時雨「アルコール・狂想曲」
またまた時雨短編です。
季節外れな代物です。一人称(提督)視点です。
「急げ急げ!」
…俺がこの真夏の日なんかに全力疾走してるのには理由がある。
一つは、本当に急に雨が降ってきたから。鎮守府からほんの少しだけ離れた、その一瞬をついて。しかもそれがとんでもない勢いだったから困ったものだ。
正直言って俺一人だったなら濡れても良かったんだが…もう一つの理由はそれだ。
「ようやく着いたな。…大丈夫か?水分を補給しないとな」
「ううん、大丈夫だよ」
走ったにも関わらずその顔に疲労をあまり見せぬこの艦娘、秘書艦である時雨の存在だ。
女の子である彼女が、炎天下に相応しい薄着で雨で濡れてしまったら…色々とまずいだろう。
あいにく傘や合羽のような気の利いた物は持っていない。故に、ダッシュで鎮守府まで向かって行ったのである。
「そうだな、喉乾いていないか?冷蔵庫の中にあるものなら適当に飲んでいいぞ。大した物は置いて無いが…」
「あはは…それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかな?」
そうして俺が身体を拭くためのタオルを出している間に、後ろからカシュっと音が聴こえてきた。どうやら缶のジュースを選んだらしい。
…缶のジュース?
変だな、俺はそんなもの置いてなかった筈。
少し嫌な予感がして。足早に時雨がいる場所に向かう。そうするとそこには空いた缶と…
「あれ?提督、どーしたの?
そんないそいでこっちに来てー」
…ヤケに顔が赤い、我が秘書艦が居た。
机に置いてあるその缶をちらっと見る。
チューハイだ。買った覚えは無いが…
隼鷹辺りの置き土産か何かだろうか?
いやはやそれとも…と考えを巡らそうとする。
そうしているその間にも、時雨はその缶を手に取ろうとしてしまう。
これ以上飲ませたらまずいと、先にそれを手に取り距離を離す。
伝わる重さはかなり頼りない。きっと、一気に呷いで飲んでしまったのだろう。
「ていとくー…?返してよー…
喉乾いたのー」
「悪いがコレは没収だ。
…違う飲み物を用意するから待っていろ」
「…はーい、りょうかいです」
アルコールの影響かいつもの毅然とした態度とはまるで違う、ふにゃふにゃした口調での時雨の返答を背に冷水を用意する。
(しかし…
一缶も飲んでいないのにあんなに酔うとはな)
身体が小さい事もあり、アルコールが入る容積が少ないのだろう。見た目のみで言うならば彼女はまだ少女だ。そういった抗体が無いのも不思議では無い気がする。
そんな事を思いながらコップを出す。水を飲めばアルコールの分解が少しは早まると聞いた事もあるし、これで一安心だろう…
「うー…あつい…」
…悲鳴をあげそうになった。
時雨は。そう言って服を脱ごうとしていたからだ!!
なんとかそれを止める手が間に合い、最悪の事態は免れたが…
「そ!それはダメだ!
暑いなら扇風機もつけるから、な?」
「えー?別にいーじゃん。
てーとくったら、イジワルだなぁ…」
「ダメだ!そういうのは大事な人とか好きな人の前でしかやってはいけない…!」
「…? なら大丈夫でしょ?」
…え、と声を上げようとした刹那、彼女はその重心をぐらりと前に倒す。
何とかそれを全身で抱き止める。
すると彼女はそのままこちらの気を知ってか知らずか、耳元で囁く。
アルコールの影響か、扇情的に。
アルコールの影響か、頬を赤く染めて。
「ぼくはイイよ…君はどうなの?」
「…ッ!」
…何と答えたものかと迷い、少しの沈黙。
「…俺は…」
……すると、目の前からスー、スーといった寝息が聞こえてくる事に気がつく。
「…時雨?」
軽く身体を揺すっても起きない。
どうやら酔いが回りきったようだ。
ふぅ、と溜息をつく。
そしてふと、思う。
(…『俺は』。何て言おうしたんだろうな)
考えようとしてやめた。
今は、この酔っ払いの介抱が先だ。
(…俺も酔ったかな)
火照った頬は、一向に涼む気配が無い。
…やはりケチってないでクーラーをつけよう。
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「痛っ…あれ、ここは…?」
「おお、気がついたか」
頭を抑えながら起き上がった時雨は、いつも朝に聞こえる筈の無い俺の声にびっくりしたらしく、激しく狼狽える。
「て、提督!?これは、ええと…!」
「…そうだな。昨日の出来事を覚えてるか?」
「……えーと、覚えて無い…かな」
「そうか。なら事情は後で話すが…
ちょっと待っててくれ、水を持ってくるよ」
「う、うん……」
そう一言だけ断ってから寝室から出て、冷蔵庫の方へ向かう。
そして…隼鷹か、那智か?誰でもいいが、これの元凶に対してこっぴどく絞ってやろう。
そう強く思った。
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少女は頭痛に耐えながら状態を起こす。
そしてそのまま前に倒れ、顔を布団に埋めた。
その顔を、耳まで赤くしながら。
(……!!ごめんなさいごめんなさい…!
嘘ついちゃってごめんなさい…
…昨日の全てにごめんなさい!
覚えてます、一言一句違わずに!)
昨日の自分の軽はずみな行動や発言の何もかもが今はただ恨めしい。
顔が燃えるほどの恥と割れそうな程の頭痛の中。彼女は心で固く、もう酒は飲むまいと誓った。
おわり
以上です。
お酒の失敗には気をつけましょう。
あとタイトルの狂想曲はカプリチオと読みます。
ん?
タイトルが替わった?
タイトルがしっくり来なかった為変えてしまいました。混乱を招いてしまっていたら申し訳ないです…
時雨ちゃんは育ちの良い14歳くらいなイメージ。姉もだけど
1ですが楽しく読ませて貰いました。
海風でもいけますね♪
え?時雨お酒弱すぎ!