2016-09-01 22:59:19 更新

概要

警告タグ、オリキャラを追加しました。

後書きにて色々と報告しています。お時間ある方は是非そちらも。マイページでも色々と更新してます。


ーーー以下、物語概要ーーー


日本から大きく離れた位置に置かれているリンガ泊地に所属することになった、特型駆逐艦1番艦の吹雪。

そこには1人の提督と数多くの艦娘がおり、彼らは傭兵業を営んでいるという少々特殊な泊地であった。


前書き

この物語は、艦隊これくしょん ー艦これー の二次創作であり、実在する団体、地名、組織とは一切関係ありません。

拙い文章、表現、キャラ崩壊あり。


今まで書いていたSSとは別世界の物です。設定などは、別物になるのでご注意を。





・・・・・・





吹雪「傭兵かぶれのごろつきというのは………?」


鳳翔「周りの評価ですよ。私たちは自分をどうこう言うつもりはありません。周りがそう評価するならば、私たちはそれを甘んじて受けるだけです」


吹雪「は、はぁ……」


鳳翔「では始めに、貴女には私たちの提督に会って頂きます」


吹雪「は、はい!!」





鳳翔は吹雪を連れて、建物の中を歩いていく。少し歩いた所で、一つの扉の前に立つ。






鳳翔「失礼いたします。新任の艦娘を連れてまいりました」




扉をノックしてそう伝えると、中から声が聞こえた。




提督「いいぞ。入ってくれ」




その声は低く、冷徹なイメージを彷彿とさせる男性のものだった。鳳翔は扉を開き、吹雪を中へと連れて行く。


部屋の中には横長の机に椅子と、ごく一般的な執務室の作りとなっていた。その椅子に腰かけた男性が、ここの提督。吹雪の司令官となる男だ。



吹雪「は、初めまして! 吹雪です!」


提督「あんたが特型駆逐艦の一番艦、吹雪だな。話は聞いている。精々頑張ってくれ」




その男、顔は凛として佇んでおり、年は40を超えているようだが、衰えを見せず、如何にも海軍の人間であるといった風貌をしている。所謂、ナイスミドルだ。漂わす雰囲気は涼しげであり、こう言った人間が ”頭が切れる” と言われるのだろう。





提督「………言っておくが、ここがどこかは知っているのだな?」





そう話す提督は、人によっては恐怖を与えるものであった。その男の目はまるで狐のような鋭さであり、人を刺し兼ねないほどに鋭く尖っていたからである。





吹雪「はい、少しは………」


提督「………まあいい。うちは来る者は拒まず、去るのも自由だ。それだけは覚えておいてくれ」


吹雪「………はい」


提督「さて、詳しいことは鳳翔に聞いてくれ。私はそろそろ席を外させてもらおう。これから別件があるのでな」





そういって提督は席を立つ。執務室の奥に造られたもう一つの部屋の中へと入っていく。恐らくその部屋が提督の生活スペースなのだろう。別件というのは何処かへの出張だろうか。






吹雪「はい! よろしくお願いします!!」


鳳翔「では吹雪さん。今からここを案内いたします。かなり広い作りになっているので、離れないようにして下さい」


吹雪「わかりました!」




そういって鳳翔は建物の中を案内する。吹雪が使うことになる部屋に始まり、艦娘が使用する工廠、入渠ドック、食堂と次々と回っていく。







鳳翔「………といったように、鎮守府と呼ばれる所とは大差ないのでは?」


吹雪「………そうですね。兼ねてより聞いていた鎮守府の作りと変わった所は無いと思います」


鳳翔「では、今日はもう結構ですので、明日に備えて部屋で休んでおいてください」


吹雪「はい! ありがとございました!!」






そうして、吹雪は去っていく。部屋に戻っていったのだ。鳳翔は最後の仕事がまだ残っていた。そして、とある部屋へと向かう。


鳳翔「………」






部屋に入るや否や、先に待っていた翔鶴が声をかける。







翔鶴「鳳翔さん!」


鳳翔「翔鶴さん……」







そこから次々と艦娘がこの部屋に入ってくる。扶桑型戦艦の一番艦 ”扶桑” を始めとし、翔鶴型一番艦正規空母の”翔鶴”。陽炎型駆逐艦一番艦 ”陽炎” 。青葉型重巡洋艦二番艦 ”衣笠” と、ここリンガ泊地が誇る、名だたる主力艦が部屋に集まる。


扶桑「いかがですか? あの吹雪という娘は?」


鳳翔「今の所は。ですが……」


衣笠「何か気になることでも?」


翔鶴「結論を出すのは早すぎる。ということですか?」


鳳翔「………えぇ。そうですね」


扶桑「何はともあれ、1度提督にご相談すべきかと……」


鳳翔「勿論。それは怠りません。…………何時までそこにいる気ですか?」




そういうと、部屋の天井から姿を現した艦娘がいた。軽巡洋艦 ”川内” である。





川内「なーんだ、バレてたの?」


鳳翔「えぇ。てっきり気付いてくれと言っているのかと」




川内は「ちぇっ」と舌を鳴らす。相当自信があったのだろう。



川内「そうそう。で、どうする? 一応私が見張っておくって手もあるけど?」


衣笠「それは位は必要かもね………」


陽炎「いま見たいに隠れて? すぐ見つかっちゃうんじゃないですか?」


鳳翔「……ともかく、現段階では判断材料が少なすぎます。当分は、各々迂闊な行動は控えてください」


一同「了解」




・・・・・・




提督「諸君、今回新しく我々の仲間となる艦娘が昨日着任となった。各々の作戦時間と重なったが為に、諸君らの殆どが顔を合わせることはなかっただろう。よって、本日改めて紹介しよう。特型駆逐艦の一番艦、吹雪だ」





提督に紹介され、吹雪は皆の前に出る。そこで吹雪は少し拍子抜けしてしまう。建物の大きさに似合わず、艦娘の数が少ないのであった。


艦の花形とも言える戦艦は1隻。正規空母、軽空母、重巡も各1隻ずつ。軽巡洋艦が2隻と、駆逐艦は自分を入れて4隻。少々心許なく感じる数である。



吹雪「吹雪です。よろしくお願いします!」




取り留めのない自己紹介。それが終わり、本日の業務が次々と伝えられる。そしてそれぞれ与えられた責務をこなすため、その場を後にする。最後に残されたのは自分と鳳翔、川内。そして、同じ駆逐艦である陽炎だった。




「よろしくねー」と声を掛けてきた陽炎に対し、同じくよろしくと返す吹雪。




陽炎「あぁ、そんなに畏まらなくて大丈夫よ。うちはそこの所結構寛容だから」


提督「川内と、鳳翔並びに陽炎は、吹雪の強化訓練の教官として就てもらうこととなる」


鳳翔「おまかせください」


陽炎「大船に乗った気で居ていいわよ!」



陽炎は、我ながら上手いこと言ったと思っているようだが、明らかにスベっているのであった。




川内「ねぇねぇ、夜戦は?」


提督「訓練内容はお前達に一任する。鳳翔と陽炎が賛同すれば、後はお前が自由にやればいい」


川内「やったぁ!!!」


提督「 ”鳳翔と陽炎が賛同すれば” の話だぞ」


鳳翔「では、早速取り掛かります。失礼いたします」


吹雪「し、失礼します!!」





・・・・・・





訓練と言うのも、かなりの苛烈を極めるものであった。実際に海上に出て陣形を作り、回避行動等を行う”艦隊運動演習” 。 ”砲撃” と ”雷撃” 、 ”対潜演習” に、実際の戦闘を模倣した ”艦隊演習” など、様々な訓練を行うこととなった。


8時間後、一通り訓練が終わり本日の業務は終了となった。1日の終わりは必ず入渠ドックへと入ること。これがここのルールであると教えられ、4人でドックに入ることとなった。


ここの入渠ドックは、例えるならば ”健康ランド” のようなものである。浴場の中心には大人数が入れる大浴槽。壁際に4つ並べられている浴槽は1人入るのがやっとな広さであり、これが傷ついた艦娘を癒すドックなのであろう。


他にも様々な物があり、ジャグジーが備えられたもの、露天になっているもの、サウナ室があったりと、いたせりつくせりな空間となっており、そこには、ここリンガ泊地の提督の優しさの片鱗を伺える場所の一つであると、川内は語る。


川内「ほら、ここって本土と離れてるでしょう? だから提督が少しでも娯楽をお前達に提供したいって話しててね」


陽炎「一週間くらいだっけ? 案外簡単にできるものよねぇ〜」


などと話しながら、4人は中心にある浴槽に足を延ばす。損傷を被った訳ではないので、ただの入浴で済ませるようだ。そこには和気藹々とした空間が流れる。互いが互いの心理など露知らずに。





・・・・・・




吹雪「はぁ〜。いいお湯でしたぁ〜」


川内「あー、駄目だ………眠くなりそう…………」


夜型体質である川内も、今日は吹雪の訓練に付き添ったので丸一日徹夜の様なものだ。


鳳翔「それなら皆さんぐっすり眠れるでしょうね」


陽炎「あー、それは言えるかも。夜中に ”夜戦だー!!” なんて、TPOを弁えないにも程があるしねぇ〜」


吹雪「あはは………」


川内「だってぇ……夜は楽しいでしょ? 」


鳳翔「私からすれば、夜戦はお断りですよ? 艦載機は飛ばせないですし、唯の的になるしかありませんから」


陽炎「そうならない為に私たちが居るんだけど………、まぁ実際はそう上手くいかないしねぇ」


鳳翔「さあさあ、早く着替えてください。風邪ひきますよ」




そうしてドックを後にした4人は、それぞれの部屋へと戻る。



吹雪「色々あったけど、ここならやっていけそう……」







吹雪「前の鎮守府に較べたら、ね…………」














翔鶴「それで、所見はいかがでしたか?」


鳳翔「悪くはありませんね。でも………」


川内「あれが新入りの動きな訳ないよね。あんな的確に的を射たり、砲撃を躱したりなんてできないよ」


扶桑「恐らく、”彼ら” の差し金でしょうね」


衣笠「だったら、余計に気は抜けないよね……」


鳳翔「昨日も言いましたが、ここで結論付けるのは時期尚早と言えます。向こう一カ月、彼女には訓練が与えられています。今は3人で当たっていますが、皆さんにも最低一度は訓練に当たる様に提督に進言するつもりです」


扶桑「………そうですね。一度顔を合わせておくのも良いでしょう」


翔鶴「では、皆さんそれに異議はありませんか?」


一同「異議なし」


鳳翔「では、ここに居る全員からの提案として提督に進言します。それでは、本日はこれにて終了と致します」









・・・・・・








吹雪の訓練が開始してから一週間、練度も当初に比べ遥かに上昇した為、提督から新たな任務を課されることとなった。





提督「今日からお前には実践に当たってもらうことになる。我々の艦隊行動は他の鎮守府とは異なるという事を頭に入れておけ」


吹雪「は、はい!」





提督「ここリンガ泊地は、海軍所属の基地ではない。だが、依頼を請ければ海軍の作戦にも参加する事になる。今回の作戦も、海軍からの依頼だ。何か質問は?」


吹雪「いえ……。ですが………」


提督「なんだ? 言ってみろ」


吹雪「何故、海軍に籍を置かれないのですか? 全員が改か改二への改造が済んでいて、かなりの練度を積んでいますし………」


提督「それは答えられん。だが、私は今後も海軍と歩むつもりはない。それだけは伝えよう」


鳳翔「提督、出撃準備が整いました。吹雪さんも、艤装は点検済みです」


吹雪「あ、ありがとうございます!」


提督「では吹雪の準備が完了次第出撃せよ。諸君らの健闘を祈る」












川内「吹雪! 急いで!!」


吹雪「は、はい!! ………お待たせしました、準備完了です!!」




この艦隊での吹雪の位置は3番目。本来ならば最後尾に配置されるが、初の実践という事で急遽3つ目の席を得たのだ。


川内「第三艦隊、旗艦川内。出撃よ!!」


夕立「夕立、出撃っぽい!!」


吹雪「吹雪、抜錨します!!」


Верный「了解。Верный、出撃する」


村雨「村雨の、ちょっといいとこ見せたげる♪」


由良「長良型軽巡由良、出撃します」




提督「今回の任務はトラック泊地の解放だ。お前達は敵を沈めるだけでいい。尚、今回の依頼はトラック泊地の解放と共に周辺海域の哨戒任務も兼ねている。よって、沈めた数によって報酬が支払われる歩合制になっている。たんまりと稼いで貰うぞ」


一同「了解!!」













トラック泊地周辺海域











提督『全員聞こえるか?』


川内「問題ないよ!」


由良「はい、異常ありません」


吹雪「ここの鎮守府は、司令官が指示を出されるのですか?」


提督『そうだ。こちらで敵の情報を逐一報告する。そうだな、オペレーターみたいなものだ』


川内「前方に砲撃音! 見つけたよ!!」


提督『そのまま進軍だ。実働隊と挟撃しろ』


川内「了解!!」




指示通り、川内率いる艦隊は進軍する。提督の見立て通り敵を挟撃する形となり、深海棲艦は散り散りとなる。



加賀「呉鎮守府の第一艦隊旗艦、加賀です。救援感謝します」


川内「周りはこっちで引き付けるよ。そっちはさっさと済ませちゃって!! 吹雪は私に随伴、他はいつも通りに!」


吹雪「は、はい!!」



提督『川内と吹雪は西方へ。由良と村雨は南、夕立、ヴェールヌイは遊撃に回れ』


一同「了解!!」





各々が指示通りに散開する。本来の艦隊は深海棲艦の猛攻に対しての防衛戦を行うという意識が高いため、艦隊で固まって行動する事が多い。


しかしリンガ泊地の艦娘は駆逐艦1隻でも重巡洋艦率いる水上打撃艦隊に対抗できるほどの実力を持つため、集団で行動すると個々の能力を下げてしまい兼ねない。2隻による短期決戦。これがリンガ泊地の提督率いる艦隊の必勝法なのである。





川内「吹雪は後方の警戒をお願い!」


吹雪「はい!!」





由良「砲雷撃戦、始めます。負けないから!」


村雨「あらあら、い・い・け・ど!」










夕立「夕立、突撃するっぽい!!」


Верный「ypaaa!!」











ものの30分で、撃沈数は100を超えた。出撃したのは朝だが、作戦開始は午後の5時。段々と空が闇に包まれてゆく。陽が沈んだのだ。




川内「提督、向こうは?」


提督『依然として膠着状態だ。お前達の方はどうだ?』


川内「こっちは大丈夫だよ」


村雨「全然オーケーよ」


Верный「問題ない」


提督『そうか。……よし、隊を二つに分ける。川内、村雨、夕立は呉艦隊の援護に回れ。残った者は周辺の哨戒だ。見つけ次第叩きのめせ』



川内「やったぁ!! 待ちに待った夜戦!! 徹底的に沈めるよ!!!」


夕立「さぁ、素敵なパーティしましょ!!!」


村雨「やっちゃうからね♪」







由良「行きます」


Верный「さて、やりますか」


吹雪「が、頑張ります!!」













川内「さてと。提督、どうすればいい?」


提督『呉の旗艦と連絡を取れるか?』


川内「うん、一応回線は知っているよ。向こうが生きていればの話だけど」


加賀『呉鎮守府第一艦隊旗艦、加賀です』


提督『リンガ泊地の提督だ。お前達に策を授ける。その通りに動いて欲しい』


加賀『…………わかりました。ではどの様に?』






・・・・・






加賀『…………なるほど』


提督『手はず通りに動けば、負けることはない。どうだ?』


加賀『承りました。指示に従います』


加賀「このままでは被害が大きくなるだけ。撤退するわ」


赤城「加賀さん! 何を!?」


北上「確かに……このままだとヤバイよね………」


加賀「第一艦隊、退却します」




戦艦水鬼「逃ガシハシナイ!!」






加賀「追ってきました。距離は?」


川内『後50くらいかな?』




暁「きゃあ!!」


赤城「暁ちゃん!?」




暁「へ、へっちゃらだし……」小破



戦艦水鬼「外シタカ………。次ハ当テルゾ!!」


川内「今よ!!!」



イ級「」轟沈




戦艦水鬼「ナニ!? ドコカラ!!」




川内「周りを見ないで突っ込んでくるなんてね。突撃よ!!」


村雨「やっちゃうからね!!」


夕立「最っ高に素敵なパーティの始まりよ!!」


加賀「第一艦隊転進、増援と共に敵を沈めます!」


赤城「す、すごい……」


妙高「掎角の計ですか……。よく思いつきましたね」


加賀「私ではありません。リンガ泊地の提督です」













ーー加賀「それで、策というのは?」ーー


ーー提督「お前達はそのまま撤退を装え。向こうはみすみす逃す真似はせず、絶対に追ってくる。そこで、うちの艦隊をお前達の撤退経路に潜ませ、頃合いを見計らってこっちが砲撃を仕掛ける。砲撃音がしたらお前達は転進。うちの艦隊と徹底的に敵艦隊を叩け」ーー


ーー加賀「そちらの艦隊が、敵に見つかる可能性は?」ーー


ーー提督「九分九厘ありえんな。お前達が探照灯や照明弾を打たない限りはだが。仮に見つかっても、奴はこっちを相手にするか、部隊を分けるだろう。見つかってなければ、お前達が頃合いを見計らって転進。見つかったのであれば、お前達は敵の砲撃に耐えればいい。うちの連中がすぐに片付けて救援に向かわせる」ーー


ーー加賀「………なるほど」ーー














川内「さっすが提督!! よく思いついたね」


提督『ふん、これくらい出来て当然だ。無駄口はその辺にして、さっさと敵を駆逐しろ』



戦艦水鬼「オノレ………オノレェェェェェェェ!!!!!!」




加賀の一撃が戦艦水鬼の急所を撃ち抜き、火の手が上がる。煙は大きくなり、海の底へと沈んでゆく、




加賀「敵深海棲艦、轟沈確認しました」


赤城「終わりましたね」


北上「ふぃ〜。お疲れさ〜ん」


敷波「お疲れー」


妙高「援護に来た艦隊は?」


敷波「あれ!? いつの間にか居なくなってるし………」


加賀「……ともかく、帰還して報告しましょう」












ーーリンガ泊地ーー








川内「艦隊が帰投したよ!」


提督「ドックは空けてある。さっさと入れ」


一同「はーい!!」


由良「今回の活躍はいかがでしたか?」


提督「うむ、悪くはない。及第点といったところだ」


夕立「だったら、夕立達にも何かご褒美が欲しいっぽい!」


提督「なら、明日の出撃は休むが良かろう。まぁ、お前達の給料が減るだけだが」


吹雪「えっ? 給料制!?」


提督「といっても使い道がないのだがな」


川内「何かあった時のためにって感じだね」


村雨「もう、そんな老後を考えさせるような事は止めてよ」


Верный「хорошо」


扶桑「提督、少しよろしいでしょうか?」


提督「うむ、了解した。すぐ向かおう」


鳳翔「さぁ、早く入ってください。その間に食事を作りますから」


川内「おぉ! 鳳翔さんの料理は久しぶりかも」


Верный「実にハラショーだ」


鳳翔「では提督。失礼いたします」










提督「…………扶桑よ、答えは決まったのだな?」


扶桑「………私には、提督のご意思がわかりかねます。疑わしい者を使うなど………」


提督「お前は、ここに来て幾年経った?」


扶桑「こちらに来てからは丸2年ですが、あの時も含めるならば、提督の元にいたのは5年です」


提督「5年経った今でも、未だに私の意図が掴めぬと?」


扶桑「………はい」


提督「私は既に奴を使うと決めた。ここまで言えば分かろう」


扶桑「疑うは用いず、用いれば疑わずですか?」


提督「……皆まで言わせると?」


扶桑「……実を言えば、今でも私は反対してます。ですが、提督が使うと仰るならば提督のご意思に従います」


提督「………済まぬ。また、苦労を掛けるやもしれん」


扶桑「5年経った今でも理解できないのは、お互い様ではありませんか?」


提督「……フッ。一本取られたな」


扶桑「……フフッ」


提督「だが、気を抜いてはならぬ。常に目を光らせておけ」


扶桑「……はい」











ーー2ヶ月後ーー













提督「吹雪」


吹雪「はい、何でしょうか?」


提督「ここに来て、幾月経った?」


吹雪「えっと………2ヶ月です」


提督「お前もここに来て、かなり動きが良くなった。そこで、お前にはパートナーを組んでもらいたいと考えている」


吹雪「パートナーですか?」


提督「ここでは少人数で作戦を行うと話したな? その為に、基本的に2人一組のチームを作ってもらう事になっている」


吹雪「は、はぁ………」


提督「それで、お前は誰と組みたい?」


吹雪「えっ!? でも殆どの方は決まっているのでは?」


提督「月1で変えるようになっている。お前は日が浅かったからな。川内と陽炎についてもらっていたが、2月経てばもう良かろう」


吹雪「誰でもよろしいのですか?」


提督「次回からはこちらで決めるが、今回はお前の自由だ。さ、誰と組む?」



吹雪「では………」










吹雪「失礼します!」


翔鶴「吹雪さん。いらっしゃい。荷物はそうね………、あちら側の机で良いかしら?」


吹雪「はい! 一ヶ月間ですが、よろしくお願いします!!」


翔鶴「はい、よろしくお願いします。って、あらやだ! 私ったらお茶も出さないで」


吹雪「いえいえ、そんなお構いなく」




そんな取り留めのない会話が広がる空気の中、放送による提督の声が建物中に響く。



提督《全艦隊に通達。緊急の依頼が入った。総員、執務室に出頭せよ。繰り返す………》












鳳翔「提督、全員の召集完了致しました」


提督「よし、では今回入ってきた依頼を説明する。依頼主は日本陸軍、まぁ憲兵隊だ。目的は、とある鎮守府への襲撃だ」


吹雪「えっ………?」




突然の出来事に、言葉が出ない。それもそのはず、本来海軍と陸軍というのは意見の相違等で険悪関係にある。リンガ泊地は海軍の所属ではないがそれを受け入れ、あまつさえ味方を襲うなどと誰が予想しただろう。



提督「今回の依頼はお前達の中から志願した者だけを選抜する。今回の経緯についてだが……」


扶桑「何時もの事……でしょうか?」


提督「……まぁそうだな。何時もと変わらない。さ、誰か行く者はいないのか?」


扶桑「……提督、私が行って参ります。旗艦はお任せ下さい」


提督「……では、扶桑を本作戦の旗艦とする。他にはいないのか?」


吹雪「私も行きます!」




その言葉に、ここにいる全員が一斉に吹雪を見る。まずったと吹雪は思った。


提督「駄目だ。許可できん」


川内「まあまあ、そんな堅い事言わないで」


陽炎「私たちが何とかするから」


提督「……吹雪、今回の作戦がどんな物なのか分かって、それでも名乗り出したのだな?」


吹雪「……詳しくは分かりませんが、皆さんの雰囲気で分かります。私がお呼びでないことも。でも……!」


提督「……分かった。お前の意見を受け入れよう。但し、川内と陽炎。お前たちも参加して貰うぞ」


川内・陽炎「了解!!」


吹雪「ありがとうございます!!」


鳳翔・翔鶴「提督、私達も!」


提督「よし! ではお前達6隻に、本作戦を任せよう。今回はお前達だけで当たって貰うことになる」


扶桑「……承りました」


提督「では、本作戦の指示は旗艦である扶桑に一任する。吹雪、分からぬところがあれば、扶桑に尋ねよ」


吹雪「は、はい!!」


提督「では、扶桑はこの場に残り、他の者は急ぎ出立の準備に取り掛かれ。解散!」


一同「失礼します!!」




部屋にいた者が次々と去って行く。提督と扶桑の二人を残して。だが2人を取り巻く空気は何処か歪んだ、悍ましく思える空間であった。





提督「ここで、見極めるぞ。奴がどちらに転ぶか」


扶桑「こうなることを予想していたのですか?」


提督「……お前達が決めたのだろう? 奴を見極めると」


扶桑「……提督には、隠し事は出来ませんね。でもそれを飲んだのは、提督ご自身、まだ迷いがあるのでは?」


提督「……向かう地は呉だ。良いな?」


扶桑「呉ですか……。提督も、お人が悪いですね。あの子を行かせるなど……」


提督「だから言ったであろう、見極めると。ここでどう転ぶも、あいつ次第だ。去るも残るも、な」


扶桑「……出立の準備に取り掛かります」












ブリーフィングから数時間後、艦隊は日本の領海へと到達した。そこで一旦休憩となり、吹雪がある質問を口にした。







吹雪「あの、今回の目的地は日本と聞いてはいますが、詳しい場所は何方なのでしょうか? そもそも……」


扶桑「貴女の言いたいことは判るわ。そうね………」


翔鶴「でも、これを聞けば貴女は如何するか絶対に迷ってしまう。戦いで迷いが出れば、命取りになります」


吹雪「っ……」


翔鶴「それでも、聞きますか?」





重々しい空気が広がる。翔鶴の一言で、吹雪の心は大きくかき乱される事となる。


吹雪 (ここのみんなはその話を知っている。私が知らないのは、みんなが私を信用していない。だから話さないことも知っている。去るのも自由、残るのも自由って司令官は言ったけど、話を聞くってことは、ここに留まらなければならない。それに、もし私が去ると知ればここのみんなは絶対に私を逃さない。きっと私を沈めにかかる…………)






吹雪(って、何を考えてるの私は。仲間を疑うなんて…………。でも、皆の私を見る目は物凄く怖い。深海棲艦と思える程に……)


吹雪の中で、様々な思いが交錯する。1度埋め込まれた猜疑心は、いつまでも居座り続けるものだ。でも、私はここに居たい。それが、私の選んだ事だから。多くの考えが交錯する中、吹雪は意を決して翔鶴の問いに答える。









吹雪「………はい。聞かせてください」



翔鶴「…………分かりました」








そうして、翔鶴はゆっくりと語る。扶桑と鳳翔が、翔鶴の知らない部分を埋めていきながら、吹雪に話して行く。






翔鶴「………陸軍からくる依頼のほとんどは、正規の依頼ではありません。陸軍の勝手な、狂言依頼とも言うべき依頼です」


吹雪「狂……言……?」


翔鶴「始めからそうだった訳ではありません。元々は違法を犯した提督を捕らえ、憲兵隊に突き出す手伝いなどが主な内容でした。でも、今は違います。今送られてくるのは、陸軍の勝手な意向で繰り出される依頼です」


翔鶴「今の陸軍は、欲にまみれた薄汚い集団に成り果てました。かつての様な取り締まりも行う事はなくなり、罪のない者を裁く程に」


吹雪「罪のない者を裁く………?」


扶桑「賄賂が横行する世の中ですから。あそこの司令官は憲兵隊に賄賂を払わなかったなどの理由で、殺そうと画策したりします」


吹雪「………そんな話、初めて聞きました」


鳳翔「表向きには公表されませんから。殺された提督は異動や除隊など適当な理由をつけていますが、大抵が罪をでっち上げられた方が殆どです」


吹雪「でも、なんでそんな陸軍に協力を!? まさか……」


扶桑「そうよ。私達は今からそんな陸軍に手を貸す事になります。それは罪もない方を殺すことになり兼ねません」





そう話す扶桑の声は、一切の迷いを感じさせないものであった。命を奪うという事に、躊躇いを感じない。



吹雪「そんなの、おかしいですよ。何もしていない人から、何もかもを奪うなんて……」


翔鶴「吹雪さん」


吹雪「………何ですか?」


翔鶴「それ以上口にすれば、私が貴女を沈めます。私は、そんな事をしたくはありません。ですが、今ここで扶桑さんの指示が降りれば、貴女を沈められるという事を忘れないでください」





そう話す翔鶴の目は何時もの様に優しい目ではなく、殺気を感じさせる狼の様な目であった。






吹雪「っ………」


鳳翔「そろそろ、進みましょう。このままだと、目的地に間に合いませんよ?」


扶桑「……行きましょう」








そこから更に時間をかけて、呉鎮守府へと到達した一行。鎮守府より少し離れた港で、軍服を着た男達が待ち構えている。



吹雪「………あれは?」


翔鶴「依頼主の憲兵隊……でしょうね」


扶桑「ということは、乗り込むつもりですね。いや、殴り込みですかね?」



などと軽口を叩きながら、艦隊は港に着港する。



憲兵「貴様らが、あの男の率いる艦隊だな?」


扶桑「ええ。旗艦の扶桑型戦艦1番艦、扶桑です」


憲兵「今回の招聘を受諾してもらい、感謝する」


扶桑「それで、私達はどのように動けば?」


憲兵「貴様らは、あの鎮守府の艦隊と面識があるとか?」


扶桑「ええ。一度ですが共闘を」


憲兵「では、貴様らが鎮守府に進入し、呉の提督である海軍中佐を捕縛しろ。見知った顔であれば、奴も疑う事もなかろう。我々は機を見て建物を制圧する」


扶桑「………承りました」


憲兵「言っておくが、もしこの作戦にしくじれば貴様らも同罪とみなし、潰しにかかる」


扶桑「……お言葉を返すようですが、私達は海軍の所属ではありません。ましてや国の為に闘うなど、私達は致しません。国に所属しない私達を、あなた方は法に照らすことはできるでしょうか?」


憲兵「……ふん、小賢しい女は好かんな」


扶桑「恐れ入ります。では後ほど……」











翔鶴「扶桑さん、彼らは何と?」


扶桑「殆どは我々で進めるとのこと。混乱に乗じて憲兵隊は事態を収縮させるそうです」


翔鶴「相も変わらずですね。手柄を横取りすると言う事ですか」


陽炎「相っ変わらず性格悪いねぇ、陸軍は」


扶桑「その上、しくじれば私達を裁くと」


陽炎「ふぅーん。脅してるつもりかしらねぇ?」


川内「こっちが不利になっても連中は手を出せないしさ。気に病むこともないよ」


吹雪「………」


鳳翔「吹雪さん。私が貴女に初めて会った時、何と言ったか憶えていますか?」


吹雪「……… ”傭兵かぶれのごろつき” 。しっかり覚えていますよ」


鳳翔「そういうことですよ、私達は」


吹雪「”傭兵” の真似事かと思えば、罪のない人を殺す ”ごろつき” ですか………。笑えませんね」


翔鶴「裏切りなんて、傭兵紛いの事をしてれば何時もの事ですよ。それで、どうしますか? このまま呉に乗り込むか、尻尾を巻いて逃げるか?」


吹雪「私は……………行きますよ」






建物に近づくと、呉に所属している一隻の艦娘が声を掛けてくる。





加賀「失礼ですが、どちら様でしょうか?」


扶桑「あの……、リンガ泊地に所属している扶桑型戦艦1番の扶桑です」


加賀「リンガ泊地…………あぁ、その節はお世話になりました。お陰で皆が無事に帰投できました」


扶桑「あの……、こちらの提督に私達の提督からご用がありまして、お取り次ぎ願えないでしょうか?」


加賀「申し訳ありませんが、提督に確認を伺いに行っても宜しいでしょうか?」


扶桑「え、えぇ……」




そう言い残し、加賀は建物の中に入っていく。かなり厳重な警戒振りだ。




川内「まずいんじゃない………? これ………」


陽炎「確かに、随分警戒されているし………」


扶桑「………川内さん、先に中に潜入を試みて貰えますか?」


川内「りょーかい!」



扶桑の提案を飲んだ川内は、建物の中に潜入する。



吹雪「どうして川内さんを?」


扶桑「万が一に備えて。付け焼き刃の保険ですよ」



そして約5分後、建物の中から加賀が出てくる。



加賀「提督から許可が下りました。ご案内致します」





そう言われ、一同は加賀の後に続いて建物へと入っていく。作りとしてはリンガ泊地の司令部と変わらない。それはそうだ。 ”海軍に籍を置かない” といっても、司令部並びに艦娘は日本海軍の所有物だ。一体、扶桑が憲兵隊に発した言葉の意味はどういう意味なのだろうかと、吹雪は考える。



加賀「本来であれば事前に連絡を頂きたかったものですが……」


扶桑「申し訳ありません。急用であったので、連絡が遅れてしまいまして」


加賀「まぁ、本日は特に予定もなかったので問題はありませんが……」






すると突然、先に潜入していた川内から連絡が入る。提督は部屋に1人で居るとの事で、全員は少し安堵する。という事は、警戒しているのは提督ではなくここの艦娘達なのだろうか。そう思うと、ここにいる加賀とて例外ではないと吹雪を除く全員が疑いの目を向ける。





加賀「提督、先程の通達通り、お客様をお迎えにあがりました。お通ししても?」


呉提督「あ、あぁ……。と、通してくれ………」




加賀に促され、一同は部屋に通される。座っていたのは呉鎮守府の提督である。まだ若く、如何にも好青年といった印象を与える顔立ちをしている。


扶桑「リンガ泊地所属、第一艦隊旗艦の扶桑です。本日はお目通り頂きまして、謹んで感謝いたします」


呉提督「そ、そこまでかしこまらなくても……。用件は……?」




そう話す呉提督の声は震え、時折上ずっているようだ。上がり症にしてはこれは度が過ぎているとしか思えない程に挙動不審になっている。



扶桑「今回、私達はある方から依頼を受けてここに来ました。依頼主は、憲兵隊です。心当たりーー」


呉提督「あっ、ある訳ないだろうッ! 何だって俺が!?」


鳳翔「どうなされました? 何をそこまでムキに否定なさるのですか?」


呉提督「っ………!!」


翔鶴「ともかく、一度ご同行願いますか?」


呉提督「じょ、冗談はやめてくれ! 連れて行くなら、証拠をみせろ!!」


陽炎「往生際が悪いわよ。証拠を見せろなんて言ったら、心当たりは有るって言ってるようなものじゃない」


呉提督「うぐっ………」


扶桑「もう一度言います。ご同行願いますか?」


呉提督「ふざけるな!!」



その瞬間、呉の提督は彼女らに武器を向け、引き金を引いた。暴徒鎮圧、不審者の捕獲などに用いられるネットを射出する物だ。




陽炎「うわぁ!!」


扶桑「きゃっ!」


吹雪「扶桑さん!! 艤装! 艤装が挟まって痛い!! 痛い痛い!! イタタタタ!!!」


扶桑「あっ! ごめんなさい!」


翔鶴「痛い!! 扶桑さん! 砲塔動かさないでください!!」


扶桑「えっ? えっ??!?!!?」


陽炎「あ、逃げられてるし………」


鳳翔「これは………どうしましょう?」


吹雪「イタタタタ!!! ちょっと!皆さんじっとしていて下さい!!」




そう言うと、吹雪は懐から手にすっぽりと収まる大きさの ”何か” を取り出した。手探りでそこからあるものを探しているようだが、少しすると彼女らを覆っていたネットが切れていく。


陽炎「あんた何でそんなもの持ってんのよ」



吹雪が持っていたのは、アーミーナイフと呼ばれる多機能折り畳みナイフである。世間一般では、十徳ナイフとも呼ばれる代物だ。



吹雪「常日頃から携帯していただけです。昔からの癖ですね」


陽炎「まぁ、何とか助かったわ。ありがと」


扶桑「さて、私達は交渉で推し進めるつもりでしたが、手を出してきたのはあちら側です」


翔鶴「私達の十八番ですね」


鳳翔「あぁ……やっぱりこうなるのですね」


陽炎「吹雪は如何するの?」


吹雪「………やりますよ。あそこまでされたら、私の気が済みません」


翔鶴「ですが、もう片はついてると思いますけど」


吹雪「 ? 」







呉提督「クソッ! クソックソッ!! ここで捕まってたまるかよ!」


那珂「あれ!? 提督、どうしたの?」


呉提督「な、那珂! 丁度いい、俺を助けてくれ」


那珂「ちょ、ちょっとどうしたの!? 」


呉提督「頼む!! 助けてくれ!!!」


那珂「わかった、わかったから落ち着いて! とにかく、部屋に来てよ。そこなら安心でしょ?」


提督「あぁ、助かる!!」





那珂「さ、入って入って」


呉提督「ふぅ、助かった。(さて、ここから如何やって逃げるか………)」


憲兵隊「呉の提督だな!? 艦隊の不正運用並びに艦娘に対しての暴行容疑が掛かってる。ついて来てもらおうか!」


呉提督「なっ、なんだと!?」


那珂「ごめんねー、提督♪」


憲兵隊「軽巡洋艦那珂、ご協力に感謝する」


呉提督「那珂!! 貴様図ったな!!!!」


那珂「えー? 何のことー? 那珂ちゃんわかんないなー♪」


呉提督「クソッタレがぁぁぁぁぁ!!!!」


那珂「自分の所有する艦娘の区別も付かないなんて、ホントに帝国海軍の提督!? 聞いて呆れるよ」


川内「私は那珂じゃなくて、川内よ?」


一同「何だと!?!!!!!??」


憲兵隊「何て奴だ………。我々どころか、この男の目までも欺くとは………」


翔鶴「ほら、ね?」


扶桑「お手柄です、川内さん」


吹雪「えっ!? 如何やって……」


川内「んー、ここの艦隊に妹の那珂が居るって聞いてね、ちょっと那珂に変装してただけよ」


川内「あーっ、あーっ、んんっ」


川内「那珂ちゃんだよー♪ よっろしくー♪」


吹雪「凄い、全然本人と区別がつかない。姿も……まあそれは姉妹だからあれだけど、それを引いても凄いですよ!」


憲兵隊「ともかく、協力に感謝する」






・・・・・





このことは呉鎮守府内で大事となり、多くの艦娘が憲兵隊に連行される提督をひと目見ようと集まってくる。


彼女らの話を聞いていると、呉の提督は余程慕われていたようで、彼を惜しむ声が多く聞こえてくる。一部を除いて………。





呉提督「加賀! 貴様、轟沈寸前の貴様を助けたのは、誰だと思っている!! 」


加賀「………………」


呉提督「この売女がぁぁぁぁぁぁ!!!!」


憲兵隊「おらっ、とっとと歩け!!」


呉提督「貴様、俺が出てきたら覚えとけよ!!!!!」





品のない罵倒。もはや捨て台詞とも取れる言葉を残しながら、呉の提督は憲兵隊に連れて行かれる。




加賀「………………」


吹雪「あの………」


加賀「…………何か?」


吹雪「いえ……。何故、他の艦娘はここの提督を惜しむような声をしているのに、貴女だけ………」


加賀「…………そうね。良かったら、私の部屋に………。他の方々も」





・・・・・






加賀「あの………このことは、他の艦娘には内密にお願いしたいのだけれど……」


扶桑「えぇ、大丈夫ですよ」


加賀「ありがとうございます。…………実は」




次の瞬間、加賀は自身の着ている弓道着を背中半分まで脱ぎ、一同に背中を向ける。加賀の背中には無数の痣が出来ており、一部は鬱血している。


加賀「提督は、とても優秀な方でした。指揮を執れば百戦百勝の戦果を収めるほどに。ですが………」


扶桑「貴女の身体を見れば分かるわ。大方、陰で虐待されたとかではありませんか?」


加賀「………えぇ、その通りです。あの方の言葉通り、私は拾われた身です。たったそれだけで、提督は私への待遇は酷いものでした」


加賀「碌に練度も上げてもらえず、休息も与えられずに無理難題を押し付けて、自身に都合の悪いことが起こると、いつも…………」


鳳翔「加賀さん……」


吹雪「でも、それなら他の方々に話してみるべきだったのでは?」


加賀「………他言すれば、私を解体すると脅されました。あの人は、それ位平気でやってのけるお人です。でも………」


扶桑「………」


加賀「一度だけ、他の艦娘に打ち明けてみました。提督に、暴行を受けていると。でも、誰にも信じてもらえなかった………」


加賀「 ”あの優しい提督がそんな事するわけない” って………。 ”拾われた身で難癖つけるな” って」


吹雪「酷い…………!」


加賀「でも、皆が皆そうではありませんでした。皆さんはあの時、私が旗艦を務めていたあの作戦にいた艦娘を覚えていますか? 」


吹雪「確か、赤城さんに北上さん、妙高さんと暁ちゃんと敷波ちゃんでしたよね?」


加賀「ええ。私の言葉を聞いて、提督に不審感を抱いた人たちでした。それに気づいた提督は、私共々始末するつもりでした」


陽炎「じゃあ、何で私たちを貴女達の元に向かわせたの?」


扶桑「…………提督、聞こえてらっしゃいますか?」


提督《あぁ、全て聞いていた。まったく、やり方といい強欲なところといい進歩がないなあいつは》


加賀「私達の提督をご存知なのですか!?」


提督《え?》


扶桑「あっ! 申し訳ありません。スピーカー出力になってました………」


陽炎「 (絶対わざとだ………) 」


吹雪「 (加賀さんに聞かせるつもりだったんだ……) 」


提督《はぁ………、まぁいい。お前よりかは詳しく知っているつもりだ。大方お前を沈めるついでに、俺の艦隊も沈めてやろうとかいう魂胆だろうな》


吹雪「 (一体私達の提督は何者なの? 軍に所属しないなんて言いながら、妙に詳しすぎる。それに加え、憲兵隊の裏事情まで知っているなんて………) 」


提督「ま、あいつは俺たちの事を何もわかっていない。情報戦で負けている者が、戦場で勝てるはずがない」


加賀「………あの、折り入ってご相談があります」


提督《何だ?》


加賀「私を、貴方の艦隊に加えて下さい!」


提督《……………まぁ、良いんじゃないか》


吹雪「えっ!? ホントに?」


翔鶴「来る者も去る者も拒まない。それが私達の鎮守府ですから」


提督《だが、うちに来るからにはそれなりの条件がある。まぁ、たった一つだがな》


加賀「条件とは?」


提督《今お前がいる鎮守府の仲間に別れを告げてこい。それだけだ》


加賀「でも……………」


提督《ケジメはきっちりとつけてこい。それが済んだら、こっちでどうにでもなる》


加賀「…………はい」











……………












鳳翔「提督、あれから1週間が経ちましたが………」


提督「7日か………もうそろそろだろう」


扶桑「提督、お客様がいらっしゃいましたよ?」


提督「わかった。今行く」


鳳翔「では、私は準備に取り掛かります」


提督「うむ、頼んだぞ」


提督《全員に通達。食堂にて待機せよ。繰り返す、食堂にて待機せよ》





全員に内線で連絡し、提督と扶桑は待合室へ、鳳翔は食堂へと向かう。客人は、扶桑の方で既に待機させているとのことだ。


その客というのは、勿論加賀の事である。提督の言葉を守り、先日の作戦を共にした艦娘に別れを告げて、6日前に出立したそうだ。


提督「では早速、ここの案内をさせて貰おう」


加賀「はい、お願いいたします」







今日は予定を全てキャンセルしたとのことで、提督自らが泊地の司令部を案内している。加賀が使うことになる部屋から備えられている施設を一通り案内し、最後は食堂を残すのみとなった。







提督「ふむ、食事時だな。丁度いい、食堂へ案内すると同時に食事を済ませてしまおう」


加賀「わかりました」





・・・・・








提督「さ、ここだ。入ってくれ」


加賀「提督から、お先に」


提督「客人を後に入れるわけにもいかん。さぁ、入ってくれ」


加賀「……では」




食堂の扉を開けると同時に、クラッカーの音が鳴り響く。全員が加賀の着任を祝福するように、次々とクラッカーが鳴っていく。




提督「お前たち、限度を弁えろ!! うるさいぞ!!」


一同「ごめんなさーい!」


提督「はぁ………まぁいい。では、正規空母加賀よ」


加賀「はい」


提督「お前は、此処がどういう所か知っているのだな?」


加賀「はい」


提督「では、お前には今此処で決断して貰う。正規空母加賀、お前は我々とともに戦うという事は、ともに修羅の道を歩む事になる」


提督「お前には、その覚悟があるか? なければ、今すぐ此処から立ち去れ。もし戦う覚悟があるなら、我々は快く貴官を歓迎する」


加賀「……私には、未練はありません。私の心は既に砕かれたも同然です。ですから、貴方と共に戦わせてください」


提督「…………わかった。ではこれより、貴官の所属を認める。皆、異存はないな?」


一同「リンガ泊地へようこそ!!」


提督「さ、今日は予定も無い。歓迎会だ!!」


一同「いぇーい!!!!」








・・・・・・










2日後











提督「さてと、今日はどうするか」


鳳翔「加賀さんの実力を見てみるのは如何でしょうか?」


提督「あぁ、そうだな。だが、奴には当分の間任務には外れてもらう事にしよう」


扶桑「何か問題が?」


提督「いや、大した事ではないがな。奴をこっちに連れてくるのに何かと無茶をしてな。まぁ、向こうの赤城や妙高ら、加賀に親しかった者に手を貸して貰ったが、それでも難癖つけられたりしても面倒だ」


鳳翔「差し支え無ければ、どのような手を打ったのかお教え願いますか?」


提督「簡単な事だ。これがその書類だが、声に出して読むなよ」





ーー呉に所属している加賀を解体処分とする。これを呉の全艦娘に通達し、事態の隠蔽を図る事とするーー




鳳翔「…………なるほど」


扶桑「確かに、当分の間なら誤魔化せそうですね」


提督「そう、当分の間だ。なら、こちらも少しは手を打たねばならない。付け焼き刃で出した策では直ぐに見破られるからな」


扶桑「因みに、ご本人には既に?」


提督「無論、伝えてある。だが、詳しい話はしていない」


鳳翔「他の艦娘にはどのように?」


提督「それはまだだ。如何に伝えたものか………」


提督「…………加賀と同じ様に伝えるか」


鳳翔「それは、かなり危険ではありませんか? 勘繰って余計な詮索をされるかもしれません」


扶桑「例えばあの駆逐艦、ですね」


提督「吹雪か。確かに奴ならやり兼ねない。だか、こちらの手を洗いざらい吐くのもかなりのリスクがある」


扶桑「そうですね…………」


提督「用いれば疑わず。これは私の信念でもあるが、かといってそれを拭い切れないのも事実。どうしたものか………」


鳳翔「申し訳ありませんが、現状では私たちには何も……。何か動きを見せてからこちらも対策を練ってみては?」


提督「わかった。ではお前達に任せよう」


扶桑「ええ。お任せ下さい」






・・・・・・







提督「というわけで、加賀については当分の間その存在を秘匿する必要がある」


吹雪「あの、何故でしょうか?」


提督「 (ほら来た………) 」


吹雪「あの、司令官……」


提督「吹雪、貴様は ”ニードトゥノウの原則” と言うものを知らんのか?」


吹雪「い、いえ……」


提督「知っていながら聞くというのか?」


吹雪「……申し訳ありません」


提督「わかればよろしい。他の者も異論はないな? 直ちに通常業務に戻ってくれ。だが、吹雪は少し残って貰いたい」


吹雪「………はい」





川内「あれさ、かなりマズイよね」


衣笠「提督、かなり怒ってるし……」








吹雪「………司令官」


提督「なに、取って食おう何てつもりはない。お前の疑問に答えてやるだけだ」


吹雪「………」


提督「まぁ、考えても見ろ。仮にも奴は ”日本海軍呉鎮守府所属、第4艦隊旗艦の加賀” だ。そんな奴がこんな辺鄙な所にいると知れれば、どんな阿呆でも怪しむだろう?」


吹雪「しかし、私たちがやったのは悪ではありません。少なくとも、私はそう思います」


提督「悪ではない、か。確かにそうだな。俺も汚いやり方とは思わん。だが、誰がそれを判断する?」


吹雪「それは…………」


提督「お前か? 私か? それともここの連中か? 当事者か?」


提督「それとも、法か?」


吹雪「………」


提督「………いや、話が逸れたな。ともかく言いたいことはだ、奴の異動は少なからず隠匿する必要がある。それで良いか?」


吹雪「………はい。申し訳ありませんでした」


提督「お前には私を含め、皆が期待している。お前のように、純粋さを持った奴も中々に珍しい」


吹雪「あ、ありがとうございます」


提督「まぁ、そこがお前の長所だが、同時に短所にもなる。人を害する心を持つのはならぬが、少しは人を疑う心を持て。そうでないと、いつか自滅することになる」


吹雪「は、はい!」


提督「呼び止めて済まなかったな。部屋に戻ってくれて構わない」


吹雪「はい! 失礼します!」




・・・・・・




扶桑「お待たせいたしました」


鳳翔「どうでしたか?」


扶桑「こちらでは特に……」


鳳翔「そう……ですか」


提督「いやいや、済まなかったな」


扶桑「提督、お話というのは?」


提督「あぁ。吹雪のことだが、奴は昨今では見かけなくなった性格の持ち主だな。あれを取り繕っているとは思えん。仮にそうだとしたら恐ろしい位だな」


扶桑「一先ずは、こちらで把握できた事項を説明していきます」


鳳翔「やはり、元の所属は横須賀ですね。それも、かの人物の直轄でした。ですが、在籍していた期間は短く、約半年も経たないうちに除隊されています」


扶桑「あくまで私の見解ではありますが、2人の間に何かしらの蟠りが生じたものかと。提督はどのように?」


提督「そうだな。単刀直入に言えば、奴に興味が湧いた。今は疑うよりも、奴自身が今後どうなっていくのか………」


扶桑「提督」


提督「ま、冗談はその位にしてだ。使う価値くらいはあるだろうな。こちら側に引き込むにはかなり時間が掛かるだろうが………」


鳳翔「それでは………」


提督「今の所は疑うのを止そうか。また時期が来てからだ」


扶桑「わかりました」


鳳翔「では、我々は通常業務に従事いたします」


提督「うむ。感謝するぞ」






・・・・・・





吹雪「あの、翔鶴さん。私たちの司令官は、一体…………」


翔鶴「提督について、気になるのですか?」


吹雪「はい。だって、あんな優秀な人がこんな所で傭兵業なんて……」


翔鶴「そうですね………。実は、私も詳しい事は分からなくて………」


吹雪「そうですか………」


翔鶴「………ですが、私の知っていることでも良ければお話しますよ? でも、ここからは他言無用にお願いします」


吹雪「………はい、教えてください」


翔鶴「………吹雪さんは、提督の元に集まる艦娘がある共通点を持っているのを知っていますか?」


吹雪「いえ………、私も入ってきたばかりですし」


翔鶴「………ここにいる艦娘はね、全員が可哀想な子たちなの。私を含めて、ね」


翔鶴「元々はちゃんとした海軍に勤めていた艦娘よ。でも、何かしら不幸なことが起こることもあるでしょう? そう言った艦娘が集まってくる所なの」


吹雪「翔鶴さん……」


翔鶴「でも、ここに来てからは幸せよ。その幸せは、提督が与えてくれたものなの。だから、私は提督についていくの。貴女は如何かしらね」


吹雪「………翔鶴さん、重ね重ねですけれど、もし良ければ私が皆さんから疎まれている理由を教えて頂けますか?」


翔鶴「そうですね………。それは、貴女が横須賀所属だったからよ」


吹雪「っ!? 如何して? 私はそんな事一度も………」


翔鶴「私からはこれしか話せません。提督が貴女に心を開いてくれるまで待つしかありません。ですが、このリンガ泊地に於いて、提督に1番近い艦娘が居ます。その方に話を聞いてみては? でも彼女は他の艦娘と違い、提督に心酔しています。逆鱗に触れることがあれば………」


吹雪「………」


翔鶴「………私としては、提督かその艦娘の何方かが、貴女に心を開いてくれるまで待つことを勧めます」




コンコン、とドアを叩く音が部屋に響く。不味い……聞かれたかもしれない。2人は息を呑む。



翔鶴「はーい……」



翔鶴は、おそるおそるとドアへと向かう。だがその歩みからも、彼女がいかに動揺しているかを掴み取れる。




翔鶴「どちら様ですか?」


瑞鶴「翔鶴姉ぇ! 久し振り!!」


翔鶴「瑞鶴! いつ戻ってきたの?」


瑞鶴「今さっきよ。翔鶴姉ぇは? 身体とか壊してない?」


翔鶴「大丈夫よ。ありがとう瑞鶴。あぁそうそう、新しく入って来た子よ」


吹雪「初めまして、吹雪です」


瑞鶴「……ふーん、よろしく。そうだ、吹雪…だっけ? 執務室に来てくれって提督さんが言ってたよ」


吹雪「司令官が?」


瑞鶴「あんた此処に来たばっかじゃない? 多分私たち一通り顔合わせておこうってことじゃない?」


吹雪「…わかりました。ただいま向かいます」


瑞鶴「じゃあ行きましょ。じゃあ後でね、翔鶴姉ぇ!」


翔鶴「はい、いってらっしゃい」





翔鶴は部屋の入り口から、2人が執務室へ行くのを見送る。その光景は、娘を見送る母親にも見える。



少し歩いたところで、吹雪は瑞鶴に疑問を投げかける。




吹雪「あの、皆さんは何処に行かれていたのですか?」


瑞鶴「うーん、そうねぇ………。私たちは2ヶ月前に出発して、太平洋を横断してハワイの方まで行ってきたのよ。何でも深海棲艦の動きが活発になってるみたいでねぇ………。偵察みたいなもんよ」


吹雪「偵察……ですか?」


瑞鶴「そうそう。だから近々大規模作戦の依頼が来るかもねー」


吹雪「は、はぁ………」




などと話しているうちに、執務室前へと着いた2人。そこには数多くの艦娘がおり、ざっと20近くはいるだろう。


瑞鶴「あぁ、皆も帰ってきたんだ!」


提督「今しがた全艦隊が帰投したところだ。………そうだな」


提督《執務室より全艦娘に通達。直ちに食堂に集合せよ。繰り返す、直ちに食堂に集合せよ》


瑞鶴「別に皆呼ぶこともないのに」


提督「いいから、食堂に集まれ」


一同「りょうかーい」


食堂に集められた一同は、数ヶ月ぶりに会った仲間の無事を祝うかのように和気藹々とした空間となった。




提督「皆、静粛に!」




その一言で、皆が黙る。30近くの艦娘は一斉に提督の方へと視線を向け、提督の言葉を待つ。数は少ないが精鋭揃いと呼ばれるのは、ここにも現れているようだった。




提督「ありがとう。たった今、遠征に向かわせていた艦隊全てが帰投し、数ヶ月ぶりの姉妹との再会に喜びを感じているのは察するが、ひとまずは報告をして貰おうとここに集まってもらった次第だ。では始めに、第2艦隊旗艦の瑞鶴から」


瑞鶴「えーっと、第2艦隊は今回ハワイ島近海を偵察しました。事前に言われていた通り、確かに深海棲艦の活動が活発化していて、同時に新たな深海棲艦が次々に誕生していってます」


提督「成る程。第2艦隊、他に報告すべき所はあるか?」


瑞鶴「青葉が近海の様子を撮影してくれました。詳しいことは青葉にお願いします」


提督「わかった。青葉」


青葉「はいはーい! こちらが敵艦隊の大まかな編成を撮影した所で、こちらが新たに発見した深海棲艦です!」


提督「………なるほど、了承した。次に第3艦隊、報告を」


山城「第3艦隊旗艦、山城です。インド洋の方では、幾つかの島が深海棲艦に占拠されています。我々が見つけた所では、マダガスカル島、セーシェル島、セイロン島で確認されています」


山城「また、紅海に深海棲艦が集結していました。こちらが、敵の最重要拠点の一つかと思われます。私たちが確認できたのは以上です」


提督「わかった。第4艦隊は?」


神通「第4艦隊旗艦の神通です。大西洋には深海棲艦の姿はありませんでした。ですが、カリブ海では深海棲艦の予兆が感じられました」


提督「具体的には?」


神通「予兆と言っていいのか………。太平洋、インド洋に居た深海棲艦が流れ着いて、そのまま居座っているといった感じでしたので………」


提督「そういうことか……」


神通「はい。私たちからは以上です」


提督「なるほどな。ともかく、今回のことはクライアントに伝えることにしよう。さて、話は変わるが、お前達がここを離れている間に2名が着任となった。さぁ、ここに」




その2名とは吹雪と加賀のことである。提督の言葉を聞き、皆の前へと出る。



瑞鶴「げっ!?」


提督「特型駆逐艦1番艦の吹雪と、正規空母の加賀だ。吹雪の方は2ヶ月前に着任となったため、それ相応の練度は積んでいる。また加賀は呉の所属であったが、こちらに転属となった。しかし、当分の間、加賀は任務には出さない。その間に色々と教えてやってくれ。いいな!」


一同「はい!!」


提督「では、解散とする。各々、久々に休息を取ってくれ」





提督が執務室へと戻る最中、後ろから扶桑が追ってくる。他の連中と過ごしていればいいと提督は言うが、執務室に忘れ物をしたとのことらしい。







提督「また随分と、騒がしくなるな」


扶桑「お嫌ですか?」


提督「別に、そんな事はない」


扶桑「そうですか」


提督「………何か不満があるのか?」


扶桑「いえ、そう言うつもりでは………」


提督「嘘をつくな。お前がそういった言い回しをする時は大概なにかある時だ。言ってみろ」


扶桑「彼女……加賀の指導は?」


提督「奴の練度を見る限り、そこそこ使えるだろう。が、それは提案か?」


扶桑「私としては、お願いでございます」


提督「わかった。ならば鳳翔を筆頭に、お前達で叩き込めばいい」


扶桑「承りました。………それと、今後の依頼は、提督から見てどのようになるでしょうか?」


提督「どういう意味だ?」


扶桑「今回の偵察は、依頼主にそのまま報告すると伺いました。それを踏まえて、どの様に事が発展していくのか………」


提督「あぁ、そのことか。私の見立てでは、対して割りのいい依頼は来ない。来たとしても作戦海域周辺の警備やらそれ位だ。連中も、むざむざと手柄を取られたくはないだろう」


提督「瑞鶴はああ言ったものの、未だに連中の性格を掴めてはいないな」


扶桑「それと、風のうわさで聞いたのですが、リンガ泊地近海で深海棲艦の動きに変化があったとの事で、先ほど私の方で探ってみました」


提督「………私は許可した覚えはないが?」


扶桑「緊急を要する事態であった為に、事後報告となりました。結果は事実でした。ブルネイ近くに、深海棲艦が集結していました」


提督「………まあいい。その事は保留にする。くれぐれも、勝手な行動は謹め。いいな?」


扶桑「………はい」








一方、部屋に戻った吹雪と翔鶴だが、そわそわした空気が流れている。なにやら、先ほどの報告に少しばかり憂いがあるようだ。







吹雪「うぅ〜、大規模作戦かぁ………」


翔鶴「大丈夫よ。前みたいにはなりませんから」


吹雪「そうか、前は私達しか居なかったけど、今は瑞鶴さんもいるし」


翔鶴「えぇ。前よりかは楽になるわ」


吹雪「偵察任務って、ここではよくあるんですか?」


翔鶴「そうねぇ……私がここに来てから3年。大体は1年に一回ですけど、多い時は半年に一回もありましたね」


翔鶴「因みに、海軍からは艦隊の援護や敵地の偵察。陸軍からは以前のような依頼が回ってきますね。陸軍の言い方では ”海軍の粛清” ですね。そういった任務が回ってくることもあります」


吹雪「へぇ………。でもあの時は、人助けになった様な気もしますけど………」


翔鶴「そうですねぇ。普段なら、海軍のお偉いさんには海に沈んでもらって……といった感じでしたけど、今回の件はごく稀なものですよ」


吹雪「…………翔鶴さんは、ここは長いんですか?」


翔鶴「ここに来てから3年ですね。長いような、短いような……。実は、ここは規律に関してはそんなに厳しくはないけれど、ただ一つ暗黙の了解があって………」


吹雪「……それって、何ですか?」


翔鶴「『提督の命令は絶対』っていうものなの。提督の出した決断には、誰も逆らってはいけない。もしそんな事があれば………わかるでしょう?」


吹雪「じゃあ……さっきのあれは……」


翔鶴「危なかったわ。とっても。近海に沈められても文句は言えないほどに」


吹雪「もしかして、わたし………」


翔鶴「大丈夫だと思いますよ。そうでなければ、貴女は今ここに居ませんから」


吹雪「…………さらっと怖い事言わないでくださいよ〜」


翔鶴「あらやだ、ごめんなさい。こんな事やってると感覚が麻痺しちゃって」


吹雪 (不安だなぁ…………)





コンコンとノックの音が聞こえると同時に、翔鶴姉ぇいるー? という声が扉の向こうから聞こえてくる。声の主はもちろん瑞鶴だ。




瑞鶴「そろそろお昼でしょ? 一緒に行こ?」


翔鶴「あら、もうそんな時間なの? そうね、行きましょう。吹雪さんもどうですか?」


瑞鶴「……」(ギロッ)


吹雪「あ、あはは………私は後で行きますから、お二人でどうぞ……」


瑞鶴「だって。行こ? 翔鶴姉ぇ!」


翔鶴「え、えぇ。では、お先に失礼しますね」




そう言って2人は部屋を後にする。今まで見たこともない恐ろしい目だったと後に吹雪は語る。






吹雪「…………うん、私も行こう」





部屋を後にして廊下を歩いていると、後ろから声をかけられる。





足柄「あら、貴女が吹雪ね?」


吹雪「は、はい! あの……」


足柄「あぁ、ごめんなさいね。妙高型重巡洋艦3番艦の足柄よ。よろしくね?」


吹雪「はい! よろしくお願いします!」


足柄「ねぇ? もし昼食たべてなかったら一緒にどうかしら? 外にとっても美味しいイタリアンが食べられる所があるんだけど」


吹雪「じゃあ、お願いします」


足柄「良かった。行きましょ?」




足柄に連れられて、吹雪は建物の外に出る。足柄によれば、その店は偶然見つけたとのことで、かなりいい店だと語っていた。



足柄「ここよ」


吹雪「結構近くにあるんですね?」


足柄「見た目はあれだけど、味は私が保証するわ。さ、入って入って」



店の中は稼ぎ時としては人が少なく、これといって派手すぎず地味すぎず、普通の店である。2人は席に座り、それぞれ注文を取っていく。暫くすると料理が運ばれ、食事を摂る。


料理の味はそこそこいけるもので、値段も断然安い。客が少ないのは明らかに店の外観で損をしているとしか思えないが………。



足柄「最近の貴女、随分と評判いいわよ。何でもあの提督に真正面に向き合ったとか」


吹雪「いえ、気になったから聞いてみただけですよ。………それって評判というより悪名じゃないですか?」


足柄「そんなことないわよ。ほら、うちの提督はまぁ、イケてる方だけど………」


吹雪「確かに怖い方ですよね………」


足柄「あまりガミガミ言ってこないでしょう? それが逆に怖いのよねぇ………」


吹雪「そうですね……。初めて司令官にお会いした時も、かなりきつく睨まれましたし……」


足柄「そんな提督に対して詰め寄ってくなんて、そうそう出来ないわよ。ある意味無謀ともとれるけどね」


吹雪「あぁ…………」


足柄「ところで貴女、ルームメイトは決まってるの?」


吹雪「え、えぇ。今は翔鶴さんと同室ですけれど……」


足柄「ふーん………翔鶴か………。瑞鶴には会ったわよね?」


吹雪「はい。遠征に行かれていた方の中で初めてお会いしました」


足柄「そう…………」


吹雪「あの……何か?」


足柄「いや、大したことじゃないけれど、何で翔鶴を選んだの?」


吹雪「…………足柄さん。貴女どうして『私が選んだ』って知ってるんですか?」


足柄「どうしてって言われても」


吹雪「司令官が基本的に決めると私は聞きました」


足柄「…………あぁ、そういうことか」


吹雪「何がですか?」


足柄「貴女、気をつけた方がいいわよ。下手すると、自分が沈むことになるわ」


吹雪「はい?」


足柄「…………いいえ、何でもないわ。そろそろ出ましょうか。今日は私の奢りよ」


吹雪「あ、ありがとうございます!」







店を出て、リンガ泊地の敷地内へと戻ってきた2人。足柄の部屋は吹雪たちの部屋からは6つ離れているため、部屋の前で別れることになった。



吹雪「足柄さん、今日はありがとうございました」


足柄「こちらこそ、付き合わせてごめんなさいね。一緒に出撃できる機会があったら、その時はよろしくね?」


吹雪「はい! それではまた!」



部屋に戻る吹雪の背中を目で追いながら、足柄は1人思考を巡らせる。



足柄「妹の瑞鶴しか近寄らせなかった翔鶴がねぇ………。随分と変わったものね」







足柄「………それとも.提督からの命令、かしら? 新人を装って裏をかく。無知を装って腹の探り合いなんて、それってうちの提督の常套手段よねぇ?」











足柄「 ”リンガ泊地最初の5隻” の翔鶴さん?」















・・・翌日・・・






吹雪「お呼びでしょうか? 司令官」


提督「あぁ、そこに座ってくれ。茶を淹れる」


吹雪「わ、私が淹れます!」


提督「構わんよ。座っていてくれ」


吹雪「はい……、わかりました」





執務室の奥から、提督がなにやら色々な物を盆に載せて持って来た。




吹雪「何ですか? これ……」


提督「言っただろう? 茶を淹れる、と」


吹雪「は、はぁ………」




提督が持って来たのは、茶器を始め、湯を沸かす釜など、見たこともないものがある。




提督「本当は地面に腰を下ろして行うものなのだが、そこまで拘る必要もないしな」




そう言って、提督は30センチほどの何かを手に持つ。




吹雪「何ですか、これ?」


提督「これか? 茶葉を乾燥させたものだ。これを今から挽くんだ」


吹雪「挽くんですか?」


提督「あぁ。これは中国の唐と呼ばれる時代に陸羽と言う者が著した『茶経』に則ったものだ。当時の茶の全てを網羅した書とも呼ばれている」


提督「まぁ、私がやるのはそれの真似事だがな」


吹雪「へぇ………」


提督「まずは湯を沸かす。それから葉を挽いて………といったところだな」


提督「で、だ。お前をここに招いたのは理由があってな」


吹雪「理由……ですか?」


提督「まぁ、今までまともにもてなしをしなかったからな。こうして茶を淹れて、腹を割って話す時間を設けようと思ってな」


吹雪「…………」


提督「ま、互いに腹の中を明かしてその後は茶を飲もうといったところだ」


吹雪「それは……以前保留にされた事も、お話頂けるんですか?」


提督「以前………あぁ、あの話か。少しくらいならな。まぁ、ゆっくりしていってくれ」


吹雪「はい……」






そして、暫くの間沈黙が続く。聞こえるのは茶葉を挽き、湯を沸かす音だけだ。そしてその沈黙を破るように、提督が口を開く。





提督「茶を淹れるとき、この時に、大切なことがあってな」


吹雪「大切なことですか?」


提督「あぁ、湯加減なんだ」


吹雪「湯加減?」


提督「茶経に書かれているんだが、沸騰の度合いを示す言葉があってな。軽度のものを一沸目といって、二、三の順に高くなる。今が丁度一沸目だな」


吹雪「これがですか?」


提督「『魚の目のような大きさの泡が生じ、微かに音がする』と書かれている。まんまだろう?」


吹雪「確かに、そうですね」


提督「まだまだ時間がかかる。聞きたいことがあるなら今のうちに聞いておけ」


吹雪「……では、私が何故他の方から疎まれているのか、お分かりですか?」


提督「お前の居た元の鎮守府。横須賀鎮守府と内はかなり険悪でな。そんな中に向こうから来た奴がいるなんてどんな間抜けでも怪しむだろう?」


吹雪「それは、以前の質問の答えに繋がるのですか?」


提督「まぁ、少しはな。おっと二沸目だ。『釜の縁辺が湧く泉のようになり、連珠のような泡が生じる』だ。このときに湯を一部すくい取っておくんだ」


吹雪「それについては、答えていただけないのですか?」


提督「いま答えただろう? 鎮守府との折り合いが悪い。だから傭兵の真似事をやっている。それでは足りないか?」


吹雪「……はい」


提督「……フッ。見かけによらず強欲なことだな。ならこうしよう。お前は、私に質問する権利をあと二つ与える。だが同じ質問は答えない。そして、私に質問をすれば、私からお前への質問にも答えてもらう。ギブアンドテイクって奴だ」


吹雪「……わかりました」


提督「よし。では聞こう」


吹雪「では、貴方は何故、海軍や陸軍について事細かくご存知なのですか? 海軍に在籍していた私にも知らなかったことを、何故あなたが?」


提督「簡単なことだ。ずっと昔は在籍していた。それだけだ。傭兵まがいのことをやっていると、そう言った裏事情など自然に入ってくるものだ」


提督「では、私からお前に質問する。お前は何故ここに来た? 奴の差し金か?」


吹雪「……逃げてきたんです。あそこには、私の帰る場所がないから」


提督「ほう………、訳ありか。まぁいい。二つ目を聞こう」


吹雪「……私の前の司令官を、ご存知なのですか?」


提督「あぁ。こちらとしても奴には少しばかり借りがあってな。5年くらいの付き合いはある。まぁ、様子を聞く限り、今でも変わらない連中みたいだがな。……っと、吹雪。見てみろ」


吹雪「三沸目、ですか?」


提督「『騰波鼓浪、すなわち、沸騰してわきかえる』だ。これ以上は湯が老いてしまうので飲むに値しないと言われている」


提督「このときに先ほどのすくっておいた湯を戻す。沸騰を抑えて、湯の華を育てる。これが茶の煮方と呼ばれている」


吹雪「おぉ………」


提督「さて、もうすぐで終わる。あと少し待ってくれ」







提督は沸かした湯の中に先ほど挽いた茶葉を入れ、湯に溶かす。すると、部屋にお茶の良い香りが広がっていくのがわかる。吹雪と自分の茶器に注ぎ、吹雪の前へと差し出す。





提督「さ、飲んでくれ。熱いから気をつけるようにな」


吹雪「は、はい。いただきます」


提督「どうだ? 」


吹雪「………ん、美味しい………。美味しいです!!」


提督「そうかそうか。それは何よりだ」


吹雪「喉が渇いていたから更に美味しく感じます!」


提督「そうだろう? 2杯目もあるから遠慮せずに言ってくれ。これで心置きなく話せるだろう?」


吹雪「はい!」


提督「それで、だ。お前に話しておきたいんだが、何故私がこんな所で傭兵の真似事をしているのか。それは、今はまだ話せない。だが、いつか必ず話す時が来る。それまで待って貰えないだろうか?」


吹雪「……はい! 司令官がお話ししてくれるまで、私は待ち続けます!」


提督「………済まない」


吹雪「では司令官、私からもお願いがあります」


提督「なんだ?」


吹雪「これからも私、吹雪をよろしくお願いします!」


提督「………フッ、わかった。約束しよう。さて、湿っぽい話は無しだ。ゆっくりとくつろいで行ってくれ」


吹雪「はい!」







穏やかな時間とは過ぎるのが無情なほどに早すぎる。ここに来てから約4時間は経っただろう。あまり長居しても申し訳ないと、吹雪は執務室を後にする。今日のこのひと時は、少し提督について理解が深められた、良い思い出として彼女の中に残ることだろう。




彼女の中では、ね。













提督「あいつ、以前にも増して警戒しているな………」


扶桑「と言いますと?」


提督「奴を茶に誘ってみただけだ。言動の節々に、こちらを警戒しているのが見て取れる」


扶桑「随分と、思い切ったことをされますね。ご自身の身も危うい立場だというのに」


提督「”虎穴に入らずんば虎子を得ず” ってな」


扶桑「全く、博打打ちも度が過ぎますよ?」


提督「私は博打は好まないが、生きるとはそんなものだ。生き延びるには選択を迫られる。選び取った未来も誰にもわからん。吉と出るか凶と出るか、蓋を開けてみないことにはな。ましてや今の私の身は窮地に立たされたも同然だ。自分の命を賭けにしなければ生きては行けん」


扶桑「十分、博打好きですよ。貴方は」


提督「私が博打打ちかどうかは関係ない。ともかく、奴がここまでなるには明らかに異常だ」


扶桑「何故ですか?」


提督「おそらく、奴が我々に関する ”何か” を見つけたか、あるいは………」


提督「誰かが余計な振る舞いをしたか、だ」


扶桑「誰かが裏切ったと?」


提督「黙って去るのは構わんが、引っ掻き回されるのは遠慮してもらいたいものだな」


扶桑「では……」


提督「待て。もう少し踊らせてみよう。面白いものが見られるぞ」


扶桑「…………わかりました」











………………






あの日遠征から帰投した瑞鶴が、ルームメイトの翔鶴に付きっ切りになっていて、毎日のように部屋へとやってくる。


初めのうちは吹雪も部屋 (隅の方) で過ごしていたのだが、現在は部屋の空間に耐えきれずに日中は外出していようと、廊下をぶらぶらとしているのだった。


さながら、土日に家を追い出されるサラリーマンのようだと吹雪は自虐に走るが、聞いてくれる人が居ないというのは虚しくなってくる。


そんな吹雪を見兼ねてかどうかはいざ知らず、すれ違う艦娘が声をかけてくる。



鈴谷「おっ、確か新しく来た、えーっと……吹雪! ………だよね?」


吹雪「はい、そうですけど………私ってそんな影薄いですかね……?」


鈴谷「ごめんごめん。ココは色んな艦娘が入れ替わりで入ったり出たりするからさ、これがなっかなか覚えらんないんだよねー」


鈴谷「あぁ、まだ名前言ってなかったよね。最上型重巡洋艦の3番艦、鈴谷だよ! よろしくね!」


吹雪「はい、よろしくお願いします!」


鈴谷「うん! よろしく。でさぁ、1人で何してたの?」


吹雪「私と相部屋の翔鶴さんの元に瑞鶴さんが毎日のように来るので………日中はなるべく部屋の外に居ようと」


鈴谷「仲良いからねー、あの2人」


吹雪「今の私って、休日に家を追われた父親みたいだなあって………」


鈴谷「あっはっはっは! そりゃあ言い過ぎだよ! まぁ、ともかく暇なんでしょ?」


吹雪「出撃命令が出なければ、ですけど」


鈴谷「んじゃ平気だよ。せっかくだしさ、街に行ってみない? 」


吹雪「まぁ、特に用事もないですし」


鈴谷「じゃあ決定ー! 門で待ってるからね〜」






結局、その場のノリで街に行くことになった吹雪と鈴谷。建物を出て10分ほど歩いたところに、大きな通りがあった。以前足柄と来た時とは違う場所のようだ。




吹雪「こんな場所があったんだ……」


鈴谷「あれ? もしかして泊地から出た事ない?」


吹雪「いえ、以前足柄さんと食事に行ったことがありましたけど、ここに来たのは初めてです!」


鈴谷「えっ!? じゃあ地元の店に行ったんだ?」


吹雪「地元の店っていうのは?」


鈴谷「ここってリンガ諸島の内の1つの島で、リンガ島って言うんだけど、前は賑わってなかったんだって。けど、泊地の司令部として使われてからはゆっくりだけど人も増えるようになったみたいで」


吹雪「へぇ……」


鈴谷「そんで、色んなものが出来てきたってわけ。いま鈴谷たちがいるのは日本人街ね。殆どが日本語表記でしょ?」


吹雪「じゃあ私と足柄さんが行ったのは、ここリンガ島に元々あったお店だった、ってことですか?」


鈴谷「多分ねー。どう? 色々と懐かしいんじゃない?」


吹雪「あーっ!! これ!」


鈴谷「何!? どしたの?」


吹雪「横須賀でよく売ってたんですよ!! ヘぇ〜、ここでも売ってるんだぁ」


鈴谷「え? 吹雪ちゃんって別の所から移って来たの!?」


吹雪「はい! 横須賀からここに移って来たんです」


鈴谷「横須賀? 鈴谷も横須賀から来たんだー」


吹雪「じゃあ入れ違いかもですね?」


鈴谷「そうかもね。リンガ泊地って横須賀から移った艦娘が少ないから中々ね……。提督もなんか怖いし」


吹雪「………前にも似たような言葉を聞いたような?」


鈴谷「やっぱり? 多分殆どが同じこと言うんじゃないかな? そう思うとさ、あの人たち凄いよねえ……」


吹雪「あの人たち?」


鈴谷「そうそう。第1艦隊の艦娘達のことね。結構提督と仲が良かったりするみたい」


吹雪「ヘー」


鈴谷「まあ、聞いた話だと、第1艦隊の艦娘は提督と一緒に泊地の運用を決められる権利があるとか無いとか? 提督に1番近い艦隊だし、それくらいは出来そうだよねー」


吹雪「提督に、1番近い艦隊………」






ーー翔鶴《提督に1番近い艦娘から信頼が得られれば、きっと提督も貴女を認めてくれるはずよ》ーー







吹雪「鈴谷さん、第1艦隊に所属されている方をご存知ですか?」


鈴谷「うーん…………、鈴谷にもちょち分かんないなあ………。何かあったの?」


吹雪「…………」


鈴谷「まぁいいや。鈴谷は第3艦隊で動いていたからね〜。あっ!」


吹雪「えっ!? どうしたんですか?」


鈴谷「そうそう、第1艦隊にいっつも入っている艦娘がいたわ!」


吹雪「それって、誰ですか?」


鈴谷「えーっと、まず扶桑が9割を占めていて、鳳翔さんと翔鶴が8割、衣笠と川内も居たかな?」


吹雪「じゃあ、私って第1艦隊の殆どと一緒に居たんですね」


鈴谷「そうなの? じゃあ結構提督に気に入られてるんじゃない?」


吹雪「そう……ですかね?」


鈴谷「………よし! じゃあ何か買って帰ろようよ。せっかくだし、翔鶴にもお土産とか買って行ったら?」


吹雪「そうですね。何がいいかなぁ?」


鈴谷「まぁここには色々あるし、吹雪ちゃんが決めなよ。ね?」


吹雪「どれにしようかなー、迷っちゃいますね!」





30分経った後、多分瑞鶴も部屋に居るだろうと考えて、少し多めに買った吹雪であった。


2人は泊地の司令部へと到着し、吹雪は自身の部屋に戻っていった。



吹雪「ただいまー」


翔鶴「あら、お帰りなさい」


瑞鶴「何その紙袋?」


吹雪「街に行って来たんです。美味しそうな羊羹が売ってたので買って来ちゃいました! 瑞鶴さんもどうですか?」


瑞鶴「えっ? いいの?」


吹雪「はい! もちろんです!」


翔鶴「それじゃあお茶を淹れなくちゃ。3人分ね?」


瑞鶴「………ありがと」





ちょっとよそよそしかった瑞鶴と、ちょっと仲が深まったような、そんな1日だったそうだ。





鈴谷「ちぃーす! 提督!」


提督「………お前か。何用だ?」


鈴谷「何用だ……って、提督が鈴谷に頼んできたんでしょ?」


提督「結果は? ………聞くまでもないな」


鈴谷「まあね。これで満足でしょ? 相っ変わらず何考えてるか知らないけど………」


提督「前哨戦だよ。これから始まる戦争の、な」


鈴谷「横須賀の世間知らずな駆逐艦が、ホントの世間はこんなにも惨いなんて知ったら……」


提督「彼奴はどちらに転ぶかな? 犠牲を取るか、善悪を取るか……」









・・・数ヶ月後・・・








ある事件をきっかけに、リンガ泊地へと異動することになった正規空母加賀。元々彼女は出撃を許されず、鳳翔が教官として指導する演習しか許されていなかった。


しかも提督の許しを得なければ他の艦娘との接触も禁じられていたが、今日は吹雪も共に参加を認められ、現在は演習が終了したようだ。




鳳翔「さて、今日はこれで終わりにしましょう。吹雪さんも、お疲れ様」


加賀「お疲れ様でした。鳳翔さんの元でまた教えを請えるとは、夢にも思っていませんでした」


吹雪「2人は、以前もお会いしたことがあるんですか?」


加賀「鳳翔さんは、私たち空母にとっては師に当たるお方ですから」


吹雪「へぇー」


鳳翔「改まって言われると、少し恥ずかしいですよ………」


吹雪「あはは………」


加賀「それにしても、この艦隊は高性能な艦載機が揃っているわね」


吹雪「そうなんですか?」


加賀「震電改や、江草隊が率いる彗星なんて、呉に居た時にはみたこともないわ」


鳳翔「それを手に入れられるほどの実力を、提督は持っていらっしゃるということですよ」


吹雪「本当に、何でこんなとこで傭兵業なんてやってるんでしょうか?」


加賀「………あら? 一機足りないような………」


鳳翔「まだ帰投してないだけでは?」


加賀「少し、ここで待ってみます。お二人はお先にどうぞ」


吹雪「それじゃあ、先に戻らせてもらいますね。お疲れ様でした」


加賀「お疲れ様でした」





演習中に発艦させた艦載機が一機少ない。もしかして、命令が行き渡らずにどこか遠くへ行ってしまったのではないか? と加賀は怯える。珍しい艦載機であるために、その思いはさらに増したものだ。





加賀「……………戻ってきた」


妖精《ごめんなさい〜。近くで救助要請が出ていてそっちに向かってたんです〜》


加賀「そう………。まずは着艦を。話はその後聞きます」




妖精の話によると、泊地から3海里ほど先で救難信号が出ていたとのこと。そこで、加賀と連絡を取ろうとしたが、通信状況が不安定であったために、加賀を呼びに行こうと戻ろうとしたそうだ。




加賀「戻ろうとして………それでどうなったの?」


妖精「こんなもの貰いました〜。よく分からないのでって話したら、『あなたの主人に渡せばわかる』って言われたです〜」


加賀「これって………ビデオレター?」




加賀が受け取ったものは、ビデオテープと映像を再生できる機材が同封されていた。その救難信号を発した人物は、これを海に流そうとしたのだろう。





加賀は陸に上がり、その映像を確認しようとした。本来なら真っ先に提督に見せるべきだろうが、この時加賀はどういうわけか、このテープに録音されている映像に嫌な予感を覚えていたのだ。嫌な予感を憶えているにも関わらず、これを見なくてはならないという使命感を感じている様な気がして仕方がない。加賀は、恐る恐ると確認する。





???《あーっあーっ。えーっと、聞こえてるかなぁ?》


加賀「…………まさか!!」




そう、かつてリンガ泊地の艦隊によって憲兵隊へと突き出された男。呉鎮守府の提督だった。





呉提督《よう、久しぶりだなぁ加賀。恩人を売り飛ばして悠々と自分だけシャブで暮らしてんのはどんな気分だ? 》


加賀「…………どうして」


呉提督《まあそこのクソ野郎がどうやってウチの情報仕入れたか知らねぇけどな、こっちだって根回しの一つや二つやっとくに決まってんだろ?》


呉提督《いっつもお前に教えておいたよなぁ? 常に二手三手先を見据えておけって。そのおかげで3年のブタ箱入りが経った数ヶ月だ》


呉提督《そこでよぉ、近々テメェんトコにお礼参りに行くからさぁ、首洗って待っとけよ? ついでにそこのクソ野郎も一緒に沈めてやるからな。精々楽しみに待っとけや》


呉提督《ま、どうしてもそこのクソ野郎だけは助けてやってくれってんなら、テメェがそこについて知ってること洗いざらい吐いてくれりゃあそいつをぶっ殺すのは後回しにしてやるよ》


呉提督《テメェに与えるられた条件は2つ。一つはそこでクソ野郎共と野垂れ死ぬか、テメェの命を差し出してクソ野郎の寿命を延ばすか、だ》


呉提督《期限は2日後、テメェの元職場の呉鎮守府だ。制限は13:00だが、1秒でも遅れたら速攻でぶっ潰してやるから覚悟しとけよ?》


呉提督《俺からのプレゼント、気に入って貰えると嬉しいかなぁ? ギャハハハハハ!!!!! じゃあ頑張ってねぇ!!》




加賀「…………私は、どうすれば………」


提督「へぇ、思ったより早く動き出しやがったな。まぁ、それとて予測の内だが」


加賀「提督!?」


提督「加賀、私からはお前に与える条件は3つだ。一つ、お前がここを去る。二つ、此処で私たちと海に沈む。三つ、私たちと共にあの馬鹿を海に沈める。さぁ、どうする?」


加賀「…………あの方に、勝てる算段がお有りなのですか?」


提督「あの馬鹿とも5年来の付き合いだ。そろそろ奴にはご退場願おうか」


加賀「私は、どうすれば…………」


提督「どれを選ぶのもお前の自由だ。だが、自由を得ればそれなりの代償も得る。選択の先に何が起こるかを考えるんだ。それがどんな形であれ、お前は受け止めなくてはならない」



自由を得るには代償を払う………。ここで何もしなければ私は海の底。呉に戻っても先に地獄が待っているだけで、沈むことには変わらない。なら私は約束通り、この人と修羅の道を歩むしかない。




加賀「………提督。私から、貴方達に依頼させて下さい。私に、彼を止める為の力を貸してください」


提督「…………上出来だ。なら、報酬は前金と成功時の2種類を払ってもらう」


加賀「何を………?」


提督「前金は、『生き延びること』。成功報酬は『お前の力を貸して貰うこと』だ」


加賀「…………フフッ。今までいろんな提督を見てきましたが、貴方の様な方は初めて見ました」


加賀「…………最初にあった提督が貴方なら、どれだけ良かったことか………」


提督「………早速招集をかける。貴艦には、本作戦で参謀として勤めて貰う。連合艦隊として出撃させる中で、第2艦隊の旗艦を任せたい。貴艦は誰よりも、呉鎮守府に精通している。これに勝る適任はいないという判断に基づいてのものだ」


加賀「…………わかりました。謹んでお受けします」


提督「よろしい。では招集をかけた時に追って詳細を伝える」





・・・・・・






数刻後、予定通りに作戦会議が開かれた。皆が皆、それぞれの意気込みを感じられる。




提督「今回の任務は、今までとは少し勝手が違う。以前憲兵隊へと突き出した呉の提督を覚えているな? あいつがいま、釈放されている」


鳳翔「少なくとも、3年は拘置所に入れられるものかと思っていましたが……」


提督「奴のことだ。大方裏で金が動いたのだろう」


扶桑「全く、相も変わらないお方ですね」


提督「そうだな。それと、今回の依頼主は他でもない、加賀だ。彼女の元に、奴からのメッセージが届いた」


加賀「そのメッセージが、こちらです。…………あれ?」


鳳翔「どうかしましたか?」


加賀「映像が、消されてます………。そんな………」


提督「ハッ、全く面白い奴だ。証拠を残さない様に1度だけ再生可能の映像を寄越したか。まぁ、奴は情報戦は下手な男だ。加賀の状況を把握せずにこんな真似をするとはな」



すると、提督は軍服の内ポケットからボイスレコーダーを取り出した。


加賀「………貴方、分かっていて私にあの映像を流させようとしましたね?」


提督「うん? そんなことはない。奴もそこまで馬鹿ではなかったな」


加賀「…………」




加賀が気に入らない形相で提督を睨むが、当の本人は気にしていない様子で、レコーダーを再生する。




呉提督《そこでよぉ、近々テメェんトコにお礼参りに行くからさぁ、首洗って待っとけや。ついでにそこのクソ野郎も一緒に沈めてやるからな。覚悟しとけよ?》




提督「奴は我々に向けて、宣戦布告してきた。明らかに敵意を持っていると言っていい。ここまでされて黙っているほど私は聖人君子ではない。沈められるのは私ではない。奴だ」


提督「今回はいつもとは違う。ただの同士討ちだ。また、作戦は連合艦隊で行う。第1艦隊は主力だ。第2艦隊は先行して偵察及び遊撃を行う。第2艦隊には加賀を旗艦として作戦にあたってもらう。希望するものは名乗り出ろ」


扶桑「私に、お任せください。必ずや成功させます」


山城「姉様が行かれるなら、私も行きます!」


鳳翔「偵察なら私にお任せください」


翔鶴「私も、参ります」


瑞鶴「翔鶴姉ぇも行くなら私だって行くわ!」


吹雪「司令官! 私を、加賀さんの随伴艦にして下さい!!」


翔鶴「吹雪さん!? 貴方、いいの?」


吹雪「…………はい。ここで黙っていたら、私たちは海の底に沈むだけです。だったらこれは殲滅戦じゃなくて、防衛戦ですよ」


川内「あっはは! だったら私も手伝ってあげなくちゃね。まだまだ心配だし?」


陽炎「わかったわよ。私も行けばいいんでしょ?」


夕立「提督さん、第1艦隊に夕立を入れて欲しいっぽい! こっちのが楽しそうっぽい!」


青葉「提督、青葉を入れてくれたら、呉での出来事洗いざらい調べられますよ!」


衣笠「それじゃあ第1艦隊には、衣笠さんにお任せ!」



提督「よし! 第1艦隊は扶桑を旗艦として、山城、翔鶴、瑞鶴、夕立、衣笠だ。第2艦隊は加賀を旗艦として、鳳翔、川内、陽炎、青葉、吹雪とする!」


一同「了解!!」


提督「今回の作戦、私は少し用事が出来てな。指揮は全て旗艦に任せることとする。扶桑を艦隊総旗艦。加賀を艦隊総参謀とする。呉近海について、加賀より詳しい者はいない。扶桑は加賀の提案を踏まえた上での作戦遂行を頼むことになる」


扶桑「承りました」


提督「よし、では各自戦いに備えろ。作戦開始は明日06:00だ」


一同「了解しました!!」







・・・・・・







自分の部屋へと戻った吹雪。どうやら、今回の作戦に少し疑問を感じている様だ。



吹雪「06:00に作戦開始………そこから…………」


鈴谷「なに、どしたの? 」




ここリンガ泊地では、月一でルームメイトを変える制度を取っている。今月のパートナーは鈴谷の様だ。




吹雪「いえ、06:00に出撃したら最低でも10時間は掛かるわけですから、16:00からですよね? 第2艦隊の到着がそうなったら空母の方々は艦載機の発艦に制限がかかって、偵察にはならないのでは??」


鈴谷「あー、そいえばそだね。じゃあ夜戦で一気に攻め落とすつもりかな?」


吹雪「じゃあ、何で司令官は空母の方々を編入させたんでしょう?」


鈴谷「でも、何の意味もなしに提督が作戦を立てることなんてないから、きっと何かあるはずだよ。私たちに見えないだけで」


吹雪「鈴谷さんにも見当がつきませんか?」


鈴谷「んー………吹雪ちゃんさぁ………」


吹雪「何ですか?」


鈴谷「提督が嫌いな人って知ってる?」


吹雪「な、何ですか? 藪から棒に………」


鈴谷「知ってる?」


吹雪「………私みたいに何でも知りたがる人ですか?」


鈴谷「ううん。全然違う」


吹雪「………からかってるんですか?」


鈴谷「そんな怒った顔しないでよ。まぁ、うちの提督だけじゃないと思うけどね………」


鈴谷「正解はね『意中を洗いざらい話しちゃう人』なんだよ」


吹雪「意中を洗いざらい話す人………ですか?」


鈴谷「そ、馬鹿な人よりは頭の冴えた人がいいけれど、頭の冴えた人も上司の意中を的確に捉えてベラベラと喋っちゃう人ってのは、めんどくさい人だからね〜」


鈴谷「だって、せっかく提督が考えた作戦とかをベラベラと喋ったら提督の威厳がなくなっちゃうでしょ?」


吹雪「そういうことですか……。つまり、余計な詮索をするなってことですよね?」


鈴谷「そうそう。もし分かっていても答えられない………いや、答えないよ」


吹雪「本当によくわかりませんよ、このリンガ泊地は」


鈴谷「あっはは! 慣れだよ慣れ。吹雪ちゃんもそのうち慣れるよ」


吹雪「はぁ…………」






・・・・・・








作戦決行1時間前となった05:00。皆が皆、緊張の色を隠せていない様子だった。



扶桑「では、第2艦隊には定刻通りにここを出立していただきます。私達第1艦隊は、その2時間後の08:00にここを離れます」


加賀「では、鳴門海峡の付近で偵察を行い、第1艦隊の到着を待つということでよろしいかしら?」


扶桑「そうね。呉の近海に詳しい貴女が、適切と思える場所で構わないわ」


提督「あそこは渦潮が多いと聞く。航行には不向きだと思うが?」


加賀「ええ。けれど、それを逆手にとっていけば…………」


提督「確かに手としては悪くない。しかし……………」


扶桑「既に守りを固められているかもしれないとお考えですか?」


提督「奴ならやりかねない、と言ったところだな。とにかく、指揮権は総旗艦に委任してある。後はお前たちに臨機応変に対応して貰うだけだ」


扶桑「………はい」


加賀「お任せください」





06:00。予定通りに第2艦隊は先行してリンガ泊地を出発。第1艦隊はその2時間後の08:00に出発した。太平洋を縦断する形となり、航行には問題ないとされていた。


第2艦隊出発から4時間経った頃、目的地の方角の空が曇りだしたのだ。加えて、ここ一帯に時折突風が吹き始めていた。


加賀「雲行きが怪しいわね。何もなければ良いのだけれど…………」


吹雪「皆さん!! 止まってください!!」


川内「何? どうしたの!?」


吹雪「気をつけてください! 台風です!!」


加賀「台風? 」


吹雪「このまま進めば暴風圏に入ります!」


妖精《加賀さん〜! 前方数マイルに台風です! 着艦させて下さい〜!》


妖精《鳳翔さん〜! こっちも着艦許可をお願いします〜!》


加賀「っ! 第1艦隊! 聞こえますか!!」


扶桑《何かありましたか?》


加賀「第2艦隊、現在台風の直撃を受けています! そちらもお気をつけて!」


扶桑《わかりました。高波には気をつけてください》


加賀「了解。通信終わります」


川内「何で台風が近いってわかったの?」


吹雪「ずっと前に航海士の教本を読んだことがあったので………」


陽炎「へ、へぇ…………」


川内「え? 航海士の技術って覚えるの?」(ヒソヒソ)


陽炎「いや、うちらには電探があるし………。今持ってないけど」(ヒソヒソ)


鳳翔「話は後にしてください。今は前方の台風に備えましょう」


加賀「貴女なら、どうします?」


吹雪「………強行突破か迂回ですね。迂回すれば、燃料の消費、深海棲艦との邂逅の恐れがありますが、比較的安全です。突破するなら、高波や突風で転覆する恐れがありますが、定刻より少し遅れる位に到着できることと、深海棲艦との邂逅も、比較的少ないと思われます」


加賀「………」


鳳翔「加賀さん、貴女が旗艦です。貴女が決めてください」


加賀「………このまま突破します! 各艦、高波や突風による衝撃に備えてください!」


一同「了解!!」



台風を顧みずに突破する道を選んだ第2艦隊。吹雪の進言で、複縦陣を組むことが決まった。


吹雪曰く、複縦陣にすることで、回避率が上がり、万が一高波に襲われても単縦陣や輪形陣で航行するよりは衝撃を和らげることができるという。


また、前列が前方、中列が両舷、後列が後方と、四方八方の索敵が可能になるということだ。


道中高波に襲われることもあったが、確かに、決められた角度だけを見れば良いので注意が散漫することなく、旗艦の加賀の速力に合わせても高波の範囲を抜けられるので、大きな被害も出ていない。


陽炎「ふぅ、危なかったね〜」


川内「あのまま呑まれてたらと思うとぞっとするよねー」


加賀「吹雪さん、貴女どこであんなの覚えたの?」


吹雪「私、艦娘になりたての頃は航行も満足に出来なくていつも置いてけぼりだったんです。なら、出来ないなりに出来ることをしようって思って、勉強だけはしっかりしていたんです」


吹雪「さっきの複縦陣は、その時に読んでいた本に、『連環の計』として載っていたんです。船同士を鎖で繋いで揺れを抑える。元々兵士の船酔いの防止策として用いていたもので、今回は鎖で繋げていませんけど、今回のように応用できないかなって、思ってたんです」


陽炎「じゃあ私たちは吹雪の実験 ”隊” ってことじゃない!?」


鳳翔「でも、おかげで助かりました。ありがとう、吹雪さん」


陽炎「無視しないでぇ…………」


吹雪「っ! はい!!」


加賀「前方のあれ……少し、不味いわ……」



加賀が指した方には、巨大な竜巻が発生していた。荒れ狂うような波が立ち込み、竜巻が水を飲み込んでいるその光景は、龍が水中から天高く登ろうとしているそのままだ。



吹雪「あれ、台風の目です。それに、かなりの規模です」


鳳翔「あれを抜けるのは…………燃料だけでなく命も落としそうですね………」


川内「ちょっとちょっとちょっと!!!!! あれを突っ切るつもり!?」


陽炎「あれは駄目だって!! 無理無理無理!!! 」


青葉「おぉ! これが台風の中心ですか! これは記事になりますよー! 見出しは………『大平洋を征く、心中艦隊』とかいかがでしょう?」


陽炎「それ、沈む気満々じゃない…………」


青葉「これは是非とも一度は体験してみたいですねー! さぁ、行っちゃいましょー!」


加賀「行きましょう。進退決める時間が惜しいわ」


吹雪「…………わかりました。行きましょう!」


陽炎「無理無理無理!! 行かないでしょ!? 普通!!」


吹雪「行きますよ!!」


陽炎「ちょ、痛い! 痛いって!! 腕引っ張り過ぎぃ!」


川内「諦めなって。もう全員が覚悟決めちゃってるし?」


陽炎「っ〜〜もうっ!! 行けばいいんでしょ!? 行けば!」




台風の中心は予想通り雨風が強く、目を開けることも口を開くこともできない。そのせいか、必然的に皆が無言になる。1隻を除いて…………。





青葉「おぉ!! これは凄いです!! あはは!!!」


吹雪「 (何が楽しいんだろ…………?) 」


陽炎「 (絶叫マシンとか、あれに似た感じなんじゃない?) 」


吹雪「 (陽炎さん、気まずいからって脳内に語りかけないでください) 」


???「 (ちくわ大明神) 」


吹雪「誰ですか今の!? というか超能力みたいなコミュニケーションを取らないでください!!」


鳳翔「どうしたんですか?」


吹雪「いえ、何でもありません。すみませんでした…………」


加賀「ちくわ大明神」


吹雪「貴女か!! 台風で沈むかもしれないのに! 真面目にやりましょうよ!」


鳳翔「…………帰ったら磯辺揚げでも作ろうかしら?」


吹雪「鳳翔さんまで乗らないでくださいよぉ〜…………」


鳳翔「まあまあ、少しくらい気を緩く持った方がいいですよ。これから戦いが始まるんですから」


川内「うわ! ちょちょちょ!!! 沈む沈む!! 沈むってこれ!!!!!」


吹雪「川内さん!? うわっ!」


陽炎「何なの〜………って、呑まれる!! 波に呑まれる!! きゃあ! 」


加賀「大丈夫?」グイッ


吹雪「あ、ありがとうございます。死ぬかと思ったぁ〜」


鳳翔「せっかく陣を組んだのですからちゃんと見張っててくださいよ」


川内「ごめんごめん。助かったよー」


青葉「大丈夫ですかー」パシャパシャ


陽炎「写真撮ってないで助けろ!!!!! ハリー! ハリー!! うわっ」


青葉「再起動すればいいじゃないですか? 今いいとこなんですから」


鳳翔「いいから助けなさい」ゴンッ


青葉「痛い! 何も叩くことないじゃないですか!」


鳳翔「大丈夫ですか?」グイッ


青葉「あーっ!! 青葉のカメラがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!! 飛ばされるぅぅぅぅぅ!!!!!!!」


吹雪「自業自得ですよね………」


陽炎「ゴホッゴホッ!! 後……2秒遅かったらゴホッ……死ぬとこだった………ゴホッゴホッ!!」


青葉「うぅっ………青葉の………カメラがぁ……………」


陽炎「もし私が沈んだら真っ先に呪ってやる。艤装に取り憑いて、ここぞって時に機関部を止めてやる………ゴホッ!」


吹雪「妙にリアルな話をしないでください。怖いです」









と、まぁ色々と賑やかであった。それから10分後には台風の暴風圏を抜け、空は雲一つない晴天であった。



それから合流地点の鳴門海峡に到着したのは18:00であり、空は赤みがかかっていた。



鳳翔「予定より2時間ほど遅れましたね。とりあえず呉の方に偵察、索敵機を向かわせましょう」



加賀と鳳翔は彩雲、川内と青葉は零水偵をそれぞれ発艦させる。この季節は夏であるため、陽が沈むにはまだ少しの猶予がある。



吹雪「所で、第1艦隊の方々は大丈夫でしょうか……」


鳳翔「連絡してみましょう。……第1艦隊の皆さん、ご無事ですか?」


扶桑《えぇ、何とか。いま暴風圏のど真ん中ですね》


鳳翔「貴女達は何処にいるのですか…………?」


扶桑《鳴門海峡まで後2時間ほどの所にいますが?》


川内「はぁ!? どういうこと?」


吹雪「きっとあの台風、迷走台風だったんですね。偶にあるんですよ。一般的に台風は南西から北東に進んでいきますが、夏には太平洋の高気圧に覆われて変な動きをするんです。きっと、Uターンをしたか一周したんでしょうね」


陽炎「へぇー」


翔鶴《うぅ〜。もうやだぁ〜》


瑞鶴《翔鶴姉ぇ………》


鳳翔「後ろの鶴姉妹に何かあったんですか?」


扶桑《あぁ………、それは…………》







・・・・・・







扶桑「これがさっき話にあった台風ですね………」


山城「姉様、流石に私も辞めた方がいいかと…………」


翔鶴「ねぇ、瑞鶴? 私たち波には弱いから突破は諦めた方がいいと思うの…………」




※ 翔鶴型は横揺れに弱く、波に煽られて船体が20度傾いたことがあるらしい。 (艦これWikiより抜粋)




瑞鶴「そ、そうだね。 (翔鶴姉ぇの顔がすごく険しいんだけど………) 」


衣笠「うわぁ…………。青葉たち、これを抜けてったの………? 」


夕立「絶対に馬鹿でしょ………」





夕立が語尾に『ぽい』つけない、数少ない瞬間であった。





・・・・・・





扶桑《と言った話をしていまして………》


青葉「やっぱ第1艦隊の方がいい写真撮れたかもしれせんねぇ………」


陽炎「 (こ・い・つ!!) 」


吹雪「 (夕立ちゃんが一瞬誰かと思ったってのは黙っておこう…………) 」


鳳翔「それだけではないですよね?」


扶桑《えぇ。そこから少し色々とありまして》


翔鶴《だからあの時諦めようって言ったのに〜》


瑞鶴《 (翔鶴姉ぇのキャラ崩壊も色々とやばいと思うけど黙っておこう………) 》






・・・・・・






瑞鶴「それで、結局のところ嫌々言った割に全員が現状を受け入れてます」


翔鶴「瑞鶴、あなた誰に説明してるの? 」


夕立「きゃっ! 突風っぽい!?」


扶桑「あれ? わー…………」スィ〜


山城「姉様!! 危ないですよ!!」グイッ


扶桑「ごめんね、山城。今突風に煽られた時に死期を悟ってしまって………」


山城「姉様、洒落にならないです」


扶桑「改二でなければ今頃転覆してたわね」


山城「私はまだ改止まりですけれどね………」


翔鶴「きゃあ!!」


瑞鶴「翔鶴姉ぇ!!? 大丈夫?」


翔鶴「え、えぇ。ありがとう瑞鶴」


瑞鶴「凄い波………。私も気をつけないとね」


翔鶴「そうね。瑞鶴も気をつけて」


衣笠「あっ、また波が」


翔鶴「きゃあ!! またぁ!?」


瑞鶴「大丈夫?」(損害なし)


翔鶴「ありがとう………」


瑞鶴「翔鶴姉ぇ、前列にいた方が良いんじゃない?」


扶桑「そうですね。どうぞ」


山城「じゃあ瑞鶴も前に行きなさいよ」


瑞鶴「はぁ? 何で………いや、わかったわ」


瑞鶴「 (翔鶴姉ぇの隣に居られるし) 」


山城「 (扶桑姉様の隣に居られるし) 」




ここに、需要と供給の利害が一致する奇跡的瞬間が誕生したのである。






衣笠「で、それがどうなるってのよ?」


翔鶴「何とかなりそうな気がします」


夕立「唯のプラシーボっぽい………」


扶桑「最近の駆逐艦は随分と手厳しいのねぇ」


山城「……………あ、また波が」


扶桑「そこの岩礁でやり過ごしましょう」




岩礁に波をぶつけて自分たちにかからないようにするつもりだったらしい。しかしその甲斐も虚しく…………。


瑞鶴「随分と強いなぁ…………って、高すぎないあれ?」




岩礁に当たった波は確かに威力は落ちた。しかし、岩礁を乗り越えた波が翔鶴へと襲いかかる。





翔鶴「……………」バシャーン


衣笠「あっ……」


山城「やっぱり………」ボソッ


瑞鶴「し、翔鶴姉ぇ………大丈夫………ぶ?」


翔鶴「…………えぇ。大丈夫よ…………大丈夫………」


扶桑「あの………何か、ごめんなさい…………」


翔鶴「…………いえ、何時もの事ですから」


瑞鶴「多分、北西側が風水的に良くなかったんだよきっと!」


翔鶴「…………そうね。きっと、そう」


瑞鶴「だから、入れ替えてみよう? ね?」


翔鶴「ありがとう、瑞鶴」


夕立「もうお気の毒としか言えないっぽい」





それからというもの、波に襲われることはなくなった。数十分ほどだが。





翔鶴「…………よかったわ。何とかあれから襲われずに済んでる」


瑞鶴「よかったね、翔鶴姉ぇ!」


翔鶴「えぇ。本当によかったわ」


衣笠「あ、また突風…………」


翔鶴「痛い!!」ガンッ


瑞鶴「し、翔鶴姉ぇ…………」


翔鶴「何!? なに今の!? なにが当たったの!?」


瑞鶴「翔鶴姉ぇ!! そっちは危ないよ!!」


翔鶴「え? きゃあ!!!!」


瑞鶴「翔鶴姉ぇぇぇ!!!!!!」


衣笠「あ、これ青葉のカメラじゃん! 飛ばされちゃったんだ……」


山城「さっきから騒がしいわね。どしたのよ?」


夕立「飛ばされてた青葉さんのカメラが翔鶴さんの頭に当たって、慌てていたらた波に呑まれた…………っぽい?」


扶桑・山城「うわぁ……………」


衣笠「これには流石の扶桑姉妹もドン引きの色を隠せないご様子で……」


鳳翔《第1艦隊の皆さん、ご無事ですか?》


扶桑「えぇ、何とか。いま--」


翔鶴「どうして私ばっかり………。進水式の時からそうよ。あの時も急な突風と豪雨で台無しになって………。周りの人たちにも迷惑かけて」


瑞鶴「 (き、気の毒すぎてもうかける言葉が…………) 」


翔鶴「うぅ〜、もうやだぁ〜」







・・・・・・







扶桑《--といったところです》


一同「うわぁ……………」


青葉「カメラが無事でよかったぁ」


吹雪「本当に振れませんね青葉さんは…………」









その後、2時間ほど経ってから第1艦隊が合流した。現在時刻は20:00だ。





吹雪「すっかり夜じゃないですか……」


瑞鶴「今から攻め込むの? 私達艦載機飛ばせないんだけど………」


鳳翔「なら、囮になるしかないですね」


扶桑「ひとまず、状況の確認をしましょう。艦載機による偵察では何かありましたか?」


鳳翔「特にはありませんね。艦隊も配備されている様子もありません」


加賀「こちらも、姿は確認できなかったわ」


扶桑「…………呉の近海について、教えて頂けませんか?」


加賀「ご存知の通り、呉鎮守府は広島県の瀬戸内海に面しているわ。時期によっては潮流が激しくなって、航行には骨が折れるわ。まさに天然の要害よ」


加賀「攻めるならいま私達がいる鳴門海峡、もう一つは九州と四国の間にある豊後水道を通って伊予灘方面から侵攻する2つがあるわ。どちらも大変だけれど、呉から近いのは後者ね」


扶桑「…………考えられる作戦は2つ。1つは夜戦で短期決戦。2つは夜が明けるのを待って総力戦ね」


吹雪「…………夜戦なら、今から呉へ向かっては効力は薄いのでは? もう少し遅めてから向かうのはどうでしょうか?」


鳳翔「確かに、23:00に着いたとしても時間が少し早すぎますね。期待通りに彼らを撹乱できるかどうか……」


扶桑「なら、夜が明けてからの総力戦ね」


吹雪「…………夜明けなら、このまま鳴門海峡側から侵攻しましょう!」


扶桑「どうして?」


吹雪「西から進んだら、太陽で目が潰れますよ?」


陽炎「なるほどね、そりゃ勘弁したいわ」


川内「前が見えないから負けたなんて笑い話にもならないしね」


扶桑「他には何かありますか?」


吹雪「そうですね………。夜が開けてからだったら艦載機の発艦は可能ですよね?」


瑞鶴「そりゃぁ、出来ないことはないけど…………」


吹雪「なら、今ある艦隊で打撃艦隊と機動部隊を編成するのはどうでしょうか? 打撃艦隊は囮です。打撃艦隊はこのまま正面から当たって、敵の注意を引きます。機動部隊は隙を見て伊予灘から呉鎮守府に攻め込みます」


翔鶴「それじゃあ………」


吹雪「機動部隊は戦闘を行いません。そのため、打撃艦隊には徹底抗戦の構えをしていただくことになります」


加賀「1つ言っておきたいのだけれど、呉の艦隊を甘く見ないほうがいいわ。私は、全艦隊で当たることを勧めます」


扶桑「挟撃か総攻撃か…………」


翔鶴「お二人の意見を合わせるのは如何ですか?」


扶桑「どのように?」


翔鶴「空母4隻に戦艦を組んだ艦隊にして、そちらは敵と邂逅。残りの艦は全速力で呉へ接近、呉の提督を殺害ないし捕縛しましょう」


扶桑「つまり、空母を本隊にするか囮にするかですね………」


扶桑「………………わかりました。今回は翔鶴さんの作戦でいきましょう。いいですね?」


加賀「………………えぇ。五航戦の発案は気に入らないけれど、理にかなってるし、まぁいいでしょう」


瑞鶴「『助けてください』なんて縋り付いてきた癖に………」ボソッ


翔鶴「何か言った? 瑞鶴」


瑞鶴「いや、別に。一航戦はいつまで経っても変わんないねーって思って」


翔鶴「こら!」


加賀「聞こえてるけれど?」


翔鶴「ごめんなさい。後で言い聞かせておきますので………」


加賀「別に、気にしていないわ」


衣笠「じゃあ、衣笠さんと青葉、あとは川内、陽炎、吹雪、夕立の6隻が第2艦隊でいいのかな?」


扶桑「ええ。それでは第2艦隊には今から西へ向かってもらいます。夜が明けてから私たちが爆撃を行うので、それが開始の合図だと思っておいてください。その後はあなた達の判断で攻め込んでください」


衣笠「はいはーい。お任せ!」


扶桑「それでは、私たちは少し休みましょう」





翌朝、空が白んできた頃、予定通りに作戦が開始される。




扶桑「それでは、行きます」


加賀「………えぇ。覚悟はできています」


翔鶴「行くわよ、瑞鶴!」


瑞鶴「うん。瑞鶴には幸運の女神がついているんだから! 五航戦の力、見せつけてやろう、翔鶴姉ぇ!」


鳳翔「では、艦載機を飛ばしておきますね」


山城「こっちでも、瑞雲くらいなら……」





・・・・・・






衣笠「さーて、どうしようか」


青葉「とりあえず、偵察機でも飛ばしとけばいいでしょ?」


川内「それには賛成」



衣笠、青葉、川内はそれぞれに偵察機を発艦させる。


吹雪「攻め込むタイミングはいつにするんだろう?」


夕立「それはもう偵察機で判断するしかないっぽい」


陽炎「ほんっと、電探くらい作ってくれてもいいのに。うちの提督はそういう所に気が利かないからなぁ」


吹雪「あはは…………」






次の瞬間、遠くから爆発音が聞こえた。遂に作戦が決行されたのだ。





衣笠「おぉ、ついに始まったね〜」


青葉「そう言えば、青葉のカメラってどうしたの?」


衣笠「あぁ、あれ? 翔鶴さんが笑顔で握り潰してたよ?」


青葉「そんなぁ〜。あれには色々なとくダネが入ってたのに〜!」


吹雪「どんなのがあったんですか?」


青葉「陽炎が 『I'll be back』状態になってたり、司令官のあんな写真やこんな写真も………」


吹雪「ターミネーターはともかく、司令官のは気になりますね……」


陽炎「死にかけた奴をともかく呼ばわりなんて随分な物言いじゃない……」


夕立「あ、一機戻ってきたっぽい!」


青葉「あれは………青葉の偵察機!」


妖精『東に向かう艦隊が1時の方向にいましたー。攻め込みます?』


青葉「ううん。もうちょっと待ってて」


妖精『あいあいさー』


衣笠「あ、衣笠さんのも戻ってきた」


妖精『第1艦隊は戦闘中。敵が18隻で、こっちは1隻で3隻を相手にしてる状態』


衣笠「他には? 何かあった?」


妖精『いや、特には。けど、多分呉にはもっと敵さんがいると思う。警戒、これ大切』


衣笠「おーけおーけ。じゃあ着艦して?」


妖精『ほーい』


川内「次は私か………」


妖精『深海棲艦はいないっすね。多分うちらの戦闘中にも出ることは無いと思うっす』


川内「りょーかい。じゃあ着艦しちゃって」


妖精『ういっす』


陽炎「どうだった?」


青葉「呉から出てった艦隊があるみたい」


衣笠「あっちは3対1の戦闘が始まってるって。青葉の話を踏まえると、多分4対1になってるだろうね」


川内「深海棲艦は心配しなくていいよ。心置きなく呉に集中できるね」


衣笠「海軍はうちらと違って一度に4艦隊しか出せないから、多分出るなら今だね」


川内「長引かせて苦戦させるわけにもいかないし」


青葉「よし! 青葉、洗いざらい取材しちゃうぞー!!」


夕立「素敵なパーティーの始まりね!」


陽炎「さ、やろうか。吹雪?」


吹雪「はい、やりましょう!!」


衣笠「よし。第2艦隊、出撃!!」






・・・・・・







呉に到着した第2艦隊。事前の偵察通り、呉には殆どの戦力がおびき出されてもぬけの殻に近い状態だ。だが、0というわけでもない。



衣笠「よし、ここからはゆっくりね」


川内「私が先に行ってここまでおびき出そうか?」


陽炎「流石に2回目は通用しないと思うけど…………」


川内「まぁ、先に入ってるよ」


衣笠「あぁ、ちょ、行っちゃったよ………」


吹雪「ど、どうしますか?」


衣笠「うーん。まぁ、任せてみようか」




川内は一足早く呉へと入り、軍港へと向かう。前回来たことがあるためか、建物の造りを覚えているようだ。





川内「えーっと、ここら辺に艤装を置いてある施設が…………あった」


川内「うーん。ここに所属してるのは…………うん、いたいた。この子に化けてみれば………」


川内「みんな、聞こえてる?」


衣笠『ん? どしたの?』


川内「ちょっと裏手に回ってもらえる? そっちに連れて行くから」


衣笠『はいはーい』


川内「………これでよしっと」




川内は軍港を後にして、呉の提督がいるであろう執務室へと向かう。走りながら………





川内「てーとくー!!」


呉提督「島風!? お前、いま出て行かなかったか?」


島風 (川内) 「先に行ってた艦隊が全滅しちゃって、ここにいたら危ないよ!?」


呉提督「なんだと!? 全滅?」


島風 (川内) 「うん! 私に、提督だけでも逃がすようにって!」


呉提督「………わかった。建物の裏から出ることに


島風 (川内) 「行こう! 提督!!」


提督「ちょっと待て、早い!!」


島風 (川内) 「おっそーい!!」






建物の裏手から出た呉提督と川内。しかしそこには、衣笠率いるリンガ泊地の第2艦隊が座していた。




提督「なっ!? 島風、どういうことだ!!」


島風 (川内) 「どうもこうもないよ? だって私…………」


川内「リンガ泊地の川内だし?」


提督「貴っ様ぁぁぁぁぁ!!!!」


陽炎「うっそ、本当についてきたんだ………」


青葉「進歩がない人ですねー」


衣笠「さ、観念してちょうだい」


川内「うちをぶっ潰すとか言ってくれたみたいじゃん? ねぇ?」


呉提督「………」


川内「甘く見てると痛い目みるよ? って言っても遅いか」


呉提督「くそ……俺を捕まえてどうする気だ?」


川内「ま、詳しいことは後。あんたが助かる方法はたった1つ。出撃中の艦隊を帰投させて降伏すること」


呉提督「………1つだけ、頼みがある」


川内「なに?」


呉提督「せめて、彼女らだけは自由にしてやってくれないか?」


川内「私はOKできるけど、その権限を持ってるのは私らの旗艦だからねぇ。私の一存じゃ決められないよ」


呉提督「………そうか」







・・・・・・








扶桑「よし! これで5隻目!!」


山城「流石、扶桑姉様。耐久を1だけ残して無力化するなんてお見事です」


鳳翔「敵の猛攻で、なかなか発艦が…………」


翔鶴「任せてください! 全機発艦!!」


瑞鶴「翔鶴姉ぇ! 艦載機が!!」


翔鶴「つ、次々と落とされて………」


加賀「あの艦載機は………赤城さんね」


赤城「皆さんには申し訳有りませんが、ここで引いて頂きます!!」


加賀「皆さん。私に任せてもらっていいかしら?」


扶桑「………わかりました」


瑞鶴「加賀、あんたまさか!」


加賀「………」


赤城「少しは強くなりましたか? 加賀さん?」


加賀「えぇ。あの時よりは、格段に」


赤城「そうですか。なら、見せていただきましょう!!」


加賀「行きます! 赤城さん!!」






2隻は同時に艦上攻撃機を発艦させた。続けて艦上爆撃機を発艦し、空母同士による戦いの火蓋が切って落とされた。


2人の戦いはどちらも一歩も退かない接戦であった。が、戦局は1つの打電によって突如大きく変貌する。


そう、呉の提督が発した打電だ。『トネガワクダレ』。大戦中に日本海軍が実際に使われていた作戦中止を示す暗号である。



赤城「………終わりましたね」


加賀「………皆、優秀な艦ですから」


赤城「そうですか。さて、私はどうなるんでしょうね」


加賀「………それは、私にも分かりません」


赤城「随分とはっきり言うんですね」


加賀「事実ですから」









・・・・・・







作戦中止の指示が出てから、呉に所属する全艦隊が呉へと帰投する。それに合わせて、扶桑ら第1艦隊も呉鎮守府へと向かう。彼女らが到着した頃には既に衣笠らが取り押さえている状態であった。





衣笠「ああ、やっと来たんだ。待ちくたびれたよ」


扶桑「また川内さんが捕まえたとか?」


川内「まあね〜。あの服は流石にちょっと恥ずかしかったけど」


翔鶴「今回は誰に変装したんですか?」


川内「えっ? 言わなきゃダメ?」


陽炎「さっきから何回聞いても答えてくれないんだよねぇ。一体誰に化けたんだか」


呉提督「うちの島風だよ。2度も騙されるとは思わなかったよ。まったく」


陽炎「島風!? あっはははは!! それは黙っておきたいわ! やばい、お腹痛い! アッハッハッハッハ!!!!」


川内「今ここで沈めてあげようか? こいつ共々」


陽炎「ちょ、タンマタンマ!! 私はいいかもしれないけど、ターゲットは沈めちゃまずいでしょ?」


吹雪「いいんだ………」


呉提督「戦艦扶桑。あんたが旗艦だな?」


扶桑「えぇ。提督からは、殺害しろという命を受けています」


呉提督「そうか。5年の付き合いだが、俺は潮時ということだな。まあ、その方がいいかもしれん。裏で憲兵隊に賄賂を贈っていたことくらい、彼は気づいているんだろう?」


扶桑「よくご存知で」


呉提督「彼なりの優しさだな。いずれ日の元に晒されればもう生きてはいけん。その前に死んでおけということか」


扶桑「提督は、貴方を友としては見ておりません。この私を含め、寧ろ仇敵として見ておりますが?」


呉提督「仇敵? 俺が何をしたと?」


扶桑「っ!? シラを切るのは止めて頂きたいものですが?」


呉提督「何のことだ? お前達に恨まれる筋合いなどない」


扶桑「黙りなさい!! 貴方のせいで…………!!」



扶桑はものすごい形相で、呉提督に殴りかかろうとする。普段の扶桑からは想像もできない姿で、ここにいる殆どが呆気にとられている。そんな中、翔鶴が扶桑を止めるようと羽交締めしようと試みている。


翔鶴「止めなさい!!」


扶桑「離して!! こいつだけは殺さないと気が済まない!!」


翔鶴「っ……瑞鶴!!」


瑞鶴「う、うん!!」



扶桑が思いのほか強く翔鶴を振り払おうとするので、瑞鶴を加勢させて何とかその場に留めさせようとする。そこに鳳翔も加勢し、扶桑の軽率な行動を戒めるかのように扶桑の頬を叩く。





鳳翔「扶桑さん!! 落ち着きなさい!!」



鳳翔の言葉に、少し落ち着きを取り戻した扶桑は、頭を冷やすと言ってこの場はから離れる。




呉提督「まったく、主人が執念深ければ従うものもこれまた執念深い。おもしろいな、あんたら」


翔鶴「………ここまで来ると本当に沈めても良いんじゃないですか?」


鳳翔「…………」


陽炎「まぁ、殺せって言われてるくらいだし良いんじゃないの?」


瑞鶴「折角こっちがオブラートに包んだ表現してんだからさ………」


鳳翔「殺すなんて言ってはいけませんよ?」


呉提督「さてと、俺はそろそろ退場するとしようか。だが、最期に頼みと、言っておきたいがある」


鳳翔「何でしょうか?」


呉提督「頼みは簡単なことだ。彼女らを、自由にしてやってほしい。それだけだ」


鳳翔「…………えぇ、約束しましょう。それで、言っておきたい事とは?」


呉提督「あんたらが何を恨みに持ってるかは知らない。それに、俺はあんたらに関与したことはない」



先程の呉提督の発言による反応には、2種類に分かれている。何の話をしているのかさっぱりわからない者。先程の扶桑と似たような反応を取り、襲いかかろうとする感情を抑えているように見える者がいるのだ。





鳳翔「…………加賀さん」


加賀「ええ。異論はないわ」


呉提督「ああ、あんたもやっぱ来てたか。どうだ? ちったぁ強くなったか?」


加賀「…………貴方にかける言葉はありません」


呉提督「そりゃそうだな。まあ、あれだ。今更かもしんねぇけど、達者に暮らせよ。先輩にだったら任せられるわ」


加賀「どういう心境の変化か、是非とも聞かせてもらいたいものね。別れ際に散々罵倒して、あんなものまで送りつけて」


呉提督「知りたいか? だったら、2人だけにしてもらえねぇか?」


加賀「…………お願いします」


鳳翔「…………情が移って逃したりしたら、承知しませんよ」




鳳翔の言葉に首を縦にふる加賀を見て、全員がその場から離れる。扶桑が向かった方に、全員が移動しようとしていた。





呉提督「お前、俺が拾った艦娘だって話しただろ? まあ、お前がそこんところよくわかってると思うんだが」


加賀「それが?」


呉提督「あんたの前の飼い主、俺の前の提督は、海軍でもかなりの札付きだった。そんな連中から捨てられたあんたを拾ったとあれば、俺の立場が危うい。奴らと渡り合う力など、俺にはないんだ」


加賀「だから私を手放すように、初めから仕組んでいたなんて言うつもり?」


呉提督「そうだ。あんだけ不遇な扱いすりゃあ誰だって逃げ出す。それを待っていたんだがなぁ…………」


加賀「そこで、彼を頼ったと?」


呉提督「あぁそうだ。あの人は何かと目の敵にしているらしいが、俺は先輩以外に信頼できる男は知らない。だからあの時、あの人の艦隊を増援として呼んだんだ。あんたが気に入ってくれたようで何よりだがね」


加賀「あの憲兵隊の一連は?」


呉提督「ありゃ多少脚色入っているが、事実だ。暴行はあんたにやっていただろう?」


呉提督「不正運用は、連中に悟られないようにあんたを仲間に含んでなかったんだが、それが裏目に出た結果だな」


加賀「なら、全部私のせいで………」


呉提督「んな馬鹿な話あるかよ。しょっ引かれた万が一の時にとでも思って、裏で憲兵隊に金払ってたんだ。それが日の本に晒されればそのうち捕まるはずだったんだ、俺は」


加賀「…………そうですか」


呉提督「そうだとも。………さて、お喋りが過ぎたな。そろそろ俺もあの世行きだ。あんたにだけ、最期に頼みたい。この銃で、俺を撃ってくれ。その銃はお前にやるよ。捨ててくれても構わないが、何かあった時、どんな形であれきっとあんたの役に立つ時がくるさ」


加賀「…………」



加賀はただただ黙ってその銃を受け取り、引き金に指を置く。



呉提督「お前の顔を、もっとよく見せてくれ」



呉提督は加賀を近くに寄せて、両肩に手を置く。そこにはやましい気持ちは一切なく、まるで久方ぶりにあった親子のような、はたまた今生の別れを惜しむ友を最期に目に焼き付けようとする、そんな雰囲気であったのだ。




加賀「…………いきます」


呉提督「あぁ、さっさと撃ってくれ」











呉提督「イイ女になれよ。加賀………」













パァンと、銃声が響く。









加賀「最後まで………くだらない嘘ばっかり………」


鳳翔「任務は完了しました。帰還しましょう」


加賀「ええ」












提督「そうか、終わったか」


扶桑『はい。今から帰投します』


提督「わかった。ドッグを開けておく」


扶桑『ところで、提督はどちらに?』


提督「うん? まぁ、ちょっとした野暮用だ。気にする必要はない」


扶桑『そうですか。では、詳しいことは帰投後に通達します』


提督「わかった。通信終了」


提督「…………そうか。奴は逝ったか。さらばだ、友よ」




提督「お前のこと、大嫌いだったよ」













・・・・・・






--艦隊が帰還しました--





扶桑「ただいま帰投しました。提督」


提督「うむ、よくやった。ドックは空けてある。望むなら高速修復材を使ってくれ」


扶桑「提督、先に私の方から報告をさせていただけないでしょうか?」


提督「お前が良ければ私は構わぬが?」


扶桑「有難うございます。それと、加賀さん連れて行きますので」


提督「わかった、では先に執務室に向かってくれ」




扶桑と加賀を執務室に向かわせ、提督は鳳翔、翔鶴を呼び寄せる。



提督「鳳翔、翔鶴。お前達に頼みがある。あいつらに、あの話をしてやってくれ」


鳳翔「………よろしいのですか?」


提督「聞いた話では、奴の前で、扶桑は取り乱したそうじゃないか?」


翔鶴「だ、誰からそれを………?」


提督「扶桑が自分から言ってきた。もう、隠し立てはできんと思ってな。頼む」


鳳翔「かしこまりました」





提督は鳳翔、翔鶴両名に命を下した後に、執務室に戻る。




提督「それで、報告というのは?」


扶桑「はい。呉の提督の話では、私達に恨まれる筋合いはない。といった発言をしていたもので………」


提督「恨まれる筋合いがない? それを聞いてお前は奴に殴りかかったのか?」


扶桑「お恥ずかしい限りですが」


提督「ふん。覚えがないなど、巫山戯たことを抜かしやがって………。それで、加賀を連れてきたのは何故だ?」


加賀「あの人と、2人で話をしたいと言われました。その内容を、お伝えしようと」


提督「わかった。扶桑、お前は先にドッグ入りしろ。あとで報告をさせる場を設ける」


扶桑「わかりました。それでは、お先に失礼します」


加賀「………気を遣って頂けなくても良かったのだけれど?」


提督「まあ、あいつをここに置いておいてまた暴れられても困るしな」


加賀「………あの人は、私を守るために、一連の騒動を起こしたと言っていました」


提督「お前を守るため? ふっ、そうか。ともかく、最後まで聞かせてくれ


加賀「私は、あの人に拾われた身です。私の元々の提督、あの方の前の提督は、札付きの人物で、自分には彼から私を守り通す力がない。そのために私を貴方に引き渡すことにした、と。信頼できるのは貴方に置いて他にはないとも言っていました」


提督「呉の前には何処にいたのだ?」


加賀「横須賀です。横須賀は普通の鎮守府と違い、全部で20の艦隊があるのはご存知ですか?」


提督「もちろん、知っている。それが?」


加賀「私はそこの、第13艦隊に所属していました」


提督「横須賀第13艦隊………。そこの提督の、名前を知っているか?」


加賀「いえ………。ですが、周りの方からは『シマバラのせがれ』と呼ばれていました」


提督「島原………? 」


加賀「何処かで聞いた名前ではあるのだすが………」


提督「日本海軍で私が知る島原の姓を名乗るのは2人。元帥とそのせがれだ。元帥『島原 藤十郎』。それと…………息子の『島原 啓治』だ。そうか、やっと見つけた………」


加賀「ご存知なのですか?」


提督「当たり前だ。3年前の借りがある」


加賀「出来れば、詳しくお聞かせ願いませんか?」


提督「………そうだな。話すことにしよう。奴らにも話すつもりだったついでだ。その前に、茶を出そう」


加賀「そんな、お構いなく……」


提督「いや、そうでないと私の気が持たないのだ。淹れさせてくれ」




あの時、吹雪に出したものと同じように提督は茶を淹れる。




加賀「提督、茶道の心得があったのですね……」


提督「ただの真似事だ。今から1つずつ話していくが、何かあればすぐに聞いてくれて構わない」


加賀「わかりました」


提督「私は提督として、5年前から艦娘を指揮する立場にあった。所属していたのは、確か…………横須賀鎮守府第2艦隊。当時は第1艦隊は元帥が実際に率いていて、…………第2から第4は元帥直轄の艦隊だった」


提督「私は元帥の片腕として、20あった艦隊の…………第5から第10艦隊を指揮する立場にあったのだ」


加賀「その時期から、20に分かれていたのですね」


提督「横須賀は、首都の東京に近くあるため、それを守る最重要拠点となっていたんだ。そのために多くの人材が必要だった。まあ着々と深海棲艦も後手に回ってきているので、呉、佐世保、舞鶴と4つに戦力を割くこともできる様になり、そこから大湊、さらに外洋にも作られていったのだ」


提督「因みに、その時から呉にいたお前の提督。確か………………『土肥 弘』とはその時からの付き合いだった。奴は第8艦隊の指揮官で、俺の下で一緒に闘った男だ」


提督「今から3年前、忌まわしい出来事が起きたんだ。…………っと、そろそろだな。………よし、飲んでくれ」


加賀「有難うございます。…………結構なお手前ですね」


提督「それはどうも。で、何処まで話したかな………」


加賀「3年前にある出来事があったと」


提督「あぁそうだった。3年前、元帥の息子の『島原 啓治』。まぁ、当時はまだ士官学校の実習生のような扱い…………だったな。そいつが俺の第2艦隊に入ってきたんだ。元帥は私の腕を買ってくれてな、あんたに息子を任せたいと」


提督「ある時、私が横須賀を離れることになってな。その機を狙って、あいつが第2艦隊を乗っ取ろうと考えたんだ。でっち上げの情報を流して、第5から第10艦隊の司令官。つまり私の部下を扇動したんだ」


加賀「………………」


提督「あいつの企みは成功したよ。第2艦隊に所属していた艦娘の殆どが散り散りになって、唯一助かった5隻で佐世保に泣く泣く動いたんだ。佐世保には私の信頼できる男がいるからな」


提督「その後、その事態を聞きつけた元帥が気遣ってくれてな。リンガ泊地を提供してくれたんだ」


加賀「1つ、いいかしら? 何故、恩人の元帥閣下を敵にするような真似を? 海軍として動かずに傭兵なんて………」


提督「もちろん、元帥には多大な恩を受けた。それは感謝している。だがなぁ、あそこまでされて黙ってられるかよ。あの男含めて、俺をこんな目に合わせた連中をぶっ殺すまでは我慢がならない」


加賀「…………そうですか。お茶、ご馳走様でした」


提督「お粗末様。まあ私の目的は、私を陥れた連中に復讐することだ。そのために、ここで力を蓄えているというわけだ」


加賀「そうでしたか。…………話を変えますが、提督から見て私の元提督の考えは本心と言えるのでしょうか?」


提督「何故、私に聞くのだ? 聞いてどうする?」


加賀「彼の言葉には、筋が通っているからです。確かに私は彼からひどい仕打ちを受けてきました。ですが、彼が憲兵隊に連行される際、私と、私の仲間意外の艦娘は、涙を流して別れを惜しんでいました。呉への侵攻の際も、艦娘たちは懸命に闘っていました。私が見てたのは、彼の表面だけだったのでは? と思いまして…………」


提督「私には答えられんよ。それは紛れもない加賀、お前が見極めることだ。何故なら、それはお前に向けて発した言葉だろう? だからお前が決めるんだ」


加賀「私が……………?」


提督「そう、お前がだ」


加賀「…………有難うございます。今度また、お茶を頂きに伺います」


提督「もちろん。待っているぞ」









・・・・・・






その頃、作戦から帰投した第1、第2艦隊は入渠ドッグで体を休めていた。機を見計らって、鳳翔、翔鶴は、提督ならびにここの目的など、隠してきた事を全て吐露した。




鳳翔「…………といった所です」


翔鶴を「私たちは、ただ復讐のために提督に従っているんですよ」


吹雪「その、生き延びた5隻って…………?」


鳳翔「もちろん、私と」


翔鶴「私たち姉妹よ。扶桑姉妹もその内の1隻」


吹雪「翔鶴さん…………」


翔鶴「ごめんなさい。本当はもっと早く話したかったけれど、提督も扶桑さんも中々打ち明けようとしなくってね。もうわかってると思うけど、あの時話した艦娘は扶桑さんのことよ」


吹雪「………そんなことがあったんですね」


扶桑「多分、こうやって皆さんに全て打ち明けたのは初めてですよね。今まで黙っていて、ごめんなさい」




ここにいる全員が、多分同じ心境であるのだろう。『何でもっと早く話してくれなかったのか』。だが、この扶桑らを責めることができるものは、ここには誰一人居なかった。


そう、ここに集まった艦娘の殆どが不遇な目にあった者たちだからだ。そんな彼女らは、紛れもなく扶桑らによって、また提督によって今までにない幸せを、今ここにいる自分たちの存在を得ることが出来たのだ。




吹雪「私が横須賀から来たから避けられているって聞いたのも、理由がわかりました。でも、第13艦隊って今は人が変わったって聞いたような………」


扶桑「それ、本当ですか!?」


吹雪「え、えぇ。私が居なくなる前日に人事異動があって、司令官が変わった覚えがあります」


扶桑「提督には? 提督にはその話をしましたか!?」


吹雪「いえ、だって話聞いたのたった今ですし………」


扶桑「吹雪さん。この後、本作戦の報告会があるのですが、その話を提督に話して頂けますか?」


吹雪「はい! 勿論です!」







・・・・・・








提督「ではこれより、本作戦の報告会を開催する。まずは総旗艦より、作戦の戦闘履歴を報告してもらう。戦闘で何があったかなど、大まかな説明で構わない」


扶桑「航行途中に台風に遭遇しましたが、大きな被害は出ませんでした」


翔鶴「…………………」


青葉「…………………」


提督「台風? やはり出たか。それで、お前たちはどうやって呉へ向かった?」


扶桑「どうと言われましても、強行突破しただけですが?」


提督「強行突破? わざわざ早めに出撃させたのだから迂回すれば良かっただろうに」


扶桑「………………そうでしたね」


提督「まぁいい。被害がないのなら言うことはない。それで、呉に着いてからは?」


扶桑「呉に着いてからは、第1、第2艦隊を再編成しました。第1艦隊は正面から当たって敵をおびき寄せるため、戦艦と空母で編成。。残りの艦で、呉に接近して呉の提督を捕縛する第2艦隊としました」


提督「奴はどうやって捕らえた?」


扶桑「川内さんが以前と同じ様に捕らえたと聞いています」


陽炎「駄目だ、思い出しちゃった……くくく………」


提督「なるほど。呉にいた艦娘はどうした?」


扶桑「呉の提督からの遺言で、艦隊は自由にして欲しいと。今は呉鎮守府に残留させています」


提督「了解した。今回の作戦についての大まかな動きはわかった。さっきから翔鶴と青葉の顔が険しいのだが…………。あと陽炎は何が可笑しいんだ?」


陽炎「し、司令、川内さんが誰に変装したか教えてあげ--」


川内「うん? 何か言ったかなぁ?」グググ………


陽炎「い、いひゃいれすぅ………はなひて………かほがひょこにひろがりゅう………」


提督「川内、離してやれ。私も少し気になる」


衣笠「提督! それ以上は駄目だって!」


川内「ダメッ! 絶対ダメェ!!」ギギギ……


陽炎「いひゃひゃひゃひゃ!!!!」


吹雪「痛いのか笑ってるのか………」


鳳翔「川内さん、離してあげなさい」


川内「やだ! 絶対離さない!! 離したらこいつは絶対に言いふらす!!!!」


陽炎「ぎ、ギブギブ!!! 頬がむくんひゃうからぁ!!!」


提督「わ、わかったわかった。聞かない。聞かないから陽炎を離してやれ」


川内「ほ、本当に?」


提督「もちろん、約束する。だから、な?」


川内「…………はぁい」


陽炎「うー……いっててて…………あんな馬鹿力で左右の頬を引っ張られたら大福になっちゃうよぉ………」


川内「自業自得でしょ」


提督「 (後でこっそり聞いておこう) 」


提督「それで、そこの2人がよそよそしい理由はなんだ?」


翔鶴「私、台風の高波にかなり呑まれたり色々と大変だったのに………何の被害もなかったなんてあんまりですよ………」


青葉「そんな翔鶴さんに笑顔でカメラを壊されました………」


提督「そ、そうか。それは済まなかったな……… (また面倒なことに) 」


翔鶴「…………」


青葉「…………」


川内「…………」


吹雪「 (うわぁ、意外とめんどくさい人たちだなぁ…… 」


加賀「 (私、ここに頼って良かったのかしら…………) 」


提督「ともかく、その話は後にしてくれ。じっくり聞いてやるから、な?」


翔鶴「はい………」


青葉「…………」


提督「さて、ここの艦隊の皆が承知のことと思うが、私はお前たちにずっと隠してきたことがあった。その事について、私はこの場でお前たちに謝罪をしたい。済まなかった」


提督「特に吹雪だ。お前は私に正面から向き合おうとしてくれたにも関わらず、跳ね返す様な真似をした。許してくれとは言わないが、申し訳なかった」


吹雪「…………いえ、約束してくれましたから。いつか話すって。その約束を守ってくれただけでも、私は嬉しいです」


提督「…………ありがとう。さて、私はある男を追っている。横須賀鎮守府第13艦隊の少佐。島原啓治だ」


扶桑「提督、吹雪さんから有力な情報が」


吹雪「は、はい。あの……私が横須賀から異動する前日に、横須賀鎮守府で大規模な人事異動があって、13艦隊の司令官、少将も異動したと聞きました」


提督「少将!? ………なるほど。 ちょっと待て、お前はあいつの元にいたのではないのか?」


吹雪「いえ、私は15艦隊でしたので。でも、話には聞いたことがあります」


提督「その男が、どこに移ったかわかるか?」


吹雪「い、いえ………」


扶桑「何か問題が?」


提督「忘れたのか。あいつは野心に塗れた戦争家だ。高い地位を得ると、下手をすれば………」


鳳翔「元帥様の身が!?」


提督「いや、最悪の場合はあり得るかもしれんが、流石に実の父親を亡き者にするほど苛烈な男ではないだろう。それに、元帥はあいつを厳罰に処したと本人から聞いた」


提督「元々少佐だった男だが、あの一件で曹長に降格させたと。その男がたった3年で少将まで成り上がったのは看過できないが」


瑞鶴「タコみたいに纏わり付いてきやがって…………」


提督「…………取り敢えず、今日はこれで解散にする。ゆっくりと身体を休めてくれ」










・・・・・・








呉鎮守府侵攻から一週間、リンガ泊地にある人物が尋ねる。




赤城「ごめんくださーい」


加賀「赤城………さん? と、皆さんも?」




尋ねて来たのは呉に所属していた艦娘だった。赤城を始め、あの時共闘した艦娘達だった。




北上「いやーあたしら提督いなくなっちゃったし?」


妙高「赤城さんから色々と話を聞いていたら、そちらの提督にお会いしたくなってしまって……」


暁「一人前のレディは旅をするものよ? 『火の中の蛙大火を知らず』って言うでしょ? 狭い中で得意になってたら駄目なのよ?」


北上「火の中の蛙はあたし達の状況でしょ? それを言うなら『井の中の蛙大海を知らず』。ってか、どんな間違いよそれ?」


敷波「まぁ、あそこは色々と気まずいし、だったらいっその事行ってみようってこと」


扶桑「お客さんですか? あら?」


赤城「あはは…………どうも」


妙高「そちらの提督にお取り次ぎ願いますか?」


扶桑「ええ。ご案内します」


敷波「ええ!? いいのかよー」


扶桑「来るもの拒まずがリンガ泊地ですから。こちらへどうぞ」





扶桑の案内で、執務室へと向かう一向。執務室の前へたどり着くと、どうやら会話中の様である。



提督「そうか。わかった、首を長くして待っているぞ」



扶桑は会話が終わったところで扉をノックする。入室許可を得ると、扉を開けて赤城達を中へ通す。



提督「お前達は………あぁ、呉の艦隊か。何用だ?」


扶桑「入隊希望です。是非ともうちの艦隊に入れて欲しいそうです」


提督「いいのか? 訳ありとはいえ、私はお前達の司令官を殺したのだぞ?」


赤城「だからですよ。貴方と面識のある私たちが残っていたら、色々と疑われますから」


北上「ま、あたしらは逃げてきたと思えばいいよー」


妙高「降伏したという事でも構いません」


提督「…………ならば、お前達に問う。ここがどういった所かは知っているな?」


暁「当然よ!」


敷波「知らなきゃこんなとこ来ないよ」


提督「…………わかった。本日より、お前達の入隊を認める。加賀、扶桑。案内してやれ」


扶桑「承りました」


加賀「はい、ではこっちに」


提督《全艦に告ぐ。今すぐ執務室に集合せよ。繰り返す、総員執務室に集合せよ》



何が起こるはもうお察しだろう。






加賀「さて、最後に食堂です。ここでは多くの艦娘が食事を摂ったり……まぁ、色々とやってます」





いつもと同じ様に、扉を開けるとクラッカーの音が一斉に響く。ようこそーという声がクラッカーに勝るとも劣らない声量で響き渡り、それを咎める提督の姿だ。



そしていつも通り、今日1日は依頼を受けることはないだろう。自由な時間が多く取れるのも、自由の多い傭兵業の特徴と言える。というわけで、いつもの通り飲んだり食べたり騒いだりとしている。





赤城「ん〜この料理おいしい〜。」


加賀「ここは食事に関しては当番制になっているので、全艦娘がそれぞれ作っているんですよ」


赤城「じゃあ、これって誰が作ったんですかね?」


鳳翔「主食は翔鶴さんが。汁物は今から扶桑さんと山城さんが作るみたいです。副菜は瑞鶴さん。その中の煮物は私が。主菜は提督と足柄さんだったかしら?」


赤城「提督も作られるのですね〜」


鳳翔「今回は特別ですよ。でも、先程言ったように普段は当番制なので、もし当番を忘れると………」


赤城「わ、忘れると?」


鳳翔「食事が一品少なくなる。つまり、その人の担当した物がなくなります。例えば主菜当番が忘れれば、主食と副菜だけ………何てことも」


赤城「は、はわわわわ…………」


鳳翔「つまみ食いや銀蠅が発覚すると、24時間食事と補給が抜きになります。それに加えて、提督から厳しい罰が………」


加賀「………………」


赤城「加賀さん、まさか…………」


加賀「一度、肉じゃがに負けました。その時に…………」


鳳翔「あぁ、あの時はすごい悲鳴が聞こえたので敵襲かと勘違いして全員が武装して危うく出撃するところだったんですよ?」


加賀「返す言葉もございません…………」


赤城「あの………いったい何をされたんですか?」


加賀「あの時は…………」






・・・・・・





提督「お前………銀蠅をやったそうだな? 因みにここでは重罪にあたるが、それを知ってやったのか?」


加賀「申し訳ありませんでした」


提督「まあ知っていようが無かろうが罰は受けて貰うぞ」


加賀「はい」


提督「翔鶴、例の物を。8と2だ」


翔鶴「はい、ただいま持って参ります」


加賀「8と2…………?」


提督「瑞鶴、8を頼むぞ。ついでに縛っておけ」


瑞鶴「りょーかい。ほら、一航戦動かないで!」


加賀「ちょっと、止めなさい!」


瑞鶴「言っとくけど、あんたの自業自得だからね?」


加賀「目隠し? 何をする気ですか!?」


提督「瑞鶴は8と2は初めてか?」


瑞鶴「8と6は見たことあるわね」


加賀「何の話ですか!?」


提督「では今より厳罰に処する。処刑法は8と2だ」


加賀「8と2って何なんですか!? えっ!? ちょっと! 処刑!?」


提督「2はこれだ」


大蛇「シャーッ!!」


瑞鶴「ひゃあ!! 何てもの出してんのよ!?」


加賀「えっ!? なになになに!!?!?!!? 重い! 首が重い!! それに何ですかこれ!? 硬い!! 鱗!? 鱗か何かですか!?」





処刑 8と2


目隠し で 大蛇をマフラーに





提督「瑞鶴、目隠しをとってやれ」


瑞鶴「この状態で…………うわ気の毒〜」


加賀「目隠しが…………何ですかこれは」


大蛇「シャーッ!!!」



加賀「ぴゃあぁぁぁぁぁ!!!!!!」


翔鶴「くくく……………」


瑞鶴「あのすまし顔が『ぴゃあ』って!! あっはっはっはっ!!!!! どこの軽巡よ!! あっははは!!!」


提督「毒はないから安心しろ」


加賀「やだやだやだやだやだ!!! とってとってとって!!!!!」


瑞鶴「今度は二航戦だ!! あっはっはっはっは!!!!! やばい、お腹痛くなってきた」


提督「これに懲りたか?」


鳳翔「て、提督!! な、何事ですか!?」


加賀「助けて下さい鳳翔さん………」


提督「銀蠅の罰だ」


鳳翔「あぁ………そうでしたか。どうぞごゆっくり………」


加賀「えぇ!? 」


大蛇「シャーッ!!!!」


加賀「きゃあぁぁぁぁ!!!!」






・・・・・・







加賀「といったように、あれは今でも夢に見ます」


鳳翔「あの後、ことの詳細を全員に話したらみんなが見に行こうとしたんですけど、その時には加賀さん気絶していたみたいで……」


赤城「うわぁ……………」


加賀「ひかないで下さい。本当に恐ろしかったんですから」


鳳翔「ここは娯楽が少ないから、こういったのも1つの娯楽扱いなんですよねぇ……」


赤城「じゃあ加賀さんは、翔鶴さん達に半ベソかいた醜態を見られた挙句に、見世物として娯楽扱いされるどころか、気絶したところを全員に見られたってことですよね? 公開処刑じゃないですか!」


加賀「……………」


赤城「ご、ごめんなさい! 加賀さん、そんな泣かないで下さいよ〜!!」


鳳翔「因みに、1番重い刑は扶桑さんの砲撃演習の的です」


赤城「き、肝に銘じておきます…………」


扶桑「お味噌汁とコンソメスープができましたよ〜」


敷波「ね、こんな風にくつろいだの久しぶりじゃない?」


北上「あーそうかもしれない。でも当番制でしょ? 料理覚えとかないとなー」


妙高「こんなにのんびりした艦隊なのに、戦場に立ったらあんな風になるなんて、いったいどんな秘密が…………」


吹雪「えっ? それって私も含まれてます!?」


北上「多分1番当てはまってると思うけどねー」


吹雪「そんな、私なんてまだまだですよ」


北上「………サイドキックでドリフトして砲撃と魚雷全部かわされて武器だけを壊していく艦娘がよく言った口だよね〜」


吹雪「あ、あれは………そう、不可抗力ですよ」


妙高「私の砲も破壊されましたけど………」


吹雪「べ、別に私以外にも出来ますよ。これくらい」






実は先ほど扶桑達に案内された時、演習場に通された時に吹雪が偶然訓練をしており、手合わせしたいという妙高の提案で、吹雪一隻に対して赤城以外が寄ってたかって演習を実施したところ、吹雪のA勝利で決着がつくという屈辱極まりない事態を妙高らは味わったのである。






北上「規格外過ぎるよねここ。もはやチートでしょ?」


吹雪「北上さんは魚雷を多く搭載しているじゃないですか?」


北上「そだねー。片舷20射線で両舷40射線。親友の大井っちと組むと色々やりやすいんだけど」


吹雪「きっと、単独でサイドキックして敵の周りを旋回しながら魚雷をありったけ叩きつけることくらいわけないですよ」


北上「えっ? 何その動き。ぶっちゃけキモイんですけど………」


吹雪「おかしいですか?」


敷波「自分ではどう思ってんのさ?」


吹雪「…………いろいろあったんですよ、ここで」


妙高「ま、まぁ取り敢えず、これから宜しくお願いします」


吹雪「お、お願いします!」


足柄「カツが揚がったわよー」


提督「まだ作ってたのかお前………」


足柄「あら、手伝ってくれてもいいのよ? もう残り少ないし」


提督「もう終わったのか!?」


足柄「空母が増えたし……」


提督「料理苦手なのを知ってて言ってんのか?」


足柄「何が苦手よ。私より上手なくせに」


赤城「カツを貰っていきまーす」


提督「作れるものが少なすぎるんだよ。味はともかく、直ぐに飽きがくるだろう?」


足柄「作れるものを適当に組み合わせてみたら? 」


加賀「カツを頂きに来ました」


翔鶴「私も頂きます」


瑞鶴「じゃあ私も!」


翔鶴「じゃあ少し待っててね、瑞鶴」


提督「例えば?」


足柄「そうね…………、さっき作ってたビーフシチューがあったでしよ?」


提督「ああ、確かに作った。材料もまだ残ってる」


足柄「それをソースに使ってみたり?」


提督「ああ、それはいいな。早速作るとしよう」


扶桑「すいませーん! 玉ねぎはどこにありますかー!」


提督「すまん! こっちで使ってる!」


扶桑「わかりましたー」


山城「トマトのホール使ってるの誰ー!」


提督「それもこっちで使ってる! って、お前ら何作ろうとしてんだ?」


扶桑「トマトスープです! 先ほど作ったものがなくなってしまったみたいで! 」


提督「足柄、お前あいつらに場所を教えてやれ。まだ幾つか残ってるだろう?」


足柄「空母共を甘くみすぎてたわね………」


提督「まったくだ」






妙高「オフィスの食堂とか、大学の学食ってこんな感じですよね…………」


赤城「当番制でやっているみたいですよ? 厨房は」


暁「いつか暁も、作れるようになれたらなぁ………」


妙高「それじゃあ、明日にでも申請してみましょうか? 一緒に作って上手になれるように」


暁「いいの!? やる! やります!」






・・・・・・・





数時間後、歓迎会は無事終了。皆が満足して部屋に戻る。



山城「はぁ…………やっと終わったわ」


提督「皿洗いが残ってるぞー」


山城「不幸だわ…………」


扶桑「山城、頑張りましょうね」


山城「もちろんです! お姉様!」


提督「ああそうだ。数日のうちに、早くて明日にでもお客が来るからな?」


扶桑「どなたですか?」


提督「うちに来るお客は1人しかいないだろ?」


扶桑「あらあら、1年ぶりかしら?」


山城「どうでしたか?」


提督「うん、まぁ電話で聞いた限りでは健康そうだったな」


足柄「え? 誰よ?」


提督「あぁ、お前が来たのは今年か。まぁ、来てからのお楽しみだ」


足柄「 ? 」







・・・・・・





数日後、リンガ泊地に1人の男が複数の艦娘を連れてやってきた。



男「失礼、君たちの提督に合わせてもらえないかな?」




男は偶然近くにいた艦娘に声をかける。それは吹雪だった。




吹雪「どちら様ですか?」


男「あぁ、ここの提督の知り合いでね。事前に話しは通してあるんだ」




その男は、歳は30代。若々しくも落ち着いた雰囲気を漂わせる風貌だ。




吹雪「あれ? どこかで見たような…。あの、失礼ですけどお名前は………?」


男「僕は日本海軍の大将。佐世保鎮守府所属の『梶原 大輝』だ。君は、特型駆逐艦の吹雪だね。話には聞いているよ」


吹雪「佐世保鎮守府の梶原大将………あぁ!! もしかてあの『佐世保の梶原』って噂されてた!?」


男「あっはは。そんな風に呼ばれたのは久しぶりだなぁ」


足柄「どうしたの吹雪? そんな大声出して」


吹雪「あっ! 足柄さん! 良いところに! 見てください! 佐世保鎮守府の梶原提督ですよ!!」


足柄「えぇっ!? うそ、本物!?」





噂は次々と広まっていき、艦娘たちが一斉に集まってくる。その話も終いには提督の耳に入り………。




提督「何事だ?」


扶桑「提督、お客様がお見えになりました。ですが………」


提督「あぁ……大体分かった。仕方ない、こちらから出向こう」


扶桑「では、お伴します」






いつの間にか身動きが出来ないほどに艦娘に囲まれていた梶原提督 (以下大将) 。その様は女性に揉みくちゃにされるトップアイドルだ。




大将「ちょ、ちょっと困るよ君たち。あれ? 僕の連れてきた娘たちは?」


提督「お前たち! 客人に無礼だぞ!! ましてや彼は海軍の大将だ!」



その一声で、艦娘たちは我に返ったように静まり返る。



吹雪「た、大変申し訳ございませんでした………」


大将「大丈夫だよ。次からは勘弁してね? …………あぁ、そこに居たのか」


伊良湖「随分と楽しそうでしたので」


明石「止めるのも何だか野暮だなぁと思って」


大淀「少し辺りを彷徨いてました」


大将「奔放だなぁ君たち。というかいつの間にそんな連携技を覚えたのよ?」




大将は不満こそ言え、咎めるつもりはない様だ。案外言い寄られている事については満更でない顔であったのは伏せておこう。





陽炎「ねぇ、何で海軍の大将がこんなとこに? しかも艦娘を連れて」


川内「さぁ? でも提督の公認で来ている人だし」


赤城「は、初めて会いましたよあの人に………」


加賀「えぇ、噂はかねがね聞いていましたが、いざ会ってみるととても威風堂々としているお方ですね。大将と呼ばれるだけあります」


青葉「でもあの人、何か何処かで見たことがあるような………」


大将「久しぶりだね、兄さん」


提督「3年ぶりだな、弟よ」


大将「皆さん方も、お元気で何よりです」


扶桑「貴方もお元気そうで」


翔鶴「提督には話を通しておくようにって進言したのですけど………」


鳳翔「騒がしくなってしまって、申し訳ありません」


大将「いえいえ、兄さんらしくて良いですよ」



衣笠「兄さん………?」


北上「弟…………?」



一同「えぇーーーーー!?!!!?!」




拡声器を使うより大きな驚嘆の声が泊地全体に響く。




吹雪「えっ!? 梶原提督って、私たちの提督の弟だったの!!?!?!」


青葉「何ですと!!?!? これは一大スクープですよ!!!!!」



提督「………すまんな、騒がしくて」


大将「大丈夫だよ、兄さん。でも、少し重大な話があってね。兄さんと君たちだけで話がしたいんだけど……」


提督「分かった。場所を設けよう」





提督は大将を建物の中へと案内する。それに釣られて艦娘たちも一斉に動き出す。大名行列と言っても過言ではないほどの盛大さである。




瑞鶴「ねぇ、提督さんの弟ってそんなに有名人なの?」ヒソヒソ


吹雪「知らないんですか!? 類い稀な戦略で若くして少将まで成り上がって、次期元帥候補の筆頭と言われるほどの大人物ですよ!」ヒソヒソ


瑞鶴「へぇ………」


提督「瑞鶴、早く部屋に入ってこい」


瑞鶴「あ、はーい!」


提督「お前たち、聞き耳立てたら例の処刑ルーレットを回すぞ」


一同「すみませんでしたやめて下さい!!」




提督の一言で集まっていた艦娘が一斉に散り散りになる。




提督「すまんな。それで、話というのは?」


大将「3つあってね。まず1つ目から」


大将「実は、父さんが一月前に亡くなったんだ………」


提督「っ!? ………死因は?」


大将「老衰だって。結構長生きしたしね。母さんには僕から伝えるってことで、兄さんに連絡がいかないようにしていたんだ」


提督「そうか………。2つ目は?」


大将「父さんが死んだことにも関係しているんだけど、実は海軍を除隊しようと思ってね」


提督「何故だ!? まさかあいつが?」


大将「いや、そうじゃないよ。実は父さんが死んでから、母さんも倒れちゃってね。その介護をしようと思っているんだ」


提督「………3つ目は?」


大将「兄さんが追ってる男、何ヶ月前には少将になって、今は中将に昇級した。第3艦隊に所属になって、そろそろやばいかもよ?」


提督「元帥がそんな事をするとは思わないが……」


大将「噂によると、周りの提督たちを使って、自分を中将にする様に差し向けたらしい。反対を押し切ると、それは元帥閣下の個人的な感情にしかならないから、仕方なくって状態だ」


大将「元中将の行方も分かってなくて、島原のせがれに殺されたとか、賄賂が働いたとか、色々な噂が一人歩きしている」


大将「それと、兄さんに改めて注意して欲しいんだけど、兄さんは日本の軍によって全面的に指名手配されている。これもあいつの差し金。兄さんを徹底的に追い詰める気だ」


提督「ついに憲兵隊、陸軍も奴の手中か。依頼主がまた一つなくなったか」


大将「冗談言ってる場合じゃないよ。せめて憲兵隊だけでもどうにかしないと」


提督「弟よ。俺を、俺たちを誰だと思ってる?」











提督「俺たちは、『傭兵かぶれのごろつき』だぞ?」









提督「ごろつきみたいに蔓延って、傭兵ごっこで生きていく。好きな様に生きて、好きな様に死んでいく。それが俺たちなりの傭兵の生き様だ」


大将「好きな様に生きる………か。感動的だけど、それは唯の傲慢じゃないのかい? 実際に戦うのは艦娘たちだ」


扶桑「ここまで来れば、一蓮托生ですよ」


鳳翔「3年前、助けて頂いた時にも話したはずですよ? 何が何でも提督について行くって」


翔鶴「そうして私たちはここを作ってきたんですから」


瑞鶴「そもそも、自分たちが好きでやってなきゃ………」


山城「こんな馬鹿にはついて行きませんよ」


提督「だ、そうだ。聞いたかい ”大将” さん。こいつらは俺が強制したわけでもない。自分たちの好きな様に生きてんだ」


大将「…………あっはは。いやいやいや、少し見ないうちに皆も兄さんに似てきちゃったね。本当に兄さんの艦隊は面白いね」


提督「そらどうも。どうだ? 納得いく答えになったか?」


大将「もちろんだよ。今回は兄さんにそれを知ってもらうことと、承諾を得ようと思ってね」


提督「…………一ついいか? 今の中将、元帥の息子は、お前がいなくなれば必ずその座に喰いつく。あいつは何れ海軍をも手中に収めようとするぞ。そこについてはどう思ってる?」


大将「確かに、僕もそこが気になっている。だから今回遠路はるばるやって来たわけなんだけど………」


提督「元帥には、既にその旨を伝えてあるのか?」


大将「もちろん、閣下は承諾してくれたよ。でも、時期は決めていないんだ。だから兄さんに聞いておきたかったんだ」


提督「………3ヶ月だ。あと3ヶ月は続けてくれ。その間に、戦力を整える」


大将「3ヶ月…………わかった。それまでは、こっちも今まで通りに動いているよ。なら、兄さんにうちから何隻か使ってもらおうと思ってね。いま連れてきたんだ」


大将「まずは彼女、軽巡洋艦の大淀だ。もともと彼女は大本営と各提督との仲介役だったんだけど、兄さんが除隊してから翌年に、彼女も艦娘として戦うことになったんだ」


大将「次に彼女、工作艦の明石だ。彼女は艦娘の艤装の改装、応急的だけど、修理も可能だ。技術面では彼女に勝る艦はいない」


大将「最後は給糧艦の伊良湖。日本海軍の所有する給糧艦の艦娘は、間宮とこの子だ。出来れば間宮を譲渡したいけど、生憎その子は横須賀の専属でね。まあ、腕は勝るとも劣らないから安心してくれ」


提督「それで? そいつらを俺に使えと?」


大将「もちろん、本人も閣下も承諾済みだ。あとは兄さん次第ってところだよ」


提督「そうか……………」


扶桑「提督、軽巡洋艦大淀を用いるのは、お止めになられた方が宜しいかと」


鳳翔「えぇ。彼女は1番彼らに近い存在です。それを用いるのは、私たちの手の内を明かすことと同じです」


翔鶴「間者や偽報、そういった場面では使えますが、不利益が多すぎます」


瑞鶴「私も翔鶴姉ぇに賛成。そこまでお人好しじゃないよ」


山城「私も、止めておいた方がいい…………と思う」


提督「というわけだ。生憎、私もこいつらと同意見だ、本人を前に言うべきではないかもしれないがな」


大将「相変わらず兄さんはきっついね………」


大淀「では、取引をいたしませんか? 私の出す ”商品” を気に入って頂けたなら、私たちの提督の考え。つまり、私たちをここに残すというのは? 私どもの採用試験と思っていただいても構いません」


提督「取引か…………面白い。何を天秤にかけるつもりだ?」


大淀「以前から、あなたは内通者がいると疑っていましたね?」


扶桑「え!? 」


瑞鶴「提督さん…………それ、本当なの?」


提督「…………まあな。それで? その内通者をどうすると?」


大淀「私は、その内通者の正体を知っています。ここリンガ泊地から横須賀に、秘匿回線を使った無線通信が行われていました。最後の通信は、数ヶ月前。心当たりは?」


提督「………ある。それがどうした? そいつを捕まえてくるとでも?」


大淀「ええ。今ここで、誰かをお話しします。それを知りたければ………という事です」


提督「 ”そんな” 物で私に取引を持ちかけるか。話にならんな」


大淀「それと同時に、今後展開可能な策を3つほど、持ち合わせています。そちらの提案を、と」


提督「忌憚なく話せば、私は既に間者の正体は勘付いている。その後に有効な策も、全てな。だが、どうだ? 今ここで私にだけでも話してみては? 採用試験の材料として用いたい」


大淀「………わかりました。では、失礼してーー」






・・・・・・






大淀「………以上が、私の ”商品” です。いかがでしょうか?」


提督「………弟よ。ありがたく、彼女らを使わせてもらおう」


扶桑「て、提督!?」


提督「ただし、大淀。お前には2隻の監視役をつける。まぁ、僚艦だと思えばいい」


大将「大淀、因みにどんな策を講じたんだい?」


提督「………話してやりなさい」


大淀「私が献策したのは3つ。乙・丙・丁です」


大淀「乙は、今すぐ間者を捕らえて連中に送り返すなり何かしらの形で、彼らの考えは読まれていると諭させるために、送り返すのです。これによって、相手方の戦意喪失を狙えます。ですか、我々が手を汚さなくてはならない、日に油を注ぐ行動にもなるので勧めることはできません」


大淀「丙は、間者を逆手に利用して策と為す方法です。偽報でも流せば役には立ちます。手を汚すことはありませんが時期の見極めが非常に困難で、多くの利益又を得るか、または多くの損失を受ける場合があります。ハイリスク・ハイリターンの策であり、一長一短です」


大淀「丁は、泳がせる。聞こえはいいですが、何もしない事と変わりません。臨機応変に対応が可能ですが、首輪をつけずに虎を飼うのと同じ行為ですので、小さな利益を取る、あるいは大きな損失を被ることになります。こちらもお勧めはできません」


大淀「ですが、どの策も十中八九間違いなく成功するので後は今後の展開を踏まえて提督がご決断なされば良いのです」


翔鶴「………」


扶桑「………」


瑞鶴「それって………提督さんが納得したってことなの?」


提督「あぁ。私の講じた策と遜色ない」


大淀「気に入っていただけた様で、何よりです」


提督「しかし、何故お前は条件を出してまで此処に残ろうとした?」


大淀「私 ”も” 彼らのやり方には我慢ができないんですよ。以前に、色々とありましてね」


提督「なるほどな。大方、余計な発言でもしたんだろう?」


大淀「…………貴方も相当な方ですね」


大将「ま、まぁお互いが満足したようで何よりだよ。それじゃあ僕はこれで」


提督「わかった。お前の艦隊、確かに私が預かった」


大将「それじゃあ皆さん、お元気で」


扶桑「えぇ、お待ちしています」


提督「お前たち、見送ってやれ」




扶桑を除いた4隻が、大将を見送る形で部屋を後にする。大将が連れてきた艦娘も同行するそうだ。部屋に残った提督と扶桑は……………。






提督「さーて……………」


扶桑「…………」


提督「扶桑、彼女らに手配してやってくれ」


扶桑「…………」


提督「何だ? 言いたいことがあるならはっきり言え」


扶桑「別に、何でもありません……」


提督「納得できないと言ったところか?」


扶桑「わざわざ危険な橋を渡る必要もありません。海軍との仲介役を用いれば、万が一の時はどうするおつもりですか?」


提督「確かにそうだ。だが、私が大淀を用いなければ、彼女はどこへ行くと思う?」


扶桑「…………横須賀鎮守府ですか?」


提督「そうだ。それに、彼女の才は並外れている。現に私の考えを言い当てただろう? それ程の者が敵方についてしまっては、それこそどうするつもりだ?」


扶桑「……………」


提督「彼女を過信するわけにもいかないが、かといって手放したくはない。その微妙な板挟みに苦心しているところだ」


扶桑「……………わかりました。早速手配します」


提督「頼んだ。ところで………」


扶桑「まだ何か?」


提督「………また、歓迎会を開くのか?」


扶桑「一応手配させますが? あの、何か?」


提督「いや、そろそろ自粛していきたいと思ってなぁ………」


扶桑「………善処する様に伝えます」







・・・・・・







数日後






提督「諸君、喜んでくれ。新しい依頼が舞い込んできたぞ」


山城「喜べ………って、別に楽しみでもないですし」


提督「以前海軍から頼まれた偵察の依頼で、紅海に深海棲艦が集結していると報告しただろう?」


山城「………無視ですか」


提督「そこの深海棲艦を潰す手助けをしてほしいという依頼だ。それを山城、君に頼みたい」


山城「あの、これから姉様と出掛ける用事があるのですが?」


提督「扶桑には常に大淀と共にいるように命じてあるはずだか? 」


山城「…………」


提督「残念だったな。さ、行ってこい」


山城「………でも、姉様と一緒に出撃できないなら行きません」


提督「………私もそうさせたいのは山々だが、生憎扶桑は手を外せなくてな。代わりと言っては何だが、同行させる艦はお前の自由に選んでもらって構わない」


山城「大体、何で私なんですか?」


提督「インド洋の偵察をしたのはどこの誰だ?」


山城「………わかりました。じゃあその時と同じ編成でお願いします。そっちの方がやり易いし」


提督「わかった、後はこっちで伝えておく。旗艦は頼んだぞ」


山城「はいはい」





山城は部屋を後にし、それを見届けた提督は3隻の艦娘を呼び寄せる。前回、山城とともに紅海へと出立した艦娘だ。




提督「というわけだ。紅海で発見された深海棲艦を叩いてきてほしい」


瑞鳳「えー、あそこまで行くの結構大変なんだからぁ」


祥鳳「……………」


名取「あの………前よりかは早く戻ってこれますか?」


提督「そうだな。今回は殲滅が主な目的だからな。偵察とは違って、ゴールも定められている」


祥鳳「あの、私は確か別の艦隊だった様な気がするのですけど………?」


提督「生憎、前回編成した艦隊の通りに行かなくてな………。頼まれてくれないか?」


祥鳳「………それなら仕方ないですね。わかりました」


提督「今回の旗艦は山城だ。各自、山城から指示を受けてくれ」


一同「わかりました」





一同を部屋から出し、提督は更に4隻の艦娘を呼び寄せる。何でも多方面から依頼が来たため、一気に消化するつもりらしい。





神通「神通以下4隻、失礼します」




神通が連れてきたのは、山雲、朝雲、不知火と、以前の偵察任務のカリブ海方面を担当した艦隊である。




提督「実は、ラバウルの基地から依頼が来ていてな。近海に深海棲艦の偵察部隊が徘徊していて、そいつらを殲滅して欲しいというものだ。戦闘は最小限に留めて欲しいという無理難題を吹っかけてきてな」


不知火「最小限でよろしいのですか?」


提督「………お前は何をやらかそうとしている?」


不知火「いえ、別に」


山雲「ラバウルですか〜。近くて〜、内容も楽で〜、良いですね〜」


朝雲「旗艦は神通さんなの?」


提督「もちろんだ」


不知火「司令、一つお願いがあるのですが」


提督「何だ? 陽炎も同行させろか?」


山雲「山雲たち〜、敵を見つけるのが苦手なの〜。如何してか分かる〜?」


提督「いや、知らん」


朝雲「じゃあはっきり言うわ。電探を造りなさい。それで私たちに載せなさい」


提督「」( ´・3) ヒョロロ〜〜〜♪


不知火「無視しないでください。不知火たちにとっては死活問題ですので」


山雲「それに〜、音がとっても掠れてますよ〜?」


朝雲「真面目に聞いてくれない?」


提督「………わかった。次回から使える様にしておく。今回は勘弁してくれ」


不知火「………まぁ、良しとしましょう」


神通「では、只今より出撃いたします」


提督「頼むぞ。作戦中に何かあれば連絡をくれ」






次に提督は、また別の4隻を呼び寄せる。ビスマルク、熊野、足柄、阿武隈だ。


ビスマルク「提督、このビスマルクに何用かしら?」


提督「実は、ブルネイ近くに深海棲艦が集結していると数ヶ月前から報告があってな。今まで放置していたが、これ以上は看過できん。ブルネイ泊地からも依頼が来るようになってきたもんだから、様子見がてら、突っついてきてくれ」


熊野「対応が少し遅いのではなくて? 見つけてから直ぐに叩いておくべきですわ」


提督「それは尤もだが、色々と問題が降りかかってきてな。中々対処できなかったのだよ。それに、此処は海軍ではないことは知っているだろう? 」


提督「連中の真似事をしても報酬は出ない。我々はただ資源の浪費をするしかなくなってしまうのだよ。だから今まで出撃は控えていたんだ。言い訳にしか聞こえないがね」


阿武隈「自覚はあるんですね」


足柄「依頼として潰しにいくなら報酬が入るから、行ってやってもいいってことでしょ?」


提督「そうだ。それと今回は多方面にわたって艦隊を出撃させている。ラバウルに向かった艦隊があるが、万が一の折にはそちらに加勢してもらう場合もある。作戦中に何かあれば無線で連絡をくれ」


阿武隈「あたし的にはOKです!」





全員が部屋を後にし、提督はひとつ気づいたことがあったのだ。そう、本日この日は殆どの艦娘が出払ってしまうのだ。第1艦隊の面々も、新しく入ってきた艦娘の演習に当てているので、話し相手もいないのである。よって………




提督「うん、暇だ。何をしたものか………」





誤解を生まない様に今ここで伝えておこう。実はこの提督、普段はそっけない態度を取っているが、実は元来茶目っ気のある人物なのである。つまり、仕事とプライベートは別枠人間と言うわけだ。


リンガ泊地最初の5隻と第1艦隊の面々が提督と親しい様に見えるのは、提督のこの性格を知っているからなのである。勿論提督もそれを吐露する様な人間では無いので、どうも気難しい人間と周りからレッテルを貼られてしまうのである。



提督「……………久々に見て回るとするか」









・・・・・・






一方、リンガ泊地のあらゆる所で、第1艦隊の面々が新しく入ってきた艦娘に色々と知識を叩き込んでいる所だった。


扶桑と翔鶴は、大淀、伊良湖、明石と共に多くの場所を転々とし、ここの運用についてを教えている所だ。


臨時に建てられた弓道場では鳳翔と瑞鶴が赤城、加賀に。


鈴谷と川内、陽炎はその他の重巡や軽巡、駆逐艦の教導を演習場にて行っている所だ。


提督は弓道場へと向かっていた。道場に近づくと、2つの声が大きく響き渡っていることに気づく。鳳翔に話を聞くと、どうやら瑞鶴と加賀がお互いにいがみ合っているようであった。何度か咎めたようだが、それでも繰り返すことに半ば呆れている状態だ。


鳳翔「どうにかしていただけませんでしょうか? 私ももう疲れてしまって………」


提督「仕方ない。久々に提督らしいことでもするか。おい、お前たち!」


瑞鶴「あ、提督さん! ちょっと聞いてよ! この青いのさっきから細かいこと五月蝿いのよ! 私のがこの泊地長いってのに」


加賀「まったく、いつまで経っても五航戦は変わらないのね。頭まで七面鳥に成り下がって」


提督「待て待て! とりあえず座れ。そして何が原因でこうなった?」






瑞鶴曰く、加賀から「射法がなっていない」と指摘された所から始まったようである。一航戦としては指摘せざるを得ないが、ここでは瑞鶴の方が日が長く、しかも海軍では無いので今までとは全てが変わってしまっている。そんな胸中で指摘したのだが、瑞鶴としては指摘を受けるということ自体が気に入らないようなのである。




瑞鶴「どうよ? 提督さん。明らかに向こうが悪いでしょ!?」


加賀「私は当然のことをしたまで。五航戦に下げる頭はありません」


提督「………鳳翔、赤城。いつもこうなのか?」



そう口に出す提督からは、とてつもない怒りと呆れの念が感じとられる。リンガ泊地で一番怒ると怖い人物は案外この提督なのである。


鳳翔「は、はい! 」


赤城「ま、間違いございませんです、はい!」




この威圧感からは流石の鳳翔もたじろぐ程であった。





提督「はぁ………。はっきり言えば、お前たちはどっちもまだまだ子供だ。鳳翔、使っていない弓と矢を貸して貰えないか? 」


鳳翔「はい………構いませんが。……………どうぞ」


提督「すまん。いいか? よく見ていろ」



提督はそう話すと、おもむろに弓を構え、矢を番え、弦を引き、矢を放つ。そこには射法も残心さえもあったものではない。


だが、その矢は的の中心にある円の淵を捉えている。続いて二の矢三の矢を射るが、そこでも先ほどと同じように作法も何もない。


結局5つの矢を射ったが、4つの矢が円の淵を捉えて円を囲むようにし、最後の5つ目はその真ん中。つまり的の中心を捉えているのだ。




瑞鶴「おぉ…………」


加賀「……………」




次に提督は5つの矢を用意し、矢を放つ。だが今度は先ほどと違い、鳳翔や加賀らが用いる射法に基づいている。


提督は矢を5つ放つが、全てが的に当たるものの先ほどと同じようにはいかない。



加賀「それがどうしたと言うのですか?」


提督「これを見て、お前はどう思う?」


加賀「……………」


瑞鶴「……………得手不得手がある?」


提督「ま、それもあるが……。他には?」


加賀「型に囚われすぎるな、ですか?」


提督「私の言いたいこととは違うがそれもある。お前の口から出たことには驚きを隠せないがな」


赤城「鳳翔さん………ここの提督はあんなことが出来るんですね」


鳳翔「提督曰く、「君子の嗜みだ。護身術として活かす程度は心得ている」なんて言ってましたよ? 」


赤城「へぇ〜」


提督「お前たちは、互いに突っ張りすぎだ。自分がここでは先輩だから。産まれたのは自分が早いから。それくらいで争うのは小学生か中学生くらいだ」


瑞鶴「…………」


提督「今のお前たちには私の姿はこう映っただろう。『作法に則ろうとしなかった』と。そこしか見えなければ、今すぐ弓を置いてここから出て行くことを勧める」



赤城「随分と厳しいですね」


鳳翔「ここでは1番恐ろしい方ですからこの人」


提督「………鳳翔、赤城。お前たちには私はどう映る?」


赤城「随分と恐ろしい方だなぁと………はっ!」


提督「………お前は後でルーレットをプレゼントしよう。鳳翔は?」


赤城「ウァイ」(^q^)


瑞鶴「 (声にならない声を出すなんて………。余程堪えたみたい………) 」


鳳翔「私が言ってしまっては、2人の為にはならないと思うのですが……」


提督「構わんよ」


鳳翔「………提督は提督なりのやり方があります。型に縛られずに、貴方なりのやり方で的を射ています。それもまた、やり方の1つであると私は思います」


瑞鶴「同じことじゃない。得手不得手があるってことでしょ?」


提督「そうだ。だがお前はそうであると ”理解しただけ” だ。大切なのはその先、理解してそれを ”認める” 事なのだよ」


瑞鶴「………理解するだけじゃなくて」


加賀「………認めること」


提督「お前たちお互いを理解している。ここでは長いが、自分が後輩であること。ここに来たのはつい最近だが、自分が上であること。お前たちはそれを ”認める” ことができなかった。そこに辿り着くだけで、お前たちはより上に行くことが出来るはずだ。先輩、後輩として。戦友として。好敵手として」


加賀・瑞鶴「………」


提督「私は、お前たちに同じ道を踏んで欲しくはないんだ。私の我儘だがね」


鳳翔・赤城「………」


提督「………っと、柄にもないことをしてしまったな。まぁ、変な奴が変なことを口走ったと思うくらいで構わない。失礼するぞ」



後日、瑞鶴と加賀の仲が近づいたことにより、翔鶴から「何てことをしてくれたんだ」と言わんばかりのどぎつい視線を向けられるようになったのはまた別の話。




その後提督は執務室の奥にある自身の部屋へと戻り、趣味の時間へとあてるようだ。そこで提督が部屋の押し入れから引っ張り出してきたのは、なんと琴であった。


その琴を執務室の机に置き、弾こうとしたその時に扶桑が執務室へと入ってくる。


扶桑「提督、大淀並びに明石、伊良湖に一通り教え終わりましたが………」


提督「おぉそうか。いま彼女たちはどこに?」


大淀「ここにいます」


明石「提督、それ何ですか?」


提督「何と言われても………琴としか答えられんが」


伊良湖「聴いてみたいですね…………」


提督「うっ…………」


鳳翔「提督、そろそろ終わりにしても………あら、琴ですか? 久しぶりに拝聴したいですねぇ……………」


提督「ぐぅ……………」


鈴谷「提督ー、終わったよん。ありゃ? 琴? 提督って琴弾くんだぁ……。へぇ………」


川内「なになに? また何かやろうとしてるの?」


陽炎「あぁ、琴か。久々に聴きたいねー」


提督「お前ら揃いも揃って……………」


川内「いいじゃん偶には」


提督「…………よし、だったら交換条件だ!」


扶桑「何でしょうか?」


提督「今まで聴こうと思って聞きそびれていてな………」


川内「何の話? 」


提督「いや、呉に殴り込んだ時に川内は誰に化けたんだろうかと………」


陽炎「ぷっ………今ここで引っ張り出してくるのは反則だって………ぷぷぷ………」


扶桑「川内さん、お願いします」


川内「はぁ!? 冗談じゃあないよ!!」


陽炎「司令、司令ぇ」チョイチョイ


川内「そこ! 何しようとしてんのさ!!」


陽炎「や、やめれくらはい………今度はかれーぱうあうになりゅ〜」(訳:やめて下さい、今度はカ○ーパソマソになる〜)


伊良湖「やめて、それ以上いけない」


大淀「何を言っているの?」


伊良湖「やっておいた方が良いかなと思ったので」


提督「なら、それまでだ! はいはい撤収!!」


陽炎「早くいわないとひれいがやめひゃうからぁ〜」


扶桑「ひっそりと陽炎さんが耳打ちするくらいなら問題ないでしょう?」


川内「うぅ〜〜。…………わかった。少しでも大きな声だったらその瞬間海の藻屑にしてやるから」


陽炎「司令、実はね…………」


提督「ふむふむ。なるほどな…………」


扶桑「それでは、条件は締結ということでよろしいですね?」


提督「不本意だが仕方がない。だが、………ふふっ」


川内「……………」カチンッ


提督「もっと別の者にする事は出来なかったのか?」


川内「みんなー!! 提督が今から琴を弾くってー!!」


提督「あっ! おい、馬鹿! やめろ!!」


鳳翔「今のは自業自得です。諦めてください


提督「………はぁ」




結局、現在リンガ泊地に在中の艦娘全員が集まってくるという始末。執務室に大人数は入らないということで、半ば無理矢理食堂へと連れて行かれる提督であった。




提督「なぁ、これって何時までやらねばならんのだ?」


扶桑「もちろん、提督がご満足されるまでですよ」


提督「お前…………随分と厳しくなってきたな」


扶桑「さあ、誰に似てしまったんでしょうねぇ?」


提督「こいつ………」


瑞鶴「はいはい、拍手拍手!!」


提督「人の安らかなひと時をこいつらは…………」




この時提督は、今年1番怒りをあらわにした瞬間だと後に語っていた。




提督「なら一曲だけだ。弾くぞ」




半ば躍起になっている提督であるが、もう諦めがかかっているようであり、渋々琴を奏でる。


因みに、ここの艦娘は提督の持っているものを ”琴” と呼んでいるが、実際には ”古琴” と呼ばれるものであり、古くから中国で嗜まれているもので、無形文化遺産に正式登録されているものである。日本でも、あの菅原道真が嗜んでいたこともある、由緒あるものだ。


提督が奏でたのは、”広陵散” と呼ばれる古琴で代表的な曲である。提督の弾く古琴の音は時に優雅で艶やかに、時に激しく情熱的に響くのであった。そしてその音に皆は惹かれ、只々聞き惚れるばかりであった。


余談ではあるが、琴の音には演者の癖が出やすく、 ”親しいものであれば心中が分かる” とまで言われるとか無いとか?


そして一曲終えると、全員から惜しみない拍手を送られることになったのだ。


気がつくと時刻はもう16:00。食事の準備をすることとなった。提督はいそいそと執務室へと戻ってしまった。




吹雪「扶桑さん、どうしたんですか? そんな嬉しそうな顔をして」


扶桑「何でも無いわよ。さて、食事を作らないと。今日はカレーにでもしましょうか?」



そう言って、扶桑を含める本日の当番がカレー作りに取り掛かる。


それから3時間後の19:00から食事が始まった。料理を皿に並べている扶桑に、手伝えることはないかと吹雪が尋ねると、執務室へとカレーを届け、ついでにそこで食事を摂るように言われた。


吹雪は言われた通りに執務室へと2人分のカレーを運ぶ。扉をノックして部屋に入ると、提督は随分と暇そうにしていた。



吹雪「司令官、お食事を届けに参りました」


提督「おぉ、済まない。今日はカレーを作ったのか。………それは?」


吹雪「あぁ、扶桑さんから『提督から許しを貰えれば執務室で一緒に食べなさい』と、2人分持たせたんですよ」


提督「そうか。ならそこに座って食べてくれ。飲み物を持ってこよう」


吹雪「あ、ありがとうございます」



そこで、吹雪は疑問に思ったことを問いかけてみることにした。



吹雪「あの、先ほどのことなんですけも、何であんなに上手なのにあの時あれ程までに拒んだのですか?」


提督「あぁ…………あれか。実はな………誰にも言うなよ?」


吹雪「も、もちろんですよ」


提督「実はな、以前皆の前で…………いや、あの時も今日のように半強制的だが、弾いた時があった」


提督「その時に……扶桑が笑っていてな………。どうも馬鹿にされているようで、それ以来琴を人前で弾くのが恥ずかしくなってしまって……」


吹雪「そうなんですか………」


提督「今日も笑っていなかったか?」


吹雪「ええ、笑っていたというよりは嬉しそうな顔をでしたけど。どうしたんですか? って聞いたら、『何でもない。さて、今日はカレーを作りましょう』と言っていましたよ?」


提督「そうなのか? 私も丁度カレーを食べようと思っていたところでな。部屋にレトルトカレーがなくて些か嘆いていたところなんだが…………」



唯のカレーで嘆く中年男はどうなんだろう? まさか暇そうにしていたのではなくて、いじけていただけなのだろうか? 吹雪は困惑したが、その気持ちを抑えて更に尋ねる。



吹雪「司令官、そのぉ………、以前扶桑さんに笑われた時の夕飯の献立って憶えてたり………」


提督「もちろん憶えている。たしか………鯖の味噌煮だったか? 余りに悔しくてな………子供の意地みたいだが、確かに憶えている。まあその時も鯖が食べたかったので残さず頂いたが」




先ほど、空母2隻に ”子供だ” と大きく出た提督だが、超弩級の特大ブーメランで本人も負けず劣らずのものである。




吹雪「 (まさか扶桑さん、提督の考えが分かってたとか? だから嬉しそうにその通りの料理を作ったのかな? いやでもそんな超能力みたいなことがあるわけないし………でも付き合い長いって言ってたし、ないことも無いかも………) 」


吹雪「 (でも結局、司令官はそれを快く思っていない。むしろ馬鹿にされていると思ってるのか………。扶桑さん、可哀想だなぁ) 」




提督「どうしたんだ? 」


吹雪「いえ、何でもないです。美味しいですね」


提督「そうだな…………」



吹雪「 (扶桑さんがもう不憫すぎて………) 」グスッ







・・・・・・






数日経ったある日、提督の元に吉報が届けられる。3ヶ所に同時展開させた全ての艦隊から作戦成功の一報が入ったのだ。もちろん負ける可能性がある任務へと出撃させたわけではないが、それでもひとしおに嬉しそうである。


そしてその連絡から数時間後、全艦隊が帰投。いつもの通り報告会が行われた



提督「では、各々報告をしてくれ。聞いたところによると、神通率いる第3艦隊では少し一悶着あったと聞いているが、その他の艦隊には大事なかったか?」


山城「何もなかった………はずです」


ビスマルク「ちゃーんと突っついてきたわよ。勢い余って海底に沈んでしまったけどね」


提督「そうか。では神通、何があったか聞かせてもらえるか?」


神通「はい。実は--」




時は少しさかのぼり、ラバウルへと急行している時のことだ。






神通「そろそろ到着しますよ。戦闘準備に取り掛かってください」


不知火「何か、騒がしくないですか?」


山雲「言われてみれば〜、そうね〜」


朝雲「って、あれ! 攻め込まれてんじゃない!?」



遠くに見えるラバウル基地から、爆音と共に大きな煙が立ち込めているのが見て取れる。




神通「ともかく、一刻も早く近づいてラバウルの司令官に話を聞いてみましょう」




神通らはラバウル基地に最接近し、ラバウルの司令官との通信圏内に入り込む。何度か無線での通信を試みたが応答がなく、三度目でようやく通信可能となった。



神通「リンガ泊地から参りました、第3艦隊旗艦の神通です。何が起こっているのですか?」


ラバウル提督「やっと来たか! 主力艦隊の留守を狙われ、基地が侵攻を受けている。敵は軍港並びに武器庫を爆破した。急げ! 連中を撃滅しろ!!」


不知火「主力の留守を狙われて施設を壊滅させられた? なんて無能な司令官…………」


ラバウル提督「貴様! 誰に口を聞いている!! 仮にも海軍の司令官に向かって! む、無能だと!?」


朝雲「請けた依頼は、敵偵察部隊の殲滅。現状とは全く別物よ。助けて欲しいなら、依頼の内容を変更してもらう必要があるわね」


神通「えぇ。報酬を追加で3倍ほど支払ってもらう必要があります」


ラバウル提督「貴様ら………!!!!!」


山雲「あの〜、そろそろ海域抜けちゃいますけど〜、このまま帰っていいですか〜?」


ラバウル提督「払えばいいんだろうがごろつき共! さっさと敵を沈めろ!!」


神通「依頼の変更を受諾。水雷戦隊、突撃します」








・・・・・・









神通「………といったことがありました」


提督「それで、向こうは納得したと? 口先だけで破棄したらどうするつもりだ?」


朝雲「それは大丈夫よ。だって山雲が………」


提督「山雲がどうしたって?」


山雲「山雲は〜、『今此処に来たのは短気な艦娘ばっかりだから〜、もし嘘ついたしたら暴れますよ〜』って言ったんですよ〜」


山雲「それに〜、場所も顔もしっかり覚えましたからね〜って、言っておきました〜」


不知火「全くもって心外です。暴れるだけじゃ気が済みません。せめて艦隊ごとあの司令官を沈めてやるくらいはしないと………」


提督「それを聞いて安心したよ。やっとこれで3艦隊分の電探が手に入るのだからな」


朝雲「えっ!? どういうことよ?」


提督「今回の報酬にな、金や資源の他に電探を6つよこせと言っておいたんだ。神通、お前は奴にどれほど追加させた?」


神通「………3倍を払わせるように言いました」


提督「お前も大概いい性格をしているな。3倍とは…………くくく、膨大な資材に金、それに貴重な艤装………。あの傲慢不遜な男の泣きわめく顔が目に浮かぶ」


朝雲「あそこの司令官、随分と威圧的な態度をとってるのよねぇ。頭にきて一発司令部に当ててやろうかと思ったくらいよ」


山雲「一発だけなら〜、誤射で済むかな〜、なんて〜」


提督「まぁ、ともかくだ。よくやってくれた。補給、入居の手続きも済ませてある」


山城「それじゃあ、行ってきます………」







・・・・・・









数週間経ったある日、殆どの依頼を消化してしまったために本日はとても暇な1日となってしまった。やる事もないため、自室にある書物を大量に執務室に運び、机で読書を始めていた提督。そこに同じく暇を持て余した艦娘が次々と部屋を訪れる1日となったのだ。


今回はその一部をご覧頂こう。




提督「………………」


扶桑「提督、失礼します」


提督「んー………いいぞ。……………姉妹揃ってやって来るとは、何かあったのか?」


扶桑「いえ、これから少し街へ出るので、外出申請を」


提督「わかった。………5時間だな。最近、ここらで暴漢が多いと聞いてな。注意してくれ」


扶桑「えぇ、分かっています」


提督「山城、扶桑からあまり離れる真似はするなよ。万が一が起きた時、扶桑はその……あれだ。連れて行かれるからな」


山城「わかってますよ。押しに弱いところがあるくらい。実際、客引きによく捕まっていますし」


扶桑「…………では、行って参ります」




2人が部屋を出て行くのを見届けると、視線をまた手元の本へと戻す。



提督「…………」



提督「…………………」



翔鶴「提督、宜しいでしょうか?」


提督「いいぞ、入ってくれ。………で、用件は?」


翔鶴「暇なので構ってください」


提督「そうか、さっさと部屋に戻って寝ていろ」


翔鶴「私が暇な理由って提督ご自身に責任があることを理解されていますか?」


提督「知らない。私はこれでも忙しい」


翔鶴「…………食料庫に赤城先輩を連れて殴り込みに行きますよ?」


提督「あいつは処刑の話を知っているからな。意味はない」


翔鶴「ぐぬぬ……………」


提督「はぁ…………喉が渇いた。飲み物を持ってきてくれるか?」


翔鶴「っ!はい、喜んで!!」パァァ!!





先ほどまで澱んでいた翔鶴が、その一言で嬉しそうに部屋を出て行った。単純というか、何というか…………。




翔鶴「ただいまお持ちしましたぁ〜」


提督「ん、早いな…………」


翔鶴「 ♪ 」ニコニコ


提督「…………」


翔鶴「他に何かお手伝いできることはありますか?」ニコニコ


提督「じゃあ、買い出しを頼んでもいいかな? ペンに使うインクが切れてしまってね。少し多めに渡しておくから、帰りに好きなものでも買ってくればいい」


翔鶴「わかりました。いつものでよろしいのですね?」


提督「そうだな、頼む」


翔鶴「承りました。では、行って参ります」




翔鶴は先ほどとは比べ物にならないほどの笑顔で部屋を出て行く。




提督「よし、これで邪魔者はいなくなったな」




あまりにも最低なやり方であった。




提督「この本前に読んだなぁ………………」



またまた部屋にノックの音が響き渡る。




鳳翔「失礼します………。提督、大淀さんからの情報で、今日未明に舞鶴鎮守府に深海棲艦が侵攻。撃退に成功したものの、被害は甚大とのことです」


提督「舞鶴の司令官は? 存命か?」


大淀「現在は、意識不明の重体だと言われています。話によれば、膵臓付近まで砲弾の破片が食い込んでいるそうです」


提督「そうか…………」


大淀「……………首謀者の1人なのですか? その方は」


提督「海軍はころころと人事を変えるところがあるのでな、私にもわからん」


大淀「……………名前は、『サギタニ ハジメ』と呼ばれているそうですが?」


提督「サギタニ………あぁ、『鷺谷 一』か。奴は第9艦隊の司令官だったな。階級は少尉だった男だ。まぁ、詳しい話は別の機会に聞こう。私はこれでも忙しい」


鳳翔「わかりました。では行きましょう」


大淀「失礼しました」





提督「知らぬ間に、残りはあいつを入れて3人になったのか………。島原の糞餓鬼と、鷺谷。そして、箕島の嬢ちゃんか…………」






吹雪「司令官、よろしいでしょうか?」


提督「構わんよ。入りたまえ」


吹雪「あの…………暇なので構ってください」


提督「……………全く、うちは幼稚園かっつーの」


吹雪「本当は鈴谷さんと出掛ける予定だったんですけど…………。急に別用が入っちゃったって、鎮守府出て行っちゃったんですけど………」


提督「…………許可を出した覚えがない。あいつはルーレット決定だな。にしても全く変わらず奔放な奴だ」


吹雪「………………」


提督「実は、これより以前に翔鶴が訪れていてな。その時は丁重にお帰り願ったんだが、その後にお前を受け入れたとあれば贔屓をしてると見られる」


提督「どうしたものかな……………」


吹雪「なら、司令官の読んでいる本を読ませて下さい。色々と勉強したいなぁ……….なんて…………」


提督「……………構わんよ。好きなのを持っていくといい」


吹雪「あ、有り難うございます。じゃあ、これで…………」


提督「どれ………ほう、源氏物語か」


吹雪「以前から読みたいと思っていたんですけど、中々読む機会がなくて………」


提督「いいぞ。持って行きなさい」


吹雪「あの………ここで読んでいてもいいでしょうか…………?」


提督「…………どうぞ。ご自由に」


翔鶴「提督、ただいま戻りました」


提督「ご苦労。助かったよ」


翔鶴「…………私を追い出しておいて駆逐艦の娘には構うんですね………酷いです」


提督「だから余分に預けておいて自由にしてくれと言っただろう? 何も買わなかったのか?」


翔鶴「これ、領収書とお釣りです」


提督「うむ、確かに」


翔鶴「では、部屋に戻りま--」


提督「ちょっと待った。領収書の日付が違うが?」


翔鶴「………………あぁ! 間違って渡してしまいました。こっちでしたね。では、私はこれで--」


提督「これも日付が違うぞ?」


翔鶴「………………」


提督「しょ〜うか〜くさ〜ん? どういうことで〜すか? 何か買ってもいいとは言ったが、自分の物にしていいとは言ってませんけど?」


翔鶴「………………」


提督「そうかそうか、瑞鶴!!!」


瑞鶴「提督さん、呼んだ?」


吹雪「 (い、いつの間に………) 」


提督「翔鶴が買い出しの釣りを着服した疑いがある。何時ものだ」


翔鶴「い、いやだいやだ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい〜!!!! それだけはやめてぇ!!!!」(涙目)


提督「今日は観客もいるからな。どうなるか楽しみだ」


吹雪「 (えっ? 観客って私のこと!?) 」


提督「吹雪、この2つのスロットを止めてくれ」


瑞鶴「うわぁ〜…………今回はスロットだってよ翔鶴姉ぇ」


翔鶴「嘘!? 嘘ですよね!? 提督?」


吹雪「…………はい、38ですね」


提督「よし! スロット3と8ィ!! 瑞鶴、逃げないようにしておけ」


瑞鶴「あいあいさー」


翔鶴「ね、瑞鶴。こんなこと無駄だと思うのよ。だから私と一緒に外に出かけましょうよ? ね? 提督の目の届かないところならこんな馬鹿らしいことはしなくて済むのよ? だから、ね? 」


瑞鶴「翔鶴、往生際悪いよ………」


提督「はい! 久々にやって参りましたぁ!! スロットの3と8はこれだ!」




処刑スロット


3と8


補給無し で 扶桑の演習の的




翔鶴「ぁ………ぁぁぁ…………」アオザメ


瑞鶴「し、翔鶴姉ぇ………」


吹雪「こ、これが噂の………」


翔鶴「こ………これって、その………」


提督「うん、じゃ頑張って…………あー、扶桑は今日山城と外出していたな」


翔鶴「た、助かった…………」


提督「そうだ、ビスマルク居るかー!!」


瑞鶴「止めるって選択肢はないんだね…………」


翔鶴「お、お願いします神様仏様私に何卒御慈悲を…………!!!!」


ビスマルク「五月蝿いわね。このビスマルクに何の用かしら?」


翔鶴「なむさぁぁぁん!!!」ガビ-ン


提督「翔鶴がお前の砲撃演習の的になってくれるそうだ。喜びたまえ、この泊地の艦娘では最高峰の実力を持った奴が相手してくれるんだ。お前も更に強くなれるぞ?」


ビスマルク「あら、それは喜ばしいわね。なら、お手合わせ願おうかしら?」


提督「翔鶴は動けないように縛っておくからな。好きなだけ砲弾を叩き込むといい」


ビスマルク「縛ってって…………何をさせてるの貴方は」


提督「気にするな。ただの罰だ」


ビスマルク「…………さっきから謝ってるんだし、許してあげたら?」


提督「そうだな。もちろん本気のつもりはないぞ?」


翔鶴「ほ、本当ですか?」


提督「実弾ではな」


翔鶴「お、鬼!! 悪魔!! 人でなしの 鬼提督ー!!」


吹雪「 (本当に大丈夫なのかな、ここ…………) 」


瑞鶴「いつものことだから、気にしないで」


吹雪「えっ!?」


ビスマルク「で、やるの? やらないの?」


提督「…………お前に任せる。好きにしろ」


ビスマルク「なら、お願いしようかしら?」


翔鶴「あはは………………」


提督「ま、クリティカル入ると最悪死ぬかもしれないけど、そのつもりで」


吹雪「えっ? 死ぬ!?」


瑞鶴「扶桑さんはあれよ、急所を見抜いてクリティカルにならないように着弾地点を予測しながら砲弾を当てていくのよね…………」


吹雪「道理で最高の処罰と言われるわけですね………。でもビスマルクさんなら多少は……」


瑞鶴「相手が満足するまで永遠に続くのよ? それも補給無しでなんて身が持たないわ………」


ビスマルク「でも待って…………私何かに誘われていたような………」


瑞鶴「そう言えば、鳳翔さんが言ってたわよ? ”そろそろみんなにも覚えてもらわない” とって………」


ビスマルク「今、今何時かしら!?」


提督「15:46だな」


ビスマルク「どうしよう……….大遅刻だわ………鳳翔に和食を教わる予定だったのよ…………」


提督「…………なら、私に呼び止められたと言えばいい。私は当分ここにいるから、信じないようであれば確認を取らせればいいだろう」


ビスマルク「まあ、それが妥当なところよね。実際も提督が悪いんだし」


提督「ほら、早く行ってこい」


翔鶴「………………」


提督「翔鶴。ただの戯言だ、気にするな。実際にところ、私が追い出したのが事の発端だ。瑞鶴も、付き合わせて悪かったな。詫びと言っては何だが、何か望むものがあれば言ってくれ」


瑞鶴「………………偶にうちの提督ってこういう事あるから」


吹雪「は、はぁ…………」


翔鶴「じゃあ、罰として明日1日私の買い物に付き合ってください」


提督「………………了解した。さて、ひと段落ついたところで、何をしようか?」


瑞鶴「あの、私もういい?」


提督「………………あぁ、済まなかったな」


吹雪「………………」


瑞鶴「うん、いつもの事だから。気にしないで」


吹雪「………………」


提督「何なら今からでも構わんぞ?」


翔鶴「今からだと時間がないので嫌です。明日の方が多く時間取れますし」


提督「ちっ、騙されないか」


吹雪「では、司令官。私は部屋に戻りますね。お借りします」


提督「わかった。何時でも構わないが必ず返してくれよ」







・・・・・・







???「大将の座を寄越せだと? 息子よ、お前はいつから強欲になった」


???「3年前の、あの日よりずっと前からだよ、親父。元帥閣下」


元帥「息子よ、お前は何が望みだ? 中将の座にとどまらず、何を成そうとしている?」


中将「そんなのわかりきったことだ。戦争だよ。一心不乱の大戦争、人類と深海棲艦と ”人間” のね」


元帥「お前には、大将の任は重すぎる。第一、お前が海軍に残れるだけでもありがたいと思え。あんな不祥事、実の息子でなければ今頃は首を刎ねさせているところだ」


中将「親父。あんたは何を考えているが知らないが、何時まであいつを野放しにしておくつもりだ?」


元帥「何が言いたいのだ? 息子よ」


中将「最近になって、海軍で大勢が死んでいるみたいじゃん? あれ、あいつが関与してんでしょ?」


元帥「何のことだ? 奴らでは役不足だったということだ。だから新しく人員も配備している」


中将「けど、俺の部下ばっかりが死んでいる。嘆かわしい。些か不自然すぎないか、親父?」


元帥「ふん、私の息子というだけでいい顔をするな。お前など、彼奴に比べれば2手3手劣る」


中将「………いい加減にしたらどうだい親父。分かってるんだよ、あんたがあの犬共に肩貸してることくらい」


元帥「ふん、そもそもお前があの事件を起こしたからこそ今の海軍になっているんだ。お前にはその自覚があるのか?」


中将「話を逸らすなクソ親父。聞かれた事に答えろ」


元帥「黙れ馬鹿息子。貴様にクソ呼ばわりされる筋合いはない」


少将「中将、閣下。お耳に入れたきことが…………」


元帥「何様だ?」


少将「舞鶴鎮守府所属の鷺谷一中尉が、たった今亡くなったとの一報が入りました」


元帥「わかった。下がれ」


少将「はっ」


中将「……………そらみろ。これで残りは2人だ。俺と、箕島家のご令嬢だ」


元帥「……………いいか、何があっても私はお前にそれ以上の位を授けるつもりはない」


中将「……………ちっ。今に見てろよクソ親父」








・・・・・・









大淀「……………昨夜、舞鶴鎮守府所属の鷺谷一中尉が絶命しました。海軍は事態を隠ぺい。舞鶴鎮守府には新たな司令官を配置するとのことです」


提督「……………死んだか。これで残りは2人か」


扶桑「長い様な短い様な…………」


提督「そうだな。せめてあいつくらいは俺の手で殺してやりたかったがな」


山城「執着しすぎる男は嫌われますよ」


提督「ぬかせ。お前にだけは言われたくないわ」


翔鶴「そろそろ、海軍にも新たな動きが来る頃でしょうか?」


瑞鶴「例えば?」


山城「…………自分が大将になって、大艦隊を指揮してこっちに攻めてくるとか?」


扶桑「…………」


提督「元帥も、私の弟が席を譲らぬ限り奴に差し出すことはないはずだ。当初は3ヶ月と約束していたが、期限はあと1ヶ月と思え」


鳳翔「何をしでかすかわかりませんからね。その位の気を持って当たった方が賢明かと」


大淀「事が分かり次第、また追ってお知らせします」


提督「大淀。わかっているとは思うが、海軍がすべての情報を流すとは考えるな。それが元帥自ら、私の弟からの情報であったとしてもだ。偽報であることも念頭に入れろ。隙を与えるなよ」


大淀「はい。お任せ下さい」


提督「では、明石を呼んできてもらえるか?」


大淀「はい、ただいま」




大淀が部屋を出てすぐに明石がやってくる。今回呼んだのは、艤装の整備に関することで呼んだのだと提督は伝える。




提督「実は、近々戦闘があるのでな。艤装の整備を徹底的にやってほしい。必要があれば扶桑か私に直接言ってくれ。修理に必要な物はこちらで全て用意しよう」


明石「わっかりました! しっかりと整備させてもらいますね!」


提督「あぁ、頼りにさせてもらおう」




明石が部屋をあとにしてからも、提督と5隻の密談は終わることはなかった。それは、およそ5時間に及ぶもので当に侃侃諤諤の議論であったと言っても過言ではないほどにお互いの意見を頑なに譲らないものであったと語っている。



今回の事で、1人と5隻の間には意見が2つに分かれている事が分かったのだ。


1つは、こちらの準備が整い次第直ぐに横須賀に攻め入るというものである。これに乗っているのは、翔鶴、瑞鶴、そして提督である。迅速に攻め入ることで敵に準備の暇を与えず、短期決戦を狙うものである。また、横須賀が奇襲されると知れば援軍を他の鎮守府や泊地などから呼び寄せると考え、残りの1人も自然と炙り出せるだろうというものである。


これに対して出た意見は、今までと同じ様に一歩一歩進めていくというものである。扶桑、鳳翔、山城がこちら側である。先ほどの案では、佐世保鎮守府の大将。つまり提督の弟と交わした密約を破ることに他ならず、わざわざ急いでことを勧めることもないという、どちらかといえば保守的な考え方である。



提督「……………また後日、集まってくれ。更に話をしていこう」




その提督の言葉に皆が賛同し、秘書艦の扶桑を残し、他の者が部屋を出る。





提督「……………」


扶桑「提督、どうかされたのですか?」


提督「どういう意味だ?」


扶桑「いえ、何か急いている様な面持ちでしたので…………」


提督「そうか? そんな事はないが」


扶桑「そうですか……………」


提督「お前こそ、呉の提督に詰め寄っていった割に随分と悠長な考え方じゃないか?」


扶桑「そうですか?」


提督「連中を潰さないと、私たちの失った時は戻らない。その事を分かっているのか?」


扶桑「……………」


提督「まあいい。実際に攻め込むのはお前たちだからな。その方が良いのかもしれんな。さて、夕食の準備だ。何を作る」


扶桑「……………」


提督「扶桑?」


扶桑「っ……! はい、何でしょうか?」


提督「大丈夫か?」


扶桑「はい、すみません。そうですね…………提督の食べたいもので構いませんよ?」


提督「なら、純和風に攻めていこうか? 玄米4合と味噌と少しの野菜でーー」


扶桑「宮沢賢治のアメニモマケズですか? お断りします」


提督「ちぇっ。結構良い案だと思ったのだがな…………」


扶桑「無難なところで魚と御御御付けと漬物で良いのでは?」


提督「味噌と少しの野菜はあるのな。そこに玄米が入ってくれれば………」


扶桑「提督………今はお米が食べられる時代なのですから」


提督「知らないのか? 玄米の方が身体には良いんだぞ?」


扶桑「……………そこまでおっしゃるなら、玄米でも構いません」


提督「よし、だったら買いに行くか。何か欲しいものはあるか?」


扶桑「結局買いに行くのですね……。分かりました、お伴します」


提督「それは助かる。お礼におじさんが何か買ってあげよう。な?」


扶桑「まだ充分お若いですよ。行きましょう?」


提督「ちょっと待ってくれ、今日の当番は?」


扶桑「えっと…………はい、こちらです」


提督「どれどれ…………ふむ、翔鶴に伝えておけば良いだろう」


扶桑「それならお任せを。瑞雲を飛ばして伝えておきます」


提督「…………なぁ、艦載機使って伝達するのって最近の流行りなのか?」


扶桑「連絡手段がないからですよ。同じ建物内に入るとはいえ、建物自体が広いですからね………」


提督「すまん、それは私にもどうにもならん」


扶桑「……………………」


提督「さ、行こうか」


扶桑「はい、参りましょう」





2人が向かったのは、かつて吹雪と鈴谷が来た日本人街だ。そこで、2人は色々と買っていく。道を進めば扶桑は多くの店の人間から声をかけられる。




魚屋店員「おぉ、扶桑さんじゃないか!? 買い物かい?」


扶桑「ええ。何かオススメはあるかしら?」


魚屋店員「それだったら、鮭なんてどうだい? 今日捕れたもんだ。多少なら安くしてやるよ?」


扶桑「そうね………」


魚屋店員「ところでよ、隣にいる人は恋人かい? 」


扶桑「いいえ、私の上司ですよ。リンガ泊地の司令官です」


魚屋店員「司令官………提督さんかい!? いやいやいや、軍服を着てないからといってこりゃまたとんだ失礼を………」


提督「いやいや気にしないでくれ。ところで、彼女はよく来るのかい?」


魚屋店員「そりゃもうご贔屓にしていだだいて………。よくうちに来ては話をしてくれてねぇ……」


提督「話………というのは?」


魚屋店員「提督さんが、とっても良い人だってすんごい良い笑顔で話してくれるんだよ。こんな美人さんに良い男だって言われてさぁ………提督さん、あんた果報者だよ!」


提督「あ、あはは……そうですか……… (帰ったらシバく……。とにかくシバいてやる………!!) 」


魚屋店員「しっかしあんたと話して実際に会ってみると何だかねぇ、本当に良い人だってのが伝わってくるんだよなぁ………」


扶桑「そうでしょう? 私には勿体無い位の自慢の提督ですよ」


魚屋店員「いやいや、あんたら見てたら駄目だわ。今日はお代は要らねぇや。持ってきな!」


提督「いやいや! それは受け取れないっておやっさん!!」


魚屋店員「いいから、持ってきなって! 代わりと言っちゃあ何だけどよ、扶桑さん。進展あったらまた報告してくれや」


提督「……………」ゴフッ


扶桑「あらあら、ふふふ。はい、約束します」





と言ったような感じで、何とも大変なことになってしまった。しかもこれが行く先々で起こるのだ。二度と来ないと誓った提督であった。


買い物を終えると、少し疲れたとのことで近くの公園で休むことにした。日本人街に来るのは久し振りだと提督は呟く。




扶桑「偶には来てみては? よく品揃えやお店自体も変わってますよ?」


提督「そうなのか? それは知らなんだ」


扶桑「そんなにですか!? 何時もどこへ行っていたのですか?」


提督「最後に行ったのは………地元の洋食屋だったかな?」


扶桑「…………そっちの方に行ったことないですね」


提督「なら、今日はお前にここを案内してもらった。そしていつか向こうに行った時は、お前を案内する立場になろうか」


扶桑「ふふっ。それは約束ですか? 命令ですか? それともお願いですか?」


提督「さあな、好きなように捉えろ。まあ、どちらにしたとしてもお前が沈むことは許さない。そのために、私は今度の作戦にはより一層に慎重に進めていかなくてはならないな」


扶桑「なら私も、みんなをしっかりと連れて帰れるように努力しますね」


提督「……………あぁ。頼りにしてるぞ、第1艦隊旗艦。いや、私の。私だけの秘書艦」


扶桑「………はい。私の提督」






・・・その日の深夜・・・








皆が寝静まった頃、提督は自室の机に1人佇み、ぼぉーっと一点を見つめている。まるで何者かに取り憑かれたように、目線はおろか身体すら動かない。そんな沈黙が続く中、提督はポツリと嘯く。




提督「5人も人を殺した男が良い人ねぇ………。これからあと2人、殺そうってのに」


提督「もう直ぐ、もう直ぐだぁ………。待ってろよお前たち。私が、私たちが、お前たちの仇をとってやるからな」


提督「……………」


扶桑「……………提督」


提督「扶桑? どうしたんだ?」


扶桑「提督………。私を少し、お側に置いて頂けますか?」




その話す扶桑の声はとても弱々しく、そして震えていた。何かに怯えるような、何かから逃げたがっている。そんな声だったのだ。




提督「……………構わないが、どうかしたのか?」


扶桑「……………最近になって、夢を見るんです。あの時の夢を」


提督「……………」


扶桑「あの時の怒号、轟音、仲間の沈んでいく姿。逃げ延びても追われ続けて、その仲間の助けを求める声を振り切って逃げたあの日のこと………。何もかもがなくなったあの日の夢を」


扶桑「まるで、あの時の悲劇を追体験しているみたいで…………。辛いんです………。居た堪れずに逃げたいくらいに怖いんです…………」


扶桑「私は………どうしたら…………」




扶桑は言葉を重ねていくほどに嗚咽が混じり、最後はその場に泣き崩れてしまう。普段から凛とした扶桑がこうも人が変わったようになるとは思わず、その姿に提督は少々気圧され気味になっている。




提督「……………大丈夫だ。私は、何があろうともお前と共にいる。お前が気にやむことはない。あれは、私の責任なのだから」




提督の励ましも虚しく、扶桑の様子は一変も変わらない。恐らく、今まで堪えてきたのが耐えられずに反動が出たのだろう。




提督「……………ここには私とお前しかいない。今ここで、全て吐き出していけ。…………大丈夫、大丈夫だ」




その提督の一言に、全てが爆発したかのように扶桑は提督に縋り付く。それを提督は顔色1つ変えずに、全てを受け止める。


1人の提督と1隻の艦娘は、お互いがお互いの糧となっている。まさに共依存とも言うべきか。 ”今” に生きることが出来ておらずに、 ”過去” に囚われてしまっている危うい存在なのだ。


1人と1隻は気丈に振る舞う気高い華ではあるが、茎が朽ちれば花は枯れ、花が枯れれば茎は朽ちる。それ程にか弱く、見掛け倒しな華なのである。


そしてその華は復讐という名の生き血を糧とし、悍ましくも艶やかに ”過去” に咲き誇る。浅ましくも恐ろしい、愚鈍な一輪の ”造華” なのだ。





・・・・・・







数週間後、提督の探していた人物の1人である箕島と呼ばれる人物がこちらに侵攻しているという情報を掴んだ提督は、防衛作戦を開始することになった。そして急遽、全艦娘を招集しての臨時作戦会議が執り行われた。



大淀「……………先ほど提督にお話しした通り箕島少佐が此方に侵攻しているとの情報を得ました。敵艦の現在地と確認した情報を元に計算すると、タウイタウイから出撃したと考えられます。こちらの情報も大将様と海軍の無線傍受によって得たものですので、信頼に値するものかと」


提督「今回の相手は、今までと同じと思うな。名前は『箕島 梓』。当時と階級は変わらず少佐だが、私の目から見ても彼女には軍略に於いては天賦の才があると確信している。またカリスマ性もあり、艦娘からの信頼も高い。まさに才女という言葉が似合う女だ」


扶桑「珍しいですね。提督が他人を褒めるなんて」


鳳翔「……………それ程、今回の相手は恐ろしいということでしょう。気を引き締めていきましょう」


山城「……………戦う前に敵を讃えるなんて、賢いとは思えませんけど?」


提督「お前は日に日に毒舌になっていくな………」


翔鶴「……………」


瑞鶴「……………」


提督「……………まあ、各々思う所があるのは察する。今回の作戦は、防衛戦であることを頭に入れておいてほしい。よって複数の艦隊を編成し、多方面から迎え撃つことを考えている」


川内「向こうからやって来るってのは初めてだよねぇ。やりにくいなぁ……」


陽炎「……………」


吹雪「でも、ここは防衛には適しています。呉と同じ様に、守る方としては有利ですね」


提督「今回は既に艦隊を私の方で決めてある。また、私の指揮のもとで戦ってもらうことになる。いいな?」


一同「了解です!」


提督「第1艦隊は先陣を切って敵側と当たってもらう。旗艦は川内だ。頼むぞ」


川内「えっ!? 私?」


提督「そうだ。僚艦に由良と陽炎と吹雪、そしてВерныйをつける。敵に潜水艦が居るとの情報を得たのでな。様子見がてら潰してきてほしい。潜水艦は由良を中心にな」


由良「ん、任せて。期待には応えるから」


陽炎「でも、もし戦艦とかだったら如何するのよ?」


Верный「司令官、潜水艦が居るのは確定事項ということでいいのかい?」


提督「そうだ。潜水艦4隻が投入されているのは此方でもつかめている」


陽炎「なるほどね。そりゃ練度もそこそこある私たちだわ」


川内「でも、吹雪で大丈夫? もうちょっと実践慣れしてる艦の方がいいんじゃない?」


吹雪「これでもやっと改二になれたんですから、任せて下さい!」


提督「まあ、実践慣れしていないことに不安は覚えるが、吹雪はそこそこ頭が回る。今回の作戦は相手が相手だからな、柔軟な発想が必要になる。吹雪、この編成について思い当たる事があるだろう? 話してみたまえ」


吹雪「え、えーっと……リンガ泊地の周辺は海底が浅いので、潜水艦が攻めることはできません。ですから、恐らくぎりぎりの所で邂逅する事になると考えています」


提督「他には?」


吹雪「それを向こうが知っていた場合、沈めやすい駆逐艦をみすみす逃す真似はしないと思いますので、重巡や戦艦をぶつけて挟撃させる魂胆かと思います」


提督「…………いやいや恐れいったよ、丸々私の考えと遜色なく同じとはね。なら此方は戦艦と重巡をぶつけよう。ビスマルクを旗艦として、衣笠、足柄、鈴谷、青葉、熊野はビスマルクの僚艦となれ」


ビスマルク「gut. 任せなさい」


提督「ここまで来ると全部言わせてみたくなるな。どうだ?」


吹雪「…………司令官は、艦隊をいくつ投入するつもりなんですか?」


提督「そうだな。あと4つは投じてみようか」


吹雪「…………4つですか。………なら、空母機動部隊を編成するおつもりでは? 前線に航空隊を送って敵を殲滅すると同時に、軽空母艦隊で泊地並びに周辺の警戒を行う。ですか?」


提督「………見事だ。赤城、加賀、翔鶴と瑞鶴は前線に航空隊を飛ばせ。旗艦は翔鶴。頼むぞ」


翔鶴「…………はい。お任せください」


提督「軽空母には、鳳翔を筆頭に祥鳳と瑞鳳。僚艦には神通一隻で事足りよう」


鳳翔「承りました」


提督「さて、残りは1つだ。どう出る?」


吹雪「…………決まっていない。ではありませんか?」


提督「…………はっはっは。いやいやお前には恐れ入った。その通り、パーフェクトだ」


扶桑「なら、私にご命令を。後方に回って退路を塞ぎます」


提督「随分と賭けに出たな。万が一、防衛線を突破されたら我々はそこで終わりだぞ?」


山城「なら、残りは不利な箇所に送って徹底抗戦。姉様と私でここを守ります」


提督「よし、それで決まりだ。いいな?」


扶桑「はい、お任せください」


提督「さて、生半可な艦隊で攻めてきたことを後悔させてやろうじゃないか。作戦は約52時間後に決行だ」




提督は、扶桑のみを部屋に残して今後の行く末を話していく。





提督「まさか攻めてくるとは………才女と謳われた者も落ちぶれたな。人を裏切っておきながら、長閑な所で我々と横須賀の戦争を眺めようという魂胆だな。腹立たしい限りだ」


扶桑「追い返した後は? 如何するのですか?」


提督「そうだな、先ずはすぐに艦隊を整えてタウイタウイに強襲する。そこを足がかりに横須賀に攻め入るとしよう。何としても一刻も早く雪辱は注ぎたいが、ひとまずはあいつに死を贈ろう」


扶桑「ですがーー」


提督「扶桑、もうお前は苦しまなくていいんだ。考えることはない」


扶桑「…………ごめんなさい。心配をかけてしまったみたいで。もう、大丈夫ですから」


提督「……………そうか。済まない」


扶桑「さて、お茶を淹れましょう。以前街に出た時に玉露入りの新茶を手に入れましたので」


提督「…………いや、私が淹れよう。偶には」


扶桑「…………では、お願いします」


提督「そろそろ、動き出す頃だな」


扶桑「動き出す………何方がですか?」


提督「今まで泳がせていた奴がだよ。黙って去るのは構わんが、かき回されるのはいささか好かんのでな。そろそろご退場願おうか」







ところ変わって吹雪の自室。今月は山城と同室のようだ。







吹雪「…………久々にカメラがこっちに回ってきた気がします」


山城「何言ってんのあんたは………」


吹雪「いえ、何でもないですハイ」


山城「吹雪、あんた何で提督の考えが分かるのよ?」


吹雪「何ででしょうねぇ……私にもわからないです」


山城「出来ればね、やめてあげた方がいいかなって。姉様、提督には気を許すっていうか……まあ私も例外じゃないんだけど、信頼している人ではあるからね。そういう人に尽くしたいって思っているところに横槍が入ると不機嫌になるでしょう?」


吹雪「やっぱり、扶桑さんって司令官の事を?」


山城「どういう意味なのかは聞かないけど………」


吹雪「あ…………そういうわけじゃなくて、1度扶桑さんと提督の話をした時にとっても嬉しそうで……もしかしたらって思って」


山城「…………姉様と提督は、一蓮托生………ううん。もしかしたら共依存の関係かもしれない………多分」


吹雪「き、共依存!? そんなにですか?」


山城「姉様と提督は私が提督に出会う前から会ってたって聞いたし………。きっと信頼しきっていたのね………。あの時の事件でストレス、トラウマ。色んなものを抱えちゃって、それを解消出来たのが姉様は提督。提督は姉様だったのかもしれないわ」


吹雪「それが原因………ですか?」


山城「きっとね。そんな姿が、私は辛かった………いえ、羨ましかったのね。姉様の全てを受け入れる提督と、提督の全てを受け入れる姉様のお互いの関係が」


吹雪「…………」


山城「姉様か提督。そのどちらかが私だったらって、時々思うの。それが叶わなくても、あの2人の両方か何方かでも私のことを少しでも見てくれたらって」


山城「でも、あの2人見てると………とっても幸せな顔をしてるのよね。きっと私には、姉様にあんな顔をさせることはできなかったなって思うのよ」


山城「それからはもう、姉様が幸せならそれでいいわって思えるようになったのよね…………まさか自分にこんな感情があるなんて思わなかったわ」


吹雪「…………」グスッ


山城「あんた何泣いてんよ」


吹雪「いえ、山城さんって色恋からは遠い方だと思ってたので………」


山城「随分と失礼ね、否定はしないけど。そりゃ………私だって恋の1つや2つするわよ。ていうか、そこに泣かれても余計なお世話としか言えないんだけど……」


吹雪「いえ、とってもいい人だなぁって………女性として立派っていうか、その…………」


山城「…………ま、褒め言葉として受け取っておくわ」


吹雪「…………」


山城「ほら、万が一もあるんだから少しは前準備くらいなさい」


吹雪「は、はい!」







一方その頃、空母連中は艦隊によって装備を整えている最中だった。






鳳翔「今回は索敵、防衛が中心ですから彩雲を多めに。艦攻と艦戦を格納すれば十分でしょう」


瑞鳳「りょーかい」


祥鳳「敵の撃退は正規空母の方々に任せましょう」


神通「あの、私は偵察機があれば十分でしょうか?」


鳳翔「神通さんには私たちを守っていただきたいので、魚雷等を武装していただけますか?」


神通「わかりました」


翔鶴「私たちは敵の撃滅が主なので、艦爆と艦攻をありったけ格納しておけばいいと思います」


瑞鶴「見敵必殺 (サーチアンドデストロイ) だね。艦偵は如何するの?」


加賀「必要ないでしょう。確認次第、攻撃を仕掛けるだけです。制空権も捨てていきましょう」


赤城「艦偵なら、念のために私が少し携えていきましょう。何かあれば彼方で私が渡せばいいですし、それならどうかしら?」


翔鶴「では、よろしくお願いします」





・・・・・・







???「…………これが、今回の防衛展開図です。全く隙がありませんよ」


???《流石ですね ”元大将” 既に此方は出撃済みです。今からでは艦隊の再編成は行えません》


???「実は、今回の布陣は提督の頭の中で作られていたもので、それらを全て言い当てた駆逐艦が一隻………」


???《………そうですか。恐ろしい娘もいたものですね。惜しむらくはその駆逐艦が我々の元にいないということね………》


???「それで、私たちはいつ頃そちらに? 」


???《片割れとは既に打ち合わせを?》


???「はい。貴女の命があれば何時でも」


???《では、交戦開始直後に砲撃を行いなさい。貴女たちが内側から混乱させるのです》


???「…………わかりました」








遂に作戦開始時刻直前となった。開始1時間前より、第一艦隊は潜水艦と交戦地点に到着。それに連なって各々が持ち場に着いている。



提督「いいか? 今回は防衛戦だ。敵の撤退まで持ち堪えればそれに越したことはないが、それでは面白くない。沈められるなら沈めてしまえ。所詮は海軍の傀儡共だ」


扶桑「…………」


提督「今回は此方から指示を送るが、敵に通信を傍受されていることも考慮し、複数の回線を用いて通信を行う。なお、一度使用した回線は本作戦では原則破棄とする。留意せよ」


一同《了解!》


川内《提督、ソナーに敵潜水艦を確認。仕掛けるよ》


提督「よし、やれ!」


扶桑「提督、敵には空母の姿を確認できませんが………」


提督「………あの時と変わらずか。あいつは唯一、航空隊の運用が得意ではなかった。その代わり、戦艦や重巡を用いた対空防御に長けていた」


扶桑「………道理で」


山城「提督、私たちも瑞雲くらいは飛ばしておいたほうが………」


ビスマルク《提督、敵艦隊接近が接近してるわ。予想通りね。艦隊が戦艦のみってことと、武蔵ががいることを除いてね》


扶桑「武蔵………!? 確か、元帥が所有していた筈では?」


山城「………殺されたわね。遂に歯止めが効かなくなった」


提督「敵との距離は?」


ビスマルク《18マイルってところね》


提督「先制攻撃だ、牽制しろ」


ビスマルク《jawohl! (了解) 私たちの戦い、見せてあげようじゃないの!!》


翔鶴《提督!空母機動部隊、艦爆と艦攻どちらも発艦させます!!》


提督「了解した」


鳳翔《今の所、近海に新手の姿は見られません。各艦隊はそのまま眼前の敵に集中を》


一同《了解!!》







・・・・・






???「ーー始めましょう。準備はできてるわーー」


???「ーーじゃあ、撃っちゃいましょうか。狙いは旗艦で………ーー」


ビスマルク「Präsentiert das Gewehr、構えて!! 」


衣笠「りょーかい!!」


青葉「索敵も砲撃も雷撃も。青葉にお任せ!」


鈴谷「いつでもいいよ! 」


熊野「こちらも、問題ありませんわ!」


足柄「砲雷撃、準備完了! 指示を!」


ビスマルク「カウント始めるわ!! fünf!! (5)」


青葉「…………」


ビスマルク「vier!! (4)」


足柄「…………」


ビスマルク「drei!! (3)」


???「ーー行くわよ?ーー」


ビスマルク「zwei!! (2)」


???「ーー何時でもいいよーー」


ビスマルク「eins!!!! (1) 」


???「撃ぇ!!!!!」



次の瞬間、ビスマルクと熊野の背後から2つの発砲音が鳴る。



足柄「きゃあ!!」


青葉「うわぁ!!」



背後を振り返ると衣笠が青葉を、鈴谷が足柄に砲を向けている。ビスマルクの見た所では、2隻は中破まで追い込まれている状態だ。



衣笠「ふっふーん。青葉? 衣笠さん達と提督を誤魔化せるなんて思わない方がいいよ?」


青葉「え…………な、何のことですかぁ?」


鈴谷「始めっから気づいてたってーの。鈴谷達も提督も」


ビスマルク「それでも今日まで黙っていたのは、利用するため」


熊野「言い逃れしても結構だけれど、見苦しいだけですわよ? 如何します?」


足柄「…………どうするつもり?」


鈴谷「今からそこにいる敵さんに説得してきてもらおうと思ってねー」


青葉「それを拒んだら? 水底ですか?」


衣笠「ううん。 ”私達” は何もしないよ。これを使うだけ」


鈴谷「信号弾だよ。粘着式のね。これをおたくらに撃てば煙が昇って空母連中が爆撃」


衣笠「衣笠さん達は面倒なことはしたくないの。さっさと目の前に集中したいからねー」


足柄「…………わかったわよ。待ってなさい」





足柄は青葉を連れて迫ってくる敵艦隊の元へと向かう。



熊野「逃げられでもしたら、どうするつもりですの? 」


ビスマルク「その時はその時で沈めるだけよ」


衣笠「上手くいくといいんだけど………」


鈴谷「…………はぁ、妙高にゃ何て説明したもんかねぇ〜」


衣笠「一応、信号弾撃っておこうか。多分もうそろそろ艦載機が来るだろうし、追尾はあちらさんに任せておけばいいでしょ?」


ビスマルク「そうね。お願いするわ」




その頃、空母機動部隊が発艦させた艦載機はビスマルクらの艦隊を通過したところだ。




翔鶴「信号弾を確認。…………やはり、あの2隻でしたか」


瑞鶴「どうするの? 仕掛ける?」


加賀「無抵抗の者を攻撃するのは賛同しかねるわ」


赤城「加賀さんに賛成です。ですが、止む終えなければ致し方ないですね」


翔鶴「待ってください。そんな…………」






・・・・・・






足柄「久しぶりね、武蔵」


武蔵「そうだな。それで、その姿は何だ?」


青葉「色々と情報送ってたじゃないですか? ま、それがばれちゃったんですけどねー」


足柄「武蔵に長門、それから那智姉さんに筑摩、空母には大鳳と葛城ねぇ………。本気で攻めに来たじゃない。苦手だって言っていた空母まで連れてくるなんて」


武蔵「何のつもりでこちらに来た?」


足柄「言ったでしょ、正体がバレたって。私たちじゃ相手にならないから帰ったほうがいいわ」


武蔵「貴様ら………寝返ったか!!」


青葉「ちょっと! タンマタンマ! そうじゃないって!!」


那智「足柄! 貴様、海軍としての誇りも失ったか!!」


足柄「違う、違うのよ那智姉さん!」


長門「ならあの艦載機は何だ!!」




足柄と青葉の後方には翔鶴らが放った航空隊がこちらに迫ってきている。



武蔵「我らを油断させておいて一息に蹂躙する魂胆か!!」


足柄「違うわ!! 違うのよ!!」


長門「今、我々の提督から命令が降った。裏切り者には粛清をとのことだ」


青葉「うそ………青葉、みんなの為に………頑張ったのに…………」


足柄「罠よ!! 私達はただ話し合いに来ただけなのよ!!!!」


長門「 ”提督の命令は絶対である” 忘れたとは言わせないぞ」


青葉「嫌だ…………助けて………助けてよぉ………」


那智「足柄、覚悟しろ」


足柄「…………もう、好きにしたらいいじゃない。さっさとしなさいよ」


那智「……………」


足柄「はぁ、どこで道を間違えたのかしらね。今となっては、もう遅すぎるけれど……………」









遠くで、とても大きな爆発音が低く鳴り響く。






重巡洋艦足柄、重巡洋艦青葉。タウイタウイ所属の箕島艦隊により、轟沈。









リンガ泊地に構えている提督らにも、翔鶴によってこの一報が伝わる。既に他の艦隊へは連絡済みとのことだ。




提督「ふっ…………ふはは…………」


提督「あっはははははははははは!!!!」



執務室に、提督の高笑いが響き渡る。呪縛から放たれたような幸福感を有りっ丈に放出させたような。そんな笑いだ。



提督「どうだ扶桑。面白いものが見られただろう? 」


扶桑「……………どういうことですか?」


提督「翔鶴の艦載機から送られた映像を見るに、ビスマルクの艦隊は手筈通りに足柄、青葉の両名を暴き出した。私はビスマルクらに ”間者を暴いたらそれを用いて降伏勧告をさせよ” と命令した」


山城「……………」


提督「彼女らはそれに従い、敵艦隊に向かっていった。恐らく翔鶴らに彼女らを追わせるため、誰かが信号弾を撃ったんだ。それを頼りに、翔鶴らは艦載機を飛ばしただけだ」


提督「そして、彼女らは敵艦隊に接触を図った。降伏するように言ったものの、敵は彼女らが我々に寝返ったと勘違いをしたんだ」


扶桑「提督があれ程までに警戒するように言っていた才女が、何故あんなことを?」


提督「確かに奴の才は比類なきものだ。それは彼女が、即断即決の判断を下すからに他ならない」


提督「即断即決。聞こえはいいが、裏を返せば ”短気” ということだ。翔鶴らの艦載機が、彼女らのすぐそばまで迫って来た。敵は計られたと勝手に勘違いを犯した」


提督「艦隊からの報告に、このままでは全滅の危険に晒されると勝手に勘違いした奴は、持ち前の ”短気” で命令を下した」


扶桑「状況を確認するためだけに上空を旋回していた私たちの艦載機が、攻撃してくると勘違いをして焦った結果、今回のことが引き起こされたと」


提督「覚えておきたまえ。これが ”離間の計” だ。いやはや愉快愉快。ここまで上手く事が運ぶとは思わなんだ」


山城「……………」


扶桑「山城、どうかしたの?」


山城「……………私たちの艦隊には足柄の姉、妙高がいます。彼女にこの事がバレれば、大変なことに」


提督「抜かりはない、安心したまえ」


山城「……………本当に、その通りだといいですけど」


大淀「提督、朗報です! 敵艦隊全滅、撃退に成功しました!!」


提督「戦果は?」


大淀「全ての艦を大破に止めています。このまま帰還させれば、作戦が失敗したと目に見えてわからせる事ができると考え、その通りに」


提督「ははっ。パーフェクトだ、大淀」


大淀「感謝の極み。それと、訃報が一報。元帥閣下が、ご逝去し遊ばれました」


提督「……………死因は? 」


大淀「提督のお考えのままです」


提督「あの野郎、遂に実の父親まで手にかけたか」


扶桑「また、背負うのですね。これ以上は、もう持ちきれませんよ」


提督「わかってる。損傷した者はドックに入れろ。その後、全員を集める」


大淀「仰せのままに」






・・・・・・








中将「少佐。才女と謳われた貴女が、これほどまでの失態を犯すとは期待外れですよ」


少佐「申し訳ございません」


中将「貴女が間者として送った足柄、青葉の両名を自身の手で沈めてしまったと?」


少佐「はい」


中将「しかも、それは彼の策略であったと?」


少佐「…………はい」


中将「これで、3年前の事件の真相を知るのは私だけになってしまいました」


少佐「そ、それは一体どういうーー」


中将「貴女に、艦隊を指揮させる訳にはいきません。これほどの失態を再び招いては、海軍の名誉に関わります」


少佐「ち、中将様! 私に再戦の機会を!!」


中将「認めるわけいきません。貴女も、海軍の人間であるならそれなりの覚悟を示していただこうではありませんか」


少佐「…………私に、死ねと言うのですね?」


中将「簡単なことです。貴女はこの短刀を腹に刺せば良いのです。解釈は私が引き受けます」


少佐「…………分かりました」





・・・・・・





夜になり、先の話通りに全員を集めての報告会が行われた。戦果については大淀から事前に伝えられているので、今回は今後の展開についての説明が行われることとなっている。




提督「今ここに居ない者がいる事を知っているか? 以前からここに裏切り者がいることを知っていたか? 私は事前にそれを察知し、今回攻めてきた箕島少佐の手の者である事を突き止めていた!」


提督「私は彼女らを使い、箕島少佐に停戦を持ちかけた。だが彼女の艦隊はその手を払いのけて、その者を海の藻屑へと変えてしまったのだ!!」


提督「…………それは、青葉と足柄の両名だ」




全員が言葉を飲む。両名はこの艦隊ではそれなりに長く在籍してたので、知己も多い。それだけに、皆の落胆は目に見えている。中でもショックを受けているのは、足柄の姉の妙高である。




妙高「提督、それ………何かの冗談………ですよね? だって足柄は………今朝も笑顔で居たんですよ……?」


提督「…………偵察機が、その瞬間を捉えていた。こちらの映像を見てくれ」




提督はモニターに映像を映した。先程の翔鶴から送られてきた映像そのものだ。




提督「…………妙高。これは完全に私のミスだ。お前の妹を、みすみす危険に晒してしまったのだ。無能と、最低の提督と、気がすむまで罵ってもらって構わない」


妙高「…………」


提督「皆も知っての通り、私は3年前から、元帥の息子を追っている。その為に力を蓄え、確実に仕留める為に準備を進めてきた」


提督「今回の戦いも、我らの完全勝利と言っても過言ではない。たが、お前たちの凱旋と共に、私の下にとある訃報が舞い込んできた。我らの恩人である、元帥閣下が殺害されたのだ。実の息子が、父親を殺したのだ!!!」



その提督の言葉を聞いた艦娘たちは驚きを隠せない様子だった。




提督「私のかつての仲間も沈め、今こうしてお前たちの仲間も沈められた。あまつさえ実の父親をも殺し、元帥を僭称した!! こんな男を、諸君らは許すことができるのか!!」


提督「いかに彼らが我々を賊軍、愚連隊、反政府組織と見なそうと、我々は断じて彼らを許すことはできない!! これは正当な復讐だ!!! 誰にも邪魔はさせない!!!!!」


提督「いいか!! これから我々は、彼らを討ちに行く。その意気があるものは私と共に彼らを討つのだ!!!!!」






・・・・・・





同時期、日本海軍でも全提督を集めた大会議が開からていた。





元帥「諸君、私は、戦争が好きだ」


元帥「諸君、私は、戦争が好きだ」


元帥「諸君、私は、戦争が大好きだ」


元帥「航空戦が好きだ、砲撃戦が好きだ、雷撃戦が好きだ、打撃戦が好きだ、上陸戦が好きだ、襲撃戦が好きだ、反抗戦が好きだ、防衛戦が好きだ、撤退戦が好きだ」


元帥「近海で、ALで、リランカで、カレー洋で、サーモンで、マレー沖で、MIで、MSで、ステビアで、トラックで、この世界で行われるありとあらゆる海戦が大好きだ」


元帥「単縦で並んだ艦隊の一斉砲火で敵艦隊が轟音と共に沈んでいくのが好きだ。大破に追い込まれた敵艦が、海の藻屑となった時など心がおどる」


元帥「戦艦が操る大砲が、駆逐艦にクリティカルを決めるのが好きだ」


元帥「怒号を挙げた敵艦が、燃え尽きながらもこちらに砲を向けた時、爆撃機が薙ぎ払った時など胸がすくような気持ちだった」


元帥「爆雷を構えた艦隊が、単横で潜水艦を沈めるのが好きだ」


元帥「低練度な艦娘が攻撃を外しながらも、何度も何度も敵に向かっていく様など感動すら覚える」


元帥「初期の頃の水雷戦隊が、最後の雷撃戦で戦艦を沈めた時などはもうたまらない」


元帥「悠々と飛ぶ敵艦載機が、我々の下した命令と共に空を駆けて行く零戦にばたばたと墜とされるのも最高だ」


元帥「哀れな補給艦が、雑多な小火器で健気にも立ち向かってくるのを、大和46センチ三連装砲が敵旗艦ごと木っ端微塵に吹き飛ばした時など絶頂すら覚える」


元帥「雷巡の先制雷撃に滅茶苦茶にされるのが好きだ」


元帥「必死に守るはずだったキス島の守備部隊が蹂躙され、羅針盤に振り回される様は、とてもとても悲しいものだ」


元帥「レ級の物量に押し潰されて撤退するのが好きだ」


元帥「戦艦棲姫 (ダイソン) に防がれて、耐久を削れなかった時など屈辱の極みだ」


元帥「諸君、私は戦争を、地獄のような闘争を望んでいる。諸君、私に付き従う日本海軍提督諸君。君たちは一体何を望んでいる?」


元帥「更なる戦争を望むか? 情け容赦のない糞のような戦争を望むか? 鎧袖一触の限りを尽くし、戦争の犬共を殺す、嵐の様な戦争を望むか?」



提督達「戦争だ!! 逆賊の討伐だ!! 裏切り者をブッ殺せ!!!」



元帥「よろしい、ならば戦争だ!!」


元帥「我々は逆賊を滅ぼし、この日ノ本の平穏を取り戻す! 我々こそが官軍であると、馬鹿犬共に思い出させてやる」


元帥「我らは数が減り、不利と言っても過言ではないが、諸君ら一人一人が歴戦の古兵だと確信してる。ならば、諸君らと私で20と1の連合艦隊となり、犬共を叩き潰そう」


元帥「さあ諸君、決戦が始まるぞ………」










後書き

これ以上書けそうにないので、別枠で続きを書きます。一応書溜めはしており、物語はほぼ完成しております。後は細かい確認だけなので、近日中にはアップ可能かと思います。お楽しみに。

続きをアップしました。タイトルは

提督「さあ、楽しい楽しい報復劇だ」
扶桑「終わらせましょう。私たちの過去を………」

となりました。

エンディングなんですけど、色々なルートが思いついたのでこんな感じってことで下に書いていきます。

1. ハッピーエンド
色々と憑き物が取れるので、本来の性格に戻った提督が、みんなと仲良くしたりイチャついたり? 下手すりゃR-18?

2.バッドエンド提督√
色々と抱えすぎて提督が壊れます。若干グロ展開あるかも

3.バッドエンド 扶桑√
提督√の扶桑ver. ってだけ。

バッドエンド書いてちょっとブラックな雰囲気も書きたいって思ってるんですけど、自分書いてもいいですかね?

コメントやらお気に入り登録、評価を頂けたりと感謝の極みです。

所属艦娘一覧を、下記に作成しました。
登場させたい艦娘は、別鎮守府からの異動という形になります。


所属艦娘一覧




戦艦

扶桑、山城、ビスマルク 3隻

正規空母

翔鶴、瑞鶴、加賀、赤城 4隻

軽空母

鳳翔、瑞鳳、祥鳳 3隻


重巡洋艦

衣笠、青葉、足柄、鈴谷、熊野、妙高 6隻


軽巡洋艦

川内、神通、由良、名取、阿武隈、大淀、北上、 7隻


駆逐艦

吹雪、陽炎、夕立、Верный、村雨、不知火、朝雲、山雲、暁、敷波、10隻


全33隻


このSSへの評価

6件評価されています


SS好きの名無しさんから
2017-06-12 22:03:36

たぬポンさんから
2016-11-15 18:39:02

Johnmineさんから
2016-09-19 13:47:26

dev/delightさんから
2016-08-12 15:42:23

ふくろうさんから
2016-08-06 18:45:57

SS好きの名無しさんから
2016-08-02 15:16:40

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2016-06-11 23:02:30

このSSへのコメント

3件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2016-06-28 01:19:41 ID: t0XmTHW7

憲兵さんは正常に機能しているようだし、翔鶴は吹雪を試したのかなあ
吹雪に対する疑念が話の主軸になるかも?
重巡枠で足柄さんが見たいです

2: tacos-P-Venom 2016-07-04 22:47:57 ID: hbm5HPAt

あ〜こういうのもいいっすね〜
今後の展開がとても気になりますねぇ!重巡で鈴谷とかみたいっすかね〜
投稿応援しておりマース!

3: tacos-P-Venom 2016-08-13 20:48:48 ID: PXYf1y_S

鈴谷出してくれてくれるとは...感謝ですなー!残る戦艦枠の1つにビスマルクがほちぃです!どうかオナシャス


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