長北泊地日記 其の漆
元海兵が海軍に復帰。提督として歩んでいくお話し第漆話です。
佐伯さん泊地襲撃後。そしてそこ頃の芹沢たちのお話です。
東雲たちが佐伯湾泊地で奮闘していた頃……
新基地にある東雲の家では、大淀が新基地の副司令兼常駐の特警隊員として着任した芹沢を皆に紹介していた。
芹沢副司令「皆、よろしくね!」
漣「ほほぉ………明乃っちも、さっき大淀さんが話してた『元105部隊』だったんですか~」
芹沢副司令「明乃っち!?」
朧「漣!?」
漣「およ? 嫌でした??」
芹沢副司令「ううん! 嫌じゃないよ!」
漣「じゃあ今から『明乃っち』で!」
潮「え~っと……よろしくお願いします………明乃っちさん……」
芹沢副司令「無理しなくていいからね! 皆呼びやすい名前で呼んでくれたらそれでいいからね!」
今は全員、東雲の家にいる。
台所では間宮と伊良湖を中心として、空母と戦艦、重巡洋艦の艦娘達が鍋を作っていた。
他の娘達は居間で、芹沢を囲んで話をしていた。
明石「明乃さんも『105部隊』だったと言う事は………深海棲艦の力を持っていると言う事でいいんですよね?」
芹沢副司令「持ってるよ」
大淀「確か。重巡洋艦級までの力に耐えられる方は少なかったと聞いています」
芹沢副司令「まぁね。鞍馬総長と私………そして、アイツ………東雲提督を含めた15人に投与されて、適合したのは私達含めても5人だっ
たしね」
狭霧「それ以外の人は………」
狭霧の質問に芹沢は苦い顔をした。
狭霧「あ………ごめんなさい。何でもないです………」
芹沢副司令「ううん……いいの。ただね…………言っても良いのかって思ってね…………」
敷波「うーん………私は知りたいかな」
天龍「俺達の提督になった奴も『元105部隊』だったんだろ? だったら尚更『105部隊』については知っておくべきだと思うぜ」
龍田「そうねぇ~………私達の提督になる人がどういう人間か。大淀さんからはある程度聞いてるけど、『105部隊』の事は知らないのよ
ねぇ~」
大淀「すいません…………私も断片的にしか知らなくて………」
芹沢副司令「知らないのも当然だよ。私達の記録って全て消去されてるんだから」
『あの戦い』の後しばらくして、鞍馬総長が軍の上層部に対して意見を具申し、それを軍が了承した。
それは……………『105部隊』に関する全ての書類、データを廃棄するというものだった。
その頃、鞍馬総長は芹沢を含めた研究チームを結成し、『あの戦い』において海上で保護した少女について調べていた。
その少女に鞍馬総長が名前を尋ねると、少女は『鳳翔』と名乗った。
すると鳳翔の左手に弓が、左腕には飛行甲板様の板。背中には矢が入った矢筒が具現化した。
それで何ができるのか尋ねると、鳳翔は海へと駆けだした。
その際、海上で沈むことなく、海面に立っていたことには誰もが驚いた。
すると鳳翔は矢を持って、弓を構えた。
上空に向けて矢を放つと、矢から火花が散ったと同時に艦載機らしき飛行体が飛び回った。
その飛行体を見た研究員の1人が、その機体のことを『九九式艦爆』と言い出した。
そこで鞍馬総長は、とある軍艦を思い出していた。
航空母艦『鳳翔』………大正9年。大日本帝国において建造され、世界で初めて設計段階から空母として建造された航空母艦。
連合艦隊・第三航空戦隊の一員として戦場を駆け抜け、太平洋戦争においてミッドウェー海戦後は練習艦となった。
終戦後は復員船として各地へと赴き、多くの復員兵を日本へと帰還させ、昭和21年から1年間かけて解体された。
まさか………かつての軍艦が少女の姿で顕現するのか………最初は誰もが半信半疑だった。
しかし、それは後に確信へと変わって行った。
それを見届けた鞍馬総長は悟った。
『人間が深海棲艦と戦う時代は終わった。俺達は過去の産物となるだろう』
『この先、俺達のような人間を生んではいけない。生まれてはいけない』
鞍馬総長は元隊員だった芹沢に相談。芹沢も鞍馬総長の意見に納得し、『105部隊』に関する全ての書類・記録を廃棄するよう上層部に具申し、承諾された。
だから、軍部にいる軍人達は『105部隊』について世間に公開されている情報に毛が生えた程度しか知らない。
『105部隊』の生き残り。部隊と関わっていた軍人しか詳細は知らないのだ。
芹沢副司令「正直な話をするとね。適合しなかった人達は………死んだよ」
艦娘’s「「!?!?」」
芹沢副司令「でも、全員死ぬかもしれないってのは覚悟してたからね。後悔はしてないと思うよ。あ、そうそう………」
天霧「まだあるのかい?」
芹沢副司令「私さ。研究チームを離れて特警隊になった後も、深海棲艦の研究を手伝ってたんだけど。1年ぐらい前かな。呉鎮守府から『と
ある深海棲艦』の血液サンプルが届いたの。実験の一環で私、それを飲んじゃってさ………」
芹沢がそう言った途端。この場の雰囲気が一気に静まり返った。
今日の朝にも同じ事があったと瞬時に察した者は艤装を展開していた。
大淀「嘘でしょ……」
明石「えぇ~……マジ?」
ダークブラウンだった芹沢の髪色は白色へ。眼の色が茶色から青色へと変化した。
ここにいる者たちの殆どは練度が低く、戦闘経験が少ない娘達。
かの深海棲艦の姿を見ていない娘達でも、情報としては耳に入っている。
約1年前。ハワイ沖にて『眼の青い『重巡棲姫』が現れた』と………
芹沢副司令「さっき、『重巡洋艦級』の血を飲んだって言ってたけど………正確に言うと、前は『重巡洋艦級』だった。今は『重巡棲姫』だ
からね」
潮「ひっ!?ひやぁ~~~」
芹沢の姿を見た途端。潮が恐怖の余り泣いてしまった。
それを見た芹沢はすぐに元の姿へと戻った。
芹沢副司令「ごめんごめん!! 驚いたよね!?」
漣「やーい。明乃っち、ウチの潮泣かせてやんのー」
芹沢副司令「泣くとは思わなくてさぁ!!」
潮「ひっぐ……ごめんなさい……」
曙「なに潮を泣かせてんのよ! このクソ提督!」
朧「曙……明乃さんは提督じゃない」
曙「そうだった………」
敷波「でもさ…………普通の人間がさ………深海棲艦の血で強化されるってのも凄い事だし………よく平気だよね」
芹沢副司令「うん。姫級の血を飲んでも平気なのは理由があるんだけどねぇ………」
明石「ってか、提督と同じような事しないでくださいよ! びっくりするじゃないですか!!」
芹沢副司令「え!? そうなの!?」
龍田「ってことはぁ………私達の提督も『姫級』の血を飲んで身体強化されてるって事ねぇ~」
天龍「マジかよ………笑えねぇ……」
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一方、東雲たちは特警隊に佐伯湾提督の身柄を預けた。
赤城と榛名、摩耶たちは特警隊と憲兵の取り調べを受けていた。
東雲提督「ふぅ~………」
東雲は佐伯湾泊地の敷地から少し離れたコンビニで、煙草をふかしていた。
敷地内で吸おうとしたら『法改正で軍施設内での喫煙は禁止されています』って特警隊員から注意された。
先程までは榛名も一緒にいたのだが、泊地を出ようとした途端だった。
東雲達の後方から『はぁぁ~~るぅ~~~~なぁ~~~!!』という叫び声が聞こえた。
その直後。榛名が誰かに『後ろタックル』をされて押し倒された。
榛名を押し倒した娘は、榛名に抱き着いたまま泣きじゃくっていた。
その娘は榛名とは雰囲気が違って、榛名が『お淑やかな和風美人』と言い表せたなら、その娘は『天真爛漫な英国風美人』と言った感じだろう。
だたし、榛名と着ている服は同じだった。恐らく姉妹だろう。
榛名に抱き着いた娘は一向に離れようとしないので、『姉妹と話してきなさい』と言い残して、東雲はその場を後にした。
そして今、喫煙タイムを終えて佐伯湾泊地に戻ろうとしたら、佐伯湾泊地がある方向から青葉が東雲の方へ走ってきた。
青葉「司令官!」
東雲提督「……お前の司令官になった覚えはねぇぞ」
青葉「そんな冷たい事言わないでください!決まった事ですからね!!」
東雲提督「……はぁ」
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青葉「ふーむ………………青葉決めちゃいました! 貴方の泊地に転属したいです!!」
東雲提督・艦娘’s「「………はぁ!?」」
青葉「だって! その方が面白そうですし!!」
東雲提督「馬鹿言うなよ。無理に決まってんだろ? 別にここが解体されるって訳じゃねぇんだ。新しい提督も幹部連中がほぼ決めているらし
いからよ」
青葉「でも、青葉は貴方の下にいたいんです! 今よりもっと強くなれる気がするんです! 直感ですけど!」
東雲提督「駄目だ」
青葉「ぶぅ………こうなったら………」
青葉は執務室にあった受話器を取り、どこかへと電話をかけた。
青葉「………あ、繋がった! もしもし! 総長さんですか?」
相手は鞍馬総長だった。
青葉「佐伯湾泊地所属の青葉です! 実は………転属願を出したいのですが………はい………転属先ですか?………そうです! 東雲提督のと
ころに………………はい!後、妹の…………はい! ありがとうございます!」
青葉は受話器を戻した。
青葉「転属許可が下りました!! 今日から東雲提督の所の所属になりましたので、よろしくお願いしますね! あ、ついでに妹のガサも連れ
ていきますね!」
東雲提督「………マジかよ………」
飛龍「え~……青葉いなくなるのか……少し寂しいなぁ……」
青葉「だったら飛龍さんも来ればいいんじゃないですか!」
東雲提督「馬鹿言うなよ。お前ら空母はここの主力だろうが。お前たちはもっと駄目だ」
飛龍「ちぇっ」
蒼龍「そうだよ飛龍。東雲提督さんの言う通り、私達空母がここの主力なんだから。私達がしっかり引っ張っていかないと」
話していると、執務室に榛名と翔鶴、瑞鶴が入ってきた。
榛名「提督。お疲れ様でした」
東雲提督「おう。大丈夫か? 矢を受けたんだろ?」
榛名「榛名は大丈夫ですよ」
東雲提督「そうか」
翔鶴「あの……妹が榛名さんに……」
瑞鶴「ごめんなさい……」
2人は東雲と榛名に頭を下げた。
東雲提督「気にするな。無事ならそれでいい」
翔鶴「ありがとうございます……それと………」
瑞鶴「提督さんが………違法行為に手を染めていたのは本当ですか……」
蒼龍「……そうだよ」
瑞鶴「……どうして………どうして私達には何も言わなかったんですか!?」
加賀「………聞いたところで、貴方に何が出きたのかしら?」
瑞鶴「!?…加賀ぁ!!」
翔鶴「瑞鶴!」
加賀の一言に瑞鶴は激怒した。
瑞鶴は加賀に飛び掛かろうとした…………その時だった。
艦娘’s「「!?!?」」
その場にいた艦娘全員に戦慄が走った。
ゾッとする空気が一気に流れてきた。
その場にいた艦娘達はすぐさま、東雲の方を見た。
視線の先には『深淵状態』の東雲がいた。
東雲提督「………余計な争いしてんじゃねぇよ。これ以上やるってんなら俺が相手になるぞ」
その姿を見た瑞鶴は、握りしめていた拳を緩めた。
瑞鶴「……ごめんなさい」
東雲提督「わかればよろしい」
東雲は『深淵状態』を解いた。
すると、飛龍が翔鶴、瑞鶴に近づいて耳打ちを始めた。
飛龍「まぁまぁ。こういった面倒事は私達先輩に任せなさいって。それに……貴方達を万が一巻き込んで危害が及んだら逆に私達が加賀さん
に何されるか………過保護だねぇ……加賀さんは。あんたら2人は、この件に巻き込みたくなかったんだよ」
翔鶴「先輩!?」
瑞鶴「えっ?」
加賀「飛龍?」
飛龍「なんでもありません!」
加賀「……そう」
耳打ちとは言え、近い者達には聞こえるぐらいの声量だった。
瑞鶴達から少し離れた場所にいた加賀には聞こえなかったみたいだが……
瑞鶴はそれを聞いて、少し顔を真っ赤にしていた。
加賀「瑞鶴……顔が真っ赤よ」
瑞鶴「なっ……何でもない!!」
瑞鶴はその場にいられなくなったのか、走って執務室を出て行った。
翔鶴「瑞鶴!?」
飛龍「あーあ。ツンデレだねぇ……」
蒼龍「飛龍。瑞鶴で遊ばないの」
飛龍「ごめんって。それじゃあ私、皆に警戒を解くように言ってくるね」
蒼龍「あ、私も行く」
翔鶴「私は瑞鶴を探してきますね!」
3人は執務室を出て、それぞれ散っていった。
すると、加賀が東雲の方へと歩み寄ってきた。
加賀「……1つ聞いてもいいかしら?」
東雲提督「どうした?」
加賀「あの榛名さん……この泊地にいた榛名さんですよね?」
東雲提督「そうだけど……」
加賀「では……赤城さんは……」
青葉「赤城さんも無事でしたよ!! 今はガサと一緒に摩耶さん達の所にいると思います!」
やっと場が落ち着いたお陰か、東雲は気づいた。
加賀という艦娘の格好は、赤城と色違いであることに。
東雲提督「あー……加賀は赤城の妹か何かか?」
加賀「いえ。妹ではありません。同じ第一航空戦隊として………相棒と言うべきでしょうか……………貴方、私達の事をあまり知らないのか
しら?」
東雲提督「悪いな。俺は一度海軍を辞めて、つい最近復帰したばかりなんだ。それに、過去の大戦についても学校で習ったぐらいしか知らな
いからな。だから、一般人程度しか艦娘に対する知識が無いんだ」
加賀「そう……貴方、それでよく海軍に戻れたわね……恐らく、あの時の深海棲艦みたいな姿に理由があるのでしょうけど……」
東雲提督「まぁ……色々あったんだよ。さて、外で煙草でも吸ってくるかな。加賀も、赤城に会いたければあってくればいい。特警の取調べ
があるから、明日まではここに残ることになってっから、それまで充分に時間あるしさ」
加賀「……ありがとうございます」
加賀がそう言い残し。執務室を出て行った。
それから少し経って佐伯湾泊地に特警隊と医療班が到着。佐伯湾提督の身柄を特警隊に引き継いだ。
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江風「う……うめぇ!!!!」
海風「赤城さん。ありがとうございます」
時は戻って、赤城と衣笠、摩耶達は洞穴を出たところで、特警隊と医療班と合流した。
今は、順次摩耶達の健康状態の確認を行った後、取調べを順番に行っている。今は長良、名取、山風、涼風の4人が取調べを受けている。
取調べの順番を待っている間、摩耶と五十鈴、海風、江風の4人は赤城が持っていたおにぎりを食べていた。
赤城「いっぱいありますから。食べてくださいね」
五十鈴「これだけの量……一体どうしたの?」
赤城「提督からの指示です。いっぱい食べさせなさいとのことでした」
摩耶「そっか。そいつには礼を言わないとな。それに、そいつのお陰でアタシ達は今助かってる訳だしな」
赤城「もうしばらくしたら帰ってくると思いますよ。今、泊地の外で煙草吸ってると特警隊の方が言ってましたから」
江風「けどよ。あたいんとこの提督をよく捕らえられたよな。人間としては最悪だが、剣道の有段者で結構強かった筈だぜ?」
五十鈴「分からないわよ。あいつの素って結構ビビりだから、怖気づいたんじゃない?」
摩耶「それ言えるな! あはは!!」
赤城「えぇ……まぁ。そうですね。提督は別次元といいますか……普通の人とは違いますから」
海風「どういう意味でしょうか?」
赤城「……すみません」
五十鈴「話せないって事?」
赤城「えぇ……その通りです」
赤城達が話をしていると、赤城の背後から足音が近づいてきた。
加賀「・・・。」
赤城「………加賀さんですね。お久しぶりです」
加賀「……どうして後ろを振り返らずに、私だと分かったんですか?」
赤城「私が佐伯湾泊地に来てから、貴方と一緒に行動してましたから。分かりますよ」
加賀「……そうですか」
加賀は赤城へと近づいた。
赤城は加賀の方へと振り向いた………その時だった。
加賀「」バシィッ!!
赤城「うっ!!」
艦娘’s「「!?!?」」
赤城が振り向いた瞬間。加賀が右手を挙げ、赤城の左頬へめがけて思いっきり腕を振りぬいた。
2人の周りに乾いた音が響いた。
赤城の左頬は真っ赤になっていた。
取調べを行っていた特警が何事かと赤城に駆け寄ってきた。
特警隊員「どうされましたか!?」
摩耶「加賀!?」
赤城「……私は大丈夫です。取調べを続けてください……加賀さん。話をしませんか」
加賀「えぇ」
赤城と加賀はその場を離れた。
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煙草を吸い終えた東雲は、青葉と一緒に佐伯湾泊地の方へと戻った。
途中で青葉の妹、衣笠とも合流した。
衣笠「ねぇ青葉! 私聞いてないんだけど!? 青葉が転属するって飛龍さんが言ってたんだけど!!」
青葉「いいじゃないですかぁ……絶対、東雲提督といた方が面白いんですもん!!」
東雲提督「面白いって理由で、転属すんなよ………」
衣笠「東雲提督はいいんですか!?」
東雲提督「良いも何も……軍令部総長の許可が下りてっからな。何も言えん。それに……衣笠だっけ? 君も俺んとこの所属になった」
衣笠「……へ?」
青葉「総長さんにお願いしちゃいました!!」
衣笠「あーおーばー!!!」
衣笠は青葉の背中に乗りかかり、両拳で青葉のこめかみをグリグリし始めた。
青葉「痛い!! 痛い痛い痛い!!!!!」
衣笠「そういうのは! ちゃんと衣笠さんにも話を通しなさい!!!」
青葉「ごめんなさい!!」
東雲は思い出した。衣笠は青葉の妹であることに。
妹に怒られる姉………姉にはしっかりして欲しいものだ。
でも、仲が良いんだろうな。衣笠は少し手加減をしているようにも見える。
東雲提督「全く………おい。静かに」
衣笠「東雲提督も何か言って!」
東雲提督「静かに」
丁度、佐伯湾泊地の本庁舎へと差し掛かっていた時だった。
庁舎の隅から誰かの話声が聞こえてきた。
東雲は青葉たちを静かにさせ、その声が聞こえてくる方へと忍び足で近づいた。
様子を見ると、庁舎裏で赤城と加賀が話をしているようだった。
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赤城と加賀は摩耶達が待機していたテントから離れ、庁舎裏へと移動した。
赤城「………改めて、お久しぶりです。加賀さん……」
加賀「えぇ。無事で何よりです。赤城さん……」
赤城「それで……さっきのは一体どういう事でしょうか………まだ痛いんですよ」
赤城はさっき、ビンタされた左頬を撫でている。
加賀「……私言いましたよね。決して1人で抱えないでくださいと。私達を頼ってくださいと……言ってましたよね?」
赤城「・・・。」
加賀「……貴方が、この泊地に着任してからずっと……私達よりも遅く着任した貴方は、私達に追いつけ、追い越せと鍛錬に1人で励んでい
ました………周りには一切見向きもせず、ただ己の道をずっと突き進んでいましたよね。しばらくして私達よりも強くなって、『佐伯湾
の赤城』なんて呼ばれるようになってからも、貴方は私の隣にいながらも、ずっと1人で戦っていあました。まるで一匹狼のように」
赤城「えぇ……そうでしたね……」
加賀「それが原因で、ある時に大きな失敗してからは反省して、少しは丸くなったと思っていましたが………結局はこの有様ですよ」
赤城「はい………私だけならまだしも、榛名さんを巻き込んでしまいました………」
加賀「えぇ。そうですね………それもですが………やはり、貴方は覚えていないようですね………」
赤城「どういうことでしょうか?」
加賀「………はっきり言います。摩耶と一緒にいた『江風』の事………覚えていませんんか」
赤城「江風ですか……一体何を覚えてるのだと言いたいのですか?」
加賀は『やっぱりか……』というような呆れた顔をする。
加賀「………この際なのではっきり言います。赤城さんと江風が初めて会ったのは『洞窟』ではありません。貴方は彼女と一度、共に出撃を
しています」
赤城「えっ………」
2人のやり取りを覗いていた東雲は行動に出る。
東雲提督「青葉。江風呼んで来い」
青葉「江風さんですか? 分かりました……」
青葉は江風を呼びに行き、東雲と衣笠は、赤城と加賀の様子を再び覗いた。
加賀「私も、もしやと思って調べて分かったのですが………江風は貴方が犯した失敗の責任を負って、あの場所にいたんですよ。そして江風
の姉妹はその巻き沿いです」
赤城「えっ………私の失敗で江風さんが……」
加賀「覚えていない様ですね。佐伯湾提督と貴方の無謀な指揮のお陰で江風が大破。撤退を余儀なくされましたよね。海域攻略に失敗して、
佐伯湾提督は周囲から、かなり批判を浴びました。でも、佐伯湾提督は貴方に対して、一切罰を与えなかった。何故か分かりますか? 失
敗した原因として佐伯湾提督は『無謀な現場指揮をした自分と赤城さん』では無く、『大破して攻略を妨げた役立たずの江風』に全責任
を負わせたのです。そりゃそうですよね。貴方と佐伯湾提督は『進軍』という意見が一致していたもの。その時に、海風たち姉妹が佐伯
湾提督に対して『私達姉妹も責任を共に負います。なので江風には寛大な処分をお願いします』と直談判したらしいわ。それで、姉妹全
員あの場所に追いやられて、ボーキサイトの違法調達をさせられてたのよ」
赤城「そんな………」
いきなりの真実に赤城は受け入れられずにいた。
その場で膝をついて肩を落とした。
加賀「あの場に江風たち姉妹がいたのは、半分は佐伯湾提督。残り半分は貴方……赤城さんの所為でもあるんですよ」
赤城「そんな……私は……」
加賀「貴方が1人で成し遂げようとして、巻き込まれて、被害を受けたのは『榛名さん』だけではありません」
赤城「私……江風さんに何て言ったら……」
その様子を見ていた東雲は、過去の自分と赤城を照らし合わせていた。
かつて『105部隊』にいた頃の事で、東雲自身も赤城のように一匹狼だった頃……同じ様に失敗してきた。
昔の事を思い返していた所、青葉が江風を連れて戻ってきた。
青葉「司令官!江風さん連れてきました!」
江風「えーっと……アンタが東雲提督かい?」
東雲提督「そうだが?」
江風「そっか! ありがとな。江風さん達を助けてくれて。あと、おにぎり美味しかったぜ!」
東雲提督「そりゃよかった」
江風「それで。呼ばれてきたんだけど……江風に何か用かい?」
東雲提督「来たか。赤城の事だ」
江風「ん? 赤城さんがどうかしたのかい?」
東雲は赤城と加賀がいる方を指さした。
その方向を江風が何事かと覗いて、赤城が膝をついて肩を落としている姿に驚いた。
江風「なっ!? 何がどうなってんだ!?」
東雲提督「……お前のことを加賀に告げられてる所だ」
東雲の言葉を聞いた江風は、苦い顔をした。
江風「マジか……んー……赤城さん知っちゃったかぁ………」
衣笠「ねぇ。今の話本当なの? 衣笠さん達はさ、江風たちが泊地からいなくなったのって『転属』って聞いてたから」
江風「転属ってのは嘘だぜ。江風さんが出撃で失敗して、その責任であそこにいたのさ」
加賀が赤城に言っていた事の事実確認がとれた。
東雲提督「……江風」
江風「なんだい?」
東雲提督「……赤城を恨んでるか?」
江風「え? なんでさ?」
東雲提督「え?」
江風「恨む必要がどこにあるんだい?」
江風のあっけらかんとした顔に、東雲は驚いた。
東雲提督「……本当か? お前が全責任を負ったのは、赤城の所為でもあるんだぞ」
江風「んー……それは本人に直接言った方が良いかな? ちょっと行ってくるぜ」
東雲提督「……頼むわ」
江風は赤城たちのいる方へと歩いて行った。
江風がそう言う事をしてくれると信じて。東雲は江風を呼んだ。
赤城の罪を許してくれる奴が必要だと。加賀も恨みで言っているのではないとは思っている。
だが、その事を忘れろとは言わず、それを踏まえて今後生きていくのだと……
以前、赤城と同じ状態だった東雲を芹沢と鞍馬総長が救ってくれた。
鞍馬総長のような存在が、今の赤城には必要だと東雲は思っていた。
東雲は赤城達の方に視線を戻すと、赤城は落胆したままだった。
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赤城「私は……酷いですよね………」
加賀「えぇ……そうね……貴方はどう思うかしら? 江風」
赤城「えっ?」
赤城が顔を上げて後ろを見ると、背後には江風が立っていた。
江風「えーっと……まぁ……江風さんは別に赤城さんを恨んじゃいねぇよ」
赤城「でも……私の所為で……」
江風「でもさ、江風さんがあの場で大破しなければ何事もなかったじゃん。別に赤城さんの所為じゃないって。それに今、こうして江風さん
たちを助けてくれたじゃん」
赤城「江風さん……」
江風「まぁ。洞窟であった時に、江風さんとは初対面みたいな様子だったのは、ちょっと許せなかったけどねー……」
江風が赤城に向かって、ニヤっという顔をした。
赤城「それは……ごめんなさい……」
江風「冗談だって。そーいえば、まだ面と向かって言ってなかったぜ」
赤城「何をでしょうか……」
江風「………赤城さん。あの時は江風さんが足を引っ張ってごめんなさい………そんで、今回は江風さんや姉貴たち、長良さんや摩耶さん達
を助けてくれてありがとう!!」
江風は満面の笑みを赤城に向ける。
そして、江風は赤城に向かって思いっきり抱き着いた。
赤城は、目から大量の涙が流れだしていた。
赤城「江風………さん……ひっぐ……私……こそ……ぐすっ………あの時……は……ごめんなさい……本当に……ごめんなさい……」
その様子を見ていた加賀が、東雲達がいる方を見ていた。
東雲はそれを見て、加賀に姿を見せた。
加賀「……見ていたのね」
東雲提督「偶然通りかかっただけだ」
加賀「……そう」
東雲提督「……加賀はいいのか?」
加賀「……どういうことかしら」
東雲提督「もう一度言うぞ。加賀は良いのか?」
加賀「・・・。」
加賀は、赤城と江風がいる方へと歩み寄り、赤城に背後から抱き着いた。
赤城「……加賀さん?」
加賀「……無事で……無事で本当に良かったです…………」
赤城「加賀さん……」
加賀の目からも涙が溢れていた。
加賀「赤城さんがいなくなってから……私、強くなりました………蒼龍や飛龍……五航戦も…………貴方と肩を並べられるように………貴方
から信頼を置かれるように……だから、これからは私達を頼ってください………貴方を1人にはしませんから………もう、貴方に頼られ
ないのは嫌ですから………同じ空母として………一航戦の相方として……貴方の傍にいる限り………貴方にとって一番信頼できる存在に
なりたいんです………」
赤城「加賀さん……私……」
お互い溜まっていた物を全て涙と共に流れていた。
後悔だけはしてほしくない。それが東雲の願い。
―続―
佐伯湾泊地での話が少し続きます。
「眉間」?
「こめかみ」じゃないの?
>>SS好きの名無しさん
コメントありがとうございます。
訂正箇所ですね。
指摘ありがとうございます。