2017-02-17 22:45:59 更新



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~12月 穂むら~



穂乃果「――…あ! 希ちゃん、いらっしゃい」


希「こんにちは♪ 今は穂乃果ちゃんが店番なんやね」


穂乃果「そーなんだよ、雪穂はまだ学校でお母さんは出掛けちゃったし…寂しく店番中なのです」


希「あれ? この時間なら千歌っちが居るんやないの? 今日も花陽ちゃん達と一緒なん?」



穂乃果「ううん、昨日の朝から静岡に行ったよ。みんなに連絡しなかったっけ?」


希「あー…そう言えば行くって連絡入ってたね。確かインフルエンザで三日間学校閉鎖になったんだよね」


穂乃果「そうそう。せっかく時間が出来たから幼馴染みの顔を見に行きたいんだってさ。平日なら学校に行けば確実に会えるからね」


希「今更やけど…一人で行かせて大丈夫なん?」


穂乃果「問題ないと思うよ。そのくらいの判断は出来るハズ。海未ちゃん達とも結構相談したみたいだし」


希「ウチにも相談して欲しかったなぁ…千歌っち、穂乃果ちゃんの所に住むようになってから一回しか泊まりに来てくれ無いんやで」ズーン


穂乃果「千歌ちゃんも色々忙しいみたいだよ? 最近じゃ、運動部の助っ人に引っ張りだこなんだって。この前バスケの試合観に行ったけど、一試合フル出場して一番走り回っていたのに息一つ乱して無かったよ」


希「ちょっ…どんな部活に入ればそうなるん?」


穂乃果「千歌ちゃんは帰宅部だよ。海未ちゃん達との訓練に参加していたら部活の練習なんか時間が無くて出来ないよ」


希「ええ…今までちゃんと訓練内容を聞いた事なかったけど、一体どんな事しとるん?」


穂乃果「基本的には体力作りと剣術指導だってさ。対人以外はスーツ着ないでやるみたい。海未ちゃんが復帰した初めの頃はひたすら走らされたみたいでね…40kmを三時間切れなんて無茶苦茶な課題出したんだよ!? 流石に文句言いに行ったよ!」プンプン


希「ほとんどフルマラソンやん…ウチだったら次回から参加しないで」アゼン



穂乃果「それがさ…千歌ちゃんも根性あってさ。次回からその距離はメニューから外されていたんだけど、休日の早朝自主練で40km走るようになってね…もうすぐ四時間切るってさ」


希「う、ウソやろ……」


穂乃果「静岡に行くのだって、海未ちゃんに『走っていくのはどうでしょうか』なんて言われたみたいでね。千歌ちゃんも今更40kmも130kmも変わらないなんて言い出して…完全に感覚が狂っちゃったみたい」ハァ


希「…もしかして朝から出発したのって……」ダラダラ



穂乃果「その通りだよ…ただ、スーツは着せたし走るのは横浜まででそこからは電車を使うよう言いつけたよ」




希「千歌っちはすっかりスタミナお化けになってしもうたんやね。剣術の方はどうなん?」


穂乃果「結構筋はいいみたい。花陽ちゃんが自分と同じくらいまで成長したって嬉しそうに言っていたよ」


希「悔しがるんじゃなくて喜ぶあたりが花陽ちゃんらしいね」


穂乃果「花陽ちゃん曰く『弟子は師匠を超えるもの。千歌ちゃんはそれが早かっただけです』だってさ。『ただ…私は海未ちゃんを中々越えられませんが』って付け加えていたけどね」


希「海未ちゃんより強くなってる花陽ちゃんかぁ……あんまり想像できひんな」ウーン


穂乃果「花陽ちゃんも最初の頃に比べたら遥かに強くなってるよね。うかうかしていたら私が先に追い抜かれるかも」


希「もうとっくに追い抜かれているかもよ? 今度勝負してみたら?」ニヤニヤ


穂乃果「あはは…機会があったらね」ダラダラ


希「ウチもそれなりに訓練してるよ。いつまでも穂乃果ちゃんと海未ちゃんに頼るわけにはいかないからね」


穂乃果「それはそれで寂しい気がするなぁ…困ったら頼っていいんだよ?」ドヤァ


希「ふふ。もし穂乃果ちゃんでも勝てない敵が現れても、この10人で力を合わせれば絶対に大丈夫や」


穂乃果「…カードがそう言ってたの?」


希「――…ううん、こんなの占うまでも無いやん?」ニヤッ





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~原宿 カフェテリア~




「相席いいですかぁ?」


にこ「はい? どうしてわざわざ……なんだ、ことりだったの」


ことり「えへへ、こんな所で偶然だね。座っていい?」


にこ「いいわよ。しばらくゆっくりしているつもりだったし」


ことり「ありがとう♪ 今日は休みなの?」


にこ「ええ、珍しくバイトも養成所の練習も無い日でね…オシャレなカフェでゆっくりするのも悪くないじゃない?」


ことり「そうだね。にこちゃんにはピッタリのお店だと思うよ」ニコニコ






にこ「――…あの子って今は静岡の実家に行っているのよね?」


ことり「え? あ、うん。そのハズだけど…にこちゃんが千歌ちゃんの話題を出すなんて珍しいね」


にこ「…別に。あの子、学校でこころと知り合ってそのまま友達になったのよ。この前、家に遊びに来たわ」


ことり「ええ!? 千歌ちゃんはこころちゃんがにこちゃんの妹だって知ってたの?」


にこ「まさか。苗字が一緒なのは分かってはいたみたいだけど、家で私の顔を見た瞬間に青ざめていたのが一目で分かったわ」ハァ


ことり「そりゃそうだよ、だってにこちゃんは千歌ちゃんのこと嫌い…でしょ?」


にこ「嫌い……か」


ことり「?」


にこ「正直言うと嫌いでは無いわよ。今思えばあの時だってどうしてあんな事言ったのか…凄く後悔しているくらいよ」


ことり「…どういう事?」


にこ「それが自分でもイマイチ分からないのよ。あの子の前に立つと本心と違う言葉が出ちゃうの…まるで自分から突き放すような言葉がね。…最低でしょ?」


ことり「……うん。千歌ちゃんに対するにこちゃんの発言は許されるものじゃないよ」


にこ「あの子がどうこうって話じゃない。多分これは私自身の問題だと思う。せっかくこころと仲良くしてくれているのに、私のせいで関係にヒビが入るのは避けたいわ」


ことり「私じゃ力になれないの?」


にこ「そうね…何が理由か分からない以上、話す事が無いの。だから、今は関係が悪化しないよう努力するつもりよ」


ことり「分かった…早く千歌ちゃんと仲良くなれるといいね!」ニコッ


にこ「……ええ」



ことり「それにしても意外だったな~。絶対に存在を認めないって立場だと思ってたよ」


にこ「…最初は少しそう思っていた。でも、こころと楽しそうにお喋りしている姿を見ていたらさ……この子も正真正銘人間なんだなって感じてね。あの時、本当に消さなくてよかったと思ってる。止めてくれてありがとう、ことり」


ことり「……じゃあ、お礼にこのお店で一番おいしいケーキをご馳走してもらおうかな♪」ニコッ


にこ「ふふ、お安い御用よ! どれどれ……って高っ!? ケーキ一個1500円ってどんだけよ!?」


ことり「んん~~楽しみだなぁ♪」







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~神田明神 境内~




海未「――…今日はここまでにしましょうか」


凛「ふにゃあぁぁ…疲れたよぉ」グッタリ


花陽「凛ちゃんお疲れ。はい、水だよ」


凛「ありがとう!」ゴクゴク




海未「……私達だけで訓練するようになってから三年…ですか」


凛「え? 突然どうしたの?」


海未「いえ、こうして三人で訓練したのが久しぶりだったので。花陽が私に頼み込んできた日の事を思い出しました」


海未「突然メールで呼び出されたと思ったら、『私を弟子にしてください!』ですからね。とても困惑しましたよ」フフフ


凛「私に相談してくれなかったのはショックだったな…二人で走っているのを目撃した時は海未ちゃんにかよちんを取られちゃったと思ったよ」プンプン


花陽「あはは…まさか初日に発見されるとは思わなくてね。終わったら連絡しようと思っていたんだよ?」


海未「正直、ここまで二人が付いて来るとは思っていませんでした。μ’s時代とは遥かに厳しいメニューを組んでいたので」


凛「あ、その自覚はあったんだね」


海未「アイドル活動とは違い、生き残る為の訓練でしたから…妥協はしたくなかったのです。気が付いたらあんなメニューに……」


花陽「……いつまで続くんだろう」ボソッ


凛「にゃ!? かよちんはやっぱり嫌だったの!? まあ、千歌ちゃんが加わって海未ちゃん張り切っちゃったせいでメニューが前より辛くなったから無理ないよ…」


海未「やっぱり厳しすぎましたか…自分でも辛いと感じていたのでやり過ぎ感は否めないです……」ズーン


凛(これにも自覚あったんだにゃー…)



花陽「あ、違うよぉ! メニューに対しての不満じゃないよ」アセアセ


花陽「確かに辛いけど、みんなと一緒にやるのは楽しいからこれからも続けたいと思ってるよ。ただ…穂乃果ちゃんが前に話していたカタストロフィの事を考えるとね……」


海未・凛「「……」」


花陽「私達が戦っているのは来たるカタストロフィに向けての予行練習。いつか本番の日が訪れるわけだから、この訓練も終わっちゃうよね?」


海未「まぁ…そうなりますよね」


花陽「こうやってμ’sのみんなと会えるきっかけが無くなっちゃうのが寂しいなって思っちゃった。あの部屋は嫌いなんだけどさ」


凛「そんな事思ってるの? かよちんも意外とおバカさんにゃ~」


海未「そうですね。花陽はお馬鹿さんです」


花陽「え……ええ!?」



凛「きっかけなんて作ればいいんだよ。なんなら、グループラインで一言言えばすぐに集まるよ」


海未「流石に毎回全員と会えないとは思いますが、メンバーが会いたいと呼びかけているのに無視をする人は居ないですよ」


花陽「……そうだね。どうしてこんな簡単な事に気が付かなかったんだろう…二人の言う通り、私はお馬鹿さんでした」アハハ…



海未「全ての戦いが終わったら、みんなで美味しいご飯でも食べに行きましょう!」


凛「お、いいねぇ~。最近、美味しそうなラーメン屋を見つけたからそこに行きたいにゃ!」


海未「いやいや、どうしてラーメンなのです? もっと他にあるでしょう!」


凛「えー、だったらどこにするのさ!」


海未「そ、それは……って今考える必要は無いでしょう! 終わってからみんなで考えればいいのです!!」


花陽「わ、私は美味しい白米があるお店がいいです!!」


海未「花陽…話聞いていましたか?」ヤレヤレ





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~某大学 薬品庫~



絵里「――…ええっと、止血剤と強心剤は……お、あったあった♪」ゴソゴソ


真姫「…ったく、毎回ひやひやするわね。バレたら退学どころか逮捕されるわよ?」


絵里「問題は問題にしなければ問題にならないのよ。それに大した薬品じゃないんだから簡単にバレないって」


真姫「…普通は定期的にチェックされてすぐに発覚するものなんだけど? 一体どんなトリックなのよ」


絵里「ここの管理者の子とちょっと仲が良くてね。仕入れ数とか色々改ざんしてもらってるってカラクリよ。直接の受け渡しだと見られた時に迷惑がかかるから、夜にコッソリ頂いているってわけ」


真姫「はぁ…。ちなみに、私を見張り役として指名した理由は? ステルスを使えば姿が見えないんだし、居る意味無くない?」


絵里「あ、確かに。なんで真姫に声かけたのかしら…?」


真姫「……あ?」イラァ


絵里「お、怒らないでよ。一人じゃ心細かったから、この大学の関係者に居て欲しかったの! 夜の学校なんて怖すぎるでしょ」アセアセ


真姫「…まあいいか。さっさと詰めちゃいましょ」


絵里「そうね。注射器とかはもう用意できてるの?」


真姫「ええ。一応今も持ってきてるわ。夜だし、時期的にも今日ミッションが来てもおかしく………あ」ゾクゾク


絵里「噂をすれば、ってやつね。急いで用意しましょうか――」







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~ガンツの部屋~





――ジジジジジ





凛「にゃあぁぁ……久々のミッションだね! テンション上がるにゃあ!!」


絵里「り~ん! 元気なのはいいけど、勝手に暴れまわらないでよ」


真姫「そうよ、援護する身にもなりなさいよね」ジトッ


花陽「凛ちゃん……」ハァ…




希「おぉ! にこっちはお仕事無かったんやな。随分ラフな格好で転送されてるやん」ニシシ


にこ「まあね、折角のオフだったのに…ホント迷惑よ!」プンプン




海未「穂乃果、ことり、お久しぶりです」ペコッ


ことり「久しぶり! 元気だったぁ?」


穂乃果「うん、いつもと変わらず元気にやってたよ」


ことり「海未ちゃんは……前よりちょっと変わった?」


海未「ええ、カタストロフィ事を話してもらってから日々の鍛錬にもより真剣に取り組めるようになりましてね…ここで100点をより多く取る為の備えは万全ですよ」ニコ


穂乃果「おぉ…こりゃ、もう私より断然強くなっちゃったんだろうな」アハハ…


海未「どうですかね? 強さには色々ありますから。そうだ、今度手合わせしませんか? 無論、スーツは無しで」


穂乃果「い、いやー…さすがにそれじゃ私に勝ち目が無いなぁ」ビクビク





――ジジジジジ





千歌「――…あれ? もしかして私が最後ですか??」



凛「あ! 普通怪獣ちゃんだ!!」パァ


千歌「ちょっと凛さん! ガンツが付けたあだ名で呼ばないで下さいよぉ」プンプン


花陽「そうだよ、前から嫌がってるでしょ?」


凛「えー…可愛いあだ名だと思うんだけどなぁ」シュン


千歌「あ、いや…そんなに落ち込まないで下さい」アセアセ



にこ「年下困らせてどうすんのよ…」


真姫「気にしなくていいわよー」ヤレヤレ


千歌「は、はあ…」




絵里「確か今日は…まだ静岡のはずよね?」


千歌「はい、明日の朝に帰る予定でした」


希「そっか~、なら帰りの交通費が浮いてラッキーやな♪」


千歌「え? まあ、そうなりましたね……ん? なんかデジャヴ……」ムムム




ことり「それでどうだった? “年上の同級生”に会って来た感想は?」



千歌「――…そうですね、まさか曜ちゃんが今も戦ってるなんて…それも果南ちゃんも一緒だったのは驚きましたね」


千歌「そう言えば、穂乃果さんから教えてもらったメンバーのほとんどは卒業したみたいでしたよ? あの場にいませんでした」




穂乃果「そうなの? 千歌ちゃんじゃなくて曜ちゃんが残ったって事なのかな……」


千歌「そこまでは分かりませんが…とにかく、曜ちゃんに気付かれなかったのはラッキーでした」フゥ


穂乃果「そうだよ! 仕方のない状況だったとしても、何でステルスを解いちゃうのさ!? 危うくバレちゃうところだったんだよ!?」


千歌「うぅ……ごめんなさいぃ」グスン


海未「まぁ、電話で知らされた時は焦りましたが、バレなくて本当に良かったですね」


ことり「でも災難だったね? お忍びで帰ったのに星人との戦闘に遭遇しちゃうなんてね」



千歌「……でも、曜ちゃんの姿や声が聴けて良かったです。きっと“未来”の千歌とも仲良くやってるはずです」


穂乃果「ねぇ、やっぱり私の事恨んでる?」


千歌「まさか! 穂乃果さんが情けをかけてくれなかったら、今生きていません。法律上存在しない私を養ってくれている穂乃果さんには感謝していますよ」


穂乃果「でも…」



千歌「その時が来たら私から打ち明けます。私の存在は曜ちゃんと“私”にしっかり決めてもらいますから」ニコ


穂乃果「そっか……」





ガンツ『あ~た~~らし~い~あ~さがっ来た』






千歌「――…さあ、もうすぐ今夜のミッションが始まります。今回も気合い入れていきましょう!」


穂乃果「……うん! よろしく頼むよ、千歌ちゃん!!!」



千歌「――――はい!」





いつものように音楽が流れ終わり今回のターゲットが表示された

ただ、その表示はいつもと少し違っていた




絵里「さーて、今回はどんな星人が相手なのかし…ら……」ゾワッ


花陽「……っ」ギリッ


海未「復帰早々、厳しいミッションになりそうですね…」





ガンツ『Weは今から

この方をヤッつけてにgo to下ちい

Chimera星人 特徴:very strong 好きなもの:human We’s favorite:jouzi』





千歌「ちめら星人? と言うか、表示もなんか変だよね…今までアルファベット表記なんか無かったのに」キョトン


穂乃果「千歌ちゃん、今回は覚悟してね…相当厳しい戦いになると思う」


希「装備もキッチリ準備せなあかんね」


絵里「真姫、さっき用意したあれを配っちゃいましょ?」


真姫「そうね。全員このポーチを身に付けなさい。中に強心剤と止血剤が入っているから自分や仲間が危なくなった時に注射して。ただ、一本ずつしか用意出来なかったし、ポーチも普通の物だから強い衝撃で簡単に壊れるから注意して」


にこ「通信機の次は薬剤かぁ…本当に準備いいわね」


絵里「もっと早く用意出来れば良かったんだけどね。中々薬学部の子と関係が作れなくて苦労したのよ」


凛「関係を作る…絵里ちゃんが言うと何だか意味深だにゃ」



千歌「ちょ、ちょっと待って下さいよ! 穂乃果さんが厳しい戦いになるっていうくらいのミッションって一体何なんですか!?」





――ジジジジジ





穂乃果「……行けば分かるよ。とにかく、単独行動は禁止ね」






~~~~~~



穂乃果達が転送された場所は高いビルが多く立ち並んでいる交差点の真ん中だった

辺りは逃げ惑う人々、人間の遺体、星人と思われる生物の死体が転がっていた


建物外壁へのビルボードの設置が多く、世界中の企業の広告や巨大ディスプレイ、ネオンサインや電子看板が目立ち表記は全て英語だった

そこは千歌もテレビや雑誌で見た事のある場所であり、以前μ’sが海外ライブを行った場所でもあった




穂乃果「――…懐かしい場所に来たね」


千歌「こ…ここって、アメリカ……何ですか?」


希「ニューヨークのタイムズスクエアやね。見る限り既に戦闘は始まっているみたい」


ことり「どうする? 穂乃果ちゃん」


穂乃果「そうだね…取り敢えずはニューヨークチームの人と合流しよう。私達が参戦したって事はそれだけ戦力が足りないって事だからね」


海未「それがいいですね。敵の情報もいくつか分かっているかもしれませんし」


にこ「決まったなら早く行きましょう。いつまでも突っ立っていたら危険よ」



穂乃果「よし、それじゃあ……」





――スパッ





穂乃果「――…は?」ブシュッ




――…油断していたわけでは無い

周囲に星人の姿が無い事は転送直後に確認済みだった


ただ……

流石に転送直後に攻撃は無いだろう

武器を持った集団に斬り込んでくる星人はいないだろ

そんな考えが全員の頭の隅にあったのは事実だ

移動開始が後数秒早ければ回避出来ていただろう


上空から降ってきたカマキリと人間を掛け合わせたような星人が穂乃果の左腕の肘から先を斬り落とした



凛「…にゃ?」



千歌「え……な…に……?」







攻撃を受けた穂乃果でさえ自分の身に何が起きたのか理解出来ていない

星人はそんな事はお構いなしに、その鎌で穂乃果の首元目がけて振りかざす


突然の出来事にメンバーのほとんどが未だ呆然と立ち尽くしている

――ことりと海未を除いて



ことりは素早く穂乃果の首根っこをつかみ、自分の身体側に引き寄せた

海未は星人と穂乃果の間に割って入り、刀で攻撃を防ぐ





海未「――何をしているのですか!! 全員周りをよく見なさい!!!」




慌ててもう一度見渡すと、先ほどまではいなかった星人の姿がメンバーを囲むように現れていた

穂乃果は声にならない激痛に耐えながらも素早くポーチから注射器を取り出し、傷口に直接打ち込んだ





穂乃果「~~~~っ!!? 正面の星人二体は私達で何とかする! みんなは他の星人の相手をして!!」


ことり「穂乃果ちゃん、その腕で戦うつもりなの!?」


穂乃果「斬られたのは利き腕じゃないし止血剤も打った。それに、あの星人二体は三人じゃないと厳しい!!」




目の前では穂乃果を斬った星人と海未が斬り合っている

その後ろには額に蜘蛛のような目が付いている人型の星人が長い棍棒を肩に乗せながらこちらに歩いてきている

見るからに強敵である事は間違いなかった





ことり「…分かった、でも無理だと思ったらすぐに逃げてね。捨て身の特攻なんて承知しないんだから!」


穂乃果「大丈夫…ことりちゃんと海未ちゃんがいれば片腕で十分だよ!」ニッ





穂乃果はガンツソードを展開

臨戦態勢に入っていた。本気で片腕で戦うつもりなのである

他のメンバーももう止める気は無いようだ





絵里「――…さあ、行くわよ! 一刻も早くこの場から奴らを引き離す!!」ダッ!


千歌「…っ! 穂乃果さん!!」


穂乃果「…心配なんかいらないよ? 私の事を思ってくれるなら、早く他の星人を倒してミッションを終わらせて」


千歌「で…でも……」




花陽「――…穂乃果ちゃんの言う通りだよ! 早く行くよ!」


千歌「…分かりました。後で必ず合流しましょう!!」ダッ!





このような場合に備えて予めチーム分けを決めていた


戦闘能力や得意武器を考慮し

絵里、にこ、真姫のチームと凛、花陽、希、千歌のチーム

周囲を囲んでいた星人を引き付けてそれぞれその場から離れた――







~~~~~~



~初期転送位置より南南西500m~



ガンツの標準装備である黒いスーツ

装着者の身体能力と防御力を飛躍的に上昇させる

高所から着地する際には脚部から高圧の気体を噴射し衝撃を吸収し、また、衝撃や圧力に対しても自動的に防御効果を発揮、剥き出しである頭部も防護される

超音波や高温の炎などからも人体を保護し、Xガンによる射撃も無効化するなどミッションで生き残る為には必要最低限の装備である


しかし、刃物や先端が鋭く尖った武器や溶解液などには弱い

今までのミッションにおいても、スーツの耐久を無視して体を斬られたり溶かされたりしたメンバーも少なくない


よって、星人がそのような攻撃を仕掛けてくる気配がある場合はXガン等の銃による攻撃が推奨される



逃げている最中に希と凛と逸れてしまった花陽と千歌は一体の星人と対峙している

場所は裏路地で両サイドは建物の壁で囲まれており、お互い逃げ場が無い


両腕の肘から先が太くなっており黄色と黒のストライプ柄、手の甲からは大きな針が伸びている

頭からは触角の様なものが生え、それはまるで――





千歌「――…蜂……みたいだね」


花陽「キマイラ星人ってガンツが言ってたから、地球の生き物と混合してその能力を得た星人なのかもしれない。もしベースが蜂だとしたら…オオスズメバチとかなのかな」


千歌「逃げている最中にアメリカチームがゴキブリの擬人化みたいな星人と戦っていたから、てっきり私達も似たような星人が相手だと思ったけど…」


花陽「その時レーダーを確認していたんだけど、アメリカチームが戦っていた星人はレーダーに映っていなかったの。今回は共闘じゃなくて分担なんだと思う」


千歌「つまり…増援は無い……って事?」


花陽「凛ちゃん達と逸れちゃった今、この星人は私達で何とかしないといけない。…準備はいい?」


千歌「勿論です! いつでも行けます!!」





『千歌&花陽 vs キマイラ星人(ベース:オオスズメバチ)』





最初に仕掛けたのは花陽だった

素早く敵との距離を詰め、腰から肩にかけて斬り落とす軌道で振り抜く

星人は針で難なく弾きもう片方の針で花陽の顔面へ突き立てる

―しかし、千歌の上空からの斬り下ろしに対処するため花陽への攻撃を中断し防御に回った


日はまだ浅いものの、この数か月間共に訓練してきた二人

大体の動きはお互い予測できるほどには成長している


星人は防戦一方だった




千歌(よしっ!! このまま倒せる!!)





二人の連携攻撃で徐々に星人を追い詰めているように思えた…





星人「…っ!!」ガッ




星人は千歌の斬撃を針で滑らすように軌道をずらし、そのまま顔面を鷲掴んで地面に叩きつけた

その威力はアスファルトに大きな亀裂を作るほどで、生身で受けたら間違いなく頭蓋骨はぐちゃぐちゃに潰されていただろう




千歌「ごはっ!!?」


花陽「千歌ちゃん!?」




星人の反撃は終わらない

千歌に気を取られた花陽の肩に一突き……

今度こそ針が突き刺さった


深く刺さる前に後ろに飛んで回避したものの針はスーツの耐久を無視し

花陽の左肩に大きな穴を空けた


叩きつけられた千歌は頭を掴んでいる星人の腕を斬り落とそうとするが

それを察知し、星人は手を放して千歌から距離を取った





千歌「花陽さん!? 肩が……!」ゾワッ


花陽「大丈夫、そんなに深くないから。あの針はスーツで防げないから突きには用心してね」ドクドクッ




肩の傷口からは花陽の血がドクドクと流れ続けている

明らかに浅い傷ではない事は素人の千歌にも分かってしまった


不安な表情で見つめる千歌に花陽は優しく微笑む




花陽「どう…したの? こんなケガなん……てミッションが終わればすぐに治るよ。そんな事より、あの星人の倒し方を…考えよう」ヒュー…ヒュー…


千歌「…そうですね。あの星人、私達の動きを完全に見切っています。正面から倒すのは厳しいですね」


花陽「うん、それは…同感だよ。場…所が悪いっていうのも……あるけど、動きに無駄が無くて隙が見当たらない」ゼーゼー


千歌「だったら一度引きますか?」


花陽「…あの星人をかわして逃げる自信……ある?」ゼーゼー


千歌「…無理ですね」


花陽「……っ」ヒューヒュー





花陽は星人の力量を打ち合いの中で察してしまっていた

μ’sでこの星人を倒せるのは海未や穂乃果くらいだと


二人では間違いなく勝てない

このまま戦えばどちらも殺される

逃げるのが最も有効な作戦だが、今回は戦う意外の選択肢がない


さらに状況は最悪である…



花陽(マズいなぁ……このままじゃ…)



花陽は先ほどの攻撃により体内を毒で侵され全身に激痛が走っていた


昆虫サイズの蜂では毒の量は微量なのですぐに死亡することは無いが

人間大の量では一度に数百匹のオオスズメバチに刺されたのと同じ量の毒を注入されている

既に蕁麻疹や呼吸困難、吐き気などのアナフィラキシーショックの症状が出始めており、いつ死んでもおかしくない状況だ


激しい吐き気に襲われおう吐する





花陽「っ!? おえええぇぇぇぇ」ボトボトッ


千歌「花陽さん!? 大丈夫でs――」


花陽「大丈夫…問題無いよ」ニコ


千歌「大丈夫なわけ無いじゃないですか!?」


花陽「――…それより、星人を倒す作戦を考えたよ。聞いてくれる?」


千歌「え……?」






~~~~~~



~初期転送位置より南西400m~




凛と希の目の前には2m程の大型の星人と大量の一般人と数人のスーツ組の遺体が転がっていた


分厚い甲殻を身に纏い、左手は蟹のような爪、蟹をベースとした星人であるのは一目瞭然であった


爪には潰れた頭部が挟まっている

挟まれたらスーツでも防御出来るか確信が持てない




凛「――…これって、やばくない?」


希「アメリカチームのXガンが効いてなかった…甲殻が厚過ぎるし再生もするから倒す前に接近されてアウトって感じやね」





だったら、そう言って希は持っていたZガンを星人に連射した

ズドン、ズドン、ズドンと星人の頭上から見えない円柱を叩きつける


しかし、星人は少し怯むだけで効いている様子は全く無い





凛「希ちゃん! 全然効いてないよ!?」


希「当て続ければ流石に潰れるハズ! 凛ちゃんも武器を拾ってあいつの足を攻撃して!!」ギョーン!ギョーン!ギョーン!




凛は指示通りにアメリカチームが持っていたXショットガンを拾い攻撃する


甲殻にヒビが入ったり一部がはじけ飛んだりするものの、すぐさま再生

一歩ずつ二人に近づいてくる


武器による攻撃を嫌う凛は銃を捨てて格闘戦に切り替えた




希「ダメや! 近づくのは危険すぎる!!」


凛(打撃は効き目がない。頸椎への関節技で一気に決める!!)キュイィィィン!!




素早く背後に回り込み、スーツの最大出力で締め上げる


しかし星人は苦しむどころか構わず進み続ける



数秒後に攻撃されている事に気が付いた星人は爪で凛を掴み

背中から地面に叩きつけた


その威力は人がバウンドで1m跳ね上がるほどのものだった

そのままもう一度掴み、今度は凛の両脇をギリギリと締め上げる




凛「あが、がああああああぁぁぁ!!!!?」キュイィィィン




スーツも凛の身体を守るためフルパワーで防御している

だが、それも長くは続かない。青く輝いていたメーターがチカチカと点灯し始めた


これはスーツの機能が停止するまでもう時間が無い事を示す





希(このままじゃ凛ちゃんが! お願いや…この近くにあの武器が落ちていて!!)キョロキョロ


希「あ!! あった! 間に合えぇぇ!!!」ギョーン!




希が探していたのは捕獲用の銃であるYガンである

動きを封じ、転送するだけのこの銃ならXガンやZガンが通用しない程の硬い星人でも倒すことが出来る


標準武器であるこの銃はXガンに比べ用意されている数も極端に少なく、さらに補充もされない


東京チームは全てのYガンを紛失、破損している為持ち込む事が出来ない

従って、今回のように合同ミッションで拾うしか入手する手段が無いのだ




Yガンは見事命中

希は直ちに転送を開始して凛を解放した


どさりと地面に倒れた凛

スーツは壊れていないが、息苦しそうに小刻みな呼吸をしている




凛「の……希…ちゃん……」ハッハッハッ


希「しっかりしい!! どこが痛むんや!?」


凛「り…両脇の……所…。息すると……痛い……」ズキンッズキンッ


希「…肋骨が折れているんやね。取り敢えず安全なところに移動するよ。出来るだけ揺らさないようにするけど多分滅茶苦茶痛いと思うから……ごめんね?」


凛「だい……じょうぶ…にゃ。へへ…油断した……訳じゃないけ…ど、あっさり…やられちゃったな……っ!!?」ズキンッ


希「もう喋らんで! 運が悪かっただけや。生きているだけで十分でしょ?」


凛「……いや、そういう…わけにはいかない……よ。周りを見て…」





周囲を見渡すと先ほど転送したのと同じタイプの星人が一体また一体と現れ続けた

その数5体


爪が左右逆だったり両方にあったりといた個体差はあるものの、希一人で倒すのは恐らく不可能だろう


凛は痛みに耐えながらもう一度立ち上がる




凛「ふー…ふーっ。凛が注意を引くから、一体ずつ確実に転送して」


希「無理や! 骨が折れた状態で動き回れるわけないやん!!」




凛はポーチから注射器を取り出し、負傷した箇所に注射した

以前、真姫がミッションの為に用意した痛み止めなのだが、気休め程度の効果しかないだろう

それでも、少しでも動けるならば問題無い




凛「よし…もう大丈夫。頼んだよ、希ちゃん!!」ダッ!


希「くっ…! やるしかないんか!!?」カチャ!





『凛&希 vs キマイラ星人(ベース:タスマニアン・キング・クラブ)×5』







~~~~~~



~初期転送位置より北東500m~



この場所は逃げ惑う一般人と襲い掛かる星人、それと戦うアメリカチームと大混戦であった


倒しても点数にはならないが、絵里達もアメリカチームに協力していた





にこ「この筋肉質なキモイゴキブリは何なのよ!? ちょこまかと鬱陶しい!」ギョーン!ギョーン!


絵里「体が一回り大きい個体には気を付けなさい! 触れただけでスーツごと持っていかれるわよ!!」ギョーン!


真姫「このっ! 数が多すぎる!!」ギョーン!ギョーン!



そんな時、大量に星人が集まっている場所から悲鳴が聞こえてきた


切羽詰まった声で何かを叫んでいる





アメリカ人「No No Nooo!! Help,help meee!!!」



真姫「っ!? あのままじゃヤバイ!」


にこ「私が行く!! 真姫、援護お願い!」ダッ!





にこは複数の星人に囲まれ、パニック状態に陥ったスーツ組の一人の援護に向かう


星人は襲っている人間に気を取られ、にこの接近に気が付いていなかった為数は多かったが、殲滅は容易に完了した


助けを呼んでいたアメリカ人は未だ混乱しており、更にスーツも壊れていたがケガはしていなかった




にこ「落ち着いて、もう大丈夫よ! あぁ…英語じゃなきゃ通じないか。ええっと、イットオール オッケイ ナウ!」


アメリカ人「ハァ…ハァ、Ok…ok. Thank you. Well…who are you?」


にこ「ええ!? うーんと…アイアム ニコ。アイム ザ グレイティスト アイドル イン ザ スペース!!」


アメリカ人「…Really? Sorry, I don’t know」


にこ「で、ですよね~。流石にそこまで有名じゃないか…」アハハ…


アメリカ人「Other day, I check you……t!? Watch out!!」ドンッ!


にこ「きゃっ!?」




にこは突然突き飛ばされた

直前に何か叫んでいたが、あまり英語が得意ではない彼女には何と言っていたか理解できなかった


折角助けたのに何するのかと文句を言おうと顔を上げると、さっきまで確かにあったその人の額から上がごっそり削り取られていた


慌てて見渡すと、同じように体の一部分が削られていたり、穴が開いている人間が多数倒れていた


遺体の近くにはソフトボール並の大きさをした鉄球が埋まっている




にこ「何なのこれ…。絵里、真姫!! 気を付けて! 訳の分からない攻撃が来てる!!」


真姫「はあ!? そんなのどうやって気を付けるのよ! 具体的には何なの!」


にこ「知らないわよ! さっき助けたアメリカ人が突然死んだの!! 何が起きたのか全く分からなかった」


絵里「もしかしたら、透明になれる星人が潜んでいるのかもしれない。周囲に何か不自然な事が起きていないか注意し――」





――ドスッ!!




絵里の胸元で大きな鈍い音が響いた

遠方から目にも止まらぬ速さで絵里に直撃したそれは、遺体のそばに落ちていたものと同じだった


スーツの防御力により貫通まではしなかったものの、鉄球が当たった場所にくっきりと痕が残るほどの威力だ





絵里「かっ……は…。い、一体何……が……」ヨロッ


にこ「正面から狙撃されている!! 早く隠れなさい!!」





近くに居た真姫は絵里を助けに駆け付ける


しかし、そんな真姫を絵里は残る力を振り絞って押し返す





絵里「来る…なああ!! 隠れなさい!!」ドンッ!


真姫「んな!?」





絵里の目には前方から何かを投げようとしている星人の姿が映っていたのだ


突き飛ばした直後、真姫の胸を押しのけた絵里の腕は鉄球によりあり得ない方向に折れ曲がった





絵里「~~~~~っ!!!?」


真姫「絵里!? 絵里いいいい!!!」






――patr6へ続く


後書き

ミッションの舞台は海外へとなりました。
あまり雰囲気を出せていないのは自分の力不足です…


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