2015-07-29 22:23:21 更新

[前編: たまには特撮みたいに ]


櫻子の乗るバスは峠にさしかかっていた。


櫻子(あーあ、家出してきちゃった)


櫻子(別に目的地があるわけでもなくこのバスに乗ってしまった・・・。)


櫻子(どうしよう、このままだと他県に出ちゃうよぉ)


櫻子(そういやお腹減ったな)


時計を見れば、もうすぐ正午。今朝家出してきたばかりの櫻子は、その日まだ何も口にしていなかった。


櫻子(次の駅で降りよう)


櫻子(次っていっても、何十分後か分からないけれど)


櫻子(まあそれまで寝ていよう。寝れば空腹も忘れていられるだろう)


居眠りを始めた櫻子の服のポケットから携帯電話がすべり落ちた。それを、隣に座っていた女の子が拾った


女の子「落としましたよ」


櫻子「あ、すいません、どうも」


櫻子(この女の子、一人でバスに乗ってる・・・私と同じく家出少女かな?)


櫻子はまた居眠りを始めた。事件が起きたのはその直後だった。


運転手「ん・・・あれ、視界が?」


運転手の視界が紫色に染まっていった。当然運転など出来る状況ではない


運転手「うわああああああ」


バスはその先にあったカーブを曲がれず、真っ逆さまに峠から落ちていった。櫻子は気を失った


          *


櫻子「はれ?」


気づくと櫻子は岩場に倒れていた。崖の、かなり高い位置だ。櫻子はバスから投げ出されたので助かったのだ。下を見ると、バスが横転しているのが見えた。そして、隣にはさっきの女の子が倒れている


櫻子「だっ、大丈夫ですか?」ユッサユッサ


女の子「あ、うん・・・。(目を覚ます)」


揺さぶったからか、女の子のものらしきネックレスがぽとんと地面に落ちた。


櫻子「おや?」


ネックレスにはカプセルのような飾りがついていた。


櫻子「面白い形してるな・・・。」


女の子「こっ、これは!」


櫻子「あっごめんなさい、大切なものでしたよね?」


女の子「は、はい・・・すいません、大きな声だして・・・。」


櫻子「いえいえ。あっそうだ、ちょっと私は下を見てきますね」


櫻子はそろりそろりと崖を下り、横転しているのバスに近寄っていった。


櫻子「おかしいな、あれだけの事故というのに、死体が全く無い。かといって生存者の姿も見えない。バスの中はもぬけの空だ・・・。」


櫻子「どうしよう、ここ電波通じるかな・・・?」


何気なく上を見ると、さっきの女の子が崖を登っていくのが見えた。


櫻子「あれ、どこへ行くつもりなんだろう?」


櫻子「この先に・・・いや街は無いと思ったがな・・・私の勘違いかな?」


櫻子「このまま歩いて引き返してもいいけど、ちょっと家まで距離がありすぎる。彼女はこの近くに集落か何かを知っているのかもしれない。」


櫻子「どうせもうすぐ救助も来るだろうから、それまで彼女についていこう」


櫻子「・・・っとその前に」


櫻子は崖を登りながら携帯電話で電話をかけた。連絡先は姉・撫子である。


撫子『もしもし』


櫻子「あ、ねーちゃん?」


撫子『櫻子!今何処にいんの?』


櫻子「バスに乗ったんだけど、そのバスが事故起こしちゃって・・・。」


撫子『無事なの!?』


櫻子「うん。警察とかはまだ来ないみたいだから、それまで同じ乗客だった人と一緒にいるね。現在地が分かったらまた連絡s・・・!」


櫻子は足元の崩れやすい岩を踏んでしまった!態勢を崩しかけた櫻子だったが、しかし転落はしないで済んだ。その代わり、携帯電話が櫻子の手を離れ崖を落ちていって破損した。


櫻子「あーしまった壊しちゃった・・・。」


その時、大室家では


撫子「櫻子!?大丈夫なの!?櫻子!」


花子「櫻子おねーちゃんからなの?」


撫子「うん、事故に遭ったって・・・なんか途中で切れちゃった・・・」


撫子「・・・・・・」


撫子「私やっぱり心配だから行ってくるわ」


花子「い・・・行ってらっしゃい」


撫子(警察署に訊けば分かるだろう)


          *


女の子が向かった先は宇宙線研究所だった。中を覗いてみるが、しんと静まり返っている。誰もいないのか?女の子がそう思っていると、中から所員らしき白衣の男性が出てきた


所員「おやおや、小さなお客様だ。どなたですかな」


女の子「こちらでお世話になっている、古谷博士の娘の古谷向日葵です。父に会いに参ったのですが・・・。」


所員「おお、古谷博士の。お待ちください、今呼んで参ります、こちらの部屋でおかけになって下さい」


向日葵(女の子)「あの、実は・・・。」


所員「どうぞ」


向日葵「はぁ・・・。」


向日葵は部屋に入り、パイプ椅子に腰を下ろした。すると所員は隣の部屋に入った。どうやら隣にある機械から見えない電磁波を出して向日葵の体を分析しているらしかった


所員「IQ145、生態番号898。標本に適当」


しばらくして、所員は向日葵のいる部屋に戻ってきた。


向日葵「あの、父は・・・。」


所員「今参ります。おかけになって、どうぞ」


向日葵「あの、実は先日こちらに電話したんですけれど、誰も出なくて・・・。」


所員「通信系統が故障しております。只今全所員をもって修理にあたっています」


向日葵「はぁ・・・。」


向日葵「一昨日は父が家に帰ってくる筈だったんですけれど、帰ってこないし何の連絡も無いものですから、こうしてお邪魔しました。父は何か言ってませんでしたか?」


所員「さぁ私は何も・・・。ただ、博士はお忙しそうでした。あなたもお父さんのお仕事を邪魔するものではありませんよ」


向日葵「はい・・・。」


向日葵は思わぬ説教を食らって俯く。その時、彼女は机にチョークで何か文字が書かれているのに気がついた。


『SOS DADA』


向日葵(DADA・・・何のことかしら?)


向日葵(しかもSOSって・・・訊いてみようかしら・・・いやでもこれがイタズラ書きだったらこっちが馬鹿みたいに思われる。ここは・・・)


向日葵は試しに机の上のビーカーを持ち上げ、わざと音をたてて机の上に置いてみた。所員はびっくりしてこちらに振り向く。その視界に、例の文字が入った。


所員「見たなぁ!」


所員は、いやもう彼が所員でないことは明らかであろう。奴は宇宙人の姿に戻って向日葵に襲いかかった!


向日葵「きゃあ!」


そこに向日葵のあとを追っていた櫻子が駆け込んできた。櫻子は椅子を持ち上げると、それで思いっきり宇宙人の頭を殴り付けた。


宇宙人「うっ」


宇宙人は頭をおさえると、そのまま消えて見えなくなった。


向日葵「今のは!?」


櫻子「分かりません。他の部屋も見てみたんですが、誰もいないんです。今この建物は、奴に占拠されてるんです!」


向日葵「何ですって!?は、早く出ましょう」


櫻子「そうですね、行きましょう」


          *


その頃、警察署にて


撫子「すいません。今日バスの事故ってありました?」


署員「バスの事故?今日は無いと思うけど・・・。」


撫子「うそっ・・・。じゃ、じゃあ、遅延してるバスとかありません?山越えの路線とかで」


署員「あんなもおかしなこと訊くねぇ。遅延かぁ、そういう報告は入ってないけど、念のため調べようか?」


撫子「お願いします」


撫子(おかしいぞ・・・。)


撫子(櫻子の話ぶりだと、ニュースになってもおかしくなさそうな感じだったのに)


撫子(これはただの事故じゃない。何かあるな)


          *


宇宙線研究所、廊下にて。櫻子と向日葵が走っていると、壁をすり抜けて赤目の宇宙人が現れた。手には不思議な銃を持っている。


櫻子「反対方向に逃げよう!」


向日葵「は、はい!」


しかし赤目の宇宙人からうまく逃げられたと思ったら、今度は青目の宇宙人が現れる。


向日葵「うわぁ!」


櫻子「走り続けて!」


櫻子「しかし、壁をすり抜けるなんて、これじゃあどこに逃げたらいいのか・・・。」


向日葵「いったん貯蔵室に逃げ込みましょう」


櫻子「貯蔵室ですか?」


向日葵「貯蔵室の壁はあらゆる宇宙線を遮る特殊重金属で出来ています。奴も入ってこられない筈です」


櫻子「よし!」


青目の宇宙人がいなくなったところで今度は黄色い目の宇宙人も現れたが、二人はそれもうまくかわし、貯蔵室に逃げ込んで鍵をしめた。


向日葵「ふぅ、とりあえずうまくいきましたわ」


櫻子「奴らは変な武器は持ってるだけど、腕力は弱いみたいだからな」


向日葵「でも、これからどうしましょう・・・。」


          *


その頃、赤目の宇宙人は一人で通信機の前に座っていた。通信の相手は、どうやら自分の星にいる上司のようだった。


宇宙人「この研究所の職員と、偽物のバスに乗せて連れ去った人間どもから4体が標本に適当と判断。すぐそちらに転送します」


通信機『指定した標本は6体!』


宇宙人「分かっています。今研究所内に標本に適当と思われる人間2体を閉じ込めています」


通信機『急げ、時間が無いぞ。すぐその2体を人間標本5・6として転送するのだ』


宇宙人「分かりました。ただちに」


[後編: 人間標本5・6 ]


あかり「櫻子ちゃん起きて!もう放課後だよ?」


櫻子「ふぇ?」


ちなつ「もう櫻子ちゃんったら・・・先生にはばれてないみたいで良かったね」


櫻子「ここは・・・七森中の教室か」


櫻子(夢を見ていた気がする・・・。)


あかり「今日京子ちゃんが風邪でお休みだから部活は無いの。」


櫻子「きょうっ・・・ああ、歳納先輩か」


あかり「?」


櫻子「いや、なんでもない。続けて」


ちなつ「続けてって・・・一緒に帰らない?ってことなんだけど」


あかり「ごらく部も生徒会も無い時はいつも一緒に帰ってるよねぇ?」


櫻子「ふぇ?あ、ああ、そうだね。じゃあ生徒会に今日仕事が無いことだけ確認してくるね」


あかり「わぁい」


櫻子「じゃあ3人で帰ろう」


あかり「あれ?向日葵ちゃんは?」


櫻子「え?ああ、向日葵もか。4人か」


ちなつ「ねぇ櫻子ちゃん、今日変じゃない?」


あかり「大丈夫?私達のこと分かる?」


櫻子「ちょっ、からかわないでよ。赤座あかりちゃんと、吉川ちなつちゃん。ちゃんと言えるよ」


櫻子(赤座あかりと吉川ちなつ・・・うん、あってるよな)


櫻子「じゃあ生徒会に行ってくるよ」


廊下に出ると、辺りは真っ暗だった


櫻子「放課後になるともう暗くなっちゃうんだねぇ」


あかり「何言ってるの櫻子ちゃん、だってもう冬だよ?」


櫻子「そうか・・・もう冬だったか・・・。」


ちなつ「冬『だったか』って、何かの詩?」


櫻子「いやぁ、なんか急に冬になった気がするっていうか」


あかり「そういう時もあるよねぇ」


ちなつ「へぇ」


          *


生徒会室にて


櫻子「こんつわー、あっ」


櫻子が入室すると、急に部屋の電気が消え、目の前が真っ暗になった。


綾乃「きゃ、きゃあ!」


千歳「大室さんが体でスイッチ押してまったんやなー」


向日葵「ちょっと櫻子!?早くつけて下さる!?」


松本「・・・・・・・」


櫻子(・・・・・・・)


向日葵「櫻子!?あれ、スイッチどこにあるんですの・・・」


櫻子(・・・・・・)


櫻子(前にもこんな暗い部屋の中で、閉じ込められたことがあったような・・・。)


『実は私・・・家出してきたんです。でもこんなことになるんだったら、やめておけばよかった』


『まぁ、家出?一体何があったんですの?』


『私、先月の受験で県内の有名中学に受かって来月からそこに通うんです。だから今のうちに遊んどこーと思って毎日出かけてたら、親が少しは勉強しなさい、あなたはたまたま受かったようなもんなんだから4月から勉強に乗り遅れないようにしなさいってうるさくて』


『あらそう・・・。ってことは大室さん今小6なんですの?』


『そうですけど?』


『じゃあ私と同じ年齢なんですわね。』


『えっ、そうは見えないけど・・・。』


『そ、そうですか?』


『だってそのおっp・・・まぁいいや、じゃあなんだ、敬語使う必要無かったんじゃーん』


『いや、同学年でも初対面だったら敬語を使うと思いますけれど・・・。』


『何はともあれ、こんなところに一緒に閉じ込められたのも何かの縁、よろしくね、古谷ちゃん』


『はい、大室さん』


向日葵「櫻子、櫻子?あ、段々目が馴れてきた。パチッと」


向日葵がスイッチを押し、再び生徒会室に明かりがともった


向日葵「何ボケーっとしてるんですの?」


櫻子「ああごめんごめん、ちょっとね」


櫻子(今の記憶は何だろう...)


櫻子「あ、そうだ杉浦先輩。今日仕事何かありますかー?」


綾乃「特に無いわよ。私ももうすぐ帰るし」


櫻子「おっ、じゃあ向日葵帰ろうぜー」


向日葵「ごめんなさい、私こないだの報告書でミスをしてしまったようですの。それだけ直さなきゃいけませんから、櫻子先に帰っててくれます?」


櫻子「ミスだってぇ~そんなんで生徒副会長選に出るのかぁ~?」


向日葵「ムカッ。今回のミスの分を差し引いても、私の方が生徒会に貢献していると思いますけれど?」


綾乃「ちょ、ちょっと二人ともぉ・・・。」


千歳「あはは、いつものことやでぇ~」


櫻子(そうだ、向日葵とは幼なじみで、いつもこうやって言い合いして・・・。)


櫻子(じゃあさっきの記憶はなんなんだ?)


向日葵「あれ、何も言い返さないんですの?」


櫻子「え?あっ、その、今日は疲れたんだよばーか。櫻子様はこれで帰るけど、後で私に勉強教えんの忘れんなよー」退室


向日葵「まったく、なんなんですの・・・。」


          *


ちなつ「じゃあ、ここでお別れだね」


あかり「また明日ね~」


櫻子「はーい、また明日~」


櫻子はあかり・ちなつと別れ、家までの帰り道を一人で歩き始めた。


櫻子(何だったんだろう、さっきの記憶は)


櫻子(会話の中で出てきた学校って、きっと七森中のことだよな・・・)


櫻子(それにしては、七森中を受験した記憶が無い)


櫻子(十ヶ月くらい前のことの筈なのに・・・)


櫻子(あと、会話の相手は明らかに向日葵だったが、向日葵と初対面の時の記憶なのか?)


櫻子(でも、向日葵とは幼なじみの筈だしな・・・。)


櫻子(一体何がどうなってるんだ?)


考えているうちに櫻子は家に着いた。


櫻子「ただいまー」


花子「おかえり櫻子お姉ちゃん」


櫻子「ねーちゃんは?」


花子「部屋。お友達来てるっぼいし」


櫻子(そういえばねーちゃんの友達って誰だろう・・・)


櫻子(一度くらい見たことあったっておかしくない筈なのに・・・)


櫻子(本当に実在するのだろうか?)


櫻子(いや何考えてんだ、UMAじゃあるまいし)


花子「・・・櫻子おねーちゃん」


櫻子「あーねーちゃん遊んでんのか羨ましーなー私も向日葵んとこ行ってこよ」


花子「櫻子おねーちゃんは遊ぶ前にまず勉強教えてもらえし」


櫻子「なんだよお前までムカムカムカッ。私だって一応受験で有名中学に・・・」


櫻子「有名中学に・・・」


櫻子「ねぇ、七森中って有名中学か?」


花子「うーん、近所だからこの辺りでは有名だし」


櫻子「おっそうか」


櫻子(違うっぽいな・・・)


櫻子「よぅし向日葵もう帰ってるか見てくるぞー」


          *


櫻子「向日葵もう帰ってるかー?」


向日葵「今丁度帰ったところですわ」


櫻子「よぅし宿題やろう。今日の櫻子様はやる気なんだ偉いだろう。」


向日葵「あら、珍しいですわね。じゃあ早速、ケーキでも食べながら一緒にやりましょう」


櫻子「ふふーん」


宿題中...


向日葵「櫻子・・・なんでこんなことが分からないんですの?ここはこの点での接線を考えて・・・」


櫻子「あー分からん分からん!だって習った記憶無いもん!」


櫻子「習った記憶が・・・無い」


向日葵「はぁ?何言ってるんですの?どうせ櫻子が寝てたんでしょう」


櫻子「じゃあ向日葵は分かる?」


向日葵「私は勿論分かりますわよ。習いましたもの」


櫻子「そうじゃなくて、いつ習ったか。二次関数なんて、いつ習った?」


向日葵「今は冬ですから、一学期か二学期に習ったんですわ」


櫻子「具体的にいつ?」


向日葵「えーっと・・・思い出せませんけれど、別に知識が定着してれば、いつ習ったかなんて・・・。」


櫻子「向日葵はなんで幼なじみの私に対しても敬語なの?まるで、さっき知り合ったばかりの人のように」


向日葵「さっきからなんなんですの?」


櫻子「やっぱり、おかしい」


向日葵「へ?」


櫻子「向日葵!ちょっと来て!」


          *


大室家


向日葵「ちょっと、なんで私が押し入れの中に入らなきゃいけないんですの?」


櫻子「いいからいいから。私も一緒に入るから」


櫻子が押し入れの扉を閉めると、櫻子と向日葵は真っ暗な空間に二人きりになった


櫻子「ねぇ、二人っきりでこんな暗闇に閉じ込められたことあったよね」


向日葵「そうでしたっけ?」


櫻子「私は家出しててね、その時が向日葵との初対面だった」


向日葵「は?私とあなたは幼なじみではなくて?」


櫻子「そうじゃないんだ。それから私は七森中じゃなくてどこか別の中学を受験していた。」


向日葵「ちょっと櫻子...」


櫻子「でも、なんで閉じ込められてたのか、その後どうなったのか、それがどうしても思い出せない。だからどうしても向日葵に思い出して欲しいんだ」


向日葵「もう暑いから出ますわ」


向日葵、押し入れから出る


櫻子「向日葵!私真面目なんだよ!?」


向日葵「変な空想に付き合わせないでいただけます?」


向日葵「それに、櫻子とは長い付き合いだと思って何かの縁を感じてましたのに・・・それを否定するなんて・・・私悲しいですわ・・・。」


櫻子「向日葵・・・」


そこに撫子がやって来た。


撫子「あれ、ひま子じゃん、こんにちは」


向日葵「あっ、お邪魔してます」


櫻子「ねーちゃん、お友達は?」


撫子「帰ったよもう」


櫻子「もう?随分と早いね」


櫻子(不自然な流れだ・・・。)


撫子「うん。大した用事じゃなかったみたい。それよりさぁ、二人ってホントに仲がいいんだね」


向日葵「そうですか?」


撫子「昔はさぁ、婚姻届とか書いてたよね。どっちが夫でどっちが妻になるかでもめててさぁ」


向日葵「そんなことありましたっけ?」


櫻子「そんな記憶ある?」


向日葵「ありませんわ。でも、忘れてるだけかもしれませんし・・・。」


櫻子「いや、そんなことはない。私と向日葵は小6の時に知り合った。だから婚姻届なんて書いてない」


撫子「うーん、じゃああれは?花子の服を楓にあげたことは?」


櫻子「あげてない」


櫻子「ねぇ向日葵思い出してよ。暗い部屋に閉じ込められた時のことを。私達には、もうあの時の記憶しか手がかりは残っていないんだ。お願いだよ」


向日葵「そう言われましても・・・。」


櫻子「あの時向日葵ペンダントつけてたじゃん。カプセルだっけ?いや、カプセルがついたペンダントだ。そうでしょ?」


何故そこでペンダントのことを口にする気になったのか、櫻子本人にも分からなかった。だがその瞬間、向日葵の胸にあのペンダントが現れたのだ!


向日葵「え・・・!」


櫻子「そう、これこれ!でもなんで急に・・・どこから現れたの?」


向日葵「これは・・・ベータカプセル・・・父が私に持たせてくれた・・・はうっ」


向日葵「父・・・研究所・・・宇宙人・・・SOS・・・DADA・・・」


ベータカプセルが光り、櫻子と向日葵は全てを思い出した。


櫻子「そうだ、私達は宇宙人に捕まって・・・」


向日葵「体はそのまま眠らされ、意識だけ仮想空間に飛ばされそこで生活させられる・・・」 


櫻子「人間の行動パターン、感情パターンを観察出来る、生きた標本・・・そうだ!ここは偽物の世界なんだ!」


向日葵「じゃあ、赤座さんも、吉川さんも・・・」


櫻子「歳納先輩も船見先輩も、生徒会の人達も、みんな実在しないんだ。」


向日葵「みんなで海に行ったのも、ごらく部で寝泊まりしたのも、キャンプに行ったのも・・・」


櫻子「全ては約2時間前に私達の頭にすりこまれた設定なんだよ」


向日葵「そうだ・・・でも大室さん、この仮想空間から出るには一体どうしたら?」


櫻子「簡単だ。この世界が偽物であると分かった以上、ここから出たいと強く願えばいいんだ」


向日葵「ここから・・・出たい・・・?」


櫻子「そう!私はこの世界を脱出したい!」


向日葵「元の場所に帰りたい!」


するとベータカプセルが光り、目の前にいる撫子の像がぐちゃぐちゃと溶け始めた。人物だけじゃない、大室家の家具や壁や足元の色々なもの、全ての目に写る映像が崩れていき、気づけば二人は研究所に戻っていた。二人の上で、様々な器具をつけられた状態で横たわっていた。


宇宙人「術が・・・破れた・・・!」


もがき苦しむ宇宙人。その顔が赤目から青目、黄色い目のものへと不規則に変わっていく。


向日葵「彼には顔が3つあるの・・・?」


櫻子「奴は一匹だったんだ」


櫻子と向日葵は体についた様々な器具をむしり取ると、宇宙人の最期を見届け、研究所を出た。


櫻子「やっと出られた。大変な目に遭ったよ・・・。これで解決か」


向日葵「でも私・・・これで父を失ってしまいましたわ・・・。」


櫻子「お母さんは?」


向日葵「私が幼い頃からもういません」


櫻子「そうか、両親がいなくなったわけか・・・。」


向日葵「妹の楓もいるのに・・・困りましたわ」


櫻子(楓は実在するのか)


櫻子「じゃ、じゃあさ、もしよかったら、うちの隣のアパートに越してこない?」


向日葵「え?」


櫻子「あの偽物の記憶みたいにさ。」


櫻子「助け合って生きていこうよ」


向日葵「でも・・・いいんですの?」


そこにサイレンを鳴らしながらパトカーがやって来た。警官達と一緒に降りてきたのは・・・


撫子「櫻子!無事だったの!?」


櫻子「あ、本物のねーちゃんだ」


撫子「何言ってんの?あれ、そっちの方は?」


櫻子「古谷向日葵。私の幼なじみだよん」


向日葵「ちょっ」


櫻子「幼なじみとして、これからよろしくね、向日葵?」


撫子「はぁ?」


向日葵「・・・まったくもう、分かりましたわ。」


向日葵「こちらこそ、よろしくお願いします、大室さん。いや、櫻子」



後書き

ウルトラマン第28話「人間標本5・6」より


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2022-04-08 02:21:45

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