長北泊地日記 其の陸
元海兵が海軍に復帰。提督として歩んでいくお話し第陸話です。
佐伯湾泊地襲撃。その行方は……
東雲は榛名の案内で佐伯湾提督がいるであろう執務室及び居住スペースがある棟へと侵入していた。
すると、別の棟から騒ついた声や足音が聞こえた。
東雲提督「………あちゃ……バレたかな?」
榛名「かもしれません……銃声がかなり響いてましたから…………」
東雲提督「マジか…………やっぱ銃は不味かったな」
榛名は不思議に思っていた。
自分たちは襲撃に来ている。だからこそ潜んで行動しなければならなかった。
東雲も元海軍兵士として、それは分かっている事だろう。
しかし、東雲は特警と対峙した際に拳銃を発砲した。
発砲音で周囲に見つかるのは当たり前なのに………
榛名「……提督? あの時どうして拳銃をお使いになられたのですか?」
東雲提督「あ………まぁ………鳥海の件でな………頭に来た。それだけ」
榛名「それだけですか?」
榛名は唖然とした。
人間にとって艦娘は『道具』としか思っていないと、榛名は内心ではそう思っていた。
しかし、目の前にいる人間は榛名が言う『道具』の為に特警を半殺しにした。
艦娘に好意を寄せる人間は少なからずいるのは榛名知っている。
その好意にも尊敬や下心等……様々ではあった。
榛名は優しく接してくれていた佐伯湾提督に対しては、少なからず好意を持っていた。
真実を知るまではの話だが…………その所為か『人間』という存在を少しではあったが、信じられなくなっていた。
だが、目の前にいる東雲は違った。
榛名達のことを指す言葉。『艦娘』……深海棲艦と戦う為の『道具』である事を知っても尚、変わらず『人』として接し、自分たちの為に怒ってくれる。
東雲は榛名と赤城の話を聞いて、自ら即行動に出ている。普通ならこんな事は特警に通報して、特警に任せる筈。
自ら敵地へと赴くことは、自分を危険に晒すことになるのだから。
現に、侵入者が入ったと寮に連絡が入ったんだろう。窓の外からは軽巡や駆逐の娘達が艤装を展開して、波止場に向かっているのが見えた。恐らく、周囲を囲んで逃げられないようにするのだろう。
佐伯湾提督も何かしらの行動には出ているだろう。
でも、東雲は………提督は榛名達を………『艦娘』を『人』として大事にしてくれる。
摩耶達の事を助けてくれるかもしれない。
東雲という『人間』は………信じてもいいのかもしれない…………と榛名は思った。
東雲提督「……榛名?」
榛名「はい! 大丈夫です!」
東雲提督「ならいいけど………やばい。やっぱりバレたなこれ。向かいから足音が聞こえるわ」
自分たちがいる場所の反対側から足音が近づいてきている。
侵入者を確保する為だろう。
東雲提督「急ごう。あいつらに見つかる前に佐伯湾提督を確保するぞ」
榛名「はい!」
階段を駆け上がり、2階にある執務室へと向かって行った。
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東雲たちと別れた赤城は軽巡、駆逐艦達の目を盗みながら洞穴へと向かっていた。
一度、資材庫へ行く事も考えたが……東雲が言っていた言葉が脳裏をよぎる。
『摩耶の姿を見ていないらしい』
万が一………摩耶が赤城と榛名に事実をバラしていたことが佐伯湾提督に知られてしまったら………
しかし、彼女は重巡洋艦だ。そう簡単にやられる事はないだろう………しかし赤城からは不安が消えない。
軽巡と駆逐艦の娘達が波止場へと向かうのを見て、資材庫へと向かうのを諦めた。
赤城は泊地外から洞穴へと向かっていた。
向かっている途中、両腕に『高速修復材』が入ったバケツを4個抱えていた娘と出くわした。
彼女は青葉と同じ背丈で、ピンク色のツインテールだった。
?「わぁ…………青葉の言う通りだった………無事で何よりです。赤城さん」
赤城「……お久しぶりですね衣笠さん。その修復材は……」
衣笠「まぁ……何と言いますか……青葉が勝手に資材庫の合鍵を作ってたみたいで……とりあえず、皆に見つかる前に持ってこれるだけの修
復材持ってきました。さぁ、行きましょう」
赤城「えぇ」
皆の無事を祈って足を進める。そして洞穴の入口にたどり着いた。
奥へと進んで、摩耶たちがいる場所に繋がる穴へと入って奥へと進んだ。
そして、あの時摩耶たちと出会った広い場所へとたどり着いた。
赤城「そんな………」
赤城は目の前の光景を見て絶句して、手に持っていたおにぎりが入っている袋を落とした。
赤城の声にその間にいた皆全員が振り返る。
名取「あ……赤城さん………」
五十鈴「どうして………轟沈したんじゃ………!」
五十鈴は驚きの顔をしていたが、我に返ったのか表情が驚きの表情から怒りの表彰に変わった。
すると、五十鈴は赤城へと歩みを進めてきた。
五十鈴「……生きてたのなら……どうして……どうしてもっと早く来なかったのよ!! 助けてくれるって言ったわよね!!! その所為で摩
耶が!!!」
五十鈴は赤城の胸倉を掴んで、壁へと押しやった。
衣笠「五十鈴さん!? 何してんですか!?」
赤城「……ごめんなさい」
五十鈴「謝罪を聞いてるんじゃないの!!」
長良「五十鈴! ストップ!」
海風「五十鈴さん! 辞めてください!」
長良と海風、衣笠が間に入って、五十鈴を赤城から引き離そうとする。
それでも五十鈴を止められず、江風や涼風も援護に入ってようやく止まった。
長良「……五十鈴は頭を冷やして」
五十鈴「でも!」
長良「冷やせ!!!」
五十鈴「!?」
姉である長良の怒号に五十鈴はたじろいて、大人しくなった。
五十鈴「ごめんなさい………」
長良「赤城さん。ごめんなさい……」
赤城「いえ……私こそ、助けると言っておきながらこの状況ですので何も言えません………それで、摩耶さんは」
すると長良が名取と山風がいる方向を指さした。
2人の目の前には全身刀傷だらけで無残に身体を切り刻まれ、血に染まった摩耶の姿があった。
摩耶は喋る事も出来ず、既に虫の息だった。
艦娘の身体は人間と比べて遥かに丈夫だが……だからと言って『死なない』訳ではない。
既に摩耶からは大量の血が流れている。危ない状態だった。
摩耶は赤城が見えているのだろうか。赤城がいる方に顔を向けて、出来る限りの笑顔を赤城に返す。
赤城「衣笠さん! 修復材を!!」
衣笠「了解!!」
衣笠は摩耶に高速修復材をぶっかける。
少しずつではあるが傷口が塞いでいった。
赤城「ま……摩耶さん……一体どうしてこんな姿に…………いくら深海棲艦の攻撃を受けても、これ程の傷は負わないはずです……」
名取「それが…………」
赤城と榛名が佐伯湾泊地からいなくなった後、青葉と衣笠の2人が代わりに佐伯湾提督の情報集めや、摩耶たちに物資を援助してくれていたらしい。
時折、青葉と衣笠が遠征の際に高速修復材の入手数を誤魔化して摩耶たちに回すことがあった。
物資が届く度、摩耶は他の娘を優先して物資を回していたらしい。自分もそれなに損傷や疲労がありながら……
その様な状態で身が持つことは無く、一週間程前にボーキサイトを輸送中。深海棲艦の襲撃を受けて摩耶が大破。
その際に摩耶と、摩耶を曳航した江風の2人が運んでいたボーキサイトを海に捨てて泊地に戻ったことに佐伯湾提督が激怒。
摩耶を洞穴の外へと呼び出し、自分の軍刀で摩耶の全身を切りつけたらしい。
艦娘は艤装を装着している間は妖精の加護に守られており、怪我をしても体の部位を欠損させる程までの傷は負わない。
普段、艦娘は艤装を解除しても、機関部はそのまま装着しているので『半解除』という状態で過ごしている。
恐らく佐伯湾提督は摩耶を何らかの手で脅し、摩耶に艤装を『完全解除』させたのだろう。
その間、青葉と衣笠は出撃で泊地を出ていて、今日帰投したばかり。佐伯湾提から『なけなしの物資』は罰として支給されていなかった。
皆は残された物資で何とか今日まで繋ぎ止めていたらしい。
衣笠「ごめんなさい……私や青葉がいない間にこんなことになってるなんて………」
海風「衣笠さんの所為ではありません……衣笠さん達には物資を送ってくださってて感謝しています」
江風「あいつには物資の支給が止められたけどよ。衣笠さん達が送ってくれてた物資で何とか1週間保ったぜ!」
衣笠「・・・。」
江風は笑顔で言葉を返すが、青葉と衣笠が送っていた物資はそれ程多くない。
大量に送ってしまうと佐伯湾提督にバレてしまう恐れがあり、誤差の範囲と言える程の量しか送れなかった。
衣笠は分かっている…………自分たちが送っていた量でこの人数。1週間も保つ訳が無い。
それなのに一週間保つ程の量があったのだろう。江風が言った言葉に嘘はない。
一体誰が……
摩耶「………おい! 何だこのシケた空気はよ!」
艦娘’s「「!?」」
摩耶は修復材のお陰で、全身にあった傷口が癒えていた。
まだダメージが残っているだろうに。無理して声を発しているのは誰もがわかった。
摩耶「よいしょっt……おっと!」
山風「摩耶さん!」
涼風「危ねぇ!」
摩耶は立ち上がろうとした時、ふらっと倒れそうになった。
それを山風と涼風が受け止める形になった。
摩耶「あはは……わりぃ。動くのが1週間ぶりだからなぁ……身体がびっくりしてんだろうな」
名取「よかったぁ…………けど、無理しないでくださいよ」
摩耶「あぁ! 分かってるって!」
すると摩耶は赤城と衣笠の方に顔を向ける。
摩耶「衣笠。物資送ってくれてありがとな。青葉にもそう伝えてくれよな」
衣笠「はい!」
摩耶「………赤城」
赤城「………………ごめんなさい……遅くなりました…………」
赤城は摩耶に対し、深く頭を下げた。
それを見た摩耶は少し動揺していた。
摩耶「いや……あぁ………別に謝ってもらおうなんて思ってなくってさ………………1つ聞いても良いか?」
赤城「はい?」
摩耶「赤城…………良く生きてたな。青葉からの手紙に『榛名と一緒に轟沈した』って書いてあったぜ」
赤城「ある方に保護されて生き延びることが出来ました。その時に私と榛名さんは記憶喪失になってしまいましたが……」
艦娘’s「「!?!?」」
摩耶「マジか………それで、今の発言とさっきの行動を見るに……もう記憶は戻っているみたいだな」
赤城「はい。榛名さんも記憶を取り戻して今は、私達2人を保護してくれた方と一緒に執務室の方に向かっています」
長良「……ってことは……」
赤城「はい………皆様を助けに来ました」
江風「マジで!?」
涼風「よっしゃー!」
皆、助かるという事に喜びを感じていた。
摩耶「おいおい……まだ助かったわけじゃねぇんだからよ……でも赤城。その協力者って奴、信用して良いんだよな?」
赤城「えぇ。大丈夫ですよ」
赤城は摩耶に満面の笑みを向けた。
赤城「あの人は……………『私の提督』ですから」
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時は少し遡る。
運良く、東雲と榛名は艦娘に見つかる事無く執務室へとたどり着いた。
東雲はもう既にバレているのだからと執務室の扉を勢いよく蹴り飛ばし、執務室内へと侵入した……その瞬間だった。
ババババババババババ!!!!!!
東雲提督「!?」
東雲が執務室に入ったその瞬間。突然執務室内の明かりが点いた。
そして、目の前に低空飛行の艦載機が大量に待ち構えており、大量の弾が東雲に向けて飛んできた。
東雲は『深淵状態』のままだったことが幸いして、ある程度被害を抑えることができた。
しかし、それでも一部の弾が東雲の身体を撃ち抜いて出血していた。
榛名「提督!?」
東雲提督「……大丈夫だ。問題ない」
?「そう……大人しくしてくれると思っていたのだけど?」
大量の艦載機達の向こう………執務机の前には1人の女性が弓を構えて立っていた。
彼女は赤城と同じ和装でも赤城とは色違いなのだろうか、青色の袴を履いていた。
?「よく無事でいられるわね………それにその姿………まるで……深海棲艦のようだわ」
東雲提督「まぁ……特殊体型なんだよ俺は」
?「そう……なのね……」
榛名「……どうしてですか………今……提督を殺す気でしたよね………加賀さん」
加賀「侵入者を排除するためよ。それ以外に理由があって?」
東雲提督「……他の者達より行動が早いな。ここで俺達を待ち伏せしてたのか?」
加賀「銃声を聞いてすぐです。ここに来るだろうと簡単に予測できましたので待ち伏せさせてもらいました」
東雲提督「……やっぱ拳銃使うんじゃなかったな」
加賀「判断を誤りましたね…………赤城さんの言葉を使わせて貰うと『慢心』です」
東雲提督「………全く持ってその通りだ。それで、お願いがあるんだが……君たちの提督を捕えさせてくれないかな?」
加賀「生憎………その願いは聞けません」
すると艦載機の機銃が東雲の方を一斉に向いた。
榛名「援護します!!」
榛名は艤装を展開して砲撃を開始しようとした。
東雲提督「待て榛名! 撃つな!」
榛名「しかし!」
東雲提督「俺なら大丈夫だから。な」
すると執務室の奥にある扉が開いて、1人の男が出てきた。
佐伯湾提督「やれ加賀!! 侵入者を取り押さえろ」
加賀「……鎧袖一触よ。心配いらないわ」
加賀が放っていた艦載機の機銃から銃弾が発砲される。
すると東雲の周囲を黒い何かが覆い始めた。
加賀「……これは……一体」
東雲提督「……本気は出さないつもりだったんだけどな………流石に死ぬかもしれんから、少し本気出させてもらうよ」
東雲を覆っていたものが次第に無くなっていった。
周りにいた者達は東雲の姿を見て絶句した。
加賀「えっ………」
榛名「て……い……とく?」
佐伯湾提督「おい………お前……………お前は一体誰だ!? 何なんだ!?」
東雲の両腕と両脚、そして胴体には黒く禍々しい鎧のようなモノが東雲を覆っていた。
加賀「このオーラ…………空母棲姫ですか……」
東雲提督「流石だ。一目でわかるのか」
加賀「戦ったことがありますので………」
東雲提督「そっか。それで加賀……だっけ? その戦ったことがある奴と同等の力を持った『人間』が今、目の前にいるんだが………まだやる
か? 俺の目的は君の後ろで怯えている糞野郎だけで、君には危害を加える気は一切ないんだが」
佐伯湾提督「お前一体何者なんだよ………まさか!! お前『105部隊』の人間じゃないだろうな!?」
東雲提督「なんだ。その部隊名を覚えてる奴がまだいたか?」
佐伯湾提督「しかし、生き残りは総長と特警隊の隊長、矯正施設にいる中佐……それと『あの御方』しか……………」
東雲提督「おいおい、『あの御方』って『腰抜け』の事じゃないだろうな。勘弁してくれよ。あいつと一緒にされると部隊の名が廃れる」
佐伯湾提督「おい無礼だぞ!! この基地は『あの御方』の援助があって成り立ってるんだ!!」
東雲提督「ほほぉ………ってことは………あいつが『黒幕』か? まぁいいや。俺がここに来た理由……お前わかってんだろ?」
佐伯湾提督「……なんのことかさっぱり分らんな」
東雲提督「……そうか…………なら」
東雲は左足を前に出して徒手の構えをとる。
加賀「…………一体何のつもりかしr」
加賀が言い終わる直前。東雲は左足を引くと同時に右足を前に出し、加賀が気づいた時には東雲が自分の懐に入っていた。
いわゆる古武術の技『縮地』というものだ。
それに加えて東雲は『深淵状態』により身体を強化していることから、かなりの速さであった。
加賀は不意を突かれ、何も出来ず懐に入られた。
東雲は後ろに引いていた左足を前に出すと同時に、加賀の腹部をめがけて右手拳をくらわす。
加賀「うっ………」
佐伯湾提督「か……加賀ァ!?」
加賀は気を失い。東雲に身体を預けるようにもたれた。
加賀は艤装を装着している。人間の拳1発で倒れる程やわじゃない。むしろ倒れるわけが無い。
しかし、その1発を加賀にくらわせた者が『純度100%の人間』であればの話で、東雲は違う。
たった1発………艦娘だから気絶するだけで済んでいる。これが人間相手だったら………只では済まない。
東雲提督「ごめんな………痛いと思うが、許してくれよ」
東雲は加賀を執務室の壁にもたれるように座らせた。
そして、佐伯湾提督の方を見る。
佐伯湾提督「なっ………おい! 誰か!!! 俺を助けろ!!!」
すると廊下の方から数人の声が聞こえてきた。
?「提督の声!」
?「襲われてる!? でも執務室には加賀さんが……………まさか加賀さんがやられた!?!?」
?「あの加賀さんが負けたの!?」
?「急がないと! 提督さんが危ないよ!!」
廊下を走っているであろう足音が段々と執務室に近づいてきている。
東雲提督「………榛名」
榛名「はい」
東雲提督「………頼めるか?」
榛名「分かりました! 時間は榛名が稼ぎます。その間に………」
東雲提督「分かってる………悪いな。嫌な役回りをさせて。ここにいる加賀や、今からくる奴らも元仲間だってのに………」
榛名「『佐伯湾泊地』の皆さんは榛名にとって大事な仲間です……でも、今は提督の『榛名』です。提督の為なら何処へでも付いて行きま
す」
東雲提督「………そっか」
榛名「はい……なので、足止めは榛名にお任せください」
東雲提督「頼む」
榛名は艤装を展開して、執務室を出て行った。
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榛名が執務室を出ると、4人の艦娘が弓を構えていた。
?「誰!?」
?「艦娘だよね? 抵抗せずに艤装を解除し……て………」
榛名「………お久しぶりですね。蒼龍さん。飛龍さん」
蒼龍「え………榛名さん…………でも……あの時………」
榛名「榛名はあの後、ある人に助けられて生き延びることが出来ました。今その人と一緒に来ています。赤城さんも無事ですよ」
飛龍「そっか…………まぁ……無事で良かったよ……だけど、流石にこれは許せないかな。一体何のつもり?」
榛名「……時間を稼がせていただきます」
?「……加賀さんは?」
?「瑞鶴……今は目の前にいる榛名さんに集中して」
瑞鶴「ねぇ、加賀さんはどうしたの……佐伯湾提督さんと一緒にいる筈………」
榛名「………加賀さんは無事です。今は大人しくして頂いています」
瑞鶴「!?」
瑞鶴はその一言で頭に血が上った。眼も赤く血走っていた。
瑞鶴は弓を榛名に向けて、弦を引き始める。
?「瑞鶴!!」
瑞鶴「………加賀さん……………加賀さんに……何をしたぁぁぁぁぁ!!!!!」
瑞鶴は榛名に向けて矢を放った。
放たれた矢は艦載機を放つ矢とは違い、侵入者を撃退するために支給されている矢で先端が丸くなっている。
だが、当たるとかなり痛い。
至近距離とは言えど、艦娘で艤装を展開している榛名なら矢を避けたり、叩き落とすのは容易である。
しかし……榛名は……
榛名「痛っ!……」
榛名は避けたり叩き落とすことを一切せず、榛名は右の鎖骨あたりに矢を受けた。
瑞鶴「はぁ………はぁ……」
?「瑞鶴! 抑えて!!」
瑞鶴「でも翔鶴姉!!」
翔鶴「落ち着いて!」
瑞鶴「うっ……」
飛龍「榛名さん……どうして………今の、榛名さんなら避けれたよね?」
榛名「……榛名はここで提督の為に足止めをするだけです。皆さんに危害を加える気は全くありません」
蒼龍「だからって!!」
飛龍「…………ちょっと待って?蒼龍ストップ………榛名さん。 今『提督』って言った?」
榛名「はい。榛名はこの度新しく出来る基地の所属になりました。赤城さんも同じです。提督が佐伯湾提督に御用がありましたので、此処へ
伺った次第です」
翔鶴「そう言えば、夕方に通達が出ていましたね。新しい基地が山口県に出来るって」
飛龍「あー………って事は今、提督の所にいるのは軍人……それも他所の提督って事で間違いないんだね?」
蒼龍「…………潮時だね」
蒼龍と飛龍が構えていた弓……艤装を解除する。
五航戦・榛名「「えっ?」」
さっきまでの空気が一変し、二航戦の2人が艤装を解いたことで、3人は唖然とした。
翔鶴「先輩方?」
蒼龍「2人とも、艤装を解いて」
瑞鶴「どうして………」
飛龍「いいから解いて。これ命令」
五航戦の2人は渋々ではあったが、先輩の言う通りに艤装を解いた。
榛名「どうして………」
飛龍「榛名さん………ちょっとそこどいてくれるかな?」
榛名「そういう訳には!」
蒼龍「大丈夫……信じて。摩耶達の事でしょ」
榛名「どうしてそれを!?」
飛龍「まぁ……私達が知ったのは赤城さんと、榛名さんがいなくなった後だけどね。別に榛名さんの提督に何かするつもりは無いから、安心
して。お願い」
翔鶴「先輩方……一体何の話をしているのでしょうか??」
榛名「………わかりました」
二航戦の2人は榛名の横を通り過ぎて、執務室に入ろうとする。
榛名は戸惑ったが、2人の目を見て信じていいのだと思い、執務室に通した。
翔鶴「先輩方!!」
蒼龍「ごめん。2人はそこで待ってて」
二航戦の2人は執務室へと向かって行った。
五航戦の2人は渋々であるが、先輩方の言う通り、待つことにした。
瑞鶴「とりあえず………榛名さんはそこを動かないでね」
榛名「はい」
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東雲は加賀を介抱した後、佐伯湾提督の方へと拳銃を向けながら近づいていた。
東雲提督「………さて、お前を助けてくれる者はいなくなった」
佐伯湾提督「くっ………来るな……」
佐伯湾提督は執務室の隅で怯えるように震えていた。
東雲は段々と佐伯湾提督に近寄る。
その瞬間。天井裏から気配を感じた。
東雲提督「・・・。」
東雲は天井裏を見つめる。
佐伯湾提督「おい………何をして……」
東雲提督「………青葉!」
東雲が天井裏に向かって叫ぶ。
すると、天井のパネルが1枚外されて、青葉が顔を出した。
青葉「あちゃ~……バレちゃいました」
佐伯湾提督「!?」
東雲提督「………何やってんだよ」
青葉「いやぁ~……何か証拠が取れないかなぁ~と思いまして………ってか青葉とは今日会ったばっかりですよね? よく気配が分かりました
ね………」
東雲提督「………元特殊部隊をなめるなよ…………とりあえず降りてくれるか?」
青葉「了解です!」
青葉は東雲のもとへと降りてきた。
東雲提督「青葉………こいつ……どうしよっか?」
東雲は佐伯湾提督の方を指さす。
佐伯湾提督「・・・。」
佐伯湾提督は東雲に敵わないと悟ったのと、天井裏に青葉がいたことに驚いたのもあって放心状態だった。
特警と同じように、ズボンの股辺りが濡れていた。
余りにも情けない。軟弱すぎる。
艦娘を利用して自分の懐を増やし、自分に危険が迫ると艦娘を盾にする。
海軍を去ってから今までの間で、軍人はこれ程までに弱くなったのかと、東雲は少し落胆した。
青葉「戦意喪失って感じですね………普通に拘束して特警に引き渡したら万事解決じゃないですか?」
東雲提督「まぁ……そうだな」
青葉「……不完全燃焼感が半端ないです………」
東雲提督「俺もだ………」
青葉「………とりあえず、縛りますか」
東雲提督「だな」
青葉は佐伯湾提督が携帯している手錠を取り出し、佐伯湾提督の両手にかけた。
さて、これからどうしようか考えていると、榛名が対峙していた艦娘2人が執務室に入ってきた。
蒼龍「失礼します」
東雲提督「………榛名はどうした」
蒼龍「えっ? 人?………どう見ても深海棲艦………………貴方が、榛名さんの提督でよろしいですか?」
東雲提督「……そうだけど」
飛龍「榛名さんには何もしてない……………って言いたいけど、ウチの後輩が血走って榛名さんに矢を射抜いていしまいました……」
東雲提督「はぁ?」
空気が一瞬で緊迫した。
誰が見ても分かる。東雲はブチ切れていた。
蒼龍「!……お、落ち着いてください!!」
飛龍「侵入者を撃退するためだけの矢で、打撃のダメージを与えるだけで殺傷能力は無いから!!」
東雲提督「………そうか」
緊迫した空気が徐々に緩んでいく。
二航戦の2人と青葉は『この人だけは怒らせたらヤバイ』と瞬時に悟った。
東雲を怒らせたら、この泊地は終わる………そう予感した。
蒼龍「榛名さんに危害を加えてしまったのは謝ります。ごめんなさい………佐伯湾提督はどちらに?」
東雲提督・青葉「「………そこ」」
東雲と青葉は佐伯湾提督を指さす。
飛龍「あらら………これはもう、私達が何かする必要は無いね」
東雲提督「………どういうことだ?」
蒼龍「………この泊地から赤城さんと榛名さんが消えた後、私達も摩耶たちの事知ったんです………加賀さんから……」
東雲提督「加賀が?」
貨物船の爆発事故………という佐伯湾提督が仕向けた事件の後、夜中の時間帯に二航戦の2人は加賀から部屋に来るよう呼び出されたらしい。
そこで佐伯湾提督が不法にボーキサイトを入手している事、その為に摩耶たちが不法労働をされているということを聞かされたらしい。
東雲提督「……青葉」
青葉「違います!! 青葉は加賀さんにこの件を話していません!! 話したのは妹のガサだけですぅ!!」
加賀「…………青葉が知らないのも当然です」
加賀が目を覚ました。
飛龍「加賀さん……大丈夫?」
加賀「鎧袖一触…………と言いたいところだけど……かなり痛かったわ」
東雲提督「すまん」
加賀「別にいいわ。私と二航戦の2人は、青葉さんとは別で行動をしておりました。私が秘書艦の時に、遠征部隊が入手した資材や外部から
支給された食料品の数を誤魔化して摩耶たちの方へと流しておりました。もちろん青葉と衣笠が遠征で誤魔化した分から、さらに誤魔化
していました」
飛龍「とは言っても青葉たちと同じで、ごっそり持っていくとバレるかもしれないから、少ししか回せなかったけど」
東雲提督「なら、どうやって知ったんだ?」
加賀「………青葉。貴方に少し忠告よ。貴方と赤城さんが貨物船が爆発すると話をしていた時、赤城さんの部屋の窓が開いていたわ。外にま
で話声が筒抜けよ」
青葉「げっ!」
加賀「それと、大事な情報が入っているパソコンを部屋に放置したまま外出するのは良くないわ。何処かへ隠しておくべきね」
青葉「げげっ!!」
赤城と榛名がいなくなって数日後、青葉と赤城が話していた『貨物船が爆発』するという言葉に疑問を持った加賀は、青葉の部屋に赴いたらしい。
部屋の鍵が開いていたので、部屋を覗くが青葉の姿は無く、テーブルの上にパソコンのみが置いてあったらしい。
USBメモリがパソコンに差し込んであったのを見た加賀は、『何かあるかもしれない』と思いパソコンを起動させた。
パスワードロックを解除して、USBメモリ内の内容を確認できた。
そこで、佐伯湾提督の悪事を知ったそうだ。
加賀「あと、これの保管はきっちりしないとね」
加賀は胸元から1つのUSBカードを取り出した。
青葉「それは!!……鍵がかかる場所に隠してたのに!! ってか今日の朝見た時全部あった……………」
加賀「そこにあった1つは私が複製しておいた『コピー』よ。鍵を解除するのも案外簡単だったわ。3桁の数字式の鍵だったけど、容易にバ
レる数字は辞めた方が良いわ。『108』……『あ・お・ば』……少し考えたら簡単に解除出来たわ」
青葉「なんでそこまで!?」
飛龍「いやぁ~……その時私もいたんだけどさ…………青葉と衣笠なら何らかの情報入ってないかなって思ってさ。その日秘書艦だった加賀
さんに相談したら………加賀さん、すぐさま寮の部屋のマスターキー取り出して、青葉達の部屋に勝手に侵入してんの。マジで面白かっ
たw」
青葉「なんてことしてんですか!? 飛龍さんもいたのなら止めてくださいよ!! 青葉のプライバシー『ゼロ』じゃないですか!? 令状持っ
て来いってもんですよ!!」
加賀「そんなもの必要ないわ」
青葉「そんなもの!?………うぅ………横暴ですぅ………ここに独裁者がいるですぅ………ナ〇スですかここ……………」
東雲提督「…………とりあえず、佐伯湾提督の身柄を特警に預けるか」
東雲は携帯を取り出して、軍令部の内線電話に電話をかけた。
鞍馬総長『はい。鞍馬です』
東雲提督「東雲です。大淀から話は聞いていると思いますので結果報告だけ。現時刻を以て、佐伯湾泊地の提督及び常駐の特警隊員を確保し
ました」
鞍馬総長『わかった。俺も大淀から話を驚いてはいるんだが…………証拠はあるんだな?』
東雲提督「佐伯湾泊地所属の『青葉』が情報を持っております。また、他にも協力者もいますので立件するには十分かと」
鞍馬総長『了解。今、佐世保鎮守府から『明石』。それと、佐世保鎮守府に特警隊の駐屯地があるから、そこから特警隊が向ってる。時間的
にもそろそろ着くと思うから合流してくれ。その時に2人の身柄を引き継いでくれ』
東雲提督「分かりました」
鞍馬総長『東雲の家にいたと言う赤城と榛名にも事情を聴くようになるから、東雲もしばらくはそこで待機しとくように』
東雲提督「…………鞍馬総長。その件ですが………俺だけ単独で艦娘養護施設へと行こうと思っているのですが……」
鞍馬総長『絶対に言うと思ったわ………………こっちでも何か確証が得られないかと調べててな…………そしたらとある艦娘に行きついて
な…………『鳥海』だろ?』
東雲提督「そうです。彼女に会わせてもらえますか?」
鞍馬総長『安心しろ。そうなると予想して、既に『鳥海』は都崎が帯同して、お前の家に向かっている。芹沢には俺から話しておこう。お前
の事だ。鳥海の事も何とかしようとしてただろ?』
東雲提督「………お早い事で」
鞍馬総長『お前の事だからな。なんとなくわかるわ』
東雲提督「そうですか。それで、佐伯湾泊地の今後は………」
鞍馬総長『今、幹部全員に召集をかけているから集まり次第幹部会議を開いて新しい提督を決める。佐世保支部にいる軍人の1人に『元大湊
警備府提督』がいてな。新しい提督を派遣するまでは、そいつが代理を務めることになっているが………恐らくそいつが新しい提督
になるだろうさ。信頼できる奴だから心配はしなくていいぞ。とりあえず、泊地を解体する事は無い』
東雲提督「了解。あと、摩耶たちの処遇はどうしましょう?」
鞍馬総長『そうだな………一度、軍令部で預かるのが適切だろうが…………あれだったら、お前のところに配属させてもいいぞ?』
東雲提督「では……そのようにお願いします」
鞍馬総長『わかった。他に聞くことは無いか?』
東雲提督「大丈夫です」
鞍馬総長『なら切るぞ。そろそろ幹部全員集まるころだろうからな』
電話が切れ、スマホをポケットにしまう。
すると青葉が俺の方を見つめていた。
東雲提督「……どうした?」
青葉「ふーむ………………青葉決めちゃいました! 貴方の泊地に転属したいです!!」
東雲提督・艦娘’s「「………はぁ!?」」
―続―
次回。襲撃後の東雲達。東雲の家に残っている芹沢と艦娘達の話になります。
五十鈴が五十鈴「らしく」、五航戦が五航戦「らしく」、
ほかの人物も良い感じで活きているのが素晴らしく面白いです。
(語彙力ないので、ご容赦)
>>頭が高いオジギ草さん
コメントありがとうございます!