2024-05-06 18:14:45 更新

概要

天気の子の面々が「君の名は。」のリバイバル上映に参加。君縄オタクの帆高の解説がさく裂します。


前書き

「天気の子」、まずは大ヒットおめでとうございます。
とはいうものの、エモーショナルな前作「君の名は。」ほどのストーリーの重厚さはなく、ここまでシンプルで大丈夫なのかな、といわざるを得ません。
それでも、帆高16歳、陽菜15歳、凪10歳前後。まわりを囲む大人たちも印象的な人々が多かったわけですが、彼ら登場人物たちに「君の名は。」を見てもらい、感想を述べてもらうというのが当初のプロットでした。
だけども。

私の提唱する「三葉は死に至っていない」という結論はどうあっても広げたい。ならば、マジの感想文になる、ほだひななぎの三人で語ってもらう方が有用だろう、ということで、当方の作品を若干アレンジしたのが本作となります。
合いの手など一部に改変を加えただけで、ほぼ前作と同じ内容。ラストはめちゃくちゃ変えてますが、これくらいは、サービスショットということで。

2019.7.29 ほだひななぎの三人で語る「君の名は。」論を製作決定。当方初の「天気の子」ss。
2019.7.30 第一版第一刷(12246字) 完成、公開。
2019.10.2 誤字修正・装丁なおし(12260字)
2022.10.13 発見した誤字修正、三点リーダー配置見直し等。12284字。
2024.5.6 感嘆符の全角化など。12338字。


----2024年 夏----

帆高 「ねえ、陽菜さん。久しぶりにデートでもしない?」

陽菜 「あれぇ?帆高、最近、積極的になってない?」

凪 「うん。たしかに。貧乏家出少年からちょっとランクアップしたらすぐこれだ」

帆高 「いやいや、先輩もご一緒していいですから」

陽菜 「それじゃあ、デートにならないじゃん!」

帆高 「ま、まあ、天野家と森嶋家の更なる友好をですなぁ……」

陽菜 「何しどろもどろになってんのよ!」

凪 「相変わらずだよな、帆高って」

帆高 「で。行くの?行かないの?」

凪 「そんなの」

陽菜 「行くに決まってんじゃん、帆高のおごりだもんね」

帆高 「げっ(まあいいか、バイト代はあるし)」


帆高 「で、今日お誘いしたのは、この映画なんです」

でかでかとかざられた瀧三。帆高が見ようとしていた映画は「君の名は。」だった。

陽菜 「えぇ~。帆高に言われてDVDも買ったし、ことあるごとに見てきたから、もういいよ」

凪 「オレも。帆高、他のにしようよ」

帆高 「なんで俺がこんな10年近く前の作品推すか、まぁだ分かっていらっしゃらないとは、嘆かわしい……」

凪 「いや、名作なのはわかるよ。なんで今映画館でみるんだよ?」

帆高 「きみら、劇場でこの作品、見たことないだろ?」

陽菜 「あ、そう言えば。お母さんのこともあったけど、流行りものとかには無頓着だったな」

凪 「オレはまだ乳飲み子みたいなガキだし、余裕もなかったしな」

帆高 「僕が初めて見たのは、中学生だったかな?先輩と同い年くらいだったと思う。両親と一緒に東京に出た夏休みに観に行ったんだった」

陽菜 「そうだったんだね」

帆高 「あの彗星が落ちるあの冒頭のシーン見ただけで引き込まれちゃったんだ。以来、ことあるごとに東京行っては映画見るなんてことになっちゃったんだ」

凪 「え?わざわざここまで来て?アホじゃね」

帆高 「いや、先輩。それだけのパワーがこの映画にはあったんだよ。そして、僕だから到達できたこの映画の本当の姿を見てもらいたくて今日お誘いしたってわけ」

陽菜 「確かに、いくらリバイバルって言ったって、こんなにお客さんがいるなんて、なかなかないもんね」

凪 「オッサンばっかりかって思ったけど、意外に若めのカップルも多いなぁ」

帆高 「その後の作品の、影響もあるんじゃないかな(テレ」

陽菜 「お、オホン。ま、まあ、その辺でいいんじゃない、内輪ネタは」

凪 「まったくだよ。恥ずかしいったらありゃしない」


(開演、濃密な106分)


(スクリーンを後にする3人)

帆高 「(まだ号泣している)」

陽菜 「もう、大の大人がみっともない。それでも大学生か!」

凪 「俺のハンカチ、使うかい?」

帆高 「あ―、やっと落ち着いたぁ……」

凪 「まあ、泣きたくなるのはわかるけど、セリフをぶつぶつ言いながら泣くのって、ドン引きなんですけど」

陽菜 「え?帆高、セリフ、覚えてたの?」

帆高 「そりゃそうでしょう。あの名シーン、自分で演じたいなって何度思ったことか」

凪 「いや、瀧は瀧だし、帆高は帆高。一緒にはできないと思うけどな」

陽菜 「でも、スクリーンの向こう側に居る人になりきろうとするなんて、帆高、凄いね」

凪 「なに褒めてんだよ、いくら好きでも線引きってのがあるからね」

帆高 「それだけの破壊力、成りきらせるような力があるってことだよ」

凪 「はいはい、分かった分かった。でも、今日俺たちを連れてきたのって、それだけが目的じゃぁないんだろ?」


帆高 「お二人さんはスクリーン初体験だったけど、どうだった?」

凪 「まあ、帆高のいった意味はよくわかったわ。開始一秒で引き込まれるって、そういうことかってね」

陽菜 「大きいから、目立たないところとかもよく見えたしね。お父さん犬とか」

帆高 「え?言っとくけど、あの白犬は出てないよ」

陽菜 「あれ?なんかの間違いかな……」

帆高 「この作品は何回も観てすべてが手の内に入っている人にしてみれば良くできた話だなって思うわけですよ」

陽菜 「え?どのあたりが?」

帆高 「あの彗星天体ショーのシーンが特にそうだね」

凪 「オープニングもなかなか綺麗だったけど、それも関係ある?」

帆高 「ああ、大あり。オープニングって、彗星の破片が落ちてくるところを映すわけだけど、糸守の町って電気ついてたよね?」

陽菜 「そうだったかしら?」

帆高 「そうなんだよ。実際はラストシーンのように、停電して落ちてくるのが正しいんだよね」

凪 「でも、これって、登場人物みんなで歴史を変えたからオープニングを否定できたってことでいいんじゃね?」

帆高 「そういう見方になるように、仕組まれているんだよ。だから「ああ、歴史は書き変わったんだ」って思う人が大半だと思う」

陽菜 「じゃあ、帆高は『あのオープニングは間違っている』とでも言いたいわけ?」

帆高 「間違っているって言うんじゃないんだな。正解ではない、の方がしっくりくるか……」

凪 「それって言い方変えてるだけなんですけど……」

帆高 「でも、このストーリーが、タイムリープが主題にないことくらいはわかってくれるだろ?だから、歴史が変化した、は都合よすぎるんだよ」

陽菜 「都合よすぎる、ね……それは何となく理解できるわ」

帆高 「で、俺はいろいろと思い返してみたんだ。推理ものの小説にしたって、ラストから読み進めれば真犯人はすぐさまわかってしまうけど、そこに至る経緯がわかりやすくなるって言う手法を使ってストーリーを分析しようと思ったんだ」

凪 「たいてい、あの手の小説って、ラストから話しを膨らませてるって聞いたことあるし」

帆高 「で、同じことが「君の名は。」で言えば、2013年10月4日に誰も死なないっていうことが、"確定"するタイミングだって気がつくんだよ」

陽菜 「え?誰も死んでないって考え方、はじめて聞いたよ!それってどういうこと?」

帆高 「画面の瀧くん、2013年の事故の後のwebニュースを見ていただろ?その時のケータイは、2013年に売られていたiPhone。要するに2016年に見ていたわけではないってことなんだよ」

凪 「ああ、あの映像のままなら、2016年に見ていたって錯覚する人がいてもおかしくないし、時間通りだって思わせたってことか」

帆高 「まあ、それもあるね。ところで、あのとき2013年の瀧くんが見ていたニュースの内容、覚えてる?」

陽菜 「なんだっけ?」

帆高 「先輩は?」

凪 「変電所で事故が起こって停電していたっていう内容の記事だっただろ」

帆高 「お、さすが先輩。よく見ていらっしゃること」

凪 「それはちょっととだけ違和感あったから、気になっていたってこともあるけど……」

陽菜 「それとオープニングと、どういう関係が……あれ?」

瀧 「ほら、だんだんおかしいことに気が付くだろ?映像では電気が付いているのにニュース記事では停電していることになっている……これってどういうことか?」

陽菜 「矛盾しているのか、それとも書き換えたのか……え?もしかして……」

帆高 「映画の中で、三葉たちが演じた歴史が正解で、それ以外は間違いだってことなんだよ」

凪 「間違いってか。過去から観たら正解なんかないけど、未来から観たらそういう考え方もあるとは思うけど……」

帆高 「それじゃあ説明していくよ。まず、ぼくの中では、この映画ではそもそも三葉をはじめ、町の人はだれ一人死んでいないラストシーンにつながる部分が正しい、それしか事実はないって思っているんだよ」

陽菜 「それはなんとなくわかるよ。だって、テッシーも、サヤちんも、三葉をいじめていた松本もその取り巻き二人も、みんな生きていたわけだからね」

帆高 「そうなった時に、起こった現象を逆にたどっていくと破片衝突←三葉町長説得←破片分離←サヤちん捕まる←町役場大騒動←サヤちん放送始める←変電所爆破 という順番だよね」

凪 「なんかいろいろ端折ってるけど、だいたいそんな感じだよな」

帆高 「先輩、突っ込みありがとう。でもこれって、瀧が入った三葉の仕業じゃないよね?」

陽菜 「あ、ほんとだ」

帆高 「確かに道筋は、瀧の入った三葉が立てた計画だけれども、実行しているのは三葉本人とその仲間たちだよね」

凪 「この場面は確かにそうだわ」


帆高 「ここからが問題なんだよ。みんなは、三葉が浴衣を着て、天体ショーをテシサヤと見ているのが”正しい歴史”で、隕石の直撃を受けていると思ってしまうだろうし、それはそれで仕方ないんだと思う」

陽菜 「誰だってそう思うでしょう」

帆高 「でも、もしこの映像が間違っていたとしたらって考えるようになったんだ」

凪 「間違ってるって……起こってなかったってこと?」

帆高 「ああ、彗星のカタワレが落ちてくるという事実以外はね」

陽菜 「でも、そう考えるのって、かなり無理があるんじゃないの?三葉やテシサヤだって影響受けているわけだし……」

帆高 「じゃぁ、陽菜さんは、劇中の三葉が死んだって証明できる?」

陽菜 「あ、で、でも、三葉の目には割れた彗星のカタワレの残像が……」

帆高 「その後暗転するけど、爆風にさらされて死んだ、とは描かれていないよね」

陽菜 「確かにそうだけど、あの後悲劇が起こっているのは間違いないはずよ」

帆高 「そこなんだよなあ。映画って、いろいろと考えさせられる部分があるから面白いんだよな」

凪 「どういうこと?」

帆高 「俺は、いろいろ考えて、死んでいないと思っている、陽菜も、先輩も、とりあえず画面上をなぞって画面の三葉は死んだと思っている。俺たち三人の間でもこれだけ意見が分かれるんだ。多くの人も、『三葉は一度は死んでいる』と考えるのが妥当だと思うんだよな」


陽菜 「それでもさっきのことの答えになってないんだけど……」

帆高 「ああ、webニュースの件ね。2013年のニュースでこの記事をその時の瀧が見ていた、ってことは、この事実しか存在しない、ということなんだよ。あ、ちなみに記事が配信されているのは2013年10月6日だけどね」

凪 「この事実しか存在しない?彗星は落ちてるんだろ?もうちょっとこう……うまく説明してくれないかな?」

帆高 「言い方を変えようか。電気が付いている2013年10月4日の糸守町の出来事は、この事実に反する出来事になってしまっている、というのでどうかな?」

陽菜 「停電していない糸守が間違ってる?それはちょっと無理ありすぎじゃない?だって、死んでいるから名簿とかにも記載があったわけでしょ?」

帆高 「500人程度の名簿が、あれほどの厚さになるのはむしろおかしいよね」

凪 「サヤちんとテッシーだって書かれてたし……」

帆高 「住んでる場所も地区も違っているはずなのに、彼ら二人がカップルのように並んで書かれているのは明らかにおかしい。だいたい、彼らの家族が巻き込まれていないと考える方がどうかしている。勅使河原の自宅は、神社を横目に見られる場所に位置しているので、確実に隕石落下での被害範囲の中。早耶香の自宅の位置関係はわからないまでも、二人が並んでいるのは、それこそ紙面の都合か、夢の中の出来事かのような記述なんだよ」

陽菜 「それはそうだけど……」

帆高 「もう少しだけ遡ろうか。三葉の書いた日記が瀧の携帯から消えていくシーン。あんな風にまどろっこしく文字化けまでして消えていくなんてありえない」

凪 「あ、それはオレもそう思った。いきなり消えている方がドギマギ感が増幅されるのになぁ、なんて」

帆高 「あのシーンは、電子的にもおかしな現象だといっていいよね。さらにもう少し巻き戻すね。ラーメン店で、瀧だけはなぜか10月中旬なのにTシャツ一枚でラーメンすすってたよね」

陽菜 「あ、そうだった?それ、気が付いてなかったわ」

帆高 「それにバックで流れている野球中継。応援団の音声が入ってたから、国内の試合はほぼ確実。でもこの時期にやっているのって日本シリーズくらいで、しかも日本シリーズは金曜日に試合の設定はないんだよ」

凪 「確か、瀧達御一行は金曜日からの2泊3日の旅行だったもんね」

帆高 「だいたい、糸守の地形を町の人たちがだれ一人言い当てられないって、どんだけ地元愛がないんだ、と思ってしまったよ」

陽菜 「まあスケッチだし、色が付いていなかったことはあったとは思うけど、湖の存在だけでわかりそうなものだったしね」

帆高 「東京から飛騨に向かう部分も書いてあることは結構めちゃくちゃ。新幹線の座席が逆に描かれている/車内アナウンスが、東京出発直後の内容なのに風景は田舎っぽいところ/飛騨古川駅の2番線には「ひだ」は入らない/気動車の排気ガスが排出されるマフラーの位置は画面左側で、あの煙突状の突起物は信号炎管というもの/名古屋駅通路の通過時刻と乗った「ひだ」に一時間程度のタイムラグ などなど……」

凪 「すげえよ、帆高。そんなに物理的におかしな描写があるんだ。で、帆高って鉄道マニアだったっけ?」

帆高 「違うけど、新海監督って、過去作含めて、鉄道関係の描写にすごい力の入れようなんだよ。だからその彼がこんなに間違いを提示し、「あ、まちがってたわ」とならず、円盤でも修正してないってことは、"これが本当"ということを示したんだと思う」

陽菜 「でも、客観的に見て、この間の情報っておかしなことばっかりだったことは、今の説明でわかったわ」

帆高 「もう一つ。瀧は友人以外には計画を知らせていないはず。なのに待ち合わせよろしく、司と奥寺先輩も付いてきてしまっている」

凪 「てことは、司も学校休んだってことだろ?瀧と司が休んでたら、学校でちょっとした話題にもなるだろうし」

陽菜 「司に言われたにせよ、奥寺先輩の同行は確かに引っかかるわねえ」

帆高 「だろ?今までは確かに入れ替わりのドタバタばっかりだったのに、ご神体に口噛み酒を奉納して、急に意識が2016年10月3日に飛んでからの瀧って尋常じゃない部分が結構多いんだよ」

陽菜 「デートの最中に先輩にも『今日はなんだか別人みたい』って言われてたしね」

帆高 「あ、まだあったよ。2016年10月3日って月曜日なのに、どうして三葉はデートの約束、取りつけたんだろ?」

凪 「あ、それ、オレも気がついてなかった。日曜日だと思いこんでたけど日曜日って前日の10月2日だもんね」

帆高 「学校も普通に休みだった様子。その上駅前は、休日みたいな感じだし、デートスポットもカップルだらけ。これもおかしな部分だよね」

陽菜 「本当ね。こんなに出てくるんだ」


帆高 「こんなにおかしな部分がこの時間帯だけ出てくる。瀧がスケッチを描き始めてから、いや、むしろデートを始めてから、でもいいかもしれないなぁと思うけど、図書館までの出来事のうち、ミステリアスに描かれている部分が多い。そこから導き出した俺の結論は……」

陽菜 「え、なになに?」

帆高 「この間に観客が見た瀧の画像はすべてが「夢の中の出来事」であり、本物ではない。よってお祭りのシーンでも三葉は死に直面していない」(ドヤァ)

凪 「いやいやいやいや!そんなはずないって!あの局面で三葉たちが死んでいないって考える方がどうかしてるよ」

帆高 「じゃあ、逆に、三葉が死んでいる方が納得いくってか?」

陽菜 「だってそうでしょ?あの彗星から隕石が分離したのは、落下の一時間半ほど前(19:20)。それまでに退避するなどの時間的余裕はどこにもないはずよ」

帆高 「陽菜は、とにかく「一旦は死んだ三葉が、歴史をやり直して死なずに済んだ」説をとりあえずは信じるってことだよな」

陽菜 「ええ」

帆高 「先輩も?」

凪 「それしか答えはないだろうよ」


帆高 「(ニヤリ)じゃあ、冒頭のこのセリフはどう説明つける?三葉が言ったのは『そういう気持ちに憑りつかれたのは、多分、あの日から』だったよな」

陽菜 「え?」

凪 「そうだっけ……」

帆高 「だから、”そういう気持ちに憑りつかれる”ことがお二人の思っている状況で実現可能なら、その説を認めるよ」

陽菜 「あ!三葉は、瀧に出会ってないと、そういう気持ちには憑りつかれないはずだわ……」

凪 「あの日、は、二人が出会ったことのある、2013年10月4日。「あの日、星が降った日」と瀧も言いなおしているから、前日の出会いである2013年10月3日ではないことがわかるね」

帆高 「ご名答。では、三葉をはじめ、皆さんが見てこられた、テシサヤと3人で彗星ショーを見ている状態で、この感情って……」

陽菜 「浮かばない……でも待って!」

帆高 「お、まだ俺の説に楯突こうってのか?」

陽菜 「最初に死んでしまっていて、2013年10月4日をやり直したことで生き返ったとしたら、どうよ?」


帆高 「あー、まぁだこのストーリーがわかってないよなぁ。もう一回2013年のwebニュースに戻るよ」

凪 「えぇ、どうしてまた振出し?」

帆高 「いや、ここが重要ポイントだからだよ。もう一度言うけど、2016年に歴史は新たに紡がれたと、みんなは思っている3年前の2013年に、14歳の瀧は変電所爆破の記事を見ているんだよ」

陽菜 「それはさっき聞いたわよ」

帆高 「なんでこのときだけ、webニュースが登場したのか。それはそれが「正しい」からに他ならないわけよ。その前の「自衛隊提供」の避難状況を示した映像も動いている動かぬ証拠。これが真実だったことにつながるんだよ」

凪 「確かに、ほかのシーン、図書館でも検索している様子は映っていても登場人物が見たであろうそれらを観客は実際の映像とかは見てないもんね」

帆高 「あるのは、雑誌や新聞の記事という文字情報ばかり。このときに2013年の実際の状況を示す動画なり、ニュース映像があり、観客である我々もそれを目のあたりにしていたら、俺だって「歴史が書き換わったわ」と認めざるを得ないけどね」

陽菜 「でも、それはない。でも500人が死んでいる記事はある。矛盾している、という部分は何となく理解してきているけど……」

帆高 「2013年の瀧の時間で考えると、10月3日に見ず知らずの高校生の女性から何か『名前はみつは』とか言われながら紐を渡された、その次の日に糸守隕石災害があったわけだけど、ここで死者が出ていたかどうか彼の中では記憶がない。3年後に入れ替わりが起こるわけだけど、過去のことは訂正・修正・書き替えられない、と考えると、どうなのか、ってことだよ」

凪 「つまり?」

帆高 「2013年の(誰も歴史をいじっていないと思われる)時点で変電所爆破の記事を見ているということは、もはやこれは動かしようのない事実。オープニングで電気のついている糸守町に落ちてくる隕石の画像そのものも、間違っていると断定できてしまうんだよ」

陽菜 「(ゴクリ)だとしたら……」

帆高 「だから、2013年10月4日の時点で「電気が付いている」糸守町の画像はすべて間違いなんだよ。ということは、浴衣に着替えている三葉も、一緒に随伴しているテッシーもサヤちんも、みんな間違ってる。よって、起因するすべての事象は間違いということが証明できる、というわけだよ」

凪 「間違い、とは言うけど映像になってはいるよね?」

帆高 「そこが監督さんの凄いところだと思うんだよ。間違いというより、これが正しいと見せかけることで”ウワ、三葉死んじゃった”と思わせる。そうすると、当然その後の瀧の動きは必然的になる。『世界のどこにいたって、俺がもう一度必ず会いに行くって』という思いを募らせていく。だから彼の動きに共感するし、感動できるんだよね」

陽菜 「うーん、なんかそこまで深いお話だとは思ってなかったなぁ……」


帆高 「そろそろ結論にはいるけど、世の中のオタクといわれる人は、別の時間軸がどうとか、いろいろ解析しておられるみたいだけど、この作品は至ってシンプルだと思うんだ」

凪 「最後の入れ替わりをしてからの歴史が唯一無二ってこと?」

帆高 「そう。だから、瀧と三葉の時空を超えた入れ替わりも起こったわけだよ」

陽菜 「口噛み酒を飲んで入れ替わったのは、間違いなく、三葉が死んでいると起こりようがないわよね」

帆高 「お、だんだんわかってきているじゃん。日付は特定できるけど、隕石落下日以降に彼女が死んでいると、入れ替わりなんて起こるわけがない」

凪 「しかも、それまでは月と日は同一だったのに、このときだけはイレギュラーだもんね」

帆高 「ちなみに、俺が”もしかしてこれって歴史は書き変わっていない”って思った最初のきっかけがこの口噛み酒トリップなんだ」

陽菜 「どのシーンでそう思ったの?」

帆高 「それは最終最後。三葉が隕石、いや、彗星の直撃を受けるかのようにゆっくりと迫りくる、青色の物体が瞳に映っているときにだよ」

凪 「あれ?確か隕石って赤い色で表現されてたよね?オープニングでもそうだったし」

帆高 「彼女の深層心理の中で、隕石が落ちてきたことは間違いない。どこで遭遇したのかまではよくわからないけど、それがあまりにもすごすぎて、きっちり記憶できていなかったのだと思う。だから、直撃を受けたような感覚/自分の真上に落ちてくるかのように錯覚した/彗星ショー自体の記憶の方が鮮明で、それが落ちてくるように感じたのがそのまま表現されてしまったんだよ」

陽菜 「直前には、他にも破片らしいのが落ちてきていたしね」

帆高 「そう。いい加減、というよりは、おかしい表現なんだよ。特に人的被害を考えなければ、隕石が落ちたのは宮水神社近くの宮水家近傍。これは疑いようがない。このこと自体の歴史は動いていない。だから、口噛み酒トリップで、宮水家にいない三葉の上に落ちてくるのは完全に間違いだといえるんだよ」

凪 「口噛み酒トリップがそこで断絶しているから、彼女が死んだ、という風には考えられない?」

帆高 「先輩、よっぽど三葉を殺したいんだねwwあそこで途切れたのは、彼女が糸守から離れたから。だから、東京に行く→帰ってきて髪を切ってほしいとお願いする、のときに、東京編が映らなかったんだ。もちろん、もしかすると彗星の直撃を受けた後のことも描かれていたかもだけど、それをストーリー上でやったらネタバレもいいところ。だからやらなかったんだとみるね」


陽菜 「じゃあ、隕石落下を目撃している浴衣姿の彼女の方はどう説明つけるの?」

帆高 「今まで確かに”死んでない”説ばかり披露してきたけど、俺もそれを確実に証明するのは至難の業だと思っている」

陽菜 「ほら、やっぱり」

帆高 「ただ、このシーンが、どのタイミングで流れていたのか、を考えてほしい」

凪 「ええっと……瀧が三葉に電話をして、三葉の電話が鳴るんだけど、相手はテッシーだった、ってところだよね」

帆高 「そうだね。前日に東京に行って夜に帰ってきてばあちゃんに髪切ってもらって、学校はサボった、というのがその日の三葉だったよね」

陽菜 「あれ?ここって、もしかして、瀧くんがデート終わりに電話かけてるから……あ、ちょっと待って。よくよく考えたら、日にちがずれてるじゃん!」

帆高 「おおお、ようやくそこに気が付いてくれましたか」

凪 「となると、2016年10月3日と、2013年10月4日をこのときなんで並列的に表現したのか……」

帆高 「先輩ィ。なかなか鋭い指摘じゃありませんか。そこに気が付いてほしかったんですよ」

陽菜 「え?どういうこと?」

帆高 「監督さんの頭の中を我々は考えてみればいいと思うんだよ。一種の”おかしな世界”に瀧も我々観客も放り込まれてしまっている。それまで電話もメールもつながらないと知っているのに電話をかける。もちろんつながらない。それは既に知っているはずなのにここであえて提示させることで、”何かが起こった”と思わせる。だから、『三葉は死んでしまった』と思いこませることも可能になったというわけだよ」

凪 「なるほどねぇ」

陽菜 「そこまでは考えていなかったなあ、私も」

帆高 「日付がずれていることはどちらかというとどうでもいい。ただ、さっきも言ったように、三葉の身に何かが起こった、と誤認/刷り込むことが本来の目的。結果もあえて見せない暗転だけ。ただ、隕石落下→死亡、は普通の思考ならそう直結する。だからあえて”間違っている情報”なのに映像にしてあるわけだよ。でもそう考えると、オープニングからトリックを仕込まれているなんて、数回見た程度の人では理解できないはず。そこは監督さんうまくやったと思うわ」


陽菜 「カタワレ時で二人が出会えたのはどう感じる?」

帆高 「すでに授業で『人ならざるものに出会うかもしれない時間』なんて、ユキちゃん先生はいうわけだけれども、ぼくは二人が出会える”別次元の2013年10月4日”に二人とも放り込まれた、と考えてる」

凪 「そうでないと、同い年で二人が出会えるはずないもんね」

帆高 「今までの入れ替わりは必然的な部分があっても、この同い年の二人が出会えることだけは"奇跡"あるいは超常現象といえなくもない」

陽菜 「組紐を渡したり、文字を書いたりなんて実体がないと無理だもんね」

帆高 「でも、ちゃんとSFっぽいことは実現できている」

凪 「え?どういうこと?」

帆高 「2016年の瀧が2013年の三葉に託せたものと、2013年の三葉が2016年の瀧に言えなかったことだよ」

陽菜 「過去が未来に干渉してはいけない、というあたりよね」

帆高 「だから、未来を生きる瀧が三葉に組紐を渡せ、手のひらに文字もかけたんだよ」

凪 「あの時、三葉は何と書きたかったんだろう?」

帆高 「陽菜さんなら、なんて書く?」

陽菜 「は、恥ずかしくって、言えないよ、そんなの(カァァァァ)」

帆高 「(オ、テレテルテレテルw)まあ、こればっかりは当事者でない陽菜さんに聞いたところで仕方ないか……」

凪 「でも、あの時の瀧くんて『名前書いとこうぜ』っていっときながらあんな事書いたよね」

帆高 「それは俺も、映画の瀧じゃないから想像で言うけど、彼が三葉に伝えたかったのは、本当は気持ちだったんだと思う」

陽菜 「でも名前って言ってる……」

帆高 「あのシーン、よぉくみてみ。『目が覚めても忘れないようにさ』と言ってさらさらと手のひらに書き『名前書いとこうぜ』って言ってるんだよね」

陽菜 「ほらぁ、名前って言ってるじゃん……あれ?」

帆高 「書いた後に言ってるんだよ。つまり、これは彼なりの照れ隠しなんですよ」

凪 「ふぅーん、映画の瀧君も、そこにいる帆高も、そんな風に奥ゆかしいところがありすぎて、困っちゃうんだけどなぁ」

帆高 「そ、それは、俺が考えたことだから……それにしてもここは、やりやがったな、って思ったシーンだよね」

陽菜 「でも、三葉が転んで起き上がるときに右手を見るシーンは、さすがの私も感動はしたけどね」

帆高 「へえ、陽菜さんでも感動するんだ……」

陽菜 「ポロポロ泣くほどではないっていっただけだって……」

凪 「まあ、あのシーン、ねぇちゃん、全然大丈夫じゃなかったしなw」


須賀 「お、青年。今日は、一家そろって家族サービスかい?」

夏美 「お三方とも仲睦まじいようで」

ほだひななぎ  「「「まだ一家ではありませんっっっ」」」

帆高 「ていうか、なんで須賀さんが、ていうか、なんで夏美さんと、ていうか、ぼくたちをつけているみたいな偶然なんですけど」

須賀 「あれ?知らなかったのかよ。オレが大の新海誠ファンだってこと」

夏美 「私も、圭ちゃんにはめられた口なのよね。もう全タイトルDVD持ってるし、何だったら、この間のトリウッドのリバイバルも全部網羅したし」

帆高 「あ、それはおみそれいたしました……」

陽菜 「映画の方、どうでした?」

須賀 「どうでしたもこうでしたもねぇよ。瀧があそこで慟哭するシーンでもうしわくちゃ」

夏美 「どうしてもあのセリフで明日花さん思い出しちゃうんだろうね」

須賀 「大事な人、忘れたくない人、忘れちゃだめな人。本当にこのセリフ通りの女だったよ、明日花は」

夏美 「ほらほら、子どもたちの前で泣かないの、みっともない」

ほだひな 「「もう子供ではありません」」

凪 「まあ、オレはガキだけどよ。オレの前なら泣いたっていいぜ、オッサン」

須賀 「お、オッサン……まあ、凪君のあっけらかんとした性格には救われるよ」

夏美 「あ、そうそう。萌花ちゃん、圭ちゃんが育てることに決まったんだって。でも人込みはまだまだ苦手だから、今日は事務所で事務員さんとお留守番なの」

陽菜 「それはよかったですね」

須賀 「まあ、それなりに代償は払ったけどね。新しい家も見つけなくちゃだったし」

凪 「今度、お邪魔してもいいですか?」

須賀 「おおお、先輩は相変わらず積極的だねえ。どこかの陰気な島育ちの青年とはわけが違う」

帆高 「ほ、ほっといてくださいよ、どうせ陰気で、ネガティブで、根暗で、かっこ悪い青年ですよ」

夏美 「でも、その握った手を見たら、私は安心するなぁ」

帆高 「え?」

陽菜 「そう。そういうところだよ、帆高」

凪 「まったく、帆高も隅には置けないなあ」

5人がひとしきり笑ったその横を通り過ぎる、30代と思しきカップル。そばには一人の老婆。

(男) 「いやあ、やっぱりいつ見ても、泣かされるわぁ、「君の名は。」」

(女) 「もう、タキくんったら、何回見たら気が済むのよ」

(老婆) 「まったくだよ。身重のミツハさんをそんなに引っ張りまわすもんじゃないよ」

そんな会話に反応する帆高は、女性の髪結いに、組紐を認めて、「あっ」と声を上げる。

帆高 「瀧さん、三葉さんっ!」

ロビーに響くその声に反応しないものはいなかった。

振り返った二人は、満面の笑みをたたえていた。


後書き

「天気の子」。
ありていに言わせてもらいますが、初見では全然刺さりませんでした。そりゃそうですよね。家出少年のもがく姿に銃やら、アングラ職業やら。日陰者の集まりか、と思ってしまったくらいです。
しかし、回数を重ねるごとに、そして「彼らのせいで世界が変わったんではない」と理解できて、全ての感情が揺さぶられるのです。
すでに当方は、早い段階で、「町の水没と雨とは関係性が薄く、むしろ海面上昇にこそ原因がある」と看破できたわけですが、海面と降水は、関係性が深いようでそれほど深くはありません。降った雨が雨水幹線を通じて海に放出されるから水没などという事態は本来なら起こり得ません。海が調整池の役割を放棄するということが考えられないからです。
街が水没したのは雨のせいではない、とわかると、「ほだひな関係ない」と言い切れます。だから、彼らの恋愛ぶりに目頭が熱くなるのです。
追い求める帆高の線路を走るシーンは、いろいろな作品のオマージュが感じられるし、何より逢えてからの畳みかけるセリフの応酬はマジで泣けてきます。

おっと。この作品についてでした。
結局自分の描いた作品の焼き直しにならざるを得なかったわけですが、帆高にここまでの洞察力があるのか、どうかは議論の余地がありそうです。それでも、とりあえず準オールスターキャストを出せたのはよかったかな、と思ってます。
基本セリフを語った人の書きなおしばっかりで、内容も少しは手を入れてますが、これで完成ではないので、まずはお読みいただければと。
参考/当方作品 瀧 「あの映画、リバイバル上映だって」 三葉 「…」


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