一色いろは・被害者の会 ~黎明篇(前半)~
超熱血シリアスいろはすSS。感動冒険譚開幕
うそです、気楽に読んでください。
設定としては、三年になった八幡のオリジナル展開って感じです。
長くなっちゃったので、今回は前半だけ。続きは来週ぐらいにアップするよ!
※※※※※※※※※※※※
もし星を全て数え終えてしまったら、人は一体どうするのだろうか?
次なる空を探そうか?
悪くない。
あるいは、もう一度数え直すのだろうか?
それも悪くない。
あがいて、もがいて、苦しんで、ひとつひとつを数え直し
確かな数であったのか。どんな光だったのかを思い出す。
その果てに広がる空は、以前と違って見えるのか。
それとも、やっぱり同じ空のままなのだろうか。
……今はまだ答えが出ない。
それでも手を伸ばす。
何度でも、問い直し、考え、求め続ける。
※※※※※※※※※※※※
一色いろは、という人物について考える。
元々高い資質があったのだろう。
クリスマスイベントに始まり、進路相談会、フリーペーパー発刊、バレンタインの手作りチョコ講座、卒業式、そして入学式……
様々な企画に携わっているうちに、一色いろはは、生徒会長としての風格のようなものを纏いつつあった。
卒業式、一年ながら堂々と送辞を述べる、その凛々しい様は今も記憶に新しい。
去年の冬、奉仕部が瓦解の危機にあった時。
こちらの都合など我関せずとばかりに、浅ましくも袖で涙を拭いながら戸を叩いたあの姿を、今は懐かしく思う。
自信に満ち溢れた、先日の立ち振舞いを思い浮かべるに、もうあんな姿を見ることは二度と無いのだろう。
思うに彼女は、弱冠一年で生徒会長に就任したあの日より、常に自力と協調を秤にかけながら、自らを成長させたのではないかと思えてならない。
秤にかけているのなら、自力を誇るにあたって、常に協調を意識せざるを得ない。
逆もしかり、協調は常に自力と向き合うに等しいと言えるだろう。
今や一色は、生徒会、あるいは彼女のコミュニティの枠を出ること無く
かかる脅威と、なすべき事業を、秤にかけながら己の器量だけで成し遂げている。
これを成長と言わずになんというのだろうか……
いつしか由比ヶ浜がそう評したように、彼女についてはもう心配はいらないのだろう。
その事に一抹の寂しさも覚える自分がいる。
しかし、やはり素直に喜ぶべきことなのだろう。
やがて時が流れ、か弱い彼女を知っていたことを、
どこか誇らしげに語る自分がいるのではないか。
……そんな風に考えていた時期が、俺にもありました。
「先輩、先輩、せんぱ~~い!ヤバイんです、ヤバイんです、ちょ~~ヤバイんですよ~~」
えー……なんなの、この子……
学年が変わってすぐのこと。
早々に友達づくりを放棄して、今日も今日とて、ベストプレイスであるところの校舎横の階段で、独りモクモク昼食を摂っていたのだが……
やだ、この子ったら、どこで嗅ぎつけたのかしら……
嫌だなぁ、鬱陶しいなぁと、騒ぐ一色を見やると
「はー……ここは良い風が吹いてきますねぇ」
亜麻色の髪をなびかせながら、少し潮の乗った春風を満喫していた
「ちょっと待て、さっきまでヤバイヤバイ言ってなかったか?何いきなり落ち着いてんだ」
シーン飛んだと思っちゃったじゃねーか。
指摘すると、隣に腰をおろしていた一色は、忙しないことに再びかくりと頭を垂れた。
「そうなんですよぉ……明日は新入生のレクリエーションがあるんですけどー……」
「上手く行ってないのか?」
「ちょっと生徒会で計算違いがあって、今、現場は大混乱なんです……」
下げた頭のまま、上目遣いで、ちらりとこちらを伺う。
ここまで想定通りの挙動です。一色検定二級ぐらい取れそう。
「それでー、もう先輩しか頼れる人がいなくて……今日の放課後、手伝って欲しいかなーって……」
うるるんと瞳が潤む。なにそれ便利だな、ドライアイとか無縁そう。
それにしても春休みを挟んで、しばらく会っていなかったが、相変わらず圧倒されてしまう。
……あざとい、いろはす。略してあざはす。
久しぶりにあったけど、相変わらずあざはすだなー、うん言いにくいな。
「で、まあこの辺り、まだテンプレ通りに行くが、葉山には頼んでないのか?」
「はい……例のごとく、ちょっと葉山先輩には言いにくいっていうか……頼むには重たいっていうか……」
はーーと溜息をついてしまう。成長したと思ったんだけどなー……
「いやな事聞いちまった……帰りしな気が重くなるわ……」
「この流れで、なんで帰ろうとしてるんですか!?」
「いや帰るだろ、むしろこの後、早退して帰宅するまである」
「ないですよ!もーー!……はぁ、相変わらずですね……こんな可愛い後輩が先輩なんかに頼っているというのに……!」
「人間がそう簡単に変わってたまるか」
あ、そうか、だからこいつも変わらないんだな。納得!
っていうかこの子、今「なんか」って言わなかったかな……
「むー……」
どうしてくれようと憎悪を含ませた視線を俺に向けていた一色だが、はたと何かを思いついたのか、小悪魔な笑みを浮かべる。
「……本物」
ボソリと、しかしそれだけで俺を震撼せしめる一言。
「……」
「迎えに来ますね♪今日の放課後」
「……こ、断ると言ったら」
「うえーん!それでも俺はー本物が欲しいー!」
「そんなんじゃ無かったろうが!」
脇をパタパタ、首をフリフリしながら欲しい欲しい言ってる一色の、せめて動きだけでも止めようとする。
ちょっ、もう!パタパタしないで!
あと、半開きの目は、それ俺の真似のつもりなんでしょうか……
「これを先輩の教室でやります」
「今日の放課後ですね、お待ちしております」
かくして交渉、じゃねぇや、脅迫成立である。
ふふんと満足気に笑う一色に、俺は乾いた笑みしか返せないのであった。
あっれ~~……これ下手すりゃ、一生このネタでたかられるんじゃ……
っていうか、冒頭のくだり全く意味なかったな。
※※※※※※※※※※※※
「せ~んぱいっ」
HRが終わり、放課後。
労働の予感に憂いながら、机に突っ伏していたところ、
まだクラスの連中が多数残っている中、昼の宣告通りに一色が現れた。
生徒会長などやっているものだから、一色はそれなりに知名度が高い。
入り口で声を張るその姿に、クラスの何人かが目を向ける……のを気配で感じる。
なにその能力、凄い。
「ちょいと失礼しますねー……」
一学年上のクラスにも物怖じせずにズンズン入っていく。
内心で舌を打つ。
……とっとと廊下に出て、そこで待ってりゃ良かった。
こういう奴なのを失念していたのだ。悪目立ちをしたくないのに……
「迎えに来ましたよー、先輩っ、うりうり」
スマホの角を頭にねじ込んで起こそうとしてくるので、それを軽く手で払う。
先輩を起こすのに、躊躇なくスマホを頭頂にねじ込む後輩に、内心震えながら、俺はボソリと返事をする。
「じゃ行くか」
「はーい!それにしても先輩、清々しいぐらいぼっちですねぇ、皆さん、早くもコロニーを形成してるというのに……三年になったのに、ちっとも変わりませんねー」
早速、心抉ってくるなぁー……
それとね、もうちょっとその……ね?声量落としてくれると先輩、嬉しいなって思うの。
俺のプロフィールを過不足なく級友達に伝える一色に戦慄すら覚える今日このごろ。
本当、なんなの、この後輩……
クラスメートの哀れみとか、そういうのが入り混じった視線にいたたまれなくなり、俺は一色と共に、ただでさえ居づらい教室を後にした。
「……んで、なんだ?どんなトラブルなんだ」
「昼にも話しましたが、ヘビーな状況です。詳細は、実際に来ていただくのが一番早いのかなーと」
「まあ出来る限りのことはするけどな……あんま期待はすんな」
予防線を張っておく。
「いーえ、期待します。さっきの言葉で一生懸命やってくれるんだろうなーって思いましたよ」
「いや、お前な……」
「ふふ、三年になったのに、ちっとも変わりませんねー……」
同じ言葉を繰り返して、一色は少し前を歩く。
どんな顔をしているのか見たかったが、そうすると自分の顔色まで晒してしまう。それは避けたかった。
分かり合いたいとか、理解してほしいわけじゃない。
そんなのは表層の、薄っぺらい押し付けの理解でしか無い。
それでも面映く思うのは、これまでにこいつと、それなりにヘビーな体験を共有してきたからだろうか……
蓄積の有無が、言葉の軽重を生むのなら、真偽の違いも、そこには生じたりするのだろうか?
などと、とりとめないことを考えながらついていくと、通用口の辺りで一色は振り返った。
「えーと、こんな感じなんですけど……」
あまりの存在感に、かえって気付かなかった。
見上げた先、目の前に広がるは、ダンボールの山、山、山。
何十個ともあろう箱が、バレットの上に置かれている。
「っべー、やっべーわ、マジかよーいろはすー、本当にこれ全部、搬入しないといけないんかよー!」
馴染みのある騒がしい声が耳に入ってくる。
戸部かー、久しぶりだなー……
って、待て。
「一色、まさかとは思うが今回のヘルプって」
「はい、これを本日中に、体育館に運び入れてもらいます」
「帰るわ」
「待ってください!昼からずっと言ってたじゃないですかー、重たい内容だって!」
「重量のこととは思わんだろうが、とにかく帰るわ」
「出来る限りのことはするって、さっき言いましたー!」
「期待するなとも言っただろうが、さしあたっては帰るわ」
んー、とりとめなく考えてたこと全部無駄だったな!うん!
袖口にしがみつく一色と、見苦しく引っ張り合いをしていると、
こっちに気付いたのか、戸部が笑顔で話しかけてきた。
「おーー!ヒキタニくんじゃん!ヒキタニくんも、いろはすに捕まえられた系?」
「……お、おう」
こいつも本当に変わらないな、あまりに明け透けな態度にちょっと引いてしまう。
良い奴なんだろうなー……どうでもいいけど。
「……ってそうじゃねぇよ!一色、これこそ葉山に頼むような案件だろうが!俺は肉体労働向いてねんだよ!」
「ダメですよー!葉山先輩はサッカー部の最後の試合に向けて燃えてるんですから!こんな仕事で余計な体力使ってる場合じゃないんですー!」
じゃあ、どうして戸部がいるんですかね……
こいつもサッカー部のレギュラーだったような気がするんだけど……
「戸部先輩はいいんですよ……体力有り余ってるから」
へっと、吐き捨てるようにいう一色。
ねぇ、どうしてそんな戸部の扱い悪いの……?
……などと同情してる場合じゃない。
まさに自分も戸部と同じカテゴリーに組み込まれようとしているのだ。
よくは知らないが、戸部はいつも一色にこき使われている印象がある。
そんな奴と同じカテゴリーになってしまうと、この一年をワクワク奴隷ライフで過ごす未来さえあり得る。
嫌だ、絶対働きたくない。働きたくないその想いにかけては天下無双と名高い、どうも俺です。
掴まれた袖を、指から一本一本引き剥がしていると、またも見知った顔が通りがかる。
「あ、比企谷。君も来てくれたのか?」
制服を腕まくりして、こちらに声をかけてくる人物。
この男にも馴染みがある。
生徒会の催しの度に顔を合わせている一色の懐刀・副会長だ。
名前は本……本、なんだったか?
忘れたけど、この先ずっと副会長で通していいような気がする。
「お、おう」
ってさっきから俺オットセイみたいですね。……やだ、男の子とまともに話せなくなってる!
「はいっ、それじゃあ、話もまとまったところで動いてもらいますよー」
「まとまってねーよ……」
「ここにあるダンボール箱を、体育館のステージ前に積み込んでー、開封して、出していただくだけの簡単なお仕事です♪
終わったら私に報告に来てくださいねー」
「お前はやらねーのな……」
凄い無視した上で話を続ける一色に、せめて嫌味を放つ。
もう、この時点で負けてる気がしなくもない。
「私は明日の段取りやら、リハーサルで忙しいんです」
「もう、会長が直前でノベリティを変えようなんていうから……」
すみませんペコリと、いきなり現れたのは、これまた知古がある。
生徒会の書記を務める書記ちゃんだ。なんかサワーとかそんな感じの名前だった気がするが、今後も書記ちゃんで通して良い気がする。
小動物のような愛くるしい挙動が、荒んだ心に麗しい。
「……そして明らかになる衝撃の事実。あん?直前?計算違いしたのはお前か」
「ちっ、違うんですよ!やっぱりこういうのって実用的なのが欲しいじゃないですかっ!贈答品でボールペンなんて渡されてやる気出る人なんていないですもん!」
「……すみません、そういう訳で、思ったより荷物がかさばってしまって……」
うんうん、いいんだ。あるよね、そういうのって。
再び頭を下げる書記ちゃんに、俺は手だけで鷹揚に返す。
「いつもいつも、本当にすまない、比企谷……」
本当になめてんじゃねぇよ。しっかり手綱握っとかんかい、仕事しろ仕事。
……と思いつつも重ねて詫びる副会長にも、鷹揚に手だけで返す。
「そういうわけなんでー、先輩っ、よろしくです☆
あっ、副会長は労働要員として置いていきますからねー」」
そのあざとさに、我慢の限界が来た俺は、スマホの角を一色の頭頂部に捻じ込んだ
「痛いですって!!もーー、なんですかー!その対応の違いはー!」
「ちょー!いろはすー!まーたお前の尻拭いなのかよー!」
「……は?なんか文句あるんですか?戸部先輩。セクハラで停学にしますよ?」
「あ、いや、ちょっと言ってみただけっつーか、あーーー!!テンション上がってきたわ~!筋トレにちょうどいいわー!」
本当、なんなんでしょうね、この対応の違いは……
こいつ、なんか一色に弱みでも握られてんの?
見たら戸部とかジャージだし、部活前に連行されたんでしょうかね……
とまれ、俺も観念するしかないようで、男三人顔を見合わせる。
頷き合って、腕をまくって、よいしょと荷物にとりかかる。なんか、ちょっと前にも、こんなのあったような気がするな……
※※※※※※※※※※※※
ゼェハァと、最後の一個をステージ前に置いた時には、もう既に日が暮れかけていた。
バレットも横にどけておいてね☆という、追い打ちとも言える一色の非常な指令が下り、また通用門の辺りに引き返す。
最後の力を振り絞り、三人でヨイショヨイショとバレットを用具室の近くの壁に立てらかせて、今度こそ作業は終了である。
三人共クタクタになっていた。さすがに戸部は運動部だけあって、俺達より遥かに体力があったのだが、その分多くの荷物を運んだため、結局俺達と同じぐらいヘバッてしまっている。
ふらふらと体育館前に舞い戻ると、誰からとなくその場に座り込む。
まだ冷たさの残る風が、ほてった体に心地よい。
「はぁ~~……マジで疲れたベー……」
「ごめんな、戸部。うちの会長がいつも迷惑かける……」
「いやいや、いいっしょいいっしょ!あんたが謝ることじゃ全然ねーし!」
襟足をばっさばっさと掻きあげて、ニカッと笑顔でサムズアップを決める戸部。
鬱陶ししいウザいけど良い奴だなぁ……としみじみ思う。
「比企谷にも世話になりっぱなしだな、こんなことじゃいかんとは思うんだが……」
律儀にお礼と謝罪を繰り返す副会長を手で制し、苦笑を返す。
「気にするな、天災みたいなもんだと思ってるよ」
地震・雷・火事・いろはすである。親父の地位を奪って四番手につきました。
「いろはすってばよー、俺達を全然先輩と思ってねー節があっからさー!」
うんうんと俺も頷く。敬愛とか尊崇とかリスペクトとかリフレクティアとか、そうした徳目が彼女には、すっぽ抜けているのだ。
……雪ノ下や由比ヶ浜には、そんな感じでも無かったんだけどなぁ……
「はは、言えてる」
「……生徒会でも、普段、あんたにあんな感じなのか?」
「否定出来ないね……もう完全に舐められてるって感じかな……」
見るからに優しげなあんちゃんだ。一度隙を見せれば際限なく付け込まれそうな、そんな雰囲気を醸し出している。
生徒会室で副会長に対して慇懃無礼に振る舞う、一色の様子が容易に想像できて、思わず身震いする。
「就任したての頃は遠慮があったんだけど、クリスマスイベントが上手く行って自信がついたのかな……あとはもう、どんどんエスカレートして……」
体育座りした膝に顔を埋める副会長に、本当すんませんと頭を下げる。
あー、あれで調子こいちゃいましたか……
「まあ、でも、リーダーだからね。ある程度、人を使うのに躊躇が無い方が、向いてるっちゃ向いてるんだけど……」
「それあるわー……俺なんかこの前、近く通りがかったら、自販機までジュース買いに行かされたべ?」
それ、ただのパシリじゃねぇか……
俺と副会長はおもわず涙ぐんだ。
「これは、もうあれだな……俺達で作るしかなさそうだぞ……」
「ん?何をだい?」
「決まってるだろ『一色いろは・被害者の会』だ」
「ぶはっはっっはっは!なにそれ!?ヒキタニくん!それ、ちょーウケるわー!」
「ははっ!いいかもな」
呵呵と三人で笑い合う。奇妙な連帯感が今の俺達にはあった。
それはあたかも、ブラック企業に務め、ブラック上司の愚痴をブラック居酒屋で言い合うブラック社畜のごとき悲しさも孕んでいたが、思うに学校とは社会の縮図だ。
こうやって愚痴を言い合い発散し、連帯感を高めていくのも、底辺の嗜みとして、学生のうちに身につけておいたほうがいいのだろう多分。
それにしても今まで、陰口を叩かれてきた方だったので、分からなかったけど……うふふ、陰口ってこんなに楽しかったんだぁー……
やっぱ陰口は人生の潤滑油だよねっ!
陰口で生まれる信頼感!
まだまだ愚痴り足りない。何を言ってやろうかと言葉を整理していると、
突然、戸部が立ち上がり、何を思ったか首をころっと傾けて人差し指を唇にあてる。
どうしたの?とべっち……
ちょっと気持ち悪いわよ?などと思っていると、裏声を使い始めた。
「葉山先輩ー?今日はー、このタオルで汗ふいてくれませんかー?」
きゃるんと、上目遣いで首に巻いていたタオルを俺に差し出す。
「――くっ!ブフッ!!」
咄嗟の事に俺は思わず吹き出してしまった。
副会長も、うずくまって震えている。
「ははははは、ひ、ひ……そっくりだ、よ、よし俺もやるよ。とある日の生徒会室の風景!」
副会長も足を組んで座ったかと思うと、空気の机に肘をつく。エアいろはすである。
ぱっと視線をこっちに向けたかと思うと……
「あっ、副会長っこんにちはー!早速ですが、あの机の上にある書類の確認、ぜっんっぶ、よ・ろ・し・くデス☆」
敬礼をしながら、ぱちっとウィンクをしてあざとい笑顔を向ける。
――どっかんどっかんである。
「――ふっ、ブフヒッ!」
「ぶははははは!それもう完全に実写っしょ!副会長マジ笑えるわ!!ぶはははははは!」
突如始まった、いろはすものまね大会。
オーディエンスは早くも最高潮である。
お、俺だって、俺だってできるもん!
いっとき、風呂場で練習していた成果を出す時が来たのだ。
「よし、お前ら見てろ、一色検定二級の俺がやります!――たいして仲良くない女子と会話してるところを葉山が通りすぎたときの一色の変化……!」
「あはははは!」
「もう、それタイトルだけで笑えっから!」
小芝居を始めようとしたその刹那、
ガチャン!
耳障りな金属音が背後から響く。
ぎょっと振り返ると、そこには体育館の扉を閉めた一色が仁王のごとく屹立していた。
「ひっ!」
などと誰が言ったのか、俺が言ったのかもしれない。そうじゃないかもしれない。すみません、俺ですね。
「ふん、ふん、ふん……」
神妙な顔で、俺達の輪の中に入り込む。
ざざっと後ずさった分、一色の周りにスペースが出来た。
一色さんマジ、モーゼ。
「い、一色……、どこから聞いていた?」
「んー、先輩が私のことを天才と言った辺りからでしょうか……」
んー、それかなり最初の方ですねー……あと天才言ってないですねー。
「なるほど、『一色いろは・被害者の会』ですか……」
ぎくっと肩が跳ねる。恐る恐るその御顔を覗きみると、じとーと不満気に俺達を眺めている。
もはや白州の罪人の如くブルブル震えながらお沙汰を待っていると、一色は、おらよっと戸部にスポーツ飲料のペットボトルを渡した。
ほら、オメェもだ……と紅茶を副会長に。
最後に千葉のエナジードリンクとして名高いマックスコーヒーを、にこぱーと満面の笑みで俺に渡した。
うん、良いチョイス。わかってるわー、いろはす、やっぱり分かってるわー……
あー、これ俺に来るやつだわ……笑顔が雄弁に、そう語っている。
にこやかな笑みをはりつける一色が、今は、ただただ、恐ろしい。
「先輩たちを労って、ジュースを差し入れに持ってきた、こーんな可愛い後輩に……なんという仕打ちでしょうねー……お礼があっても良いぐらいですのに……」
およよと目尻に袖をあてる、あざとい仕草は、普段より芝居がかっている。
それに3時間超の重労働を、一人あたり130円で済ませようとして、なおかつ感謝まで強要してくる一色が、今は、ただただ、恐ろしい。
俺達の時給40円ちょいですか…やだ、私の年収低すぎっ!?
「――で、その被害者の会ってー、会長さんは誰なんですか?」
どど、どうしよう!ここはやっぱり戸部か、それとも副会長を指名すべきか……迷っていると、二人は迷わず俺を指さした。
「やっぱり比企谷……かな、発起人だし」
「こーいうのはっ、ヒキタニくんしかいないっしょ!」
こ、こいつら……裏切ったのか……?俺を……!
くそゴミどもっ!腐ってやがる……!お前らっ……!
ざわ……ざわ……
陰口で生まれた信頼感は10分保たなかった。
花に嵐の喩えもあるが、さよならだけが人生だ。
「書記ちゃん、まだ一枠空いてたよねー?」
「え……?あ、はい、同好会の枠のことですね!」
書記ちゃんも控えていたのか、ゴソゴソとクリアファイルから紙を取り出し、一色に応える。
ふむ、と受け取った書類の内容を確認して、一色は再び俺に笑顔を向けた。
「せ~んぱいっ!『一色いろは・被害者の会』ですが、当同好会、生徒会が認可しまーす!」
「……は?」
「本当は3月の春休み前が良かったんですけどねー……会長権限で特別に許可します!
この申請書、明日までに持ってきてくださいね♪」
紙を受け取るも、事態がよく飲み込めない。飲み込めないものは飲み込まない方がいい。真理である。
「何いってんの?お前、俺は別に……」
「うえーん!それでも俺はほん……モガっ!」
思わず一色の頭を抱え、その口を腕でグリグリ塞ぐ。
も、もう!突然何言い出すの、この子ったら……!
「……明日までですね、しばしお待ちください会長」
かくして同じネタでゆすられ続ける、どうも俺です。
「モゴモゴ、生徒会室の隣に、空き教室があります。そこ活動場所として使っていいので……くれぐれも遅れないようにしてくださいね……?先輩」
顔を突き合わせてゴニョゴニョ話し合う俺たちを、戸部と副会長が怪訝そうに伺う。
俺とて話はよく飲み込めないままだ。
飲み込めないが、この同好会を実際に作れ……と一色は言う。それだけは分かる。
さて、一体どうなることやら。きっと良いことではないのだろうなぁ……
と、見上げた空に、気の早い星がキラリと瞬いた。
※※※※※※※※※※※※
翌日、俺と戸部、副会長の三人は
一色にあてがわれた空き教室に集まっていた。
昨日、一色の手ずから渡された同好会の申請書を埋めるためだ。
同好会の名称と構成員を記入する欄の下には、大きく活動内容の欄が設けられている。
「活動内容……と言ってもな……」
「やっぱ、まず弁護士とかいるべ?」
「そういうマジなやつではないんだろうが……さじ加減が本当に分からんな」
一色の真意がわからない以上、手の付けようもない。
会えば聞いてみようと、ベストプレイスで昼飯を摂っていたが来る由もなく……
まあ、今日はレクリエーションもあって、一色も忙しそうにパタパタ走っていたのを途中で見かけた。単純に忙しかったのだろう。
とまれ、何も分からないまま放課後を迎えてしまったのだ。
「したっけ、こういう部活の立ち上げって3人で申請できないっしょ?もし本気で作るなら、もっとたくさんかき集めないといけないんでね?」
戸部は襟足をわっしゃとかき上げながら、最もなことを言う。
「いや、同好会は規定では発足時に3人集まればそれでいい。顧問も申請時には不要で、後から充てがわれるようになってるんだ」
おお、さすが副会長である……俺達の知らないことを平然と説明してのける。そこに痺れないし、憧れることもないが、とにかくさすがである。
「もっとも二年以内に十人集められなければ、解散……それ以前に、それなりに、ちゃんとした内容じゃないと、俺達生徒会の方で審査入れるから止まっちゃうんだけどね……」
「ふむ……」
しかし今回は審査をするのが、その一色だ。
詳しい手続きがどうなっているか分からない。
ただ、一色は口頭とはいえ『一色いろは・被害者の会』でひとまずの認可をしたのだ。
はっきりいってふざけてる。
よって、内容もふざけたものでいいはずだ。
「とりあえず埋めちまおう。こんな事に時間を割いているのは、アホらし過ぎる」
言って俺は、書き始めた。迷った時は箇条書き。
とにかくリストアップすれば、あとでどうにでもなるものだ。
脳みそを極力使わない方向で、つらつらと綴ってみる。
――当同好会は、総武高校の安全と名声を守るため、以下の行動指針を基に活動を行うものとする。
一、一色いろはの被害者を救済する。
「これがまず基本だな」
一、一色いろはによる被害を今以上に拡大させない。
「これあるわー!……悲劇は俺達で十分っつーか!」
一、一色いろはには、魚を与えるのではなく、魚の捕り方を教える方向で。
「なんかどっかで聞いたフレーズだな……」
はい、最後は本当に適当に書きました。
「以上だ」
しん……と教室が静まり返る。
「……ヒキタニくん……これマジでやったほうがよくね?」
神妙な顔で呟く戸部に思わず笑ってしまう。
まあでも、社会正義の観点からは、これ大変重要なこと書いてますからね。
「いいんじゃないか?本当に……量書けば良いってものでもないし……」
副会長まで便乗してくる。
「ただこれって……最終的には、先生達が確認するから。まず通らない……とは思うけどな……」
「それ言ったら、そもそも組織の名称の時点でアウトだろ」
「まあ、そうなんだけど……」
そうなれば茶番は終了。
お役御免でまたいつもの生活が始まる。
むしろ適当に書くべき事なのだ。
「とにかく、これ持って行くわ。今日は解散ってことでいいだろ、結果はおって連絡する」
連絡する術ないけどな。
「おー!もう終わり!?いやー、でも助かるわー!」
「戸部は試合近いんだろ?昨日は棒に振ったんだし、もう行っていいぞ」
「さっすがヒキタニくん、話せるわー!」
こちらに大きく手を振りながら部活に向かう戸部を、二人して見送る。
「じゃあ、俺も生徒会に行くよ……比企谷も一緒に行くか?って言ってもすぐ隣だけどな……」
んじゃあ、そうさせてもらいますかねぇ……
※※※※※※※※※※※※
申請書を読んだ一色の顔は少し引きつっていた。
「……先輩は、私を何だと思ってるんですかねぇ……」
「他にどう書けっていうんだ……」
あざとく膨れ上がる一色だが、こちらとしても、どうしようもない。
「……まあ、いいです。これで受理しますので。書記ちゃーん、この書類明後日までに間に合うよう、お願いしまーす」
やっぱり受理しちゃうのね……
誰と協議するでもなく、あまりにも簡単に、ぽこぺーんと判子を押して、書類を書記ちゃんに渡してしまう。
通るわけ無いのに……あとで先生に怒られるんじゃないだろうか?
しかし、書記ちゃんも、その隣でPCをカタカタやっている会計くんも、誰もツッコミを入れない。
こんなんでいいのかよ、生徒会……
誰だよ、こいつを生徒会長に推した奴……
「さて、じゃあ今日は仕事もないですしー、これで終わりにしましょうか」
「なんだ、もう終わりか?」
「先輩も帰っていいですよー、あ、でも鍵を使った時は、ちゃんと職員室に返しに行ってくださいね。返さなかったら減点です……!」
「……はぁ」
いろはすポイントはどうでもいい。どうでもよくないのは、こいつの真意だ。
会えばわかると思っていたが、やっぱり読めない。じとっと睨みつけるが、まったく反応を返さない。
こいつ一体、何を考えてるんだ……?
「どうしたんですか?……あ、もしかして一緒に帰ろうとか思ってます?残念!今日は私は、サッカー部のマネージャーなんですよねー」
「ちげーよ……」
カクリと肩が落ちてしまう。うん、もー、なんなのこの子ってば……
しょげかえっていると、副会長が苦笑しながら声をかけてくれる。
「比企谷、職員室まで行くのが面倒なら、今後も鍵は俺の方に渡してくれて構わないよ。」
「おう、悪いな」
今後なんて無いだろうけど、それにしても常識人の副会長は、さすがに常識的で、俺なんかに、こんな気を遣ってくれる辺り相当なレベルの常識メンである。
この常識オブ常識な副会長を擁しておきながら、かたや、そこの生徒会長ったら、鏡を使ってメイクを整えているのである。超非常識!
なんでサッカー部のマネージャーやるのに、化粧整える必要あるんですかね……
大方、葉山相手のアピールタイムと思っているんだろうが……
しかし、相変わらず恋する乙女をやってるようで、そこはなんだか安心してしまう。
ある意味、平常運転の一色を見ていると、真面目に考えるのが、だんだん馬鹿らしくなって来る。
そうだ、家に帰ろう。
こんな嬉しい事はない。俺には帰れる家があるのだ……
早速お言葉に甘えようと、副会長に鍵を渡した時……耳元で囁かれる。
「……すまん、比企谷、早速だが相談が有るんだ。明日、時間をとってくれないか?」
「お、おう」
記念すべき『一色いろは・被害者の会』の、これが最初の依頼となる。
良くないことが起こるんだろうなぁ……
嫌だなぁ、怖いなぁ……
※※※※※※※※※※※※
副会長の依頼により、今日も今日とて、俺たちは『一色いろは・被害者の会』に充てがわれた空き教室に集まった。
なお、意外なことに戸部も来ている。
絶対幽霊会員になると思ってたのに……
「さて……、戸部も来てくれたんだな、ありがとう」
「まー、俺も創成期メンバーってヤツだし?出来る範囲で力になっちゃうみたいな…?」
ズビビッとサムズアップを決めて、もう本当に鬱陶しい。
「昨日も比企谷に伝えたんだが、会長のことで、早速依頼があるんだ」
頷く俺たちに、副会長が続ける。
「実は生徒会メンバーから相談を受けていて、書記の子……わかるかな?」
「あの可愛いっ子っしょ?知ってるよーん!」
いつだったか、一色とカフェに行った時、副会長と書記の子がお忍びデートを行ってるのを目撃したことが有る。
あー、そういえばそういう関係なんでしたっけ……
「爆発しろ」
「え?」
「いや、なんでもない。……書記ちゃんだな、続けてくれ」
「あ、ああ。実は彼女、一色会長から無茶な仕事を振られててね……困り果てているんだ」
「いろはすから無茶な仕事?あ、何、俺急に怖く?なってきたんですけど……」
早くも戸部が泣きそうな声になっている。お前どんだけ……
戸部は深刻な顔で、っべー、っべー……とぼそぼそ呻いている。
「実は明日、生徒会と各クラブの間で、予算報告会っていうのが行われるんだけど……」
「漫画とかでよくあるな。生徒会とクラブが予算を巡って、激しく対立する……みたいな。うちの学校でもそういうのあるのか?」
よくある設定だが、市立のわが校では、ちょっと現実味の無い話だ。
「はは、ああいうのは無いよ。ただちょっと似ているところもあって……」
副会長の話しによれば、部の予算は上の方で既に決まっている。
しかし、それを覆す唯一の機会が、これから行う予算報告会なのだそうだ。
基本的には生徒会から、各部への暫定予算が報告される、それだけの場所なのだが、ここで各部は「相談」という名目で、予算の拡充を打診することが出来るのだ。
相談を受けた生徒会は、こうこう、こういう理由で○○部が予算の拡大を求めてますよ――と学校に上申する。
「で、その相談とやらで、実際に予算は増えるのか?」
「結論から言うと増える。もちろん、それなりに正当な内容が必要だけどね」
「そういえば隼人君も、そんな感じの事言ってたわー」
「サッカー部は部員も多くなってるし、そこそこ試合で頑張ってるからな……今年は増えるんじゃないかな」
ひゅーと戸部が口笛を吹く。うん、うざいですね。
「……そんじゃ、クラブの奴らにとっては頑張りどころだな」
「報告会は自由参加だから、参加しないところも多いよ。表立っては生徒会が各部の予算を報告するためだけの会合だから」
「諦めてる所は、最初から参加しないって感じか」
それもひとつの選択なんだろう。
コクリと頷くと、副会長は少し大袈裟にため息をついた。
「ところが異常に頑張るところがある。野球部だ……」
「へー!」
知り合いでもいるのか、戸部が反応する。
確かあの童貞……名前は忘れたが、去年同じクラスで戸部と仲良くしてたことを思い出す。確かあいつは野球部だったっけ……
「正確に言うと、野球部の顧問だけどね」
「あー、あいつかよー!わっかるわー!いいそうな顔してるわー!」
確か体育教官だったか……固太りで強面で、俺のようなナイーブガイには、ちょっと接しにくい感のある教師だ。名前は……名前は忘れちゃったけど☆
「へ?でも、それおかしいっしょ!生徒同士のやりとりだべ?」
「基本的にそうなんだけど、特に規定があるわけじゃない。顧問が会議の場で『相談』するケースも珍しくはないんだ」
「子供の中に大人がいるのか……それって有利なんじゃね?」
「まさにそこが問題だ。これ、去年の議事録なんだけど、相当揉めたみたいなんだ……」
差し出された議事録は、めぐめぐ☆めぐりん・城廻めぐり先輩の代のものだ。
戸部も後ろから覗きこんでくる。
議事録は野球部顧問の『相談』が、内容の半分を占めており、苦労の跡が伺える。
読み進めていると、顧問の長ったらしいアピールや、えげつない恫喝が詳細に記されている。
しかし、ところどころ、
『賢明なる読者の方は、すでにお気付きだろう。この顧問の発言がどういった影響を及ぼすのか、詳しくは次項の展開を見られたい』
とか
『すわ、突然の顧問の反論に、危うし我らの城廻会長。賢明なる読者諸兄は既にお気付きであろうが、これは顧問の周到なる策略であった……』
などと忍者っぽい注釈が書かれている。ふざけてんのか。
白土節はさておくと、議事録だけでなく、上申の内容も、野球部が同じく半分を占めている。
この顧問……これまでも、こうして予算を増やしてきたのだろうか……
しかし、なるほど、ようやく話が見えてきた。
「実は野球部なんだが、今年は予算が大きく減額されている。活動自体は至って真面目なんだけど……試合には勝ててないし、何より部員が凄く減ってるんだ。学校側としても減らさざるをえないと考えたらしい」
揉める土壌が去年より、出来ている……ということだ。議事録通りのキャラならば、例年以上に顧問は頑張るつもりだろう。
迎え撃つのは我らが生徒会長・一色いろは!……となるのが普通なんだろうが……
俺は既にオチが読めていた。
「当然、野球部顧問は今年は相当の決意で挑んでくると思うんだ。その相手を……」
「一色が書記ちゃんにやらせようとしてるんだな?」
力なく項垂れて副会長は肯定した。
戸部と顔を合わせて苦笑する。
なんて怠惰なんでしょう……もう、あの子ったら本当に……誰に似たのかしら……
「まあ、でもよ、去年の上申にも関わらず、今年は減らされてしまった訳だろ?顧問だって最終的には削減を呑むしか無いんじゃねぇの?」
聞いた限りでは、学校側の決意もまた、相当のものと思われる。
「そうなんだが……矢面に立つってのは、やっぱり辛いもんだよ。その後の顧問の印象も悪くなっちゃうしな……」
「書記ちゃん、可愛そうじゃん……なんで、もー、いろはすってばよー……」
頭を抱えて悩む戸部。
「ふむん……」
「比企谷、戸部……どうだろう?なんとか協力してもらえないだろうか?
一色会長には、せめて書記の子と一緒に矢面に立ってもらいたいんだ。俺も一緒に説得する……これから、その交渉をするつもりなんだけど……」
うーん、書記ちゃんったら、そういうことを副会長に相談したんでしょうねぇ……
しかしどうだろうか、この依頼。
……これは正直、そう深刻な話ではない。
顧問の難癖にアワアワ言ってりゃ、やがて収まる問題だ。
時が全てを解決してくれるだろう。
だが『一色いろは・被害者の会』として見ればどうか……
一、一色いろはの被害者を救済する。
一、一色いろはによる被害を今以上に拡大させない。
一、一色いろはには、魚を与えるのではなく、魚の捕り方を教える方向で。
……この全てを満たす、おあつらえのシチュエーションではないだろうか?
つまり、書記ちゃんを救い、
書記ちゃんに被害を及ぼさず、
そして一色いろは、自ら矢面に立って報告会を円満に解決させる……
たった一つの賢いやり方……!
「ヒキタニくーん?どうするよー?俺は出来る事あったら、協力すっけど?でも、いろはすと交渉かー……」
びくつく戸部に、ニヤッと微笑んでみせる。
「副会長、確かこの会合……同好会でも参加できるんだよな?」
「あ、ああ。同好会にも少額ではあるが予算は出るからな。この会に割り振られる予算はあくまで仮のものになるだろうけど……出席自体は問題無いと思う」
……咄嗟に頭に浮かんだプランを吟味する。
あいつなら、こんな時どうするだろうか……?
変えられるその芽があるならきっとこう答えるだろう。
「――その依頼、受けるわ」
「「は?」」
「あ?」
二人同時に、虫けらでも見るような目で睨まれたので
思わず売り言葉に買い言葉、こっちも威嚇してしまう。
だめ!仲良くしないと……!あと、身内ネタは良くない。
こほん、けぷこーんと咳払いして俺は続けた。
「一色と交渉はしなくていい。――考えがある。明日の予算報告会、俺達も参加するぞ……!」
次回、俺達のターン!
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一色いろは・被害者の会
黎明編・前半【了】
→後半
やべー、ちょーおもしろい!!
後編が楽しみです
○○編となってるってことは、また違うお話があるってことですよね??
期待してます!!
こんなところにも文面紙上の神がおられたか
すげー、おもしろい。
キャラが活き活きしてて、話にも引きこまれた。
神降臨!
早く更新おなしゃす!!!!!!
イロモノと思いきや凄く面白い
あらすじとオススメが仕事してなくて草生えるw
内容はほんとおもろ