提督「君は今日から私の私室での夜戦係だ」 朝潮「……え?」
前半シリアス、後半ホラー
私の名前は朝潮です
大本営直属の朝潮型一番艦朝潮。肩書きは立派ですが、その実、厄介者とされているだけです。物事を柔軟に考えられず言われたことしか出来ない愚直な性格のせいで何度か大きなミスを犯してしまいました。そのせいで色々な鎮守府をたらい回しにされて、ついには受け入れて頂ける鎮守府すら無くなっていました。一応、大本営預かりとはなっていますが、実際はどこにも居場所の無い無所属の艦娘なんです
しかし、こんな私でも未だに必要だと判断してくれた方が居たみたいで、今日からそこに着任する事になっています
この愚鈍な性格が災いして煙たがられ、また遠ざけられるかも知れませんが、これが最後の機会だと思って精一杯自分のお役目を全うする所存です。まずは執務室のドアをノックします。これが私の新しい最初の一歩です!
朝潮「失礼します。本日付でこの鎮守府に配属になりました朝潮型一番艦、朝潮です。よろしくお願いいたします!」
提督「君が朝潮か。俺がここの鎮守府の提督だ。君が来てくれて助かるよ。こちらこそ宜しく頼む」
助かるなんて聞いたのは何時ぶりでしょうか?それになんだか優しそうな方です。引き締めていた心も自然と解れていく様です……。いえ、いけません。私はここへ遊びに来たわけではないのです。
緩んでしまった気を引き締め直していると司令官が言葉を続けます
提督「君の噂は聞いているよ。何でも与えられた任務は何がなんでも遂行する忠実な艦娘らしいね」
朝潮「……はい」
私の噂はここにも届いていた様です……。何でも遂行するというのは間違いです。遂行の為に猪突猛進してしまった為に大損害を与えてしまった事もあります。結局の所、私は限度を知らないだけなのです。
しかし落ち込んでいては先には進めません。沈んだ気持ちを圧し殺して朝潮は朝潮の任務を果たすのみです
提督「いや、そう悄気なくてもいい。俺はその忠実さを見込んで君をここに呼んだんだ」
朝潮「私の忠実さを……ですか?」
提督「ああ、そうだ。君がここに配属された理由は大淀から聞いたかい?」
大淀さん。執務室へ来る前にここの鎮守府を案内してくれた艦娘の方です。ここでの約束事や細かいルール、暗黙の了解まで色々と教えてくれた親切な方で、私がここですべき事も聞きました。
朝潮「はい、大淀さんから大まかには聞きました。提督の身辺警護とお聞きしています」
提督「よし、なら話は早いな。君は今日から私の私室での夜戦係だ」
朝潮「……え?」
提督「では今日の日付が変わる頃に俺の私室へ来てくれ。明け方近くまでかかるはずだからな。今のうちに体を休めておくんだ。食堂と入渠の場所は分かるな?」
朝潮「は、はい」
提督「そうか、すまないな。本来ならもっと色々と教えなきゃいけないんだが、ここ最近は忙しくてな。もう下がっていいぞ。しっかり食べてゆっくり風呂にでも浸かって体を休めているといい。夜明けまでの長い任務になるからな」
そういうと司令官は書類が山積みになっている執務室の机に戻り、せかせかとなにやら書き上げていきます。忙しそうにしている司令官をよそ目に退室の言葉だけを残して執務室の外へ出ていきます
朝潮「(日付が変わる頃に司令官の私室にって……そういう……ことですよね?)」
さっきまでの浮かれていた気持ちがどこかへいって、代わりに虚しさだけが心の奥底に残ります
朝潮「(聞いたことがあります……。戦場で使えない、扱いにくい艦娘はそういう使われ方をされると。)」
自然と涙が込み上げて来るのを必死に我慢します。ここで私が醜態を晒せばここの艦娘の士気にも影響してしまうはずです。なら私は誰にも気取られず自分の役目を遂行するしかありません
朝潮「(まずは司令官に言われた通りにしなくいと。食欲は……ないし、何もやる気は起きないけど無理にでも食べて体も綺麗にしてこないと…)」
まずは食堂へ向かい、最低限の食事を摂るために口の中に食べ物を押し込んでいきました。途中、拒絶反応なのか何回か戻しそうになりつつも必死に飲み込んで胃に流し込みます。今夜のする事を思うと栄養は必要ないとは思うのですが、これも司令官の命令です。目の前のプレートに乗っている食材を一つも残らず平らげ、次に向かうのはお風呂場です。
脱衣場に着くと一つ、また一つと衣服を脱いでいきます。いつもと違い、脱ぐという行為に嫌悪感が湧いてしまいますが、その考えを体の汚れごとシャワーで流していきました。司令官の逆鱗に触れないように念入りに、いつもの倍以上の時間を掛けてゆっくり体を洗っていきます。
お風呂をあがる頃には陽もやや落ちかけていたので、鉛の様に重い自分の体を引き摺る様に自室へと向かいます。自室へと向かう最中にここに所属している艦娘さん達を見掛けますが、誰も彼もが楽しそうに笑っていて、私の奥底に黒い感情が芽生えているのを感じます。
"どうして私なんだろう?"、"誰か助けて欲しい、今すぐ私と変わって欲しい"
そんな事を考えていると目の前に黒ずんだ色の扉が現れます。どうやら自分の部屋の前へ着いていた様です。
中へ入室すると必要最低限の私の荷物が部屋の隅っこにポツンと置かれています。その様が誰にも助けを求められない今の自分と見ているようで悲しさが込み上げていきます。すると廊下の方から話し声が聞こえてきました。今の自分の情けない様を他の艦娘に見られてはいけない、と慌てて扉を閉めると抑えていた感情が一気に吹き抱いてしまいました
涙は止まらず、頬を伝うそれが涙だと気付きます。私は今泣いているんだと自覚した途端、嗚咽も漏れ出して涙を止めようとすればするほど体の力は抜けていき、反対に頭の中では考えたくない事ばかりよぎっていきます。
どのくらい泣いたでしょうか?辺りを見回すと既に真っ暗です。
慌てて時計を見るとその短針は既に頂上付近を目指しています。
朝潮「(どうしよう、もう約束の時間です……。司令官が命令した"体を休める"という事は出来なかったけどもう行かなくては)」
泣き疲れていたのか私の体は倦怠感で悲鳴をあげているようでした。しかしこれは任務です。心を奮起させ、やっとの思いで立ち上がり、そのまま司令官の私室へと急いで向かいます。
司令官の部屋の前に着くと着崩れた服を正し、未だに整理出来ていない今の現状を無理矢理納得させます
朝潮「(これは任務。私がここから逃げれば、きっと他の娘達が同じ目に遭うだけ……。なら私はこれを全うするのみです)」
自分を説得……いえ、諦めさせる様に言い聞かせ、一呼吸おき、入室の前に司令官に一声掛けます。
朝潮「朝潮、任務遂行の為に参りました」
提督「ああ、入っていいぞ」
朝潮「失礼します!」
司令官の私室へと入ると私の部屋と同じような殺風景な光景が広がります。一つだけ違うのは机の上に山積みになっている書類だけでしょうか?
提督「つまんないところだろ?」
司令官は私の視線に気付いたのか私が考えていた事を見透かした様に言葉を投げ掛けてきます
朝潮「いえ、そんなことは……」
提督「はは、まぁいいさ。俺は風呂に入ってくるけど何か飲むか?コーヒ……いや、ココアかな?作ってくるぞ」
朝潮「大丈夫です。栄養補給は摂取してきましたので」
提督「流石だな。じゃあ俺は少し席を外すよ。その辺で寛いでてくれ」
朝潮「了解しました」
司令官はそう言うと恐らく浴室があると思われる部屋の中へと足早に消えていきました
朝潮「ここが、司令官の部屋……」
私達の部屋に比べるとやや大きいようですが、そこまでの違いは無いようです。浴室があるか無いか、それだけ、という感じです
朝潮「(私は今日ここで……)」
考えないようにしてきた事を不意に思い返してしまって目の前が滲んできてしまいます。諦めていたつもりが土壇場になると抗ってしまう。そんな自分の弱さを恨めしく思っていると司令官が戻ってきてしまいます
提督「上がったぞ」
朝潮「……はい」
提督「風呂に入る前はいつもゆっくり入ろうとは思うんだが、早く寝たい気持ちに負けていつも烏の行水になってしまうんだ」
提督はそう言いながら机の上に置いてあった湯飲みを手に取り、飲み残しがあったのかそれを一気に飲み干していきました
提督「ふぅ……。そろそろ寝るとするか。朝潮、では頼んだぞ」
その言葉を聞いて背筋が凍るのが分かりました。司令官に対する嫌悪感や今まで抑えてきた逃げ出したい気持ちが津波の様に私を襲います。ふと見るとその様を見ていた司令官がこちらをじっ、と見ていました
朝潮「(いけない、私がやらないとダメなんです)」
覚悟を決めようとしても決めきれなかった心を叱咤するように、そしてもう後戻りは出来ないと自分に自覚させる為に、恐らく寝室であろう部屋の扉を開けた提督の隙間を縫って中に入っていきます。
中にはやや大きめのベットがありました。ここでベットに入れば後は身を任せるだけ……。今の重い気持ちから逃げるようにベットの中へと入っていきます。
朝潮「(初めては好きな人とが良かったな……)」
気になる人が出来て、色んな所を一緒に回って、お互いを知っていって、意識するようになって……。そんな甘酸っぱい恋を夢見ていた私と決別するように瞼をすっと閉じていると―
提督「え?」
朝潮「……?」
提督「えっと、朝潮?疲れてるのか?」
朝潮「いえ、朝潮は大丈夫です。覚悟もたった今決めました」
提督「おお……そうか。ならベットから退いてもらえると助かるんだが」
朝潮「(聞いたことがあります。男女の営みはベッド上だけではないことを。この朝潮、もう逃げも隠れも致しません!後は野となれ山となれです)」
提督「朝潮?」
朝潮「はい、申し訳ありません。今出ます」
提督「いや、疲れてるみたいなのにすまないな」
朝潮「いえ、私は拾って頂いた恩義を返すまでです!」
提督「おお…そうか。その、なんだ。あまり根を詰めないようにな」
朝潮「……ご配慮感謝します」
提督「えっとそれじゃあ先に寝るな。おやすみ」
朝潮「はい。ゆっくりお休みになって下さい」
提督「ああ、ありがとう」
朝潮「…………………………」
提督「…………………………」
朝潮「……………………………………………………え!!?」
提督「んあ!?なんだ!?どうした?」
朝潮「あ、あの、夜戦は?」
提督「夜戦?あれ、俺、そんな言い回ししてたっけ?」
朝潮「はい、司令官の私室の夜戦係だって」
提督「あー……俺も川内に毒されてきたか?いや、夜戦っていうのもあながち間違いじゃないんだが、簡単に言うと俺の警護だな」
朝潮「警護だとも聞いていましたが……私はてっきり……」
提督「ん?……………あー、そういう……。何か良くない勘違いをさせてしまったようだな、すまない」
朝潮「えっ?あっ、その、あの、」
自分が変な勘違いをしていたことを司令官に悟られたことで、私の顔はまるで茹で鮹の様に真っ赤になっていたと思います。取り繕いの言葉を必死に探そうとしても出てくるのは言葉にならない声だけ。そんな様子を見かねた司令官が警護する理由を話してくれました
提督「実はな?大分前からこの部屋に何者かが入り込んできているらしいんだ。翌朝になるとこの部屋を漁ったような痕跡が見受けられてな。信じられないが密偵か何かが毎晩の様に来ているらしい。それでここに配属されてる艦娘に警護を頼んだんだが、それでまた一悶着あったんだよ」
朝潮「一悶着ですか?」
提督「まぁ、大方、俺の私室の警護なんてやりたくないって感じで警護の擦り付けあいでも始まったんだろう」
朝潮「そんな事は……」
提督「いや、仕方無いさ。ともかく俺のせいで艦隊がバチギスするなんて本末転倒だからな。そんなときにお前の噂を聞いたんだよ」
朝潮「噂……」
提督「……まぁ、噂には尾ひれが付くからな。ただ俺にとっては任務に忠実な部下は願ってもない人材だったからな。こうして直ぐ呼び寄せたって訳だ」
朝潮「それは……違うんです!私は忠実なんかじゃ無いんです。臨機応変に対応できない、自分では何も考えられない石頭なだけなんです。だから前線からも外されてこうしてたらい回しにされて……」
提督「朝潮……」
朝潮「……」
提督「なぁ、朝潮。俺は朝潮の事を頼りにしてるぞ?まだ会ってから1日も経ってはいないがお前が素直な子って事は他人に疎い俺でさえ分かった」
朝潮「……」
提督「お前はなんでも一人でやろうとしてないか?何回も言うが俺はお前を頼っている。だからお前も誰かに頼ってみないか?ここの艦娘達もみんな気の良い奴らばかりだ。中には気難しい奴もいるが決して悪い奴らじゃない。それは保証する。勿論その、なんだ、こんな俺でも良ければいつでも頼って貰っても構わないしな」
朝潮「司令官……」
提督「と、兎に角だ!俺の言いたいことはそれだけだ。というわけだから俺は寝るから。何か異変があれば起こしてくれ。助けが欲しい場合はそこにある赤いブザーを押せば直ぐに他の艦娘が駆け付けて来てくれるから」
司令官はそう言うと布団を頭まで被り、私に背を向けるように寝てしまいました。でも私は見逃しませんでした。司令官の耳がこの赤いブザーに負けないくらいに紅く染まっている事を
朝潮「ありがとうございます。直ぐには出来ないとは思いますが、少しずつ頼っていきたいと思います。その、それまで私のこと、見限らないでいて下さい」
提督「……」
朝潮「……司令官?」
提督「……」
どうやら司令官は寝てしまっているようです。余程お疲れだったのでしょう。床に付いた瞬間に寝息を立てています。静かな寝息。寝息にも性格は出るのでしょうか?とても落ち着く寝息です。こんなに穏やかな気持ちになったのはいつ以来でしょうか?
そっとベットの側へ行って司令官の傍らに膝を突き、寝顔を覗こうと身を乗り出した瞬間、目の端に何か動くモノを捉えます
??「……」モゾモゾ
朝潮「(嘘!?敵!?こんなに早く出てくるなんて!)」
その動く物体の方。司令官の足元に目を向けます。その物体はどうやらベットの下から這い出ようとしているようです。余りにも早い会敵に気が動転して何も出来ません。今、私にすべき事は司令官の身の安全が第一。一拍の猶予は置いてしまいましたが、即座に行動に移そうとしました。
朝潮「(早く司令官を起こさないと!)」
しかし、私が司令官を起こそうとしたときには既にその物体は眼前まで迫っていました。余りに素早いその行動に自分の死を覚悟した瞬間―
??「シーッ」
人差し指を私の口元に持っていき、静かにするように促していた、目の前にいるその物体は私の知っている方でした。
朝潮「(……え?大淀さん、ですよね?)」
大淀「ソノママ、ソノママ」スタスタ
朝潮「(何してるんだろう?)」
大淀「ウーン」ムムム
朝潮「(箪笥を開けて何かを悩んでいる様子です)」
大淀「コレダッ!!」テッテレー
朝潮「(パンツ?あれって司令官の……ですよね?)」
大淀「ヨイショ」ズボァー
朝潮「(頭に被ってます)」
大淀「ハラショー」ムフー
朝潮「(大淀さん、ご満悦です!)」
大淀「サテサテ」イソイソ
朝潮「(悠々と出ていきました。なんだったんでしょうか?)」
??「アラ?」
朝潮「ひっ!」
大淀さんを呆然と見送っていると後ろから突然の声。思わず悲鳴を上げてしまいますが、グッと耐えます。恐る恐る後ろを振り向くと……
??「デオクレタワ」ハァ
朝潮「(あの人は確か加賀さん?どこにいたんでしょうか?)」
加賀「シカタナイワネ」スタスタ
朝潮「(寝室を出ていって執務するための机に向かってます)」
加賀「ガイシュウイッショクネ」ホクホク
朝潮「(司令官が先程まで使っていた湯飲みを手に取って凄く嬉しそうにしてます。あっ、同じ柄の湯飲みを代わりに置いて出ていっちゃいました)」
今起きている事態を飲み込めずにいると、後ろの方から何者かの視線を感じます。もしかして司令官が起きてしまったのかも?そう思いつつ後ろを振り返ると―
??「……」ジーッ
朝潮「ひぃっ!」
寝室の壁から生首がっ!口を抑えてよく見てみるとどうやら壁に穴が空いていて、そこから誰かが覗いているだけでした
朝潮「(あの方は榛名さん?何してるんでしょうか?)」
榛名「スーッ ハーッ スーッ ハーッ」クンカクンカ
朝潮「(榛名さんの視線は司令官に釘付けです。その上、まるで過呼吸になってるかのように呼吸もかなり荒いです)」
カタカタッ
朝潮「(……今度は上ですか)」
??「ヨイショ……ット」スタッ
朝潮「(天井からも何やら落ちてきました)」
??「フゥ、ジョウデキダネ」スタスタ
朝潮「(時雨さんは天井からやって来て司令官の隣で添い寝を始めてます)」
その後も艦娘の方々がひっきりなしに訪ねて?来ました。堂々と入り口から来る方や窓から来られる方、上下左右、死角なんて無いと言える程に色んな所から出没しています。それでも司令官に被害を出す方はいません。持っていく司令官の私物はすべて新品の物と置き変え、司令官の眠りを妨げるような物音は一切立てずに行動しています。
朝潮「(司令官、朝潮は司令官を起こすべきなのでしょうか?それともこのまま黙っていた方が良いのでしょうか?)」
自分がどうするべきか、今、目の前で起きている現実から目を逸らすようにそれだけを考えていくだけで長い長い夜が更けていきます
∇
提督「う……ん。……んあ?………ぁぁ、朝潮おはよう」
朝潮「司令官、おはようございます」
提督「あれだな。徹夜している者の前でぐっすり眠っているのは申し訳なくなるな」
朝潮「いえ、これは任務ですから。司令官や他の艦娘に比べれば大したことはしていません」
提督「そう言って貰えると助かるな。それで、あれから変わったことは何かあったか?」
変わったことは沢山あります。パンツを被って悦に入っている方、司令官のコップを持っていってどこに隠していたのか同じコップを置いていく方、先程まで身動きもせずに司令官を凝視しながら過呼吸になっていた方、日が昇る頃に提督のベットからいそいそと出てきて鼻歌混じりに甲斐甲斐しく提督の軍服にアイロンをかけてる方。
私は全てを話した方が良いのでしょうか?……いえ、司令官は仰っていました。この警備を決める際に一悶着があった、と。きっと誰が警護をするかで争っていたのだと思います。ならば私が正直に話してしまえば今のこの現状が崩れてしまうかも知れない。話すならばここの鎮守府の情勢をしっかり把握してから。だからこそ私のすべき事は―
朝潮「いえ、異常はありませんでした。静かな夜でしたよ」
提督「そうか。……実はな、荒らされると言っても物の配置が少しズレていたり、何者かの視線が感じられたりとかその程度だったんだよ。とはいえ、侵入者が居るっていう事実は鎮守府を与る者として放置することは出来ないからな。まぁこうして何も起きないようなら数日位はこのまま様子を見て他の対処方法に変えようか。朝潮もずっとこのままという訳にはいかないしな」
その言葉を聞いて心臓が跳ね上がります。私はやはり要らない子なのでしょうか?
朝潮「……私はまた大本営に返されるのでしょうか?」
提督「んー、それは朝潮次第だな。帰りたいというのなら無理強いは出来ないからな。まぁ提督としても俺個人としても朝潮のことは買っているから出来るならここにいて欲しいんだが」
朝潮「!」
艦娘として生まれて初めて誰かに必要とされました。きっと今までたらい回しにされていたのは司令官に巡り会う為だったんです。これが運命というのならば私は全力でこの身をそれに委ねたいと思います
朝潮「……それは本当ですか?朝潮はこのまま司令官の為に身を粉にして働きたいです!」
提督「はは、そうか。なら今日から朝潮は正式にここの艦娘だ。改めて宜しく頼むよ」
朝潮「はい!私の出来る精一杯のお務めをして司令官の恩に報います!」
提督「いや、そこまで気合いは入れなくて良いぞ、疲れちゃうからな。何事も程々にだ」
朝潮「了解しました!朝潮、司令官の命には絶対服従しますので!」
提督「お、おお……なんか急に元気になったな」
∇
こうして私はここの鎮守府に正式に配備されました。夜に司令官を訪れる皆さん達も最新の注意を払っているので提督に勘づかれる事もなくなりました。それと同時に司令官の夜の身辺警護の任も解かれてしまいましたが……
しかし、私がここですべき事は何一つ変わっていません。司令官の身を守ること!これ以上でも以下でも無いんです!遠征中だろうと任務中だろうと司令官の身に何かがあれば一番に飛んでいきます。それはあの時から数年経った今でも変わる事はありません!だから今もこうして隣の部屋から他の艦娘の皆さんと提督の寝顔を見つめながら身辺を警護しています!
榛名「朝潮さんも大分慣れてきたみたいですね」
朝潮「はい!ここに来てから毎日が楽しいんです!」
時雨「ふふ、楽しむのは良いけど静かにね?提督が起きちゃうから」
朝潮「私としたことが。申し訳ありません」
大淀「大丈夫よ。司令は一度寝たらちょっとやそっとじゃ起きないですから」
加賀「静かにしてください。提督の寝息が聞こえません。流石に頭に来ます」
大淀「皆さん、シーっですよ。加賀さんを怒らすと怖いですからね」
今、この部屋には30人近くの艦娘達が潜めきあっています。勿論、他の隣接している部屋にも沢山います。これなら司令官も安心して寝れます…よね?
朝潮「ふふ、いつまでもずっとずっと見守り続けていますからね、司令官」
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