2017-08-07 08:11:06 更新

前書き

シリーズの続編です


~一月 静岡県 某所~



ここは夜の商店街

人気は全くなく、周囲を照らす街灯はチカチカと点滅している

どこにでもある普通の場所である


ただ、今夜だけは異常だった


地球上では見た事の無い、醜く凶暴な姿をした化け物がその場に居座っている

しかも一匹や二匹ではない

目視出来るだけで数十匹はいるだろう


化け物の足元には運悪く今夜この場所に訪れてしまった複数の人間の遺体が転がっている

どの遺体も原型を留めていない悲惨な殺され方だった


並の人間…いや、例え十分な装備を整えた人でもこの化け物と戦って生き残る事は非常に困難であろう



そんな化け物へ、お揃いの奇妙な黒いスーツを身に纏った女子高生の集団がすぐそこまで接近していた




「――…いた。ただ、思った以上に数が多いわね」


「どうじます? 一般人の避難誘導にあたっているリーダーを待ちますか?」


「その必要は無いでしょ。あのレベルの星人なら一人で三体は相手取れるわ」


「ええ、戦闘にはもう慣れましたから。心配無いわよ、姉さま」カチャッ


「まあ、制限時間もある事だし…私達だけで何とかしよう!」


「私とリリーで斬り込むわ。鹿角姉妹は後方から援護をお願いね」


「「了解」」



「じゃあ…――行くよ!!」ダッ!




二人は星人の集団へ一斉に走り出した

同時に後方からXショットガンによる連射も始まる


初撃で二体の星人を撃破、他にも体の一部にダメージを与えることに成功した


この奇襲による影響が続くうちに後に三体倒しておきたかったが…




「おわぁ?! おととっと……ぶへぇ!!」ズテンッ!




斬り込みに行った一人、側頭部にお団子頭をしている少女が遺体に足を引っかけ、化け物の目の前で顔面からスッ転んだ


幸いと言っていいのか、星人の何体かはそんな少女を完全に無視し、狙撃をしている二人の方へ襲い掛かる




「何してるの、よっちゃん!? 何体かそっちに行ったから二人とも気を付けて!!」



「っ!! 了解です!」ギョーン!ギョーン!


「津島 善子おおぉぉぉおお!!!!」ブチッッッ!!!



善子「だぁーもうホント悪かったわよ!! だから怒鳴りながらフルネームで呼ぶのは止めて!!?」




地面に倒れ込んでいる善子にも複数の化け物の魔の手は迫っていた

援護に回りたいのは山々だが、三人とも手が離せない


――回避が先か


――攻撃が先か



ほんの一瞬の差で、化け物の攻撃の方が早い



善子「っっっ!!!?」ギリッ!



化け物の拳が善子の顔面を捕らえ――




――バシュ! バシュ!




拘束用のワイヤーで捕獲され化け物の攻撃は善子まで届かなかった


善子の上から“リーダー”と呼ばれる、一人のセミショートヘアの少女が舞い降りる

手にはYガンとガンツソードが握られており、顔や体には化け物のものと思われる返り血が所々に付着している




「ごめん! 少し手こずって遅くなった!! 喜子ちゃん大丈夫!!?」


善子「え? いや、そのー……///」


「はっ!? 顔が赤いよ!? まさか毒を受けたんじゃ――」


「この間抜けは単純にコケただけ!! この戦場で!! 盛大に!!」



「……」ジッ


善子「……ピュ~♪」


「なら、さっさと自分の失敗を取り返して! 死に物狂いで戦え、バカ善子!!」


善子「仰る通りです!!!!」ガバッ



勢いよく立ち上がり、鹿角姉妹の元へ援護に回る



「――みんな、一気に片付けるよ!!」





――――――

―――――

―――

――



~GANTZの部屋~



善子「――…梨子さん、曜さん、理亞さん、聖良さん、今回は大変申し訳ありませんでした」



帰還早々、全員の前で土下座する善子




梨子「本当だよ! 死んじゃってもおかしくない場面だったんだからね!?」


理亞「この部屋では先輩のハズなのにね、情けない」ジトッ


善子「ぐふぅ!!」グサッ


梨子「今度からは気を付けてね?」ヤレヤレ



曜「聖良さんと理亞ちゃんもまだ二回目なのに随分戦えるようになったね! 驚いたよ!」


聖良「いえいえ、リーダーが事前に訓練で私達を鍛えてくれたおかげですよ。感謝しています」ペコリ


理亞「善子よりは役に立つ自信はあるわ」


善子「……」シュン


曜「も、もうその辺にしてあげようよ…」アハハ…



梨子「あ、採点が始まったよ」





GANTZ『聖闘士 15点 TOTAL45点』



聖良「あら? 意外とあの星人、点数低いんですね」


梨子「一体5点ってところかしら?」



GANTZ『ダンスなう 25点 TOTAL57点』


GANTZ『堕天使(笑) 10点 TOTAL32点』



理亞「……フッ」ドヤッ


善子「このっ! ムカつくけど何も言えないぃ」ギリギリ



GANTZ『なしこちゃん 30点 TOTAL68点』


GANTZ『ヨーソロー 40点 TOTAL84点』




聖良「お二人は流石ですね! もう点数が半分を超えています!」


理亞「この調子なら、次のミッションで曜さんは100点に到達しそうですね」



善子「これでようやく、死んだメンバーが生き返るって事ね! ミッションのペース的に来月には一人目が帰ってくる」


梨子「曜ちゃんは最初に誰を生き返らせるの?」


曜「……ぁ」



善子「何言ってるのリリー、曜さんが最初に選ぶ人なんて千歌さんに決まっているでしょ?」


聖良「チカさんですか?」


善子「ええ、このチームが9人だった頃のリーダーで、曜さんの幼馴染なの」


梨子「偽物の千歌ちゃんがいた時には驚いたけど、やっと本物の千歌ちゃんに会えるんだね!」


理亞「幼馴染ですか…なら、間違いなくそのチカさんを生き返らせるべきですねー」フム



曜「……」


梨子「ん? 曜ちゃん?」キョトン


曜「へ? あ、あー…そうだね。でも、今回はいい……かな」


善子「……え?」


曜「確かに千歌ちゃんは幼馴染だけど、優先するべきメンバーは学校の理事長をやってる鞠莉ちゃんだと思う。いつまでも、理事長不在っていうのは学校としても良くないでしょ?」


梨子「そうだけど…今は代わりの人がやっているじゃない。鞠莉さんを後回しにしろって言うつもりはないけど、曜ちゃんが最初に生き返らせたいと思っている人を選ぶべきだよ」


曜「……うん、取り敢えず100点を取った時にまた考えるね」






――――――――

――――――



――あの日の記憶が蘇る



チカ『あは♪ 遅かったじゃん、よーちゃん』ニコニコ


チカ『バーカ! 今のは避けるか、弾かなきゃダメでしょ!!』



――やめて



チカ『――…ねえ、スーツの弱点って知ってる?』



―バキッ!!



鞠莉『ぐ、ああああぁぁぁあああ!!!!!?』


チカ『あはははははは!! これでもう半身不随で一生車いす生活だ! 残念だったねぇ!』



――やめてよ



チカ『ほら、もうすぐ死ぬけど言い残す事は無いの?』


鞠莉『死ぬ? 私が……? い……嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だあああ――!!!!』


チカ『くふっ…くはははははは!! いいよ、凄くいい悲鳴だよぉ! いくら100点を取った実力者でも死ぬのは怖いもんねぇ?』ニタァ



――やめてってば



曜『ハァ…ハァ……どうして…私が……ヒック 千歌ちゃんを殴らなきゃ……』ポロポロ


チカ『ヒュー……ヒュー………』



――もう、嫌だ



曜『ハァ…ハァ……』


チカ『一応、遺言を聞いておこうかな? 千歌に言いたい事とかあるでしょー?』



チカ『はは♪ 聞くわけねぇだろバーカ!!!』



――っ!!? この先はやめて!



千歌『ぐううぅううぅ……ハァ、ハァ…よ……曜…ちゃん』



――やめて…



千歌『私の事は…私が一番よく分かってる。このままもう一度乗っ取られるくらいなら…』



――もう見たくない



千歌『もうこれしか無いんだよ…みんなを殺したこのチカを道ずれにして死ぬしか!!』



――やめろ…



千歌『ごめんね曜ちゃん――』



――やめろおおぉぉぉおおおお!!!!



千歌『――バイバイ』ニコッ




―バンッ!!!!





――――――――

――――――



曜「――…やめろおおぉぉぉおおおお!!」ガバッ



自室のベッドから飛び起きた

あの部屋から帰ってきた曜はすぐに着替え、眠りについていたのだが…



曜「はぁ、はぁ、っはぁあ……はは、またこの夢か…」



病院での事件以降、曜はほぼ毎晩この夢をみるようになった


その夢の中ではあの日に感じた匂い、音、声、痛みなど全てが完璧に再生される

それは、自身がタイムリープしているのではないかと錯覚するほどのリアリティなのだ


しかし、夢の中で自分はあの日と同じ行動しか出来ない

仲間を救う事も出来なければ、チカを救うことも出来ない


そして、千歌が銃で頭を吹き飛ばすまで夢は覚めないのだ




曜「みんなに千歌ちゃんの蘇生が出来ない事…まだ言えてないんだよね。どうしよっかな」



そう、メモリーに保存されている千歌には天狗の精神が寄生している

このまま再生してしまえばどうなるのか、想像するのは容易である


だが、この事実を曜は梨子達に伝えていない

もう二度と千歌に会えないという現実を曜自身もまだ受け入れる事が出来ていないからだ



曜(でも…どうしてこの事を知ってるんだっけ……?)





~~~~~~



~数日後 昼休み 中庭~



善子「ねえ、曜さん最近ちゃんと寝ている?」


曜「へ?」


善子「さっきから話しかけても反応が薄いし、隈も出来ているし…」


梨子「そうだよ? 悩み事でもあるの?」


曜「あー…ちょっと前に面白い本見つけてさ、それ読んでたら寝るの遅くなっちゃうんだよね。あははは」



梨子「…本当?」


曜「本当本当、今日から気を付けるよ~」ニコッ



善子「なーんだ、心配して損したわ」ハァ…


曜「心配させてごめんね?」


善子「じゃあ、今日遊びに行く元気はある?」


梨子「この前、よっちゃんと遊びに行ったときにお洒落な雑貨屋さんを見つけたの。そのお店に曜ちゃんが好きそうなグッズも結構あってね」


曜「むむ、いつ二人で遊びに行ったの!? 私聞いてないぞー」ムスッ


善子「いや…誘ったけど曜さん、水泳の練習があるから断ったじゃない」


曜「あれ? ……ああ、昨日のあれか。確かに断ってたね。ごめんごめん」


梨子「放課後に曜ちゃんと遊びに行ける機会が減っちゃったから、今日こそは行きたいな」


善子「そうそう、いつも遊びに行くメンバーがリリーしかいないんだからね!」


梨子「ふーん…よっちゃんは私と二人じゃ不満だったんだー」ジトッ


善子「え、いや…別にそういう意味で言ったわけじゃ……ただ、曜さんも一緒に楽しめればいいなと思っただけで――」アワアワ


梨子「ふふ、冗談だよ。でも、遊びに行く友達が私達しかいないっていうのは少しマズイかなぁー」


善子「ぐっ、確かにそれは否めないけど……」




曜(ふふ、最初は比較的険悪な関係だったけど、ここまで仲が良くなるなんてね。良かった良かった♪ まるで私と――)




――モヤッ…




曜(ん? なんだろう、この感じ……?)



梨子「それで、曜ちゃんも行く?」


曜「あ…うん! 私も行きたい!!」


善子「決まりね。授業終わったら校門の前で待ち合わせでいい?」


曜「了解であります!」ニコッ





――――――

――――

――



~松月~



曜「――…ん~、久しぶりにいい買い物が出来たよ♪」


梨子「良かった♪ それにしても、随分買ったけど大丈夫なの?」


曜「大丈夫だよ~、最近全然買い物してなかったから、そこそこ貯まってんだ」


善子「なら、ここのスイーツは曜さんの奢りで……」


梨子「こら、図々しいわよ?」ペシ


善子「あだっ! で、ですよねー」ヒリヒリ



梨子「そんな図々しいよっちゃんには……も~らい!」ヒョイ


善子「ああ!? 私のパンケーキが!?」ガーン


梨子「モグモグ…んん~ん、美味しい♪」


善子「だったら私だって――」


梨子「はい、どうぞ」スッ


善子「へ?」キョトン


梨子「勝手に食べたんですもの、当然でしょ?」


善子「り、リリー…」ウルウル



曜(本当……仲がいいね……)ニコニコ




――――――――

――――――



千歌『あ! 曜ちゃんのケーキ美味しそうだねぇ…』チラチラ


曜『ん? 千歌ちゃんも食べたいの?』


千歌『え、もしかして分けてくるの!?』


曜『もちろんだよ♪ あ、でも代わりに千歌ちゃんのパンケーキも少し頂戴?』ニコ


千歌『やった~! ありがとう曜ちゃん!!』パアァ!!




――――――――

――――――



――モヤッ…



曜(あー…またこの感覚だ。最近この二人のやり取りを見てると、どうして変な感じになるんだろう……)


曜(それに、何故か千歌ちゃんとの思い出が頭をよぎる…もう帰って来ないのは分かってるのに……)



梨子「曜ちゃんも私のケーキ食べる?」


曜「……」


梨子「…曜ちゃん?」


曜「あ、ごめん。もう一回言って?」


梨子「私のケーキ食べるって聞いたんだけど…」


善子「普通この距離で聞き逃す? 何考えていたのよ」モグモグ




善子は普段と変わらないトーンで曜に尋ねたのだが…




曜「…うるさいな、別に何でもいいでしょ……」ボソッ


善子「……え?」ビクッ


梨子「よ、曜…ちゃん?」


曜「…ん? どうしたの? あ、ケーキくれるなら私のもあげないとダメだよね! ちょっとしかないけど善子ちゃんも食べて」ニコニコ


善子「え、あ、ああ…ありがとう……?」キョトン


曜「梨子ちゃんのケーキも美味しいけどこれも中々イケるんだよ!それにね――」



梨子(…一瞬だけ曜ちゃん、凄く怖い声と顔していたような…気のせい……なの?)




――――――

――――

――



~それから一週間後~



梨子「――ねえ、最近曜ちゃんに避けられている気がしない?」


善子「リリーも感じた?」


梨子「やっぱり…休み時間は机に伏せて寝ているし、昼休みはすぐにどこかに行っちゃうし、放課後も真っ先に教室から出て行っちゃうの…」


善子「私も、今までは一緒のバスで学校まで来ていたのに、最近は時間を変えたみたいで…それに廊下ですれ違っても目を逸らされちゃう…」シュン


梨子「私達…何か悪い事しちゃったのかな……」



必死に思い返してもみても何も心当たりがなかった

原因が分からない以上、どうしようもない

肝心の曜が今、この場に居ないので直接聞くことも出来ない



善子「今晩の訓練の時に訊きましょう?」


梨子「そうね、私達に原因があるなら何とかしないと……」




~~~~~~



~同刻 図書室~



曜は誰もいない図書室で頬杖を突きながら、ぼんやりと外の風景を見ていた


相変わらず毎晩あの夢を見ている

慢性的な睡眠不足と夢による精神的ダメージは曜の心に深刻なダメージを与えている


眠ればあの夢を見るので、学校でもおちおち居眠りをするわけにはいかなかった

更に、梨子と善子のやり取りに亡き千歌との思い出がちらつく様になり、より一層ストレスになっていた



曜(あーあ、絶対二人とも様子がおかしいって思ってるよね。自分でもそう思うもん)


曜(今までは何とも思わなかったのに…二人のやり取りを傍で見ていると、モヤモヤするっていうかイライラするっていうか……少なくともいい気分じゃない)



曜(梨子ちゃんと善子ちゃんは悪くない、悪いのは二人の関係を勝手に千歌ちゃんと私の関係を被せている私)


曜(でも、このままじゃ二人にも悪いよね…気持ちを切り替えないと! 今晩の訓練で話そう……)





――――――

――――

――



~夜~



梨子「こんばんは、曜ちゃん……」


曜「…こ、こんばんは」


善子「……」ジッ



理亞「…え、何? どうしてこんなに険悪な雰囲気な訳?」


聖良「三人が喧嘩とは…珍しいですね」


曜「別に…喧嘩してるわけじゃ――」



梨子「訓練を始める前に訊くね? どうして私と善子ちゃんの事を避けるの?」


曜「……っ」


聖良「そうだったんですか、リーダー?」


理亞「なんだ、やっぱり喧嘩中なんじゃない」



善子「私達…曜さんの気に障る事しちゃってたの?」


曜「……別に、二人は何も悪くないよ。これは私の問題だからさ…ただ、避けるような事しちゃって気分悪くさせてごめんね? これから気を付けるからさ」


梨子「その、曜ちゃんが抱えている問題って何?」


曜「…大した事じゃないよ、暫くすれば解決するから大丈夫」


善子「ウソよ、大した問題じゃないなら、どうしていつも辛そうな顔しながら学校に来てるの?」


曜「……」




――モヤッ…




梨子「授業中だっていつも眠そうにしている。最近眠れていないんじゃない?」


曜「……」




――モヤモヤッ



善子「曜さんが心配なの。今何を抱えているのか話してよ。相談してよ」


梨子「お願い、力になりたいの」


曜「……」



二人は本気で曜を心配していたし、その事は曜にも伝わっていた


でも、自分が今まで二人に対して抱いていた感情やその原因となっている夢を相談してもいいのか?

話してしまえば、二人は間違いなくこれまで通りの付き合いを辞めるだろう


曜にとってそれは本意ではない



曜(二人にはこれから先も仲のいい関係でいて欲しい。それを壊してしまうくらいなら……)




曜「――ダイジョウブダヨ、二人に相談する事は何もない。だから心配しないで?」ニコッ


梨子「……よ…う……ちゃん」


曜「話はこれまで。さ、訓練を始めよか!」


聖良「え、ええ…」


理亞「……?」




善子「――千歌さん関係の事?」


曜「……」ピクッ


梨子「よっちゃん?」


善子「曜さんがどれだけ千歌さんの事が大好きなのか知ってる。“千歌さんの姿をした偽物”だったとは言え、同じ姿をした星人を殺した事を今でも悔やんでいるんじゃないの?」




操られていたとはいえ、梨子や善子、みんなを殺したのも

曜に重症を負わせたのも間違いなく千歌本人だった


ただ、あの病院での真実を知っているのは、生き残った曜だけ

二人にはウソをついていたのだ



善子「死んだのは偽物なの。それに、曜さんはもうすぐ100点まで行くの! 本物の千歌さんに会える!!」


曜(…ダメ……善子ちゃんは知らないんだから仕方ない……だって私が本当の事を言ってないんだもん……だからこんな感情を抱いちゃ――)



――ドロッ



善子「忘れろとは言わない、でもそこまで悩む必要は無いと思う。もう仕方なかったって事で割り切りましょう?」


曜「………割り…切る?」


善子「そうよ、いつまでも変わらない過去を悔やんでも仕方ないじゃない!」


曜(仕方無い……悔やんでも…千歌ちゃんが死んだのは仕方ない………割り切る…過去は変わらない………二度と…帰って来ない……)




――ドロドロッ




曜「――黙れよ」ボソッ


善子「え?」



曜「すぐに割り切れるんだったら…こんなに悩まないんだよ。簡単に言わないで」ギロッ



今まで聞いた事無い、冷たい低い声で、善子を睨みながら話す曜

余りの迫力に善子だけでなく、他のメンバーも固まった



曜「もういいや……いい機会だし、全部話す。あの日、あの病院で起きた事全部とその犯人についてね――」




―――――――――



梨子「――ウソ…でしょ? じゃあ、私達を殺したのは……千歌ちゃん本人…?」


善子「千歌さんを再生すれば同じことを繰り返すなんて……それじゃあ、生き返らせるのは事実上不可能ってわけ……?」



曜「その点、二人はいいよね? 仮にどっちかが死んだとしても、もう片方が生き返らせればいいんだもん。お互い大切な友達を失うことは無い」


曜「でも…私の場合は違う。千歌ちゃんはもう二度と生き返らない、帰って来ないんだよ」


梨子・善子「「……」」



曜「おまけに、あの日の出来事を夢で見るんだ。私が屋上から病院に侵入してから、目の前で千歌ちゃんが自殺するその瞬間まで目が覚める事は無い。そんな夢をね」


曜「色はもちろんカラーだし、血の匂い、骨が折れる音、交わした会話や仲間の悲鳴、腕や目を潰された時の痛みとかとかとか。それはもう鮮明に、正確に、寸分の狂い無く感じるんだよ、夢なのに」



曜「そんな夢を毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩毎晩繰り返し見ている私の気持ちが、大好きな人をボコボコに殴ったり、逆に半殺しにされたり、最後には目の前で死なれる私の気持ちが!! ……みんなには分かる?」


梨子「……っ」ギリッ


善子「……うぅ」ポロポロ



曜「……分かる訳ないよね? だって、私が逆の立場だったら絶対想像できないんだもん」


聖良「で、でもそれだと梨子さんと善子さんを避けるようになった理由が分かりません……」



曜「あぁ、それは…単純に私のせいだよ。二人は全く悪くない」


曜「二人が仲良く喋ったり、じゃれたり、遊んだりしている風景を見てるとね、あー…昔は一緒にこんな事していたな、千歌ちゃんが生きていたらきっとこんな感じだったんだろうな、そう思うようになってね」


曜「――そんな二人が羨ましく思うと同時に、憎くなっていたんだよ」



理亞「へぇ…随分勝手ね」


聖良「ちょっ、理亞!?」



曜「いいの、理亞ちゃんの言う通り。そんな勝手な感情を抱いた自分自身が許せなかった…だから一旦距離を置いたの。正直、何がきっかけで自分が壊れるか分からなかったし、もし壊れたら、自分が二人に何をするのか…想像も出来なかった」


理亞「まあ、その様子じゃ間違いなく修復不可能な状況になるでしょうね。言葉か暴力、もしくは両方で」



曜「……ねぇ、私は…どうすればいいの……かな…? もう…分からなくなっちゃった……」ジワッ



…梨子と善子には答えられなかった



梨子(確かに曜ちゃんの言う通り、私にとってよっちゃんは一番の友達。もし、ミッションで死んじゃったら最優先で生き返らせると思うけど…)


善子(でも、だからと言って曜さんの事をどうでもいいなんて思ってない! リリーと同じくらい大切な人だと思っている。…思っているのに)


梨子(曜ちゃんにとって千歌ちゃんの存在は、私達の思っている以上に大きかった…多分何を言っても、私達の言葉は曜ちゃんの心には届かない……)




理亞「……だったら忘れてしまえばいいじゃない」


曜「…どういう意味?」ギロッ


理亞「曜さんにとってチカって人が凄く大切な存在だったのは分かった。でも、それが今の曜さんを苦しめているのなら無くしてしまった方がいい」


曜「……このっ!!」



怒り狂った曜は理亞のもとへ詰め寄る

今の曜に冷静な判断をする精神的な余裕は既にない

千歌の事は忘れろ、という発言は負の感情を爆発させる起爆剤となってしまった


理亞の胸倉を掴み、その拳は強く握りしめられていた


それでも、理亞は冷静に話を続ける



理亞「――だからさ、もう解放を選びなさいよ?」


曜「!?」ピタッ


聖良「解放…?」


理亞「100点メニューには強い武器の取得、再生の他に戦いからの解放があるんでしょ? その時に記憶も一緒に消去されるらしいじゃない」


曜「……」


理亞「時期的に曜さんが星人に寄生されたチカさんと戦った記憶は消去対象になるハズ。チカさんが死んでいる事実は変わらないけれど、今よりもよっぽどマシ」



曜「で、でも…私は……」


理亞「曜さんはその戦いで死んだメンバーを生き返らせる為に戦っているのよね? だったらそれは私達が引き継ぐ」


梨子「え!? でも、理亞ちゃんは解放を目標にしているんじゃ…」


聖良「まあ、そのつもりでしたけど…状況が状況ですからね。そのカタストロフィってのが将来訪れるなら、私達も備えるべきですし」


理亞「ハッキリ言う、今の曜さんの精神状態ではこの先の戦いで絶対にチームの足を引っ張る。それくらい分かるでしょ?」


曜「…私の力なしで、この先やっていけるの?」


理亞「……当然よ。今後、メモリー内から再生される仲間が増えていく。曜さん一人居なくなったところで大した損害じゃない」


聖良「理亞! そんな言い方っ!!!」


曜「私は……必要…ない……?」



善子「違う、そんな事は無い! 曜さんがいたから今まで――」

曜「――わかった」


梨子「曜……ちゃん…?」ゾワッ



曜「次のミッションで100点を取ったら、解放を選ぶ。理亞ちゃんの言う通り、このまま戦っても迷惑をかけるだけだと思うし…」


曜「取り敢えず今夜は帰るよ……ごめんね」




――――――――



聖良「理亞!! どうしてあんな事言ったの!!? これまでだって曜さんのおかげで私達は生き残れた!! なのに、あなたはっ!!!」


理亞「…だって、こうでも言わないと曜さんは解放を選ばないでしょ?」


理亞「曜さんには本当に感謝しているし、この先も一緒に居て欲しい。でも今の曜さんじゃ、近い将来間違いなくミッション中に死ぬ。…いや、下手したら自殺する可能性だってある」


理亞「曜さんが死ぬのなんて絶対に嫌。それが回避されるなら、私はいくらでも汚れ役だって引き受ける」


梨子「ごめんね…理亞ちゃん。本当なら私達がなんとかするべき事なのに……」


理亞「いいですよ…曜さんが解放されれば、今は憎まれたとしても忘れてくれますから」ニコッ



善子「私達が曜さんに出来る事って…無いの?」


聖良「厳しい…でしょうね。恐らく、今の曜さんは梨子さんと善子さんだけではなく、仲のいい二人組が目に入るだけで精神的ダメージが入っていると思います」


善子「……」


聖良「こればっかりはどうしようもありませんよ…やはり記憶が消せるなら、そうするべきだと思います」


梨子「……曜ちゃん」




今夜の訓練は中止

曜と他のメンバーの雰囲気は改善されないまま時間は過ぎていった

そして――



――――――

――――

――



~二月 GANTZの部屋~



今回のターゲットも公開され、後数分でミッションが開始される

相変わらずチームの空気は重い


曜の表情は転送されてからずっと険しく、とても話しかけられる雰囲気ではなかった




曜「………」グッタリ


梨子(曜ちゃん凄く疲れ切ってる…きっと、あれからもずっと同じ夢をみているせいで寝て無いんだよね……)



善子「よ、曜さん…あの……」オドオド


曜「……何?」ギロッ


善子「ひっ!!」ビクッ


曜「…ごめん、ちょっと機嫌が悪いんだ。今はそっとして欲しい」プイッ


善子「う、うん…」シュン



理亞「ったく、こんな調子で今夜のミッションは大丈夫なの?」


聖良「リーダーがこの様子じゃ…今回は戦闘に参加しない方が良いのでは?」


曜「……そうするよ」


聖良「でしたら、今回は梨子さんがリーダーって事になりますね」


梨子「私?」


理亞「まあ、そうなるわね」




――ジジジジジ




梨子「詳しい話は転送が終わった後にしよう。みんな、行くよ――」




~~~~~~



~淡島 果南自宅前~



梨子「ここは…果南さんの家?」


善子「つまりここは淡島って事か」


聖良「今回は範囲が広いですね……星人の配置と制限時間を考えると二手に分かれた方が良いですね」


梨子「そうしよう。私とよっちゃんはホテル方面、理亞ちゃんと聖良ちゃんは神社方面の星人をお願い」


理亞「りょーかい」



梨子「曜ちゃんは…ここでミッションが終わるまで待っていて?」


曜「……うん」


梨子「危ないと思ったら無理はしないですぐに逃げる事、今回も犠牲者ゼロで終わらせるよ!!」





~~~~~~



山頂にある淡島神社へ続く山道を歩く鹿角姉妹

レーダーに反応はあるものの、星人の姿は未だ確認できなかった



理亞「ねえ、曜さんをあそこに置いてきて本当に良かったのかな?」


聖良「…今の曜さんを連れて行ったところで連携して戦えるとは思わない。かといって私達の誰かをボディーガードとして付ける余裕は私達には無いわ」


聖良「曜さんの安全の為にも、私達がしっかり星人を処理しないとね。…まあ、曜さんなら並の星人くらい一人で余裕で倒せるでしょうけど」


理亞「……そうね」


聖良「さて……そろそろ神社に着く頃だ…け……ど……!?」




聖良の目の前には信じられない光景が広がっていた

神社周辺の少し開けた空間に、見た事の無い生き物の死体が数体も転がっていたのだ


これは間違いなく星人なのは分かった

獣の様な姿をしており、その両手には鋭い爪が生えている

首や胴体には鋭利な刃物で斬り裂かれた痕が残っていた




理亞「これって…どういう事? 仲間割れ?」


聖良「そうなるのかしら…一般人が倒せる生き物じゃないハズだし。そもそもここに来るまでに誰とも会わなかった」


理亞「何よ、勝手に仲間割れされて死なれちゃ点数にならないじゃない!」ムスッ


聖良「……いや、でもさっきレーダーを見た時には――」




そう、聖良はこの光景を見る直前までレーダーを見ていた

そこには確かに星人の反応が一つあったのだ


理亞の後ろの木の陰から星人が飛び出してきた――




聖良「――…理亞!!」ドンッ!


理亞「きゃっ!!?」




咄嗟に理亞を突き飛ばす


星人はその鋭い爪で斬りかかる


それをXショットガンで防ぐが、爪が深々と銃に突き刺さった


聖良は武器を放棄し、一旦距離を取るものの、星人は素早く追撃してきた




聖良(くっ!! 意外に速い!? 次の攻撃を回避するのは無理か!!?)バッ!



星人の斬り裂き攻撃の回避は不可能と判断した聖良は、右腕で防御の態勢を取った

…ただ、星人の攻撃が聖良に届く事は無かった




――ズドン!!




――見えない何かが星人を押しつぶしたのだ

先ほどまで星人がいた場所には大きな円形の窪みと血の池が出来ていた



聖良「はぁ…はぁっ……?」



「――…不意打ちに対する反応は良かったね。でも、爪での攻撃を腕で防御しようとしたのはちょっとね……」




星人が飛び出してきた場所から誰かが歩いてきた

その手には鹿角姉妹はまだ見た事の無い、黒い大きな武器が握られていた

…Zガンである



「スーツの防御力を過信しちゃダメ。星人の攻撃は基本的に回避一択、防御するなら必ず武器を使わないと」


聖良「な、なるほど……」


理亞「え…私達と同じスーツ!?」


「……やっぱり今回は静岡チームと合同ミッションなんだね。メンバーはあなた達しかいないの?」


聖良「い、いえ、他にも三人います。範囲が広いですから手分けして殲滅に当たっていますが……」


「…そっか、三人しかいないんだ……」



聖良「あの…助けて頂いてありがとうございます。私の名前は鹿角 聖良です。こっちは妹の理亞です」


理亞「理亞です」ペコリ



「聖良さんと理亞さんだね。私は東京のチームの……」


理亞「……?」



高坂「……東京チームの“高坂”だよ。短い間だと思うけどよろしくね?」ニコ





~~~~~~



レーダーに反応があったホテル近辺に到着した二人

そこには神社同様、既に星人の死体が複数体転がっていた


予想外の状況に、この二人も動揺を隠せない




善子「…どういう事? どうしてこんなに星人の死体が転がっているのよ!?」


梨子「この死体…頭が吹き飛んだり、四肢が千切れたりしているわね。この倒し方はひょっとして――」



――ギョーン!……ギョーン!



すぐ近くでXガン特有の発砲音が聞こえてきた



梨子「…やっぱり、今回のミッションは合同だったんだね!」


善子「合同? 秋葉原の時みたいに他のチームが来ているってわけ?」


梨子「そうよ! 正確に頭を撃ち抜く射撃センス、星人の身体を引きちぎる倒し方、もしかしたら……とにかく行くわよ!!」




二人は音のした方角に向かう

そこには――




「ちょっと!! どうして銃を使おうとしないわけ!!? 何の為に私が今まで教えたと思っているの!!」ギョーン!ギョーン!


「だって当たらないんだもん!! やっぱ、体動かして引き千切った方が早いにゃ」キュイィィィン!!




梨子達と同じ装備をした女性二人組が三メートル近い巨体の星人と戦っていた

片方は格闘戦で、もう片方は銃による狙撃で星人を追い詰める


何やら言い争っているようだが、その戦いには安定感があった


接近して戦っていた女性は、一瞬の隙を付き、星人の首をへし折る



「ほらね? 銃より早いでしょ」ドヤッ


「……はぁ、まあ、長年のスタイルを今更変える方が難しいか」モヤモヤ



善子「ま、マジか……」


梨子「真姫さん、凛さん……やっぱり、あなた方でしたか」



凛「えっ、梨子ちゃん!? って事は…ここって静岡なの!!?」


真姫「でしょうね。“ホテルオハラ”があるのは静岡県沼津市の淡島ですもの。静岡のチームと合同になるのは必然か……」


善子「えーっと…凛さんは前に会った事あるけど、もう一人の赤髪の方は? あなたもμ’s何ですか??」


真姫「あぁ、確かに直接会うのはお互い初めてね。私は西木野 真姫、呼ぶときは真姫でいいから。μ’s時代は作曲担当だったわ」


善子「真姫さんですね。私は津島 善子です」



梨子「あの…ここにはお二人しかいないのですか? 他のメンバーは?」


真姫「…誰とも会わなかったの?」


梨子「はい、転送された場所から真っすぐこの場に来ましたけど……誰とも会いませんでした」



凛(ね、ねぇ…梨子ちゃん達がいるって事はさ、ちょっとマズくない?)ボソボソ


真姫(…そうね、幸いまだ“あの子”には会っていないようだからこのまま……)ボソボソ



梨子「…真姫さん?」キョトン


真姫「え!? いや、何でもないわ。そっちは手分けして戦っているの? 千歌達は元気?」


梨子「……」


善子「あの…千歌さんは……いません」


凛「い、いない!? 死んじゃったの……?」


梨子「はい…秋葉原戦でのメンバーのほとんどが一旦あの部屋から解放されたのですが、ミッション外で星人に殺されてしまって……今は生き残った三人と新規で加わった二人の五人で戦っています」


凛「そっか…大変だったね」


真姫「だったら悪い事しちゃったわね。メンバーを生き返らせる為に点数が必要なのに、私達がこんなに倒しちゃって……」


梨子「それは構わないんですが…東京チームはその後どうなったのですか?」


真姫「見ての通り、私と凛の“二人”以外死んでるわ」


梨子「…え? 二人以外……死んだ?」


凛「前回のミッションでみんな倒されちゃったんだ…」


梨子(嘘でしょ…? あの穂乃果さんや海未さんが…死んだ……?)




――グルルルル…




真姫「――…お喋りは一旦ここまでね。星人のお出ましよ」カチャッ


凛「私達がフォローするから、トドメは二人に任せるよ!」


梨子「了解です! お願いします!!」





~~~~~~



鹿角姉妹は神社で遭遇した東京チームの高坂と名乗る人物と共闘していた


一旦は全滅した星人だったが、すぐに増援が来た


どの星人も素早い動きで鹿角姉妹は翻弄され、思うように攻撃が当たらない



高坂「――…理亞さん! 一旦引いて!!」ギョーン!


理亞「わ、分かった!」ダッ



高坂の指示に従い、星人から距離を取る


その瞬間、理亞と星人の間に大きな円柱状の窪みが発生した


ギョッとした星人は一瞬動きが固まる


その隙に高坂は星人に急接近し、その両足を斬り落とす


そのまま、持っていたガンツソードを聖良が相手をしていた星人の足に投げつける



高坂「二人とも今だよ! トドメを刺して!!」


聖良「は、はい!」ギョーン!


理亞「……ふぅ」グサッ!



高坂「よしっ! これでここら辺の星人は片付いたかな?」


理亞「…流石都会のチームの人ね。戦い慣れているって感じがすぐに分かるわ」


聖良「もう何回もミッションに参加しているのですか?」


高坂「うーん…回数までは覚えていないけど、かれこれ一年以上は経っているかな……?」


理亞「い、一年!? そりゃ慣れるわ……」


聖良「なら、その箱みたいな武器は100点メニューで獲得できるアイテムなんですね」


高坂「そうだよ。ただ、私の場合は死んだ仲間から引き継いだものだけどね」



高坂「…さて、お喋りはここまでにして、次の場所に向かおうか」


理亞「そうですねー、レーダーの反応的に次は……はぁ!!?」


聖良「ど、どうしたの?」


理亞「よ、曜さんの周辺に星人が……しかも結構の数だよ!!」ゾワッ


高坂「っ!! 曜ちゃんは一人で行動しているの!?」


聖良「は、はい…ちょっと色々あって、今回のミッションは休ませようという事になりまして……」


理亞「今の曜さんは本調子じゃないわ。二、三体くらいなら大丈夫だと思っていたけど…明らかに五体以上はいる!」


高坂「…急ごう、一気に駆け降りるよ!! ついて来て!!!」


理亞「で、でも高坂さんはこの場所は初めてなんじゃ……」


高坂「この場所は“よく知ってる”の!! そのダイビングショップならこっちから行った方が速い!!」


聖良「ここは高坂さんの言う事を信じましょう。行くわよ、理亞!!」


理亞「え、ええ……」


理亞(高坂さんはどうして、曜さんがいる場所が“ダイビングショップ”だって分かったのかしら?)



~~~~~~



~果南自宅 ダイビングショップ前~



曜は、梨子に待機を命じられたので、大人しく入り口前の階段に座っていた

連日見る悪夢で心はボロボロ

その瞳に光は失われ、普段の曜とはまるで別人のように様変わりしていた


ただ、そんな状態であってもまだ、仲間を思う気持ちがほんの少しだけ残っていた




曜(…みんな大丈夫かな……やっぱり私も行った方が――)



だが…



――理亞「ハッキリ言う、今の曜さんの精神状態ではこの先の戦いで絶対にチームの足を引っ張る。それくらい分かるでしょ?」


――『曜さん一人居なくなったところで大した損害じゃない』



曜(――…あぁ……私の力は、必要は無いんだったね。そう…必要……無い…)


曜(…理亞ちゃんの言う通り、ここで解放を選べば、毎晩あの夢に苦しめられる事も無ければ、いつ死ぬか分からないミッションに参加する事も無い)


曜(カタストロフィだって…私は記憶を失っているから何が起こっているか分からないけど、きっと梨子ちゃんや生き返ったみんなが守ってくれるよね…)



――ドロッ…



曜(いや…カタストロフィだって正直どうでもいい。世界の終焉とか人類存続の危機とか……もう興味無い。だって――)



繰り返す悪夢、決して変わる事の無い現実、否定された自己の存在意義


この数日間、悩みに悩み続けた曜だったが、彼女の精神はもうとっくに限界を超えていた


自問自答の末、辿り着いた答えは――




曜「――千歌ちゃんのいない世界なんて…滅んじゃえばいい」ボソッ



抱えていた感情が、少しずつ漏れ出していた負の感情が、一気に溢れ出す


――その瞬間を隠れていた星人は見逃さなかった

背後から忍び寄り、両手で曜の頭を覆った



星人「ふふ…どういう訳かこの人間だけ孤立していたから、私の能力を使うには好都合だったわ」ニヤリ



この星人は怒り、憎しみ、絶望といった人間が抱える負の感情が高まった時、手の平から発せられる特殊な電磁場により対象を乗っ取ることが出来る



曜「…ぁぅう……ぅぅうあぁ…」ボーッ


星人(瞳孔は……よし、開いているわね。能力はしっかり作用している)


星人「さーて、現地の言葉はこれで合っているハズだから、後は命令するだけね」



星人「よく聞きなさい、これから貴方は憎むべき人間を全員殺せ。狂気に身を任せ、全てを壊せ」


曜「……はい」


星人(よし、後は放っておけば勝手に同士討ちをしてくれるでしょう。それまでは高みの見物と――)




――ガシッ!!




曜は星人の首を絞めつける

スーツのパワーアシストにより、星人の首の骨はミシミシと音を立てる



曜「……あはっ♡」ニタァ


星人「があ…がはぁっ……」

星人(ど、どうして!? 能力はしっかり作用していたハズよ!!?)


星人(まさか…この人間には二つの精神がいるとでも――)



ゴキッと鈍い音が響く


星人は曜を乗っ取る事に失敗


代わりに人格を大きく歪ませてしまった――




曜「……ふふ、うふふふふ………あははっ、あはははハハハハハ!!!」


曜「そうだよ、別にいいじゃん!! だって千歌ちゃんがいないだもん!! 誰が死のうが生き返ろうが私には関係ない!!!」


曜「全部壊しちゃおう♪ 星人も! 今までの自分も! …千歌ちゃんとの思い出もぉ!! あはははははは」


曜「そうと決まれば、100点を取る為に星人を狩らないといけないよねぇ! 早速参戦しなくちゃ――」




――グルルルル…




いつの間にか、曜の周辺に複数体の星人が集まっていた

この数を倒し切れば間違いなく100点に到達するだろう


曜は今まで見せた事の無い、邪悪な笑みを浮かべる




曜「あはっ♪ 探す手間が省けたよぉ」カチャッ



一度はYガンを構えるが――



曜「……これじゃ、つまんないよねぇ?」ポイッ




曜は殺戮を好まない性格上、止む追えない時以外はYガンで対処してきた

そんな曜がYガンを放り投げ、ガンツソードを構える


曜から放たれる狂気じみた殺気を感じ取った星人は、思わず後ずさった




曜「逃げるなよ? 全員、私がぶっ殺してやるからさぁ!!!」ニタァ





~~~~~~



善子「このっ! 速くて全然当たらない!!」ギョーン!ギョーン!


真姫「善子! ただ引き金を引くんじゃない、しっかり当てるイメージを浮かべながら撃ちなさい!!」ギョーン!ギョーン!


善子「い、イメージ……っ!!」ギョーン!



善子の狙撃がヒットし、星人の頭部が吹き飛んだ



善子「ウソ!? 一発で頭に当たった!!」


真姫「何よ、やればできるじゃない?」ニヤッ


善子「よ、よし……この調子でやってやるわ!!」




梨子「凛さん! そのまま抑えて!!」


凛「了解にゃ!」グググ



凛が星人を取り押さえ、梨子が斬り裂く


連携して星人を倒しても、その貢献度に応じて点数は配分されない

ガンツは星人にトドメを刺した人にしか点数を与えないのだ



凛「ふぅ、これで同じくらい点数は稼げたんじゃない? もう凛が倒してもいいよね?」


梨子「ええ、それはいいんですけど……あの星人、一人で倒せそうですか?」




二人の目の前には他の星人とは見た目が少し異なる個体が立ちはだかっていた

片手には少し大きめの ひょうたん が握られている


長年の経験で二人は直感した――



凛・梨子(この星人は、ヤバイ…!!)



ちらっと一瞬のアイコンタクトを取り、同時に攻め込む


梨子の剣術も、凛の格闘術も我流ではあるが、実践で鍛え上げた一流の技にまで昇華されている

そんな攻撃を星人は見事に捌き切る



凛(くっ…梨子ちゃんとの連携は初めてだから、かよちんの時みたいに上手く立ち回れない!)


梨子(凛さんの動きが速い! 私の剣筋じゃ、凛さんの邪魔になっちゃう……!!)



拙い連携の隙を付かれ、星人はひょうたんを振り払った

ひょうたんの中には液体が入っていた


その液体は梨子の頭から降りかかろうとしていた



梨子(この液体は……何?)



不気味な液体を浴びるわけにはいかないので、バックステップで回避

全身に浴びる事は回避したが、液体は右脛に浴びた



刹那、浴びた箇所が一気に溶けだした




梨子「っっぅうああああああああああ!!!!!」ドサッ


凛「にゃあ!? 足が溶けた!!!?」ゾワッ




右脛の消滅による激痛に悶え苦しむ梨子

星人はそんな彼女に、もう一度ひょうたんの液体を浴びせようとする



真姫「凛!!」


凛「分かっている!!!」ダッ



梨子の腕を強引に引き寄せ、ギリギリで直撃を回避

そのまま一旦距離を取った


星人はひょうたんの液体を口に含み、遠方で銃を構える善子と真姫目がけて勢いよく吐きだす


善子は運よく構えていたXショットガンに当たったが、真姫はその液体を右手の甲に受けてしまった

当然、梨子の足同様、一気に溶け始める



真姫「~~~~~~っっっ!!!!」


善子「ま、真姫さん!!」



凛「真姫ちゃん! 梨子ちゃんの足がどんどん溶けちゃうよ!? もう膝下まで無くなっちゃったよ!!?」


真姫(っ!? 私の手もみるみる消滅していく!! このままじゃ……死ぬ!)ゾワッ



真姫は残った左手でXガンを握る

そして、まだ消滅していない肘上の部分に銃口を向け――



――バン!



傷口ごと、真姫の腕が吹き飛んだ




真姫「がああああああああつっっううううう!!!!」


善子「真姫さん!? 一体何を!!?」


真姫「ぐううぅ、痛っう…思った通り、消滅が止まったわ……」ジンッジンッ


善子「え?…あ、本当だ……」


真姫「凛! 今すぐ梨子の足を斬り落としなさい!! 早く!!」


凛「分かった…! 梨子ちゃんごめん!!!」ザクッ



凛は梨子が持っていたガンツソードで足を斬り落とす


そして、梨子を善子と真姫の方向へ投げ飛ばした



梨子「ぐふぅ!」ドサッ


善子「しっかりして、リリー!!」ポロポロ


梨子「はぁ…はぁ……ごめん、ドジっちゃっ……た…」


真姫「出血がひどいわね…善子、この止血剤を打ち込みなさい」


善子「わ、分かった! リリー、ちくっとするけど、我慢してね」プシュ


真姫「前回までは痛み止めもあったんだけどね、生憎在庫切れなの」ギュッ



真姫は左手と口を器用に使い、スーツの切れ端で傷口を縛った

止血剤のストックも少なく、梨子に使用した分で無くなっている



真姫「私は梨子を連れてこの場を離れる。安全な場所に置いてきたら戻るから、それまで凛と一緒にあの星人の相手をお願い!」


善子「戻ってくるって…真姫さんだって大怪我しているじゃないですか!?」


真姫「ええ…利き腕を失った以上、持ち味の正確な狙撃はもう無理。だからその役目は善子、あなたに任せるわ」



真姫は善子に自身が持っていたXショットガンを差し出す



善子「私が…真姫さんの代わりを? ……そんなの出来るわけ――」


真姫「いい? 出来る出来ないの問題じゃないわ。やるしかないの!!」


善子「やるしか……ない…」


真姫「大丈夫、さっき一発で出来たんだから感覚は掴めているハズよ。それに、あなただって伊達に戦闘経験を積んで無いでしょ? 凛の援護、任せたわよ」ニコッ


善子「……任せなさい!! 真姫さんが戻ってくる頃には、もう終わってるんだからね!」


真姫「それは心強い。そんな善子にアドバイスよ」


善子「?」




~~~~~~



鹿角姉妹と高坂は急斜面の森の中を最短距離で駆け降りる

その様子はもはや、駆け降りるというよりは、落下するといった方が正しい


登るのに数十分はかかるところを三分も経たないうちに、到着する勢いだ


そんな凄まじいスピードの中、理亞は何とかレーダーを確認する




理亞「星人の反応が見る見る減ってる! 曜さんが単独で倒しているみたいね!!」


聖良「流石曜さん、と言ったところですか…」


高坂「でも油断は出来ない! レーダーだけじゃ、その星人の強さは分からないからね…残った星人を曜ちゃんが一人で倒せるとは限らない!!」


聖良「そうですね…」


理亞「もうすぐ着くわよ!!」




森を抜け、ダイビングショップの裏手に出た

三人は店の屋根に飛び乗り、上から様子を確認した


……そこには、バラバラに斬り裂かれた星人の遺体が大量に散らばっていた


確かに、星人は殺さねばならない敵である事は間違いない


ただ、この殺し方は尋常でない

この星人に相当の恨みがあるのか……

そのくらい酷いありさまだったのだ



理亞「な、何なのよ…これ……」


聖良「これを…曜さんがやったの…?」


高坂「……あれ」



高坂の指さす方向を向くと、そこには大型の星人に馬乗りになっている人の姿があった

その人物の手には刀が握られており、何度も何度もそれを星人に刺し続ける


耳を澄ませば、その人物の声が聞こえる――




曜「あははははは!! 死ね! 死ね! 死ねよ、死んじゃえよおおおおお!!!! ギャハハハハハハハ!!!!」ザクッ!ザクッ!ザクッ!



曜は…それは楽しそうに星人を刺し続ける

顔や体を返り血で真っ赤に染めげ、狂ったような笑い声を響かせる


その変わり果てた様子に、鹿角姉妹は絶句した




高坂「……曜ちゃんは…一体どうしたの?」


聖良「そ、それは話すと長くなるのですが……簡潔に言えば、以前この部屋で一緒に戦っていた、幼馴染のチカという人が亡くなったんです。ただ、その人はとある事情でもう再生できない状況になってしまったて……曜さんはそのショックで……」


高坂「だ、だとしても、あれは異常だよ!?」


聖良「私にも分かりません! 始まる前はいつもの曜さんだったんです!!」


理亞「私の…せいだ……私がチカさんの事を忘れろって…曜さんはもう必要ないって言ったから……!」ガクガク


聖良「理亞…」


高坂「……」




高坂は話を聞き終わると、屋根上から降り、曜の元へ歩いて行った




理亞「ちょっ、高坂さん!? 待ってください!!」


聖良「今の曜さんはどう見たって危険です!! 戻ってください!!」


高坂「……」スタスタ




二人の言葉を無視し、曜のすぐそばまで近づいた




高坂「そこまでだよ、もう十分でしょ?」


曜「あはははは……ああ? 誰だよ、人が折角いい気分でぶっ殺しているってのにさぁ!! ……は?」



曜「千歌……ちゃん……? あれ? どうしてここに…千歌ちゃんが…いる……の?」


高坂「……」


理亞「チカ? 曜さんは高坂さんの事をチカさんって言った?」


聖良「幻覚まで見えているの…?」



曜「千歌ちゃん、チカちゃん……うん、やっぱり千歌ちゃんだぁ♪ なんかちょっと幼くなった気がするけど、間違いなく千歌ちゃんだね♡」ニタァ


高坂「もう止めよう? あなたは…曜ちゃんはそんな事する人じゃないよ」


曜「でも、おっかしいなぁ~…千歌ちゃんはもう死んでるのに、どーして目の前にいるの~~?」


曜「あ、そっか」ポンッ



曜「これは夢なんだね。私は、いつの間にか眠っちゃったんだ。これはいつも見ている夢の中、だから千歌ちゃんがいるんだね!! あはははははっ」ケラケラ


高坂「…夢?」


曜「そうだよ~♪ 星人に寄生された千歌ちゃんがぁ、梨子ちゃんや果南ちゃん、ダイヤさんに善子ちゃん、鞠莉ちゃんと花丸ちゃんにルビィちゃんを殺しちゃうのー」ニコニコ


曜「最後は私と戦ってぇ~、千歌ちゃんが死んだら目が覚めるんだぁ♪ あのね、これって実際に私が経験した出来事なんだよ!! こんな夢を毎晩見ていたらさ…私、壊れちゃった♪」


高坂「……っ」ギリッ


曜「…でもぉ、これが夢ならマズいな~。だって今ミッション中でしょ? 早く起きて、私は星人を皆殺しにしないといけないのに……困ったなぁ」ウーム



曜「――あぁ、千歌ちゃんが死なないと覚めない夢だったね」ニタァ


高坂「……え?」


曜「なんかいつもと場所も様子もおかしいけど、まあいっか! というわけで……今回も死んで? ちーかちゃん♪」




その言葉をきっかけに、曜は高坂へ斬りかかる


突然の攻撃にギョッとした高坂だったが、咄嗟にZガンで初撃を防ぐ



高坂「くっ!! やめてよ、曜ちゃん!!!」


曜「どうしたのさ? いつもみたいに殺しにきなよ!!」


高坂「っっっ!!!」ドゴッ!




高坂は曜を海へ蹴り飛ばす

海中に落ちたが、すぐに襲い掛かってくるだろう


鹿角姉妹も急いでこっちに向かってきた




理亞「高坂さん、大丈夫ですか!?」


高坂「平気だよ…」


聖良「どうやら曜さんは、高坂さんの事をチカさんだと思い込んでいるみたいですね…更にこれを夢だとも思っている」


高坂「聖良さん、この武器渡すね?」



高坂はZガンを渡し、ホルスターからガンツソードを展開させた



聖良「へ? いや、でも……」


高坂「あの様子だと、曜ちゃんは星人に操られているんだと思う。昔、そんな能力を使う星人に操られた仲間があんな感じになっていた」


高坂「多分、今回の星人はもう残り少ない。倒し切れば転送が始まって、曜ちゃんはあのまま部屋に帰る事になっちゃう」


高坂「だから、二人には制限時間ギリギリまで星人を全滅させないようにして欲しい。それまでに、私が曜ちゃんを取り戻す」


理亞「取り戻すって…そんな短時間で出来るの? 今の曜さんに言葉が届くとはとても……」


高坂「やり方は戦いながら考える。だから……だから、私に時間を頂戴!!」



聖良「…レーダーを見る限り、残りは梨子さん達が向かったホテル方面の星人だけ。しかも残りは一体……急がないと終わってしまうわ」


理亞「…ごめんなさい、本当なら同じ部屋のメンバーである私達が解決すべき問題なのに……初めて会った高坂さんに押し付けてしまって……」


高坂「…いいの。それに、まるっきり関係ないわけではないし……」


理亞「…え?」



曜「ぷはぁ!! 結構吹っ飛んだねえ!!! ビックリ、ビックリ♪」


高坂「さあ行って!! 後は任せて!!!」



鹿角姉妹はホテル方向へ走り出す

それを見送った高坂は、曜の方へ振り返る



高坂「……二人きりになったね、曜ちゃん?」


曜「……」ニコッ




~~~~~~



凛は、梨子と真姫に重症を負わせた星人に再び接近戦を持ち込んだ


強力な溶解液を所持している星人には出来るだけ近づかない方が得策なのだが、梨子を救出した際にホルスターに収めていたXガンを溶かされ、武器を失っていた


星人はひょうたんをちらつかせ、凛の動きを牽制する




凛(ただでさえ動きが巧いのに、あの液体は厄介だよ!! 隙を見て引くべきか!?)



星人「っっっ!!!?」ザッ!



星人は凛への攻撃を中止し、強引に首を後ろに引いた

余りにも不自然な動きに困惑する凛だが、この隙を見逃すわけにはいかない


的確に打撃攻撃を加える


隙を作ったのは、善子の狙撃による攻撃だった




善子(……ブツブツ)ギョーン!ギョーン!



――――――――

――――――



真姫『いい? 臨戦態勢かつ自分の位置を知られている状況で星人の急所を正確に狙うのは、私でも難しい』


真姫『更に、この銃は着弾からダメージが入るまでの時間が実弾より圧倒的に遅い』


善子『なら、一旦姿を眩ませてから狙撃すればいいのですね』


真姫『それがセオリーだけど、立地的にあのホテルの屋上くらいしか場所がないし、その移動時間に凛がやられる可能性が高いわ』


善子『……』


真姫『一発で仕留めなくていい。銃口の向きで、発砲音で、着弾による爆発で動きをコントロールしなさい。一発一発に意味を持たせるの』


真姫『あとは自分の腕を信じて引き金を引く事、わかった?』


善子『自分を信じる……』



――――――――

――――――



善子(凛さんの攻撃で後ろに仰け反るから、狙いを修正――)ギョーン!



――星人は上空に回避する



善子(着地点は多分ここ。着弾時間を考えれば…タイミングは――)ギョーン!ギョーン!



――着地と同時に足元の地面が爆発、凛の飛び蹴りが星人の頭部に炸裂した



善子(ここで体を狙って数発撃ち込めば――)ギョーン!ギョーン!ギョーン!



――星人は身体を反らし、無理やり回避



善子(…重心が残った、今度は避けられないでしょ?)ギョーン!ギョーン!ギョーン!


善子「凛さん!! 一旦離れて!!!!」


凛「分かった!!」ダッ!




――ババン!!!




星人の持っていた ひょうたん と重心が残った左足が吹き飛んだ


ひょうたん内の液体が星人の体に降りかかり、一瞬で蒸発する




善子「はぁ…はぁ……、や、やった…やった!!!」


凛「善子ちゃん、まだだよ!! もう一体現れた!!」


善子「了解よ! 援護は任せなさい!!」





~~~~~~



曜の怒涛の斬撃が高坂を襲う

狂気に身を任せた彼女だったが、敵を殺すための最適な動きで徐々に追い詰める



高坂「このっ……ぐぅ!!」


曜「おらああ!!!」ブンッ!



辛うじて防ぐ


曜からの攻撃を避けたり、刀で防いだりはしているが

攻める気配は全く無かった



曜「どうしたのさぁ!! さっきから防戦一方だけど、やる気あるの!!?」


高坂「…っ!!」ガキン!



高坂(流石は曜ちゃんだね…海未さんや凛さんに鍛えられていなかったら一瞬でやられていたよ)


高坂(スーツを壊せば一撃で意識は奪える。でもそれじゃ、曜ちゃんを救う事は出来ない…かと言って悠長に戦いを続けても時間切れになっちゃう……ならっ!)




高坂は武器破壊を狙ってガンツソードの柄に斬り込む


…が、簡単にはいかない

曜は刃を掴み取り、足で腹部を蹴り飛ばす



高坂「ごふっ!!?」


曜「危ない危ない…柄を狙うなんて、器用な事するね?」



高坂(武器を奪うのは無理か…だったら――)


高坂「曜ちゃん!! 私の話を聞いて!!!」


曜「話ぃ? 今更何を話すっていうのさ!! 千歌ちゃんが死ななきゃ終わらないんだから死ねよ!!」



攻撃を続ける曜


それでも続けて呼びかける



高坂「私は今の曜ちゃんが言っている“千歌”じゃない! 私の名前は“高坂”なの!!」


曜「高坂ぁ…?」


高坂「そう、だからこれは夢なんかじゃない。現実なの!」



曜「高坂…コウサカ? だって、その顔は間違いなく千歌ちゃんだよね? でも、千歌ちゃんはもう死んでいるし……でも目の前には千歌ちゃんがいて…でもその人はコウサカで……」ブツブツ


高坂(攻撃が止まった……?)


曜「――いや、やっぱりあなたは千歌ちゃんだよ、私には分かるもん。だからこれは夢の中……」


高坂「へ?」




――ドゴッ!




曜の攻撃が高坂に直撃する

スーツはまだ壊れていないが、これ以上受けるのは危険である



高坂「くっ!! 曜ちゃん!!」


曜「………違う…夢じゃない……これは現実、戦う必要は………あは♪ 死んでよ、ちーかちゃん♪ ……止めろよ!」


高坂「……え?」



頭を抱え、悶え苦しむ曜


明らかに様子がおかしい



曜「止めろっ!! どうして、こんな事……! 黙って殺せよ!! 全部壊すんだよ!!」


高坂(洗脳が解け始めている…?)


曜「みんなの事を…本当に憎んでいた訳じゃ……ない! 嘘だね……違うっ!!! ふは、あははははははは」




曜は攻撃を続けるが、動きに先ほどまでのキレは無かった

心と体があべこべになり、支離滅裂となっている



曜「コロシ…テヤル……タス…ケテ、壊す、全部…全部ぶっ壊す!!!」カチャッ


高坂「……」カチャッ




曜は刀を構え直し、高坂に斬りかかる

高坂も応戦しようと構えるが……



高坂「……必要ないよね」ボソッ



持っていた刀を放り投げる


そして斬りかかってくる曜の手首を掴み取り

もう片方の腕で優しく彼女を抱きしめた



曜「んな!? 放せっ!! 放せよおおおおお!!!!」ジタバタ


高坂「……っ!」ギュッ




必死に抵抗する曜


背中を殴りつけたり、首筋に噛みついたりした


そして、遂には耳の一部を噛み千切った


苦痛に顔を歪ませる


それでも、高坂は曜を離さない


そして、曜は徐々に抵抗の意思が弱くなっていった




曜「このっ!! いい加減に……しろ…よぉ……」ジワッ


高坂「…大丈夫、大丈夫だから……抱え込んでいる事を全部ぶちまけちゃおうか?」ナデナデ


曜「はぁ、はぁ…どうして……よ」


高坂「曜ちゃんにとって、千歌ちゃんは大切な人だったの?」


曜「あんたに…関係……」


高坂「…お願い、教えて?」








曜「……だったよ…」ボソッ


曜「……大切…だったよ! 千歌ちゃんがいてくれれば、それだけで良かった!! 隣で笑ってくれるだけで元気になった、傍にいてくれるだけで幸せだった……!!」


曜「この先もずっと……ずっと一緒だと思っていたのにっ!! どうして死んじゃったのさぁぁぁ!!」ポロポロ




高坂の腕の中で、泣き崩れる曜


さっきまでの狂気じみた雰囲気はもう無くなっていた



高坂「……そっか、寂しかったよね?」ナデナデ


曜「ぅ……ひっぐ……ぁ、うん…寂し……がった……っ」


曜「受け入れたつもりだった……もう会えないのは分かっていたぁ……っ」


曜「でも……やっぱり無理だよぉ……千歌ちゃんがいないと……生きているのが…辛い……」


高坂「そっかぁ……」


曜「うぅ、うぇ、ちか……ちゃん……」



高坂「――…千歌ちゃんに会いたい?」


曜「……え?」


高坂「曜ちゃんは、死んだ千歌ちゃんに会いたい?」



曜「…それは…勿論………ぅ」ズキンッ


曜(頭が……痛い…――)




――――――――

――――――



千歌『――だからね、これは私のワガママなんだけど……曜ちゃんにはみんなをもう一度生き返らせて欲しいの』



千歌『――それに、私は曜ちゃんにこの先も生きて欲しいと思ってる。見えるところに私はいないけど…ずっと傍にいるからさ』ニコッ



――――――――

――――――



曜(……あぁ、そうか…どうして忘れていたんだろう…千歌ちゃんならずっと――)


高坂「……曜ちゃん?」


曜「……ううん、会わなくても大丈夫……約束を思い出したから……」


高坂「約束?」


曜「千歌ちゃんは…私に生きて欲しいと言ってくれた……生きて、代わりにみんなを生き返らせて欲しいとお願いされたの」



曜「それに…千歌ちゃんなら、私の心の中で生きている。私が死んだり、記憶を消して解放されたりしたら……今度こそ千歌ちゃんは死んじゃうからさ」


高坂「……そっか、曜ちゃんの中で千歌は今も生き続けているんだね」


曜「…うん」



曜「千歌ちゃんは大切な友達…でも、だからと言って梨子ちゃんや善子ちゃんが二番、三番っていう訳じゃない。私にとって二人も同じくらい大切な人……比べられないし比べちゃダメなんだよ」


曜「悪夢のせいとは言え、二人には色々酷い事しちゃった……許してくれるかな…」


高坂「どうかな? 言った言葉の度合いにもよるんじゃない?」


曜「ぐぅ…大丈夫……かな………?」


高坂「ふふ、冗談だよ、大丈夫。二人ともきっと許してくれるよ――」



~~~~~~



聖良「あっ!! 梨子さん!? その足は!!?」


梨子「…聖良ちゃん……へへ、やられちゃった……」



真姫「ん? あなた達が残りのチームメイトなの?」


聖良「そ、そうですけど……あなたも東京チームの方ですか?」


真姫「…あなた“も”ですって?」


理亞「そうだ…梨子さん、大変なんです!! 曜さんが星人に洗脳されたんです!!」


梨子「!!!?」


聖良「今は東京チームの高坂さんが洗脳を解く方法を考えながら曜さんと戦っています! だから、曜さんを救うまで星人の殲滅は待って欲しいんです!!」



梨子「…高坂? 穂乃果さんは死んでいるハズじゃ…? そもそも東京チームは真姫さんと凛さんの二人しかいないって……」


真姫「……そっちのツインテのあなた、名前は!!?」


理亞「は、はい!? り、理亞です!!」ビクッ


真姫「理亞、私の代わりに梨子をお願いするわね」



真姫「聖良…でいいのよね? あなたは私と一緒にホテル方面に戻るわよ!!」


聖良「戻るって…片腕が無いじゃないですか!? そんな大怪我で戻るのですか!!?」


真姫「問題無い。それより早くしないと、二人が星人を倒しかねない!!」


聖良「で、ですが……」



理亞「……ん? 向こうから誰か走ってきたわよ?」


真姫「あれは……善子?」


梨子「……んな!? みんな、上を見て!!!」


聖良「上? ……はぁ!?」ゾワッ




~~~~~~



凛「はぁ…はぁ……っくはぁ…」キュウゥゥゥン



凛と善子は新たに現れた星人と対峙していた


鷲のような風貌のその星人は、その強力な握力で凛の利き腕を捻じ曲げた


無数の羽を飛ばすことで善子の狙撃を妨害する


凛のスーツは無力化され、善子もいつ壊れてもおかしくない状況だった




凛(や、ヤバイ…次の攻撃は受けられない!! 避けられなかったら……死ぬ!!!)


凛(集中しろ……僅かな動きでも次の攻撃を察知しろっ!! 集中……集中、し――)




星人はノーモーションから最速で、翼を羽ばたかせた

無数の羽が凛を襲う



凛(――ぁ、死………)



善子「凛さん!!!」ガバッ!

凛「!!?」



――後ろから飛びついた善子のおかげで、羽は全て二人の頭上を過ぎていく


すぐさま凛を担ぎ上げ、銃で牽制しつつ、全力で走り出した




凛「ご、ごめん……助かったよ」


善子「はぁ、はぁっ! このまま振り向かずに逃げるから、代わりに撃って!!」


凛「わ、分かった!」ギョーン!ギョーン!



善子(私に負傷した凛さんを守りながら戦える実力は無い……鹿角姉妹と合流するまで逃げないと!!)


凛「よ、善子ちゃんもっと急いで!!!!」


善子「は、はぁ!? これ……ゼェでも、全力なん……ゼェ、です…けど!!?」


凛「飛んできた!! あいつ、飛びながら追って来てるよ!!」


善子「か、勘弁…してよ……」ゼェゼェ




~~~~~~



高坂「良かった…もう落ち着いたみたいだね」


曜「あ、あの…ごめんなさい……星人のせいとは言え、私本気で……」


高坂「ううん、気にしないで。曜ちゃんを助ける為だったんだからさ! ……まぁ、耳を噛み千切られたのは流石に痛かったけど」アハハ…


曜「……本当に申し訳ない」


曜(改めてよく見ても…千歌ちゃんにそっくりだな……見た目だけじゃなくて、声も似ているよ)


曜(――本当にこの人は、別人なの?)



高坂「さて…レーダーを見る限り、星人は残り一体。みんなもそこに集まっているね」


曜「…あ、あのっ」


高坂「ん?」



曜「あなたは…千歌ちゃんじゃないんですか!? その顔も、声も、抱きしめられた感覚も……千歌ちゃんと全く同じだった」


曜「教えて下さい……あなたは、一体誰なんですか?」


高坂「………」




彼女は答えない


足元に落ちていたYガンを拾い上げ、曜に差し出す




高坂「…残念だけど、私は曜ちゃんの言う“千歌”じゃない、全くの別人だよ」


曜「……そう、ですか」シュン



高坂「もう、がっかりした顔しないで? 私が“千歌”じゃなくても、曜ちゃんはもう大丈夫でしょ?」ニコッ


曜「……うん、そうだね」


高坂「さあ、このミッションを終わらせて、千歌との約束を果たそうか!」


曜「……はい!!」




~~~~~~



上空から高速で急降下してきた星人が理亞の体へ突っ込む


メキメキと鈍い音が響き、背負っていた梨子もろ共、遥か後方まで吹き飛んだ




理亞「……あがぁ…がぁ……ぁあ………」


梨子「ぐっ……しっかり…して……!」



聖良「理亞っ!!」


真姫「あの程度なら死んでない!! 星人に集中しなさい!!悪いけど、倒す気で戦わない死ぬわよ!!」ギョーン!ギョーン!




真姫はXガンを、聖良は受け取ったZガンを連射する


射程も短く、三発でチャージタイムが入り撃てなくなるXガン

さらに、今の真姫は利き腕を失っている為、狙いが上手く定まらない



真姫(…体が…重い……それに頭もくらくらする…銃で弾いた時の出血が多すぎた…!)




――バン!




星人の左翼の一部が吹き飛ぶ

善子の攻撃が命中したのだ



善子「よしっ!!」


真姫「よくやった! このまま押し切――」




――星人は大きく振りかぶる

吹き飛んだのは翼の一部、腕を動かすには差し支え無かった


強力な腕力から繰り出される投石は、善子の構える武器と肩を貫いた



善子「~~~~~~っっっ!!!!?」ブシュッ!



間髪入れず、無傷の右翼から無数の羽を発射

真姫と聖良の体に突き刺さる




聖良「痛っっっ…! あれ…腕に力が入らない……?」


真姫(最悪だ……聖良も私も刺さった羽のせいで健が切られた! これじゃ武器を握れない…!)




星人の標的は遠くで倒れている理亞と梨子へ移った

二人の元へ駆け出す




真姫(マズい……理亞は瀕死、梨子は片足欠損で動けない!! もう一度注意を引かなきゃ……っ!?)ガクンッ


真姫(な……何で、何で立てないの…!?)チラッ



真姫「……くそっ!! どうしてアキレス腱にも刺さってるのよ!!?」


真姫「梨子っ!! 何でもいい、逃げてええ!!!!」




梨子(片足じゃ理亞ちゃんを連れて逃げるのは無理……一か八か…一撃で倒すしかない!!)カチャッ



チャンスは一度だけ


間合い、タイミング、抜刀速度、どれか一つでも足りなかったり遅かったりすれば終わり


しかし、星人には中距離からの攻撃方法を持っている

刀の間合いの遥か後方から、その攻撃の予備動作に入る



梨子(……っ!? なら、せめて理亞ちゃんだけでも――)ガバッ



理亞を庇うように覆いかぶさる




善子「――リリぃぃぃぃ!!!!?」





――バシュ! バシュ!





二発のレーザーアンカーが星人の真横から襲い掛かる


ギリギリで察知した星人は身体をねじり回避、一旦距離を取った




曜「――ごめん、遅くなった!!」


梨子「……え? 曜……ちゃん…!?」



曜「色々心配させちゃったけど、もう大丈夫……完全復活だよ!」ニコッ


聖良「曜さん、気を付けて下さい!! その星人の攻撃は危険です!!」


曜「……大丈夫、こっちには最強の女の子がいるからね」ニヤッ


聖良「え?」




――曜の後ろから、一人の少女が高速で駆け抜けた




善子「ちょっ……あの顔…ウソでしょ!?」


真姫(あーあ…)ヤレヤレ




少女の接近に対し、星人は再び羽による範囲攻撃を繰り出した

スーツの防御力を上回るこの攻撃を受けるわけにはいかない


…が、少女は構わず突っ込んだ

避けきれない羽は刀で弾き、最小限の動きで搔い潜る




聖良「す、凄いっ!! あの速度の攻撃を完全に見切っている!」




流石の星人も焦る

刀の間合いまで詰め寄せられれば一撃で倒されかねない


攻撃が見切られている事が分かった瞬間、さらに後ろへ下がった




――少女は、にやりと微笑んだ

直前まで斬りかかる体勢を取っていたが、急に体を横にひねる


同時に、背後からレーザーアンカーが飛び込んできた

曜が死角からYガンを発射したのだ


回避不能なギリギリのタイミング


星人を完全に拘束し、その場に固定した




曜「聖良ちゃーん!! トドメ、お願いできる?」


聖良「……え? 私です…か……??」


曜「うん、その銃でズドンってやっちゃって?」ニヤッ


聖良「――了解です! 任せてください!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!




――ズドドドン!!!




曜「――…よしっ! これで終わったね」


高坂「タイミングばっちりだったよ! 流石曜ちゃん♪」…スッ


曜「…へへ、ありがとう!! 高坂さんもカッコよかったよ♪」




パチンっとハイタッチを交わす二人


その姿を見ていて聖良は安堵の表情を浮かべていた



聖良「高坂さん……リーダーを…曜さんを救ってくれて、ありがとうございます」ウルウル


高坂「救うだなんて大げさだよ、曜ちゃんは自力で戻って来てくれた」


真姫「ったく、来るのが遅いのよ。もう少し早く来れなかったわけ?」


高坂「これでも大急ぎで……ええ!? 真姫さんその腕で戦っていたんですか!!?」


真姫「こんなの大したケガじゃないわ。両腕失っても戦い続ける人に比べたらね」







善子「ちょっと、あれって……千歌さん? 千歌さんよね!!?」


凛「い、いや……あの子は高坂さんだよ? 穂乃果ちゃんの妹で――」


善子「高坂? そんなわけないでしょ!? どっからどう見ても……でも、有り得ないか…だって千歌さんはこっちのガンツに保存されているわけだし……」ブツブツ


凛(どどどどどうするのさ!? これ以上誤魔化すのは無理だよ!!)




――ジジジジジ




真姫「ふぅ、やっと始まったわね。理亞と梨子もちゃんと転送されている」


高坂「ケガはしちゃったけど、どちらのチームも犠牲者ゼロで終われましたね!」


真姫「ええ、点数も稼げたし、これでμ’sのメンバーも――」



曜「――高坂さん!!」


高坂「……」


真姫「……呼ばれているわよ。行かなくていいの?」


曜「こっちを向かなくてもいい、そのままでいいから、最後に教えてください!!」





曜「――あなたの、高坂さんの名前は……何ですか?」





高坂「……」クルッ



くるりと振り返る

人差し指を口に当て、にっこりと笑いながら答えた――





高坂「それは内緒♪ またね、曜ちゃん!」ニコッ





~~~~~~



~GANTZの部屋~



梨子「…ねえ、あの“高坂”って人……」


善子「リリーもそう思った? 千歌さんにそっくりだったわ……」


理亞「曜さんも最初そんな事言っていたわね。そこまで似ているの?」


梨子「ちょっと待って……ほら、この写真の子なんだけど」


理亞「どれどれ……えっ!? そっくりってレベルじゃ無いじゃない! 同一人物でしょ!?」


聖良「でも……高坂さんの方はもっと幼い顔立ちでしたよね?」


梨子「確かに…高校生には見えなかった」ウーン


善子「曜さんは……どう思う?」



曜「……そうだね、みんなの言う通り高坂さんは千歌ちゃんにそっくりだった。ううん、もしかしたら本人だったのかもしれない」


曜「でも、あの人が自分の事を“高坂”だって名乗ったからには、きっとそうなんだよ。千歌ちゃんとは別人…だよ」


梨子「…東京チームにいる事は分かっているんだから、会いに行けばいいんじゃない?」


聖良「そうですよ! ミッション中は時間が取れなかったけれど、直接会いに行けば……」


曜「うーん……」ポリポリ



善子「それは無理でしょ…? だって曜さんは今回で解放を選ぶことになっているんだから」


理亞「記憶を消されれば今夜の出来事も忘れる……」


曜「……」




GANTZ『ヨーソロー 37点 TOTAL121点』




曜「100点か……」




画面が切り替わる




100点メニュー

1. 記憶を消されて解放される

2. より強力な武器を与えられる

3. メモリーの中から人間を再生する




聖良「凄い……本当にこの中から選べるんですね」



曜「……色々考えたんだけどさ」



曜「毎晩悪夢にうなされるのは辛いし、いつ終わるか分からない命懸けの戦いを続けるのは正直言って嫌だ」


曜「……でも、私は約束したんだよ。千歌ちゃんが殺してしまった、千歌ちゃんの大切な人達を生き返らせるって。これはどうしてもやり遂げたい、誰かに任せっきりにしたくないんだよ」


理亞「だとしても、この先も悪夢を見続けるかもしれないのに……曜さんの心は耐えられるの?」


曜「…それは、自力で乗り越えていくしか――」


梨子「それは違う、一人で乗り越える必要はないよ!!」


曜「…梨子ちゃん?」


善子「リリーの言う通りよ! そもそもどうして最初から私達に相談してくれなかったの!?」


梨子「私達じゃ千歌さんの代わりになれない事は分かっている…それでも、曜さんの力になりたかった……大事な友達だと思っていたからっ!!」


梨子「日に日に病んでいく曜ちゃんをただ見ている事しか出来なかった自分が……情けなかったし、悔しかった……っ!」ポロポロ



曜「……ごめんね、相談するべきだとは思っていたんだけれど……どこから話せばいいか整理出来なかったんだ」


曜「――…本当に馬鹿だよね? こんなに素敵な仲間が近くにいるのに、勝手に抱え込んで、気を狂わせたんだもん……バカ曜だよ」



理亞「全く…あの時の曜さんは冗談抜きで怖かったわ……」ブルブル


曜「あはは…」


曜「まぁ、夢については自力で何とかするしかないと思うよ。…でも、少しでも辛くなったら……その時は相談に乗ってくれると嬉しいな」ニコッ


梨子「……うん! いつでも頼ってね!!」


善子「24時間365日受け付けるわ!!」


曜「ふふ、それなら安心できるね」




理亞「あー…水を差すようで悪いんだけど…そろそろメニューから選んだ方がいいんじゃない?」


聖良「そ、そうですよ! 時間制限とかがあるのでは!?」アセアセ


曜「あー…そうだったそうだった」


梨子「今回は誰を生き返らせるの?」


善子「戦力的に考えれば……果南さん?」


曜「実はもう決めているんだ。戦力も大切だけど、やっぱりいつまでも学校の理事長が不在っていうのは良くないと思うだよね」


梨子「となると……」フム


善子「あの人ね!」




曜「――三番、小原 鞠莉を再生して!!」




――ジジジジジ




――――――――



~ガンツの部屋~



――ジジジジジ



「……」キョロキョロ


真姫「…久しぶりね。まあ、絵里にとっては会ったばかりだと思うけど」


絵里「…なるほど、私は死んでいたのね。あれからどのくらい経ったの?」


凛「ええっと……二か月ちょっとくらいかな? 見ての通り、あのミッションで生き残ったのは、この三人だったんだ」


絵里「えっ!? 海未と穂乃果も死んでいるの!!? …だったら二人のどちらかを優先して生き返らせるべきじゃ――」


真姫「穂乃果に関しては本人の意向よ。即戦力で考えれば海未になるけれど、今のメンバー的に相性が悪いのよ」


凛「近距離でも中距離でも強いのが絵里ちゃんだからね」



真姫「……まぁ、絵里を選んだ本人はそんな事考えていなかったと思うけど」


絵里「…え? 真姫が再生してくれたんじゃないの?」


真姫「残念ながら私と凛は今回100点まで届かなかったのよ」


「今回は私が100点に到達してたので、絵里さんを選びました!」



絵里「…へぇ、希か花陽を選ばなかったのは意外ね?」


「……私も迷ったんですけど、花陽さんは凛さんが、希さんは絵里さんが生き返らせてくれると思いまして」


凛「かよちんに早く会いたいのは山々なんだけど…次のミッションでも生き残る為には絵里ちゃんが必要なんだにゃ」


真姫「そういう事だから、次からキッチリ働いてもらうから。あと、薬品の調達もよろしく」



絵里「…ええ、このエリーチカに任せなさい」


絵里「それと、私を生き返らせてくれて感謝するわ……“千歌”」ニコッ



千歌「……へへっ///」




真姫「…千歌、話は変わるんだけどさ」


千歌「何ですか?」


真姫「ミッションが終わる前、曜に名前を聞かれていたじゃない? あの時どうして教えてあげなかったの?」


凛「そう言えばそうだよ! なんか、ほとんどバレてたみたいだし……打ち明けても良かったんじゃないかにゃ?」


千歌「……いいんですよ」


千歌「あそこで打ち明けたところで、私は曜ちゃんの知っている“千歌”とは別人。曜ちゃんにとって“高海千歌”の存在はとても大きいみたいで…とてもその代わりになれそうにありませんでした」アハハ…


真姫「…代わりねぇ」


千歌「それに、今の私にはここでやるべき事が残っていますし」



絵里「なら、全部終わったら会いに行きなさい」


千歌「え?」


絵里「どうせ千歌の事だから、本音はあそこに私の居場所は無いって思っているんでしょう?」


千歌「ギクッ」



絵里「いい? 千歌の居場所は間違いなく沼津にもあるのよ」


千歌「…そう……ですか?」


真姫「まあ、千歌を目撃したあの子達の様子を見た限り、あっちから会いに来るかもね」


凛「そっか、凛達が東京チームだって事は知っているわけだもんね」


千歌「……あっ」ダラダラ


絵里「あら、そうなの? だったら、その時はキチンと説明しないとね♪」


千歌「えぇ…隠す気ゼロなんですか!?」


絵里「冗談よ。ただ、どうするかは千歌に任せる。じっくり考えなさいね?」


千歌「……はい」ニコッ



――――――――――――

――――――――――

――――――――

――――――

――――

――





曜「……ぅう、ふぅ…」ソワソワ


善子「むぅ……」イライラ



曜「っ……ふぅ」ウロウロ


果南「……あはは」ヤレヤレ



曜「うぅぅぅ」ソワソワソワ


善子「だあああぁぁもうっ!! 少しは落ち着きなさいよ!? 穂乃果さんから連絡があってからずっとソワソワしているじゃない!!」


果南「気持ちは分かるけどね」アハハ


曜「だ、だってさぁ……」



善子「でも、違う人が来るかもしれないじゃない。凛さんとか真姫さんとか」


果南「確かに、誰とは言ってなかったもんね」


曜「えぇ!? そ、その可能性は考えていなかったよ……」ガーン


善子「冗談よ。十中八九、あの人でしょう?」



果南「でもまあ、どんな感じになっているんだろうね? ちゃんと生き残って成長していれば今は高校二年生になっている頃だよね」


曜「高校二年生かぁ…懐かしいね」


善子「果南さんが出席日数足りなくて留年したのも今は笑い話よね~」ニヤニヤ


果南「んな…/// だ、だって鞠莉がさっさと100点取ってくれなかったから…仕方ないでしょ!?」




―ジジジジジ




「……?」キョロキョロ


善子「あ、来た来た」


果南「へぇ、小さい頃みたいにロングヘアにしたんだね?」


曜「……っ」



「あ、あれ? この三人しかいないのですか?」


曜「……違うよ、他のみんなは別の部屋で仮眠してる」


「そっか…久しぶりだね、曜ちゃん」


曜「……うん、久しぶり」ニコッ



「えぇーっと…二人は初めまして、だよね? 私は東京チームの――」


果南「大丈夫、あなたの事は知ってるよ。……全部ね」


「へ?」


善子「少し前にそっちのチームの絵里さんから話を聞いたのよ。だから変な気を使わなくてもいいのよ?」


果南「まぁ、知ってるのはまだこの三人だけだからこの後びっくりするメンバーは多いけどね」


「……そうですか。もう知っているんですね」



曜「……ぁ」モジモジ


「…曜ちゃん?」


果南「もう、何モジモジしてるの? 二十歳の大人が、高校生相手に恥ずかしがってるんじゃないの」


善子「…ヘタレ」ボソッ


曜「う、うるさいな! 別にヘタレてる訳じゃ…」


善子「だったら、さっさと伝えなさいよ」


果南「…言いたい事があるんでしょ?」


「そうなの? 曜ちゃん??」


曜「あー…うん、いや、大した事じゃないんだけど……」モジモジ


曜「……ふぅ、……あのねっ!!」





曜「――ずっと会いたかった……おかえり、千歌ちゃん」ニコッ



「………」






千歌「――うん、ただいま!」







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