2019-05-21 03:25:32 更新

概要




提督を辞めたがってる男の物語

各方面のネタを盛り込んでますので、許容出来る方のみお読み下さい。




前書き



初めまして、かむかむレモンといいます。
そうでない方は、いつも見て下さりありがとうございます。



今作は、Twitterでアンケートを取った結果に従い、ギャグ系SSとなっております。


殺伐とした雰囲気は無い予定ですので、軽い気持ちで見て頂ければ幸いです。













提督『だから辞めたいです』


元帥「は~(クソデカため息)」


提督『だ、だから、このままじゃ私の命が危ういのです!』


元帥「…何で?」


提督『何でって…か、艦娘ですよ!』


元帥「まーたそれか。今度は何だ」


提督『こ、此度は…あ、やばい!直ぐに掛け直します!』ガチャ


元帥「…アホくさ」ヤレヤレ











***












提督「くっ…は、入っていいぞ」アセアセ


大淀「失礼します。本日受領期限の書類を回収しに来ました」


提督「そ、その机に置いてあるやつだ」


大淀「了解です」ヨイショ


提督(くっ、大淀め…俺が元帥に報告してる時ばかり狙って来やがって…)


大淀「それでは、失礼しました」スタスタ


提督(お陰でまた報告し損ねた…俺はもう我慢の限界なんだ!)








提督(この鎮守府は危険過ぎる!俺は今すぐにでも提督を…海軍を辞めてやる!)








大淀「…よし!不備は無し!流石ですね」


大淀「これだけの量をちゃんと期限を守ってやり抜く…何てしっかりしたお方でしょうか…」ホワホワ


大淀「…そ、そうだ、お茶ぐらい淹れて差し上げましょう」コポポ


大淀『…俺のためにお茶を?ありがとう大淀。君は何て気の利く艦娘なんだ』低音


大淀「い、いえ、そんな…私はただ、提督のためを思って…///」


大淀『…結婚してくれ、大淀』低音


大淀「…なーんて、あるわけ無いよね…って、あらら!?」コポポ


大淀「やば、一人芝居してたらちょっと多めに…大丈夫かなぁ…」シュン









提督「くそっ、早く出てくれ…」プルルル


大淀「て、提督、また良いでしょうか」コンコン


提督「あ、ああ!」プツ


大淀「お、お茶をご用意しました」カタン


提督(…湯呑みいっぱいにお茶が入ってる…な、何だこれは嫌がらせか!?)


提督(そ、それともこれは警告なのか!?もしや、俺のしようとしてることは全て大淀に筒抜けなのか!?)


大淀「あ、あの、少し多くなってしまって、すいません」


提督(す、少しだと!?表面張力が張りかけてるんだぞ!?)


提督(くっ…仕方ない、今日はやめておくか…)


大淀「あ、あの…」


提督「ちょ、ちょっと熱いからね。少し冷ましてから飲むよ」


大淀「あ、ありがとうございます」ホッ


提督(畜生熱いぜ。だがゆっくり飲めば…)チビチビ


提督(…変な匂いはしない。どうやら毒の類は無いようだが…油断は出来ん)


大淀(ま、まさか私に気を遣った…?何て優しいお方なのでしょうか…)ジ-ン


提督(…俺は諦めんぞ。いつか必ず!俺はこの危険な鎮守府から出ていくんだ!)














恐怖の鎮守府













俺は艦娘から命を狙われている。


そう。俺は艦娘から命を狙われているんだ。大事な事だから二回言った。



着任当初から、今に至るまで、何度も俺は危険な目に遭ってきた。



そうだな、まずは俺がここに着任した時の事だ。






俺が提督として鎮守府に着任したのは数ヶ月前。元々海兵団にいた俺には縁がないと思っていたが、ある事で大きく運命が変わった。



苛烈を極める訓練の最中、俺は小人を見た。



幻かと思ったが、バテた俺の身体に登って遊んでいたのだ。



そいつをつまみ上げ、クルクルと振り回していたら、教官がそれを見ていたらしく、鬼気迫る顔で引っぱたかれた。



教官は俺がつまみ上げていた小人を手厚く保護していた。他の訓練兵は目を丸くしていた。俺もそうだった。



空を掴んでなにかしている俺と、目に見えない何かを宥めている教官。二人とも頭がおかしくなったのだと話していた。




だが違った。その小人は妖精と呼ばれる者で、誰にでも見えるやつじゃなかったらしい。



俺はわけも分からないまま、士官学校へと移された。この時は何となくラッキーだと思っていた。だって士官コースだからかなり高い地位が約束されたものだと思ったんだ。




それはある意味正しかったが、間違いでもあった。








色々あって無事士官学校を修了し、鎮守府へと着任する事となった。兵学校時代でかなり鍛えた身体、士官学校で叩き込まれた膨大な知識を以てすれば、きっとやり遂げられる、と元帥閣下から言われた。



…あの時は戦争の勝利だと思ってたけど、今だから分かる。提督としての毎日を生き延びられるという意味だったんだ。







俺が鎮守府に着き、執務室に入った時、一人の少女が出迎えてくれた。



特Ⅲ型駆逐艦、またの名も暁型駆逐艦四番艦、電だった。






電「あ、は、初めまして!」


提督「やあ、初めまして」


電「電と申します!あなたが司令官さんでよろしいのですね?これからよろしくお願いします、なのです!」ペコ


提督「よろしく頼む」


電「で、では、各施設の案内をするのです」ペラ


提督(メモかな?ふふ、子供らしいな)


電「えぇと、まず…ひゃっ!?」コテ







俺はまだその時は何も理解していなかった。



艦娘と、人間の違いを。







提督「おっと、気を付けぐほぉ!?」ドシ-ン






転びそうになった電を抱きとめようとしたら、俺は吹き飛ばされた。



何が起こったのか理解出来なかったが、激痛で意識を戻されたその時、俺は悟った。






艦娘はやばい、と。






電「はわわ!?だ、大丈夫ですか!?」


提督「(大丈夫じゃ)ないです…」ボソッ


電「し、司令官さーん!」ユサユサ







俺は着任初日から死にかけたのだ。五万馬力は伊達じゃなかった…












俺は半日寝ただけで復帰した。


確かに身体はかなり鍛えていたが、それでも死んで当然だと思ってた。



起きたら電と、二人の艦娘がいた。明石と大淀だったかな。




これが俺の初日の話だ。全く散々だった。







しばらく時が経ち、艦娘も増えてきたが、俺は電のアレがトラウマになってしまっていた。故にスキンシップは極力控え、つまづいても支えに入れなかった。



吹き飛んだ、と簡単に表したが、バトル漫画みたいに勢いよく吹っ飛ばされたんだ。そして俺は漫画の主人公みたいに勇敢になれなかった。人間だし、多少はね?




それでも積極的な艦娘はかなりいるわけだ。その一人として、夕立を挙げよう。



夕立は電とは違い、自分からスキンシップにくる子だ。抱きつかれると吹っ飛ばされる。








夕立「提督さーん!作戦成功っぽーい!」ピョ-ン


提督「あわわわ…ぐえぇ!」ドシ-ン


夕立「むふー!褒めて欲しいっぽい!」スリスリ


提督「よ、よくやった…な…」ガク


電「はにゃー!?司令官さんが気絶しちゃったのですー!」アタフタ







そして起きる時は医務室だ。知らない天井だ、と言うより最早こっちで起きた回数の方が早いぐらいだ。



この時大淀が艦娘全員に注意喚起していたが、艤装展開状態のみ艦の力が解放されるから、俺に関わる時のみ展開を解除するとか。



それなら鎮守府にいる時はずっと解除しとけよオラァン!と言いたい所だったが、戦時中だし敵がいつ攻め込んで来るか分からんし臨戦態勢は解かない方が望ましいとか言われちゃった。



また、何度も展開と解除を繰り返すと妖精にも負担が掛かるらしい。電灯のスイッチを繰り返して押されたら鬱陶しいのと同じで、妖精がストライキを起こすかもしれないとか言われたら何も言えなくなった。





国民の命も大事だけど俺の命も大事にして欲しい(切実)









大淀の注意喚起のお陰で医務室送りになる回数は減りつつあったが、完全ではなかった。



そこで、俺自身が更に打たれ強くなればいいと思い、執務を終わらせた後に自主トレを始めた。



給料の半分をトレーニング機材に費し、遠征で得た資材の運び込みを手伝ったりと、力仕事にも手を付け始めた。







でも国民の皆様ごめんね。俺はトレーニングしてもあんまり状況が改善されなかったよ。



ドラム缶とかクッソ重いのに潜水艦の子とか駆逐艦の子たちは軽々上げるんだもん。心が折れかけるよね。



変わったのは俺が更にムキムキになり、ストレスでハゲただけ。絶望したからスキンヘッドにしたよ。



とは言え元からかなり短かったし頭洗うのが楽になった。ポジティブシンキング。




後、鍛えても怪我するのは変わらなかった。何なら軍服がピチピチになって特注サイズを発注する羽目になった。勿論俺の給料から天引きだ。いやーキツいっす(素)




鎮守府は俺の身体と心、そしてお財布にダメージを与える恐ろしい場所だったのだ。










ムキムキハゲゴリラと化した俺は多少打たれ強くはなったが、あくまでそれは外部からのダメージの話だ。




今度は内部からのダメージの話として、磯風を挙げよう。




鎮守府には給糧艦として間宮と伊良湖が配属されている。料理めちゃくちゃ美味いし、美しいと可愛いが綺麗に組み合わさってて、正直どタイプ。



基本的に食堂から出ないから、俺は朝食、昼食、夜食の時間が楽しみとなった。飯が美味いとモチベも上がるんだよ。





ここまでなら提督やってて良かったと心底思うんだが、イレギュラーは発生するもんだ。









提督「今日の飯はなんだろな~」


磯風「…ん?司令、随分機嫌が良いみたいだな」


提督「え?磯風か。そりゃお前もうすぐ飯時だろ?」


磯風「司令は食事が好きなのか」


提督「まあね」


磯風「ふむ、それならこの磯風が軽食でも作ってやろう」


提督「ほー」


磯風「少し待っていてくれ」スタスタ







磯風は来て間もない頃から何故か俺に懐いてるようだった。言葉には多少の圧があるけど。



同じ駆逐隊の浦風とか飯は美味いから期待してたよ。この時はね。



数分後、磯風はその手に得体のしれない何かを持って戻ってきた。一目見て分かったよ、やべーやつだって。






磯風「司令、待たせたな」スッ


提督「え、何それは…(困惑)」


磯風「軽食だ」


提督「何作ったの…」


磯風「フライドポテトだ」グイ







それは、フライドポテトと呼ぶにはあまりにも大きすぎた。


大きく、丸く、そして大雑把過ぎた。


それは正しく消し炭だった。





恐らくじゃがいもをそのまま油に付けて揚げただけのやつだろう。そういったものもあるにはあるが、黒焦げになっていた。原型ないやん。



まだ新参の磯風が俺にこんなものを食わせようとは、恐ろしい子!ここは丁重にお断りしようかと思ったが、頑なに手を引っ込めなかった。






磯風「司令、食わないのか」


提督「い、いやそれ失敗作だろ…」


磯風「何だと?この磯風が失敗などするものか!」


提督「」


磯風「ええい、つべこべ言わず食べてくれ!」グイグイ


提督「もがっ!?」


磯風「そうだ、そのまま味わって…」








生まれて初めて炭を味わった。くっそ不味い。あとめちゃくちゃ硬い。



吐き出そうにも磯風に向かって、というのは絶対にしてはいけないと思い、虚ろな目で飲み込んだ。というより飲み込まされた。




口から鼻へと炭の匂いが漂ってくる。気持ち悪い。満面の笑みの磯風に俺は恐怖した。




懐いている素振りは嘘で、本当は俺を苦しませようとしてるんだ、と。






数時間後、案の定俺は体調を崩した。


真相を知った陽炎型の子たちは俺が寝てる医務室のベッドを囲いながら土下座していた。



磯風は簀巻きにして逆さ吊りの刑にしたらしい。意識が朦朧としつつもすぐにやめるよう言ったが、果たして陽炎はやってくれたのだろうか…



まあ過ぎた事だから分からんが、内臓は流石に鍛えようが無いから無理。





そんな訳で、楽しみにしていた食事が出来なかった挙句、寝込まされたという散々な目に遭った。










体調が戻った後に詳しい話を聞いたが、遠征で得た燃料で揚げたらしい。お前人のものを…(レ)



磯風は厨房出禁になったらしく、俺は一安心。また間宮さんと伊良湖さんの料理が食えるとウキウキだ。



だが俺はまた後悔する。間宮さんと伊良湖さんに医務室まで料理を持ってきて貰うんだった。




食堂では俺の回帰祝いと称し、飲兵衛たちが既に酒盛りをしていた。



俺はあまり強い方ではない上、病み上がりの身体で酒など飲みたくなかった。



だがそれを許すほど飲兵衛たちは素面じゃなかった。少しぐらいといい、お猪口を差し出してくる。



注がれるは焼酎、ウイスキー、ワイン、等々…







提督「…」


隼鷹「およ?どうした提督~、飲めないのかい?」ニシシ


那智「この那智の達磨…飲まんのか」グイ


千歳「取り寄せたワイン…お飲みにならないのですか?」ウルウル







綺麗な女性に酒を注がれるのは嬉しいけど混ぜないでくれ。これ絶対悪酔いする。



でも千歳必殺の女の涙に負けてしまった。男は涙に弱いって、はっきりわかったんだね。




ちびちび飲んでみる。色んな味が混ざりあってて正直不味い。アルコール特有の匂いが鼻につく。気持ち悪い。




お猪口に注がれた混合物を飲み終えた後に再び新しい酒を注がれた。やめてくれよ…




病み上がりに飲ませる量とは思えないぐらい注がれまくった。目の前が暗くなる。意識が朦朧とする。とにかく気持ち悪い。






電「な、何やってるのですかー!」ドタドタ


鳳翔「電ちゃん?いきなり走っちゃ…て、提督!?」







***








また知らない天井だ…って、本当に知らない天井だった。



周りを見ると、鎮守府じゃない…?






「…む、意識が戻りましたか」






白衣を着たおっさんが俺の顔を覗き込む。俺は何が何だか分からない。






事情を聞くと、急性アルコール中毒に陥ったらしい。





もうやだ、提督辞めたい。と本気で思うようになってきたのはこの辺りだ。










こんな目に遭っても何だかんだで復帰を果たしている。俺の身体が慣れてしまったのか、それとも…




まあそんなことはどっちでもよかった。俺はどうにかして提督を辞めようと考え始めた。





とりあえずダメ元で脱走してみる。昼休憩の時間に、こっそりと鎮守府を出てみた。




軍服だと少々目立つので、コートを羽織って人混みへと紛れていく。軍帽は勿論置いてった。




すれ違い様に見てくる人はいるものの、誰も声を掛けようとしない。当然と言えばそうなのだろうか、よく分からないが。



だが、そのお陰で俺は非常に助かっていた上に、心が安らいでいた。自由に歩き、あの恐ろしい鎮守府から遠ざかっていく素晴らしさを、心から満喫していた。




しばらく歩き、公園のベンチに座り込み、深呼吸する。海の匂いが薄まり、草花の匂いが鼻を満たす。リラックス効果が大き過ぎる。




ある程度貯金は貯まってるし、少しの間だけはこうした自由を享受してから次の職を探そうか、とも思い始めていた。



または、元帥なら他の職への斡旋をしてくれないかとも淡い期待を抱いていたりしたが、ここでそんな時間は終わりとなった。






提督「…ま、昼飯でも買ってまた考えるか」


早霜「司令官、それなら私がお弁当を…」


提督「お、いいね…ぇ!?」ビク


早霜「ど、どうしました」


提督「お、お前、いつの間に…」アセアセ


早霜「ず、ずっとついてきてましたけど」


提督「」







ここに来てまさかの事態。早霜が俺の脱走に気付いていた。更に尾行までするとは、恐ろしい子!



だが俺は何とか冷静さを保とうとしていた。俺はまだ鎮守府から脱走するとは一言も言ってないし、早霜への言い訳も立つ。



脳みそ筋肉みたいな見た目の俺が頭をフル回転させて、穏便且つ速やかにこの事態を処理する。






提督「…ずっととは、どこから?」


早霜「ええと、鎮守府から…」


提督「…何か俺に用でもあったのか?」


早霜「その、お昼ご飯のお誘いで…」


提督「…ならもっと早く声を掛ければ良かったじゃないか」


早霜「えと、声を掛けようとしたら、どこかに行こうとしてたので、何となく…」







何となくでここまでついてくるのか…?鎮守府からは割と離れてると思うんだが。



…って、よくよく考えたら素直に尾行してきましたなんて言うはずないよな。バカか俺は。



昼飯の為だけにここまでついてくるはずが無い。ダメ元とは言え、早霜は俺の計画に気付いていたという事だ。



まあ仕方ない。成功率はかなり小さいと踏んでいたので、次なる作戦を練るしかない。早霜に気付かれないようにな。







早霜「あ、あの、司令官?お弁当は…」


提督「…あ、ああ。食べるよ。ありがとう」


早霜(良かった…)ホッ


提督(…特に怪しい所は無さそうだ)モグモグ


早霜(いつも見ていた甲斐がありましたけど…もっと声を掛けないと…)


提督(…薬品らしいものは入ってないな)モグモグ


早霜(司令官は何をしにこんな所まで…お散歩でしょうか?)







***







提督「…ご馳走様」


早霜「お、お粗末さまでした…」モジモジ


提督(…一応全部食ったが…毒は無かったようだ)


早霜(全部食べてくれて良かった…)


提督「…さて」


早霜「あ…もう昼休憩が終わります。そろそろ戻りましょう」


提督「」







まあそうだよな。見つかっといて逃げ出せる訳ないわな。



俺は鎮守府へと戻されて、再び艦娘との命懸けのスキンシップに付き合わされる事になった。















恐怖の鎮守府:艦娘サイド







私、大淀はこの鎮守府で何人もの提督を見てきました。何人もの、とは言っても一ヶ月に一人辞めてはまた着任するといった状態でした。



お陰で出撃もままならず、艦娘とのコミュニケーションも取れず、ただ建造、ドロップされては放置という劣悪な環境になっていました。



そしてまた、一人提督がここに着任するらしい。また一ヶ月もすればやめて行くのでしょう。






ただ、今回来た提督は、他とは違うようでした。



妖精を視認出来る人が来たのだ。妖精が選ぶ人だから、必ず何かを成し遂げてくれる…そう淡い期待を胸の内にしまい、新たな提督が来るのを待っていました。





正面の門を見ると、一人の男が入ってきました。あれが、新たな提督…妖精が見える…




…ちょっと気になるから案内しつつ観察してみましょう。


















…どうやら入れ違いで見失ってしまいました。



すると、執務室の方から大きな音が聞こえてきました。



急いで向かうと、壁にめり込んだ提督と、パニック状態になった電ちゃんが見えました。



私は落胆しました。これは最短記録となってしまう、と。













と思っていたら、提督は無事に意識を取り戻したのです。回復力が強く、後遺症も何も無かったのです。



流石は妖精が選んだ人です。これはきっと、この鎮守府を変えてくれる人なんだなと思いました。








***








間宮「あ、初めまして。新しい提督さんですね?」


提督「あ、はい…」


間宮「私、給糧艦の間宮と言います」ペコ


伊良湖「お、同じく伊良湖です!」ペコ


提督「よ、よろしく」







私、間宮はこの時、また挨拶だけしてずっと食堂には来ないのだろうなと思ってました。



最初の一回は美味しそうに食べてくれたけど、それからパタンと来なくなって、気付いたら辞めちゃって、それが何度もありました。



諦めが入ってますが、私はめげません。何度も来てくれるようにお料理をもっと頑張ります。







それが、報われたのです。



今度の提督さんは、毎日来てくれました。とっても美味しそうに食べてくれて、私も嬉しいです。



でも、他の子たちが近くに座ろうとすると、必死に料理を完食して、逃げるように出ていっちゃいます。少し悲しいです…







伊良湖「あ、あのー、間宮さん?」


間宮「え?」


伊良湖「その、大淀さんから聞いた話なんですけど、提督さん、初日に大怪我してから苦手意識があるみたいで…」


間宮「お、大怪我?でも…」


伊良湖「そうなんですよ。全然健康そうに見えますよね?何でも妖精さんが見えるらしいですよ」


間宮「まあ…妖精さんが選んだのかしら」


伊良湖「妖精さんが関わってるのなら…今度の提督さんは、長く居てくれるかもしれませんね」











***










夕立「提督さん、構ってくれなくて寂しいっぽい」


時雨「提督もきっと忙しいんだよ」


電「そ、そうじゃなくて、電が司令官さんを突き飛ばしちゃって…うわーん!!」ビエ-


時雨「電は悪くないよ…事故だって」


夕立「むー、提督さんから来ないなら夕立から行くっぽい!」


電「そ、それはやめた方が…」


夕立「もうすぐ鎮守府に戻るから、遠征報告ついでに抱きついてやるっぽい!それなら提督さんも構ってくれるっぽい!」









そして…








夕立「ごめんなさい…」正座


大淀「いいですか、私たちが艤装を展開してる時は、艦の力をそのまま宿してる状態なんですから、艦艇が全速タックルしたようなものなんですよ!?」


夕立「あ、あれはタックルじゃ…」


大淀「言い訳無用!夕立さんに限らず、提督と交流を図る時は艤装展開を解除して下さい」


時雨「…でもそれだと殆どの子が提督の所に向かうと思うよ。それに緊急時なんか…」


大淀「その辺については調整しますが、非番の時のみとさせてもらいます」








夕立「…時雨、次の非番っていつっぽい?」


時雨「僕たちはしばらく遠征だよ」


夕立「…ぽいぃぃぃぃぃぃ!!」ビエ-









***









磯風「…浦風、聞きたい事がある」


浦風「んー?」


磯風「私はこの鎮守府に来てまだ間もない。故に司令についてはまだ分からん所が多い」


浦風「そうやねぇ、磯風はまだ一週間も経っとらんねぇ」


磯風「単刀直入に言おう。司令は男色なのか」


浦風「ぶっ、な、何じゃそれは…」


磯風「司令は私たち艦娘との接触を避けているように見えたからな。違うか?」


浦風「それだけで決めつけるんは早計じゃと思わんの?」


磯風「ふむ、確かにそうかもしれない」


浦風「…まあ、確かに避けとるとは思うなぁ。でも食堂には誰よりも早く行っとるような…」


磯風「…ふむ、司令は食いしん坊なのか」


浦風「んー、でも軽い物を作った時は美味しそうに食べてくれたけぇ」


磯風「何?いつ?」


浦風「磯風が着任するちょっと前の事じゃねぇ。あの無邪気な顔はぶち可愛かったけぇね」ニヨニヨ


磯風「…そうか、軽食か。ありがとう浦風」スタスタ











磯風「…とは言え、何から手をつけるべきか…」


提督「今日の飯はなんだろな~」


磯風「…ん?司令、随分機嫌が良いみたいだな」


提督「え?磯風か。そりゃお前もうすぐ飯時だろ?」


磯風「司令は食事が好きなのか」


提督「まあね」


磯風「ふむ、それならこの磯風が軽食でも作ってやろう」


提督「ほー」


磯風「少し待っていてくれ」スタスタ








磯風「…何を作ろうか…ん?あれは…馬鈴薯か」


磯風「軽い物…そうだ」


磯風「油は…そういえば燃料も油だったな」


磯風「…やってみるか」ドボン








その後、私は司令に軽食を振舞ったが、司令は倒れてしまった。



それから程なくして、陽炎姉さんたちが私に問い詰めてきた。浦風から話を聞いたらしい。



私は正直に答えたら、私は抗う間もなく簀巻きにされ、逆さ吊りにされてしまった。



どうやら、私の軽食が原因らしいが、どこに間違いがあった?



…わからんが、出来れば早めに下ろして欲しい。詳しい説明と、司令に謝罪しなければ。



頭に血が上ってきた。目眩がする…











***








隼鷹「提督が復帰したってよ」


鳳翔「まあ…それなら、お腹に優しいものを作って差し上げましょう」パタパタ


隼鷹「…鳳翔さんはああ言ってるけど、これは飲むチャンスじゃない?」


千歳「そういえば、先日注文したワイン、やっと届いたんですよ」


隼鷹「おお!こりゃ飲むしかないじゃん!那智も呼ぼーっと」スタスタ


千歳(気に入ってくれるかなぁ…)ホワホワ


千代田「…病み上がりの体にお酒ってどうなの?」


千歳「え?お、お酒は百薬の長って言うでしょ?」


千代田「…ま、いいけど。大淀さんに怒られないようにね」


千歳「だ、大丈夫。ちょっとだけだから」









そして…









鳳翔「復帰したばかりだと言うのに、急性アルコール中毒にさせるとはどういう事ですか!」


隼鷹「う、すんません…」


那智「返す言葉もない…」


千歳「申し訳ございません…」


鳳翔「あなたたちは当分飲酒禁止とします。既に大淀さんと電ちゃんが片付けをしていますので」


隼鷹「そ、そんなぁ!」


千歳(私は…何ということを…)ズ-ン


那智(私の達磨が…)ズ-ン









***










ここに、一人の駆逐艦がいる。名を早霜という艦娘だ。



早霜は早期にドロップし、鎮守府へ所属することとなった。故に提督の事情は熟知していた。



何でもそつなくこなす子だったが、何故か提督からはあまり印象に残らない子だった。








その理由は、目立たな過ぎて、影が薄かったからだった。







提督への報告に行こうにも、声の小ささで他の艦娘が向かってしまい、それを止めようにも聞こえないぐらいだった。



また、提督とのコミュニケーションを図ろうにも、ふとした事で怪我をさせるのではないか、と及び腰になってしまい、結局遠目から提督を見守るしかない、もどかしい日々を送っていたのだ。



だが早霜はそこでめげなかった。再び提督が復帰した際に、話だけでもしようと策を浮かばせた。



その中で、食事をしつつ会話をしようと思い、手作り弁当を用意して執務室へ向かおうとした。



昼休憩、自分は非番、これ程の条件が揃うことは無いと思っていたが、途中でどこかへ行こうとする提督を見かけた。



執務室ではなく、外へ出ようとしている提督に声を掛けようとしても、声が小さ過ぎて聞こえていない。



だが今回ばかりはそこで諦めなかった。早霜はどうにか提督に気付いて貰えるよう彼を追った。



離れ過ぎず、しかし弁当を食べつつ話せるような場所が見つかるまで気付かれぬよう、注意深く提督について行った。



道行く人たちは怪しくついて行く早霜を見ていたが、早霜はその視線に意識を割くことは無かった。



早霜の視線は常に提督の背中に向いていた。そして、ついて行く中で感情の一部に変化が起きた。



大きな背中、歩幅、コート越しでもわかる鍛えられた身体。



そして、3歩後ろとまで近くはないが、一定な距離を保ちつつ歩く自分。




早霜がその正体に気付くのはそう遠くない未来だが、それはまた別の話である。








しばらく歩くと、提督は公園に入った。早霜が弁当を振る舞いつつ、話が出来る場所として適していた。



提督が何か物思いに耽っている間に、早霜は声を掛けようと試みた。いつもより、少しでも声を大きくして、提督に聞こえるように。











その声は、提督に届いたのだ。提督は驚いていたが、差し出した弁当を全て平らげた。



会話という会話はあまりしていなかったが、早霜にとっては大きな一歩を踏み出していた。











だが、それに反して提督は更に怖気付いているとは、知る由もなかった。













危険な艦娘たち












しばらく時が経ったが、未だに俺は提督を辞められてない。早く辞めたい。自由になりたい。



色んな計画を立てても頓挫しまくってる。連続して失敗するとガン萎えする。



そんな萎びた俺の癒しは間宮さんと伊良湖さんと二人の作る料理と風呂の時間。給糧艦は天使だよほんと。



あと風呂とか言ったが実際は一人になれる時間だね。トイレとか寝室とかね。









でもここ最近その時間が失われつつある。スキンシップを求める艦娘が増えた為だ。



大淀の計らいで艤装解除状態の艦娘のみコミュニケーションを取りに来るようになったのはいいんだが、正直駆逐艦とか怖くて仕方ないんだよね。俺が怪我してる原因のほとんどが駆逐艦絡みだし。




艤装解除してる時は年相応で可愛いんだけど、近海で警報が鳴ると瞬時に艤装展開して海に向かう訳だが、そこで俺はとばっちりを受けて怪我してる。



艤装の一部に掠るだけでもえげつない痣が出来るし、振り返った時に髪が靡いて俺に当たると鞭で打たれたみたいなミミズ腫れが起こる。全身凶器とか怖すぎるッピ!




だが俺の怪我の治りが早すぎるのもよくよく考えたら怖い。人間の治癒速度を超えてるってそれ一番言われてるから。




癒しが…癒しが欲しい…








でも面と向かって言うのは抵抗がある。客観的に見てスキンヘッドムキムキゴリラが甘えるのってどうなのさ日向。



だが恥とかそんなの構ってられない。俺が提督を辞める前に心が壊れてしまう。そうなっては絶対に正常な判断が出来なくなる。とち狂って終身提督とかやりそう。それだけは絶対に避けたい。







そう思いつつ一晩頭を休めると、べつに艦娘に甘えなくてもいいじゃん?という結論に至った。



というわけで、俺は一日完全休養を取る事にした。どうせ外出ても艦娘に見つかって連れ戻されるし、それなら自室で一日引きこもってた方がいい。








***












自室の鍵を閉め、布団に寝転がる。身体から力を抜き、大の字で深呼吸する。




素晴らしい。何と心地良い気分な事か。視界にあるのは書類でも艦娘でもなく、自室の天井のみ。



一日休みが決まってる時のこの光景は何物にも変え難い、素晴らしいものなんだよ。リラックス効果が大き過ぎる。ダメになる。




だが今は何も考えたくない。俺は休むんだよ、来るべき時に備えて。




大きく欠伸をかき、そっと目を閉じる。真っ暗な世界が広がる。しばらくすれば瞼の裏はスクリーンのように、映像を映し出すだろう。




どんな映画が流れるのだろうか。支離滅裂な光景か、俺が切望している光景か、そのどちらでもない何か…いや、何でもいいや。




頭をしっかり休めて、俺は次なる計画を練る。いつの日か、自由になると信じて…










***









「提督?」





…何だ?誰かが俺を呼んでいる。






「提督、そのまま寝ていては風邪を引きますよ?」







…誰だ?いや、この声は…






提督「…誰だ」ウトウト


夕雲「私、ですよ提督」


提督「…は?」


夕雲「提督がお休みになると聞いたので、いても経ってもいられず来てしまいました」


提督「えぇ…(困惑)」


夕雲「寝てる間は身体が冷えやすいですから、少なくとも毛布を掛けて寝てくださいね。あと後頭部の負担を減らす為に僭越ながら膝枕をさせてもらいました」








目が覚めてきた所で周りを確認してみたが、確かに夕雲は俺に膝枕をしている。あと毛布も布団も掛けてあった。



本来なら感謝する所だが、何でこの子俺の部屋に入ってんの。俺鍵掛けたはずだよな?



扉の方を見るがこじ開けたような形跡は無い。普通に入ってきたのか。



…とすると鍵を開けた?誰が?夕雲か?それか他の誰か?マスターキー?



…いや待て待て、こんな事で頭を使うな。犯人探しはどうでもいい。提督を辞める計画を練る為の体力だ。




しかし、ここにきて夕雲が来たのは非常にまずいのだ。現在、俺に突っ込んで怪我させてくる艦娘より、夕雲を含む一部の艦娘の方が警戒すべきなのだから。




夕雲を始め、一部の艦娘は俺に世話を焼きたがる。別段それは構わないのだが、問題はタイミングだ。決まって俺が精神的に疲弊してる時が多いのだ。



そして、その時俺がされたら甘えてしまうような世話を的確にしてくるのだ。やめてくれよ…




世話を焼きたがる艦娘は他に雷、浦風、萩風、由良、能代、鹿島…辺りが挙げられる。本当はもう少しいるが、多くなぁい?




なんにせよ、俺が疲れて正常な判断がしにくい時ばかりに来るという事は、俺に計画を練らせない為であると踏んでいる。




反抗する気力を無くし、俺を辞めさせないようにしてるようだ。どんだけ俺を辞めさせたくないの君たち。







夕雲「提督?お腹は空いてませんか?」


提督「そうでもないっす」


夕雲「本当ですか?」


提督「マジっす」


夕雲「即答、ですか」


提督「う…」


夕雲「遠慮しなくていいんですよ?」ズイ


提督「してないっす」


夕雲「む、目を見て話して貰えません?」





目を見たら絶対嘘がバレる。腹減ってるけど夕雲のペースに流されたらダメになる。腹を鳴らすな、腹の内を悟られるな、しかしあまり邪険に扱うな…って、難し過ぎぃ!






提督「!」ギュルルル


夕雲「あら、やっぱりお腹が空いてたんですね」パァァ


提督「いや、これは…」


夕雲「やはりそうだったんですね!それでは軽食を用意しますね!」パァァ






胃袋が主を裏切り、欲望を満たすよう外に知らせてきた。空腹には勝てなかったよ…




夕雲は恍惚とした表情だ。くっ、全て計画通りという事か。こんな事なら休む前に馬鹿食いすりゃ良かった。



夕雲は俺の頭を丁重に枕に移し、軽食を持ち込むために部屋から出ようとしていた。俺も逃げ出そうとしたが、身体がまだ完全に醒めてないようだ。力があまり入らない。



夕雲が戻ってくるのにそう時間は掛からないだろう。それまでに部屋を脱出出来るか?いや違うだろ俺!出来る出来ないじゃなくてやるんだよ!







提督「んぐぐ…」ウトウト







よし、まだ眠気はあるが醒めてきた。これなら…




提督「…よし」ガチャ


雷「あら司令官!もう身体は大丈夫なの?」


提督「ファッ!?」


雷「どうしたの?疲れてるんでしょ?」


提督「そ、それは…」


雷「まだ疲れが残ってそうだから、マッサージしてあげるわ!」グイグイ


提督「ちょ」







俺は夕雲から逃れる事に集中し過ぎたのだ。そりゃそうだわな、動くのは夕雲だけじゃないよな。



ここで不覚にも雷と出くわしてしまった。艦娘の世話から逃れられない!








雷「司令官、どう?気持ちいい?」モミモミ


提督「くすぐったい」


雷「あら?じゃあ疲れてないのね」


提督「…まあな」


雷「司令官の身体って思ったより柔らかいわ!筋肉ってもっと固いかと思ってたわ」ムニムニ


提督「…そりゃどうも」


雷「引き締まっててカッコイイわ!」サスサス


提督「…どうも」







雷の小さな手が俺の身体を撫で回していく。めちゃくちゃくすぐったい。カチカチになるほどトレーニング後のアフターケアは怠ってないからね。



ほんと艤装解除してる時は少女らしい力加減だけどね…展開状態でマッサージなんかされたらぺちゃんこにされちまう。想像するだけであーもうおしっこ出ちゃいそう!(戦慄)




だから頼む、今だけは敵来ないで。俺死んじゃう。








夕雲「お待たせしました提督…あら?」


雷「あら夕雲さんじゃない!」


夕雲「雷さん?何してるんですか?」


雷「マッサージよ!」


夕雲「ふ、ふーん…あ、提督。膝枕の続きをしてあげますね」


雷「膝枕!?」


夕雲「ええ、夕雲の膝枕、よかったでしょう?」フフン


雷「それなら雷がやってあげるわ!」


提督「うおっ」ゴロリ


雷「司令官どう?癒されるでしょ!」


夕雲「むー!夕雲がやってあげるんですから、少しどいて下さい!」プク-


雷「夕雲さんも膝枕してたんだし、休まなきゃダメよ!」


夕雲「もう大丈夫ですし、提督のお世話がしたいんですけど」


雷「私もしたいわ!」


提督「いや、そろそろここら辺で…」








萩風「司令?失礼しますね。お疲れと聞いたので…あら?」


浦風「んー?何じゃ、先客がいたんけ?」


由良「…そ、それなら由良、お掃除をしますね」


能代「能代、お洗濯をしてきます!」










…待て待て、敵が来て欲しくないと思っていたが、君たちも来て欲しくないんだよ。お世話したがりな艦娘ばっかじゃねぇか!



最悪の事態に陥った。こっから逃げ出せる可能性はゼロに近い。特に浦風と萩風は磯風の件があってからめちゃくちゃ気に掛けてくれているが、そんなに心配しなくていいから!放っといてくれていいから!




あと俺の部屋を勝手に掃除しないで。確かに少しばかり散らかっているが自分で出来るから。親に自室を掃除された時の何とも言えない気まずさを思い出しちゃうから。



しかしそれを言う暇すら与えられず、俺はお世話をされまくる。夕雲は諦めたのか軽食を俺の口に運んでいるが、寝ながら食うのは行儀悪いと思うんですがそれは…



雷は膝枕を解かず、頭を撫でまくったり指先でトントン突いたりしてる。やっぱりあれか、スキンヘッドは嫌か。やはり髪があった方がいいのか。まだアラサーですらないのに凹む。



萩風は持参してきた軽食を夕雲同様食わせてくる。どちらも甲乙つけ難いぐらい美味い。行儀悪いのは変わらないが。



浦風は…俺の布団を綺麗に直してくれている。一番まともで何だか申し訳ない気分になった。



当然だが全員艤装解除してる。となるとこの子らは非番なのか。世話好き艦娘全員が押し掛けて来ないのが幸いだが、それでも状況は最悪だ。



傍から見たら殿様が女中を侍らせてるみたいで印象が悪すぎる。むしろ挙げた例の方がまだマシに見えるレベルだ。ムキムキ男が少女に世話をさせてるように見えるとかどこの悪役だよ。



つーか俺は一日休みたかったのに心が全く休まらない。こんな事なら誰も来るなと言うべきだった。鍵だけ掛けてりゃ入ってこれないなんて甘い考えを持ってた自分が恥ずかしい。







浦風「さぁて、布団も敷き終えたし、提督さん?」ポンポン







あ、あれはまさか!布団の中に招き入れる動き…いくら磯風の件があったと言ったも添い寝までしようとしなくていいから…(良心)



あと布団も俺がデカすぎてギリギリだから密着しないといけないぐらいだと思う。そこまでして俺をオフトゥンに誘うという事は…やはり浦風も俺を堕落させるつもりか!







浦風「遠慮せんでええんよ?」ポンポン


提督「いやいいっす」


雷「まだ膝枕の方がいいのよね!?」トントン


提督「頭皮マッサージはもういいから…」


浦風「もう、ええからこっち来るんじゃ!」グイ


提督「おっ!?」







あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!俺は雷に膝枕されてると思ったら、気付いたら布団の中にいた。


何を言ってるのかわからねーと思うが、俺も何をされたのか分からなかった…


頭がどうにかなりそうだった…催眠術とか超スピード!?(レ)とか…ん?超スピードだったな。本当に何が起こったの?







雷「ずるいわ!」


浦風「雷ちゃんはもうええじゃろ?」


夕雲「夕雲は満足してませんよ」


萩風「私は…あの…」


由良「お掃除終わり…う、浦風ちゃん?」


能代「ただいま戻り…な、なんて事を!」


浦風「今度はウチの番じゃ!」ムギュ-







集まってきてあーもうめちゃくちゃだよ。俺が出れば万事解決…あら?出れない。浦風ががっちりホールドしてやがる!



しかもよく見ると艤装らしきものも見える!全身展開じゃないみたいだ…一部とか出来んのかよ。雷のずるいと言った意味が分かった。




ならあの引っ張りは艦の力の一部…怖すぎぃ!もし全身展開状態だったら腕が千切られてそうだ。






浦風「提督さんの胸板…ぶち逞しいのう」ホワホワ


提督「ドウモ」


浦風「まるで丘みたいじゃ…腹も割れとるし、引き締まってて素敵じゃけぇ」ホワホワ


提督「ソウデスカ」







浦風が何か言ってるみたいだが、俺は僅かしか動けないのでむしろ疲れてきている。圧倒的な力に拘束されるとストレスが溜まるのだ。



他の子たちは引っ張り出そうにも出来ないようだ。恐らく艤装展開しないと浦風から引き剥がせないのだろうが、そんな事したら俺が八つ裂きになりそう。



もうやだ、ただ休みたいだけなのにどうしてこうなった…どこに間違いがあった…




雷「むー!なら私も入るわ!」ゴソゴソ


夕雲「な、なら夕雲も」


萩風「あ、そ、その…失礼します!」


由良「由良も、行きます!」


能代「能代は膝枕をしてあげます!」







や、やめろぉ!ただでさえ布団が小さいのに無理くり入ってこないでくれ!あと能代は膝枕なんてしなくていいからこいつらを退かしてくれ…




それに今警報なんか来たら全員艤装展開するんだから本当に死んじまう!いくらタフでも今回ばかりは無理!




傍から見りゃ楽園だがその実、地獄の釜の中とはたまげたなぁ…全然休まらねぇ。畜生、やはりこいつらは俺の計画を妨害するためにこうしてるのか…



でも今は敵が来ない事を祈るばかりだ。早く一日終わってくれ…













***











結局、警報は鳴らずに夜まで何事も起きなかった。せっかく作った休日で早く平日になって欲しいと願うとは思わなかった。俺は悲しみのあまりちょっと泣いた。



頼むから一人で休む時間を奪わないでくれ…必ずしも甘やかせば癒される訳じゃないって、はっきりわかんだね。



平日より疲れを溜めた休日が終わり、また平日がやってくる。泣けるぜ。












能ある鷹は爪を隠す









休日が休日としての機能を果たさないまま朝を迎えた俺は、死んだ目で山積みになった書類を処理していった。



流石に量が多すぎて俺の気力は既に空っぽになっていた。提督になるとほとんどデスクワークだし身体動かさないと鈍るし、何よりケツと腰が痛くなる。



もう目の前の書類を全て破り捨てて焼き払ってしまいたいが、それすら面倒臭いと思うほど疲れてる。




だが俺の頭はまだ死んでいなかった。毛根は瀕死だけどってやかましいわ。






俺は学生の頃を思い出した。バイトで後輩が入った時、仕事を手取り足取りフレンドリーに教えていた時だ。



仕事を覚えさせるという事は、自分が楽できるようにする事なのだ。俺がこれまでやってきた作業を覚えてくれれば、俺がやる必要は無くなり、別の作業に移れるから。



そうだ、書類の書き方とか処理の仕方とか教えりゃ俺は計画を練る時間が増やせるじゃん。今までは直ぐに辞められるよう動いてたが、急がば回れとはこの事だったのだ。



艦娘たちに書類仕事を覚えさせれば俺が居なくても鎮守府を運用出来るし、そうなりゃ俺は用済みだから提督を辞められる。これぞwin-win。



素晴らしい。だが問題は誰にその役目を背負わせるかだが、直ぐに候補は上がった。名案を思いついたお陰で頭が冴えてるってはっきりわかんだね。




こういうのは事務的な関わりしか持ちたく無さそうな子にやらせるべきだ、と。そういう子なら怪我する可能性もかなり低いからね。









潮「あ、あの、お話とは…」ソワソワ


初雪「…」


羽黒「な、何かありましたか?」ソワソワ


提督「秘書艦やってくれないかな」


潮「え、ええ!?」


初雪「えぇ…」


羽黒「ひ、秘書艦ですか!?」







俺はこれまで秘書艦を就かせる事は無かった。初期艦の電にもやらせてない。だって怪我するんだもん。



だからこそ、引っ込み思案なこの三人の反応はもっともである。何かごめんね、他に思いつかなかったんだ。








提督「ちょっと手伝って欲しいかなって思ったんだが、嫌なら…」


潮「や、やります!」ズイ


羽黒「は、羽黒で良ければ!」ズイ


提督「お、おう…」


初雪「…ご褒美、ある?」


提督「…それは頑張り次第かな」


初雪「ふーん…じゃ、頑張る」フンス







…何か食い気味だな。まあいいか、やる気ありそうだからちゃんと教えよう。それにしてもご褒美か…アイスでいいかな。




甘味なら間宮さんと伊良湖さんとも会えるしそうしようか。それなら俺のメンタルも回復するし、初雪には頑張り次第とか言ったが普通に連れてくことにしよう。




こういうコツコツした積み重ねがいずれ実を結ぶと信じて、しばらくは足掻いてみよう。










***









一度に全てを教えるのは酷だと思ったので今日は最低限の仕事だけにしようとしたが、君たち覚えるの早いね。



俺はデスクワーク苦手だからこういうのに疎かったけど、まさか一度教えただけで覚えるとはね。



そして書類仕事中は黙々とやってくれてるし、俺の心の平穏は保たれている。やはり俺の人選にミスは無かった。



こりゃご褒美も弾むってもんだ。パフェでも奢ってやるか。






提督「とりあえず今はここまででいいや。休憩しようか」


潮「…あ、はい」カタン


羽黒「りょ、了解です」


初雪「…頑張ったから、ご褒美」ンフ-


提督「よし、甘味でも奢ってやる」


初雪「流石司令官、太い腹」


提督「太っ腹だ」









三人を食堂へ連れてくと、そこには間宮さんと伊良湖さんがいた。は~(心が)生き返るわ~



もう食堂の隅っこを執務室代わりにしてぇな。いやもう俺も給仕に転身しようかな。それもありだな。







潮「ひ、秘書艦って、結構大変ですね」


提督「…ん?」


羽黒「司令官さん、ずっと一人でやってたんですか?」


提督「…そうだね」


潮「そ、その、頼って貰って、有難うございます」


羽黒「ま、また、頑張ります!」


提督「う…」


初雪「次は…スマブラで」


提督「お、おう…」









うぐぐ…つぶらな瞳で感謝とかされると罪悪感に苛まれるからやめてくれよ…あと初雪はサラッと次の要求をするな。買ってやるけど。




しかし、思いの外順調なようだ。これで仕事内容をガンガン覚えてくれれば、俺は貴重な時間を有効活用できる。その為ならご褒美を妥協しないさ。俺の財布が生きている間はね。




俺の心も生き返ったし、書類も粗方消化出来たし、今日は有意義な日だったな。怪我も無いし、これが本来在るべき提督の姿なんだろうな。



異常な打たれ強さとか要らないから普通に労災認定して俺を辞めさせてくれりゃこんな事にはならなかったのに、本当にブラックだな。




だがそれも終わりが近づいている。俺の作戦が成功すれば、俺は大本営から用無し認定される。つまり、俺は自由だ。




明日は本格的に教えこもう。俺の署名が必要な書類以外を全て出来るようになれば、自由は目前だ。








***









翌日、また彼女たちに執務を教え込んだ。やっぱり吸収早いね君たち。引っ込み思案でも根っこは真面目で助かる。



昨日より少し食い気味に話を聞いてるようだが、慣れというものだろう。メモまで取るなんて真面目だなぁ。



俺もバイトしてた時はメモ取りつつ仕事覚えてたね。何の因果か教えてくれてた店長もハゲだった。歴史は繰り返す(悲壮感)



唐突な自分語りはここでキャンセルだ。ごめんね、フサフサの爽やかイケメンじゃなくてムキムキハゲゴリラで。提督辞めたら髪の毛も生き返ると思うから。








潮「て、提督、もうそろそろ休憩ですよね」


提督「ん?そうだな」


潮「き、昨日のお、お返しです」スッ


提督「うっ…!」ビク


潮「あっ…」ウルウル






艦娘から食い物差し出されると嫌な事思い出すんだよなぁ…あ、間宮さんと伊良湖さんは例外だぞ。



でも女の涙はトラウマを上回って心が痛むからヤメロォ!(建前)ヤメロォ!(本音)



潮からお弁当をひったくり、がぶ食いする。普通に美味くて俺が泣きそうだった。トラウマと自己嫌悪で。



磯風のそれが無ければ普通に受け取ったんだが、ホントトラウマばかり植え付けられて頭に来ますよ!というか提督になってから奪われたものが多すぎるって、それ一番言われてるから。







羽黒(…私も何か作ろうかな)


初雪(うぅむ…)











休憩後は特に何も無く、初雪と羽黒はご褒美の催促もなく執務を終えた。特に初雪はまたゲームの要求をされそうで少し不安だったが、拍子抜けだった。



ままええわ。何があろうと、俺の計画に中断は無い。このまま俺の署名が必要な書類以外の執務を全部覚えて貰えればいい。



あの子たちなら、そう遠くない日に実現するだろう。そうなったら、大本営に退役を申し出よう。








***









元帥『は?退役したいだと?』


提督「い、如何でしょうか…」


元帥『んなこといきなり言われてもなぁ』


提督「さ、再三連絡を取ろうとしましたが、艦娘に阻まれ…」


元帥『それって艦娘の方が必要としてくれてるじゃんアゼルバイジャン』


提督「私の身体が持たないのです!これまで何度も酷い目に遭ってきて、もう我慢の限界なんですよ!」


元帥『んな事言われても、妖精が直々に選んだお前を辞めさせるのはなぁ』


提督「私が死んでしまったら元も子も無いでしょう!」


元帥『あーそれは無いと思うけど、退役するなら秘書艦の承認が必要なのは知ってるな?』


提督「そ、そうでしたか?」


元帥『そうだよ(便乗)』


提督「…ん?ちょっと待って下さい。私が死んでしまったら元も子も無いと言った後、何故それは無いと言ったんですか」


元帥『そんじゃ一応書類送るけど、お前が艦娘の署名欄書いても無駄だからな』


提督「ちょ、話を」


元帥『こっちにはそれを見破る妖精が居るからな。いくら辞めたいからってインチキは効かないぞ』


提督「あの、話を」


元帥『もし不正が見つかったら…ククク』ブツッ


提督「え、ちょ」









珍しく一人の時間を確保出来たから退役を願い出たら、何かとんでもない事を聞いた気がする。



退役するのに秘書艦のサインが必要…まあまだここまでは理解出来なくもない。あんまし覚えてないけど提督になる前にそんな事を聞いたような気がするし…聞いたかな?



それより問題なのは、元帥のあの発言だ。それは無いって何故分かるんだ?




俺が何度も死にかけても復帰してるという話を聞いていたからか?そんな事が知れたら海軍全体が黙っちゃ居ないだろうし、そもそも元帥の耳に入るまでに他の将官にも知られてるだろう。



そうじゃないとしたら、元帥は何か俺に隠し事をしている?ここに来て新たな疑問を抱えるとは思わなかった。



それと大体見当は付くが…最後の意味深な笑いは、きっと終身提督にする気なんだろうなぁ。あの人嫌がらせ好きで有名だし。持ち前の賢さを悪巧みに全振りしなくていいから…(切実)



…何にせよ、秘書艦からサインを貰わなければ俺は辞められない。退役の申請書が来るまで我慢だ。










***








申請書を待つこと数日、郵便で来たよ。何か扱いが軽い…軽くない?ままええわ。この時をずっと待っていた。




俺はすぐに署名を済ませたが、俺は考えた。俺が馬鹿正直にこれを秘書艦の前に出した所で素直に署名してくれるかわからない。ほんの数日前ならこんな事考えなかったんだがな。



潮が弁当を持ってきたあの日から、秘書艦たちはやたらと俺への接触を増やしてきた。ご褒美は要らない、だが俺に何かお礼を用意しているという、至れり尽くせりな感じになっていた。



君たち初日のあの雰囲気はどこ行ったの。俺と関わりたく無さそうなあの雰囲気はどこへ行ってしまったの。



金が浮いたのはいいが計画に悪影響を及ぼすのは頂けない。あれじゃ絶対署名貰えないし、目の前で申請書破られそうだし、最悪問い詰められてミンチにされそうだ。



そうならないようにするには…他の書類に紛れ込ませるしかない。幸い、署名だけ済ませればいい書類とそうでない書類は分けられて来るから、適当な位置に入れとけば大丈夫だと思いたい。



くそっ、こんなはずじゃなかったのに手間が増えていく。何故辞めるだけなのにここまで苦労しなきゃならないんだ。



…愚痴を言ってても始まらない。何事も動くなら思い立ったその時に限る。署名のみの書類に申請書をこっそり忍ばせ、秘書艦の使う机に置いておく。







羽黒「お、おはようございます!」ガチャ


潮「おはようございます!」ヒョコ


初雪「おは…ねむ…」






来るの早くなぁい?やる気に満ちてるのはいいけど今じゃなくていいんだよなぁ。



…もう俺が自発的に教えなくても処理出来るぐらいまで覚えてるし、何なら俺のが遅いレベル。俺マジでいる?



心が砕け散りそうだがまだ耐えるんだ。ここを乗り切れば俺は自由なんだ。早く申請書に署名を…







羽黒「…あの、司令官さん?」


提督「っ!?」ビク-ン


羽黒「…こ、これは何でしょうか」ペラ


提督「んっ…!?」チラ


羽黒「…わ、私の見間違いじゃなければ、た、退役に関する書類だと思うのですが」


提督「」


潮「え」


初雪「え」







ば、バレたぁぁぁぁぁぁ!!



他に手が無かったとはいえ、無謀過ぎたんだ…いや、この子たちが優秀だっただけなんだ…



…そうだ、思い出した。俺が着任する前、元帥から話を聞いたんだった。昔は自分の意思のみで辞めることが出来たが、今は人手が足りないから秘書艦が見限るレベルまで行かないと辞めることができない、と。




その時は別にどうでもいいと思って聞き流していたが…ここに来てその意味を理解するとは。








羽黒「こ、これは…司令官さんが…?」


提督「え、いや、それは…」


潮「て、提督、辞めちゃうんですか!?」


初雪「なんで」ジト


羽黒「や、辞めないで下さい!まだ何かご不満な所がありましたか!?」ガシ


潮「う、潮のお仕事に不備があったからですか!?」ユサユサ


初雪「…ひどいよ、司令官…!」ユサユサ


提督「ちょ、待って…」グワングワン


羽黒「お、お願いです!辞めないで下さい!」ユサユサ


潮「や、辞めちゃ嫌ですぅ!」ユサユサ


初雪「ご、ご褒美とかいいから、だ、ダメ!」ユサユサ







ぐおおおおお!!三人いっぺんに揺らさないでくれ!揺らされながら気付いたが艤装展開してやがる!



感情が昂って制御が効かなくなったのか、それとも意図的にやってるのかはわからない。確かなのは、俺が馬鹿力で身体を揺らされている事。



や、やめてくれ…意識が遠のいてきた…視界が常に大きく動いてる…気持ちが悪くなってきた…頭が特にやばい…







大淀「失礼しま…な、何をしてるんですか!」ガチャ


羽黒「うぁぁぁぁ!辞めないでくだざいぃぃ!!」ユサユサ


潮「ごめんなさいぃぃぃ!!」ビエ-


初雪「辞めないでぇぇぇ!!」ユサユサ


提督「」白目


大淀「ちょ、三人とも落ち着いて!」ガシ


羽黒「ふぇ…お、大淀さん…」


大淀「な、何があったかは後で聞きますから、まずは提督を医務室へ!」


羽黒「は、はい…」


潮「提督…」グスッ


初雪「…」








***








…俺はまた医務室で目覚めた。もう俺の自室と大差ないな。




しばらくすると明石が入ってきた。俺の症状の経過を報告するとの事。







提督「…え?」


明石「頚椎捻挫及び脳震盪でした」


提督「」







俺はまた一つ学んだ。引っ込み思案でも艦娘は危険だと。代償がデカすぎて涙すら枯れた。












貪られる希望









大淀「…ふむ、退役申請書ですか」


羽黒「は、はい…それが書類の中に紛れ込んでて…」グスッ


大淀「…提督の署名あり、ですか」


羽黒「だ、だから本当に辞めてしまうのかなって…」


大淀「…いえ、これは仕組まれた可能性もあります」


羽黒「へ…」


大淀「今までの提督よりも着任期間が長く、意欲的に執務と指揮を執っている提督が、後任も決まってないのに辞めるはずがありません」


羽黒「そ、それは…」


大淀「もしやこれこそ、深海棲艦の仕組んだ罠かもしれません。提督が退役するという情報を以て我々を混乱させ、それに乗じ強襲を仕掛ける算段かも知れません」


羽黒「な、何て恐ろしい…」


大淀「近頃、極端に深海棲艦の発見例が少ないのです。まさか…」


羽黒「た、大変!」


大淀「…とりあえず、鎮守府にいる艦娘には臨戦態勢になるよう呼び掛けます。羽黒さんも急いで下さい」


羽黒「は、はい!」


大淀「…それと、提督は二週間ほど絶対安静ですので」


羽黒「…はい」シュン




大淀(…それにしてもこの紙、偽物にしてはよくできている…もし本物だとしたら、大本営内に工作員がいる?)


大淀(どうやって筆跡まで再現できたかはわからない…ともかく、警戒を厳としなければ…)








***









頚椎捻挫と脳震盪と診断された俺は二週間の安静期間を与えられた。初日は身体の末端があまり動かず、後遺症だと気付いて絶望した。



だが一日経つとそれが無かったかのように動いた。本当に何が起こってるんだ?



元帥の言葉が脳裏を過る。俺が死ぬ事は絶対に無い…何のカラクリがあるんだ?



…考え付かない。というか身体を動かしたい。ずっと寝てると鈍るし、とにかく暇過ぎて辛い。



大淀のお陰で艦娘は寄り付かないが、暇を潰す物がスマホしかない。SNS系は軍事機密とかもあって禁止されてるし、動画サイトも軍規がどうたらこうたらで制限がかけられてる。小学校かな?



テレビは日中はそんなに面白い番組無いし、ニュースもあまり興味無いし、退屈過ぎてむしろ疲れる。



だけどそんな毎日の中で俺の心が癒されるのは給糧艦の二人がお見舞いに来てくれる時だけ。間宮さんと伊良湖さんは天使だぁ。



果物を切り抜いて盛り付けてる姿は一枚の絵画みたいだった。時間を忘れるレベルで癒される。あと美味い。



これなら退屈な期間を凌ぎきれると思ってたんだけどなぁ…










暁「しれーかん!ご機嫌ようなのです!」


提督「うひっ!?」ビクッ


暁「一人前のれでぃーが看病してあげるわ!」







間宮さんと伊良湖さんが看病してくれてるから来なくていいから…(良心)



だがよく見ると艤装展開していない…非番のようだ。うーん、それでも不安でいっぱいなんですがそれは…間宮さん、伊良湖さん!どうにかして!






間宮さん「あ、暁ちゃん?大淀さんから許可は?」


暁「だ、大丈夫よ!」エッヘン


伊良湖「間宮さん、そろそろ仕込みの時間ですし、暁ちゃんと交代しませんか?」


間宮「あら、もうそんな時間…暁ちゃん、お願いね」


暁「任せて!」







やだ!やだ小生やだ!ダメだ間宮さん伊良湖さん!絶対トラブル起きるから!暁も連れて戻って!





◆ていとくの いのりは やみのなかへ とけていった





ちなみに祈り続けても通じない。現実ではテレパシーなど無いのだ。






暁「さ、看病するわ!」


提督「いやいいから…」


暁「遠慮なんてしなくていいわ!」


提督「してないから…」


暁「もう、れでぃーの言うことには素直に聞くものよ!」イソイソ







***






俺の声が聞こえてないのか、暁は俺の周りを掃除したり、手拭いを額に置いてきた。掃除は本人が気付いてないのか結構荒く、掃いても綺麗になってない。



手拭いに至っちゃ絞り切れてないのか、水が少しずつ流れてくる。正直めちゃくちゃ不快。あと俺風邪じゃねーから。もしかしたら今から引くかもしれんけど。



色々とガバが目立つが、暁は気付かずご機嫌に掃除?を続けている。もう勘弁してくれよ。



仕方ないから起き上がって気付かれないように花瓶の上で手拭いを絞る。軽く絞るだけで水がびちゃびちゃ落ちてくる。これ最早絞ってないのでは?



…と思ったが、今は艤装解除してたな。なら見た目相応の力しか出せないんだった。展開してたら手拭いごと千切ってるかもね。



暁なりに気を遣ってくれていると思いたいが…







暁「ふー!こんなもんね!しれーか」ガタッ


提督「あ、おい気を付けて…」


暁「きゃっ!」コテン






その時、暁の持っていた箒が俺目掛けて飛んできた。咄嗟に頭を逸らして躱したが、箒は壁に突き立っていた。



転んだ拍子にすっぽ抜けた箒が壁にぶっ刺さるとかどういう事なの…(レ)やっぱ俺を殺そうとしてるのか!?



偶然にしては狙いが正確で疑わない方がおかしい。提督辞めようとしてるのがバレたから口封じに殺しにきたのか…?



それなら大淀が入室を許可したのも合点がいく。俺が動けない事をいい事に容赦無く排除しに来たか…



執務もあの三人に教えちまったし、本当に『用済み』となった俺をこの世から自由にさせるってか…まだ死にたくねぇ!



俺は生きて自由になりたいんだ!誰か暁を止めてくれ!このままじゃ殺される!









白露「はーい提督!お見舞いに来たよ!」


提督「」


暁「あ、あら白露さん、ご機嫌ようなのです」


白露「あれ?暁ちゃんが先に居たの!?一番じゃない!?」ガ-ン







今度は白露が来た。こんな時にテレパシー仕事しなくていいから…



まさか増援か?殺意が高過ぎるッピ!








暁「ふふん、もう暁がお世話してるから大丈夫よ!」


白露「ま、まだあるでしょ!」


暁「暁が全部やったんだから!」






やれてないんだよなぁ…箒まだ刺さってるし。白露も艤装展開していないが、暁の箒投げを見てから警戒を解けない。



白露は…うん、あまり怪我させてこなかったイメージだが、夕立の姉貴だしなぁ。やたら一番にこだわるし、それがトラブルの原因にもなりそうだし、現になりかけてるし。







提督「お、俺の事はいいから、白露も部屋に戻りなさい」


白露「えー!?」


暁「そういう事だから、お世話は引き続きこの暁が」


提督「暁も戻っていいぞ」


暁「へ!?」


提督「も、もう十分助かったからな。だから大丈夫だ、ありがとう」


暁「…」シュン


白露「…」






やめて。落ち込む姿を見せられると心が痛む。



だが言っとくが俺は患者だからね。まだ安静期間内だし、今は末端も動くが完治してる訳じゃない。脳震盪の第二波は本当に死ぬかもしれないからな。



まあさっき死にかけたわけだけどね。放置されてる箒くんも解放しないと。






提督「さ、もう部屋に…」


暁「嫌よ!」ダキ


白露「わ、私だって!」ダキ


提督「うごっ」


暁「お、大淀さんから聞いたわ!のうしんとーってまた起きるかもしれないんでしょ!?それなら暁がずっと看病するわ!」ギュウウウ


白露「え、そうなの…じゃなくて、白露だって看病出来るんだから!」ギュウウウ


提督「ちょ、苦しい…」


暁「やだぁぁぁぁ!!しれいかん死んじゃやだぁぁぁ!!」ムギュウウウウ


提督「うぐぐ…う!?」






ぎ、艤装展開してる!?暁は気付いていない…という事はやはり感情の昂りで無意識に展開してしまうのか!?



めちゃくちゃ苦しい…だが背中まで腕が回ってないからか、背骨はまだダメージが少なく…ないです。ギシギシ響だよ。その軋みぶりから、ヒビのおそれがあるよ。



白露は幸いまだ艤装展開に至ってないが、暁の状態に気付いてない。頼む、気付いて止めてくれ!






提督「し、しらつゆ…暁を…」ググググ


白露「え…あ、暁ちゃん!艤装が!」


暁「うわぁぁぁん!!!」ギュウウウウ


提督「め、目眩が…」


白露「暁ちゃん離して!」ガシ


暁「んあ!?」ビリビリ


提督「え」







…白露が暁のホールドを無理やり剥がした時、乱暴に布を裂くような音が響いた。最早服と言えるほど原型を止めていない布が空を舞い、音もなく床に落ちた。



…俺は妙な開放感に襲われた。何だろうか、こんな感覚は久しく味わってない。まるで生まれたままの姿…そう、何も身に付けていない…身に付けてない?



…ああ、そうか、そういう事だったのか。俺は何も身につけていなかったのだ。素っ裸を晒して、少女二人の前に仁王立ちしているのだ。



だが俺はこの時、不思議と何も思わなかった。戸惑いも恥ずかしさも、何も感じなかった。むしろ清らかな気持ちになった。こんな所で悟りの境地に至りたくなかった。お釈迦様がカンカンでいらっしゃる、(無間地獄に)加えて差し上げろ。



暁と白露は顔を赤くして固まっている。どこに目がいってるのかもわかる。出来れば上半身、特に胸筋辺りをガン見して欲しかった。ありの~ままの~♪姿見せるのよ~♪



俺は悟りから徐々に現実へと引き戻された。完全に現状を把握しても、俺は冷静なままだった。そして、脇腹から生暖かい水が滴るような感覚も、俺は気にしなかった。



どうやら暁のホールドを無理やり剥がしたお陰で、俺の脇腹には深い引っ掻き傷が出来ていたようだ。しかし後から襲った痛覚も、俺は気にしなかった。








暁「ひゃ、ひゃあ…///」カオマッカ


白露「提督…///」カオマッカ


提督「…二人とも、怪我してないか」


暁「ひゃあ~!///」ドタドタ


白露「きゃあ~!///」ドタドタ








暁と白露は一目散に医務室から逃げ出して行った。ごめんね、お年頃なのに俺のムスコを見せちまって。事案だよねこれ。



憲兵に通報され、俺は逮捕され、裁判で…という事は、俺は提督を辞められるのか?これは嬉しい…いや、全くもって嬉しくないけど嬉しい誤算だ。



死刑以外なら何でもいいや。最悪シャバの空気を吸う事も出来なくなっても、俺は提督を辞められるなら…






提督「…ん」ポタポタ






足元を見ると、赤いカーペットのように血が広がっていた。少しばかり多く流しすぎたか。




また目眩が俺を襲う。重心が掴めなくなり、俺は床に倒れ込んでしまった。後頭部は打たなかったが…




血が少しだけ温かい。俺が眠りに着くまで、それだけが感じられた。











***










提督「…ぅ」


提督「…?」ムク








…何だか、長い夢を見ていたような気がする。夢にしては随分現実味があったが…本当に夢だったのか?



…脇腹を見るが、引っ掻き傷は無い。やはり夢だったか…でも、嫌な夢だったなぁ。療養期間特有の悪夢はやめろ。



それにしてももう空が焼け始めてる。身体が気怠い。トレーニングしたいなぁ。








明石「提督、失礼しま…あ、お、起きてたんですね」ガチャ


提督「んっ…あ、ああ」


明石「そ、そのー、健康状態を…」


提督「…ああ、経過観察か」


明石「そ、そうです!それです!」


提督「…まあ、いい気分じゃないな。暇過ぎて」


明石「それは…その、仕方ないですよね。提督がいくら頑丈でも絶対安静ですから」


提督「分かってるが…はぁ」


明石「…ふぅ、大丈夫そうね。それじゃ暁ちゃんに白露ちゃん、もう一度…じゃなくて少し相手をしてあげて」


暁「…」ヒョコ


白露「…」ヒョコ


明石(だ、大丈夫だから!どうやら覚えてないみたいだから!)ボソボソ


暁「し、司令官、トランプとか、どう?」オソルオソル


白露「ひ、暇潰しにはなるんじゃないかなって…」






…何か明石の後ろに引っ込んでるけど、明らかに様子がおかしいんだよなぁ。この子たち普段は食い気味なぐらい張り切るのにこのしおらしさ…何か企んでるな?



トランプか…何をするつもりだ?艦娘なら凶器にもなるし、そういった緊張か?







明石「…それじゃ、今後も運動は控えて下さいね」ガチャ


提督「うっす…」


暁「ば、ババ抜きとかどう?」


白露「い、いいんじゃない?」


提督「…やりたいのをやればいい」


暁「…そ、そうするわ」パラパラ








***








…特に何も起きずに時間は過ぎていった。ただ、二人は終始俯きがちでやっていたので表情を読むことは出来なかった。



それに耳も赤かったが、暖房は効きすぎているという程暑くはなかった。子どもは体温高めだからか?



負けたら何かを要求されるかと思っていたが、何も無くて安心…はしてない。何故ここまで慎ましくなってるんだ?




…俺はエスパーじゃないからこの子たちの思惑は分からんが、危害を加えてこないようだ。だがまだ油断は禁物だ。







間宮「提督、お夕食を…」






Oh!天使の給糧艦が舞い降りて下さった!心無しか後光が見える見える…






暁「え、もうそんな時間なの?」


間宮「はい。暁ちゃんと白露ちゃんも食堂に来てね」


白露「は、はーい、提督、またねー!」


暁「ま、また来てあげるわ!」






そんなに来なくていいから…(良心)あ、給糧艦は別だゾ。



それにしても飯が美味すぎる。お袋の味を思い出す…もしや間宮さんも俺のお袋だった可能性が微レ存…?



変な冗談考えてたらもう食い終わってた。至福の一時はすぐ終わるってはっきりわかんだね(悲愴)







如月「司令官、ご飯食べ終わりましたか?」ガチャ


荒潮「食器回収しにきました~」ヒョコ


提督「」ビク







お、お前たちは!子供なのに何とか大人ぶって俺を惑わそうと試みるおマセ艦!?







荒潮「ちゃんと全部食べたんですねぇ」


提督「…まあな」


如月「それじゃ、片付けてあげますね~」


提督「そのぐらい俺が…」


如月「もう、司令官はゆっくりしてて」ムギュ


提督「お、押さえるな」


如月「うふふ、そんなに暴れないで」


荒潮「…」ジト







荒潮の表情がみるみるうちに無くなっていく。そりゃ大男が小学生ぐらいの女の子とイチャついてたら気持ち悪いわな。世間一般じゃ一発逮捕で人生終わり!閉廷!



見苦しいのはわかってるんだけど如月しつこ過ぎぃ!ずっと寝てるのも苦痛だから歩くぐらいさせてくれ。






荒潮「…あ、あらあら~」ピシャ


提督「如月、離れ…ん?」


荒潮「ごめんなさい、汁物が服に着いちゃいました~」


如月「え」


荒潮「ちょっと着替えますねぇ」ヌギヌギ






ちょっと待て、何でここで脱ぎ出すの。着替えるなら自室にしてくれよ…



あと女の子の着替えのスピードとか知らないんだが、すっげぇゆっくり脱いでる。あとめちゃくちゃチラチラ見てくる。明らかに男である俺の目を意識してる。



…まさか、これは罠か?俺を嵌めようとしてるのか?



憲兵に捕まって提督辞めるのはいいんだが、強制猥褻とかで捕まるのは勘弁して欲しい。札付きになる時点で社会復帰クッソムズいからどっちもどっちだが。



そこまでして俺を苦しめるとかどんだけ嫌われてんだよ。確かに子供が変に大人ぶる時期と判断して適当に流してたけど、こんな仕返しはあんまりだ。



如月は艤装展開してないから押しのけられるが怪我させたら何言われるかわかんねぇし、荒潮は下着姿になってるし、傍から見りゃ何やってんだあいつら…ってなるだろう。







荒潮「あらあら~、そんなに見ちゃ…あら?」


如月「し、司令官?」


提督「早く着替えなさい」


荒潮「ど、どうしたの?うつ伏せになって…」


提督「見られるのは嫌だろ。風邪を引かないうちに着替えてきなさい」


荒潮「う、うーん…」オロオロ


提督「着替えたら言ってくれ」







安直だがこんな手段しか取ることが出来ない。俺だって引き際は聞こえがいい方を選びたい。そんな我儘を通そうとしてるから酷い目に遭ってるんだろうけど。



食器も俺が後で片付けるとして、今はやり過ごしておきたい。子供からハニートラップ仕掛けられるとは思わなかったし。








荒潮「…そうねぇ、このままじゃ風邪引いちゃいそうねぇ」


提督「早く着替えなさい」


荒潮「寒いからお邪魔しま~す」モゾモゾ


提督「お、おい!何してんだ!」


荒潮「あったか~い」モゾモゾ


如月「き、如月も、お邪魔しようかしら~」モゾモゾ


提督「やめろ!」


荒潮「提督の身体もあったかいわ~」


如月「背中の筋肉…まるで谷みたい…」ウットリ


提督「くっ…」フルフル


荒潮「ゴツゴツしてる…でも柔らかいですねぇ」サワサワ









…何でこうなるかなぁ。安静期間が機能してなくて涙が出る。



やっぱり心を疲弊させるつもりなんだな、この子たちは。もう本当に死んだ方が楽なんじゃねえかな。









間宮「荒潮ちゃん?如月ちゃん?食器は…え?」


提督「え、ま、間宮さん?」


間宮「な、何をしてるんですか…」ワナワナ


荒潮「お、お邪魔してまーす…」


如月「しょ、食器は今からでも…」









…あーあ、間宮さんに見られちゃった。完全にドン引きしてる。もう何かどうでも良くなってきた。本当に涙が出てきた。




言い訳する気力も湧かねぇ。一番嫌われたくなかったんだがなぁ。多分すぐに伊良湖さんの耳にも入るだろうし、完全に終わったわ。死にてぇ。








間宮「な、何やってるんですか二人ともー!」


荒潮「あ、あは…」コソコソ


如月「し、失礼しましたー!」ピュ-


間宮「あ、荒潮ちゃん!?下着じゃないですか!」


荒潮「あ、後で着替えまーす」ピュ-


間宮「もう…て、提督、大丈夫でしたか?」


提督「え、は、はい」








…あ、あれ?俺心配されてる?まだ生きてるゥー!







間宮「提督、大丈夫ですか?また怪我してませんか?」


提督「も、問題無い」


間宮「よかった…また大怪我をされたらと思うと…」ウルウル







涙目の間宮さん…あ~^たまらねぇぜ。ほんとこの世が生み出した奇跡だよね。



普通ならあんな光景見たら通報待った無しだが、俺は日頃の行いがいいからむしろ心配される側なのだ。何か頬を雫が伝ってるような気がするが気のせいだろう。



タッパだけ立派でごめんね。この化け物じみた耐久性は俺本来のものじゃないし、本当なら俺はもう指で数えきれないぐらい死んでるだろうね。それこそ人の形を留めずに。



間宮さんが心配してくれるのはクッソ嬉しいけど俺としちゃめちゃくちゃ情けない姿晒してる気分だからダメージ的にはプラマイゼロって所かな。やっぱ凹む。



気になる女性の前じゃかっこ悪いとこ見せたくないじゃん?お前の筋肉は飾りか?とか思われたら心が壊れる~^







提督「ま、間宮さん、俺はもう大丈夫だから、心配しなくていい」


間宮「提督…」ウルウル


提督(あ~^かわええんじゃ~^)








青葉「青葉、見ちゃいました!」


提督「ファッ!?」


青葉「荒潮ちゃんが下着姿で自室に駆け込んでたので事情を聞いたら医務室からとの事でしたが、なるほどぉ!」カキカキ


提督「」


青葉「普段大人びている小さな乙女の色仕掛けでも、本当の大人の女性には敵わなかったという事ですね!屈強な司令官でも病床に伏せば鎮守府屈指の母性には屈してしまうようですね!」カキカキ


提督「」


間宮「あ、あの、青葉さん!やめてください!」


青葉「これはいい記事が書けそうですねぇ!久しくネタに困ってたのでペンが止まりませんよ!」カキカキ






なんてこった…最悪のタイミングでゴシップに飢えたエセ記者艦娘が来てしまった。



つーかどうしてこうもタイミングが悪いのだろう。荒潮もここで着替えてから戻りゃ良かったのに。下着姿で鎮守府内を駆けては行けない(戒め)



間宮さんめっちゃ困ってんじゃん。あと間宮さんの母性にはハナっからイチコロだったし、君たちに靡かないのはそういう事するからだよ。内外問わずでかい傷負わせてくるし、精神攻撃してくるし。







青葉「さてさてー、それではインタビューに入りましょうか~」ウキウキ


間宮「も、もう!本当にやめてください!」


青葉「いいじゃないですか~。あ、司令官が目の前に居たら話しにくいですよね。青葉とした事が失念していました」


間宮「や、やめてくださいと言ってるんです!しばらく食堂を閉めさせてもらいますよ!」


青葉「うっ…そ、それはかなりダメージが大きいですね…」タジッ


間宮「分かったら…すぐに出てください…提督は安静期間なのに、こんな…こんな酷いことばかり…うわぁぁぁん!!!」ドタドタ




提督「…」


青葉「…あ、あはは、その、失礼しました~」コソコソ


提督「…」








…畜生、やりたい放題やって出ていきやがった。心を休める時間すら奪われ、気まずい空気だけを残し、医務室は再び静寂に包まれた。



おのれ青葉め、ここに来て置き土産なぞ仕掛けやがって。もう許せるぞオイ!安静期間過ぎたら絶対お仕置きしてやる。







***









その後、長いようで短い二週間が経ち、俺は安静期間を終えた。久しぶりの軍服は少しだけ緩く感じた。



俺はすぐに食堂へと向かった。しかし…






『諸事情により数日間休業させて頂きます』





提督「」






俺はその場でへたりこんでしまった。どう考えても青葉のアレが尾を引いてるって、はっきりわかんだね。アオバワレェ



ちなみに後で気付いたが後から来た赤城と加賀もこの世の終わりみたいな顔をしてた。他の子も巻き添えにするのは、やめようね!










苦悶の提督









食堂が一週間足らずで業務再開したのは喜ばしかったが、その間に艦隊の士気は一部を除きサゲサゲになっていた。あの元気いっぱい大潮ですらかつての面影が無いほど大人しくなっていたレベルだ。



皮肉にも食堂が閉鎖されていた期間が俺にとって一番平和な時間だった。艦隊士気が下がっている間は俺の怪我頻度がゼロになったが、艦娘たちの海戦での被害が著しくなった。勝利と俺の健康の共存は出来ないんやなって…



ちなみに平和であるが故に逃げ出すことも容易だっただろうけど、俺はやらなかった。俺もショックを受けてたからね、しょうがないね。



まあそんなこんなで提督を辞める機会を自ら棒に振り、艦隊士気も戻りつつあり、また命懸けの日々が帰ってきた。馬鹿じゃねぇの(嘲笑)







提督「早く辞めてぇな~」カリカリ







最近はもう口癖になってる。過去に戻れるならあの時見えてた妖精をシカトしてりゃよかった。



かつては自己表現で鍛え上げた身体も、今やクッションにしかならない。尤も緩衝出来てないけど。



書類作戦も失敗したし、他の案も浮かんでこないし、どうすりゃいいんだ…







瑞鳳「提督、演習終わりましたよ~」ガチャ


提督「うっす…」カリカリ







瑞鳳…そういえば食堂閉鎖中に士気があまり下がらなかった艦娘の一人だったな。



士気の下がらなかった艦娘は普段から料理を作っていた子が多い。瑞鳳はよく卵焼きをくれたね。美味かった。



危うく俺は胃袋を掴まれかけた。物理的ではなく家庭的な意味で。だが残念だったな、卵焼きだけだと飽きるんだ。



他には鳳翔とか浦風とかかな。間宮さんと伊良湖さんが出てこない間に料理アピールがかなり増えた。狙ってるな?






瑞鳳「はい、報告書!」


提督「…うん、お疲れ」カリカリ


瑞鳳「S勝利ですよS勝利!」フフン


提督「せやね…」カリカリ


瑞鳳「む、もう少し真面目に聞いてよ!」グイ


提督「むぐ…」






頬を両手で押さえられながら顔を上げられた。普通なら瑞鳳の顔を間近で見てMajiでKoiする5秒前なんだろうけど、俺は首をもぎ取られると思ってた。



それでも最近は死なないと分かってるとあまり動じなくなった。臨死体験を何度も経験してると死への恐怖感が麻痺してしまうのだ。







瑞鳳「ねぇ、S勝利したの!」


提督「うん…」


瑞鳳「まだ元気無いの?」


提督「ぼちぼち」


瑞鳳「それなら卵焼き作ってあげるから待ってて!」パッ







俺の意見を聞くことなく卵焼きを作りに行ったようだ。卵焼きの気分じゃないんだよなぁ。つか食堂開いてるんだから食事はそこで済ませたい。尚且つ間宮さんと伊良湖さんに会いたい。



でも瑞鳳って俺が思ってる以上に強引なんだよね。鳳翔さんと浦風はそんなことは無かったが、間宮さんと伊良湖さんが復帰してから話をしてたら無理くり卵焼き食わせようとしてきたし。



もしや俺の想いを邪魔する為か?ちょっと悪女過ぎんよ~。







伊良湖「提督さん、新メニューの試食をお願いしたいのですが…」ガチャ






…それはまさに天が与えたもうた奇跡。伊良湖さんがわざわざ俺の元に来てくれたのだ。さっきまでサゲサゲだったテンションがビンビンでいらっしゃる。



それに新メニューとか胸がアツゥイ!試食なんかしなくても既に美味いって決まってるから。約束された勝利の料理だし、アヴァロンはここにあったのだ。






瑞鳳「ただいま戻りまし…って伊良湖さん?何それ美味しそう!」トテトテ


伊良湖「あら瑞鳳さん、そっちの卵焼きも美味しそうですね」


瑞鳳「えへへ、頑張って作ったの!」


伊良湖「…あ、提督さんのですか?申し訳ございません、今から召し上がると知らずに」


提督「い、いや伊良湖さん、それ食わせ」


瑞鳳「さ、提督これ食べて元気出して!伊良湖さん、それ貰えます?」


伊良湖「はい、新メニューですよ」


提督「あの、俺がそれ食いた」


瑞鳳「頂きます!」モグモグ


提督「あ」


瑞鳳「…美味しい!すっごく美味しい!」パァァ


提督「」


伊良湖「瑞鳳さんに美味しいと言って貰えて嬉しいです。これなら新しく出しても大丈夫そうね」


瑞鳳「…あ、まさか食堂閉めてたのって、そういう事ですか?」


伊良湖「うーん、半分正解って所ですか。初日だけ間宮さんが何もしたくなかったらしくて、次の日から新メニューでも考えると言ってて…」


瑞鳳「ふーん…みんな心配してたんですよ?」


伊良湖「ごめんなさい、でも間宮さんもかなりやる気が出てますから、次は食堂に来てくださいね」ペコ


瑞鳳「了解です!」


伊良湖「それでは、失礼しました」スタスタ


瑞鳳「ふー、美味しかったぁ。さ、提督は卵焼き食べて?チーズとベーコン入りだよ?」


提督「」









…神は俺を見放したのだ。天使からの贈り物が目の前で食われたのだ。これ程の悲劇が他にあろうものか。お前人のものを…(レ)



そして代わりにあるのは何度も見てきた卵焼き。しかし新メニューの試食が食われた辺りから俺は意識が飛び、気付いたら目の前に置いてあったような状態だ。



出来たて特有の僅かな湯気と、小さな肉片と少し香るチーズの匂い。今回は何か違うのはわかるが、それどころじゃなかった。



やはり瑞鳳は俺の気持ちを知った上であのような行為に及んだのだ。提督辞めたがってんのが分かると何から何まで妨害してくるのか…やはり全て遠き理想郷だったのだ…



仕方なく目の前の卵焼きを頬張る。チーズとベーコンが入ってて普通に美味い。美味いんだけど試食が食えなかったショックで涙が出てきた。少しだけしょっぱい。








瑞鳳「ど、どうしたの提督」


提督「…何でもないよ」モグモグ


瑞鳳「そ、そんなに泣く程だとは思わなくて…」


提督「…大丈夫、大丈夫だから」ポロポロ


瑞鳳(感動するぐらい美味しかったのかな…こ、これはこれで一歩前進かな?)