文枝・まみ「新婚さん、いらっしゃーーい」
映画「君の名は。」は、一応、最後に二人が出会って幕を下ろしましたが…そのあとゴールインして、「あの」番組に出たとしたら…をちょっとした妄想込みこみで書いてみました。
今回はシリアス面ほぼなしですのでご容赦をw
長寿番組の一角でもある「新婚さんいらっしゃい」。新婚さんを二組呼び、トークを繰り広げるスタイルは開始当初から変わっていない。
そこに、奇跡の出会いをしたあの二人が見事ゴールインして、番組に登場したとしたら…
版管理
2017.3.26 初版上梓。4048字。
2022.5.9 句読点など装丁面での改修と、一部文言の修正。4060字。
2024.4.28 一部修正漏れを解消。製作完了。4110字。
文枝 「それでは、今日二組目の入場です。新婚さん…」
文枝・まみ 「いらっしゃーーい」
(ジングルが流れる中、手をつないだ三葉と瀧が入場する/場内拍手と同時にどよめきが)
文枝 「会場の皆さんがうらやむような美男美女の登場ですなぁ。では自己紹介を」
瀧 「えー、立花 瀧 24歳 会社員です」
三葉 「立花 三葉 27歳です」
文枝 「ようこそおいでいただきました。それにしても姉さん女房とは珍しいですね」
瀧 「ええ、ちょっとよく、言われますね」
文枝 「まあ、瀧さん?もかっこいいですが、ミツバさん?でしたっけ」(会場笑い)
三葉 「みつはです、み・つ・は!!(少し怒りながら)」
文枝 「ああ、ごめんなさい。三葉さんもものすっごい別嬪さんですなぁ」
三葉 「えへ?そ、そうですかぁ(照れる)」
文枝 「あらら、本気で思っておいでやわ」(爆笑)
文枝 「まあお決まり、と言っては何ですが、お二人が知り合うきっかけはどんなことなんでしょうか」
三葉 「それなんですけど……」
文枝 「どうかしましたか?」
三葉 「実は、並走する電車の中で彼を見つけて……」
瀧 「彼女を見つけて「このひとだっ」って思ったのがきっかけなんですよ」
(会場、ざわつく)
まみ 「それって、ひとめぼれっていいません?」
(この一言で場内失笑が漏れる)
瀧 「いや、そういわれるとそうかもしれないんですけど……」
三葉 「でも私たち、どこかでお互いを知っているような、そしてこの人を探しているような感覚をずっと持っていたんです」
文枝 「ほほぅ。じゃあ、幼馴染だったとか、そういうのでもない?」
瀧 「はい。だいたい三葉とはそもそもそんなに接点がなかったですから」
文枝 「というと?」
三葉 「実は私、糸守町出身なんです」
(ここで会場、おおぉ、という感心とも同情とも受け取れる声に満たされる)
文枝 「イトモリ……ああ。あの隕石の落ちた……それは大変でしたなぁ」
三葉 「そうなんです」
文枝 「その時って、いくつの時でしたか?」
三葉 「私が高校2年生の時でしたから……17歳、ですか」
文枝 「花も恥じらう乙女だったわけですねぇ」(場内苦笑)
三葉 「それでも年に一回は主役になれるときがあったんです」
文枝 「ほほう、それは?」
三葉 「実は、神社の神職の娘でして、それで年に一回、舞いを踊って五穀豊穣とかを祈願するんです」
文枝 「ということは、巫女さん、みたいな役割?」
三葉 「まあ、そうなりますね」
文枝 「あ、写真が残っている?!どれどれ……」
2013年9月の奉納の舞いが画像として結構大写しのボードで提示される。会場、可憐な高校生の三葉に息をのむ。
文枝 「なんなんですか、この清楚で可憐な白装束……」(ボードのそばまで行き舌なめずりをするように見惚れる)
まみ 「そこのオヤジ、変なことになってるぞ」(会場爆笑)
文枝 「いや、でもお美しい……本当に見とれてしまいましたよ」
まみ 「お隣でいるのが?」
三葉 「はい、妹の四葉です」
まみ 「(文枝がボードから目を離さないので)あの、気が散るので、ボード片付けてもらってもいいですかね?」(爆笑)
文枝 「いやあ、良いものを見させてもらいました。神職で巫女さん、しかもこんな別嬪さんなら、神様が惚れてまいますな」(会場、爆笑)
文枝 「そこを瀧さんが横恋慕したと……」(さらに爆笑)
瀧 「い、いゃ、違いますよぉ」
文枝 「ああ。そもそも彼女が巫女だったのかどうかも知らない状態だったんですよね」
まみ 「でも、巫女のお仕事って、大変なんでしょ?」
三葉 「うちの神社の場合は、組紐を作ったり、年末年始の初もうでの時のおみくじの販売とかが主でした。集落も小さかったので、楽な方ではないかと」
文枝 「ということは、今は神職に関することは?」
三葉 「私が長女なので本来なら私が継がないといけないのですが、そもそも神社自体が今ないので、妹にすべてを任せてあります」
文枝 「ああ、そういうことでしたか。なるほどね」
文枝 「あの町から出てきてから、どうされたんですか?」
三葉 「町には高校もあったんですが、あの時ちょうど高2でしたので、市内のほかの高校に編入してもらって何とか通学はしました」
文枝 「それから?」
三葉 「卒業したら上京しようとは思っていたんで、即座に上京しました」
文枝 「でも、見ず知らずの土地柄だし、ちょっとは苦労したんじゃありませんか?方角とか、ビルの多さとか」
三葉 「そりゃぁ、最初はもう右も左もわかりませんし。訛りとかも出ちゃうし、散々でしたね」
文枝 「……いや、三葉さん、一人でずぅっとしゃべっておいでですけど、彼の出番は、まだ先かな?」(会場爆笑)
三葉 「あ、ハ、そうでしたね。瀧くんと知り合ったのは……」
文枝 (かなり驚きながら)「たぁきくん!!ちょっと聞いたァ~~~?!」(古いギャグを交えるとさらに爆笑)
まみ 「え、二人ってそんな風に呼び合ってるんだぁ……」
瀧 「はい、俺は『三葉』で」
三葉 「私が『瀧くん』です」
文枝 「姉さん女房なのに呼び捨てなんだ……まあいいや、出会いのきっかけについて」
三葉 「はい。あれは、桜が咲いていたころだったんで、去年の春?だったかな。(瀧の方を覗き込む)」
瀧 「あ、そんな時期だったと思います。僕は取引先巡りをしようといつもと違う電車に乗っていて」
三葉 「私は、仕事場に向かっていつもの時間帯の電車に乗っていたんです」
文枝 「へぇ。ちょっとした運命のめぐりあわせを感じるねぇ。瀧くんがその時その電車に乗っていなかったら」
瀧 「……多分会えてないと思います」
文枝 「なぁるほど。で、その時どうやって会えたわけ?」
瀧 「文枝さんもご存知かと思うんですけど、東京って、違う路線の電車が並走している区間ってあるじゃないですか」
文枝 「たまぁに東京で電車に乗ったりするけど、お茶の水とか、そこらへんだよね」
瀧 「ぼくが乗っていたのは中央線の快速電車が走っている方で」
三葉 「私は、総武線につながる各駅停車の方に乗ってたんです」
文枝 「ほほぅ。あ、確かにあの区間って、外側が快速で、内側が各停、みたいな感じですよね」
文枝 「で、お互い見つけた時って、どんな感じでした?」
瀧 「いや、もう、心臓が飛び出しそうになりましたよ」
三葉 「まさか本当に探していた人に会えるなんて思ってもいませんでしたから」
文枝 「それから?」
瀧 「もうとにかく駅を飛び出しましたよ。でも相手がどこで下りるかなんてわからないから、そりゃ捜し歩きましたよ」
三葉 「私も駅を出て、とりあえず仕事場には遅れるって連絡して、彼を探しました」
文枝 「でも、それって雲をつかむような話でしょ?待ち合わせしているわけでもないし……」
瀧 「それでも、ぼくらは出会えたんです」
(会場、この話と、瀧の少し得意げな発言に感心する)
文枝 「普通は会えませんよ、普通は。僕らが別々の駅で降りて、待ち合わせ場所を決めないでどこかで会うなんて芸当、できると思う?」
まみ 「ぜったい無理。途中でくたびれて、携帯に連絡入れるわ」(爆笑)
文枝 「お互いが見知っていてもそんな状況なのに、赤の他人同士が、そんなことができるなんて……いや、本当にその出会いって奇跡そのものですね」
三葉 「もしかしたら、運命の糸って、本当にあるのかもしれませんけどね」
(そう言いながら、三葉は髪を結わえていた組紐をほどく)
三葉 「何か、この組紐が、私たちをムスビつけているような、そんなことをここ最近思うようになっているんです」
まみ 「結構きれいですね」
文枝 「組紐が二人を結びつける。まあ、あり得ない話でもないですしね」
瀧 「そう言えば、組紐って、俺も持っていたような記憶があるなぁ」
三葉 「そうなんだ」
瀧 「ていうか、大昔すぎて、忘れちゃったけどね」
文枝 「ハイハイ、そこ。勝手に話を進めない」(爆笑)
まみ 「出会った場所って覚えてます?」
瀧 「ええ。僕らが出会えた場所、それは……」
三葉 「須賀神社の階段なんです」
文枝 「神社の階段でね。巫女経験の彼女とイケメン男子がそんなところで出会う。ロマンチックですなぁ」
瀧 「これも何かの縁だろう、ということで、そこで神前式で結婚式も上げさせていただきました」
三葉 「私も大賛成でした。もともと巫女ですし」
文枝 「さすがに仏前式はないでしょうからな」(笑)
まみ 「でも時々お二人から"本当に探していた"とか、"お互いを知っている"とか言う話があるんですけど、本当に初対面?」
瀧 「そう言われて見ると……」
(瀧、三葉の方を見つめる/三葉も瀧の方を振り向く)
三葉 「無意識のうちに初恋の人を想像していたのかもしれませんね。来世は、瀧くんみたいなイケメン男子にしてくださぁい、なんてお願いしたくらいですし」
瀧 「俺みたいなんでよかったんだ」(笑)
三葉 「だから、瀧くんも私みたいな、清純派乙女を無意識のうちに望んでいたんじゃないかな、って思うんです」
瀧 「あ、あぁぁぁ(顔を赤らめながら)三葉を越える女性を俺は知らないよ」
文枝 「あのぅ……お話の途中で申し訳ないですが、ノロケは楽屋に帰ってからやってもらえませんかねぇ」(会場大爆笑)
瀧・三葉(声をそろえて) 「あ、どうもすみません」
文枝 「謝りの声までぴったり息があってますよ。ここまでのご夫婦ってなかなかないですよ」
まみ 「何か、凄い大物になりそうな予感すらしますね」
文枝 「いや全く。というわけで立花ご夫妻でした。末永くお幸せに」
場内拍手で、瀧・三葉は送り出される。
文枝 「いやぁ、それにしても並走する電車でお互いを感じ合う。運命めいたものを感じますねぇ」
まみ 「私もここにいるのを運命みたいに感じますわ」(爆笑)
一応の2作目となりました。
構想は今年に入ってからで、とりあえず彼らをムスビつけたかった、というのが第一。ああ、それなら番組に出てもらおうか、ということで着手しました。
とはいうものの、よくよく考えると、ラストシーンメインで構成しないといけないわけで、例えば高校生当時に「入れ替わってる?!」ということは二人の記憶の中にはないですし、せいぜい、お互いがお互いを探しているという感覚だけ。
なので、話を膨らませるのに大幅に苦労しました。
実際の番組は、一組10分前後あるのですが、私が演じてみると、わずか5分足らずwまあ、大人になってからの情報が少ないですからこれはこれで仕方ないですかね。
というわけでご精読いただきましてありがとうございました。
このSSへのコメント