2020-10-25 20:16:53 更新

概要

元海兵が海軍に復帰。提督として歩んでいくお話し第伍話です。


前書き

佐伯湾泊地に襲撃を開始した提督、赤城、榛名の3人。

果たして摩耶たちは無事なのか?


佐伯湾泊地襲撃(前)



 

 車内で3人は作戦会議を行っていた。



赤城「これからどうするおつもりですか?」


東雲提督「うーん……佐伯湾の特警って真面目?」


赤城「そうですね………あまり真面目な方ではありませんでしたね。巡回も適当と言いますか……」


東雲提督「特警って夜間はどうしてるんだ?」


榛名「待機室の上の階が居住スペースになっています。勤務時間は平日の日中だけです」


東雲提督「常日勤か……ん? 夜間は誰が基地内を警備するんだ?」


赤城「私達艦娘です。非番員数名が夜間・休日は待機室に常駐してますので。恐らく新基地でもそういう体制になるかと」


東雲提督「なるほどね……」


榛名「私………あの特警さん苦手です……」


東雲提督「珍しいな……榛名がそういうなんて………」



 ミラー越しに後ろに座っている榛名を見ると顔が引きつっていた。


 『苦手』と言い表す所は、榛名の優しさだろうが……普通の人からしたら『嫌い』又は『大嫌い』の部類だろう。



赤城「一度、艦娘を襲ったことがあるんです」


東雲提督「……マジか。その娘はどうなったんだ?」   


赤城「何とか抜け出して、姉妹が佐伯湾提督に報告したお陰で事なきを得ました……という事になっていますが……襲われた娘の名前は『名

  取』さん。それを知って、特警をボコボコにした後、佐伯湾提督に報告した娘は、名取さんの姉である『長良』さんと『五十鈴』さんで

  す………」


東雲提督「なるほどな…………特警もグルだったからな………ってかその娘達って!!」


赤城「はい。その通りです」 


榛名「それに……ある噂があったんです」


東雲提督「噂?」


榛名「………一時期でしたが……待機室の2階に『鳥海』さんが入り浸っていたんです。ほぼ毎晩」


赤城「そうなんですか?」


榛名「はい……ちょうど摩耶さんがいなくなった後の事です」


東雲提督「………間違いなく何かあるな……特警は優しく捕まえるつもりだったが………予定変更だな」



 頭に血が上ってくるのが分かる。


 東雲が予想している『最悪の状況』が行われていたというのなら許せない。


 それは『艦娘法』でも罰則付きで明記されており、東雲が最も嫌う行為だからだ。


 互いの理解と承諾があれば別にいいんだが……

  


東雲提督「……赤城。資材庫の鍵はどこにある?」


赤城「執務室か待機室。それと佐伯湾提督が所持しているかと。秘書艦の鍵は資材庫の鍵以外であれば全部そろっています」


東雲提督「……よし。まずは待機室を襲撃するか」


赤城・榛名「「!?」」


 

 赤城と榛名は東雲の発言に驚いた。



赤城「正気ですか!?」


東雲提督「総長には言質取ったぞ。『何もしない』ってな」


赤城「…………そういうことでしたか」



東雲提督「待機室に常駐する艦娘を無力化。特警を半殺しにして鍵を奪取。俺はそのまま提督室に向かうから、榛名は俺に付いて来てくれ」


榛名「はい! 榛名、頑張ります!!」


東雲提督「赤城は鍵を持って資材庫から必要なものを奪取。摩耶たちの確保と保護を頼む。後で、何店舗かコンビニに寄るから、ありったけ

    のおにぎりを持って行ってやれ。多分まともに食べてないだろ」

 

赤城「わかりました」



 東雲はポケットから財布を取り出して、後部座席にいる赤城に投げ渡した。


  

東雲提督「多分、1万円入ってるだろ? 全額使っていいから」


赤城「……よろしいのですか?」


東雲提督「言っただろ。ありったけだって……………………………お前の分は無いぞ?」


赤城「それぐらい分かっています!!」



 赤城が膨れっ面になって拗ねた。



赤城「……提督の財布……2万円入ってますね………残りの1万は私の分という事で……」


東雲提督「おい………マジでやめろ!? 」



 榛名もこの状況にはクスッと笑った。

  

 車内に漂っていた緊張感がなくなったことについては、良しとするべきだろう。




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 東雲と赤城・榛名が出発してから3時間後……


 東雲の家から最寄りにある駅では、1人の女性が降り立っていた。


 ついこの間まで軍令部の所属だったが、急にこの地へと赴任を命じられて大急ぎで荷物をまとめた。


 しかも命じてきたのは鞍馬総長……鞍馬総長の元部下でもある彼女は逆らえなかった。


 そして……つい先程、総長から電話があった。


 電話の内容を聞いて発狂しそうになったが、電車内というのもあって我慢した。



?「…………ふっざけんなぁ!!!」



 彼女は手に持っていた荷物を思いっきり地面にたたきつける。電車内で晴らせなかった鬱憤をここで晴らした。


 彼女の名は『芹沢 明乃(せりざわ あけの)』。


 かつて鞍馬総長。東雲と同じ『105部隊』で戦闘兵兼衛生兵として躍動。同部隊の数少ない生き残りの1人である。 


 現在は海軍特別警察隊に所属。特警隊として海軍軍人を取締まる傍ら、士官学校の教官も兼務している。


 『105部隊』の生き残りというだけで待遇は特別なものである。


 しかも東雲とは同じ施設育ちで、入所時期もほぼ同じ。


 通った学校も全て同じであり、幼少期からの仲だ。



芹沢副司令「あの野郎…………マジ殺す…………復帰するのはいいんだけどさぁ……いきなり私に全て押し付けるかなぁ……」


 

 彼女は怒りに満ちていた。


 それもその筈……幼少期から東雲の突発的・自由的行動に振り回されてきた。


 『105部隊』にいた時も東雲、鞍馬総長が部下に押し付けた執務書類はほとんど芹沢がやっていた。


 

芹沢副司令「ちくしょー……また執務地獄かぁ………帰ってきたら承知しねぇから!」   



 芹沢は東雲の家がある方へと重い足取りを向ける。


 唯一不便なのは、この駅を通るバスが2時間に1本しかない。


 しかも降りる人があまりいない為、駅は無人駅。タクシーも駐留していない。


 たとえバスに乗ったとしても、東雲の家の近くまでは行かない。


 となると……自然と徒歩になる。



芹沢副司令「それにしても………こんな辺鄙な所に住もうって思ったよね……まぁ。私達が育った場所だけどさぁ………」



 季節は秋から冬になろうとしている。


 そのお陰で日照時間は短くなって、辺りはもう暗くなっていた。


 芹沢はスマホに入っている懐中電灯のアプリを起動させ、スマホの明かりを頼りに東雲の家の方へと歩き始めた。


 すると少し歩いた先に街頭があって、その街頭の下には1人の女性が立っていた。


 …………大淀だ。



大淀「お疲れさまです。お迎えに参りました……お久しぶりです。芹沢副司令」


芹沢副司令「ありがとー………ん? もしかして……鞍馬総長と一緒にいた大淀ちゃん?」


大淀「はい。その通りです」


芹沢副司令「久しぶりだねぇ。大淀ちゃんもここの配属なの?」


大淀「はい。総長が『英雄』のご帰還なので、待遇を良くしようとした結果です。基地の設備もどこの鎮守府よりも充実させるとと同時に、

  私と明石、夕張、間宮、伊良湖他数名の艦娘が既に着任しております」


芹沢副司令「うわぁ……待遇良すぎでしょ…………あ! そう言えば、あいつ仕事ほったらかしてどこ行ったの!?」


大淀「……提督は仕事をサボったと言う訳ではないんです………これを見てください」



 大淀は赤城が書き記したメモを芹沢に渡した。



芹沢副司令「………これマジ?」


大淀「元佐伯湾泊地の赤城、榛名の両名が話した内容をまとめているものです。2人とも嘘をつくような方ではないので、恐らく間違いは無

  いと思います。その両名もこちらの基地に配属が決まっています」


芹沢副司令「………動向はどうなってる? 総長はこの事知ってるの?」


大淀「現在、佐世保支部に常駐している特警を佐伯湾泊地に派遣中です」


芹沢副司令「そう……」


大淀「それと……東雲提督から芹沢副司令への手紙を預かっています」



 大淀は東雲から預かっていた手紙を芹沢に渡す。



芹沢副司令「嫌な予感しかしないけど………」




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 芹沢へ


 佐伯湾泊地に行ってくるから、その間でいいから頼む。



 1 基地の運営と、基地建設の補助


 2 飯田さんって人が来たら、倉庫にポン酢が入った段ボール箱あるから渡しといて


 3 野菜がいくつか収穫時期だから、収穫頼むわ。やりかたは施設で習ったの覚えてるだろ?


 4 家は自由に使っていいから。艦娘の娘達も使うだろうし。鍵は玄関前のポストに予備鍵を入れてるから



 そんじゃ、よろしく頼むわ。


 提督権限は一時的に委譲するから、何かあったら行使すればいい。


 終わり次第、帰るわ。

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芹沢副司令「・・・。」


  

 芹沢は手に持っていた手紙をグシャっともみくちゃにした。

  


大淀「副司令!?」


芹沢副司令「………まぁ…………頼まれた以上はやってあげるけど………帰ってきたらマジで覚えてなさいよ!」



 大淀と芹沢は軍令部で何度が顔を合わたことがあり、お茶をする程の仲だ。

 

 鞍馬総長からは芹沢について『頼み事をすれば、文句は言いながら何だかんだやってくれる『山城』みたいなタイプ』だと大淀は聞いていた。


 その見解はあながち間違っていないなぁと思う大淀だった。




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 その頃、各鎮守府や泊地には通達が貼りだされた。


 そこには新基地の設置場所の決定と、それに伴い同基地へ着任する提督の名前が記されていた。


 軍令部では……



軍人B「へぇ~…柱島じゃなくなったんだな。でも同じ山口県か……提督は………「東雲」?………誰だ?」


軍人C「さぁ………聞いた事ねぇな。しかも中将って………どこにいたんだこの人?」



 『105部隊』の資料は既に消去されているので、知らない者も多い。


 『105部隊』は『あの戦い』の直後に1度だけ報道に映った事があるので、鞍馬総長や芹沢たちは世間の認知度は高い。


 しかし、東雲は訳あってその報道に出ていない。

 

 東雲という男の存在。そして功績を知る者は、東雲が今まで関わってきた軍人と当時の軍及び政府の幹部、『105部隊』の生き残りしか知らない。  


 


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 舞鶴鎮守府では……



古鷹(舞)「提督。軍令部から通達が来ています」


舞鶴提督「ありがと。どれどれ………なるほどね」


古鷹(舞)「提督? なんだか嬉しそうですね………通達には何と?」


舞鶴提督「そうかな?……まぁ。知ってる奴が新しい基地の提督になるんだよ。そっか………復帰するんだね」

 

古鷹(舞)「それは良かったですね! その方とお知り合いなのですか?」


舞鶴提督「うん。小さい時から知ってるよ……征野君が提督か……今度演習をお願いしてみようかな………そういえば明乃ちゃんも元気か

    な……しばらく会ってないし、今度2人に会いに行こうかな」



 舞鶴提督は東雲の提督着任を嬉しく思っていた。


 東雲とはどういった関係なのか………




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 一方……都内某所にある豪邸では…………



男「くそっ!!!」



 1人の男が怒りに任せて酒瓶を床に叩き割っていた。



執事「坊ちゃま! 落ち着いてくださいませ!!」


男「どうして僕じゃないんだ!! 本当は僕が新しい基地の提督になるはずだったんだ!! なのになぜ変わったんだ!! 一体誰が………お

 い! 提督になった奴の素性と今の居場所を調べろ!」



 その男は過去に東雲と関りがあった。だが、男は東雲の事を覚えてはいない。


 自分に対して協力的で親しい者しか名前を覚えようとしないからだ。


 だから、『東雲』という名前を聞いても『誰だ?』という状態なのだ。



執事「どうするおつもりですか?」


男「そいつを叩きのめす! 僕の実力を示せば軍令部も鞍馬総長も分かってくれるはずだ!」



 執事はその男に使える身ではあるが……数々の我儘に飽き飽きしていた。



執事「……調べておきます」



 この男は一体………




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 東雲たちは所々にあるサービスエリアでおにぎりを購入し、大分県佐伯市に着いた。


 東雲は車を佐伯湾泊地から1キロ離れた場所に車を止めて歩いて向かった。

 

 時間は2000……辺りは真っ暗だ。

 

 赤城と榛名の案内で佐伯湾泊地の正門前にたどり着いた。



東雲提督「……あそこか?」

  

榛名「はい……でもこんな簡単に襲撃するだけでいいんですか?」


東雲提督「……まぁ。いいんじゃないかな………あいつら、自分の防犯カメラが音声拾う事なんて気づいてないんだろ? それにそういった話

    を防犯カメラがある所で普通は話さねぇって」


赤城「なるほど……詰めが甘いですね」


東雲提督「まぁ……単純にアホだと思うんだけど……………! 隠れろ」



 東雲たちは物陰に身を潜めた。

 

 待機室呼ばれる場所は正門の前にあるので待機室内の状況が見える。


 その待機室から1人艦娘が出てきた。



榛名「そうでした………この時間は巡回の時間でした……」


東雲提督「早く言って欲しかったなぁ……それ」

  

赤城「あれは………青葉さんじゃないですか?」

  

東雲提督「青葉って事は………仲間か?」


赤城「はい……事情を知っている娘です」


東雲提督「ラッキー……予定変更。まず青葉の確保」


榛名「でもどうやって………」


東雲提督「んー……ここから波止場へと続く道ってある?」


榛名「はい。今、榛名達がいる道を海がある方へと行けば大丈夫です。柵がされてますので、波止場の中には入れませんけど……」


東雲提督「分かった……赤城。おにぎりを1個くれ」


赤城「え? 食べるんですか?」


東雲提督「…………ここでボケるなよ」


赤城「ふふっ……冗談です」



 赤城はおにぎりを1つ渡す。赤城はこの状況を楽しんでいる様だ。


 東雲は制服にある胸の内側ポケットからペンを取り出した。

  

 そして、成分表示がされている場所に何か書き記した。



榛名「そのおにぎりをどうするのですか?」


東雲提督「……投げて、青葉に当てる」


  

 東雲たちから青葉は視認できる。


 その距離。約100m………



赤城「食べ物をそのように扱うのは良くありませんが………今回は目を瞑ります」


東雲提督「よし。食欲モンスターからの許可も頂いたし、いくぞっ。元高校野球部のエースをなめるなよっ!」



 東雲はおおきく振りかぶって、おにぎりを勢いよく投げた。


 おにぎりは青葉がいる場所へと一直線に向かって飛んでいった。



  

 「あいたっ!」




 おにぎりは青葉の後頭部にヒットした。



東雲提督「……よし」


榛名「すごいです…………」


東雲提督「それじゃあ一度、波止場に移動しようか」   


赤城「・・・。」


東雲提督「……赤城?」


赤城「……食欲モンスターって…………そこまで言わなくてもいいじゃないですか…………」



 暗闇で顔があまりよく見えなくても分かる……


 赤城が拗ねていることに………



東雲提督「冗談だよ(半分本気だけど)…………悪かったって……戻ったら、何か奢るから」


赤城「!………約束ですよ」


東雲提督「あぁ。約束だ」



 赤城は陽気に戻った。

 

 その様子を見て、さらに拗ねている者が……



榛名「赤城さん………羨ましいです………」




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青葉「あいたっ!」


?「青葉?? どうかした??」


青葉「! 何でもないです!!……………誰ですか……一体何が………」


 

 暗闇で当たったのが後頭部という事もあって、最初は自分の頭に何が当たったのか分からなかった。


 青葉は周囲を見渡す。


 すると自分の足元に落ちているおにぎりを発見した。



青葉「おにぎり?…………ロー〇ンの紅鮭ですぅ……………どっから投げて……ん?」



 おにぎりを見ていると、成分表示に書いてある文面を見つけた。

 

 青葉は明かりがある寮の前に移動して、文面を確認する。


  

青葉「………『波止場に来い。榛名と赤城が待っている』……………まさか、生きて………」



 青葉は淡い期待が浮かんだ。


 しかし……あの事故の時……海上保安庁や消防が探しても赤城と榛名は見つからなかった。


 佐伯湾泊地からも艦娘が捜索に加わっており、青葉も駆り出されていた。


 しかし……3日経っても見つからず、上層部は『轟沈』したと判断して捜索を打ち切った。


 だが………もし………本当に生きているのならば………


 青葉は淡い期待を持って波止場に向かった。




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 波止場に着いた青葉は周囲を見回していた。


 すると波止場から外に繋がる柵に1人の男が立っているのを見つけた。



東雲提督「お前が青葉だな? ここに来るまでに誰にも見つかってないな?」


青葉「はい。防犯カメラの撮影範囲外を通って来ましたので、バレては無いかと………貴方は?」


東雲提督「東雲征野だ。今度新しく出来る基地の提督……と言えば分かるか?」


青葉「東雲……」


  

 青葉は今日の夕方、基地の掲示板に貼りだされていた通達を思い出した。



青葉「確か通達で見たことがあります! そんな提督がこんな所で何を………」


東雲提督「あぁ………お前んとこの提督と特警の確保。それと、摩耶たちの保護だ」


青葉「!?………どうしてそれを………」


東雲提督「……出てきてもいいぞ」



 東雲が声をかけると茂みに潜んでいた赤城と榛名が顔を出した。


 それを見た青葉は涙が止まらなかった。



青葉「あ……赤城さん……ひっぐ…………それに榛名さんも……生きて………ぐすっ………良かったですぅ………」


榛名「青葉さん。泣かないでください……」


赤城「青葉さん。ただいま戻りました」


 

 榛名と赤城は、子供みたいに泣きじゃくる青葉の頭と頬に柵越しに手を当てる。


 青葉は柵に寄り添って2人に手を回して、柵を挟んで抱きついた。 


 赤城と榛名の目にも涙が見えた。


 轟沈……『死に別れた仲間』が実は生きていて、こうして自分の目の前にいる……これ程嬉しいことは無い。


 東雲は少し余韻に浸ることにした。


 東雲もその姿を見て嬉しく……それと同時に悲しくなった。


 東雲にとって『死に別れた仲間』はもう………戻ってこないのだから………





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東雲提督「……大丈夫か?」


青葉「はい……大丈夫です……」


東雲提督「じゃあ作戦に入ろう。待機室には艦娘が何人いる?」


青葉「今日は1人です。私の妹のガザ………『衣笠』がいます。ガサも私達の味方で、赤城さん達がいなくなってからは、ガサにも協力して

  もらってました」


東雲提督「わかった。証拠は集まってるか?」


青葉「はい。いくつか司令官と特警さんの会話記録が撮れたので、DVDに記録しています。立件するには十分です。あ、万が一に備えてDVD

  は5枚ほど用意してます」


東雲提督「お……おう……………多くね?」


青葉「はい! 特警隊への提出の分と、予備。そして予備の予備です!」


東雲提督「どこぞの慎重勇者かよ……まぁいいや。それを今から回収して来てくれ。それと、この事を衣笠って娘にも伝えてくれ」


青葉「了解です! 司令官たちはどうされます?」


東雲提督「まず特警の捕獲と、その後にここの提督の捕獲。特にプランは無いかな。警備の娘と最悪対峙するかもって思ってたけど、運が良

    かったわ」


青葉「分かりました。とりあえずガサと合流してきます!」


東雲提督「あぁ。頼むわ」



 東雲たちと青葉は一度別れて、それぞれ行動に移った。




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 青葉たちと別れ、東雲と榛名・赤城は待機室前にいた。


 既に青葉が着ていたのだろうか、待機室には艦娘……『衣笠』という娘の姿も無かった。



東雲提督「……よしいねぇな……2人ともここで待ってろ。こっから先はあまり見ない方が良い」



 東雲はそう言い残し、赤城たちに背を向け待機室内に入っていく。

 

 東雲のその姿は白い髪色と肌……『深淵状態』に入っていた。



榛名「………私!」


赤城「榛名さん。待っていましょう」



 榛名が東雲に付いて行こうとしたが、赤城がそれを止めた。



東雲提督「……すぐ終わらせてくるから」


 

 東雲は待機室に入り、特警がいるであろう2階へ続く階段を見つけて2階へと向かった。




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 2階に向かうと居住スペースの入口ドアがあった。



東雲提督「……よし」



 東雲はドアを蹴破って中に侵入した。



特警隊A「!? 誰だ!!」 


東雲提督「お前がここの特警でいいんだな?」


特警隊A「だからどうs!………………うわっぁぁぁぁ!!!!!」


 

 無理もない。今の東雲の姿を見て、普通の人間とはだれも思わないだろう。


 室内は電気が付いていたので、東雲の姿ははっきり見える。


 特警は東雲の雰囲気に圧倒されていた。


 特警はあまりの恐怖に、懐に置いていた拳銃を東雲に向けて構える。



特警隊A「ばっ……………化物!!!! う……撃つぞ!!!」


東雲提督「……別にいいぞ撃っても。俺には聞かねぇから」


特警隊A「!………ひぃっ!!」



 特警は拳銃を発砲した。


 放たれた銃弾は東雲の脳天へと向かっていた。


 確実に死んだ………恐怖に怯える特警にも安堵の表情が見えた。


 だがその安堵は一瞬にして砕ける。




  ガキィィィン!!




 銃弾は東雲の脳天に命中するもはじかれた。



特警隊A「なっ!?………何で死なねぇんだよ!? まるで芹沢隊長みたいに…………」


東雲提督「ほぉ………芹沢を知ってるのか? そっか、あいつも特警だったな……俺はあいつと同じ部隊にいたんだよ」


特警隊A「まさか………深海s…がはっ!!」



 東雲は特警が言い切る前に、特警の懐に入る。


 特警に反撃を与える余裕なく、軍刀の柄で特警の鳩尾と突き上げた。

 

 特警がよろけて倒れないように東雲は軍刀を収め、特警の顔面に左右連続でフックをくらわす(デ〇プシー〇ール)。


 手加減はしているが、それでもかなりの力で殴っている。特警は顔が腫れ上がっていた。



特警隊A「ううっ…………」



 特警は壁まで追いやられて、その場にしゃがみこんだ。



東雲提督「3つ質問ずるぞ。1つ。ここの提督に賄賂を貰って非合法にボーキサイトを集めを見逃していた。違うか?」


特警隊A「ううっ………言う訳……ねぇだろ………ごふっ!!」


 

 東雲は特警の腹部に蹴りを入れる。


 それでも特警の目は死んでいない。


 東雲はさらに蹴りや手拳を数発加え、特警の戦意を喪失させた。



特警隊A「がはっ………はぁ………はぁ………」


東雲提督「質問に答えろ」


特警隊A「……あ………あぁ………そうだ……」



 特警は観念したのか、東雲の質問に答えた。



東雲提督「よし。2つ目。摩耶たちは全員無事だな?」


特警隊A「……わからない」


東雲提督「………どういうことだ?」


特警隊A「分からないんだ………俺は洞穴の監視…………それだけだ……………」


東雲提督「だが、帰ってくる娘達を防犯カメラで見るんじゃないのか?」


特警隊A「どこまで知ってんだ…………あの娘達は夜間しか活動しない……一応夜間のカメラの録画は翌日に見てはいるが……………そうい

    えば、1週間前から摩耶の姿を見ていない……………」


東雲提督「………情報ありがとう」


特警隊A「なぁ…………もういいだろ?」


東雲提督「良くねぇよ。3つ目………この部屋に鳥海来てただろ? 何してた?」


特警隊A「鳥海………あぁ………」


東雲提督「話は上がってんだよ……」


特警隊A「………遊んでいただけだ」



 特警は東雲から顔を背けた。その際……一瞬だけだったが、待機室の押入れがある方向を見た。


 その瞬間を東雲は見逃さなかった。


 東雲は特警が見た押入れに手をかざす。



特警隊A「おい……一体何を……」


 

 押入れの引き戸を引くと、2段構造の下の段に中身がむき出しの箱があった。



東雲提督「……おい。これはどうした」



 東雲は箱を取り出して、特警の目の前に置いた。


 その箱の中には色々な………………『大人の玩具』が入っていた。



東雲提督「まさか………この遊びじゃあねぇだろうなぁ………おい」


特警隊A「あ………いや………その………」


東雲提督「何とか言えや!!」


特警隊A「ぐはっ!!」



 東雲は再度、特警の腹部に蹴りを入れた。


 そして東雲は、特警の首を掴んで身体を持ち上げた。



東雲提督「ただ遊んでたんじゃ、自殺未遂なんてしねぇだろ……正直に答えろや……」


特警隊A「ぐぐっ………ガッ………分かった……認める……そいつを使って遊んでた………だが、ヤッってない…………これは本当だ………

    神に誓う………鳥海と名取って娘以外には手を出してない……………信じてくれ」


東雲提督「・・・。」



 東雲は特警の首を掴んでいた手を放す。  

 

 そして、左手で拳銃を構える。



特警隊A「がはっ……おい………やめ…………やめてくれ………」



 東雲は拳銃の引き金を引く。



  

  パァァン!!




 東雲が撃った銃弾は特警の頭頂部スレスレを通って後ろの壁を撃ち抜いた。



特警隊A「・・・。」



 特警は失神すると同時に失〇していた。


 特警が履いているズボンと、特警が座り込んでいる床が温かいもので濡れていた。


 東雲は特警が携帯していた手錠で、両手を縛った。



東雲提督「それはヤッたってことにほぼ変わりねぇよ……バカが……」



 東雲は部屋を出た。




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 東雲が外に出ると赤城と榛名が待っていた。



赤城「お疲れさまでした」


 

 赤城の左手には鍵が握られていた。



東雲提督「まだ終わってない…………それに特警も黒だった……よし、こっから二手に別れよう。あと、赤城」


赤城「はい」


東雲提督「特警からの証言で、1週間前からカメラで摩耶の姿を見てないらしい……最悪の事態も想定しておいてくれ」


 

 東雲が言った発言に赤城は驚愕する。


 東雲が言った『最悪の事態』……赤城はどういう意味か理解した。



赤城「……わ……わかりました……」


東雲提督「よし………榛名。行くぞ」


榛名「はい!」


東雲提督「赤城。後で合流しよう」


赤城「はい…」



 赤城は祈っていた。


 東雲が言っていた最悪の事態……それが現実とならないことを………




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 佐伯湾泊地は執務室の裏に提督の居住スペースが設けられている。


 東雲が特警を絞めた頃、佐伯湾提督は部屋の隅で怯えていた。



佐伯湾提督「くそっ………なんでだよ………特警の奴………全く………青葉と衣笠は一体何してんだよ……………」



 赤城と榛名は自分が犯罪に手を染めていることを知っている。


 その2人を一年半前に消した………そのはずだった。


 捜索隊がいくら探しても赤城と榛名は見つからなかった。


 遺体を回収する協力を依頼していた者も、陰で捜索していたが見つからなかったと後に報告を受けた。


 轟沈しているのならまだいい。特に榛名は轟沈しているだろう。


 しかし、赤城は違う。


 佐伯湾提督は空母を愛している。


 その空母が沈まないようにと、空母の艦娘には『応急修理要員』又は『応急修理女神』のどちらかを持たせている。


 例外はなく、赤城にも『応急修理要員』を持たせていた。


 それを考えると、榛名は分からないが………………赤城はほぼ確実に生きている。


 佐伯湾提督の考えでは、ちょっとした理由を付けて赤城の装備から『応急修理要員』を外させる。

  

 その後、高難易度海域に出撃させて、その際に艤装を爆発させ、航行不能としたところで深海棲艦の攻撃を受け轟沈させる算段だった。


 しかし、その赤城が『応急修理要員』を積んだまま、榛名の救護に向かったことから予定が狂った。


 佐伯湾提督は2人を貨物船の爆発に巻き込ませて、その後に身柄を保護。轟沈させるか、艤装を外したところで殺すことを考えていた。


 だが……その結果……………この一年半の間、赤城は見つかっていない。


 普段は周りに悟られないように平然を装っているが、正直限界が近かった。


 そして今………特警が何者かに襲撃された。


 佐伯湾提督は保険として、特警がいる待機室に盗聴器を仕込んでいた。

 

 その盗聴器から聞こえた声や音から、何者かが襲撃して特警がやられた。自分が犯している内容をその者は知っている。

 

 そいつは一体何者なのだろう……軍の者だった場合、自分がいる立場は危うくなる。


 だから考えた…………



佐伯湾提督「………そっか…俺の所にも来るだろうな………だったらこの場で、そいつを消せばいいんだ」



 佐伯湾提督はまともな判断力は残されていなかった。


 そいつを侵入者として殺す………自分の地位が落とされるのなら、襲撃者諸共消えてやると言う判断に至った。


 佐伯湾提督は自分の居住スペース内にある、緊急の内線電話に手を伸ばす。


 佐伯湾提督は特殊な艦娘の運用で空母の娘からは信頼を得ていたが、それ以外の娘からはあまり好かれていなかった。


 今日、幸いにも佐伯湾泊地には空母の艦娘は全員寮にいる。


 佐伯湾提督は受話器を取り、一斉呼び出しを行った。



佐伯湾提督「……艦娘全員に連絡。緊急事態発生。繰り返す、緊急事態発生。基地内に侵入者が侵入した。空母は執務室がある棟の護衛。戦

     艦及び重巡は寮の護衛。軽巡は駆逐艦と共に泊地周辺を囲え!」




ー続ー


後書き

次回。決着。


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2020-03-24 02:49:08

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1: SS好きの名無しさん 2020-04-02 05:58:44 ID: S:cbt4j-

続きを早く~(*`Д´)ノ!!!

2: tamanoya 2020-04-04 18:53:46 ID: S:4VUpZ0

>>SS好きの名無しさん
今日、其の陸を公開しました。
リアルでバタバタしてましたので、更新が遅くなりました。申し訳ありませんm(_ _)m
今後も、更新が遅れることもありますが、読んでいただけると嬉しいです。


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