2017-03-29 12:26:07 更新

概要

引き続き、親潮の回想から、現在に至るまでと、その悩み。

特務第十九号では、青葉と磯風の対立が表面化する。

帰ってきた山城と提督の会話と、妙高の平謝りから明らかになる、提督の長女フェチ。

見つかった磯風についてと、思い出されるタンカー内の戦闘。

目覚めた川内と、瑞穂と金山刀提督の覚悟の話。


前書き

親潮の回想引き続きですが、鷹島提督から見た現在の状況と、彼もなにがしかの戦闘ストレス障害らしいことが判明します。

親潮は女の子らしさが足りない部分を秋雲のアドバイスで何とかしようと考えているようですが、青葉と鷹島提督の懸念の方が正しい気がしますね。

また、親潮のように「上手く着任できていない」と悩む艦娘は一定数居ます。この原因はいずれ作中で語られますが、鷹島提督の今回の話には、大きなヒントがたくさん含まれていたりします。

山城と提督、妙高と提督の話が地味に見所です。そして、山城と提督の話をよく見ると、堅洲島に来る前は館山に居たらしいことがわかります。

また、妙高との話では、提督がどうやら長女フェチであるらしいことが判明します。

・・・妙高さん、たまにはロングにしないんですかね?


[第四十六話 きっとかわいい、女の子だから ]




-2065年八月のある夜、佐世保第二鎮守府、執務室。


佐世保第二の提督「くそっ、こんな!最初から騙すつもりだったのか、貴重な提督が一人減るぞ!くそーっ!」バタバタ


重武装憲兵「公務執行の妨害と認む。無力化実行!」スッ


―ビビッ、ビリビリッ!


佐世保第二の提督「ぬわーっ!」


―佐世保第二の提督は、親潮や鷹島提督の事を口汚くののしっていたが、重武装憲兵のスタンガン付き警棒で何度か無力化処置をされ、遂に口数も減り、連行されていった。


―親潮は、この状況を自分が引き起こしたのではないかと考え始め、恐ろしくなり、震えが止まらなくなっていた。そしてその様子を、けだるげに、しかし抜かりなく指示を出しつつ、鷹島提督が見ていた。


鷹島提督「・・・別に何も悪くないぜ?」


親潮「そう・・・でしょうか?私が・・・私があんな話を出さなければ・・・。仲間を助けたくて・・・私はただ・・・」ガタガタ


鷹島提督「落ち着け」


親潮「私・・・上層部からも口止めはされていたのに・・・誰かが助けてくれると信じて・・・」ガタガタ


鷹島提督「しっかりしろォー!!」


親潮「あ、はい!すいません!」シャキッ!


鷹島提督「艦娘の精神の安定は、強力な心を持つ提督あってこそだ。何も悪くねぇ。自分を責めるな。ドナドナされたここの提督は、以前から内偵の対象だったんだ。戦場も経験してねぇくせに粋がりやがって」


親潮「すいません、あの・・・」


鷹島提督「鷹島だ。特務第七号鎮守府、清掃討伐部隊、スイープ&スレイヤー、通称SSの司令さ。アフリカ帰りで銃の達人、女の子大好き。イケメン!よろしく!」ニッ


??「まあ実際は、女の子がいないと眠れない病気なんですけれどね、割と真面目に」


鷹島提督「ああ、青葉。親潮ちゃんの話し相手なり、お茶淹れるなり、対応頼む」


青葉「初めまして。特務第七の青葉です。大変でしたね!少し、落ち着きましょうか。好きな飲み物は何ですか?」


鷹島提督「青葉、この部屋にあるものを適当に使って構わねーからな?あー、おれは砂糖たっぷりのコーヒーで!」


青葉「あはは、ひっどー!でも、わかりました!親潮ちゃんは何にします?」


親潮「・・・緑茶でお願いします」


秋雲「落ち着いてるねぇ。私は有ればココアでがいしゃーす!」


鷹島提督「親潮ちゃん、こんな時は甘い物もとっとけ。・・・青葉、親潮ちゃんにはお茶の他にココアかなんかも淹れてやって」


青葉「かしこまりー!です」シュバッ


―しかし、廊下の向こうが騒がしくなってきた。


??「何で?どうしてこんなことに?納得がいきません!通してください!」


重武装憲兵「ダメだ。ここは通せない。これ以上無理を言えば、君は『プロセス』の対象に」


??「うるさい!どいて!」


―ダン!


重武装憲兵「『プロセス』対象と確認、捕まえろ!・・・鷹島さん、そちらに艦娘が!」


親潮「えっ!?」


―親潮は驚いて周囲を見回した。しかし、青葉と秋雲はティータイムの準備をしており、鷹島提督は口にショットシェルをくわえて、何か銃をいじっている。


鷹島提督「・・・よし」


―タッタッタッ・・・バーン


阿賀野「これはどういう事なの?どうして提督がこんな事に?・・・あっ!」


―プシュン!


―阿賀野が何かに気付いた時に、小さな発射音がし、阿賀野の首に小さな注射器のようなものが刺さった。


阿賀野「えっ?何これは?うっ・・・」ドサッ


鷹島提督「ごめんな、これは君ら艦娘の動きを止める薬だ。人間にも効果はあるが。大丈夫、死ぬとかじゃない。ちょっと落ち着け・・・」


阿賀野「ひどい・・・私も矯正施設行きね!親潮、あなたが変な事を言うからこんな事に!返して!提督を返してよ!・・・うぅっ・・・返し・・・て・・・」ガクッ


―武装憲兵隊が部屋に来ると、すぐに阿賀野を担架に乗せて運び去った。


親潮「ごめんなさい、私、そんなつもりじゃ・・・」


鷹島提督「謝るな!君は何も悪くないって言ったろうがよ?ここも、不自然に消えている艦娘が何人かいる。駆逐艦ばかりとはいえ、やってることは殺人と同じだとおれは考える。悪いとすれば、この程度の提督でも着任させるしかない戦況が悪い。阿賀野がひたすら可哀想だ。検査に引っかからなきゃよいが、おそらくは『プロセス』・・・矯正施設行きで、無期限入所だろうな」


親潮「そんな!何とかならないんですか!」


鷹島提督「戦況が変わるか、強い提督が一定数居れば、状況は変わるらしいがな。最近、ある程度黙認されていた鎮守府の提督が皆こうして捕まっているところを見ると、上層部は何か流れの変化を感じているのかもしれないが」


親潮「まったくわかりません。どういう事なんですか?」


鷹島提督「簡単だよ。強い艦娘を着任させられ、安定して運用できるのは、強い心を持った提督なんだ。しかし、そういうやつがもういないってこった。昔はそれなりに居たらしいがみんな、死んだり、MIA・・・戦闘中行方不明になってるらしくてな。今の提督は一部を除いてほとんど残りカスって事だ。・・・例えば、練度の高い駆逐艦さえ満足に着任できていない。君とかな」


親潮「えっ?それは、参謀も同じことを仰っていましたが・・・」


鷹島提督「ここの提督が昔いたような提督連中だったら、君は今頃、こっそり秘密の大人の時間を奴と楽しく過ごしていたろうさ」


親潮「まさか!・・・そんなに・・・違うんですか!?」


鷹島提督「違うねぇ。例えば、子供や動物は艦娘を怖がらないが、適正が全然ない一般人は艦娘を恐れるだろう?艦娘を恐れず、理解できる奴が提督になれるんだが、実はその先も段階がある。高練度の戦艦や正規空母を女の子扱いできるのが、本物の提督さ。・・・ここの提督も、せいぜい軽巡だったろ?」


親潮「参謀が仰っていたことが、やっと理解できました。鷹島司令、もう、そういう方は居ないのですか?太平洋の泊地に討って出られるような方は?あなたも相当お強い方だと思いますが・・・」


鷹島提督「申し訳ないが、うちは海に出ないし、処女お断りだからな。矯正施設や色んなところから、訳アリの子をスカウトしてきて、汚れ仕事に当たるのが主任務だ。君の要望は満たせない。・・・知っている限りの他の特務なら、第六まではまあまあ強い。あとは防御や、文字通り特務だ。最後の第二十号は攻撃型だが、事実上は矯正施設の『清算』に用いられるって噂だしな」


親潮「そう・・・ですか・・・。参謀は待てと仰っていましたが、本当に絶望的なのですね・・・」


鷹島提督「参謀のおっさんは信用するなよ?ありゃ相当食わせもんだし、なかなかいい仕事をする。血も涙もないくらいの、いい仕事をな。・・・こいつはサービスだが、君も次は『プロセス』行きだぜ?もうショートランドの話は出すな。君は何か考えがあって泳がされてるだけだ。ここまでにしておけ」


―気丈な親潮の心が、ここで折れてしまった。


親潮「そんな・・・そんな事・・・できません・・・ううっ!」ポタッ


秋雲「あー・・・ボスぅ、泣かせちゃったー!」


青葉「ボス、そこまで現実ぶつけなくてもいいじゃないですか。もう少しオブラートに・・・ええっ?」


鷹島提督「ごめん・・・くっそ、可哀想だな・・・ちくしょう・・・」グスッ


秋雲「あーもうボスぅ、めんどくさいから泣かないで。まーたみんなでよしよししてやんなきゃならないし・・・」


―鷹島提督は、女の涙に弱すぎるのだった。


鷹島提督「わかった。じゃあ希望が持てる話をする・・・」グスッ


親潮「えっ?」


鷹島提督「こっから先は全部ひとりごとだ。いいな?」


親潮「・・・はい」


鷹島提督「特務は二十で終わりと言われているが、識別コードは二十一あるようだ。初号なのか二十一号なのかは不明だがな。そして、こんな任務の日々で不吉な噂を聞いた。軍属が使う、触れ得ざる秘密・・・『D事案』の語源になった男を、上層部は提督にしようとしていると」


親潮「・・・」


鷹島提督「そいつは、数えきれないほどの敵を殺し、味方を生かし、味方からの暗殺もすべて返り討ちにし、組織に紛れ込んでいたスパイどもを、最後はたった一人で皆殺しにして、行方をくらませた。風の噂では、戦闘ストレス障害で廃人になったというが、一度でもあいつの戦いぶりを見たら、とてもそうなる奴とは思えない。・・・そんなに、攻撃型の提督が必要なら、奴の着任を待って、奴の艦娘になればいい。女子供には優しいやつだったし、君みたいな堅い女にはよくモテたからな」


青葉「ボスー、親潮ちゃんが可哀想だからって、そんな都市伝説を・・・」


秋雲「対象Dの話なんか出すってのはどうなのよー」


―しかし、鷹島提督は黙ってワイシャツのボタンを外し、下着をぐいと下げた。心臓に近い場所に、二つの銃創がある。


秋雲・青葉「えっ!?その傷はアフリカで負ったただの傷じゃ・・・」


鷹島提督「都市伝説でもなんでもねえよ。一度目は三百メートル先を暗視で狙い、二度目は百メートル以内を闇討ちの筈だった。二回とも、トリガーを引こうとしたところで記憶がなく、気づけば病院のベッドの上だ。そして、助けてくれたのは奴だ。しまらねぇ話だろ?・・・それからだよ、おれが、お前らが居ないと眠れないような奴になったのは」


親潮「そんな・・・人が?その人なら、提督に向いていますか?」


鷹島提督「こんな燃えカスみたいな状況で、強い提督が必要ってんなら、もうあいつ以外は思い当たんねーよ。参謀のおっさんもおんなじ事を考えるだろうさ。戦闘ストレス障害は・・・おれみたいに、艦娘の優しさで何とかなるかもだしな」


―これは、泣いている親潮の為の、ほとんど出まかせに近い話だった。人嫌いで異常に警戒心の強い『D』が、今更組織になびくとは思えない。誰もいない南の孤島で、一人で生活するくらい、わけなくできる男だ。そして必要なら、本当にそういう生き方をする奴だ。何より、重度の戦闘ストレス障害が事実なら、寛解はまずしないはずだ。


親潮「私、その話に賭けてみます・・・。ありがとうございます、鷹島司令。もうショートランドの話は誰にもしません。時が来るまで、ひたすら自分を高め続けることにします」


鷹島提督「お・・・おう。それなら良かった。元気出してくれ。(言い過ぎたかなぁ・・・でもなぁ・・・)」


秋雲「親潮ちゃん、やっぱり高練度なだけあって切り替え早いねぇ!感心感心!」


親潮「ありがとうございます。でも、私、女性としての経験は全く低練度です。これまでの経験とお話をまとめると、高い提督の適性をお持ちの方は、空母や戦艦、重巡の方々と仲良くなる可能性が高い、という事にもなりますよね?」


鷹島提督「どうかな?駆逐艦が嫌いな提督はいないと思うぜ?」


親潮「そうでしょうか?」


鷹島提督「『まったく、駆逐艦は最高だぜ!』って言葉を知らないのか?」


親潮「初めて聞きました。でも・・・」


秋雲「はっはーん、分かったよ。要は、女の子として戦艦や空母の大人の魅力に負けるんじゃないかって事ねー?そういう話なら秋雲さんにお任せだよー!ほとんどの提督をイチコロにできるように協力してあげるー!」


親潮「本当ですか!?ぜひご指導、ご鞭撻をお願いしたいです!」


秋雲「まかしといてー!ただ、親潮ちゃんも秋雲に色々協力してね?」


親潮「協力ですか?はい。私にできる事なら・・・」


秋雲「よーし、決まりだねん!」ニヤッ


鷹島提督・青葉(ろくなことにならない気がする・・・)


―こうして、親潮は特務第七のメンバーとは交流したり、連絡を取り合うような関係になった。秋雲には色々な服を着せられるようになったが、それは新鮮で、見識の拡がる経験だと思えた。



―現在。2066年一月一日、夕方。呉、特務第十九号鎮守府・新型駆逐機実証工廠、親潮の私室。


親潮(・・・んっ?あたし、眠ってた?)ムクッ


―窓の外は暗く、ガラス越しに冷気が伝わってきている。その下のオイルヒーターの緑色の光はゆっくり点滅しており、今夜も冷え込む気がした。


親潮(いけない!寝過ごしましたね・・・)


―しわになった制服のワイシャツを着替えると、部屋を出る。特に何の任務も無いが、今日も司令は忙しいはずだ。手伝えることはあるはずだが・・・。


親潮(・・・何か、騒がしいような)


―ドアを開けると、どこかで言い争うような声が聞こえ、張り詰めた雰囲気を感じ、急いで執務室に向かった。



―執務室。


親潮「失礼いたします。あっ!」


―ドアを開けると、磯風と青葉が、ちょうど執務机と時田提督を挟むような構図で、言い争いをしていた。


磯風「青葉さんは分からず屋だな。司令が私の食事でいいと言っているから、私が給仕しているのだ。そこに何の問題があるというのだ?・・・親潮か」


青葉「提督がそうしてくれていても、食べられないようなものを出して、無理に食べさせるのはおかしいと言っているんです!そもそも、ちゃんと味見して、正しい調理をしているんですか?・・・あっ、親潮ちゃん」


時田提督「お疲れ様です。親潮さん・・・」


―既に時田提督は憔悴している。


親潮「どうしましたか?」


青葉「それが・・・」


―青葉の視線の先、時田提督の執務机の上には、一目見ただけでわかる磯風の料理が並んでいる。透明で、ぶつ切りの野菜の入った、湯気の出ていない汁物に、おかゆのようなご飯。炭化した、おそらく肉に、味噌の絡んだ生のほうれん草、という献立だ。


親潮「これは、食べるのは難しいと思います」


磯風「何だと!また余計な事を!」


親潮「そこまでおっしゃるなら、味見はされましたか?味見をしないものをお出しするのはとても失礼な事です」


磯風「味見など必要な「いい加減にして!」」


青葉「提督の、何か弱みを握ってこんな事をしているんでしょ?それが女の子のする事なの?提督は、昼間、青葉と親潮ちゃんの料理を食べて泣いていたんですよ?磯風ちゃん、あなたが泣かせたの!提督の事が大好きなのかもしれないけど、こんな事してたら、いつかすっごく嫌われたり、提督が身体を壊しちゃいます!そうなったら、青葉黙ってませんよ?本気でぎったんぎったんにします。・・・いいえ、提督が身体を壊す前にそうします!絶対に許しませんから!」ゴゴゴ・・・


―普段は怒らない青葉の迫力に、磯風も流石に気押された。


磯風「泣いた?くっ・・・私が、司令を大好きだと?バカな事を言うな!かっ・・・勝手にしろっ!」ヨロッ・・・ダッ!


―ガチャッ、バターン


時田提督(大変だ・・・しかもなんかバレかけてる?もう終わりだ・・・)ガタガタ


親潮「司令、どんな事情があるにせよ、もっとしっかりしてください。何か事情があるのかもしれませんが、おそらくそれは、考えているほど大きなことではないと思います。青葉さんや磯風が、こんなに司令の事を考えてくれるという事は、司令は艦娘にとっても大切な人なんです。自信を持ってください!」


青葉「親潮ちゃん・・・」


時田提督「う・・・うん!(みんなの信頼が・・・痛い・・・)」


機械音声『新規の連絡先より、特殊帯通信が入りました』


青葉「新規の連絡先?提督、お願いします。あ、親潮さん、すいませんが・・・」


親潮「退室ですね?わかりました」ガチャッ、バタン


―ずっとここにいるわけではない親潮は、現在、総司令部付きだ。その為、機密レベルの高い通信時は立ち会えない事になっている。


親潮(私は青葉さんや磯風みたいに、司令の事で一生懸命になれない。私、欠陥艦娘なのかな・・・)


―最近親潮が考える事と言えば、そんな事ばかりだった。



―時間は少し戻り、午後の堅洲島鎮守府、執務室。


山城「まったく・・・きっちり勤め上げてきましたからね?」


提督「ああ、お疲れさま。ゆっくり休んでくれ。・・・お茶とコーヒーで、どちらがいい?」


山城「え?提督が煎れて下さるの?・・・緑茶でお願いします」


提督「山のような書類が届いたからな。みんなひとまず休ませているよ。ああ、座って休んでくれ。眠いだろうし」


―提督は慣れた手つきでお茶を淹れ始める。


山城「そうなのね?戦艦だもの。この程度で疲れたりはしないわ」


提督「そうかい?ところで、地元の人の受けが良かったろう?」


山城「ええ、お陰様で、沢山『不幸』が溜まったわ。来る人来る人、みんないい笑顔で」


提督「そいつは何よりだな。はいお茶」コトッ


山城「いただきます。・・・もう、あまり卑屈な事は言いませんから、こういう、よくできたお仕置きはしないでくださいね?まったく」ムスッ


提督「ダメだな。おれは卑屈な事を言うなと言ったんじゃなく、卑屈な考え方をしないで欲しいからな」


山城「わかりました。卑屈な考え方ね?ええ、わかりましたとも」


提督「まあ冗談はともかく、地元の人からの受けも上々だったみたいだな。お疲れさま。扶桑と一緒に、間宮さんとこで何か食べたらいいよ。はいこれ」スッ


山城「あら!間宮券ですか?」


提督「ちなみに、みんなそうだが労働の対価で薄謝も後日渡されるぞ?」


山城「・・・提督、別にこの任務、来年も受けてもいいわ。ただ、一つ提案があるのだけれど」


提督「提案?」


山城「ええ。私にこっそり装備してくださっている、緊急ダメージコントロールを、時雨に付け替えていただけませんか?」


提督「・・・は?いやいやいや、そもそも何でそれを?」


山城「まだ館山にいた頃、よく、執務中に寝ちゃっていたでしょう?あの時に見てしまったのよ。ごめんなさい」


提督「うわぁ、なんか恥ずかしいな。居眠りはおれの不手際だからいいけどさ、扶桑と山城をすごく大事にしてるみたいに思われちゃうよな。まあ大事なんだけど。・・・で、時雨にって事は、やっぱり山城も何かやらかすと見てるのか」


山城「あの子も、私と同じでちょっと情念の強い部分があるから、何となくわかるわ。経歴を見させていただいたのだけど、姉妹の中であの子だけ提督と何も無くて、あの子だけ生き残っているでしょ?色々考えてしまうに決まっているわ」


提督「一応さ、おれに対しても何かあるケースは考えているんだ。おれがすごく困るはずの詰め寄り方を・・・してくる可能性も考えてな。しかし、そうか、山城から見てダメコンが必要と思えるんじゃもう間違いないな。さすがはやましぐれ」


山城「そのくくり方はちょっとやめて。そういう鎮守府もあるけれど、あの子はもっと冷静よ。冷静で、だから自分の感情で苦しんでいるんだわ。とてもいい子よ。けど、いつかは爆発してしまうわ」


提督「だよなぁ。わかった。しかし、一つだけ約束してくれ。この処置は一定の期間のみ。また、高難易度の任務は与えない。沈まれちゃ困るからな」


山城「沈みませんよ。提督の采配を信じているわ。有能なのはもうわかっているもの」


提督「・・・山城、疲れてるだろ?おれを褒めるとか」


山城「失礼ね!・・・そうでした。色々突っかかろうとしていたのに、忘れていたわ」


提督「あー、おれも急用があったのを忘れていたよ」


山城「ほんっと、ああ言えばこう言うわね!・・・姉さまにあんな服を選んで、どういうつもり?」


提督「どういうつもりも何も、似合うだろう?単純にさ」


山城「・・・」コクリ


提督「そこは何か言い返すところだろう!無言で頷くところじゃないぞ?」


山城「・・・鼻血が出たわ。なんなのあのセンスは。あれが男目線というものなの?」


提督「・・・姉に鼻血を出す奴とはあまりしゃべりたくないなぁ~」


山城「へ、変態みたいに言わないでください!少し、姉さまが綺麗すぎて好き過ぎるだけです!」


提督「小さい女の子が好きな奴と、言ってる事の字面が全然違わないのがまた・・・」


山城「あまり楽しまないでください!」


提督「どっちがだ!」


山城「それで、聞こうと思っていたんですが、・・・姉さまは好き?(あれっ?私、何を聞いてるの?)」


提督「・・・は?いきなり何を言ってるんだ?逆に聞きたいが、あんな良い女を嫌いな男が居るのかね?そもそも、艦娘はそういう子ばかりだろう?」


山城「今のは間違いよ。・・・それにしても、ほんと自然に模範解答を返して来るわね。全く・・・」


提督「そういう仕事さ。ついでに有能だからな」フッ


山城「はいはい。姉さまが言ってましたからね。とても口では勝てませんよ。・・・聞きたかったことは違うわ」


提督「ん?」


山城「気持ち、少しは楽になりましたか?」


提督「・・・見ての通りだよ」


山城「ウソが上手な人だから、ちゃんと言葉で言ってもらわないと」


提督「だいぶ楽だよ。最初の頃よりさ(嘘が上手、とはね・・・)」


山城「それなら良かったです。もう一つ。・・・私が着任する前、姉さまと何かありましたか?よく見てると、姉さまとだけ、少し空気が違いますよね?」


提督「・・・どう違う?」


山城「うまく言えないけれど・・・」


提督「じゃあ、気のせいだよ」


山城「待って、頑張って言葉にするから・・・」


提督「いや、無理にしなくていいが」


山城「えーと、そうそう、姉さまと提督だけ、何だか自然な空気で話してません?気を使ってないように見えるわ」


提督「そうかなぁ?おれは誰にも気を使ってないぞ?」


山城「ああ・・・語彙力とか表現力が足りない。不幸だわ・・・」


提督「そもそも、男女で空気が自然って言ったら、想像できる事なんて・・・」


山城「えっ・・・」


提督「勘のいい山城は嫌いだよ」ボソッ


山城「・・・なんだ、嘘か」


提督「あれっ?ショック受けるかと思ったのに」


山城「私が本当にショックを受けるような事はしないのくらい、知ってます。・・・いつかそれで、困らせてしまうかもしれませんが」ボソッ


提督「参ったなぁ。・・・ん?」


山城「・・・何かで、姉さまの気遣いに触れて、少し気が許せる感じですか?」


提督「・・・そうだよ。おれより、扶桑に聞いた方が良い性質の話だな、この話は」


山城「わかりました。・・・じゃあ、そろそろ休みますね」


提督「ああ、お疲れさま。時雨の件は小笠原の出撃前には対応しておくよ」


―山城は立ち上がると、執務室ラウンジを出て行くが、ドアの間際で立ち止まった。


山城「色々と大変かもしれませんが、提督もたまには休んでくださいね?」


提督「いつも半分休んでるさ。でも、ありがとう」


山城「今年もよろしくお願いします。では」ガチャッ、バタン


提督(緊急ダメージコントロールを時雨に付け替えか・・・。まさか知っていたとはなぁ・・・)


―いずれにせよ、山城も同じ見立てという事は、近いうちに状況が発生するのだろう。



―近くの廊下。


山城(そういえば、結局どうして、姉さまと私にダメコン積んでくださっているのか、聞き忘れてしまったわ。でも、それは野暮すぎるわね・・・)


―理由が何であれ、自分たち二人が大切にされているなら、それでよいはずだ。


妙高「あ、山城さん、あけましておめでとうございます!昨夜からの地域特務ですね?お疲れ様です。・・・あの、提督は執務室にいらっしゃいましたか?」


山城「あけましておめでとう。まったく、大晦日から新年にかけて、さっそく使われてしまったわ。ふふ、口は禍の元ね。・・・提督なら、執務室に珍しく一人でいたわ」


―ギクゥ!


―何か、驚きとともに空気が張り詰めた気がした。


妙高「そ・・・そうですね。まったく、口は禍の元だと思います」


山城「汗なんか浮かべて、演習でもしていたの?」


妙高「いえ、そんな事は無いのですが。・・・ありがとうございます。提督は執務室にいらっしゃるんですね?早速行ってみます!」


山城(実弾演習の申し込みかしら?気合が入っているわね・・・)



―執務室ラウンジ。


―コンコン


提督「どうぞ」


―ガチャッ


妙高「し、失礼いたします。提督、今、お一人ですか?お時間はよろしいでしょうか?」


提督「ああ、山城が来てたんだが、帰ったばかりだよ。昨夜から忙しかったからな。みんな休憩時間だ。おれは・・・まあ遊んでいるようなものか。・・・飲み物は何がいい?」スッ


妙高「あっ、私がご用意いたします。提督は何で?」


提督「そうかい?コーヒーでよろしく!」


妙高「かしこまりました。直ちに!(お怒りでは・・・ないのかしら?)」


―起きてから妹たちが妙に落ち着きが無い事に気付いた妙高は、昨夜の話を足柄からどうにか聞き出すと、顔面蒼白になった。そして、慌てて身だしなみを整えて、急いで執務室に来た、といったところだ。


妙高「どうぞ、お好みと聞いております、薄めのブラックです」コトッ


提督「ありがとう、いただくよ。妙高さんも座って、適当に菓子でも楽しんで」


妙高「いえ・・・その前に、提督、・・・昨夜は数々の無礼な発言、誠に申し訳「その件ならいいって」」


提督「無礼講なんだし、あれはあれで楽しかった。それでいいんじゃないか?」


妙高「えっ?」


提督「もしかして、その為にここへ?・・・もう終わったことで、まったく気にしてないって」


妙高「・・・本当ですか?」パチクリ


提督「そうでなくて何のための無礼講よ?あれでいいんだっての。この話はここまで!」


妙高「・・・わかりました」


提督「妹思いなのはとても良いと思うよ?それから、なぜ高雄型の着任を気にしているのかは分からないが、気にする必要は皆無だとも申し添えておく」


妙高「返す言葉もございません。ありがとうございます」


提督「ただ、実は少し、本当のところは知りたい。なぜ、高雄型が来る前にって話になるのか」


妙高「それは・・・高雄型はみんなスタイルも良くて、能力が高いからです!」


―扶桑の推測は大当たりだった。


提督「(扶桑、大当たり・・・)おれはスタイル派じゃないんでスタイルは除外。能力は適材適所。あとは性格が合う、合わないだけど、そこも問題なさげなので、まあ杞憂だな。ついでに、昨夜の質問にも答えておこうか。駆逐艦の子たちとは確かに仲がいいな。秘書艦を頼みやすいし、話しやすいのと、彼女たちも色々考えて接してくれるからだろうよ。戦艦とは・・・なぜだかイマイチわからんな。みんな大人なのだが・・・」


妙高「提督が非常にお強いからだと思います。でもそれだけに、軽巡や、私たち重巡を段飛ばしにされてしまう程なのではないかと、気になっていたんですよ。とても僭越な話で申し訳ございません。私はともかく、やはり妹たちの事は気になってしまいますから」


提督「長女は大変だよな。・・・しかし、その心配は杞憂だよ。誰か一人足りなくてもダメな、そんなギリギリの日々だし、誰にも大切な役割はあるから、心配しないで欲しい」


妙高「すいません、そんなお話までさせてしまって。私としたことが・・・大失態ですね。自戒して、今後お酒は控える事に致します」


―妙高は明らかに色々と気にしている。普段の厳格と言っていい冷静さからしたら、昨夜の事が気になるのは無理も無いのだが、そもそも無礼講だったのだ。


提督「いや、酒は控える必要なし。いいね?無礼講の酒の上での話を引きずっちゃいかんよ。それは、無礼講という指示を順守していないという事になるぞ?」


妙高「うっ、そういう言い方をされると、何も言えなくなってしまいますね」


提督「何も言わんでよいし、酒を控える必要も無し。むしろ、もう少し那智に付き合ってやった方が良いように思うくらいだな」


妙高「かしこまりました」


提督「それと、おれにはもう少し砕けた感じで、あまり気を遣わずに話して欲しいね。仕事ぶりも妹たちへの対応もキッチリしているのは分かっているから、おれに対しては、酒など無くても色々聞けるくらいの距離感で。その方が良いはずだよ」


妙高「ありがとうございます。・・・何だか、素面で話していると、色々わかるものですね」


提督「ん?」


妙高「寛容で砕けた話し方や声の底に、何か強い力の裏打ちを感じます。駆逐艦の子たちは程よくこれを感じ取れず、戦艦の方々には心地よいはずですが、軽巡や重巡には、慣れないと緊張の伴うものです。そういう事だったのですね・・・だから、戦艦の方々とよい関係を築きやすいのですね。昨夜も扶桑さんがご一緒でしたが、なんだかとても、楽しそうでしたし」


提督「それはちょっと穿ち過ぎた分析と言うか、考えすぎな気がするが・・・うーん」


妙高「では、立ち入った質問ですが、提督はどんな女性を好まれますか?」


提督「いきなり砕けたな!」


妙高「とても大事な事ですから」ニコニコ


提督「わかった。幾つかはあるが、一つだけ。過去の傾向を見るに、おれは結構、長女好きと言える」


妙高「えっ!提督、巧妙に私を煙に巻こうと・・・真面目なお話ですか?」


提督「真面目真面目。何の前提も無い状態なら、まず長女フェチな部分があるぞ?」


妙高「那智や足柄が、提督はお話の面白い方だとは言っていましたが・・・まさかこんな興味を惹かれるお話をされるとは・・・ふふっ、そうですか。長女のどんなところがお好きなのですか?」


―妙高は笑っているが、目の奥の光は真剣そのものだ。


提督「君が一番わかるだろうが、妹や弟に目を配り、気配りをするが、その分自分自身は我慢をし、甘え下手なところかね。そういう意味では、扶桑や金剛とも、責任を預かる立場としても共感しやすい部分があるな」


妙高「なるほど・・・」


提督「もっと言うと、甘え下手で弱みを見せない長女が、何かで自分にだけは甘える姿を見せるような部分は大好物でね。なかなか来るものがあるわけだよ!」


妙高「うっ!確かに、そういう方がいたら、長女は陥落してしまいます。なるほど・・・これは楽しいお話です!気丈な女性に甘えられるのが好きとは、提督はなかなか隅に置けない考えをお持ちですね。私も長女ですから、そういう考え方の男性は素敵だと思いますよ?」


提督「そうかい?男の九割はなんらかのフェチズムや趣味があるからな。ひかれなくて良かったよ」フッ


妙高「そんな事、ありませんよ。(大したものですねぇ・・・)」


―提督の言う事は、非常によく考えられたカウンターかもしれないが、もしそうだったとしても、それを即断で返してこれるだけで、十分に評価が高い。困ったことに、何かを考えて返しているような雰囲気は無く、提督は鷹揚なままだ。


妙高(戦艦の方々に好かれるのも納得ですね・・・)


提督「どうかしたかな?」


妙高「いえ、提督、今後は私ももう少し、那智や足柄、羽黒と呑むようにいたします。提督もお誘いしますので、お手すきでなくてもぜひいらしてくださいね?」


提督「わかった。長女の誘いは断れないからな」ニコッ


妙高「はい。では、失礼いたしますね」ニコッ


―妙高が部屋を出て行ってすぐに、叢雲から通信が入った。


機械音声『特殊帯パルス通信が入りました。通信機またはリレーション機器による受信を行ってください』


―司令レベルの上昇に伴い、より高度な暗号化通信の利用が可能になったのだが、叢雲は早速それを使用して来たらしい。しかし、使用してきたという事は・・・。


提督「お疲れ様。どうした?」


叢雲「利島鎮守府の陽炎型十二番艦、磯風を、大破・補給切れ停止状態で発見。これから帰投・・・しても大丈夫?」


―明らかに報告書と現状に食い違いが発生しているため、提督の判断が必要だという事だ。


提督「・・・何か、特記できる状況は?」


叢雲「この子、抜身の艤装刀を構えたままで固まっていたわ。そして、左わき腹に鋭利な傷を確認。負傷の原因はちょっと想像がつかないわね」


提督「鋭利な傷?頑張って表現したとして、何で負ったような傷に見える?」


叢雲「・・・考えづらい事だけど、ちょっと馬鹿な事を言うわね。図書室の漫画コーナーに、大きな剣を振るう主人公の漫画があるじゃない?左手が大砲になってて、片目の・・・」


提督「ベルセルクだな?ふむ」


叢雲「まるで、あの漫画の剣で斬られたような傷よ」


提督「何だと!?」


―提督は、約二年前の、タンカーの中での激しくも楽しい戦いを思い出した。



―二年前、タンカー『タスマン号』車両収納フロア。


―煙の漂う広い空間の中、燃える大剣を浮かべた深海の姫と、コート姿に左手に信号銃、テープを巻いた右手には消火斧を持った提督が対峙していた。


深海の姫「ナントイウ、ナントイウ闘争心ト戦闘能力ダ!ウナバラヲスベルモノノゲンソウハ、ユメニオワラナイナ!」オオォォォ・・・ジャギッ・・・ブンッ!


―空中に浮かぶ大剣は水平になり、予備動作と共に大きな薙ぎ払いが来ると思われた。


提督「どういたしまして!おちおちメンタルも患ってらんないぜ!」ボシュッ、ガロン・・・ダッ!


―提督は深海の姫の右目を狙い、四連装の信号銃の一発を撃つと、足元の消火器を蹴り飛ばしつつ、突進した。


深海の姫「ウヌッ!」バシュウゥゥ


―姫は信号弾を左手で受け止め、握りつぶした。


―提督は突っ込みつつ、斧で渾身の一撃を食らわす・・・という動きから、いきなり信号銃を消火器に打ち込んだ。


―ボンッ!バシュゥゥゥ


―爆発の一瞬、コートで消火器の破片を遮りつつ、ブラフを吐く。


提督「左側はガラ空きだな!」


深海の姫「クッ!オノレ!」


―姫の大剣が、消火器の煙の中でぼんやりした炎赤の弧を描いたが、実は提督はそのまま直進していた。


提督「はい斧に注意!」


深海の姫「ナッ!ダマシタナ!ナントイウ胆力カ!」ガラァン!


―燃える大剣への、何らかの力が切れたのか、大剣はやかましい音を立てて、緑色の防水縞鋼板の床に落ちる。そして左手で提督の斧を止めようとしたが、ここで提督は斧を放し、右手にテープで逆手に止めていたナイフを、深海の姫の首に一瞬優しめに当て、身をかわすと飛びのいた。


提督「なんちゃって、四本目!」バッ!


深海の姫「ナンダト!オノモフェイクカ!」ポイッ、ガラン


―深海の姫は提督の斧を床に放り投げた。


提督「・・・なあ、あと何本取ったら納得してくれんの?おれもう四回、君を助けたんだが」


深海の姫「クッ!タノシイ!タノシクテ、クヤシイ!オマエハトテモツヨイ。ナノニナゼ、コロサナイ?」


提督「申し訳ないが、ここで女の子を殺したら、おれの心が持たない。病んでるせいなのかわからないが、深海の姫らしい君は、なぜかとても綺麗に見える。だから殺せないな。たとえ死なないのだとしても、通常なら致命傷を与えるはずの攻撃はちょっとできないな」


深海の姫「・・・キレイ・・・カ。オカシナニンゲンモイタモノダ。ナントイウヒカ」フッ


提督「んっ?今、笑ったのか?」


深海の姫「フフ・・・フフフフ。タノシイ・・・トテモタノシイ。ワカッタ。アトイチゲキ、トラレタラ、キョウハモウカエロウ」


提督「わかった。じゃあまた遊ぶか!これでラストオーダーだぞ?」


―再び二人は、殺し合いのような遊びの準備を始めた。



―提督の思考は、今に戻る。


提督「いや、まさかな・・・」


叢雲「どうしたの?・・・どうする?」


提督「剣を持ったままだったって?」


叢雲「そうよ。みんな感心しているわ」


提督「とにかく、連れてきてゆっくり休ませてやろう。大したタマだ。気を付けて帰ってきてくれ」


叢雲「わかったわ。医務室や入渠の支度、お願いするわね。ニーマルマルマル(20時)までには帰投できると思うわ」


提督「諒解。広域敵性反応は非常に低い。しかし、気を抜かずにな」


―提督の勘では、この件は何かは有る。しかし、なぜか危険はあまり感じられない、モヤモヤしたものが感じられていた。



―堅洲島鎮守府、医務室。


川内「・・・んっ、あっ!」


―白いジプトーンの見慣れない天井だ。医薬品の匂いと、わずかに漂う、少し甘い柑橘系の・・・陸奥の香りで、ここが医務室なのだと思い出す。


川内(ん・・・なんかすごく調子いい!)


陸奥「・・・あら、川内、起きたの?開けても?」


川内「大丈夫よ、陸奥さん」ジャッ


陸奥「あら、顔色が良いわね。スッキリした顔をしているわ。・・・ちょっと大人になったのかもね」フフッ


川内「もうすっごい恥ずかしいから、からかわないで陸奥さん。自分がすごく子供だったみたいで・・・いやだなぁ」カアァ


―ここで、医務室のブザーが鳴った。


陸奥「あら、提督だわ!・・・開いているわよー」


―カラッ


提督「お邪魔しまーす先生。今日も教室に行けません!」


陸奥「保健室登校!?」


提督「おっ!」


川内「あっ!・・・提督、昨日はありがとう。ごめんなさい・・・」


提督「・・・むっちゃん、川内もう駄目じゃないか?しおらしくなってるぞ?」


川内「あー!ひっどーい!」


提督「調子は良さそうだな」


川内「うん、もうたぶん、大丈夫!」


陸奥「心因性発熱だから、もう大丈夫でしょ。熱は測るけど、好きなものを食べて早めに寝れば大丈夫よ」


提督「デリケートな話みたいだから深入りしないが、何でもそんなに思い詰める事はないもんさ」


川内「そうだね。ゴメンね提督。でもびっくりしたよ。すごい運動能力だね!」


提督「ああ。実際はフル装備の死にそうな野郎二人を背負って、殺す気で飛んでくる弾の中をああやって走るんだがな。女の子しょって走るのなんて、まあ何かのご褒美みたいなもんよ」


川内「うっわぁ・・・でも、そうだよね。戦場帰りだものね」


陸奥「そういえば、どうしたの?」


提督「ああそうだった!捜索艦隊が対象を発見してしまったよ。入渠と、検査その他の準備を頼む。何だか医務室も忙しくなってきたな。夕方からは荒潮もサポートしてくれるだろうし、よろしく頼むよ」


陸奥「えっ?着任してくるの?」


提督「恐らくそうなるんだろうが、回復を待ってから、本人に状況の説明と意思確認をして、それからだな」


川内「なになに?このタイミングで着任てどういうこと?」


提督「しばらく前に、いや、磯波たちと一緒に捨て艦された子だよ。まだ漂流していたらしい。刀を持ったままな。練度もそこそこに高い、陽炎型十二番艦、磯風だ」


陸奥「あら、大したものね。何かよほど消えられない理由があるのね」


川内「へーえ、楽しみだなぁ、うちに向いてる気がするね!」


提督「そうだな。早く元気になると良いが・・・」


―しかし、提督にはむしろ、状況の不自然さの方が気になっていた。ただ、今はまだそれを確かめようがなかった。



―同日、ヒトハチマルマル(18時)過ぎ、執務室。


磯波「提督、金山刀提督さんと、瑞穂さんをお連れしました。私、執務室の扉前で人払いをしていますね」


提督「よろしく頼む」


―ガチャッ・・・バタン


―金山刀提督と瑞穂が執務室に入り、磯波と入れ替わる形になった。


瑞穂「・・・あ、大事なお話なのですね?お茶、私がお淹れしましょう。提督さんはコーヒーでよろしいですか?」


提督「ありがとう。コーヒーで」


金山刀提督「おれもたまにはコーヒーで!」


―三人は向かい合って応接に座った。


提督「さてと、手短に話すと、本日になると同時にこの堅洲島鎮守府は、特別な措置とはいえ、横須賀総司令部よりも権限が上になり、同時に、出来る事も大幅に増えた。・・・で、瑞穂さんの深海化の原因がわかり、完全解除も可能になった。ただ、それは重大な機密に触れる事にもなる。様々な覚悟が必要になるが、覚悟に自信がないなら、この話はここまで。本当に覚悟ができるなら、本題に入る」


瑞穂「!」


金山刀提督「・・・覚悟はしたけど通せなかった場合どうなる?要は、口だけの覚悟ってやつだな」


提督「何であれ、ひどい結末しかないだろうよ。知りすぎた人間が拠り所を失う行動を取るわけだから。ただそれは、自業自得にしか過ぎないが」


金山刀「わかった。どうせ死ぬなら、筋を通して死んだ方がマシだ。・・・あんたは、そうやって死んだ奴、裏切った奴を、たくさん見てきた気がするな。おれもそうなるかもしれないと思ってるだろう?それくらい覚悟が必要って事なんだな」


瑞穂「篤治郎さん・・・」


提督「覚悟とは、無理を通すことだと理解しているよ。そういう考え方をしてからは、少し気が楽になったかな。もともと無理な事なのだから」


金山刀提督「だが、瑞穂が一緒に居る。それが正しい事と思える限り、艦娘は人を裏切らないだろう?だから、おれもそうする!」


提督「わかった。まあ、信用しているんだがな。では今夜、まず瑞穂さんの深海化の解除を行う。ここと運命共同体になってしまうが、そこは勘弁して欲しい」


金山刀提督「すまねえ!本当にありがとう!」


瑞穂「提督さん、私はどこまで情報を開示すれば良いですか?命令されれば、知る限りの情報を開示する義務が発生していますが・・・」


提督「あ、こちらから開示は求めないし、自主的にする必要もない。何かこの状況に有益そうなものがあったら、こちらに当りを取ってからの判断にしてほしい。特防に義理と筋を通したまま、帰れる古巣にしておいた方がいいようなんだ」


瑞穂「はい。必要な事は何でもお話しますので、聞いてください。防諜組織にばかり拠り所を置くのは、もともと無理な事です。私がどれほど役に立とうが、いつでも使い捨てにできる位置に置かれているのは理解していましたから」


提督「でも、まだ筋は通しておいてくれ。自分から切ってはいけない。まだ見極めるべきことが幾つかある。」


金山刀提督「そうだな。大事な事だぜ」


瑞穂「わかりました。ご指示に従いますね」


―こうして、深夜から瑞穂の深海化解除をすべく、準備をすることになった。




第四十六話、艦



次回予告



小笠原のとある島で、深海の泊地に奇襲をかける準備をする、取り残された艦娘たちと人間たち。


特務第十九号では、青葉の夕食を食べる時田提督を見て、磯風が色々と思い詰める。


堅洲島では、帰還した叢雲たちと、入渠する磯風。そして、提督は磯風の刀に交戦の痕跡を見つけるが・・・。


瑞穂の深海化の解除に伴って、瑞穂と金山刀提督は多くの機密に触れる。そして、実体化した深海忌雷との戦闘と、磯波と白雪の降らす弾丸の雨。



次回、『吹き始めた風』乞う、ご期待。


隼鷹『しかしあれだねー、こんだけ呑まない期間ってなかったね』


飛鷹『もう小笠原はイヤ。内地に帰りたい・・・』


千歳『まったく・・・』


千代田『ほんと・・・』


後書き

三越コラボが話題ですが、この物語でも、いずれ三越が出てきます。

艦娘側だけではなく、深海側も利用しているのですが、この話が出るのはだいぶ先の予定です。


このSSへの評価

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SS好きの名無しさんから
2017-03-24 19:37:07

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2017-03-22 12:18:45

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2017-03-22 02:35:21

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このSSへのコメント

4件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2017-03-22 03:00:49 ID: W9Dawigc

前フリや事後触れずに小ネタ挟んであるの楽しすぎパパス
第7良い鎮守府に見えるし大井さん達との波乱が不安です

2: 堅洲 2017-03-24 13:26:42 ID: q1Ux-_82

コメントありがとうございます!

地味に小ネタを挟んでいるので、読んでいる方に気付かれると嬉しいですね。
第七は意外と雰囲気は良い鎮守府なのです。そして、大井さんですが、北上さんとすごく親しかった事を考えると、ちょっと不自然な点があります。
先を楽しみにしていたください。

いつも読んでくださって、ありがとうございます。

3: SS好きの名無しさん 2017-03-24 19:41:52 ID: zD2yLbyv

初コメです!いつも楽しいSSをありがとうございます~(三越出るならしまむらも...)
先日着任したこともありコメさせていただきました。これからも楽しみにしています~(それだけ)

4: 堅洲 2017-03-27 18:42:29 ID: mi5-tllh

コメントありがとうございます!

実は既に、第三十三話で鹿島がしまむらで服を買って変装し、調べ物をする、という話があります。
ちなみのその服は実際に買える組み合わせです。地味なんですが、鹿島だと何を着ても似合いそうですね。

ところで、着任おめでとうございます!

初の甲種勲章まで一年以上かかりましたが、ほぼ習慣になっていて楽しめる物って、なかなか無いですよね。楽しい毎日になるように応援しています。

いつも読んでくださってありがとうございます!


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