穂乃果「とあるマンションの一室で」 FINAL
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――――
――――――
――ドサッ
星人「…これで貴様は武器を持つことは出来ないな」
穂乃果「があ……ぐぅぅ……あ」ドクッドクッ
星人「まあ、この出血量ならほっといても死ぬだろう。そこで這いつくばりながらこれまでの思い出にでも浸っているんだな」ダッ!
穂乃果(く、悔しい…それに情けないっ!! 何が「私が一番強い」だ! 何が「時間を稼ぐ」だ! それでこのざまなのかよっ!!)ジワッ
穂乃果(ぐぐぅぅ、腕が死ぬほど痛い。それにこの血の池…全部私の血なんだよね? うわー…こりゃダメだわ)ドクッドクッ
穂乃果(今回も最終局面で戦えなくなっちゃったんだ。μ’sが全滅した時も沼津チームと合同だった時もそうだった)
穂乃果(まあ、今回は今までとは違って私は死ぬんだけどね…なんだかんだこの部屋に来てから初めて死ぬのか…私)
穂乃果(自分で言うのも何だけど、本当によく頑張ったよ。五年間も戦い続けたんだもん。その中の丸々一年は私だけで戦い抜いたわけだし)
穂乃果(…諦めても誰も文句言わないよね……みんなには悪いけど、私はここでリタイアするよ…)
穂乃果「………」チラッ
穂乃果(――……スーツは…まだ壊れて無いんだ。なら、まだ戦えるじゃん)
穂乃果(両腕を斬り落とされても戦う意思がまだ残ってるとか…狂戦士って名乗っても差し支えないなぁ)アハハ…
穂乃果(…私は生き残る為に戦っているんじゃない、みんなを無事に帰す為に戦っているんだ。だから、命ある限り立ち向かう覚悟を“あの時”したじゃないか!)
穂乃果(そもそも私にリタイアなんて選択肢は無いんだよ。武器を持つ腕が無くても、立ち向かう足があれば十分だね)
穂乃果「だって…私はこのチーム、μ’sのリーダーなんだから……!!」ガリッ
――――――
――――
――
穂乃果は咥えていた刀を吐き捨て、こちらの方に歩み寄ってくる
左腕は肘から先、右腕は肩から無くなっており、見るも無残な姿になってしまった彼女を見たメンバーは思わず絶句していた
穂乃果「ことりちゃん、海未ちゃんごめんね? 二分も稼げなかったよ」
海未「ほ、穂乃果…あなたって人は……」
にこ「どうして…どうしてそんなになってもまだ戦おうとしているの!? どう考えたって立ち上がる事すら出来ないケガをしているでしょ!!?」
穂乃果「…そうだよ。出血は止まらないし、心臓の鼓動は弱まるし、激痛で頭がおかしくなりそうだし、生きているのが不思議だったよ。でも私は何度だって立ち上がる」
穂乃果「体の異常は真姫ちゃんから貰った薬を片っ端から全部打ち込んで何とかしたよ」
真姫「ぜ、全部!? そんな事したら…」
穂乃果「いいの。何もしないで死ぬより、数秒でも奴の事を足止めする方を選んだんだからさ。覚悟の上だよ」
穂乃果「まあ、死に体の私に出来る事なんて精々避雷針かサンドバックくらいだろうけどね」アハハ…
海未「……」
穂乃果「……という訳で、にこちゃん達は今すぐZガンを探し出して奴を確実に倒す作戦を考えてね? それまでの時間は私が何としてでも……」
海未「――…いいえ。“私達”がやります」
穂乃果「え?」
ことり「そうだよ。今の穂乃果ちゃん一人で出来るハズないでしょ?」
穂乃果「で、でも…」
ことり「一人では無理でも、私達三人なら出来る。だって私達は無敵の幼馴染みでしょ?」ニコッ
海未「そうです。さっきは従いましたが、今度は穂乃果が行けって言ったって私と ことり は残りますよ」
穂乃果「……」コクッ
ことり「だから、後のことは千歌ちゃん達に任せるね。必ずあの星人をやっつけてね」
千歌「え…ちょっと……任せるって…」
にこ「……分かったわ、私達に任せなさい。行くわよ、二人とも」
真姫「……っ」ジワッ
穂乃果「あぁ…もし私を再生する事になったらさ、他のみんなを先に選んでね?」
千歌「?」
穂乃果「ほら、私以外は大学に通ってるでしょ? 長期間休んじゃったらまた留年って事になったら困るじゃん。…困るよね?」
にこ「あのねー…縁起でもない事言ってるんじゃないわよ。両腕が無いくらいでくたばるような人じゃないでしょ」
穂乃果「……にこちゃんの中の私は相当の化け物なんだね」アハハ…
にこ「――…後であの部屋で会いましょう。またね」
――――――――――――
海未「ふぅ…行きましたね」
ことり「すぐに見つかるといいんだけど…」
穂乃果「………」ガタガタッ
海未「穂乃果?」
穂乃果(ここで失敗すれば今度こそ全滅しちゃう…。そうなれば二度と生き返る事は出来ない。みんなと会えなくなると思うと…震えが止まらない――)ガタガタッ
――ギュッ
穂乃果「こ、ことりちゃん? 海未ちゃん?」
ことり「大丈夫、あの三人ならきっと倒してくれるよ。私はそう信じてる」
海未「そうですよ。私達は私達の役割を果たすだけです」
穂乃果「…うん、そうだね」ニコッ
ことり「ふふ、穂乃果ちゃんはやっぱり笑顔じゃないとね!」
海未「ところで穂乃果、一つ確認していいですか?」
穂乃果「ん?」
海未「――…穂乃果は時間を稼ぐと言いましたが、別にアレを倒してしまっても構わないのでしょう?」
ことり「え!? まあ…それがベストだろうけど……」
穂乃果「…ぷっ、アハハハハ!! この場面で清々しい程盛大な死亡フラグを立てちゃうんだね。最後に大笑いさせてもらっちゃったよ、海未ちゃん!」ケラケラ
海未(あれ~? 割と本気で言ったのに…何故笑われたのですか??)
星人「おいおい…随分と楽しそうじゃねえか?」
穂乃果「そう言うあなたも、結構再生に時間が掛かったね?」
星人「…チッ」
穂乃果「…海未ちゃん、分かっているよね?」チラッ
海未(私が斬った時は完全に切り裂く事が出来ていなかった。損傷部位を分離させてしまえばその分、再生に時間が掛かる。中途半端な攻撃は無意味というわけですか)コクッ
海未「――…覚悟は決まりました。躊躇わずにやり遂げて見せましょう」カチャ!
穂乃果「頼んだよ? 無駄死は御免なんだからね」
ことり「……うぅ」ジワッ
海未「ことり、泣かないで下さい。これは予め決めていた事なのですから」
ことり「でも…海未ちゃんの気持ちを考えたら……」グスッ
穂乃果「二人ともごめんね? …でも今の私にはこれくらいしか出来ないからさ」ニコッ
穂乃果「――…じゃあ、行くよ!!」ダッ
星人(おいおい、真っすぐに突っ込んでくるだと? 防御も出来ないその体でか…相当な死にたがりだな!!)
――グシャ!
穂乃果「っ!!」ボトボトッ
星人の手刀は穂乃果の腹部から背中にかけて貫く
間違いなく致命傷、星人は確かな手応えを感じていた
ただ、回避行動もせずにあっさりと攻撃を受けた穂乃果に対し、星人は違和感を覚えた
穂乃果「……へへ、全然効かないね!」ニヤリッ
――ガブリ
星人(何!!? この女、腹に風穴開けられたのに構わず噛みついてきやがった!?)ブシュッ
星人「この…!! 痛みで動けないハズなのにどうしてだ!!?」
穂乃果(生憎、痛覚は薬で遮断しているんでね。私の役目はお前の動きを一瞬止める事……ここだよ、海未ちゃん!!)
海未「―――――っっっっ!!!!」ジワッ
――スパッ!
海未はガンツソードを振り抜いた。
その斬撃は星人の身体を完全に切り離す。
――無論、穂乃果の体ごと一緒に…
星人(こいつ…仲間ごと斬りやがった……!?) ゾワッ
真っ二つに切り裂かれ、穂乃果の上半身は後方へ落下する
薄れゆく意識の中、最後に目にしたのは涙と悲痛な表情で顔をグシャグシャにした海未の姿だった
穂乃果(ごめん…そりゃ辛いよね。でもこれは穂乃果が命令したことだからさ、海未ちゃんが気に病む事じゃない…だからそんな顔しないでよ?)
穂乃果(にこちゃん、真姫ちゃん、千歌ちゃん…あ……と…は任せ……た…よ――)ドサッ
海未「ことり!!! 奴を撃ってください!! 息の根が止まるまで!!!!!」
ことり「う、あああああああぁぁぁぁ!!!!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!
―――高坂 穂乃果……死亡
~~~~~~
千歌「っ! あった、ありましたよ!!」
にこ「これでやっと最低限の装備は整ったわけね」
真姫「…初めからこれがあれば、穂乃果達が無理をする必要は無かったのよね」ギリッ
千歌「そう…ですね……」ウツムキ
にこ「今更そんな事を言ってどうなるの? 私達が今話すべき事は、これからどうやってあの化け物を倒すかでしょう」
千歌「確実に仕留めるなら、やっぱり死角から狙撃って感じになるんですかね?」
真姫「Zガンの射程はそれ程長くないわ。近くの建物の陰に隠れて撃つしか無いんだけど…外せば奴はZガンを破壊しに来るハズ。失敗は許されない」
にこ「なら、私達の中からも最低一人はあの化け物の気を逸らす為の囮役が必要って事ね」
真姫「…まあ、必然的にそうなるわね」
千歌「……っ」ゴクッ
重い沈黙が続く
無理もない、ここで囮役を引き受けるというのとは即ち死を意味する
誰だって死にたくは無い
寧ろ、仲間の為に自らの命を懸ける事の出来る人間が特殊なのである。
ただ、ここにはそんな“特殊な”人間が多く集まったチームであった
千歌は大きく息を吐き、この沈黙を打ち破った
千歌「…囮役に最適なのは、あの星人と渡り合えるだけの力を持っている人。この中で一番強い人って事ですよね?」
真姫「まあ、弱かったら囮にもならないからね。でも、ここでいう“強さ”の定義は何? 射撃なのか、剣術なのか、格闘術なのか…それによっては適任者が違ってくるわ」
千歌「勿論全てで優れている人です。なお且つ、ここで死んでも誰も悲しまない、命の価値が一番低い人が適任だと思います」
にこ「へえー…よく分かっているじゃない」
覚悟は出来ていた
今まで海未に鍛えられた自分なら勝つことは無理でも、倒すための隙を作る生み出す力は付いている
ガンツによって作られた偽物(クローン)である自分ならば、例え死んだとしても内浦に本物(オリジナル)が生きていれば問題無い
寧ろここで死ねば、高坂家にこれ以上負担をかける事も無くなる
存在しないハズの人間が消える事は正しい選択なのだ
千歌(矢澤さんや真姫さんには待っている家族がいるんだ。私が役割を全うすることでこのミッションが終わるのならば、それが最善の選択だよね……)
千歌「……なので、囮役に相応しいのは…わt――――」
にこ「私が一番適任ね。うん、私以外考えられないわ」
千歌「は? いや、何で…どう考えたって私の方が適任でしょう!? 海未さんに鍛えられた私なら矢澤さんより絶対あの星人と戦えます!!」
にこ「はああぁ? 海未に鍛えられたって言っても、たかが数か月間でしょう? こっちは四年も戦っているの。あんたとは年季が違うのよ、年季が!!」
千歌「だ、だとしても命の価値についてはどうなんですか!? 偽物の私は他の人より遥かに劣っているでしょう!!?」
にこ「ナンセンスね。ガキんちょが偉そうに価値なんて語ってるんじゃないわよ」
にこ「囮役に適役なのは、強くて、価値のない人間だっけ? あんたは何一つ当てはまって無いじゃない。年下は黙って先輩のいう事を聞けばいいの!」
千歌「ど、どうして……死ぬんですよ? それなのに何で自分から名乗り上げるんですか!? 私がやるって言っているのに…そもそも矢澤さんは私の事嫌いなハズなのに…」
にこ「……ええ、嫌いよ。でもそれは“あんたの事”じゃ無いわ」
千歌「え?」
にこ「そんな事はどうでもいいの。単純に中学生の、年下のあんたに守られるのが気に食わなかっただけよ。分かったならさっさと行きなさい」シッシッ
真姫「Zガンの射程内に隠れる場所が無いわ。少し離れた所に身を隠して、チャンスが来たら射程内まで急接近して撃つ」
にこ「それでいい。チャンスだと思ったら仮に射程内に私がいたとしても、構わず撃ちなさい。躊躇なんてしたら呪い殺すから覚悟することね」
千歌「……」
にこ「さあ、行きなさい。いつ奴が戻ってくるか分からないんだから。…信じているわよ、二人とも」ニコッ
~~~~~~
海未「――…はぁ、はぁ…はぁ……くっ」ドロッ
星人「やってくれたな…俺にここまで再生を繰り返させた生き物は貴様らが初めてだ」グシュッグジュグジュ
ことり「う、海未ちゃん…」ジワッ
海未は星人のすぐ近くで片膝立ちをしながら息を切らしている
持っていた刀は手の届かない場所に突き刺さっており、スーツもおしゃかになっていた
残った武器はホルスターに収めたXガンだけだが、この距離では発砲前に防がれてしまう
ことりのスーツも壊れ、持っていた武器と両足を星人により粉砕されてしまい戦闘続行は不可能だ
海未「…ふふ、私達の攻撃も全く無駄だったわけではないようですね。明らかに再生スピードが落ちていますよ?」
星人「…あぁ?」イラッ
海未「勝ち目は無いと思っていましたが、案外そうでも無い様で……」
――ボキッ!!
海未の左腕をまるで小枝を折るかのようにへし折った
激痛に顔を歪ませるも、声は出さなかった
海未「っっっ!!? ……何か、しましたか?」フフッ
星人「いちいち癇に障る女だな…貴様は簡単には殺さんぞ。死よりも恐ろしい痛みを味わせてやる」ピキピキ
星人「そうだなぁ…まずはあの女でデモンストレーションといこうか。俺を何度もバラバラにしやがったお前でな!!」ギロッ
ことり「っ!!」ガタガタッ
星人「命乞いでもしたら少しは楽に殺してやるが、どうする?」ニヤッ
ことり「……」ギロッ
星人「…恐怖で声も出ないか」
星人はことりのもとへ歩み寄る
目にいっぱいの涙を浮かべながらも、決して取り乱す事は無く
星人をにらみ続ける
海未(ことり…強くなりましたね。高校時代のあなたなら、恐怖でただただ泣き叫んでいたでしょう。でも今は自らの役割をしっかりと理解し、そして果たそうとしています)
ことり(星人は完全に頭に血が上ってる。私達の役目は撃破では無くて時間稼ぎ。私達を殺すのに沢山時間をかけてくれるなら好都合なんだよ)
ことり(痛いのはもう慣れてる…後はあっさり死なないように出来るだけ耐えるだけ。大丈夫、私なら大丈夫……)ガタガタ
海未(……ですがね――)カチャ!
――ギョーン!ギョーン!ギョーン!
海未はXガンを連射した
発砲に気付いた星人は慌てて振り向く
しかし、その銃口は星人に向けられてはいなかった……
ことり「う、海未……ちゃん? なん…で―――」
――バン!ババン!!
ことりの体はXガンにより木端微塵に吹き飛んだ
爆発により飛散した血液で星人と海未は真っ赤に染められる
星人「……貴様」
海未(…ことりはもう立派に役目を果たしました。ここからは私一人で十分、ことりも一緒に苦しむ必要はありません)
海未(人を殺める日が来るとは思いませんでしたが、まさか相手がどちらも親友とは…)
星人「貴様、自分が何をしたのか理解しているのか?」
海未「……」ニコッ
星人「そうか…なら貴様には“二人分”味合せてやらねばなぁ」バチバチッ!!
海未(ことり…穂乃果……ごめんなさい。二度と死なないと約束しましたが、どうやら守れそうにありません――)
この後、電撃による閃光と轟音が数分間鳴り響いた
どれほどの痛み、苦しみが彼女を襲ったか計り知れない
しかし、海未はその命果てる最期の瞬間まで悲鳴を上げる事は無かった
―――南 ことり、園田 海未……死亡
――――――――――
――――――――
初めてあの子と会ったのは三年前のミッション中だ
関わった時間は短かったけど、仲間の為なら自ら進んで危険な事に立ち向かっていく
勇気と力がある子だという事は分かった
私は、素直に凄いと思った
私にとって仲間はμ’sのメンバーだけ、守る対象は必然的にこの8人だけ
それなのにあの子は初めて会った私達の為にも命がけで戦っていたのだ
私にはそれだけの力は無い
私の実力で守れるのは精々、その時近くで一緒に戦っているメンバーくらいだという事は理解している
そんな中、μ’sのメンバーでは無いあの子が同じ部屋に転送されてきた
あの子の実力は知っている
あの子の力があれば生き残る確率がうんと上がる事は分かっていた
でも、私はあの子を拒絶した
“偽物”だとか“必要ない”だとか散々酷い言葉をあの子に言ってしまった
言葉を発する度に、心がズキズキと痛む感覚があった
どうしてそこまで拒絶したのか正直自分でもよく分かっていなかった
でも、今やっと分かった
“あの子はμ’sのメンバーでも無ければ、ガンツによって生み出されたクローン。仮に見捨てても誰にも迷惑が掛からない”
例えμ’sのメンバーで無いとしても、同じ部屋の人間が危機に陥った時に見捨てるという考えが浮かんでしまう自分に吐き気がする
今までメンバーが増える事は無かったのにどうして今更増えたのか、あの子さえ来なければこんな気持ちにはならなかったのに…
無意識にそんな風に考えてしまう自分が嫌だったのだ
だから突き放すような言葉をいい、自分の近くに寄せないようにしていたのだ
あの子が囮役をやると言い出す事は最初から分かっていた
だって私の知っている“高海 千歌”という人間はそういう人間だから
まだ中学生なのになんて強い心を持った子なのだろう
私はそんな子を見捨てる程薄情な人間なの? いいや、違うでしょう?
この先を考えれば、私よりあの子が生き残った方が全員を再生できる確率は高い
――だからこの役目は私が引き受けるわ
そして、もう一度チャンスがあるのなら今までの事をきちんと謝りたい
あの子に、千歌に非は全くないのだから
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――――――――
にこ「――…ふふ、一人になった途端に何を語り始めているのかしら。あー、恥ずかし」
真姫「そーね、随分と大きな声で語っていてたから見えない誰かと話しているかと思ったわ」クルクル
にこ「は? ちょっ……どうしてあんたがここにいるのよ!? 千歌と一緒に行ったんじゃ…」
真姫「だって、Zガンは一丁しか無いのよ? それなのに二人で離れても仕方ないでしょ。だから残ったのよ」クルクル
にこ「…この役目を引き受けた以上、自分がどうなるか理解しているんでしょうね? 先に言っておくけど、私にあの星人から真姫を守る力は無いわよ」
真姫「……一人より二人の方がいいに決まってるわ。私はそう判断したまでよ」
にこ「そう…だったら真姫、悪いんだけど私と一緒に死になさい」ニコッ
真姫「…上等よ。派手な死にざまを見せつけてやろうじゃない」ニヤリ
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――――――――
目を覚ますとそこは、今まで戦っていた場所とは不思議な空間で仰向けに倒れていた
空は雲一つない青空が広がっていて、辺りは足首くらいの背丈の草が生い茂っている
体を起こすと正面には小川が横切っていて、その向こう岸には見覚えのある人影があった
「……かよちん?」
花陽「……」ニコッ
花陽は何も言わずにただ微笑んだだけだった
立ち上がって傍に行こうとするが、上手く力が入らない
その間にも後ろから絵里、希、穂乃果、ことり
続々と親しい人達が小川の向こう側に歩いていく
「みんな? ちょっと待ってよ!」
三人とも制止を無視して花陽のもとへ行ってしまった
「もう! 無視するなんて酷いよ。一緒に連れて行ってよー!」
その声が聞き、振り返る穂乃果だったが、複雑な表情を浮かべながら首を横に振った
「どうして…? みんなそっちに行くのに、置いてけぼりは嫌だよ!」
――ぽんと肩を叩かれた
振り向くとそこには、海未の姿があった
「海未ちゃん? 海未ちゃんも行っちゃうの? だったら――」
海未「……」フルフル
やはり首を横に振るが…
海未「―――」パクパク
何と言っているか聞き取る事は出来なかったが、海未に触れられた事で自分が星人との戦闘で意識を失っている状況だったという事を思い出すことが出来た
そして、聞こえはしなかったが、何を伝えようとしたかは理解できた
『――みんなを頼みましたよ』
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――ヒタッ…ヒタッ…ヒタッ
にこ「――…来たわね」
にこ達の前にはすっかり変わり果てた星人の姿があった
右手には希を殺めた両手剣が再び握られている
辛うじて人の原型は留めているが、腕や足の皮膚や肉の一部が所々消滅して骨がむき出しになっており、その眼は血走っていた
星人がここに現れたという事は海未達がどうなったかは明白だった
星人「ふぅーふぅー…ああ、イライラするなあ!! どいつもこいつも雑魚の癖に無駄に抵抗しやがってえええ!! 今度はお前らか!!!!」ブチッ!
真姫「完全にキレてるわね。これなら戦いやすいんじゃない?」
にこ「ことりと海未が十分過ぎる程時間を稼いでくれたおかげで、千歌も配置についているハズよ。後は奴の攻撃をかわして、動きを抑えれば…私達の勝ちよ」
真姫「分かってるわ。やるわよ、にこちゃん!!」
星人「殺す……ぶっ殺してやる!!!!」ゴオオオ!!
にこ、真姫は星人へ一直線に駆け出す
二人に迷いは無かった
怒りに任せた薙ぎ払いを紙一重で回避
にこはそのまま星人の背後へ回って羽交い絞め、真姫は足元へ飛びつき拘束する
星人「このっ!! 放せ!! 放せええええええ!!!!!!」
にこ「誰が放すもんですか!! このまま一緒に死んでもらう!!」キュイィィィン!!
真姫「ここで…ここで終わらせる!!」グググ
星人「――…もう、いい加減にしやがれええええええ!!!!!!」バチッ!
――バチバチバチバチ!!!!!
星人は体中から大出力の電撃が放出させる
その威力は電気を発生させている星人の自らの体をも傷つける程である
スーツの機能によって辛うじて耐えられる痛みとなっているが、長くは持たないのは明らかだった
にこ「ぎぎぎぎいいいぃぃぃぃいいぃぃ!!!!!?」ビリビリビ!!!
真姫「ぎゃあああああ!!! ぐぐぐぐぐううぅぅぅ!!!!」ビリビリビ!!!
星人「グオおおおおぉぉぉぉ!!」ビリビリビ!!!
にこ「何を…何をしてるの!!! 早く撃って!!!……千歌あああああ!!!!」
にこ達が電撃を浴び始めたとほぼ同じタイミングで、身を隠していた千歌は射程圏内まで接近していた
Zガンを構え、後は引き金を引き――
千歌「――…は?」
誰が見ても、間違いなく絶好のタイミングだった
千歌が引き金を引くほんの一瞬、電撃によるダメージで足を抑えていた真姫の力が緩んでしまったのだ
星人は足を勢いよく振り、真姫をノーバウンドで数メートル吹き飛ばす
そして、握っていた剣を自らの腹部に突き刺した
当然、羽交い絞めにしていた にこ も無事では無かった
にこ「ごふっ…!!?」
急所を貫かれ、力尽きる にこ
その頭を掴み取りって側方に投げ飛ばす
そして千歌を瞬時に発見し、駆け出した
ここの一連の行動をZガンが効果を発揮するまでのタイムラグ中に行ったのだ
効果が発揮された頃には、星人は範囲外まで脱している
――作戦は失敗だ
千歌「そんな…!? 撃つのが遅かった? 私のせいで失敗?? 二人を無駄死ににさせたの!?」
パニックに陥り頭の中が真っ白になる千歌
そうこうしている間にも星人の魔の手が迫る
真姫「千歌!! 千歌ああああ!!!!!」
千歌(終わった…私のせいで……)ジワッ
星人は片手を突き出し、千歌の顔面を捕らえ――
――パシッ!!
「――…まだ終わってない。終わる訳には…いかないんだよ!!」
千歌「………え?」
星人の手が千歌に届く事は無かった
誰かが腕を掴んだのだ
視界には星人の手の平しか見えていないが、すぐ近くに人の気配を感じていた
ゆっくりと首を動かして気配のする方へ目線を向けるとそこには――
千歌「り……凛さん!!」
凛「んにゃああ!!!」バキッ!
凛は力の限り星人の顔面を殴りつけた
苦痛に顔を歪ませながらも、ホルスターからYガンを取り出して発射させる
そして大きく体勢を崩された星人に拘束用のワイヤーを命中させた
凛「痛っっ!! 今だよ千歌ちゃん!! トドメを!!!」
千歌「ッあああああああ!!!!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!
星人「貴様らあああああああああああ!!!!!」
――ズドン!ズドドドン!!!
断末魔をかき消すようにZガンが炸裂する
星人は跡形も無く消滅した
今度こそ再生することは無い
――戦いは終わったのだ
凛「はぁ、はぁ…ぐうぅ」グラッ
千歌「凛さん!?」
凛「だ、大丈夫…それよりも、にこちゃんの所に行って!」
凛の指示に従い急いで向かう
仰向けに倒れている にこ の近くには既に真姫が駆けつけていた
にこの手を握り、涙を流しながら必死に呼びかけている
真姫「にこちゃん!! お願い…しっかりしてよ!!」ユサユサ
千歌「矢澤さん!!」
千歌も真姫と一緒の手を握りながら呼びかける
にこ「ま…き? ……奴…は……?」
真姫「倒したわ! 戦いは終わったの。もう帰れるのよ!!」
にこ「……そう。千歌……やったの…ね……」
千歌「ごめんなさい! 私が撃つのが遅かったせいで矢澤さんが…!! 本当にごめんなさい!!」ポロポロ
にこ「な…に、言ってる……のよ。元々…その予定……だった…でしょ?」
千歌「でも…でもぉ……」
自分を責める千歌に にこ 優しく微笑みながらこう告げる
にこ「よく……やった…わね……。ち…か……」
千歌「…っ!!」
――ジジジジジ
真姫「転送が始まった! これで助かるわ!!」
にこ「」
真姫「…にこちゃん? うそ、にこちゃん!!?」ゾワッ
にこは千歌に微笑んだその表情のまま、呼びかけに答えなくなった
握った手はいつの間にか冷たくなっている
千歌「矢澤さん!! 何で…あと少しなのに!! ……にこさん!!!」ポロポロ
真姫「嫌…嫌嫌嫌嫌あああ!!! 起きなさい!!! 目を開けなさいよおおおお!!」ジジジジジ
――…しかし、にこが再び目を覚ますことは無かった…
~~~~~~
~ガンツの部屋~
千歌「凛さん…さっきは助けてくれてありがとうございました」ペコリ
凛「…うん。ちょっと遅かったみたいだったけどね…」
真姫「どうして動けたの? 希から凛は動けなくなったって聞いていたけど」
凛「希ちゃんがこの薬を置いていってくれたんだ」スッ
真姫「!? あなたこの薬を二度も使ったのね……よく死ななかったわね」
凛「…まあね」
千歌「あ、あの…凛さん。その…花陽さんの事ですが――」
凛「大丈夫、分かってるよ。…あの夢で川の向こうに行ったメンバーはそういう事だったんだね……」ボソッ
千歌「夢?」
凛「うんん、何でもないよ。それよりも、真姫ちゃんは大丈夫なの? さっきはその…にこちゃんが死んじゃってさ……」
真姫「……取り乱しちゃってごめんなさい。覚悟はしていたんだけれど、いざその時になったらね…」
――ジリリリリリ
真姫「採点ね。ここで一人でも100点が居れば…」
千歌「……」ゴクリッ
ガンツ『まきちゃん 35点 TOTAL43点』
ガンツ『ねこ(偽) 25点 TOTAL25点』
ガンツ『普通怪獣 89点 TOTAL89点』
千歌「えぇ!? 一気に89点!!? 私、星人を二体しか倒していないのに…」
真姫「今回の星人は全員がボス級の強さを誇っていたものね。生き残っていれば100点のメンバーも多くいたって事ね…」
凛「これで少なくとも一か月はみんな会えないんだ」シュン
千歌「そう…ですね」
真姫「この部屋も随分と大きく感じるわね…ここまでメンバーが少なくなった経験は初めてよ。正直、不安しかないわ……」
千歌「また今回みたいなミッションが来たら…どうなるんですかね」
部屋には重苦しい空気が漂う
少なくとも一回はこのメンバーでミッションをこなさなければならない
その時、運悪く今回と同等の難易度のミッションが来た場合、頼みの戦力である穂乃果、海未や前線で戦うメンバーのほとんどが死亡してしまった今、間違いなく高確率で全滅するだろう
だが――
凛「――…そんな事を考える必要は無いんじゃないかな?」
真姫「凛?」
凛「今までだって始まるまでミッションの内容は分からなかったわけじゃん。もし、今回と同じようなミッションが来ても、凛達のやる事は変わらない。星人を全滅させてこの部屋に帰るだけ。作戦だったらみんなで考えればいい」
凛「だって…一人じゃない、私達は三人もいるんだよ?」
千歌「!」
真姫「…その通りね。無意味な事を考えて不安がっても仕方ないか……ふふ、流石は二代目リーダーね」
凛「落ち込んだり悲しんだりしている場合じゃないにゃ」
凛「絶対生き残って、みんなを生き返らせるよ。泣くのはみんなが帰ってきてからにしよう?」ニコッ
真姫「…ええ」
凛「それじゃ採点も終わったし、帰ろっか。あ、凛は色々持って帰るものがあるから先に帰ってて!」
千歌「だったら私も手伝いますよ? 何を持って帰るんですか?」
凛「あー、そうだね……」エヘヘ
真姫「…分かった、先に帰ってるわ。行くわよ、千歌」グイッ
千歌「え? 真姫さん??」
凛「二人ともまたね~! 千歌ちゃん、後で明日以降どうするか連絡するよー」ヒラヒラ
――バタン
凛「……行ったね」
ふぅ…と息を吐きガンツの前に座り込む
手で表面をさすりながらじっとガンツを見つめる
凛「ガンツ、メモリーに保存されている人間を表示して」
――ブゥン
凛「……はは、かよちん、絵里ちゃん、穂乃果ちゃん、ことりちゃん、海未ちゃん、にこちゃん……本当にここに保存されちゃったんだね」
凛「凛が生き残る側になった事が無かったからさ…これから暫くかよちんが居ない生活っていうのが全然想像できないや」ペシペシ
凛「これからは、かよちんの代わりに授業は寝ないでしっかり受けて、ノートも綺麗に書かないとね。あー、でも後期のテストまでに戻って来ないとかよちん留年しちゃう…ま、その時は凛も一緒に残るから安心してにゃ~♪」ペシッペシッ
凛「でも、一人であの授業を受けるのはしんどいな…行きも帰りもぼっちだし、お昼ご飯だって一人席になるね。これで、凛が死んだ時のかよちんの気持ちが分かる気がするよ」
凛「大丈夫、凛なら…大丈夫。みんな…凛達が絶対に生き返らせるからさ……だから……」
凛「………」
――ドン!
拳をガンツに叩きつける
先ほどから手で軽く叩いていた凛だが
いつの間にかその手は拳となり
段々と力も叩く頻度も多くなっていた
そして
凛「………てよ」ボソッ
凛は耐えられなくなった
凛「……返してよ………返せよ!!! みんなを返せよ!!!! かよちんを返せよおおおおお!!!!」バン!
凛「何で…何で死んじゃうのさぁ……かよちんが居ないと凛は…凛は……うああああああああん」ドン!ドン!
凛「…ヒック、あぁ…ああああああぁぁぁ……かよ…ちん……!!」ポロポロ
~~~~~~
真姫「…凛の奴、ドアの向こうまで聞こえてるっての」
千歌「……はい」
真姫「あんな事言ってたくせに、自分だけわんわん泣くとか…本当ズルいんだから」ジワッ
千歌「私が…あの時花陽さんと一緒にいた私が、もっと強ければ!!」ギリッ!
真姫「…そんな事を言ったらキリがないわ。最強だと思っていた海未が、無敵だと思っていた穂乃果が死んだのよ? どんなに強くなったって死ぬときは死ぬ。最後はその時の運なのよ」
千歌「でも!!」
真姫「自分を責めたって誰も生き返らない。私達がやるべき事は、今回の反省を次回にどう生かすか、違う?」
千歌「……」
真姫「今後、自分はどうするべきか、今はそれだけ考えなさい。いいわね?」
千歌「…はい」コクッ
真姫「よろしい。取り敢えず私達はこのまま帰って、凛にはここで思いっきり泣いてもらいましょう。鉢合わせたらお互い気まずいし」
千歌「私がするべき事…か……」
――――――
――――
――
~三日後 穂むら~
こころ「ごめん下さ~い」ガラガラ
千歌「あ! こころちゃん、いらっしゃい♪ 結構早く部活終わったんだね?」
こころ「はい、今日は用事のある人が多かったので。今日は千歌ちゃんがお店番なの?」
千歌「そうだよ。まあ、雪穂さんが学校から帰ってきたからもうじき交代だけどね」
こころ「そうなの? じゃあ、千歌ちゃんがまだやってるタイミングに来られてラッキーです」ニコッ
千歌「ふふ♪ あ、和菓子を買いに来たんだよね。何にする?」
こころ「そうですね…じゃあ、穂むら饅頭を5つ…いえ、4つ下さい」
千歌「…4つだね、分かったよ」ゴソゴソ
千歌「はい、詰め終わったよ。ありがとうね」
こころ「……」
千歌「こころちゃん?」
こころ「…お姉さまが、にこお姉さまが帰って来ないのです。もう三日も」
千歌「……」
こころ「前にもこんな事がありました。あの時は一年近くも行方不明になって…でも、結局は帰ってきて! また……今回も…今回もきっと帰ってきますよね…? 待っていればきっと………っ」ジワッ
千歌「…大丈夫だよ。にこさんも穂乃果さんも…必ず帰ってくる。だからお互い信じて待とう?」
こころ「ち、千歌さん…」ヒック
――ガラガラ
真姫「――…千歌の言う通りよ。にこちゃんは私が必ず連れ戻す。何年かかろうが…絶対にね」
凛「そこは“私達が”って言うところでしょ? 一人だけカッコつけないで欲しいにゃ」
凛と真姫が来店してきた
どうやら話は外で聞いていたようだ
そんな二人の発言に こころは…
こころ「凛さん、真姫さん…その……三人の事は、信じてもいいんですよね?」
千歌「どういう意味?」
こころ「お姉さまだけではなく、千歌さん達までいなくなってしまったら…そう考えるともう頭がおかしくなりそうで……!!」ジワッ
こころ「…約束してください、私の知らないうちに突然居なくならないと…」
千歌「こころちゃん……」
~~~~~~
真姫「こころちゃんとあんな約束をしたんだから、簡単に命を懸けるわけにはいかなくなったわね、千歌」
千歌「……私は、こころちゃん にとって居なくならないで欲しい人間になっていたんですね」
凛「千歌ちゃん?」
千歌「正直言って こころちゃん とは少し仲のいい友達くらいにしか思っていませんでした。仮に私がある日突然居なくなったところで、多少気にかけてくれるとは思うけど暫くしたら忘れるんだろうって。その程度の関係のつもりだったんです」
千歌「…もしもの時は真っ先に囮役をやる覚悟で戦ってきましたし、その為に力を付けてきました。これこそが偽物の私が出来る最適な役目だと、そう自分に言い聞かせて」
千歌「その囮役も穂乃果さんや にこさん達に持っていかれて…そして私が生き残った」
千歌「私が死んでも誰も悲しまない、誰にも迷惑がかからない…そう思っていた」
真姫「でも違った。こころちゃんにとって千歌は失いたくない大切な友達だった」
千歌「……はい」
凛「そもそもさー、千歌ちゃんは本当に自分が死んでも誰も悲しまないと思っていたのかにゃ? 凛達がそんなに薄情な人達だと思ってるの?」
千歌「へ?」キョトン
凛「数か月とはいえこれまで一緒に特訓した仲じゃん。それに、穂乃果ちゃんや にこちゃん だって千歌ちゃんに生きて欲しいって思ったから自分を犠牲にしてでも戦ったんだと思う」
真姫「そうね。あなたの命は、もうあなただけのものじゃないわ。こころちゃんの為にも、私達の為にも、この先も生き残ってもらわなくちゃね」
凛「…仲間が死ぬのは、もう二度と見たくない。だから千歌ちゃん、もう自分の事を悲観的に捉えるのはもうやめて欲しいな。…約束だよ?」
千歌「…はい。分かりました」ニコッ
凛「――それじゃ、そろそろ訓練と行きますか~」ンン~
千歌「ええっと、今日は射撃がメインでしたっけ?」
真姫「そうよ。『構えて撃つ暇があったら、殴った方が早いにゃ~』とか言ってたあの凛が遂に本気で銃の使い方を学びたいって……この日が来るまで何年かかった事か」ヤレヤレ
凛「あはは…流石にこの人数で一人だけ銃が使えないのはマズイかなって」
真姫「全く…遅すぎるのよ」
千歌「あの、色々考えたんですけど…結局、自分がすべき事って次のミッションで生き残る為に強くなるくらいしか無いんですよね」
千歌「個々が穂乃果さん並の強さを得るには全く時間が足りないけど、三人で力を合わせれば穂乃果さんに届く…いや、それ以上の力にする事は出来ますよね!」
真姫「当然よ! いつまでも穂乃果や海未に頼り切りってのも癪だわ」
凛「へへっ、みんなが帰ってきた時、凛達の抜群のチームワークを見せつけて驚かせてやろうにゃ~♪」
千歌「はい! やってやりましょう!!」グッ
――――――――――
――――――――
――――――
――――
――
~2月 ガンツの部屋~
凛「あ~あ、明日は試験だってのにミッション…これじゃまた留年だよぉ。ついてないにゃ」ガッカリ
真姫「別に問題ないでしょ? 花陽が留年するなら凛も残るって言っていたじゃない」
凛「そうなんだけどさぁ……ん? なんで凛がそのつもりだって事を真姫ちゃんが知ってるの? 話した事無いよね?」
真姫「え、あ、それは…だって凛の事だからそのつもりなのかな~って…思っただけ…よ?」ダラダラ
凛「……」ジーーッ
千歌「そ、そんな事どうでもいいじゃないですか。ほら、あの日以来のミッションなんですから、気合入れましょう!」
真姫「ち、千歌の言う通りよ! そろそろ音楽が鳴り始める頃だし」クルクルクル
凛「…まあ、いいか」ハァ
千歌「それにしても、人数が減ったのにメンバーの追加は無いんですね。大量に新入りが来てもおかしくないのに」
真姫「逆に好都合じゃない? その分点数がばらつかないで済むわけだし。今回で最低でも一人は取り戻すわよ」
千歌「一番点数の高い私が頑張らないといけないって事ですよね!!」
凛「頑張るだけじゃなくて、無理しないって事も忘れないでね~」
真姫「まあその辺は大丈夫でしょ。それに、今の千歌なら並のボスでも単独で撃退出来るハズよ」
千歌「それを言うなら真姫さんと凛さんも一緒ですよ。その為の特訓だったんですから!」
凛「ま、油断しないで挑もうよ。落ち着いて戦えば無事に終わるにゃ」
凛の発言に二人は唖然とした
凛「…え、どうしたの?」
千歌「いや…その、まさか凛さんが一番まともな事を言うとは思わなかったので…」
真姫「本当よ。予定では凛が『今回はパパッと終わらせちゃうにゃ~』とか言った後に、今あなたが言ったセリフを私が言うハズだったのに」
凛「……そう」ジトッ
そんな会話をしているうちに、ガンツからはラジオ体操の音楽が流れ始める
いつものブリーフィングが終了し、後は転送を待つだけだった
いつもと違うのは人数だけ
頼れる年長組も、最強の幼馴染トリオも、大切な親友も、今は不在
でも、あの時とは違って不思議と暗い気持ちにはならなかった
泣き叫んでも、怒り狂っても、絶望しても、みんなは帰って来ない
戦って勝つ、これ以外に方法が無いと再確認したことで迷いは無くなった
――準備は整った
これは失ったメンバー取り戻す戦い
誰も知らない、とあるマンションの一室から、彼女たちは今夜も戦地へ転送されるのだった
~~~~~~
――ジジジジジ
千歌「――…あれ? 凛さん、真姫さん??」
千歌が転送された場所に二人の姿は無かった
転送タイミングはほぼ同時だったので、二人が先に行ってしまった可能性は低い
そもそも、千歌を置いていく理由が無い
自分だけ別の場所に転送されたと考える方が自然だ
千歌「取り敢えず、通信機で連絡を……あら? 操作不良?? あ、この前壊したんだった…すっかり忘れてた」ガーン
千歌「でも…ここってどこだろう? 山の中にある小さな神社みたいだけど……何だか見覚えがあるんだよなぁ」キョロキョロ
そこは周囲を木々に囲まれた小さな神社で遠くには海が見える
千歌にとってここはとても懐かしさを感じる、そんな場所だった
その感覚が千歌の記憶を呼び覚ます
千歌「…え? ここって、まさか――」
~~~~~~
凛「――…もう! なんでガンツはたまにバラバラに転送するのさ!? 勘弁してほしいにゃ!!」プンプン
真姫「ダメね、オフラインになってる。これじゃ、すぐに合流するのは厳しいわね」
凛「そもそもここはどこ? どこかの島みたいだけど」
真姫「少なくとも東京では無いのは確かね」
凛「流石にそれは分かるよ。それにしても…大きなホテルだね~」ホエ~
千歌とは別の場所に転送された二人の目の前にとても立派なホテルが建っていた
一目で高級なホテルだと分かるほどである
真姫「…あ、私ここ泊った事があるわ」
凛「ええ!? こんな高級そうなホテルに泊まったの!!?」
真姫「でも結構昔の事だし、一回しか泊まったことが無いから名前が思い出せないのよね……うーん、何だったかしら」ムムム
凛「あ、あそこに看板があるよ。見てくるにゃ~」タタタ
真姫「ちょっと待ちなさい! 勝手に行かないでってば!」
駆け出す凛を真姫は慌てて追いかける
真姫「全く! 勝手な行動は止めなさいよね!? いつ星人に襲われるか分からないんだから!!」
凛「……」
真姫「…凛? 聞いているの?」
看板を見つめたまま黙っている凛
彼女に無視されて多少イラっとした真姫だったが、視線を看板に移す
そこには大きくカタカナでホテル名が書かれていた
恐らくこれは経営者の苗字がそのままホテル名となっているのだろう
ただ、この苗字は二人にとって聞き覚えのある苗字だった
真姫「――…『ホテルオハラ』ですって?」
――to be continue
μ'sを主人公とした物語はここで一旦完結します。
いつになるか分かりませんが、次作でメインストーリーの完結まで書く予定なのでまた読んで頂けると幸いです。
楽しみに待っています!