2015-09-09 19:55:51 更新

概要

提督と艦娘たちが鎮守府でなんやかやしてるだけのお話です

注意書き
誤字脱字があったらごめんなさい
基本艦娘たちの好感度は高めです
アニメとかなんかのネタとかパロディとか
二次創作にありがちな色々
長い
EXパートは思いつき小ネタです


前書き

22回目になりました
楽しんでいただければ幸いです お目汚しになったらごめんなさい
ネタかぶってたら目も当てられませんね

それではこの番組は

提督「…ていう脚本で行こうと思うんだけど」
瑞鳳「いいけど…趣味悪すぎない、これ?」
大鳳「正直、やり過ぎな気もするのだけれど…」
木曾「まぁ…シーツ被って、うらめしやーって言うよりはマシか?」
球磨「怖がらせるだけなら、実力行使でいくクマー」
金剛「Oh,モンスターパニックですねっ」
北上「モンスターならいっつも戦ってんじゃん」
大井「今更な気もするわ…」
夕張「だからこそよっ。ねっとりこびり付くような日本のホラーをっ」
多摩「…なんで、夕張はそんなに気合はいってるのにゃ…」

文月「司令官達、何話してるんだろうねぇ」
三日月「肝試しの相談?」
望月「…なーに考えてんだかなぁ」
皐月「悪い顔してるよねぇ」
如月「あら、司令官が楽しそうなら良いじゃない?」
弥生「…嫌な予感しか、しないんだけど…」
睦月「大丈夫だよっ、弥生。お化けの一匹や二匹、お姉ちゃんに任せるしっ」
菊月「深海棲艦の相手だってしてるんだ、今更その程度ではな」
長月「はぁ…(フラグか)」

もろもろのメンバーでお送りします


↑前「提督と夏休み」

↑後「提督と9月」



提督と肝試し


ー食堂ー


朝。朝食の準備中だろうか

奥のキッチンスペースの方からは

包丁がまな板を叩く小気味良い音が聞こえてくる


提督「ふわぁぁ…おはよ、大鳳」


おもむろに食堂の扉が開くと

のろのろと提督が扉の隙間から、のたーっと体を滑り込ませて中に入ってきた


大鳳「おはようございます、提督」


そんな提督を笑顔で迎えると、自分の隣の席を指先で ちょんちょんっと指し示す

どうやらここに座れという事らしい


提督「…」

大鳳「眠そうね?」


特に断る理由も無いので、誘われるままに席につくと

大鳳が椅子を少し動かして、距離を詰めてくる


提督「大鳳が寝かせてくれないからぁ(意味深)…ふわぁ」

大鳳「ふふ。いい夢は見れたみたいね」


あくびを噛み殺しながらの冗談を、事もなく受け流す大鳳

これが、如月や三日月辺りだったら、面白い顔してくれたろうにとも思う


大鳳「いつもこのくらいに起きてくれると嬉しいんだけれどね?」

提督「んー…どして?」


寝ぼけた頭ではその意を汲み取れず

素直に聞き返す事にする


大鳳「貴方と一緒の時間が増えるから、ではダメかしら?」

提督「…」


そう言って微笑む大鳳

その頃には、正確に言うならその言葉のせいですっかり目が覚めていたし

動き出した頭でもって、その言葉の意味も理解できていた


提督「…お腹が空きました」


強引に話を逸らす。それはもう、誰が見ても分かるほど強引に

照れ隠しにハイテンションで切り込んで来るなら、悪戯も出来ただろう

頬を染めて囁かれたなら、その頬を突っつけもしただろう

だがしかしだ

何の臆面もなく、ストレートに好意を向けられた時の対処法など考えていなかったし

それが出来るほど大人でもない自信はあった


大鳳「そうね、そろそろ出来る頃だと思うけれど」


逸らされた話題に不満の色を見せることもなく、会話を繋ぐ

提督の反応なんて予測済みの様だった


瑞鳳「おまたせー。っと、提督もおはよ」


噂をすればなんとやらと、瑞鳳がキッチンから出てくる

いつもの和服姿に割烹着がよく似合っている

その手には朝食の乗ったお盆

小柄な体には少々大きめではあったがそれを軽々と持ち運んでいた


大鳳「悪いわね。私の分まで用意してもらって」

瑞鳳「良いって、1人分も3人分も大差ないしね」


運んできた朝食を並べていく

瑞鳳、大鳳、そして当然のごとく提督の前にも用意された

基本的には一般的な和朝食だったが

一つ違いがあるとすれば

本来、隅っこで彩りを添えている筈の玉子焼きが

堂々と真ん中で、黄金色の輝きを放っている事くらいか


提督「…用意のいい事で」


どうやら、毎週この日のこの時間に起きてくるのは把握されてるようだった


瑞鳳「食べるでしょ?」

提督「たべりゅー…」


いつだったか、瑞鳳が着任したての頃を思い出して

少々蒸し返してみる


瑞鳳「…」


すっと下げられる玉子焼き

玉子焼きの輝きがなくなったせいか、残りの料理まで色あせて見えてくる


提督「あ、まって食べる。食べるから」

瑞鳳「まったく。素直にそういえばいいのよ」


提督を制御する方法その1:餌付け

割りと周知の事実になりかけていた


「すーぱー◯ーろーたーいむ」(←テレビの音


時刻はAM7;30

いつも昼前まで寝っ転がってる提督が

起きているには驚異的なこの時間帯

そして、そのお目当ていえば朝のテレビ番組だった


「水雷戦隊、グンカンジャー!」(←テレビの音


卯月「なみをきれー♪」

文月「つきすすめー♪」

睦月「3・2・1・GO!」

金剛「Fire♪」


「水雷戦隊、グンカンジャー♪」


菊月「うむ、いい歌だな」


テレビの前を陣取っていた お子様連中が

流れる主題歌に合わせて、ノリノリで歌っていた

約一名、大人のお姉さんも混じってはいるようだがこの際は置いておく


提督「お、今回の怪人強いな…」

瑞鳳「なんでそっちの応援してるのよ…」

提督「5対1なのに、ヒーローを圧倒する怪人、そういうのに私は憧れるの」

瑞鳳「…負けてんだけど」

提督「儚い活躍だったわ…」


様式美か、逆転をゆるしてしまえば

あとはなし崩しで、怪人がボコボコにされて、必殺技で締めくくりとなる


怪人がやられたのを見届けると、ご飯に向き直る提督


大鳳「こっちの応援はいいの?」

提督「あーそれなぁ…」


怪人がやられてしまえば、なんのかんので巨大化して

ヒーローたちもロボットで応戦する、いつもの流れ

駆逐艦どうしが変形合体するさまは、提督なんてやっていると惹かれるものがある

それは良いんだけど…


提督「必殺技撃って終わるんだよなぁ…」

大鳳「…なるほど」


言ってる傍から、真っ二つにされた巨大怪人が爆発四散した

5対1で善戦してた時とは偉い差だった


「あーっ!」

提督「ん?」


子供たちの声に、顔を上げて画面に視線をもどす


菊月「またこいつか…」

金剛「Ambushとはヒキョーデース」


さっきまで勝利の余韻に浸っていた、正義のロボットが吹き飛ばされ地面に転がっていた

そして、その犯人は…


提督「あ、アルバコアじゃん…ひひひ、相変わらず横槍入れるの好きね、こいつ」

大鳳「…」


憤慨する子供たちとは裏腹に、愉しそうに笑う提督

どうやらお気に入りらしい


瑞鳳「大鳳?どしたの?」


急に固まった大鳳を怪訝そうな顔でみる瑞鳳


大鳳「ううん。少し、懐かしい名前だなって」

瑞鳳「ああ…そうだったわね」


昔の仇敵との再開

といっても、テレビの話だ。何がどうというわけでもなく

ただ、話のネタにされるぐらいには時間がたったのだと、そんな事を考えていた


そして、こう次回

ながれるEDテーマの後に、次の番組へバトンタッチ


「この後は、仮面ライ◯ーヒリュウ」

「多聞丸にっそんな玩具は必要ありませんっ!」


瑞鳳「わたしさ…いつも思うんだけど…」

大鳳「ええ、言いたいことは分かるわ…」


頷き合う2人、言葉にせずとも思う所は一緒らしい

つまりは。飛龍さんが一体どういう環境で育ったら、こんな台詞を言うようになるのだろうかと



ー旧校舎ー


廃校になった建物を再利用しているのが今の鎮守府

その敷地内の隅。鎮守府の建物の陰に隠れて表からではよく見えないが

少し小さめの校舎が建っている

鎮守府の建物も年季が入ってきてはいるが

それに輪をかけて古めかしい

いわゆる一つの旧校舎

どれほどの期間放置されていたのだろうか

風雨に晒され所々崩れかかり、あちらこちらから雑草が生え放題になっていた


夕張「さ~、妖精さんたちー。頑張らないと終わらないわよーっ!」


そんな校舎の傍で

夕張が、デカイ図面を広げて妖精さん達に次々と指示を出していく


「鬼っ!悪魔っ!夕張っ!」


などと妖精さん達から、次々と怨嗟の声が漏れ聞こえるのは何なのだろうか


夕張「なんとでも言うがいいわっ!悪魔に魂を売ったのは貴方達なんだからっ!」


どうやら買収済みらしい

契約の上なら文句のつけようもない

夕張に言われるがままに、校舎の周囲

あるいはその中で、かんかんこれこれと、動きまわる妖精さん達


提督「朝から元気ね、ゆうばりんは…」

夕張「おはよ、提督」

提督「はい、おはよー…進捗は?」


気怠そうだった提督の顔がすっと引き締まる


夕張「今の調子なら夕方には」

提督「ギリギリか…最悪、計画の変更も考えるか…」

夕張「のんのん。この夕張にお任せあれ、ね?」


微笑みかけてくるその表彰からは、不安も憂いの色も読み取れず

どうにも、本気で終わらせるつもりらしい


提督「そうか…まかせた」

夕張「任された」




そして日が暮れ、夜になる

それより少し前には、伸び放題だった雑草も刈り取られ

所々朽ち果ていた部分には補修がなされていた

一見しただけでは、廃墟一歩手前だったとは思えないほどに片付いていた

それが反日で完了したというのだから

妖精さん さまさまか、あるいは夕張さん さまさま なのか


皐月「この建物、こんなに綺麗だったっけ?」


記憶の中のそれでは、崩れそうになっていたはずだったのに

久しぶりに見てみれば、随分と小奇麗になっている


金剛「Hey,Girls。集まってますネー」


旧校舎の扉が開き、中から金剛が出てくる


金剛「それでは、聞いてたと思いますが…」


そこで勿体ぶって言葉を区切る金剛

その前には、睦月型の娘達が集まっていた


金剛「皆さんにはこれから、ホラーハウスを探検してもらうネっ」


俗言わなくても 肝試し

夏なんだし、やっておいて損はないかと言うことで始まった企画だった


卯月「どーせ、シーツ被って恨めしやーとか言うだけぴょん」

弥生「それでも、驚いてあげるのが優しさ…」


嘲るように笑う卯月を、大人の対応でもって諭す弥生さん


金剛「ふっふっふっ。そう言ってられるのも今の内デース」

菊月「自信はあるようだな?」

金剛「Yes,だって…ほら、もう、そこに…」


ふと、蝋燭の灯りが消えたかの様に、金剛の笑顔が消え失せる

そして、ゆっくりと持ち上がる腕

その指差す先に釣られて、恐る恐るながらも、皆が後ろを向いた


バンッ!


突然の音に、一瞬時間が止まったかの様に少女たちの動きが止まる


金剛「HAHAHAHA♪驚いた人は素直にお手上げデース」


音のする方に顔を向けてみれば、笑顔の金剛

その両手が拍手をした後の様に、胸の前で合わされていた


望月「ほら、三日月…」

三日月「お、驚いてなんか無いんだから」


望月が三日月の手を取り、上へと持ち上げようとする

一緒に自分の手も持ち上がってしまっているのは

結果としてなのか、案外と驚いたりしてたのか



ー旧校舎:放送室ー


ザッと、雑音が混じった後

設置された通信機から金剛の声が聞こえてきた


金剛「テイトクー、あいらーびゅー」

提督「…みーとぅー」

金剛「VeryGood♪」

提督「で?」

金剛「皆なかに入ったデース」

提督「そうか…ふふふふふ…」


この後の事を想像してか、提督の口から愉悦が漏れ聞こえる

悪戯している前後には、よくよくこういう笑い方をしているけれど

今日はそれに輪をかけて酷かった


金剛「oh…大鳳。提督は大丈夫なのデスカ?」

大鳳「ええ…多分」


最悪、無理やり止める必要があるとは思うけども



ー旧校舎・廊下ー


旧校舎内を、ゆっくりと歩く少女たち

その廊下を照らす灯りは仄暗く、今にも消えそうな程薄暗い

いや、場所によっては既に寿命が尽きていた


如月「取り敢えずは、校長室かしら?」


校舎に入る前に金剛から受けた説明


ルールは簡単デース

最上階の校長室に行って戻ってくるだけネ


至ってシンプルなものだった


睦月「それじゃー睦月に続けー♪」


駆け出そうとした睦月

が、その足が止まった


「と~りゃんせ~と~りゃんせ~…」


備え付けのスピーカーから、漏れ聞こえてくるか細い声

よく聞く童謡、別に珍しくもない楽曲

だが、状況が違えばこうも耳に纏わり付くものなのか…

たださえ薄暗い夜の学校

そこに、今にも消えてしまいそうな程、細い細い不安感を抱かせる声

その細い声が古いスピーカーを通るせいか、所々途切れて余計な不安を煽っている


「このこのななつのおいわいに~、おふだをおさめにまいります~」


菊月「これ、大鳳…か?」

文月「うん…」


スピーカーが古いせいか

いつもの優しい声音が掠れて聞こえてくる

いつもと違う場所に、いつも聞いてる声

非日常と日常が秤の両サイドに置かれる

バランスをとっている両者…だが、その日常が掠れてしまえばどうだろう?

掠れて、今にも消えてしまいそうな大鳳の声は、不安を煽り日常のイメージが崩れていく

傾く天秤、増大する非日常…


「いきはよいよいかえりはこわい~、こわいながらも…」


ガッ!


長月「っ!?な、なんだ…」


スピーカーから異音が響く

それっきりだった。それっきり音が止み静寂が戻る

だが、スピーカーの音に馴れてきた耳に突然の静寂

覚えはあるだろうか?

喧騒が突然静まり返った時に、多少なりとも不安感を感じる様なそんな感覚に


三日月「と、とりあえず先に進まない?」


三日月の提案に頷き、再び歩き始める少女達

階段を昇って、最上階の校長室へ

その足取りは、足元から這い上がってくる不安感から逃げ出す様だった



ー放送室ー


提督「くくくくく…はははははっ♪」

大鳳「…提督、笑いすぎ…」


モニター越し

そこには期待通りに恐怖を煽られてる皐月達が映っていた


提督「いや、だって…大鳳、怖いぞその歌」


確かに綺麗な声ではあった

しかし、如何せん綺麗過ぎた

ガラスの様に透き通った声音は、どこか作り物めいた感想を抱かせ

ただの童謡が、郷愁を誘うどころか郷愁に引きずり込まれそうな気分になる


大鳳「もう…提督が歌ってくれって言うから…」

提督「いやいや、お陰で大成功だ」


モニターに目を向ける提督

お歌の前には余裕綽々だった表情が、今ではすっかりなりを潜めている

それでいい、恐怖とは想像の産物だ

だれだって理解出来ないものは恐ろしい

だから想像する、それを誤魔化すために、良くも悪くも想像する

あそこの角に何かいるかもしれない、そんな不安

普段なら、そんな訳はないと、誰も居ないと想像できるから何も怖くはない、が

状況が違えばどうだろう

お化けを見た直後なら?モンスターに襲われた直後なら?

ああ、そこにまだ居るかもしれない、と考える人も増えるだろう

だから煽る。もしかしたらと、でもだってと

不安を煽り、疑心暗鬼を炊きつけて、心の平行を崩す


提督「先ずは成功、かな?」

大鳳「…」


愉しそうに笑う提督

さすがの大鳳さんもちょっと引いていた



ー校長室ー


皐月「じゃあ、開けるよ?」


皆が頷いたの確認して、恐る恐る扉を開ける皐月


皐月「うっ…」


扉を開けたまま、皐月の手が止まる


文月「なーにー?」


その横から、ひょいっと顔を出して文月が部屋の中を覗きこんだ


文月「うわぁ…」


ご丁寧にチラつく電灯、そこまでなら予想通り

ただ、気になるのは目の前の人形

校長と札が立てられた大きめの机の真ん中に

赤い着物を着た、色白で髪の長い人形が鎮座していた


望月「趣味わりぃ…」


つぶやいたのは望月。けれどそれが、少女たちの総意だった


恐る恐る室内に入る

辺りを見回しても何もない…電気もチラついたまま

そろそろ、シーツを被って恨めしやー何てもしてもいい頃合いだけれど

大鳳さんの歌があった意外は特に何もなし


長月「これは…ふむ」

如月「なにかしら?」


机の上、日本人形の前に置かれた紙切れ


ここからが本番だよ諸君

現在、君たちの入ってきた扉、正面玄関には鍵がかかっている

それを外す為には、このメモに書いてある場所で

解除スイッチを押してもらいたい

全部で5部屋用意したから、部屋には二人ずつで入ってね?

全部のスイッチを押して見事脱出できればクリアだよ

あと、くれぐれも、書いてない部屋には入らないように

古い建物だからね、安全は保証しかねるよ…


追伸

怖くなったら。防犯ブザーでも鳴らすといい…


皐月「これ、司令官の字だね…」


お世辞にも綺麗とは言えないが

お陰で誰が書いたのかわかりやすくはあった


三日月「防犯ブザーって…これ…」


三日月の視線の先、日本人形の首に防犯ブザーが掛けられていた


望月「で、誰が取るよ…」


「…」

静まり返る室内。ただ人形からブザーを取るだけ、ただそれだけなのに

素直に手を伸ばせる娘は誰もいなかった


「ジャーンケーン…」


ぽんっと、実に公平な判定の結果


菊月「べ、べつに怖くなど無いが…」


恐る恐る手を伸ばす…僅かながらに震える指先が、人形に、防犯ブザーに触れる


文月「どーんっ♪」

菊月「ふひっ!?」


突然の文月の声

それに驚いた菊月の肩が跳ねる


文月「あはははは♪」

長月「やめてやれ…」

菊月「くぅ…後で覚えてろよ…」


恨みがましい視線を文月に向けて、日本人形に向き直る菊月


菊月「うっ…」


目が合った…何と?日本人形と

転がっていた…何が?日本人形が

驚いた拍子に手でも合ったったのだろう

鎮座していた日本人形が、今では打ち捨てられたかのように転がっている

その横には防犯ブザー、倒れた拍子に外れでもしたのか机の上に転がっていた

見つめ合ったところで、瞬きをするのは菊月だけ

その目は薄暗い部屋の灯りすらも吸い込んで

ただただ昏く、そこが抜けたようにも思える


ぱちり…


菊月「っ!?」


目が…まばたきが…人形が?

見間違いだろう…そう思う、思いたかった


長月「菊月?」


人形を見つめたまま

固まったている菊月の顔を、長月が覗きこむ


菊月「い、いや…なんでもない、行こうか…」

長月「ああ…」


防犯ブザーを手に取り、出口へ向かう菊月

それに続き皆も歩き出す


卯月「で、どこから回るぴょん?」

弥生「とりあえず、近場から?」


扉が閉まる、その前に…


「あそぼ…」


隙間から、這い出るような子供の声…

普段なら聞き逃してしまいそうなほど、小さな声だったが

この旧校舎の静寂の中では、いやにハッキリと耳に纏わりついた


少女たちの足が止まる

今の声は誰かの悪戯なのかと、お互いに顔を見合わせるが

犯人は見つからず、膨れ上がった想像が生み出した答えは

先の日本人形…


睦月「あー…。さ、さー張り切ってまいりましょう」

如月「そうねぇ…」


努めて明るい声を出して、睦月が歩き出す

それに習って再び歩みを始める少女たち

そうだ気にしたところで仕方がない…今はさっさとここをクリアするほうが


睦月「ひっ…」

如月「睦月ちゃ…ぅ」


廊下を進み、角を曲がって階段に差し掛かった所に、それは居た

屋上に続く階段、その踊場に

赤い着物を着た、色白で髪の長い人形が佇んでいた


卯月「うげ…」

弥生「…きっと、球磨さん達が先回りして…」


現実的に考えればそんな所だろう

だからと言って、気味が悪いのには変わらない


三日月「と、とりあえず…上には用はないから…うん」

如月「そうね…下に行きましょうか」


逃げるように階段を下る少女たち…


「あそぼ…」


その背中を、か細い子供の声が追いかけていった




多摩「にゃしししし…」


そう、きっと球磨さん達が先回りしただけ

冷静に考えればその通り、実際のところもその通り


多摩「これは意外と楽しいにゃ…」


人を弄ぶ愉悦とでも言うのだろうか

提督がワクワクしてたのも頷ける


多摩「こちら多摩、子猫ちゃん達は階下に降りたにゃ…」


提督たちに連絡する多摩


提督「どうだった?」

多摩「最高にゃ…」

提督「だろう?」

多摩「にゃーん♪」


笑い合う提督と多摩


大鳳「はぁ…」


そのマイクの向こう側から、大鳳のため息が漏れていた



ー理科室ー


特別教室棟の一角

学校だというなら当たり前にある理科室

そこに、睦月と如月の2人が足を踏み入れる


睦月「お邪魔するしぃ…」


恐る恐る部屋に入って辺りを見渡す

天井の電灯。その頼りない灯りが辛うじて部屋の全体を浮き上がらせる

夜明け前の、黄昏時の薄暗さ、色の褪せた世界


如月「誰も居ないわよね…」


それはそう、見れば分かる

雑然と並んだ机と、薬品棚

そこから漏れてくる薬の独特の匂い…


睦月「スイッチは…」

如月「アレじゃないかしら…」


部屋の隅、ご丁寧に人体模型の隣に

非常様ボタンのそれの様な、赤くて丸いボタン

見るからに目新しいそれは、この古びた世界で浮き上がって見える


睦月「じゃーさっさと押して戻るにゃしぃ…」

如月「ええ、そうしましょうか」


人体模型の前に立つ2人

部屋の隅。出口からは最も遠い所

その対面、反対側の隅には骸骨の標本

その落ち窪んだ眼下が、睦月達を見つめているようだった


睦月「ふ、2人で、おそ?」

如月「ええ…」


手をつなぐ2人

お互いの温もりを確かめるように、固く強く

そして、恐る恐るとスイッチに手を伸ばし、強く押し込んだ


睦月「何も…ない?」

如月「まさか…」


司令官がそんな中途半端なことするわけが


がらんっ!!


睦月「ひぃっ!?」

如月「ちょっと睦月ちゃん…」


突然の物音に、驚いた睦月が如月にしがみつく

音のする方には転がる骸骨

なるほど、ボタンを押せば時間差で転がるようになっていたのか

努めて冷静に事態を把握して、なんとか早鐘を打つ鼓動を押さえつける如月


如月「ほら、大丈夫だから。行きましょう睦月?」

睦月「う、うん…」


如月に抱きついたまま、ゆっくりと歩きだす


べちゃ…


一歩、踏み出しした

そして、踏みつけた…何を?

さっきまでは、乾いた板の、古びた床の固い感触だったのに

これはなに?

柔らかい、弾力もある…そう、生肉でも踏みつければ こんな感触になるだろうか…


「…」

固まる少女たち

視線を下に動かしたら負けな気がしていた

それに、背後からは水が滴るような音も聞こえる

Q背後には何がある?

A人体模型

Qでは何が滴っているのか

A…

水道なんて無かったはず…

分かっている、これは司令官のお遊びだ、趣味が悪いのにも程がある

分かっている、分かっている分かっている…


「いたい…からだ…いたい…いたいいたいいたい…」


睦月「ひっ…」

如月「な、なに…」


背後からの声、呪うような恨むような、重苦しい声

首が動く、見てはいけない、そんなの分かっているのに

確認せずにはいられなかった

確認しないと、足が動かなかった…

好奇心猫を殺すとは良く言ったものだ…


睦月「いぃぃぃぃぃ…」

如月「…」


そこには変わらず人体模型が佇んでいる

立っている位置も変わらない、別に走って追いかけてくる気配もない

ただ、無かった。あるべきはずの、それらが…

空洞になっている模型のお腹

薄暗がりの中でも、何処か瑞々しい風合いを見せるそのお腹の中は空っぽで

ああ、辿ってしまった、追ってしまった

水音の先を、腹から流れる何かが床を叩くその先を

そして、理解する

いま、自分達の足が、一体何を踏みつけているのかを…




扉が開く…


睦月を背負った如月が、青白い顔で中から出てきた


皐月「…如月、その足…」


ふと足元に向いた目線

さっきまで無かった色に誘われて見てみれば

血だまりでも歩いたかのように、如月の靴が赤黒く汚れていた


如月「血糊よ、たぶんね。ええ、ほんとうに…バカだわ、あの人」


乾いた笑いを貼り付ける如月

その足が崩れた床にへたり込む


三日月「何が、むぅ」

望月「聞くなよ」


三日月の口を塞ぐ望月

そんな質問の答えなど、聞きたくはなかったし

なにより、震えて如月から離れようとしない睦月を見れば

ろくなもんじゃ無いのは用意に想像がついた




北上「…」


扉が閉まるのを確認して、潜んでいた北上が顔をだす


北上「てーいとくー…こっちは終わったよ~ん」


通信機を動かして、任務完了のご報告

話しながら、足元の肉塊もどきを小突いてみる

気持ち悪い。後にも先にもそんな感想しか浮かばない

横を見れば人体模型と目が合った


北上「そんな目で見られてもねぇ…」


いや、どんな目してるかなんて分かんないけどもさ



ー放送室ー


提督「完璧だな、夕張」

夕張「でしょうっ!」

大鳳「はぁ…」


二人してご満悦だった

というより、なんで彼女はこうもテンション上がっているのか

技術屋の性なのか


倒れた骸骨の音に合わせて、人体模型の模造臓器をばら撒く

今回はそんな趣向だった

趣味の良し悪しで言えば、最悪である



ー音楽室ー


寂れ果てた部屋

机も椅子も何処へ行ったのやら

ただ、部屋の真ん中に置かれたピアノと

それを囲むように見つめる偉人の肖像画が

在りし日の音楽室の姿を偲ばせる


文月「ベートーヴェン♪」

皐月「…ベートーヴェン」

文月「モーツァルト♪」

皐月「…モーツァルト」

文月「バッハッ!」

皐月「バッハッ!」


肖像画に視線を這わせる文月が、端からその名前を読み上げる

皐月もつられて名前を口ずさんで見れば、どこか輪唱のようにも聞こえてくる

しかし、バッハさんだけ妙に気合が入っていたのは何故だろうか


文月「えへへへ。強そうだよね、バッハさん」

皐月「音楽家だよ?」


強いも弱いも必要ないと思うけど

けどまぁ…


皐月「覚えやすいのはいい事だよね」

文月「ねー♪」


そうやって、ひと通り部屋の中を見渡すと

案の定というべきか

ピアノの上に、赤いスイッチが置かれていた


皐月「あれだね」

文月「うん」


ピアノの前に立つ2人、恐る恐る指を伸ばす

これを押せば何かあるのは分かっているだけに、なかなか勇気のいる作業だった

今のところ、目についておかしな物はない

あるのはピアノと肖像画

目が動くのだろうか?

それぐらいなら、気味は悪いが耐えられないことも無いと思う、けど…


文月「せーのっ」

皐月「ん」


文月の掛け声に合わせて、一緒にボタンを押す


~♪

すると、手元のピアノから突然甲高い音がなる


皐月「ひとりでに鳴るピアノ…」

文月「定番だねぇ…」


物悲しい旋律が部屋を満たす

いっそトルコ行進曲やら天国と地獄でも鳴り響けば、多少気も晴れたろうか

だが実際は、ピアノソナタ 第14番 「月光」

ただ静かに、しめやかに、淑やかに、月の光のような柔らかい旋律がただ奏でられる


皐月「それじゃ、ボタンも押したし…」

文月「あれ…」


部屋を出ようとした皐月の服の裾をひっぱる文月


皐月「…」


風もない、完全に無風の部屋なのに

ピアノに立てかけられていた楽譜がひとりでに捲れる


はらり、ひらり、ぱらぱらぱらぱらぱら…


一枚また一枚と捲れる度に加速していく楽譜のページ

描かれる五線譜と音楽記号

ページが変わる度、記号の位置が変わり、まるで動いているように見え始める

ふと、五線譜がひしゃげて曲がり、記号が形を変える

五線譜と記号が合わさりピアノを描く

目の前の鍵盤と描かれた鍵盤の動きが重なり

右からも左からもと音楽が聞こえ出し、2重螺旋のように折り重なっていく


描かれている鍵盤に人の指が浮かぶ

細い指が滑らかに動きピアノを奏で続ける


文月「…」

皐月「…」


一歩、ピアノから離れる2人

鍵盤の前に置かれた椅子に誰かが居るような錯覚を覚える

居るわけがないのに、目の前には誰も居ないのに


どこまでも続くと思われた演奏が…止んだ


どぉぉぉんっ!!


突然、奏者が指を鍵盤に叩きつけると

ピアノが叫びを上げて黙りこむ…

叫びの余韻が辺りに残る間にも

楽譜のページは進む…

奏者が立ち上がる…こちらを向く…ポケットから何かを取り出す

刃物だろうか…細くて長い…それを振り上げる…


「っ!?」

一瞬だった、奏者が腕を振り下ろすのと同時に

楽譜が切り裂かれて、飛び散ったページが花びらのように宙を舞った




扉が開く…


文月「ぅぅぅぅぅ…」

皐月「ちょ、ちょっと文月、そんな引っ張らないでっって」


文月が皐月の手を引っ張りながら、ずるずると部屋から出てきた

その顔は青白くなり、耐えていた何かの琴線が切れてしまったかのように震えていた


弥生「いがい、かも…」


いつも、飄々としてた妹が

ここまで怖がっている姿が単純に珍しい

あるいは、この扉の向こうにそれだけのものがあったのか


如月「どうだった二人とも…」


体験者は無言で語る、ろくなもんじゃ無いでしょう?と


文月「しれいかんのばかしれいかんのばかしれいかんのばか…」

皐月「ああ、うん。あの人にこういう事させちゃいけないってのは分かったよ…うん」


震えている文月を抱きしめて優しく頭を撫でる

意外と、ホラーに弱い文月だった




大井「あの娘、ホラー苦手だったのね」


最初こそはいつもの笑顔を見せていたけども

限界が来ると、崩れるタイプらしかった

飛び散った楽譜を集める大井さん


大井「悪いわね、乱暴に扱って…」


愛でるようにピアノを撫でると、席につく


~♪

再び流れる旋律


小フーガ ト短調


風のように軽やかな演奏が湿った空気を乾かしていく

その代わりに、骨の髄まで干からびそうな空気が漂う事になったが



ー放送室ー


提督「学校の怪談、その2。独りでに鳴るピアノ、見えない奏者…よく再現出来たね」

夕張「なんとかね」

妖精「てがきあにめのいだいさがわかりますなぁ…」


そんな妖精さんの手には白い湿布のようなものが巻き付いていた

どうやら、ジェバンニが一晩でやってくれたらしい


大鳳「そういえば提督」

提督「ん?」

大鳳「どうして、みんな一緒に入場させないの?」


素朴な疑問だった

皆の怖がってる姿が見たいなら、そっちのほうが楽しめるのではないかと


提督「まあ、一回きりならそれでもいいけど。不安とかパニックって伝搬するからね…」

大鳳「ああ…ちゃんと考えてはいたのね」

提督「当たり前だ、怖がらせたいのであって、怪我させたいんじゃないのよ」


もし仮に、部屋に全員入ったとしよう

不安だのパニックだのは簡単に伝搬する

2人くらい暴れだすなら抑えも効くが、10人全員だと大惨事も良いところ


大鳳「そういうなら、もう少し可愛げのある脅かし方にすればいいのに…」

提督「これでも加減してるのよ?」

大鳳「…これで、ねぇ」


じゃあ、全力でやったらどうなるのかと、不安しかない大鳳だった



ー廊下ー


次のチェックポイントに向かう一行

2つの関門は突破して、次で折り返し地点といった所か


卯月「…ちょっと、すとっぷ」

弥生「ん?」


卯月に手を引かれて弥生が足を止めると

それに合わせて皆も足を止める


みしぃ…


床板から音がなる、それは良い

古い廊下だそんな事もある、問題なのは

全員が足を止めたその後に…遅れてひとつ、足音がなったこと


「…」

後ろを振り返る、当然誰もいない

付いてきているのだろうか、そこにいるのだろうか…見えない恐怖がどんどんと積み重なっていく


長月「…とりあえず進むぞ」

菊月「ああ…」


長月に続く様に歩きだす少女たち

ああ、気づいてしまった

10人の子供の軽い足音のなかに、大人のものであろう重い音が混じっていることに



ートイレー


望月「トイレかぁ…」

三日月「定番といえばそうだけど…」


有名所では、トイレの花子さんだろうか

誰だって一度は聞いたことのある話だろう


望月「で、スイッチは何処よ?」

三日月「多分、個室…」

望月「うへぇ…」

三日月「あはははは…」


もう嫌な予感しかしない

トイレなんてそう広いもんでもないし

仕掛けるには個室しか無いだろう

扉を開けた瞬間何かが待ってるのは目に見えている


ごんっ…


三日月「っ…なに?」


不意に、扉に何かがぶつかるような音が室内に響く


ごんっ…


望月「ほら、きた…」


規則的に音が響く度に、衝撃で扉が震えている

多分に一番奥のトイレだろう、音が響く度に扉がガタついていた


三日月「と、とりあえず…ここから開けない?」

望月「いいけどよぉ…」


手始めにを良い訳にして、手前の扉を開く三日月

勿論、空である…個室内でもわかる、先程から続く音はもっと奥の方から聞こえているのが

そうやって、次々と扉を開けるも全部空で…ついに最後の扉まで来てしまった


三日月「…ど、どうしよう?」

望月「はぁ…いいよ、あたしがやるから」

三日月「も、もちづき…」


自分の手の震えを抑えるように、望月の手を握る

その手を握り返すと、望月が扉を開いた


望月「ははっ…マジか」

三日月「ね、ねぇ、ボタンあった?」


目をつぶって望月の手を握り震えてる三日月

そのお陰か厄介なものは見ないですんだらしい


目の前には赤いボタンがあるにはある

だが問題はその上、何かに吊り下がっているのだろうか

人型をしたなにかが、その足を揺らしていた

その上の方は見えない…というより見たくもないから目を逸らす


望月「…はぁ」


息を吐くと、覚悟を決めてボタンに手を伸ばす

途中でこの人型が動くだろうか、とも思ったがそんな事はなく

すんなりとボタンに手が届いた


望月「これだけ、か…」


姉さん達がいやに怯えていたから何かとも思ったけれど


三日月「ね、ねぇ?望月終わったなら…」

望月「ああ…ん?」


望月の手を引いて出口へ戻ろうとする三日月

それに引っ張られてボタンから手を離すと、足元の便器から水が流れだした


渦を巻く水の流れ…だが、それが落ちていくことはなくどんどんと溢れだす


ぼこっ…


便器の奥から気泡が抜ける

それに押し出されて、黒い塊…髪の毛だろうか…

伸び放題に伸びきって、一心不乱に絡まりながら便器の奥から溢れだす

透明だった水も次第に、赤みを増し濃度を上げて黒々としていく


望月「三日月、後ろ向け、んで歩け…」

三日月「え、あ、うん…」


三日月の肩を押して、反転させるとその背中を押してその場から逃げ出す望月

付き合いきれん、最後まで見てたら何が出てくるかわかったもんじゃない


三日月「ちょっと、望月そんなに押されたら歩きづらいって…」

望月「いいから、目をつぶったままあるけあるけー」


ぐいぐいと三日月を押して、出口へ向かう望月

その後ろ、背中の向こうで…


べしゃりっ…


何かが床に落ちた音がする

更には、動いているのだろうか、水を叩く音が断続的に聞こえてくる


望月「…」


あーきこえないきこえないきこえない、望月さんは何もみてなーい




扉が開く…


押し出されるように出てくる三日月の後から、望月が顔を出し

八つ当たりでもする様に勢い良く扉を占めた


皐月「どうだった?」

三日月「えっと…目をつぶってたからあんまり」

如月「賢明ね…」


お疲れ様と、三日月の頭をなでてやるお姉ちゃん


睦月「望月は?平気だったの?」

望月「んーあー…扉開けたら、なんか人がぶら下がててよー」

文月「やーめーてーっ!」


小さな体を目一杯使って、望月の口を塞ぎにかかる


望月「お、おぅ…」

皐月「あははは。つぎ、いこっか」




木曾「ちっ、逃げたか…折角用意したのによ」


ぶら下げてた人形を引きずり下ろす

その足元には水浸しになった床と、便器の奥から気味悪く伸びる真っ白い手


木曾「…はーなこさん、なーんてな」


定番だ、一度くらいは言ってみたくもなるその台詞


「はぁーい…」


木曾「へ?」


どこからでもなく、声が返ってくる

気のせいか、なんて良い訳を自分にしたくもなるが


それと同時に、便器の中に浮かんでいた髪の毛が盛り上がる

沈んだボールが浮かび上がって来るようではある

けれど、こんな所にボールが沈んでるわけなんてないし、沈めた覚えもない

では、もう一つ浮かぶイメージ

例えばそう、水の中から人が顔を出すときのような…


「あ・そ・び・ま・しょ…」


狭い個室に声が響く

便器からは赤い水を滴らせながら、何かが浮かんできている


木曾「っ!?」


木曾は逃げ出したっ

一心不乱に逃げ出した、全速力だったし、全身全霊だった



ー放送室ー


大鳳「うふふふふ…」


マイクのスイッチを切る大鳳

モニターには丁度、木曾さんがトイレから飛び出したところだった


提督「大鳳…お前も大概だろう?」

大鳳「あら。子供たちをイジメる趣味まではないわよ?」

夕張「木曾さんなら良いんだ…」

大鳳「良いんじゃないかしら?」


とっても満足したって顔の大鳳だった



ー視聴覚室ー


卯月「やっとうーちゃんたちのばんぴょん、このままでばんなかったらどうしようかと…」

弥生「卯月、おちついて…」

卯月「お、落ち着いてるし…」


部屋に入った途端、まくし立てるように言葉を並べる卯月

誰がどう見ても、怖いのを誤魔化してる女の子にしかみえなかった


卯月「とりあえず、ボタン…」


部屋の奥、教壇の上に置かれた赤いボタン


弥生「いこ?」

卯月「ぴょん…」


弥生に手を引かれて歩きだす卯月

そして、2人で教壇の前に立つ


弥生「押すよ?」

卯月「ちょ、ちょっと待つぴょんっ」


きょろきょろとあたりを見回す卯月

不審物は無い。開けた部屋に、目の前には大きな映写機のスクリーン


卯月「ゆ、ゆっくりね?」

弥生「はいはい…」


弥生の手にしがみつく卯月

対して弥生の方は、いつもの無表情のままに淡々とボタンに指を伸ばす


卯月「!?」

弥生「ん?」


ボタンを押すと同時に、映写機が動き出しスクリーンに何かが映し出される


卯月「ん…みんな?」

弥生「みたい、だね?」


映像は廊下の様子だろうか

外で待機してる皆と古びた廊下が映っている


弥生「…ん?」

卯月「弥生?」


ふと、弥生が何かに気づく

スクリーンの端。映像的には廊下の向こうから、滲みだすように黒い足が映る

一歩、一歩、一歩とゆっくりと、つま先が、足が、膝が、太ももが

次第に顕になっていく人影


卯月「あ、あいつ…何、ぴょん」

弥生「さっきの、足音…とか?」

卯月「ぴょんっ!?」


そこで思い至る、努めて無視していたら、いつの間にか止んでいた足音

いま、それが、そこに、映っているのではないかかと…


弥生「でも…あんなに近いのに」


誰一人気づかない、そろそろ視界にだって入りそうなものなのに


卯月「弥生っ!?」

弥生「え、うづき…ぁ」


弥生の手を引いて卯月が駆け出す、それに合わせて弥生も走りだした




勢い良く扉が開く


長月「どうした、血相変えて…」

菊月「変なものでも見たか?」

卯月「い、いまそこにっ」

弥生「いない…」


顔を白くした卯月が、キョロキョロと辺りを見回すも

目に映るのは、いつもの見慣れた顔

それはそれで安心するんだけど、今はそこじゃない


望月「あー、あたしらを脅かそうって?」

卯月「ち、違うぴょんっ、さっきあそこにっ」


卯月が振り返り、今一度スクリーンを確認する


卯月「…」


固まった

映像は既に切り替わり、今度は室内だろうか

卯月と弥生の背中が映されている

そして、さっきの黒い人影が…いま、自分の後ろに映っている

だというのに何故だろう。後ろを向いているにもかかわらず

卯月とスクリーンとの間に立つ人影はなく、薄暗い部屋が通して見えた


弥生「卯月?」


急に固まった卯月を心配そうに覗きこむ


みしぃ…


床を、古びたを床を踏みしめる音

さっきも聞いた嫌な音だった


卯月「ぎゃーぁぁっぁぁぁっ!?」

弥生「ふぇっ!?」


卯月が弥生に飛びつき、そのまま押し倒すようにして扉から離れた

卯月が離れると同時に勢い良く閉まる扉

その音に皆も多少は驚きはするものの、それよりなにより、卯月の怯え様の方が怖かった


卯月「なんまいだぶなんまいだぶなんまいだぶ…」

弥生「卯月、落ち着いて、ね?」


震える体を弥生に押し付けて、なんとか恐怖を抑えこもうとする卯月


望月「なんだってんだ…」


気になった望月が扉を開けようと手を伸ばし…


文月「やーめーてーっ!」

望月「あいあい…」


力いっぱい望月のスカートを引っ張って、必死に抵抗する文月だった


弥生「もぅ、服ぐちゃぐちゃ…」

卯月「ご、ごめんぴょん…」


卯月が落ち着いた頃には、弥生の制服は涙と汗と◯水でべちゃべちゃになっていた




瑞鳳「ぷふっ…あははははは」


卯月達が扉の前から離れたのを確認して

部屋で待機していた瑞鳳が、堪え切れずに声を上げて笑い出した


瑞鳳「ぎゃーって、卯月ぃぃぃぃ、ひひひひひ、ぎゃーとかいってっ」


普段の生意気な態度が一転しての怯えよう

これが可笑しくない筈がない


瑞鳳「はぁはぁ…後でからかってやろーっと」


ようやく治まってきた笑いを何とか飲み込み、平静を装う

内心では未だに、笑いが渦を巻いているが

一度、口を閉じてみれば一気に静まり返る室内


瑞鳳「…さすがに、ちょっと気味悪いわね」


頭に水でも掛けられたように、一気に目が覚める


瑞鳳「…ん?あれ?」


ふと、暗かった部屋に明かりが灯る

電源を切ったはずの映写機が、スクリーンに映像を投げかける


瑞鳳「なに?」


映っているのは室内…自分の姿

そして、もう一人の黒い影…


瑞鳳「え?え?え?」


あたりを見回す、誰もいない、それはそうだ…居るわけがないのに


みしぃ…


足音が聞こえる


瑞鳳「ひっ」


一歩、一歩、一歩…

途中、その腕が放置されていた机に引っ掛かり、その位置をわずかにずらす


瑞鳳「…あ、あはははは」


口から転がり出る乾いた笑い

映像の机が動くのと同時、目の前の、同じ箇所の机が、僅かばかりに位置をずらした


瑞鳳「ちょ、ちょっと提督っ、これっ…っぅ」


通信を入れては見るものの、ノイズが入って使いものにならなかった

では、目の前のこれはなんだ…提督の悪戯じゃないの…


瑞鳳「ひぃぃっっ!?」


瑞鳳は逃げ出したっ



ー放送室ー


夕張「ふふふふふふっ」

提督「にひひひひひ」


満足そうに愉悦に浸る夕張と提督

一しきり笑うと、通信妨害を解除する


大鳳「…敵は身内ね、ほんと」


小さく微笑んでみせる大鳳


「おまえもな」

とは、提督と夕張の言


大鳳「あら、手厳しいのね」


やりたい放題の放送室組だった



ー図書室ー


長月「なんだ、まだ本が残っているじゃないか…」


図書室というだけ合って、部屋の半分は本棚で埋められていた

その棚には、今もなお無造作に本が積まれ

借りるもののいなくなったこの場所で、静かに横たわっていた

在りし日の図書室を思い起こさせる本の数々

ここに捨て置くくらいなら、持って帰るかとも考えてしまう


長月「ん…これは…」


当時の新聞だろうか

古びた灰色の紙切れ。その端の方は、既に時間と共に風化してしまっていた

そんな紙面の中央、一面を使った大きな見出し


「現代の神隠し!!」


ゴシップ誌の様な見出し

一昔前に流行った心霊ブームのようなタイトル


◎月x日


◯神小学校の生徒が、行方不明となる事件が発生した


生徒は図書委員で、失踪当日も図書室にいたのが確認されている

生徒が居なくなった当時、図書室は内側より施錠されており

窓も全て締め切られ、部屋は完全な密室になっていた

部屋には、走り回ったような形跡が残され

何者かから逃げていたのでは、という見方もある

だとしたら、その何者かと生徒は何処へ消えたのだろうか?

警察は、部屋の状況と合わせて

図書室に片方だけ残されていた生徒の上履きの調べを進めると共に

校内外での、生徒の目撃情報と合わせて、不審者の情報も集めている


長月「…ゴシップか」


下らないと思いつつも、気になって全部読んでしまったが

安い推理小説の様な内容ではある…


長月「…」


更にもう一枚


◯神小学校、新校舎建設予定早まる

相次ぐ心霊事件により、体調不良や、不登校になる生徒が増え

事態を重く見た教育委員会は

新校舎建設を前倒しで進めるという異例の事態となる


長月「呪われた学校か…」


そういえば、この学校の名前は何と言ったろうか


長月「たしか…」

菊月「お、スイッチあったぞ」


喉まで出かかった所に、菊月の声が聞こえ

答えは奥に引っ込んでしまう

まあ、良い。スイッチさえ押してしまえばそれですむのだし


長月「じゃあ押してしまうか」


菊月の声に一旦思考を中断し、菊月の元へ向かう

なにはともあれ、司令官の遊びをさっさと終わらせないと


菊月「ん、これは…」

長月「あまり変なものに触るんじゃないぞ…」


なにが仕掛けてあるかわかったものじゃない


菊月「いや、ただの日記のようだが」

長月「日記か…」


◎月☓日

今日から図書委員になった

大好きな本とずっと一緒に過ごせるなんて、夢のようだ

この喜びを、日記に書いておこうと思う


菊月「普通だな…」

長月「それはそうだろう…というか、あまり人の日記を読むんじゃ」


図書委員と言われれば、なるほどと返せそうな程綺麗な字で書かれた日記

打ち捨てられてるとはいえ、なんとなく気がとがめ

菊月から取り上げようと、手を伸ばす


菊月「いや、まて…」

長月「なんだ?」


◎月☓日

なにか、妙な音がする

ネズミかとも思ったけれど

なにか違う気もうする


◎月☓日

誰かに見られている

疲れているのか、被害妄想なのだろうか

あの物音、どうやら人の足音のようだ

だんだんと大きくなっているようで気味が悪い


◎月☓日

わたしの隠れファン?

だと、嬉しいが…こんな悪戯をする奴とは付き合えないな

ひと通り、隅から隅まで図書室を巡っては見たが

だれも見つからない、呼びかけても返事はない

わたしが歩く度に、足音がするので、どうやら逃げまわっているようだ

足の速いやつめ


◎月☓日

今日こそ、捕まえてみようと思う

電気を消し、鍵を閉め、帰ったと見せかけて見よう

完璧な作戦だ


長月「ん?続きが…」

菊月「ないな…」


以降は白紙、ペラペラとめくっていっても何も書かれてない


菊月「…いや、これは」

長月「…」


たが最後に、1ページだけ

今までのきれいな文字がウソの様に、書き殴られている一言


「タスケテ」


菊月「…」

長月「…」


一瞬、体に寒気がはしり身を震わせる

「現代の神隠し」

馬鹿な話だ、とは思う

この日記の持ち主が失踪した生徒なのかと考えてしまう


長月「ボタンは、押したな?」

菊月「ああ、そうだったな」


今思い出したと、おもむろに手を伸ばし、その赤いボタンを押す

途端、頼りなかった電灯が一斉に落ちた


菊月「な、なんだ…」

長月「…」


みしぃ…


床を踏みしめる音が、部屋に響く


長月「だ、誰か居るのか…」


返事はない…


「たすけて…」


少女の声。それと、先ほどの足音よりも軽めの足音も聞こえてくる


菊月「だれだ…」


「たすけて…」


重い足音から逃げるように、動きまわる軽い足音


長月「逃げているのか…あの日からずっと」


◎月☓日

新聞に書かれていたのは、日付はどうだったか

2年や3年では きかなかったと思うが


菊月「お、お姉ちゃん…」


姉に身を寄せ、その手を強く握りしめる菊月


長月「に、にげるぞ…」

菊月「う、うん…」


ゆっくりと出口へ向かって歩き出す


「たすけて…ねぇ、そこにいるんでしょう?」


その姿は見えないが、向こうはこちらを見つけているらしい


「たすけて、こわいの、くるしいの、もういやなの、ねぇぇぇっぇっ!たすけてよぉぉぉっ!」


その叫びに引き裂かれるように、天井の蛍光灯にヒビが入り、甲高い音を立てて砕け散った


長月「っ!」

菊月「え、姉さん…」


突然、菊月を抱え上げる長月

火事場の馬鹿力とでも言うのか、同じくらいの体格の菊月を軽々と小脇に抱え込む

そしてそのまま、叫び声から逃げるように出口へと走り抜けた




扉が開く


長月「てぇぇいっ!」

菊月「ごふっ!?」


長月達が部屋から飛び出すと

抱えていた菊月をその場に放り出し

叩きつけるように扉を閉める


長月「はぁ、はぁ、はぁ…」


肩で息をする長月


「たすけて…」


扉の向こうから再度の懇願…そんなもの聞くわけにはいかない

終わった者の助け方なんて知るわけがない


長月「っ!?」


扉に衝撃が走り、ガラス部分に赤い赤い手形が付くと

ズルズルと、後ろから何かに引きずられるように、手形が下にずれていき…やがて、見えなくなった


文月「…」

卯月「…」

睦月「…」

弥生「…もう、終わったみたいだよ?」


気づけば姉やら妹やらに抱きつかれ、身動きが取れなくなってる弥生

この場において、いつもの無表情はなにより安心出来るものらしかった


長月「はぁはぁ…あ、あいつ、バカなんじゃないのか…」

皐月「うん、ボクもそう思う」

如月「限度は弁えるべきよね…」


呑気な肝試しを予想してたらこれだ

その辺のお化け屋敷どころの騒ぎじゃなかった


菊月「ぐしゅ…姉さん、いたいよ」

望月「おう、大丈夫かー」

三日月「絆創膏いる?」


妹2人に介抱される、お姉ちゃんだった




球磨「くまくまくまくま♪」


図書室で満足そうに笑う球磨

手についた血糊をタオルで拭っていた


球磨「…」


ふと、目に入るのは先程の日記帳


球磨「北上か…」


なんとなくだが、こんな字だったような気がする

それにしてもこの妹、ノリノリで書いてるな…


球磨「…ふむ」


「タスケテ」


最後のページの一文

ふと、球磨がボールペンを手にすると

その最後の一文字に、線を加え、角を強引に塗りつぶす


テ→タ


「タスケタ」


不格好だが、まあこれでいいだろう


球磨「さぁ、これで満足して逝くがいいクマ」


いもしない幽霊に話しかけ、日記帳を閉じると

そのまま部屋を後にする球磨だった



ー放送室ー


提督「そして犯人は私」


ドヤ顔の提督

◯神小学校の一連の怪異の主犯が此処に居た


夕張「あ、やっぱり」

大鳳「まあ、そんな気はしてたわ」


提督の突然の告白にはかかわらず

知ってたって顔をしてる2人


提督「あれ、反応が薄い…」


もう少し驚いてくれるものかと期待してたのに

思った以上に反応が薄くて、ご不満の様子


夕張「見てきたように細かい指示出してたし?」

大鳳「念のため聞くけれど…神隠しに合わせた女の子、どうしたの?」

提督「ああ、騒ぎになった後に隣町に置いてきた」


しれっと、それがさも当然のように答える提督


夕張「置いてきたって、あなたねぇ…」

大鳳「はぁ、そんなんだから…」

提督「あははははは。まぁ、古い話だよ…さて、そろそろ仕上げだな」


2人の小言などどこ吹く風と言った具合に

皐月達の観察に戻る提督だった



ー廊下ー


黙々と歩く皐月達一行

最初に比べて減ってしまった口数は、疲労のためか恐怖の為か

学校と言ったって、そんな大きいわけでもない。急いで歩けば直ぐに出口に付く

何かに追われるように、恐怖に急かされるように、速くなっていく歩調

今となっては、走りだしていないのが不思議なくらいだった

そして正面玄関、待望の出口

外からの拙い灯りが、後光にさえ見えてくる


文月「あ、アレ…開かないよ」


真っ先に扉に手をかけた文月

だがしかしどうだろう、押しても引いても扉が開くことはなかった


如月「まさか、なんだけど…誰か押し忘れてない?」


その問いには全員が全力で首を振った

それはそうだ。どの部屋でだって、あのボタンを押してからが本番だったのだから


長月「じゃあ、向こうの不手際か…司令官、聞こえてるのだろう?」


呼んでは見ても返事は返らず

その代わりに…


「あそぼ…」


どこかで聞いた声…そう、校長室で、その階段前で

赤い着物を着た、色白で髪の長い人形


「あそぼ…」


卯月「うぇぇぇぇ…」

弥生「…」


カラコロと、何かが転がる音がする

明らかに近づいてくるその音と共に、謎の声も次第に大きくなる


「あそぼ…」


ゆっくりと、細工が歪んでいるのか、道の凹凸のせいか

ガタガタと体を揺らしながら人形が廊下を滑るように移動していた


赤い着物を着た、色白で髪の長い人形

何処にでもありそうな日本人形なのに、ここにあってはいけない強烈な違和感を放っている


「あそぼ…」


人形がその場で回転し、玄関の方へ、少女たちが固まってる方へと顔を向けた


三日月「え、えーっと…」

望月「ほんとに趣味ワリィな、おい…」


一歩後ずさる

だが直ぐに扉にぶつかり、逃げ道が無いことだけははっきり分かるだけだった


「あそぼ…」


歩いた

からくり人形のそれではなく、廊下を滑ってるわけではもっと無い

一歩、人がそうするように、それが当然の様に人形の足が動く

一歩、一歩、一歩、一歩、さらにもう一歩


睦月「ちょ、ちょっとっ、どうするしっ」


逃げる?でも何処に?今更校舎の中になんて御免被りたい


皐月「あ、そうだっ!防犯ブザーっ」

菊月「それだっ」


菊月が、ポッケに閉まっていたブザーを取り出すと、ぶら下がっている紐を一気に引きぬいた


【なんてうそぴょーん♪なんてうそぴょーん♪】


ブザーから鳴り響く、聞き慣れた嘲笑

みんなの非難の視線が一斉に卯月へ向く


卯月「ちょっ、うーちゃんじゃないよっ!」


まぁ、日頃の行いである

冷静に考えるまでもなく、音はブザーから鳴り響いてるんだから


皐月「ああ、そういう…」


出れると思ったのに、出れない

リタイア覚悟でブザーを使ってみても使えない

選択肢など元からなかったわけだ…

そこに期待を賭けさせて、目の前でそれをかっさらう

なるほど、司令官の好きそうな事だなっては思う


皐月「しれーかんのっ、ばかぁぁぁぁ!」

菊月「お、おい…」


菊月からブザーの本体をかっさらうと、半ばやけになった皐月が

それを人形へと投げつける


「あそっ…」


見事に眉間に命中すると

人形が後ろへと大きく傾ぐ


皐月「長月っ、蹴破るよっ」

長月「ああっ」


もうヤケだった

見るからにボロそうな扉まで謎の素材で加工はしてないだろう

だったら、艤装なしでも十分蹴破れるはず


「せーのっ!」

タイミングを合わせて蹴っ飛ばしてみれば

意外と簡単に鍵がはじけ飛び、勢い良くドアが開いた





提督「あはははははは、お前らひどい顔だなぁ。なに?お化けにでもあったの?ねぇねぇねぇ?」


提督が爆笑してた


命からがら、とはいかないまでも

ようやっと恐怖の坩堝から逃げ出してみればこれである

イラッとするのはいけないことだろうか?

一発殴りたいと思うのは悪いことだろうか?


皐月「しれいかんの…」


拳をギュッと握りしめる皐月

あと一呼吸もしないうちには殴りかかりそうだった


長月「こんのっ、馬鹿者がぁぁぁっ!」

皐月「へ?」


皐月が踏み込むよりも早く、長月が飛び込んだ

提督の胸の中にとか可愛いものでは全然なく

それは、純然たる飛び蹴りだった

その勢いは、仮面◯イダーもかくやといった所か

地面に紋章が浮かんでいたり、足に稲妻が迸ってたりしそうな程に


提督「のふっ!?」


見事に直撃した

笑い転げていた提督に、受け身をとる気配なんてなく

砲弾の様に突っ込んできた長月に吹っ飛ばされ

もんどりうって、地面に転がることとなる


提督「あはははは…痛いよ、長月」


転がりながらも笑い続けてたと思えば、急に素に戻る提督だった


長月「やっかましいっ!貴様はっ、限度というものを知らんのかっ!」

提督「知ってるよっ!馬鹿にしないでよっ!アレでも手加減してたんだからっ!」

長月「なお悪いわっ!」


アレで手加減してたなら、本気を出してたらどうなるのか

なんて、疑問も浮かびはするが

それよりなにより、さんざ弄んでくれたことに対しての報復が先に立つ


提督「あ、いたっ、ながつき、いたい、いたいから、提督泣いちゃう」

長月「泣けっ!叫べッ!そして、沈めぇぇぇっ!!」

提督「いってぇぇっ!」


1・2…そして。3っとコンボの終わりは確定クリティカルの強攻撃だった




皐月「あー…」


一発叩いておこうかとも思ったけれど

長月が大概やってくれたお陰か、だんだんと気も晴れてはきていた

それよりも、そろそろ長月を止めたほうが良いんじゃないのかとも思い始める


如月「うふふふ。怒るタイミング、失くしちゃったわねぇ」


如月が皐月の隣に寄り添うと

握られたままだった拳を両手でそっと包み込む

固くなっていた手を優しく撫でると

握りこまれた指と手の平の間にそっと指を滑らせる

一本一本丁寧に指を開いていく

そして、開ききった手の平に自分の手を重ねると

ゆっくりと、指と指を絡ませる


如月「だめよ、あんまり強く握ったら。跡がついちゃうわ」


女の子なんだから、ね?と微笑んでみせる


皐月「あ、うん…ありがと」


そっと息を吐き、入れっぱなしだった力を抜く


皐月「ねぇ、如月」

如月「なぁに?」

皐月「長月…そろそろ止めたほうが良くない?」

如月「そうねぇ…」


ダウンから復帰した提督を追い掛け回している長月

艤装を取り出してないのは最後の良心か

あるいは、そこまで頭が回っていないのか

多分後者だとは思うけど




三日月「ほっ…」


口から漏れる安堵の吐息

さんざ怖い目に合わされはしたけれど

司令官が笑ってるのを見て、ようやく一息つけた気がした

とはいえ、相手が諸悪の根源な以上素直に喜んでいいものやら


望月「ふっ…」

三日月「ひゃぁわっ!?」


三日月の首筋にかかる吐息

驚きと、こそばゆさに肩が跳ねて背筋が伸びた

あわてて振り返ってみれば

そこには、望月がしてやったりと笑顔を浮かべている


望月「なーに、呆けてんのさ?」

三日月「呆けてなんて…ただ…ね?」


困った顔で苦笑すると、視線を望月から外す

向かった先には、提督と長月が仲良く追いかけっこをしていた


長月「バカなんじゃないのかっ、バカなんじゃないのかっ!バカなんだろっ!!」

提督「なはははははっ、今頃気づいたのかぁ。長月はバカだなぁ」

長月「こいつは…そこになおれぇぇぇっ!」


火がついたように真っ赤な顔で提督を追いかけている長月と、火に油を注いでいる提督

その様は、火の付いた導火線から逃げ回る新手の遊びのようにも見える

きっと、爆発する頃にはまた飛び蹴りだろう


望月「いいんじゃね?司令官も少しは痛い目見るべき」


ちょっとご立腹のようで、あっさりと匙を投げる望月

いや、そもそも投げるだけの匙も用意してなかったけど

いつもの事が多少過激になったくらいで騒ぐほどの事もないと


確かに、望月の言うとおりではある

それに加えて、あの2人の間に割って入るだけの気力も残ってないのもまた事実

よって、導き出される結論は


三日月「そうね…」


素直に同意する。これに尽きた




弥生は困っていた

眉を八の字に曲げ、曖昧な表情を浮かべている

いつもながらに無表情ではあったけれど

見慣れているならハッキリと、そうでなくても明確に

なにか困り事でもあるんじゃないかと見て取れる


と、いうのも

右手側には睦月が、左手側に文月が

さらにはお腹の辺りには卯月が

3人共、弥生を強く抱きしめて離そうしてくれなかった


弥生「えと…怖いの終わったよ?」


「…」

肝試し終了の報を告げては見ても、怯るように首を振るだけ


弥生「んー…」


3人を引きずったまま部屋に戻らないといけないのかな?

そんな、諦めにも近い結論を採択しそうになるぐらいには困っていた


弥生「…ん?」

菊月「…」


睦月型の塊に、さらに1人追加される

右も左も前も塞がっているせいか

後ろのほうからこっそりと弥生に身を寄せる菊月


弥生「どうしたの?」

菊月「長月が…」

弥生「ああ…」


長月が、取られた?長月が、怖い?

大方そんなところだろう、多分にどっちもかな

さっきから、いつも以上の剣幕で司令官を追い回している長月が嫌でも目に入っていた


弥生「はぁ…」


弥生は困っていた

右手には睦月、左手には文月、正面には卯月で

背中からは菊月が弥生の肩に手を回して人心地付いている

しらず、口から溢れるため息

こうなっては身動きも取れないし、何より単純に


弥生「あつい…」


姉妹4人分の体温は、夏の夜風で冷やすには荷が重かった




提督「ん?」


ふと、足を止める

先ほどまで声を上げて追いかけられていたのだが

その声が次第に小さくなっていくのが気になった

いい加減疲れたのか?

などと考えていると、子供にぶつかった時のそれの様な軽い衝撃が背中に広がる


提督「…長月?」

長月「…」


当然といえば当然で、肩越しに振り返ってみれば

長月がおでこを背中に押し付けてしがみついていた

名前を呼べど返事はない

その代わりに、時折肩を震わせては鼻を啜るような音が聞こえる

たとえばそう、泣くのを我慢すればこういう風にもなるだろうかと…


提督「あ、あれ…」


そこでようやっと異変に気づく提督

だがしかし待って欲しい

一応、建前としては肝試しと銘はうってある

多少の悪戯なら許容範囲のはずだ

実際、さっきまで追いかけっこしてたわけだし


提督「え、えーっと…長月?」


振り返ろうと体を動かしてみれば

長月が、それを押し留めるようにぎゅっと握った手に力を込める


長月「うるさい…こっちみるな…」


弱々しい抗議の声

後ひと押し、なにかあれば泣き出しそうにも思えてくる


長月「ばか…やりすぎなんだよ…」


背中に顔を押し付けたままに呟かれる言葉

ともすれば聞き逃してしまいそうだったが、それがなんとなく心に響く

そう、多分きっと罪悪感

そこでようやっと思い出す

この娘、怖がりだったわ…

怖がりにも色々種類はあるけれど、人見知りとかね

そうか、幽霊とかもダメだったか…

となれば、さっきまで執拗に追い掛け回していたのは

怖かったのを誤魔化す為かとも予想ができる


提督「怖かった?」

長月「…」


返事はない

けれど、背中越しに長月の頭が縦に動くのがわかる


提督「…」

長月「…」


それっきり

返す言葉もないし、掛ける言葉も思いつかない

長月が落ち着くまで、こうしてるしかなさそうだった


夏の夜

カラコロと虫達の奏でる音色が

遠からず秋の到来を思い起こさせるそんな夜

虫達の音色に紛れ

時おり長月のすすり泣きが聞こえてくる、そんな夏の夜だった



ーおしまいー



EX:みつよ様の華麗なる一日・3日目


初めましての方は初めまして、また会った貴方たちは久しぶりねっ

大日本帝国、大本営付きの、大元帥。御代 みつよ とは私の事よっ

敬意を込めて、みつよ様と呼ぶがいいわっ


ここからは私の艦隊のお話になるわっ

本編とはあんまり関係ないから気をつけなさいっ


さて、貴方達は二式大艇ってどう思うかしら?

強い?弱い?まぁ、色々あるでしょうね

私はそうね、カッコいいって思うわっ、名前がっ

大艇よっ、大艇っ。とっても強そうだわっ

まぁ、概ねそんなお話よっ

それじゃ、そろそろ始めるわっ

その耳と目と心でいっぱい妄想するがいいわっ



ー大本営・休憩室ー


大本営・鎮守府庁舎内の一角作られた広めの部屋

大きなソファーはふかふかで、人が寝っ転がってなお余りある

机の上にはお菓子がおかれ、お茶だっていつでも飲めるようになっていた

適度に効いた空調は季節を忘れさせ、春の暖かさや、秋の涼しさを体感出来るほど

そんな部屋に鎮座しているテレビもまた大きく、電源を切ってしまえば黒板にでも見えるようだった


「離水完了!、水艇王者っ!!ニシキングっ!!!」(←テレビの音:グンカンジャー


大潮「おおおおっ。おひいさまっ、これカッコいいですねっ!」

みつよ「ええ、二式大艇が変形するとは思わなかったわ」


せいぜい合体した駆逐艦ロボの背中にでも引っ付く程度かとは思っていたけれど


画面の中では二式大艇だったものが、人型のロボットへと変形を成し遂げていた

ピンチの時に新キャラ登場、端的に言えばそんなシチュエーション


「あのー、ちょっと道を教えて欲しいかも?」


休憩室の入口から、ひょっこりと顔をのぞかせる少女


みつよ「あら、貴女は…」


テレビから顔を上げ、入口の方へ目を向けると

申し訳無さそうに顔をのぞかせている少女と目が合う

大本営では見ない顔だった


秋津洲「本日付で着任致しました。飛行艇母艦・秋津洲ですっ、大艇ちゃん共々よろしくお願いしますっ」


ビシッと綺麗に背筋を伸ばして敬礼する少女、秋津洲

礼儀正しいと言えばそうだが、新人故の固さが見て取れる


みつよ「そう、貴女が…」


そういえば、今日だったかしら


秋津洲「えっと、ここの提督さんに会いたいんだけども…何処に行けばいい、かも?」

みつよ「あら、それなら目の前に居るじゃない?」


足を伸ばし、優雅に座っていたソファーから身を起こす

羽織っていた上着を翻し、秋津洲に負けない大きな声で


みつよ「私が、大日本帝国、大本営所属の大元帥っ!御代 みつよ とは私のことよっ!よぅく覚えておきなさいっ、秋津洲!」


腰に手を当て、腕を突き出し

由緒正しい高速戦艦ポーズで持って宣言する みつよ様

気づけば頭上から紙吹雪が舞い降り、みつよ様の姿を彩っていた


秋津洲「え、えーっと…つっこんだ方がいいかも?」


疑問と困惑が表情と口に出る

目の前には小さな女の子、人によっては幼女とも言うかもしれないくらいには見える

それはいい、艦娘だって大概そんなものだし。なにより襟元の階級章が嫌でもそれを証明している

目下のところの問題は、そんな大元帥様の隣でカゴを持ち紙吹雪を撒いているこの人、いや艦娘っぽいけども


みつよ「その必要はないわっ。大和っ」

大和「はい」


すっと、軽く手を上げると紙吹雪が止まる


秋津洲「…」


大和って、あの大和かも?

大艦巨砲主義の頂点がこんな所で何をしているのだろう?


みつよ「さて、秋津洲と言ったわね?」

秋津洲「は、はいっ」


名前を呼ばれて、崩れかけていた姿勢を正す

状況はどうあれ、相手が提督で大元帥な以上は無礼を働くわけにもいかない、一般的には


みつよ「それじゃあ、アレは持っているのよね?」

秋津洲「アレ…大艇ちゃんのこと?」

みつよ「ええ、そうねっ。ここに出しないさいっ」


広い机の上を指さして催促するみつよ様


秋津洲「は、はいっ」


机の上に置かれる二式大艇

大艇と言うだけあって、他の水偵や艦載機にくらべると大分大きなものだった


みつよ「そう、これが…大潮っ」

大潮「はいっ、お呼びでしょうかっ」


感慨深げに眺めた後、大潮を呼ぶ

すぐ隣でテレビを見ていたとはいえ

即座に みつよ様の隣に立つ辺り、良く良く訓練されていた


みつよ「みなさい、本物よっ」

大潮「これは…まさかっ、二式大艇ですかっ!」

みつよ「ええっ、そのまさかねっ!」

大潮「ふぉぉぉっ、カッコいいですっ!」


二人して二式大艇を上から下、右から左へと舐めるように眺め尽くす


秋津洲「え、えーっと…」


困惑する秋津洲

大艇ちゃんが気に入られてるのは嬉しいが、なにゆえこんなに喜んでいるのだろうか


みつよ「それで、秋津洲?」

秋津洲「は、はい」

みつよ「これ、どうやったら変形するのかしら?」

大潮「するんですかっ、みたいですっ、是非っ!」

秋津洲「…え?へ・ん・けい?」


先ずは耳を疑った、多分正常

次は言葉を疑った、「へんけい」形が変わること、タグ添付

最後に相手を疑った、真顔だ、本気で信じてるって顔だ

そして、ちらりとTVの画面が目に入る…合点が行った

変形していた、テレビとはいえ大艇ちゃんが人型ロボットに…一体どういう番組なのだ


みつよ「ええ、するのでしょう?」

秋津洲「しないよっ変形なんてっ!」


そこはしっかり否定する、あらぬ誤解を解くように


みつよ「翼の所とか曲がらないの?」


二式大艇の翼に触れて力を入れてみる


秋津洲「曲がらないからっ、二人共テレビの見過ぎかもっ!」


至極正論である


みつよ「まあ、良いじゃない。もしかしたら出来るかもしれないわっ」

秋津洲「出来るわけないかもっ。もうっ、大艇ちゃん返してー」

みつよ「ストップよ、秋津洲っ」

秋津洲「へ?」


二式大艇に手を伸ばした秋津洲を、みつよ様が手で制する


みつよ「一つ、言っておくわ。貴女の物は私のものよっ」


言い切った、それが自然の摂理であるかのように言い切った


秋津洲「横暴かもっ!」

みつよ「横暴ではないわ、特権よっ」

秋津洲「理不尽かもっ!」

みつよ「理不尽ではないわ、屁理屈よっ」

秋津洲「あーっ!今屁理屈っていったーっ!」

みつよ「もう、うるさい娘ね。そんなに返して欲しければ、私を倒してからにするといいわ」

秋津洲「へ?」


広いソファーに腰を下ろし、無防備なままに手招きをする みつよ様

腕に覚えがあるものが見たならば、まったくの無防備に気づいたろう

素人が見たならば、無防備過ぎて逆に不安を覚えるくらいには無防備だった


秋津洲「むっ!舐めないで欲しいかもっ!」


秋津洲だって艦娘だ、相手が提督だろうが人の子の小娘1人倒せずしてなんとする


秋津洲「秋津洲流戦闘航海術の力っ、見せてあげるかもっ!」

みつよ「ごたくは良いわっ、きなさい?」


紅茶まで嗜みだす余裕っぷりである


秋津洲「むっきーっ!怪我したって知らないかもっ!」


秋津洲が踏み込む

机とソファーの決して広くはない隙間に、滑りこむように体を移動させる

なるほどどうして、なんのかんの言うだけ合って器用に動く

が、そこまで。その一歩で秋津洲の足が止まった

床には ふかふかの絨毯

だというのに、今はそれすら固く感じられるくらいの重圧がかかっている


大和「貴女は…今何をしようと?」

秋津洲「へ?」


秋津洲の肩をガッチリと掴み、その動きを封じる大和

その腕一本に、動きを封じられる秋津洲

動けない、それどころか潰されないように踏ん張ってるのがやっとの現状


秋津洲「は、放して欲しいかもっ!これは提督さんと大艇ちゃんをかけた戦いかもっ!」

大和「…」(←みつよ様至上主義者


などと講義した所で大和の力が緩むはずもなく


みつよ「大和っ、相手は秋津洲流…なんやらかんやらの使い手らしいわよ?」

大和「ご心配には及びませんわ」

秋津洲「あ、ちょっとっ!」


そのまま片手で秋津洲を担ぎ上げる大和


秋津洲「て、提督さんっ!?」


助けを乞う様に みつよ様に視線を投げる秋津洲


みつよ「秋津洲、ひとつ言っておくわ…」


「だれも私が相手をするなんて言ってない」

しっかりと、はっきりと、秋津洲の耳にはそう聞こえた


秋津洲「あっ、あーっ!?ズッこいっ!提督さんズルっこかもっ!」

みつよ「秋津洲…大人になるって悲しいことなのよ…」


努めてどうでも良さそうに言う みつよ様


秋津洲「そんな大人修正してやるかもっ!」


ジタバタと大和の上で暴れだすも

がっちりと抑えられて手足がバタつく程度の抵抗にしかなっていない


大和「しずかになさいなっ」

秋津洲「いたいっ!」


乾いた音が室内に響く

それと同時に、秋津洲の手足がビクンッと跳ねた

きっと今頃、おしりの辺りには大和の手形がきっかりついてるだろう


みつよ「ズルくなっていくのね、自分でも分かるわ…」


連行されていく秋津洲を見送り、紅茶の入ったカップを傾ける

今日も楽しい一日になりそうな予感がした


大淀「…」


そんな光景を見ていた大淀、止めるには一足遅れの到着だった

正直に、頭がいたい…眉間を抑えずに入られない

メガネを曇らせられるなら、覆い尽くして見ないふりをしてしまいたい


龍鳳「ふふっ。貴女も大変ですね」

大淀「龍鳳…見ていたのなら止めてください…」

龍鳳「ふふっ」


大淀の懇願には微笑みでもって返す

何とは言わないまでも、その顔は暗に

「どうして?」などと言いたげだった


大淀「ええ、そうでしょうね…そうでしょうとも」


がっくりと肩を落とす大淀

今更だ。おひいさま が白と言えば黒だって白にするそんな娘達だ

何も言うまい…


弾着観測射撃!!


私製51cm3連装砲 私製51cm3連装砲 私製51cm3連装砲


一応は防音設計をされている建物

それを叩いてなお有り余る音響が室内まで響いてくる

誰もが思う、きっと秋津洲の悲鳴はその中で掻き消えてるんだろうって


「かんべんして欲しいかもーっ!?」


ーEX:みつよ様の華麗なる一日:おしまいー




後書き

はい、というわけで最後まで読んでくれた方。本当にありがとうございました
貴重な時間が少しでも楽しい物になっていれば幸いです

さて、皆様イベントの進み具合は如何でしょうか
色々情報も出ていますので、無理の無いイベントを過ごしてください
私どもの艦隊は後書き書いてる間にE7終わりました。
まぁ、丙提督ではありますが。あれを甲でクリアした方々…ギミック無しで力押しした人達は化け物かと思いますね
ちなみに編成は
第1艦隊:金剛・大和・プリン・大鳳・瑞鳳・祥鳳
第2艦隊:皐月・暁・矢作・鈴谷・熊野・ビスマルク

後は大量の資材とバケツでゴリ押しですね

それではこの番組は

皐月「司令官…なーに泣かせてるのさ?」
提督「え、私が悪いの?」
如月「悪くないのかしら?」
文月「そーだ、そーだーっ!」
睦月いーけないんだーいけないんだー」
卯月「せんせーに言ってやるぴょんっ」
弥生「…(誰だろう、先生って)」

菊月「長月?」
三日月「はい、ハンカチ」
長月「いや、別に…泣いてないからな…」
望月「はいはい、ちょーっと怖かっただけだよな」

大井「~♪」(←「魔王」演奏中
北上「おっとーさんっおっとーさんっ♪」
多摩「さっきから、その選曲はなんなのにゃ…」

球磨「で、こいつらは何でこんな青白い顔してるクマ?」
木曾「いや、別に…白くなんてなってねーし」
瑞鳳「そうよ…お化け見たとかそんなんじゃ…」

夕張「…ふふっ」(←肩震わせて、笑いこらえてる
大鳳「…」(←無表情、鉄面皮、内心爆笑中

もろもろのメンバーでお送りしました


ー以下蛇足に付きー


♪教えて皐月ちゃんのコーナー♪

提督「はい、というわけで。夏休み編第2段みたいになったなこれ」
皐月「前回の花火の後にって流れも考えたんだけどね…」
提督「書き終わってみたら、この文字数…EXパート抜いても偉いことになるので分割です」
皐月「実は今回もダイス振ってたりするね」
提督「どこかのTRPG風に言うならSAN値チェックで、1D6で5以上でた娘には一時的狂気に陥ってもらいました」
皐月「文月がホラーダメだったのは意外だったよ、新鮮だったけども」
提督「ちなみに、堂々の出目6を出したのが卯月と長月…涙目の長月も良いと思います」
皐月「…変態」


♪皐月ちゃんラジオ♪

皐月「はいっ、それじゃあ お手紙という名のコメント返しの時間だよ」
提督「いぇーい」(←棒読み
皐月「棒読みで言われてもなぁ…まぁ、いいや。今回はねぇ…」

・艦これ映画化決定
・E-1菊月
・鎮守府強さランキング
・うまるちゃんブーム
・初な如月ちゃん
・コスプレの需要
・北上さんのやきそば
・ダイス神の導き
・大鳳VS球磨
・やよなが
・瑞鳳、完落ち
・睦月型以外の駆逐艦
・長月可愛い
・こまんどーこらてらるー
・今回も楽しかったよー

皐月「こんなかんじになってるねっ」
提督「そいじゃ、いつも通り上から行きましょうか」
皐月「はーい」

・艦これ映画化決定

提督「夢で見た」
皐月「夢じゃないよっ、ちゃんと運営から発表あったよっ」
提督「だって…これで半分がTV版の総集編とかだったらどうするよ?」
皐月「い、一応新艦娘も出るらしいから、多分大丈夫きっと」
提督「2期もやるみたいだけど…不安しかないのが現状かな」

・E-1菊月

皐月「ああ、これね…情報が出る頃には、球磨さん達が既に片付けちゃってたね」
提督「ちなみに、球磨・睦月・如月・望月・三日月・文月っと睦月型では合ったんだけど」
皐月「攻略中に2回位進路それたけど、道中支援でほぼ無力化しちゃって大した問題にもならず」
提督「駆逐姫も夜戦入るとやわっこかったしな…」
皐月「防空棲姫と比べたらいけないとおもう」

・鎮守府強さランキング

提督んーそうだね。それじゃー」

TOP:皐月・球磨
上:大鳳・金剛・北上・長月・多摩
中:それ以外
下:夕張・瑞鳳・菊月

提督「大雑把に分けるとこんな感じだな。TOPの2人と勝負になるのが上の連中
    中の娘達は勝ち目はあるくらい。下の娘達はタイマンじゃ無理だな」
皐月「あくまで、単純な練度の比較だけど。いくらボクでも大鳳さんとか、金剛さんと正面からとか絶対嫌だし」
提督「とか言って勝つんでしょ?」
皐月「やりたくないって言ってるのっ」
提督「…(出来ないとは言ってないって突っ込みはどうしようか)」

・うまるちゃんブーム

提督「家の卯月は、あのアニメOPみたら だいたい満足してる」
皐月「本編は?」
提督「おまけ見たいだね…UMAじゃないよっ、う・づ・き・いぇーい♪ってあれが良いらしい」
皐月「まあ、楽しみ方は人それぞれだけど」

・初な如月ちゃん

提督「あの時如月は考えた。日焼け止めくらいならよくある展開だと、背中を触られるぐらいならいけるはずって」
皐月「あれ、睦月が来てなかったらどうしてたの?」
提督「そうねぇ…1つ、素直にラブコメやる。2つ、睦月のやってたことを私がやる
    3つ、日焼け止めと見せかけた謎の液体を…以下略」
皐月「全部アウトじゃん…」
提督「え、一つ目くらい良いじゃん?」
皐月「やだ」
提督「…ふーん」
皐月「次行くからっ」

・睦月型のスク水

提督「全員の水着をデザインした上に、事細かに描写する自信がなかったので
    スク水という無難なチョイスになりました」
皐月「でも、好きなんでしょ?スク水」
提督「少女のスク水で喜ばない奴は、ホモか熟女趣味だろ?」
皐月「いや、その理屈は…あれ、おかしくはないのか」
金剛「おかしいに決まってるデースっ!そんなのただのロリコンデース」
提督「そうだけど?」
金剛「Shit!胸がっ今だけはこの胸が憎いっ!」
皐月「ちょっと、金剛さん落ち着いて…」

・コスプレの需要

提督「良かったな金剛、需要があるってさ」
金剛「ロリコンに言われたっ!」
皐月「いや、ロリコンとは限らないから…」
提督「巨乳好きってコメント見たことないけどな…」
金剛「だいたいっ、提督はどうなんですかっ、金剛のっスク水はっ!!」
提督「どうって…紐じゃないなら、だいたいOKだよ私は」
皐月「はい、これ」(←アニメ版大和の水着を取り出す
提督「あ、うん。それは待って、それはやだ」

・北上さんのやきそば

北上「あたしのかい?普通だよ?
    野菜炒めるじゃん?肉焼くじゃん?そばと混ぜるじゃん?なんか適当に味付けするじゃん?
    どうやっても不味くなんないって~」
皐月「おかしいな、一番大事な部分が端折られてる気がするんだけど」
提督「そうか?アレとコレを少しとソレをちょっとでいけるだろう」
北上「お、提督も通だねぇ」
皐月「お願い、分かるように会話して…」
2人「あははははは」

・ダイス神の導き

提督「正直、球磨たちが負けるとなったらどうしようかと思ってたけど。杞憂でしたな」
皐月「へっへーん♪負けるわけ無いじゃん、ボクらがさ」
球磨「球磨達に勝ちたいなら木曾をどかして本気の大鳳でも入れるべきだったクマ」

提督「卯月と瑞鳳は一緒のチームでもそれはそれで楽しかったろうなとは思ったかな」
皐月「喧嘩してる未来しか見えないんだけど?」
球磨「ああ、それな。喧嘩しながら連携とってくるのがアイツらクマ」
提督「あるある。ま、今後もどっちでも良い展開は、ちらほらダイス振るだろうって事で」

・大鳳VS球磨

皐月「大鳳さん曰く、あの人と演習はしたくないわね、だそうです」
球磨「何でクマー、こんなに可愛いクマと戦えないとはどーゆーことクマー」(←棒読み
提督「棒読みやめてから言おうな」
皐月「でもさ、正規空母とタイマンしたいのかい?」
球磨「戦場で同じ状況になってもそんな事がいえるのか?」
皐月「むっ…それはそうだけど」
提督「正論いってるけど、戦いたいだけだよ、コイツ」
球磨「くまくまくまくま♪」

・やよなが

提督「いったな…」
皐月「いったね…」

弥生「姉妹百合、良いよね…あ、でも私達みたいに姉妹が多いと、ただの百合に見えちゃう?」
文月「うん、見えないから、見えなくていいから、と言うか見ないで、ね?」
弥生「あ、文月…まだ話が」(ドナドナドナ
文月「うん、あっちで聞いてあげるから、こっちこよーねー」(ズルズルズル

提督「お前の姉…(以下略」
皐月「司令官の艦娘…(以下略」

・瑞鳳、完落ち

瑞鳳「えっとね…あれはね?そう、違うから…」
皐月「なにが違うのさ?」
提督「なぜ違うのか?」
瑞鳳「いや、だって、そう、あれよっ。お酒、お酒のせいだからっ」
卯月「ずいほーはうーちゃんの事嫌いなの?」(うるうるうる
瑞鳳「えっ、いやっ、え?そうは言ってないけど…」
弥生「瑞鳳さん、ひどい…泣いてる卯月だっているのに…」
提督「嘘つきは瑞鳳の始まりとはよく言ったものよな…」
瑞鳳「まだ覚えてたの…それ」
皐月「もう言っちゃえば?楽になるよ?」
卯月「ずいほー…」(うるうる
瑞鳳「うっ、す・すぅ……いえるかーっ!」(脱兎
卯月「あ、逃げたぴょんっ!追うぴょんっ!」
弥生「あ、いっちゃった…」

提督「言えるかー…ねぇ」
皐月「あははは。あれで嫌いって言われたらそっちの方がビックリするよって」

・睦月型以外の駆逐艦

提督「うん、そうだね。家の鎮守府では描写されてる娘達が全部だね
   他の所だと映ってないだけとかもあるかもしれないけど」
皐月「駆逐艦に関してはこのまま睦月型オンリーの予定だね」
提督「いつになるか分からんけど、あと2人増えるだろうし…12人もいりゃ十分だろう」
皐月「早く皆揃うといいねっ」
提督「うん。他の駆逐艦がみたいーとかだったら、そのうちゲストで出るかも?」

・こまんどーこらてらるー

皐月「懐かしいね、3話からコメントきてるよ」
提督「読み返したけど、中々気恥ずかしいな…一度は修正かけたのに、また掛けたくなる不思議」
皐月「なんのかんので書き方変わってるしね」
提督「ちなみにあの頃は、HELLSINGのOVA見終わったり、ゆかミラン大尉の動画見始めたり
    艦隊コマンドーとか見てたせいで、鎮守府中が変な空気になってたな」
皐月「皆して真似するんだから…」
提督「ごっこ遊びって結構楽しいのよ?」
皐月「はいはい」

・長月可愛い

提督「長月のおでこがちゅーしやすそうだなーって、眺めてると精神攻撃扱いされる毎日」
皐月「そりゃそうなるって…」

・今回も楽しかったよー

提督「うん、今回も楽しんで頂けたようで何よりです」
皐月「こちらこそ、いつもコメントありがとな」
提督「多少長くたってお気になさらずに。思う存分ニヤニヤするといい」

皐月「それじゃあ、今回はここまでだよ」
提督「最後までお付き合い頂きありがとうございました
   また、オススメ・コメント・応援・評価・お気に入り・して下さった方々、いつも励みになっております
   重ねて御礼申し上げます。よろしければ、また次回もお会い致しましょう」(最敬礼

皐月「…よく出来ました」
提督「ふぅ。それじゃ、よければまたご一緒に」
皐月「またねー」

業務連絡
最近、コメント欄に変なURLみたいなのが貼られてますが
管理人さん曰く、海外のボットによるものらしいです
お見苦しいかとは存じますが、スルーして頂けますと幸いです


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2020-11-12 23:59:36

SS好きの名無しさんから
2017-08-10 12:45:46

SS好きの名無しさんから
2015-08-29 01:47:17

2015-08-26 15:40:03

このSSへのコメント

7件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2015-08-24 23:25:10 ID: L_yE76y8

一番上が21回目になってたよ?

2: フラン 2015-08-25 02:04:00 ID: 3R8C1oxO

コメ返しありがとうございますいつも楽しませてもらっています
北上様が意外とお強いw北上様好きなので嬉しいですw

E-7とえいばゆかミラン大尉がビスマルクに女神積んでボス前大破でボスに突っ込んだ動画がありました.女神積んでるといえど心臓に悪い動画でした...

最後に大鳳さん落ち着きあって正妻感あると思ったのは私だけ?

次の作品を楽しみに待ってます!

3: SS好きの名無しさん 2015-08-25 10:44:03 ID: PiiFjLV6

提督が大鳳にいいようにあしらわれてる気がする( ̄。 ̄;)

4: Японский перец 2015-08-26 16:06:49 ID: dlXA42WA

提督さんえぐすぎないですかねぇ…

皐月ちゃんが「嫁」なら、大鳳さんは「妻」な感じしますね

仕掛けが一々生々しく凝ってる辺りに企画者のセンスが伺えますね(震え声)

文ちゃんが動じるとは意外でした
それも可愛い

てか怯える皆可愛い

もっちーは強い子

皆に抱きつかれる弥生可愛い

追いかけ回し→ガチ泣き
この流れに鳥肌でした
強がり長月可愛い

おひいさまの強大な権力と工廠の謎技師によって二式大艇ちゃんがトランスフォームする日も近い…?

ニヤニヤと一服の涼をありがとうございます
毎度楽しませてもらっています
次回も期待です

5: SS好きの名無しさん 2015-08-27 07:33:17 ID: cVS7yD0i

私製51cm3連装砲・・・私製!?手作り!?

6: SS好きの名無しさん 2015-08-30 20:03:02 ID: akdL2OAL

いつも強気の長月が・・・。
ま、かわいいからいいや。www
これからもがんばってください

7: SS好きの名無しさん 2017-08-10 12:46:27 ID: e6anYQWb

皐月可愛いです頑張ってください‼


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1: SS好きの名無しさん 2017-08-10 12:47:15 ID: e6anYQWb

睦月型が可愛すぎる

2: SS好きの名無しさん 2018-07-19 23:08:57 ID: Ww3uAzZV

このシリーズ面白すぎ(笑)

大鳳もけっこうイタズラ好きなのね


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