クォーター提督がブラック鎮守府にやって来る3
概要
非人権派との騒動で入院していた清太。無事に退院することができたが、謹慎期間が残っているせいで江ノ島鎮守府に戻れない事態が発生。祖母の大和が下した決断は……。
前書き
この話はクォーター提督がブラック鎮守府にやってくるの第三作目となります。
面倒かと思いますが、『クォーター提督がブラック鎮守府にやってくる』と『クォーター提督がブラック鎮守府にやってくる2』を読んでいただいてから呼んだ方が内容が分かるかと思いますので、何卒ご理解いただきますようお願い申し上げます。
ー江ノ島鎮守府 執務室ー
大和「清太の退院後の居場所だけど、準子さんのアパートを借りてるガングートの部屋に同棲させるわ」
亮太「湘南を火の海にするつもりですか?」
江ノ島鎮守府の執務室。淡々とした様子で話す大和に、提督代行兼軍医の新見亮太と、艦娘達に銃や剣の扱いを教えるために来ている真柴組若頭、真柴次郎は呆れた様子で顔を見合わせた。
次郎「他にもっといい方法があったでしょう?というか、あんたらが引き取れば済むだろ?」
大和「そうもいかないのよ。知ってると思うけど清太はほっといたら何処に行くか分からないから監視役は必須だし、私や元帥はともかく家族との折り合いも悪いし」
亮太「……江ノ島鎮守府には入れられないもんな」
清太は謹慎処分。その内容の中に江ノ島鎮守府への立ち入り禁止も含まれている。江ノ島鎮守府で謹慎はできないのだ。まもなく清太は退院するのだが、未だに何処で静養するのか決まっていなかった。
大和「準子さんの家も考えたけれど、お子さんもいるから迷惑もかけられないし」
亮太「寧ろその方がいいかもしれないです」
次郎「清太、子守できるしな」
大和「ともかく、もう決まったことだから」
~2週間後~
ーガングートの部屋ー
ガングート「……」
清太「……」
ガングート・清太「「どうしてこうなった」」
2週間後退院するなり大和に車に押し込められ、そのままガングートの部屋に放り込まれた清太は、机を挟んでガングートと頭を抱えていた。いい年した男と艦娘の同棲。世間が見ればカップルに見えるだろう。
ガングート「これ、江ノ島鎮守府の艦娘達に見つかったらただでは済まないのではないか?」
清太「あのババア絶対俺を殺しに掛かってる」
ガングート「違いない」
鈴音「それよりご飯にしない?おなか空いた」
清太とガングートが振り返ると、いつの間にか鈴音がお腹をさすりながら座っていた。
清太「おま、一体何処から……」
鈴音「そこの隠し戸。私の部屋、ガングートさんの隣だもん。私の部屋、元々清太兄ちゃんの部屋でしょ」
あの騒動の後、鈴音は清太の借りていた部屋に住んでいる。ガングートは亮太が借りていた部屋のため、隠し戸は健在。普段は大家の鷹野一家と食事をするのだが、時折ガングートと食事をすることもあるらしい。
清太「何で潰してないんだよあの隠し戸」
鈴音「取り壊すつもりが、すぐに私達が入ったからだってさ。同性だし問題ないだろうから、私達が出ていくまではそのままだってさ」
清太「それでいいのか準子さん……」
鈴音「あ、そうそう。今度学校で進路について保護者と話したいって担任が言ってたけど、どうするの?」
清太「しゃーない。俺が行く」
ガングート「元帥達じゃなくていいのか」
清太「どうせあの2人は仕事に追われて無理だろうしな。ここは暇人の俺が行くしかない」
鈴音(本当に大丈夫かな……)
ー数日後ー
ー中学校ー
担任「えー……っと……西条さんの保護者の方ですか?」
清太「ええ。一応」
担任「ふむ……」
数日後。清太は鈴音と共に中学校の進路指導室にいた。担任は清太と鈴音を見比べると、しきりに銀縁眼鏡を触っている。
担任「ご兄妹ですか?」
清太「いえ、事情がありまして。養子縁組をしていますので、父親になります」
担任「……そうですか。では、進路なんですが……西条。進学でいいんだな?」
担任の言葉に鈴音は頷く。その様子を見た担任はホッとしたような顔になると、持っていた学校のパンフレットを数冊並べた。
担任「個人的には進学して貰いたかったので、ホッとしています。神奈川の高校に通いたいとのことですので、自宅から通えそうな学校を幾つか調べて見ました」
清太「そうですか。態々ありがとうございます」
担任「それで、進路なんですが……」
机に並べられたパンフレットに書かれた学校名を見た清太は、頭の中で考え込んだ。鈴音の成績がどれほどなのか全く分からないが、見栄とか抜きにして、できれば少しでも良いところに行って欲しい。清太自身、神奈川の高校出身のため、ある程度の高校は分かる。
清太「随分幅広いですね。公立私立や偏差値のピンキリもですけど、色んなコースがある学校もありますし」
担任「ええ。一応ご存じかと思いますが、先日の模試の成績、鈴音さんは総合偏差値69です」
担任の言葉に清太は飲みかけたお茶を吹き掛けた。盛大にむせる清太を、横で鈴音が睨み付けている。
担任「大丈夫ですか?」
清太「ごほっ、ごほっ……すみません。模試の結果を聞いてなかったもので……へ、偏差値69ですか?」
担任「ええ。なので、オススメは辻堂高校の特進コースですね。ここは公立ですが工業科や商業科もあり、大学進学にも高卒での就職にも強いです。自由な校風で艦娘達の子供達も通いやすいのもポイントですね」
清太「成程……」
担任「他には……」
そう言って担任は色んな高校をあげた。どれも県内でそれなりに名が通っている進学校。清太はしばらく担任の話を聞いていたが、担任の話が途切れたところで鈴音の方を見た。
清太「鈴音はどうしたい?」
鈴音「私は……」
鈴音はパンフレットを手に取りパラパラとめくっていたが、やがて清太の方を見た。
鈴音「この中で、家から一番近いのは?」
清太「んー……今の家からなら辻堂か?他も電車とかバス使うならあんまり変わらないけどな」
鈴音「じゃ、辻堂高校を第一志望で」
担任「そうか。わかった。ただ、今の偏差値じゃ特進コースの安全圏じゃないから、もう少し頑張る必要があるぞ」
鈴音「はい」
その後、併願先などを決めて、鈴音の進路相談は終了した。
~数分後~
ー帰り道ー
鈴音「清太兄ちゃん、私の偏差値聞いてびっくりしたでしょ」
清太「もっとアホなのかとは思った」
鈴音「何よそれ」
清太「まぁいいじゃないか。辻堂って言えば名門だしな」
ふくれっ面をする鈴音を適当に宥めながら清太は笑った。幼いときと変わらず、鈴音は不機嫌なときはふくれっ面になる。
鈴音「そう言えば清太兄ちゃんは何処の学校なの?」
清太「辻堂」
鈴音「……」
清太の言葉に鈴音の足が止まる。鈴音が付いてこないことに気付いた清太は振り返った。
清太「……何だ?」
鈴音「え?本当に?」
清太「本当だっつーの」
早く帰るぞ。と言い、清太は鈴音にヘルメットを渡した。鈴音は腑に落ちない様子だったが、ヘルメットを被ると、バイクに跨がった。
~1時間後~
ーガングートの部屋ー
ガングート「……で?無事に終わったのか?」
清太「ああ」
ガングート「そうか」
清太「おい。なんでそんなほっとした顔になるんだよ」
1時間後。ガングートの部屋に戻った清太は、ガングートと話していた。清太の言葉に、ガングートはコーヒーを啜りながら笑う。
ガングート「いや、貴様のことだから教師が失言をすれば半殺しにでもしそうだからな」
清太「……否定はしない」
ガングート「否定しろ」
清太「大事な子なんだから、当たり前だろう?」
ガングート「実の親でもそこまでしたらただのモンスターペアレントだ」
呆れた奴だ。とガングートはため息をつくと空になったマグカップを持って立ち上がった。
ガングート「今日の晩飯はどうする?」
清太「任せる。あ、強いて言うならロシア料理が食べてみたい」
ガングート「ならボルシチでも作ってやろう」
ー江ノ島鎮守府 執務室ー
金剛「ヘーイドクター!!テートクは何処に居るのデース!!」
亮太「知らん」
榛名「榛名、全力で、自白させます!!」
亮太「落ち着け」
清太がボルシチに舌鼓を打っている頃、江ノ島鎮守府では亮太と一部艦娘達との間で攻防戦が繰り広げられていた。
亮太「そもそも、あいつは謹慎期間だから、江ノ島鎮守府には戻ってこれないんだぞ」
金剛「それでも会いたいデース!!」
榛名「会うこと自体には問題はないのでは?」
亮太「接触禁止令が大和から出されている。だからダメだ。つーか俺も知らんし(大嘘)」
金剛「いいから会わせるデース!!」
亮太「だぁもぅうるせぇ!!」
~20分後~
ー食堂ー
次郎「ん?」
亮太「」チーン
次郎「おぉう……」
20分後。誰もいない食堂で、亮太は白目を剥いて座っていた。偶々通りがかった次郎は亮太の向かいの席に座ると足を組んだ。
次郎「大丈夫か?」
亮太「しばくぞボケ」
次郎「うん、大丈夫ではないな」
亮太「マジで業務進まねぇ。もう逃げたいんだけど」
次郎「無理だな」
亮太「いやどう考えても逃げ一択だろ!!毎日毎日毎日アイツの居場所を聞かれ続ける苦労を味わってみるか?いや味わえ」
次郎「それに関しては俺もほぼ毎日聞かれてるから、替わったところで意味ねぇな」
亮太「まさかだけど、アイツこのまま戻ってこないとかないよな?」
次郎「ははは。ないない……多分」メソラシ
亮太「そこは嘘でも戻って来るって言うところだろうが!!えぇコラテメェ俺に過労死しろってか?オォン?」
次郎「テメェは一々情緒不安定になってんじゃねぇ!!」
そういって次郎は懐からハイライトとジッポーを出すと火を付けた。いつの間にか亮太もピースを咥えている。
亮太「……鹿島灘に援軍部隊を送るように大本営から依頼が来ている」
次郎「いいんじゃねぇの?つーか断るのは無理だろ」
亮太「だよなぁ……。まぁ城ヶ島の田所中佐と一緒みたいだし、大丈夫だろうけど」
次郎「と言うよりも俺の記憶じゃ鹿島灘ってそこそこの戦力が揃ってたよな?そんなに逼迫してるのか?」
鹿島灘には日立鎮守府を中心に、幾つかの警備府などが点在している。深海棲艦の出没率も高く、ここ2,3年しばしば小規模な空襲や艦砲射撃攻撃も行われている。それ故関東ではそれなりの戦力を常時維持している。
亮太「何でもアホみたいに強い深海棲艦の集団がいるんだと」
次郎「姫級か?」
亮太「いいや。俺も写真を見た訳じゃないけど、どの姫級にも外見が該当しないそうだ」
次郎「ふーん……もう清太を送っちまえばいいんじゃね?」
亮太「一瞬でカタ付けてくれそうだな」
次郎・亮太「「ははは!!」」
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