穂乃果「とあるマンションの一室で」 part3
前回の話でメインサーバーに保存・更新される条件が「100点を取ったメンバー」と語られていますが
過去に解放を選んだが、再び部屋に戻って再度100点を取った場合、新たにデータが保存されます
すなわち、千歌や梨子などのメンバーは中学時代と高校時代の二つのデータが保存されている設定で物語を進めていきます
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百貨店の屋上には刀がぶつかり合う音が響いていた
海未は二刀流による圧倒的な手数で攻め
果南はそれを何とか防いでいた
海未の剣捌きはとても美しく、洗礼されたものだった
並の剣士では数秒も相手をすることは出来ないだろう
そんな海未に対し果南は鍔迫り合いに持ち込んだ
果南「全く…素人が見ても惚れ惚れする剣捌きだね。凄すぎるよ」
海未「長年の鍛錬のおかげですよ。私からしてみれば、私の剣を捌けるあなたの方が凄いと思いますが?」
果南「どうも。それにしてもまぁ、斬り合いってこんな感じなんだね? 小さい時に千歌や曜とやったチャンバラとは大違いだよ」
海未「チャンバラ…ですか?」
果南「私には流派ってやつは無いから、その道の達人からしてみれば相手にならないだろうね」バキッ!
海未「っ!!」
果南は海未の腹部を蹴り飛ばし一定の距離を取る
両者は刀を握りなおした
果南「基本的に戦い方は見て覚えてきた。見て、頭でイメージして、実践する。それで大体の事は出来たよ」
海未「ほう…なら、私の剣捌きも既に自分の物に出来たのですか?」
果南「いや、まだ出来ないよ。そこまで簡単な動きじゃない事は分かっている。ただ……」
海未「?」
果南「――ただ、海未さんの真似は出来ないけど、動きはもう見えてるよ」ニヤッ
海未「っ!!?」ゾワッ
不敵にほほ笑んだ果南は再び距離を詰める
海未も応戦するも果南の動きが先ほどまでと明らかに違う
防戦一方だったのが一転、海未が防がなければならない攻撃が増えていった
それどころか海未の身体をかする攻撃もあった
海未(馬鹿な!? いくらなんでもこれ程の成長速度はあり得ない!?)
果南「秋葉原戦で海未さんの戦いを見てから、今この瞬間もずっとイメージしてたんだ! それに、運動神経だけは誰にも負けない自信があるからね!!」ドゴッ!
果南の攻撃が海未の手首に直撃
持っていたガンツソードは空中に放り出され遠くの地面に突き刺さる
果南「さて、これで一刀流になったわけだけど…取りに行く?」
海未「必要ありません。二本が一本になったところで私の強さに変わりありませんから」カチャ
果南「そっか。弱くなるんじゃないならいいか。でも、次で決めるよ」カチャ
海未「ほう…舐められたものですね」
果南「私はまだ死ぬわけにはいかない……ここで海未さんを倒してみんなに会わなきゃいけないからね」
海未「………」
果南「――だから、ここで死んで!!」ダッ!
両者は駆け出す
防ぐ事など考えていない
自分が出せる最大の一太刀を先に当てた方が勝つ
海未と果南は、ほぼ同時に刀を振り下ろす
必殺の一撃をスーツに受けたのは――
海未「…お見事です」キュウゥゥゥゥン
膝から崩れ落ちる海未
果南は後ろから海未の首筋に刀の刃を当てる
果南「動かないで。手に持ってるガンツソードの刃を引っ込めてから渡して。その後ゆっくりとこっちを向いて」
海未は素直に従い、武器を渡し果南の方を向いた
どんな表情をしているか興味のあった果南だったが
予想に反し、海未は取り乱すどころか冷静に果南の目を見つめていた
果南「うーん…意外だな。負けるなんてちっとも思っていなかったはずだったのに、まさかの敗北。少なくとも動揺してると思ってたのに」
海未「えぇ。あなたの成長速度には驚きましたが、私の実力なら負ける事は無かった…」
果南「だね。私の実力を評価したくせに、自分は最後まで本気で戦わなかった…真剣勝負で慢心するなんて最低じゃない?」
海未「耳が痛いですね…そのせいで殺されるんですからとんだ大バカ者です」
果南「………」
海未「どうしました? トドメを刺さないのですか?」
果南「…本当に手を抜いたの? あなたほどの人が命懸けの戦いで慢心するなんてあり得ない。理由を教えて欲しい」
果南にはどうしても理解できなかった
自分の身体能力には絶対的な自身はある
だとしても、長年戦い続けていた海未をこうもあっさりと倒してしまった
手加減する理由など何処にも無い
体調が悪かったのか? ケガをしていたのか? どうしても理由が知りたかった
そんな問いかけに海未は申し訳なさそうな表情で答えた
海未「そうですね…今まで怪物や人型の星人とは何度も戦い、倒してきました。しかし、今回のように人間と戦うのは初めてでしてね。負ければ殺される事など分かり切っていましたが……どうしても刃を向ける事を躊躇ってしまいました」
果南「……っ、くだらない。勝負を舐めているとしか思えないよ!」
海未「全くです…これでは穂乃果達に顔向けできません」
果南「だったら醜くても最後まで足掻いて見せなよ。どうして生き残ろうとしない!?」
海未「…どうしてですかね。自分でも不思議なくらいです…死にたくない気持ちは確かにあります。ただ、どんなに考えてもこの状況を打開する作戦が思いつきません。打つ手なしなんですよ」
果南「………」
海未「――…ですから、ひと思いに殺して下さい。お願いしますね」ニコ
果南「そっか…なら、お望み通りにしてあげる」カチャ
海未(穂乃果、ことり、皆さん…申し訳ありま――)
――グシャッ!!!
~~~~~~
曜「あの後、穂乃果さんとはお話出来ましたか?」
ことり「うん、おかげで穂乃果ちゃんが今まで隠してきた事とかも訊けたよ」
曜「…そうですか。良かったですね」ニコ
ことり「それで…私達も決着をつけなくちゃいけないんだよね」
曜「その必要はありませんよ。勝負ならもうついてます」
ことり「っ!?」
曜「ああ、構えないでいいですよ。ほら、私のスーツをよく見てください」
ことり「え……何でもう壊れているの?」
曜「私に戦う意思はありません。千歌ちゃんと別れた後に自分で壊しました」
ことり「どうして? ガンツに戦う事を強制されているんじゃ…」
曜「まあ、好戦的じゃない子は人格をちょっといじられているみたいだけど、私は大丈夫でした。それにここで足止めするには戦うより会話の方が長く出来そうだからね」
ことり「そう? スーツが壊れているのが分かった瞬間にあなたを殺して屋上に行く可能性だってあると思うんだけど」
曜「じゃあ、私を殺して先に行く?」
ことり「……止めておく。無抵抗の女の子を撃ち殺すなんて後味が悪すぎるよ」
曜「ふふ、なら暫く私とお喋りしてもらおうかな」
~~~~~~
~東宝ビル 屋上~
穂乃果「――…久しぶり、なのかな? 一か月前に会った時より幼くなったね。千歌ちゃん」
千歌「一人で来てくれたんですね、高坂さん。あなたが会った私が誰だか分かりませんが久しぶりなのは間違いないですね」
穂乃果(間違いない。この千歌ちゃんは初めて会った時、三年前の姿。理由は分からないけど…)
千歌「あのミッションで高坂さんの戦いを見てからずーっと憧れていた。高坂さんみたいになりたい、その一心で以降のミッションに参加し続けた。まあ、色々あって解放を選んでしまいましたが」
穂乃果「憧れ…ねぇ。一対一になりたかった理由は何? まさかお喋りしたかっただけ、なんて言わないよね?」
千歌「――…同じスーツを着た人間と、ましてや高坂さんと戦える機会なんてこれを逃したら二度と来ない。それに私達のメンバーであなたと渡り合えるのは私だけだ」
――ピピピ
穂乃果「……ちょっとごめん。通信が入った」
千歌「そう。分かったよ」
穂乃果「どうしたの?」
真姫『全員聞こえる!? 凛がやられた!!』
穂乃果「!?」
真姫『今止血してるけど…出血が多すぎる。このままじゃ死んじゃう!!』
絵里『凛は自分が戦っていた相手に負けたの?』
真姫『いいえ、背後から別の人間に倒された。メンバーの誰かが既にやられた可能性が高い…今オフラインなのは希、花陽、海未だけど、どうなってるの!?』
にこ『希は無事よ。私達の相手は二人共無力化した』
絵里『花陽は今戦闘中よ。私の相手も無力化済み』
穂乃果「って事は……やられたのは海未ちゃん?」ゾワッ
ことり『そんな…海未ちゃんが負けた……!?』
にこ『私達は海未が向かった場所に向かう!!』
真姫『任せた。レーダーによれば敵は絵里と花陽の場所に向かっている。気を付けて!!』
千歌「通信は終わりましたか?」
穂乃果「…うん。待たせたね」
千歌「表情が暗くなった…悪い知らせだったみたいですねぇ」ニヤッ
穂乃果「そうだよ…仲間が危機なんだ。悪いけど急いで終わらせなきゃいけなくなった」
千歌「本気で戦ってくれるって事ですよね? それなら何だっていいですよ」
穂乃果「手加減は一切なしだ。気絶で済ませようと思っていたけど、そんな余裕は無い。うっかり殺しちゃっても文句言わないでね?」カチャ
千歌「そう来なくっちゃね! さぁ、行くよ!!!」
今、東京チームと沼津チームの両リーダーが激突する――
~~~~~~
花陽「………」ギロッ
梨子「フゥー…フゥー……はは、本当にあなた花陽さんですか? 別人みたいに強いじゃないですか」
花陽と梨子の戦闘は終盤に差し掛かっていた
楽に勝てるとは全く思っていなかった
最低でもスーツの無力化までは追い詰められると踏んでいた
しかし、実際には手も足も出なかった
梨子の斬撃は全て見切られ、防がれた
花陽「海未ちゃんに剣術を直々に教わりましたから。梨子ちゃんじゃもう相手になりません!!」
梨子「剣には自信があったんだけどな。花陽さんがここまで強くなっていたのは予想外」
花陽「…いつまでも守られているだけの私じゃない。足手まといだった“小泉 花陽”は、あの時にもう死んだんです」
花陽「トドメです。悪く思わないでくださいね!!」ヒュン!
息を切らし、その場に立ち尽くす梨子へ斬りかかる
花陽は勝利を確信したが――
「――…させると思う!!!」
花陽「っ!?」ガキン!
梨子「か…果南さん!? 勝ったんですね!」
花陽「くっ…一体誰が負けたの!?」
絵里「花陽!!」
花陽「絵里ちゃん? どうしたの!?」
絵里「そいつは海未と凛を倒した! 気を付けて!!」
花陽「……凛ちゃんが…やられ……た?」
絵里「今終わらせれば間に合う可能性がある。私も一緒に戦うから急いで倒しましょう!!」
果南「簡単に言ってくれるね? 悪いけど相当強いよ、私」
花陽「………」
絵里「花陽、しっかりしなさい。動揺している場合じゃ――」
花陽「大丈夫だよ…私は落ち着いている。見た所二人はどちらも近距離型、私が相手をするから絵里ちゃんは後方から狙撃して」
絵里「了解よ」カチャ
最初に仕掛けたのは果南だった
両手に握る刀で花陽に斬り込む
これを防ぐが、時間差で梨子も攻撃に加わってきた
二人のコンビネーションはそれ程よくは無いが
ジリジリと花陽を追い詰めていく
絵里も援護に入りたいが、巧みな位置取りで狙いが定まらない
絵里(この! 動きが巧い。私の腕じゃ、けん制するだけで精一杯でダメージを与えられない…)ギョーン!ギョーン!
花陽「あなたの剣筋…海未ちゃんと似てますね。もう自分のモノにしたのですか!?」キンッ!キンッ!
果南「まあね! でも完全に同じじゃない。参考にしているだけだよ!!」ブンッ!
梨子「ふっ!」シュッ!
花陽「きゃっ!!」ドゴッ!
捌ききれなくなってきた斬撃が花陽のスーツにダメージを与える
徐々に攻撃を受ける回数も多くなっている
絵里「このままじゃ危ない…私も加わるわ!!」
花陽「来ちゃダメ!!」
絵里「!?」
花陽「刀持ち相手じゃ、絵里ちゃんは相性が悪い。絵里ちゃんはそのまま銃でけん制していて!!」
絵里「でもそれじゃ、花陽がやられるでしょ!? 一人で無理する場面じゃない!!」
果南「喋る余裕なんかないでしょ!!」ズバッ!
花陽「っ!!?」キュウゥゥゥゥン
梨子「ッ! もらったあああ!!」
ついに花陽のスーツが壊れた
梨子がトドメの一太刀を振りかざす
花陽はギリギリかわしつつ、すれ違いざまに腹部へ斬り付けた
この一撃で梨子のスーツも機能を停止した
梨子「くっ…流石に耐えられなかったか」ギリッ
果南「お手柄だよ! これであの金髪の子だけだ」
花陽「ハァ……ハァ…」カチャ
絵里「花陽!? もう下がりなさい!! 次に攻撃を受けたら――」
果南「逃がすと思う? このまま殺すよ!!」ダッ!
花陽(マズイ、スーツのアシスト無しじゃ防げない! 致命傷だけは避けないと!?)
絵里「花陽おおおおお!!!!」
――ガキン!!
果南「んな!?」
「これ以上メンバーは傷つけさせない…絶対にね!!」
花陽「こ……ことりちゃん!!」
ことり「遅くなってごめんね? 間に合ったみたいで良かったぁ」フゥ
果南「また一人増えたか…何人だろうが相手してやる!!」
ことり「周りが見えていないみたいだね? 仲間の心配はしなくていいの?」
梨子「ぎゃあああああぁぁぁ!!!」バンッ!
果南「梨子!?」ゾワッ
絵里による狙撃で梨子の右腕が弾け飛んだ
想像を絶する痛みが梨子を襲う
果南「このっ!! よくも梨子を!!! 絶対にぶっ殺して――…っ!?」キュウゥゥゥゥン
ことり「もう、あなたの負けだよ。大人しく降参してくれれば命までは奪わない」
果南「どうして!? まだ攻撃は受けていないハズなのに!!?」
真姫「――…間抜けね。そんな場所で突っ立っているなんて、どうぞ撃ってくださいって言っているものじゃない」
果南のスーツを壊したのは、ことりでも絵里でもない
今戦っている地点の50m後方の屋上にいる真姫である
正確に三発の銃弾を当て、見事破壊に成功した
花陽「もういいでしょう? これ以上無駄な血は流したくないの。だから……」
果南「ふざけるな……こんな所で負けてたまるかあああ!!!」ダッ!
スーツが壊れてもなお、果南は花陽へ襲い掛かる
しかし花陽はその場から動こうとはしなかった
そして、その表情はとても悲しみに満ちていた――
果南「がああ!?……あがああああぁぁぁ!!!!」ブシュウウゥゥ
真姫による狙撃で果南の左腕が破裂する
激痛でその場に跪くがすぐに立ち上がり向かってくる
果南「ぐうぅぅぅ……! まだ…まだ……戦える…ぞおおお!!」フラフラ
傷口からは滝のように血が噴き出している
立ち上がるどころか、意識を保っているのが不思議なくらいに
花陽「どうして……そんなになってでも戦おうとするの!?」
果南「ハァ…くはぁ……それが…私の役目…だからだ……一人でも…多く、お前たちを殺す……その為に…ここにいる!!」
ことり「そんな…あんまりだよ……」
絵里「いくらデータから生み出したコピーだからって…人間にここまでやらせるの!!?」ギリッ
果南は歩みを止めない
いつの間にか手を伸ばせば届くくらいの距離まで近づいていた
果南「殺す……絶対…にぃぃ……殺………殺して……お願い」ジワッ
果南の悲痛な叫びは花陽にだけ届いた
もう彼女にしてやれる事は一つしか残されてはいなかった
花陽「……分かりました。今、楽にしてあげますね」ヒュン!
――グシャ!!
~~~~~~
戦闘は一方的だった
いや、もはや戦闘と呼べるものでは無い
“赤子の手をひねる”とはまさにこの事だろう
千歌がXガンで攻撃しようとすれば、同じXガンで破壊され
ガンツソードで攻撃すれば、同じ武器で弾き飛ばされ
スーツによる格闘戦に持ち込めば、一方的に殴られ投げ飛ばされた
今は仰向けに倒れている千歌に馬乗りになっている状況である
千歌「ヒュー…ヒュー……なんで…なんで通じないの!!」
穂乃果「確かに中学生にしては強いよ。動きや技のキレは才能を感じた。私の動きを参考にしたみたいだね」
千歌「………」
穂乃果「でもね、全部私の下位互換なんだよ。格闘も剣術も射撃も。よくそんなんで私に挑もうと思えたね? 十年早いんだよ」
千歌「っ!!」
穂乃果「…あなたは、あの時の千歌ちゃんとは別人だね。足りない技術をガンツに無理やりインプットされた。前の千歌ちゃんの方がよっぽど強かったよ」
千歌「そっか…下位互換かぁ」
穂乃果「あなたに言っても仕方ないとは思うけど……人の命で弄ぶのもいい加減にしなよ! 何の為にこんな戦いをしなくちゃいけないんだ!!」
千歌「……何ででしょうね。私も知りたいですよ」
穂乃果「…そう」
千歌「さあ、早く壊してください。そうすればこのミッションも終了です」
穂乃果「分かってる。じゃあ、行くよ――」
――ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!ギョーン!
穂乃果「何!?」キュウゥゥゥゥン
千歌「え?」キュウゥゥゥゥン
何者かの狙撃により二人のスーツは同時に壊れた
発砲音のした方向を見るとそこには――
曜「――…穂乃果さん、千歌ちゃんから離れて下さい」カチャ
穂乃果「曜ちゃん!? ことりちゃんが相手をしているはずじゃ!?」
曜「ことりさんなら増援に向かいましたよ。私のスーツは最初から壊していましたし、戦う意思も見せませんでしたから」
穂乃果「どうするつもり? なんで撃ち続けて私を殺さなかったの?」
曜「……私は、人を殺したくない。千歌ちゃんから離れてくれさえすれば――」
――ジジジジジ
千歌「っ!? 転送が始まった!」
曜「んな!? 今すぐ千歌ちゃんから離れろ!!」カチャ
穂乃果「ええ!? そんな事言われてももう転送が……って、これはマズイ!!?」
千歌「へ?」
曜「千歌ちゃん!!?」
~~~~~~
~ガンツの部屋~
希「――海未ちゃんは…亡くなっていたよ。綺麗に首を落とされていた」
ことり「信じられない…あの海未ちゃんがっ!?」ジワッ
絵里「……海未」ギリッ
花陽「……凛ちゃんは…どうなったの?」
真姫「………っ」
にこ「真姫が応急処置をしたのよ? 凛がこんな所でくたばる人間じゃない。信じて待ちましょう」
真姫「…いいえ、正直に言うわ。凛は背中を左肩から右腰に掛けて斬られていた。あの時止血したって言ったけど、多分あの深さじゃ剣先が心臓に達していたと思う……だから凛は………」ジワッ
花陽「いいんだよ。真姫ちゃんは悪くない。今回は運が悪かっただけ…それに、まだ生き返るチャンスは残っているからね」
真姫「ごめんなさい……本当にごめんなさい…」ポロポロ
――ジジジジジ
絵里「帰ってきたわね。穂乃果は無事で何よりね」
希「ん? 直前まで何かに乗ってたんか。妙な体勢やん……ね、ええ!?」ゾワッ
千歌「………」グッタリ
ことり「どういう事!? どうしてその子も一緒に転送されているの!?」
にこ「その顔、間違いなく今回のメインターゲットの“高海 千歌”じゃない!! まさか…まだ終わっていないってわけ!?」カチャ
絵里「意識が無いうちに殺す!!」カチャ
穂乃果「ストップ、ストップ!! 大丈夫だから。ミッションも終わっているし千歌ちゃんも襲ってこないよ」
絵里「どうしてそう断言できるの!? さっきまで私達を殺そうとしてきたメンバーの一人なのよ!!」
花陽「絵里ちゃん、落ち着いて。この部屋に転送された時点でそれはリセットされているの。もし、緊急ミッション中の人格のままだったら絵里ちゃん達も“あの時”穂乃果ちゃんに襲い掛かっているよ?」
絵里「は? 意味が分からないのだけど…」
真姫「絵里も以前、今と同じような方法でこの部屋に来たのよ。絵里だけじゃない、海未とことりも一緒にね」
ことり「……あ、思い出した。ミッションが始まる前に引っかかっていたのってこの事だったのか」
絵里「どういう事なの? 詳しく説明して!」
穂乃果「――…私が前に緊急ミッションでμ’sのメンバーと戦ったって話したよね。全員を無力化して転送が始まった時に、ふと思ったの。この転送中に今倒れているメンバーに触れていればどうなるんだろうってね」
にこ「転送中に持っているモノは一緒に転送される……」
穂乃果「そう。その仕組みが人にも適用されるんじゃないかって考えたの。だから近くにいた三人に触れたままでいたら、予想通り成功。しかもミッションの記憶は消されていて人格も戻っていたんだよ」
希「なるほど、このミッションにだけ使えるメンバー再生の裏技みたいなものか」
真姫「でも…今回は絵里達を連れてきたのとは訳が違う。あなたはとんでもない事をしたのよ」
穂乃果「……うん」
花陽「とんでもない事?」
真姫「連れてきたこの子、本来は沼津チームの子なのよね? 秋葉原のミッションでこの子は死んだの?」
ことり「……死んでない。重症は負っていたけど転送されているのを見たよ!」
真姫「時間経過からみて、あの時一緒に戦っていたのは高校生になったこの子。しかも、まだ生きているとなると……」
希「同じ人間が二人いるって事になる…」
真姫「さらに姿は三年前っておまけ付き。この世界に存在してはいけない人間が誕生したってわけね」
にこ「…どっちの千歌にとっても迷惑な事よね。面倒な事になる前に始末するべきよ」
穂乃果「え!? 本気で言ってるの!!?」
真姫「にこちゃんの言う通りよ。このまま生かしても不幸になるだけ。意識のない今しかチャンスは無い!」
希「人を……人殺しをするって言うんか!? 真姫ちゃん、にこっち!!!」
にこ「こいつは人じゃない、人の姿をした“偽物”よ!! この子の為にもこの時代に生かしておくわけにはいかない。だから――」
ことり「――…いい加減にして!!!!!!!」
にこ「っ!?」ビクッ!
穂乃果「ことり……ちゃん?」
ことり「いくら何でも、言っていい事と悪い事があるよ。この千歌ちゃんが偽物だって言うなら、同じ方法で再生された私や海未ちゃん、絵里ちゃんも偽物だって言うの?」
にこ「そ……それは…」
ことり「何が正しいかは分からない。けど、今千歌ちゃんの命を奪うのは間違ってる! 絶対にやらせないよ…」ギロッ
にこ「このっ…!」ギロッ
絵里「ちょっ…止めなさい二人とも!!」アセアセ
真姫「じゃあどうするの? 帰る家も無い、学校にも通えない、この子の知人にも知られてはいけない、その他諸々の問題を抱えた子を一生養うつもり? この子を生かすって事はそういう事よ」
ことり「………っ」ギリッ
千歌「――ん……んん…あれ? ここは……どこ?」
穂乃果「…気が付いたみたいだね。ここは東京だよ。どこまで覚えている?」
千歌「ほえ? 穂乃果さん!? あれ…確か100点を取って、それから解放されて……っていうか、穂乃果さん大人っぽくなりました?」
穂乃果「……千歌ちゃん、落ち着いてこれから話すことをよく聞いて。あなたの身に何が起こった、詳しく説明するから――」
――――――
――――
――
千歌「……じゃあ、私は後から再生された“二人目”って事なの…?」
穂乃果「……うん。高校生になった千歌ちゃんが今も生きてるよ」
千歌「なら……私は…私は………」ウツムキ
穂乃果「千歌ちゃん…あのね――」
千歌「…………――ないでよ」ボソッ
穂乃果「え?」
千歌「――…ふざけないでよ!!! 私の命を何だと思ってるんだよ!!!!」
千歌「何なんだよ…三年後の世界とか、もう一人いるとか……納得出来るはず無いししたくもないよ!! このっ!!」ダッ!
穂乃果「待って! どこに行くの!?」タッタッタッ
絵里「出て行っちゃった…ドアが開くって事は採点は無いのね」
にこ「凛と海未の再生は次回か」
花陽「………」
ことり「ちょっと…千歌ちゃんの事はどうするの!? 飛び出して行っちゃったんだよ!?」
にこ「…別にどうもしないわ。私には関係ない」
真姫「気の毒だけど今回ばかりはどうしようもない。穂乃果が責任を取るしかないわね。……まあ、力を貸してほしいって頼まれたらその時は考えるけど」
絵里「現実的に厳しいのは確かよね……」
ことり「どうして…どうしてそんなに冷たいの……?」ジワッ
花陽「…あれ? 希ちゃんはどこ?」キョロキョロ
~~~~~~
千歌「はぁ、はぁ、はぁ」タッタッタッ
穂乃果「待ってってば! どこに行くの!?」ガシッ
千歌「放してよ!!」バッ!
穂乃果「…っ!!」
千歌「どこに行くかなんて決まってる、内浦に…私の家に帰るんですよ!!」
穂乃果「帰ってどうするの? そこに“千歌ちゃん”はもういるんだよ」
千歌「じ、事情を説明すれば大丈夫だよ。“私”だったらきっと理解してくれるし受け入れてくれる!」
穂乃果「…家族のみんなは? 友達は? ガンツの事情を伝えられない人にはどうやって説明するつもり?」
千歌「……っ!? うるさいんだよ!! だったらどうしろって言うのさ!? そもそも、あんたのミスでこんな事になったんだ!! どうして……どうして私がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ!!!!」ポロポロ
穂乃果「………っ」ギリッ
希「――…その辺にしとき」
穂乃果「の、希ちゃん……」
希「いきなりこんな状況になってしもうたんや、誰だって取り乱す。今は落ち着く時間と場所が必要だと思うん」
千歌「落ち着く場所? そんな場所なんて……」
希「暫くの間、私の家においで?」
千歌「え?」
穂乃果「それはダメだよ! これは私の責任なんだから、千歌ちゃんは私の家で……」
希「どうやって親御さんと雪穂ちゃんに説明するん? 最終的には穂乃果ちゃんに任せるけど、準備が出来るまではウチが面倒をみるよ。一人暮らしのウチなら何も問題無いからね」
千歌「ちょっと! 何勝手に決めてるのさ!! 私は別に……」
希「千歌ちゃんも今は実家に帰らない方がいいと思う。そもそもこんな時間に電車は動いてないし、中学生がウロウロしてたら補導されてまうよ。警察に捕まったら余計に面倒な事になりかねないしね」
千歌「くぅ……」
希「穂乃果ちゃんもそれでええ?」
穂乃果「うん…ごめんね? すぐに何とかするから、千歌ちゃんをお願い」
希「はいよ。ほな千歌ちゃん、帰ろうか――」
――Part4へ続く
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