2022-05-21 20:13:46 更新

前書き

この話は『沼島警備府の日常』の番外編です。本編を読んでないと意味が分からない部分もあるかと思うので、できれば本編の『沼島警備府の日常』を読んでいただいてから読むことをオススメします。

番外編や続編を希望する声があったので、まず番外編を作ってみました。各章ごとに話が変わりますのであしからず。あと、会話文は章によって殆どなかったりします。

第1章:元帥の追憶
(以下は予定。どこで止めるかはわかりません)
第2章:夕張の約束(基本夕張視点)
第3章:敵は多し(基本パース視点)
第4章:母の想い(風川母視点)


第1章:元帥の追憶




元帥「ふぅ……」


やぁ。儂は元帥。栄えある日本海軍の頂点に立つナイスガイ。ひとたび街を歩けば瞬時に若い女性のハートを鷲掴み……にはできないが、とにかくナイスなガイなのだ。今はようやく書類作業が終わったところだ。


元帥「井上、古賀。貴様らの読みは見事に当たったぞ。あの馬鹿は見事に良き提督となった」


儂の机の上にある写真立て。そこには若かりし頃の儂と、2人の部下が写っている。名前は井上と古賀。儂が特に気に掛けていた部下。今まで見てきた数多くの部下の中でも飛び抜けて有能で、海軍にありがちなエリート組と下士官上がり組との確執もなかった。将来は2人のどちらかを元帥候補に推薦するつもりでいた。


でも、2人とも戦死してしまった。井上はラバウル、古賀は硫黄島で。2人の着任先を聞いた時、儂は反対した。この有能な部下を失うのは儂個人としてと言うよりも、日本全体の損失になる。


しかし、2人とも儂の反対を押し切って着任した。『必ず戦局を打開し、戦況を落ち着かせる』と言って。着任後は儂と報告を兼ねた電話や手紙でのやり取りをしていたが、そんなある時、ラバウルにいる井上から面白い話を聞いた。『工兵隊の新兵に提督の素質を持つ者がいる』と。


儂は冗談だと思った。提督の素質があるなら、態々工兵にいる必要なんてない。給料だって提督に比べれば遥かに劣る。理由を聞くと、本人に自覚が無いだけで無く、受験資格である高校卒業をしていなかった。


素質があるのに、提督になれないのは勿体ないというのが井上の意見だった。そして『自分の従兵にして、提督の素養を身につけさせたい』と申し出てきた。儂は高卒認定を必ず受けさせることと、従兵は1週間に3日だけと条件を定めた。まだ初年兵で工兵としても成長して欲しいし、万が一提督になれなかった時に、何の技量も身についていなかったらどうにもならないからだ。


その後、井上は頻繁にその少年の話をするようになった。艦隊指揮を任せたら、見事に敵を全滅させただの、やれ学歴差別を受けて虐められているかと思えば、複数の相手を1人でボコボコにして回っただの、何とも毎回聞いてて飽きない内容だった。


しかし、そんなのどかな空気は一瞬で過ぎ去り、次第に戦局が怪しくなってきた。敵がより強大になり、数も増え、補給がおぼつかなくなってきた。井上の報告も食料弾薬不足に苦しんでいるという内容が増えた。そして、遂に恐れていた日がやって来た。


突然、深海棲艦の大艦隊がラバウルに押し寄せ、激しい戦闘状態に入った。井上の率いる艦娘達は1か月以上粘ったが、武器弾薬が尽きて次々に戦死。基地にいた工兵達も武装して戦闘に加わったが、あえなく全滅した。全滅の報告を聞いた時、儂は頭が真っ白になったのを今でも鮮明に覚えている。未来ある有能な若手提督だけでなく、熟練工兵や艦娘達を一気に失った。


それから1週間が経った頃だろうか。突然ラバウルから簡易的な戦果報告が届いた。作成者は工兵妖精。内容はイ級とツ級1匹ずつの撃沈。たったそれだけの戦果。詳細は何も書かれていない。機械の不具合かと思って色々調べたが、どうやら本当のようだった。艦娘に生き残りがいるのか、それとも勝手に自爆したのを戦果と主張しているのか、この時点では分からなかった。


しかし、数日おきに戦果が届くようになった。大抵は駆逐艦か軽巡洋艦を少数撃破だったが、空母のヲ級や戦艦リ級などを含めた撃沈報告が届く日もあった。何よりも目立ったのが、艦載機の撃墜数がかなりの数に上っていたことだった。儂は直ちに大本営に所属する飛行司令部に掛け合い、妖精達で編成される偵察隊をラバウルに向かわせた。もし誰かが生きているのであれば、現地の情報をより正確に聞き出すべく何かしらの支援が必要だ。そう考えてのことだった。


それから数日後。ラバウルに向かった偵察隊より報告書が届いた。内容は鎮守府のあった場所は瓦礫になっていて、その近くについ数日前まで戦闘したかのような痕跡があり、更に破壊されたばかりの地上に設置された艦娘の主砲が放置されていたと書かれていた。


誰かが生きている。そして、艦娘達の艤装を砲台にして戦っていた。儂は直ちにラバウルの近況調査に艦隊を派遣することにした。が、艦隊派遣の前日、大本営にあるニュースが飛び込んできた。『ラバウルで負傷した日本海軍軍人を救助した』とアメリカ海軍から連絡が入ったのだ。


すぐに大本営の運営する病院に引き渡された軍人の名は風川仁志。工兵隊所属で階級は一等兵。年はまだ16歳になったばかりだった。風川はどうやら井上の言っていた提督の素質がある男で、井上の遺品や2通の遺書を持っていた。井上の遺品は結婚指輪や軍刀、愛用の万年筆。砲弾の薬莢をいじって作られた骨壺だった。遺書の1つには家族に先立つことを詫びる内容が書かれ、もう1通には風川仁志を提督候補生に特別推薦したいとの内容と根拠が書かれていた。


しかし、提督候補生になるには高校卒業が絶対条件。年齢制限もあり、18歳からだ。儂は少し悩んだが、風川の回復を待ってから、階級をラバウルでの功績で伍長に上げ、下士官教育を受けさせた後、古賀のいる硫黄島に送った。古賀には工兵として扱いつつ、提督に必要なものは何たるかを教えるようにという無理難題を押し付けたが、彼はどうにか私の要求をこなしてくれた。が、ここでも風川は何かと色々やらかしていた。例えば、先輩兵士達も危険だからと近寄らない不発弾をパンツ一丁で回収し、分解。中身の火薬を使って魚採りや塹壕を作る。島の硫黄ガスを使った砲弾を作成し、深海棲艦を悶絶させる(撃沈には至らなかったらしい)。艦娘達を見て鼻の下を伸ばし、終いには鼻血を出す……などだ。


古賀の報告では、風川は何かと部下に気を配りながら仕事をし、人間関係の構築も上手い。艦隊指揮も過去にあった井上の報告通り、優れているという評価だった。ただ、所々に経験不足から来る詰めの甘さや、轟沈を恐れるあまり、慎重すぎる指揮などが目立つようになっているとも書かれていた。


古賀『元帥。彼は艦隊指揮が多少優れているとは言え、提督としても人間としてもまだまだ未熟です。もし提督にするとしても、大規模鎮守府や激戦地の鎮守府は到底無理です。もし彼が提督になったら、まずは小規模な警備府からやらせるべきです。そこから本人の希望も聞きつつステップアップしていくべきだと俺は思います』

元帥「そうか……わかった」

古賀『調べてみたところ、彼は学生時代も素行面はあまり良くなかったようですが、勉強は出来たようですし、人格も決して悪くなかったようです。なので、しっかり育てれば素晴らしい提督になりますよ』


それから数ヶ月後。硫黄島にも深海棲艦の大艦隊が押し寄せた。古賀は持久戦を選び、洞窟内に作った妖精専用の飛行場を駆使して上陸してくる深海棲艦を撃破した。風川の提案で不要な艦娘の主砲や副砲、高角砲も至る所に配置し、深海棲艦に大損害を与えた。


しかし、一方の深海棲艦も我が軍の補給ラインを遮断。硫黄島を孤立させた。我が軍も補給路確保に奔走したが、苦戦を強いられて思うように補給はできなかった。


硫黄島の攻防は1か月にも及んだが、ここで不運が重なった。飛行場の様子を見に来ていた古賀は丁度敵の空襲に遭い、飛行機の燃料や弾薬が次々に誘爆、大爆発が起きた。これによって多くの古賀を含め中尉以上のほぼ全ての将官が死亡し、指揮系統が麻痺。その隙に深海棲艦は一気に攻勢を仕掛けてきた。生き残った者達も艦娘達と激しく抵抗したが、結果的に陥落した。


硫黄島陥落から2週間後。今度は我々が攻勢をかけた。占領された硫黄島は構造物がほぼ破壊された状態だったため、遮蔽物がなく、想定していたよりも容易に奪還できた。上陸した艦隊の話では島の捜索中、最深部の洞窟から十数名の兵士と、数名の艦娘が出てきた。全員ボロボロで、特に艦娘は識別票を確認しないと誰かわからない程だったという。


生き残ったので最も階級が高かったのは新米の少尉だったが、負傷して身動きができず、次に階級が高かった風川が指揮を執っていたらしい。とは言っても、満身創痍の艦娘達やただの一般兵ではまともに戦える訳もなく、ひたすら洞窟で息を殺しているほかなかったようだが。


その後、儂は風川が回復するのを待ってから、大本営に呼び出した。井上や古賀からも評価される若者がどのような人物なのか、自分の目で見ておきたかったからだ。面談をしてわかったこと。それは儂が思ってた以上に彼はやり手だと思った。戦場での立ち回り方、発想の仕方など、長年提督をしてきた儂でも考えの及ばない作戦もあった。更には、現在日本の置かれている状況などもある程度把握し、防衛ラインの提示までしてきた。自分は一軍曹で、出過ぎた真似であることを承知の上で、だ。


ただ、もう一つ儂の想像を超えたのは、少し馬鹿だと言うことだ。素行面があまり良くないという話は聞いていたが、呆れたことに硫黄島に野菜の種を持ち込んで栽培を試みたり、普通は武器弾薬、食料を書き込む物資の要望書に『繁殖して食料の足しにしたいため、生きた鶏を番で20ほど欲しい』と書いたりしていた。却下されたそうだが。理由を聞くと『いやぁ、腹が減っては戦はできないじゃないですか。ラバウルでそれを痛感してるので、自分、食糧確保には手を抜きたくないんです』と返ってきた。何とも馬鹿なことをしているように見えて、ちゃんと納得できる理由だ。


もう一つ、風川は艦娘達をとても大切にしようと考えている。硫黄島で生き残った艦娘達の練度は硫黄島にいた艦娘の平均値よりもかなり下回っていた。つまりは低練度の艦娘達だったのだ。普通なら真っ先に轟沈してもおかしくない彼女達が何故生き残ったのか。理由は風川にあった。極力無理をさせず、ギリギリを攻める。無理だと判断すれば戦わずに撤退する。『たった一度の戦いで華々しく散るよりも、泥まみれになってでも生き残ることに意味があるんです。生き残れば戦い続けられます。死ねばそれっきりですから。何よりも、自分達を守ってくれる艦娘達が目の前で死ぬのは嫌じゃないですか』と風川は笑いながら答えた。


それから儂は風川を大本営直属の工兵隊に異動させ、高卒認定に向けた勉強が出来る環境を作った。その間に風川は曹長に昇進し、士官候補生に志願。通常、曹長から尉官になるためには必須の士官候補教育は、1年間の教育を無事に終え、最終試験を合格すると即時少尉になるのだが、風川は合格したものの年齢制限から少尉ではなく、准尉になった。准尉に昇進してすぐのタイミングで高卒認定資格も取得。風川が試験に合格する前年に、それまではあくまでも高校卒業程度の学力を持っているというもので、学歴は中卒としか表記されなかった資格だったものが、高卒(認定試験合格者)と表記することができるようになり、晴れて風川は中卒から高卒(認定試験合格者)になった。


高卒認定資格を取得後、儂の強い勧めで風川は提督候補者試験を受験し、合格。それに伴って工兵隊から儂の従兵にして、ある程度公の場での立ち振る舞いや基本作法などを教えた。風川の家はどちらかというと貧乏であり、提督になる以上必要な上流階級の立ち振る舞いや作法は皆無だったからだ。さらに、様々な艦隊指揮の方法なども教えた。古賀と井上が育ててくれた大事な人材。ひいきになるかもしれないとは思いつつも、風川には特別厳しく指導した。風川は相変わらず問題行動を起こすこともあったが、しっかりと勉強に励み、遂に提督の資格も取った。が、その直後の人事で儂は驚愕した。何と風川の異動先が激戦地のレイテになっていたのだ。


儂は猛反対した。経験の浅い提督なんて激戦地では役に立たない。更にはまだ未来ある若者をそんな死地に送ることなんてできないと。しかし、ラバウルや硫黄島での風川の行動を知る幹部達は、十分に戦えると言って聞かなかった。恐らく裏で中卒上がりの提督に戦果を挙げられるのが気に入らなくて、さっさと消すために仕組んだのだろう。幹部にはエリート組の中でも無駄にプライドの高く、昇進に目がない連中が多いから。全員首にしてやりたいところだけれども、無駄に有能なものだからそれはできない。かといってこのままでは古賀や井上のように死んでしまうかもしれない。そう考えた儂は、大本営の事務方に風川を置くことにした。幹部の連中も、それで納得した。


半年後、沼島に警備府ができると、儂は幹部の目を盗んですかさず風川を提督に据えた。周囲は儂の信頼できる部下がいる。少し離れるが、神戸には儂の同期で親友の東郷もいる。何かあれば助けるように根回しもした。幹部には事後報告しておいた。はじめは何かほざいていたが、大した戦果を挙げられない本土の警備府と聞くと、全員何も言わなくなった。


儂「……まぁ、何だかんだであいつはしっかりやってるよ。お前達のお陰だな。古賀、井上」


風川は着任してから島民や艦娘達からも慕われる存在になった。委託された警官としての仕事もこなしつつ、農業を艦娘達としているらしい。こないだは『艦娘達が異動したい鎮守府・警備府ランキング』と『地域住民との関係が良好な鎮守府・警備府ランキング』さらに『料理の美味しい鎮守府・警備府ランキング(間宮・伊良湖・鳳翔所属の鎮守府・警備府は除く)』で見事3冠を獲得した。実際、艦娘達からの所属鎮守府、または警備府の提督に無断で出してきた沼島警備府への異動願いの直訴状が絶えない。


儂「……今後は他の鎮守府や警備府の働き方改革をしないとな」


儂は小さくため息をつくと仕事に戻った。





第2章:夕張の約束



どうも皆さん。沼島警備府所属、軽巡洋艦の夕張です。さて、私達は今、何をしてるでしょうか?


提督「お、焼けてんじゃ~ん!!皆食え食え!!」

白露「お肉美味しい~」

夕立「ぽい~」

葛城「コラあんた達!!野菜もちゃんと食べなさい!!」


そう。私達は今、警備府のグラウンドでバーベキューをしていま~す……


夕張「じゃないでしょぉぉぉぉ!!」

提督「どうした急に(困惑)」

夕張「何仕事放り出してバーベキューしてるんですか!?」

提督「たまにはいいじゃないか。大した仕事量でもないし。リラッ○マリラック○」

夕張「謹慎明けで戻って来て早々何言ってるんですか!!」

パース「ユーバリ、落ち着いて」


この子はパース。同じ軽巡洋艦。だけれど私よりも練度が高いし、秘書業務もできる。何よりも提督にべた惚れ。こないだ1対1で演習をしたら、性能では私の方が勝ってるはずなのに、負けた。


長らく演習で負けたことなんてなかっただけに、物凄く悔しかった。でも、何だかホッとした気分になった。不思議な気持ちだったけれど、肩の荷が下りたような気がした。もう、自分がいなくてもこの提督は大丈夫だ。自分が気を張らなくても、フォローできる艦娘達が出てきた。


夕張(井上提督。風川君はここまで艦娘達と楽しくやってます。あなたとの約束、私は果たせましたか?)


心の中で呟きながら、私は首からかけている2つの指輪に手を触れた。1つは綺麗な指輪だが、もう1つは傷だらけになっている。綺麗な方が私の指輪で、もう片方は井上提督のものだ。


私は15年ほど前に横須賀で建造された。当時は練度も低く、他の軽巡洋艦と比べても能力が低いと判断されて建造されてすぐ、提督候補生のペア艦娘となった。ペア艦娘とは、提督候補生達が提督となった後、艦娘達を建造した後にしっかり練度上げができるようになるための言わば練習台みたいなものだ。一見酷い話に見えるが、どのみちちゃんと提督達に練度上げの指導をして貰えるから、そこまで酷い話ではない。


建造後私の初めてのペアが井上提……いや、当時は井上候補生だった。当時から優れた才能と人格を見せ、将来有望と言われていた。そんな人とペアになったお陰で私は一気に練度が上がった。そして、候補生から提督になった井上提督は国内の中規模鎮守府に配属され、偶然私も一緒についていくことになった。


井上『いや~知っている艦娘が一緒にいると、心強いな~』

夕張『そんなこと言ってないで、ちゃんと鎮守府の艦娘達と仲良くしてくださいよ』

井上『わかってるわかってる』


鎮守府では色んな事があった。元々戦果を挙げることに極端に拘っていた鎮守府のお陰で艦娘達の仲は悪く、足の引っ張り合いをする始末だった。中には井上提督を無視したり、暴言を吐く艦娘もいたほどだ。それでも井上提督は粘り強く、一生懸命に鎮守府改革を行った。鎮守府の運営方針を戦果第一主義から、生還第一主義にして、仲良くするように意識改革を進めた。2年に及ぶ改革の結果、以前よりも戦果は挙がり、鎮守府の雰囲気も良くなった。


一方の私は、少し孤立気味だった。元々夕張型には姉妹艦がいないために孤立しがちな傾向があるから、そこまで苦ではなかったけれど、他の艦娘達が姉妹艦同士で仲良くしているのを見ると、少し羨ましかった。そんなある日、私は鎮守府のドンである金剛に呼ばれた。その鎮守府の金剛は、実力は鎮守府でも指折りの猛者だったが、姉妹艦を過去に戦闘で全員亡くしていて、何時も食堂の隅に置かれたテーブルで1人紅茶を飲んでいた。井上提督の鎮守府改革の際にも特に文句を言うこともなかったが、特段他の艦娘達と仲良くしている様子もなかった。


そんな金剛に呼ばれて、私が向かったのは鎮守府の敷地内。最も人目に付かない森の中だった。先に来て待っていた金剛は私を見ると微笑んで近づいてきた。


金剛『遅かったデスね』

夕張『すみません』

金剛『謝らなくてもいいデスヨ。ワタシが少し早く着いただけデスから。付いてきてクダサイ』


そう言って金剛は森の奥へと歩き出して、私もそれに続いた。少し歩くと洞窟のような場所があり、最深部には隠し戸があった。その中には


夕張『……何……ですか、これは』


8畳ほどの広さのスペースに所狭しと置かれた物。多くがティーカップなどの小物だ。1番奥には、数個の位牌が置いてあった。


金剛『ここはワタシ達金剛型と、3つ前の提督しか知らない秘密の場所デス。もっとも、今知ってるのはワタシと夕張だけデスが』

夕張『どうして……そんなところに私を?』


私の問いに、金剛はまた微笑むと、椅子に座るように勧めてきた。椅子に座ると、何処から出したのか金剛はティーカップに紅茶を注ぎ込んだ。


金剛『夕張。あなたは今のテートクの秘書艦デスよね?』

夕張『え?ええ』

金剛『なら、今のままではダメデース。秘書艦は鎮守府の皆と表面上だけでも仲良くしておくべきデス』

夕張『それは何故?』

金剛『秘書艦はテートクと最も話す機会が多くて、他の艦娘にテートクの連絡事項を伝える仕事も自然に増えマース。もし艦娘達と仲が悪いと、連絡が滞ったり、連携が崩れる原因になりマース』

夕張『……』

金剛『ワタシもこう見えて、3つ前の提督の時は秘書艦デシタ。皆と仲良くするためにティーパーティーを開いたり、悩みを聞いたり……姉妹艦が来てくれた時には本当に嬉しかった。提督ともずっとこのまま一緒にと思ってマシタ』


金剛の言っている3代前の提督は、戦死や、不摂生が祟って平均寿命が短い提督の中でも珍しい80歳で老衰で亡くなった。半世紀以上も戦い続け、75歳で引退した後も、鎮守府で余生を過ごした。金剛はその提督の秘書艦だったのだ。


私達艦娘は、寿命がない。いや、正確には不明なのだ。皆、戦闘でかなり早いスパンで死亡してしまうから。だけど、中には1世紀近く生きている艦娘もいる。容姿も殆ど変わらないから、外見で何歳かは判断できないのだ。


金剛『……覚えておいてクダサイ。ワタシ達が一生懸命戦って生き残っても、テートクは先に亡くなってしまう可能性が高い。もし何か特別な感情を持っているのなら、早めに相手に伝えるべきデス。誰かと喧嘩をしたのなら、早めに謝って仲直りすることデス。そして、次のテートクが来たら、明るく何もなかったかのように接するべきデス』


ワタシにはもうそれすらできませんガ、と金剛は寂しげに言うと、ティーカップを傾けた。噂だけど、金剛の姉妹艦は金剛と下らないことで喧嘩をしてその直後に出撃。全員轟沈したと聞いたことがある。もしかしたら、それで自責の念を感じているのかもしれない。


金剛が除籍願いを出して鎮守府を出て行ったのは、それから1週間後のことだった。突然の主力の離脱に、鎮守府内は大騒ぎになった。金剛は長らく他の艦娘達と交友関係を持っていなかったため、誰も行く先を最後まで知らなかった。私を除いて。


金剛は除籍願いを提出後、大本営の必死の懇願で予備役になった。そして、予備役に回った見返りで高卒資格を取得。1年間の猛勉強の末、国立大学に入学したらしい。大学に入った理由は良くわからないが、後になってから『大卒になっておけば後は何とかなると思った』らしい。


一方の私は、金剛が除籍願いを提出してすぐにラバウルに井上提督と共にラバウルに異動し、鎮守府運営をしていた。しかしある日、私の艤装の調子が突然悪くなった。修理を試みても直らず、原因不明のため、一度大本営に行って精密検査をすることになった。大本営に行く前日、私は井上提督に呼び出された。


井上『夕張。君にはこれを受け取って欲しい』


井上提督が私の前に出したのは銀色に輝く指輪だった。


夕張『ケッコンカッコカリですか?私はまだ練度が……』

井上『いや、結婚カッコガチだ。今まで、候補生時代からずっと俺を支えてきてくれた。何時しか、俺はお前のことが気になってしょうがなくなっていた。まぁその、なんだ。正直、一目惚れだ。頼む!俺の妻になって、ずっと側で支えて欲しい』

夕張『……エェ!?』


まさかのプロポーズ。一瞬理解が追いつかなかったが、少し間を置いて意味を理解すると、自分の全身が一気に真っ赤になっていくのを感じた。そして、私は頭を下げて指輪を差し出す井上提督に向けて口を開いた。


夕張『は、はいぃぃ……よろしくお願いしましゅ……』

井上『ありがとう。大本営から戻ったら、結婚式カッコカリをするぞ。本土に帰ったらど派手にやろう』

夕張『そうね』


この会話が、私と井上提督の最期の会話になった。


大本営での精密検査を終えた私が帰還の準備を進めているタイミングで、ラバウルに深海棲艦の大艦隊が攻め込んだという情報が入った。私は大急ぎで戻ろうとしたが、周囲に止められて戻ることは叶わなかった。そして1か月後。ラバウルは陥落。全員戦死したと報じられた。


慕っていた提督。仲間を一度に喪ったことはショックだった。井上提督が死んでから『あの時こうしておけば』という後悔が溢れてきた。塞ぎ込んだ生活を大本営で送っていると、しばらく経って、たった一人だけラバウルから生還した工兵隊がいると聞いた。その工兵隊員は井上提督の遺品を持っていたそうだが、すぐに家族の元に送られたという。が、何故かそれからすぐに私の元に全ての遺品が届いた。


調べてみると、井上提督は孤児だった。既に親戚とも縁が切れている。よって誰も身寄りがいない。その結果、秘書艦かつ、正式ではないが婚約をしていた私に遺品が回ってきたのだ。遺品は彼の愛用していた万年筆や軍刀、遺書、そして傷だらけになった指輪と、砲弾の薬莢で作られた骨壷だった。遠方で戦死したら大抵は遺骨はないのに、中にはちゃんと遺骨が入っていて、正直驚いた。


血の付いた指輪を見た瞬間、本当に彼は死んでしまったんだと涙が溢れてきた。もっとはっきりと自分の想いを伝えておけば良かった。無理をしてでもラバウルに留まっておけば良かった。周囲の制止を振り切ってでも、ラバウルに向かうべきだった。でも、時は巻き戻せない。


一通り泣いた私は遺書を開いた。3枚の遺書には先に逝くことを詫びる内容から始まり、私の良いところを書き連ね、遺産は全て好きにして良いと書かれてあった。全てを読み終えた後、サイズの一回り小さい紙が1枚落ちた。そこには『君には言ってなかったが、工兵隊に風川仁志という少年がいる。彼も提督の素質がある。才能もある。彼に遺品を全て託してある。もし彼が生き残っているのならば、彼を支えてやってほしい。そして、明るく、楽しい鎮守府にしてほしい』と書かれてあった。


それからしばらくの間、私は本土の鎮守府を転々とした後、大本営に所属していた。そして沼島にできる警備府に風川仁志が着任すると聞いて、大本営に自分を異動させるように直談判した。全ては井上提督との約束を果たすためだ。練度の高い私を警備府に置くことにはじめに難色を示していた大本営だったが、元帥の計らいもあって、沼島警備府に着任することに成功した。


夕張「……まぁしかし手の掛かる提督なこと」

提督「ん?何か言ったか?」

夕張「何でもありませんー……っと電話だ」


スマホのディスプレイには『金岡リサ』と表示されている。ラバウルにいた頃の金剛だ。金剛は現在、京都の高校で英語教師をしている。ラバウルにいた頃は物静かでクールな印象だったが、今では毎回楽しそうに生徒達のことを話してくる。


金剛『ヘーイ夕張!元気デスか?』

夕張「ええ。元気ですよ。今日はどうしましたか?」

金剛『実は今度の夏の甲子園に、ワタシの働いている高校が出場しマース!!ワタシも専任教師としてベンチ入りするので、応援よろしくデース!!』

夕張「金剛さんは試合しないでしょ……」

金剛『アハハ!じゃ、お願いしますネー!!』プツッ


金剛は一通り喋ると、電話を切った。しかし京都の甲子園出場校……確か公立の進学校で初出場だったはず。大したものだ。


提督「夕張~誰からの電話だ~?」

夕張「昔の知り合いからですよ。今度自分の働いている学校が甲子園に行くから、応援よろしくって」

提督「マジかよ。え?何処で働いてんのその人」

夕張「京都の高校って聞いてたけど」

提督「……」

夕張「……提督?」

提督「それ弟の学校だ」

夕張「えぇーっ!?」


井上提督、私は今日も元気に楽しく生きています。



第3章:敵は多し?



パース「……」


どうも皆さん、軽巡洋艦のパースです。元々オーストラリア海軍に所属していましたが、今は日本海軍の沼島警備府に所属しています。ここの提督は私とラバウルを生き抜いた風川提督。警備府内外の艦娘達だけでなく、島民からも好かれるこの提督、だけど最近私は焦りを感じていた。この提督、競争率高すぎないかしら?……と


翔鶴「風川提督!私、今回の出撃で姫級を倒したんですよ!!」

提督「そうか。それはすごいな!!今日は翔鶴の好物でも作るか」

翔鶴「もっと褒めてください!」


彼女は神戸鎮守府に所属している翔鶴。以前提督にお世話になったらしくて、それ以来よくこの警備府に来る。最初は遠方への出撃が多い鎮守府だから、補給拠点のこの警備府に立ち寄るのは当たり前……だと思っていたのだけれども、この翔鶴、どうやら休暇の度にこの警備府に来てるみたいね。私にはわかるわ。だって私服で来てるし。


一方の提督はというと、至って普通の対応。元々感情豊かな人だし、心から喜んでいるのが相手にも良く伝わる。だからこそ、艦娘達にも島民にも好かれるのでしょうけど。


五十鈴「ちょっと司令官!!」

提督「あ、五十鈴。どうした?」

五十鈴「どうしたもこうしたも、まだ書類作業が残ってるわよ!!!」

提督「ダニィ!?(現実から)逃げるんだぁ……」ソソクサ

五十鈴「馬鹿ね。逃がさないわよ。土いじりも結構だけど、やることをちゃんとやってからにしなさいよね」ガシッ

提督「はい……」シュン


彼女は五十鈴。以前は別の鎮守府にいたそうだけど、とある騒動(提督が解決した)でこの警備府に異動してきた。艦娘達の中では早熟タイプで、あっという間に練度は50を超えて、今ではこの警備府の主力に数えられる実力者。書類作業もそつなくこなすし、提督には及ばないけれども料理や裁縫の技術もある。かなりしっかり者だから、提督が暴走したり、サボってると葛城や夕張と一緒に叱っているところをよく見かける。


何よりも五十鈴さんは胸が大きい。私よりも大きい。戦艦の榛名さんと同じくらいか、それ以上。警備府の中でも間違いなくトップクラスだと思う。前にお風呂に入っている時、『この世に神なんていない』と葛城さんが絶望した目で見ていたのが印象に残ってる。ちなみに葛城さんはそれから五十鈴さんと時間をずらしてお風呂に入るようになった。


五十鈴さんは提督のことが気になっている。以前提督の話をしていたら、ふと恋バナになって、その時に『提督はどう?』と振ってみたら顔を赤くして『司令官は……まぁ、いい人だと思う……』って言ってたから。顔を赤くしてその台詞は間違いなく気があるわ!!誤魔化せてないわよ!!私の目は誤魔化せない!!


パース「……」


私と提督の出会いはラバウル。当時私は、ラバウルにあったオーストラリア海軍の監視所に駐在していた。オーストラリア海軍は艦娘が少ないせいで、資源はあっても大勢の艦娘を遠方まで進出させることができないという問題を慢性的に抱えている。そのせいでオーストラリア海軍の監視所には私の他数人の艦娘達と十数人の兵士しかいなかった。兵士達は『日本の鎮守府が近くにあるし、何かあれば助けて貰えばいい』というスタンスだったから、かなりのんびりしていた。何なら自分達が敵を見つければ即座に日本に援軍を頼むぐらいだった。その代わりに有り余る資源を融通していたけれど。


そんなある日、ラバウルに深海棲艦が大攻勢を仕掛けてきた。日本海軍はかなり粘っていたけれど結果的に陥落。私達の監視所はそのついでと言わんばかりに日本の鎮守府が陥落した日に侵攻を受け、たった1日で攻略、占拠された。私以外の艦娘や兵士は全員戦死。私は命辛々ジャングルに逃げ込んで彷徨うことになった。


あてもなくジャングルを彷徨うこと1週間。何とか持ち出した食糧も底をついて、いよいよダメかと思って木にもたれかかっていると、一人の少年兵と出会った。それが風川だった。日本海軍の一般兵に支給されるヘルメットに、ライフル銃。脚にはゲートルを巻き、腰には日本刀を指していた。


パース『……Who are you?(訳:誰?)』

風川(後の提督)『あ、え……?あぁ、英語か。I'm Hitosshi Kazakawa.Japanese Navy(訳:俺は風川仁志。日本海軍だ)』


その後も英語で会話を続けて分かったのは、風川はまだ16歳だったことと、日本海軍で生き残ったのは彼だけということだった。風川は鎮守府の跡地周辺で妖精達と協力して艦娘達の遺した艤装を改造。更には不発弾を改造して地雷などのトラップを作成。ゲリラ戦を展開していた。


風川の凄いところは何と言ってもその射撃精度。妖精達によって作られた、艦娘達の使用する砲弾を改造した対深海棲艦用の銃弾を使い、深海棲艦の航空機を撃墜していた。更には、砲撃しようとしていた深海棲艦の砲口に弾丸を撃ち込み、誘爆させて撃沈するなんていう離れ業までしていた。風川曰く『当てなきゃ死ぬって思って撃つと当たる』と言っていたが、それだけではそうそうできる芸当ではないと思う。


そして、私が最もすごいと思ったのは……


パース『いやぁぁぁ!!あなた何食べてるの!?』

風川『何って……芋虫と虫と雑草とトカゲと蛇の闇スープ』ズズズ…

パース『そんなの食べたらお腹壊すわよ!!』

風川『そうか?何ともないんだけどな……』


何でも食べれると言うこと。平気な顔で何でも食べるもんだから、これには参ったわ。幾ら軍人とはいえ、普段から資源が潤沢だったから、サバイバル飯なんて精々野生動物の肉や焼き魚位しか食べたことがない。だけど、風川は芋虫でも生で食べる。それでいてお腹を壊すことがないから、強靱な消化器官を持っているに違いない。


パース『ちょ、ちょっと!何よこれ。生の魚じゃない!!』

風川『うるせぇな。日本じゃ刺身って言うんだよ。食べれるだろ』

パース『生で何て食べられる訳ないじゃない!!』

風川『今深海棲艦が近くをうろついてるから火を起こせないんだよ。我慢しろ』

パース『うぅぅぅ……』


こんな感じで私は生魚に慣れていった。ついでに虫やは虫類も。何せ生魚やトカゲが食べられなければ芋虫を食べなければいけないから、嫌でも慣れる。最終的には私も芋虫を食べさせられたけど。今でも思い出す。あれは本当に悪夢だったわ。


風川の戦術は『勝てない戦いはしない。勝てないなら生き残るための最善の手段を選ぶ』だった。要は華々しく散るよりも、泥臭く、しぶとく生き延びることに重きを置いていた。勝てないと分かればさっさと逃げるし、勝てる見込みがあると積極的に戦う。普通は勝てる見込みがあると判断することは相当難しいと思うのだけれど、風川はそれが上手かった。だから、風川と戦う時は殆どの戦闘は余裕があった。当時私自身、そこまで実戦経験が豊富だった訳ではなかったけれども、風川のお陰で戦艦や空母まで倒せた。戦っていくうちに練度も向上して、ほぼ単独での実戦を積めたお陰で、ここでの経験は後々かなり役だった。


気がつけば、風川には途中から好意を抱いていた。はじめは助けてくれた恩返しをしたいと考えていたけれど、段々一緒に生活していくうちに、好きになっていた。私の胸やスカートがめくれた時には真っ先にそっちに視線が行く変態だけど、以外と初心なのか、一度水浴びをしている所を見られた時には顔を赤くして帽子で目を隠していた。『動画や写真では見たことはあるけど、生で見るのははじめて』だったらしい。


そんな生活を続けていたが、その生活は突然終わりを迎えた。ある日、戦闘を終えた私が油断している時に、敵から大規模な空襲を受けた。私よりも先に気がついていた風川が私を突き飛ばしてくれたお陰で、私はかすり傷で済んだが、風川は足や体に大怪我を負った。何とかなけなしの傷薬と止血薬で応急処置はしたものの、医療設備も薬もないラバウルでは到底治療できない。


私は一か八かで風川のいた鎮守府跡地に向かい、残骸を掘り返して2機の水上偵察機を見つけた。幸い搭乗員妖精がいたから、私は周辺海域に何処の国籍でもいいから船舶が航行していないか調べるように言った。周辺は敵艦隊がウヨウヨして、制空権も絶望的な状況。水上偵察機なんて見つかれば間違いなく墜とされる。それでもこれに懸けるしかなかった。


幸いにも水上偵察機は敵に見つかることなく、アメリカ軍の病院船を見つけた。私は風川と風川の持っていた荷物を持つと、決死の思いで海に出た。ありがたいことに、病院船は妖精達に持たせていた救援依頼の紙を読んでくれて、護衛の艦娘達と共に近くまで来てくれた。


風川を病院船に収容した後、私はアメリカ軍に経緯を事細かに聞かれた。私は今までのことを全て話して、風川を日本に送り届けてくれるように頼んだ。私はあくまでもオーストラリア海軍の艦娘。日本までついていくことはできない。仮についていっても、帰る手段が皆無。中継拠点も兼ねていたラバウルが陥落した現在では道中で撃沈されるのが目に見えていた。


それから1週間だけ、私は風川の看病をした後、アメリカ海軍の援助もあってオーストラリア海軍に戻った。祖国に私を待っていたのはラバウルで戦死した兵士達の遺族達による非難だった。『何故守ってくれなかった』『自分だけ生き残った恥知らず』大切な人を失った悲しみや怒りが、生き残った私に容赦なく向かった。


私は、それから1人で過ごすことが増えた。人と関わることが怖くなった。連日続く非難の言葉に、祖国への愛着も薄れていった。ただひたすら、演習場で訓練を繰り返し、砲撃や対空機銃、風を切る音で非難の声をかき消した。


そんなある時、酒保で見慣れない物が置かれていた。タイトルは『日本の絶景集』。日本。風川の祖国。私は迷わずに購入すると、毎日読むようになった。オーストラリアにはない美しい光景。季節によって変化する景色。見たことの無い食べ物。全てが輝いて見えた。風川の故郷の日本の景色や、伝統文化に私はあっという間に引き込まれていった。


そして数年の月日が経ち、私はオーストラリアから出ることにした。ただ、働き口がないと思って、ひとまずは日本海軍に移籍して艦娘として働き、ゆくゆくは除籍願いを出して日本で暮らそうと考えた。そのために、出撃や訓練の合間を縫って日本語の勉強に勤しみ、文化への理解も深めた。


私がオーストラリア海軍から日本海軍に移籍すると聞いた上官は、既に練度が90を超えた私を手放すことが惜しかったのか、あの手この手で引き止めようとしてきたが、それらを全て振り切って私はオーストラリアから出た。去り際に『もうこの国に帰ってこれると思うな』と上官に言われたけれども、全く心は痛まなかった。今まで非難の的にされてきた私を助けなかった上官には、何の感情も抱かなかった。


パース「……」


今の私はかなり幸せだ。目の前に愛する人がいて、私を理解してくれる仲間がいて、受け入れてくれる場所がある。ただ、少し欲を言うのならば、風川提督と結婚したい。そう思う。


婆1「あ、提督さん。魚持って来たから皆で海鮮焼きもしないかい?」

提督「え?いいのか婆ちゃん」

爺1「いっぱいあるからな。酒も持ってきたぞ~!」


いつの間にか提督の周りには老若男女問わず人だかりができている。物凄い数だ。


提督「お~いパース。手伝ってくれ~。俺だけじゃ捌ききれない」

パース「分かったわ」


ま、結婚はもう少し先でも良いかしら。でも、何時かはあなたの隣にずっと寄り添っていたい。私は魚を捌く風川提督の横に立つと、魚を捌き始めた。



第4章:母の想い



優・翔太「いってきまーす」

母「気をつけてね」


私は風川仁志の母です。日中は農協に勤め、夜はガソリンスタンドでパート。休日はwebデザイナーとして働いています。病弱な夫に代わり、私が一家の家計を支えています。子供達に不自由をさせないためにも、必死に頑張っています。


母「今日も家族が無事に過ごせますように」


毎朝と寝る前には家の仏壇と神棚への挨拶は欠かさない。神棚には息子の仁志のことが載った新聞と、仕送りを送ってくれる通帳とキャッシュカードを置いている。あの子のお陰で、優や翔太を好きな部活に入れてやることもできたし、予備校に通わせることができた。優はある程度好きな服を買うことができるようになった。私や夫、お義父さんの稼ぎでは正直厳しかったかもしれません。


実はつい最近まで我が家には多額の借金がありました。何代も前の先祖が遺した借金。相続放棄をすればなくなったかもしれませんが、そうすれば家や土地、全てを失い路頭に迷いかねなかったこともあり、できなかったんです。


返済に追われたお陰で、我が家は代々困窮していました。特に仁志には何かと不自由をさせたかもしれません。部活も入らず、ゲームも殆ど買わず、大抵出掛ける時は学生服かジャージ。学校が休みの日は忙しい私に代わり、料理や下の子達の面倒を見たりと殆ど家の手伝いばかりしていた。


そんなあの子が海軍に行くと言った時はすごく驚きましたし、ショックでもありました。中学3年になると常日頃から『中卒で働く』と言って聞かなかったけれども、まさか海軍に志願するとは予想もしていませんでした。何せここは山奥の田舎。海なんて見えないし、やれ深海棲艦だ艦娘達だなんて言われてもピンとこない人もいるような地域。私的には鳶か塗装工にでもなるのかと思っていました。


私も夫も、担任や生徒指導まで巻き込んで説得しましたが、あの子は頑として聞きませんでした。『俺は海軍に入ってビッグになる。海軍王に俺はなる!!』と言い放ち、更には『下手な仕事に就くよりも海軍の方が遥かに給料も良いし、飯代も出るのならその方がいい』と言い切った。


こうして仁志は超高倍率の海軍を受験。そして合格した。出発の前日、仁志は私をこっそり呼び出してきて、こう言った。


仁志『心配すんなよ。一杯稼いで、皆に楽させてやるからよ。優も翔太も不自由なく学生生活が送れて、大学行けるぐらい稼いでやるよ。母さんにもブランド物の服とか、化粧品とか買ってやるからさ。母さん達が苦労してんの、知ってんだから』


私は、親として悔しかった。素行はあまり良くはなくても、難関高校に入学できるだけの実力を持っていたのに、家の経済的事情で我が子をここまで考えさせて中卒にしてしまったこと。我が子に心配をかけてしまっていること。大学は難しかったかもしれないけど、ちゃんと全員高校に行って欲しかった。死ぬ可能性のある海軍に入ってでも稼ごうと思わせたことに、私は自責の念を感じざるをえなかった。


それから1年ほどで、一通の手紙が届いた。仁志が南方のラバウルに行くというものだった。南方はよく戦闘が起きる場所。大勢の死人が出ていた事もあって、心配でならなかった。出発前に、見送りに行きたかったけれど、ここから横須賀まではかなりの距離。余裕のない我が家では見送りに行くことはできなかった。


南方に行った後、毎月のように送られてくる仕送りは15万から20万に増えた。恐らく勤務地手当などが付いたり、階級が上がったのだろうか。正直な話、階級が上がろうが上がってなかろうが、無事でいてくれるのならそれでいいと思っていた。


でも、数ヶ月後にラバウルは陥落。『将兵悉く敵兵に突撃し、戦死』と書かれた新聞記事を見て、絶望した。しばらく経って大怪我をしたものの、仁志1人が生還したと報道されたときは、涙が止まらなかった。でも、この時も私は仁志の入院先にすら行くことができなかった。多忙と節約のためだった。仁志も実家に帰ってくることもなく、そのまま硫黄島に転属した。その後はほぼ音信不通の状態が続き、心配でならなかった。電話連絡は仁志が携帯電話を変えた所為か不通。唯一の生存確認の方法は仕送りといった状態。


そんなある日、突然仕送りの金額が倍以上に跳ね上がった。何かあったのか、それともまた危険な戦地へ赴くのか。その後も同じ金額が一定の間隔で送られてくるから、一安心していたけど、夏の暑い日、玄関から聞き慣れた……いや、少しそれよりも低くなった声が聞こえてきた。


仁志『おーい!兄ちゃん帰ったぞー!!』


ちょうど義父と夫が農作業から帰ってきて、私は食事の準備をしている途中だったけど、その声を聞いて思わず玄関に走り、そのまま仁志にビンタをした。本当は真っ先に抱きしめてあげたかったが、ずっと連絡を寄越さずにいたことや、今までの積もり積もった不安がその気持ちを上回ってしまった。


その後、仁志の話を聞くと、今は内地の小さな警備府の提督をしていると知った。提督といえば、高学歴のエリート達がなる仕事とばかり思ってたから意外だったし、階級も少佐になったと聞いて更に驚いた。ただ、激戦地ではなく、比較的平和な内地で働いていると聞いて安心した。長い間会っていなかったからか、仁志は背も伸び、小麦色に日焼けをしていた。


それからしばらくして、仁志がツーリングに出掛けた後、綺麗な女の子を連れてきた。金髪で、一目で外国人だと分かった。集落は『仁志が外国人の嫁を連れてきた』と年寄りから子供まで大騒ぎになった。仁志はラバウルで一緒だった艦娘だと説明していたが、集落の人達は最早結婚するんだろと言わんばかりだった。私的にはしっかりしてそうな子だから、全然OK何だけれど……。



・・・



母「あの子、ちゃんとやってるかしら?」


こないだ見た雑誌で、ご飯が美味しいし、艦娘達や地元住民達との関係も良好だと評判の警備府として紹介されていた。何となく、あの子のことだから艦娘達の好意をちゃんと気付いてあげられているかが甚だ疑問。母の心配事は尽きません……。





~ここからは作者がお送りします~



作者です。ひとまず、この作品はこれにて終了となります。ザッと書きたいものも書いたので。最近は仕事でとんでもない爆弾を上から押し付けられて毎日がデスマーチですよ。残業残業また残業。デッドラインはあと少しです。(白目)


で、こんな死にかけですが、1つ告知を……。沼島警備府の日常シリーズ主人公、風川仁志の弟のスピンオフ作品と、ウマ娘の二次創作を近日公開予定です。順番はどっちが先かは分かりませんが、遅くとも7月までには公開させようと思ってますので、よろしくお願いします……。(予定の変更もあるため、確約はできませんが……)





後書き

スピンオフ作品作成中。風川提督の弟が主人公です。沼島警備府の日常の続編?知らんな(需要と作者の気力体力があれば書く)

執筆中の作品があるのに、次々にアイデアが浮かんで、新しい話を量産して詰む作者の悪い癖が出始める。

仕事が忙しくて中々更新できなくて申し訳ない……


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2022-05-08 20:17:49

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1: 頭が高いオジギ草 2022-05-22 13:19:00 ID: S:fs_9dR

更新ありがとうございます。お疲れさまでした。
背景を知って本編がさらに面白くなりました。
本編、裏話ともに「ひとまず」であってほしいのが本音ですが…


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1: やまちゃん 2022-03-30 01:54:16 ID: S:pGnas3

本編では語られなかった物語や疑問だった事がこの作品で明かされ、完結した本編を再度読むときにまた違った視点で物語や登場人物の心情を読み解くができると思います。また、この作者様が書かれた作品全体に言えることですが大変読みやすく容易に物語の世界に入り込む(?)事ができると思います。


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