千歌「……GANTZ?」 追加ストーリー
千歌「……GANTZ?」シリーズを読んで頂くと分かりやすいと思います
※以前に考案していたもう一つのエンディングを主人公を曜に置き換えて再構成し、続編のような形にしてみました。
~10月下旬 夜~
『――もしもし? こんな時間にどうしたの? ――そう…あなたのところにも送り付けられたのね』
『そもそもおかしな話よね…解放されたっていうのに私達だけ全く記憶が消されていないんですもの。完全に自由にさせる気はさらさら無いって事か』
『――ええ、あの子達の記憶は消えている。つい最近梨子と花丸が一緒に出掛けているのを見かけたわ。どうやって知り合ったのかは分からないけど、あの二人が仲良くしているって事はそういう事でしょ?』クスクス
『――そっか、あの部屋に戻るのね…なら私も戻るわ♪ ――そんなに怒らないでよ。親友がもう一度あの地獄に戻ろうとしているのを放っておけると思う? 一人より二人、二人より三人の方がいいに決まっているでしょ』
『――え、知らなかったの? ダイヤにも届いてるのよ。すでに決心はついてるみたい。まあ、今回は何故か梨子の時と違って他人を巻き込まないであの部屋に行けるのだから良心的よね…』
『――それは私にも分からない。ただあの子に何かがあったことは間違いないと思う……それじゃあ、休学届を出したっきり音信不通のちかっちをお迎えに行きましょうか♪』
~12月初旬 昼休み 中庭~
梨子「――あれ? 曜ちゃんその黒い球は何?」
曜「なんか…昨日の夜いつの間にか机の上に置いてあったんだよね。みんな分かる?」
善子「キレイな球ね…魔術の儀式とかに使えそうね!」
花丸「文鎮…にしては丸すぎるね。使い道が全く分からないずら」ムムム
曜はいつの間にか机に置いてあった黒い球をみんなに見せた
梨子、花丸、善子は見当もつかないようだったが…
ルビィ「あ…それ見た事あります」
曜「そうなの!? どこで見た?」
ルビィ「ええっと……確かおねぇちゃんの部屋で見ました! 誰かと電話をしながら手の上でコロコロしてて…電話の相手とその球の話をしている雰囲気でした!」
曜「なるほど…ならダイヤさんに聞いてみればいいって事か!」
梨子「そう言えば三年生達はどうしたの? 最近お昼を一緒に食べられてないけど…」
ルビィ「鞠莉さんは理事長のお仕事で忙しいみたいで…おねぇちゃんと果南さんは新生徒会長と書類の作成お手伝いをしています」
善子「あの生徒会長、ダイヤさんが選んだのよね? 確かにリーダーシップはあるけど…ちょっとポンコツな所が多いわよね」ヤレヤレ
曜「まあ……隣のクラスあの子だからね…大目に見てよ」アハハ…
花丸「ねえねえ、今日のニュースはみんな見た? あの三津シーパラダイスであった事件」
梨子「ああ見たよー。昨日の夜に水族館にいた生き物が何匹か殺されちゃったんだよね……イルカも全滅したみたいだし…酷いことする人がこの内浦にいるなんてね」
善子「建物も結構壊されたから営業再開まで時間かかりそうね。下手したらこのまま潰れるんじゃない?」
ルビィ「それは大丈夫みたいだよ。鞠莉さんの家が全面的に援助するから直ぐに再開するって言ってたよ!」
曜「流石だね……いくらかかったんだろう?」ムムム
梨子「そろそろ昼休みも終わる時間ね。放課後はどうする?」
花丸「マルは昨日本を買っちゃったからお小遣いが尽きちゃって…今月は厳しいずらぁ」ズーン
ルビィ「同じく……」
善子「私も今日はまっすぐ帰るわ」
梨子「そっか、仕方ないね」
――キーンコーンカーンコーン
曜「おっと予冷だ。早く戻ろっか!」
その日は三年生と一度も会うことなく放課後になり
各々真っすぐ帰宅した
――――――
――――
――
~夜 曜自室~
夕食を済ませ、自室に戻った曜
すると、スマホが鳴り出した
画面を確認すると相手はルビィであった
曜「――もしもし? どうしたの?」
ルビィ『あ、曜さん夜遅くにごめんなさい…あの、曜さんの家におねぇちゃんいませんか?』
曜『ダイヤさん? 来て無いけど…何かあったの?』
ルビィ『そうですか…晩御飯を食べた後に突然いなくなっちゃって……鞠莉さんや果南さんにも連絡したんですけど、二人とも電話に出てくれないんです』
曜「その二人も連絡が取れないって…ちょっと心配だね」
ルビィ『はい…もう何回か電話してみます。曜さんも何か分かったら連絡お願いいします』
曜「分かったよ。私も近くを探して――」
ルビィ『い…いえ大丈夫ですアセアセ こんな夜遅くに外に出ちゃ危ないですよ! 曜さんの家に来たら教えてください。外に出ちゃダメですよ?』
曜「そ……そっか、出ないから安心して? それじゃまたね」
ルビィ『はい、また明日です――』プツン
それっきりルビィから連絡がくることは無かった
ダイヤの安否が気になった曜はその晩一睡も出来ず朝を迎えた
翌朝、学校に行く準備をしているとダイヤからメールが届いた
内容は「心配をかけて申し訳ないです」という簡単なものであった
曜「――それだけ? こっちは眠れないほど心配してたのに…会ったら一言言わないとね……」ゴゴゴ
曜はダイヤに今日の昼休みに屋上に来るよう返信し
学校へ向かった
――――――
――――
――
昼休み屋上には約束通りにダイヤは来ていた
ただそこには何故か鞠莉と果南の姿もあった
連絡の取れなかったメンバーが全員いたので曜にとっても好都合だった
ダイヤ「――何の用ですの?」
曜「…昨日の夜遅くはどこに行っていたんですか?」
ダイヤ「……鞠莉さんの自宅に行っていたんです。ルビィに連絡したつもりが忘れていたようで皆さんにはご心配おかけしたと思っていますわ」
曜「その鞠莉さんとも連絡が取れなかったのは?」
鞠莉「それは近くにスマホが無かったのよ。ごめんなさいね?」
曜「………」
曜は三人から得体の知れない圧力を感じた
言葉にはしていないが、それぞれの表情や口調から
まるで「これ以上何も聞くな」と言っているようだった
曜「んー…何か納得いかないんだけど…まあいいや。ダイヤさんに他に聞きたい事があるんです」
ダイヤ「ああ、そう言えばルビィもそんな事を言っていましたね。何ですか?」
曜「――この黒い球って何だか分かります? ダイヤさんも同じようなモノを持っているんですよね?」
ポケットから例の黒い球を取り出し、三人に見せる
――その瞬間、三人の顔が青ざめた
果南「そ…それ!? どうして持ってるの!?」グワッ
曜「え!? いや…一昨日部屋も机の上にいつの間にかあったんだけど、果南ちゃんも持ってるの?」
先ほどまでの雰囲気とは一変
三人とも激しく動揺したのだ
果南の取り乱し方は正直異常だった
鞠莉「果南、落ち着いて……曜、この黒い球に何かおかしな事って起きなかった?」
曜「おかしな事? 特に何も無いよ。…なんか三人とも持ってるみたいだけど、何なの?」
ダイヤ「……それは――」
――ギャアアアアアァ!!!!
――突如、校内に悲鳴が響く
誰かとふざけている時のものでは無い
身の危険を感じた時に発せられるタイプの悲鳴であった
果南「!? 今のは何!!?」ゾワッ
ダイヤ「中庭の方で聞こえましたが…――っ!? あれは昨日の星人ではありませんか!」
果南「どうして…昨日のミッションでは全滅させたじゃん!」
鞠莉「そんな事は後でいい!! 二人ともスーツは――……!?」ゾクゾクッ
ダイヤ「ウソ…でしょ? こんな時間に呼び出し……!? スーツを取りに行きます!」ダッ
曜「え……えっ? 何が起きているの?」アセアセ
果南「ごめん説明する時間がない! 曜はみんなを連れて早くこの場から逃げて!!」
曜「逃げる? 意味がわか――……果南ちゃん!?」
曜の目の前で果南の頭が徐々に消えて行く
隣にいた鞠莉も同様にだ
鞠莉「早くない!? 転送前に倒すなって事!!?」ジジジジジ
果南「ダイヤは間に合ったのかな……」ジジジジジ
――完全に無意識だった
幼馴染がいきなり消えていく様を見ていた曜は
果南の体に触れたのだ
その瞬間、曜にも果南達と同様の変化が始まったのだ
曜「うお!? 私も消えてる!?」ジジジジジ
果南「何してるの! 早く離して!!」
曜「そんな事言ったって…体が動かないよ!」
――――――
――――
――
~GANTZの部屋~
ダイヤ「――…申し訳ありません、間に合いませんでした」ズーン
鞠莉「仕方ないわよ…知らせから転送までほとんど間隔が無かったもの。今回は曜ちゃんと一緒見学ね」
曜「あれ? どこ、ここ……?」キョロキョロ
鞠莉「ああ、ここは……」
果南「――さっさと学校に転送しろ!! あれが今回のターゲット何でしょ!!?」ドゴッ
曜「!?」ビクッ
果南は部屋の奥にある黒い球を殴りつけていた
今の曜にはこの球が何なのか
何故、果南がこの球に怒りをぶつけているのか分からなかった
鞠莉「――果南、落ち着いてってば」
果南「落ち着け? こうしている間にも学校では犠牲者が増えてるんだよ! 殺されてる子もいるかもしれない!! あの子達だって危ないんだよ!!」イライラ
鞠莉「………」
曜「か…かなn」
果南「むしろ鞠莉がこんなに落ち着いている方が不思議だよ! 仮にもあの学校の理事長でしょ? 生徒に対して何も思わないわけ!?」
――パシン!
ダイヤは果南の頬をビンタした
突然の事で鞠莉も叩かれた果南も呆気にとられる
ダイヤは落ち着いた低いトーンで果南を問いただす
ダイヤ「果南、いい加減にしなさい…あなただって鞠莉の気持ぐらい簡単に分かるはずです。鞠莉の学校やメンバーに対する想いはあなたと同じかそれ以上のはずです」
果南「………っ!?」ヒリヒリ
ダイヤ「それに、冷静さを欠いた今のあなたがこのままミッションが始まれば命を落とす可能性が高い。今までの点数のほとんどを果南さんに託しているのですよ?」
鞠莉「……今回はダイヤが戦えない。脳筋バカの二人で全員倒すんだから、迅速に終わらせる為にもいつも通りの果南に戻ってもらわなくちゃダメなの」
鞠莉「いい? この中で果南が一番強い。だから貴方にはみんなの命を多く救って欲しいの…浦女の理事長としてお願い……」
ダイヤのビンタで冷静になった果南は鞠莉を見つめる
そして、自分がいかに愚かな発言をしたのか痛感した
果南「……ふぅ、ダイヤの言う通り、ちゃんと鞠莉の顔見れば“どう思っているか”なんてすぐ分かるね」
ダイヤ「果南さん……」
果南「――…もう大丈夫、二人ともありがとう」
GANTZ『あ~た~~らし~い~あ~さがっ来た』
曜「何? ラジオ体操??」
果南「…曜、今は説明している時間が無いの。これからこの球から武器とスーツが出てくるからスーツは必ず着てね」
果南の言っていた通り、音楽が鳴り終わった後に画面が切り替わり
球が勢いよく開いた
果南は慣れた手つきで黒い球から
武器とアタッシュケースを曜の前に持て来た
果南「この中にあるスーツに今すぐ着替えてね。武器はこれ、確か曜はYガンをよく使ってたよね?」
曜(“よく使ってた”? 何を言ってるの…)
ダイヤ「やはり昨日の星人ですね…昨日あの場にいなかった残党が暴れているというわけですか」
鞠莉「ダイヤもXガンだけでも持って行ってね?」
ダイヤ「当然持ってきます。…ただ小さいものしか使えませんね。他のはスーツのアシスト無しで扱うには少々重すぎますし……」
曜「何? 武器とかスーツが守るとか……これから戦いにでも行くの? いい加減きちんと説明してよ!!」イライラ
ダイヤ「……これから別の場所に転送されます。先ほど二人が言ったように、わたくしは今回戦えないので転送先で説明いたします」
果南「――転送が始まったね。鞠莉、頼んだよ!」ジジジジジ
鞠莉「ええ!」ジジジジジ
~~~~~~
曜「――あれ? 外に出てきたよ…本当に転送なんて出来るんだね」
曜達は見覚えのある場所に転送されて来た
目の前には校門があるので学校の前であるのは間違いない
ただ――
鞠莉「――ここ…浦女じゃ……無い!?」ゾワッ
果南「どうして!? 浦女にいたのもあの星人だったじゃん!」
曜「ここ沼津市の高校だよね? ならここから浦女に向かえば…」
果南「ミッションのエリア外には出られない…ここにいる敵を全員倒さないとダメなの!」
ダイヤ「…どうやら多少リスクが高くてもわたくし達も戦う必要がありますわね」カチャ
ダイヤ「曜さんもお願いします! 武器の説明などは戦いながら説明します!」
曜「…よく分からないけど、緊急事態なのは分かった!」
果南「私達は数の多い校舎内の星人を倒す! 二人は校庭や中庭の星人をお願い!」
鞠莉「曜とダイヤは絶対に無理しないでね! 特にダイヤ!!」ビシッ
二人はこう言い残して校舎内に向かった
何が起きているか、ほとんど把握できていない曜だが
今、何をすべきかは理解していた
曜「――待ってて…みんな!」
――
――――
――――――
~三人が転送される少し前 中庭~
花丸「――今日も三年生はいないの?」
ルビィ「うん…昨日の夜おねぇちゃんがいなくなったって言ったでしょ? その事で曜さんに呼び出されたんだって」
花丸「ああ……昨日の事ね。結局、鞠莉さんの家に行ってたんでしょ? 全く迷惑な話ずら」モグモグ
ルビィ「あはは…心配かけてごめんね?」
善子「――遅くなったわね?」ストン
花丸「善子ちゃん! 話は無事済んだんだね」モグモグ
善子「ええ……授業中に少しくらい寝てたくらいでわざわざ昼休みに呼び出す? 本当にめんどくさい」プンプン
ルビィ「今日のあの先生の機嫌、凄く悪かったもんね。運が悪かったんだよ」
生徒A「――ねえ、あそこにいるの何?」
生徒B「人……じゃないね。着ぐるみ?」
この二人が話しているのは
いつの間にか中庭に現れた生き物のことだった
どう見ても人では無いがその生き物は
二足歩行おしており、イルカのような外見をしていた
パッと見ではクオリティの高い着ぐるみであった
ルビィ「あれ? さっきまでいなかったよね? 今日って校内でイベントでもあったっけ…」
花丸「うーん…無かったはずだよ」
善子「……っ!」ズキン
花丸「善子ちゃん? どうしたの、頭痛いずらか?」
善子「ちょっとね……さっきまでは何とも無かったんだけど…」ズキン…ズキン
ルビィ「大丈夫? 保健室行こうか」
善子「ええ、そうすr……」
三人が保健室に向かおうとした瞬間
先ほどの生徒の一人が悲鳴を上げた
すぐさまその方向を見ると
着ぐるみと生徒が血まみれになっていた
叫んだ生徒の足元には誰か倒れている
ここからでは生きているのかどうか分からない
花丸「――……え? 何が……?」
善子「ぐっ…ぐうううぅぅ!!!」ズキズキズキ
頭が割れるような凄まじい激痛に善子は頭を抱えてその場にうずくまる
その間にも着ぐるみは叫んだ生徒にも襲い掛かり
周囲は大パニックとなっていた
ルビィ「善子ちゃん!? しっかりして!! 早く逃げるよ!」
善子「ぐううぅ…私は……いい…二人は逃げて……」ズキズキズキ
花丸「何言ってるの!? ルビィちゃん、手を貸して! 担いで逃げるずら!!」
二人は両側から善子の体を持ち上げる
しかし、着ぐるみは周囲の生徒を全て倒していた
中庭に残っているのはもう善子達のみである
つまり――
善子「――…ルビィ!!」ドン
着ぐるみがルビィに襲い掛かってくる事を察知した善子は
ルビィを押し飛ばす
反動で三人とも倒れるが、間一髪で着ぐるみの攻撃を回避した
善子「は……早く…にげ……」ガクン
花丸「善子ちゃん!? しっかりして!!」ユサユサ
着ぐるみ…星人は腕から生えたヒレで多くの生徒を切り裂いていた
そのヒレを大きく振り上げる
ルビィ「善子ちゃん、花丸ちゃん!! 危ない!!」グワッ
花丸「――っ!?」
――ズシャ!
無残にもその首は鋭い刃物により
切り落とされた――
~~~~~~
~校内~
梨子「――何? さっきから凄い悲鳴が続いているけど…」キョロキョロ
曜を探しに廊下をウロウロしていた梨子
そんな梨子にクラスメイトが真っ青な顔で駆け付けた
クラスメイトA「梨子ちゃん! 不審者が出たらしい!! 中庭でも校内でも何人も襲われてる!! ここにいたらヤバイ!!」ゾワッ
梨子「不審者?」
クラスメイトA「そう! だから梨子ちゃんも――」
梨子「曜ちゃんは? 曜ちゃんを見なかった!?」
クラスメイトA「えっ……確か屋上の方に行ってたのを見たけど…」
梨子「屋上ね? ありがとう!」ダッ
走り出した梨子にクラスメイトは何か叫んでいたが梨子には届かなかった
早く曜にこの事を伝えなければならない
その一心で階段へ走る
梨子(左に曲がれば階段! 曜ちゃん――…!?)
そこには善子達を襲った星人と同タイプの奴がいたのだ
あの子が叫んだのはこの事を伝える為だった
星人は梨子に襲い掛かって来た――
~~~~~~
果南「――ぅりゃあ!!」スパッ
鞠莉「―――ふっ!!」バキッ!
果南と鞠莉は校内に侵入している星人を次々に倒す
残党狩りに位置する今回のミッションなので星人は大した強さではない
ただ、校内という特殊な環境が星人の撃退するテンポに影響を与える
星人が上下のフロアに多数存在するので、レーダーで確認するも正確な位置を瞬時に判断出来ないのだ
果南「鞠莉! この階の星人はこれだけ!?」
鞠莉「確認する――。よし、今ので最後よ! 後は三階と四階に三体いる!」
果南「よし、鞠莉は三階をお願い!! 私は四階に行く!」ダッ
鞠莉「了解よ!!」ダッ
~~~~~~
~中庭~
ダイヤ「――曜さん! そのまま上トリガーを引いて下さい!!」ギョーン!ギョーン!
ダイヤの指示通りにトリガーを引き、拘束した星人を上へ転送する
中庭には6体の星人が暴れまわっていた
曜とダイヤが着いた時には生徒が至る所に倒れていた
奇襲攻撃によりダイヤが二体、曜が一体撃退している
曜「ダイヤさん! 伏せて!!」ギョーン!
ダイヤ「?!」バッ
ダイヤの背後から襲ってきた星人を察知した曜
その後も次々にYガンのワイヤーを命中させ周囲の全星人を転送する
曜「ふぅー…これで全部だね?」
ダイヤ「…さすが曜さんですね。ブランクあるとは思えない腕でした」
曜「ブランクか…果南ちゃんが渡してくれたこの銃……凄くしっくりきたんだよね。それにあの化け物…襲い掛かってきても全然怖くなかったのも“そういう事”なの?」
ダイヤ「思い出したのですか?」
曜「全部じゃないよ? ただ、戦いながら色々頭の中に流れてきてね…最近までこんな戦いを続けていたって事だけは思い出した」
曜「後で全部話してもらいますからね?」
ダイヤ「もちろんです。校舎に入って果南さん達の増援に行きましょう!」
曜「このスーツ…ジャンプ力も上がっていますよね?」
ダイヤ「その通りですけど…」
曜「――このままジャンプして屋上まで行きます! 担がせてもらいますね」ガシ
ダイヤ「ちょっ、担ぐって肩にですか!? せめて背中に――ピギャアアァァ!!」
~~~~~~
梨子「――ッ!」サッ
星人の攻撃を身を屈めて回避
すぐさま距離をとる
梨子(危なかった! 何なのあの化け物!?)
星人の攻撃は終わらない
すぐさま追撃が来る
梨子「――!? うわっ!」クルン
次の攻撃を右側へ回転するように回避
星人は素早い動きで連続して襲い掛かってくる
梨子はこれを紙一重で回避し続ける
梨子(―――何これ…なんで私は攻撃を回避出来るの? どうすればいいか頭に浮かんでくる……)
梨子(化け物に襲われているのに不思議と落ち着いてる…私にこんな特技があったなんて――くっ!?ズキン 頭が…ズキンズキン)
突然の頭痛により怯んだ隙に星人は梨子へタックル
後方へ少し吹き飛ばされた
梨子(痛い…何なの……頭に流れてくるイメージ……これは…黒い球? この黒い服は…?)ズキン…ズキン
星人は口を大きく開き
梨子の頭を噛みつく――
~~~~~~
屋上まで飛び上がった曜はその光景に絶句した
そこにはいつものようにお弁当を食べていたであろう少女達が倒れていた
ケガの具合はそれぞれ異なるがまだ全員生きているのは確認できた
出入り口付近には今まで倒してきた星人より一回り大きい個体が居座っていた
口元にべっとりと鮮血がへばり付いていた
ダイヤ「曜さん……見た限りこの星人は強いですよ?」
曜「はい…私が陽動を――」
星人は曜目がけて勢いよく突っ込んできた
これまでの個体よりはるかに速いスピードに驚愕する曜
ギリギリでガードする
曜「速い!? ダイヤさん!!」
ダイヤ「この!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!
ダイヤと曜は銃を連射するも全く当たらない
曜はなんとか目で追えるものの、ダイヤは徐々に見失う事が多くなっている
ダイヤ「くっ! マズイ!?」ゾワッ
曜「?! ダイヤさん後ろ!!」
――ドゴ!
そのスピードで背後から勢いよく衝突される
スーツ未着用のダイヤの体はミシミシと軋む
星人は衝撃で吹き飛ぶダイヤの腕をつかみ
そのまま投げ飛ばした
――ここは屋上である
投げ飛ばされたダイヤはフェンスの上を越えていった
曜「ダイヤさん!!!!」ゾワッ
真っ逆さまに落下するダイヤを助けに走る曜
しかし、星人の攻撃はやむことは無い
行く手を完全に塞がれる
そのままダイヤの姿は完全に見えなくなってしまった
曜「くそ! 邪魔するな!! ダイヤさんが……ダイヤさんがぁぁ!!!」ギョーン!ギョーン!
撃っても撃っても当たらない
それどころか懐に潜り込まれ、重い一撃を喰らう
以前の曜ならば対処できるはずのタイプの星人だが
4か月のブランクは想像以上に影響していた
曜(ヤバイ…このままじゃジリ貧だよ)ドガッ! ドガッ!
なんとか攻撃をガードする曜
――…そんな時、星人が奇妙な動きをし始めた
曜が何もしていないのに攻撃を回避するような行動をとったのだ
それも何度も何度も
曜「な……何? どうしたの?」ハァハァ
そう、まるで星人は“見えない誰か”と戦っているようだった
――ブシャ!!
星人の体が肩から斜めに切り裂かれ赤い血が噴出した
間違いない、この場にもう一人誰かいる
そんな考えが浮かんだと同時に星人の死体の正面の空間にバチバチと電気が発生した
すると何も見えなかったその場に一人の人間の後ろ姿が現れた
後ろ姿でフードを被っていたので誰だかは分からないが
身長は曜とほぼ同じで体つきから見て女性である事は分かった
右手には星人を斬ったと思われる刀が握られていた
???「……ケガは無い?」
曜「は? あ……はい、おかげさまで。……声が変ですけど、それ地声なんですか?」
???「え? ま…まあ、風邪気味ですね」
曜(何だこの人……妙にたどたどしいぞ? 声も誰かに似ている気がするし)ムムム
???「――さっき落下したダイヤさんなら無事だよ。下で私がしっかり受け止めたからね。大ケガして意識は無かったけど息はしてたから、ミッションが終われば治るはず」
曜「!? ダイヤさん無事なんですね! ……んん? でも何で――」
――ジジジジジ
???「私が倒した星人で最後だったみたいだね。転送が始まったよ」
曜「ホントだ……え? なんであなたの転送が始まらないの?」
???「そりゃ、私はもうそこの部屋の住人じゃないから当然だよ」
曜「じゃあ……あなたは一体……?」
???「――…そうだなー、“通りすがりの普通怪獣”とでも名乗っておこうかな?」クスクス
~~~~~~
~GANTZの部屋~
4人全員が無事転送されてきた
ダイヤは酷く落ち込み、果南はイライラした様子でガンツをゲシゲシと蹴り続け、鞠莉は曜とダイヤが帰還したことに喜んでいる
曜「――…あの人は何だったんだろう」ボソッ
ダイヤ「私とした事が……油断しましたわ」ズーン
曜「ダイヤさん!! 良かった……」ホッ
鞠莉「曜、ダイヤ! 二人とも無事だったのね!!」
果南「ガンツ! 早く採点を始めて!!」イライラ
果南はガンツに催促する
採点まで終わらなければこの部屋から出る事は出来ない
焦るのも無理はない
ダイヤ「曜さん、ご心配かけました……採点が終わり次第すぐに戻ります。曜さんも今のうちに準備しておいてください」
曜「はい! 取り敢えず制服を上から着て…ってどうやって戻るんですか? バス? タクシー? それとも…ヘリコプター??」
鞠莉「うちのヘリが呼べればその方が早いけど…今から呼び出すよりスーツの力で走った方が早く着くわ」
曜「コントローラーのステルス機能を使うんですね! でもダイヤさんは?」
ダイヤ「ステルス使用者に触れていれば問題なく透明になります。以前試したので安心してください」
そうこうしているうちに、ガンツの採点が始まっていた
GANTZ『ヨーソロー 15点』
GANTZ『硬度10 5点 TOTAL21点』
GANTZ『小原家 10点 TOTAL15点』
GANTZ『果南ちゃん 30点 TOTAL88点』
曜「果南ちゃん凄い! 100点まであと少しなんだね」
鞠莉「今までのミッションは出来る限り果南に点数が集まるようにしていたからね。恐らく次には100点まで行きそうね」
果南「――よし! もう終わった! 曜はダイヤをお願い。ダイヤは移動しながらこれまでの経緯を曜に説明してね!」
――――――
――――
――
屋根から屋根、屋上から屋上へジャンプしながら移動する
曜はダイヤを背負い、果南と鞠莉の後を追う
ダイヤ「――…まず、私達がどうしてこの部屋に戻って来たかについて、ですわね」
曜「確かあの部屋に行くには死なないといけないんだよね? でも死ねば確実に行けるわけでも無いんじゃ…?」
ダイヤ「その通りです。本来、死なないとあの部屋には行けません。しかし、生きたまま確実にあの部屋に行く方法があります。梨子さんがあの部屋に来た経緯を覚えていますか?」
曜「梨子ちゃん? ええっと……」
ダイヤ「黒い小さい球から指示された人物を殺害することで命を落とすことなくあの部屋に行くことが可能なのです。曜さんも持っていたあの球です」
曜「――あっ! あの球か……ちょっと待ってよ、それが条件なら――」
ダイヤ「この黒い球が私達三人に送り付けられました。ただ、曜さんに話した指示は出されず“戻る”か“辞退”かの選択を迫られました」
曜「どうして…梨子ちゃんの時より簡単過ぎない?」
ダイヤ「理由は分かりませんが、梨子さんの時とは状況が大きく異なります」
曜「状況?」
ダイヤ「曜さんは4ヶ月前まであの部屋のメンバーでした。100点を取って解放を選択するとそれまでの記憶は消されます」
曜「そうですね…私もついさっきまで忘れてましたし」
ダイヤ「ただ、私達三年生は全員記憶が消されていなかったのです。何故かは全く見当は付きませんが」
曜「記憶が残っていた……でも私は覚えていませんでしたよ?」
ダイヤ「曜さんは恐らく梨子さんと同じ条件であの部屋に呼び出す予定だったのでしょう。
私達の時は球が届いた直後に選択を迫られましたからね。ガンツとしてもあの行き方はイレギュラーだったのでしょう」
曜「……結果的には誰も殺さずに済んでラッキーだったって事ですね」ゾッ
ダイヤ「ここからが私達が部屋に戻った理由です。曜さんはまだ断片的にしか思い出していないようですが、私達が一緒に戦っていた時のメンバーは全員覚えていますか?」
曜「今思い出しているのは…ダイヤさん、鞠莉ちゃん、果南ちゃんと梨子ちゃんですね。梨子ちゃんに関しては今の会話で思い出しました」
ダイヤ「そうですか……他にもメンバーはいました。一年生の花丸さん、善子さん、妹のルビィ、そして……千歌さんです」
曜「……え?」
ダイヤ「私達はあの時全員が100点を取っていたとばかり思っていました…でも千歌さんだけは取っていなかったのです」
曜「どうして……どうしてダイヤさんは知っているの?」
ダイヤ「千歌さんが休学届を理事長に提出した際に鞠莉さんが聞いたのです。どうやら千歌さんは仮に100点を取っても解放は選択しないつもりだったようですが」
曜「そんな…じゃあ千歌ちゃんは今も……――…あれ? 千歌ちゃんはあの部屋に残っているハズじゃ……」
ダイヤ「……私達が戻って来た時には、他にメンバーはいませんでした。つまり千歌さんはもう………」
鞠莉「――…だから果南に点数を集めてちかっちを連れ戻そうってわけ!」
前を走っていた鞠莉がいつの間にか曜の隣まで戻ってきていた
ダイヤの発言を遮るように割って入って来たのは曜を思っての事だろう
曜「鞠莉ちゃん……」
鞠莉「私はちかっちが戦い続ける理由がどうしても知りたいし…曜もこんな大切な事を親友に内緒にされててムカつくでしょ? 今のうちに言いたい事整理して次に会った時にガツンと言ってやって♪」
曜「ふふ……内緒にしてたのは鞠莉さん達も一緒でしょ? ならガツンと文句言ってもいいんですよね?」ニヤッ
鞠莉「あはは……後で聞くわね…」
果南「――…見えた! もうすぐ浦女だよ!!」
曜「凄い数のパトカーと救急車だね……」
いきなり姿を現すと面倒な事になるので少し離れた所でステルスを解除する
校門の前には曜の言う通りパトカーと救急車で埋め尽くされていた
警官「こら! 危ないから関係者以外入ったらダメだ!!」
鞠莉「私達はこの学校の生徒です! もっと言えば私は理事長です!! 関係者なんですから入ります」スタスタ
警官「ちょっ…何をわけのわからない事を!」
――「しっかりして善子ちゃん!」「よっちゃん! 目を覚まして!」「善子ちゃん! 善子ちゃん!!」
ダイヤ「あれは……!? 曜さん! あそこの救急車に向かってください!」
曜「!? みんながいる!! 梨子ちゃーん!!」オーイ
梨子「曜ちゃん!? それに三年生も…良かった無事だったのね」ウルッ
ルビィ「おねぇちゃん! 怖かったよぉ!!」ポロポロ
ダイヤ「ルビィ…! ごめんなさい、すぐに駆け付けられなくて」ダキッ
果南「マル! 善子はどこをケガしたの!? 大丈夫なんだよね!!?」
花丸「わ……分からないよ。いきなり頭が痛くなったみたいで、そのまま気絶しちゃったんだよ…」
梨子「………」
果南「頭痛…みんなはあの星人に襲われなかったの?」
花丸「マル達は中庭で襲われたけど……いきなり怪物の首が切り落とされたよ…」
果南「いきなり?」
ルビィ「花丸ちゃんと善子ちゃんに襲い掛かった瞬間に、スパッて…長い刃物か何かで切ったみたいだった」
梨子「私も廊下で襲われた…その星人は斬られたっていうか破裂したわね……校内に入って来た他の星人もいきなり斬られるか破裂して死んでいたみたい」
ダイヤ「破裂に斬殺……それって――」
花丸「なんか、まるで見えない誰かが戦っていたみたいだったずら」
曜「!?」
花丸「あと、変な声も聞こえたよ。女の人の声で『お前じゃない、私の獲物だ』って」
果南「『私の獲物』か――」
――――――
――――
――
~数日後~
曜(内浦や沼津周辺で発生した星人による高校襲撃事件は死傷者50人以上の大事件となった。テレビのニュースはその話題で持ち切りとなり、内浦は悪い意味で有名になってしまった)
曜(学校はしばらくの間は休校で自宅待機になっている)
曜(病院に運ばれた善子ちゃんは意識を取り戻したけれど、つい最近まで面会謝絶で会うことが出来なかった)
曜(ただ、今日から面会が許されたみたいでみんなでお見舞いに行こうとしたんだけど……鞠莉さんは理事長として今回の事件の対処で忙しく、ダイヤさんと私は何故かそのお手伝いをさせられている)
曜(だからお見舞いには梨子ちゃん、果南ちゃん、花丸ちゃん、ルビィちゃんが行っている。私も行きたかったな……)
~沼津中央病院 病棟~
善子「――…みんなごめんなさい、心配かけたわね」
花丸「頭を押さえながら倒れた時は心臓が止まるかと思ったよ。しかもあの状況だったし…」
ルビィ「目を覚ましてくれて本当に良かったぁ」ウルッ
果南「無事でなによりだったよ」
善子「……あの星人に何人くらいやられたの?」
梨子「正確な人数は分からない…ここに入院いてる同い年の子はだいたい襲われた子だと思う」
花丸「うちのクラスでも何人か亡くなったらしい…」
善子「……そう」
――ジリリリリ、ジリリリリ
果南「あ……ごめん、電話かかって来たからちょっと席外すね?」ガラガラ
ルビィ「そういえば、頭痛の原因って何だったの? 検査して分かったんだよね?」
善子「……」
花丸「善子ちゃん?」
善子「――…あなた達、“ガンツ”って知ってる?」
梨子「!!?」ビクッ
花丸「がんつ? ルビィちゃん知ってるずら??」
ルビィ「知らないよ? それが病名なの?」
善子「……ルビィ、ずら丸、折角来てもらって悪いんだけどリリーと二人にしてもらえる? 果南さんにもそう伝えて欲しい」
花丸「ええ? どうして?」
善子「お願い……後で説明するから」
花丸は善子の目を見つめる
善子から重々しい雰囲気を感じ取り
どうしてもこの場から出なければならない事を理解した
ルビィ「……行こう花丸ちゃん。何か事情があるんだよ」
花丸「………うん」
善子「本当にごめんなさい…」
花丸「絶対話してもらうからね? 約束ずら」ガラガラ
梨子「――…もしかしてとは思っていたけど善子ちゃんも思い出したのね」
善子「ええ、ガンツって単語に反応したのは梨子さんだけだったからあの二人は忘れたままみたいね」
梨子「浦女を襲った星人を倒したのって……ガンツのメンバーだよね?」
善子「ずら丸が見えない何かがいたって言ってたなら多分そうでしょうね…そしてその人物は――」
梨子「千歌ちゃん…って事だよね?」
善子「……あのバカ、どうして解放されなかったのよ! みんなであの部屋から出ようって約束したじゃない…」ギリッ
梨子「会って話を聞くしかないわね。問題はどうやって会うか……」
善子「あの部屋に行くには一回死なないといけないけど…」
梨子「あぁ! 曜ちゃん確か黒い球持っていたよね!?」
善子「あれか! あれなら確実に行けるわね」
梨子「ただ……問題はあれにどうやってターゲットにされて、曜ちゃんに実行してもらうかだよね」
善子「かなり難易度高いわね……どうするか――」
「――――別にそんな事考えなくてもいいんじゃない? なんなら私が殺してあげるよ♪運が良ければあの部屋に行けるかもね」クスッ
いつの間にか病室の扉の前に女の子が立っていた
その顔を見た二人の思考は完全に停止した
善子「――は?」
梨子「え? どう……して……?」
――ギョーン! ギョーン! ギョーン!
――
――――
――――――
ルビィ「梨子さんと二人で話したい事って何だろうね?」
花丸「別に何だっていいずら。後で話してくれるって言ってたけど内緒話はなんかモヤモヤするな……痛い!」ドン!
ルビィ「花丸ちゃん!?」
向かいから急ぎ足で歩いてきた人とぶつかってしまった
花丸達と同じくらいの年齢であろうその女の子は
慌てて尻餅をついた花丸に手を伸ばす
女の子「ああ! ごめんなさい。よそ見してたよ…ケガは無い?」
花丸「だ、大丈夫です。こちらこそごめんなさ……い?」
女の子「ん? どうかしたの?」
花丸「いや…何でもないですよ」
女の子「そっか、本当にごめんね? それじゃ」スタスタ
花丸「………」
ルビィ「どうしたの? 知り合いだった?」キョトン
花丸「そうじゃないんだけど……聞き覚えのある声だなって思って」
花丸とぶつかった、白い髪色にアホ毛の生えたその女の子は
足早に歩いて行ったのだ―――
~~~~~~
~沼津中央病院 ロビー~
果南「――だから友達のお見舞いだってば! 昨日も話したでしょ? ――…ハイハイすぐに帰るからさ、じゃあね」ピッ
果南「全く…心配なのは分かるけど、30分で帰れるわけないじゃん。まあ、仕方ないからそろそろ帰るかな」ヤレヤレ
患者A「ん? なんか聞こえない?」
患者B「何が?」
患者A「いや…なんか悲鳴みたいな声が……」
果南(いやいや……物騒な事言わないでよ――)
――キャアアアァァァ!!!!
患者A「!? ほらやっぱり!!」ガタッ
果南(ウソでしょ!? また星人が現れたっていうの!)ゾワッ
果南はもしもの事態に備え既に制服の下にスーツを着用し
鞄の中にはXガンとガンツソードを持ち歩いている
ステルスモードを起動し、武器を構えて悲鳴の聞こえた方向へ急ぐ
曲がり角で一度身を隠して廊下をのぞき込む
――ギョーン!ギョーン!ギョーン!
果南(この音は……Xガン? 一体誰が――…っ!!?)
果南は誰がXガンを使い、何を撃っていたのか理解できなかった
銃の効果により爆発した人物は二人
一人は頭が吹き飛び、判別不可能であった
そしてもう一人は胸部から破裂、間違いなく即死だ
“ツインテールをした赤い髪”の少女はそのまま倒れこむ
女の子「あーあ……せっかく見逃してあげたのにさ、戻って来なければ今日死ぬことは無かったんだけどな~~」
女の子「まさかバッテリー切れでステルスが解除されてたなんてね……いやーうっかりだよ」ニヤニヤ
果南「――……ルビィ…? なら……あれは………マル?」ゾワッ
女の子「……あれ? 病室にいなかったからてっきり帰ったかと思ったよ。――果南ちゃん♪」
~~~~~~
~鞠莉自室~
曜「鞠莉ちゃん、この資料はもう要らないの?」
鞠莉「そうね、一応シュレッターにかけておいて」
ダイヤ「全く……どうしてわたくし達が理事長の仕事を手伝わなくてはならないのですか?」ヤレヤレ
鞠莉「別に一人でも良かったんだけどね、なんか寂しいから呼んじゃった♪」
ダイヤ「………」ピキッ
曜「だったら果南ちゃんを呼ばなかったのは何で?」
鞠莉「まあ……万が一に備えてかな。スーツ持ちが一人でも側にいた方が安全でしょ? それもチーム最強の果南ならね」
ダイヤ「……ミッション外でも星人が暴れる可能性があるのは大問題ですわね。ただ四六時中警戒するのは無理なのでは?」
曜「確かにね…今後の課題だよ」ムムム
鞠莉「それは追々考えましょう。今はこの仕事を片付けましょ~う」キラン
ダイヤ「…一人で出来るんですよね?」ジトッ
――プルルルル、プルルルル
曜「あ、電話だ。ええっと……梨子ちゃん?」ピッ
曜「もしもし? どうしたの?」
梨子『………ハァ……ハァ…曜……ちゃん……?』
曜「梨子ちゃん?」
梨子『……善子…ちゃんが……ハァ……殺され……た…ハァ』
曜「殺された!? 何言ってるの!!?」
鞠莉・ダイヤ「「!?」」
梨子『みんな……が危ない……ハァ だから………ハァ』
曜「直ぐに行く!! 誰がやったの!?」
梨子『……ハァ………ち……ハァ………ビシャ』
曜「もしもし!! もしもし梨子ちゃん!?」
ダイヤ「殺されたってどういう事ですの!? 果南さんはどうしたのですか!?」
鞠莉「――…ダメ、電話が繋がらない。急いで向かった方がいいわね……二人ともスーツは?」
曜「大丈夫だよ!」
ダイヤ「同じく」
鞠莉「よし、すぐにヘリを用意する!! 準備して!」
~~~~~~
女の子「ふふ……さすがに強いね…一対一の近接戦ならあの穂乃果と張り合えるんじゃないかな? ステルスモードで見えないと思ったんだろうけど、私の目には見えるんだな~凄いでしょ」
果南「………」
女の子「戦闘スタイルを二刀流にしたのはいい判断だと思うよ。じゃなければ一瞬で決着がついてたね」
果南「………」
女の子「それにしても遅いなぁ……梨子はちゃんと電話したかな? 何の為に急所を外したと思ってんだよ。……まあ、死んじゃって連絡出来て無かったら明日にでも行けばいいか」
果南「………」
女の子「取り敢えずあと5分は待とうかな。院内の人間は全滅させたし、機動隊が来るまでまだかかるからね~~」
果南「………」
女の子「それまでは果南には私の独り言に付き合ってもらうね! その為に顔はキレイなままにしたんだからさ」ニコニコ
果南「………」
~~~~~~
~沼津 上空 ヘリ内~
鞠莉「いい? 病院に着いたら屋上と正面エントランスの二か所から入るわよ」
曜「私は屋上から入って善子ちゃんの病室に向かう。多分梨子ちゃんもその付近にいると思うから」
ダイヤ「わたくしも屋上から行きますわ」
鞠莉「なら私は正面エントランスね。恐らく院内には星人がいるはずよ。誰かが戦闘を始めたらすぐに向かう事、ケガ人の救助は後回しにする事、いいわね?」
パイロット「お嬢、屋上の真上まで着きましたが……着陸できる場所が…」
鞠莉「ここでいいわ! 飛び降りるよ!!」バッ
パイロット「お嬢!?」
ダイヤ「待ってください!」バッ
曜(梨子ちゃん、果南ちゃん……無事でいて!)バッ
~~~~~~
ダイヤ「私はこのフロアのロビーに行きます。曜さんは病室の方を」
曜「分かりました。……気を付けてくださいね」
ダイヤ「ええ、お互い様にね」
ダイヤと別れた曜は一人で善子のいる病室に向かった
院内は恐ろしく静かだ
人の気配がまるでしない
病室が並ぶ廊下に行くとそこにはおぞましい程の血の海で覆われていた
ある者は頭が、ある者は下半身が破裂したような痕跡が残っている
余りにも惨い死体があちらこちらに倒れていた
曜「……どうして…どうしてこんな事が出来るんだ……」ギリッ
曜は善子の病室の前まで来た
ドアは半開きで中の様子がうかがえたが、生きている人の気配は無い
覚悟を決めてドアを開くが――
曜「―――……あ……ああ…」ポロポロ
ベットの上には首から上が無い善子が、梨子はベットの側面に寄りかかるように倒れていた
梨子の左半身は廊下の遺体同様に破裂しており、足元の血だまりには携帯が浸かっていた
曜「梨子ちゃん!! 善子ちゃん!! なんで……何でよ!!! どうしてさ!!」ポロポロ
「ルビィ!!!!!」
廊下から大声が聞こえた
この声は間違いなくダイヤの声だ
曜「ダイヤさん!? ルビィちゃんにも何かあったの……」ゾワッ
急いでダイヤの元へ向かう
廊下を走り抜けロビーに続く渡り廊下に差し掛かった
曜「――…は?」
曜は目の前の光景が理解できなかった
そこには血塗れになって倒れているルビィ、頭の無い遺体
そして、左手にガンツソード、右手にダイヤの頭を鷲掴みにしている少女が立っていた
ダイヤの体はその少女の足元に転がってる
間違いない、この少女がみんなを殺した犯人だ
ただ、この少女は曜が良く知る……いや、曜にとって最も大切な人物だった
曜「何を……やってるの…? 千歌ちゃん……?」
チカ「あは♪ 遅かったじゃん、よーちゃん」ニコニコ
~~~~~~
~エントランスホール~
鞠莉「ひどい……一体何人が犠牲になったの?」
鞠莉「子どもにご老人まで……虐殺とはまさにこの事ね…」
辺りは鉄のニオイが漂い、ピシャ…ピシャと歩く度に水溜りを踏む様な音が響く
鞠莉は出来るだけ遺体をまたがないように移動し、果南を探す
鞠莉(果南……どこにいるのよ…? 何で見つからないの…)
上のフロアに続く階段に辿り着いた時
胸の中央に刀が突き刺さった少女を発見した
浦女の制服を着たポニーテールの少女の瞳には光は無く
胸に刺さった刀は貫通し壁まで到達していた
その人物が誰なのか、鞠莉には一目で分かってしまった―――
鞠莉「―――…果南…なの?」ドクン…ドクン
鞠莉「ウソよね……果南のはずが無い。だって果南は……果南はあんなにも強いのよ?」ドクンドクン
鞠莉「いやでも……へ? 冗談でしょ? いい加減に目を覚ましてよ果南」ユサユサ
鞠莉は果南を起こそうと揺するが目覚めない
誰が見たって起きるはずが無い
今の鞠莉はそんな当たり前の現実を受け入れる事が出来ない
“松浦 果南の死”という現実を……
鞠莉「いや……イヤアアアアァァァ!!!!!」ボロボロ
~~~~~~
曜はすぐさまYガンを彼女に構える
彼女は灰色のパーカーを着ているが首元や手袋からリング状のメーターが見える
ガンツのスーツを装備しているのは間違いない
Yガンのワイヤー、Xガンの弾はスーツを着用している者には効果が無い
Xガンを当て続けるか、他の手段でスーツを無力化する必要があるのだ
曜(でも、上に服を着ていればワイヤーは無効にされない! もう少し近づいて確実に…)
チカ「――…相変わらずその銃を使うんだね? 星人には有効でも対人にはイマイチだと思うよ?」
曜「っ!? うるさい!! 千歌ちゃんの姿なんかして……悪趣味だよ!!」
チカ「何言ってるのさ? この身体は紛れもない、本物の高海 千歌だよ」ニヤニヤ
曜「適当な事言うな! 千歌ちゃんがこんな事するもんか!!」ギロッ
チカ「はぁ……別に信じ無くてもいいけどさ!!」ブン
彼女は持っていたダイヤの頭部を勢いよく投げつけた
曜はその狂気染みた攻撃にギョッとする
回避出来ないスピードではないが、そのまま直撃してしまう
曜「ぐふ! ダイヤさ――」
チカ「バーカ! 今のは避けるか、弾かなきゃダメでしょ!!」
投げるのと同時に彼女は曜との距離を一瞬で詰めていた
曜の肩から腰を切り落とすように刀を振り下ろす
――ガキン!!
曜はYガンで攻撃を防ぐ
構造上、衝撃に耐えられるはずもなく
Yガンはすでに使い物にならなくなっていた
曜「くっ……よく平気な顔で投げられるね!!」グググ
チカ「甘いね、これは殺し合いだよ? 手段なんか選ぶと思ってるの!!」ドガ!
曜「ぐうわ!!」ドサッ
彼女の蹴りが曜の腹部に直撃し後方へ吹き飛ぶ
チカ「あらら? 動きにキレが無いね~。あの時の方が断然強かったよ」
曜「何のことだよ!」
チカ「やっぱりブランクのせいかな……このままじゃ果南より早く終わりそうだよ」フフ
曜「!? どういう事!! 果南ちゃんをどうした!!」
チカ「どうしたって…そりゃもちろん―――っ!!」パシッ
彼女の後方から頭目がけて一直線に刀が飛んできた
その気配を察知し、片手でキャッチする
彼女の視線の先には今まで見た事の無い、怒りの表情を浮かべた鞠莉の姿があった
鞠莉「――…あんたが……あんたが果南を殺したのか………?」
チカ「そうだよー。でもいいの? そこの曜は信じてくれなかったけど、一応この身体はあんた達の仲間だった千歌の物だけど」ヘラヘラ
鞠莉「……あんたが千歌だろうが誰でも関係ない…よくも果南を……果南を!!」
チカ「おー怖い怖い。ついでに伝えておくけど、そこで倒れてるこれ、あんたの大好きなダイヤちゃんなんだ♪ いや~隙だらけだったから一瞬で終わっちゃったからつまらなかったよー」ケラケラ
鞠莉「言 い た い こ と は そ れ だ け か?」
チカ「……ああ、かかってきなよ」ニヤリ
鞠莉「――――……ブッコロス!!!」ダッ
鞠莉は彼女に向かって駆け出した
鞠莉の戦闘スタイルは格闘術だ、基本的に武器は使わない
対する彼女は鞠莉が先ほど投げつけたガンツソードも合せて二刀流
一見鞠莉が不利な状況に見える
彼女は左右の刀を自在に操り鞠莉を攻撃する
剣術について全く知識のない曜でさえ彼女の凄さは感じ取れた
対する鞠莉はその剣筋を見極め、ほとんどの斬撃を回避していた
激情していると思っていたが頭は冷静さを保っている
――バシ!!
鞠莉の回し蹴りが手首に直撃
持っていた刀は弾き飛ばされ、宙を舞った
続けて二発の突きが腹部にヒットする
チカ「おお! 案外やるね」ヒュン!ヒュン!
鞠莉(このまま押し切る! スーツさえ壊せば勝ちよ!!)シュッ!シュッ!
――バキ!
今度は鞠莉の拳が顔面に直撃
彼女は大きく体勢を崩した
鞠莉「よし! もらったぁ!!!」
チカ「………ニヤリ」スゥゥ
鞠莉が畳みかけようとしたその時、彼女の姿が突然消えた
鞠莉「何!? どうして!!?」キョロキョロ
チカ「――…ねえ、スーツの弱点って知ってる?」
鞠莉「!?」
チカ「顎の下と耳の下にあるメーターを四か所同時に壊すと、耐久値に関係なくスーツを無力化出来るんだ。――こんな風にね」
――パキン
鞠莉のスーツのメーターがいきなり破壊された
背後には消えた彼女の姿があった
鞠莉「なん……で…?」ゾワッ
チカ「果南が持ってたコントローラーを使ったんだよ。バッテリーが少なかったから数秒しか使えなかったけど、十分だったね」ニヤニヤ
鞠莉のスーツにある全メーターからゲル状物質が流れ出る
スーツが無力化されたのだ
彼女は鞠莉の背骨に拳を叩きつける
骨が砕ける音が少し離れた曜の耳にも届いた
鞠莉「ぐ、ああああぁぁぁあああ!!!!!?」
チカ「あはははははは!! これでもう半身不随で一生車いす生活だ! 残念だったねぇ!」
曜「鞠莉ちゃん!!」
その場に崩れ落ちる鞠莉
そんな鞠莉の頭を彼女は踏みつける
チカ「ほらほら、抵抗しなくちゃこのまま踏み潰しちゃうよ?」グリグリ
鞠莉「う……ぐうううぅ……」
曜「やめろ!! 今行く――…」
チカ「動くな、動いたら今すぐ踏み潰す」グググ
鞠莉「がああああ!!!」ギリギリ
曜「っ!?」
チカ「くくく…いいうめき声を出してくれるね。“千歌”の心もかなり痛んできてるだろうな」
曜「何を…言っている?」
チカ「苦労したんだよ? “高海 千歌の精神”を殺さず体の主導権を完全に乗っ取るのにさ!! おかげで4か月もかかったよ」
曜「…精神を乗っ取る?」
チカ「そうさ! 私は“チカ”であって“千歌”では無い。同じ景色を見ているが千歌の方は自由に動けない。千歌の意思とは無関係にこんな事をしているわけ!」
チカ「高海 千歌は今どんな気持ちだろうねぇ。無関係の人間や大切なお友達をこの手で何人も殺してさぁ」ニヤニヤ
曜「お前は……一体誰なんだ!? 何の為にこんな事を!!」
チカ「――…復讐だよ。私を、ワシを殺したお前たちをぶっ殺す。覚えているか? あの時、貴様らはワシの腕を切り落としてさっき壊した銃で転送したよなぁ」
曜「!? まさかあんたは…!」
チカ「そうだ。私はあの時の天狗だ――」
――
――――
――――――
千歌(自分の異変に気が付いたのはみんなが解放されて数日経ってからだ。ボーっとする事が多くなって、気が付くと覚えの無い場所に立ちすくんでいる)
千歌(どうやって来たのか道のりは覚えている。しかし、何故来たのかが分からない。まるで自分の意識とは無関係に体が勝手に動いたような…そんな気がした)
千歌(暫くしてまたガンツに呼び出された。追加のメンバーは3人、この部屋のルールを説明して生き残る為に必要な情報は全て伝えた)
千歌(転送が始まった……と思ったら再び部屋に戻って来た。そしてすぐにガンツは私の採点を始めた)
千歌(ミッション中の記憶が全くない。誰が星人を倒したのか、どんな星人だったのか、新しいメンバーが何故一人いないのか…すっぽり抜けていた)
千歌(それからというもの、自分の体が勝手に動く事が多くなった。今はただ町を徘徊するだけ…でも、そのうち自分が何をしでかすか分かったものじゃ無い…)
千歌(私は迷惑がかからないよう夏休みが終わる前に休学届を提出した。鞠莉さんがガンツの事を覚えていたのは驚いたけど…今はそれどころでは無い)
千歌(その日を境に意識と体が別々になる頻度が劇的に多くなった。前までは勝手に動いているときの意識はおぼろげだったけど、今はハッキリわかる)
千歌(私は家に帰らなくなった。正確には帰れなくなった。自分の意思で動けるときに帰ろうとしても体がいう事を聞かないのだ)
千歌(――そんなある日、私はついに取り返しのつかない事をしたのだ)
――――――
――――
――
曜「――どうしてお前が…でもどうやって!?」
チカ「方法なんて聞いてどうする? ただ、高海 千歌の精神が戻る可能性は限りなくゼロに近い事だけは教えておくよ」
曜「……?」
チカ「私の精神を千歌と完璧に融合させた。完全に乗っ取れば可能性を消す事も可能だが……それじゃこいつを苦しめる事が出来ないからねぇ」ニコニコ
曜「外道が…っ!!」ギロッ
チカ「あんたが千歌に出来る事は一つだけ、私の精神ごとこの体の生命活動を停止させる…つまり“高海 千歌を殺す”事だけ。まあ、無理だろうけど」ニヤニヤ
鞠莉「どう…かしらね……? ちかっちは強い…まだ精神が死んで無い……なら、もう一度戻ってくるわ…!」ハァ…ハァ…
チカ「ああ?」ギロッ
曜「鞠莉ちゃん…そうだ! 千歌ちゃんはあんたなんかに絶対に負けない!」
チカ「………」ギョーン!
チカはホルスターから銃を抜き、何の躊躇いもなく鞠莉に向けて発砲した
ヘラヘラしていた時とは一変、ひどく冷徹な顔となっていた
曜「!?」ゾワッ
鞠莉「…え? ……え?」
チカ「ほら、もうすぐ死ぬけど言い残す事は無いの?」
鞠莉「死ぬ? 私が……? い……嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だあああ――!!!!」
――バン!
鞠莉は右足が吹き飛ぶ
傷口からおびただしい量の血吹き出す
鞠莉「あがああああぁぁぁ!!!!」ジタバタ
チカ「くふっ…くはははははは!! いいよ、凄くいい悲鳴だよぉ! いくら100点を取った実力者でも死ぬのは怖いもんねぇ?」ニタァ
曜「鞠莉ちゃん! 貴様ぁぁ!!!」
チカ「この出血量ならほっといても死ぬでしょ。曜ちゃーん、もう動いてもいいからねー」
曜「………っ」ギリギリッ
チカ「どうした? かかって来なよ。早くしないと鞠莉が死んじゃうよ? これ、ミッション外だって事忘れてなーい??」
曜「――…黙れよ」
チカ「ん?」
曜「もうその顔で、声で喋るな」シュ
曜は左足のホルスターからガンツソードを掴み、展開する
チカも鞠莉の頭に乗せていた足を下し、臨戦態勢に入る
チカ「…残るはお前だけだ。私を仕留めたお前には苦しみながら死んでもらうから覚悟しな」
曜「出来るもんならやってみろ……返り討ちにしてやる!!」
――
――――
――――――
「――…千歌さん?」
「本当だ! 千歌さんだよ!」
千歌「あなた達は……新しいメンバーの子だね。久しぶり」
「良かった……前回のミッションの時に来なかったからてっきり亡くなったのかと思いましたよ…」
千歌「…前回? いつの話……?」
「ええ、昨日に2ヶ月ぶりにミッションがありましたよ? ミッションによっては呼び出されないメンバーもいるんですね」
千歌「(あり得ない……ミッションは必ず全員参加のハズ!?)」
千歌「あの……!?(え? 声が出ない!?)」
「ん? どうしました千歌さん??」キョトン
チカ「……ねえ、二人とも今スーツは着てる?」
千歌「(ウソ!? 身体だけじゃなくて声も勝手に!!?)」
「はい…私は今着てますけど……どうかしましたか?」
チカ「そっかそっか~…じゃあさ、そのまま後ろ向いてよ♪」
千歌「(何をするつもりなの…)」
「いいですけど…変な千歌さん」クル
チカ「ええーと、例の吸血鬼の話が正しければ……」
――パキン
「……は?」
チカ「おお! 本当に一瞬でスーツが壊れた。じゃあ、この銃も問題なく効くよね?」カチャ
千歌「(!? ダメだよ!! そんなことしたら!!!)」
「ちょっ……千歌さん…? 冗談…ですよね?」ガクガク
チカ「あは♪ 笑えるギャグでしょ?」ギョーン!ギョーン!
千歌「(だめえええええ!!!!!)」
――ババン!!
チカ「あはははははは! 最高だよぉ!! やっと本人の意識を殺さずに乗っ取ることに成功した! 今、どんな気分だい?」
千歌「(乗っ取る? あなたは誰なの?)」
チカ「ああ……名乗っていなかったね。人間の表し方だと天狗って言えば分かるかな?」
千歌「(秋葉原で戦ったやつか!?)」
チカ「そうそう、あの時君の腹に一撃喰らわせたでしょ? 一緒に精神の一部を流し込んでおいたわけさ。保険を掛けたのは少々癪だったが…ただ死ぬよりはマシだからね」
千歌「(そんな……バカな)」
チカ「ただまぁ…動きがまだぎこちないな。慣れるのにもう少し時間が掛かりそうだ。もう何人か手頃な強さの奴と戦ってみるか」
千歌「(……私の体を奪って何がしたいの?)」
チカ「そうだなー…まずはお前の仲間を全員殺す。仲良く同じ場所で仕留められればベストだね」
千歌「(………っ)」
チカ「次はあの……ゴツイ鎧を着たあの女、ホノカだっけ? あいつもあいつの仲間も殺す」
千歌「(素直にやらせると思う!!?)」
チカ「無駄だよ、もうお前の意思でこの身体を動かすことは出来ないよ。……くそ、この口調は何とかならないか。女っぽい喋り方にも慣れなきゃならんのか」
チカ「――…まあそういう事だから、これからよろしくね♪」ニタァ
――――――
――――
――
曜は非常に優れた運動神経を持っている
どのスポーツをやっても人並み以上に出来る
戦闘においてもその才能により数々の星人を撃退してきた
しかし、今回は星人ではなく人間
相手は自分の大切な人と同じ姿をしており、最も使いこなせる武器も破壊されている
仲間も全員戦闘不能で今使える武器は最も不得意なガンツソードのみ
これ程まで最悪な状況は経験がない曜だったが――
チカ「おお! 意外に動きが様になってるじゃん。こいつの記憶によれば、この武器は苦手じゃなかった?」キン!キン!
曜「そうだっけ? 器用さが持ち味なんでね!!」キン!キン!
巧みな剣捌きで翻弄してくるチカの攻撃を何とか防ぐ
そんなチカは曜の動きに見覚えがあった
チカ「……なるほど、果南の動きをイメージしているのか。でもそれじゃ勝てないよ!」
曜「くっ!!」
チカは曜のガンツソードを弾き飛ばした
丸腰となった曜に怒涛の斬撃を繰り出す
スーツの防御機能により斬り落とされはしないものの耐久値はどんどん減っている
チカ「ほらほらぁ!! 壊れちゃうよおお!!!」ドスドスドス
曜「調子に……乗るなああ!!」バキッ!
回し蹴りを手首に直撃させ、チカから刀を落とさせる
先ほど鞠莉がやった事と同じ事をしたのだ
ガンツソードを失った二人は格闘戦に突入した
曜「(鞠莉さんの動きを死ぬ気でイメージしろ! スーツさえ壊せばいいんだから!!)」
チカ「格闘は鞠莉か! 真似だけで勝てると思うなよ!!」バキッ!
曜「ぐっ! この!!」ドゴッ
曜の動きは決して悪くは無い
キレもスピードも以前の曜に匹敵するところまで戻っている
しかし、それでも“高海 千歌”には届かない
自らを普通怪獣と表現していた彼女にはこの世界で輝く圧倒的な才能を持っている
“千歌”はその才能に気付いていなかったのだ
敵を殺す為の最善の動きを彼女は瞬時に判断でき
その為の動きを再現する身体能力があり
行動に移す精神力もあった
潜在的に眠っていた才能はスーツと憑依した天狗が開花させ曜を圧倒する
曜「っ!!!」キュウゥゥゥゥン……
チカ「――…壊れたな」ニヤリ
チカは頭部目がけて蹴りこむ
咄嗟に左腕でガードするも機能を失ったスーツでは防ぎきれない
ボキボキと鈍い音を立てながらそのまま側面の壁に叩きつけられる
曜「がはっ…!(マズ…意識が……)」バタッ
チカ「あーあ、防がなきゃ楽に死ねたのに。でも、衝撃で意識ハッキリしないでしょ?」
曜「が……わた…あが……」
チカ「苦しそうだね。安心してよ、もっと苦しい事になるよー」ニタァ
曜「(動け……お願いだから動いて!!!)」グググ
――ギョーン!ギョーン!ギョーン!
チカ「……は?」キュウゥゥゥゥン…
鞠莉「――へへへ…さっさとトドメを刺さないから……私に撃たれるのよ」ハァハァ
曜「ま……り…ちゃん?」
鞠莉「立ち…なさい……曜! あなたが倒れたら…誰がみんなを……生き返らせるの!?」
曜「く……くううう……」グググ
鞠莉「立て……立てえええええ!!!!」
曜「お…おおおおおおお」グググググ
チカ「うるさい。もう死んじゃえよ」ギョーン!ギョーン!ギョーン!
鞠莉「……っ(ダイヤ、果南…私もそっちに行くね……)」フフ
――ババン!!
チカ「――黙って寝てればもう少し生きていられたのに…バカな奴だ」
チカ「さて…威勢のいい声出してたけど……」クル
曜「うおおお!!!」ブンッ
チカ「っ!!」バキッ!
曜は残った右手で顔面を思い切り殴りつける
いくら潜在的な身体能力が高いと言っても、それはスーツのアシストが大きい
スーツが壊れた今、基本的な身体能力の高い曜が一枚上手である
曜「お前がぁ! この!! ……どうしてぇ!!!」ドゴ!バキッ!
チカ「ぐふっ! ぐはぁ!」ベチャ
何度も何度も何度も何度も何度も殴りつける
チカの顔は大きく腫れあがり、片目は腫れた瞼で潰れていた
口から歯を吐き出し仰向けに倒れるチカに曜は馬乗りになる
それでも曜は殴り続ける
病院の廊下には肉を打ち付ける鈍い音が響いていた
曜「ハァ…ハァ……どうして…私が……ヒック 千歌ちゃんを殴らなきゃ……」ポロポロ
チカ「ヒュー……ヒュー………」
曜「いい加減……気絶してよぉ!!!」グワッ!
千歌「――…曜ちゃん」
曜「っ!!!?」ピタッ
曜はギリギリで拳を止めた、止めてしまった
名前を呼ぶその声色は間違いなく千歌のものだった
――その隙をチカは待っていた
曜の右目に指を突き刺す
激痛に怯み、悲鳴を上げる暇すら与えずそのまま曜を仰向けに蹴り倒した
さらに右手を踏み潰し使い物にならないものにした
曜「あがっ……あがああああぁぁぁ!!!!」
チカ「フゥー…危なかった……一瞬だけ戻さなかったらあのまま殴り殺されるところだったよ」ハァハァ
チカ「痛っ…これだから人間の体は……まあいい、まずは脚から弾くかな」カチャ
曜「ハァ…ハァ……」
チカ「一応、遺言を聞いておこうかな? 千歌に言いたい事とかあるでしょー?」ニコ
曜「………」
チカ「いいの? 撃っちゃうよ??」
曜「――…ち………」
チカ「はは♪ 聞くわけねぇだろバーカ!!!」ギョーン!ギョーン!
曜「…だろうね。ごめんみんな……私に千歌ちゃんは倒せなかったよ…」
――バン!
――
――――
――――――
千歌「(ねぇ、どうして梨子ちゃん達を助けたの?)」
チカ「ああ? 別にあの場で殺すべきじゃないと思っただけだよ」
チカ「屋上に転送されていた奴が見えた。校内を探しても三年生と曜が見当たらなかったから多分あの部屋に呼ばれたんだろうね」
千歌「(それが理由?)」
チカ「腕を斬り落とした果南、止めを刺した曜にも出来るだけ絶望を与えたいからね…タイミングが重要なんだよ」
千歌「(………)」
チカ「でも安心したよ。最近反応が無かったからてっきり死んじゃったと思った♪ 全員仕留めるまで勝手にくたばらないでよー」
千歌「(必ずお前から私の身体を取り戻して見せるから…)」
チカ「へぇー…ま、頑張ってよ~」ヘラヘラ
――――――
――――
――
曜「ハァー…ハァー……?」
チカ「あ? この距離で……外した?」
チカの放ったXガンは曜の脚を大きく外した床に被弾した
銃を扱った事の無い人でも外す方が難しい至近距離にも関わらず
理由は一つしかない――
チカ「…まさか!? 貴様ぁ!!? グあああああ!!!」
曜「な……なに…どうしたの?」
「ぐううぅううぅ……ハァ、ハァ…よ……曜…ちゃん」
曜「っ!? 千歌ちゃんなの!!?」
千歌「へへ…久しぶり……だね」
曜「やった……天狗に打ち勝ったんだね!!」
千歌「――…違うんだよ。多分戻れるのは一時的だけ…すぐにまた乗っ取られる」
曜「そんな事無い!! 千歌ちゃんなら絶対勝てるよ!」
千歌「私の事は…私が一番よく分かってる。このままもう一度乗っ取られるくらいなら…」カチャ…
曜「待ってよ…何で自分の頭に銃を向けるのさ! 他に方法があるって!! だからっ!!」
千歌「もうこれしか無いんだよ…みんなを殺したこのチカを道ずれにして死ぬしか!!」
曜「嫌だ…お願いだから待って……――」
千歌「………っ」ギョーン!
曜「千歌ちゃん!!? 嫌だ……嫌だああああ!!!」ポロポロ
千歌「ごめんね曜ちゃん………バイバイ」ニコッ
――…直後、千歌の頭部はXガンにより跡形も無くはじけ飛ぶ
曜の意識はそのまま深い深い闇の中に落ちていった
――――――――――――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――
~???~
「………ちゃん?」
「…おーい、よーうちゃん」
曜「ん…んん……あれ…ここは……教室?」キョロキョロ
千歌「やっと起きた。返事がないから心配したよ?」
曜「……千歌ちゃん? …そっか、私も……」
曜「他のみんなはいないの?」
千歌「うん…ここにはいないよ」
曜「じゃあ、今は千歌ちゃんと二人きりなんだ。なんか二人でいるのも久しぶりだね」
千歌「確かに。前まではみんなと一緒にいる事が多かったもんねー」
曜「――…あのさ、どうしてあの時何も話してくれなかったの? 言ってくれれば私達――」
千歌「残ってくれたんだよね? 多分みんな優しいから同じことを言ってくれると思う」
千歌「でもね、あの部屋には誰か一人は残らないといけない…そういうルールがあるんだよ」
曜「ルール?」
千歌「曜ちゃんにはもう全部伝えるよ。私達があの部屋で戦わされていた本当の理由、この先に起こるカタストロフィについてね――」
――――――――――――
曜「――…そんな事が……だったら尚更話すべきだったじゃん!」
千歌「こんないつ起こるか分からない日の為に残ってなんて言えないよ…解放を目標に戦ってたメンバーの気持ちを考えたらさ」
曜「それは……そうだけど…」
千歌「まあ、こんな事になるんだったら話せばよかったよね……」
曜「………」
千歌「私が弱いばっかりにみんなを…みんなを死なせて……自分で責任が取れないのが本当に悔しいよ……」
曜「千歌ちゃん……」
千歌「だからね、これは私のワガママなんだけど……曜ちゃんにはみんなをもう一度生き返らせて欲しいの」
曜「え? でも私は……」
千歌「大丈夫、曜ちゃんはまだ生きてる。ここは曜ちゃんの心の中って言うか…夢の中?」ウーン
曜「いやいや…さすがに千歌ちゃんにそんな事出来ないでしょ?」
千歌「ほら、最後の最後で取り返したじゃん? あの時よく分からないけどこの能力の一部が使えるようになんたんだよね。まあ、天狗みたいに乗っ取る事は出来ないけど」
曜「……マジか」
曜「でもだったら、千歌ちゃんも生き返らせれば――」
千歌「それはダメなんだ…」
曜「え? なんでさ!?」
千歌「ガンツはメモリーに保存された人間を再生させるの。メモリー内にいる私は天狗がすでに寄生している…そんな私を再生させたら今回みたいな事を同じことを繰り返すことになる」
曜「でも! 今度は分かってるんだから何とでも対応出来るでしょ!?」
千歌「その場合、強制的に乗っ取られるだけだよ。あいつも言ってたでしょ? 私の精神を殺さずに乗っ取るのに苦労したって」
曜「そんな…だったら千歌ちゃんはもう……」ウルッ
千歌「……ごめんね」
曜「――…ヤダ、だったら私はこのままずっとここにいる! ずっと千歌ちゃんと一緒に…!」
千歌「曜ちゃん……」
曜「だって……だってもう二度と千歌ちゃんに会えないんだよ! そんなの耐えられない……」
千歌「…あのね、この空間を作っているのは私の精神力なの。でも天狗にほとんど食われちゃってるからほとんど残っていないんだ…だからこのまま維持し続ければ、私は完全に消滅しちゃうの」
曜「っ!?」
千歌「それに、私は曜ちゃんにこの先も生きて欲しいと思ってる。見えるところに私はいないけど…ずっと傍にいるからさ」ニコッ
曜「……グス 本当?」ジワッ
千歌「うん! ここはもう無くなるけど、消滅さえしなければ曜ちゃんの心の中にはいるから…もしかしたら夢の中とかなら会えるんじゃないかな?」ヘヘ
曜「…はは、それなら嬉しいな」
曜「ふぅ…もう大丈夫だよ。私はどうすればいいの?」
千歌「――じゃあ…外に出よっか」
~~~~~~
千歌「この校門から出れば、曜ちゃんは目を覚ますよ」
曜「へぇー、校門の外は真っ白だ。まさに異空間って感じだね」
曜「――それじゃ、行くね」
千歌「うん……」
――ジジジジジ
曜「あぁ、転送されるみたいに消えるのか」
千歌「ふふ…なんかデジャヴだね」
千歌「暫くの間は大変だと思う。でも曜ちゃんならきっと大丈夫! 最初に生き返らせるメンバーには悩むとは思うけど…その時は相談に乗るからね!!」
曜「うん」
千歌「家族には詳しく説明しなくていいからね! 遺体もきっと残ってるから私が死んだことは分かるはずだから…」
曜「…うん」
千歌「生き返ったみんなにも私が謝ってたって伝えて欲しい。自分で言うべきなのは分かってるけど出来ないからさ…お願いね?」
曜「……うん」
千歌「――あと…あとはね! えっと……ヒック その…ね!! あ…あれぇ……?」ポロポロ
曜「………うん」
千歌「お…おかしいなぁ……グスッ とっくに覚悟は……出来てたはずなのに…うぅ」
曜「千歌ちゃん…」
千歌「嫌だよぉ……離れたくない…曜ちゃんと……みんなとずっと一緒に居たかったよぉ……!」ポロポロ
曜「ふふ……ちゃんと本心が聞けてよかった」ニコ
千歌「……う、ううっ」ポロポロ
曜「あのね…」
千歌「…曜ちゃん?」
曜「私は千歌ちゃんと出会えて幸せだった! 私と友達になってくれて本当にありがとう」
曜「それと最後はさ…やっぱり千歌ちゃんの泣き顔じゃなくて笑った顔が見たいな」ニコ
千歌「……グスッ、……うん!」ニコ
曜「そうそう! 千歌ちゃんはやっぱり笑顔が可愛いよ♪」
千歌「…へへっ、ありがとう」フフ
曜「あー…私の身体、ほとんど消えちゃったね」
千歌「うん…もう言い残した事は無い?」
曜「そうだねぇ……じゃあ、一言だけ言うね?」
曜「―――大好きだよ、千歌ちゃん……ニコ」ジジジジジ
千歌「……行っちゃったか。最後の一言はずるいなぁ…」グスッ
千歌「ありがとう曜ちゃん…私も大好き」スゥゥゥ…
――――――――――――
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――
曜「――…っ」パチッ
曜母「曜!? 良かった目を覚ましたのね! ……ここが何処か分かる?」
曜「大丈夫……病院だよね。どのくらい眠っていたの?」
曜母「二週間よ。本当に心配したんだから!」ウルウル
曜「ごめんね……私のケガはどうなってるの?」
曜母「……落ち着いて聞いてね?」
曜「…分かってる」
曜母「比較的軽いケガは右手首と頭蓋骨のヒビね」
曜母「ただ…右目の眼球は破裂、左腕は骨折の度合いが酷過ぎるらしくて……後遺症が残るそうよ。飛び込みをやるにはもう厳しいみたい……」
曜「……そっか」フゥ
曜「みんなは……どうなった?」
曜母「……っ」ギリッ
曜「だよね……ごめん分かってた」
曜母「曜……」
曜「あのさ、私が下に来ていた黒い服はどこにある?」
曜母「え? あぁ……あれならここにあるわよ。変な服でボロボロだったけど、一応取っておいたわ」
曜「ありがとう……その服はみんなとお揃いのモノなの。だからさ……今は握らせてほしいな」
曜母「……ええ、しっかり持っていなさい」
曜「へへ…ありがと」ギュッ
曜母「じゃあママはお父さんを呼びに行ってくるわね? 曜ちゃんが目を覚ましたって知らせないと」
曜「うん…またね」
――ガラガラ
曜「……行ったね」
曜「ごめんママ…また勝手に居なくなるけど、すぐに戻るからね――」ジジジジジ
~~~~~~
~GANTZの部屋~
曜「うーん…どれどれ?」ペタペタ
曜「はは、後遺症が残るはずの左腕も潰れた右目もすっかり治ってるや」
曜「でも…意識取り戻してすぐ転送されるなんて……ほんっっとに勝手なんだからさ」
曜「………」キョロキョロ
曜「独りぼっち……なんだよね。分かってはいたけどキツイなぁ…」
曜「でも! やるしかないんだ!! ……そうだよね、千歌ちゃん」ジワツ
――ジジジジジ
曜「っ!?」グシグシ
曜「そうだったね、新しいメンバーの追加があるんだったよ」
曜「先輩がめそめそしていたらダメだね! 新入りを勇気づけなきゃ」
「あれ……ここは…? 私は確かに死んだはずじゃ!?」
曜「お! 新しいメンバーだね? ああ、取り敢えず落ち着いてよ!」
「え? あなたは……て言うかここはどこなの…天国? 私は生きているの??」
曜「うん、ここは天国でも地獄でも……いや、どちらかと言えば地獄なのか…とにかく、まだあなたは死んでは無いよ」
「はあ…でも確かに死んだはず……なら生き返ったの?」
曜「うーん…ちょっと違うかな? 正確にはまだ生き返ったわけでは無いよ。その一歩手前って感じだね」
曜「信じられないと思うけど、これから私達は宇宙人と戦うの」
「…何を言っているの?」
曜「あはは…変な事言ってるように聞こえるでしょ? 私も最初はそう思っていたよ」
曜「暫くしたら、あそこにある黒い球が開くから自分の名前が書いてあるケースを見つけて? 私が着ているスーツが入っているからこれだけは必ず着て! あなたの命を守ってくれるからさ」
曜「今回は初めてだから見ているだけでいいよ! まずはこの部屋のルールを覚えてもらわないとね!」ニコ
「スーツ…あなたの着ているそれの事なの? でも何故もう着てるの?」
曜「なんでもう着てるのか? それは私がもう何回もこの部屋で戦い続けているからだよ! 自分で言うのもなんだけど、結構強いんだよ!」エッヘン
「一体あなたは何者なの?」
曜「何者って言われても……ただの女子高生だよ?」
「………」
曜「もう! 大丈夫だってば!!」
「あ、いや……別にそういう事では」アセアセ
曜「……え? 別に怪しんでいるわけじゃないの?? ならいいや」エヘヘ
曜「あ! まだ名前を聞いていなかったね? あなたの名前は?」
理亞「そう言えば名乗ってませんでした…私の名前は“鹿角 理亞”です」
曜「分かった、理亞ちゃんだね! これからよろしく!!」
曜「私の名前はね、“渡辺 曜”だよ!」
理亞「曜さん、ですか」
――ジジジジジ
曜「今回はまだ追加メンバーがいるんだね、どんな子か――………っ!?」
「曜ちゃん!? 意識を取り戻したのね!」ホッ
「意識不明だとこの部屋に転送されない仕様だったのが助かったわね。流石に重体の曜さんを守りながら戦うのは厳しいからね」ヤレヤレ
理亞「この人達も…曜さんと同じ服を着てますね?」
曜「――…へへっ」グスッ
理亞「曜さん?」
曜「そっか…私はまだ独りぼっちじゃなかったんだね……」
「曜ちゃんには聞きたい事が山ほどあるんだからね?」
「まぁ、取り敢えず今回のミッションを生き残らないとねー」ポキポキ
曜「そうだね……よろしく頼むよ!――…梨子ちゃん、善子ちゃん!」
――――――
――――
――
~三年後 沼津 マンション屋上~
「――…なーんか、重要な事を任されちゃったね」
「私達二人でマンション周辺の巨人を退けろ、なんて…曜も無茶言うよ」アハハ…
梨子「確かに、まあこのマンションが壊されたら今後が厳しくなりますからね」
「さて、どうしよっか?」
梨子「曜ちゃんからの連絡では巨人の装甲はZガンで無力化出来るそうです」
「なるほど……なら、梨子は飛行ユニットに乗って空からZガンで無力化していってよ」
「私は丸裸になった奴から片っ端からぶった斬っていくからさ」シャキッ
梨子「分かりました。ただし、無理だけはしないでくださいね?」
「分かってるって、じゃあ行こうか――」
~静岡駅周辺~
イザベラ「――…ハァ……ハァ…ハァ」
エマ「もう無理だよ!! 私達じゃ守り切れないって!」
建物の陰に隠れている二人と一般人6人
そして唯一の出口周辺には巨人7体が徘徊している
巨人の持っている銃からは円盤状のカッターが射出される
この武器により多くの人々が斬殺され、スーツ組も一撃で倒されていった
彼女達のチームも何度も100点を取った猛者達が揃っていたが
今はもう二人しかいない
エマ「強かった皆も死んじゃったんだよ!? 誰かを助ける力なんて私達には無いんだよ!!」
イザベラ「ハァ…ハァ……確かにそうかもな」
エマ「だったら――」
イザベラ「それでも…それでも私はこの人達を見捨てたくない」
エマ「っ!? どうして…カッコつける場合じゃ無いでしょ!!?」
イザベラ「今、この人達を救えるのは私達しかいない。救う力を持っているのにそれを使わないわけにはいかない」
イザベラ「誰かがやらなきゃいけない…やるしかないんだ!!」
エマ「…でも」
イザベラ「――…この場は私が囮になる」
エマ「!?」
イザベラ「安心しろ…死ぬつもりなんてさらさら無い。隙をみてすぐに追いかける」ニコ
エマ「そんな事出来るわけないじゃん! そんな約束信じろって言うの!?」
イザベラ「おや? 私が今までウソをついた事があったか?」
レベッカ「だけど……」
イザベラ「――じゃあ、頼んだぞ!」ダッ
エマ「イザベラ!!」
勢いよく飛び出したイザベラ
Xショットガンで内部からダメージを与える
奇襲で一体は倒したが、一斉に銃口を向けられる
イザベラ「おらぁ!! こっちだ!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!
四方八方からカッターが飛び交う中、紙一重で避け続ける
当たれば即死
そんな恐怖がイザベラの心を蝕む
イザベラ「(恐れるな!! 私なら出来る! 自分の事くらい信じられなくてどうするんだああ!!)」ギョーン!ギョーン!
――…気を抜いたわけでは無い
カッターの一発がイザベラの右側をかすめた
撃ち返そうと右手に握った銃を構える
イザベラ「――ああ?」
イザベラの右腕は肘から先が無くなっていた
傷口からは血液が噴水のように噴出している
膝から崩れ散るイザベラ
そんな彼女に対しても、巨人は無慈悲にも銃口を向ける
イザベラ「(フッ…、すまんなレベッカ…カッコつけた癖に情けないな……)」
――ズドドドドドドン
イザベラを取り囲んでいた巨人全員が見えない円盤によって押し潰された
突然の現象にイザベラは困惑する
イザベラ「は? これって一体……」
「ふぅ…どうやらギリギリ間に合ったようですね」
善子「すぐに止血するわ! 動かないで待っていて」
イザベラ「あ…あんた達は?」
「わたくし達は沼津チームの者ですわ。貴方は…他県のチームですわね?」
イザベラ「ああ、隣の県から来たが…」
「お姉ちゃん! 巨人が立ち上がったよ!!」
善子「曜さんの言っていた通り、Zガンで装甲は無力化出来たわね」カチャ
「そうですか…貴方は一旦私達の部屋に転送します。ガンツ! 頼みましたわ!!」
イザベラ「え? ……ええ?」ジジジジジ
善子「安心しなさい、もう一人の子にも増援が向かってるわ」
イザベラ「っ!?」ジジジジ…
「――…さてと、気を抜かずに行きますわよ!!」
~~~~~~
エマ「――…もう! どうしてここにもいるのよ!?」ギョーン!ギョーン!
イザベラと別れ、一般人を連れて逃げるレベッカだが
不幸にも逃げた先には大量の猟獣やキマイラが待ち受けていた
一匹一匹は大した強さでは無いが如何せん数が多い
更に丸腰の人間を守りながらとなると状況は極めて厳しい
Xガンとガンツソードで対抗するレベッカだが
徐々に押され始めている
エマ「(ヤバイ…このままじゃ守り切るどころか私も死ぬ! 今ならステルスモードで――)」
イザベラ『それでも…それでも私はこの人達を見捨てたくないっ!――― 今、この人達を救えるのは私達しかいない。救う力を持っているのにそれを使わないわけにはいかない――― 誰かがやらなきゃいけないんだ―― じゃあ、頼んだぞ!』
エマ「――…ああもうっ!! ここで見捨てて生き残ってもイザベラに嫌われるんだったら意味無いんだよぉ!!」
エマ「あんた達もビビッて突っ立ってるだけじゃなくて、生き残る最大限の努力はしなさい!」
エマ「目の前の敵は…全員私が――」
「――シャイニィィィーー!!!」ブウゥゥン!!!
揺らいでいた心に自ら喝を入れ、奮い立たせたレベッカの前に
一台のモノホイールバイクが猛スピードで突っ込んできた
その勢いはそこにいた猟獣とキマイラ数匹をミンチにする程だった
「あら……結構轢いちゃったけど、人は巻き込んで無い…わよね?」ダラダラ
「運転が雑すぎずら! 本来な免停ものだよ!!」ガミガミ
「し、仕方ないじゃない! 急いでたんだしー。そもそも私は免許を持っていないので免停にはなりませーん」ニヤリ
「むむう…なら、無免許運転で実刑判決ずら!」
エマ「んな……いきなり現れた挙句、訳わからない事で言い争うな!」ドッ
エマ「ここにはまだ一般人が……ってあれ?」キョロキョロ
「安心して? 私達が来た時、全員ガンツに安全な場所に転送してもらったから♪」
エマ「ガンツ? 転送??」キョトン
「あれ? あの黒い球の名前なんだけど…正式名称じゃないの?」
エマ「ああ、あの球の事ですか……んん!? あの球の操作が出来るんですか!!?」
「イエ~ス♪ ただ、あなたにはまだ一緒に戦ってもらうわ。力を貸して頂戴」カチャ
「あなたの仲間も無事ずら!」
エマ「ホント!? 良かった…」ホッ
「――それじゃ、さっさと片付けちゃいましょ~う」パシンッ
~千歌実家前の砂浜~
曜「――…やっぱり、空が赤いって何だか変な感じだね」ボーッ
曜「まさか千歌ちゃんの言ってたカタストロフィが異文明との全面戦争だったとはね…巨人との戦闘も楽じゃないよ」チラッ
曜はZガンに座りボーっと空を見上げている
砂浜の周辺や道路には10mを超える異星人や大型の猟獣の遺体が大量に転がっていた
その数、合計20体
彼らの使用する武器は全てスーツの耐久値を無視する程の威力を持っているが、それも当たらなければ意味が無い
以前までの曜ならばこれだけの敵を一人で撃退する事は不可能だっただろう
今までの膨大な戦闘経験が今の曜を支える
聖良「――さすが曜さん、これだけの数も余裕そうですね」フフ
理亞「リーダー……こんな時にボケーっと黄昏ないで下さい」ヤレヤレ
曜「おぉー、二人とも早いね!」
聖良「こっち側の人々は全員、小原家が用意したシェルターに避難させました。何体か巨人が襲ってきましたが私達で撃退したので犠牲者はいません」
理亞「全部任せろって言っていたのに…普通に取りこぼしてるんだもの」ジトー
曜「あはは…申し訳ない」シュン
聖良「曜さんは悪くないですよ。それで、これからどうしますか?」
曜「内浦一帯の巨人は殲滅出来たからね…それに避難も完了した事だし、沼津の方に行こうか」
曜「――ガンツ! 私達を部屋に転送して!」
――ジジジジジ
~~~~~~
~GANTZの部屋~
イザベラ「お! レベッカもこの人達に助けられたんだな。無事で何よりだ」エヘヘ
エマ「ちょっ…あんた右腕!? 何でそんなにお気楽でいるのさ!」
イザベラ「大丈夫だ。この通り輸血もしているし手当はしっかりとやって貰ったからな」
イザベラ「……まあ、生きてるだけ良かった。またレベッカに逢えたことだしな」ニコ
エマ「……バカ」グスッ
イザベラ「――…にしても、この部屋の人達って滅茶苦茶強くないか?」
エマ「確かに、さっきまで一緒に戦っていたけど…安心感って言えばいいのかな? 上手く言えないけど私達のチームには無い強さがあったよ」
イザベラ「まだこのチームのリーダーが戻ってないらしい」
エマ「これ程のメンバーが揃ったチームのリーダーか…一体どんな人なんだろう?」
イザベラ「――…帰って来たみたいだぞ?」
――ジジジジジ
梨子「あ、曜ちゃん! 帰って来たね!」パァ
「ちょっと遅いですよ…心配しました」フゥ
「だから言ったじゃん、心配ないってさ」
「そうそう♪」
「理亞ちゃんと聖良ちゃんもお疲れ!」ニコ
「良かったぁ、これでみんな無事だね」
善子「当たり前でしょ? 私達なんかよりずっと強いんだから。寧ろここでやられていたら困るわ」
内浦から帰って来た曜と鹿角姉妹
部屋には既に仲間達が帰還していた
曜は千歌との約束通り全員を生き返らせた
新たな仲間と共にメンバーの再生、装備の強化を行い
この日に備えて着々と準備をしてきた
曜「ふふ、ただいま…みんなも無事で良かったよ」
果南「この日の為に戦ってきたんだよ? 当然だよ」
梨子「私と果南さんでこのマンション周辺はきっちり死守したよ!」
花丸「見つけた人々は転送したけど…巨人とロボットの増援が来たからガンツから強制転送されちゃったずら」
曜「そっか、私がそう設定したから仕方ないよ」
ルビィ「私達も頑張ったけど…小さい飛行船みたいのにいっぱい連れて行かれちゃった」シュン
善子「倒せる敵は大体やったけど、デカいロボットみたいなのもは無理だった。あれはここにある武器だけじゃ太刀打ち出来ないわね」
理亞「連れて行かれた? あのデカい宇宙船にって事よね?」
ルビィ「うん…全部同じ方向に飛んで行ったから間違いないよ」
聖良「だとしたら、あの宇宙船に潜入する必要がありますね……」
ダイヤ「それなら大丈夫ですわ。先ほど東京チームの穂乃果さんから通信がありました」
曜「穂乃果さんから?」
鞠莉「アメリカチームから宇宙船の地図を貰ったみたいでね、私達にもそれを送ってくれたってワケ」
果南「どの場所に人が連れて行かれたかも分かったよ。ガンツでそこに直接転送も出来るってさ」
ダイヤ「穂乃果さん達は一度救出に向かったそうですよ。…何でも連れ去られ人は血抜きされ食用に加工されているとの事ですわ」ギリッ
理亞「――…どうする、リーダー?」
曜「………」
梨子「…私はいつでも行けるよ」
花丸「ずらっ!」
ルビィ「ルビィ行けますっ!!」グッ
善子「さっさと決めちゃいなさい?」
曜「――…みんなは怖くないの? これから行く場所は敵の本拠地、何が起こるか分からないんだよ?」
果南「そりゃ……当然怖いよ。だよね、鞠莉?」
鞠莉「ええ、“一人”だったら絶対に行かないわ」
ダイヤ「私達には仲間がいます。一人では無理でも、仲間と一緒なら…いえ、このメンバーならどんな困難でも乗り越えられますわ。私達“11人”なら絶対に」
曜「!!」
善子「って言うか、今さら怖いか聞かれてもねー」
花丸「確かに」クスクス
ルビィ「怖い思いは散々してきたからねぇ……」
曜「………」
果南「――…じゃあ、やめる?」
曜「え?」ピクッ
理亞「そうですね、リーダーの判断なら仕方ないですから」チラッ
聖良「! まあ、このデータを他のチームにも流せば誰かがやってくれますよ。無理して私達がやる必要性はありませんからね」
果南「そうそう、だから止め――」
曜「『――やめない!!』……あっ」
果南「ふふふ、久々に“千歌”が出てきたね?」
梨子「全く…最初から決まってるんだったら曜ちゃんの意思で言ってよね」
善子「変なところで優柔不断なのは変わらないんだから」ヤレヤレ
花丸「千歌さんもまだ元気そうで良かったずら♪」
曜「あ、あはは…。ゴホン、変な心配かけてごめんね」
曜「…じゃあ、これから敵の本拠地に潜入しよう。今回は敵との戦闘はほとんど無いと思う。もし遭遇したら“勝つ戦い”では無くて“生き残る戦い”をすること。絶対に無理はしないでね」
鞠莉「無理はするな、だってさ……」チラッ
果南「な、なに?」ジトッ
曜「危ないと思ったらすぐに転送してもらう事。その時間は私が稼ぐ」
善子「はぁ? 無理するなって言っておいてそれは無いでしょ?」
梨子「よっちゃん、曜ちゃんの事はよく分かってるはずよ?」
善子「リリー……」
エマ「――…あ、あの!!」
曜「ん? そう言えばあなた達は…?」
ダイヤ「紹介が遅れましたわね、この方々は富山チームのイザベラさんとエマさんです。静岡で戦闘中だったところに私達が合流、その後私達と一緒にこの部屋に来て頂きました」
曜「なるほどね……どうしたの、エマさん?」
エマ「私も一緒に連れて行ってもらえますか?」
曜「私達と? 富山に帰らなくていいの?」
エマ「あの宇宙船には私の友人がいるんです…自分が非力なばっかりに目の前で連れて行かれました」ギリッ
曜「………」
エマ「一緒に探してくれ、なんて言いません。せめて宇宙船の中にだけでも連れて行ってください…お願いします」
曜「その子は静岡で連れ去られたの?」
エマ「そうです」
曜「…ならまだ間に合うかもね」
曜「エマさんも連れて行こうと思うけど、いい?」
理亞「構わないわー、もう早く行きましょうよリーダー」
聖良「連れ去らわれた方を助ける為にも早く行くべきですね」
再び全員の顔を確認する曜
皆それぞれ違った表情をしているが
恐怖、悲観、不安など負の感情を出した表情の者はいなかった
曜「(ふふ…私にも表情を見るだけで覚悟が出来ているかどうか分かるようになっちゃったわけか)」
曜「――…よし、ガンツ! 今すぐ転送して!!」
――ジジジジジ
転送が始まり、各々身体が足元や頭の先から消え始めた
武器の最終確認をする者
隣の仲間と手を取り合う者
目を閉じ再び精神統一する者
部屋に残る者と会話する者
意味の分からない詠唱を唱える者
それを隣で聞きながら苦笑する者
これから敵の本拠地に向かうとは思えない
緊張感に欠ける雰囲気であった
ただ、曜にはこの雰囲気がとても心地よかった
――…曜は静かに目を閉じた
『――みんな相変わらずだね、高校時代と全然変わらないや』
曜「(千歌ちゃん…久々に出てきてくれたね? 花丸ちゃん達を生き返らせたとき以来だから……2年半ぶり?)」
千歌『えへへ……夢に出るって言ったけど、そこまでの力は残って無かったみたい』
曜「(………)」
千歌『……こうして話せるのも、これで最後になると思う』
曜「(…そっか、だからこのタイミングにしたんだね?)」
千歌『まあね、もう一度曜ちゃんやみんなの顔や声が聴けて良かったよ…』
曜「(なーんか不思議な感じ。今度こそ本当にお別れなのに、また逢える気がする)」
千歌『曜ちゃん……』
曜「(――…あの時、伝えたい事は全部伝えたから……今回は何も言わないよ)」
千歌『分かってる、同じ事言われても感動半減だもんね』
千歌『じゃあ、気を付けてね! 絶対にみんなと一緒に帰ってくるんだよ――』スウゥゥ
曜「―――っ」パチッ
目を開くとそこは巨大な流れるプールのような施設があった
いくつものレーンで区切られており
丸裸にされた人々が激流に流されている
奥の方では胸に穴を空けられ逆さ吊にされた大量の人間が流されていた
今流されている人々がこのままではどうなるのか
誰が見ても明らかであった
既に梨子と善子がZガンを使用し水流の制御装置を破壊
他のメンバーも水中にいる人々の救出に向かっていた
果南「曜! 早く行くよ!!」
梨子「ぼーっとしている暇なんて無いよ!」
善子「頼むわよ、リーダー」
曜「――…うん、今行くよ!」ダッ
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~ガンツの部屋~
――ジジジジジ
凛「にゃあぁぁ……久々のミッションだね! テンション上がるにゃあ!!」
絵里「り~ん! 元気なのはいいけど、勝手に暴れまわらないでよ」
真姫「そうよ、援護する身にもなりなさいよね」ジトッ
花陽「凛ちゃん……」ハァ…
希「おぉ! にこっちはお仕事無かったんやな。随分ラフな格好で転送されてるやん」ニシシ
にこ「まあね、折角のオフだったのに…ホント迷惑よ!」プンプン
海未「穂乃果、ことり、お久しぶりです」ペコッ
ことり「久しぶり! 元気だったぁ?」
穂乃果「うん、いつもと変わらず元気にやってたよ」
ことり「海未ちゃんは……前よりちょっと変わった?」
海未「ええ、カタストロフィ事を話してもらってから日々の鍛錬にもより真剣に取り組めるようになりましてね…ここで100点をより多く取る為の備えは万全ですよ」ニコ
穂乃果「おぉ…こりゃ、もう私より断然強くなっちゃったんだろうな」アハハ…
海未「どうですかね? 強さには色々ありますから。そうだ、今度手合わせしませんか? 無論、スーツは無しで」
穂乃果「い、いやー…さすがにそれじゃ私に勝ち目が無いなぁ」ビクビク
――ジジジジジ
「――…あれ? もしかして私が最後ですか??」
凛「あ! 普通怪獣ちゃんだ!!」パァ
「ちょっと凛さん! ガンツが付けたあだ名で呼ばないで下さいよぉ」プンプン
花陽「そうだよ、前から嫌がってるでしょ?」
凛「えー…可愛いあだ名だと思うんだけどなぁ」シュン
「あ、いや…そんなに落ち込まないで下さい」アセアセ
にこ「年下困らせてどうすんのよ…」
真姫「気にしなくていいわよー」ヤレヤレ
「は、はぁ…」
絵里「確か今日は…まだ静岡のはずよね?」
「はい、明日の朝に帰る予定でした」
希「そっか~、なら帰りの交通費が浮いてラッキーやな♪」
「え? まあ、そうなりましたね……ん? なんかデジャヴ……」ムムム
ことり「それでどうだった? “年上の同級生”に会って来た感想は?」
「――…そうですね、まさか曜ちゃんが今も戦ってるなんて…それも果南ちゃんも一緒だったのは驚きましたね」
「そう言えば、穂乃果さんから教えてもらったメンバーのほとんどは卒業したみたいでしたよ? あの場にいませんでした」
穂乃果「そうなの? 千歌ちゃんじゃなくて曜ちゃんが残ったって事なのかな……」
「そこまでは分かりませんが…とにかく、曜ちゃんに気付かれなかったのはラッキーでした」フゥ
穂乃果「そうだよ! 仕方のない状況だったとしても、何でステルスを解いちゃうのさ!? 危うくバレちゃうところだったんだよ!?」
「うぅ……ごめんなさいぃ」グスン
海未「まぁ、電話で知らされた時は焦りましたが、バレなくて本当に良かったですね」
ことり「でも災難だったね? お忍びで帰ったのに星人との戦闘に遭遇しちゃうなんてね」
「……でも、曜ちゃんの姿や声が聴けて良かったです。きっと“未来”の千歌とも仲良くやってるはずです」
穂乃果「ねぇ、やっぱり私の事恨んでる?」
「まさか! 穂乃果さんが情けをかけてくれなかったら、今生きていません。法律上存在しない私を養ってくれている穂乃果さんには感謝していますよ」
穂乃果「でも…」
「その時が来たら私から打ち明けます。私の存在は曜ちゃんと“私”にしっかり決めてもらいますから」ニコ
穂乃果「そっか……」
「――…さあ、もうすぐ今夜のミッションが始まります。今回も気合い入れていきましょう!」
穂乃果「……うん! よろしく頼むよ!!――――…“千歌”ちゃん!!!」
千歌「――――はい!」
千歌「GANTZ?」追加ストーリー ~終~
ここまで読んで頂きありがとうございました!
以前、分岐がいくつかあると言った展開を使った今作ですがいかかだったでしょうか?
原案では千歌ちゃん以外全滅、しかも再生できるのは一人だけという鬱展開を曜ちゃんにやってもらおうと思っていましたが…バッドエンド大好きな自分でもさすがに出来ませんでした(笑)
カタストロフィは終わらせ方が全く思いつかなく、エタっちゃう可能性が高いので書きません
ただ、今度はμ'sの話も書いてみたいですね(予定は未定)
全シリーズ読んで感動しました!
これで終わりなのかもしれませんが、個人的にはまだ続いてほしいと思いました。
感動しました!
けれど、追加ストーリー後半辺りから思考が追い付かなくなってしまった……。