2015-12-22 20:44:05 更新

概要

提督と艦娘たちが鎮守府でなんやかやしてるだけのお話です

注意書き
誤字脱字があったらごめんなさい
基本艦娘たちの好感度は高めです
アニメとかなんかのネタとかパロディとか
二次創作にありがちな色々
とても長い
EXパートはおまけです


前書き

27回目になりました
楽しんでいただければ幸いです お目汚しになったらごめんなさい
ネタかぶってたら目も当てられませんね

それではこの番組は…

提督「まず最初にごめんなさい、長くなりすぎた…」
皐月「仏の顔もって言うけどさぁ」
瑞鳳「とりあえず、卵焼きでも食べて落ちいて?」
卯月「たべりゅーっ」
瑞鳳「やっかましいっ」
弥生「ここまで、テンプレ」

文月「でも、ここまで長いとー…」
如月「きっと、口では言えないような…「諦め」を感じてくれたと思うわ」
睦月「こんな鎮守府だけどっ、そういう気持ちを忘れないで欲しいしっ」
望月「忘れたほうが良いんじゃねーのか、そんな気持ち」
三日月「ま、まぁ…おまけが長くなったていうのもあるから」

菊月「うむ、長いな…」
ゆー「長い…長月と一緒?」
長月「いや、一緒にしないでくれ…」

北上「まあ、キャラとシーンが増えればそうなるよねぇ」
大井「だったら増やさなきゃ良いのに」
大鳳「試してみたかったらしいわよ?」
夕張「試し打ちは大事よねっ」
球磨「おかげで球磨は良い遊び相手が見つかったがなっ」
木曾「これ以上変なの増やすなよ…」
多摩「おまいう…」

もろもろのメンバーでお送りします


↑前「提督とハロウィン」

↑後「提督とクリスマス」



提督と秋の雨



ー大本営ー


カツカツカツと

廊下に足を下ろす度に、硬い感触と、乾いた音が返ってくる

うちの鎮守府じゃ軋みを上げたりもするのに

偉い違いだと感心さえも出来そうだ


理路整然と並んだ窓はガタつくこともなく

時折吹く強い海風も通すことはなかった

更には、その一つ一つに高級そうなカーテンがしつらえてあり

等間隔に並んだ燭台のおかげで、夜道に迷う事もなさそうだ


流石に大本営かと

廊下一つでも金がかかってそうな建物だった

そんな廊下の上を、提督と皐月が歩いていた


提督「こういう所をさ、堂々と歩いてると偉くなった気分になれるよね」


どこか得意気に、廊下の真ん中を堂々と歩く提督

歩く度に白い軍服の上から羽織った紺色の着物が、ゆらゆらとたなびいている


皐月「少佐って偉いんだよ?自覚ある?」


そんな提督の横を歩いている皐月

得意気な表情を浮かべている提督とは変わって

その表情は苦笑いだった

だって、「自覚ある?」とは言ったものの

ある訳がないのは、自分が一番よく知っていたから


皐月「でも、偉いって言えば

    司令官が最後まで席に付いてたのは偉かったと思うよ?」


口元を手で隠して、小さく笑う皐月

苦笑いから変わって、今度はからかうようだった


提督「別に逃げても良かったんどけねぇ…」


そう、確かに招集されはしたし

その御蔭で、つまらん会議に顔を出すはめにもなった

面倒だからと、無視してたら「大和に砲撃させるわよっ」なんて脅された

顔だけだして、雲隠れしようかと思ったら

皐月が会議室に居座るものだから

逃げるに逃げられず、無駄な時間を浪費したというわけだ

秘書艦同伴ってのは この為かと勘ぐりたくもなってくる


提督「分かってて居座ってたくせに…」

皐月「まあね、ボクにだって色々あるんだよ?」

提督「なんだよそれ?」

皐月「なーいしょっ♪」


そう言って、どこか浮かれた調子で提督に笑顔を向ける皐月だった

一言で言えば「見栄」だろうか

終始気怠げな表情に、不良軍人まっしぐらな容姿

もう少しシャッキリしてくれればもっと良くも見えるのに

まあ、それは贅沢だとしても


外見だけで敵を作りそうな司令官だ

その上、途中退席、ボイコット

そんなのが重なれば誰の不興を買うか分かったものじゃないし


けども、そんな建前を全部どかしてしまえば

好きな人が悪く言われるのは嫌だなって

単純な答えだけが残るんだけど

これはほんとに、内緒の内緒だ


提督「いやに機嫌が良いな?」

皐月「そうかな?」


不思議そうに小首を傾げて見せる皐月

そうは言っても、何処か浮ついてるくらいは分かる


提督「んー…二人っきりでお出かけ嬉しいな、とか?」


こんな色気のない場所で

お出かけも何も無いかと思うが

とりあえずはと、からかいついでに思いついた事を口に出してみる


皐月「そうだって、言ったら?」


小首をかしげたまま

今度は覗きこむように提督の顔を見上げてくる皐月

なんだろう…題名「自分が可愛いと分かってる女の子のポーズ」

とか付けたくなってくる…実際 可愛いんだけど


提督「手でも繋ぐか?」


可愛いと、口に付いて出そうになるが

そこは飲み込んでおく

その代わりに、デートのつもりでいるのなら

それっぽい事してみようかと手を差し出してみた


皐月「やーだよっ♪」

提督「ふられたか」

皐月「にひひひ♪」


差し出された手を取らずに

ぴょんと、跳ねるように提督の一歩前に出ると

振り返って、満面の笑顔を向ける皐月


その笑顔は、見た目相応歳相応といった具合に

とても無邪気で朗らかなものだった


提督「…」


たまに考える

こんな風に笑える娘達を

戦場に送り出してる提督ってなんなんだろうなって

だが、この戦場がなければ会うことも無かったと考えると

なんとも複雑な気分になれた


「あっ」


廊下の曲がり角、そこでお互いの足が止まった

こんな所まで足を運びたくない理由の半分がそこにいた


万津 彩華(よろず さいか)

そう、確かそんな名前だったはずだ、女みたい名前だなーってさ

口がでかくて、声もでかい

言ってしまえばそんな男だった

制服の上からでも分かるくらいには、体はガッチリとしている

短く揃えられた栗色の髪と合わせてみれば

なる程どうして、隣に控えている少女の兄貴と言われれば、そんな風にも見えるか


白露「やっほー皐月ちゃん」

皐月「ひさしぶりだね、白露さん」


大きく手を上げて挨拶して来る白露に、小さく手を振り返す皐月

彩華の隣に控えていた少女、白露型の一番艦の白露

肩まで伸びた栗色の髪と、赤いラインの入った黒いセーラー服

何かに付けて一番になりたがる元気な娘だ


提督「皐月…こいつ嫌い」

皐月「ちょっ、司令官。流石に失礼だって」


すかさず皐月の後ろに隠れる提督

とはいっても、身長差のせいか後ろから抱きついてるようなものだけれど


彩華「ほんとっ、毎度毎度失礼だなっ」

提督「だまれ、ぼっち。寂しいからって私に纏わりつくな」

彩華「誰がぼっちだっ、ひきこもりっ」

白露「そーだっそーだっ、お友達なら あたしがいるもんっ」

皐月「白露さん、身内は数に入らないと思う」

白露「えっ、そうなのっ!?」

皐月「基本的にはね…」

提督「…」


ほんとうるさい、めんどくさい、帰りたい


彩華「ちょうど良い、お互い秘書艦連れてるならっ、白露っ」

白露「はーいっ」


くいっと、一歩前に進み出る白露

どうにも、やる気満々の様だ

そう、初めての演習でコイツに勝ってからというもの

こんな感じだ、見つかれば何かにつけて…

男に追い掛けられる趣味はないというに


白露「さあっ、皐月ちゃんっ、勝負よっ。あたしが一番だって証明したげるっ」

皐月「えー…」


行き成りの遭遇戦に、流石の皐月も面倒くさそうにしてる

とはいえ、勝敗を付けなければ引いてくれそうにもないので…


皐月「じゃんけんで良いかい?」

白露「良いよっ、やろっかっ」


適当な皐月の提案を素直に飲み込む白露


皐月「それじゃ、艦娘じゃんけん」

白露「じゃんけん」


艦娘じゃんけん、基本的にはただのじゃんけんである

ただし、砲弾を見切り、裏拳でそれを弾き飛ばすような娘達だ

相手の動きから、出てくる目を予測して

後出しジャンケンに移行するのは容易い

そういう事情も手伝って

練度の差が開けば開くほど、運意外の要素が強くなる

わりとシビアなゲームである


「ぽんっ」

手を開きパーを出しそうになってる皐月


白露(…よしっ勝ったっ)


その動きに合わせて、指を突き出しチョキの構えを取る白露


皐月(…ん、コレは負けるかな…けど)


このまま振り下ろせば勝敗は決するだろう

そう、振り下ろせばの話だ

振り下ろす直前、白露のチョキを包み込むように、皐月が手を添える

パーを出そうとしていただけ合って、それはとても自然な流れで


白露「きゃっぁ!痛いってっ!」


けれども、この悲鳴は不自然な流れだった

白露の手を掴んだまま、そっと引き寄せる皐月

そして、その耳元で囁くように


皐月「ボクの勝ち、だよね?」


それは、とても意地の悪い笑顔だった

これがグーなら まだ耐えられただろう

しかし、チョキなんて不安定な形のまま

上から握りつぶされては、大した抵抗も出来ずに痛みだけが増していく


白露「…(こくこくこく)」


痛みに耐え、無言で首肯を繰り返す白露

心なしか、頬から冷や汗が伝ってきている


皐月「それじゃ、返すよ彩華さんっ」


ぽんっと白露の肩を押して、彩華の所へ返却する


白露「提督…ごめんっ…がくっ」

彩華「しらつゆーっ」


彩華の腕の中で、狸寝入りを始める白露

そりゃだって、手を潰しただけで気絶する人なんていやしない

艦娘ならなおのこと


提督「皐月…結構えげつないな…」

皐月「そうかい?」


艦娘じゃんけん…基本的には後出しジャンケンだが

その実態は、相手に負けを認めさせるゲームであった




大和「それで?貴方達は、大本営の、廊下の、ど真ん中で、何を、騒いで、らっしゃるの?ん?」


空気が凍ったとはこういう事を言うのか

彩華達の後ろから、氷のように冷たく固い声が聞こえてくる

それも、わざわざ文節ごとに強調して、暗に非難を繰り返しながら


白露「あ、あははは…大和さん…お疲れ様です…」


その声に圧されて、萎縮する体をなんとか動かし顔を向ける白露と彩華

だがそこで後悔、見なければよかったと

二人が見上げるその表情

大和撫子極まれリ、それは笑顔と言うには十分過ぎた

けれどそれ以外がおかしい

建物の中だと言うに艤装が展開されている


私製51cm3連装砲…どうやって作ったと言われれば

2本も3本も変わらないでしょ?と返ってくるその主砲

人どころか、駆逐艦娘でさえ、確実にオーバーキルが出来るであろう

そんな主砲が4基12門、その砲口の大穴が二人を睥睨していた


彩華「いや、これは…友人と親睦を…」

大和「誰も居ませんが?」

彩華「なぁっ!?逃げやがったっ!」


大和から視線を戻し、提督と皐月が居るはずの所に顔を向ける

しかしてそこには、空気だけが浮かんでいた

大和の言うように、誰もいなかった


大和「エア友達?最近はやってるそうですね?」


何か憐れむ様な表情を向けてくる大和さん


大和(…逃げましたか、相変わらずですね)


そんな彼女の視界の隅で

窓の外へと、流れるように着物の端が映っていた


大和(…ここ、3階なんですが)


あまり目立つことは避けて欲しいとは思う

後を追うように、視線を階下に落としてみれば

ちょうど提督が皐月に蹴っ飛ばされていた

いきなり3階から抱えて飛び降りられれば、蹴られもするか…


などと考えているその横から、彩華のきっぱりとした否定の声が飛び込んでくる


彩華「ちがうっ!」

白露「そうだよっ、提督はぼっちじゃないよ友達はいるよっ」


私とか、時雨とか…以下白露型

注:全員身内である


大和「…ええ、もう良いです。空々しいので…エアだけに…」


「…」

顔を見合わせる彩華と白露


白露(…提督、今のどういう?)

彩華(…エアと空をかけてるんじゃ?)

白露(…なるほど)


こそこそと大和の冗談の内容の審議を始める

彼女の言わんとしていることは理解はするが

問題は、ここは笑うところなのだろうか?

正直そんなに面白くはない

無理に笑って機嫌を損ねられたら寿命が縮む事うけ合いだ

しかし、変に流してへそを曲げられても同じ運命だろう

なるほど、八方塞がりか…


大和「ああ、笑ってくれても良いんですよ?」


お許しが出た、ただし死刑宣告の様にも聞こえなくはないが



ー大本営・執務室ー


「空々しいので…エアだけに…」


壁の向こう側から聞こえてくる大和の声

凛として透き通った声、いつ聞いても綺麗な声だと思う

ただし、今紡がれている言葉は非常にしょうもないが


みつよ「…面白く無いわね…」

大淀「はい…」


大きな机に小さな少女

腰まで届く長い黒髪と、幼いながらも凛と引き締まった表情

そこだけ切り取るならば、出来る女にも見えるだろうが

如何せん、その年頃の平均身長以下な体格も手伝って

少女…人によっては幼女にも見えるだろう

だが、たとえ幼女に見えたとしても彼女が

御代 みつよ がこの大日本帝国・大本営の大元帥、なんて事実は変わらない


みつよ「まあ、いいわ。大淀っこれをっ」

大淀「はい」


間延びした空気を断ち切るように

しっかりハッキリ元気よく

手元にあった書類を、傍に控えていた大淀に手渡す みつよ様


みつよ「ビスマルク達には彩華の所に行ってもらいましょう」


大型艦も居ないみたいだし、ちょうど良いわねっと


大淀「先日…○○鎮守府の娘達と揉めたようですが…」


万津提督も、あそこの提督を気にしてるようだし

火種をばら撒いているだけなのではないかと思わなくもない


みつよ「あのくらい戯れてるだけよ、ほっときなさいな」


子供の悪戯を見つけた親のような笑みを浮かべると

次の書類にとりかかる みつよ様


大淀「それはそうと…おひいさま? 彼らの階級…もう上げてしまっても宜しいのでは?」


受け取った書類を封筒に収めながら

大淀がちょっとした疑問を口にする

単純な戦果だけならば、万津提督にしたって

あの提督にしたって、もう十分なはずなのに

なにゆえ、未だに最下位争いをさせているのかと


みつよ「その方が面白いから、なんて言ったら信じるかしら?」


すぅっと目を細める みつよ様

値踏みをする様に、品定めをする様に


大淀「…半分は」

みつよ「あら、全幅の信頼とはいかないわね」


そういう割に、おちゃらけながら表情を緩める


大淀「はい。盲信する気はありませんので」

みつよ「ふふっ手厳しいわねっ」

大淀「ええ、悪い事したら引っ叩きますからね?」

みつわ「はーい」


本当にそれは有り難いことだ

殴ってでも止めてくれる人がいるというのは

有り得ない、なんてことは有り得ない

だから、せいぜいそうならないように務めるだけね


大淀「それで、もう半分は?」

みつよ「んー…あれよ。権力争いとか勢力争いに疲れせるのは勿体無いしね」


少し言い淀みながらも

内心の愚痴を吐露するように、残りの半分を口にする

それは、いつもハッキリ物を言う彼女にしては珍しい


大淀「なるほど…」


素直に頷く大淀

いつの時代になっても、そういうのは変わらないらしいと

半ば呆れるように、諦めるように


みつよ「ていうか、あいつ。階級上げたら怒りそうじゃない?仕事が増える~ってさ?」

大淀「そうですね。きっと辞令書破り捨てますね」

みつよ「あははははっ。その時はあれよっ、矢文よっ。51cm砲弾に括り付けて送りつけてやるわっ」

大淀「本当にやりかねませんよね、おひいさまは」

みつよ「大淀っ、私はやると言ったら やる女よっ」

大淀「頼もしい限りで」


みつよ様がいつもの調子に戻ったのを見て

内心ほっと胸をなでおろす大淀だった



ー□□鎮守府・執務室ー


夕立「提督さ~ん、くすぐったいっぽいぃぃ~♪」


執務室の一角

応接用に据えられたソファの上で、夕立が悶えていた

その隣には、彼女の提督である所の万津 彩華の姿


胸元まで捲れ上がった制服

そこから覗いて見える白い肌

そこに、彩華の大きな手が重ねられ

彼女のお腹を くにくにと撫で回している


彩華の指が動く度に、柔らかそうに形を変える白いお腹

這いまわる指の感触に身をくねらせている夕立

白く透き通るような金色の髪も

身悶えてる内に、千々に乱れてソファの上に広がり

息苦しさから、頬に赤みが増す

こそばゆさに、吐息も乱れ熱を帯び、不規則に胸が上下する


そう、場合によっては それは扇情的な光景だろう

年頃の娘が、男の手によって、体を熱くさせている

そう言ってしまえば、確かにそうなのだが

きゃっきゃっと、燥いでいる彼女からは色気も何もなく

寧ろ、そんなことを考えるこちらの方に罪悪感が圧しかかって来るようだった


彩華「ほら、もう良いか?」


彼とてまた、罪悪感に駆られる1人である

いくら彼女にせがまれたといえ

いくら彼女にその気がないとはいえ

流石にこの光景に何も感じないほど枯れてはいない

欲望に押し流されないよう

理性の錨を投錨して嵐が過ぎるのを耐えるばかりなり


夕立「じゃあ今度は頭なでで欲しいっぽいっ!」


その場から、ぱふっと起き上がると

彩華の膝の上に頭を乗せる夕立

物凄い懐き様だった


彩華「おうっ、任せろっ」


お腹を撫でるのに比べたら、全然余裕だった

こんな感じで、夕食の後は

夕立が満足するまで遊んでやるのが、彩華の日課になっていた


「お、落ち着いてビスマルク、その話は後でだって」

「ビスマルク姉様っ今はダメですって」

「悪いことは言わないから…」

「何よ貴女達、あの娘1人がなんだって言うのよっ」


ふいに、騒がしくなる執務室の扉の向こう

程なくして、扉が勢い良く開かれた


ビス「提督っ、少し良いかしらっ」

夕立「ぽい?」

彩華「なんだ…いきなり?」


蹴破りそうな勢いで扉を開けておいて

良いも悪いもあったものではないけれど


夕立「今は夕立が提督さんと遊んでるっぽい、後にするっぽい~」


明らかに不満そうだった

幼子のような満開の笑みは鳴りを潜め

今は、むすぅーっと頬を膨らませている


彩華「夕立。少しくらい良いだろう?」

夕立「ぽーい」


提督にそう言われてしまっては仕方がないと

素直に引き下がる夕立だった、納得はしてなさそうだったけど


彩華「すまなかったな、それで?」


先を促されると、一つ咳払いをして


ビス「○○鎮守府に行くのでしょうっ、私も連れて行きなさいっ」


そう言って、そう宣言して、そう申された


彩華「却下だ」


しかし即答である


ビス「何でよっ!」

彩華「何もかにもあるかっ、輸送任務に戦艦連れていくわけ無いだろうっ」

ビス「私はっ、あそこの金剛に用があるのよっ」

彩華「お前にあっても俺には無いなっ」

ビス「良いじゃないっ少しくらいっ」

彩華「だめだ」


そうやって、暫く続く言い争い

そんな光景をつまらなそうに夕立が眺めていた


彼女にとって、この時間は至福であった

朝起きて、任務をこなし、ご飯を食べて、提督さんに遊んでもらう

概ねそんな毎日だし、そんな毎日が大好きだった


夕立には戦艦が分からぬ

夕立は駆逐艦である。魚雷を放ち、素敵なパーティーをして遊んできた

けれども、提督さんの事に対しては、人一倍に敏感であった


基本的に、この□□鎮守府は縦社会である

大雑把に分けると、提督を筆頭に、夕立を始めとする白露型の駆逐艦

そして、それ以外の艦娘。最後に、先日着任したばかりのビスマルク達となる


そこで問題となるのが

一番下っ端のビスマルクが、提督を困らせてるという事実

彼女にはそれが不愉快だった、故に


夕立「ぽいっ」

ビス「…」


手近にあった、ペンギンのぬいぐるみを投げつける夕立

完全に不意打ちだったせいで、受け身を取る間もなく

顔に張り付くようにぶつかるぬいぐるみ

程なくして、それは地面に引かれるように、ズルっと滑り落ちていった


ビス「何するのよっ!」


睨み付けるように、夕立に視線を投げるビスマルク

しかし、そんなキツイ視線でさえ つまらなそうに受け流す夕立


夕立「提督さんはダメって言ったよ?もう お話は終わりっぽい」


淡々と告げる夕立

それは、忠告であり警告でもあった


ビス「今は貴女なんかに構ってる暇はないのっ、大人しくしてなさいっ」


一方的に話しを断ち切ると

再び、彩華との言い争いに戻るビスマルク


夕立(…ぽーい)


そっかそっか、ビスマルクはそういう娘だったのね

と、夕立の中で最後の一線が切れた


彼女とて鬼ではない

この時間が大好きだとは言っても

提督の都合もあれば、他の娘の事情もあろう

だがしかしだ、一方的な我儘で提督さんを困らせた挙句

「貴女なんかに」…「なんかに」…「なんか」

なんかってなんだ


彩華「…」


終わったなと思う

肌が粟立つようなこの感覚は

もう馴染みのあるものになっている

そう、夕立が戦闘モードに移行した時は決まってこうなる


何より顕著なのは

柔らかな碧眼が攻撃的な赤い瞳に変わっていることだろう

そして、真っ直ぐに伸びていた髪は、頭の両側が跳ねており

透き通るようだった金髪も、先端に向かうにつれて赤みが増していた


しゅっと、布と肌が擦れたような音が聞こえてくる

たぶん、お気に入りのグローブでも着け終わったところだろう


ビス「ちょっと提督っ聞いてるのっ!私の話を無視するなんてっ」

彩華「一つ忠告な?」


1人騒いでいるビスマルクの口を、片手を上げて制する


ビス「なによ…」

彩華「お前は、もうちょっと回りを見たほうが良い」

ビス「?」


言葉の意味を図りかねて、疑問符を浮かべるビスマルク


夕立「提督さん、お話は終わったかしら?」

彩華「ああ」

夕立「じゃあ…コレ、借りてくわね」

彩華「ああ」


夕立の問いに2度頷いて返す

最早何も言うまい、夕立だって警告はしていた

だからこれは、ビスマルクの自業自得だ

まあ、正直。いい加減面倒くさい、なんて個人的な事情もあったけど


ビス「ちょっ、ちょっと待ちなさい夕立…」

夕立「さんを付けなさい、ヴルスト娘」


じりっと後ずさるビスマルク

彼女とてここまで来れば良い加減理解する

回りを見ろと言われた意味を

まあ、コレに限ったことではないが、それに気づくのはまだまだ掛かりそうだ


見覚えのあるその出で立ち

一目見ただけで、あの時の光景が蘇ってくる

着任当初の最初の演習で、この娘1人に見せられた悪夢を


夕立「そんなに出撃したいなら、あたしが遊んだげるわ」


夕立に気圧されて、竦み上がるビスマルクの傍を静かに歩いて行く夕立

すれ違う二人、その横顔

恐怖に白くなっているビスマルクと、ただただ静かに微笑む夕立


ビス「…」


静かに横を通り過ぎていく夕立

一瞬、何もされないのかと、安堵も覚えそうになったが


ビス「ひっ」


そんな淡い期待を握り潰すように

ビスマルクの肩を、夕立の細い手が鷲掴みにする


ビス「待ちなさいっ夕立っ私はただっ」

夕立「さんを付けろと言ったわ、ジャーマンポテト」


あんまり呼び方に文句の一つも言いたくなるが

それをぐっと飲み込むビスマルク

瞳は挙動不審に動きまわり、冷や汗が吹き出てくる

一言でいえば、やばい、怒らせた…


ビス「…夕立…さん、待ってください」

夕立「話は終わったと、言ったはずよ?」


その間にも、ズルズルと引きずられながら

執務室の扉へと近づいていくビスマルク


ビス「…」


この部屋から引きずり出されたら

本当に終わりだろう、そんな予感がしていた

この状況を打破する方法は…

この場でこの娘を打ち倒す?

無理だ、出来るならこんな事にはなっていない

ならば、この場を収めてくれそうな人は…


ビス「提督っ、どうにかなさいなっ」

夕立「…」


この手しか無かった

ピタリと、夕立の足が止まる

ビスマルクの言葉が気になって

というよりも、彩華の答えを待つかのように


彩華「夕立、忘れ物だっ」


ぽいっと、夕立の方へ忘れ物を放り投げる

それが、彼女の頭の上でぱっと広がると

ゆっくりとその肩に白いマフラーが掛けられた


夕立「提督さん、ありがとうっぽい♪」


ぱっと、花の咲いたような笑顔を見せる夕立

その笑顔は、先程まで彩華に甘えていた少女のものだった


ビス「ちょっとっ!?」


それは、ビスマルクを戦慄させるには十分な光景だった

エクセキューショナーに首切り刀を投げ渡したようにさえも見える


夕立「ああ、そうだっ。提督さん、明日の戦艦の出撃予定は?」

彩華「今なくなったぞ?」

夕立「ぽいっ♪」

ビス「いーやーっ離してぇぇぇっ!」


涙目であったし、涙声でもあった、あの時の悪夢が蘇ってさえいる

嫌な予感と共に、夕立の手を振り払おうと、ジタバタと暴れだすビスマルク

しかし、何処にそんな力があるのか

その程度では夕立の拘束はビクともしなかった

そうして、そのまま引きずられ、扉が開き、その向こうへと…


「お疲れ様ですっ、夕立さん」


レーベ、マックス、オイゲン

3人が壁際に整列し、扉が開くと同時に敬礼をする


夕立「あら…良い心がけね?明日から おやつはお煎餅にしてあげるわ」


にこっと、絶対強者の笑みを3人に向ける夕立さん


「ありがとうございますっ」


きっかりと声を揃える3人

彼女達は身に染みていた

夕立に逆らっちゃいけないと


夕立「あと、このバームクーヘン。借りるわね」

ビス「ちょっとっ、さっきから人を変な名前でっ」


もう、ドイツっぽい名前なら何でも良いんじゃないかと思う


ビス「ていうか、貴女達も助けなさいよっ!」


同郷の友に助け艦を求めては見るものの


オイゲン「無理ですっ、お姉さまっ」

マックス「止めはしたわ…」

レーベ「ごめん、ビスマルク…」


銘々に、顔を伏せて「無理だと」答えるのみ


「いぃぃぃやぁぁぁぁぁっ」


そんな悲鳴も、廊下の角を曲がる頃には

次第に小さくなり消えていく


白露型4番艦;夕立

またの名を、□□鎮守府・艦隊総旗艦:夕立、だったりする



ー○○鎮守府・工廠ー


広い作業台の上。そこに鎮座しているのは

先日、ドイツ艦の娘達からもらった38cm砲

それを前に、難しい顔をしている提督と夕張


せっかく優秀な砲が手に入ったのだ

この際だから、提督にも46cm砲以外の大型砲の魅力を

少しでも知ってもらおうと、夕張が売り込みみたいな事をしていた


夕張「と、言う訳なんだけど…どうかしら?」


カタログスペックの書かれたファイルを片手に

覗きこむように、提督の方を見る


提督「むぅ…」


口元に手を当て、考え込んている提督

どうにも、芳しくはないようだ


提督「でも、連装砲じゃん?これ」

夕張「あのね…」


予想はしてたが、改めて言われると頭が痛い

そもそも、金剛さんが46cm砲積むことになったのも

提督が35.6cm連装砲を副砲だと思ってたせいだったし

主砲=3連装砲とか、アニメの見過ぎだと思う


「いつまでも副砲積んでるわけにもな?」

なんて、満足気に46cm砲を持ってきた提督に

金剛さんが、事実を伝えられなかったらしい

一途というか、健気というか…


夕張「一応言うけど…◯中間子砲も連装砲だからね?」

提督「…言われればそうだな」


流石に、お気に入りの物がそうであるなら

溜飲を下げるようだ


夕張「そんなに、3連装砲がいいの?」

提督「カッコいいからなっ」


それぞれの砲身が

波の様に、扇の様に動く様は心に響くものがある

無骨な兵器が見せる風情とでも言えばいいか

連装砲では得られない感動だと思う


夕張「しょうがないなぁ…」

提督「?」


口ではそう言いながらも、どこか得意気な夕張さん

そう、知ってはいたし、分かってたもいた、だから用意をした

38cm砲と張り合いたい

なんて私情を、提督の嗜好で誤魔化して、資材を投じたのだ

そうして出来たのがこちら


夕張「じゃーん.試製35・6cm’3・連・装・砲’よっ」


ついにうちでも運用可能になりましたっと


提督「おお…これは、いいな…」


確かに、46cm砲より一回りか小さい砲ではあったが

3連装砲になるだけで、ここまで頼もしく見えるとは


夕張「これなら文句は無いでしょうっ」


ちなみに、41cmバージョンもやれることはやれたのだが

どのみち装備できる娘がいないので、提督には秘匿することにした

どうせ、過積載になるなら46cm砲の方がいっそ潔が良いというのは

夕張からしても、同意見だったから

中途半端なものよりも、ピーキーな方が使いやすいというのは

往々にしてよくあることだ


提督「了解した。金剛と相談して、コレ積を積むなら積むと良い」


実際問題、中型艦や小型艦に

46cm砲なんてオーバーキルでしか無いのも事実だし


夕張「やったーっ!」


努力が報われた瞬間だった

これで試作機の試し打ちが出来る

データを取って次に活かせる

ゆくゆくは51cm砲を…さすがに金剛さんが潰れるか…


金剛「てーとくーっ、やーっと見つけたデース」

提督「んあ?」


夕張が今後の展開に想いを馳せていると

工廠の入り口から、金剛が顔を覗かせる


提督「なんかあった?」

金剛「ハイっ。お客さんが来てるヨっ」

提督「?」


キラキラと笑顔を輝かせて、ヒラヒラと制服を靡かせて

鉄と油の匂いの入り混じった工廠に入ってくる金剛

重苦しい雰囲気のこの場所に置いては

その白い制服も相まって、そこだけ切り抜かれた様に見える


そして、その隣には見慣れない少女の姿

とはいえ、知らない顔でもなかった

白の襟首と赤いラインの入った黒い制服

黒い髪は三つ編みに束ねられ、青い瞳が目を引く少女


時雨「やぁ、久し振りだね、提督」

提督「時雨か…」


柔らかな笑みを浮かべる少女

白露型2番艦:時雨だった




時雨の案内を終えた途端に、夕張に呼ばれる金剛さん


夕張「金剛さんっ、どうかしら?」

金剛「お、おぅ…ちょっと落ち着くネ、夕張」


前のめりに顔を近づけてくる夕張に

若干引き気味の金剛さん


ものの試しにと

46cm砲を、35・6cm3連装砲に

取り替えている最中だった


金剛「んー…そう、ネ」


テンション上げ上げの夕張とは変わって

金剛の表情は悩ましいものだった


夕張「あ、あれ?何処かおかしかった?」


それに気づくと、何かミスでもあったのだろうかと

夕張も表情を曇らせる


金剛「いえ、ぴったり…ですが」


それはもう、着古した下着の様に、履きつぶした靴の様に

違和感なく収まってはいる


金剛「軽い…ネ」

夕張「え…そりゃ、そうでしょう?」


そりゃだって、高速戦艦用だし…


金剛「いえ…なんというか、収まりが悪いというか、しっくり来ないというか」

夕張「…」


ああ、なるほど

手近なところでは、筋トレの後のような感覚だろうか

急に重量がなくなると、力加減がちょっと狂うあの感じ

46cm砲なんてものを背負い続けていたら

その重量が無くなるのは、どれほどの違和感なのだろうか


金剛「それにそのぅ…」

夕張「?」


俯むいて、胸の前で両の指先を合わせては、捏ねくり出す金剛さん

その体は、恥ずかしそうに揺れてさえもいる


金剛「あの重みが良いといいますか…なんというか」

夕張「あー・・・うん」


そう、癖になっていた

提督の期待を裏切りたくないと、提督の前で格好付けようと

過積載なのを承知で装備をした46cm砲


最初のうちはそりゃ、なかなか当てられないし

バランス崩して海の上ですっ転んだ事もあったけど

今では片手間に、オモチャのように扱えている

そう、紅茶を飲みながらだって出来るほど


金剛「提督を背負って戦ってる見たいといいますか…ねぇ?」

夕張「ねぇって…」


知らないわよ、そんなこと

頬を染め、同意を求めるように視線を送ってくる金剛

同意を求められても困るし

からかわれ過ぎて、被虐趣味にでも目覚めたのかと心配になってくる


夕張「むぅ…」


しかし、そうなると…この3連装砲はどうしたものか

折角作ったんだし、少しくらいは使って欲しいけども

いっそ球磨さんに渡したら喜ぶかな?

でもあの娘、46cm単装砲があるしなぁ…

大鳳さんだったら積めるかしら…空母に積んでもなぁ…


夕張「あ、そっか…」


自分で積めば良いのか

妙案とばかりに、ぽんっと、胸の前で手を打つ夕張

私だって艦娘だ、多少の過積載くらい問題ないはず

ここいらで、兵装実験軽巡の本領発揮といこうじゃないの


夕張「艤装っ展開っ!」


自身の船体に、3連装砲を重ねて展開した


「きゃっ!?」


そんな可愛らしい悲鳴も

コンクリートの地面と、重い金属が直撃した時の

鈍い衝撃に飲み込まれていた


金剛「…夕張?何してるデース?」


見事にすっ転んでいた

展開された、3連装砲の重量に引きずられて

床に転がされていた


夕張「なんでも…なんでも、ないもん…」


疑問符を浮かべて

覗き込んでくる金剛の顔を直視できずに

恥ずかしそうに、口惜しそうに、俯くばかりの夕張だった




金剛に案内の礼を言って別れた後

1人、提督の前に進み出る時雨

何はともかく、最初に言っておかないといけないことがあった


時雨「大丈夫、今日は僕1人だから」

提督「そうか…」


その一言で、辺りを警戒していた提督がその動きを止めた

まったく、どうしてこう彩華さんと折り合いが悪いのだろうか、この人は

彩華さんに問題がないとは言わないけれど

もう少し仲良くしてもバチは当たらないと思う


「頼みに行くなら、こっちから顔を出すのが筋だろう」

なんて、彩華さんは言ってはいたけれど

話が拗れそうなので、そこは辞退してもらい

今こうして、1人○○鎮守府を訪れている時雨だった


提督「それで?」


文字にして3文字

簡潔に先を求める提督


時雨「うん、鼠輸送任務を手伝ってもらおうと思ってね」

提督「なに?この辺通るの?」

時雨「それもあるけど、詳しくはこっちに纏めてあるよ」


そう言って、封筒に入っていた書類を提督に差し出す時雨


提督「…長いな」


何やら細々と、複数枚に及んでいたその内容

読むだけでも疲れそうだ


時雨「ふふ、そういうと思ってね。要点は最初の3行に纏めておいたよ」

提督「あらほんと…」


口元に手を当て、苦笑する時雨

接点なんて、たまの演習(小競り合い)くらいなものだけれど

それでも、この提督の大体の性格は掴んでいたりする


しかしてその内容は


・鼠輸送任務をするよ

・駆逐艦を貸して欲しいな

・資源はこっちで持つからさ


と、大雑把に言えばこんな所だ


時雨「それで、どうかな?」


提督が読み終わった頃を見計らって

答えを求める時雨


提督「んー…」


別に構わないといえば、構わない

使用する航路と周辺海域は

先日、球磨達がさんざ暴れ回ったばかりだ

駆逐や軽巡程度が彷徨いてるのは仕方ないとしても

戦艦、正規空母なんて大型艦はまだ居ないだろう

最悪、重巡や軽空母と鉢合わせるくらいか


確かに、やるとすれば今が良いか

いや、今だから言ってきたのか…

そう考えると、半ば拒否権が無いようにも見えてくるが

彩華の頼みを聞くなんて形になるのは、なんか嫌だった


提督「嫌だと言ったら?」

時雨「困るね」


正直に、自分達だけで出来ると言われれば出来るだろう

けど、どうしたって危険性は上がってくる

安全な手があるのに、それをしないのは馬鹿だろうと

これは、そういう話だった


提督「プリーズ…」

時雨「…なるほど」


人差し指を立て、ニヤッと笑う提督

人に物を頼む時に使う大事な言葉を要求していた

それを察して、苦笑する時雨

内心、彩華さんを連れてこなくて本当に良かったとさえ思う

居たら絶対ここで喧嘩だ


時雨「プリーズ。引き受けてくれないだろうか、○○鎮守府提督殿」


言い淀むこともなく、さらりとその言葉を口にする時雨


提督「なんだ、ノリがいいな」

時雨「リップサービスだよ。一言で提督さんが頼みを聞いてくれるなら安いものさ」

提督「おーけーおーけー。遊びにまで付き合ってくれたのなら、聞かないわけにもいかないじゃないか」

時雨「ありがとう、提督さん。彩華さんも喜ぶよ」

提督「ん?それは勝手だが、私は【時雨の】頼みを聞いただけだ」

時雨「ふふ、分かっているさ」


まあ、聞いてくれるとは思ってた

多少からかわれはするだろうけれど

この提督さんは基本的に艦娘に甘いからね


なんて、内心胸を撫で下ろして (ほくそ笑んで…)いると

ドンっと金属が叩きつけられるような、鈍い音に顔をあげる


時雨「…提督さん、アレは何をやっているんだい?」

提督「さぁ?」


呆れ気味に視線向ける二人

そこには、すっ転んでいる夕張の姿があった



ー執務室ー


木曾「わからん…」


執務室では珍しく、木曾が机に座って書類と睨めっこしていた

というのも先日、時雨が(←これ大事)持ちかけてきた鼠輸送任務の依頼

その為に、皐月達が出払っている為だった

「帰ったら お仕事溜まってそうだねぇ」なんて話しをしていたから

「それなら俺がやっとくさ」なんて、格好を付けて見たまでは良かったが


こうして書類を手にとって、分かったことが一つあった

そう、自分には分からないという事が

仕方がない、今まで戦闘一辺倒だったのだ

誰だって初めては分からないものだ

という訳で、分からないことは人に聞く

木曾さんは素直であった


木曾「球磨、分かるか?」


木曾の背後、窓枠に背中を預け

ぼぅっと外を眺めていた球磨

自分より長いことこの鎮守府に居るのだ

多少は書類仕事の覚えはあろうかと

期待を込めて、球磨に問うて見る


球磨「クマ?妹に分からん事が、ねーちゃんに分かるわけないクマ」

木曾「…」


考える素振りもなく、両手を上げて「知らん」と切り捨てる球磨

なんかムカついた

素直に受け取れば自虐でしかないのだが

妙に馬鹿にされてる気がする


木曾「しゃーねーなー…提督、コレなんだが…」


まあ、予想の範囲内だ…そうとなれば、大人しく次だ


執務室に設えられたソファ

その上で、いつもの様に寝っ転がっている提督

木曾に呼ばれて、顔を上げてはみるものの


提督「木曾に分からないことが、私に分かるわけないじゃない?」

木曾「いや、あんたは分かっとけ」


至極まっとうな正論だった

しかし何故だ、なにゆえコイツらは俺を基準にしてるんだ

間接的にバカにされてる気さえする…

だがしかし、ここで声を荒げてしまえば

自分がバカだと認めるようなもので…多分、コイツらの思惑通りだろう


木曾「すぅはぁ…あとは…」


深呼吸を一つして、高ぶるハートを押さえつける木曾さん

そして、提督が転がってるソファ、その対面に視線を投げる

何時もは、望月あたりが転がってたりする その場所は

今は多摩が専有していた…というより、丸くなって寝ていた


木曾「…」


八方塞がりだ、分からないことは人に聞く

それ以前の問題だ、分かる奴が回りにいない

大人しく大鳳でも呼ぶか…

大井や北上でも良かったが

なんか負けた気がするので、それは最終手段にしておこう


球磨「…クマ?」

提督「…ん?」


手持ち無沙汰に外を眺めていた球磨の視線が1点に留まる

それと同時に、寝っ転がっていた提督も

面倒くさそうに顔をしかめた


それから、カップラーメンが出来そうなくらいの間を置いて

コンコンコンっと軽いノックの後、執務室の扉が開かれる


ゆー「Admiral…お客さん…」


遠慮がちに開かれた扉

その隙間から、ゆーが顔を覗かせて

するりと中に入ってくる

そして、それに続くように扉が大きく開かれた


彩華「邪魔するぞっ」


現れたのは、□□鎮守府の提督、万津 彩華

たださえ小柄なゆーを基準にすれば

とても大きく見えるその体躯


提督「球磨、あいつ嫌い」


そしてそれは…

開口一番からそういうほどには

提督の苦手な人でもあった


球磨「任せるクマ」


左手に拳を打ち付け

いい暇つぶしが出来たとばかりに、顔を綻ばせる球磨

窓枠から背中を浮かして

軽い足取りで、万津提督の方へと歩いて行く


彩華「まったく、コレじゃ話も出来んな…長良っ」


あと数歩、それで球磨の手が彩華に届くその距離で

彩華と球磨、二人の間に一人の少女が割って入る


白のセーラー服に、赤いスカート

そこから伸びるのは、健康的に引き締まった肢体

短めの黒い髪をサイドテールに纏めて

額には鉢巻を巻いている

平時は快活な笑顔を見せるだろう

その表情は、研ぎ澄まされて、冷たく球磨に視線を突き刺していた


長良「久しぶりね、球磨さん。そして、さようなら」


既に艤装は展開され、お互いの主砲は

それぞれの目指すべき場所へと向いている


長良「人の司令官に手を出そうだなんて、無事じゃ済まさないわよ、球磨型の…」

球磨「くまくまくまくま♪…目の前に長良がいるのに、放っておくなどと、何が球磨型か」

長良「ほんっと、変わらないわね。初めて合った時からずっと」

球磨「御託はいいクマ。さっさとやるクマ、長良型っ」

長良「そう、ね…この前のようにはいかないわよ、球磨型」


一触即発、一撃で一切合切何もかも決着しそうな空気を漂わせて

お互いがお互いに、主砲を向けたまま睨み合う


木曾「はぁ…」


始めやがった…

溜息一つ吐き出して、見ない振りをする木曾さん

別にコレが初めてという訳でもない

演習という名の小競り合いがあるとだいたいこんな感じだ

むしろ、ここまでがテンプレと言っていい

そうやって、ドンパチを始めた所でケリが付いた試しはないが


ゆー「きっそ、きっそ…」

木曾「ん?」


不意に、外套の裾を引っ張られる

顔を向けてみれば、アイスブルーの瞳が不安げに揺れていた


ゆー「ケンカ…とめて?」

木曾「止めろったってなぁ…」


正直言えば関わりたくなかった

木曾とて、自分が強いって自負はある

動物で喩えるなら、謙遜の意味を込めても

きっと狼くらいはあるんじゃないかと


だがしかし、今目の前で睨み合ってるのは

球磨だ、鎮守府のヒグマだ

そんなんと まともに張り合える長良は、きっと新手のグリズリーか何かだろう

タイマンならまだワンチャンあるかもしれないが

間に割って入れとなると…考えるだけで背筋が凍りそうだ


おまけに、この状況を一言で止められそうな提督二人は

「負けるなクマー」 「やっちまえっながらー」

完全に煽りに入ってるし


触らぬクマにと言いたいが

剣呑な空気に、怯えてる ゆーを放っておくのも気分が悪い

仕方ない、か…


木曾「おい、球磨、長良…その辺にしと…」


「すっこんでるクマっ」「邪魔しないでっ」


「その辺にしとけ…」と、言い切る前に

キッと睨みつけられ、続く言葉を塞がれた


ゆー「…こわい」

木曾「そうだな…」


飛んできた恫喝の切れ端から

逃れるように、木曾の外套の中に潜り込む ゆーだった




多摩「…」


ソファの上

猫寝入りを決め込んでいた多摩が、薄っすらと目を開く

状況は大体理解していた、木曾には荷が重いだろうという事も

放っておいても1発2発手が出るくらいだろうし

捨て置いてても構わないのだが…


多摩(…甘くなったものだにゃ、多摩も…)


庇護欲…だろうか

木曾の外套の中に潜り込んだ ゆーを見ていると

助け艦くらいは出したくなってくる


多摩だって、自分が強い自負はある

謙遜を込めても、トラくらいはあるだろうか

相手がクマ2頭だとしても

やりようはあるだろう、けども…正直めんどくさい


薄目を開けたままに、部屋の中を見回す多摩

この状況を消極的に解決するにはと…

そうして、目が合った

多摩からすれば幸運だったろう

しかし、相手からすれば不幸だったかもしれない


薄い緑と白のセーラー服

そして、赤銅色の髪と同じ色の瞳が目を引く少女

長良型5番艦:鬼怒


万津提督の体の後ろに隠れて

姉と球磨の様子を伺っていたようだが

何となく視線を感じてみれば、多摩と目が合った次第だった


多摩「…」

鬼怒「…」


目と目が会う二人

それで、好きだと気づくわけでもないけれど

一つ気づくことがあるならば


多摩(…やれ)

鬼怒(…わたしっ!?)


多摩が、睨み合ってる球磨と長良をアゴで指し示す

そんなこと言われたって

アレに割って入れるほど、鬼怒は強くは出来てはいない

人差し指で自分の顔を指差すと

必死で、顔と手を振って無理だとアピールする


鬼怒(…むりむりむりっ)

多摩(…無理というのは嘘つきの言葉にゃ…)

鬼怒(…だったら多摩ちゃんがやってよっ)

多摩(…いやじゃ)

鬼怒(…だったら鬼怒だってっ)

多摩(…やれ)

鬼怒(…ひどいっ)


以上、全てアイコンタクトである

色々と抵抗(無駄な努力)をしては見たが

今はこうして、恐る恐る、球磨と長良の前にやってきていた

とはいえ、ここまで来たらやるしかないと

腹をくくって、気合を入れて


鬼怒「も、もうっ、二人ともケンカばっかりしてると、鬼怒は「おにおこ」なんだからっ!」


自身の赤い髪と、同じくらいに顔を赤くして

彼女はそう言った、言い切った


長良「…えーっと」


球磨と睨み合っていた時の殺気はどこへやら

毒気が抜かれたような表情でもって、鬼怒を見つめる長良


球磨「はっ…大和と同レベルとか、勘弁して欲しいクマ」


鼻で笑い飛ばし、完全に嘲笑してる球磨ちゃん


鬼怒「そこまでなのっ!?」


そりゃ確かにダジャレだけどもっ

しょーもないかもしれないけどっ

大和さんと同レベルとはちょっと心外だった


多摩(…もう一押しか、にゃ?)


そんな光景を遠巻きに眺めている多摩

まあ、良くやった方だろうと褒めても良いが

一通り落ち着いたら、また再燃するだろうか…

火種は完全に消さないと…


多摩「…ゆー」

ゆー「?」


木曾の外套に隠れていた ゆーを呼ぶ多摩

何だろう?と、不思議そうな顔をしながらも

多摩の丸くなってるソファへ、てくてくと歩いていく


多摩「ちょっと耳貸すにゃ?」

ゆー「ん」


猫に招かれるまま傍に寄り

腰を落として、その口元へと顔を寄せた

かんかんこれこれっと、ゆーの耳元で囁く多摩

その吐息が、こそばゆくて体を揺らす ゆー


ゆー「それ…やればいいの?」

多摩「にゃ、それでケンカはおしまいにゃ」

ゆー「うん、わかった」


てくてくと、来た時同じように

軽い足音を立てて、球磨・長良・鬼怒の集まる場所へと歩いて行く

そんな ゆーの後ろ姿を見送る多摩

しかし、少々不安にもなる

素直と言えば聞こえは良いが、どこか愚直にも見える

新しい環境に馴染むのに必死なだけならまだ良いが


多摩「にゃぁぁぁぁ…」


欠伸をしながら、ぐぅっと伸びをする

固まった筋肉が伸びる感覚が心地いい

そんな、懸念もあるにはあったが

ゆーの頭の髪飾り、三日月型のアクセサリー

睦月達とお揃いのそれを見る限り、言うほど心配することもなさそうだと




ゆー「あ、あの…ゆーも、おにおこ…ですって…」


両の拳を握りしめ、耳の傍まで持ち上げてからのこの台詞

ようは、ただ鬼怒の真似をさせただけでは合ったけれど

その威力は抜群だった


球磨「やめだ」

長良「やめね」

鬼怒「やめてっ!」


白けたとばかりに、艤装を仕舞う二人と

赤鬼のように真っ赤になった鬼怒


ゆー「ねぇ…きぬ?」

鬼怒「な、なにかな?」


力なく笑みを浮かべながらも

ゆーと視線を合わせる鬼怒


ゆー「おにおこって…どういう意味?」

鬼怒「…」


曖昧な笑顔のままで固まる鬼怒

きっと、ここで多摩を恨んでも誰も責めないだろう


長良「あら?教えてあげればいいじゃない?」

球磨「今更、何を恥ずかしがってるクマ」


言い淀む鬼怒をからかうクマ2匹

こいつらほんとは仲いいんだろ、とか言いたくなる


ゆー「…ねぇ、きぬ?」


言い淀んでいる鬼怒を見て

なにか間違ったのだろうかと、不安そうに見上げてくる瞳

ここではぐらかしてしまっても良かったのだろうけど

それでも鬼怒は…


鬼怒「えーっとね、あたしの名前ね、鬼と怒で「きぬ」って読むのね…」

ゆー「…」


ゆーの傍で腰を下ろし、視線を合わせて話し始める鬼怒


鬼怒「それでね…鬼怒は、鬼みたいに怒っちゃうぞーって、おにでおこだよーって…ね?」

ゆー「…」


それは、鬼怒にとって初めての体験だった

今までにだって、しょーもないダジャレを言ったことは結構あるが

まさか、一から十まで懇切丁寧に説明する事になるなんて思わなかった

言ってしまえば、ちょー恥ずかしい…


ゆー「そっか…きぬはかしこいね…」


そっと、手を伸ばすと

えらいえらいと、鬼怒の頭を撫で始める ゆー


鬼怒「あ、ありがとうねぇ…」


ここで初めて、ダジャレを言って笑ってもらえる

からかってもらえる喜びに気づく鬼怒

バカにこそされても、まさか褒められるとは思ってなかった

正直、対応にこまるし、めっちゃ恥ずかしい

そんな内心を抱えつつ、曖昧な笑顔でゆーにお礼を言う鬼怒


たまたま、付いてきたら、多摩にアゴで使われて

頭の痛い事になった鬼怒ちゃんでした



ー海上ー


兵は拙速を尊ぶ、輸送任務とてまた然り

いつの時代においても、急な入用というのはあるものだ

今回の鼠輸送もきっとそんな所だろう


先日、球磨達が暴れ回ったおかげで

比較的 静かな外洋

時折、駆逐級や軽巡に出くわしたりもするけれど

その程度と言える程の練度はあったりする


卯月「やーよーやーよー…うーちゃーん暇ぴょーん」

弥生「…重い…」


暇を持て余した卯月が

弥生に後ろから抱きつき、おぶさる様に引きづられていた

それを、振りほどくまではしないものの

輸送用のドラム缶に、卯月が加われば

弥生の小さな体では少々無理が出てくるというもの


輸送任務中とはいえ、特に見るべきものもない外洋

散発的に遭遇する深海棲艦は、長月と菊月が一瞬で蹴散らすし


卯月「いっそ、空母でも出てこれば良いのにぃぃ…」


そしたら、うーちゃん大活躍ぴょんっと

冗談ではない冗談を言いながら、パタパタと足をバタつかせる卯月

つま先が海面を叩く度に、小さく水飛沫を上げている


弥生「卯月…あんまり、暴れないで…」


ぶら下がっているだけならまだしも

バタつかれては良い加減バランスが取りづらい


でも、と…

こうして卯月に絡まれてるのは

なんか久しぶりな気がする

最近は瑞鳳さんがベッタリだったし…


弥生「まぁ、良いか…」


久しぶりの妹の重さも悪く無いかと

いつもの硬い表情の裏側で、頬を緩める弥生


卯月「あっ」

弥生「へ?」


卯月が小さく声を上げた

次の瞬間には、二人で海面に転がっていた

ふとした拍子に、バランスを崩した卯月が弥生にしがみつく

変な風に体重がかかり、弥生の片足が浮いた頃には

傾斜復元どころの騒ぎじゃなくなり、そのまま二人で水浸しになっていた




長月「まったく何をやっているんだ、あいつらは」


派手な水音に顔を上げてみれば

卯月と弥生が派手にすっ転んでいた

人が戦闘中にまったく呑気なものだと思う


まあ、いい。いつものことだと

軽く頭を振り、電探も合わせて周囲を見回す

今更しおらしくされても、こっちの調子が狂うのだし

姉二人が、きゃいきゃいしてる余裕があるのはいい事だ


長月「敵影なしと…ふぅ」


状況終了。これでしばらくは静になるか


五月雨「お疲れ様です、長月さんっ」

長月「ああ。五月雨も、援護、助かったよ」


後ろから声をかけられ振り返る長月

そこには、パタパタとこちらへ寄ってくる少女の姿

正確に言うなら、ここは海の上だ

パタパタと言うよりは、スイスイと言うべきなのだけれど

どうにも、パタパタ何て擬音がよく似合う娘だ


白露型6番艦の五月雨

白と青のセーラー服

自身の身長と同じくらいに青くて長い髪

丸っこい表情は幼さを残し

優しげに見える反面、どこか頼りなさも感じられる


五月雨「いえっ、私なんて全然っ」


パタパタ走ってきたかと思えば、今度はパタパタと手を振りだす


謙遜か、相手を立てていると言えば聞こえは良いのだろうが

この娘の場合は、どこか遠慮してるようにも見えた

なまじ 夕立やら長良やらが強い分 (優秀とは言わない

自己評価が低くなりがちなのは、分からないでもないが

あんな規格外達と比較されたら誰だって困る、私だって困る


実際、五月雨の練度が特に低いということはなく

何事もなければ大抵の状況は卒なくこなせるだろう

ただ、一つ欠点をあげるのなら

大抵の状況に含まれない事態に弱い事くらいか


長月「お前は、もう少し自信を持ってもいいと思うがな」


笑みを浮かべた長月が、五月雨の頭を軽く撫でる


五月雨「あぅ…はい、がんばりますっ」


精一杯に返ってくる返事、一生懸命なのは良いことだ


長月「ふふっ、それじゃ皆と合流しようか」


頑張りますっ、か…

まだまだ先は遠い気もするな

なんて言葉は胸にしまって

すっ転んだ姉二人へ向けて、舵を取る長月


五月雨「あ…」


そっと、五月雨の髪を撫でていた、長月の手が離れる

遠ざかっていく体温が少し名残惜しい

潮風に靡く緑色のその髪

しっかりとした彼女の雰囲気も相まって

風に草波を揺らす大樹のようにも見えてくる


自身を持てと言ってくれた、それは素直に嬉しい

けど、夕立姉さんや長良さんを見ていると

そんな細やかな喜びは、あっという間に霞んでしまう

それ以前に、私はこの娘にだって敵わないだろうというのも、分かってしまっているのだから


五月雨「もっと頑張らないと…」


溜息のような独白が潮風に溶けていく

でも、それは後回し

今は任務を成功させないと


五月雨「え、とっ、きゃっ!?」


長月の後を追って、歩を進める五月雨

そのつもりだったのだが

不意に、五月雨の体が揺らぐ


余計なことを考えていたせいか、急に来た高波に足を取られる

なんとか体勢を立てなおそうと、手や足を伸ばして足掻いてみるが

海面がどんどんと近づいてくる


五月雨(…やっちゃったっ)


まあ、それでも自分の不注意だ仕方なしと

諦めが五月雨の胸中を支配する

次の瞬間には、海面に頭から滑り込むだろうと覚悟をして

ぎゅぅっと目を閉じるが


長月「おっと…相変わらずだな、お前は」

五月雨「へ…」


感じるのは水の冷たさではなく、暖かな体温

先程まで、自分の頭を撫ぜていた柔らかい感触

見上げてみれば、苦笑する長月の顔が近い、とても近い


五月雨「あわわわわっ、ごめんなさいごめんなさいっ」


気づけば、長月に抱きつかれていた

否、コケたのは私なのだから、抱きついてるのは私

恥ずかしい…

コケたのもそうだし、失敗を見られたのもそうだ

羞恥と焦りで、五月雨の頬が染まっていく


長月「おいおい、少しは落ち着けって」


体勢を戻そうと、藻掻いているのは分かるが

動揺しているせいか、上手くいってはいないようだ

それどころか、長月の胸に顔を埋めたまま

波に足を攫われて、どんどんと体が伸びていっている

このままだと、五月雨の体が海面と平行線を引きそうだ


長月「まったく…」


あっちもこっちも手のかかる…

長月の手が五月雨の腰に添えられると

その体が伸びきる前に、すっと自分の方へと引き戻す


五月雨「あぅ…」


腰に手を添えられ、体を支えられている

そうなると、自然と顔が近くに来る…これじゃまるで

吸い込まれそうなほどに、透き通る緑色の瞳と、凛々しい顔立ち

凛としたその表情に反して、柔らかい少女の感触

ちょっと広めの おでこが愛らしくも見える

そう、これじゃまるで…恋人同士がする様な


五月雨「かはっ」


五月雨の頭が沸騰した

そう、大抵の状況に含まれない事の一つに

彼女のドジも含まれていた




涼風「あはははっ、カッコいいねぇっ、アンタの姉貴はっ」


そういって、快活に笑う少女

白露型10番艦・涼風

五月雨と同じ、白のセーラー服

黒いニーソックスと、肘までを覆う黒い手袋

濃紺の髪は二つに分けられ

元気に笑う顔には、碧眼が良く似合っていた


菊月「ふんっ、まあ当然だな」


だって長月だし、と

自分の事のように、無い胸を張る菊月


涼風「よしっ、あたいらもやってみっか、あれっ」

菊月「ふむ」


確かに、五月雨を支えている長月はとても絵になるが


涼風「さぁこいっ」

菊月「いや、まて」


両手を広げて、抱きとめる準備万端の涼風を手で制する菊月


涼風「なんだい?」

菊月「それは私の役目ではなかろうか?」


それをするのは構わない

だが、長月の役をやるのは私ではないだろうかと

ほら、妹だし…


涼風「ほぅ…」


断られるかと思ったが、意外とノリは良いらしい

体格的にも、自分が受け止めたほうが良さそうに見えたのだが

本人がやりたいというのなら、それを無碍にするのも悪いだろうか


涼風「よしっ、そいじゃあたいからいくぜぃっ」

菊月「うむっ」


飛びつくように菊月に突っ込む涼風

その場では、とりあえず菊月の小さな胸に収まりはしたのだが

すぐに勢いに負けて、体勢が傾いていく


菊月「お、あ、とっ…ととととっ」

涼風「おっ、ぉぉぉぅっ…」


ギリギリ、菊月に抱かれた涼風が

海面に衝突する間際に、なんとか傾斜が止まる

それは、一見すればバレエの1シーンの様に見えるけど


涼風「ははははっ、いやぁ危なかったなっ」


楽しそうに笑う涼風

両手が使えたなら、今頃菊月の背中をパシパシ叩いていそうだ


菊月「いや、すまない…限界だ」

涼風「へ?」


菊月が涼しい顔のまま限界を宣言すると

涼風を抱いたまま海面に倒れこんだ


菊月「むぅ…いけると思ったんだがな」

涼風「ドンマイっドンマイっ、次頑張ろうなっ」


そんな感じに両手が開いたので

菊月の肩をパシパシ叩いていた


菊月「…いたいぞ」

涼風「あははははっ、そっかそっか。そりゃわりぃっ」


なんていいながらも、さらにパシパシ叩き続ける涼風


卯月「二人とも、何してるぴょーん?」

弥生「楽しそう?」


と、そこへ、ドラム缶を浮き輪代わりにして

潮流に流されるままに、二人のもとに漂流してきた卯月と弥生


涼風「いや、そりゃこっちの台詞だよ…」

菊月「まったくな…」


そりゃ、皆して頭から水かぶって、ずぶ濡れなのには違いないが

ドラム缶に掴まって流されてくるとは何事か


弥生「んー…舵の効かなくなった駆逐艦ごっこ?」


口元に指をあてて、2・3拍分考えこんだと思ったらこれだった


涼風「縁起でもねぇ遊びしてんじゃねぇよっ」


至極まっとうなツッコミだった


長月「で?私は何をしているのか聞いても良いんだよな?」


ずぶ濡れの4人を見下ろしている長月

どうにも、あんまりな惨状に、お怒りのご様子だった


卯月「長月、これにはふかーい訳があるぴょん」

長月「ほう?」


言ってみろと、無言のまま睥睨する長月


卯月「えーっと、アレぴょん…菊月…」

菊月「むっ、私か…えーっと…アレだ…涼風」

涼風「へ?あたいかい…そう、アレさっ…」


とりあえず、あれやこれやと

言い訳を思考する涼風は、結構律儀だと思う

そんな彼女の思考の隙間をつくように

弥生が一言、言葉を差し込んだ


弥生「舵の効かなくなった駆逐艦ごっこ?」

涼風「そう、それっ!…じゃねぇっよっ!?」


一瞬肯定しかけて、慌てて否定する

いい加減それから離れろよっと

もしかして、その遊び気に入ったのかと心配になってくる


長月「お前らなぁ…」

五月雨「あはは…」


長月の怒りを察してか

傍にいた五月雨が、そろそろと距離を取る

そうして…


遊んでるんじゃなぁぁいっ

なんて、この後滅茶苦茶怒られた



ー○○鎮守府・資材庫周辺ー


「んしょ…んしょ…」


人気のない通りを、一人の少女が歩いている

ベージュのガーディガンに、黒のセーラー服

黒のスパッツに、赤いラインの入った灰色のスカート

根本がお団子状に纏まった、金色のツインテール

きっちり決まった前髪と相まって、毎朝セットするのが大変そうだ

そうして、凛々しい顔立ちに浮かぶ青い瞳は

現在、少々苦しげにしかめている


長良型の6番艦:阿武隈(改二)

担ぐように握りしめたロープ

その先には、ドラム缶が満載された大発動艇が括られ

彼女に引かれて、ズルズルと後をついて回っていた


港から歩いてしばらく

次の角を曲がれば、ようやっと資材庫だ

別に初めての場所でもないし、そう広い鎮守府でもない

勝手知ったるなんとやら

今回の作戦に使うであろう資源をドラム缶に満載して

それを引きずりながら、倉庫に向かう阿武隈


阿武隈「…にしても、ちょっと重過ぎなんですけど…」


一人愚痴た所で、その重さは変わらない

大型艦ならいざしらず、駆逐艦だけでここまで使うのかと

少し色を付けすぎてやしないだろうか…

そういえば、これを用意したのは時雨だったか

貸しを作って恩は売る…彼女が言いそうな言葉だ

なんとなく、ほくそ笑んでるのさえ目に浮かぶ


阿武隈「んしょっとっ…きゃっ!?」


何てことを考えていたからだろうか

最後の曲がり角に差し掛かった所で

鉢合わせた誰かとぶつかってしまった


「おっと」


不意なことに、バランスを崩した体が地面に引かれていく

次の瞬間には、尻餅をついているだろう

痛いんだろうなぁっと、その痛みに備えてギュッと目をつぶる


「大丈夫かい?」


だが、その痛みは来ない

その代わりに、ぐっと手を引かれて体を起こされた


阿武隈「あ、あれ?…げっ」


恐る恐る目を開く阿武隈

最初に、揺れる三つ編みが目についた

そうして、知らずの内に変な声も一緒に出ていた


北上「酷いなぁ、いきなり「げっ」なんて、流石の北上様も傷つくなぁ」

阿武隈「あわわわわわ…」


そういう彼女は、とても傷ついている様には見えなかったけど

その後ろの人の方が怖かった


大井「ごきげんよう、阿武隈さん。自分から ぶつかっておいて、随分な物いいね?」

阿武隈「ち、ちがうんですっ、これは…その…」


両手とか頭とかをパタパタと振りながら

中身のない言い訳をする阿武隈


大井「何が違うのかしら?何故違うのかしら?だいたい貴女、これで何度目なの?」

阿武隈「ひうっ…わ、わざとじゃ無いんですぅっ」


ズンっと重たい視線を向けられて

ますます萎縮する阿武隈


北上「やめなよ、大井っち。悪気はないんだしさぁ、そ・れ・にっ」


会う度に、抱きつかれるくらい

懐かれてると思えば、悪い気はしないじゃん?

と、にひひっと笑ってみせる北上様

例えばそう、ご主人様を見つけた途端、突っ込んでくる子犬みたいな?


阿武隈「あ、いえ、それはないです」

北上「流石に傷つくわぁ…」


即座に、真顔で、否定されて

今度はきちんと肩を落としてみせる北上様だった


北上「ま、いいや。これ、持ってきゃいいのかい?」


なんて、落ち込んだ様に見えたのは一瞬で

すぐにいつもの飄々とした感じに戻る北上様

阿武隈の後ろにあるドラム缶に目をつけると

彼女の横をすり抜けて、そこへ向かっていく

と、そのすれ違いざまに


阿武隈「ふぇっ!?ちょっと前髪触るの止めてぇぇ」

北上「にっしししー♪阿武隈が私にぶつかるように、私も阿武隈の前髪を触らずにはいられないのさっ」

阿武隈「ひぃぃぃんっ、怒ってるならそう言ってよぅっ」


無遠慮に、適当に、一頻り、撫で回される前髪

北上様の手から開放されると

慌てて、そこに手をやる阿武隈


阿武隈「あ、あれ…うそ…」


しかし、そこにあったのは驚愕だった

港に着いた時より、下手すれば朝セットした時よりも綺麗になってる…

鏡を見なくても分かるほど、手で触れるほど確かに分かる

ゆっくりと、背中越しに北上様に振り返る


阿武隈「ぅぅぅぅ…」


お礼を言おうかと思ったが、上手く口が動かない

それは、ぶつかってごめんなさいも同様に

やっぱり苦手だ、この人

いっつも、からかったり、悪戯とかしてくるくせに

知らない所で気を使われて

気づいた時には、謝るタイミングも、お礼を言うタイミングも外されて…


大井「…えい」

阿武隈「え、あ、ちょっ!?」

大井「ふんっ」


そうやって、まごついている阿武隈の頭に

今度は大井の手が置かれる

そうして、わっしゃわっしゃと無遠慮に撫で回すと

そっぽを向いて、北上様の方へと歩いていった


阿武隈「うわぁぁぁん」


慈悲は無かった

今度は完膚なきまでにグチャグチャにされた

やっぱり苦手だ、この人

北上の事になると、すぐこれなんだもん

そう、あの時、ぶつかった時に出た声は

北上にというよりも、8割方 大井に対するものだったりする


北上「よっこいせっと…大井っちも意地悪だぁねぇ」


阿武隈の嘆きをBGMに、北上様がドラム缶の一つを持ち上げる


大井「別に…私はあるべき形に戻してあげただけですので」


あるべき形。北上様にぶつかって

自分で頭を振りまわしたせいで、ボサボサになったその形


北上「そーう?あんまり可愛いからって、いじめてると嫌われちゃうよ?」

大井「そういうのは提督に言って下さい…だいたい、私はあの娘の事なんてっ」


北上に習ってドラム缶を担ぎ上げる大井

言葉の続きを言おうと、顔を上げた時には

その背中はドラム缶と一緒に倉庫に向かって、のっしのっしと歩いていた


大井「…もぅ」


人の話なんて聞きやしないんだから…


北上「まったく…」


どうして仲良く出来ないもんかねぇ

「あの娘の事なんて…」

その先は聞く気もなかったし、言わせる気もなかった

本気じゃないにしろ、言葉にされたらまた遠のくし


「いつまで前髪直してるのっ」

「ひぅっ、だってぇっ」

「さっさと大発引きなさいなっ」

「だったら大発に乗るの止めてぇぇ」

「おーほほほほっ。ほぅら、馬車馬のごとく引きなさいなっ」

「ひぃぃぃんっ」


振り向かなくとも目に浮かぶその光景


北上「子供か…あんたらは」


そう口にせずにはいられなかった



ー海上ー


とんっと、背中にかかる軽い衝撃


夕立「相変わらずっぽいっ」

皐月「そっちこそっ」


背中合わせの皐月と夕立

戦闘の余波にかき混ぜられた潮風が

二人の金髪を絡み合わせていく


二人の視線の先には、煙を上げる敵の軽巡

それも、もう一撃でも撃ちこめば

沈むだろうと言うのが、素人目にも分かるほど


夕立「負けないっぽいっ」

皐月「ボクだってっ」


背中合わせの二人が

その背中を軸にして、クルッと反転する

同時に発砲、そうして爆発

何のこともなく沈む軽巡級

駆逐艦としてのブレイクスルーを迎えた二人には

軽巡の一隻二隻じゃ話にもなっていなかった




村雨「ごめんなさいねぇ、家の娘が」


口元に手を当てて、苦笑する少女

白露型3番艦の村雨

薄茶色のツインテールが

遠くの爆風に煽られてパタパタと揺れている

制服こそ白露型のそれではあるが、何処か大人びた雰囲気は

幼さの残る見た目に反して、どこか色っぽさも混じっていた


如月「いいのよ、こっちだって…」


妙に張り合ってる二人を、苦笑しながらも見守る二人

援護の一つもした方が良いかとも思うけど

ドラム缶を抱えた身じゃ、邪魔にしかならないだろうと

大人しく、安全地帯に引っ込んでいた


春雨「もうっ、春雨姉さんも如月さんもっ、笑ってないでこっち止めて下さいぃ」


ぐっと拳を握りしめて懇願する少女

白露型5番艦の春雨

桃色の長いサイドテール

それが、先端に行くにしたがって

水面を写した様に水色になっている

他の姉妹達に比べれば、まだまだ幼い容姿ではあるものの

その赤い瞳からは、しっかりとした意思は見て取れる


春雨「てっ、はわっ」


突然の潮風の悪戯に

頭に乗っけていた白いベレー帽が飛ばされそうになる

慌てて手を伸ばすも、その小さな手は帽子を掴み損ねてしまい


如月「っと…」

春雨「あ、ありがとうございます…」


浮き上がったベレー帽が

撫でるように頭に置かれた如月の手に抑えられる


村雨「止めると言っても、どうしましましょうね?」

如月「そうねぇ」


うふふふ…と、余裕綽々で笑みを浮かべる二人


春雨「白露姉さーんっ、睦月さーんっ、ケンカやめてーっ」




白露「一番最初に敵艦発見っ!」


敵影を見つけた白露が砲を構える

狙いを定めて、引き金を引き絞るその直前

ドーンと、重たい砲音の後

僅かに遅れて、敵影が火を吹いた


睦月「にっしっしーっ」

白露「あーっ!?何するのっ!?あれはあたしがっ」

睦月「早いもん勝ちだしっ」


甘いわお嬢ちゃんと

煙を上げる主砲を横に振る睦月


白露「むぅぅぅっ。あっあっちにもっ」

睦月「ふふっ、それも睦月が頂きだしっ」


ピシっと、白露が指をさすと

釣られるように睦月も主砲を構える


白露「なーんて、うそだよっ」


自分が指差した方とは、まったく明後日の方へと

砲撃する白露、程なくして撃破数に+1となる


睦月「むぅぅ、猪口才なっ!あっ、あっちにも敵艦発見にゃしっ!」

白露「それも頂きなんだからっ!」


ビシっと、睦月が指をさすと

釣られるように白露も主砲を構える


睦月「なーんて、うそぴょーんっ♪」


自分が指差した方とは、まったく明後日の方へと

砲撃する睦月、程なくして撃破数に+1となる


白露「なによっ」

睦月「なにさっ」


額がぶつかり合うほどに、顔を近づけて睨み合う二人


白露「あたしが一番提督に褒めてもらうんだからっ」

睦月「睦月が一杯提督に褒めてもらうんだしっ」


ぐぬぬぬぅ…と、睨み合う二人

「ケンカやめてーっ」なんて、妹君の声はまるで届いていない




如月「はぁ、護られたいわねぇ」

村雨「そうねぇ」


頬に手を当て、夢見る乙女の様に

ほぅっと息を吐く如月に、村雨も頷いて同意する


現在、輸送任務中である

春雨も含め、3人共ドラム缶満載である

いざともなれば、ドラム缶を捨ててでも

自分の身は護らなければいけないのはそうだけれど

彼女達だって護られたいのだ、護られたって良いはずだ

だって、輸送中なんだもの

白馬の王子さま、とは言わないが

僚艦にくらい身を任せたいと願ったって良いはずだ


だというのに、金髪二人は護衛どころか掃討を始めるし

長姉二人は、どんぐりの背比べだ


如月「春雨ちゃん、もしもの時はお願いね」

春雨「へ?春雨なの!?」


そっと、如月に手を取られる春雨

そんなこと言われたって、こっちだってドラム缶満載なのに


村雨「貴女だけが頼りなのよぉ」

春雨「村雨姉さんまでっ」


よよっと、わざとらしく泣き崩れて春雨により掛かる村雨

あっちも、どっちも、にっちもさっちも自由奔放だった




ぐぬぬぬぅ…

そうやって、いつまで睨み合っていただろうか

睦月と白露、二人が痺れを切らせたように

顔を離し、せーのっで前を向く


「エンゲージっ!」


重なる言葉は一つ

そうして、背中合わせになるように

睦月は右手を、白露は左手を前に突き出す

その手の薬指には銀色の指輪

それが淡く、桜色に輝き出すと

二人を中心にして、桜色の光が吹き荒れた




桜色の輝きが風に乗り

花びらが舞うように様に、3人の元まで流れてくる


如月「あらぁ…」

村雨「あららぁ…」

春雨「あらーっ、じゃないですよっ」


もう滅茶苦茶だった

深刻なツッコミ不足だった


「白露は言ったよっ、一番はあたしだってっ」

「抜かせ小娘。一番は睦月だしっ」


春雨「もうっ、もうっ、もうっ、やめなさーいっ!!」


春雨の指輪が光を帯び

自分の髪色よりも、さらに鮮やかな桜色の光が溢れだす

それと同時に鎖が伸びる

その先に括られたドラム缶ごと、馬鹿をやってる姉達に向けて


「ぐへぇっ!」


潰れたような悲鳴が上がる頃には

白露と睦月が、鎖に絡み取られていた

それを、くぃっと春雨が引き戻すと

事も無げに引きづられて、引き戻される姉二人


春雨「春雨は止めろっていいましたよね?」


「ひぅっ」


同時に上がる小さな悲鳴、背中には冷たい感触

それはよく知ってる感触だ、見なくても分かる

きっと、対空機銃の類だろうと


白露「お、おちついて春雨?ね?」

春雨「春雨は落ち着いてます、とっても冷静です、はい」

白露「あうぅ…」


前を向いたまま両手を上げたまま

白い顔をして春雨を宥めようとする白露

しかし、返って来たのは

突きつけられている機銃と同じくらい、冷たい声だった


睦月「ご、ごめんにゃしぃ…」

春雨「どうして謝るんですか?悪いと思ってるんですか?悪いと思ってるのにやってたんですか?」

睦月「うぐっ…」


白露と同じような体勢で、素直に謝って見る睦月

しかし、謝罪一つさえ許してはくれないらしい


春雨「姉さん、睦月さん?」


「はひぃっ」


すっと、並んで立つ二人の間に顔を差し込む春雨

名前を呼ばれただけなのに、背筋が凍りそうであった

桜色よりも、なお色濃く深い真紅の瞳

どこかで見たことあるような、その瞳の色が二人を捉えて離さない


春雨「返事は はいかYESです。これから、ゴールまで二人にはドラム缶を運んでもらいます」

白露「えぇぇ…」

睦月「そんにゃぁ…」


明らかに落胆する二人

しかし、そんな態度は春雨が許さなかった


春雨「2度は聞きませんよ?」


そういった直後に、ポンッと小気味いい音が響いた


白露「いたいっ!?」

睦月「にゃしぃっ!?」


突然の痛みに背筋を伸ばす二人

衝撃で倒れ込みそうになるが、それは二人を束縛している鎖が許さない


白露「YESっYESっ、やりますっ、やらせて下さいっ」

睦月「はいっはいっ、睦月も頑張るよっ」

春雨「そう…」


二人の背中から機銃が離れ

束縛していた鎖が解ける


春雨「そんなにやりたいんだったら、これ、おねがいしますねっ♪」


満面の笑みで、ドラム缶を差し出す春雨


如月「なんというか…やっぱりそうなのね」


そんな様子を遠巻きに眺めていた如月

睦月たちを抑えこむ春雨の、その赤い瞳には見覚えがあった


村雨「あれでも夕立の妹だからねぇ…」

如月「見たいね…」


まったくもってその通りだ

あの赤い瞳は紛れも無く夕立のそれだと

素直に納得する如月だった



ー○○鎮守府・母港ー


本日は晴天なり

そうは言っても、見上げる青空には朱が差し込み

一日の終わりを告げようとしていた

そんな中に緑色をした一角がある

風を切る音、銃撃の音、時には爆発して落ちていく

繰り返される戦闘機による攻防は、しばらく膠着状態のまま推移していた


大鳳「そんなに卯月が気になるの?」


涼しい顔をしたままに

手持ちのボウガンから、戦闘機を射出する大鳳


瑞鳳「なんでアイツの名前が出てくるのよっ」


それに抗するように、瑞鳳も弓を引き戦闘機を発射する


大鳳「だって、貴女さっきから…機動が寝ぼけてるわよ?」

瑞鳳「あっ」


一瞬の間隙だったのだろうか

正規空母と軽空母の運用能力の差では

誤魔化しきれないほど、あっさりと形勢はひっくり返る


大鳳「はい。状況終了ね」

瑞鳳「うぅぅぅ…」


微笑んで見せる大鳳を直視できずに

知らず、視線を落とす瑞鳳


大鳳「ダメよ?戦闘中は相手のこと見ていないと?」


勝てるものの勝てなくなるわ、と

そうやって負けてきた人は少なくない


瑞鳳「いや、今のはその…大鳳が変なこと言うから」


言い訳じみてる

自分でもそう思いはするが

それ以外の言葉が思いつかなかった


大鳳「変なことってなぁに?」


ひょいっと、一歩分だけ距離を詰めると

伺うように瑞鳳の顔を覗きこむ


瑞鳳「なにって、その、ほら…卯月がどーとかこーとか」

大鳳「そうね、心配よね?」

瑞鳳「別に?」


ぶっきら棒にそう言うと

覗き込んできた大鳳から、視線を外すようにそっぽを向く


大鳳「そ。信頼してるのね、うふふふ」

瑞鳳「はぁ?なんでそうなるのよっ」

大鳳「だって、心配しなくても、ちゃんと帰ってくるって思ってるんでしょ?」

瑞鳳「いや、そんな事言ってないし…」


これは、どう答えても詰んだなと、何となく理解した

心配してるなんて言いたくはないし、信頼してるとか言うのはもっとダメだ


大鳳「じゃあ、帰ってこなくても良いのかしら?」

瑞鳳「そこまでも言ってないでしょっ」

大鳳「ほんと、素直じゃないのね?」

瑞鳳「あぁ、もぅっ。なにっ罰ゲームなのこれっ!」

大鳳「そう思ってくれても良いけれど…ん、来たわね…」

瑞鳳「ん?」


不意に瑞鳳から視線を外すと、滑走路を伸ばす大鳳

程なくして、夕焼け空を背に姿を見せた彩雲が

トンボが枝葉に止まるように、静かにその場に降り立った


大鳳「さて、卯月の近況、しりたくない?」


提督には内緒よ?と、人差し指を口元に当てる大鳳


瑞鳳「そうやって、からかうのが罰ゲームなんでしょ?さっさと、話しなさいよ…」

大鳳「うん。それじゃ、彩雲…」


艦載機から妖精さんが出てくると

二人に敬礼をした後、話し始めた


彩雲「えーっと、特に異常はありませんでしたな

   順調なら皆様そろって、明日の朝にはゴールでしょう…それで卯月殿ですが…」


弥生殿と一緒にひっくり返っておりましたな、と

少々間を置き、もったいぶった所で

彩雲からもたらされたのは、そんな情報だった


瑞鳳「は?」

大鳳「…それは、敵の攻撃からかばったとか、そんなのではなく?」


自分の耳を疑ってる瑞鳳は置いておいて

意味の取り違いはないかと、確認してみる大鳳


彩雲「はい。そんなのではなく、です」


暇そうにじゃれていた所で、バランスでも崩したんでしょうな、と

相変わらず元気なお方だ、と付け加える彩雲さん


瑞鳳「ほら、心配するだけ無駄だったじゃない」

大鳳「んー…そう、そうねぇ…」


呆れたと、匙を投げる瑞鳳

そこに擁護の一つでも入れたかったが、浮かぶ言葉はなく

まあいつもの卯月と言われればそうなのだけれど


彩雲「なに、心配召されるな。菊月殿と涼風殿もひっくり返っておられたぞっ」


はっはっはっと快活に笑う彩雲さん


大鳳「いや、それは…心配しかないのだけれど」

瑞鳳「ばっか見たい…ほら、帰るわよ大鳳」


大鳳に背中を向けると、さっさと鎮守府に向かっていく瑞鳳


大鳳「そう、ね。彩雲もお疲れ様」

彩雲「はいっ。それでは失礼」


彩雲を格納すると、瑞鳳を追って歩き出す大鳳

その途中、少しだけ振り返って海を眺める

そうは言っても、これから一晩を越える必要がある

まだ、気を抜いて良いわけでもないけれど


大鳳「まあ、でも…」


再び歩き出す大鳳

まあ、でもと、そんな不安な心配よりも

長月が振り回されて疲れ果てやしないかと

そんな愉快な心配をしてしまっていた



ー海上ー


夕闇が過ぎ去り、夜の帳があたりを包む

ただただ広い海の上では、音を遮るものはなく

密室のくぐもった静けさとはまた違った

吹き抜けていくような静寂が広がっている

夜が明ける頃にはゴールだろうと、そんな中


文月「…およ?」


ふと、文月が足を止める

そして、キョロキョロと、何かを探すように辺りを見回す

頭を動かす度に、結ばれたポニーテールが付いて回っている

それが、一際大きく振られ、空中に綺麗な弧線を描くと

文月の視線が1点を見据えていた


文月「そこ…」

時雨「うん、正解だね」


文月の反応から遅れて一拍分

時雨の電探にも反応があった


江風「ン…やるじゃん。なにかいい電探でも使ってるのかい?」

文月「ん~…なんとなく?」

江風「勘かよ…すげぇな」


組んだ手を頭の後ろに回し、後ろを向いて前進中の彼女


白露型9番艦:江風

青いラインの入った、袖のない黒のセーラー服

雑なのか、お洒落なのかは

開けた服の合間から、白いお腹がよく見える

そして、宵闇の中でも際立つ、赤く長い髪が印象的だった


時雨「ふふっ、僕もそう思うよ」


素直に感心する江風に、微笑んで見せる時雨


文月「ねぇねぇ、あいつら…やっちゃってい~い?」


口元に指を当て、小首をかしげて、にこにこ~っと

後ろの、妹二人に振り返る文月

表情はいつもの通りの柔らかさなのに

口から出たのは結構おっかない言葉だった


望月「どーせ、答えは聞いてないんだろ…さっさと片付けてきなって」

三日月「じゃあ、ドラム缶は私達が…」

文月「ありがと~ねぇ♪」


引きずっていたドラム缶二つを預けると

開いた両手に主砲を装備する文月


望月「援護、いるかい?」

文月「いらなーい」

三日月「じゃあ、気をつけて」

文月「うんっ、まっかせてー」


遠足にでも行くかのように

軽い足取りで敵陣へと向かう文月


江風「まぁまぁ。ここは、この江風様に任せとけって」


1人、速度を上げていく文月に横並びになると

ちょっと待てと、江風が前に出る


文月「?。あたしだって、結構強いんだよ?」


不思議そうな顔をした後、ニコッと微笑むと

その言葉を示すように、前に出ていた江風をさらっとすり抜けて行く


時雨「江風…」

江風「姉貴、良いのかい?行かせちまって」


作戦前の話だと、睦月型の娘達には

あまり戦闘はさせないようにと言われていた

艤装の差もそうだし、怪我して返すのも悪いからと


時雨「いいさ。彼女がやるって言うなら…」

江風「ン、時雨の姉貴がそう言うなら良いけどよ…」


単純な練度なら、江風よりも上なのだし

そういう意味では何も心配はしていないし

むしろ、僕らの出番がないかもしれない

なんて思いながらも

1人、遠足気分で先行する文月に並ぼうと速度を上げた所で


江風「おいおいおい…」


一瞬、白く染まる視界に目を細める

暗闇に馴れた目では、探照灯の木漏れ日でさえ刺激が強い


江風の動揺ももっともだ

暗い夜の海で、敵の目の前で

探照灯何て使おうものなら、それはもう、狙ってくれと言ってるようなもので


時雨「江風、急ぐよ…」

江風「ほいほ~い」


その内に、砲撃の音が聞こえてくる

そうなってしまえば文月がやられる前に

敵を全滅させるという、タイムアタックの始まりだ




海風「3人共、大丈夫でしょうか…」


心配そうに、遠くで輝く探照灯の光を見つめる少女

白露型7番艦:海風

江風と同じ制服

ただし、こっちはキッカリ前は閉じられており

女の子らしい腰つきは、しっかりと服の中に隠されている

そして、三つ編みにされた銀色の長い髪と、水色の瞳

あまり目立たないが、目尻にある小さな泣きぼくろが愛らしい


望月「なぁに…探照灯が光ってる間は無事だって…」

海風「それはまぁ…」


理屈は分かるが、さすがにそこまで肝は太くなれない


三日月「気になるなら、援護にまわってもらっても」

海風「いえいえ、二人をお守りするのも大事ですから」


そう言って、周囲の索敵を再開する海風


望月「真面目だねぇ…」

三日月「望月も少しは見習ったら?」

望月「あたしゃ、まじめだよーん」

三日月「真面目にサボってるんでしょ?」

望月「にひひひひっ」

三日月「もうっ…司令官みたいなこと言って」


現在、望月は寝そべっていた

海面に?それは流石に否である

冷たい海の上で横になるほど、望月はダレてはいない

しかしだ、折角ドラム缶が浮いているのだ

並べてみれば、それは筏のような見えてくる

見えたんだったら仕方がない、横になってみるしかないと


そうしてみれば、それは案外と寝心地が良いものだった

確かに、ドラム缶の感触こそ冷たいものの

体重がかかった分だけ、水に沈み込んで

返ってくる感触は意外と柔らかい

そうやって、横になっていると

ドラム缶が波に揺られて、優しく体を揺らしてくれる


望月「ふわぁ…」


思わず欠伸が出るほどに

それは、居心地の良いものだった


三日月「寝たら沈めるからね…」

望月「うぃー」

三日月「もぅ…」


適当に返ってくる望月の返事に、呆れる三日月

それでも、望月が完全に寝こけたら

海の上に転がす覚悟は出来ていた


海風「…」


どうしよう、ここは怒ったほうが良いのだろうか、と

背中越しに、聞こえてくるやり取りに疑問を覚える

とはいえ、まだ着任して日も浅い海風

面と向かって、後ろの二人…

いや、1人に抗議するというのは、少々、憚られるものがあった


海風「あ、あのぅ…望月、さん。いつ敵が来るかも分からないから、その」


それでも、それでもだ

安全の為には言って置かなければならない

いざともなれば、体を張る覚悟はあるが

敵の前で寝そべってる人を守れる自信なんかないし


望月「敵ねぇ…ほんとの敵は自分自身なんだよ…」

海風「じゃあ、戦ってくださいよ…」


ボロ負けじゃないですか、と

それはごもっともな意見ではあるが


望月「やだよ、あたしゃ喧嘩弱いからさ」


どんなに練度を上げたって、駆逐艦は駆逐艦だ

戦わないで済むならそうでありたいし、そう願いたい

そんなにドンパチやりたいなら、主力艦同士でやってくれってもんだ


三日月「海風、まともに相手したら負け」


困り顔を浮かべる海風の肩に

そっと手をおいて首を横にふる三日月


海風「みたいです、ね…」


自分の姉妹達も、大概好き勝手やってはいるが

ここの娘達も相当らしい

もしかしたら、艦娘全体がこんな感じだったりするのだろうかと

ちょっぴり不安になる海風だった




江風「まろーん…」


それは、一瞬の出来事だった

文月が囮をやってる間に片付けてしまおうと

意気揚々と突撃して少しの後

さくさくと敵艦1を撃破、そして次へと

そのタイミングで探照灯の光が落ちた


しくじったのかと、慌てて文月の方へ視線をやるが

その直後、後方で爆発が起こり

その余波が背中越しに伝わってくる


探照灯の光が落ちた夜の海は

先程までの暗がりを取り戻している

しかし、そんな中であっても次々と

爆発が、2つ3つと増えていく

そうして…


江風「まろーん…」


開いた口が塞がらないとはこの事か

口を半開きにしたまま、呆然とするには十分過ぎる光景


文月「らっきーだねっ、ぜつめつたいむだよっ」


12・7cm連装高角砲(後期型

3連装酸素魚雷

3連装酸素魚雷


全砲門一斉射

それで話はお終いだった

最後の花火の様に、一際派手に爆発が起こると

戦場の熱気と喧騒の合間を縫って

夜の静寂と冷気、そして文月が戻ってくる


文月「ふわぁぁ…死ぬほど眠いよぉ…」


眠そうに欠伸を噛み殺す文月

その姿からは、今しがた敵を殲滅してきた風にはとても見えない


時雨「お疲れ様、向こうで望月と休んでくると良い」


ねぎらいの言葉を掛けて、時雨が指差す先には

ドラム缶ベッドで横になってる望月の姿


文月「あっ、望月だけズルいー。あたしもあたしもー」


ベッドにダイブしそうな勢いで望月へと向かっていく

そんな文月の背中を呆然と見送る江風


江風「…」

時雨「ふふふ、面白い顔をしているね?」

江風「知ってたのかよ…」


それは、心配して損したってのもあったし

「江風様に任せとけって…」

こうなってくると、戦闘前のセリフが恥ずかしい

任せるも何も、自分なんかより全然強いのだから


江風「なぁ、もしかして向こうの二人もなのかい?」


向こうの二人、望月と三日月

三日月だけならまだしも

ドラム缶に寝そべってる望月はとてもそうは見えないが

文月が文月だったし…


時雨「さぁ?それは次の演習で確認してみると良い…」

江風「マジかよ…」

時雨「ふふふっ」


くすくすと小さく笑う時雨

それは、妹の珍しい顔が見れて満足そうな

あるいは、悪戯が成功した子供の様な笑みであった



ー○○鎮守府・執務室ー


皐月「はい、司令官。一応目を通しておいてね」


皐月が、ソファに寝っ転がってる提督に書類を一つ手渡す

作戦完了のお知らせの後

皐月達が帰投すれば、いつもどおりの鎮守府だ

当分は、木曾さんが書類仕事で頭を悩ますこともないだろう


提督「…あれ…なんか多くない?」


届けた資材だとか、こっちの被害とか

燃費だとかが書かれている中

□□鎮守府から送られてきた資材の量が

一回りほど多く見える

それは、戦艦だって動かせそうなほど


皐月「うん、時雨さんから伝言。今後共よろしく、だってさ」


そして、「そういうことなんじゃないの?」と、付け加える皐月

そう言われてしまえば、まあその通りなんだろうな


提督「賄賂かよ…」

皐月「心付け、だよ」

提督「餌付けじゃないだけましか?」

皐月「かもね?」


そうして、小さく笑い合う二人

そんな中、窓の向こうから砲撃の音が響いてくる


「射線は…適当でいいかっ」

「これの何処が適当なんですかぁっ」

「ちょうど良いって意味もあるから…」

「ちっくしょーっ、やっぱりじゃねーかっ、恨むぞっ時雨の姉貴っ!」

「ほら、三日月」

「うん、突撃しますっ」

「だぁぁっ、こっち来やがったっ」

「もぅっ、喧嘩弱いって言ったじゃないですかぁっ!?」


提督「…容赦無いな」

皐月「…うん」


それは、実際相手をしている二人もそうだし

このカードを組んだ時雨に対してもだった


時雨「ふふっ、頑張りなよ?」


なんて、ほくそ笑んでる時雨が目に浮かぶ程に



ーおしまいー



EX:今日のビス子さん


私よっ、此処から先はおまけになるわ

本編が無茶苦茶長くなってるから

もうお腹いっぱいって人は、気をつけなさい

まだ足りないって人は、このまま読み進めてくれてもいいのよ?

ただし、私が嫁の人

残念な美人をビスマルクと読まない素敵な人達は気をつけなさい

色々言いたいこともあるけども

それじゃ、始めるわ


ー□□鎮守府・休憩室ー


夜も遅い時間

畳敷きの部屋に、大きめのちゃぶ台が一つ

コタツにみかんを設置したくなるような部屋の中


ビス「はぁ…つっかれたぁ…」


ぽふっと、飛び込むように

あるいは、座布団に抱きつくように

ビスマルクがその場に倒れこんだ


祥鳳「はしたないですよ?ビス子さん…」


ちゃぶ台の前で静かに正座をしている少女

祥鳳型1番艦:祥鳳

黒い袴のスカートに白い着物

黒く長い髪が綺麗に流れている

飛び出ているアホ毛は愛嬌か

静かに正座をしつつ、お茶を飲む姿は

なるほどどうして、大和撫子と言った風情がある


ビス「良いじゃないの、別に…」


子供のように口を尖らせるビスマルク

それだけでも、普段の軍人全とした彼女とは程遠いのに

祥鳳に嗜められる その格好

大きめのワイシャツ一枚のみである

下は履いているようだが、この分だと上まで着けてるかは大分怪しい


長い金髪に青い瞳

凛々しい顔立ちと、モデルのような容姿

そんな彼女が、ワイシャツ一枚だけで転がっている

そんな あられもない格好なのに

それでも絵になるのは、美人の特権だろうか


祥鳳「もう…それで?今日はどうしたの?」


今日は、というくらいにはいつもの事だった

内容は時々だが、概ねはビスマルクの愚痴に

祥鳳が付き合ってるようなそんな構図


ビス「どうって…そんなの…」


抱え込んだ座布団に顔を埋めるビスマルク


ビス「あれのどこが駆逐艦なのよぉぉぉっ!」


などと声を荒げながら、足をバタつかせ始める

格好が格好なだけに、端々から黒い下着が見えたり見えなかったりと

随分と際どい事になっている


祥鳳「ああ…さっきの夜戦はそれでしたか」

ビス「卑怯よっあんなのっ、なんなのっあれっ」

祥鳳「あんまり、「あれ」「あれ」言ってると、また噛みつかれますよ?」

ビス「ひぅっ…」


噛みつかれる

そんな一言だけで、萎縮してバタつかせていた足の動きが止まる

すっかり調教は進んでいるようだった


五十鈴「それで?今回はどんなふうにやられたの?」


前回は酷かったわよね?なんて付け加えながら

祥鳳の対面に座っていた五十鈴が

静かに帳面を閉じると、好奇心に緩んだ頬で問いかける


長良型2番艦:五十鈴(改二

深い海色の髪を白いリボンで束ねられた

ボリュームのあるツインテール

そして、綺麗なターコイズブルーの瞳が

からかうように、寝そべっているビスマルクに向けられる


ビス「どんなって…それは…」


言葉を探すように逡巡するビスマルク

そうして、ぽつりぽつりと話し始める




ズルズルと海上まで

引きずり出された時には、もう覚悟は決まっていた

何のことはない、相手は駆逐艦なのだ

あの時は不意を打たれて面食らっただけで

せーので真正面から撃ちあって戦艦が負けるはずがない

確かに、酸素魚雷は脅威ではあるけれど

しかし、それだけだ。分かっているならやりようはあるし

小口径の主砲なんていくらあたっても怖くもない


なんて、戦闘が始まる前のビスマルクはそう思っていた


夕立「ようやく大人しくなったわね?あきらめた?」

ビス「別に?貴女を倒してゲコクジョーすればいいって思っただけよ」

夕立「ふんっ、良い度胸だわ。それじゃ、始めるっぽい 」


鷲掴みにしていたビスマルクの肩から、夕立の手が離れる


ビス「…」


いいわ、少し卑怯な気がするけども

このまま夕立がこっちを振り返った瞬間に

一発撃ち込んでやるわ

直撃しようがしなかろうが、それで話はお終いよ

それが彼女の勝利の方程式だった


ビス「へ?」


しかし、次の瞬間

彼女の口からは間の抜けた声が漏れると同時に

海面に転がされていた


夕立「何を突っ立っているの、ザワークラフト?夕立は始めるって言ったわよ?」


夕立が始めると言った直後、すぐさま振り返ると

その場で跳ねるように飛び上がり、回し蹴りを放っていた

そう、振り返ったら攻撃してやると、考えていたビスマルクに対し

振り返った瞬間には攻撃を完了している夕立、その差は歴然だ

その一瞬の油断でこうして、彼女は海面に転がされていた




ビス「なんで駆逐艦が回し蹴りをかましてくるのよぉぉぉぉ」


思い出してやりきれなくなったのか

再び足をバタつかせ始める

もうそろそろ、駄々っ子のそれに見えてきた


祥鳳「貴女も大概卑怯な事考えてますけどね」

ビス「そうだけどっ」

五十鈴「それで?その後は?」

ビス「その後は…」


主砲で牽制してる隙に、なんとか立ち上がったら

後ろから顔にマフラー巻き付かされ

引きずり倒され、またまた海面にリターン

前が見えなくて藻掻いてる所に

至近距離で主砲を連射されて、38cm砲が爆発炎上

あげく、蹴っとっばされて、海面を滑っている内に

酸素魚雷に追いつかれてドーン…

思い出すほど悲しくなってくる


祥鳳「…まあ、そうなりますよね」

五十鈴「少しは抵抗しなさいな、初戦より酷いじゃない…」

ビス「だってっ」


私たちは軍艦なのだ

なのに蹴っ飛ばしてくるなんて

主砲使いなさいよっ、魚雷使いなさいよっ

砲雷撃戦して下さい、お願いしますってっ


五十鈴「どーどー、落ち着きなさいな」


興奮するビスマルクを適当になだめる五十鈴

何故か、最後は懇願に変わっていたが

まあ、言いたいことも分からなくはない

五十鈴にも覚えはある


五十鈴「それじゃ、一つアドバイス」

ビス「…」


指を立てて、説明お姉さんの様な空気を醸し出し五十鈴

それを、むくれた顔のまま、無言で先を促すビスマルク


五十鈴「まず、その軍艦って認識を捨てなさい」

ビス「それは…」


そう言われたって

艦娘になる前は、そうであったし

そう生きてきたし、そう戦ってもきた

それを捨てろというのは、あまりに


五十鈴「まあ、葛藤は分かるけどね」


蝶よ花よと愛でられてきた戦艦級なら特にだろう


五十鈴「でも、私たちは艦娘なの」


良くも悪くも、人の形を持ってしまっている

そうなれば、今までみたいに軍艦として戦えるわけがない

せっかくの人の体だ、それを上手く使う方法を考えるべきだ

夕立なんて、良い見本もいることだし


ビス「むぅ…」


そういえば…

金剛も艦娘になれば、出来ることが増えるし

なんて言っていただろうか


五十鈴「あんまり難しく考えなさんな。先ずはそうね、その格好のまま出撃してみたら?」


そういって席を立つ五十鈴

流石に冗談ではあるが、難しい顔をしているビスマルクが

和めばいいなと、ちょっとした心遣いでもあった

まあ、どうしても分からないなら

荒療治的にそれもいいかと考えなくもなかったが


祥鳳「お疲れ様です、五十鈴」

五十鈴「ええ、祥鳳も。あんまり その娘に付き合ってると寝不足になるわよ?」

ビス「失礼ね。そこまで付き合わせないわよ」

五十鈴「はいはい」


口を尖らせているビスマルクに適当に返して

部屋の襖に手をかける


ビス「五十鈴、その、ありがとう…酢昆布、食べる?」

五十鈴「気持ちだけもらっとくわ」


酢昆布。それはビスマルクに用意された おやつである

現在の彼女にそれ以外の選択肢はない

オイゲン達は数時間前に、せんべい格上げされているので

事実として一番下になる

「なんでよっ、酢昆布美味しいじゃないっ」

強がりだったのだが、最近はそうでもなくなってきてもいた


さすがに後輩のなけなしのおやつを受け取るのも悪いのでと

それは辞退して、気持ちだけは受け取る五十鈴だった


祥鳳「…」


五十鈴が退室して少し

足音も遠のき、気配も完全に無くなった頃

そっと、襖を開き、辺りを確認する祥鳳

誰も居ないのを認めると、静かに襖を締め直す


祥鳳「ビス子さん、お茶飲みますか?」

ビス「ありがとう、頂くわ…」


寝っ転がりながら、酢昆布を食んでいたビスマルク

流石に口が乾いてきたのか、祥鳳の勧めに従いムクリと起き上がる


ビス「あれ…」


そっと、差し出されたのは

湯気の立つ、緑色の鮮やかなお茶と

切り分けられた羊羹一つ


ビス「祥鳳?」

祥鳳「内緒ですよ?」


不思議に思い

伺うように祥鳳に視線を向けてみれば

祥鳳が微笑みを浮かべ、頷きを返してくれる


それは、彼女に用意されたおやつであった

流石に間宮といかないでも、十分美味しい一品


ビス「ぅぅぅぅ…い、いただき、ます…」


涙に声を震わせながら、羊羹を口に運ぶビスマルク


祥鳳「何も、泣くこと…」

ビス「あまいわ…」


大げさなビスマルクの反応に苦笑する祥鳳

しかし、彼女にとっては、酢昆布漬けにされた彼女にとっては

この地で食べた、久方ぶりの甘味であった

それは甘くてクリーミィで、こんな素晴らしい甘味を貰える私は

きっと特別な存在なのだと(以下略


ビス「祥鳳…困った事があったら何でも言って、私、なんでもするから…」


ビスマルクの中で祥鳳の好感度が、振り切れた瞬間だった


祥鳳「そうですか。それじゃあ、先ずはそれを…」


誰かに見られる前に食べちゃってくださいね?

と、微笑みながら請われる最初のお願い


ビス「うん、うんっ…」


その優しさを噛み締めながら

甘い羊羹を味わうビスマルクだった




ビス「さぁっ、夕立。今日こそっ、ぎゃふんと言わせて上げるわっ」


翌朝、太陽の光が降り注ぐ日の下で

由緒正しい高速戦艦のポーズをとったビスマルクがそう宣言する

リベンジマッチ、それ自体は構わないのだが


夕立「…とんでもないヴァか女ね」


受けて立とうとも思ったが

あんまりなその姿に、やる気もなくして瞳の色さえ青に戻っている


時雨「ふふっ。ビス子さん、随分と愉快な娘だったんだね?」


小さくほくそ笑む時雨


オイゲン「もう、バカって言えばいいじゃないですかっ」


嘆かわしいと、両手で顔を覆ってその場にうずくまるオイゲンちゃん


オイゲンが逸らしたその視線の先

長い金髪が日の光の様に輝いて見えるその姿

青い瞳は水を湛える海の様で

スラリと伸びた手足は、彼女のスタイルの良さを物語っている

まっとうに金髪の美人さんを切り抜いたようなその容姿

ただし、ワイシャツ一枚ではあったが

いや、致命的なまでにそこがおかしいんだけど


風に煽られて、時折黒いパンツが見え隠れするが

なんかもうそれさえも残念だ

そんな格好なのに、いつもの軍帽だけは被ってるのもアンバランスが過ぎる

どうしてそうなったのか

何を掛け違えて、何を履き違えたのか


五十鈴「ちょっと、祥鳳…貴女、あの後何言ったのよ」

祥鳳「い、いえ…何も。五十鈴さんが、変なこと言うから…」

五十鈴「本気するなんて思わないじゃないのっ!」

祥鳳「それは、私だって…」


その夜の当事者二人も流石に困惑していた


長良「ビスマルクーっ!!はぁぁくぃしばれぇぇぇっ!」

ビス「えっ、ちょっとっ、きゃぁぁっぁあぁ!?」


この後、滅茶苦茶 長良に叱られたビスマルクさんでした


ーEX:今日のビス子さん・おしまいー



EX2:Trick&Sweet


ここから先は、コメントに要望がありましたので

提督と○○26 「提督とハロウィン」のおまけになります


諸注意

此処から先は、作者の趣味が多分に含まれます

けれど、私は謝らない、私はこういうのが大好きです

クドいとか、やりすぎだとか、ご都合主義だとか、あるでしょうが

そんな時はブラウザバックをお願いします


それではどうぞ



ー執務室ー


長月「なっ…」


長月の視線の先

純白のドレスを纏った如月が、提督に顔を寄せている


それは紛れも無くキスさ

ちゅ~とか言ってる場合じゃないほどに

どうしてこうなったと言われれば

売り言葉に買い言葉だろうか


提督「さて、そんな格好してるんだし、ちゅーでもするか?」


司令官に捕まって、執務室に連れてこられた後

やはりというか案の定、悪戯をする子供のように

新しいおもちゃを見つけた子供のように、からかってくる司令官


如月「…そんなにしたいなら無理矢理にでもすればいいじゃない?」


司令官とちゅーをする

そんな光景を想像してか

あるいは、ドレス姿を見られるのが気恥ずかしいのか

何処と無く赤い如月の頬


司令官とちゅーをしたのなんて、あの時以来だ

それっきり、自分からしようと思ったこともあったけど

司令官が1人でいる事なんて、そうそうないし

1人の時はだいたい行方不明だ


だいたい、司令官の方からしてくれないというのも

なかなかどうして、気を揉む話でもある

それとなく、誘ってみたこともあったけど

適当にはぐらかされてばっかりだった

こっちは、恥ずかしいのを我慢しているっていうのに

私ばっかり恥ずかしい思いをするのは不公平だ

だから言ってやった「貴方からすればいいじゃない」って


提督「むっ…」


確かに、そう言われると弱い

そりゃ無理やりしたって怒られはしないのだろうけど

どうしても気恥ずかしいの先に立つ


提督「そんな事言ってると、しらないよ?」


そっと如月の頬に手を触れる

指先から伝わる彼女の温もり

いつも触れているそれよりも、熱くなっているのが良く分かる


いつもなら、ここいらで如月が照れてお終いでお開きだ

恥ずかしいなら煽らなきゃ良いのに、なんて思いはするが

このまま顔を近づけたら、どんな反応をするのだろうかと

ちょっとした好奇心とか嗜虐心とかも湧いてくる


如月「知ってるわ…だって、初めてじゃないのだもの」

提督「…」


頬に触れている提督の手に、自分の手を重ねる如月

予想外だった…と同時に、あの時もこうやって

彼女が一歩、踏み込んできたのだったかと思い出す

強い娘だなと、素直に思う

こっちは、おっかなびっくりだというのに

気恥ずかしいから、というのもそうだし

何より、仲良くなった後が怖い、提督なんてやってると特に


如月「司令官からは、その…してくれないのかしら?」


「私ばっかり恥ずかしい想いをして、ズルい…」と

そうして、提督を見上げる如月の瞳は濡れたように潤んでいた

ゆらゆらと揺れているその瞳

それは、して欲しいという期待と、それでもという不安と羞恥

そんな狭間で揺れ動く彼女の心を映しているようで

じっと見つめていると、吸い込まれそうにも思えてくる


提督「如月…」

如月「はい…」


そっと、如月に顔を寄せる提督

すぐ目の前にはお互いの顔

お互いに息がかかるほどの距離で

瞳をそらすこともなく、じっと見つめ合っている

このまま後ろから、誰かに押されればそうなってしまうだろうという程近い


如月「ん…」


如月が瞳を閉じる

そして、見上げるように顔を少し動かした

後はただ、ねだるようなその仕草に

吸い込まれるように、そっと触れ合った


長月「…」


勘弁して欲しい、私が見ているのを分かっているのだろうか

分かっててやっているのなら大分質が悪い

冗談にも程がある、むしろ冗談ではないまである


というか、あの顔はなんだ

如月のあんな顔見たことないぞ

恋する乙女とかそういうあれなのか…

それにあんな、幸せそうに…


それに何より…

何で私は見てしまっているのだ

姉の秘め事なんて見たって面白いものでもないだろうに

なのに…


視線を逸らしているつもりが、気づいたら元に戻ってしまっている

いっそ、体ごと後ろを向こうとも思ったが

足が上手く動かない、ようやっと動いたと思えば

フクロウみたいに、首だけ忘れてきてしまっている始末


長月「…ばか」


それは何に対してなのか、自分でも良くわかっていなかった

ただ口から吐いて出るままに

もやもやした感情を吐き出すように


如月「ふふふっ、やっぱりちょっと恥ずかしいわね」

提督「…自分からせがんでおいて…」

如月「せがまれなくても、するのが甲斐性ってものよ?」

提督「ふん」


照れ笑いを浮かべながら、見上げてくる如月

しかし、如月の感触で一杯になっている提督は

鼻を鳴らして誤魔化すくらいしか出来なかった


如月「さてと…」


区切りを付けるように、ひとつ息を吐く如月


如月「なーがーつーきー…見てたわよね?」


くるっと、首を回して長月の方を向く如月

その様は、獲物を狙う蛇だがか何だかの様であった


長月「いや、みてない」


視線を合わせたら負けると、即座に顔を背ける長月


如月「お姉ちゃんだけ、恥ずかしい思いをしてズルいって思わない?」


一歩、また一歩と,長月との距離を詰めていく


長月「いや、思わないな」


それはだってそうだろう

姉さん達が勝手に始めたことだ

私の知ったことではないというのは当然だろう


如月「司令官のこと嫌い?」


そして最後の一歩

長月の前に立ち、耳元で囁くように問いかける


長月「嫌いでは…ないが」

如月「うふふふ」


嫌いなんて言うわけがない

そんなもの分かっている

あんなに散々抱きつかれ撫で回されても

文句を言いつつ好きにさせてるような娘が

嫌いとか言い出すほうがビックリする

だから、もう一つ

素直になって貰うために、一歩踏みこんで


如月「好き?」

長月「うっ…」


嫌いかどうかと言われれば,そんな筈はないし

そんな事はないと、いくらでも言えるが

好きかどうかと問われれば、話は違ってくる

嫌いではない、勿論…だが、好きだと

そう答えてしまったら、それに頷いてしまったら

自覚してしまう、認めてしまう


それは確かに温かいもので

ドキドキもするし、モヤモヤもするが

それが嫌ではなかった

俗に言えば、恋とか愛とかそういうものなんだろう

けど、私たちは艦娘だ、あいては司令官だ

お互い そういう事をしているのだし、そうなる事もあるだろう

では、そうなってしまったら?


長月「やめてくれ…あまりからかうな」


逃げるように口を開き、その先の思考を中断する


如月「もう、強情ねぇ…それじゃ、お姉ちゃんからアドバイス」

長月「なにを…」


長月の後ろに回り、そっと抱きしめる


如月「思い出くらい作っときなさい?」

長月「それなら…もう十分だ」


今だって、それなりには楽しい

まるっきり子供みたいな司令官の相手をして

まんま子供の姉妹達に手を焼いて

正直、賑やかすぎるくらいだ


如月「だーめっ。好きな人とちゅーもしない人生なんて、お姉ちゃんは認めません」

長月「…お前は、何を言ってるんだ?」


恥ずかしさで頭が沸騰してるんじゃないのかとさえ思えてくる


如月「だから最初から言ってるじゃない?私だけ幸せな思いするのはズルいって?」

長月「…いつ言ったよ」

如月「今言ったわ、だからね?」


ぽんっと、押し出すように長月の背中を押す


長月「あ、おいっ…」


提督の前に押し出される長月


提督「んで?話は付いたのか?」


如月と同じドレス姿の長月

袖はなく、胸元から背中まで大きく開いて

大胆な衣装になっている

それを長月が着ているというのは、正直新鮮な感じだ

肌が出る服でさえ嫌がりそうなのに

恥ずかしそうに、そわそわしてる姿は小動物みたいな愛着さえ湧いてくる


長月「司令官は…その、したいのか、私と?」

提督「…」


頬染め、うつむきながら、小さな声でまごまごと…

普段の長月からは想像もつかないその仕草


何を炊きつけたんだと、如月の方へ視線を送ってみる


如月(…がんばってー)


なんか手を振られた

好きにして良いということなのだろうか

だったら、まあ…


提督「したいって何を?」

長月「え…なにって…その…」


可愛い…と、思うと同時に

その反応にほっとしてもいた


提督「ここまで来て、往生際が悪いな?」

長月「だから…ちゅー、だよ、ちゅー…」


本当に可愛い

キスと言わないのは、最低限の抵抗なのだろうか


提督「…長月」

長月「あ、うん…」


提督が顔を寄せると、驚くほど素直に瞳を閉じる長月

そして、提督がその無防備に差し出される唇に、そっと触れた


長月「ん…」


その感触に、肩が揺れる

けれど、その感触に違和感も覚える

1点に押し当てられるような、その感触

不思議に思い目を開くと


提督「にひひ」


からかうように笑う司令官と

自分の唇に触れるその指先


長月「…」


長月の唇から指を離すと

その指を、自分の唇にあてる提督


提督「間接キッス…なんてな?」

長月「…はっ、あはははは…」


気づけば笑っていた

本当にバカだ、こいつはバカなんだな、と

そして、私も大バカだ

当たり前の話だ

私みたいな乱暴な女にキスしたいなんて、誰も思わないだろう

だというのに、何を期待して…


提督「あ、あれ…長月?」

長月「すまない、少し…」


気づけば頬が濡れていた

遅れて、自分が泣いてるのだと分かる


長月「ゴミでも入ったかな、顔…洗ってくる」


提督に背を向けて、出口へと向かう長月

だが、その手を提督が握り、引き止めた


長月「離してくれ…もう十分だろう…」


十分からかったじゃないか

十分楽しんだだろう、もう満足しただろう

そんなにキスしたいなら、姉さんとしてればいいじゃないかっ

私だけ、1人で、期待して…ドキドキして、バカみたい


自分がなにを言っているのか、分かっていなかった

ただ、口を開いたら止められなくて、ただただ何かを喋ってたふうに思う


提督「あー…」


やらかしたのかと、それだけはハッキリ分かった

如月からブーイングを受けているのだって、見なくてもよくわかる

泣いている彼女を見たのはいつぶりだろうか


しかし、こういう時はどうするべきか

あいにくハンカチは持ってないし

指先で涙を拭ってやるほど度胸もなし

…私に出来るのは、そう…精々が

お願いを叶えるくらい、か…幸いそういうのに覚えはあるが

では、彼女の望みは…


長月「…へ?」


それは、触れるだけの簡単ものだった

長月の顔を上に向かせて、重ねるだけの

きっと、彼女が瞬きしている間に終わっていただろう


提督「ん?違った?」

長月「いや、司令官…あんた、なにを?」


唇を抑えて、一歩後ずさる長月

そんな彼女を不思議そうな顔して眺める提督


提督「何って、長月がして欲しいって?」

長月「言ってない、そんなこと…」

提督「嫌だった?」

長月「そうも、言ってないが…」

提督「そんな、息が止まるくらいして欲しいだなんて、提督恥ずかしい」

長月「そこまでも言ってないっ…が…なんだ」


面食らっているかと思えば、声を荒げ

声を荒げたかと思えば、言い淀む

今日の長月はコロコロと表情を変えるな、と


長月「司令官がしたいなら、その…仕方ないな」

提督「うん、そうだな、仕方ないな」

長月「ああ、全くだ…ほんと、手のかかる」


再び目を閉じる長月

そうして差し出される唇

提督が、その小さな体を抱き寄せて、そっと唇を重ねた


如月「…」


それは紛れも無くキスさ

ちゅ~とか言ってる場合じゃないほどに

口と口がちゅーって、ぺたーって…あんなに


というか、妹のあんな顔初めて見た

なんだあれは、なんだこれは

あれ…だとしら、私もああいう顔をしていたのだろうか

そう思うと、先程までの行為の残り香が急に体を熱くさせる

恥ずかしい…なんて言葉じゃ足りないくらいに

それでも、まあ…一安心か


如月「ふふ…」


幸せそうな妹を眺めながら

満足気に笑みを浮かべるお姉ちゃんだった



ー食堂ー


提督「なーがつきっ」

長月「おっと」


翌朝

いきなり現れた提督が

無遠慮に後ろから長月に抱きついていた

それ自体はいつもの光景だと、その場に居合わせた姉妹達は

朝の時間をだらけていたり、食事を進めていたりと

事もなく時は流れていた


提督「あれ…急に抱きつくなーとか、危ないだろーとか、言わないの?」

長月「言っても聞かないじゃないか、あんたは」

提督「いや、それはそうなんだけど…」


しかし、様式美というものもある

言われても直さないが、言ってくれないと物足りない


長月「やらないと気がすまないのか…」

提督「良いもん、長月が付き合ってくれないなら拗ねるだけだし」

長月「まったく…」


子供かこいつは。なんて、この感想も毎度の事か


長月「急に抱きつくな、危ないだろう…」

提督「そんな、抱きつくな、なんてしれいかっ…んぅっ!?」


それはいつものやり取り

しかし、いつもと違ったのは

提督が最後まで言い切る前に、その唇を塞がれた事


長月が提督の首に手を回し

顔を無理矢理に引き寄せて、唇を奪っていた

強引にしたせいか、少し歯が当たってしまっているが

そこは、大目に見て欲しい…まだ、2回目なんだし


長月「ん…な?危ないだろ?」


そう言って、普段 姉妹達がしているように

にひひっと笑ってみせる長月


提督「な、おまっ…」


唇を抑えて、一歩後ずさる提督

なんか、初めてを奪われた少女の様にも見える反応だった


長月「不意打ちには弱いんだな、司令官はっ」


ぽんっと、提督の肩を叩いて食堂を後にする長月

残されたのは、固まる提督と


皐月「なに、今の…」

三日月「さ、さぁ…」


あまりの出来事に顔を見合わせる二人

カランッと高い音を立てて、食べかけだった食器は手から離れている


文月「だーれだっ…」

菊月「ん?文月か」

文月「せいかーい♪」

菊月「ふっ、まあ当然だな」


とかやってる場合じゃないけど

菊月には見せられないよっ


睦月「ちゅーだったねっ」

卯月「ちゅーだったぴょんっ」

睦月「仲良しだねっ」

卯月「仲良しだぴょんっ」


弥生「如月、説明を求める」

如月「え、いや…私も…司令官っ」


と、助けるように視線を向けてみれば


弥生「もう逃げてる、あとは姉さんだけ」

如月「えーっと…いや、その…」


昨日、何をしていたの、と

問い詰めるようににじり寄ってくる弥生


望月「…」


そして、寝たふりと同時に見ないふりの望月だった




食堂を出て、1人廊下を歩いていた長月が不意に足を止める


長月「ふふふ…」


皆、すごい顔をしていたな

その光景を思い出して、1人笑いをこぼす

一頻り笑った後、先ほどの感触を思い出すかのように

自分の唇を指でなぞる


今でも心臓がドキドキしているし、少し大胆だったかとも思うが

悪くはない、と。素直にそのドキドキを受け入れる


長月「そういえば、まだ言ってなかったか…」


好きだと…

口に出したわけでもないのに、途端に顔が熱くなるのが分かる

この分だと、すんなり口に出せるのはもう少しかかりそうだな

その頃にはもう少し平和になってくれていると助かるが


長月「神頼み…も、どうなんだろうなぁ」


よく知っているのが、アレなのだからご利益は薄いか

それなら自分でどうにかするしかない、か


長月「まったく、まったくもぅ」


本当に手のかかる…なんて、1人ごちると、再び歩き出す長月

足取りは軽く、その横顔には笑みが浮かんでいた


ーEX2:Trick&Sweet・おしまいー


後書き

はい、というわけで最後まで読んでくれた方。本当にありがとうございました
貴重な時間が少しでも楽しい物になっていれば幸いです

それではこの番組は

提督「たく、やっと帰った…」
皐月「お疲れ様、司令官」
球磨「今度あったら絶対倒すクマ」
木曾「ちったー仲良くしろよ…お前ら」

睦月「ふぅ…ひどい目にあったしぃ」
如月「はしゃぎ過ぎなのよ、睦月ちゃんは」
菊月「流石に夕立の妹か…だが私のほうが強いぞっ」
長月「何を張り合っているんだ…」

弥生「舵の効かなくなった駆逐艦ごっこ…これは流行る?」
文月「流行らないと思うよ?」
望月「海に浮かぶだけの簡単な遊びだぜ?」
三日月「ただの漂流じゃないの…」

卯月「ずいほっ、ただいまぴょんっ」
瑞鳳「おかえり…」
夕張「大丈夫?怪我はない?」
大鳳「ほんと私がいないと何も出来ないんだから、とか言わない?」
瑞鳳「うっさいわよっ、あんたらっ」

北上「阿武隈…改2になって立派になったてたねぇ」
大井「あんなの、全然まだまだです」
北上「そうかい?」
大井「そうよ」

ゆー「たま、たーま…あんまりサボってばっかりだと、ゆーはおにおこですってっ」
多摩「…おーこわいにゃこわいにゃー…ふわぁぁ」
ゆー「むぅ…」

もろもろのメンバーでお送りしました


ー以下蛇足に付きー


♪教えて皐月ちゃんのコーナー♪

提督「白露型全部に、長良型少し…
    長良と球磨がケンカしだしたのは面白かったけど」
皐月「どうして、ああなったんだか」
提督「後付の理由なら、二人して軽巡のオーパーツだから丁度よかったてのもあるけど」
皐月「本当は?」
提督「ただの成り行き…」
皐月「唐突なヘルシングごっこも?」
提督「だね。でも、意外と長良型って球磨型と接点あったなーって」
皐月「阿武隈さんに、鬼怒さんもだね」
提督「妄想が捗りますわ」

皐月「さて…一応、彩華さんの紹介をしておこうと思ったんだけど…」
彩華「アイツは逃げたか」
皐月「うん。ごめんね?」
彩華「いいさっ、このコーナーは頂きだっ」
皐月「どうぞどうぞ」
彩華「それじゃ遠慮無く…

名は彩華、姓は万津で、万津 彩華(よろづ さいか)だ
名前の由来なんだがな…万年最下位をいじったものだよっ、ちくしょうっ
アイツとは同期になるが…
なんだ、引きこもってる様な奴になら勝てるだろうって思ってたら
演習でボコボコにされてな…俺もそうだが、長良と球磨はその時からあんな感じだな
あとは、別にぼっちじゃないぞ。本編でそんな扱いされてた気もするけど
ちゃんといるぞ、白露とか時雨とか(以下白露型
別に友達が欲しくて、アイツに突っかかってるわけじゃないからな
さて、最後にコメントをくれた人にありがとうを言っておこう
随分前に「提督のことをライバルと思ってるけど…」とか「次は同期かな?」ってのがあったからな
その結果が俺だ。女性提督にでもしようって話もあったが
艦娘以外のラブコメ要素増やしてもなぁって事で却下になったな

彩華「さて、こんなもんか」
皐月「お疲れ様。司令官はどっか行ったままだけど、次いこうか」
彩華「おうっ」

♪皐月ちゃんラジオ♪ 

皐月「コメント返しいってみよー」
彩華「ラジオってなんだよ」
皐月「意味は無いかなぁ、雰囲気と勢いだけのタイトルだし」
彩華「さいで」

・一話から読み通しでテンションが…
・ウェディングドレスの如月
・卯月×瑞鳳
・長月の【お嫁さん】
・アクティブ過ぎる弥生さん
・皐月可愛い
・長月と如月のその後

彩華「おお、結構あるじゃねーか」
皐月「うん、皆ありがとう。それじゃ、上からいくよっ」

・一話から読み通しでテンションが…

彩華「一話からになると…結構な量あるんじゃないか」
皐月「うん。おまけに、文章とか設定とかもブレブレのはず…今でもだけど」
彩華「頑張ったな」
皐月「でも、楽しんで貰えてるようで何よりかな
    いつも読んでくれて、ありがとうね」

・ウェディングドレスの如月

皐月「そうだね。ボクら姉妹の中だと、如月が一番似合うかもしれないね」
彩華「だが、ウェディングドレスが似合わない女何かいないだろ」
皐月「へぇ…結構カッコいい事言うんだ?」
彩華「まあなっ」



弥生「それで…如月のアグレッシブさの行方だけれど…こんなの見つけた」

◯月×日
今日は司令官とキス(←射線で消されてる)ちゅーをした
ちょっと大胆だったかしら…

◯月×日
困った。司令官の顔を見るたびに
ちゅーをした時の事を思い出しそうになる
変な顔してなかったかしら…

◯月×日
司令官が大鳳さんにからかわれていた
なんのかんの言いつつも、大人の女性に弱いのだろうか
がんばろう

弥生「後は察して…それじゃ」

・卯月×瑞鳳

皐月「目指したのは、高度な次元で交わされる低レベルな喧嘩、だそうだよ」
彩華「なんだそりゃ」
皐月「さあ?」
彩華「どうみても、ガキの喧嘩じゃねーか」
皐月「ボクは好きだけどね。楽しそうで」

・長月の【お嫁さん】

彩華「将来の夢はお嫁さん、定番だな」
皐月「可愛いよね、こういうの」
彩華「だが、海に飛び込むのはやめておけ。嫁艦が悲しむぞ」

・アクティブ過ぎる弥生さん

弥生「表情が固いだけ、大人しいなんて言ってない」
皐月「それにしたって…最初に比べるとさ?」
弥生「卯月を瑞鳳にとられたから?」
皐月「あー…」

・皐月可愛い

彩華「アイツのお気に入りだからなぁ」
皐月「あ、うん、ありがと…」
金剛「提督の艦娘デースっ、可愛いのは当然デースっ!」
皐月「それ…自分も可愛いって言ってる?」
金剛「Exactly、その通りデースっ!」
彩華「すげー自信だな、おい」
皐月「これで平常運転だけどね」

・長月と如月のその後

皐月「こっちは、EXパートの2番にまとめたけれど、見てもらえたかな?」
彩華「癖が強すぎて、ボツってのが内情だ」
皐月「案の定長くなったし、テンポ悪くなるかなーって懸念もあったしね」
彩華「思ってたのと違ってたら見なかった事にな?」



彩華「さて、これで全部か」
皐月「皆、沢山のコメントありがとう。司令官も、いつもニヤニヤしながらコメント読んでるよ」
彩華「ニヤついてるアイツとか…あ、いつもか」
皐月「うん。平常運転だね」

皐月「いつも沢山の閲覧、コメント、評価、応援、オススメもありがとう
    取り留めが無かったり、誤字脱字も相変わらずだけど
    良かったら、また一緒に遊ぼうなっ」
彩華「そろそろ12月だ、リア充を逆恨みにするのは程々にな」
皐月「あははは。それじゃ、まったねー」