責任感じてるであろう川内ちゃんが可哀想」



提督「ククク、酷い言われようだな。まあ事実だから仕方ないけど」



明石「反省の様子は見られそうにないですね。

まあそれは期待するだけ損ですか」



提督「…多分、川内はもう責任を感じてはないと思う。そう仕向けたからな。それでもダメだったら、俺の命を賭けてでも何とかするさ」



明石「…カッコつけてますけどそれただ自分の尻拭いをするってだけですよね?」



提督「バレたか」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




提督「ああ…次は由良だ…」



明石「…」



提督「…軽巡繋がりと思ってな。

だからそんな冷たい視線を向けるな明石」



明石「あー…別にそういう事ではなくただどう反応しようか迷ってただけなんですが。

にしてもまた何というか…」



提督「何だ、何か文句あるのか?」



明石「…何というか、的確に背負い込んでしまいそうな娘を選んだなぁと思って」



提督「まあ諸々に支障が出ない程度に全力でやるさ。今回見せる夢はどうすっかなー」



明石「ほんっと楽しそうに悪巧みしますね」



提督「そりゃあ!悪巧みが得意じゃなきゃあ軍人やってないってんだよ」



明石「軍全体に風評被害バラまくのやめてください!」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





提督(さてさて、例によって例の如く由良の元へと向かおうか。まあつっても向かう事無くともどうせ会うことになるだろうが…)



提督(お、いたいた。さて由良の様子は…)




由良「〜〜♪」




提督(…鼻歌交じり?無理して…ってわけて無さそうだ。顔色も良いし、張り詰めてる人特有の気配が無い。じゃあ本当に上機嫌だってのか?)



提督(…?)



由良「あら提督さん、どうしたんですか?

時間も大丈夫ですし…もしかして急用が?」



提督「いや、別にそういったわけじゃなくてだな。少しでも早く由良に会いたかっただけさ」



由良「ふふ、お上手ですね」



提督(嘘はついてないがな。

…さて、聞いてみるか)



提督「なあその…

やけに上機嫌、だったな?」



由良「あ…き、聞かれてましたか。

ちょっと恥ずかしいです…」



提督「はは…悪い悪い。

しかしどうしてあんなに上機嫌だったんだ?占いの結果でも良かったのか」



由良「いや、そんな大した理由じゃ…!

…ただ少しだけ」



由良「いつもより少しだけ。

夢見が良かったんです!」




提督(……?どう、いう…?)



提督「夢見が、良かった?」



由良「?はい。何か駄目でしたか?」



提督「あー、そういう訳では…」



提督(…操作ミスか?

…いや、その線よりはおそらく)



提督「…なあ。

話は変わるが少し寄り道してかないか?」



由良「え?由良は良いですけど…

仕事は放っておいてもいいの?」



提督「なあに、本気でやればすぐに終わるさ。…それに多分、そう長くはかからない」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




提督「さて、ついたな」



由良「…?工廠ですね。開発を?」



提督「いや、少し見せたいものがあってな。

まあ話はとりあえず入ってからだ」



ガラガラ




明石「あれ、提督…に由良ちゃん。

どうしたんですか?開発します?」



提督「ああいや、開発は今日はしない。

実は由良に見せたいものがあってな」



明石「あー…

…え?見せちゃうんですか?」



提督「シーっ」



明石(…アイコンタクト。黙って見ててくれ、って事かしら)



提督「…さあ、おまたせしたな。

これだこれ。由良、こっちだ」



由良「あ、はい。…うわあ、すごくおっきい…これは一体…」



提督「……」



由良「…提督さん?」



提督「…ああ。これはな、この鎮守府内の生物の夢見を良くする事が出来る装置なんだ」



由良「!そんな事が出来るの?」



提督「ああ。現在我々の置かれている状態は物資が多くあり嗜好品なども多くあるそんな状態だ。とはいえ俺らが務める場所が戦場である事に違いは無い。よって精神が疲弊する事が多々あってしまう」



提督「だから、その為のこれだ。寝ている間だけでも少しだけ気分を軽く、楽にさせてやろうっていう目的のな。…いくらでも悪用出来る上、バレてしまったらまた気を病む子がいそうな為、秘匿だ。口外はしてくれるなよ?」



明石(よ、よくもまあいけしゃあしゃあと自分に都合の良い嘘を…)



由良「は、はい。…なるほど、じゃあ昨日夢見が良かったのは」




提督「…嘘だ」




由良「え?」



明石「へ?」



提督「本当はこの装置は夢を自由自在に操る事が出来るものでな。それはつまり良い風にもだが、悪い夢を見せる事も出来るって事だ」



提督「そして由良。昨夜俺は君にこの装置を使った。行動の内容は、悪夢を見せる事」



由良「…」



提督「…怒るだろうか。怒るだろうな。

だがまずは俺の推論が合っているかだけを聞かせてくれ」


提督「この装置の『悪夢を見せる』…それはつまり、お前が見ている夢を俺が考えた『悪夢』に上書きするって事だ」



提督「…俺が上書きしたそれを良い夢見だと言った由良。お前は常に、これ以上の悪夢を見ている。そういう事なのか?」



明石「…!提督、それは…!」



提督「すまん明石、後で説明する。

…違うんならそう言ってくれ。由良」




由良「…」



明石「…」



提督「……」




由良「…すみません、二人にしてもらって良いですか?」



明石「あ、それじゃ私がここから」



提督「いや、俺らが別の場所に行けばいい。

由良、行こうか」



由良「…はい」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





提督「よし、座ってくれ」



由良「…ここは?」



提督「カウンセリングルーム的なそれだ。

まあ楽にしていてくれ」


提督「…さて、と。何から話そうか。

…そうだな、まずは俺の蛮行に怒ってるならそれへの文句から聞こうかな」



由良「…確かに少し怒ってます。その様子だと由良にだけやったんじゃないですよね?」



提督「まあ、そうだな」



由良「酷いです、可哀想です」



提督「返す言葉も無い」



由良「…でも、今はそれについては良いかな」



提督「…」



由良「由良、は」



提督「待った」



由良「!!」ビクッ



提督「…心のつっかえについて。

言うのが嫌か、怖いか?」



由良「!ううん、そんな事…!」



提督「もしそうなら言わなくても良い。

また、君が望むならあの装置を君に使用し続ける事もできる」



由良「使い、続ける?」



提督「ああ。それも今回見せた悪い夢じゃあなくて、君の求めるような良い幻想をだ。悪い申し出じゃないと思うが、どうする?」



由良「……」



由良「…怖いし、話したくない。

けど、これ以上目を背けられないから」


由良「逃げちゃあ駄目…ですよね。

…ねっ?」



提督「…ああ、そうだな。

きっとそうなんだろう」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





提督「よう、さっきは悪かったな」



明石「提督。その、どうでした?」



提督「どうって聞かれただけじゃあなんの事かわかんないな、ハハハ!」


提督「…すまん。今ちょっとテンションがおかしくてな」



明石(自覚症状アリとは珍しい…なんて言ったらヘソ曲げちゃうかな)



提督「…その夢の内容についてはあまり話さなかったよ。というか話せなかった」



明石「トラウマを刺激してしまって、という事ですか?」



提督「いや、夢なんて基本覚えてられないものだからな。目覚めたらその瞬間に忘れる夢だってあるくらいだ、夢は忘却とワンセットなんだよ」


提督「…ただの夢ですらヒトの脳はそれを忘れる事で自身を守っている。毎夜魘されていたレベルの悪夢なら、精神の自己防衛の為に忘れちまうのが当然だろう」



明石「…でもじゃあ、打つ手なしですか?」



提督「…悔しいよ。ここまで何も出来ないとは思わなかった。自惚れてる訳じゃないが、何か出来てやれると思ってたんだ」


提督「…機械の使用も拒否された。

『これは自分が背負わなきゃいけないものだから』ってな。その意思を無碍には出来ん」



明石「私はそうは思えません」



提督「…え?無碍にしてもいいだろって事?

とんだマッドサイエンティストだなお前」



明石「ち、違いますよ!提督の言っていた、何も出来なかったって部分です!」



提督「ああ、そっちか」



明石「…直感というか、気のせいかもしれないのでそんな確かな事は言えませんが。工廠で提督が由良ちゃんへ質問した時。少し、目が潤んでいたように見えたんです」



明石「それは、何が原因だろうと、愛する人が自分の異常に気づいてくれた嬉しさのものじゃないかな、なんて…」



提督「…らしくないじゃないか。

でもきっと、そうなのかもしれないな」



明石「ええ、きっと」



提督(…)



提督「…ま、所詮俺がやってる事は褒められた事じゃ無いんだ。ここまで来たんからこれ以降も徹底的にやってやる!」



明石「うわ、開き直りましたね!

慰めて損しました!」



提督「ハハハ…」




『提督さん。これからも艦隊と…由良を。

宜しくお願いしますね、ねっ?』




提督(…そうだな。あの笑顔がそういう意味でのそれだったなら、彼女は大丈夫かもな)




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





提督「そうだな、次は海風に対してやってみようかな」



明石「はあ…してその理由は」



提督「こう…似てるだろ。由良と髪型が」



明石「…んん?それだけですか?ていうかそんなに似てもいない気が…」



提督「……」



提督「…こまけぇこた良いんだよ!俺は俺がやりたいと思ったやつにやるんだ!」



明石「じゃあもう最初からそう言えば良いじゃないですか!」



提督「だって明石理由付け聞いてくるし…」



明石「わ、私のせいにしますか…まあこの際良いです。どんな夢を見せるんですか?」



提督「秘密ー」



明石「またですか。最近…というか秘密にしている事の方が多い気がするんですが」



提督「そうだったかな?でもまあ、折角ならお前も新鮮な驚きを感じたいだろう?」



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






海風「提督、少しよろしいでしょうか」



提督「…?海風、か」



海風「はい。その、ええと…」



提督「ああすまん、どうぞ入ってくれ」



海風「はい、失礼します」



提督「…ふむ、どうしたんだ。急にかしこまって。おためごかしは俺には効かんぞ?なんてな、ハハ」



海風「…」



提督「冗談だよ。何か話したい事があるからこそわざわざ来たんだろ?ゆっくりでいいから話してみろ」



海風「…お見通しですか」



提督「勘だ。場所、移すか?」



海風「いえ、大丈夫です。…」



海風「…私は兵器なんでしょうか…」



提督「…悪い、質問の意味がわからん」

もう少し詳しく頼む」



海風「…提督を、夢の中で見ました。

私達が戦う深海棲艦に、殺されるという形で。私はそれに怒って、激怒して、衝動的に武器で殺すんです」



海風「そこまで見て、目を覚ましました。

その光景が少し忘れられなくて、そのまま少し考えていたら、ふと思ったんです。この怒りは、あっちもあるんじゃないかと」



海風「あっち…深海棲艦も、愛する人が殺された、その怒りはあるんじゃないかと」



提督「…成る程。つまりは、この戦争において戦う相手に同情心を抱いてしまったって事か」



海風「いいえ、逆です」



提督「…何?」



海風「…殺されて、怒る、悲しむ、絶望する。そんな感情が敵にもあるかもしれない。そう仮定して私は色々と考えてみました。なのに、全く同情を抱けないんです。私は…」



海風「…私は所詮、心無い兵器なのでしょうか」



提督「…成る程、そういう事か。

要は自分が冷血漢じゃねぇかって不安になってるんだな」


提督「いや違うな。そもそも、感情を感じられない機械なんじゃないかと思っちまってる訳だ。そうだろう」



海風「…はい」



提督「考えすぎだ、馬鹿野郎。

お前は『人間』だよ。誰が何と言おうとな」



海風「でも」



提督「蟻や蛆が湧いて、それを殺した時に罪悪感を抱く人間は居ない。そういう事だ。確かに、俺らに似た姿をした者共に対してそんな認識だけ抱いてるようではそれはまた危ういが…」


提督「…さっき話してくれた内容からするとそんな事はないみたいだしな」



海風「…」



提督「感情が無い?ありえんよ。俺に自分の危惧を話しに来ているそれそのものが『罪悪感』とか『焦燥感』の発露だろう」



海風「…感情が無い、事は無くとも、相手に感情を持てないようにされているのかもしれません」



提督「まだ言うか…強情だな」



提督「…そう言えば。さっきちょっと気になる事を言ってたなぁ、海風?」



海風「え?き、急に何ですか?」



提督「『愛する人を殺された怒り』…って。

いやぁ、嬉しいな。海風は俺のことを愛してくれているみたいだ」



海風「えっ…い、いや!それは!違…くはないですけど、そんなつもりは…!」///



提督「それだ」



海風「へ?」



提督「もしお前達を戦闘マシンにしたいんなら、何かを恥ずかしがる気持ちなんてそもそも持たせない筈だ。無駄でしかないからな」



提督「安心しろよ、お前達は、お前は。

抑制からは完璧に自由だ」



海風「…そう、ですか」



提督「…それはそれで、『同情を行えない自分はどこか心が欠陥してるんじゃ?』なんて思ってるな」



海風「な、なんで解ってしまうんですか?」



提督「勘。いいか、そんな事は絶対にない。俺が保証する。自分をどうしても疑うってんなら、俺を信じろ。それじゃダメか?」



海風「…うう、それはズルいですよ。そんなの信じざるを得ないじゃないですか…」





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–





提督「…俺が見せたのは『俺が死ぬ』ところまでだった筈なんだがな」



明石「その後、提督を殺した者が誰かっていうのを決めたのもそれを殺したのも海風ちゃんが勝手に見た夢…って言いたいんですか?」



提督「すげぇ乱暴な言い方するとな。

それに、もっとこう…泣いて、いなくならないでー的な感じを求めてさ…村雨の時に出来なかったから、やろうと思ってたのに」



提督「…人死にが出るような夢、やめよっかなぁ」



明石「最初っからよしとけばよかったんですよ、そんなの…」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–



提督「…しっかしそうなるとなぁ。なんつーか安易に効果的であったからずっと人死にの出る悪夢を見せんの続けてきた訳で。急にそれ禁止ってなると思いつかん。脳みそって錆びるんだな」



明石「まあ使わない所からみるみる機能が止まってくとかも言いますしね…こんな悪巧みに扱われる脳みそも可哀想ですが」



提督「可哀想だとか知ったもんか、元々俺のものなんだ。つー事で…そうだな、今度は青葉に行ってみる」



明石「青葉ちゃんといえば…カメラ、写真ですがやはりそういう?」



提督「ま、そうだな。それに関するようなものになると思うぜ」



明石「…勿論人死にが出る夢は論外ですが、人生賭けるレベルの趣味に関する悪夢を見せてトラウマを刷り込むっていうのもどうなんでしょうかね」



提督「そんな良心の呵責に似た戯言なんて聞き飽きたわ。よっしゃいくぞ!」



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–




最初の動機は、皆が喜んでくれたから。

そんな、至極単純な理由だったと思う。


でも、本当はよく覚えてない。何かを好きになった理由とかきっかけとかは、きっと後からつけるもので、それより先に好きだって想いはあるんだって、私はそう考える。


まあ、いづれにせよ私は。日常や、その日常に混じる非日常をこの手のひらの中のカメラで切り取る、その行動が好きだった。


シャッターチャンスを見つけて、ぱしゃり。

その瞬間が好きだった。


高じて、個人で新聞を作る事に決めた。

最初は不慣れだった記事を書くという事、情報を集める事、インタビューをする事。どれもが次第に楽しくなる。誰かと繋がれている事が嬉しかったのかもしれない。


それが重荷だと思った事は無い。その筈だ。


でも、単純に楽しさから作っていたそれは、段々やらなきゃっていう義務感へと変わっていってしまっていた。


楽しさや嬉しさが義務感に変わる、そんな頃。私は、それとは別に、ある焦燥感に襲われていた。


それは誰にも記事を顧みられないという焦り。初めは目新しさで目を引いていた新聞が日々を過ぎるにつれ『普通』になり、見る人が少なくなっていったという事への苛立ち。


もっと面白い記事を書かなければ。そうしなければ、誰にも省みてもらえない。

そうだ。見てもらわなきゃ。何としても。


その為にはもっと過激に。もっとセンシティブに。虚偽を混ぜてでも面白く。プライバシーを侵害しよう。スキャンダラスを追い求めよう。偏向的な報道で、更に面白く!



…それを続けた先にあったのは破滅だった。



それは私の信用も、周りすら破滅に追い込んだ。私のスキャンダルは、周囲の全てを疑心暗鬼に陥らせて、人間間の繋がりの全てを断ち切らせていた。


吊るし上げられた私に送られるのは罵倒と、軽蔑の視線。そこには私と繋がろうという者はいない。絆とか、愛情とか。それらを断たせた者には当然の末路だった。




そこまで見て、目が醒める。


跳ね起きたままの姿勢で、呆然と、肩で息をする。震えと汗が止まらない。


夢、夢だ。

ただの、悪い夢だったのだ。


安堵から息を吐く。

大きく溜息をつくつもりが、動悸のせいか、はっはっと短い息が何度もでる。


長い事経ち、その動揺からも醒めた。経った時間から遅刻かと思ったが、跳ね起きた時間が早かったらしくまだ間に合いそうだ。


身嗜みを整えて、制服を着る。さて。今日も頑張ろうと、カメラを手に取る。


それを見て、フラッシュバックした。



かしゃん。



「……あ…?」



恐怖で手が強張って取り落としたのだろうか。はたまた身体が拒絶して、床に叩きつけたのだろうか。今となってはわからない。もしかしたら殊更壊そうとしたのかも。



カメラが床の上で、壊れていた。



「……?」



事態が読み込めなかった。これが海域での出来事だったら死んでただろうほどの唖然の後、目の前が真っ暗になる。


こわ、れた。


壊してしまった。


カメラが。このカメラを。皆の日々が映ったこれを。これもまた悪夢?違う。抓った腕は痛い。


どれくらい経ったのかはわからない。

ひょっとしたら数分だったかもしれないし、何時間も経ってたかもしれない。



きい、と扉が開いた。

そっちを向く気力すら無かった。



「大丈夫か?…って、大丈夫なわけないか」



その声で初めて誰だかわかった。

司令官だ。糸が伸びきった人形のようにして緩慢に、首だけ動かした。


言わなきゃ。どうしても。



「…ごめん、なさい」



「…何を謝る。どうして謝る。泣いているお前が、謝る事なんて何一つ無いじゃないか」



心配そうに、そう声をかけてくれる、


でも、違うんです。

私が謝らなきゃいけないのは––––




「…壊してしまいました。思い出がつまってたのに、想いがつまってたのに…」



「…!青葉、それ…!」



「……あ、あ。

司令官に、頂いた物なのに…ッ!」



そこから先は、言葉を発せられなかった。

どうしても言葉にならない嗚咽しか喉から出ない。視界が歪んで、何も見えない。


ふと。背中を、大きな手が撫ぜた。



「…そうだったな。俺がやった物だったな。

ここまで大切にしてもらえて、俺は幸せ者だ」


「…『コイツ』も、幸せ者だったな」



機械の残骸を見ながらそう話す司令官は、ただただ微笑んでいて。まるで、気にすることは無いと言わんばかりに。



「大丈夫さ。カメラが欲しいならもっと良いのをくれてやる。俺の贈り物であって欲しいなら、くれてやる。……『そいつ』がいいのなら、どうやっても俺が治してやる」


「思い出なら、これから山ほどある。俺が作ってやるとも。それを写していけばいい」



「…だから、もう泣くな。酷い顔だぞ」



その、全ての言葉が心を撫ぜた。


悪夢の記憶、目の前の絶望、叱咤と失望の恐怖。そのどれもが、この人の暖かさの前に解けていく。




「…はは、ひどい、ですね…!」




その言葉を、ようやく絞り出せた。


それ以外はもう、泣いて泣いて泣き明かして。司令官はただ、そんな私を包み込むように居てくれた。



………




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–




青葉「…」



提督「…そろそろ落ち着いたか?」



青葉「…いや、その。すみませんでした。

出来れば触れないで頂けると幸いです。

…あと、今顔を見ないで頂けると…」



提督「はいよ。…深くは立ち入らないが。もう大丈夫なんだな?」



青葉「…ええ。もう。

私にはもう、『繋がり』がありますから」



提督「…?今度の記事の見出しか何かか?」



青葉「独り言ですよ、ふん」



提督「はは、拗ねるな拗ねるな。

…しかしその、何だ。カメラは気の毒だったな。それそのものもだが、データが…」



青葉「へ?データ、残ってますよ?」



提督「ん?」



青葉「やだなぁ、バックアップ。

取ってないわけないじゃないですか」



提督「…んん?じゃ、なんで思い出が無くなったみたいな事…」



青葉「そんな事は…言ったかもですけど。それは、ここで暮らしてきた思い出が、愛着がつまってたって事ですよ!」



提督「………はぁ、また、ややこしい…」



青葉「いや、でもでも!それでもショックだったんですよ!?」



提督「…まあ、それはさっきで十分わかったよ」



青葉「ぎゃ!触れないでくださいってば!」



提督「自分から触れられに来たんだろ!」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–




明石「で、そのカメラがこちらです」



提督「おお、パーフェクトだ明石。

よくもここまで完璧に戻せたなぁ」



明石「伊達に艤装の整備とかやってませんからね。単純とまではいきませんが、それらに比べたらチョチョイのチョイですとも」



提督「よっ!流石!鎮守府の屋台骨!」



明石「えへへ、褒めても何も出ませんよ」



明石「…しかし、まさか壊してしまうなんて。よっぽど怖い夢見せたんですね」



提督「ん、ああ。多分、ほんの少しでも心当たりがあったから尚更怖かったんじゃないかな。それをリアリティが無いと思ったら、あくまで胸糞悪い夢を見た程度にしか思わん筈だ」



明石「そう思われないように散々内容を吟味しているくせに…」



提督「あ、バレた?」



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–




提督(……)



明石「あ、おはようございます提督。

またロクでも無い事を考えてるんですか?」



提督「朝っぱらから失敬だな。それに俺の頭には最高のアイデアが詰まってるんだ」



明石「はいはい、わかってますよー」



提督(…ロクでもない事、か。

あながち間違いではないかもしれない。少なくともコイツにとってはな)



提督(俺は今度、こいつに例の装置を行おうと思っている…が、これで明石を動揺させるのは至難の業だ)


提督(というのも、こいつはこの装置を知ってしまっている。それ故、どう悪夢を見せようと思い悩むより先に俺を疑うだろう)


提督(…なら、疑わないレベルに恐ろしい夢を見せればいい!)


提督(…この判断が正しいのかもわからん。

が、一度決めた事を変えるのは男の名折れ!)



提督「うし、男は度胸!やってやるぜ!」



明石「な、なんかヤケに気合入ってません…?」



提督「ハハ、気のせいさ気のせい…」



明石「……?」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–






「提督、出来ましたよ!試作品です!」


「おお!今回はまた随分と早いな!」




…?

何か不自然だ。


まあ、気にする程でもないか。

いいから話を続けよう。

彼と話がしたい。



「ええ、今回は–––––」



立て板に水と言わんばかりに口が回る。


楽しい。作る事自体も勿論だけど、それを使う人を見て、使う人が喜んでくれて、使い方を説明するこの瞬間が私は一番好きだ。


多分それは相手がこの人だからというのも…


いや、今はどうでもいい事だ。


ちょっと熱を帯びる顔を誤魔化すように新しく出来た装置の方へ。



うきうきと、目を輝かせて装置を動かすその男を、やれやれといった心持ちで眺める。



(全く、しょうがないなぁ…

いつまで経っても子供みたいなんだから)


私が支えておいてあげないと。

そう思った。

単純に、漠然に。この日常はこれから先10年、20年続くのだと勝手に思い込んでいた。




それの終わりは、

思ったよりずっと早かった。




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–




一人で、ただひたすらに工具、機械に向かっていた。そうでもしないと思考が再開してしまうからだ。

感情が、自分に出てしまうからだ。



ある日。ある時。彼は、提督は一人を選んだ。

自分を慕う女性に指輪を渡し、生涯を共にすごして欲しいと伝えた。


榛名さんがその対象だった。

とても、幸せそうだった。


……



…努めて使わないようにしていた大脳辺縁系がつい動き、感情のままに、手の内のドライバーを目の前に突き立てる。




「…私の方が先に好きになったのに。

私の方が愛しているのにッ!」



心で呟くつもりが、そんな声が喉から怨嗟の如く滲み出る。



ばぁか。

また、喉から漏れる、自嘲。



想いの優劣なんてつけれるモノじゃない。数値化も出来ないし、ましてや本当に彼女に勝ってるなんて言い切れるの?

そんな優劣をつけようとするのは自分みたいな馬鹿だけだろう。



先に好きになった。

それは確かにそうであると言える。彼が着任した時から私はずっと隣にいたのだ。途中から参加した者より長いのは当然だ。




–––でも。一緒に居た時間はきっと彼女の方が上なんだ。



急に世界が色褪せた。

目の前の機器は最早、魅力的ではない。

その先にある成功になんの意味があろうか。


無価値な栄光。

孤独な発明。

空虚な成功。

それを最早、少年のように喜ぶ人は居ない。


彼が交わしてくれた言葉を思い出した。




『ありがとう。お前のおかげだ』




走り出した。逃げるために、艤装すら持たずに。何から?誰からも追われてなんてない。


顔は赤く、なのに青くなっていて。靴はいつの間にか片方脱げてしまっていた。



海辺で立ち止まった。

ぱしゃりと足が浸かり、そのまま力尽きたように地面に手をつく。


逃げられない。

自分自身からは、自分の為して来たことからは、絶対に逃げ切れはしない。


昏い海面に映る自分の醜い顔が、それをただ重く、自分に実感させた。


何もないのに苦しい。

何もないから、苦しい。横に誰も居てくれない事が、こんなにも辛い。



そうだ。お前のおかげだと言われた。

榛名さんの背中を押したのは私なのだ。


発明にうつつを抜かし、彼と一緒に居ようとしなかったのは私なのだ。

結果がこの有様だ。

何も悪くなどない。悪いのは全部私だ。

何もかもが自業自得なんだ。



自分自身を掻き抱くように縮こまる。

二の腕に爪を立てながら、絶叫した。



「ああアアアァァァァッ……!」



後悔。憤懣。挫折。絶望。恋慕。胸を締め付ける全てをない混ぜにしたら、そんな、意味の持たない叫びしか出なかった。




努力不足の愚か者。

この絶叫はそんな私に相応しい結末だった。





−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–





…最悪の目覚めだ。


これは、間違いない。



「〜〜〜ッ!あの人はぁー……!」



この悪夢はほぼ間違いなく、提督に見せられたものだろう。でなければこんな酷い夢を見る事は無い。



「もう!

今からでも文句言いに行ってやる!」



正直、空元気だった。

さっきまでの夢がまだ脳髄に残って、黙って滅入っているとどうにかなりそうだった。


ただ、今は彼の脳天気な顔を見たかった。




……彼の声がする。

部屋の外からでも、誰かと話している事がわかった。


誰と話しているんだろう?

怖いもの見たさで、ドアをほんの少しだけ開けた。バレないように、分からないように。



…榛名さんだ。


心臓がどくついた気がした。



ああ、そうだ。確かに提督は榛名さんに指輪を渡そうとしていた。この、夢を操る機械での被害の時に。そのまま渡す事は無かったがしかし、いつでも取りに来いと、そう言ってもいた。



どくん。



彼はそのまま指輪を、渡す。

幸せそうな顔で彼女はそれを受ける。


飛びつくように、榛名さんがキスをした。




……


………




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–





提督「…ったく、急にキスしてくるとは…流石にビックリだな。まあ悪い気はしないが…」


提督「…しっかし、ついに指輪渡しちまった。いや勿論役得でもあるが…荒れちまわねぇかなぁ…」



提督(自惚れじゃないが俺は相当数から好かれてるしな…それを危惧して今のところ誰にも渡して無かったんだが…)



提督(嗚呼、過去の俺は大馬鹿だ。どうして指輪渡すなんて方向性で愉しもうとするかなあ。あんな目で見られたら改めて渡さないわけにゃいかんだろうが)



提督「……ん?」



提督「…扉、きちんと閉めてた筈だよな。

なんで少しだけ空いてやがる」




提督「……」




提督「………まさか」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–




提督「明石!明石ッ!」



提督(…クソッ、杞憂なら良いんだが。どうもこの見つからなさだとそうは思えん)



提督「他の奴に聞いてみるか?いや…」



提督「……アイツなら、どこに居るか」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




明石「…」



提督「…ここに居たか。探したぞ」



明石「よく此処が分かりましたね?正直、来ないかなーなんて思ってました」



提督「いや、実は散々空振りしたんだ。

今ここには第四候補くらいで来た」



明石「…それ言わなくってもよくないです?」



提督「確かに。聞かなかった事にしてくれ」



明石「もう少しかっこつけましょうって」



提督「今更かっこつけたところでだろ?

…まあいい、本題に入るぞ」



明石「…」



提督「…見てたんだよな」



明石「はい。見てしまいました」



提督「だよなぁ。んで、ここに来たのか。

懐かしいなぁ。まだ俺ら位しか居なかった時に使ってた倉庫だろ?こんなに道具があるとは知らなかったが」



明石「あはは、持ち込んでたんですよ。

いつか何かに使うかなって思って」



提督「時たまちょっとずつ資材無くなってたのおめぇかよ!」



明石「ふふふ…バレたからにはただじゃおきませんよー」



提督「…さて、長引かせてもアレだろう。

単刀直入に。ここで何をしようとしてた」



明石「そうですね。現実の全て、何もかもが夢になってしまえるような。そんなものを作ろうとしてました」



提督「…出来るのか、そんなものが」



明石「出来るまで、作るつもりでした」



提督「……だが」



明石「ええ。

結局やれないまま、突っ立ってました」



提督「だよな。どういう心境の変化だ?俺の事なんざどうでもいいと思ってくれたのか?」



明石「いいえ。諦める事は、ずっとできないと思います。ただそれでも、今こうしているのは…」


明石「嫌だったからです」



提督「?」



明石「この世界が夢になってしまうのが嫌。鎮守府のみんなが夢になってしまうのが嫌、貴方と私の関係が何もかも夢になってしまうのが嫌…全部、全部嫌なんです」


明石「…でも、きっとこのままいるのも嫌で。でもその今を変える事すら嫌で。なんだか馬鹿みたいですね」


明石「…私。なにがしたかったんでしょうね」



提督「…んなこと知らねぇよ。デリカシー皆無な人間だぞ、こちとら」


提督「だが、そんな恐ろしい物を作るのをやめた理由はわかる。お前は皆を大切に想っていただけだ。きっと、自分が思ってたよりな」



明石「…」



提督「…ハッキリ言おう。俺は榛名に惹かれてる。切っ掛けこそ邪だったが、形になった今だからこそそう思える」



明石「…ッ」



提督「だからきっと、俺はお前の気持ちを受ける事が出来ない。お前のだけじゃないな。今回の件で想いを伝えてくれた嵐にも、好意を寄せてくれる他の娘にも、応える事は難しいだろう」


提督「その上で。俺は厚かましく言う。俺にはお前が必要だし、共に居たい。皆と共に、鎮守府に居たい。だから、一緒に帰るぞ」



明石「…勝手な命令ですね」



提督「上官としての命令じゃなく一人の人間としてのお願いさ。もし嫌なら断れ。刺すなり拉致するなり好きにするといい」



明石「これまた極端な…死んでもいいって事ですか?それこそ、残された皆や榛名さんが哀しむでしょう」



提督「バカ言え、死んでたまるかよ。刺されようともドロ水啜ってでも生き延びてやるわ。命捨てる気なんてさらさら無い」


提督「…がなぁ。想いを諦めさせよう、なんて残酷な真似してるんだ。俺の命を賭けるくらいしないと、割りに合わないだろう」



明石「…ふふ、本当。

悪人になりきれませんよね。提督は」



提督「…」



明石「私を取り敢えず戻したいなら、仮初にでも甘い言葉を言えばいいし、嘘だって言えばいい。なのに、わざわざ命を賭けるような事までして、自分に都合の悪い事言って。酷いんだか、馬鹿正直なんだか、馬鹿なんだか」


明石「…はーっ。すっかり屑なら、こんな想いにも諦めがついたのに!どうしてこうも半端に、いい人ぶるんですかね!」



提督「いい人ぶってなんかねぇよ」



明石「ならさしずめ偽悪者って所ですか。

…ええ、心配かけてすみません。帰りましょう、提督」



提督「ああ。…って油断した所をグサっとか無いよな?」



明石「どれだけ信用無いんですか私」



提督「はは、冗談だよ。…さあ、帰ろう」



明石「はい。…ただ、全部提督の思わく通りっていうのも気に喰わないので…」


明石「…諦めないし、諦めさせませんからね」



提督「…?諦め『させない』?」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−





さて、結局のところ。

あの後何事もなく私たちは帰り。


そして、提督は一応とケジメの為だとして、ケッコンについてを発表しました。


最初こそ諦めの声が各所から出ました。

が、『何処かの誰か』が出した風潮によって、その諦めは、「それ以上の魅力で、ジュウコンを狙おう」という流れに変わりました。



誰の仕業でしょうかね。

ええ、本当。



さて、そうしていると、度重なるアプローチにヘトヘトになった提督がここに来る。


きっと、グッタリとしたあの顔を見せに。




提督「明石ィーっ、なんとかしてくれよぉ、頼むよぉ…諦めるどころか寧ろ皆過激になるわ、それに負けないようにって榛名も更に激しくなるわでいつか俺死ぬよこれぇ…!」



明石「よっ、幸せ者」



提督「否定はしねぇがよ…例え極上のステーキでも腹に死ぬほど詰め込まれたら地獄なんだよ…」


提督「『将来の夢』で最近アンケートとったらよ、一番多いの俺の嫁さんだってよ!?何でだよ、こういうのもなんだが俺と一緒に居るなんてロクな未来待ってねぇぞ!?」



明石「そうご謙遜なさらずに♪」



提督「…いやに上機嫌だな。

…なあ、もしかしてなんだが、今こうなってるのにお前関わってたり…」



明石「さー、どうでしょうね」



提督「……いや、そうだ。明石、明石!」




明石「はい?…え?なんですって?」



明石「将来の夢、願望をコントロール?」



明石「えー、つまり、なんですか」



明石「…『夢』を操る機械を作ってほしい、と?」





…とりあえず、

この慌ただしい日々は続きそうだ。







おわり




後書き

以上です。
また、いつか女の子を曇らせたくなる日まで。


このSSへの評価

69件評価されています


SS好きの名無しさんから
2023-01-22 15:35:06

SUEKJさんから
2022-05-10 23:40:04

SS好きの名無しさんから
2022-01-02 01:20:29

RMA1341398さんから
2021-04-12 01:43:15

ハイフンさんから
2021-03-08 18:24:59

レイルーさんから
2021-01-22 15:49:20

デカマクラ24世さんから
2020-11-12 17:20:55

SS好きの名無しさんから
2020-11-05 15:33:54

SS好きの名無しさんから
2020-10-25 22:06:44

SS好きの名無しさんから
2020-07-21 23:22:53

SS好きの名無しさんから
2020-05-25 12:49:33

SS好きの名無しさんから
2020-05-12 16:47:43

SS好きの名無しさんから
2020-05-07 21:35:26

SS好きの名無しさんから
2020-04-15 00:50:42

SS好きの名無しさんから
2020-04-12 15:00:04

シメジさんから
2020-03-31 18:01:20

SS好きの名無しさんから
2020-03-16 12:34:52

SS好きの名無しさんから
2020-03-13 16:45:44

SS好きの名無しさんから
2020-03-11 12:22:30

みいさんから
2020-02-14 22:10:59

SS好きの名無しさんから
2020-01-15 05:18:25

フィリアさんから
2020-01-04 16:47:17

SS好きの名無しさんから
2019-12-09 02:22:32

ヨーさんから
2019-10-13 01:45:54

SS好きの名無しさんから
2019-10-11 09:25:07

SS好きの名無しさんから
2019-09-13 10:24:45

SS好きの名無しさんから
2019-09-13 07:23:15

SS好きの名無しさんから
2019-09-04 03:55:38

SS好きの名無しさんから
2019-08-25 01:16:35

SS好きの名無しさんから
2019-08-15 18:14:43

2023-02-18 22:17:14

戦艦れきゅーさんから
2019-07-08 01:49:01

SS好きの名無しさんから
2019-06-19 18:41:30

飛龍(ドイツ兵)さんから
2019-06-19 17:24:20

SS好きの名無しさんから
2019-06-05 18:55:09

SS好きの名無しさんから
2019-03-19 22:01:10

SS好きの名無しさんから
2019-03-16 17:44:07

SS好きの名無しさんから
2019-03-03 21:38:49

かむかむレモンさんから
2019-02-05 17:43:24

だるまんじさんから
2019-01-15 00:15:38

ちんぐりまんさんから
2019-01-06 02:03:03

Gangutoさんから
2018-12-27 20:40:07

udonさんから
2018-12-21 09:26:26

SS好きの名無しさんから
2018-12-15 20:53:53

SS好きの名無しさんから
2018-11-23 10:12:27

SS好きの名無しさんから
2018-11-14 22:43:34

SS好きの名無しさんから
2018-10-19 10:38:27

SS好きの名無しさんから
2018-10-17 22:39:20

SS好きの名無しさんから
2018-10-15 00:38:11

SS好きの名無しさんから
2017-12-16 11:46:17

2017-12-05 19:47:10

SS好きの名無しさんから
2017-11-25 02:10:00

SS好きの名無しさんから
2017-11-15 18:44:36

SS好きの名無しさんから
2017-09-06 05:19:24

SS好きの名無しさんから
2017-12-15 22:10:11

SS好きの名無しさんから
2017-08-29 04:07:12

SS好きの名無しさんから
2017-08-28 01:10:01

SS好きの名無しさんから
2017-08-27 06:52:30

SS好きの名無しさんから
2017-08-16 20:34:57

とと提督さんから
2017-07-15 05:57:37

SS好きの名無しさんから
2017-07-14 17:54:37

SS好きの名無しさんから
2017-07-13 00:29:34

SS好きの名無しさんから
2017-07-10 23:26:26

SS好きの名無しさんから
2017-07-10 17:17:41

SS好きの名無しさんから
2017-10-22 14:28:26

Naトリウムさんから
2017-07-06 13:41:37

平月さんから
2017-07-01 13:48:44

SS好きの名無しさんから
2017-07-14 10:29:56

FLANさんから
2017-06-29 01:25:26

このSSへの応援

61件応援されています


SS好きの名無しさんから
2023-01-22 15:35:09

SUEKJさんから
2022-05-10 23:40:01

SS好きの名無しさんから
2022-01-02 01:20:26

RMA1341398さんから
2021-04-12 01:43:17

ハイフンさんから
2021-03-08 18:25:02

SS好きの名無しさんから
2020-11-05 15:34:00

SS好きの名無しさんから
2020-10-25 22:06:47

HAYA月さんから
2020-09-16 21:47:37

SS好きの名無しさんから
2020-05-25 12:49:35

SS好きの名無しさんから
2020-04-15 00:50:39

SS好きの名無しさんから
2020-03-16 12:34:57

SS好きの名無しさんから
2020-01-15 05:18:28

SS好きの名無しさんから
2019-12-31 23:02:21

ヨーさんから
2019-10-13 01:45:50

SS好きの名無しさんから
2019-09-04 03:55:41

SS好きの名無しさんから
2019-08-25 01:16:39

SS好きの名無しさんから
2019-08-15 18:14:44

2019-07-09 09:29:34

戦艦れきゅーさんから
2019-07-08 01:49:02

飛龍(ドイツ兵)さんから
2019-06-19 17:24:21

SS好きの名無しさんから
2019-06-05 18:55:10

SS好きの名無しさんから
2019-06-01 20:38:30

SS好きの名無しさんから
2019-03-19 22:01:12

SS好きの名無しさんから
2019-03-16 17:44:08

SS好きの名無しさんから
2019-03-03 21:38:52

かむかむレモンさんから
2019-02-05 17:43:25

SS好きの名無しさんから
2019-01-19 01:54:24

だるまんじさんから
2019-01-15 00:15:41

ちんぐりまんさんから
2019-01-06 02:03:04

Gangutoさんから
2018-12-27 20:40:18

udonさんから
2018-12-21 09:26:29

SS好きの名無しさんから
2018-12-15 20:53:56

SS好きの名無しさんから
2018-11-14 22:43:32

SS好きの名無しさんから
2018-10-17 22:39:16

SS好きの名無しさんから
2018-10-15 00:38:16

SS好きの名無しさんから
2018-08-26 21:21:24

SS好きの名無しさんから
2018-08-01 19:43:00

SS好きの名無しさんから
2018-07-25 04:14:41

SS好きの名無しさんから
2017-12-28 14:24:06

SS好きの名無しさんから
2017-12-16 11:46:01

2017-12-05 19:46:04

SS好きの名無しさんから
2017-12-01 16:44:20

SS好きの名無しさんから
2017-11-25 02:09:52

SS好きの名無しさんから
2017-11-15 18:44:34

SS好きの名無しさんから
2017-10-08 01:51:37

SS好きの名無しさんから
2017-09-27 21:20:38

SS好きの名無しさんから
2017-09-06 05:19:26

SS好きの名無しさんから
2017-09-01 23:30:44

SS好きの名無しさんから
2017-08-29 08:21:46

SS好きの名無しさんから
2017-08-27 05:50:08

SS好きの名無しさんから
2017-08-20 13:12:53

SS好きの名無しさんから
2017-07-23 21:53:37

SS好きの名無しさんから
2017-07-23 06:37:03

SS好きの名無しさんから
2017-07-14 17:54:35

FLANさんから
2017-07-12 14:45:09

SS好きの名無しさんから
2017-07-10 23:26:26

SS好きの名無しさんから
2017-07-10 13:30:08

SS好きの名無しさんから
2017-07-10 06:28:04

FINALレオさんから
2017-07-10 03:27:45

SS好きの名無しさんから
2017-07-10 02:24:02

平月さんから
2017-07-01 13:48:46

このSSへのコメント

55件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2017-07-01 09:50:25 ID: o91hFyye

好きな娘だからイジメタクなるんだねえw

2: Naトリウム 2017-07-07 08:33:18 ID: -wM-y38R

期待

3: SS好きの名無しさん 2017-07-10 23:26:49 ID: HByen4n8

支援

4: SS好きの名無しさん 2017-07-11 19:47:34 ID: GI4siO8K

いいのういいのう…

5: SS好きの名無しさん 2017-07-11 20:58:42 ID: UJPryVnC

頑張ってください期待してます

6: SS好きの名無しさん 2017-07-24 05:49:34 ID: jZlhbQ84

面白いです。ぜひ続けてください

7: SS好きの名無しさん 2017-08-20 13:12:38 ID: sza7NcBn

榛名来たー!(゚∀゚)続きとても楽しみにして待ってます!

8: SS好きの名無しさん 2017-08-21 19:19:59 ID: 5uqBtGFw

泥棒猫って言われるシチュだと見た!いいぞもっとやれ

9: SS好きの名無しさん 2017-09-06 14:56:53 ID: R6PWwoSW

悪魔の魅せる夢は甘美で切なく最悪な物になる。
其は予知夢のように人を惑わせる

10: SS好きの名無しさん 2017-10-15 02:52:01 ID: OCD1btFL

新しい引かれらルな

11: SS好きの名無しさん 2017-10-22 14:29:31 ID: 6cJkE6L2

可能であれば瑞鶴と葛城をお願いします。

12: マロニー 2017-10-22 19:51:08 ID: Rc3z_Rcz

すいません、二人纏めてという事でしょうか?そうで無いならば取り敢えず葛城了解です。

13: SS好きの名無しさん 2017-10-22 23:48:50 ID: 6cJkE6L2

二人セットっぽいイメージがあるので瑞鶴と葛城と書きましたが、葛城だけでもよいです。

14: マロニー 2017-10-23 00:01:50 ID: MEwKkUbx

二人同時登場させるという事がまだ未熟故上手く出来なくて…
申し訳ありませんが、この場は葛城のみとさせて頂きます。

15: SS好きの名無しさん 2017-10-30 02:14:55 ID: oah-Hgq6

陽炎型からもお願いします

16: マロニー 2017-10-30 17:51:24 ID: TyKEBPtQ

了解です。陽炎型から一人見繕い、リクエストに答えます。

17: SS好きの名無しさん 2017-11-07 06:44:01 ID: Odq5Kjg9

トラウマの如月ショックを暖かく包んであげてくれよ。
何だかんだで彼なら傷を癒せる。
皆さ。心の中の闇が見せてるんだ。早い内に解消し
包んであげて。霞ちゃんが良い例だよ。

18: マロニー 2017-11-07 21:13:53 ID: e88KdtMW

コメントありがとうございます。
如月を果たして癒せるかどうか…

ともかく、リクエスト了解です。

19: SS好きの名無しさん 2017-11-22 07:25:23 ID: FxK9Swv9

村雨をお願いします

20: マロニー 2017-11-23 19:09:17 ID: Kknxwmqh

村雨了解しました。

21: SS好きの名無しさん 2017-11-25 20:56:03 ID: J-z5ggzF

千代田でお願いします。

-: - 2017-11-25 23:07:38 ID: -

このコメントは削除されました

23: SS好きの名無しさん 2018-01-05 06:28:29 ID: IwxTEK59

初夢で戦艦になれるいいゆめをプレゼント!
清霜君。駆逐だからこその汎用性なんだよ。
だから指輪を贈ると戦艦になれるアプデを早く実装してくれw

24: みがめにさまはんさみかたき 2018-09-28 22:59:15 ID: O4VTtZ6_

私は北上さんを所望します!
私は北上さんを所望します!

25: みがめにさまはんさみかたき 2018-09-28 23:04:09 ID: O4VTtZ6_

リスト
☑️葛城☑️嵐□如月□村雨□千代田
□北上さん


陽炎型の天津風の声優が俺の大好きなキャラの声優をやっている小倉さんとは思わなんだ

26: マロニー 2018-09-30 19:36:33 ID: onv0mMEa

リクエスト了解です。丁寧にリスト化までありがとうございます。身勝手な事に休止してしまってる本シリーズもいつかは進めたいです…

27: SS好きの名無しさん 2018-10-15 00:42:54 ID: 87EfEkO6

ぬいぬいと野分でお願いします

28: マロニー 2018-11-09 20:18:07 ID: S:P6UVmQ

返信が非常に遅れてしまい申し訳ありません。リクエスト了解です。

29: みがめにさまはんさみかたき 2018-12-14 01:39:53 ID: S:YRCLo3

更新したとおもったら更…あれ?

30: SS好きの名無しさん 2018-12-15 14:43:18 ID: S:wxi_Yt

待ってました
島風とか川内とかもお願いします

31: マロニー 2018-12-21 13:41:23 ID: S:BxKIL_

見て下さってありがとうございます。リクエストの方は、一先ず川内の方を了承させていただきます。

32: みがめにさまはんさみかたき 2018-12-27 09:57:42 ID: S:DKytS0

リスト
☑️葛城☑️嵐□如月←イマココ□村雨□千代田
□北上さん□川内←NEW

スマブラならしかたないな。
リドリー使いやすいよね

33: SS好きの名無しさん 2018-12-28 04:13:39 ID: S:MjlGXo

由良さんとか。見てて罪悪感感じるレベルで思い詰めそう

34: マロニー 2019-01-05 23:20:15 ID: S:5Sg8TZ

拝読の方ありがとうございます。
由良さんリクエスト了解です。

35: SS好きの名無しさん 2019-02-02 01:39:52 ID: S:d71gea

発育の良さやキツい言動で忘れがちだけど武器無いと
霞も村雨もまだ子供だものね。成熟にはまだ早いし

36: SS好きの名無しさん 2019-02-02 20:00:34 ID: S:Hl7DKB

海山江風の三姉妹、お願いします

37: マロニー 2019-02-04 18:58:12 ID: S:1r69F0

お読みいただきありがとうございます。
その中の一人という事でしたら海風のリクエストをお受けしたいと思います。
三人同時という事でしたら、またコメントいただければ幸いです。

38: かむかむレモン 2019-02-05 17:43:46 ID: S:6ThDmQ

あ~^たまらねぇぜ(恍惚)

39: みがめにさまはんさみかたき 2019-03-20 01:37:00 ID: S:zz52g9

村雨編を見てオルフェノクを思い出したのは俺だけだろうか
リスト
☑️葛城☑️嵐□如月←イマココ☑️村雨☑️千代田
□北上さん←ついに彼女が降臨する!□川内□由良←NEW!□海風←NEW!

40: SS好きの名無しさん 2019-03-25 23:56:41 ID: S:Wb_2sC

吹雪で見てみたいなあ

41: マロニー 2019-03-30 19:33:40 ID: S:GUyO-9

返事が遅れてしまって申し訳ありません。
吹雪了解しました。更新が遅く、リクエスト消化にまでかなり時間がかかってしまいそうですがそれまでお付き合い頂けたら幸いです。

42: SS好きの名無しさん 2019-04-22 00:37:52 ID: S:NGhyLK

北上さん結構病んでらっしゃる…?
更新乙です!

43: みがめにさまはんさみかたき 2019-05-10 01:21:39 ID: S:klhxam

ようやく忙しくなくなってきたから開いてみたら……我が女神よ!
おぉ、なんと尊いことか!感謝します、我らがマロニーよ…

リスト
☑️葛城☑️嵐☑️如月☑️村雨☑️千代田
☑️北上さん□川内←イマココ□由良□海風

44: SS好きの名無しさん 2019-06-19 13:15:19 ID: S:4OtgMj

(・∀・)イイ!!

45: 戦艦れきゅー 2019-07-08 01:52:43 ID: S:YH0y60

最高にハイな作品だァ!!
あ、リクエストしてもいいなら青葉のマジにヤバイレベルの絶望姿が見たいです(クソ下衆←

46: マロニー 2019-07-08 23:52:37 ID: S:ocwLB6

お読み頂きありがとうございます!
青葉リクエスト了解です。

47: SS好きの名無しさん 2019-09-04 04:24:16 ID: S:UcW-lJ

更新ありがとうございます
無理せず、頑張ってください!
明石に悪夢って見せれますか?
出来たら明石をリクエストしたいです!

48: マロニー 2019-09-05 00:08:56 ID: S:9ZiM8m

お読み&お気遣いありがとうございます!何とか早めに更新はしたいです…
リクエスト了解です。明石さんに悪夢を見せます。

49: 戦艦れきゅー 2019-10-01 09:21:32 ID: S:sU1MNI

かっはー!
やっぱりかわいい娘の絶望姿は最高だぜ!!
あんたぁ天才だぁ!!

50: フィリア 2020-01-04 16:47:08 ID: S:YQpabu

支援なの〜!
どーしてもニヤつくねぇ♪
北上さまと川内ちゃんの絶望した様子
最高なのー!

51: SS好きの名無しさん 2020-01-25 03:55:21 ID: S:0KEgXN

ついにクライマックス感..

52: Ganguto 2020-02-12 22:24:42 ID: S:N84ZRF

お疲れさまでした! 次回作楽しみにしてます!

53: 宙夜海 2020-02-15 09:56:33 ID: S:wA6ekH

お疲れ様でしたぁぁぁっ!!!!!!!
完結した....あぁぁ....
素敵な作品でした!!!!
次回作もすっごい楽しみです!!!!!

54: SS好きの名無しさん 2020-11-07 17:38:21 ID: S:0xHiiD

マジで天才だな

55: SS好きの名無しさん 2021-09-06 14:56:27 ID: S:KbomSh

川内のは流石にやりすぎましたね


このSSへのオススメ

6件オススメされています

1: みがめにさまはんさみかたき 2018-12-13 01:13:43 ID: S:oqVjmF

提督のゲスさが素晴らしい

2: SS好きの名無しさん 2019-02-02 20:00:54 ID: S:b8HOyB

たまんねえや

3: 戦艦れきゅー 2019-10-01 09:22:02 ID: S:LD1T4S

最高にハイだぁ!!

4: SS好きの名無しさん 2019-12-24 00:43:26 ID: S:OidG6c

これはいいものだ

5: フィリア 2020-01-04 16:47:43 ID: S:jWnOtR

いいものなのね!
たまんないの!

6: SUEKJ 2022-05-11 17:34:27 ID: S:Uf88In

最高やんけさ……


オススメ度を★で指定してください