「ある艦娘との共同生活」
海で倒れていた艦娘を主人公が助け、家で介抱するが・・・
のんびり更新していきます。
それは偶然の事だった。
海沿いを自動車で走っていた時、海辺で誰かが倒れていたのが目に入った。
すぐに車を降りて、抱きかかえる。
「・・・・・・」
息はしている・・・まだ生きている。
すぐに病院に連れて行けばよかったのだが、
オレは現在無職の貧乏人・・・病院代を払う手持ちがない・・・
「・・・・・・」
あまりいい方法ではないが、”家で看病する”・・・病院に行けない自分にとって一番の治療方法だ。
でも・・・見ず知らずの人間を家に入れるのはどうかと思うし、この人は・・・女性、 いや・・・まだ女性と言うより、
女の子の方が正しいかな。
それに・・・こんなことをしたら、少女拉致扱いされてしまうかも・・・この子の親がやってきて訴えてくるかもしれない・・・
「・・・・・・」
でも、それは結果論・・・今オレは何をすべきか・・・目の前で倒れている女の子を助けることが重要ではないのか?
「・・・・・・」
そう思ったオレは彼女を車に乗せ、家まで走って行った。
・・・・・・
ボロボロの布団だが、贅沢を言ってられない、 彼女を寝かせて看病をする。
飲み物は・・・水しかない? いや、栄養ドリンクがまだ数本残っていたかな・・・
・・・・・・
彼女の隣に置き、目覚めるのを待つ。
・・・・・・
「これでいいかな・・・」
そしてそのまま、オレはまた家を出る。
「面接時間が過ぎてる・・・ああ、もう無理だろうな。」
時間を見ると、面接時間から15分以上経っていた・・・これはもう”不可”である。
「仕方がない・・・違う仕事を探すか・・・」
彼は雑誌を見つつ、最寄りの仕事場を探し続けた。
・・・・・・
・・・
・
「今日もダメだった・・・人数オーバーだったし、面接は受けさせてもらえなかったし、全て惨敗だ。」
彼の努力も空しく、今日も仕事を得ることが叶わなかった。
「やっぱり、何か資格とか持っていないとダメなのかな・・・オレは何の資格も持っていないし・・・」
彼は真面目で、学校時代は成績も上位にいたが・・・人と接するのが苦手で会話も苦手だった・・・
就職先でも面接で落とされるのは容易に想像できるだろう・・・
「でも・・・落ち込んではいられない、後数日で財布の底が尽きる・・・日雇いでもいいから探さないと・・・」
また明日探そう・・・そんな気持ちで家へと帰った。
・・・・・・
「そう言えば・・・あの子は・・・起きたかな?」
仕事探しで忘れていたが、1人の女の子を家で寝かせたことを思い出した。
「きっと目覚めて今いる場所から逃げて行ったかも・・・まぁ、それはそれで仕方がないけど。」
だとしたら、扉は空いたままか・・・泥棒が入っていなければいいんだけど・・・と思う主人公。
「それ以上に・・・家の中には特別高価な物なんてないか・・・ははは。」
貧乏なだけに盗られるものは無い、と開き直る主人公であった。
・・・・・・
「あれ? 鍵が掛かったままだ。」
出て行ったと思った主人公にとって、予想外の事態だ。
「まだ寝てるのかな・・・それとも・・・まさか!?」
主人公は急いで扉を開けて、寝室に向かう。
「・・・・・・」
まだ彼女は眠っていた・・・息はある・・・まだ生きているようだ。
「良かった・・・無事でよかった。」
主人公は安心した。
・・・・・・
「今日の夕食は・・・もやしと卵の炒め物~っと。」
食事は安い物を買ってきて、それで腹を膨らませる・・・貧乏故の行為だ。
「・・・・・・」
布団で寝ている彼女のために、プリンと苺パンを置いていた主人公。
「流石に、彼女にこんな物を食べさせるわけには行かないしなぁ~。」
主人公は会話こそ苦手だが、相手に対しての気遣いは出来るようだ。
「今日は早く寝よう・・・明日も日雇いでもいいから頑張って仕事を探すぞ~!」
そう言って、主人公は風呂も入らずそのまま就寝した。
「・・・・・・」
主人公を布団の中から見つめる彼女の姿があった。
・・・・・・
翌日、
「・・・しまった! もうこんな時間!」
目覚ましを掛けたつもりだったが、鳴らなかったのか時間は予定の2時間過ぎ・・・
「ああ、朝はもう間に合わないか・・・くっ! よりによって目覚ましが壊れるなんて・・・」
主人公に焦りが見え始める。
「仕方がない・・・昼から死ぬ気で・・・就職先を探してやる!」
そう思った矢先、
「あ・・・あのぅ。」
「?」
声のした方向を見ると、
そこには、昨日意識が無く倒れていて、ずっと眠り続けていた女の子の姿が・・・
「ああ、やっと目が覚めたか・・・良かった。」
主人公は安心した。
「あの・・・私・・・どうしてここに?」
彼女は状況がわからず困惑していた。
「それは・・・」
主人公は昨日の事を詳しく説明していった。
・・・・・・
・・・
・
「そうですか。」
状況を飲み込めた彼女・・・
「私を助けてくれたのですね・・・ありがとうございます。 何とお礼を申したら・・・」
「いや・・・たまたまあそこを通っただけだからさ・・・気にしなくていい。」
異性と話したことが無いのか、緊張する主人公。
「後・・・そこに置いてあるのは食べてもいいからね。」
布団にそばに置いたプリンとパン・・・彼女は口にしていなかった。
「いえ、私にそんなお気遣いは・・・」
そう言いつつも、
グウウウ~ッ・・・
お腹が鳴った。
「あっ!? も、申し訳ありません!」
「いいよ・・・お腹が空いているんだから・・・食べて。」
「・・・・・・」
彼女は恐る恐るパンに手を出し、口に含んだ。
「はむ・・・はむ・・・」
「・・・・・・」
彼女がパンを食べてくれたことに安心した主人公・・・後は、
「オレは今から出かけるから・・・君はもうこの家にいなくてもいいから、早く自分の家に帰った方がいい。」
そう言って、主人公は車のカギを持って外に出る。
「扉は空けたままでいいから・・・それじゃあ!」
主人公は出て行く・・・彼女はその光景を見つめていた。
・・・・・・
・・・
・
「はぁ~・・・今日も日雇いすら採用されず・・・」
主人公はため息をつく。
面接をするも、会話が苦手のため、面接官の質問に上手く答えられず、無言になってしまう主人公。
「・・・また明日頑張ろう!」
1人の時はこのように意気込みがあるが、相手と面を向かって話すときは引っ込み思案になってしまう。
「そう言えば・・・あの子は・・・出て行ったかな?」
主人公はそう思いながら、家へと帰る。
・・・・・・
「あれ? 明かりがついてる・・・消し忘れたかな。」
部屋の電気が点いたままで、「今月の電気代高くなるなぁ~。」と口走る主人公。
「・・・・・・」
家に入ると、地面に散らばっていたゴミが綺麗さっぱりなくなっていて・・・
「・・・・・・」
主人公が見た光景・・・それは、彼女が洗濯し終わった洗い物を室内で干している光景。
「あ、おかえりなさいませ・・・ご主人様。」
「・・・・・・」
ご主人様・・・オレが?
「今日から私は・・・ご主人様のために精一杯尽くしますので・・・よろしくお願いします!」
「・・・・・・」
状況が飲み込めない・・・つまり・・・
「ここに住むってこと?」
思わず聞いてしまう。
「はい! ご主人様に助けられた御恩をお返ししたく、私はお仕えしたいのです。」
「・・・・・・」
ああ、そうか・・・助けてくれた恩ね・・・それは律儀だね・・・
「今日の夕食のこの私が作らせていただきました・・・お風呂も沸いています・・・どちらになさいますか?」
「・・・・・・」
この子、抜かりない! と思った主人公。
「じゃ、じゃあ・・・先に・・・お風呂に・・・入ろうかな。」
身の回りの事を全部こなされ・・・何も言えなかった主人公はお言葉に甘えて、入浴するのだった。
・・・・・・
偶然に彼女を助けた主人公・・・この日から主人公と彼女との共同生活が始まる。
・・・・・・
ここはとある海域、
「まだ見つからないのか!」
船の船長だろうか・・・部下を激しく罵倒する。
「恐らく・・・もう海の中へと逃げたかと・・・」
「馬鹿野郎・・・せっかく手に入れた艦娘に逃げられるとは何事だ!」
「も、申し訳ありません!」
「早く見つけろ! 近くに港があったな・・・そこに逃げたかもしれん! さっさと探すんだ!」
部下たちはボートを使って逃げた艦娘を捜索し始めた。
「この私に泥を塗ってくれたな・・・捕まえたら二度と逃げられないようにしてやる!」
船長は叫んだ。
・・・・・・
・・・
・
「どうぞ、ご主人様。」
彼女は主人公の前に夕食を出した・・・内容は、白いご飯とみそ汁に沢庵だった。
「ごめんなさい・・・質素で・・・」
彼女は謝るが、それ以上に・・・
「・・・・・・」
米と味噌は家には置いていない・・・じゃあこの食事は一体どこから?
「あの・・・米と味噌は一体どこから出てきたの?」
主人公が尋ねると、
「はい! それなら・・・私、これでも僅かですがお金を持っていますので・・・それを使って買ってきました。」
「・・・・・・」
それを聞いて、
「何もオレなんかのためにお金なんか使わなくても・・・」
主人公は出された食事を見て顔を下げる。
「私はご主人様に助けられた身・・・今の私にはこれくらいしかできないんです・・・ごめんなさい。」
「いや、そうじゃなくてさ・・・」
主人公は堪えきれなくなって、事情を話した。
・・・・・・
・・・
・
「そうですか・・・」
彼が仕事をクビになって現在仕事に就いていない事、今まで異性と付き合ったことが無い事、資格を何1つ持っていない事等・・・
とても人に話せる内容ではないが、彼はそれを話した。
しかし、彼女は・・・
「でも、大丈夫ですよ・・・きっと仕事が見つかると思います!」
「そ、そうかな・・・」
「だって、私を助けてくれましたから・・・そんな優しさがあればきっと上手く行くと思います!」
「・・・・・・」
彼女に言われて、何だか自信が湧いてきたような気がした主人公。
「これ・・・今日使ってあまり残っていませんが・・・」
そう言って、彼女が持っていた財布を出し、
「私の全財産です・・・これをご主人様のために使ってください。」
「いや・・・そんなこと出来ないよ。」
「いいえ、使ってください! そして私からのお願いです! 絶対に何があっても諦めないでください!
頑張っていればきっと報われます! ですから何があっても諦めないでください!」
「・・・・・・」
年端も行かない女の子に慰められる主人公・・・それを聞いて一瞬涙を流し・・・
「・・・ありがとう・・・大事に使うから。」
と、彼女から財布を受け取った。
「ご主人様の好きなように使ってください。」
彼女は笑顔で答えた。
・・・・・・
翌日、
「少し出るね・・・夕方には帰るから。」
「わかりました・・・気をつけて。」
彼女に送られて主人公は外出した。
・・・・・・
・・・
・
夕方になり、
「ただいま~。」
主人公は荷物を持って帰宅した。
「おかえりなさい、ご主人様・・・それは何ですか?」
彼女が見た物・・・主人公の片手に抱える複数の本。
「決めたんだ・・・今日から真剣に就職を目指すって!」
買ってきたのは面接や就職に関する資料、もちろん資金は彼女から貰った財布からである。
彼女は夕食を用意してくれて、感謝して召し上がる主人公・・・その後、購入した参考書を読み始める。
「面接では、自己アピールが大切・・・これを上手く主張できなければ自分の価値を相手に伝えられない。」
今までは適当に受かりそうな仕事場を探しては、面接に赴き失敗を繰り返していた・・・なるべく人と接しなくてもいい仕事場、
とりあえず受かればいいや・・・その程度の気持ちで毎日を過ごしていた。
「緊張していると、周りに「自信がない」と思われる・・・胸を張って質疑応答すること!」
何度も落ちる度に、「今日は運が悪かった」 「明日頑張ればいい」 「オレには何の取り柄もない」と言い訳ばかりしていた。
何か1つでも変えていれば、この先が変わっていたかもしれないチャンスを自身で潰していたのも事実だ。
彼女に言われて気づいた・・・今まで自分が上手く行ってなかったのは自分が「甘かった」からだと・・・
彼女は自分を「ご主人様」といい、仕えようとしている・・・しかも、貧乏を察して自分の財産をオレに渡してきた・・・
オレは彼女に苦しい思いをさせたくない・・・と思った。
ならどうすればいいか・・・結論は1つだ。 一刻も早く仕事を見つける事だ!
・・・・・・
「それじゃあ、また行ってくるよ・・・帰りは夕方になるかな。」
「わかりました・・・ご主人様・・・ファイトです!」
「・・・ありがとう。」
彼女に応援され、主人公は家から出た。
・・・・・・
・・・
・
「やった・・・やったぞ~!!」
彼は勢いよく扉を開けた。
「おかえりなさい、ご主人様・・・ってそんなに飛び上がってどうしたのですか!?」
「聞いてくれ! 今日から就職先が決まったんだよ!」
「本当ですか! ・・・おめでとうございます!」
主人公以上に彼女も喜んでくれた。
「でも、日雇いだけどね・・・それで今日からだったから・・・これ・・・今日1日の手当てね。」
と、日給1万円の入った封筒を彼女に渡した。
「これからオレは君と生活するために頑張って働く! だから一緒に生活してくれないか?」
彼女のおかげでオレは頑張れた、これからはオレが彼女を支えたい・・・その一心だった。
「はい、私で良ければ・・・お願いします!」
彼女も喜んで受け入れてくれた。
「ありがとう! そう言えば・・・今更なんだけど・・・」
「はい、何ですか?」
「名前聞いてなかったね・・・名前は何て言うの?」
「私は・・・」
彼女は元気よく、
「五月雨です! 改めてよろしくお願いします! ご主人様!」
と答えた。
「五月雨・・・今どき雨の漢字を入れた名前は珍しいけど・・・可愛い名前だ。」
彼女の名前を知って、
「じゃあ、これからもよろしくな、五月雨!」
「はい、ご主人様!」
それ以降、少しずつであるが2人の幸せな生活が始まるのだった。
しかし、彼は知らなかった・・・
彼女が艦娘の「五月雨」であることを・・・そして、その五月雨を探している人間がいることを彼はまだ知らなかった。
・・・・・・
仕事が見つかって早1か月、
週4、5日の日雇いを行い、1か月の給料の総額が20万を超えた時は主人公と五月雨が喜んだ。
「やった! ・・・これで、服が買える・・・これで普通の食事ができる!」
「良かったですね! ご主人様!」
五月雨は自分の事のように喜んだ。
「・・・でも、まず先にやることは・・・」
主人公は五月雨を見て、
「? どうしました、ご主人様?」
五月雨が尋ねると、
「今日は休みだから、一緒に買い物に行かないか?」
「はい、喜んで♪」
2人は車に乗って買い物に出かけた。
・・・・・・
主人公が住んでいる場所は田舎で、電気も通っておらず、唯一の情報は新聞か携帯ラジオだけであった。
車も5年以上使っている中古車で、外面は汚れ、走行する度に異音がする・・・
主人公が田舎から離れる唯一の時と言えば、「買い物に行く時」のみである。
・・・・・・
都会のスーパーに着いた・・・都会だけあって、周りは建物や駅があり交通手段も豊富である。
1か月前まで貧乏生活だった彼にとって、ここはふさわしくない場所であったが、
1人の少女と出会った事で彼に希望が戻り、普通の生活に戻ろうとしていた。
「まずは服を買って身なりをと整えないとな・・・何年も買っていないから穴が開いてるし・・・」
まずは服を買おうと思った主人公、しかし、
「五月雨・・・まずは君の欲しい物を買いに行こう!」
「そんな・・・気を遣わなくてもいいですよ。」
五月雨に言葉などお構いなしに主人公はスーパーに入って行った。
・・・・・・
「五月雨、この服どうだろう? 君に似合うんじゃないかな?」
五月雨に服を買おうとする主人公。
「私にですか・・・」
五月雨は困惑する。
「五月雨のおかげで、オレは仕事も出来たし生活が楽しくなった・・・今日は五月雨に何か買ってあげたいんだ。
だから遠慮しないで好きなものを選んで欲しい!」
「・・・わかりました。」
そう言って、五月雨は服を探して・・・
「この服を・・・1着・・・お願いします!」
出した服・・・地味で暗い色の服であったが、
「わかった・・・後は・・・」
主人公は五月雨の髪を見つめ、
「こっちに来て!」
と、五月雨の腕を引っ張ってある場所に向かった。
・・・・・・
「これを・・・被るんですか?」
主人公に渡されたカツラ(もしくはコスプレ用カツラ)を不器用ながら被ってみる。
「・・・・・・」
五月雨は恥ずかしくて鏡を見ないが、
「うん、似合ってるよ! やっぱり黒い髪の方が可愛く見えるかな。」
五月雨の髪は青い・・・主人公は艦娘と知らないため、ハーフと思っていたらしいが街中でその髪は目立つため、
敢えて地味なカツラを被せてあげたのである。
「は、恥ずかしいです・・・」
顔を真っ赤にして、顔をそらす五月雨。
「そんなことないよ・・・とても可愛いよ。」
「・・・本当ですか?」
可愛いと言われて、急に笑顔になる五月雨。
「まだ慣れないかもしれないけど、五月雨にはこの格好の方がいいと思う・・・普段だと目立つからね。」
「・・・・・・」
「確かにそうですね。」と納得する五月雨。
「後は・・・今日ぐらいは贅沢に肉でも買って行こうか?」
「いいですね♪」
2人は食料品へと移動した。
・・・・・・
五月雨に何かお礼をしたくて、服を買ってあげ、目立つからと言って地味なカツラを買ってあげた主人公・・・
この行動が後に五月雨を助けるきっかけになろうとはこの時はまだ知る由もなかった・・・
・・・・・・
・・・
・
「艦娘は見つかったのか!?」
船の船長が部下に威圧する。
「いえ、見つかりません・・・まだ捜索中です!」
「この役立たずが・・・もっと役に立て!!」
「ボス! 少し離れた海岸であの艦娘らしき所持品の一部を発見しました!」
「何だと! ・・・そうか・・・ならば全員海岸へ移動しろ!! いいな、どんな手段使っても構わん!
あの艦娘を探し出せ!!」
「はっ!!」
船長の命令により、部下たちが一斉に海岸へとボートは泳がした。
・・・・・・
・・・
・
ここはとある鎮守府。
「〇〇中将、新米提督が着任しました。」
「・・・うむ。」
中将が新米提督を迎えた。
「鎮守府へよく来た・・・貴君にはこれから艦娘を従えて戦果を取ってもらう、心して掛かるように!!」
「はい! 中将殿!!」
新米提督は敬礼をした。
「・・・では、今いるこの5人の駆逐艦から・・・選んでもら・・・」
中将が首を傾げる・・・どう見ても4人しかいないからだ。
「・・・五月雨は・・・あの子はどうした?」
中将が聞くと、4人は顔を下に向けた。
「・・・・・・」
しばしの沈黙の中、1人の駆逐艦「吹雪」が口を開いた。
「五月雨ちゃんは・・・」
思い切って言った。
「ここに来る途中で誘拐されました!!」
・・・・・・
・・・
・
そのころ、主人公の家では・・・
「たくさん買いましたね、ご主人様♪」
「うん、今日から普通の生活ができる・・・明日からも頑張って仕事に行って・・・ある程度のお金が溜まったら・・・
こんな田舎から出て都会で暮らそうな。」
「はい! ご主人様!」
五月雨は喜んで答えた。
「じゃあ・・・今日は焼肉にしよう・・・五月雨は野菜を切ってくれる?」
「わかりました!」
2人は台所に立って各自分担で作業するのだった。
・・・・・・
それからしばらくは平穏な生活が続いた。
主人公が仕事に言っている間は、五月雨が家の家事を行い、主人公のために夕食を用意する。
時折、食器を割ったり砂糖と塩を間違えて味付けをしたりと、ドジっ子な行動をしてしまうが、
主人公にとっては何でもなかった・・・むしろ主人公にとっては、
「1人増えると、こんなにも生活が楽しいんだ。」
と、今まで貧乏で1人暮らしだった彼にとってこんなにも温かな生活は幸せであった。
仕事でも先輩から怒られることも良くあるが、
「五月雨のためにオレは頑張る。」
と、彼女を支えたいという強い信念があり、主人公はめげずに頑張れた。
家に帰れば、「おかえりなさい♪」と温かく迎えてくれる五月雨。
彼は「これからもずっと五月雨と一緒に暮らしたい・・・彼女を幸せにしたい!」と心の中で誓った。
・・・・・・
五月雨が体調を崩したのはそれから3か月後の事だった。
最初はただの頭痛(本人談)だったが、徐々に咳と高熱が発症し、寝たきりとなった。
主人公は薬局で風邪薬や、栄養ドリンクを買ってきて飲ませるが・・・効果はなかった。
・・・・・・
「熱は少し下がったかな。」
安心する主人公。
「ごめんなさい、ご主人様・・・」
「いや、いいんだよ・・・ゆっくり寝て体を休めて。」
「・・・すいません、 ありがとうございます。」
「それじゃあ、オレは仕事に行ってくるから・・・傍に水とゼリーを置いておくから、食べてね。」
「お気遣いすいません・・・いってらっしゃいませ・・・ご主人様。」
五月雨の言葉に送られ、主人公は仕事に出た。
・・・・・・
午前中の仕事が終わり、休憩中の事・・・
職場の休憩場には小さいがテレビが置いてあり、休憩場で毎回先輩たちがリモコンの取り合いが起こる。
「オレが見てるんだよ!」
「うるせぇ! 後10分でお笑いが始まるんだよ!!」
主人公は「またか・・・」と後ろでクスクス笑いながら、先輩たちの姿を見守る・・・その時、
緊急速報です!! 緊急速報です!!
突然緊急放送が流れ、先輩が見たかった番組がなくなり先輩は怒った。
「このやろう! せっかく楽しみにしてたのによぉ!!」
「ははは・・・日頃の行いが悪いんだよ!!」
と、今度は喧嘩が始まった。
「・・・・・・」
席が空いたので、主人公はそこに座り緊急放送を見た・・・そこには、
”鎮守府に着任予定の艦娘が1人行方不明! 情報求む! 見た、見かけた者は直ちに連絡求む!”
「艦娘・・・」
主人公は”艦娘”と言う存在は知っていた・・・海から突如出現した敵軍「深海棲艦」に立ち向かうために配属された兵器で
艤装を装着した女性や年端の行かない女の子達・・・それが”艦娘”であると・・・
「現在この駆逐艦が行方不明・・・繰り返す、現在この駆逐艦が・・・」
鎮守府が行方不明の艦娘の写真を公開・・・
「!?」
公開写真を見て主人公は目を疑う。
「さ、五月雨!?」
テレビに映っていた写真は紛れもなく・・・五月雨!
「・・・・・・」
主人公はそこで初めて、五月雨が”艦娘”であることを知った。
「・・・・・・」
でも、どうして・・・何であの海岸で倒れていたんだろう・・・
「・・・・・・」
休憩が終わり、主人公はその疑問を考えつつ、仕事に戻った。
・・・・・・
「ただいま~。」
主人公が帰宅、すぐに五月雨の所へ向かう。
「どう、具合は?」
「大丈夫です・・・朝と比べたらだいぶ楽になりました。」
「良かった・・・すぐに夕食を作るから・・・まだ寝ていて。」
「何から何まですいません。」
体調を崩しつつも、主人公に感謝する五月雨。
・・・・・・
「おかゆを作ったよ、これで体を温めて。」
「ありがとうございます。」
五月雨は手に取ると、スプーンですくって口へと運ぶ。
「温かくて・・・おいしいです。」
「そうか・・・デザートにプリンも買って来たからさ、後で食べてね。」
「本当にすいません・・・ありがとうございます。」
五月雨はおかゆを口に運んでいった。
・・・・・・
「汗も大分出たな・・・着替えをしようか。」
スーパーで買った五月雨の服を代わりに着せた。
「後は・・・水を側に置いて・・・と。」
枕元に水とゼリーを置いて・・・これで一安心。
「・・・・・・」
主人公は考えていた・・・それは昼間の緊急放送の事である。
「・・・・・・」
素直に聞いた方がいいのかな・・・それとも何も聞かず黙っていようか・・・と悩む主人公。
「・・・・・・」
でも、鎮守府も必死で探していることは事実・・・ここはやっぱり聞いた方がいいよね・・・
「・・・五月雨?」
意を決して聞いてみる主人公。
「はい、何ですか? ご主人様?」
五月雨が尋ねると・・・
「五月雨は・・・艦娘、だよね?」
「・・・・・・」
急に無言になる五月雨。
「今日、仕事場のテレビで鎮守府が君を探していると放送があったんだ。」
「・・・・・・」
「オレとしては五月雨とこれからも一緒に暮らしたい・・・でも、鎮守府が君を探しているならそうも行かないよね?」
「・・・・・・」
「話してくれないか・・・どうして五月雨は・・・あの海岸で倒れていたのか・・・」
「・・・・・・」
五月雨は沈黙していたが、しばらくして・・・
「全てお話します・・・ご主人様。」
五月雨はゆっくりと口を開いた。
・・・・・・
・・・
・
少し過去に遡って・・・
ここは鎮守府の正門・・・ここに5人の駆逐艦が整列して待機していた。
「今日から新米提督が着任するんだって!」
「そうなのですか! 私たちの中から1人選ぶ決まりでしたよね?」
「ふん! マシな人間が来ればいいんだけどね!」
「こら叢雲・・・会う前から不機嫌ね。」
「新しい提督かぁ・・・どんな人が来るんだろう・・・」
駆逐艦の吹雪・電・叢雲・漣・五月雨が正門でこの鎮守府の主(中将)に呼ばれるのを今か今かと待ち続けていた、そんな時、
「おい、ボス! あそこに見えるのは艦娘ですよ!」
木陰で覗く怪しい人間たち、
「艦娘・・・人間とは違い、戦うための兵器であり、同時に女性の人格を持ち合わせた人間・・・」
「どうします、ボス! 艦娘が5人もいますよ! 海外で売れば儲けられるんじゃないすか?」
「そうだな! よし! あの5人を捕まえる! 全員あの子達を囲め!!」
ボスの指示により、部下たちが気づかれぬように囲み始めて・・・
「!? 誰なのです!?」
真っ先に電が気づくが・・・
既に遅く、周りを囲まれた状態であった。
「叔父ちゃんたちそんな怪しい人間じゃないよ・・・お菓子上げるから叔父ちゃんたちに付き合ってくれないかな?」
明らかに怪しい人相の人たち・・・吹雪たちは隙を見て鎮守府に逃げ込もうとしたが、
「待て! 野郎ども! 全員捕まえろ!」
ボスの指示で一斉に襲い掛かり、吹雪以外は間一髪で逃げられた。
「離して! 離してってば!」
吹雪が必死に抵抗して、
「おい、暴れるな! 大人しくしろ!」
バシィッ!! (平手打ち)
「痛い、やめて下さい!!」
吹雪は泣きながら抵抗する・・・その時、
「吹雪ちゃんを離して!」
五月雨が男に噛みつき、吹雪は何とか逃れられたが、
「五月雨ちゃん!?」
今度は五月雨が捕まり、目の前にナイフを突きつけられ、吹雪たちは抵抗することが出来なかった。
「1人で十分だ! おい、早くそいつを連れて行け!」
五月雨を抱えると、ボス含む全員がその場から逃げて行った。
「五月雨ちゃん!!」
吹雪は必死で叫んだが・・・その声が届くことはなかった。
・・・・・・
・・・
・
「・・・・・・」
「いきなり襲われて・・・誰かわかりませんでしたが・・・私は誘拐されてしまいました。」
「そうだったのか・・・辛かったな。」
「その後、船に乗せられ・・・体を拘束されて、海を漂った後・・・深夜になり・・・隙を見て海に飛び込みました。」
「・・・・・・」
「そしてすぐに気を失って・・・気が付いたらご主人様の家で目覚めました。」
五月雨の説明で状況が分かった主人公。
「その誘拐した人間たちは・・・「海外に売り飛ばす」と言っていたんだね?」
「はい・・・私たち艦娘は・・・普通の人間よりも希少価値があるって言ってました。」
「・・・つまり、そいつらは人身売買の闇取引業者か・・・」
主人公は納得する。
「あの人たちはもしかしたら・・・私を探しにこの辺りを捜索しているかもしれません。」
「・・・・・・」
五月雨の表情は怯えていて、今にも泣きそうだ。
「どうしたらいいんでしょうか・・・私は・・・」
不安でいっぱいの五月雨・・・しかし、主人公は・・・
「しばらくここに隠れていればいいよ。」
「えっ?」
五月雨は驚き、
「五月雨にとって、この家は「君の居場所」でもある。 オレも出来る限り協力するからさ・・・
しばらくしたらこの家から出て・・・そして鎮守府に戻ろう。」
「・・・ご主人様。」
「本当は君と一緒にいたい・・・でも、君が艦娘で鎮守府が探していると言うなら、君を無事に送り届けなければいけない、わかるね?」
「・・・・・・」
五月雨はコクんと首を振った。
「だから今は・・・体調を治すことだけ考えるんだ・・・いいね?」
「はい・・・ご主人様。」
五月雨は主人公の言葉に頷いた。
・・・・・・
翌朝、
「ごめんください。」
扉を叩く音がして、主人公が開けると・・・
「早朝から申し訳ない・・・人を探しているんだ・・・心当たりがあれば教えて欲しい。」
いかにも、ガラの悪いおっさんが立ちすくんでいた。
「人を探している・・・誰を探しているんです?」
「髪が青くて、年端も行かない少女なんだが・・・近所の話ではこの辺りで見かけたと聞いたのだ・・・お兄さんは心当たりない?」
「すいません・・・仕事以外はほとんど家で過ごしているので、見たことが無いですね。」
「そう・・・邪魔したね・・・また何かあったら教えて欲しい。」
そう言って、名刺を渡され・・・
「わかりました・・・何かわかればすぐに連絡します。」
そう言うと、おっさんはその場から去った。
「・・・ふぅ~・・・」
主人公は安心して扉の鍵を掛けた。
・・・・・・
「どうしたんですか、ご主人様?」
「・・・また来たよ。」
今日で何度目だろう・・・2回・・・いや、3回目だ。
「・・・・・・」
直接家に入ってこないが、もしかしたら気づかれているのかもしれない・・・
「五月雨、少しは動ける?」
「・・・はい、歩くことなら出来ますけど・・・」
まだ高熱が続いたままだが、辛うじて歩行は出来るようだ。
「・・・五月雨。」
主人公は真剣な表情で、
「・・・・・・」
五月雨も彼の表情に何かを察し・・・
「鎮守府に行こう! オレが君を無事に送り届けるから・・・」
「・・・ご主人様。」
「あいつらもいずれはここを嗅ぎつけるだろう・・・その前に五月雨・・・ここから脱出しよう!」
「・・・はい、ご主人様。」
五月雨は彼の提案に賛成した。
・・・・・・
・・・
・
深夜になり・・・
「今出れば追手が来ないかも・・・五月雨、行こう!」
「はい!」
言っては見たものの、
「!? 大丈夫か!?」
高熱が引いたわけではない・・・体調が悪いのは相変わらずで、
「私は大丈夫です・・・ご主人様・・・行きましょう。」
それでも、心配を掛けまいと五月雨が明るく振る舞う。
「・・・わかった、 じゃあ・・・車に乗るぞ。」
2人は車に乗って鎮守府へと向かった。
・・・・・・
五月雨が着任予定だった鎮守府は・・・彼女が海岸で倒れていた場所から数キロ離れた海岸沿いの場所にあり、
早ければ数時間で着く距離だった。
「毛布を持ってきたから、五月雨は後ろでゆっくり寝てるんだぞ。」
「はい・・・すいません。」
主人公の指示に従い、五月雨は毛布で体を覆って再び就寝に入った。
「・・・・・・」
改めて鎮守府の場所を再確認、
「・・・よし、行くか。」
主人公は車を起動・・・そのまま鎮守府に向けて出発した。
・・・・・・
「順調だ・・・このまま行けば鎮守府に着けるかな・・・」
家から出て1時間・・・追手もいなく何の問題もなく走行していたが・・・
「何だ・・・検問!?」
目の前に検問らしき光景が・・・警察官らしき人物が「止まれ!」と指示する。
「・・・・・・」
主人公は何か違和感を感じた、
「・・・・・・」
警察官の服装に見えない・・・まさかこいつら・・・追手か!!
主人公の予想通り、
「夜分すまんね・・・実は私たち、この子を探しているんだけど・・・」
見せられた写真は五月雨・・・どうやら各道の広範囲に検問と見せかけて捜索していたようだ。
「こんな夜中にどうしたの?」
ガラの悪いおっさんが質問してくるが・・・
「短期間子供を預かっていて・・・その子が高熱を出してしまって・・・時間外でもいいから診察してもらうために、
急いで都会の病院に向かっているのです!」
五月雨を守るため、咄嗟に嘘をついたが・・・
「子供? その子供はどこに?」
「後ろの・・・ほら、あそこの毛布の中で寝ています。」
「・・・・・・」
おっさんの目つきが変わる、
「姿だけ確認してもいい?」
「・・・・・・」
ここで拒否すれば、逆に怪しまれる・・・気づかれないことを祈り、
「どうぞ。」
主人公の許可で、おっさんが後ろの五月雨に近づく。
「・・・・・・」
毛布を取って姿を確認する、
「・・・・・・」
表情も見る、
「・・・・・・」
おっさんは確認し、主人公に・・・
「すまないね・・・人違いのようだ、余計な時間を取らせてしまったね・・・早くこの子を病院に連れて行っておやり。」
「はい、すいません・・・ありがとうございます!」
五月雨とバレずに済み、主人公は再び車を動かした。
「ふぅ~・・・良かった・・・」
事前に五月雨に着せたスーパーで購入した私服、そして「目立つから」と購入した黒毛のカツラを被せていた・・・
まさかこんなところで役に立つとは・・・
「後は・・・鎮守府へと・・・急ごう!」
2人は鎮守府へと向かった。
・・・・・・
・・・
・
「くっ! これ以上進めないか・・・」
悪路でこれ以上車で進めない・・・鎮守府まであとわずかだ・・・
「・・・五月雨・・・少し寒いかもしれないけど・・・我慢してくれ!」
そう言って、主人公は自分の着ていた服と毛布を被せて、五月雨を抱き上げて歩いて行った。
運が悪くその日は雨で、主人公は雨に打たれた、
しかし、主人公は彼女を胸に当てしっかりと抱きしめ、彼女には一切濡らさなかった。
「あともう少し・・・もう少し・・・」
2人はゆっくりと鎮守府へと近づいていく。
・・・・・・
ここは鎮守府、
正門で見張りをしていた憲兵が、近づいてくる1人の人間を見つけ近づく。
「待て! 部外者の立ち入りを禁止している! 早く去るんだ!」
憲兵に言われ、主人公は叫んだ。
「五月雨を・・・五月雨を届けに来た!! 提督を呼んでくれ!! 五月雨が・・・五月雨が・・・高熱で苦しんでいるんだ・・・
早く助けてあげてくれぇ!!!!」
主人公の必死の叫びに、憲兵たちが集まり2人は鎮守府の中へと入れられた。
・・・・・・
五月雨は憲兵たちの手により、担架に運ばれ入渠場へ連れて行かれ・・・
主人公は提督の指示で待合室へと連れて行かれた。
「・・・・・・」
扉が開いた・・・この鎮守府の提督である。
「貴君には感謝する・・・駆逐艦五月雨は今入渠場で治療中だ。」
「それで・・・五月雨は助かるんですか?」
「ああ・・・高速修復材を投入した・・・明日には元気になるだろう。」
高速修復材・・・資材に詳しくない主人公にどんな効果があるのか知らないが、五月雨が元気になると聞いて、
「良かった・・・本当に良かった!」
主人公は安心した。
「五月雨を誘拐した人間たちの顔は覚えているか?」
「はい・・・覚えています。」
「そうか・・・では、似顔絵専門の人間を呼ぶ・・・もう少しだけ私のために協力して欲しい。」
提督の頼みに主人公は受け入れた。
・・・・・・
犯人の特徴、人数、性別、服装など細かく質問され・・・終わったのは2時間後だった。
「協力感謝する・・・貴君には犯人逮捕の協力及び五月雨の保護として謝礼を進呈しよう。」
「ありがとうございます、提督!」
主人公は敬礼をする。
「あの・・・五月雨には・・・あの子に会うことは出来ますか?」
主人公の願い・・・それはやはり「五月雨に会いたい」こと。
彼女はこの鎮守府に無事保護された・・・それは同時に「別れ」を意味する・・・せめてもう一度だけ会いたい。
主人公は五月雨に会うことを強く切望した。
「・・・残念だが・・・」
提督の表情は険しく・・・
「それは出来ない。」
その言葉に耳を疑った。
「何故ですか・・・一度だけでいいんです・・・お願いします!」
主人公は何度も願うが・・・
「五月雨は・・・彼女は貴君の事をもう覚えていないだろう。」
「えっ?」
一瞬何を言われたのかわからなかった。
「貴君には本当に感謝している・・・しかし、本来艦娘は一般人と交流することを禁じられている。
今回のように誘拐され、貴君が倒れているのを見つけ保護してくれたことは本当に稀な事なんだ。」
「・・・・・・」
「もし、貴君と五月雨が会えば、彼女は絶対に「離れたくない」と言うだろう・・・本来の艦娘としての役割を放棄してでも・・・
そうしないために私は事前に彼女の記憶を「初期化」した。」
「初期化・・・」
「そう・・・会うことは出来るが・・・もう貴君の事を覚えていない、この鎮守府に着任している駆逐艦の五月雨だ・・・
それでも、貴君は会いたいか?」
「・・・・・・」
今までの思い出を全て初期化された五月雨・・・家で過ごした楽しい日々も・・・一緒に食事をした幸せだったひと時も全て・・・
「どうする? 五月雨に会うか?」
「・・・いえ、いいです。 五月雨が無事だったことで十分です・・・オレは帰ります・・・どうか五月雨をお願いします!」
「わかった・・・五月雨は私が責任を持って保護する・・・貴君の勇気ある行動は絶対に忘れない・・・さようなら!」
お互いに敬礼した後・・・主人公は待合室から出た。
・・・・・・
「五月雨・・・」
正門から出たところで、再び鎮守府を見つめる・・・
「・・・・・・」
彼女は無事に鎮守府に戻れた・・・これからは艦娘として、海を守る戦士として活躍するのだ・・・
「さようなら・・・五月雨・・・君との生活は本当に幸せだった。」
泣くのを堪えつつ、主人公は鎮守府を後にした。
・・・・・・
・・・
・
それから、またオレは1人の生活に戻った。
五月雨といた生活は本当に幸せで、再び1人になった時は「やっぱり寂しいな・・・」と改めて感じた。
提督から受け取った謝礼金と日雇いの仕事で生活しているが、オレにはある目標があった。
その道のりは遠く、途中で挫折してしまうかもしれない・・・やめた方がいいかも・・・とも思った。
でも、五月雨に言われた言葉が頭によぎる。
”絶対に何があっても諦めないでください! 頑張っていればきっと報われます!!”
その言葉にオレは慰められ、今に至っている。
最初から諦めていたら先へは進めない・・・なら、諦めず立ち止まらず前進することだけを考える! それが
五月雨の言った「諦めない! 頑張る!」と言う魔法の言葉だと感じた。
翌日、仕事を終え、オレは書店へ行き大量の本を購入した。
それからは、猛勉強の日々だ・・・
仕事と買い物・寝る時以外のほとんどを勉強で過ごした。
オレは頑張る・・・もっと頑張って・・・資格を取って・・・それから・・・
それから・・・どうしても叶えたい夢に向けて・・・必死に猛勉強をした・・・
・・・・・・
・・・
・
「・・・く。」
「て・・・く。」
「て・・い・・・く。」
「提督・・・提督!」
「・・・う~ん・・・」
休憩中に休んでいた提督が目を覚ます。
「休憩中のところ申し訳ありません、昼からの書類をお持ちしました。」
「ああ、ありがとう。 机に置いてくれ。」
大淀が机に書類を置いた後、執務室から出て行く。
「・・・夢か・・・ずいぶん昔の事を思い出していたなぁ・・・」
提督はカレンダーを見て・・・
「あれから10年か・・・」
カレンダーを見て呟く提督。
・・・・・・
猛勉強の末、オレは士官学校に合格・・・入学後も勉強に没頭し、成績は上位をキープし卒業。
新米提督として今の鎮守府に着任した。
上官から「駆逐艦5人から1人を選んでくれ。」と言われ、その中には・・・五月雨がいた、
しかし、彼女は・・・何人目の艦娘だろうか・・・もしくはオレとの思い出を消された五月雨だろうか・・・
・・・そんなことを考えたって仕方がない、また彼女との思い出を作ればいいんだ・・・
オレは迷わず五月雨を選んだ・・・「提督! 一緒に頑張りましょう!!」と元気な声で言ってくれて彼女を秘書艦にした。
・・・・・・
それから数年・・・オレは五月雨と他艦娘たちと一緒に戦果を取り続け、最近になって「中将」に昇進した。
他の鎮守府から見れば、一番早い昇進であるが、オレにとっては階級などどうでもよかった。
五月雨と・・・彼女と一緒に過ごすことがオレの願いだったからだ。
・・・・・・
ある日の事、
鎮守府でも新たな新機能が導入された。
練度MAXの艦娘とのケッコンカッコカリである。
「提督、お呼びでしょうか?」
五月雨が執務室にやって来て・・・
「五月雨、練度最大おめでとう! これからもオレとこの鎮守府を支えて欲しい!」
そう言って、オレは五月雨に指輪を渡した。
「えっ!?」
五月雨は驚いて、
「わ、私でいいんですか?」
「ああ・・・五月雨、オレの妻になってくれるか?」
「・・・・・・」
五月雨は涙を流して・・・
「ありがとうございます! 五月雨! とても嬉しくて幸せです!!」
彼女は嬉しさのあまり、無意識に・・・
「私・・・もっともっと・・・頑張っちゃいますから!! お任せください!! ご主人様!!」
「・・・・・・」
提督は五月雨の言葉に一瞬耳を疑った。
「ご主人様」・・・それは提督が昔貧乏生活だった時に五月雨が提督に言った言葉・・・
「!? あっ!? す、すいません!! 忘れてください!!」
五月雨は慌てて執務室から出た。
「!? おい、五月雨! 待ってくれ!!」
提督は五月雨を追いかける。
・・・・・・
「五月雨! 待て・・・待ってくれ!」
提督は追いつき、五月雨の手を握る。
「・・・・・・」
五月雨は無言のままだ・・・
「五月雨・・・お前まさか・・・記憶が?」
「・・・・・・」
・・・・・・
・・・
・
(ここから五月雨の視点)
10年前、主人公が五月雨を鎮守府に連れて行き保護され、手当てを受けた後・・・
「記憶を消す・・・ですか?」
提督から突然の初期化案・・・五月雨は当然、
「嫌です! あの人との思い出を消されたくありません!」
五月雨は反対した。
「仕方がない・・・仮に記憶を消さなかったとして、あの男に二度と会うことは出来ないぞ・・・それでも、
記憶を残しておきたいか?」
「・・・・・・」
「それに・・・彼の思い出を残したままでは、今後の出撃等の任務に支障をきたすだろう? それなら、
素直に新たな自分に生まれ変わった方がいいのではないか?」
提督の言うことは最もだった・・・二度と彼には会えない・・・そんな思い出を残したままで任務に集中できるか・・・
五月雨は葛藤したが・・・
「でも・・・あの人のおかげで私はこの鎮守府に戻ることが出来たんです! あの人のおかげで・・・私は助けられ・・・
私が高熱で倒れた時も・・・あの人がずっと傍で見ていてくれて・・・私の事を・・・ずっと見守っていてくれたんです!」
「五月雨・・・」
「私にとってあの人は恩人なんです・・・その恩人との思い出を消されるなんて我慢できません!!」
五月雨は泣きながら訴えた。
「・・・・・・」
提督は考え、
「記憶を消さなくても・・・任務に支障はないのか?」
「はい! 割り切って任務を全うします!」
「仮に彼に会えたとしても・・・昔のお前と名乗らないことを約束できるか?」
「はい! ・・・あの人の事は忘れます・・・私の胸の中に留めます。」
「・・・わかった。 お前の記憶を消すのを止めよう。」
「・・・ありがとうございます。」
五月雨は初期化されずに済んだ。
・・・・・・
その後、提督は主人公に「五月雨を初期化した」と嘘を言い、五月雨の事を諦めさせた。
主人公は数年後に鎮守府に新米提督として着任・・・初期艦を選んでもらう時に偶然の再会を果たす。
「あ、あの人は・・・まさか・・・ご主人様!?」
数年経ち、顔は大人びて表情も変わり、昔と違う印象を受けたが・・・五月雨はすぐに気づいた。
「ご主人様・・・こんなところで会えるなんて・・・思っても見ませんでした。」
心の中で呟く五月雨、
「この中から1人選んでくれ。」
と、中将から言われ、提督が選んだ相手が、
「五月雨をお願いします。」
もちろん、本人も・・・
「ご主人様!? ・・・嬉しい! 嬉しいです!!」
心の中でそう叫んだ・・・本当は提督本人に伝えたかったが、昔の約束・・・「彼に会っても名乗らない事」を忠実に守った。
「これからよろしくな、五月雨!」
「はい! 提督!」
ここで上司と部下の関係となったが、五月雨はそれでも嬉しかった・・・また、彼と生活ができるのだから・・・
・・・・・・
・・・
・
(ここから現代)
「隠していて・・・ごめんなさい!」
「五月雨・・・」
「でも私は・・・ご主人様にまた会えて私は・・・本当に良かったです!!」
「・・・・・・」
それを聞いて提督は五月雨を強く抱きしめた。
「!? 提督!?」
五月雨は驚き、
「良かった・・・昔の五月雨のままで・・・本当に良かった!!」
提督は泣いていた。
「提督・・・」
「オレだって本当はお前に会いたかったんだ・・・昔貧乏で未来もなかったオレに希望を与えてくれた五月雨に・・・
会いたかった・・・それが君だったなんて・・・本当に良かった!!」
「提督・・・ご主人様・・・」
提督は五月雨の前に腰を下ろし・・・
「改めて五月雨に聞く・・・このオレと・・・ケッコンしてくれないか? オレの妻としてこれからも支えて欲しい!!」
「・・・・・・」
五月雨は笑顔で・・・
「はい! 五月雨、提督・・・いえ、ご主人様のために・・・精一杯頑張ります!!」
五月雨は受け入れた。
・・・・・・
・・・
・
それから更に10年経って・・・
彼は提督業を辞め・・・昔、貧乏時代に住んでいた故郷へと戻り平穏な日々を送っている・・・
五月雨も自ら「解体」の道を選び、「普通の女性」として彼と共に昔の故郷へと戻った。
・・・・・・
偶然か運命だったのか・・・当時貧乏だった青年が海岸で助けた艦娘(五月雨)は今は主人公の妻として・・・
その貧乏な青年は五月雨との出会いにより希望を取り戻し、猛勉強の末提督まで登りつめ、今は五月雨の夫になった。
そこに至るまで様々な困難が待ち受けていたが・・・2人はそれを乗り越えて結ばれたのだった。
「ある艦娘との共同生活」 終
期待
支援
五月雨は可愛いからね。
けどそれ以上に尽くす子なんだね。
君良い優しいいい心をしてるねえ。海軍の提督をしてみないかい?
五月雨がドジじゃない……だと……これはこれでありだな!
期待やわ
コメントありがとうございます♪ 最後はグッドな結末になりますが、
意外な結末になるかと思います、頑張って書いて行きますので
時間があれば読んでください♪
少しネタバレすると、主人公は実は・・・〇〇です(笑)
わかりません笑
けど😂支援w
主人公元提督だったりしてな!HAHAHAHA!まぁそれはないわな(´・ω・`)
主人公は艦むすが母のハーフだったとかじゃないかな?まあ、あり得ないよね。wwww
すみません。ご主人というのを見て
漣かと思いましたwキタコレw
9さん:すごく惜しいです。
10さん:面白い発想ですね♪ 参考になりました♪
今度その物語描いてみようかな~♪
待てよ、主人公は男とは明記されてない
つまり主人公は艦娘適正あり?
13さん:主人公は男性です。1人称が「オレ」と言っていますし、
背景でも「彼が」と書いていますのでw
艦娘と提督から誕生した子供の物語かぁ・・・
何か書いてみたくなりました!
駆逐に指輪を使うのも非効率ではあるけど。此は判る。
指輪を贈った相手が大人に成長すれば良いのにね。
いい話や。
そしてようこそ!我らがロリコン道へ!
だが五月雨君限定なら違うかな。
すごく惜しいって言われた(´・ω・ `)
17さん:はい、元提督ではなく・・・現役の提督だったんですw
提督が10年前の過去の思い出を回想していたお話です。
↑なるほど回想でしたか。とても面白かったです!お疲れ様でした
ちょっと待って。
お子さんの話がないやんw
子供はさぞかし持てるだろうねw
面白かったです!
すごく面白かったです!
三点リーダ多スギィ!
23と同じことを思ったw
区切りに…使うのねw
とても面白い話で、楽しませてもらいました。ありがとう
確かに3点リーダ多いです(反省)。
ほとんどが切迫したり、緊張した状況なので、息継ぎなしで話さず
落ち着かせる感じで、区切りを多く使ってしまいました。
次に書く時は少なくするように致します。
コメントありがとうございまいた~♪