2020-07-18 14:45:08 更新

概要

艦娘殺しとして艦娘達から嫌われている提督のお話


前書き

※艤装と解体について独自の解釈があるので、オリジナル要素が苦手な方は注意して下さい




コンコンコン



提督「入れ」


吹雪『失礼します!』



ガチャ



吹雪「要請に応じ、□□鎮守府から出向して参りました吹雪型駆逐艦、吹雪です。今日からしばらくの間、お世話になります!」ビシッ


提督「ああ、君が吹雪か。来てくれて助かるよ。俺がここの提督で、こっちが秘書艦の不知火だ」


不知火「よろしくお願いします」


吹雪「はい!こちらこそよろしくお願いします!」



提督「さて、吹雪の提督殿から聞いているとは思うが、ここは半年程前に轟沈者が相次いで出ていてな。その補強要員として君を呼び寄せたと言う訳だ」


吹雪「はい。戦力が安定するまでの間だけの臨時要因だと聞いています」


提督「そうだ。しかし、君の働きが充分だと俺が判断すれば、引き抜きという手も考えている」


吹雪「……それは本当ですか?」


提督「ああ。勿論、君の同意が得られれば、だけどな」


吹雪「はい!私、頑張ります!きっと司令官の期待に応えてみせますから!」


提督「ははは。随分と元気な子が来たな」


吹雪「えへへ。私の取り柄は元気な――」



バンッ!



吹雪「!?」



筑摩「……」ツカツカツカ


提督「……筑摩、ノックぐらいはしろと何度も言ってるだろ」



筑摩「……」ブンッ バッサァ



不知火「……筑摩さん、司令に対して失礼です」


提督「良いんだ、不知火。筑摩も一々書類を投げるな。せめてクリップか何かで纏めておいてくれ。毎度、これでは拾いにくくて敵わん」スッ


不知火「司令、私が」スッ



筑摩「では私も利根姉さんの様に沈めたらどうですか?」


提督「……馬鹿な事を言うな」


筑摩「その馬鹿な事を仕出かしたお馬鹿さんはどこの誰だったのでしょうか?」


提督「……」


筑摩「お得意の黙りですか?どうやら時間の無駄になりそうなので私は失礼しますね」ツカツカ



ガチャ バタンッ!



吹雪「」


提督「……まぁ見て分かったと思うが、俺とここの艦娘達との折り合いはお世辞にも良好とは言えない。ただ、俺の事を除けば気の良い艦娘達なんだ。それだけはしっかりと認識しておいて欲しい」


吹雪「……はい」


提督「困った事があれば、気の合いそうな艦娘を見つけて相談すると良い。きっと良いアドバイスが聞けるはずだ。なんならここにいる秘書艦の不知火に聞いても良いしな」


吹雪「……了解しました」


提督「本当は今すぐ皆に紹介するべきなんだが、俺の方もこの後はバタついていてな。明日の朝礼で自己紹介して貰う事になると思う。お前も来たばかりで気疲れしているだろうし、今日1日はゆっくりしていてくれ」


吹雪「ありがとうございます」


提督「以上だ。下がって良いぞ」


吹雪「……はい。失礼しました」ペコッ



パタン



提督「……第一印象は最悪になってしまったな」


不知火「遅かれ早かれこうなっていました。問題は無いです」


提督「……そうだな」





 ~吹雪の自室~



吹雪(なにあれ?艦娘っぽい人が提督に書類を叩きつけてたよ?それに轟沈がどうのって話もしてたし……。折角、あの鎮守府から抜け出せるかと思ったのに、また訳アリな鎮守府だよ~~!)



吹雪「はぁ……。考えてても仕方無いし、今日はもう寝よ……」





 ~翌日の朝礼~



提督「諸君にも話していた通り、今日から臨時としてここに配属される事になった吹雪だ。吹雪、自己紹介を頼む」


吹雪「は、はい!吹雪型駆逐艦の吹雪です。皆さんの足を引っ張らないように、1日でも早くここに馴染んでいきたいと思います。よろしくお願いします」


提督「というわけだ。皆も色々と教えてやってくれ」



艦娘達「……」シーン



提督「……では点呼を取っていく」



吹雪(なにこのお通夜みたいな雰囲気。それに司令官の点呼に返事すらしてない人もちらほらいるし。司令官も慣れてるのか、一切の咎めも無いよぅ……。これあれかな?司令官に問題のある一般的なブラック鎮守府じゃなくて、艦娘側にも問題がある、一風変わったテイストのブラック鎮守府なのかな……)



提督「よし。今日の朝礼はここまで!各自、受け持った持ち場に移れ!」



艦娘達「……」シーン



提督「っ……」スタスタスタ



吹雪(当たり前の様に無反応。……私、ここでやっていけるのかな?)



翔鶴「少し宜しいですか?」ポンッ


吹雪「うひゃあ!ふぇ?あっ、はい。何でしょうか?」ビクビク


翔鶴「ふふ、驚かせちゃったみたいですね。吹雪さん、で良いんですよね?」


吹雪「はい、そうです。それで何かご用でしょうか?」


翔鶴「そう堅くならなくても良いですよ。少しお話でもどうかしら?って思っただけですから」


吹雪「! 助かります!正直に言うとちょっと心細かったんですよ~」


翔鶴「ふふふ。立ち話じゃあれですし、おやつでも食べながら話しましょうか?」


吹雪「ぜひ!(良かった~。優しそうな艦娘もいるみたい)」




間宮の甘味処



翔鶴「どうですか?ここの甘味は一味違うでしょう?」


吹雪「はい!このアイス、絶品です!」モグモグ


翔鶴「うふふ」



吹雪「……あのー、それで1つ聞いても良いでしょうか?」


翔鶴「何かしら?」


吹雪「翔鶴さんはどうして私を誘ったりしてくれたのかなー?って」


翔鶴「……えっと、怒らないで聞いてね?」


吹雪「え?は、はい」


翔鶴「あなたが私の妹に似ていた、からかな?」


吹雪「私って翔鶴さんの妹さんに似ているんですか?」


翔鶴「えっと、見た目は似てないと思うんですけど、何て言うのかしら?元気溌剌なとことか、とにかく雰囲気が妹に似ているんです」


吹雪「へぇ~。私も妹さんに会ってみたいです!」


翔鶴「……会えないわ」


吹雪「え?」


翔鶴「私の妹ね?瑞鶴って言うんですけど、……半年前にここの沖合いで沈んだんです」


吹雪「」


翔鶴「こうして誘ったのも、あなたに瑞鶴の影を見ていたからだと思うの。妹の代わりとか、そういうつもりでは無かったのですけど……。本当にごめんなさい」



吹雪「……敬語」


翔鶴「敬語?」


吹雪「敬語を止めてくれたら許してあげます」


翔鶴「! ふふ。吹雪ちゃんはやっぱり瑞鶴に似てるわね……。さっ、アイスが溶けちゃう前に食べちゃってね」


吹雪「わっとと、んぐ。……おいしー!」モグモグ


翔鶴「ふふふ」ニコニコ




吹雪「ご馳走さまでした!すみません。奢って貰っちゃって……」


翔鶴「良いのよ。私もこうして楽しくお喋り出来た事だし」


吹雪「その、仲良くなった所でもう1つだけ聞きたいんですけど……」


翔鶴「良いわよ。何でも聞いてちょうだい」


吹雪「ここの鎮守府って、その、あんまり雰囲気が良くないですよね?司令官に対する態度もあれですし……」


翔鶴「……吹雪ちゃんはここの噂とか聞いた事は無いの?」


吹雪「噂……ですか?他の鎮守府の噂は色々と聞きますけど、ここの鎮守府の話は聞いた事無いですね」


翔鶴「そう。……随分と徹底してるのね」ボソッ


吹雪「へ?」



翔鶴「ここの提督はね?艦娘を死地に送るのよ」


吹雪「死地……ですか?でも私達は艦娘ですから、戦場に立つ以上は仕方の無い事なんじゃ……?」


翔鶴「そうじゃないの。ここの提督はね?制海権を得る為でも守る為でも、ましてや味方を逃がす為の殿や、切迫した状況を打破する為の囮でも無い。なんて事のない平凡な日に、突然、艦娘達に最低限の装備しか付けさせずに敵地の奥深くに出撃させたの」


吹雪「そんな……。でもここの轟沈者数は他の鎮守府と比べて圧倒的に少ないですよね?きっと何か理由があるはずですよ」


翔鶴「理由ね。……吹雪ちゃんは欠損艦って知っているかしら?」


吹雪「! ……はい。何人かの欠損艦はこの目で見てきましたから。極度の精神的負荷を受けると艤装の一部が一切の修復を受け付けなくなる症状の事ですよね?」


翔鶴「そうよ。それじゃあ半年前にここで轟沈者が出たって話は聞いてる?」


吹雪「聞きました。それでここの戦力が整うまでの間だけ、という話で私が来たんですから」


翔鶴「なら話は早いわね。その時に出撃した艦娘達は皆、欠損艦だったのよ。勿論、その艦娘達は誰一人としてここには戻って来れなかったわ」


吹雪「ウソ……」


翔鶴「嘘じゃないわ。その時のメンバーには瑞鶴も入っていたんだもの」


吹雪「え?それじゃあ瑞鶴さんも……?」


翔鶴「ええ。瑞鶴は欠損艦だったのよ。ここに配属される前の鎮守府で色々とあったみたいでね。欠損箇所は飛行甲板だったわ」


吹雪「じゃあ司令官は欠損艦の瑞鶴さんを引き取ってくれたっていう事ですか?」


翔鶴「そうなるわね。飛行甲板が上手く扱えないなんて空母としては致命的だもの。仮にも2年もの間、瑞鶴を運用し続けてくれた事には私も瑞鶴も提督には感謝していたわ。いえ、陶酔していたと言っても過言では無いくらいには信用していたの」


吹雪「やっぱり良い方じゃないですか」


翔鶴「いいえ。きっとそれは機会を窺っていただけなのよ。多分、欠損艦を引き取れば何らかの報酬が得られる、そんな仕組みが取り交わされていたはず……」


吹雪「それはいくらなんでも考え過ぎなんじゃ……」


翔鶴「提督が欠損艦を引き取り出したのは2年半程前。その時に引き抜いてきた欠損艦が半年前の同じ日に、同じ艦隊に編成されて、そして全員が沈んだ。私には用済みになって邪魔になった瑞鶴達を、あの日に一斉に始末した。そうとしか考えられないわ」


吹雪「沈める気があったなら最初からそうしてたと思いますけど……」


翔鶴「……ねぇ、吹雪ちゃん?あの子が最後に何て言って出撃していったか分かる?」


吹雪「……いえ」


翔鶴「"ゴメンね、翔鶴姉。でもこうするしかないの。本当にごめん……"」


吹雪「え?」


翔鶴「そう言い残していったの。きっと脅されていたんだわ。提督は瑞鶴の、いえ、欠損艦達の弱みを掴むまで、沈める時機を窺っていたのよ」


吹雪「……」



翔鶴「! ごめんなさい。こんな話をする為に吹雪ちゃんを誘った訳じゃ無かったのに……」


吹雪「いえ、先に聞いたのは私の方ですから気にしないで下さい」


翔鶴「もっと楽しい話をしたかったんだけど、そろそろ私も出撃の時間なの。もしまた空いた時間が重なったりしたら、また話に付き合ってくれる?」


吹雪「もちろん大歓迎ですよ!今度は私のとっておきの話を教えますから!」


翔鶴「ふふ、楽しみにしておくわ。それじゃあ私は出撃の準備があるから行くわね?吹雪ちゃんと話せて楽しかったわ」


吹雪「私もです!気を付けて行ってらっしゃいです」


翔鶴「ええ。またね」パタパタ





吹雪「欠損艦に轟沈か……。ヤな事聞いちゃったな……」





                    ◇





金剛「ヘーイ、提督ゥー!今日の報告書デース」


提督「どれ……。ふむ、相変わらずお前は凄いな」


金剛「当たり前デース。提督の為ならワタシは幾らでも頑張れマスからネ!」


提督「心強いよ。とはいえ、最近はお前を含め金剛型を酷使し過ぎた。まとまった休暇を取れる様に調整してるから、そこで羽を休めると良い」


金剛「Wow.流石提督ネ!早速、比叡達に知らせて来ないと!」


提督「おう、行ってこい」


金剛「では失礼しマスネ」



ガチャ パタン



不知火「……金剛さんはあの件が起こってからも何も変わりませんね」


提督「そう見えるか?」


不知火「はい」


提督「……そうか」


不知火「?」





 ~金剛型の部屋~



金剛「比叡、霧島。喜びなサーイ。なんと提督が長めの休みを取ってくれるみたいデース!」


比叡・霧島「……」


金剛「ぅん?2人とも休みが嬉しくないノ?」



比叡「……金剛お姉さま。もう無理をするのは止めましょう」


金剛「無理?お姉ちゃんは何も無理なんてしていマセン」


霧島「しています。もう提督に媚びを売るような真似はお止めになってください」


金剛「霧島もおかしな事を言うネー。2人ともどうかしたんデスカ?」


霧島「どうかしているのは金剛お姉さまの方です。榛名はあの男に殺されたんですよ!?」


金剛「……榛名を殺したのは深海棲艦デス。提督ではありまセン」


比叡「それは本気で仰っているんですか……?」


金剛「本気も何も事実じゃないデスカ。榛名は戦場で沈んだのデスカラ」


霧島「……お姉さま、少しは榛名の気持ちも考えてあげて下さい」



金剛「考えてるデショ!」バンッ



比叡・霧島「!」


金剛「あの時から榛名の事を考えなかった時なんて無いヨ!」


霧島「では提督に対し、あの様に振る舞うのはお止めになったらどうですか!」


金剛「比叡と霧島こそ、榛名の最後の言葉を忘れたノ!?榛名はこう言ったはずダヨ?」



金剛「"提督の事は怨まないで下さい。お姉さま方にもこの意味を分かって頂ける日が必ず来るはずですから"って!!」



比叡「覚えています。けどそれで金剛お姉さまが壊れてしまったら榛名も悲しむとは思いませんか?私は金剛お姉さまが心配なんです」


金剛「それは……」


霧島「榛名の最後の言葉も大事ですが、ご自身の身も大事にするべきです」


金剛「じゃあどうすれば良いノ?ワタシはもうどうするべきかも分かりまセン……」



比叡「金剛お姉さまのしたいようにすれば良いんです。このまま自分の気持ちに蓋をしていたら、お姉さまがお姉さまでは無くなってしまいます」


霧島「そうです。仮に、榛名の言う"提督を怨むな"という"意味"が分かる時が来たなら、その時は皆で謝りに行きましょう。私も土下座でも何でもお付き合い致しますから」


金剛「……分かったよ。ワタシももう考え込むのは限界だったからネ」


比叡「お姉さま……!」


霧島「それでこそ金剛お姉さまです」


金剛「そうと決まれば早速、執務室に行ってくるヨ!」ダダダッ


比叡「待って下さい!私も付いていきます!」タタタッ


霧島「きっとストッパーも必要になると思いますし、私も行きましょう」クイッ




 ~執務室~



バンッ!



提督「うおっ!?なんだなんだ……って金剛か。ドアは丁寧に開けなさい」


金剛「提督……。どうして榛名達をあんな所に向かわせたノ?」


提督「……その事か。あれは以前に説明した通りだ。榛名達を敵の偵察の為にあの海域へと向かわせた。ただ、それだけだ」


金剛「あんな軽装備しか持たせずに、深海棲艦がうじゃうじゃいる海域に向かわせたらどうなるかなんて、提督なら分かっていたはずデショウ!?」ガシッ


提督「ぐぅっ!?」



不知火「!? 金剛さん!司令から離れて下さい!」バッ


比叡「邪魔はさせません!」グイッ


不知火「!? あなた達!何をしてるんですか!?あれを早く止めて下さい!」ググググッ


霧島「今、止められては困ります。煩いのでこれを噛ませておきましょう」グイッ


不知火「ンーーー!ンーーー!」ジタバタ



金剛「聞いているんデスカ!?提督ゥ!!」ググッ


提督「ぐっ!……それは承知の上だった。承知の上で榛名達をあの海域へ向かわせた。それで榛名達が帰らぬ人になったのも事実だし、それは仕方の無い事だったと思っている。ただそれだけの事だ」


金剛「ただ……?それだけ……?」ググググッ


提督「うぐぅっ!」


不知火「ンーーーッ!ン゛ーーーッ!」バタバタ


金剛「榛名は、榛名は最後までアナタの事を信じていたんデスヨ?」パッ



提督「げほげほっ!くっ、げほっ……はぁ、はぁ」


金剛「"提督の事は悪く言わないで、いつかこの意味が分かる日が来る"って」ヘタッ


提督「そんな事を言っていたのか……。榛名の奴め。余計な事を」


金剛「余計な……事……?榛名のあの言葉が?」ギロッ


提督「お前らにも言っておくが、あの判断が間違っていたとは今でも思っていない。例え今、同じ状況になっても俺は迷わず、榛名達に同じ命令を下しているだろう」


比叡「サイッテーです……!」


霧島「……本当に屑ですね」



金剛「………………サイ」



提督「なんだって?」


金剛「謝りなサイ!ここで!榛名に!」グイッ


提督「ぐぇっ!」ググッ


金剛「土下座は嫌デスカ!?ならみっともなくここで命乞いでもしマスカ!?」ググググッ


提督「……どちらもっ……しない!俺は榛名に謝るような事もっ……命乞いをするような事もっ!していないからなっ!」グググッ


金剛「ならここで死んで榛名に直接、詫びに行きなサイッ!」ググググッ


不知火「ン゛ーーーッ!ン゛ーーーッ!」バタバタ



提督「俺が死んでもっ……多分、地獄行きだろうな。榛名にはっ……会いに行けないぞっ!」ググッ


金剛「減らず口をっ!だったら会えるかどうか、お前がこのまま死んで確かめて来なサイっ!」ギチギチギチ……


提督「っ!……がっ!!…………っ!!」ググッ……


不知火「ン゛ーーーッ!!ン゛ーーーッ!!ン゛ーーーッ!!!」フルフル




比叡「お姉さま!そこまでです!」ガシッ


霧島「こんな男、金剛お姉さまの手を汚す価値もありません」ガッ


不知火「ぷぁっ!!司令!司令!!」ババッ


提督「ゴボッ!ゴホゴホッ!ゲフッ、かはっ、はぁー……はぁー……」



金剛「離しなサイッ!コイツには榛名の優しさなんて一生かかっても分からないッ!」バタバタ


比叡「霧島!もっとちゃんと抑えて!」


霧島「……」


比叡「霧島!何してるの!?しっかり抑えなさい!」


霧島「ふんっ!!」ゴキッ


金剛「うっ!…………」シーン


比叡「霧島!?」


霧島「暴れだした金剛お姉さまを抑える事は私達には不可能です。このまま、医務室まで運びましょう」


比叡「……そうね。じゃあ霧島は足を持ってちょうだい」


霧島「はい」グイッ


比叡「……司令。あなたはサイテーです。これからは出来るだけ金剛お姉さまには関わらないで下さい。私の願いはそれだけです」


提督「……」


霧島「比叡お姉さま。こんな奴は放って置きましょう。今は金剛お姉さまの方が心配です」


比叡「……ええ、行きましょう」グイッ



バタンッ!



不知火「ごべんなざいっ!ごめ゛んなざいっ!不知火゛が側に゛居だのに゛司゛令を守れま゛ぜんでしたっ!ごめんなざい!!」


提督「……不知火は良くやってくれたよ。それよりごめんな?こんなに心配させちゃって」


不知火「不知火の゛事はいいんでずっ!司令はも゛っと自分を大切にするべきですっ!」


提督「そうだな……。今度からは気を付けるよ。心配してくれてありがとな?」ポンポン


不知火「う゛ーーーーー!!う゛っーーーーー!!!」ギューッ





提督「どうだ?少しは落ち着いたか?」


不知火「はい。お見苦しい所をお見せしました」グズッ


提督「俺の為に泣いてくれたんだ。見苦しい事なんて何もないよ。ほら、鼻ちーんしなさい」


不知火「ちーん!」ブーッ


提督「良し。いつものおすまし顔に戻ったな」


不知火「一言余計です」キッ


提督「はは、すまんすまん。しかしこの首のアザは当分、取れそうにはないな。スカーフでも巻いておくか?……うえぇ、想像してみたが似合わないだろうな……」



不知火「……司令、本当の事を話してしまいましょう」


提督「……駄目だ」


不知火「このままではいつか司令にとって良くない事が起きてしまいます」


提督「確かに真実を話せば楽になるかもしれない」


不知火「なら!」


提督「だがこの件は何があっても失敗は許されないんだ。例えそれがどんな小さな火種だとしても、それが無いに越した事は無いからな。それはお前も分かっているはずだろう?」


不知火「しかし金剛さんは司令を殺しに来ました。司令はもっと艦娘の事を恐れるべきです」



提督「……泣いてたな。金剛。金剛は目も大きいから、涙の粒まで大きかったぞ」


不知火「何を呑気な!不知火は本気で……!」


提督「金剛のあの涙は自分の為の涙じゃない。榛名の為に流してたんだ。そこに艦娘と人間の違いなんて無いさ」


不知火「……私が言っているのは艦娘の力の方です。金剛さん自体に恐怖心を抱くべきです。あのままだったら司令は殺されていたんですよ?」


提督「金剛は今までずっと我慢してきたからな。その分、爆発の仕方も大きかったんだろ。風船と一緒だ。風船が強ければ強いほど、中に空気を送り込む時間が長ければ長いほど、爆発の仕方も激しくなるからな」


不知火「司令は甘過ぎるんです」


提督「大丈夫だよ。俺の為では無いとは言え、比叡も霧島も最終的には止めてくれたんだ。暫くはあいつらの当たりも強くはなるだろうが、生き死にの問題にはならないはずだ」


不知火「はずでは困ります」


提督「心配はいらない。そんな事にはならないよ」



不知火「……では1つだけ条件があります」


提督「なんだ?」


不知火「今度、同じ様な状況に陥った時は、艤装の展開の許可を下さい」


提督「駄目に決まってるだろ!金剛は味方だぞ!?」


不知火「その金剛さんは司令を殺しに来たんです。司令にとって金剛さんは味方では無いのですか?」


提督「……分かったよ。ただし、発砲はギリギリまでするな。勿論、威嚇射撃のみだからな。これが俺が出せる最低条件だ」


不知火「仕方ありません。それで手を打ちます(手元が狂ってしまうかも知れませんが……)」





 ~翌日~



コンコンコン



提督「入れ」



ガチャ



金剛「……」


提督「……金剛か。どうした?」


金剛「昨日の事、一応、謝りに来マシタ」


不知火「一応……?人、1人を殺しかけておいて一応、ですか?」


提督「良いんだ、不知火」



金剛「……それと、昨日の事はワタシが独断でやった事デス。比叡達は提督に手を出していまセン。なので懲罰を受けるのはワタシだけにして下サイ」


不知火「随分と都合の良い事を言いますね。昨日、司令を守ろうとしていた私を羽交い締めにして、邪魔をしていたのは誰の妹達でしたか?」


金剛「それは……」


提督「……」


不知火「しかもわざわざ艦娘3人でやって来て、無防備で無抵抗な司令に暴行を働いていました。金剛型の皆さんは余程、弱い者虐めがお好きなんでしょう」


提督「不知火、止めろ」


金剛「……」


不知火「それが今度は、自分が起こした事で窮地に陥ったと見るや、こうして都合の良い謝罪をしに来る。昨日、あなたが言っていたみっともない命乞い、ここでしていかれますか?」


提督「不知火!」


不知火「……」



提督「金剛。今回の件でお前達に何か罰を下すという事はしない。俺としてもあの事に起因して大事になるのは出来るだけ避けたいんだ」


金剛「それは疚しい事があるからデスカ?」


提督「そう受け取ってもらっても構わない」


金剛「……」


提督「この事が公に出ればお前は罰せられる。上官に歯向かえば重罰なのは知っているよな?勿論、比叡も霧島もだ。それを黙っているだけで今回の事は無しに出来るんだ。お前達にとっても悪い話では無いはずだろ?」


金剛「今度は脅しデスカ?」


提督「……事実を言ったまでだ」


金剛「……最低デスネ。デスガ、提督の言い分も最もデス。……分かりマシタ。比叡と霧島には強く言い聞かせておきマス」


提督「助かるよ」



金剛「……提督」


提督「なんだ?」



金剛「ワタシはあなたに出会ってから今まで、ずっとずっと恋をし続けてきマシタ!デモ、今はあなたが憎くて、怨めしくて、殺したいとも思っていマス。だからそんな恋するワタシとは今日でサヨナラデス!提督、今までありがとうございまシタ!」


提督「……」




金剛「bye」ニコッ



パタン……




提督「……まさかあの金剛を1日と経たない内に2度も泣かせてしまうとはな。俺は本当にどうしようもない奴らしい……」


不知火「……」





                     ◇





 ~執務室~



不知火「……」カキカキ


提督「?」


不知火「……」カキカキ


提督「そんな真剣な顔して何を書いているんだ?」


不知火「要注意人物と司令のタイムスケジュールを照らし合わせています」


提督「要注意人物?」


不知火「はい。この間の金剛さんとの件で、私がどれだけ甘い考えをしていたかを痛感しました。あの方達は危険です」


提督「危険って……。そんな大袈裟な」


不知火「殺人未遂犯と同じ屋根の下で暮らしているんです。これは紛れもない事実です」


提督「そう言葉に出されると、不知火の方が正論を言ってるような気もするな」


不知火「気もするではありません。正論なんです」


提督「はは、じゃあ今は誰が一番危険なんだ?」


不知火「笑い事ではありませんが、今の所はやはり金剛さんですね。後は加古さん辺りも危ないと私は睨んでいます」


提督「加古か?意外な人選だな」


不知火「いいえ、危険です。加古さんの行動は金剛さんと似通っています。あの件以降、司令に対しての態度があまり変わらなかったのは、このお二方だけですから」


提督「ああ、それなら大丈夫だよ」


不知火「またそうやって……。司令はもう少し危機感を持つべきです!」


提督「そうじゃないって。……んー、加古への疑いを晴らす為にも、不知火の負担を軽くする為にも話しておくか」


不知火「! 何かあったんですか?」


提督「ああ。あれは今から1週間程前の事だったな」





 ~波止場~



加古「……」


提督「ん?そこにいるのは加古か?」


加古「お、なんだ。提督か」


提督「加古がこんな所にいるなんて珍しいな」


加古「あー……。あたしだってこうやって感傷に浸りたい時もあるのよ」


提督「……そうか。どうやら邪魔をしてしまったようだな。じゃあ俺は戻るとするよ」


加古「ん」


提督「……」スタスタ





加古「……提督!」



提督「ん?なんだ?」


加古「あたしに少しだけ時間をくれない?」


提督「急ぎの仕事は無いから別に構わないが……」


加古「じゃあほら!ここに座んなよ!」ポンポン


提督「ああ。失礼する」ストッ



加古「……」


提督「……」


加古「……」


提督「何か話があったんじゃないのか?」


加古「……そうだね。じゃあちょっと付き合ってよ」


提督「ああ」


加古「……あのさ、古鷹が居なくなってもう半年以上経つでしょ?」


提督「……そうだな」


加古「最初はね、何かをするやる気すら起き無くて、部屋の片隅で丸まってずっと横になってたんだ」


提督「暫くは部屋からも一切、出て来なかったもんな」


加古「迷惑かけちゃってたでしょ?」


提督「いや、その原因を作ったのは俺だしな。加古を責める事なんて出来ないよ」


加古「そっか。でも、不思議だよね。寝る事があれだけ好きだったはずなのに、全然寝れないんだ。いくら寝ようとしても寝れない。けど、お腹だけは空いてくる」


提督「……」


加古「それで何か食べようって思って部屋を見渡しても古鷹の姿は何処にも見当たらなくてね。今までは起きると古鷹が料理を作ってくれてたからさ」


提督「古鷹は世話焼き上手だったからな」


加古「そうなんだよね。それで、やっぱり居ないんだ、って改めて認識したら涙が止まらなくなっちゃって……。また部屋の隅っこに行って、寝れもしないのに横になって……。ずっとその繰り返しだったよ」


提督「すまない……」


加古「もう!あたしには謝んなくったって良いんだってば」


提督「そうだったな……。それでどうやって立ち直ったんだ?」


加古「立ち直ってたらこんな所に来て黄昏てなんかないよ」


提督「……そうだな」


加古「でも切っ掛けはあったんだよ。こんな事してて加古は喜ぶのかな?とか加古だったらどうして欲しいのかな?ってそんな事を考えてね」


提督「それで最近は色々とあっちこっちで動いてたのか」


加古「そういう事。いやぁ、1人で何かをするって大変なんだね。ホント、古鷹様々だよ。あたしが古鷹にどれだけの負担を掛けさせてたのかって、今さらだけど思い知らされたからね」


提督「それは違う!古鷹が加古の面倒を見ていたように、加古も古鷹の面倒を見てきたじゃないか!それに古鷹は嫌々面倒を見ていた訳じゃない。互いの面倒をみていた時は、二人共嬉しそうにしていた!そう俺の目には映っていたぞ」


加古「あはは、急に大声出さないでよ、うるさいな。……大丈夫だって。そんな事はあたしが一番、分かってるんだから」


提督「いや、なら良いんだが……」



加古「ねぇ、提督。これでもあたしゃ提督を応援してるんだよ?まぁ、事が事なだけにこれからも色々と大変だろうけど精々頑張んなよ」


提督「……加古は俺を憎いとは思わないのか?」


加古「憎くない訳無いじゃん」


提督「そう……だよな」


加古「でもだからと言って今までの恩を忘れる事も出来ないしね。だってそうでしょ?古鷹ってば、ここに来てからはいつも幸せそうにしてたんだから」


提督「……」


加古「憎さもある。でも感謝の気持ちもある。だから提督を庇うなんて事は出来ないけど、応援はしてる。あたし自身もまだどうして良いか分かってないけど、今の気持ちはそんな感じだから!それを伝えときたくてね!」


提督「……加古は俺が思っていた以上に強いんだな」


加古「あんま褒めないでよ。図に乗っちゃうでしょ!」


提督「俺の本心だからな。仕方が無い」


加古「そっか……。じゃあ仕方無いね」


提督「ああ……」


加古「……」


提督「……」



加古「……あのさ、1つだけ聞いても良い?」


提督「なんだ?」


加古「あの時の提督は私達の為を想って、古鷹達にああいう指示を出したんだよね?」


提督「信じて貰えないとは思うが、それだけは間違いない。あれがあの時に出来る俺の最良の選択肢だったんだ。後悔だってしていない」


加古「そっか……。どうにも納得出来ない所はあるけど、一応は分かったよ」


提督「……」



加古「うし!聞きたい事も聞けたし、しんみりムードはこれでおしまい!あたしゃ、もうちょっとここに残ってるからさ。提督はさっさと戻んなよ。あたしに気を使ってるみたいだけど、どうせ仕事だってわんさか残ってるんでしょ?」


提督「バレてたのか……」


加古「提督との付き合いも大分長くなるからね。それに分かりやすいんだよ、提督は」


提督「そんなにか?……だがお前とこうして話せて良かったと思ってるのも本音だからな?」


加古「ん」


提督「……加古、無理はするなよ?」


加古「……分かってるって!早く行きな!しっしっ」


提督「……じゃあ、またな」


加古「……うん。またね」





 ~回想 終わり~




提督「という訳だ。どうだ?納得してくれたか?」


不知火「ええ。要注意人物は少ないに越した事は無いですから。これでその分、他の方々に時間を割けます」カキカキ


提督「お前も余り根は詰めるなよ?」


不知火「不知火は大丈夫です。お構い無く」カキカキ


提督「不知火は凝り性なんだな……」





                   ◇





提督「よし、粗方終わったな。後は俺の方でやっておくから、不知火はもう戻って休んでても良いぞ」


不知火「いいえ。何時また、司令に怨みを持っている方が襲ってくるか分かりません。不知火はここで司令を見守っています」


提督「まだそんな事を言ってたのか……。あれから半年以上経っているんだから大丈夫だよ」


不知火「その半年を過ぎてから金剛さんは襲ってきたんです。油断は出来ません」


提督「はぁ……。"俺を殺す"。艦娘達が本気でそう思っていたとすれば、寝室にでも忍んで既に寝首を掻かれているよ。俺ももうこの世にはいないって。それとも不知火は、俺の寝室まで来て見張っていてくれるのか?」


不知火「! なるほど……。それは気付けませんでした。では今日からは、不知火も寝室までお供します」


提督「……冗談だって。本気にするなよ……」


不知火「なっ!?不知火は本気で司令の心配を……!」


提督「なぁ、不知火。不知火の気持ちは嬉しいよ。ただここの鎮守府で俺に好意的に接してくれる艦娘なんて、お前を除けば明石と夕張、それに加古くらいしかいないんだ。その明石と夕張は諸事情で最近は工厰に籠りっきり。加古にしても心の奥底では俺に怨みを抱いているんだ。違うか?」


不知火「それは……確かにそうですが……」


提督「お前に万が一の事があって倒れたりすれば、誰が俺の身を守ってくれるんだ?……なぁ、頼むよ、不知火。ここは無理せずに休んではくれないか?」


不知火「……悔しいですが、司令の言う通りです。今日からは体調を万全にするべく、早めの就寝を心掛けるようにします」


提督「分かってくれたか」


不知火「はい。では充分な休養を取る為に私はこの辺で失礼します。お疲れ様でした」ペコッ



ガチャ パタン



提督「……不知火は猪突猛進な所が玉に瑕だな」



カ、チャ……



提督「なんだ不知火、忘れ物か?」



筑摩「残念ながら不知火さんではありませんよ」スッ



提督「……筑摩か。こんな夜更けに何の用だ」


筑摩「実は提督のお腹が減った頃では、と思いましてお夜食をお持ち致しました。どうぞお召し上がり下さい」


提督「……筑摩。普段からキツく当たってくる者が、ある日突然、態度を豹変させて優しく接してきたらお前ならどう思う?」


筑摩「十中十、罠だと思うでしょうね」


提督「そうか。……分かった、頂くよ」


筑摩「これは予想外でした。食べて頂けるのですね。毒入りかもしれませんよ?」


提督「これに毒が入っていようが無かろうが、お前に確かな殺意があるのなら、この部屋に2人きりの時点で既に詰んでいる。違うか?」


筑摩「ふふ、不知火さんを帰してしまったのは失敗でしたね」


提督「……という事は毒入りって訳か」


筑摩「さぁ、冷めない内にお召し上がり下さい」


提督「2つ、願いがある」


筑摩「命乞いですか?それとも時間稼ぎのつもりでしょうか?見苦しいですよ?」


提督「違う。これを承諾して貰わなければ、俺も最低限の抵抗は試みるぞ」


筑摩「……良いでしょう。言ってみて下さい」



提督「ふぅ……。じゃあまず1つ目だ。これを食べるのは自室でも構わないか?」


筑摩「まさかそれを信じろと?」


提督「信じて貰わなければ困る」


筑摩「……訳を聞きましょうか」



提督「ここでこれを食べて死ねば、お前が真っ先に疑われる事になる。そうすればお前は廃棄処分だ。例え、それを免れたとしても不知火が黙ってはいまい。あれには迷惑ばかり掛けて来たからな。俺が原因でお前らにしわ寄せがいく、それだけはどうしても避けたい」


筑摩「随分と仲間想いなんですね。それで自室で、という事ですか」


提督「ああ。自室ならば真っ先に自死を疑われるだろうからな。正式な遺書でも書いて横に添えて置けば、お前達に疑いはかからないはずだ」


筑摩「……良いでしょう。ただしこちらからも1つだけ条件を付けます」


提督「なんだ?」


筑摩「その料理を食べる事以外での死は認めません。楽に死ねるなんて思わないで下さいね?」


提督「……ああ。承知した」


筑摩「それでは2つ目のお願いを聞きましょうか」


提督「ああ。最後の引き継ぎだけは済ませておきたい。後任の負担はなるべく減らしておきたいからな。だから全てを終えてこの料理を食べるのは、もしかしたら陽が昇る頃になってしまうかもしれない。それでも良いか?」


筑摩「冷めたお料理でも良いのでしたら、私はそれでも構いませんよ。……それでは最後に何か言い残す事はありますか?」


提督「やり残した事なら沢山ある、が、こうなってしまってはどうしようもないしな。不知火達には随分と大きな荷を背負わせてしまう事にはなるが、きっと上手くやってくれるだろう。ここの後任も、俺よりはマシだろう。少なくとも、お前達に疎まれている俺なんかよりはな」


筑摩「……では言い残す事は無いと?」


提督「ああ。後は遺言書に上への不満でも書き連ねてやるさ」


筑摩「……そうですか。では私の用事は終わったようなので、失礼しますね」


提督「ああ、さらばだ」


筑摩「……」





 ~提督の自室~



提督「うっし!上手く書けたぞ。我ながら惚れ惚れするような達筆っぷりだ」


提督(この短時間で、今やれるような引き継ぎは全て終わらせた。体も念入りに清めたし、見苦しい最後にならないように糞便も済ませた。この通り、後を託す遺書も書けた。後はこの料理を食べるだけか……)


提督(自死というなんとも呆気ない最後になってしまったが、これも天罰だな。…………いかんな。これ以上時間を掛けていると、筑摩が痺れを切らして殺しに来る可能性もある。さっさと食ってしまわねば。……どれ、覚悟を決めて逝くとするか)


提督「しかし、料理の痕跡を無くす為に好きな物を全てぶち込んでみたが、想像以上に見た目が酷いな……。匂いも大分キツいが、これは毒のせいか?」


提督「まぁ良い。味はそこまで酷くは無いだろ。……では、最後の晩餐を頂く事にするか」スッ



提督「……んぐ。……見た目の割には悪くない味……!?」モグモグモ……


提督「なんっ!?これっ!?……っ……!?!!?」ジタバタ


提督「くぅっ……!!あがぁっ!!……っ!」ダダダッ ガチャッ


提督「!?うぁっ!!……っ!!」ダダダッ キュッキュッ


提督「!?!!?……っ!……あ゛あ゛あ゛ーーーーー!!!」



ガチャ



提督「!?」


筑摩「……」スゥッ


提督「はぇ!?」


筑摩「本当に召し上がられたのですね……」


提督「筑っ!?どういう!?ぁああ゛あ゛ーーー!!!」


筑摩「どうぞ。お水です」


提督「!」ゴクゴクゴク


筑摩「良かったら牛乳もどうぞ」


提督「!!」ゴクゴクゴク


筑摩「……」




 ~数分後~



提督「で?これは一体どういう事なんだ?……くっそ、未だに口と喉と胃の痛みが引かん」シーハー


筑摩「……あの料理には毒なんて入っていませんよ。入れたのは唐辛子です」


提督「唐辛子とはとても思えん辛さだったぞ……」


筑摩「なんでも世界一辛いキャロなんちゃらとかいう唐辛子らしいですから」


提督「なんでそんな物を……。お前は俺を怨んでいたはずだろ。度が過ぎてるとはいえ、こんなイタズラ紛いの真似をするような間柄ではなかったはずだ」



筑摩「……試したんです」



提督「試した?辛さをか?」


筑摩「いいえ、違います」


提督「ああーー、くそっ!辛さと痛みで頭が上手く回らん。すまないが、もっと簡潔に教えてくれないか?」


筑摩「波止場での加古さんとの会話。加古さんには悪いと思いましたが、盗み聞きさせて頂きました」


提督「……お前もあそこに居合わせてたのか」


筑摩「はい。提督が仰っていた"私達の為にやった事"。あれからずっとその事が引っ掛かっていました。そして、それの真意を試す為に今回の行動に出たという訳です」


提督「言っておくがあれに嘘、偽りは無いぞ」


筑摩「ええ。最初は加古さんを騙す為の口実かと思っていましたが、少なくとも自死を選ぶくらいには本気だったという事は知れました」


提督「……部屋の中の飲み物を隠したり、水道を止めたのもお前か?」


筑摩「はい。あのままでは提督が本当に召し上がられたかどうか分かりませんから。最も、執務室で食べて頂けてれば、こんな手の込んだ事はしなくても良かったのですけれど」


提督「それはすまない事をしたな。それで?俺が食わなかった場合はどうしてたんだ?」


筑摩「私の料理を拒否したり、命乞いをしたり、理屈に合わない時間稼ぎを試みるようならその場で射殺していました」


提督「そうか」


筑摩「随分と淡白な返しですね」


提督「日頃のお前達の対応を見てれば、それ相応の覚悟はするだろ。不知火には宥め透かす為に嘯いてはいるが……」


筑摩「それもそうでしたね」


提督「では俺は九死に一生を得たと思って良いのか?」


筑摩「……そうですね。てっきり私は、自室に逃げ込んで誰かに助けを求めるものだと思っていましたが」


提督「馬鹿を言え。本気のお前を前にそんな事をすれば、死人は私だけでは済まなくなるだろ。それでは本末転倒だ」


筑摩「ええ。私は少しだけ、提督の事を見誤っていたようです」


提督「そうか。それで用はもう済んだんだろ?既に陽も昇り始めている。自室に戻って少しでも体を休めとけ」


筑摩「そうさせて頂きます。それでは」


提督「はぁ……まだ痛ぇ」ヒリヒリ



筑摩「……」


提督「? なんだ、帰らないのか?」


筑摩「思い違いに気付いたとはいえ、どうやら提督への怨みは少しも薄れていないようです」


提督「……そりゃそうだろう。元の部分は何も解決してないんだからな」


筑摩「利根姉さんがいなくなってから、私の頭の片隅ではいつも、どうすれば仇を取れるか、どうすれば提督を殺せるか、そんな考えがどうしても散らついてしまうのです。それほど、利根姉さんの存在は私にとっては大きいモノでしたから」


提督「……知ってるよ」


筑摩「ですが」


提督「?」


筑摩「これからはノックも無しに入るような事も、書類を投げ散らかすような事も致しません」


提督「……それは助かるな。出来れば殺意の方をどうにかして欲しいのだが」


筑摩「それはどうしようもない事ですから。では用も済んだので今度こそ失礼致します」



ガチャ パタン



提督「……どうやらこの遺書はこのまま、ここに置いておいた方が良さそうだな」





 ~その日の執務室~



コンコンコン



提督「入れ」


筑摩『失礼します』



ガチャ



不知火「!?」


筑摩「提督、今日の報告書です」スッ


不知火「!!?」


提督「ああ。……ん、問題無かったみたいだな。下がって良いぞ」


筑摩「それでは失礼します」


不知火「??」


提督「……」カリカリ



筑摩「……ああ、そうでした。忘れ物をするところでした」



提督「?」


筑摩「ふっ!」バッチィィイイイン


提督「うごぉっ!!?」ドデッ!


不知火「し、司令!大丈夫ですか!?」ササッ


筑摩「昨日、殺し損ねてしまった分と、私なりの新しい決意表明みたいなものです。どうぞお受け取り下さい」


不知火「!?!!?」


筑摩「では失礼しますね」



ガチャ パタン



提督「っつう~……!はぁ、筑摩の奴め、感情のままに動き過ぎだろ……。油断していた分、倍は痛ぇ……」ヒリヒリ


不知火「……筑摩さんと何かあったのですか?」


提督「ああ。昨日、不知火を帰した後に少しな」


不知火(やはり筑摩さんは最要注意人物の様ですね)



提督「何でも今までの不遜な態度は改めるそうだ」


不知火「……それは仲直りをしたという事ですか?」


提督「いや、俺を殺す気は変わらないらしい」


不知火「!?」


提督「とはいえ、若干だが、態度は軟化してくれたようだし、暫くの内は大丈夫だろ」


不知火(筑摩さん、危険人物確定……)カキカキ





                     ◇





不知火「……最近、司令の周りを嗅ぎ回っている者がいます」


提督「……お前は本当に優秀だな」


不知火「茶化さないで下さい」キッ


提督「と言っても俺の事をこそこそ嗅ぎ回る奴なんてあいつしか思い浮かばないんだが……」



ガチャ!



青葉「ども!青葉です!」



提督「……噂をすればなんとやらか」


青葉「青葉の事を話していたんですか?青葉、感激です!」


不知火「心にも無い事は言わないで下さい」


青葉「嫌ですねぇ。ちゃんと思ってますよ」


提督「で、何の用だ?」


青葉「そうでした。本来の目的を忘れてしまう所でした」


提督「青葉には悪いが、今は時間が無くてな。あまり時間は取ってあげられないぞ?」


青葉「大丈夫です。お時間は取らせませんから!」


提督「そうか。なら良いんだが」



青葉「欠損艦」



提督「……それがどうした」


青葉「司令官は3年程前から突然、欠損艦の方々を引き抜き始めましたよね?」


提督「……そうだな」


青葉「一般的に欠損艦は、消費する燃料や弾薬等は他の艦娘よりやや多い傾向になっています。その上、戦果として見てみても、その見返りは通常の艦娘と比べると大分少ないじゃないですか?それを何故、わざわざ欠損艦に狙いを定めてまで引き抜きを始めたのでしょうか?」


提督「簡単な事だ。他の者と比べて欠損艦は引き抜きやすい、ただそれだけの事だ」


青葉「なるほど~。では欠損艦を引き抜かなければならない程、ここの戦力は逼迫していた。そういう事ですよね?」


提督「そうだ」


青葉「そうですかぁ。でもそれだと、青葉はどうしても納得いかないんですよねぇ」


提督「何がだ。勿体ぶって無いでさっさと言え」


青葉「ではでは続けて質問です。戦力が足りてないから欠損艦を引き抜いたはずなのに、その欠損艦をみすみす死地へ送ったのは何故なんです?」


提督「死地へなどには送っていない。あくまでも偵察部隊として、あの海域へ出撃させただけだ」


青葉「またまた~。あの海域は誰がどう見ても危険な海域だったじゃないですかぁ。あれではまるで、欠損艦達全員に轟沈して欲しい、そう願ったような指示にしか青葉には見えなかったですよ?」


提督「……そんな訳無いだろ。彼女達はここの立派な戦力だったのだからな」


青葉「なんと!司令官からそんな言葉を頂けるとは!きっと天国にいるガサーも両手を挙げて喜んでいる事でしょう」


提督「……」



青葉「でもそれだと尚更、納得がいきませんねぇ」


提督「今度はなんだ?」


青葉「だって偵察だけなら敵地のあんな奥深くまで進む必要は無いじゃないですか?遠目でも充分なはずですし。貴重な戦力なら尚更、慎重になるべきだったのでは?きっとこれは、司令官にしか分からない戦略だったのでしょう。青葉、是非とも司令官の、その磨きあげられた策謀の一端についてお聞きしたいです!」


提督「……」



青葉「……駄目ですよ、司令官。そういう所までしっかり詰めておかないと。その意味深な沈黙を見逃してくれるほど、上の方達は甘く無いですからね?」


提督「なっ!?まさかお前、大本営に!」ガタッ!


青葉「例えばの話ですよ。例えばの。それとも司令官は、大本営に対して何か疚しい事でもしているんですか?」


提督「……」



不知火「……青葉さん。司令はお疲れの様です。今日はもうお引き取り下さい」


青葉「……不知火さん、明石さん。それに夕張さんです」


不知火「!?」


青葉「何となく思い付いた3人を言ってみただけなのですが、このお三方に何か心当たりでもあるんですか?ねぇ、そこでビクついた様子をした不知火さん?」


不知火「……自分の名前を急に呼ばれれば、誰でもこうなります」


青葉「名前を呼ばれた位で?冷静沈着で名を馳せているあの不知火さんが、ですかぁ?」


不知火「……」



提督「青葉、悪いんだがもう帰ってはくれないか?」


青葉「いいえ!青葉はまだ話し足りないです!」


提督「命令しても良いんだぞ?」


青葉「……」


提督「青葉、退室しろ。これは命令だ」


青葉「……仕方無いですね。それじゃあ最後に1つだけ」


提督「……」



青葉「良いですか?司令官を楽にするのはこの青葉なんです。それを忘れないで下さい。司令官はその時が来るのを首を長くして待っていれば良いだけなんです」



提督「……」


青葉「では命令通り、青葉、退室します!」



ガチャ パタン



提督「……楽にする、か。大本営に密告するのは出来るだけ勘弁して貰いたいのだが……」


不知火「青葉さん自身で復讐を遂げると言っていたのでそれは無いと思います」


提督「そうか……。しかし青葉は金剛や筑摩とは違った怖さがあるな。真綿で徐々に締め上げられていくような……。得体の知れない恐怖なら1、2位を争うかもしれん。これもほぼ全ての艦娘達を敵に回せたからこそ知り得た情報だな、ははは」


不知火「笑えない冗談は止めて下さい」


提督「はは、不知火は元々そんなに笑わないじゃないか」


不知火「」キッ


提督「……すまん」





                       ◇





 ~執務室~



吹雪「司令官。お呼びでしょうか?」


提督「ああ、来てくれたか。ちょっとお前と世間話がしたくてな」


吹雪「私で良ければいつでも話し相手になりますよ!」


提督「それは助かる。執務ばかりでは流石に気が滅入るからな」


吹雪「ですね!それで何の話をするんですか?」


提督「いや、吹雪が来てくれてそろそろ半年近くになるだろ?」


吹雪「あー……。もうそんなに経っていたんですね」


提督「どうだ?ここにも馴染めてきたか?」


吹雪「はい!司令官は優しいですし、艦娘の皆さんも親切な方々ばかりですからね。……時々、怖くなる時もありますけど」


提督「……俺がここの雰囲気を悪くしている、という自覚はあるんだが、こればっかりはどうしようも無いからな。ごめんな?」


吹雪「そ、そんな!謝る事なんてないですよ!私は司令官の事もちゃんと信頼してますから!」


提督「……お前は本当に素直な子だな。誰かにも見習わせてあげたいよ。なぁ?不知火」



不知火「どうしてそこで私に話かけるんですか?意味が分かりません」カキカキ



提督「ははは、特に意味はないさ」


不知火「なら、さっさと本題に移って下さい。このままでは仕事が溜まっていく一方です」カキカキ


提督「ああ、そうだな」


吹雪「本題……?」


提督「そう身構えなくても良い。今の話を聞いた感じからすると、これから話す事は吹雪にとっても朗報だろうからな」


吹雪「え?なんですか!?早く聞きたいです!」


提督「いや、朗報と決まったわけでは無いのだが……。まぁ良いか。では単刀直入に言うぞ?」


吹雪「はい!」


提督「吹雪、君にはここへ残ってもらいたいと思っている。簡単に言えば、引き抜きの誘いだ。勿論、最初に会った時に話した通り、君が望んでくれればの話だが。……この通りだ」ペコッ




吹雪「……それは私が欠損艦だから、ですか?」




提督「……ここの艦娘達から聞いたのか?」


吹雪「はい……」


提督「まぁ、ここに半年近くも居れば、耳にしない方がおかしいか……」


吹雪「……ですね」


提督「沈んでいった欠損艦達の話を聞いてからでは、俺の事を信じるなんて事は難しいかもしれないが、それでもどうか俺を信じてくれないか?俺が今、言える事はこれだけだが、決して悪いようにはしないと約束する!……頼むよ」スッ


吹雪「あ、頭を上げて下さい!」


提督「いや、返事を聞くまでは上げられん」


吹雪「……私の気持ちは最初から変わっていませんから」


提督「……そうか。どうやら決意は固そうだな」


吹雪「はい」


提督「……分かったよ。吹雪、あちらへ戻っても俺はお前を応援しているからな。何か助けて欲しい事が出来たら、遠慮なくここを頼ってくれ。俺に出来る範囲でなら手助けするから」


吹雪「司令官?えっと、何か勘違いをされているようですけど……」


提督「ん?何がだ?」


吹雪「私が初めてここに来た時に言いましたよね?"ここに残れるように頑張ります。司令官の期待に応えてみせます"って」


提督「という事は……」


吹雪「はい!喜んでここに転属しますよ。どうかこれからも司令官のお側に居させて下さい!」ニコッ


提督「そ、そうか!いや、すまない!勝手な思い込みをしていたようだ」


吹雪「もう!そこは謝るところじゃないですよ!」


提督「! そうだったな。……改めて歓迎するよ、吹雪。これからもよろしくな!」ワシャワシャ


吹雪「こちらこそです!えへへ」ンー


不知火「司令、遊んでないで仕事をして下さい」キッ




 ―執務室の外―



翔鶴「吹雪ちゃんが欠損艦……?そんな……」





                    ▽





 ~吹雪の自室~



コンコンコン



吹雪「は~い、今開けまーす」



ガチャ



翔鶴「こんにちは。吹雪ちゃん」


吹雪「翔鶴さん!どうしたんですか?」


翔鶴「ちょっと話をしたくて寄ってみたんだけど……。時間は大丈夫?」


吹雪「はい。今日はもう出撃の予定も無いので。あっ、とりあえず中へどうぞ」


翔鶴「ええ、お邪魔します」




吹雪「それで何の話でしょうか?」


翔鶴「……吹雪ちゃんって欠損艦だったのね」


吹雪「! どうしてそれを……!」


翔鶴「今朝、執務室の前で全部聞いちゃったの」


吹雪「そう……ですか。黙っててごめんなさい」


翔鶴「そんな!謝らなくても良いの!別にその事を責める為にここに来た訳じゃ無いから」


吹雪「え?じゃあなんで?」



翔鶴「……悪い事は言わないわ。□□鎮守府に戻りなさい」


吹雪「……それは司令官の事でですか?」


翔鶴「そうよ。ここに残ったら、きっと吹雪ちゃんも沈められちゃうもの」


吹雪「……私は帰りませんよ」


翔鶴「どうして!?」


吹雪「帰っても死が待っているだけですから」


翔鶴「え?」



吹雪「私の鎮守府は囮を戦法の1つとして使うんですよ。広い海の中に1人だけ取り残されて、回りには無数の機雷を撒いておくんです。後は簡単です。敵を適当にあしらいつつ、ある程度集まってきたら機雷を起動させるだけですから」


翔鶴「……良く聞くやり方ね」


吹雪「私は欠損艦ですからね。このまま戻っても囮として使われるだけです。ここの司令官の要請が無ければ、私は今頃、海の底でした。現に囮候補のリストには私の名前が記されていたみたいですから」


翔鶴「でも囮を使う機会なんてそう頻繁には……」


吹雪「……私と仲の良かった艦娘もその囮に使われた内の1人だったんです。その娘が沈んでいく時の悲しそうな表情は今でも忘れられません」


翔鶴「そんな……」


吹雪「それが私が欠損艦になってしまった原因ですから。……実はですね、私は皆さんが思っているような欠損艦では無いんです。艤装もこの通り、問題無く作動しますから」ガシャン


翔鶴「え?じゃあどうして」


吹雪「私の場合は、敵に止めを刺せないってだけなんです。止めを刺そうとすると、囮として沈んでいった艦娘の顔が浮かんできちゃって、どうしても引き金が引けないんですよね」


翔鶴「気付かなかったわ……」


吹雪「上手いこと誤魔化してましたからね。それに敵に止めを刺せないって言うほど問題にはならないんですよ。敵を無抵抗の状態にするだけならなんの障害も無いですから」


翔鶴「だったらそれをあちらの提督に話せばきっと分かってくれるわ!」


吹雪「もうとっくに話しましたよ。ですが、あの司令官は私達、艦娘の事を物としてしか見ていませんからね。お偉いさん方も、トラウマとしてではなく、欠損艦として扱った方が都合が良いみたいなんです」


翔鶴「……そう、でしょうね。トラウマ持ちとして扱えば、艦娘に人権を与える口実になってしまうもの。あくまでも私達は兵器。そういうスタンスを崩したくは無いんでしょう」


吹雪「そういう事だと思います。どちらにせよ死が待っているなら、私は居心地が良いこっちの鎮守府を選びます。あっちで、私と仲の良かった艦娘はもういないですしね」


翔鶴「……」


吹雪「それに私は司令官の事を信じているんですよ。あ、勿論、ここの司令官の事ですよ?」


翔鶴「なんであんな男を信じられるの……?」


吹雪「……少なくともあっちの司令官とは比べるのも烏滸がましい位には良い人ですよ」


翔鶴「違うの!それはあの男の本性を吹雪ちゃんが知らないだけよ!」


吹雪「翔鶴さん、知っていますか?」


翔鶴「何を?」


吹雪「司令官は私が出撃から帰ってくるといつも笑顔で迎えてくれるんです。予定よりちょっと遅く帰還した時なんて、そわそわしながら待ってるんですよ?……ふふ、あれで隠してるつもりなんでしょうけど、バレてないとでも思ってるんですかね?」


翔鶴「止めて!……あなたは騙されてるのよ」


吹雪「……そうかもしれませんね。でも私は既に2度、司令官に命を救われているんです。1度目はここに呼んでもらえた時。そして今朝、私にここに残って欲しいって真摯に頭を下げられた時です」


翔鶴「それは何か裏があるはずで……!」


吹雪「裏があっても良いんです。例え司令官に今、ここで沈めと言われても、きっと私は逆らえないです。それくらい、私は司令官に恩義を感じているんですから」



翔鶴「どうして……?私はただ、吹雪ちゃんに死んで欲しくないだけなのに……」


吹雪「……ありがとうございます。翔鶴さんの気持ちは凄く嬉しいんです。けど、私は私で譲れないモノがあるんです。どうかこのまま、背中を押して応援して貰えませんか?」


翔鶴「……吹雪ちゃんは、提督が大好きって所まで瑞鶴に似てるのね」


吹雪「そうなんですか?瑞鶴さんとは仲良くなれそうですね!」


翔鶴「……ねぇ?吹雪ちゃん、1つだけ約束して頂戴」


吹雪「何ですか?」


翔鶴「自ら死にに行くような真似はしないで。どんな事情があろうともよ」


吹雪「……精一杯の生きる努力はしてみます。それでは駄目ですか?」


翔鶴「吹雪ちゃんは本当に提督の事が好きなのね」


吹雪「えへへ、翔鶴さんの事も好きですよ!」


翔鶴「……私もよ。……ねぇ?どうしても駄目なの?」


吹雪「すみません」


翔鶴「……分かったわ。随分と長い事、お邪魔をしちゃったみたいね。そろそろ私は戻るわね」


吹雪「あんまりお構い出来ずにすみません。今度、一緒にどこかに遊びに行きましょう!」


翔鶴「ええ。楽しみにして待ってるから。それじゃあまたね」


吹雪「はい。また……」



ガチャ パタン…





吹雪「あんまり優しくされると決心が鈍っちゃうよ……」





                   ◇





 ―食堂―



提督「……」モグモグ


不知火「……」ジー


提督「……」モグ…モグ…


不知火「……」ジー



提督「……不知火」


不知火「はい」


提督「そこに座るか、通り過ぎるか、どっちかにしてくれないか?そうやって見ていられると食べ辛いんだが……」


不知火「これは失礼しました。司令が珍しい場所に居たので思考が停止していたようです」ガタ


提督「明石と夕張が執務室の模様替えをすると駄々をこねてな。ちょうど昼飯時なんで仕方無くだ」


不知火「そうだったんですか。しかし良くここで食べる気になりましたね」



艦娘達「……」ジッ



提督「……まぁ、食い辛いのは確かだな。お前も無理して俺に付き合わなくたって良いんだぞ?」


不知火「無理はしていません。私はただ、司令は本当はマゾなのでは?と少し疑っていただけです」


提督「なっ!?誰が好き好んで……!」


不知火「司令、あまり大きな声を出されるとあちらの方々を刺激してしまいます」



艦娘達「……」ジロッ



提督「っ……。誰のせいだと思ってるんだ」


不知火「不知火は思った事を言っただけです。不知火に何か落ち度でも?」


提督「はぁ……。せめてあそこにいる艦娘の中に加古が居てくれればな。少しはこの空気も和むのだが……」



青葉「んー?誰かに呼ばれた気がして来てみれば、司令官じゃないですか。珍しいですね!」



提督「呼んだのはお前じゃないんだけどな……」


青葉「?」


提督「見た通り、俺は食事中なんだ。静かにしててくれよ?」モグモグ


青葉「何を言ってるんですか!こうして会えたのも何かの巡り合わせです。取材させて下さい!」


提督「俺が食事してる間だけだぞ」


青葉「流石は司令官です!では吹雪さんについて少しお窺いしますね」


提督「……青葉、もう少し声のボリュームを落とせ。それとこんな公の場で、俺以外の事を聞かれても話さんからな」


青葉「またまた~。そうやって逃げようとしてもそうはいきませんよ。青葉、気にせずに聞いちゃいます」


提督「おい、青葉」


青葉「青葉の得た情報によると、なんと!吹雪さんは欠損艦だというではないですか?しかも噂だと、ガサー達と同じ命運をたでゅっ!?」



提督「青葉、お前も大概にしとけよ?」ガシッ ギチギチ



不知火「!? 司令!ここではまずいです!手を離して下さい!」


提督「俺の事を面白可笑しく記事にするのは構わない。俺はそれだけの事をしたんだからな」ギチギチ


青葉「っ……!ほぉっ……!!」ペチペチ


提督「だが他の者にまで害が及ぶような真似は違うだろーが!分かってんのか!?」ギチギチ


青葉「ほごぉ……っ!」コクコク


不知火「司令!それでは青葉さんも返事が出来ません!とりあえず手を離してあげて下さい!」


提督「…………っ」スッ


青葉「ぱはぁっ!司令官でも怒る事があるんですね!司令官のアイアンクローならぬ、ほっぺクローを頂けて、青葉、感激です!」ゾクゾク



提督「お前はっ……!」バッ


不知火「司令!駄目です!」ガシッ




翔鶴「提督? 今、青葉さんが仰った事は本当なんですか?」グイッ




提督「……翔鶴か」


翔鶴「答えて頂けますか?」


提督「……吹雪が欠損艦だというのは本当だ」


翔鶴「それは知っています。それに私が聞きたいのはそこではありません。その後です」


提督「噂は噂だ。そんな訳無いだろ」


翔鶴「しかし、火の無いところに煙は立たないはずです」


提督「俺には瑞鶴達を沈めたという前科があるからな。それを誰かが面白可笑しく繋げたんだろう」


翔鶴「そういう話へ繋がるという事自体、おかしいとは思いませんか?」


提督「……繋がるも何も、そもそも吹雪は欠損艦ではない。諸事情により、敵に止めを刺す時のみ体が上手く動かせなくなるんだ。いわゆるトラウマというやつだ」


翔鶴「っ!」


提督「欠損艦も、元々は精神的負担から来るトラウマが原因だが、吹雪の場合は艤装自体にはなんの不備も無い。それにトラウマを持っていたとしても、吹雪の働きは目を見張るものがある。それは一緒に戦っているお前達の方が良く知っているはずなんじゃないのか?」


艦娘達「……」


翔鶴「……私は信じられませんね。そうやって耳障りの良い事ばかりを並べて、あなたは瑞鶴を騙していたんです。きっと吹雪ちゃんの事も――」




吹雪「もう止めて下さい!」



翔鶴「吹雪ちゃん?いつからそこに……」


吹雪「翔鶴さん。私の事で司令官に当たるのはもう止めて下さい」


翔鶴「でも!」


吹雪「私は大丈夫ですから。お願いします、今日はこのまま退いてくれませんか?」


翔鶴「……分かったわ」


吹雪「えへへ。ありがとうございます!」


翔鶴「……提督」


提督「なんだ?」


翔鶴「私はもう二度と騙されませんからね?」


提督「……ああ、覚えておく」


翔鶴「では」スタスタスタ




提督「吹雪、お前のトラウマの事をこれだけの人の前で話してしまった。すまない……」


吹雪「気にしないで下さい。いずれ知られるっていう事は分かってましたから」


青葉「すみませんね、久しぶりの特ダネで調子に乗ってしまいました」


提督「……青葉、お前が今回しでかした罪は重い。今までと同じように済むとは思うなよ?」ギロッ


吹雪「あの!青葉さんを責めないであげて下さい」


提督「いや、これは提督としても罰を与えなければならん。最悪、艦隊の和を乱す事にもなり得るんだからな」


吹雪「それなら大丈夫ですよ。私、こう見えても皆さんに可愛がって貰ってますから!」


提督「それは知っているが……」


吹雪「というより私、青葉さんに感謝してるんです」


青葉「?」


吹雪「私、嬉しかったんです。私の、いえ、艦娘達が欠損艦になってしまう原因を、はっきりとトラウマだ、って司令官が言ってくれた事。司令官は私の事を単なる物としてではなく、人として見ていてくれたんだ、って改めて気付かされました」


青葉(そういう事ですか)


吹雪「ずっと悩んでたモヤモヤも一気に吹き飛んじゃいましたよ!だから、司令官の本音を聞ける機会を頂けた青葉さんには感謝しかしてません。なので青葉さんのお咎めは無しにして貰えませんか?」


提督「……分かったよ。被害を受けた吹雪がそう言っているのに、俺が納得しなかったら和を乱す事になるのは俺の方になるからな」


吹雪「えへへ。司令官、ワガママを聞いてくれてありがとうございます」


提督「但し、青葉!そんな事は起きないとは思うが、この件で吹雪に対する誹謗中傷の類いが出てしまった時は、お前が責任を持って対処しろ。良いな?」


青葉「はい!そういうのは得意分野なのでお任せ下さい!」


提督「……よし。なら俺から言う事はもう無い。……不知火」


不知火「はい」


提督「執務室の模様替えも終わった頃だろうし、俺はこのまま戻る。お前はゆっくり食べてきて良いからな」


不知火「了解しました」


提督「皆も折角の昼休憩を邪魔してしまってすまないな。午後からの予定は俺の方で融通を効かせておくからゆっくりしていってくれ」


艦娘達「……」


提督「青葉もしっかり吹雪に謝っておけよ。ではな」スタスタ




青葉「いや~、こんな大事になってしまうとは予想外でした。しかし、流石にこの事は記事には出来ませんね、残念です」


不知火「あなたも懲りないですね。青葉さんはまず、この食堂の端にまで楽々と届いてしまう、その大きな声をどうにかした方が良いと思うのですが」


青葉「何を言ってるんですか!?ジャーナリストから、折れない心と、皆に知らせる声を無くしてしまったら何も残らないじゃないですか!」


吹雪「あはは……」


青葉「とはいえ、吹雪さんに悪い事をしてしまったのも事実です。司令官の言うように心配は要らないとは思いますが、後処理の方は任せて下さい。それと何かお困りの事があれば何時でもこの青葉にご一報を!では!」シュタタタタ




吹雪「これで一件落着ですね」


不知火「毎日付き合わされるこっちの身にもなって欲しいです。これでは私の身が持ちません」


吹雪「じゃあ私が代わりに秘書艦になりますよ?」


不知火「……私以外にここの秘書艦は務まりません」


吹雪「あはは、冗談ですよ。……今は、ですけど」


不知火「!」


吹雪「ふふふ……」ニコッ


不知火「……」ニタァ…




青葉(何かあるかもなんて見守っていましたが、こっちはこっちでバチギスしてますねぇ。それにしても不知火さんのあれは笑顔なんですかね?青葉、恐怖を感じます!)





                    ◇





 ―工厰―



提督「明石はいるか~?」


明石「はい、何でしょう?」ニュッ


提督「おわっ!……なんだ、後ろにいたのか」


明石「驚かせてしまいましたか?提督がここに入っていく姿をちょうど見掛けまして、声をかけようとした時に名前を呼ばれたので……。すみません」


提督「いや、気付かなかった俺が悪いんだ。謝るような事でも無いしな」


明石「それで何のご用でしょうか?」


提督「ああ、そうそう。これが今月の、融通出来た資材の内訳だ。どうだ?このくらいで足りるか?」ピラッ


明石「足りるも何も、もうあそこの拡張は粗方終わりましたよ?」


提督「いや、あそこの設備は最低限ってだけでまだまだ充分じゃないしな。その分、明石と夕張に負担をかける事になってしまうのは申し訳無いと思っているが……」


明石「私と夕張さんは楽しんでやってますから平気ですよ。むしろ資材をじゃぶじゃぶ使って好き勝手遊べ、……けほん。……資材で色々と研究出来て感謝してるくらいですよ」


提督「……頼んでいるのはこっちだからな。今、言いかけていた言葉は気にしない事にするよ」


明石「つい口が滑ってしまいましたね。でもこれだけの資材をちょろまかすのは大変なんじゃ無いんですか?無理してません?」


提督「正直、毎回ひやひやしているが背に腹は代えられん。俺は俺に出来るだけの事をするだけだ」


明石「それはご立派な志ですけど、提督はもう少しご自分の置かれている状況をちゃんと把握した方が良いですよ」


提督「何の事だ?」


明石「何の事だ、って金剛さんと筑摩さんに殺されかけてたじゃないですか」


提督「……何故お前がそれを知っている?」


明石「いやですね。ここの安全管理は私と夕張さんが担っているんですよ?勿論、それには提督の身の安全も含まれていますからね。提督が思っているよりも私達は優秀なんです!」


提督「……お前達を味方に引き入れたのはどうやら正解だったようだな」


明石「そうでしょう、そうでしょう。……でも本当に気を付けて下さいね?金剛さんの時も筑摩さんの時も、夕張さんを止めるのは大変だったんですから」


提督「そうか……。お前達にも随分と心配を掛けていたんだな」


明石「良いですか?これは金剛さんと筑摩さんだけの話では無いですからね?青葉さんも最近はちょろちょろ動き始めているようですし、何よりも翔鶴さんが危うい兆候を見せ始めています」


提督「翔鶴が?何かあったのか?」


明石「この前の食堂での一件で爆発寸前ですよ。今の翔鶴さんは、いわゆる病んでるってやつです」


提督「あれか……。しかしあの時は、吹雪に諭されてすんなり引いてくれたように見えたのだが」


明石「問題はその後ですよ。巡り巡って膨れ上がった噂が翔鶴さんの耳に再び入ってきて、更なる悪循環を起こしてるみたいです」


提督「噂?噂になってるのか?」


明石「あれだけの大騒ぎでしたからね。仕方無いですよ」


提督「吹雪の方に変な噂は立ってないよな?青葉には、吹雪に関する事の後始末だけはしっかりやっとけと釘を刺しておいたはずなんだが」


明石「吹雪さんの方には特に無いですよ。聞こえてくるのは吹雪さんに対しての同情的な意見のみですから」


提督「そうか。なら良いんだが」


明石「その分、提督の方にはもの凄いヘイトが向けられてますけどね。ある事ない事、言いたい放題です」


提督「ああ、そういう事か。まぁ、それは覚悟の上だしな。それにそういうのにはもう慣れたよ」



明石「っ! そんなのに慣れないで下さいよ!!」ダンッ



提督「!」


明石「……提督はもう少し、自分を心配してくれている夕張さんや不知火さんの気持ちを考えてあげるべきなんじゃないんですか?提督に何かあれば、あの2人は絶対に悲しみますよ?」


提督「そうだな……。この異常な状況が作られてからもうすぐ1年になる。そのせいで、俺の中の感覚も麻痺していたのかもしれない。すまない……」


明石「全くもう!こう見えて、私だって心配で眠れない時もあるんですからね!提督も、自衛の為の何かを考えておいた方が良いですよ!」


提督「ああ。これからは俺の方でも、艦娘達を刺激するような真似は自重するようにするよ」


明石「……分かって頂ければ良いんです。とは言っても相手は艦娘、そして提督は人間です。1人ではどうしようも無いと思います」


提督「そうだな。それは金剛の時で身に染みて分からされたよ」


明石「そこでこれです!」バーン


提督「これは……ペンダントか?」


明石「はい!余ってた廃材で作ってみました。困った時の神頼み、簡単に言っちゃえばペンダント式のただのお守りですね。ではどうぞ!」チャリ


提督「……」


明石「あれ?出てきたのがただのお守りでガッカリしちゃいましたか?」


提督「いや、逆だよ。お前の優しい心遣い、ちゃんと受け取ったからな」


明石「そ、そういうリアクションは想定していなかったので、なんだか、て、照れますね……」


提督「はは、明石が照れるとは珍しいな。どれ、早速だが付けてみても良いか?」


明石「どうぞどうぞ」


提督「……っと、どうだ?似合ってるか?」


明石「良いですね!男っぷりが随分と上がりましたよ!」


提督「そうか。デザインも派手過ぎないし、普段使いも出来そうだな。ありがとな、明石」


明石「感謝するなら毎日ちゃんと付けてて下さいよ。一応、それはお守りなんですから」


提督「お前の心からの贈り物だ。毎日、肌身離さず付けるようにするよ」


明石「約束ですからね!」


提督「ああ、約束だ」


明石「これで安心です!」エヘヘ





                       ◇





提督「……」ボー


不知火「司令、サボってないで仕事を始めて下さい」カキカキ


提督「ん?ああ、すまん。今やるよ」カリカリ


不知火「……司令が執務中に呆けているなんて珍しいです。何かあったんですか?」


提督「いや、あれから今日でちょうど1年だろ?まだ1年しか経ってないんだな、と思ってな」


不知火「私にはあっという間の1年に感じました。ここの艦娘達から司令を守らなければならなかったので、毎日が忙しかったですから」


提督「毎日は流石に言い過ぎだろ」


不知火「いいえ。要注意人物に指定した方々は、隙あらば司令の命を狙ってくるに違いありません」


提督「そんな訳な――」



コンコンコン



提督「! 入れ」



ガチャ



筑摩・翔鶴・加古・金剛・比叡・霧島「……」ゾロゾロ



不知火「(要注意人物の中でも筆頭の方々が勢揃いしているようです)」ポソポソ


提督「(不知火、お喋りはここまでだ)」ポソポソ



筑摩「なにやら楽しそうな秘密の会話をしているみたいですね。お邪魔でしたか?」


提督「いや、今終わったところだ。お前達の用件を聞こうか」


筑摩「……提督は私達がここに何をしに来たのか、分かりますか?」


提督「この面子で来たって事は1つしか無いだろ。今日は利根達がいなくなってちょうど1年だしな。違うか?」


筑摩「気に掛けてはいたようですね」


提督「そりゃな。で?俺はどうすれば良いんだ?」


金剛「提督にはあの海域に出向いて貰って、榛名達に謝罪の言葉と黙祷を捧げてあげて欲しいのデス」


提督「黙祷、か……」


霧島「嫌なんですか?」


提督「あそこへ行くのは構わんし、上辺だけの謝罪で良いのならば何度でもしよう」


翔鶴「上辺、だけ?……どういう意味ですか?」


提督「俺は、あの時に下した判断が間違っていたとは今でも思っていない。勿論、後悔もしていない。だからお前達が求めているような謝罪は出来ないってだけだ。頭だけで良いのであれば何度でも下げるけどな」


筑摩「……では黙祷だけはして頂きます。利根姉さん達の死を悼むくらいは提督にでも出来るでしょうから」


提督「いや、黙祷だけは絶対に出来ない。これは何があってもしないからな」



翔鶴「このっ!いい加減に!」ガシャン



不知火「翔鶴さん、10秒以内に艤装を解いて下さい。でないと撃ちます」ガシャン


提督「不知火、止めろ」


不知火「いいえ、止めません。10……9……」


提督「不知火!」


不知火「8……7……」


比叡「不知火さんお願いです!待って下さい!翔鶴さんも!今日は話し合いに来ただけのはずです!」



翔鶴「……」


不知火「3……2……」


翔鶴「……分かりました」……ガション


不知火「……」ガション



比叡「翔鶴さん、ありがとうございます」


加古「……あたしゃ先に船着き場に行ってるよ。話し合いが終わったら皆もそこに来てよ」


筑摩「加古さん……?」


加古「いや、提督が何を意固地になってるかは知らないけど、艤装を向けられてもその意思は曲げないんだ。あたしが何を言ったって無駄でしょ」


筑摩「それはそうですが……」


加古「それに、皆は知らないだろうけど、あたし、似たような話はもう提督としちゃってるんだよね」


筑摩「……」


加古「正直、古鷹達に黙祷を捧げられないっていうのはどうにも腑に落ちないけど、言ってる事自体は前に話した時から何一つとして変わってないみたいだからね。きっと何かあるんでしょ。て事であたしゃこのまま船着き場に向かうから。じゃね」スタスタ



ガチャ パタン



翔鶴「……私は納得していません。提督がどんな事を企んでいようが関係無いですから。だってそうですよね?瑞鶴を沈めた事は紛れもない事実なんですから。そうやって、徐々に徐々に孤立していって下さい」


不知火「司令は1人にはなりません。私がいますので」


翔鶴「それも時間の問題ですよ」


不知火「ご心配なく。不知火は誰かさんみたいな恩知らずではありませんから」


翔鶴「……」



筑摩「不知火さんには申し訳無いのですが、私も翔鶴さんと同じ意見です。あなたは普段から、艦娘は人間と変わらないだの仲間だの言っておきながら、艦娘の死に対しては偲ぶ事すら出来ないのですか?」


提督「……」


筑摩「そうですか。やはり口先だけだったのですね。あなたに何かを期待するような真似を、私はもう二度としないでしょう」


提督「……そうか」


金剛「加古は優しいからあんな事を言ってくれていますが、提督の言い分は無茶苦茶デス。自分で言っていて気付かないのデスカ?あなたとは1秒足りとも一緒に居たくはないデス。という事で翔鶴達、加古の後を追いまショウ!」スタスタ


翔鶴「ええ。そうですね」スタスタ


筑摩「目的が果たせないのなら、ここにはもう用は無いですからね」スタスタ



ガチャ



霧島「提督、榛名達への黙祷をしてもらう事は諦めました。その代わり、私達にはなるべく関わらないようにして頂きますから」


提督「……分かった。そうなるように調整し直しておく」


霧島「では私はこれで」スタスタ


比叡「……」


霧島「比叡お姉さま?行きますよ」


比叡「え?……うん」スタスタ




提督「……」


不知火「大丈夫ですか?」


提督「ああ、問題無いよ。これからは霧島の言った通り、出来る範囲内でだが、あいつらとの接触は避けるようにするよ。お前の負担もこれで少しは軽くなるだろ」


不知火「……そうですね」


提督「それじゃあ不知火に急かされる前に、執務の続きでもするとしますか」カリカリカリ



不知火「……」





 ~数日後~




翔鶴「今日は私の呼び掛けに応じて頂いてありがとうございます」


筑摩「この顔ぶれだという事は提督絡みの話ですか?」


翔鶴「はい。本当は青葉さんも呼んだのですけど、一周忌の時と同様、忙しくて手が離せない、との返事でしたので残念ながら来られないみたいです」


加古「それで?今日はどんな用件なの?」



翔鶴「では早速ですが、皆さん。今、吹雪ちゃんが置かれている状況はご存知ですよね?」


金剛「ムー……。欠損艦だったという話は聞いていマス」


霧島「提督の新しい標的ではないか?という噂も立っていますね」


翔鶴「そうなんです。それをどうにかして阻止する為に、皆さんにはこうして集まって頂きました」


筑摩「なるほど。では各々で吹雪さんを見張ろう、そういう事ですね?」


翔鶴「いえ、違います。皆さんには提督の弱みを見つける手伝いをして頂きたいのです。最悪、無実の罪をでっち上げてでも、提督という座からあの人を引き摺り下ろそうと考えています」



加古「あー、そういうの?じゃあ、あたしゃパスかな」



筑摩「……加古さんは提督が憎くは無いのですか?」


加古「憎いに決まってるって。あたしと古鷹の仲は皆だって知ってるでしょ?」


翔鶴「ではどうしてですか?この前の時だって非協力的でしたよね?」


加古「非協力的って……。あのさぁ、あんた達は姉妹達の最後の言葉、ちゃんと守ってんの?」


金剛「それは……」


加古「古鷹が最後に言った言葉、なんだったと思う?」



加古「"私は幸せだったよ。ううん、これからもずっと幸せ!だから加古は加古の幸せだけを考えてね?"」



加古「って言ってたんだよ。あたしゃそれを守ってるだけ。そりゃ最初の頃は引き籠ってたけどさ、今はあたしがやれる範囲で色々と動いてるつもり」


翔鶴「……果たして古鷹さんは本当にそう思っていたんでしょうか?残していく加古さんの身を案じて、無理をしてそう言ったのではないのですか?」


加古「……古鷹の最後の表情は今でも鮮明に覚えてるよ。飛びきりの笑顔だったからね」


翔鶴「それこそ無理をしていたに決まっているじゃないですか」


加古「へぇ……。古鷹のあの笑顔をあんたはそう思ってたんだ。付き合いの長いあたしでさえ、あの笑顔には嘘偽りなんて無いって思ってたんだけどね」


比叡「……」



加古「じゃああたしも言わせてもらうよ。あの時に嫌々出撃していった艦娘なんていたっけ?あの時の古鷹達は、確かに残していく私達を案じてる素振りは見せてたけど、あたしには古鷹達が自ら望んであの海域に向かっていった様に見えたけどね」


翔鶴「それは……。きっと提督に脅されていたハズなんです。逆らえないような何かを握られて……。そうとしか考えられません!」


加古「"ハズ"、ね。じゃああの時の提督の指示だって、そうしなきゃいけない事情があった"ハズ"だよね?」


翔鶴「……」


加古「そこなんだよね。提督憎しの頭しか無いから、そうやって考えが偏っていくんだ」




筑摩「……加古さんはどうしてそうやって提督を庇うような真似をするんですか?」


加古「庇ってるつもりはないよ」


筑摩「私からはそうにしか見えませんが……」



加古「……古鷹が欠損艦になったのは、前に所属してた鎮守府が原因だっていうのは知ってるよね?」


筑摩「ええ」


加古「古鷹はその鎮守府で酷い扱いを受けてたみたいでね。正直あたしゃ、古鷹の左目が失明して欠損艦になってからは、いつ囮に指名されるかって、古鷹から連絡が来る度にヒヤヒヤしてたもんだよ」


金剛「囮デスカ……。決して褒められた作戦では無いデスネ」


霧島「ですが私達に人権なんて無いですからね。ましてやそれが欠損艦となってしまうと……」


加古「霧島さんの言う通りだよ。戦場で片目が見えないなんて、はっきり言ってお荷物どころの話じゃ無い。距離感が掴めないんだから、下手したら射線上の味方だって撃っちゃうかもしれないんだからね。でも提督はそれを承知で、そんな古鷹をここに引き抜いてくれたんだ」


比叡「そう、でしたね……」


加古「とはいえ、ここに来たからって戦果が上がるなんて訳でもない。それどころか提督は、あたしに古鷹の補佐として付くよう命令してきたんだよ。2人でやっと1人前の働きになるかどうかなのにだよ?効率なんてあったもんじゃない」


筑摩「ですが古鷹さんは、加古さんが居なくても出撃していましたよね?」


加古「そうだね。提督が馬鹿の一つ覚えみたいに、2年近くもあたしに補佐をさせ続けて、古鷹の戦場での感覚を鍛えてくれたお陰だけどね」


筑摩「……」


加古「……古鷹はね、いつも言ってたよ。提督とあたしには頭が上がらないって。いつかこの恩を返したいって。それはあたしも同じなんだ。提督と古鷹には返しきれない恩がある。あんた達だって提督にどでかい恩の1つや2つはあるでしょ」


翔鶴「確かに恩を感じた事はありますが、それとこれとは別の話です」


加古「別?何言ってんの?さっきから聞いてれば、翔鶴さんは随分と自分に都合の良い解釈をするんだね。恩は返さないのに仇だけは律儀に返そうとしてるんだから」


翔鶴「っ!」


加古「ねぇ、翔鶴さん。この集まりは本当に吹雪の為なの?今聞いた感じだと、あたしには瑞鶴さんを失った仇を返す口実にしか見えないんだけど」


翔鶴「違いますっ!私は本当に吹雪ちゃんを!」


加古「吹雪を守る為だけなら、ここの鎮守府の艦娘達にでも頼んで警戒するよう頼んだ方が良いでしょ。幸いな事にここの艦娘達は、極一部を除いて提督を嫌ってるんだし。皆喜んで引き受けてくれるハズだよ」


翔鶴「それは……」


加古「もう一度聞くよ?提督に無実の罪を着せてまで失脚させる事は、本当に吹雪を守る為に必要な事なの?」


翔鶴「……」


加古「無言、ね。ま、そういう事だからあたしゃこの話から降りるよ」


翔鶴「! 待って下さい!」


加古「安心してよ。翔鶴さん達の気持ちも分かるからね。ここの事は誰にも言わないし、邪魔もしない。ただ、提督に無実の罪を着せようとするなら、あたしゃ提督側に立つからね」


翔鶴「……分かりました」


加古「ん。もし吹雪の事でなんかあったらまた呼んでよ。その時は力でもなんでも貸すから」


翔鶴「ありがとうございます……」


加古「じゃ、あたしゃ戻って昼寝の続きでもするから。またね」



ガチャ パタン



筑摩「加古さんは以外と芯が通った考えをしているんですね。それで、どうするんです?」


翔鶴「……私がまだ続けると言ったら手伝って頂けるんですか?」


筑摩「手伝いますよ?」


翔鶴「!」


筑摩「加古さんの言い分は最もです。聞いていて私も耳が痛かったですよ。ですが、先手を打つのは決して悪い策ではありません。なにせ吹雪さんの命が懸かっているのですからね」


金剛「ワタシも吹雪を助ける為ならどんな努力も惜しみまセン。デスが、加古の言う通り、罪をでっち上げる事だけは賛成できまセン」


翔鶴「……分かりました。あくまでも提督の余罪を調べるという方向でお願いします」


霧島「それなら私も協力します」


比叡「……そうですね」



筑摩「それではどうしましょうか?提督がそう易々と尻尾を見せるとは思えませんが……」


翔鶴「手掛かりならあります」


金剛「oh!流石デス!どんな手掛かりなノ?」


翔鶴「実は先日、私の自室に差出人不明の手紙が届いていたんです」


筑摩「という事は十中八九、艦娘からでしょうね。出来れば直に会って話を聞いてみたかったのですが」


金剛「きっとシャイガールなんでショウ」


霧島「情報だけでも今はありがたいです。それでどんな内容だったんですか?」



翔鶴「内容は、"明石さんと夕張さんが何か不穏な動きを見せている。執務室を良く調べて欲しい" そう書いてありました」


筑摩「そういえば1週間ほど前に、明石さんと夕張さんで執務室の模様替えをすると騒いでいましたね」


翔鶴「そうなんです!時期的にもぴったりなので何かあると思うんです」


金剛「フーム、執務室を調べるなら、提督と不知火をあそこから遠ざけなければいけませんネ」


霧島「不知火さんはたまに出撃されますから問題ないとして、厄介なのは提督の方ですね」


金剛「提督はマメデスからネ。ちょっと出掛ける時でも鍵を掛けてしまいマスから」


筑摩「という事は誘き出す人が要りますが、私達ではきっと怪しまれるでしょうね」


霧島「加古さんであれば問題は無さそうですが、あの感じだと断られるのは目に見えています」


翔鶴「大丈夫です。その点についてなら考えてありますから」


金剛「どうするんデスカ?」


翔鶴「提督は吹雪さんに呼び出して貰うよう頼んでみようと思っています」



筑摩・金剛・比叡・霧島「……」



翔鶴「どうしたんです?皆さん」


筑摩「翔鶴さん。後で取り返しの付かない事になる前にはっきりさせておきましょう」


翔鶴「?」


筑摩「この行動は吹雪さんの為ですか?それとも瑞鶴さんの仇を取る為ですか?またはそのどちらも兼ねて、ですか?今回の件にあたって、ここの出発地点だけは絶対に間違えないで欲しいのです」


翔鶴「吹雪ちゃんを助ける為ですよ?」


筑摩「……翔鶴さん。私は仇を取る事が悪いとは思っていません。私も吹雪さんを助ける事が第一だとは思っていますが、機会があれば提督に復讐を遂げようとも思っていますから」


比叡「え……」


筑摩「加古さんの様に理屈をこねていても復讐は出来ません。仇は感情で遂げるものですから」


翔鶴「……そうですね」


筑摩「その点を踏まえてもう一度お聞きします。これは吹雪さんの為で、翔鶴さんの復讐心は全く関係無いのですか?」


翔鶴「はい。吹雪ちゃんを助ける為だけです」


筑摩「……」



比叡「……あの、吹雪さんは提督の事を慕っていますよね?」


翔鶴「そうですね。騙されています」


比叡「その吹雪さんに提督を呼び出す手伝いをさせるんですか?」


翔鶴「そこは上手く誤魔化しておきますから」


金剛「吹雪は頭の良い子デス。この件が成功して提督が失脚すれば、自分のした事にもきっと気付いてしまうでショウ」


翔鶴「その時は仕方ありません。吹雪ちゃんの命には変えられませんから」


筑摩「……話にもなりませんね」


翔鶴「!? 急にどうされたんですか?」



筑摩「提督が捕まるという事は、自分の預かり知らないところで吹雪さんは、自分が慕っている人を失脚、若しくは牢獄へ送る手伝いをしていたという事に気付く、そういう事なんですよ?あなたは吹雪ちゃんに、そんな重い十字架を一生背負わせていくつもりなんですか?」


翔鶴「……あ」


筑摩「翔鶴さんが仇の為に動く、というならばそれも仕方の無い事なのでしょう。しかし吹雪さんの為と言いながらもそんな事をしていたら、本末転倒。説得力はゼロですよ?」


翔鶴「そんな……私は……」


筑摩「これが吹雪さんの為と言うのならば、吹雪さんを使うのは止めましょう?それ以外の方法で提督を誘き出せば良い、それだけの話ですから」


翔鶴「……」


筑摩「翔鶴さん……?」



翔鶴「……すみません。皆さんをお呼びしていながら勝手だとは思うのですが、この話は無かった事に出来ませんか?」


筑摩「私はそれでも構いませんよ。明石さんと夕張さんのお騒がせコンビの事ですから、また何か楽しいイタズラを思い付いただけなのでしょう。提督も模様替えの件は知らされていなかった様子でしたからね」


金剛「ワタシもそれで良いと思いマス。吹雪は皆で注意深く見守っていれば大丈夫デショウ」


比叡「翔鶴さんも今日はもう休んだ方が良いですよ。最近は出撃ばかりであまり休んでいなさそうですし、これを期に、少し休みを貰ってはいかがですか?」


金剛「流石は比叡ネ!良い事を言うヨ。吹雪と一緒にショッピングにでも行って楽しんでくれば良いんダヨ」


翔鶴「ありがとうございます。休みの件は後で申告してみます。では申し訳ないのですが、私は一足先に失礼しますね。今日は無駄な時間を取らせてしまってすみませんでした。失礼します……」



ガチャ パタン…



比叡「……翔鶴さんは大丈夫でしょうか?」


筑摩「吹雪さんの身の安全と復讐心とを天秤に掛けて、復讐心の方に重心が傾いていた事が余程ショックだったのでしょう。あのままではいつか大事になってしまうと思って警告をしたつもりでしたが、どうやら言い過ぎてしまったようですね」


金剛「筑摩は悪くナイヨ。あそこできっちり理解させておかないと、翔鶴も吹雪も不幸になっていたと思いマス」


霧島「ですね。では翔鶴さんのケアはお任せ下さい。良い感じのお店を探しておきましょう」クイッ


金剛「霧島は良い事考えるネ!そうと決まれば便は味噌で!洒落たお店を探しに行きマスヨ!付いてきなサイ、比叡!霧島!」ダダダダッ


比叡「はい!金剛お姉さま!」タタタタッ


霧島「金剛お姉さま、それを言うなら善は急げ、です」タタタタッ



筑摩「金剛姉妹はいつでも賑やかですね。私もつい昔を思い出してしまいます。…………寂しいです、利根姉さん」





??(あちゃー。加古さんが余計な事をしてくれたので、教えてあげた折角のヒントが水の泡ですね。でも翔鶴さんが危うい状態だと知れたのは上出来でした。次は失敗しないようにもっと慎重に行きますか)





                    ◇





夕張「~♪」


提督「お、いたいた」


夕張「? あれ?提督じゃないですか。どうしたんですか?寂しくなって私に会いたくなったんですか?」


提督「馬鹿を言え。お前に問い詰めたい事があって来たんだよ」


夕張「あー……。なんとなくの察しはついちゃった」


提督「そうか。じゃあ、あの騒音の発生元は夕張って事で良いんだな?」


夕張「はい。正しくは明石と私の2人ですけど。前に申請した通り、新しい配電の経路を作るために掘削したりしていたので……。すみません」


提督「必要な事とはいえ、流石にこれはなぁ……。深夜にまで作業を進めるのはどうかと思うぞ?」


夕張「迷惑だ、っていうのは分かってたんだけどね?ただ、ランナーハイならぬ工作ハイになると止め時が分からなくなるんですよね……」


提督「そう言われてもな……。深夜だと音が響きやすい。艦娘達の寮はここからそこそこ離れてるとはいえ、そっちにまで音が届いてたらしいぞ」


夕張「うぅ……すみません。でももう大丈夫です、山場は越えたので!深夜まで作業するなんて事はもう無いですから!……たぶん」


提督「いや、多分では困るんだが。不知火経由の話だが、寝付きが悪くなった艦娘も出てきたらしいからな」


夕張「じゃ、じゃあ時間になったら提督が報せて?それなら作業に没頭してても気付けますから!」


提督「ふむ、そのくらいなら構わないが……。確か夕張専用の内線があったよな?それで報せれば良いか?」


夕張「はい!子機はいつも胸ポケットに入れてますから」


提督「なら大丈夫だな!俺も執務に夢中になって忘れる事もあるかもしれんが、日付が変わる頃にはかけるようにするよ」


夕張「え……?それって、毎日って事?」


提督「ふむ、これを期に夕張の生活サイクルを見直してみるってのも良いな……。よし!これからは俺が忘れない限り、毎日報せるから覚悟しておくように!」


夕張「毎日、かぁ。……そっかぁ」ニコニコ


提督「いや、喜ぶような事じゃ無いだろ。むしろ、これは嫌がるべき事だぞ」


夕張「えへへ。提督コール、楽しみにしてますからね?」


提督「え?お、おう」


夕張「私は次の作業があるのでこの辺で失礼します。また後でね、提督!ふふ、明石に自慢してこよーっと!」タタタタッ



提督「……工作組はだいぶ変わった感性を持っているんだな」





                    ◇





不知火「……司令、この状況で本当に実行に移すつもりなんですか?」


提督「俺も出来ればしたくはないが、こればっかりは仕方無いだろ。もう時間もそんなに残されてないしな。それとも不知火はこのまま成り行きに身を任せて、見守るだけにしておくつもりなのか?」


不知火「私はそれも1つの手だと考えています」


提督「あのな、今は冗談を言えるような状況では無いだろ」


不知火「ご心配なく。これは冗談などでは無いですから」


提督「……不知火には悪いが、これはもう決めた事だ。今更変更する気もないし、そうする余裕すら今の俺には無い」


不知火「でしょうね。それくらいは分かっていまいた。司令は頑固者ですから」


提督「……すまないな、不知火。お前には気苦労ばかりかけてしまっている」



不知火「……そう思うなら1つだけ。不知火の願いを1つだけ、叶えて頂けませんか?でなければ今回の件に関して、不知火は一切の協力をしません」


提督「それは困るな……。なんだ?言ってみてくれ」


不知火「この件が上手く遂行出来たなら、不知火の事を司令の側近として側に置いて下さい」


提督「? 秘書艦も側近みたいなもんだろ?」


不知火「いいえ、違います。秘書艦と言っても、不知火は出撃だってしています。提督の側を離れる事も多々あります」


提督「……つまり、常に俺の隣に置いておけ。そういう事か?」


不知火「はい。不知火は司令の側を一時足りとも離れたくないんです」


提督「……あれだな。そこだけ切り取ると逆プロポーズみたいに聞こえるな」


不知火「司令!」キッ


提督「分かったよ。ただし、人手不足の時や、どうしても不知火の力が要る時は出撃してもらうからな」


不知火「……仕方無いですね。それで手を打ちましょう」



提督「しかし不知火に頑固者呼ばわりされるとはな。俺もかなりの頑固者らしい」


不知火「それは不知火が頑固者だとでも言いたいのですか?」


提督「違うのか?」


不知火「司令!」キッ


提督「ごめんって」


不知火「司令はそうやっていつも不知火のことを子供扱いしてっ……!」ブツブツブツ


提督「ごめんごめん。おっ、そうだ!この件が上手くいって一段落付けたら、不知火に好きな物をなんでも1つ買ってやるよ!」


不知火「……司令、そういうのを巷ではフラグと呼ぶらしいです」


提督「む、確かに縁起は悪いな。まぁ、なんか欲しい物でも考えておいてくれ。限度はあるが、日頃の感謝も込めたいからな。そこそこ高価な物でも構わないぞ?」


不知火「物に釣られたみたいで釈然としませんが、考えておきましょう」


提督「おう。じゃあ後はそのフラグとやらが立たないように祈っててくれ、なんてな」


不知火「それは心配しなくても大丈夫です」


提督「? そうか」




不知火(その為の願いですから。司令の事は何があっても、この不知火が絶対に守り抜くと決めているので)





                     ◇





翔鶴「服の中までびしょびしょだわ……。午前中はあれだけの晴天で、海も穏やかに凪いでいたのに急にこんな酷い嵐になるなんて……」


筑摩「珍しく天気予報が外れましたね。とはいえ、自由時間が増えたとでも思えば気分も良くなります」


翔鶴「そうですね。……筑摩さんはなんだか少し嬉しそうですけど?」


筑摩「翔鶴さんは予定が急に空いたりした時、なぜか得をした気分にはなりませんか?」


翔鶴「確かにそうかも?しれませんね」


筑摩「私が嬉しそうに見えるなら多分、原因はそれでしょう。翔鶴さんも空いた時間で気晴らしでもしたら如何でしょうか?」


翔鶴「良いですね。とはいえ、この報告書を渡す為に、あの男の顔を見なければならないと思うと気分も滅入ってしまいます……」


筑摩「それは私も同感です。ではササッと渡して、……?」


翔鶴「? どうしたんです?」


筑摩「執務室の前にいる子って吹雪さん、ですよね?」


翔鶴「?」クルッ


筑摩「もしかして……泣いてる?」


翔鶴「!」タタッ


筑摩「あっ、翔鶴さん!」




 ―執務室前―



吹雪「……」


翔鶴「……吹雪さん」


吹雪「!」ビクッ


翔鶴「提督に何か言われたのね?」


吹雪「……翔鶴さんでしたか。こんにちは!急に声を掛けられたから驚いちゃいましたよ!」


筑摩「吹雪さん、いま泣いていましたよね?」


吹雪「筑摩さんもいたんですか。こんにちは!」


筑摩「ええ、こんにちは。それで、こんな所でどうして泣いていらしたんですか?」


吹雪「え?泣いてなんか無いですよ?これは目にゴミが入っただけですから!でももう心配はいりません。ゴミは無事に取れたみたいです」


筑摩「吹雪さん、流石にその言い訳は苦し――」


吹雪「あっと。そろそろ私はこの辺でお邪魔しますね?今日は色々と忙しくなりそうなので」


翔鶴「ちょっと!待っ――」


吹雪「失礼します!」タタタタッ




翔鶴「……筑摩さん」


筑摩「ええ。なるべく早く、皆さんを集めましょう」





 ―小会議室―



加古「ごめんごめん、帰還した直後だったからちょっと遅れちゃったよ」


翔鶴「いえ、急に呼び立てたのは私の方ですから。忙しい中、足を運んで頂いてありがとうございます」


加古「あー、遅れて来てこんな事を言うのもどうかと思うけど、前回みたいな感じならあたしゃ帰らせてもらうからね?」


翔鶴「苦言は後で聞きます。今は少しの時間でも惜しいので」


加古「……なんだか急を要するみたいだね。ごめん、続けて」


翔鶴「ありがとうございます。皆さんに今日集まって頂いたのは吹雪ちゃんの事についてです」


金剛「何かあったのデスカ?」


筑摩「実は今日、執務室の前で吹雪さんが泣いている所を見掛けました。はっきりとは言えないのですが、提督に何か言われたのではないかと私達は考えています」


比叡「え?それって……」


筑摩「比叡さんの想像している通りだと思います」


金剛「!? ……提督の所へ問い詰めに行きまショウ!」


霧島「金剛お姉さま、落ち着いて下さい。あの提督の事ですから、きっとのらりくらりとかわされてしまうでしょう」


筑摩「ですね。むしろ警戒されてしまいます」


金剛「デモこのままじゃ吹雪まで沈められちゃうヨ!何か考えなキャ!」



翔鶴「……吹雪ちゃんを泳がせてみましょう」


加古「は?……あんた、いい加減にしなよ?」


筑摩「いえ、良い策かもしれません」


比叡「でもそれって吹雪さんを囮に使うって事ですよね?それはちょっと……」


筑摩「だからといってこのまま提督や吹雪さんに気取られたりすれば、状況は悪くなる一方です。提督もそれで手をこまねいている程、馬鹿ではありませんし、何より吹雪さん自身がそれを望んでいるのです。これでは吹雪さんを守る事は一層難しくなってきます」


霧島「それは……そうかもしれないですね」


翔鶴「囮と言っても何もしない訳ではありません。見て見ぬふりをするだけ。いざとなれば直ぐに助けられる状況にしておくんです」


加古「……なるほどね。下手に動いてこの状況をややこしくするよりかは、吹雪は安全って訳か。……うし、あたしにも手伝わせてよ!」


翔鶴「加古さん……!ありがとうございます……」


加古「いい加減、このやったやらないの話にも飽き飽きしてきた所だからね。この機にはっきりさせちゃおうよ」


金剛「初めて皆の意見が一致しましたネ!やる気が出て来ましたヨー!」


筑摩「では他の艦娘達に連絡をしておきましょう。不知火さんは勿論、明石さんや夕張さんのような、提督に近い艦娘は当然、除かせて頂きますが」


翔鶴「ええ、それで良いと思います。では早速――」



ガチャッ!



青葉「皆さん大変です!吹雪さんが単艦であの海域に向かったようです!」



翔鶴「え……?」


筑摩「……どうやら先手を打たれてしまったようですね」


金剛「それはいつの事デース!?」


青葉「吹雪さんを目撃した艦娘によると、今から1時間ほど前の事らしいです!」


翔鶴「1時間……前……?」トスッ…


比叡「翔鶴さん……」


筑摩「……追いましょう。今からでも間に合うかもしれません」


金剛「そうだネ……。それじゃあ早速出撃の準備をするヨ!」


比叡「はい!お姉さま!」


霧島「待って下さい!バラバラに動いては二次被害が出てきてしまうかもしれません」


筑摩「では準備が出来たら一旦、船着き場で待っていて下さい。集まり次第、吹雪さんの所へ向かう事にしましょう」


金剛「了解だヨ!比叡、霧島、付いてきなサイ!」


比叡・霧島「はい!」



筑摩「では私達も遅れないように早く行きましょう」


加古「ほら、翔鶴さんも座ってないで準備しに行くよ!」


翔鶴「……1時間前ならもう間に合いません。それに吹雪ちゃんは駆逐艦ですから追い付く事すら無理です。どう考えても手遅れです……」


加古「間に合うとか間に合わないの話じゃ無いんだよ!今はこうするしか道は無いんだから!早く立ちな!」グイッ


筑摩「……加古さん、翔鶴さんは置いていきましょう。時間は待ってくれませんから。今は一分一秒が惜しいです」


加古「……だね」


青葉「え?翔鶴さんをここに置いていくつもりですか?ちょっとそれはまずいですよ!」


筑摩「翔鶴さんの事が心配なら青葉さんが付いていてあげて下さい。私達は準備が済み次第、吹雪さんの所に向かいますから。では加古さん、行きましょうか」タタタタッ


加古「あいよ。……翔鶴さん、後で後悔しても知らないからね」タタタタッ



青葉「ちょっ!翔鶴さん、皆さん行っちゃいましたよ?本当に追いかけなくて良いんですか?」


翔鶴「……」ボーッ


青葉「ああ、もうっ!加古さーん、待って下さいよ~!青葉も行きますからー!」




翔鶴「……吹雪ちゃん、瑞鶴……。なんでこんな……。…………許せないっ……!」





                   ▽




 ―沖合い―



青葉「皆さ~ん。こっちですよ~。ちゃんと付いてきてますかー?」


金剛「嵐で視界は悪いケド、どうって事は無いヨ。比叡達は大丈夫デスカ?」


比叡「私は問題無いです。霧島は大丈夫?」


霧島「ええ、全く問題ありません」


加古「問題なのはこの波だね。思うように進めないよ」


筑摩「私達が四苦八苦しているという事は、吹雪さんの足取りも遅くなっているという事です。これなら追い付けるかもしれません」


青葉「そうですね~。……ん?あの人影はもしかして……吹雪さんではありませんか?」


金剛「what!?」




吹雪『……』スーッ




筑摩「確かに吹雪さんの様に見えますが、なぜこんな所に……?」


金剛「吹雪が無事なら何でも良いんダヨ! Hey!フブゥッ!?」


青葉「金剛さん、静かにして下さい!」グイッ


金剛「青葉!何するノ!?乙女の髪を鷲掴みとか、幾らなんでも無骨過ぎマース!」


青葉「金剛さんは置いておいて、吹雪さんはこのまま尾行する事にしましょう」


比叡「え?でも吹雪さん、鎮守府の方に向かっていますよ?後は帰還するだけなんじゃないんですか?」


筑摩「いえ、鎮守府の方へ向かってはいますが、やや方向がズレていますね」


加古「……何かありそうだね。この辺は特に危険な深海棲艦も出ないし、もう少し様子を見ようよ」


青葉「! 皆さん伏せてください!」


比叡「どうしたんですか?」


青葉「向こうの方に新たな人陰が見えました。そのまま伏せていて下さい!」


金剛「分かったヨ!……でも海上で伏せると、つい海水を飲んでしまいそうになりマスネ」


青葉「金剛さんはお年寄りなんですから、塩分は控えないと生死に関わりますよ」


金剛「なっ!?年寄りなのは戦艦・金剛で艦娘としてのワタシはまだピチピチのはずデース!」


青葉「しっ!姿が見えてきました!」




吹雪『……』キョロキョロ


不知火『……』スーッ


吹雪『!』



筑摩「不知火さん?どうしてこんな所に……?」


加古「これは100%何かあるね。青葉の言う通り、尾行して正解だったみたいだ」


霧島「! どこかに向かうようです」




不知火『……』スィーッ


吹雪『……』スーッ



比叡「どこに向かうんでしょうか?」


加古「分かんないけど、視界が悪いから尾行もしやすいね」


筑摩「ええ、このまま静かに付いていきましょう」




 ~十数分後~



金剛「後を尾けてきましたが、ここは鎮守府の裏手側デスヨネ?」


比叡「ですね。あそこは山と崖で、他には何も無いハズですけど……」


筑摩「! どうやらその崖の方へ向かっているようです」




不知火『……』スィーッ


吹雪『……』ススーッ



加古「ん?消えた?視界が悪くて良く見えなかったんだけど、今、消えたよね?」


青葉「消えましたね。青葉達も近くまで行ってみましょう」





霧島「近くまで来てみましたが、私にはなんの変鉄もないただの崖にしか見えませんね」


金剛「むー、この辺で消えたように見えたんデスガ……」


青葉「待って下さい!ここに小さな洞穴がありますよ!ほらっ!」


比叡「確かに洞穴みたいですけど……。入れるんでしょうか?」


筑摩「人間では無理でしょうね。ですが艦娘の私達なら問題は無いでしょう」


金剛「じゃあ入ってみマスカ!」




 ―洞穴の中―



金剛「狭いのは入り口の方だけで、中は意外と広かったデスネ」


霧島「これは……人工物なのでしょうか?」


筑摩「切り抜かれた様な跡がありますし、多分そうでしょう」


加古「なんだか冒険の旅に来たみたいでワクワクするよ」


比叡「あはは、何となく分かるかも?……あれ?あそこで行き止まりですか?」


筑摩「みたいですね。ただの洞穴では無さそうなんですが……」


青葉「ちょっと待って下さい。ここに怪しげな突起物がありますよ?」



比叡「これはボタン、ですか?…………えいっ!」ポチッ



金剛「なっ!?比叡のアンポンタン!なんで押したんデスカ!こういうのは罠だと相場が決まっているんデス!きっとでっかい大岩が落ちてくるに違いありマセン!」


比叡「ひ、ひえ~!」



ゴゴゴゴゴ!



筑摩「……扉が現れましたね。どうやら罠では無かったようです」


比叡「金剛お姉さま……?」


金剛「……そういう事もあるのデショウ」


霧島「しかしこれは何かの入り口なんでしょうか?」


青葉「ですね。それにこれは完全な人工物です」


加古「……誰が開ける?」


比叡「私は幽霊とかは平気なんですけど、こういうのは苦手なので……」


筑摩「ここでウダウダしていても埒があきませんね。私が開けましょう」


青葉「流石です!ではどうぞ!」


筑摩「良いですか?開けますよ?」ガ……チャ……





利根「ん?なんじゃ?今度は明石か?今日は随分と客人が多いのぅ。………ん?ち、筑摩ぁ!?」




筑摩「利根……姉さん……?」


金剛・比叡・霧島・加古「」



利根「はや!?あややややや!ち、違うのじゃ!これは何かの間違いで……。そ、そうじゃ!我輩は利根等という者では無いのじゃ!そうじゃ!今日からはそういう事にしよう!」


筑摩「……そんな間の抜けた言い訳をする人なんて、利根姉さん以外に私は知りませんよ……?」フルフル


利根「なんじゃとっ!我輩だってこうなると分かっておればもっとうもぅっ!?」グモモ


筑摩「あんまり心配を掛けさせないで下さい……」ギューッ


利根「……なんじゃ。心配しておったのか。あれほど心配は無用じゃと言ってきたハズじゃろ?」


筑摩「あんな別れ方で心配しない訳無いじゃないですか」ギューッ


利根「そうじゃの……。ここの事は秘密だったのでな。すまんかったの」


筑摩「良いんです。利根姉さんが無事ならそれで……。本当に良かった……」ギューッ



金剛「こ、これは一体どういう事ネ……?」





榛名「利根さん?またどなたかいらっしゃったんですか?」



金剛「は、榛名ァ!?」


比叡「え……ウソ……」


霧島「榛名、榛名ぁ!」ギューッ


榛名「えっ?なんで金剛お姉さま達がここに!?……利根さん、これってもしかして……?」


利根「うむ。どうやらバレてしまったようじゃ。じゃが我輩はこれっぽっちも悪くないからの!そこだけははっきりさせといてくれ」



金剛「榛名!生きていてくれたんデスネ……」ギューッ


榛名「……はい。榛名はこの通り、元気に暮らしています」


比叡「私も寂しかったんだから!榛名の事を考えない日なんて無かったんだよ?」ズビズビ


榛名「比叡お姉さまもお変わりないようで、榛名、嬉しいです!……それであの、比叡お姉さま?その、鼻水が……」


比叡「ひぇ?」ズビズビ


榛名「……いえ、なんでもありません」


霧島「榛名ぁ!榛名ぁああ!」グリグリ


榛名「ふふ、霧島の甘えん坊はどうやらまだ健在のようですね」ナデナデ



加古「あー、この流れで来てるって事は、次は……」





古鷹「二人ともどうかしたんですか?」ヒョコッ



加古「やほ!古鷹、元気してた?」ヒラヒラ


古鷹「か、加古!?なんでここに!?」


加古「まぁ色々あってね。遊びに来ちゃったよ」


古鷹「そ、そうなんだ……。えっと、ごめんね?ずっと黙ってて」


加古「良いよ。あたしゃ今、機嫌が良いからね!なんたってこうして古鷹に会う事が出来たんだから!」


古鷹「……その目の下のクマを見れば分かるよ。心配させちゃったよね?」


加古「っ!…………酷いよ古鷹ぁ!あたしに黙って出ていくなんてぇ!」ペチペチ


古鷹「うん……。ごめんね。全部私が悪いんだ、ごめんね。ごめんね、加古……」


加古「ぅう!あああっ!うわぁああああん!」ギューッ


古鷹「……よしよし」ナデナデ





衣笠「凄いことになってるね……。という訳で青葉!念願の衣笠さんですよ~♪」


青葉「あっ、青葉は大丈夫です!うっす」


衣笠「なんでっ!?」




不知火「……何やらうるさいと思って来てみれば、これは一体どういう事です?」


吹雪「あー……。尾けられていたようですね。この悪天候では気付けなくても無理は無いですよ。不知火さん、ドンマイです!」


不知火「……」キッ


吹雪「はいぃ……。すみませんでしたぁ」


不知火「はぁ……。ここの人達が落ち着いたら奥の部屋に通して下さい。きっと聞きたい話が山程あるでしょうから」


吹雪「了解です!」ビシッ



瑞鶴「え?なになに~?なんかあったの~?」


不知火「手間がかかるので瑞鶴さんは奥の部屋で待っていて下さい。そこで話します」


瑞鶴「ん~?ま、いっか。今日の晩御飯は何かな~♪古鷹の料理は美味しいから楽しみなんだよね~」トテトテ





                    ∇



筑摩「それで?これはどういう事なんです?」ギューッ


利根「筑摩、話を始める前に離してくれんかのぉ?これでは赤子みたいで恥ずかしいのじゃ……」


筑摩「不知火さん?」ギューッ


利根「筑摩ぁ!無視するでない!」ウガー



不知火「事の発端は3年近く前になります」


利根「……」ショボン


筑摩「3年前……?利根姉さん達が引き抜かれる少し前ですね」


不知火「はい。あの頃の戦況が、今よりも芳しくなかった事は、皆さんご存じのはずです。火の車の状態の大本営としては、少しの無駄でも省くべく、全鎮守府にあるお達しを極秘で出しました」


金剛「ンー?勿体ぶってないで早く教えて下サイ」


不知火「そのお達しの中身は、欠損艦の早期破棄を推奨する、というものです」



筑摩・金剛・比叡・霧島・加古「!?」



不知火「皆さんも欠損艦の戦場での戦果効率が芳しくない、という事は知っていると思います。大本営はそこに目を付け、経費の圧迫を防ごうとしたんです」


金剛「そんな馬鹿な話ッ!」


不知火「残念ですが、欠損艦を排除するようになってからは徐々にではありますが、戦況も良くなっています。欠損艦は囮として、敵に大きな被害を与えて最後に死に花を咲かせる。各鎮守府も、本来は欠損艦に使うはずだった余分な資材を貯蓄出来る。一石二鳥の策なんです」


筑摩「そういう事だったのね……」


比叡「納得いきません!足手まといだとしても、事務でも雑用でもさせてれば良かったじゃないですか!?」


不知火「艦娘が欠損艦になる原因の大部分は、提督達からの無茶な指示やハラスメント、または同僚からのいじめや、民間人からの心無い誹謗中傷の類いが主な原因です。つまり欠損艦は少なからず、人間達に敵意を抱いている事になります」チラッ



利根・瑞鶴・榛名・古鷹・衣笠「……」



不知火「そんな不穏分子を野に放つわけにはいきません。欠損艦とはいえ、小さな街位ならば半日と経たずに壊滅させる事が出来ますから」


筑摩「……人間は随分と勝手なのですね」


比叡「で、でも解体とかでは駄目なんですか?」


不知火「解体にも2種類あるんですよ。1つ目は比叡さんの言っている艦娘から艤装を外す方法です。艦娘は無事に一般人として生活できますが、この解体方法では莫大な資金が必要になります。因みにこの解体方法が認められているのは、いわゆる英雄として名を馳せた艦娘のみです」


比叡「……それじゃあ2つ目はなんなんでしょうか?」


不知火「2つ目は艤装から艦娘を無理矢理引き剥がす方法です。勿論、艦娘自体は無事では済みません。残るのは僅かな資材のみ。これがいわゆる破棄と呼ばれるものです」


比叡「知らなかったです……」


不知火「これも極秘情報ですから。提督や秘書艦等のごく僅かな者達にしか知らされていません」


霧島「どちらにせよ死が待っていた、という事ですか」



不知火「……そんな状況の中、司令はある事を思いついたんです」


金剛「提督が、デスカ?」


不知火「はい。欠損艦も鍛えれば、他の艦娘と同等、もしくはそれ以上の働きが出来るという事を上に示そうとしたんです」


加古「あたしと古鷹にコンビを組ませてたのってそういう事だったんだ……」


不知火「そうです。最初は上手くいくかどうか半信半疑でしたが、皆さんが必死に戦ってくれたお陰で、司令が想定していた以上の成果を得られる事が出来ました」


加古「古鷹も提督の為だ~って無理してたもんね!」


古鷹「なっ!?それは加古もでしょ!?」


加古「そうだっけ?」



不知火「……しかしその行為が、大本営の逆鱗に触れる事になってしまったんです」


金剛「what?大本営にとっても良い話のハズですヨネ?」


不知火「上の人達が集まって決めた事を、地方の一提督が覆したんです。面子を傷付けられたとでも思ったのでしょう」


霧島「下らないですね」



不知火「そうなってからは大本営の動きは異常な程に早かったですよ。全鎮守府の欠損艦について出したお触れを、推奨から必須に変更したんです」


比叡「そんな……酷い……」


不知火「勿論、ここにいる欠損艦の方々も例外ではなく、その対象に入っていました。ですが司令は諦めることなく、直談判に踏み切って守ろうとしたんです。……しかし大本営から返ってきた答えは、欠損艦を破棄する最終期限と、それが守れなかった場合の違反として、提督という立場から司令を追い落とすという旨だけが書かれていました」


筑摩「……」


不知火「司令はそれでも、もう一度だけ欠損艦を見逃して貰えるように嘆願書を提出しようと試みました。しかし、これ以上事を荒立てても提督という地位すら危ないと感じ、踏みとどまったんです」


霧島「地位、ですか……」


不知火「……勘違いをしてもらっては困ります。司令は地位や立場に目が眩んだ訳ではありません。役無しになれば、それこそ欠損艦を守れないと考え、保留にしていた案を実行に移す為に、なくなくそう決断したのです」


筑摩「……それがここ、という訳ですね」


不知火「そうです。欠損艦の破棄推奨のお触れが出た日から、明石さんと筑摩さんに頼んで3年近くの月日を掛けて、少しずつ拡張してきた秘密の場所です」


比叡「え?それじゃあ榛名達をここに連れてきたのは……?」


不知火「既にお気付きの方もいるとは思いますが、榛名さん達をここに匿っていたのは司令です。大本営の目を誤魔化す為に、榛名さん達を一旦、あの海域に向かわせ、沈んだ事にして、その足でここに来てもらいました」


比叡「どうしてそんな大切な事を黙っていたんですか!?」


不知火「人の口は案外軽いものです。ここを知る者は出来る限り少なくなくてはいけませんでした」


比叡「でもっ!せめて姉妹の私達にだけでもっ!」


不知火「姉妹だけでも、親しい者だけでも、ここの艦娘だけにでも。そうやって徐々に拡がっていってしまう事を、司令は一番恐れていたんです」


比叡「そんな……」


不知火「後の細かい部分は司令に直接聞いて下さい。不知火は司令に頼まれた仕事をこなさなければいけないので。吹雪さん、案内の続きをしますから付いてきて下さい」スタスタ


吹雪「え?あ、はい!」タタッ


瑞鶴「あ、あたしも付いていこうかな?」タタタ




金剛「……じゃあワタシが今まで提督にした事は―」


比叡「! 違います!あれは私が煽っただけで金剛お姉さまは最後まで司令を信じようとしていました!」


霧島「……唆したのは私達なんです。比叡お姉さまの言う通り、金剛お姉さまは何も悪くありません」


金剛「ワタシは人を殺そうとしたのデスヨ?それでも悪くないのデスカ?」


霧島「……」


金剛「経緯はどうあれ、実行に移したのはワタシ自身なんデス……。この罪はとてもでは無いデスガ、償えるモノではありまセン……」



榛名「あの、話が良く分からないのですが、金剛お姉さまは提督に何をされたんですか?」


比叡「え?司令から聞いてないの?」


榛名「上手くやれている、としか聞いていませんが……」


比叡「……」



金剛「ワタシは提督の首を絞めて殺そうとしまシタ。……いえ、比叡達がいなければあのまま殺していたデショウ」



榛名「え……?」


加古・利根・古鷹・衣笠・瑞鶴「!?」


筑摩「……」



金剛「ワタシはもう、提督に合わせる顔がありまセン……。これだけワタシ達の事を想ってくれていたのに、こうして榛名達を救ってくれていたのに、加古の言う様に恩を仇で返していたのですカラ……」


霧島「……それは仕方無いです。姉妹を、榛名を殺されたと思っていたのですから」


金剛「加古は最後まで提督の事を信じていましたよ?」


加古「……え?あたし?いや、あたしゃ考えるのが苦手ってだけだから。特に深く考えて無かっただけだって」


金剛「その目の下のクマを見れば、そうでない事くらいワタシにでも分かりますヨ……」


加古「……」



金剛「ごめんなサイ……。お姉ちゃんはもう駄目みたいデス……」ヘタ…


榛名「! …………金剛お姉さまは罰を受けるべきです」


比叡「榛名……?」


金剛「罰……デスカ?」


榛名「はい。罰です。金剛お姉さまには、出来るだけ提督の側から離れないようにして頂きます」


金剛「それは……出来まセン……」


榛名「お姉さま、これでも榛名は怒っているんですよ?私、言いましたよね?提督の事は信じてあげて下さいって。いつかこの意味が分かる日がきっとくるはずですって」


金剛「こういう事だったんダネ……。お姉ちゃん、榛名の事も提督の事も信じてあげる事が出来ませんデシタ……」


比叡「違っ!金剛お姉さまは……!」



榛名「(比叡お姉さま!分かっていますから。ただ、このままだと金剛お姉さまが何処かへ行ってしまう気がするんです。ここは私に任せて頂けないでしょうか?)」


比叡「(……榛名は凄いね。じゃあ任せたからね!)」


榛名「(はい!お任せ下さい)」



金剛「でも提督にどんな顔で会ったら良いノ?ワタシはこのままだと、直ぐにでも壊れていってしまいそうデス……」


榛名「だからこそのこの罰なんです。今、金剛お姉さまにとって一番辛いのは、提督に会う事なんですよね?」


金剛「そうデス……。それはいつまでなノ?ワタシはいつまで提督の側に居なければいけないんデスカ?」


榛名「金剛お姉さまの罪の意識が消えるまでです。勿論、提督に心配を掛けてしまうような素振りは控えて下さい。提督はお優しい方ですから、きっと金剛お姉さまに救いの手を差し伸べてしまいます」


金剛「そうダネ……。提督ならきっとそうすると思うヨ……」


榛名「……それでもし、金剛お姉さまの中の罪悪感が消えた、そう思える日が来たのなら、その時は金剛お姉さまの素の姿で、思う存分に提督に接してあげて下さい。それまでお姉さまには、この罪と向き合い続けて頂きます」


金剛「……榛名は随分と酷い事を言うようになったんダネ」


榛名「私が慕っている提督を殺そうとしたんですから、これでもまだ足りないくらいです!」


金剛「そうだったネ……。分かりまシタ。弱音は吐いてしまうかもしれませんが、出来るだけ頑張ってみマス……」



榛名「(比叡お姉さま、これで大丈夫でしょうか?)」


比叡「(榛名、ありがとう。……榛名は強くなったんだね)」


榛名「(ふふ、伊達に一年間もここに引き籠っていませんからね!……金剛お姉さまの事、どうかお願いしますね?霧島と一緒に支えてあげて下さい)」


比叡「(もちろん!バトンはしっかり受け取ったからね!)」




加古「話も纏まったみたいだし、このまま提督の所に詫びを入れに行きますか!古鷹、また来るからその時は何か料理でも作ってよ」


古鷹「えー?提督から聞いてるよ?自分の事は何でも出来るようになったんでしょ?」


加古「提督め、そういう要らない事は話さなくても良いのに!」


古鷹「ふふ、良いよ!私も久し振りに作ってあげたいって思ってた所だからね」


加古「これが戦場で培った以心伝心ってヤツだね。楽しみに待ってるから!」


古鷹「うん!」



金剛「折角榛名に会えたのに自分の事ばかりになってしまいましたネ……」


榛名「良いんです。榛名は久し振りに皆さんに会えて嬉しかったですから。また機会を見計らって遊びに来て頂けると、榛名、嬉しいです!」


比叡「……榛名、隙があればお姉さまと霧島と一緒に遊びに来るから、その時はゆっくりと今までの事、話そうね」


榛名「はい!榛名、その日が来るのが待ち遠しいです!」


霧島「何か入り用な物はありませんか?今度来るときに持ってきますが」


榛名「えっ、と……。今のところは無いですね。提督が過保護なので、直ぐに届けてくれるんですよ」



利根「筑摩!筑摩!我輩もお土産が欲しいのじゃ!ここは暇過ぎるからの……。何か暇を潰せる物が欲しいのぉ」


筑摩「そうですねぇ……。ではこれを機に勉強でもしてみましょうか。きっと役に立つはずですよ?」


利根「うむ!良く考えてみればやる事は沢山あったみたいじゃ。お土産は要らんからの!」


筑摩「うふふ。何か適当に暇を潰せる物を見繕って持ってきますよ」


利根「! 流石筑摩じゃ!我輩の事を良く分かっておる!」



衣笠「やっと衣笠さんのターンだね!青葉もそうやって照れてないで、素直に衣笠さんに甘えてみてよ」


青葉「あー、それなんですが」



ガチャ!



夕張「皆さん、大変な事になりました!不知火さんは居ますか!?」



衣笠「なんでこのタイミング?酷くない?」


夕張「え?なんで金剛さん達がここに!?」


不知火「案内が終わったと思って来てみれば……。今度は何ですか?」


夕張「し、不知火さん……。その、提督が、提督がぁ!」グスッ


不知火「夕張さん、泣いていては分かりません。しっかり役目を果たして下さい」


夕張「! 私も、グスッ、明石さんに呼ばれて詳しい事は分からないんですけど、うう……。提督が、グズッ翔鶴さんに撃たれたらしいんです」


加古「は?あの馬鹿はなにやってんのよ!?」


不知火「……そんな訳ありません。きっと明石さんの笑えないドッキリか何かに決まっています」


夕張「でもっ!私が着いた時にはもう、執務室は血の雨で……。翔鶴さんも呆然と立ってて……。私も信じたくないですけど……」


不知火「……私はこのまま戻ります。後の事はお願いします」


榛名「榛名も行きます!」


不知火「駄目です!司令が今まで何の為にこんな目にあってきたと思っているんです!」キッ


榛名「でも!」


金剛「榛名、後の事はワタシ達に任せて下サイ。提督ならきっと大丈夫ですカラ」


榛名「でも榛名は……。……分かりました。榛名はここで提督の無事を祈っています」


不知火「では不知火は提督の所へ向かいます」タタッ


夕張「待って!この前の執務室の模様替えの時に、ここから執務室まで直通で行ける通路を作ったの。今、私が通ってきたのがその通路です!近道ですからどうぞ!」ガコッ


不知火「……後でたっぷりと提督に怒られて下さい。私は先を急ぎます」タタタタッ



利根「筑摩!」


筑摩「利根姉さん、今は忙しいので後に――」


利根「おぬしの事じゃ。金剛の様に、筑摩も提督を殺そうと企んでいたんじゃろ?」


金剛「!?」


筑摩「……利根姉さんには隠し事なんて出来ませんね」


利根「これでもお前の姉じゃからの。……良いか?提督には山程返さねばならんモノがあるんじゃろ?」


筑摩「……ええ」


利根「ならばここであやつを助けて、恩の1つや2つでも売っておけ。多少の足しにはなるじゃろ」


筑摩「姉さん、不謹慎ですよ?」


利根「不謹慎でも何でも良いのじゃ。こうでもせねば返せる"充て"なんぞ無いじゃろ!分かったらはよ行かんか!不知火の奴に手柄を全部取られてしまうぞ!」


筑摩「……ふふ、利根姉さんは本当に不器用ですね。では手遅れになる前に行ってきますね」タタタタッ


金剛「ワタシ達も続きますヨ!」


比叡・霧島「はい!」





                      ∇





不知火(嘘です。きっとこれは、明石さんが考えた笑えない冗談か何かに決まってるんです。執務室に戻れば、司令はいつものように、あの朗らかで優しい笑顔を見せながら不知火の事を迎えてくれるはずです)



ゴゴゴゴ… ガコッ



不知火(……だから、これは嘘……なんです……。執務室の至る所に……飛び散っている……この赤黒いモノも、あそこで呆然と立っている……翔鶴さんの服に……へばりついている……どす黒いモノも……きっと、司令の……司令の血なんかじゃなくて…………司令の……血……………)



不知火「……今になってようやく、あなたの気持ちが分かったような気がします」


翔鶴「……ふふ、そう。それは良かった。でもね?私はこうして無事に本懐を遂げる事が出来たわ」


不知火「そうですか。では、これからあなたには、司令の所へ行って頂いて詫びの言葉を入れてきて貰います」


翔鶴「うふ……。詫びに行きたくても、当の本人はもう助からないですよ?残念でしたね」


不知火「だからこそです。一足早くあの世に出向いて、司令に真実を教えて貰って来て下さい。そして自分の犯した過ちを悔い続けて下さい」ガション!


翔鶴「ふふ……。うふふふっ」


不知火「自分の不明と愚かさを恥じながら…………」キュイイイン


筑摩「駄目です!不知火さん!」バッ!



不知火「沈めっ!」ドガガガガガッ!




翔鶴「……うふふ、どうやら外れてしまったようですよ?」



筑摩「ふぅっ!なんとか間に合いましたね」ググッ



不知火「ああああああっ!!離しなさいっ!離せ!邪魔をするな!私は殺すっ!あいつは殺すっ!私が殺すっ!絶対に殺すっ!殺すんだっ!」



筑摩「落ち着いて下さい!」グググッ


金剛「そうデス!提督はまだ死んだと決まった訳ではありまセン!」ガシッ


不知火「死……?なにを……言っているんですか……?金剛さんにはこの血塗れの部屋が見えないんですか……?司令は艦娘では無いんです。人間なんですよ……?入渠したって元には戻らないんです!それでもそんな事が言えるんですか!?」


金剛「……可能性は0ではないはずデス」


不知火「やっぱり艦娘は頭がおかしいんだ……。大本営の言う通り、危険な奴等はあの時に沈めていれば良かったんだ!あいつもっ!筑摩も金剛も比叡も霧島も青葉もっ!司令に辛く当たってたここの艦娘達もみんなっ!司令からの恩を恩とも思わずっ!仇で返そうとするような奴等は全員、沈めていれば良かったんだっ!」



筑摩・金剛・比叡・霧島・青葉「……」



不知火「司令が艦娘なんかに優しくしなければ、人として扱ってなかったらこんな事にはならなかった!艦娘なんかいなければ司令は死ななかった!艦娘がいたからっ!艦娘がっ!艦娘さえ…………。……うぅ、うあああ……ああ……!」ガクッ


加古「不知火……」


不知火「司令………不知火は秘書艦失格です……。司令がこんな危険な目に合っていた時に、不知火は司令の側に居てあげる事さえも出来ませんでした……。……ごめんなさい……ごめんなさい…………」ヘナッ…



筑摩「……念の為に縛っておきましょう。また暴れられても困ります」


加古「あたしがやるよ……」シュルッ




翔鶴「ふふ、うふふふ……」


金剛「これは翔鶴にも真実を教えておいた方が良いデスヨネ?」


夕張「……そうですね。こうなってしまった以上は仕方が無いと思います」



金剛「翔鶴。良いデスカ?今から言う事は嘘でも冗談でもありまセン」


翔鶴「……何がです?」


金剛「瑞鶴は無事デス。生きていたんデス」


翔鶴「……ふ。何を言っているんですか?ふざけた事を言っているとあなたも撃ち抜きますよ?ここまで来たらもう、1人も2人も関係無いですからね……」


夕張「本当だよ……。今、瑞鶴さんに繋いでるから。瑞鶴さん、聞こえますか?」




瑞鶴『聞こえるよ』



翔鶴「え……?」


瑞鶴『翔鶴姉?そこにいるの……?』


翔鶴「その声……?うそ……」


瑞鶴『翔鶴姉?』


翔鶴「本当に、瑞鶴なの……?」


瑞鶴『そうだよ。色々と事情があって内緒にしてたけど、私は無事だったんだ。翔鶴姉、今まで黙っててごめんなさい!』


翔鶴「そんなっ!良いの!瑞鶴が無事でいてくれたなら私はそれで……っ!瑞鶴っ……!良かった……。ちゃんと元気にしてるのよね?」


瑞鶴『元気だよ!外出が限られてるのはちょっとあれだけど、皆と一緒だしね!榛名さんは優しいし、利根さんは見てて全然飽きないし、古鷹さんは少しだけ口うるさい時もあるけど、身の回りのお世話をしてくれるんだ。衣笠さんも毎日、元気にはしゃいでるしね!』


翔鶴「そう、そうだったのね!瑞鶴が楽しそうだと私も嬉しいわ」



瑞鶴『それでね?私達がこうして生きていられるのも提督さんのお陰なんだ』


翔鶴「……なにを言っているの?提督はあなた達を殺そうと……!」


瑞鶴『違う!それは違うの……。提督さんは私達を助けようとしてたんだよ!今までこうやって、私達の事をずっと匿ってくれてたのも提督さんなんだから!』


翔鶴「そんな訳……」


瑞鶴『信じられないかもしれないけど本当の事だよ。翔鶴姉とこうして話せてる事が何よりの証拠でしょ?』


翔鶴「で、でも吹雪ちゃんだって……」


瑞鶴『吹雪もここにいるよ。ほら!』



吹雪『……翔鶴さん?』



翔鶴「吹雪ちゃん!?吹雪ちゃんも無事だったのね?」


吹雪『はい!元気にしてますよ」


翔鶴「それじゃあ瑞鶴の言ってる事は本当に……?」


瑞鶴『これで信じてくれた?』


翔鶴「え、ええ」


吹雪『……それで、その、司令官は今どうしてますか?』


翔鶴「提督?」


吹雪『はい。なんだか司令官が翔鶴さんに撃たれた、なんて聞いたもので。そんな訳無いですよね?』


翔鶴「提督なら今……え?あれ……?……あっ……そんな……!?」


瑞鶴『……翔鶴姉。提督さんはどこにいるの?』


翔鶴「提督は私が撃った……」


瑞鶴『!?』


翔鶴「提督は瑞鶴を殺したから」


瑞鶴『なに言って……。それは違うって分かったでしょ?』


翔鶴「でも瑞鶴は無事だった。助けたから。提督が?吹雪ちゃんも……?」


瑞鶴『だからさっきからそう言ってるでしょ!?翔鶴姉!提督さんに代わってよ!』


翔鶴「じゃあ私は、なんで提督を撃ったの……?あ、あ……。ああああああああ!!」


金剛「!? しっかりしなさい!翔鶴!」


夕張「瑞鶴さんごめん!また後でかけ直すね!」


瑞鶴『ちょっ!待っ―』ピッ



翔鶴「私は殺した!提督を!瑞鶴を殺したから!瑞鶴はいる!嬉しい!提督はいない!私がっ!私が殺したから!なんで!?」ガクガク


筑摩「金剛さん!そっちを抑えて下さい!」ガシッ


金剛「分かっていマス!」


加古「翔鶴さん!深呼吸して!今は何も考えずにゆっくり呼吸するんだ!」



翔鶴「仇!瑞鶴の仇!瑞鶴は無事!提督は仇じゃない!提督が悪い!憎いっ!私は何をした!ここで!撃った!私はっ!私が!提督の!心臓を!あああああっ!!?…………あっ」プツッ ガクッ…


加古「なっ!?」


金剛「翔鶴!?翔鶴!しっかりしなサイ!」ユサユサ!


霧島「金剛お姉さま、翔鶴さんは大丈夫でしょう。現実を受け止められずにいた翔鶴さんの脳が、自己防衛を働かせて無理矢理に気絶させただけだと思われます」


金剛「……確かに息はしていマスネ」


霧島「このままだと目覚めた時に何をしでかすか分かりません。翔鶴さんも縛っておきましょう」シュル…




金剛「とりあえずは落ち着きましたカ……」


比叡「……」


金剛「比叡?どうかしましたカ?」


比叡「……これが、司令を信じないで恩を仇で返した罰なんでしょうか?」


金剛「……」


加古「今更うだうだ言っても何も変わらないよ。今は提督の無事だけを考えてれば良いんだって」


比叡「……そう、ですね」


金剛「……」



青葉「皆さん!医務室の近くに居合わせていた艦娘達と連絡が取れました!」


金剛「!」


筑摩「提督は無事なんですか!?」


青葉「ちょっと待って下さい。その子達からの言葉をそのままお伝えますから。ええ、お待たせ致しました!ではどうぞ!」



青葉「提督は現在、左胸を撃たれて意識不明……との事です。それで……え……?そんな……」


筑摩「青葉さん!?何て言っているんです!」


青葉「自発呼吸は無し……。脈も無いそうです……。いつ亡くなってもおかしく無い重篤な状態で、面会謝絶。運ばれてきた時には既に、助かる見込みはほとんど無いと診断されていたみたいです……」


金剛「え?」ガクッ


筑摩「そんな……」トスン…


加古「なんでこんな……。折角、本当の事を知れたのに……。こんな、こんな事ってないよ……」


比叡「ごめんなさい!ごめんなさい司令!ごめんなさいごめんなさい!」


霧島「……」


夕張「嘘……。嫌だよ、こんなお別れなんて嫌……」




不知火「…………司令」





                     ∇





霧島「比叡お姉さま、落ち着きましたか?」


比叡「……うん。ごめんね、霧島」


霧島「いえ、大丈夫です。それで他の皆さんは……」チラッ


加古「……今は何もする気が起きないけど、あたしゃ大丈夫だよ」


夕張「私も大丈夫、な方だと思う……」


霧島「問題は金剛お姉さま達の方ですね」



不知火「……………」ブツブツブツ


金剛「うぅぅ!提督ゥ……!提督ゥ……!!」ボロボロ


筑摩「……」ボーッ


翔鶴「」


青葉「すみません、すみません!違うんです、青葉はこんな結末を望んだ訳じゃ無いんです……」



霧島「提督、都合の良い事を言っているのは重々承知していますが、金剛お姉さま達の為にも、どうか無事でいて下さい……」


加古「……なにそれ?それって提督の事はどうでも良いって事?それじゃあんまりにも提督が可哀想でしょ。都合が良いどころか、自分が最低な事を言ってるって自覚はあんの?」


霧島「! すみません……」


比叡「……今は祈りましょう。私達にはそれしか出来ませんから」


霧島「はい……」


夕張「提督……!提督……!」ギュッ!




明石「翔鶴さ~ん?翔鶴さんは居ますかー?」ガチャー




比叡「明石さん?」


明石「あれ?皆さん、お揃いだったんですね。それで翔鶴さぬぇ!?翔鶴さん!?翔鶴さん!?」ペチペチ


霧島「翔鶴さんなら大丈夫です。気絶してるだけですから」


明石「気絶……ですか?拘束までされてて何事かと思いましたよ。私が医務室に連れていきましょうか?」


加古「……翔鶴さんなら放っておきなよ。自業自得だからね」


明石「おおう……。なにやら穏やかでは無いご様子ですね」


夕張「明石、何しに来たの?茶化しに来たんなら私、流石に許せないかも……」


明石「ち、違いますよ。ちょっと翔鶴さんに話があったんですけど。……ここでは色々とまずいですかね?」


夕張「……秘密ならもうバレたみたいよ」


明石「へ……?皆に、ですか?」


霧島「いえ、私を含めここにいる方々のみです」


明石「えぇ……?一体どうしてそんな事に?……ん?という事は翔鶴さんにもバレたという事ですか?」


霧島「はい。それで自分の犯した罪に耐え切れず、気絶してしまったみたいです」


明石「オゥ……。では翔鶴さんを始め、皆さんには提督を狙う意思はもう無い、と言う事ですね?」


霧島「はい。翔鶴さんもあの様子を見る限り、その可能性は無いでしょう」


明石「ふむふむ、なるほどなるほど……」



加古「……明石。悪いんだけど今は話す気力も無いし、何かをする気にもなれないんだ……。だからそっとしておいてくれない?」


明石「そっとしておきたいのは山々なのですが、この状況ではそうも言ってられないみたいなんですよね。すみませんが、少しだけ付き合って貰えませんか?」


加古「……それって提督に関わる事なの?」


明石「関わるというよりは、その提督本人の事ですね」


加古「……分かった。行くよ」


明石「では行きましょうか。と言っても翔鶴さんやあそこで力無く俯いている方々を放置していくのはちょっと危険ですかね?」


加古「一緒に連れてけば良いでしょ。ほら!筑摩さん、行くよ!」


筑摩「……え?どこに……ですか?」ボーッ


加古「今は黙って付いてきて!」



比叡「では私は金剛お姉さまを……。よいしょっ、と」


金剛「提督ゥ……。提督ゥ……」グスッ…グズッ…


霧島「私は翔鶴さんですね。ふんっ!」ガシッ


翔鶴「」グテー


夕張「不知火さん?大丈夫ですか?拘束は解きますけど暴れないで下さいね?」シュルッ


不知火「………………」ブツブツブツ



明石「残った青葉さんは私が。青葉さん?行きますよ~」


青葉「違うんです!青葉が言った楽にするって意味はこういう事じゃ無かったんです」


明石「ご託は後で聞きますよ。では皆さん、付いてきて下さいね~。こっちですよー」





 ―医務室奥の小部屋前―



明石「良いですか?この部屋に提督が居ますが、今は絶対安静で――」


不知火「!? 司令!!」ガチャッ


夕張「あ、ちょっと!?駄目ですってば!」





提督「おい、明石。お前は扉も静かに開けれんのか」




不知火「え……?」



提督「って不知火だったか。どうした?そんなに慌てて」


不知火「……司令?ご無事、だったんですか……?」


提督「無事も何も明石から聞いてないのか?」


不知火「……司令。良かった……。良かったよぉ!司令、司令、司令、司令!!」ギューッ


提督「お、おい。……なぁ、明石。不知火達にはちゃんと話して来たんだよな?」


明石「いえ、なんだかややこしい事になってて面倒臭かったので、とりあえず先に連れてきちゃいました!」テヘペロ


提督「あ、かわいい。じゃなくて!しっかり説明して来いとあれほど言っておいただろ!」


明石「仕方無いじゃないですかぁ。不測の事態だったんですよぉ」


提督「はぁ……。明石らしいっちゃらしいが……」



不知火「司令……!」ギューッ


提督「……不知火。また心配掛けさせちゃったみたいだな。でも俺はこの通り、ピンピンしてるから、な?」


不知火「心配なんかしていません。ただ、今日はもう司令の側を離れませんから……」ギューッ


提督「今日1日か。それはそれでちょっと困るな……」



夕張「提督!」ギューッ


提督「! ああ、夕張も来てたのか。お前も知らされてなかったのか?」


夕張「そうだよ。明石ったら酷いよね~?」


明石「あの状況で話してたら絶対ややこしい事になってましたもん。皆さんだってきっと信じてくれなかったでしょうし、仕方無かったんです」


提督「さっきは面倒とか言って無かったっけか?」


夕張「別に良いじゃん。提督はこうして無事だったんだからさ。えへへ」ギューッ


提督「まぁそうだけど……」



加古「提督!私もいるからね!」ギュッ


提督「お、おぉ……?なんだなんだ?加古も随分甘えたさんになったみたいだな」


加古「そうだよ!私は甘えん坊なんだから!もっと甘やかしてよ!」


提督「……んぅ?」



金剛「提督ゥ……。無事だったんデスネ……」


提督「え?ああ、まぁな」


比叡「司令!私、ずっと祈ってました!司令はきっと無事なんだって!」


提督「……んん?」


霧島「……提督、安心しました」


提督「そ、そうか」


青葉「良かったですっ!司令官が無事で青葉、本当に……!神様、ありがとうございます!」


提督「……なんなんだ、これは」


筑摩「提督……。私にはそんな資格なんて無いですけれど、お願いします。今だけはこうさせて下さい」ギュウッ…



提督「……明石」


明石「はい!何でしょう?」


提督「……もしかしてこれは、秘密が漏れたという事か?」


明石「みたいですね!」


提督「おいおい、嘘だろ……。あれからまだ1年しか経ってないんだぞ?それなのにもうこれだけの人数にバレたのか?どうすんだよ、これ!?」


加古「バレちゃったもんは仕方無いって!今度からは私達も協力出来るんだからさ。きっと今までよりも上手く隠せるって!」


提督「いや、まぁ前向きに考えればそれはそうなんだけど……。あああ!やっぱ駄目だ!この調子でいったら大本営に伝わるのだって時間の問題じゃないか!こうなったらあれか?あいつらには我慢してもらって、もっと遠方の所で匿うか……?いや、目の届く範囲で無いとそれはそれで――」ブツブツブツ


夕張「提督!今はみんな無事なの!こうして提督も生きてたんだから、もっと喜ぼうよ!」


提督「しかしだな……」チラッ


不知火「司令……。もう離しませんから……」ギューッ


提督「……まぁ、良いか」サスサス



明石「はい!めでたしめでたし、ですね!」


提督「いや、めでたくはないけどな。……ん?……は?あれ翔鶴か?おい!翔鶴!?大丈夫か!おい!」


明石「ああ。翔鶴さんは気絶してるだけみたいですよ」


提督「気絶してるだけって……。とにかくその拘束を解いて診て貰って来なさい」


明石「まぁ、そうなるな」キリッ





                     ∇



明石「翔鶴さんは今のところは問題無いみたいです。隣の部屋でぐっすり寝てますよ」


提督「ああ。助かったよ、明石」


明石「いえ、私は運んだだけですから」



比叡「あの~。それでどうして司令は無事だったんですか?翔鶴さんに撃たれたんですよね?」


提督「ああ、俺も目覚めて直ぐに聞かされたからいまいち分かってないんだよなぁ。明石、説明頼めるか?」


明石「お安いご用です!では皆さん、提督の胸元を見てみて下さい」


夕張「胸元……?…………ぁ///。 て、提督って着痩せするタイプなんだね。その、素敵だと思います///」


明石「違いますよ!見て欲しいのは提督の胸じゃなくて、提督の胸元にあるペンダントです!」


加古「ペンダント?ああ、本当だね。ぐちゃぐちゃになってて分かんなかったよ」


明石「褒めてあげて下さい!その子が提督の命を救ってくれたんですから」


比叡「そうは言ってもこれ、ただのペンダントですよね?」


明石「ちっちっちぃ。良いですか?簡単に言うとこのペンダントは、超高性能なエアバックみたいなものなんです。このペンダントの一定範囲内で強い衝撃波を感知すると、衝撃を吸収しつつ、その一部を提督の心臓部に送り込んで、一時的にその機能をストップさせるんです。いわゆる仮死状態って言うヤツですね!」


夕張「じゃあこの騒動は明石のイタズラが原因だったって事?」


明石「ちょっ!人聞きの悪い事は言わないで下さいよ。ここの鎮守府には提督の命を虎視眈々と狙う艦娘達が一杯いるんですよ?」



筑摩・金剛・比叡・霧島「……」



明石「そんな艦娘達が無傷の提督を見て、追撃しないハズが無いじゃないですか。このペンダントも2度目は防げませんしね」


加古「ん?じゃあ執務室の血痕と血溜まりも?」


明石「はい!もちろんあれは提督の血なんかじゃなくて血糊ですからね?衝撃を感知した瞬間に、圧縮した血糊を噴出させるよう設定しておきました。しかもあの血糊、時間経過と共に赤黒くなるように調整したんですよ。どうでした?そっくりだったでしょ?」


青葉「青葉でも気付けませんでした……」


明石「そこは大分拘りましたからね。試行錯誤の連続で苦労しましたよ。それもこれも、全ては提督を守る為ですからね。手抜きは許されません!」


夕張「もうっ!私には話してくれても良かったんじゃない?」


明石「敵を騙すにはまず味方から。提督には嫌と言うほどそのお手本を見せられてきましたからね。でもまさか提督が、本当に四六時中、このペンダントを身に付けてくれていたとは思いませんでしたよ」


提督「何を言う。こうして命を救って貰ったのは勿論の事だが、あの時の明石の言葉と思いやりの心も、俺にとっては同じ様にありがたかったんだ。このペンダントはこうして潰れてしまったが、俺の大切な宝物だという事は今でも変わりはない。これからも大事にさせてもらうよ」


明石「て、提督ぅ……」キュゥゥン…


夕張「ちょっと!私の前でイチャつくのは止めてよ!」


明石「あ、はい。すみません。普段の扱いからは想像も出来ないくらいに優しい言葉を頂けたので、思わずキュンキュンしてしまいました」


提督「まぁ、そういう訳だから皆ももう心配はしなくても良いぞ」


明石「何言ってるんですか!故意とは言え、仮死状態になっていたのは事実なんですよ。暫くは安静にしていて下さい」


提督「本当になんとも無いんだがな……」


明石「絶対に駄目ですからね?」



加古「はぁ……。そういう事だったんだ。ホント、ハラハラしたよ」


明石「すみません。仮死状態から目覚めさせるのに手間取っていたので、皆さんに伝えるのが大分遅くなってしまいました。提督の無事を確かめてからも色々としてましたから……」


加古「責めてる訳じゃないよ。むしろ感謝してるもん!ただホッとしたってだけ。何はともあれ提督が無事で本当に良かったよ!」


夕張「ですね!」



金剛「あの、提督……」


提督「ん?どうした?」


金剛「今までの事を全部、ワタシに償わせて欲しいのデス……」


提督「……償いとかそういうのは考えなくて良いって。俺はお前達に、大切な姉妹達を沈められたと思わせてきたんだ。怨まれても当然の事だろ」


筑摩「いいえ、それは違います。私達は提督から数えきれない程の恩を受けてきました。その恩すら忘れて、自分の復讐心を満たす為だけに仇を取ろうと躍起になっていたのです。一生涯を掛けてでも、この償いはしなければいけません」


提督「一生涯って……。流石に重いから。それに俺は俺のしたいようにしただけなんだ。お前達に恨みなんてこれっぽっちも抱いていない。それなのにどうやってお前達に罰を下せと言うんだ?」


金剛「ダメなんデス、提督……。こうでもしないとワタシは、とてもじゃないデスが次の一歩に踏み出せる気がしないのデス……」


提督「……金剛」



比叡「……私からもお願いします。犯した過ちは償う。子供でもしている事です。どうか私達に、罪を償う機会を与えて頂けませんか?」


霧島「どんな罰でも甘んじて受けます。既に覚悟は出来ていますので」


提督「……はぁ。どうせ何を言ったってお前達は聞かないんだろ?」


金剛「ありがとう……ございマス……」


提督「ただしこれは、今のお前達には辛い罰になるかもしれん。それでも良いのか?」


筑摩「構いません。これは罰なのですから。辛くて当たり前です」


提督「……分かったよ。良いか?お前達に下す罰は――」





                    ∇





提督「不知火、皆はもう帰ったぞ?お前も自室に戻ってゆっくり休んだらどうだ?」


不知火「今日はもう離れません」ギュッ


提督「その"今日"は既に終わってるぞ。ほれ、日付はとっくの昔に替わってるだろ」


不知火「不知火は今、今日は離れない、と言ったんです」


提督「oh……。今から丸1日って事か……」


不知火「……」ギュッ


提督「しかしそんな所じゃ体も休まんだろ?俺はもう大丈夫だから、な?」


不知火「嫌です」ギュー


提督「やっぱりお前も頑固じゃないか……。分かったよ。ほら、こっちにおいで?」ポンポン


不知火「?」


提督「椅子に座ったままじゃ疲れも取れないだろ?俺の隣で横になるだけでも大分違うだろうからな」


不知火「私はここで問題ありません。司令はそのベッドでゆっくり寝ていて下さい」


提督「前にも言ったはずだろ?不知火が倒れたら誰が俺を守ってくれるんだ、って」


不知火「!……そうでした。不知火とした事が同じ過ちを繰り返してしまうところでした」


提督「分かれば良いんだよ。ほら」ポンポン


不知火「それではお言葉に甘えて……」モゾモゾ


提督「それじゃ落ちちゃうだろ。もっとこっちに来ても良いぞ?」


不知火「では」ガシッ ギューッ


提督「……それは極端過ぎるだろ」


不知火「不知火に何か落ち度でも?」ギューッ


提督「はぁ……。皆には言うなよ?艦娘と同衾したなんて知られれば、ただでさえ危うい俺の立場がさらに大変な事になってしまうからな」


不知火「不知火は口も堅いので問題は……ありません」


提督「も、って頭が堅い事も自分で自覚してるんじゃないか」


不知火「誘導尋問は……狡いですよ……」


提督「お前が勝手に自爆しただけだろ」


不知火「不知火は……自爆なんてしません……。不知火には……司令を守る……という責務があるので……」ウトウト


提督「……不知火も疲れたろ。今日はもう寝なさい」


不知火「いえ……司令が寝付くまでは……不知火は…………寝ま…………」…スー スー


提督「よく頑張ったな。お疲れさま、不知火」ナデナデ


不知火「……司令」スー スー



提督「……もう入ってきても良いぞ」



ガチャ



翔鶴「気付いていたんですね……」


提督「磨りガラスからお前の白髪が見え隠れしていたぞ。お前らしくも無い凡ミスだな」


翔鶴「提督!この度における無礼の数々、申し訳ございませんでしたっ!」ズサッ!


提督「ちょっ!ばっ!止めろ!声を立てるんじゃない。しーっだ、しーっ」チラッ


不知火「……んぅ……?」スー スー


提督「……ふぅ。お前と不知火を会わせるにはまだ早い気がするからな。俺じゃ不知火は止められん」


翔鶴「すみません……」


提督「それと土下座は止めろ。こっちが居た堪れない気持ちになってくる」


翔鶴「はい……」スッ


提督「……金剛達にも言ったが、その件はもう良いんだよ。俺にもお前達の気持ちは充分に分かる。謝罪なんてしなくて良いし、感謝するなら明石に言っておけ。俺がこうして無事でいられるのも明石のお陰なんだから」


翔鶴「明石さんには既にお礼を言わせて頂きました。私が目覚めた際に、それまでに起こった出来事を教えて頂いたので……」


提督「そうか。なら良いんだ」


翔鶴「良くはありません……。明石さんのペンダントが無ければ、私は確実に提督を殺していたんです。この咎は、例え私が死んだとしてもそう簡単に消えるモノではありません」


提督「……じゃあ言わせて貰うぞ」


翔鶴「はい。どんな叱咤、叱責でも受ける所存です」


提督「……お前はもう少し、生ある者達に対して尊重する心を養っていくべきだと俺は思っている」


翔鶴「はい……」


提督「良いか?それは俺の事だけではないからな?他の艦娘達やお前の身近にいる人達、広く言ってしまえば動物や植物だってそうだ」


翔鶴「はい……」


提督「何よりも俺は、お前自身の事を言っているんだ」


翔鶴「……え?」


提督「これは結果論に過ぎないが、あの時に俺が死んでいれば多分、お前には廃棄処分命令が下っていたはずだ」


翔鶴「そう……でしょうね」


提督「……俺はお前のそういうところが心配なんだよ。頼むから自分自身の事をもっと大切にしてくれ」


翔鶴「! はい……!はい……!」ポロポロ


提督「これは結果論に過ぎないが、お前が廃棄されていれば、お前が瑞鶴と出会える日は二度と訪れなかったんだ」


翔鶴「はい。その通りです……」ポロポロ




提督「……よし、説教はこれで終わりだ。その様子を見れば、俺が言いたい事は伝わってくれたと思うからな。じゃあ次は俺が謝る番だ」


翔鶴「え?」


提督「お前達に相談もせず、あまつさえ、瑞鶴達が沈んだと嘯き、匿っていた事。申し訳なかったと思う」スッ


翔鶴「そんな!どうか頭をおあげ下さい。提督は私達の為に色々と考えて動いて下さっていたんです。どうしてそれを私が責められるでしょうか……!」


提督「前にも言った事だが、俺はあの時の判断が間違っていたとは思わないし、後悔もしていない」


翔鶴「はい……。あの時に仰っていた提督の気持ち、今なら痛い程に理解出来ます……」


提督「しかし、翔鶴達に辛い思いをさせてしまっていた事も事実。お前達から大切な姉妹を取り上げ続けていたこの1年という長い月日は、俺では取り戻せない。だが、俺に出来得る限りの範囲で、瑞鶴達と会える機会を増やしていこうと思っている。本当にすまなかった。この通りだ」スッ


翔鶴「っ……。う……うう……!ああ、あああ…………、ああ……うあああっ!」


提督「…………」



 ~数分後~



翔鶴「お見苦しいところをお見せしてしまってすみません」


提督「いや、構わないよ。それより早く瑞鶴に会ってきてやれ。事情は話しておいたとはいえ、恐らく心配で寝て無いだろうからな」


翔鶴「はい……。ご配慮頂きありがとうございます」


提督「そうだ。どうやら明石達が執務室に隠し扉を作っていたらしくてな?今の時間ならば他の艦娘に見つかる事も無いだろうし、お前だって早く瑞鶴に会いたいだろ?明石に使い方を聞いて、そこから向かったらどうだ」


翔鶴「はい。ではお言葉に甘えて使わせて頂きます。使い方は既に明石さんから教わりましたので」


提督「ん。瑞鶴にも宜しく伝えておいてくれ」


翔鶴「……」


提督「……?」



翔鶴「……提督、今までに受けてきた数知れないご恩と今回の寛大なる温情、それに私が犯してしまった過ちは、私の残りの歳月の全てを以てして、必ず償っていきます」


提督「……」


翔鶴「それではまた後で……」



ガチャ パタン……



提督「……うちの艦娘達は1か0かしか出来ないのか?」


不知火「……」スー スー


提督「ま、皆が無事だったんだ。今はそれで良しとしよう。な?不知火」ポンポン


不知火「……んぅ」スー スー





                   ◇



 ~数ヵ月後~



コンコンコン



提督「入れ」



ガチャ



黒潮「失礼するで。今日からここで世話になる事になった陽炎型駆逐艦の黒潮や。よろしゅうな~」


提督「ああ、宜しくな。しかし不知火から聞いてはいたが、随分と気さくな奴が来たな」


黒潮「それはこっちのセリフや!不知火から聞いてるで~?司令はんの方こそ、この堅物の不知火を骨抜きに」


不知火「黒潮。それ以上余計な事を話せば、着任早々にここで沈む事になりますよ」


黒潮「おー、こわっ。まぁ、ええわ。今のやり取りでここがどれだけ居心地良い場所かは理解出来たわ」


提督「新天地へ来て浮かれるのはいいが、戦場では気を抜くなよ?一瞬の油断が命取りになるんだからな」


黒潮「誰にモノを言うてるんや!ウチは百戦錬磨の黒潮やで?油断のゆの字も出さんから安心しとき!」


提督「ふむ、流石は不知火の姉妹艦と言うべきか。頼もしいな」


黒潮「そやろ?」


提督「では早速そのお手並み拝見、といきたい所だが、今日1日はゆっくり体を休めていてくれ。なんなら不知火にここの案内をさせようか?」


不知火「それは出来ません。不知火は司令の側を離れませんので」


黒潮「……何や。思ってた事の数倍はラブラブやな……」


提督「いや、これには深い事情があってな。まぁ気にしないでくれ」


黒潮「ま、ええわ。適当にぶらついてここの雰囲気に――」



ガチャ



筑摩・金剛・比叡・霧島「……」ツカツカツカ


黒潮「なんやなんや?ノックもせんとけったいなやっちゃらやな!?」



筑摩「……」ブンッ バッサァ!


黒潮「……へ?」


提督「報告書か……。わざわざすまないな」


筑摩「そう思うのならご自分で受け取りに来られたらいかがです?」


提督「……そうだな」



比叡「司令、そんな所でボーッとしていられると金剛お姉さまが通れません。邪魔です」ジロッ


霧島「……そこを退いて下さい」ドンッ


提督「っ!……すまん」


金剛「皆が必死に戦っている時に、楽しくお喋りデスカ?いいご身分デスネ?」


提督「話はもうすぐ終わる。話がが終わり次第、執務にも取り掛かるよ」


金剛「だったら早く用を済ませて働いて下サイ。私達は既にこれだけの戦果を挙げたんデスヨ!」ドンッ


提督「ああ、後でチェックしておく。助かるよ」



比叡「金剛お姉さま、もう用は済みました。行きましょう」


霧島「こんな所に居ては、私達にまで卑怯者の根性が移ってしまいます」


金剛「そうダネ……。hey、筑摩!この後、何か一緒に食べに行きませんカ?」


筑摩「気分転換にもなって良いですね。ご一緒させて頂きます。では行きましょうか」


金剛「比叡と霧島も行くヨ!」


比叡・霧島「はい。金剛お姉さま」



筑摩・金剛・比叡・霧島「……」ゾロゾロゾロ



黒潮「」


提督「……今ので察してくれたとは思うが、俺はここの艦娘達に相当嫌われている。とはいえ、艦娘達がああなるのは俺の前だけだから安心してくれ」


黒潮「ハイ。承知シマシタ」


提督「あいつらの面倒見の良さは、ここの艦娘の中でも相当に良い部類に入るはずだ。困った事があれば相談すると良い。勿論、俺や不知火に聞いてくれても構わないからな?」


黒潮「ハイ。有リ難イデス」


提督「先程も言ったように、今日1日の黒潮の予定はフリーにしてある。しかし、今日の20:00からお前の紹介も兼ねた歓迎会を行うらしいから、その時間帯は空けておいてくれ」


黒潮「ハイ。了解シマシタ」


提督「よし。では明日からは戦場で思う存分に暴れてくれ。君のこれからの働きに俺も期待している。以上だ。下がって良いぞ」


黒潮「ハイ。失礼シマシタ」



ガチャ パタン



提督「……黒潮の奴は大丈夫なのか?」


不知火「大丈夫です。黒潮はお調子者ですから、あれくらいのインパクトで出鼻を挫いておいた方が大人しくなって扱いやすいです。どうせ直ぐにうるさくなるでしょうから」


提督「そうなのか?まぁ、お前が言うんだから大丈夫なんだろうな」


不知火「何も問題はありません」


提督「どれ。それじゃあ筑摩の報告書でも拾って、執務の続きでもしますかー」スッ


不知火「それよりもそろそろ騒がしいのが来ますよ」


提督「ん?何がだ?」



ガチャッ!



金剛「提督ゥーーーッ!さっきはソーリーネー!」ガバッ!


提督「お、おい!そんな大声出して他の奴等に聞かれたらどうするんだ!?」


霧島「いえ、大丈夫です。明石さんに作って頂いたこの、赤外線熱探知機に反応はありませんから」


提督「明石は何作ってんだよ!?」


比叡「思ってません!司令が邪魔だなんて私はこれっぽっちも思っていませんから!」ギューッ


提督「わ、分かった。分かったから!」


筑摩「これは私が拾います。いえ、拾わせて下さい」サッ! サッ!


提督「……ああ。もう、好きにしてくれ」



金剛「誰も居ないような時を見計らって来たのデスが、まさか新人が来ていたとは思いませんデシタ……」


霧島「今度からは赤外線熱探知機で調べてから執務室に入る事にしましょう」


提督「お前ら、気付いてるか?ここは敵地じゃ無いんだぞ……?」


比叡「司令は邪魔なんかじゃないですから! ね?ね!?」


提督「わ、分かったって」


筑摩「提督、拾い終わりました。では改めて。雑務報告書です。お受け取り下さい♪」


提督「お、おう……」



不知火「……司令はお疲れの様です。今日はもうお引き取り願います」


金剛「what!?ム~……。名残惜しいデスが、提督の身が一番デス!比叡、霧島!今日は帰りマスヨ!」


比叡「司令!また来ますから!後でまた膝枕しましょうね!」


霧島「では失礼しま……。比叡お姉さま?その膝枕の話、詳しく聞かせて頂きたいのですが」


筑摩「お疲れだったのですね、これは気付きませんでした。では今日の夕食は精の付く物でも作る事にしましょう。それでは私もこの辺で失礼しますね」


提督「ああ。また後でな」



ガチャ パタン



提督「はぁ……。なんだか更にややこしい事になってしまったな」


不知火「恨むならあの時の司令を恨んで下さい」


提督「良い罰を考えたと思ったんだがな……」





 ~医務室での回想シーン~



提督「……分かったよ。良いか?お前達に下す罰は、これまで通り、俺に嫌悪感を持って接する事。それがお前達に与える罰だ」


金剛「え……?」


提督「出来ないか?」


筑摩「……それは、提督に対する私達の態度が急変してしまう事によって、他の事情を知らない艦娘達に疑問を持たれないようにする為、という事なのでしょうか?」


提督「そうだ」


筑摩「つまり皆さんの前では提督に辛く当たれ、そういう事ですね?」


提督「簡単に言えばそうなる」


筑摩「そうですか……。分かりました。この罰、慎んでお受け致します」


金剛「……これが罰だと言うのなら、ワタシに断る言葉はありまセン」


霧島「私も同感です」



比叡「……私はいやです」


金剛「比叡?」


比叡「嫌です……。司令に、これ以上酷い事はしたくないんです……」


提督「無理にとは言わない。そもそも俺は、お前達に罰など必要ないと思っているんだからな」


比叡「……」


金剛「比叡、良く聞きなサイ。提督も筑摩もこう言ったはずデスヨ? "皆の前では"、と」


提督「……ん?俺はそんな事言ってないぞ」


筑摩「そうです。辛く当たってしまった分、皆さんの居ない所で提督に尽くして差し上げればどうでしょうか?」


提督「いや、だから言ってないって」


霧島「比叡お姉さま。提督に当たりたくない気持ちは分かります。しかし、これを乗り越えなければ、いつまで経っても提督に甘え続ける事になってしまいますよ?」


比叡「……そうですね。これは罰、なんですから……。分かりました!これからは、表では辛く当たって、裏では私の全力で司令を甘やかす事にします!」


提督「甘やかすって……。目的が大分ズレてきてるぞ……」





 ~回想シーン終了~



提督「やっぱ、あの甘やかすどうのこうのって所が悪かったのか?もう少しキツく言っておくべきだったか……」


不知火「司令は意外と流されやすいですから。その悪癖は直した方が良いですよ」


提督「まぁ、過ぎた事でとやかく言っても仕方無いか。しかし、あいつらの情け深さに参ってるのも事実なんだよなぁ」


不知火「? どういう事です?」


提督「いや、筑摩がさっき言ってたろ?夕飯がどうのって」


不知火「それがなにか?」


提督「夕飯時に仕事を一旦切り上げて自室に戻るだろ?そうするとな、筑摩が待ってるんだよ。夕飯を持って」


不知火「!?」


提督「比叡も隙あらば、膝枕をさせて欲しいと嘆願しにやって来るんだ。あいつに頼まれると何故だか知らんが、庇護欲を掻き立てられてな?どうにも断りにくいんだよ」


不知火「……」


提督「一番の問題は金剛だ。背中を流すとか言って風呂場で全裸待機していた時は、流石に寿命が縮まるかと思ったぞ……」


不知火「!!?」


提督「あいつらには霧島を見習って欲しいもんだ。霧島だけだからな。大した動きも無く大人しくしてるのは」


不知火「……やはり筑摩さん達は敵だったみたいですね」


提督「いや、今は味方だろ。というかずっと味方だぞ」


不知火「いえ、敵です。そういう訳なので不知火は今日から、司令の部屋にお世話になる事になりました」


提督「どういう訳だよ」


不知火「不束者ですが、どうか宜しくお願いします」ツツ…


提督「三つ指突くのは止めろって……」







                       終わる


後書き

後日談も考えているのですが、ここに書いてしまうと10万文字を微妙に超えてしまうと思うので、新しく作ってそっちで書き始めようと思います
良かったらそちらも見て頂けると嬉しいです

最後に、書き始めてから3週間弱になってしまいましたが、見続けて頂いた方、また、ここまで見て頂いた方に感謝します。とても励みになりました。ありがとうございます


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1: 一飛曹 2020-07-04 23:18:22 ID: S:tlqVkt

更新待ってますね!

2: キジトラ 2020-07-05 17:02:15 ID: S:vyYzhJ

コメントありがとうございます

遅くとも2日に一度は更新していくので、良かったら読んで頂けると嬉しいです

3: レブロン 2020-07-06 22:13:29 ID: S:0iu5la

提督 何を隠してるのか
めっちゃ気になる!
更新頑張ってくださいね!! 応援します!

4: キジトラ 2020-07-07 23:06:03 ID: S:4AzP3Q

コメントありがとうございます

出来るだけ楽しんでもらえるように頑張ります

5: SS好きの名無しさん 2020-07-12 00:28:29 ID: S:egkuY_

轟沈したフリをして秘密の医療施設に
行ったのかな?
深海棲艦は本当は居なかったとか?
それを大本営に知られると不味いから
翔鶴達に真相を話さない?


6: キジトラ 2020-07-12 06:52:27 ID: S:dD3a-i

コメントありがとうございます

ネタバレになるので詳しくは言えませんが、ここの提督にはそんなコネクションも何かを変えれる力も無いです
大した真相ではありませんが、引き続き読んで頂けると幸いです

7: 蒼天 2020-07-12 21:45:27 ID: S:YLZS2W

胸が痛いし、だんだんツラくなってくる。
それでも読まずにはいられないのはあなたのss文章力の高さのおかげでしょう。
更新を待っています。
頑張ってください。

8: キジトラ 2020-07-13 21:53:42 ID: S:lKYyLV

コメントありがとうございます

そんなことを言われたのは初めてなので少し照れ臭いですが、素直に嬉しく思います。ありがとうございます
この調子でいけば今週末辺りには終えられると思うので、それまでお付き合い下さると嬉しいです

9: SS好きの名無しさん 2020-07-14 23:18:45 ID: S:b71Jbq

心にくるSSをありがとう!
続き楽しみに待ってます!

10: SS好きの名無しさん 2020-07-14 23:39:43 ID: S:UVHX96

めっちゃくちゃ面白いです!

11: キジトラ 2020-07-15 21:32:13 ID: S:8VvXJF

>>9さん

コメントありがとうございます
もう終盤に入っていますので、もう少しの間、お付き合い頂けると嬉しいです

>>10さん

コメントありがとうございます
少しでも楽しんで頂けるように頑張ります

12: 頭が高いオジギ草 2020-07-18 21:05:04 ID: S:LOgjIx

ハッピーエンドで良かったぁ…
理解不足な艦娘が一方的に提督を虐げる話は苦手なので躊躇しましたが、不知火がいい感じでいてくれたので最後まで読めました。
終わりのドタバタに白髪正規空母がいなかったのが…後日談に期待。
そして、違った意味での「艦娘殺しの提督」の気配が…w
投稿ペースも程好い感じで、良いテンポの良作を楽しめました。
ありがとうございました。

13: キジトラ 2020-07-20 20:41:07 ID: S:CVuA0Y

コメントありがとうございます

こういう愉悦物って加害側にある程度の動機が無いと、一気に胸糞になっちゃいますもんね
必要以上に辛く当たると虐めみたいになりますし、皆さんに不快な思いをさせないか不安でした

最後まで読んで頂いてありがとうございました


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