「提督と由良」
とある鎮守府で、提督を支える艦娘の由良がいて・・・
「今回の任務も上手くいかなかった。」
任務失敗で提督さんは落ち込んでいた。
「やっぱり私は・・・提督に向いてないんだろうな・・・」
「そんなことありません! 提督さんは頑張っていますよ!」
と、いつものように声を掛ける私。
私は由良・・・この鎮守府の提督さんの秘書艦を務めています。
提督さんは優しくて好き・・・ですが、
戦果が取れずにいつも上から叱責を受けています。
当然のことながら、鎮守府の艦娘達にも「無能!」や「クズ!」呼ばわりされています。
提督さんは小心者と言うか自身なさげと言うか・・・よく失敗します。
その度に「私は提督に向いていないんだ」とか「やっぱりここは難度が高かったか」等・・・私が言うのもなんですが
言い訳にしか聞こえないように思えます。
でも、いいんです・・・由良は、提督さんの事が好きなので・・・いつまでも見守っています。
・・・・・・
この鎮守府に別の提督さんが出張に来ました。
名前はわかりませんが、秘書艦は・・・霧島さんでした。
執務のお手伝い? いえ・・・もしかしたら、連合艦隊の任務? いえ、それも違います。
提督さんがここに来た理由は・・・「援助」のようです。
前にも言いましたが、ここの提督さんは任務をよく失敗します。
戦略が整っていない、もしくはわかっていない状態での出撃、編成がわからず寄せ集めで遠征に行って失敗の連続・・・
資材や資金が底をつくのは想像がつきますよね?
ちなみに「援助」に来た提督さんは司令レベル最下位で有名な「クズ提督」と言われていますが・・・
ここの提督さんと違い、自信に満ち溢れているお方でした。
秘書艦の私と霧島さんの立会いの下、提督さん2人が打ち合わせをしていました。
相変わらず提督さんは「私がバカだから・・・」とか「私には向いていないよね?」等、自信なさげ・・・
相手の提督さんも最初は無言で聞いていましたが、徐々に苛立ってきたようで「オレに付き合え!」と
凄い剣幕で提督さんを連れて行ってしまいました。
一体何をするおつもりでしょう・・・
・・・・・・
連れて行かれた場所は・・・道場。
提督さんが竹刀を投げて「これからお前を特訓する!」と言って構えていました。
当の私の提督さんは「私には無理ですよ」なんて、やる前から負けています・・・
・・・・・・
しばらくして、私の提督さんは諦めたのか、竹刀を持って提督さんに向かっていきました。
「遅い!」と呟いた後には提督さんは叩かれて倒れてしまいました。
「次!」また向かって行って叩かれて倒れちゃった・・・「次!」・・・また叩きのめされちゃった・・・
・・・・・・
「も、もう無理です・・・降参です! 許してください!」
戦場でもないのに命乞いしてます、私の提督さん・・・何か情けない。
「お前はそれでも提督か?」と言った後、倒れたままの提督さんを竹刀で叩き始めました。
「痛い、痛いです!」の訴えも聞かず、永遠と叩き続ける提督さん。
私は見ていられなくなって提督さんの前に立ち・・・
「もうやめて下さい! 提督さんは十分特訓を受けました・・・もう許してあげてください!」
もうやめて欲しいとお願いしました・・・でも、
「由良・・・邪魔だ、どけ。」
と言われて霧島さんにどかされてしまいました。
「やめて下さい!」 バシッ!! パンッ!! ビシッ!!
「お願いします!」 バシッ!! パンッ!! ビシッ!!
「もういいでしょ? 提督さんを許してください!」 バシッ!! バシッ!! バシッ!!
何で・・・どうして? そこまでする必要があるんですか?
必死に提督さんが命乞いしてますよ・・・「もう許してください!」と泣き叫んでいますよ・・・
確かに私の提督さんは自信なさげで、頼りなくて・・・言い訳が多くて、ダメな人かもしれませんが・・・
私にとっては大切な提督さんなんです・・・ですからお願いします! もうやめて下さい!
それでも叩くことをやめなかった・・・遂に私は堪えきれずに・・・
「やめてって言ってるでしょ!! 何で、どうしてそこまでするんですか!?」
気が付いたら霧島さんの拘束から抜け出て提督さんの前に立っていました。
「もうやめて・・・提督さんが死んじゃう・・・お願い・・・もうやめて・・・」
私の訴えでやっと竹刀を下げてくれた提督さん・・・でも、
「由良・・・お前はオレの鎮守府で働いてもらう。」
耳を疑った・・・そんな、どういう事ですか!?
私の問いに提督さんが言った衝撃の事実が・・・
「お前の提督は由良・・・お前を担保に援助を申し出たんだ。」
「・・・・・・」
嘘でしょ? 提督さん・・・私を売ったの? ねぇ、答えて下さい・・・嘘って言ってください!
「由良・・・私が無能なばかりに・・・許してくれ。」
提督さんは下を向いて目を合わせてくれない。
そんな・・・あんまりです・・・今までずっと由良が提督さんを支えてきたのに・・・一生懸命頑張ってきたのに・・・
その気持ちがこれなんですか? どうなんですか? 答えて下さい!!
「許してくれ・・・」
ふざけないで・・・ふざけないでよ! 提督さん! 何か言ってよ!!
「そう言うわけだから、軽巡由良・・・お前は今日からオレの鎮守府で働け。」
離して・・・離してって!! 提督さん! 何しているんですか!? 私を・・・由良を助けて下さい!!
「・・・・・・」
そんな悲しそうな顔しないでよ・・・許さない・・・由良は絶対・・・あなたを許さないから!!
・・・必死の抵抗も空しく、私は霧島さんの所属する鎮守府に連れて行かれました。
・・・・・・
鎮守府に着き、部屋に案内され・・・「明日から働け。」なんて言われたけど・・・今の私には絶望と憎悪の気持ちしかありませんでした。
霧島さんの提督さんも許せなかったけど、それ以上に私を担保にして売ったあの提督さんの方が許せなかった。
私は一体何を頑張ってきたんだろう・・・何のために尽くしてきたんだろう・・・
それ以上に・・・どうして私は提督さんが好きなんだっけ?・・・忘れてしまったわ・・・それほど今の由良の気持ちは沈んでいたから・・・
・・・・・・
翌朝、私はこの鎮守府の艦娘達と一緒に出撃か遠征・・・
いえ、何故か給仕を申し付けられ、朝から晩の1日の食事作りを担当されました。
ここの提督さんの考えがよくわかりませんでしたが・・・今の私には命令に従う他ありません・・・選択の余地なんてありません。
1日の給仕を担当している瑞鳳さん・秋月さんたちに教えて貰いつつ、食事を作っていました。
・・・・・・
半年が経ったかな・・・早いです。
半年間ずっと給仕しかやっていませんけど・・・やりがいを感じていました。
皆の口から「おいしい」と言う言葉を聞くことが由良の喜びでした。
私の作った食事を待っている皆さんがいる・・・そう思ったらもう半年が経っていました。
ある日の事です・・・
執務室に呼び出しを受け、由良は向かいました。
「悪いな、忙しいのに呼び出して。」
提督さんから予想もしない言葉が・・・
「由良・・・お前を更なる改装をさせる。」
改装? 確かに由良はここに来る前から練度が高く、改装可能な状態でした。
でも、あの鎮守府では改装設計図がなかったため、私は改装が出来ませんでしたが・・・
「どうする、受けるか?」
私は悩みました・・・どうしよう・・・でも、提督さんがせっかく私のためにしてくれると言うなら・・・
「お願いします!」
私は改装されることになった。
・・・・・・
改装後の私は、中身はそのままだけど・・・服装も変わり、なぜか「私はもっと頑張れる!」と上を目指そうと考えるようになった。
「おめでとう由良。 これからもお前の活躍に期待する。」
「・・・ありがとうございます、提督さん!」
敬礼した後、提督さんから一言・・・
「鎮守府外で、由良に会いたいという客がいる・・・行ってきてくれ。」
「・・・はい。」
誰かな? と、急いで鎮守府外に向かいました。
・・・・・・
外にいたのは・・・思いもよらぬ人間でした。
「提督さん。」
半年前、私を担保に援助を受けた提督さんがそこに立っていました。
「今さら何の用ですか? 由良は話すことなんてありません!」
そう言って去ろうとした時です・・・突然提督さんが、
「すまなかった、由良!」
今更ながら謝ってきました・・・もう未練は無いけど、「別にいいです」位は声を掛けようかな・・・と思いました。
「由良が良ければ、私の鎮守府に戻ってきて欲しい!」
予想外の言葉でした。
「あの時の私は、由良に頼りきりだった・・・由良が側にいてくれたことで私は甘えを持ってしまった・・・
でも、由良が鎮守府からいなくなった時、私は気づいた・・・何て取り返しのつかないことをしたのだと。」
「・・・・・・」
「いつも下向きな言葉を投げかけ、いつも任務を失敗させ、それでも私の事を見守っていてくれた由良。
お前には本当に辛いことをさせた・・・許してくれ!」
「・・・・・・」
「何だ・・・まだ話が終わっていないのか?」
「!?」
提督さん・・・何でここに?
「遠回しはいいからさっさと用件を言ってやれ! 由良もずっと待ってくれないぞ?」
「・・・・・・」
「えっ? 提督さん? 何の話ですか?」
「・・・半年前、由良を担保に出したと言ったけど・・・本当はこの提督が私にチャンスを与えるために提案した口実だったんだ。」
「・・・・・・」
「この提督が私に条件を出したんだ・・・「由良を預かるから半年以内に提督として今度こそまともにやってみろ」と。」
「・・・・・・」
「私は由良をまた迎えるために必死で頑張った・・・今では出撃も遠征も上手くいき、来月昇進もできる・・・」
「・・・・・・」
「由良、お願いだ! もう一度この私に、チャンスをくれないか?」
「・・・・・・」
その言葉を待ってました・・・本当はずっとずっと・・・
「じゃあ・・・どうしてここの提督さんは私を改装してくれたのですか?」
「ああ、それね・・・」
「・・・・・・」
「芝居がかった事をしたお詫びに・・・という事で。」
「・・・・・・」
なるほど・・・そう言う事だったんですね。
提督さんは由良を売ったわけではないんですね・・・もう一度初心から頑張ろうとしてここの提督さんに相談していたんですね。
竹刀であんなに叩かれていたのも、自分自身の心の弱さを克服しようとしていたんですね。
そして、ここの提督さんも・・・提督さんの甘い考えを捨てさせるべく、敢えてあんな酷い行動を起こしたんですね・・・
「わかりました・・・由良、提督さんの鎮守府に戻ります。」
「ほ、本当か?」
「はい・・・でも今日から甘えも言い訳も許しませんよ? 前向きにやって下さいね!」
「もちろんだ! 私はお前を支えていきたい!・・・そうだ、これを!」
提督さんがポケットに手を入れて・・・何かを出しました。
「由良・・・ずっと言えなかったけど・・・ケッコンしてくれないか?」
「えっ・・・」
「これからも・・・私の傍で見守ってほしい・・・秘書艦として、私の妻として!」
「・・・・・・」
提督さん・・・
「・・・はい、提督さん・・・これからもよろしくお願いします!」
私は受け入れた・・・この人となら・・・頑張って行けそうだから。
「まぁなんて言うか・・・ケッコンおめでとう。」
提督も一応お祝いの言葉を掛けた。
・・・・・・
その後、由良は元の鎮守府に戻り、提督を支えた。
当の提督も前とは違い、出撃・遠征も手際よくこなしその結果・・・昇進、今では少将まで登りつめた。
今まで「無能、クズ!」とまで言われていた提督は、無事に「提督」と言われるまでに信頼関係を取り戻した。
・・・・・・
「司令、由良さんがいる鎮守府の提督がまた昇進しましたよ。」
「ほぅ・・・今度は中将かな?」
「はい・・・由良さんが支えていることで提督もさらに頑張っているんでしょうね。」
「いいことだ・・・それなら由良も幸せに違いないね。」
「・・・それはそうと司令?」
「ん? どうした?」
「司令はいつになったら昇進するのでしょうね?」
「さぁね・・・オレは別に出世とか興味がないからなぁ。」
「同じ位のランクの提督がいたのに、また離れてしまって残念ですね。」
「別に~・・・全く気にしていないし、それに・・・」
「それに?」
その後、司令が言った言葉がとても頭に残りました。
オレは司令ランクはいつも最下位だけど・・・逆に言えば「最下位ランクを維持するのが意外に大変」なんだよ。
・・・と、司令は笑いながら自慢げに言ってました。
「・・・・・・」
それってどう意味なんでしょうね?
・・・・・・
この時はまだ意味を分かっていない霧島・・・しかし、後にその意味を知ることになるのを霧島はまだ知らなかった。
「提督と由良」 終
一人前に成るためにも自分の足で立ち
自立せねばならんよ。
未熟は甘やかす理由にならず
堕落するのみ
でもやりすぎじゃね?
悲しいかな
こういう子は甘やかされてる故にこの位せんと御互いに離れられんのよ。
憎まれ役も大変さね。力も恐怖心も
与えず植え付けられずでは逆恨みするのが此の手の輩。