2021-06-17 06:37:44 更新

概要

ブリーズと遊びたかった

注意

二次創作にありがちな色々
ちんちくりんのドクター





思い切りもよく振られるナイフの軌跡


身体を捻り、紙一重にそれを躱したブリーズが、手にした杖を大きく振りかぶった

ガンっと、先端が床を叩き、その衝撃に手を痺れさせている内に、二人の距離がまた開く


「さすがね、ブリーズ。私と本気で喧嘩できるオペレーターの名は伊達じゃないのよ」

「おほほっ。その不名誉な称号も今日で返上してやりますわ、ドクターさん」


ナイフを構え直すドクターに応じるように、ブリーズも杖を握りしめた


じりじりと、鍔迫り合いのように互いの間合いを拗らせて

いつものように、口火をきったドクターが、たっと飛び込んでいく


三者三様十人十色。飛び交う応援にアドバイス、はては叱責までをも抱き込んで

いつしか出来た人だかりは、二人を囲むようにして事の成り行きを見守っていた



あるいは、餅つきのように見えたかもしれない


一進一退。白熱しているといえば聞こえは良いが、実際は泥仕合

攻め手を欠いた攻防が続く内に、先にドクターの体力が切れ始め

後を追うように、杖を振り上げるブリーズの動きも鈍くなっていった


二人が餅をつく度に「ほっ…」と、プリュムの口から吐息が漏れる


飛び出しかけては足を止め、伸ばした手を慌てて引っ込める

ブリーズが杖を振り下ろす度に目を背けると

恐る恐る開いた瞳に、元気なドクターを映しては息を吐いていた


その様は、フェンの目から見ても挙動不審でしかなく

「ブリーズっ、ドクターに怪我させたらおこるからねっ!」「無茶言わないでくさいませっ!」

などと、隣で理不尽な要求をしているカーディが余程 健全に見えるくらいだった


「やんちゃざかりで結構ではないですか?」

「え、あ、いや、でも…ドクターが怪我でもしたら…」


そんなフェンのフォローも、プリュムの耳に届くことはなく

ドクターとの間で視線彷徨わせては、何かに付けて体をゆらしていた


意外と過保護だなと、思いもすれど笑うことはなく、その気持自体は分からなくもない


「はぁ…体を動かしてるんです。怪我くらいするでしょうに」


ただ、まぁ…


それでも呆れてしまうのは、普段とのギャップが余りにもあるせいか

過保護だなんだと、いつもは私のほうが言われるくらいなのに

いざ、自分の手が届かなくなると、そうまで狼狽えていることに気づいているのだろうか


「ああっ、また…そんな強引に踏み込んだら…」


ナイフが弾かれ、ドクターがたたらを踏む

杖が床を叩き、飛び退いたドクターとの間に隙間が出来る


繰り返しの度に、びくっと肩を震わせるプリュムは見てて面白くはあるのだが


「そんなに気になるのなら、あなたが手ほどきでもして上げればいいでしょう?」


飽きっぽいドクターが、どこまで続くかは疑問だが

プリュムの言う事なら多少は、少なくともドーベルマン教官が言うよりは やる気にもなるはず


「いけません。中途半端に自信なんか持たれても危険なだけですから」

「…過保護な」


気持ちはわかるが、言わずにもいられない


「過保護だなんてっ。これも護衛としての…」

「分かりました、分かりました。私としてはどっちでも、ドクターが良いなら何も問題はありません」

「むぅ…まったく過保護だなんて。そういうのはあなたの役目でしょうに」


何も言うまい、お手上げで降参だ

あくまでも仕事と言い張るプリュムにどういっても平行線だろうし、それを曲げるほどの理由は私になく

私だって、プリュムがそうしていなければ、その立場を変わっていたかもしれないのだから



「ぜーはぁ…ぜぇぇ…はー」

「ひぃ…ひぃ…」


元気よく続いていた攻防も最初だけ


からん…と、響いた音。ドクターの手からナイフがこぼれ落ちたのを合図にして

ブリーズの方も力なく、震える身体を杖を頼りにして立っているのがやっとなっていた



ここまでか…


ドーベルマン教官が「止め」の声を掛けると同時に、二人が膝を付き

それを合図に、人だかりも散っていった






「だからね、プラチナお姉さん。弓を貸してちょうだい?」

「だからって…何が「だから」なんだか」


ちょこんっと、手を伸ばしてきたドクターを前にして、プラチナは小さく溜息をつく


剣もダメなら槍もダメ


恵まれない体格で間合いを補おうと言うなら、自然と飛び道具に頼るのは分かるけど


自分の長弓と、ドクターの身長を見比べる


良くて同じか、悪ければ弓の方が長いくらい

ドクターに貸すのが嫌とは言わないけど、これを貸した所で扱いきれるとも思えない


「…まぁ、いいよ」


ただ、言うほど逡巡もしなかった


強いて言うなら、表情を変えないことに苦労をしたくらいで

押し込めた下心が、尻尾を揺らしてしまうのを 見咎められないかが不安ではあったけど


「お…おおぅ…。意外と、重いぃのね…これ」

「そりゃね…軽いと思った?」

「だって あなた、軽々と使ってるじゃない…」


案の定


弓を持つのもやっとといった具合で、でかいハープを打ち立てている様にさえ見える

細い指で弦をつまみ、なんとか持ち手を捕まえるのが精一杯

その先から弦を引こうものなら、まずまず手の長さも足りてない


「ふぅんぅぅ…にぃぃぃ…っ!」


ドクターが力を込めて弓を引こうとして…引けずにいる


私の弓は、まるで機嫌でも損ねたようにドクターの意を返さず

そのうち、損ねた機嫌の向くままに、ドクターを弾き飛ばしてしまいそうな気配もあった


気の利かない弓だこと


私の弓なら、素直にドクターに引かせてくれてもいいものを

なんて、私の弓だからこそか。そんな素直な訳もなく、むしろ私の意を最大に汲んだ結果かもしれなかった


「むふぅ…」


頬がふやける


だって可愛いもの…


その姿が見たかったんだ


小さな胸を一杯にして、藻掻くドクターの姿が愛おしい



「もう、諦めたら? 別にアンタが戦う必要なんてないでしょ?」


ドクターがむずがるのも構わずに、後ろから ぎゅっと抱きしめる

それで? だからって、手取り足取り手伝うなんてするわけもなく

ただふやけた頬を撫で付けるように、ドクターの肌にこすりつけるだけ


「そりゃ、そんな事になったらそもそも詰みだもの。チェックメイトなのだわ」

「じゃあ、どうして?」


言ってくれれば、何でもやってあげるのに、若干の不満を唇に乗せつつ

頬ずりのついでに、ドクターの顔を覗き込んだ


「ブリーズを驚かせようかなって。こてんぱんにしてやるのよ」


何ていうか、ただの負けず嫌いだった


「負けて嬉しい人なんていないでしょう?」

「まあ、そうだけど…」


言われてしまえばその通り

もし、そこに幼さを感じてしまっているのなら、私は自分で思っている以上に撚てしまってるんだろう


「よしよーし」


ドクターの頭を撫でくりまわす


ふにふにの体を抱きしめながら、頬ずりを繰り返していると

心がほわっと軽くなり、私の撚てしまった心も自然と解れていくみたいだった


「もうっ。子供扱いしないでって」

「してない、してない」

「絶対ウソ…」

「むふぅ…」


ただ可愛がってるだけなんだけどな、信じては貰えないみたいだけど

それでも逃げ出さないのは諦めっていうより、それなりに懐かれてるからだと思いたい


その期待に応えるためにだとか…


まぁ、少しはお姉さんらしくしてみようって、下心はもちろんあった



ようは道具の問題だ


私の弓では役不足で、もう少し扱いやすいものがいい

そういうのが得意で、それでいてドクターのことが大好きなやつがいればなおいいと


「ヴァーミル。アンタちょっとこっち来なさい」


その辺にいた彼女をひっ捕まえて、ぶつくさ言う前に手伝わせる事にした



ふみょんっ


弓にしては頼りなく、楽器にするにはみすぼらしい音だった


それにしたって、さっきよりは全然マシで

狩猟用の短弓は、小柄なドクターの体格にはちょうど良くもある


ただ…


「いやダメだろ、これは…」

「まあ、そうよね…」


何回か弓を引かせていたヴァーミルも諦めの姿勢を見せていた

分かってはいたし、ヴァーミルの結論もきっと私と同じはず


ふみょんっ


頼りない弓の音が続いている


けれど、そんなんじゃ全然足りてない


それじゃ、弓は真っ直ぐには飛ばないし

そもそも、矢を番えようものならそれだけで一杯一杯なのは目に見える


「弓を引かせる前に、筋トレが先なんじゃないか?」

「あら、そんなのダメよ。あんなに ふにふに して柔っこいのに、余計な筋肉をつけるだなんて とんでもないと思わない?」

「いや、思わないな。むしろ、柔すぎて不安になるんだが…」

「分かってないわね…」

「分かってくれよ…」


平行線に背中を預け、互い違いに吐いた溜息

同じ様にドクターが好きなはずなのに、どうしてこうも違いあえるのか


ふみょんっ


でも、そんなことはどうだっていい

頼りないその音を聞いてるだけで顔がにやけてくる


ちっこい、可愛い、抱きしめたい


欲望が渦巻いて混ぜ合わさり、つま先から頭の天辺までも震えだすと

「ぷふっ…」と、堪らなくなったモノがプラチナの口先から吹き出してしまっていた


「わーらーうーなーっ!」


耳ざとく聞きつけたドクターが憤慨している

それも可愛い、それだけで可愛い、もうそのままでいて欲しい


堪らず、抱きすくめたドクターに噛まれ続けながら、プラチナの笑顔は深まっていくばかりだった




「やぁ、ヴァーミル。プラチナは今日も極まってるね」

「エクシアか…。なんだ、またドクターをからかいに来たのか?」

「そう睨まないでさ。今日はドクターにプレゼントを持ってきたんだから」

「プレゼントなぁ…」


しばらく、プラチナに戯れつかれるドクターを眺めていたヴァーミルが、チラリと エクシアに視線を移す


だが、いつも楽しそうにしているやつの顔色を伺った所で、今日も楽しそうにしているだけ

そのポーカーフェイスの中身も、プレゼントの中身にも何が入ってるか知れたもんじゃなかった


「また、変なもん渡して。プラチナに蹴られても知らないからな」

「さあ、それはどうかな? 今回はドクターにだって喜んでもらえると思うけど」

「ふーん…」


興味としてはその程度


またぞろ何か要らんことをしたとして、とっちめる役は勝手にプラチナがやってくれるだろ

仲良く喧嘩してる分にはそれでいいと それっきり、ヴァーミルの興味が手元の弓に移っていた


「おーい、ドクター。こっちおいでー」

「げぇ、エクシアぁ…」


エクシアの姿を認めた途端、あからさまに嫌そうな顔をしたドクター


「嫌そうな顔をする。あたしだって傷つくんだぞ」

「いっそズタボロになればいいのよ。ボロ雑巾がお似合いなのだわ」

「ひどっ!? そこまで言うことなくない? お姉さん悲しいよ、泣いちゃってもいいの?」

「良いわよ? 慰めたげはしないけど」

「…ヴァーミルさんや。ドクターが冷たいの…」

「知らん、自業自得だろ」

「うわぁ、ヴァーミルも冷たいや…プラチナは…いいや、もう目が怖いもん」


冷たい


その視線は命を奪ったことのあるやつ特有の鋭さでエクシアを睨めつけていた


「それで、私に何の用なのよ? 私はエクシアに用なんてないのだけど?」

「ほう? そんな事言って良いのかなぁ?」

「ふふっ。もったいぶる奴に限って、しょうもないことしかしないものよ?」

「ごもっともごもっとも。では素直にじゃーんっ!」


隠していた。というには隠しきれないサイズではある

ただ、背中に回してたソレをそれっぽく。ドクターに見せびらかすように掲げたのは


1丁のアサルトライフルだった


「オプションマシマシのフルカスタム。これでどんなプリティ・ガールも一端のガンマンって訳さ」

「…」


疑わしいと、視線でエクシアを一頻り眺めていたドクターが

それでも、抑えきれない興味に背中をおされながら、おずおずと口を開く


「でも…お高いんでしょう?」

「それはもちろん。でもでも、安心して? あたしドクターの中だもん。必要なものは「ありがとう」さ?」

「ありがとう? なによ、それ?」


キザったらしいと言うか、あまりにも嘘くさい

見え透いた下心に、ドクターじゃなくても怪訝な顔を浮かべてしまう


「『ありがとう、エクシアお姉ちゃん♪ 大好きっ!』そう、これっ。私が聞きたいのはこの言葉」


さあ、と。りぴーとあふたーみーと、差し出されたエクシアの手に返されたのは

無難な沈黙と、呆れを通り越して、不可解な現象に遭遇したドクターの視線


「ねぇ、プラチナ。エクシアが何か言ってる、未知の言語なのだわ」

「そうね、私にもわからないわ。ごめんなさいエクシア。ちょっと人の言葉で喋ってくれる?」

「ちょっと!? ちょいちょい私を異星人にしたがるよねっ、ドクターはっ!」

「だって、あなたが分らないことを言うのだもの」

「んなわけあるかいっ、ちゃんと人の言葉だよ。ヴァーミルは? ヴァーミルは分かってくれるでしょ?」


傍観を決め込んでいたヴァーミルが、面倒くさそうに息を吐いた後


「別にどうだっていい」


顔色すら変えず、どかっと床に座ったままエクシアには目もくれずに弓の調整を続けていた


「こらーっ、少しはドクター以外の人に興味を示せー」

「めんどくさい」

「頑なかっ! どうでもいいなら、少しは味方してよっ」


めげない、というか、ここまで無下にされてへこたれないのは流石だった

だからこそ、雑に扱われてもいるし

そもそも、ドクターに掛け続けていた ちょっかいが積み重なった結果でもある


「いいもーんっ。もう怒りましたー。ドクターには貸したげませーん」


持ってきたアサルトライフルを抱き枕の如く抱え込み

次の言葉は「およよ…」と、涙目を浮かべてしゃがみ込んだ


「はぁ…。すぐそうやって拗ねる。あなた、今年でいくつなのよ…大人げないのだわ」

「ドクターにだけは言われたくないよっ。年齢詐欺の権化じゃんっ!?」

「あらエクシア。レディに年齢の話をしては失礼なものよ?」

「それを言うかっ、その口でっ」


ただ、なんのかんの不思議と仲はいい


喧嘩友達にでも類するのか、口喧嘩を始めた二人をよそにして

プラチナは黙々と作業を続けていたヴァーミルの方へと足を向けていた


「どう? なんとかなりそう?」


弦の加減を調整してヴァーミルが、試しに何度も弾いてみるも

やはりか、ドクターに合わせるのは難しいらしく


「無理だな…。ドクターに合わせたら玩具にしかならん」

「そう…」


それならそれで、分かっていた話

エクシアがそうしたように弓でないなら銃で、そうじゃなくても別の何かを使えばいい


例えば


「ボウガンなんかは?」

「一発限りだろ…」

「可愛いわね」


「スリング?」

「明後日の方に飛んでいくだろうなぁ」

「ふふっ、可愛い」


「手榴弾」

「足元に転がるぞ…」

「それも可愛いわね」


「スナイパーライフル」

「スポッターでいいだろ…」

「そうね、私が欲しいくらい」


「ドローン?」

「やめろ。上から爆弾ばらまくぞ、絶対やるぞアイツは」

「ドクターの邪魔をするやつが悪いのよ」


一通り、それらしい飛び道具は並べてみても

当然、これっといった代案もなく、プラチナの不満は自ずとヴァーミルに向かっていた


「なによ、文句ばっかりね」

「クランタがお前らみたいなの ばっかりじゃないことを祈るよ」

「失礼な。フェンと一緒にしないで頂戴」

「何が違うんだ、なにが」


おかしな話


同じ様にドクターが好きなのは伝わるのに、どうしてこうも平行線が続くのか



「エクシアお姉ちゃん…。それ、ちょうだい?」

「うーん、あげちゃう♪」


上目遣いにエクシアを見上げ、ドクターは当然のように両手を広げていた

プレゼントが差し出されるとまるで疑わず、自分の愛らしさを盾にして笑顔を向ける


可愛いと、きっと誰もが思う笑顔を前に、一瞬息を飲んだエクシアだったが

すぐに顔をほころばせると、さっきまでの口喧嘩なんて忘却の彼方に追いやっていた



ちょろいな、こいつ…


分かっているのだろうか?


Thanks も Please だって、ドクターは一言も言っていないのに


ヴァーミルとプラチナが、どちらからでもなく顔を見合わせていた


サンクタの連中はあんなんばっかりなのかと視線を交わし

手っ取り早く思い浮かんだ、アンブリエルの横顔は…まあ、そうでもないことに安心していた





「良いかいドクター? 銃のストックをしっかり体に当ててね? いっそ抱き込むくらいで丁度いいと思うよ」

「思ったより重いのだけど…。これ、大丈夫なの?」

「平気さ。あんまり軽いと、ドクターの体が浮いてしまうからね」


準備はOK


一発目が装填され、安全装置も外される

トリガーには指先がかかり、ふらふらとしながらも的へと向けられる銃口


「さあっ! ドクターっ。後は度胸だっ、いってみようっ!」


びしっとエクシアが指先をたてて、ドクターを煽っていると


「あのぅ…ドクターこっちに来てますか…って!?」


ひょっこり、顔を覗かせたジェシカの顔が一気に青ざめていった


「お、ジェシカじゃん。良いところに来たね、今ドクターにさー」

「何をやってるんですかっエクシアさんっ。ドクターにそんなの渡したら!?」

「ほよ?」

「ドクターもっ! まってまってまってってーっ!?」

「案ずるより産むが易し、聞くは一時の恥、武士は食わねど高楊枝よ。ジェシー私いくわ」

「また分からないことを言うっ。待ってってんでしょうがっ、ばかドクター!」


ジェシカにしては珍しい罵倒


飛び出し、駆け出し、間に合わないと見るや「皆さん伏せてぇぇ!」 叫ぶと同時に頭を抱えて床に転がった


途端…


癇癪を起こしたライフルが、無軌道に弾をばら撒き出す

ドクターの制御のから離れたそれは、衝撃のままに銃口を跳ね上げて


ヒステリックな音を合図に、部屋が暗くなった


ぱらぱら、ぱりぱり、びりびりと


天井から飛び散った蛍光灯が、弾ける火花を照り返しながら落ちてくる


ぱらぱら、ぱりぱり、びりびりと


幻想的でロマンティックな光景ではあったけど

ガシャンと、大きな塊が一つ床を叩くと、誰もが肝を冷やさずに居られなかった



まるで台風一過


ものの数秒で銃声が止み、辺りに静けさは戻ったものの、周囲はさながら戦場跡の様にとっちらかっていた


「ド、ドクターっ!? 大丈夫ですかっ、怪我はっ!?」


慌てて立ち上がったジェシカが、尻もちを付いていたドクターの元に駆け寄っていく


「え、えぇ…平気よ。ちょっと、ビックリしただけ…だから。ええ、少しだけ…」


平気と言いながらも、どこか気の抜けた様子のまま

ドクターは小さな手で、ジェシカの服をぎゅっと捕まえていた


いっそ引っ叩いても良いんじゃないか


そんな事まで思っていたはずなのに


細い指先で、自分のことを捕まえてくるドクターを前にしたジェシカは、何も言えなくなってしまっていた

怒るも叱るもその前に、無事で良かったと、そればっかり胸の内に溢れてくる


甘いなって、また言われちゃうんだろうけど、でも…


「…よかった」


それが本心。その本心が求めるまま、ドクターの無事を確かめるように小さな体を抱きしめた




「おーけーおーけー。落ち着こうか、プラチナさんや」


尻もちを付き、後ずさりをしながら、弁明の機会を要求するエクシア

突きつけられた鏃の先は、おおよそ人を撃つには長大で、そんなものを人に使おうものなら

良くないことが怒るのは明白だった


「私は落ち着いているわ。最高にクールよ、貴女のおかげで肝が冷えたもの」


完全に目が座っている


後悔は死んでから、恨むなら自分の迂闊さをこそ

これでドクターが泣き出そうものなら、弓を番えたプラチナの指先は あっさりと違えてしまえることは確かだった


「いや、まさかさ? 私だって、ドクターがあんなに…」


エクシアが言葉を重ねるほどに、プラチナの凄みがましていく

問答無用と威圧感が積み重なり、尻すぼみになった二の句が後ろ足で蹴飛ばされていった


「あの子のせいにしないものよ?」

「はい、ごめんなさい。分かったから、その弓をおろしてくれないかい?」


降参、降参、両手を上げてごめんなさい


流れ出る冷や汗が頬を伝っていく

ごくり…飲み込んだ生唾に息苦しさを感じながらも、エクシアはプラチナの顔色を伺い続けていた


一瞬だった、ごく僅かといって良いt


プラチナの気配が揺らぐ


人が気を抜く瞬間、気を抜いたその直後

判断の切り替わりに出来る僅かな 間隙を見つけたエクシアは…


水を得た魚のようだった


まさに這々の体。「おたすけーっ」と冗談みたいな捨て台詞が耳障りに響く中

飛ぶ鳥を落とす勢いで放たれた矢は、僅かに出遅れてエクシアの影に突き刺さる


「ちぃっ! 追い詰めなさいヴァーミルっ!」

「なんでお前が めーれーしてるんだよ」


不本意なのを隠さない声


ドクターに言われるならまだしもと、ヴァーミルの視線がジェシカに介抱されているドクターに向いていた


1秒か、2秒か…


逃げ出したエクシアが出口にたどり着くまでの時間


「…まあ、そうだな」


プラチナの同類みたいになるのはゴメンだが

それでも、ドクターを脅かしたエクシアを、ただ放っておくのも面白くはない


「ヴァーミルまでっ、2対1なんて卑怯だぞっ!」

「2対1? バカを言うなよ。ロドスにドクターの味方がどれだけいると思ってるんだ?」

「どれだけって…」


いやな予感がする


廊下を駆け抜けたエクシアが、その角を曲がった瞬間だった


感じる殺気、影の落ちた視界


壁の様な威圧感に咄嗟に姿勢を下げ、滑り込むようにして潜り抜けた


「げぇぇ!? ここで、マトイマルかよっ!」

「見つけたぞっ! お前だな、ドクターをイジメたってのはっ」

「あんたらあたしを殺す気かぁぁぁっ!?」


抗議も虚しく、枯れた喉は呼吸でつまり、すぐに何も言えなくなる

それからしばらく、命からがらと涙目になったエクシアが縛に付き

アーミヤが収めるまで、皆から滅茶苦茶怒られていた







休みか…


そう言われても困る


何せやることがない


それならまだ、任務の一つでも入ってるほうがマシなくらいで

当面の訓練も消化してしまったヴァーミルは、文字通りの手持ち無沙汰だった


「…森にでも行ってみるか?」


理由は?


目に付いただけ

窓の向こう、そう遠くもない所に森が見える

何がいるかは分からないが、何かいたら良いなとは思う


ウサギの一匹でも見つかれば、ドクターも喜ぶかもしれんし


それがペットとしてなのか、食材としてなのかはイマイチ掴めないが

まぁ、なんのかんの喜んで食べそうな気はしていた


そうして、外出の手はずを整えた後


「ヴァーミル、お外に行くの? 私も行くっ」

「…ドクター?」


たたっと、調子よく駆けてきたドクターに見つかってしまっていた


「なによ? ダメなの?」

「ダメな訳じゃねーけど…」


めんどう、位には思ったかもしれない


流石にドクターをつれて、勝手の分からん森の中を歩くのも気が引ける

しかし、その気になっているドクターを前にして、やっぱやーめたともいいづらく


「俺から離れるんじゃねーぞ」

「うんっ」


にぱっと笑顔になったドクターが、なんの躊躇いもなく義手の方を捕まえてきた


「掴むならこっちにしてくれ」

「どうして?」

「デリケートなんだよ、色々とな…」


振り解くでもないが、なんとなくでも居心地が悪く

どうせならと、残った腕でドクターの手を捕まえ直す


「ふふっ。ヴァーミルと違って?」


クスクスと、笑いながらヴァーミルの手を抱きしめたドクター


その手は、柔らかくて温かかった


からかう様に見上げてくる笑顔がくすぐったくて

ヴァーミルは少しだけぶっきら棒に「うるせ」と口を尖らせていた





案の定か、いや予想以上だ


可愛らしくオレの手を捕まえていたのも最初だけ、森に着いて歩く内に

あっちへ ちょろちょろ、こっちへ きょろきょろ

何がそんなに珍しいものかと、思わず訪ねてしまうくらいだった


「分かってないのねヴァーミル」


いい? と、振り返ったドクターが、一つ指を立ててみせる


目が覚めた後、叩き起こされた後、ドクターが見たものといえば

廃墟、スラム、ビル群と、ロドスの艦内から広がる荒野

もちろんロドスにだって、そういった場所はあるけれど、それもあからさまな箱庭でしかない


そう言われれば、目の前に広がる 鬱陶しいまでの緑色が

輝いて見えるっていうのも、まぁ…分からんでもなかった


「ねぇねぇ、ヴァーミル。あっちには何があるのかしら?」

「森だろ?」

「じゃあ向こうは?」

「森だろーな」

「…じゃあ」

「そっちにも森しかねーぞ」

「なによ、森しか無いじゃない…」

「森に来てるからな」


とはいえ、持ち前の察しの良さが、現実を見限るのも また早い

好奇心も一息ついてくると、はしゃぎ疲れたのも手伝ってか、ドクターの足が鈍ってくる


「ねぇ、ヴァーミル。こんな所に何しに来たのよ?」


飽きたと、誰が聞いてもそう取れるほど、その声は不貞腐れていた


「別に、ウサギの一匹でもいねーかなって」

「ウサギ? アーミヤのこと?」

「アーミヤはこんな所にいねーだろ」

「ふふっ。そうね、今頃執務室に釘付けのはずよ」

「アイツも大変だよな…」

「真面目なのよ」


そう言って、思い浮かべた彼女の姿を眺めるように、振り返ったドクターは目を細めていた

その横顔は大人びて見えて、さっきまでの子供じみた言動が嘘みたい見えると同時に


「まるで自分は上手くサボったみたいじゃないか?」

「サボりだなんて。オペレーターとのコミュニケーションも私の仕事の一つなの」


にこっと、殊更に笑顔を向けてくる


「なんだ、仕事でオレと一緒にいるのか?」


子供みてーだな


意地の悪い言い方なのは分かっていても、仕事と言われたのが変に引っかかってしまった

言葉の綾、会話の流れ、いや、サボりの口実で、つまんねー冗談なのは分かるけど


「拗ねないで。そういう意味では無いのだから…。でも、そうね、たしかに言葉が不味かったわ」


2・3、言葉を選ぶように、視線を遊ばせるドクターを眺めていると

何か決まったのだろう、不意に重なった視線がちょいと逸らされた


「…好きな人と一緒に居たいって思うのは、いけないこと?」


いじらしいな


見つめていた視線を外して、恥ずかしさを隠すみたいに口元に手を当てる

少し体を揺らした後の 照れたような呟きは、分かっていても胸が弾んでしまう

そういうのをどこで覚えるのか、そっちの方に興味が向くくらいには完璧な仕草だった


「っ…そういうのはアーミヤにでも言ってやれ…」


緩みそうになる頬を隠すようにドクターの頭に手を置いて、遠慮もなしに くしゃくしゃと撫で回す


「ええ。卒倒しそうになってたわっ」


冗談のつもりがそうでもなかったようで

くすぐったそうにするドクターの笑顔からは、なんとなくでも その時の様子が伺える


「アーミヤのやつ、鼻、抑えてなかったか?」

「んー…どうだったかしらね? 顔隠して蹲ってたし? それがどうかしたの?」

「いや、別に。鼻血でも吹き出したんじゃねーかなって」

「あー…」

「おい…マジか?」

「ふふっ、内緒よ。アーミヤの沽券に関わるもの。想像にお任せするのだわ」


ほとんど答えのようではあったが

笑顔を浮かべる以上の答えがないのなら、どうしたってオレの想像にしかならないし

結局、ドクターがなんでオレなんかと一緒にいるのかも、有耶無耶にされたままだった





1つ、2つと、ドクターが足を戻すと、ヴァーミルの背中が遠のいていく


人の集中力なんてのは、そう長続きはしないものだ


気配を偽装しながら、その合間を縫って木々の影に紛れ込む


くすくす…


思わず漏れた笑みをごまかしながら、ひょっこりとヴァーミルの様子を盗み見た


まだ気づいてはないか


それでも時間の問題だし、早ければ次の瞬間にでも気づかれるかも


「かくれんぼよヴァーミル。ちゃんと私を見つけてね? 捕まえてくれなきゃ嫌なんだから」


来た道を引き返し、適当な所で藪を越える


単純な時間稼ぎを終えた所で、足取りも軽く、ドクターは自分の影を森の中に溶かしていった






「まいったな」


森の中で足を止めたヴァーミルが、ぐるりと当たりを見回していた

枝葉の影にその姿が見えないものかと、目を凝らして耳を済ませてみても

ついのさっきまで、一緒にいたはずのドクターの影は見当たらない


絶対に目を離さないで下さい


とは、プリュムの忠告だったか

大げさだとか、過保護だって、話半分にしておいたのを今になって後悔させられる


足跡を手繰り寄せながら、来た道を引き返す


それから、少しも立たない内にドクターの足跡自体は見つかった

少なくとも、此処まではオレと一緒にいたはずで、此処からが急に居なくなっている

ただ不自然に、不気味なくらいハッキリと消えた足跡


誘拐か?


自分の想像に冷たいものを感じるが、それにしては森の空気が静かすぎた


「そんなバカな…」


神隠し? 一瞬よぎった言葉に頭を振る

それならまだ、なんか良く分からんアーツの効果だとか考えたほうが有り得るくらいだ


手がかりを求めて更に道を辿る


オレよりも小さな足跡に、楽しげに歩いていた彼女の姿が重なって見えた

心配は不安に、不安が焦燥に、焦れる程に足が早くなるのを止められない


ロドスが停泊している近くの森


安全は、安全とはいえ、それでも野生の森だ

何があるかしれたものじゃないし、ましてドクターが一人で居ていい場所でもない


「…?」


ふと、足が止まる


感じたのは些細な違和感でしかなかった


枯れ葉や落ち葉、土の上に残った小さな足跡、それらが少しブレている

足場の悪さに滑らせたようにも思えたが、むしろ…後から重ねた歩いたほうが、よっぽどこうなるように見えた


ズレた足跡を数えて歩き、次の一歩が綺麗になる境


この辺か?


考えている通りなら多分


何を面白がったのか、ドクターが自分で足跡を偽装しながら道を戻ったとすれば


太い木の根


不自然に付着した土が点々と続き、向こうの藪草に踏まれた後を見つけた


「あいつは…」


良いハンターになりそうだ


オレでさえだまくらかすほどの気配の消し方は天性のもので、その上この小賢しさ

もし、あいつが俺を仕留める気でいるのなら…


「ああ、きっと撃たれているな…もう」


足跡の違和感に気づいて、此処で足を止めた瞬間に…狙われないわけがない

仮に気づかず通り過ぎても、後ろからズドンだ


「ドクターっ! いるのか?」


返事はない


木々に跳ね返ったオレの声も静まり返り、あざ笑うかのような森のざわめきだけが聞こえてくる


「あぁぁぁ…」


諦めるように大きく息を吐きだし、モヤモヤとした感情のまま頭を掻きむしる


唐突に始まったかくれんぼ。だからって、放っておくわけにもいかなかった

泣いて戻って来られても困るし、ほっといて拗ねられるのも それはそれで面倒くさい


なにより、ドクターの事が気がかりで堪らなかった


乗せられているな


無視をしてもいいが、オレが無視できないのも分かってやってやがる


仕方ないと、自分に言い訳をした所でドクターが心配なのには違いなく

怪我でもされる前に、さっさと追いついたほうが良さそうなのは確かだった





雑草、雑草、雑草、きのこ、毒キノコ、雑草…♪


カゴを覗き込んだブリーズは、乾いた笑いを止められなかった


「ちょっとドクターさん…草ばっかりじゃありませんの」

「え? だって、緑色の葉っぱを集めてるのでしょう? 似たようなものじゃない」

「大雑把に過ぎますわ…。それと、キノコは止めて。下手をすれば命に関わりますから」


どうして?


そこらに群生している薬草を摘ませただけなのに、綺麗にそれだけは避けられている


「なによっ。それじゃ私、草むしりをしただけじゃない。こんな森の草刈って徒労も良い所だわ、散々なのよ」

「おほほほっ、ご苦労さまですこと」


どさっと、カゴをひっくり返して雑草を地面にばら撒くと、ブリーズは改めて薬草を探して草の根を分け始めた



それは、あまりにも唐突だった


暇を見つけて、山菜とりにと山へ出かけていたブリーズだったが

藪をつついて出てきたのは、落ち葉だらけのドクターさんで

犬のおまわりさんはどこかしら? と、迷子の子猫に訪ねては見たものの


「逸れたわ」


悪びれるでもなく言われてしまい、引率していたヴァーミルさんの心労も察するに余りある


まぁ、彼女のことだ、その内に追いついては来るでしょうけど

それまで、ドクターさんの面倒を見なきゃいけないというのは、なんというか


「もう、めんどっちぃですわね」

「めんどっちぃってなによっ。ブリーズは私のこと嫌いなのっ!」


憤慨するドクターさんの肩に、諭すように手を置いて


「ドクターさん…。手のかかる妹が可愛いのも最初だけよ? 分かったらいい子にしてらして?」

「そうかしら? プラチナお姉さんは、私の言うこと何でも聞いてくれるわよ?」

「あの方は、そうでしょうけど…。知りませんわよ? あんまり甘えて火傷をしても」

「ふふっ。その時はブリーズに治してもらうわ。ゆーろじーってっ」

「嫌ですわ。それこそ めんどっちぃったら。そんな事より、暇なら手伝ってくださらない?」


そう言って、口を塞ぐ代わりにカゴを渡したまでは良かったが



「控えめに言って草ですわね」


結果はまあ…雑草だらけと、危ない毒キノコ

これ以上見てもいられず、空っぽにしたカゴの中にまた、ちまちまとつまんだ薬草を放り込んでいると


「ねぇ、ブリーズ。そんな草何に使うの?」


屈んでいた私の背中に ぴったりと、ドクターさんが体を寄せて覗き込んでくる


「何って? お薬にしたり、お料理にいれたり…」

「え…? ブリーズ…あなた、もしかして…」


そこにあったのは驚愕の表情だった


1歩、2歩と、後退り。いつの間にか、憐れむような視線が向けられている


「ドクターさん? いま何を考えているのか、当ててみましょうか?」


口の悪いドクターさんのことと、大体の予想は付きつつも、こっそりとカゴの中に手を忍ばせる


「いいわよ? 答え合わせをしてあげる。せーので言ってみましょうかっ」

「ええ、よくってよ」


『せーのっ』と、元気よく、口裏を合わせたその瞬間

ブリーズは、握りしめた草をドクターに投げつけていた


「哀れな没落…わふっ!? ぺっ…ぺふっ…ちょっ、もう草投げないでよ。お口に入ったじゃない」

「平気ですわよ、食べられますので。しっかり噛みしめなさい」


分かっていても、言われると腹は立つものだ


「それ以上は、いくら ドクターさんでも怒りますわよ?」


警告代わりの軽い報復に、ドクターの小さな肩が落ちる


「ごめんなさい、ブリーズ。でも、違うのよ、そうじゃなくって…私はただ…」

「お金にだって困ってませんわ?」

「…?」

「不思議そうな顔をならさらないでっ。私が間違ってるみたいじゃないっ!」


気まずそうにしていたドクターさんが、一転して不可解なものに遭遇したように私を見つめてくる


「だって、あなた…道草食ってるじゃないの…それがどうして、お金に困ってないなんて」

「別にお腹が空いてるから、集めてるわけじゃなくて…」

「良いのよ、皆まで言わないで。私がアーミヤからちょろまかしてやるんだから。大丈夫よ、きっと上手にしてみせるわ」

「ちょっと お待ちなさい。そして お止めなさい」


ええ、きっとそうなのでしょう


ドクターさんが そう言ったからには、上手い事やるのでしょうよ

そこは心配していないし、そんな心配なんかより


アーミヤさんに見当違いな気を使われる方が辛かった


この子と違って、100%の善意で気を遣われるのを想像するだけで居た堪れなくなる

「少ないですが…」とか「皆には内緒ですよ…」とか言われて、ポケットマネーを差し出された日には


「ドクターさんは、私を惨めにしてどうしようというの」

「もちろん、草を生やすのよっ」


散らばっていた草を抱え直したドクターさんが、ぱっと手を広げて周囲に投げ散らかした


これが、春先の淡い花びらや、秋の紅葉だったりすれば

「まぁ、綺麗っ」とか言えたかもしれませんが、所詮はただの草と たまに紛れる毒キノコ


ぱらぱらと…


降りかかる緑色が積もるほど憤りは重なっていき、軽く頭を振るうと、余計な草が頭から落ちていった


「しーずーくー…」


溜まった鬱憤は、思わず彼女の名前を滑らせて


「きゃーっ♪ グレースが怒ったわっ、逃げるのよ」

「お待ちなさいっ」


伸ばした手をすり抜け、一目散に駆け出した ドクターを追いかけて

ブリーズも、森の中へと突っ込んでいった





なにやってんでしょうね…


ドクターさんの相手をしていると、自分まで子供になってしまうみたいで

童心に返るといえばまだ聞こえは良いのでしょうけど、子供っぽいと見られるのは流石に気恥ずかしいかもしれない


藪の合間を器用に飛び跳ね、木の根を蹴ってどんどんと先へ逃げていくドクターさん

体力はないくせに、こういうことばっかりは得意でいて。体力はあるけれど、そういう事が苦手な私は

藪の中を強引に突っ切り、草だらけになりながらも、なんとか距離を詰めていく


藪を抜け、視界が晴れた途端


「ドクターさんっ!?」

「きゃっ!?」


慌てて、ドクターさんの手を引っ張った

間に合ったのは多分 運が良かっただけで、これからの事を思えばむしろ不幸なぐらい


唸り声が聞こえる


そりゃ森だもの、オオカミくらいいますわ…


しかし それでも、その方がまだ良かった


正気の失せた視線、爛々と輝く瞳、歪に肥大した体

不格好に据えられた機械が火花を散らし、歪な駆動音が不快感を重ねていく


「ドクターさん、お怪我は?」

「ええ…大丈夫よ。ありがとう、ブリーズ…けど…」

「大丈夫ですわ」


不安そうに瞳が揺れている

落ち着かせるように、ドクターさんの頭を撫でた後、庇うように前に立った


野良犬にしては少し物騒ですわね…


レユニオンの使っている猟犬

手負いとはいえ、それでも自分の手には有り余る相手に思える


「ブリーズ…勝てるの?」

「おほほっ。アレが、ドクターさんより弱いことを祈るしかありませんわ」

「分からないことを言わないで。逃げましょうよ…」

「そう、ですわね…」


引かれる手を握り返して、ゆっくりと後ずさる


手負いのせいか、残った野生の本能か

猟犬は、低い唸り声を上げたまま、飛びかかるでもなく私達との距離を保っている


じりじりと、ひりつくような緊張感の中

地面から足を離すのも忘れて、それでも1歩また1歩と、ドクターさんを庇いながら後ろへと下がっていく


「あ、あら…と、ととっ!?」


ふと、ブリーズの足が浮いた


ぎこちないばっかりの後退は、木の根に足をすくわれて

ぐらりと、傾いた体が尻餅をつくのを止められない


「ブリーズっ!? 何やってんのよっ!」

「いたたっ…」

「ほら、早く立って、走らないとっ!?」


ドクターさんが慌てている


手を引かれるまま、みっともなく立ち上がり

振り返った背中には、牙をむき出しにした猟犬が駆け出していた


「ひぃぃぃっ!? ドクターさんっ、ほら、急ぎますわよっ!?」

「分かってるわよそんなのっ。勝手にコケたのはブリーズじゃないのっ!」

「言ってる場合ですかっ。良いから走る!」


離さないようにと、ドクターさんの小さな手を強く握りしめる

だがそれも、少し走る内に間延びしていき、確かに引っ張られる感触に振り返ってみると


「ぜぇ…はぁ…ひぃひぃっ…ちょっ、ブリーズ…まってぇぇ…」

「ドクターさんっ!? あなたっ、さっきまでの元気はどこにやったのよっ」

「そんなのさっきで使っちゃったわよ。ブリーズが変に追いかけ回すからぁっ」

「ドクターさんのお口が悪いからでしょうにっ。まったくもうっ…」


だからって、口喧嘩なんてしてる場合ではもっとない


滲んだ汗に手が滑り、ヒヤリとさせられながらも、慌てて細い手首を捕まえ直す

それでも、開き始めた二人の距離は、ドクターさんの足をもつれさせ、付いてくるのも覚束なくなっていった


「はぁっはっ…っ。ブリーズ、いいからっ、その辺に…ヴァーミルいると思うから、だから」

「出来るわけ無いでしょうがっ。それならドクターさんが」

「もう走れないのよっ!」

「ああっ、もうっ! 捕まってなさいっ」

「え、あ、きゃっ!?」


力任せに手首を引き上げ、ドクターさんの体を強引に担ぎ上げた

痛がる声も分かるが、おんぶに抱っことしてる暇なんてあるわけもない


「だぁぁりゃァァァっ!!」

「まぁまぁ、ブリーズ。あんまり女の子が出していい声ではないわ」

「だまらっしゃい。誰のせいでこんなっ」

「良いのよっ、そんな事はっ。それより走ってっ、早く早く、もう来てるっ来てるからぁっ!」

「来てってっ…。いぃぃぃぃ!?」


振り返らなければ良かった


ドクターさんに急かされて、堪らず後ろを見てみれば


ガチンっ! と、きらめいた牙が空を切る


あわやと、お尻にでも噛みつかれてたんじゃないかと思うだけで、冷や汗が吹きしそうだった


「ちょっと! ちゃんと足元見てよっ、木の根が石っころがぁ」

「やかましい! 黙ってないと舌噛みますわよ」

「いっ…ぁぁぁ…っ」

「あぁぁぁもぅっ、いわんこっちゃない! ユーロジーっ!! って、置いてきたんですわあぁぁぁ!」

「い、いいから右に…。真っすぐ走ってばっかじゃ、アイツが走りやすいだけなんだからっ!」


言われるまま次の足を右に向ける


急な舵取りと、過積載で揺らいだ体勢をなんとか立て直し

片手で地面を叩きながらも、なんとか次の足を出して不格好でも先へと進んでいく


そのまま、ドクターさんの指示に従い、右へ左へ木の根を回り

来た道を戻ったかと思えば、また別の道へと駆け出して


そうしている内に、多少なりと猟犬との差は開いていたが


「はぁはぁっ…。ドクターさん、私も…そろそろ。なにか、ひぃはぁ…どうにかなりませんの?」


流石にキツイ


一人でならまだしも、火事場の馬鹿力もそろそろ底が見えてきた

かくなる上は、ドクターさんを放り出して、私一人で回れ右とも考えたが


「大丈夫…もう大丈夫だから。ヴァーミル!!」


ドクターさんが叫ぶと同時に「伏せろ!」と、鋭い声が飛ぶ


慌てて伏せた頭の上を、2つの風切り音が裂いていき

少し遅れて、どさっと、後ろで何かが崩れ落ちる音が聞こえてきていた



「はぁ…死ぬかと思いましたわ…」


冗談ではなく、マジで


今や疲れ切った足を投げ出して、お尻に根を生やしてしまっている

まあ、それでもとりあえず、二人とも無事だったなら まあ良いかって


「いいえ、まったく。まったく、良くありませんわね。ええ、本当に…」


何もボスキャラを相手にしようってんじゃない

あんな手負いの猟犬一匹に逃げ惑ってしまったのがもうヤバい


いや、武器をもってよーいドンで戦えればまだ違ったのかもしれないが

そんなもしもは、訓練以外で通用するはずもないし、訓練でさえ上手く出来てないのなら尚の事


泣きべそをかいたドクターさんが、ヴァーミルに慰められている


その姿に、悪いと思うのも、責任を感じるというのも何か違う気もしていた


「じゃあ…ありがとうって?」


口にしても感じる違和感


結果的に自分も助かったとはいえ、これもまあ あの子の自業自得と思えば素直な言葉は出てこない


「いたいいたいいたいっ!? ブリーズ、助けてブリーズっ!」

「はい?」


その悲鳴に顔を上げてみれば、ドクターさんが怒ったヴァーミルに頬を抓られていた


いじらしい抗議ですこと


ヴァーミルさんもあれでまあ甘い

私でしたら、あの横っ面をパチンとやってしまいそうですのに


「べーっ」


返事の代わりに、涙を浮かべ始めたドクターさんに舌を出して返す


そもそも、ヴァーミルさんのそばを勝手に離れたドクターさんが悪い

それ以上でもなければ、疲れた体を起こして私が助け舟を出す理由もなかった


「なによっ、ブリーズのバカっ!」

「バカはお前だ、バカは」

「いたいたいたいたいたいたいってっ! だいたい、私に逃げられたヴァーミルだってっ」

「…」

「あぁぁっ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ」


甘えたいのか、構って欲しいだけなのか

いえ、構って欲しいから甘えてるんでしょうけど


「ブリーズっ!」

「あー、はいはい…なんですの?」


逃げ出してきたドクターさんを抱きとめて、おざなりに頭を撫で付ける


「ヴァーミルが許してくれないのよ」

「自業自得でしょうが」

「それは…だって…でも…」

「ジェシカさんならいませんわよ?」

「うぐっ…」

「おほほほっ」


泳いだ視線に先回りをして、面倒見の良い彼女の名前を取り上げると

ドクターさんは、露骨に言葉をつまらせていた





「やりすぎたか…?」


指先に残るドクターの感触を見つめながら、ヴァーミルが一人息を吐いていた


だがしかし、悪いのはドクターだ

それは誰が見ても間違いはないはずなのに、やっぱりあの涙は卑怯だと思う


「あ、おかえりなさい、ヴァーミルさん。休暇は…あれ、疲れてますか?」


何度目かのため息の隙間に、気づけばアーミヤに顔を覗き込まれていた


「いや、そういうわけじゃ…」

「まぁまぁ、そう言わず。悩みなら聞きますよ?」


向けられる笑顔はとても優しくて

なんとなく? 思わずか? どっちにしろ滑るようにヴァーミルの口は動いていた


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ。まいどまいど うちの子がご面倒を…」


だが、返ってきたのは平謝りで、話してしまった自分の方が申し訳なくなりそうだった


「うちの子って…おまえ…」


その言葉はどこか、ドクターの口癖を思い起こさせた

オレだって言われたことくらいある「私のヴァーミル」だって

子供の拙い独占欲だと聞き流してもいたが、案外とコイツが原因じゃないかって思えてきた


「え? なにか?」


とうの本人はまるで気にした素振りも見せないし、当たり前のようにその言葉を使っているのが伺える


「いや、いい…」


やっぱり言わなければよかったか


無駄口を叩いた事に軽い後悔を覚えていると


「でも、大丈夫ですよ。ドクターだって、自分が悪いことは分かってますから、それでヴァーミルさんを嫌いになんてなったりはしません」


そこには、いつものアーミヤが立っていた

さっきまであんなに慌てていたのに、あんまりな落差にこっちの方が戸惑うくらい


「ほんとか?」

「はい」

「絶対だな?」

「もちろん」

「命かけるか?」

「い、命ですか? ま、まぁ…大丈夫です、掛けますともっ!」


一瞬だけ言葉がぶれる


それも少しだけ、すぐに気を取り直したアーミヤは ぽんっと胸を叩いて見せた


「ふーん」


まあ、元から疑っちゃいなかった


自信とか確信だとか、そういうのを通り越して

あんまりにも当然の様にいうもんだから、ちょっとだけ、少しからかってみたくなってしまっていた


でも…こいつ…


得意げなアーミヤを眺めていると、ドクターにからかわれて卒倒しかけた姿が重なって見えるみたいだった


「なぁ…。鼻血出したってマジか…?」

「ぷふっ!? ちょっまっ、ヴァーミルさん!? しーっ! しーっ!」


突然に吹き出したアーミヤが、ヴァーミルの口をふさいで隅に押し込んだ


「なんですかっ、そんな訳無いでしょう!? 私これでもロドスの…」


長い耳が跳ね回る、笑えるくらいに顔が赤くなっている

キョロキョロと人目を気にして、何度も辺りを伺っては振り返る


「…好きな人と一緒に居たいって思うのはいけないこと…だっけか?」


ボソリと…呟くように


オレが言ってもあんまり可愛くねーなと思いながらも

囁かれたヴァーミルの呟きが、過剰なまでに周囲を気にしていたアーミヤの耳に突き刺さる


「あーっ! あーっ! ダメですっ!? 止めてください、そんな事言ってはいけませんっ、思い出させないでぇ…」


耳をふさいで聞かないポーズ


何度も頭を振りながら、アーミヤは何かを振り払おうと必死になっていた


「いや、良いんじゃねーの? オレだってドキッとはしたし…」

「違いますっ、違うんですっ! ほら、あるじゃないですか、私にだってイメージってものが」

「イメージだぁ?」


などと言われた所で、ヴァーミルの頭に浮かんだアーミやのイメージは

ドクターの事が好きでしょうがない女の子のそれから逸脱することもなく


「そうですっ。優しくてしっかり者のCEO、しかも可愛い…みたい、な?」


ちらりと…


最後の最後で伺うように向けられた視線は むしろ頼りなく


「…」


あるか?


いや、可愛いは良いとして…優しくて、しっかり者の?

良くはやってるとは思うし、そりゃアーミヤのことは好きだけど…


「いや、まって、言わないで、言わなくていいです。今のはちょっと気の迷いというか、ケルシー先生がですね

 少しはドクターの事を見習えと、自信の持ち方と言うか、胸の張り方といいますか…ほら?」


「あの傍若無人のナルシストをか…」

「そうそれっ! …ん? いえいえいえっ、違います、言い過ぎですっ、もうちょっと可愛らしいです、ドクターはっ」

「…まあな」


もちろん悪く言えばだが


しかしそれでも、完全無欠の自己中なドクターの真似なんて、人の良いアーミヤが扱いきれるものでもないとは思う


「まあ、アーミヤは可愛いウサギさんでも良いんじぇねーの?」

「うっ…私って、そんなに威厳ありませんか?」

「別に…。ただ、上の連中が、ケルシーやドクターみたいなのばっかりだと纏まんねーだろ」

「あははは…悪い人では無いんですよ? ケルシー先生も…ただちょっと、言えないことが多い人っていうか…」

「いい。どうせオレにわっかんねーし。面倒事はドクターのだけで十分だ」

「あ、はい。ドクターには私からも言っておきますので…ドクターのこと…」

「ん、ヘーき。ほっとけねーし…どうせな…」


苦笑いかな


曖昧に笑うアーミヤにつられて、自然と溢れた笑みは きっとそんな所だったんだろう






「あら…」


からん…と、床に転がるナイフの音


軽くなった自分の手を、ドクターが不思議そうに眺めていると


「おほほ♪」


勝ち誇ったようにブリーズの笑い声が聞こえてくる


「まぁ…まぁまぁ。なんてこと、私がブリーズに負けたというの?」

「いいえ、違いますわ、間違ってらしてよドクターさん。私が、ドクターさんに勝ったんですの」

「詭弁ね…」


そうは言いつつも、負けた悔しさはあるのか、ドクターはつまらなそうに鼻を鳴らしていた


「一体どういう心境の変化なの? 真面目にトレーニングに励むだなんて?」

「いつまでもドクターさんと喧嘩はしていられないと、そう思っただけですわ」

「なにそれ…」


それが大人の意地なのか、言葉だけ聞けばつまんない話だと


いや、違うかな


寂しいのね…私は。せっかくの喧嘩友達だったのにって


猟犬に追いかけ回されたのが余程に懲りたのか

今度は ちゃんと庇えるようにとか、バカなことを考えてなければ良いのだけれど


「これで汚名も返上ですわね」

「いいえ違うわ。間違っているのよブリーズ」


高笑いをするブリーズに首を振り「エクシア」と、ドクターは小さく、それでもハッキリと彼女の名前を口にする


「ささっ、どうぞ…」


音もなく、黒子の様に現れるエクシア

丁寧に差し出された銃を受け取り、その感触を全身で確かめる


「…随分と素直ね」

「お友達が怖くってさぁ…」


ちらりと、エクシアの視線を追いかけると

プラチナお姉さんが、小さく手を振ってるのがみえた


「ふふっ。許して上げて。私のことが心配でたまらないのよ」

「分かってるともさ…。だから、頼むよほんと…後でプラチナに言っておいてくれない?」

「ええ、ええ。それは もちろん。素直なエクシアは大好きなのよ」


ガッシャンっ


レバーを引いて弾を込める


私の体格にはやっぱり大げさではあるんだけれど

どうせ狙いが付けられないなら、ハンドガンやら、アサルトライフルよりはよっぽど良いって


「だって、ジェシカが言うんだもの、きっとそうなのでしょうね」


向けた銃口の頼もしさに、その言葉の意味を噛み締めながら

ドクターは勝ち誇った笑みをブリーズに向けていた


「さ、さすがにそれは、レギュレーション違反でなくて?」

「武器の規定はなかったはずよ。それに、丁度いいハンデだと思わない?」


体格も、武器のリーチも負けているんだもの

たかだかショットガン一丁持ち出したくらいで、なんのもんか


「安心してペイント弾だから。それでも滅茶苦茶痛いとは思うけど」

「っ!?」


膝を付き、なるべく重心を下げた所で狙いをつける

どうせズレるんだし、まあ適当で、せめてと気持ち分銃口を下げた所で、引き金に指を添えた


1歩、2歩、ブリーズが後ずさり


何を思ったのか、耐えかねたように後ろを向くと全力で走り出す


「正しい判断ね…だけど。お尻がガラ空きだわ」


引き金を絞り込む


衝撃でひっくり返りそうになる体は、歯を食いしばって抑え込んだ


「いったぁぁぁぁぁっ!?」


それも、遅れて聞こえた悲鳴が私の胸を軽くして


ガシャン…


次の弾を送り込み、揚々と銃を構え直した


「さあ、ブリーズ。お尻ペンペンの時間よ、覚悟をすると良いのだわ」

「ドクターさんっ! あなたっ、後で覚えてなさいよっ」

「まあ、怖い。だったら今のうちよっ、やられる前にやるのだわ」

「ひぃぃぃぃぃっ!?」


それから弾切れまで、さんざんブリーズを追い回したあと


「あいたっ!?」


杖の先端がドクターの頭を小突いていた


「ちょっと、まってブリーズ。たんま、弾こめるまでまってて」

「待つわけがないでしょうが」

「あいたっ!?」


更にもう一度、続けざまにもう一つと、叩く度にだんだんと遠慮がなくなってくる


「もうっ! 待ってって言ってるのにっ、グレースのばかっ!」

「そっくりそのまま返しますわよ、バカしずく」


ブリーズが踏み込み、ドクターが後ずさる


重りになったショットガンを投げ捨てたドクターは一目散に、その後を追ってブリーズが駆け出した


「おまちなさいっ。お尻ペンペンの時間ですわっ!」

「また追いかけ回してっ、待つわけがないでしょうがっ!」


あっさりと、ひっくり返った盤面の上で、今度はドクターがブリーズに追いかけ回されていた



ーおしまいー



おまけの没シーン供養


アンブリエル「はーい、みんなー次の角で挟み撃ちね。それでダメならこっちまで追い込んで」

プラチナ  「意外ね。面倒くさがると思ったけど」

アンブリエル「そう? これでも面倒見は良いんだよ?」

プラチナ  「あの子の自業自得でも?」

アンブリエル「あははっ。自覚はあんだ?」

プラチナ  「それはそれよ」

アンブリエル「ま、逃げるのはナシでしょ?。ほら、くるよ…無駄弾はなしおーけー?」

プラチナ  「甘く見ないで…」

アンブリエル「はーい、いらっしゃい。ココで行き止まりだよ、エクシア?」




ドクター 「ねぇ、ヴァーミル。お腹すいた」

ヴァーミル「あ? んー…干し肉しかねーぞ?」

ドクター 「それでいいわ。良いんだけど…美味しいの?」

ヴァーミル「普通。ちゃんと噛めよ?」

ドクター 「うん…。バキっ!…ばりっ…ぼり…もっそもっしゃ…」

ヴァーミル「…」

ドクター 「ん? なぁに?」

ヴァーミル「いや、あんまり人に噛み付くんじゃねーぞって」

ドクター 「プラチナお姉さんにも?」

ヴァーミル「ん…アイツは良いや」

ドクター 「そう」



ドクター「あら、ブリーズ。何を作っているの?」

ブリーズ「草餅ですわ」

ドクター「草って…さっきのやつ? 結局食べるんじゃないの…」

ブリーズ「そりゃ、食べるために詰んできましたし」

ドクター「ねぇねぇ、ブリーズ。私の分もあるのかしら?」

ブリーズ「好き嫌い多いくせに、何でも食べますわよね、ドクターさんは」

ドクター「失礼ね、人を食いしん坊みたいに。育ち盛りなのっ、成長期と言ってちょうだい」


ブリーズ「…」


ドクター「不思議そうな顔をしないのっ。誰が ちんちくりんよっ!」

ブリーズ「何も言ってませんわ」

ドクター「顔が言ってたっ、書いてあったの」

ブリーズ「ま、否定はしませんけど。ではどうぞ、たんと食べて大きくなってくださいな」

ドクター「あー…ん…? っぅ…げぇぇぇ…にがぁぁぁ」

ブリーズ「おほほほほっ。ドクターさんには少し早かったかしら?」


ドクター「また変なの食べさせて。もうっ、何だって言うの、何が可笑しいっていうのよっ!」

ブリーズ「それが大人の味ってものですわ」

ドクター「こんな苦いの…。やせ我慢が大人のすることだっていうの?」

ブリーズ「好き嫌いだけじゃダメなのよ。大人ってやつは」



ドクター 「ヴァーミル、ヴァーミルっ」

ヴァーミル「あん? ドクター? なんだよ、仕事か?」

ドクター 「仕事ではないし。私を見る度仕事を重ねるのは止めてちょうだい。押し付けてるみたいじゃない」

ヴァーミル「ああ、わりぃ。そういうんじゃねーけど…」

ドクター 「この前だって言ったでしょう? 好きな人と一緒にいたいだけだって」

ヴァーミル「分かってる。で? 大方そいつを渡しにきたんだろう?」

ドクター 「ふふっ、それはそうだけど。草餅よ、ブリーズが助けてくれたお礼だって」

ヴァーミル「ああ、わざわざ悪いな…」


ヴァーミル「んぐ…むぐむぐ…うめーな、これ。 で、なに見てんだよ?」

ドクター 「そんな苦いのに、ヴァーミルは美味しいというのね…」

ヴァーミル「ブリーズにからかわれたのか?」

ドクター 「そんなこと…。ヴァーミルが勝手に大人になるのがいけないのだわ」

ヴァーミル「無茶言うなよ。それに、子供のまんまじゃ、お前を守れーねだろ?」

ドクター 「遠回しに子供扱いされた気がする」

ヴァーミル「されとけ されとけ。じゃなきゃオレのやることがなくなる」

ドクター 「もう…しょうがないんだから」



ドクター 「たすけてー、マトイマルッ! ブリーズがっ、きゃーっ!」

ブリーズ 「言うと思いましたわっ! ならやられる前にやるだけのことっ!」」


エステル 「ストップっ、ダメッ、止まって、マトイマルさんっ。ステイですっ、ステイっ!」

マトイマル「いや、でも、ドクターが…呼んでるし…」

エステル 「いいから、大丈夫だから、マルさんが暴れたらブリーズさん死んじゃう」

マトイマル「大げさな奴。良いから行くぜ」

エステル 「だーめーっ。あぁぁ引きずらないでっ、とまってよぉぉぉっ!?」


後書き

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