「海風の復讐」
海風が過去に虐待をした暴力提督、その下で着任している艦娘と偶然にも会ってしまい・・・
鎮守府に着任後の海風には変わった習慣があった。
それは”お金をやたら凝視する”事だ。
月に支給される給料や、用事を済ませた後に提督から貰えるお駄賃を海風は使う事も貯金することも無く、
ただじっと見つめていて、時には悲しそうな表情をしていた。
姉妹艦である白露や夕立に聞いて見ても、当然のことながら分かるはずも無く、
他の艦娘からの目撃もあって、一時期彼女の行動は鎮守府内で有名でもあった。
最も、海風に指輪を渡して、提督の側で仕えるようになってからはその習慣はほとんど見られなくなったのだが・・・
・・・
村雨に買い物を頼まれ、店に向かう途中での事、
「あっ、海風ちゃんじゃない? 久しぶりね。」
声を掛けられ、海風は振り向くと、
「・・・」
彼女を見た瞬間、海風は急に無言になる。
「元気そうね・・・あそこにいた時とは全くの別人みたい。」
彼女はまるで”海風と一緒に生活した事がある”かのような言動をする。
「・・・」
それでも海風は無言を貫くも、同時に昔の記憶が鮮明に蘇って行く。
海風の目の前にいる艦娘・・・彼女は海風と同じブラック鎮守府に着任していた艦娘だったのだ。
「ご、ごめんなさい村雨さん! 帰るのが遅くなりました。」
海風が息を切らして食堂に戻って来る。
「遅かったじゃない海風、どうしたの? 頼んだ品物が売り切れだった?」
珍しく帰るのが遅かった海風に声を掛ける村雨。
「あっ、は、はい。 目的の商品が売り切れで何店舗か寄って買ってきました。」
咄嗟に嘘を付く海風、しかし、村雨には嘘はお見通しであったが、
「そう、取り敢えず買って来てありがとう♪ はいっ、これはほんのお礼よ♪」
そう言って、海風にお駄賃を渡す。
「あ、ありがとうございます♪」
海風は喜んで受け取るも、
「・・・」
受け取ったお駄賃を何故か凝視し始める。
「? どうしたの海風?」
「!? い、いえ・・・何でもありません、ありがとうございました!」
我に返った海風はそそくさと部屋に戻って行く。
「ふぅ、ふぅ・・・」
部屋に戻った海風は何故か息が荒い。
「・・・」
冷蔵庫に入れてあったミネラルウォーターを飲み干す。
「ふぅ・・・少し落ち着いてきました。」
そう言いつつも、
「・・・」
海風はまた村雨から貰ったお駄賃を凝視する。
「300円・・・そう、あの時も300円だった・・・」
海風は昔を思い出す。
・・・
・・
・
海風がまだブラック鎮守府で生活していた時の頃、
提督はいわゆる暴力提督、任務に失敗しようものなら艦娘を殴り蹴ったりと、どうしようもない人間だった。
今なら”艦娘虐待”となれば、すぐに本営が赴き調査を決行、場合によってはすぐに提督に厳罰も辞さない等、
艦娘たちが生活しやすい環境になりつつあるが、昔はそんな制度など無かった。
月に1度、本営に近況報告書を提出するが、提督が嘘の報告書を提出してもバレる事は無い。
それ程、本営は全て提督任せだったと言える。
海風が仲間たちと一緒に出撃から帰還する、
「それでは、今回の戦績を提督に報告してきます、負傷した方はすぐに入渠してください!」
空母の艦娘が結果報告のために、執務室へ向かう。
今日の入渠は、海風を含む駆逐艦3人と軽巡1人の計4人である。
報告に向かった空母艦娘は奇跡的に無傷で済み、もう1人の戦艦艦娘は持ち前の回避により無傷で済んだ。
「・・・」
入渠とは人間で言うと、入浴する事と同じで、風呂場に複数の人間が入れば話で賑やかになるはずなのだが・・・
「・・・」
誰1人として口を開こうとしない、それどころか全員が「はぁ~」とため息ばかりついている。
「今日は敵2体の撃破、そして小破・・・はぁ。」
海風が自信なく呟く。
この鎮守府では暴力提督が勝手に決めたノルマがある。
通常、鎮守府に所属する艦娘たちは、
”住居費と食費が免除になる上、月に艦種毎に決まった給料が出される”のだが、
この鎮守府は免除されるのは住居費のみ。
食費は自腹で、しかも給料は出来高制となっている。
しかも、その内容が更に悪質で、
”敵艦種に定めた金額を支給し、倒した人間のみに支給する”と言う。
・・・これだけ聞くと、意味が分からないだろう。
例えば、駆逐艦4人で出撃したとする。
敵が2体・・・駆逐艦2体が現れたとする、艦娘たちが応戦し、敵駆逐艦2体を殲滅させたとする。
その場合、最後にとどめを刺した艦娘が実績として残ると言う物。
1人が中破まで追い詰め、もう1人が倒したでは、最後に倒した艦娘のみに支給されると言う意味で、
損傷を与えたと言うだけの艦娘には一切支給されない、そんな悪質な支給方法だった。
しかも、”艦種毎の支給額”があり、
戦艦・空母1体に1000円、重巡系500円、軽巡系300円、潜水艦は200円とかなり少ない額に設定されていた。
しかも、駆逐艦に至っては上記と比べて一番最低額であり、1体につき100円である。
更には損傷して入渠した場合・・・入渠時間100円 ✕(h)が掛かる。
1時間(以内)の入渠で100円掛かり、40時間の入渠で4000円掛かってしまうという事である。
今回海風が出撃した戦果は、敵2体(駆逐艦)と小破による入渠(約45分)。
支給額が200円でそこから100円引かれて、支給額はたったの100円と言う事になる。
他の3人も同じで、撃沈した敵艦種から入渠時間を差し引かれると・・・海風と同じ位の支給額になってしまう。
これでは、賑やかになるはずもない・・・ただ、今後の生活に不安を覚えるだけなのだ。
・・・
「今日はおにぎり1つだけ・・・はぁ・・・」
支給された額でおにぎり1つだけを購入、部屋に戻る海風。
「江風、もう帰ってたの? 遠征どうだった?」
先に部屋に戻っていた江風に海風は声を掛ける。
「・・・」
江風は口を開かない。
「どうしたの江風? 何かあったの? 遠征を失敗した?」
海風は心配になって江風に近づくと、
「!? どうしたの、その顔の傷!? 何があったの!?」
江風の頬に、何かをぶつけられたような傷があり、血が滲み出ていた。
「姉貴・・・痛いよぉ。」
江風は急に泣き出し、海風に言い寄る。
江風によると、遠征は成功した物の、支給額は全く与えられず抗議した事で、
提督に灰皿を投げつけられ顔に当たったという事。
遠征は出撃と比べて貰える額は微々ではあるが、資材確保の名目もあり、固定支給額を全員に貰える事になっている。
江風の場合、出撃時で度々負傷して帰還する上、仲間たちに手柄を取られることが多く、
毎日の支給額がゼロ(むしろマイナス)が多く、急遽遠征と言う形になったのだが、
提督曰く「遠征での支給額は出撃時の負債分に充てる」と言われ、この半年間全く支給されていない。
江風が出撃していたのは3か月、その後遠征に変わり半年以上は成功を続けている。
明らかに、負債以上の額をむしり取られている様だが、
「訴えたけど・・・提督は「お前のような役立たずに支給する額は無い、ここに居られるだけ有難いと思え!」って。」
海風に打ち明けた後、号泣する江風。
「泣かないで江風、江風は頑張ってる! 海風は知ってますよ!」
姉として海風は江風を必死になだめる。
「大丈夫、絶対いつかは・・・いい事が起きます、そんな気がしますよ。」
江風を慰めるために放った言葉、実際に良いこと等起きるはずもないのに・・・
「ほら江風、お腹空いたでしょ? おにぎり1つ余ったから食べて。」
そう言って、海風は自分のおにぎりを差し出す。
「姉貴は? それは姉貴のおにぎりだろ?」
「私は道中で頂きました、これを食べて早く寝ましょう。」
嘘を付く海風、江風はすぐに気づくが、
「・・・うん、ありがとう姉貴。」
姉に言うまいと、おにぎりを受け取ると食べ始める江風。
半年間ずっと支給されていない江風、そのため2人の食費は海風の戦果に掛かっている、
この鎮守府に着任する前、海風と江風は着任特別手当として少額だが支給されており、
2人分を合わせて約3ヵ月は凌ぐことは出来たが、既に底をついていた。
その後は出撃や遠征で賄っていたが、海風と江風は駆逐艦、どう頑張っても重巡以上の敵を倒すこと等出来るはずも無く、
これまで海風が出撃して一番支給出来た額は”300円”程度、通常は平均200円。
2人にすると100~150円、普通ならこれで生活など成り立たない。
仲間である艦娘たちも同じ状態で、海風たちと同じ駆逐艦や軽巡たちは毎日のようにひもじい思いをしていた。
逆に重巡(戦艦・空母)以上はそれなりに敵を撃破でき、駆逐艦たちと比べれば潤った生活が出来ていると感じる。
でも実際は、入渠時間が駆逐艦たちより断然に長く、被弾しようものなら稼いだ支給額が全て無くなる程、
駆逐艦たちと同じで生活は成り立っていなかった。
しかし、それは当然知る筈もない海風たち。 むしろ自分たちが最底辺の生活でしているのに誰も助けてくれない。
好きで駆逐艦に生まれたわけでは無い、好きでこの鎮守府に着任したわけでも無い。
海風たちは提督と重巡クラスの艦娘たちを憎み、抗いようのない生活をただ生きるしか無かった。
・・・
それからしばらくして、提督の暴力がエスカレートし、
艦種で一番弱い部類の艦娘たち(特に駆逐艦)に毎日のように暴力を行うようになった。
江風も遂に鎮守府生活に耐えられなくなり、脱走を決意。
海風は止めることが出来ずに江風の脱走に手を貸し逃がす。
その後は暴力の矛先は海風に集中し、あろう事か地下に監禁してしまう。
時間を置かずに提督が資金を着服していたことが本営に知られ、激怒した本営は支給を断つ。
焦った提督は監禁していた海風を躊躇いも無く売買しようと企てる。
奴隷売買のように足元に値札を付けられ、鎖で繋がれた状態・・・海風の精神は崩壊寸前になりかけていた。
しかし、海風に転機が訪れる。
その海風を買ったのが・・・今の提督。
購入・・・いや、引き取った後、今の提督は海風に普通の生活を与える。
最初は精神が不安定だった海風は徐々に本来の自我を取り戻し、脱走した江風とも再会。
この鎮守府で新しく生活する事を決意。
様々な困難もあったが、提督から指輪を渡され・・・海風にとって今は幸せの絶頂期に違いない。
・・・
・・
・
「・・・」
海風がお金を凝視するのは、”昔はこれだけしか支給されていなかった”と言う現状が鮮明に蘇ったためだ。
買い物途中で、過去に同じ鎮守府で生活していた艦娘と会った海風。
そこで聞かされた・・・”あの暴力提督が今も鎮守府で(のうのうと)提督を続けている”と言う情報。
艦娘によると、「昔ほど酷くは無くなっている、上官に半殺しにされ掛かって心を入れ替えた」と言っていたし。」と。
「・・・」
しかし、海風の脳裏にある感情が芽生える。
「・・・許せない。」
散々自分たちに暴力を振るい、悪質な支給条件で皆を苦しめた上に資金着服の罪を自分に背負わせ、
躊躇いも無く売りに出した提督に対して、激しい憎悪を抱く海風。
「許せない・・・散々私たちに酷い事をして、それでもまだ平然と鎮守府に着任しているって? そんなの許せない!!」
部屋で海風はずっと「許せない」とだけ言葉を連呼していた。
夜の22時になり、夜間出撃と遠征を除く艦娘たちの就寝時間になる。
各艦娘たちが部屋に戻って行く中、何故か江風が執務室にやって来る。
「海風を見なかったって? いや、夕食以降見ていないけど。」
江風によると一緒に入浴後、先に部屋に戻り2人の布団を敷いていたが、いくら待っても海風が部屋に戻って来ず、
心配になった江風が執務室に尋ねて来たと言う物。
「村雨は心当たりある? 食堂で一緒に働いていただろう?」
村雨に聞くと、
「はい、でも仕事が終わった後は各自別れて・・・いつものように部屋に戻って行きましたよ。」
村雨にも心当たりがない模様。
「う~ん、何か普段と違って海風におかしい所は無かった?」
「おかしい所ですか?」
村雨は思い出す。
「そう言えば・・・昔、海風ってお金をずっと見る習慣がありましたよね? 最近になって見る事はほとんど無くなりましたけど、
今日の買い物のお礼にお駄賃を渡したのですが、海風がまたお金をずっと見続けていたんです。」
「そうなんだ・・・そもそも海風って何でお金を凝視しているんだ?」
どうやら提督は海風の行動の理由を知らないようだ。
「分かりません、でも思いつめた表情でずっと見続けるのです。時には泣きそうな表情になる時も・・・」
ずっと一緒に生活をしている村雨にも理由は分からない。
「・・・あのさ。」
2人が会話をしている中、江風が間に入る。
「多分だけど・・・江風には心当たりがあるかも。」
そう言って、江風が思いつめた表情で重い口を開く。
・・・
・・
・
ここは暴力提督が着任している鎮守府。
辺りは森が生い茂っており、深夜になると視界が著しく悪い、下手をすれば遭難することも有り得る。
その鎮守府と森の境で1人の人間が怯えたような態度で必死に命乞いをしている。
怯えた人間に対して相手は主砲を向けている・・・主砲を構えているのは、海風。
そして命乞いをしている人間は、過去に海風を虐待していた暴力提督だ。
「な、何をするんだ! 止めてくれぇ!」
提督が命乞いをする度に、海風は躊躇なく主砲を撃って行く・・・彼女に殺す迷いがあるのか、未だ命中していない。
「何で貴方がまだ提督をしているの? ねぇ、何で、何でよ!!」
それでも、海風の表情は険しい。
「何でって、オレは過去の悪行は償った! これから初心に戻って1から出直して頑張っているんだ!」
暴力提督はあくまで、「昔の悪行は償った」と言い張る。
「償った? 私を散々苦しめて置いて、償ったの一言だけで終わるの? ふざけないでよ!!」
海風は主砲を提督に向ける。
「撃つな・・・撃つなって! オレは改心したんだ! 本当だよ、鎮守府の艦娘たちに聞いて見ろ、
オレは変わったって皆言うから!!」
提督は両手を前に出し、「オレは改心した」と連呼する。
「・・・許さない、江風にも酷い扱いをした上に、自らの欲望で資金を着服した罪を全部私に押し付けて・・・
それなのに、「改心したから許せ」? そんなの許せるわけないじゃない!!」
普段の海風から発する言葉ではない、荒々しい口調が提督の耳元に響く。
「ううっ・・・頼む、止めてくれ。 オレはまだ死にたくない・・・頼む、許してくれ。」
提督は何度も思い留まる様に促す。
「・・・死ね。 貴方みたいに最低な提督なんか、死んでしまえぇぇぇぇ!!!!」
海風は瞳に涙を浮かべながら撃とうとした・・・その直後、
「止めてくれよ、姉貴ぃ!!」
その場に江風が乱入して、海風の復讐を止める。撃った弾は提督の頬を寸前でかすめる。
「か、江風! どうして、何でここに!?」
海風は誰にもこの場所を知らせていない、それなのにどうして江風はこの場にいるのか?
「ふぅ~、間一髪セーフって所ね。」
江風と時を同じくして村雨が現れる。
「村雨さん・・・」
2人の登場に海風は力無く腰を下ろす。
「江風が教えてくれたの・・・海風がずっとお金を凝視する理由をね。」
「・・・」
「そこから辿って、この提督があの鎮守府で生活しているって所まで突き止めて、もし海風が良からぬ事をするなら
この森の付近だろうと予想して江風と手分けして探したってわけ。」
流石は村雨、艦娘を辞めても直観力は健在である。
「・・・」
海風はそっぽを向く。
「姉貴、帰ろう・・・鎮守府に戻ろう。」
江風が海風を促す。
「・・・」
海風は何も言わず、それどころか江風の顔を見ようとしない。
「・・・」
姉である自分が、復讐と言って提督を殺そうとした・・・それが事もあろうに、一番知られたくないに妹に知られてしまう。
江風は自分を「最低な姉」と思っているに違いない、結局復讐も思い留まることも出来なかった自分がとても惨めであり、
最早妹に顔を合わせられない、と思っていた海風。
「・・・姉貴。」
しかし、江風は海風を強く抱きしめ、
「間に合って良かった。」
「?」
「姉貴が事を起こす前に止められて良かった。」
「・・・」
「姉貴の気持ちは分かる、江風だってこんな提督を殺してやりたいよ。 でも、艦娘が人を殺したら・・・
有無を言わず処刑されちゃうじゃん? だから、その前に姉貴を止められて良かった。」
「か、江風・・・」
まさか妹に慰められるとは思っていなかった海風、それ以上に江風は自分が思っていた以上に、
大人になっていた事に気付く。
「帰ろうよ姉貴、こんな奴を殺してさぁ、これからの生活を棒に振るようなことは止めよう?
江風と、仲間がいる鎮守府に戻ろう。ね、姉貴。」
江風の必死の願いに、
「・・・はい、鎮守府に戻りましょう。」
海風は落ち着き、ゆっくりと立ち上がると江風と一緒に鎮守府に戻って行く。
「た、助かったぁ・・・」
命乞いをしていた提督は安堵の息を漏らす。
「海風・・・昔はあんな酷い艦娘じゃなかったのに・・・時間が経てば歪むことも有るんだなぁ。」
まるで被害者の様な口ぶりをする提督に、
「・・・貴方が原因でしょ?」
提督が振り向くと、先程まで冷静だった村雨がまるで氷のように冷酷な表情で睨みつけていた。
「な、何だ・・・まだオレに何か用か?」
海風の時とは明らかに違う恐怖・・・海風にはまだ躊躇いがあり、助かる可能性があると思っていた提督。
しかし、今の状況は・・・まるで、すぐに自分の息が即座に止まるかの妙な緊張感に囚われていた。
「江風から昔の貴方の鎮守府にいた時の現状を聞いたのですが・・・」
村雨は笑っているのか、怒っているのか分からない表情で提督に詰め寄り、
「駆逐艦が1日に貰える・・・日給と言いますか、200円から300円とは一体どう言う事でしょうか?」
「そ、それは・・・」
怖いのか、海風の時以上に怯える提督。
「実質100円のおにぎりが2,3個しか買えませんよね? 貴方は海風たちに、
毎日ひもじい思いをさせていたのですか?」
「・・・」
「艦娘たちにはひもじい思いをさせて置いて、自分は何ですか? さぞかし美味しい物をたらふく食べて、
幸せいっぱいでしたでしょうね♪」
「・・・」
「そっぽを向いても仕方がありませんよ? 今の貴方を見ていると、全く反省している様に見えません、
している振りをしているだけですよね提督?」
「・・・」
提督は何も言わず、村雨と顔を合わせようとしない。
「そうですか、では仕方がありませんね・・・」
村雨は興ざめしたかのように、指を立てると、
グシャッ!
村雨の指が提督の目を潰す。
「!!? ああああ!!!! 目、目がぁーー!!」
あまりの痛さに悶絶する提督、
「これでしっかり聞く気になりましたか? て・い・と・く♪」
再びにっこり笑顔で見つめる村雨。
「・・・」
提督は怯えながら無言で首をこくこくと縦に振る。
「では続きです・・・江風が出撃で・・・」
村雨は過去にした悪行を本人の前で順々に話して行く・・・
・・・
・・
・
「村雨、ただいま戻りました~♪」
鎮守府に帰還する村雨、当然ながら海風と江風は先に鎮守府に戻っている。
「あ、村雨の姉貴・・・おかえり。」
廊下で江風が迎える。
「・・・海風は?」
「うん、提督に呼ばれて執務室にいるよ。」
心配そうな顔をする江風。
「申し訳ございません、提督。」
海風は提督に何度も謝罪する。
「海風の勝手な行動により、提督と村雨さん・・・更には妹の江風まで巻き込んでしまい、
本当にごめんなさい!」
何度も謝る海風に対し、
「・・・いいよ。 オレももっと海風に対してもっと気遣うべきだった・・・本当にごめんな。」
今度は提督が海風に頭を下げる。
「! そんな、海風がすべて悪いのです! 提督が頭を下げる様な事なんて!」
海風が言うも、
「いや、元を正せばオレにも原因がある。 海風を引き取った後、ずっと君を安心させ普通の生活をさせて、
次第に海風も気持ちが落ち着いて、治ったと完全に思い込んでしまった。」
「・・・」
「その程度では到底消せない辛い過去があったと言うのに、オレは君が真に打ち明けたい気持ちを
言えない場を作ってしまった・・・君は幸せに生活出来ている、オレはずっと思ってたから。」
「・・・」
「だからごめん・・・オレもまだまだだな。 艦娘の気持ちになって日々励んでいるのに、
1人の嫁さんですらまともに救えないなんてな。」
そう言って、申し訳なく思ったのか提督は急に無言になる。
「そ、そんな事ありません! 提督は私たちをずっと支えています、ですから謝らないでください!」
海風が謝ると、提督が謝り、また海風が謝ると言うループが続く。
後日、提督は暴力提督のいる鎮守府を訪れる。
「オレの艦娘が提督殿に大層ご迷惑を掛けたようで、誠に申し訳ありません。」
提督は深々と礼をする。
「・・・」
暴力提督は無言のままだが、何故か小刻みに震えている。
「それを踏まえて聞きたいことがあります・・・もちろん海風の件に関してです。」
提督は椅子に座って暴力提督と面を合わせる。
「日給2、300円とは初めて聞きましたが? 海風や他艦娘たちに暴力を振るったと言う事実までは提督殿の口から
聞いたのは確認できましたが、その詳細を聞くのを忘れていましたね。」
「・・・」
「なので、この際ですから詳細に答えて下さい。言っておきますが嘘は言わないでください・・・
もし嘘を言えばどうなるかは、貴方が一番知っているはずですがね?」
「・・・」
提督の言い分に、隠しきれないと悟ったのか、暴力提督は順々に説明して行く。
・・・
「艦娘とは・・・本当に可愛そうな存在ですね。」
暴力提督から明かされた内容を聞き終わり、提督はため息をついた後、静かに口を開いて行く。
「人間には法と言う物がある・・・艦娘が人間に危害を加えようものなら、提督の指示ですぐに処刑が可能である。
人間には守られる権利があるが、艦娘にはその権限が無い。」
「・・・」
「艦娘はあくまで兵器であり、上官の命令に従う使い捨てである・・・お決まりのキャッチフレーズですね?」
「・・・」
「でも、勘違いしては困ります・・・提督殿を含む全ての上官と人間たちはその艦娘たちによって、
日々の生活を保障されているのです。」
「・・・」
「彼女たちが命がけで深海棲艦たちと闘う、そのおかげで人々とは普通の生活ができて、上官たちは戦果を獲得し昇進、
その全ては彼女たちがいるからこそ成り立っているのです。」
「・・・」
「それが例え、虐待や理不尽な扱いをしたり、精神的に追い詰めたりしても彼女たちは必ず従う。
どんなに酷く、救いようのないクズな人間ですら艦娘たちは”守ると言う使命”に従って役目を果たしているのです。」
「・・・」
「私の言っている事、お判りでしょうか?」
提督が威圧とも言える態度を取ると、暴力提督は無言でこくんと首を振る。
・・・
数日後、軍事新聞に大きく記事が載せられる。
”〇〇鎮守府の提督は死亡。 着任していた全艦娘たちは別鎮守府へ異動”と。
「・・・」
新聞を読んだ海風にとって、
「やっと死んだんだ・・・これで私も苦しむ必要は無くなる」と安堵の息を吹くも、
「提督、もしかしてあの人を殺したのは提督ですか?」
恐る恐る尋ねると、
「さぁ、海風の想像に任せるよ」と話を逸らされる。
後日、鬼提督から今回の騒動について呼び出しを受ける、
「誠に申し訳ありません、私の艦娘が凶行に走ってしまった事・・・深く反省すると共に、
彼女の対しての罰を考えております。」
提督は鬼提督に対して深々と礼をする。
「違う、オレが聞きたいのは、貴様の艦娘の行動ではない! お前があの提督を殺害したのか聞いているのだ!!」
海風同様鬼提督もまた、〇〇鎮守府の提督の死についての真相を聞きたい様だ。
「・・・」
提督は少し沈黙した後、静かに口を開く。
「私は人は殺しません、それは間違いありません。」
提督の言葉に、
「・・・そうか、なら良い。 貴様が手を下していないのなら、奴は自殺をしたと断定出来る。
オレはそれを聞きたかったのだ。」
鬼提督は秘書艦に書類を持って来るように指示する。
「・・・人は殺しません、あくまで人間ならばです。」
「? 貴様、一体何を言っている?」
提督の言っていることが分からない鬼提督に、
「見るからに害虫や人の皮を被った卑劣なゴミに対してです、私が手を掛けるのは。」
そう言って、提督は深く礼をすると執務室から出て行く。
「大将殿、書類を持って来ました。」
すれ違いで秘書艦が書類を持って来る。
「・・・」
鬼提督は筆を持つが、何故か手が震えている。
「? どうしました?」
秘書艦の言葉に、
「! いや、少し考え事をしていただけだ。」
そう言って、鬼提督は渡された書類に文字を書いて行く・・・その書類は、本営に提出するための電報である。
「〇〇提督の提督の死因は・・・自殺である、と。」
鬼提督は書き終えると、秘書艦に電報を送るように指示する。
「ふん、あの無能めっ!!」
鬼提督は舌打ちをしながら、再び執務作業に取り組んだ。
「海風の復讐」 終
前回の盲目時雨に続き
暴力提督をも処刑してしまったら
ある意味、元には戻れないだろう。
如何なる理由があれど
艦娘が同胞と人間の命を奪えば
深海悽艦と変わらない。
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間接的じゃなくガチ直接に歪んだ原因作っといて被害者ヅラとか
この提督全然自分の悪行自覚してないやん。償うとは一体…?
良かった!海風がギリギリの所で
思い止まって。
ナイス江風!!
この時に海風のおさげ(?)も
主人の凶行を江風と共に止めて欲しかったが。
あと、村雨よ
色んな意味で夫である提督に
染められてしまったな。
今の姿は正に…
やはり、艦娘に人を殺める事を
させてはダメだよね。
深海悽艦は艦娘で
提督は悪提督で
それぞれやらなくてはならないだろう。
うーん
ちょっとこの提督やりすぎじゃないかなぁ…