「地図に無い島」の鎮守府 第六十九話 大井は許せない
提督の呼びかけに応じたかに見える大井だが、消火器と強制排気ダクトを利用し、包囲網を突破してしまう。
そして、特務第七の秘匿司令室への隠し通路を発見する。
提督の『プランB』により、鹿島に手錠を掛けられ、完全に包囲された大井。
話の後、完全に屈服させる、という条件で、堅洲島の艦娘たちと大井の戦いが始まる。
鳥海、足柄、赤城と激しい連戦が続いてゆく。
※執筆中です。※性的な表現があります。
1月4日、二回目の更新です。1月12日、六十九話最終更新です。
この大井っちは仲間になって行く流れなのですが、ゲームでもそうですがまあ強いしとんがっています。
そして、その心の動きもなかなか豊かです。
堅洲島で楽しくやって欲しいですね。
第六十九話 大井は許せない
―2066年1月7日、フタサンマルマル(23時)過ぎ、大型フェリー『いかるがⅡ』内、第四カースペース。
足柄「次の箱に取り掛かるわ」
―バキッ・・・バコッ・・・
―大井の潜んでいる箱のすぐ隣で、木箱が開けられる音がした。次はおそらく自分の箱だろう。
大井(ちっ、相手にペースは渡さないわ!)
―ガタッ!
艦娘たち「あっ!」
月形提督「大井!」
提督「・・・」
―大井は両手を上げた状態で立ち上がった。見慣れない私服の艦娘たちと、志摩鎮守府の仲間が周囲をぐるりと取り囲んでいる。
大井「へえ・・・大した読みね。昼間の忠告に、この対応。艦娘を侍らしているだけのその辺のサルどもとは違って、ちゃんと狩りのできるオスみたいね。褒めてあげるわ」フッ
提督「どういたしまして。違いが分かって、無駄な事をやめる気持ちになったか?・・・眼を見る限り、そんな気はかけらも無さそうだが」ニヤ・・・
―提督は言いながら、ソードオフ・ショットガンを大井に向けた。
大井(・・・隙が無いわね、こいつ!)
―漂う緊張感が強まる。
大井「・・・目的は何?」
提督「貴重な戦力を減らさない事。・・・すなわち、私的な制裁などやめておけという事だ。志摩鎮守府に解体・解任願いを出したそうだが、既に事は大きくなっている。現時点で君の解体や異動は免れないだろう。まあ、解体は無いな。うちに異動してもらうつもりだが」
大井「・・・は?何を言ってるの?私が必要って事?」
提督「そうだ。次回の大規模侵攻を阻止するのが我々の任務だが、あいにく、大井も北上も居なくてな。軍法会議ものの君の暴走を、ほぼ死ぬことになりそうな任務の我が鎮守府への異動でチャラにしたいってところだ」
大井「ふぅん。私が欲しくてしゃしゃり出てきてたってわけ。でもたぶん無理よ?私、ここの川内だけは許せないのよ」
提督「どういう事だ?」
大井「・・・罪の話をするわ。私ね、北上さんが深海化しつつあるの、知っていたのよ」ニヤッ
艦娘たち「!!」
月形提督「・・・やはり、か」
提督「・・・」
大井「私は死んでほしくなかった。居なくなってほしくなかったわ。でも、北上さんは言うのよ。『とどめを刺して欲しい』って。でも、そんなの・・・できるわけないじゃない!!」
―この時点で、大井は深海棲艦を匿ったとみなされ、解体処分が妥当になってしまうだろう。
月形提督「大井・・・」
大井「作戦の帰りに北上さんが傷つくたびに、今日こそとどめを刺して送って欲しいと言われたわ。でもね、出来なかったわよ。時間ばかり過ぎて、北上さんは日に日に苦しそうになって行った。毎日吐くほど悩んだわ」
磯風「・・・・・・」
大井「やっと今日は何とか、北上さんにとどめを刺せる、完全に深海化する前に介錯してあげられる・・・そう決意した時に、あのクソ女が私の目の前で北上さんを殺したのよ。私たちが任務の帰りでボロボロの時にね。私が泣きながら誰かに何かを頼んだのはあの時だけよ。泣きながら何度もね。・・・でも、あいつは北上さんの胸に砲で大穴を開け、魚雷で爆破して首を刎ねた!!」
艦娘たち「・・・!!」
―艦娘たちの間に動揺が広がり始めていた。・・・が、提督がゆっくりと口を開いた。
提督「そうか。・・・手短に三つ、話をしよう。優れた女の工作員は、過去に自分の人生に起きた、本当に辛い事を思い出しつつ、涙を流して男を騙す。・・・そして、優れた詐欺師は人の眼を真っ直ぐに見て嘘をつく。・・・最後に、真に獰猛な獣は、自分の間合いに獲物が入るまでは、死者よりも静かにその時を待つ。・・・だが、獣は高まる心を抑えきれず、達人の猟師に狩られるのさ。獣ゆえにな・・・」
―カキン
―提督は大井に向けていたソードオフ・ショットガンの撃鉄を起こした。
月形提督(何だ?何の話だ?)
艦娘たち(どういう意味なの?)
赤城(やはり・・・っ!)キリキリッ
―月形提督と艦娘たちは、大井と提督の話の意味が分からなかったが、赤城は矢をつがえた。大井の闘志が、その哀し気な告白と裏腹に、溶けた鉄のように燃え上がっていくのを感じたのだ。
―大井は視線を足元に下ろした。表情は見えないが、その肩が震え始める。
大井「・・・ふふ・・・ふふふ。やるじゃない。本気の涙で話していても、冷静に私を読む。驚きだわ。・・・いいわ、異動でも何でもしてあげる。深海を皆殺しにしろと言うならそうするし、あんたの股間の7.7㎜砲を突っ込みたいんなら、口でも谷間でも股の間でも、ケツの穴でも好きにさせてやるわ。・・・私を止められたらねっ!!!」ギラッ
艦娘たち「!!」
加賀「下品な女ね・・・」フゥ
―コンッ・・・ガスン!
―大井は足元に隠していた消火器を蹴り上げると、艤装の力で鋼鉄と化した手刀を突き刺した。
提督「いかん!みんな伏せろ!!」バンバウッ!
―ドムッッ!!バキキキンッ・・・ヴシューッ・・・モクモクモク・・・
月形提督「しまった!」
―提督は大井にナノシグナル・マーカー弾を連発で撃ち込んだが、その刹那に消火器が破裂し、鉄片と消火粉が爆散して何も見えなくなった。
提督「くっ!総員、ドアを固めろ!それと大井、おれは7.7㎜じゃねえ!!」
叢雲「ふふっ、そんな事言ってる場合?作戦をプランBに変更するわよ!いいわね?」
提督「ああ!プラン変更だな!」
―ドガンッ!メキメキメキ・・・ガンガンガンガンッ
金剛「なに?この音は?上?」
鳥海「ドアじゃない!ダクトです!ダクトの中を移動するつもりです!」
提督「強制排気ダクトか!さすがは元艦艇だな」
―大型船に備え付けられている、海上火災対策の強制排気ダクトを経由して、大井は包囲を突破するつもりだ。
赤城「させませんよ!」ビビビシュッ
―ガカカンッ!
―赤城は気配のする天井のダクトに弓を連射した。
大井「いっ!くそっ!」
―カランッ
赤城「矢を抜いた?やりますね!」
―矢の落ちる音がしたが、再びけたたましくダクト内を移動する音が聞こえている。
足柄「そこっ!」ビシュッ
―ガンッ
大井「ぐっ!」
―ダクトに足柄のバールが突き刺さり、押し殺した大井の声が聞こえたが、動きが止まるほどではなかった。
足柄「ちっ!」
―足柄は舌打ちしながら飛び上がると、バールを引き抜いた。
金剛「はあっ!」ダンッ!ガゴォン
―金剛は艤装の力で飛び上がると、目星をつけたダクトを腕で薙ぎ払った。飴細工のようにダクトがひしゃげ、裂けたが、大井の姿はなく、移動音が続く。そしてそれは上階に消えたのか音が遠ざかった。
金剛「逃げ足が速いデース!」
提督「総員、プランBに切り替え。利根、筑摩は船首、船尾に移動しつつ索敵開始。叢雲は他の持ち場の艦娘たちに状況を一斉送信。青葉、タクティカル3Dマップ展開。ナノシグナル周波数21K-T201でターゲットを投影開始。随時情報を共有状態に!我々は川内のいる場所に向かうぞ!それと強制排気作動!」
那珂「提督、那珂ちゃんは大井さんを直接追うからねー。ほら神通ちゃんもいこー!」
神通「ええ!行きましょう!」
―那珂ちゃんは何も持っていないが、神通は三本の木刀を背負っている。こうして、最悪の捕り物に状況が変化してしまった。
青葉「叢雲ちゃん、シグナル拾えてますよ!」
―青葉のノートタブレット上に立体化された『いかるがⅡ』の立体透過図面内に、大井を意味する赤い点の移動が確認された。
叢雲「シグナル来たわ!縦排気を伝って一般フロアに移動中よ!次の開口部は一般船室4B-6の通路付近だわ!」
提督「月形提督!このフェリーの図面は手に入れていたか?」
月形提督「ああ、図面は頭に入っているはずだ。但し、特務第七の司令室の場所までは把握していないはずだ!」
提督「諒解した!」
月形提督「皆、大井を捕縛するぞ!これ以上事を大きくできない!」
―全員、あわただしく移動を開始した。
―一方、大井。
―現在の大井は、左足のすねギリギリに貫通した矢傷と、わき腹をかすった足柄のバールによる負傷があった。
大井(ちくしょう、ほとんどの特務みたいに形だけかと思ったら、あの提督も艦娘もなかなかやるじゃない!練度はそこそこだけど、躊躇ってもんが無いわ。獰猛ね・・・)
―スタッ・・・ダッ
―大井はダクトから通路に下りると、目当てのものを探して走り始めた。
大井(あいつが私にぶっかけたこれ、おそらくナノシグナル・マーカーでしょ。だとしたら今も捕捉されているはず!)
―大井は服に撃ち込まれた透明な粘性の液体の正体に思い当たることがあった。
大井(幸い、ここは客室フロアね、良し!)
―バギッ・・・バガンッ
―大井は近くの客室のドアをぶち抜いた。入ると、さらに洗面室に移動し、ドライヤーを見つけるとコードを引きちぎった。
―ブチッ・・・ガツッ・・・ビイッ
―ドライヤー側のコードを歯で剥き、銅線を露出させる。
大井(よし、これで・・・!)
―ガチャッ・・・シヤァァァァ
―大井はシャワールームに入ると全身に水をかけ、すぐに洗面室に出た。先ほどのドライヤーのコンセントを差し込むと、意を決して電線を服に近づける。
―バチバチッ・・・プツン
大井(ぐうっ!)
―眼がくらむような火花が散り、その後部屋のブレーカーが落ちて、真っ暗になった。大井は付着したナノシグナル・マーカーを水で全て通電する状態にし、その状態でショートさせ、ナノシグナルを無効化する方法を取ったのだ。
大井(う・・・うぷ!)ゲエッ
―人間なら死ぬほどの感電ダメージが、大井には吐き気の形で現れた。洗面台の蛇口をひねり、少しの胃液を吐いたのち、口をすすいで部屋を飛び出した。
大井(クッソ最悪の気分だわ!)フラッ
―大井は口を拭うと、以前頭に叩き込んだこの船の図面を思い出していた。打ち合わせた時、上級客室の後部区画に、不審な客室スペースがあったのだ。そこに直接向かってみるのが良さそうだ。
大井(マーカーは無効化されたはず。見てなさいよ!)
―窓を探して走り、かく乱のために人がくぐれそうなものをまばらに破壊する。そして大井自身は、天井点検口を探し、見えない場所から再びダクトに潜り込んだ。
―カースペースから客室区画までの通路。
青葉「提督、反応消えました。これは・・・?」
提督「・・・さすがだな。水をかぶって通電させたんだろ。大した根性だ!」
青葉「うっわぁ~無茶しますねぇ!」
提督「死兵と化しているんだよ。対応を間違えたら死なせてしまう。いささか強引かもしれないが、とにかく動きを止めるしかない。しかしえらく手練れだ。さっきも、大井が何か仕掛けようとしていたのに気付いていたのは、おれと赤城だけだ。あんな艦娘もいるんだな」
加賀「赤城さんが?気づいていたと?」
赤城「あっ!少し用心していただけで、別に確信があったわけではありませんよ?」
提督「・・・と、謙遜しておられる」
赤城「いえそんな・・・では、何か美味しいものを所望します!」
提督「中華街で何か食ってくか!」
赤城「中華街!!・・・赤城にお任せください!!」ビュンッ
加賀「ちょっと赤城さん?・・・行ってしまったわ」
金剛「ちょっ!待つデース!」ダッ
叢雲「な!・・・なんて速さで走っていくの!」
提督「鎮守府のカードの使える店が開いていると良いが・・・」
武蔵(志摩)「うちの大井が相手だというのに、大した余裕だな」
木曾(志摩)「まったくだ。面倒をかけているのはうちだが、気に入らんな・・・」
提督「適当がモットーなんでな」
武蔵(志摩)「なんだと!?」
木曾(志摩)「適当と言ったか?」キッ
月形提督「武蔵、木曾、その人の適当は意味が違うぞ?」
提督「よく知っているな。月形提督、おれに面識があると聞いたが、アフリカかね?」
月形提督「第十四後方支援連隊補給隊、ケニア方面先遣補給集団の一員で、新兵だった。二回目の任務で仲間はIED(即席爆発物)で車両ごと全滅。私も全身と、特に下腹部を破片で裂かれたが、あなたが縫い、多国籍軍陣地に届けてくれたんだ。輸血までしてくれてね」
提督「・・・思い出した!あの時の補給部隊の女の子か!大した麗人に変わったもんだな!」
月形提督「麗人・・・昼間も言ってくれたが、こんな傷だらけで片目のつぶれた女に麗人とは、皮肉にしかならないのではないかな?」ニヤ
提督「あいにくおれは、女にお世辞は言わない主義でね。それに、傷は別に嫌いじゃない。戦って傷を負える女に、悪い女はいないからな。うちの艦娘たちもそうだが」
月形提督「なるほど、ふふ。私は武神のような、ダークヒーローのようなあなたしか見ていないが、風の噂では、あなたは意外に気さくで親しみやすい人だという。本当にそうだったのだな」
提督「全ておれだよ。人は皆自分の作った像でしか相手を見ていない。好きなように解釈してくれればいいさ」
―これもまた、噂通りだった。他人がどう思おうがまったく気にしていない。無関心なのだ。
武蔵(志摩)「・・・で、あなたの言う適当とは?」
木曾(志摩)「そうだな、聞き捨てならんと思ったが」
提督「受け売りだがな、・・・いかなる物事に対しても気負わず、呼吸に乱れなく、適切に当たる事だ。そして常に、心の一部を空に遊ばせているようであれ、と言ったところかな」
武蔵(志摩)「・・・深いな」
木曾(志摩)「すまなかった。なるほど、戦いにも通じるものがある」
月形提督「『隠者』高山無学が説いた心得のひとつ、『疾者疾休(しっしゃしっきゅう)』・・・すなわち、『疾(はや)き者は疾く休むべし』の一節だな」
提督「まあそんな所かな。余計な気負いや力の入れすぎは駄目だ。何事も最後は飯や遊びのように自然体になるべし、みたいなね」
叢雲「アンタの生き方そのままよね。アンタは落ち着いているけど、周りはびっくりしっぱなしよ」
提督「まあ、叢雲の事は驚かせっぱなしだよな。・・・でもそろそろ、おれの事がわかって落ち着いてきたろう?」
叢雲「それはそうね。・・・いえ、何であろうと信用しているわよ」ニコッ
月形提督「・・・叢雲は初期秘書艦だったのかな?」
提督「そうだな。そういう事になるんだと思う」
月形提督「なるほど・・・」
叢雲「司令官が私を選んだ、というわけではないわよ?ほぼ強引に私に決められていた形になるわね」
提督「ま、運命の赤い糸だな」ニヤリ
叢雲「そっ・・・!そんなんじゃないわ!ちょっと何言ってるのよ!!」プンスコ
提督「じゃあ腐れ縁で」
叢雲「それはそれで微妙よ!!」
月形提督「ふふ、人と違って裏切らない艦娘たちは、あなたには確かに相性が良さそうだな。私も提督をしていると、ゆるぎない信頼に救われる気分だよ。人の中に、特に・・・軍属として生きると、人の余分な心の波が実に煩わしい」
提督「それは同意する。艦娘である彼女たちではなく、同じ能力を持つ人間たちを配属されていたら・・・この戦局を覆すのはまず無理だったろう」
叢雲「・・・そんなに、人が嫌いなの?」
提督「嫌いというより、苦手なんだ。人見知りなんでな」フッ
叢雲「またそんな冗談を・・・」フゥ
―ゴンッ・・・ガーン!
―大質量の金属同士がぶつかるような音が、どこか遠くから響いてきた。
提督「急ぐぞ!」
―提督たちは特務第七の秘匿司令室に向けて急いだ。
―上級客室のフロア、特務第七の秘匿司令室付近。
―壁を何か所かぶん殴って構造を確かめた大井は、ある確信を得ていた。
大井(思った通り。このフロアだけ、ここから先にそこそこ広い空間があるのに、不自然に間仕切られてる・・・。って事は・・・)コンコン
―大井は上級客室のメイン通路の行き止まり・・・左右それぞれに物置や倉庫のドアがある地点に差し掛かっていた。
大井(クサいわね。どれ・・・)ガチャガチャ・・・ガチャガチャ
―どちらのドアも鍵がかかっている。
大井「ふんっ!」ズゴッ!・・・キイッ
―「備品倉庫」と表示のあるドアノブの横をぶち抜き、内側から鍵をひねると、大井は中に入った。
―スタスタスタ・・・コンコンコン・・・
―こちらは全ての壁面に棚が据え付けられており、洗剤や寝具、消耗品などがぎっしりと収納されている。
大井(こっちはハズレね・・・なら)
―大井は反対側の倉庫のドアも同じようにぶち抜き、中に入った。
―(ああ、怪しいわね)
―この部屋は荷物が少なく、怪しい区画に面した壁の一部分だけ、棚が切れている。それは標準的なドアよりやや広いくらいで、使った形跡のないモップや箒がまばらに置かれていた。
―コンコンコン・・・
―通路の突き当たりや、隣の部屋と違い、ここだけは壁が薄いようだ。
大井(見つけたわ!)ヒュッ
―ズゴッ!バリバリバリ・・・パラパラ
―わずか一枚の石膏ボードの壁をぶち抜くと、機械の匂いと暖房の空気、そして嗅ぎなれた鎮守府の匂いがした。注意深く中を覗くと、スチールの棚に書類などが無造作に積まれている。その中の大きなバインダーには、『鎮守府運営日報』や『提督任務日誌』などの表題が貼られていた。大井は隠し通路を見つけたのだ。
―バリバリバリ・・・スタスタッ
―壁を崩し、中に入る。おそらく資料室だろう。執務室はそう遠くないと思われた。大井は注意深く部屋のドアをあけ、真っ暗の広い空間に這うように進みだした。そして、大井の全身が・・・足がドアを過ぎた時の事だった。
―ヴィーッ!ヴィーッ!・・・ガーッ、ガシャン!
―警報と共に、背後にシャッターの降りる音がした。
機械音声「認証のない艦娘が機密区画に入りました。ルーム遮断、自動迎撃装置起動します。侵入者は管理者権限のある者が到着するまで、動きを止め、両手を上げて敵対心が無い事をアピールしてください」
大井「しまった!準備が良いわね!」ダッ!
―大井は真っ暗な部屋の二か所に光る赤外線レーザーに気付いた。斜め前に跳びつつ転がり、艤装の力でその機器を破壊しようとした。が・・・。
―バババンッ!!バキキキキン!
大井「くっ、ブービーショットね!」
―銃器またはポインターに見えた機械の側面には、対人散弾が複数仕込まれており、やや軟質な金属音を響かせつつ、大井の服に多数が命中した。しかし、艤装の力でダメージは無い。
―カチカチカチッ
―急に、部屋が明るくなった。ここはラウンジのような広い部屋らしい。
??「志摩鎮守府の大井か。動くな。瞬時に大破できる程度には準備してあるぞ?」
―スピーカーを通したような声が聞こえた。大井はその声の主がすぐにわかった。
大井「武装憲兵隊もここに入り込んでいたわけ?」
―重アサルトライフルを構え、全身がタクティカルパワーアーマーに覆われた兵士が壁際に立っている。そして、その横に川内。さらに・・・。
―バババッ
―部屋の四隅に置いてあった布が翻り、特務第七の青葉、龍田、秋雲、名取が姿を現した。それぞれが砲のみ艤装展開して大井に照準を合わせている。一見対角のようでいて、互いの射線は外された配置だった。
アーマーの男「武装憲兵隊じゃねえ。おれは特務第七鎮守府、清掃討伐部隊提督、鷹島だ。志摩鎮守府の大井だな?私怨は理解できるが、これ以上はフォローできなくなる。やめておけ」
大井「へえ、自分たちをぶっ殺す気でいる艦娘相手に姿を見せるなんて、アーマー装備でも見上げた根性ね。・・・という事は、そこの川内が私の標的ね?残念だけど、そいつだけはなぶり殺しにしないと気が済まないのよ」ニヤ・・・ギラッ
―大井が獰猛な笑みを浮かべる。
アーマーの男「・・・その眼をするんじゃだめか。悪いがな、力づくで・・・ッ!」
―ゴウッ・・・ダーンッ!
青葉(第七)「提督!」
―大井はすさまじい速さで跳躍すると、アーマーの男を壁に叩きつけた。
アーマーの男「ぐうっ!」ガクッ
―アーマーの男は衝撃のせいか、そのまま動かなくなった。
川内(第七)「あっ・・・ああっ!」ワナワナ
大井「いい顔だわ。まあでも、死ぬのはあんたよ。あんただけは許せなくってね、生身になるまで殴り続けて、最後は生きたまま手足をもいで殺してやろうかってところよ」ニタァ
―ツカツカ・・・ドゴッ
川内(第七)「うぐうっ!」
―大井は平静を欠いている川内に近づき、ねじるようにボディーブローを撃ち込んだ。川内の身体がくの字に折れ曲がる。
大井「はっ!自分の男がぶっ飛ばされたら力も出ないわけ?」ゴスッ
川内(第七)「やっ!やめてっ!」
大井「自分が大事な人を傷つけられたらこんなもん?笑わせないでよ。もう少し抵抗してみなさいよ。弱すぎるわ。これじゃあまるで・・・!」ハッ
―大井はここで気づいた。この川内は弱すぎはしないか?
アーマーの男「ほお、思ったよりも冷静だな。最初のヒントに気付かなかったのに」
―アーマーの男の声は、先ほどの声ではない、あの黒服の提督の声に変わった。アーマーの男は立ち上がると、フルフェイスアーマーを脱ぐ。
大井「なっ!」
―その中から現れたのは、駆逐艦・不知火の顔だった。
不知火(堅洲島)「ふぅ・・・少し小柄だったのですが、気付かれませんでしたね。それにしても、ずいぶん思いっきりぶっ飛ばしてくれたものです」
―言われてみれば、アーマーは少し小さめだ。離れた位置からスピーカーで声だけ出していたらしい。
―ガチャッ
那珂(堅洲島)「こんばんはー!あれっ?これはどういう事なのかなー?」ツカツカツカ
―呆気に取られている大井をよそに、那珂ちゃんは親し気に近づいてきた。
那珂(堅洲島)「うーん、何が起きているんだか、全然わからないんだけど。大井さんはこれがどういう事かわかってる感じ?」キョトン
大井「えっ?あなたはどういう立場なの?」
那珂(堅洲島)「あっ!川内ちゃん、大丈夫?」ダッ!
―那珂ちゃんは特務第七の川内と入れ替わっていた、堅洲島の川内に声をかけた。
川内(堅洲島)「いったぁ~・・・。でも大丈夫。こんな加減無しで殴る蹴るするなんて」
那珂(堅洲島)「遊びに来ていてこんな目に遭うなんてね。私たちは関係ないから、もう帰ろっか」
大井「ちょっと!ちょっとどういう事なの?」
那珂(堅洲島)「その前に教えて欲しいんだけど、川内ちゃんを殴る蹴るしたのは大井さんなの?」ニコニコ
大井「・・・そうだけど」
那珂(堅洲島)「ふーん・・・」
大井「・・・っ!」バッ
―ピュン・・・ガリッ!
大井「いっ!」
―那珂ちゃんは何の気配も出さない笑顔から、いきなり右腕で大井の顔めがけて薙ぎ払い、さらに指先をはじいた。その爪の先が、大井の左目をかする。
那珂(堅洲島)「川内ちゃん、左右に散るよ!」バッ
川内(堅洲島)「ええっ!」バッ
大井「くそったれ!やるわね!」ズザッ
―しかし、大井は気づいていた。多数の足音がこの部屋の双方の入り口に近づいている。すぐに沢山の艦娘たちが・・・見慣れない艦娘たちと、自分の古巣、志摩鎮守府の艦娘たちも部屋に入ってきた。さらに、月形提督と黒服の提督、見慣れない白いジャケットの男と・・・あの川内もだ!!
提督「那珂ちゃん大したもんだな。殺気を出さずに相手を緩い空気に巻き込み、そこから不意の一撃。君もおれの武運のようだな」
那珂ちゃん「ありがとー!でも提督、あとで川内ちゃんには間宮をたくさん奢ってね。思っていたより大井さんが強くて、危なかったもの。でないと怒るよー?」ニコッ
提督「ああ、よくわかっている。那珂ちゃん、神通、心配をかけて済まなかったな。しかし、川内の協力で、これでもだいぶ損失の少ない経過を辿れたと思う」
大井「馬鹿にして!・・・どこまで私をコケにすれば気が済むのよ!!」
―ヒュンッ・・・ガチッ・・・ジャラッ
―大井が振り上げようとした腕に、先ほどの隠し通路から飛んできた手錠がはまった。
大井「手錠!?まさかこれは!」
―資料室の入り口から、総司令部教導隊の鹿島がゆらりと姿を現した。
鬼鹿島「この手錠はあなたでも引きちぎれません。呉の工廠で艤装化可能な仕様にしてある特別製です。志摩鎮守府の大井さん、直接話すのは初めてでしょうか?現時点であなたは通常なら完全解体処分になりますが、抹消艦娘の異動権限を持つ特務第二十一号の提督さんは、あなたの異動で全てを丸く収める考えのようです。ここで終わりにしませんか?」
月形提督「大井、私の鎮守府でここまで強くなり、武名をとどろかせたお前が失われてしまうのは、私や皆の心にも、そして全ての艦娘側の陣営にとっても、大きな悲しみと損失をもたらす。・・・が、そうならない未来がある。ここでやめるんだ・・・やめてくれ!」
鷹島提督「見事なもんだ。うちの川内に腹が立ってしまうってのは、気持ちはわかるが筋違いだ。こんなクソつまんねぇ結末にしないで、深海をぶっ殺しまくった方が良いんじゃないのかい?それが筋だし、合理ってもんだろ?」
春風「特防もこの件に関しては既に調整に入っています。この後罪に問われることはありませんよ?司令官様の描いた絵に、皆さん乗ることにしたのです」
―しかし、大井は笑い出した。
大井「ふっ、あははは!揃いも揃って、こんな自殺志願者を欲しがるなんてもう末期ね!いい?私は死にたいのよ。自分が許せないの。あれだけ分かり合えていた北上さんを送ってあげられなくて、散々苦しめた上にあんな残酷な最期にしてしまった自分がね。ここの川内なんて、死のうが生きようが、本当はどうでもいいわ。私が裏切り者としてみじめに死ぬ事こそ、私が求めていた事よっ!」グスッ
―笑いながら涙を流す大井の告白に、みんな静まり返ってしまった。しかし、堅洲島の川内と入れ替わっていた、特務第七の川内が歩み出て、言った。
川内(第七)「そっか、聞こえていなかったんだね・・・」
大井「・・・何が?」
川内(第七)「私さぁ、深海化した艦娘を多分一番沈めているのよ。だから経験があってね。・・・深海化した艦娘って、大抵最期は大事な人に何かを言うの。だから私は、なるべく頭を残して沈めるように努めていたわ。あの北上はもうだいぶ深海化して、その苦しみに必死に耐えていたようだけれどね」
大井「・・・・・・」
川内(第七)「あの時、間違いなく聞いたわ。『ごめんね、大井っち』って」
大井「そんな・・・ごめんだなんて、そんなのっ!!そんなこと言う必要ないでしょう!!」
月形提督「・・・北上らしいな」グッ
―月形提督は士官帽を目深にかぶった。木曾や武蔵も、涙を隠すように目を伏せる。
球磨(志摩)「あいつはそういう奴クマ・・・」
若葉(志摩)「大井さん、もう十分だろう?こんな・・・事・・・っ」グスッ
―若葉は阿武隈の事を思い出していた。
―哀しい沈黙が続くかに見えたが、それを提督が破った。
提督「そろそろ説明させてもらおう。まず、私的制裁に動いた志摩鎮守府には、その動きに説得力と功績が必要になる。この為、大井、君は表向きには深海化して暴走し、特務第七の川内を目の敵にしたが、ここで志摩鎮守府及び特務第七に撃滅されたことになる。これにより、志摩鎮守府は不問かつ功績が加算され、後釜として対馬教導隊の北上と大井が志摩鎮守府に異動してくる。そして君は抹消の上、我ら特務第二十一号に移動となる。君の暴れっぷりで破損した様々なものも、深海棲艦の仕業として対深海が補償するだろう。つまり、何も無かったことになるのだ」
大井「・・・そう、悪くないわね。これだけ濁した痕を綺麗にする筋書きも出来ていたのね。でも、あんたは少し計算高すぎるわ。川内を入れ替えたり、さんざんやってくれたわね。それだけ私が必要だったと考えれば納得したい・・・ところだけれど、消せないイラつきもあるわ。だから、条件を二つ、出してみてもいいかしら?」
提督「・・・言ってみてくれ」
大井「まず、私を仲間にしたいなら、手練れも多いみたいだし、私が動けなくなるまで体術で戦って私をねじ伏せる事。それが出来ればそちらに移動してやるわ。もう一つの条件はその後に言うわ。取るに足らない事だから」
提督「・・・いいだろう。皆はどう思う?」
鳥海「賛成です。では、まずは私から行きましょうか」
―鳥海はそう言うと、前に進み出た。コントロール不可能な状態は抜けたが、大井を仲間に加える為の戦いはこれから始まることになった。
―ラウンジの中の邪魔なものを片付け終え、戦いが始まる。
提督「・・・入渠等はしなくていいのかい?」
大井「構わないわ。もう分ったでしょう?私は自分を殺したい。でも、あなたはこんな周到に準備をして、生きて深海を殺しまくれと言っているのよ。せめて私が自分を殺せたと思えるくらいには、全力で戦って力尽きたい気分なのよ」
提督「わかった。では一つ約束して欲しいが、わざと死のうとはするなよ?」
大井「もうそんな感じではなくなったわ」
提督「・・・そうかい。鹿島ちゃん、手錠を外してやってくれ」
鬼鹿島「えっ?・・・でも、大丈夫なんですか?」チラッ
―鹿島は大井の眼を見た。
提督「大丈夫。おれが保証する。・・・ダメだったらごめんだが」ニヤッ
鬼鹿島「・・・わかりました。大井さん、手錠の鍵穴をこちらに向けて、艤装の力で姿勢を固定してください」
―これをすると、艦娘は人間に特有の身体の微動が無くなる。
大井「わかったわ。これでいい?」スッ
鬼鹿島「大丈夫です。では・・・」シュキンッ!
―カチッ・・・カチャリ・・・シュシュンッ
艦娘たち・提督たち「おおっ!」
―鹿島は大井の手錠に紐のついたカギを投げつけ、さらに小さなひも付きのナイフを投げた。数メートルの距離があるのに、鍵は鍵穴にはまり、ナイフがそれを回す。そして、落ちた手錠その他を素早く引いて回収すると、鹿島のそれらは袖の中に消えてしまった。
榛名(さすがですね・・・)
提督「・・・ほう」
大井「ありがとう」
鳥海「・・・では、始めてもいいですか?」ザッ
大井「構わないわ」
―二人はラウンジの中央に進み、向かい合った。
月形提督「では・・・はじめっ!」
鳥海「はっ!」
大井「・・・!」
―シュン・・・ガッガッガッガッガッ
一同「おおっ!」
―大井と鳥海は攻防が見えないほど激しい組手になった。鋭い拳の突き、その上中下段を互いに弾き、いなす。そこに蹴りが加わり始めた。
鳥海「くっ!体術に自信がありそうでしたが、大したものですね!」
大井「ふん、あなたもなかなかやるじゃない!」
―バチッ・・・ババッ!
―何合目かの技のやり取りの後に、二人は弾かれるように間合いを取った。
榛名「互いに大技狙いに切り替えましたね!」
青葉(堅洲島)「えー、解説は特別ゲスト、艦娘オブ艦娘と呼び名の高い『開耶姫』榛名さんです!」
榛名「えっ!?・・・はい、榛名で良ければ解説させていただきます」
青葉(堅洲島)「真面目ですか!しかし、よろしくお願いします!」
提督(何をしているんだ?)
叢雲(何をしてるのかしら?)
大井「はあっ!」ダンダンッ・・・ビュボッ!
―大井は跳躍気味の突進から身をひるがえし、スピニングバックナックル、つまり裏拳を放った。
鳥海「・・・!」クルッ・・・ダガンッ!
大井「ぐうっ!!」
―しかし、鳥海はそれを読んでいたらしい。大井が背中を向けた一瞬に合わせ、強力なぶちかましを背中でぶつけた。大井は弾かれ、よろめくが体勢を整える。
提督「鳥海もなかなかやるな!」
榛名「あれは、鉄山靠(てつざんこう)です!鳥海さん、あんな技を使うなんて!」
青葉(堅洲島)「はい、早速の見事な解説いただきました!」
榛名「いえ、そんな・・・///」テレッ
叢雲(どうしてこういう空気になっちゃうのかしら?)
鳥海「私はこんなところです。強いですね、大井さん。私は一昨日までは工作員だったんですよ。あなたにとっても居心地は悪くないはずです。歓迎しますからね?」ペコリ
―鳥海はお辞儀をすると、堅洲島の艦娘たちの中に戻った。
大井「・・・なるほどねぇ。次は誰?」
鳥海(あれっ?工作員のあたりに食いついてこない。私の計算では、こんな事あり得ないのに・・・)ムー
足柄「じゃあ、私が行くわ。もっとゲスな殴り合いの方が良さそうだものね」ニヤリ・・・ツカツカ
提督「ほう、次は狼ちゃんか。優しい事だな」
叢雲「えっ?」
陽炎「司令、優しいってどういう意味?」
提督「見てれば分かるぞ?たぶんな」
月形提督「双方いいかな?・・・では、はじめっ!」
青葉(堅洲島)「審判はビッグセブン最強の鎮守府、志摩鎮守府の男装の麗人、月形提督です!」
月形提督「えっ?ま、まあ成り行きでな・・・///」コホン
叢雲(だからどうしてこんな感じになるの?)
―その言葉が終わるか終わらないかのうちに、激しい殴り合いが始まった。
―バキッ・・・ドカッ・・・ドゴッ・・・メキッ!
―まだ格闘訓練がそれほどではない足柄は、大井の攻撃が良く当たるが、当たった隙に大井を殴り、蹴り返していた。二人ともみるみるうちに口が切れ、頬が腫れる。
大井「くそったれ!うちの足柄さんより狂暴ね!この狼女!」ボコッ・・・ガスッ
足柄「私にそれは誉め言葉よ!しゃべると・・・舌噛むわよ?」バキッ・・・ドフッ
金剛「ふふ、すごい殴り合いネー」
大井「くっ・・・楽しそうにしてんじゃないわよ!マゾなの?」ドッスゥ!
―大井のえぐり込むようなボディブローが足柄の腹に食い込む。
足柄「ぐっ・・・ふ!・・・そうね、いい男相手ならマゾも悪くないけど、うちの戦隊に欲しいからね。あなた、とっても見所があるわ」ニヤ・・・ゴンッ・・・バキィ!
―足柄は大井に頭突きを食らわし、さらに殴り返した。
大井「いったあ~・・・このっ!まだよ!まだまだ!」
足柄「あいにく私はタフなのよ。無駄よ、無駄無駄!」
大井「まだまだまだまだまだまだまだまだぁ!!」
足柄「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!!」
―ドゴゴゴガガガガガンッ!!
月形提督「何というラッシュだ!」
提督「まさに奇妙な戦いだな!」
叢雲「くっ・・・!(わ、笑っちゃいけないわ!)」
川内(第七)「ひええ・・・ある程度腹はくくっていたけれど、こんな殴り合いはちょっと嫌だなぁ・・・艦娘なんだから海の上で戦おうよ」
黒潮「うちの鎮守府はどうも陸(おか)での戦いが多いんよ」ニコッ
榛名「すごいですね足柄さん。格闘や体術の練度はほとんどない、でたらめな動きなのに、反射神経と格闘センスでやりあってます!まさに狼ですね!」
磯波「足柄さん、かっこいい・・・」キラキラ
吹雪「ええっ?」
磯風「いや、あれはかっこいいぞ?ライオンや狼が戦い方を学ぶか?と言う話だ」
吹雪(なんかうちの鎮守府、強くてかわいい人や綺麗な人が多いなぁ・・・)
球磨(志摩)「木曾、よく見ておけクマ。向こうの艦娘、眠ってる闘争心は異常に高いクマ。おそらくあのすっとぼけた提督の艦娘だからクマ。うちの提督、男を見る目があるクマ(小声)」ボソッ
木曾(志摩)「ああ、分かっている。まさかこれほどとはな・・・(小声)」ボソッ
武蔵(志摩)「・・・・・・」
―武蔵は腕を組んだまま、黙って戦いを見ている。
若葉(志摩)(もしかしたら、この提督なら阿武隈さんを・・・)
―ドガガンッ
―ひときわ大きな音とともに、足柄の蹴りが大井の側頭部を、大井のパンチが足柄の頬を打ち抜いていた。
大井「こっ・・・の、狼女が!・・・でも認めてやるわ。あんたとなら一緒に戦ってもいいわよ」ニヤッ
足柄「ふ、・・・歓迎するわよ?楽しくやれそうだわ」ニコッ
―双方、フラフラになりながら距離を取る。
足柄「ふーっ、私はこんなところかしらね・・・思ったより食らっちゃったわ」ヨロッ、ボロボロ
加賀「双方だけど手ひどく怪我をしているわね。・・・提督、足柄さんを入渠させてあげられないかしら?」
提督「なんだかんだでいつも綺麗な足柄がボロボロだと、痛ましいものがあるな。今も良い女っぷりではあるが・・・」
足柄「えっ?(今、いつも綺麗な足柄って言ったわよね?)」
鷹島提督「うちの入渠施設を使ってくれ。女の子がボロボロなのは見るに堪えねぇよ」
足柄「ありがとうございます。じゃあちょっと借りるわね」
提督「すまんな。修復材は後で送るよ。足柄、大丈夫か?」
足柄「大丈夫よ。もっときれいに戦いたかったけど、あの子やるわね。いい戦力になるわ」
提督「今もとても良い女っぷりだがな。心が痛むから、入渠して怪我を治して来てくれ」
―提督は大井の相手をした足柄の心意気を褒めたのだが、足柄には少し違った伝わり方をした。
足柄「・・・はい(さっき綺麗って・・・しかも、良い女っぷりって!)」ドキドキドキ・・・
―足柄は怪我をしていて本当に良かったと思っていた。耳まで真っ赤な自分に気付かれたくなかったのだ。大井との戦いの痛みはどこかに消えてしまっている。
叢雲(これ、ちょっと違った感じで伝わっているんじゃないかしら?)
―勘の良い叢雲は足柄の変化に気付いていた。
提督「さてと、大井、君もそろそろ「まだよ!」」
大井「死ぬくらいのダメージが欲しいわ。今のは良かったけれど、まだこんなもんじゃないわよ」
足柄「あら、言うわね」クルッ
赤城「足柄さん、ここは私に行かせていただけませんか?そして、みんなで中華街でごちそうになりましょう!」
足柄「えっ?」
―しかし、そんな赤城の軽めの言動に、大井は何かを感じ取っていた。
大井(ここの一航戦・・・特に赤城、何か得体が知れないわね。妙な感じだわ)
提督「という事だ。足柄、十分にやってくれたな。早く怪我を直してくれ(ちょっと待て、なぜ中華街にみんなで行く事に?)」
足柄「あっ!諒解いたしました!」
赤城「では、私が出ましょう」スッ
―赤城は黒いスーツ姿のまま、無造作に大井の前に立った。
大井「大した自信ね・・・」スッ
―再び、格闘戦の構えを取る。しかし、赤城は特に姿勢を変えず、静かに大井を見ていた。
大井(何かヤバいわ。この感じ・・・)
―海上、陸上問わず戦いの経験が豊富な大井は、以前に赤城に似た雰囲気を何度か感じた事があると思い出した。
大井「一つ聞きたいのだけれど、赤城さんてそこの提督とよく『寝て』いたりする?」
赤城「・・・は?いきなり何を?・・・添い寝なら金剛さんがよくしていますが、ほぼ身辺警護の為ですよ?異動したら説明されると思いますが、ある疑惑があり、ケッコンも肉体関係も無いのがうちの提督の方針です」
大井「そうなの?ごめんなさいね変な事を聞いて。何だか赤城さんの雰囲気、昔しばしばいた、提督の妻になった高練度の艦娘たちと似たものを感じたのよ。本当の結婚状態になった艦娘たちという事ね」
提督(・・・何だと?)
赤城「ええっ?いきなり何という事を言いだすんですか!精密検査をして貰ってもいいですが、そんな事、していませんよ?・・・あの、皆さんも誤解しないでくださいね?」アセアセ
金剛「ウーン、どうでしょうネー?赤城と加賀はもともとは戦艦だった空母ですし、強いし黒髪美人ですからネー。今日なんて提督が好きな服を着ていますし、わかりませんヨー?」ニヤニヤ
赤城「ああっ、金剛さん、こんな時にからかわなくても!・・・提督、そんな事ありませんよね?」
提督「・・・無いとは思うぞ?」ニヤ
赤城「あら?無意味に歯切れが悪くないですか?どうしてこんな時は息ぴったりなんですか!からかわないでくださいよ」プンスコ
提督「ははは!まあそんな事は無いよ。・・・でも、いつも今日の姿でいると、ちょっと危ないかな」ニコニコ
赤城「そんな事をおっしゃるなら、もう二度と着ませんよ?」
提督「あっ、それは困るな」
大井「・・・楽しそうな鎮守府なのはわかったから、とっとと屈服させてみなさいな」ハァ
赤城「すいません、そうでしたね」テヘッ
月形提督「では、・・・はじめっ!」
大井「いくわよ!」
赤城「・・・」ギラッ
―シュドガッ!
全員「なっ!」
提督「・・・!」
大井「・・・なっ、何が?」プラーン
―大井の左腕は肩から外され、不自然にぶら下がっている。
提督「驚いたな。『楔(くさび)抜き』か・・・」
加賀「今のはどういう事なの?」
提督「大井が右腕でパンチを出そうとする。これはフェイントで、左で攻撃をしようとしていた。赤城はそれを読み、左腕のパンチで腕が伸び切るタイミングで腕の付け根に蹴りを入れ、大井の肩の関節を外したんだ。高等な技だよ」
赤城「解説ありがとうございます。私はこんなところで良いかと思います」ニコッ
大井「参ったわね。少し舐めてたわ。それなりの提督に、それなりの艦娘ね。くっ・・・」バサッ・・・ヨロッ・・・
月形提督(大井の「それなり」が出たか。認め始めているな・・・)
―大井は上着を脱ぐと、近くの丈夫そうな壁に近づき、左肩を当てると、次に脱いだ上着を踏みつけ、それを左腕で引っ張る姿勢になった。そしてそのまま、肩を壁に押し当てる。
大井「くっ・・・このっ!」グググ・・・ドガッ・・・グキン!
赤城「なっ・・・!自分で肩を入れた!?」
提督「大した根性だ!この任務の価値は計り知れないな」
大井「どう・・・いたしまして。さあ、次よ!・・・さあ、誰っ!」
神通「では、次は私が参ります。・・・大井さん、木刀はいけますか?」
大井「大丈夫よ。チャンバラも嫌いではないわ」
神通「そうですか。では、これを・・・」ポイッ
―パシッ
―大井は木刀を受け取った。神通が前に進み出る。
神通(提督、榛名さん、胸を貸していただいた経験、少し出してみますね・・・)スゥ・・・
―神通は提督に教わった呼吸で深く息を整えた。
大井(この子、練度は高くないけれど、形ができているわね・・・)
神通「・・・いきます!」カッ
大井「・・・(トンボの構え・・・初撃に全てね。いい思い切りだわ。嫌いじゃないわ)」スッ
―神通は木刀を示現流・蜻蛉の構えに取った。対する大井は、木刀を前方に自然に構える。
提督(馬庭念流・体中剣か・・・。雷巡の理念に良く合っているな。しかし、神通の初太刀に体中剣とは・・・)
―大井の剣の理念は、『相手に七、八割攻撃させてから必勝の機に相手を討ち破る。この為、常に自然体でおり、かつ、後手必勝』というものだ。しかし、初撃に全てを込める神通の剣に、どのように対応する気なのか・・・?
―・・・ゴクリ
―手練れの提督と艦娘が多い中、再び緊張が高まり、誰かが生唾を呑んだ。
第六十九話、艦
次回予告
神通、榛名、そして金剛と戦い、川内とのけじめをつけて、大井は納得する。戦いが終わり、混沌とした状況の整理に入る中、大井の「もう一つの条件」が皆を仰天させる。
大井や他の艦娘の異動に伴い、大井と鬼鹿島、月形提督が話す、死んだ北上よりさらに強かった二人の北上の話と、はるか遠くの地でくしゃみをする北上。
そして、艦娘に対しても肌を見せなかった月形提督は、大井と共に風呂に入り、思い出と共に大事な話をするのだった。
次回『それなりの結果』乞う、ご期待!
漣「しっかし毎日毎日、たくさんの艦娘が良く来ますなぁ」
曙「まあ、悪くは無いわね。お部屋の掃除とベッドメイクばかりだけど、仲間は大事だものね」
朧「そんな事言ってるけど、心配じゃないのかなって。強くてかわいい人とか、綺麗な人もいっぱいでしょ?」
曙「そんなの・・・気にならないわよ・・・」ムスッ
漣「おーおー、帰りを待って掃除する健気な妻みたいですぞ?旦那はどっかで女の子を口説いているわけですが。ねーねー、潮はどう思う?あれっ?」
曙「なっ・・・!」
潮「ふ・・・ふへ?(焼き芋食べ中)」
朧「うっしーが一番能天気かも」
漣「あーこれは駄目ですわ・・・」
潮「ひほい・・・(ひどい・・・)」
前の六十八話のゲーセンのユーホーキャチャーのところといい、時期ネタを仕込んでいるところとかけっこう好きだ
続きが気になる~
俺から見た堅洲島の提督?そんなモノ決まってる。
物陰で立ちションしてたら哨戒から戻ってきた鳳翔に「現場」を発見されて、慌てて仕舞おうとした「息子さん」をファスナーで挟んじまう(12話より)お茶目さんさww
俺から見た堅洲島の提督?そんなモノ決まってる。
物陰で立ちションしてたら哨戒から戻ってきた鳳翔に「現場」を発見されて、慌てて仕舞おうとした「息子さん」をファスナーで挟んじまう(12話より)お茶目さんさww
?「わかった じゃあプランBで行こう...プランBは何だ?」
?「あ?ねぇよそんなもん 」
大井「左脚の脛に矢をうけてしまってな・・・」
くしゃみをする北上サマはどこの子だろう?対馬かな?それとも・・・
1さん、コメントありがとうございます。
ぽつぽつ小ネタを仕込んでいるので、気付かれると嬉しいです。
未来の話なので時事ネタがちょっと影響していたりするのですが、見つけてにやりとしてもらえればと思ってます。
いつも読んでくださって、ありがとうございます。
2さん、コメントありがとうございます。
イベントで頼りになる大井っちですが、この話の世界でも相当強い大井っちなので、熱い戦いが続いております。
彼女の加入に合わせて、北上さんの話やその他、また次の展開に繋がりますので、お楽しみに!
㈱提督製造所さん、コメントありがとうございます。
提督はシリアスだったり重い過去を持っているようで、結局はどこかしまらなかったりお茶目さんだったりします。
今回もそうですが、叢雲が良く笑いを堪えていますよね。
ものっそいシリアスでも笑いが入るカッコよさを追求できればと思っているので、今後も生暖かく見守ってやって下さいませ。
5、6さん、コメントありがとうございます。
実は「膝に矢を受けてしまってな」の変化版、作中で登場する病院のシーンで出てくる予定です。
プランBは、これも小ネタの始まりなのですが、如月ちゃんの書類ネタのように、時々アホみたいな数のプランが出てきたりします。
尚、今回実は「上から来るぞ!気をつけろ!」を入れ忘れてしまい、また別の機会に入れようと思っています。
7さん、コメントありがとうございます。
くしゃみをしている北上さんは、はるか遠くの海の上にいます。
そういえば少し前、はるか遠くの海にいる二航戦の子が・・・
ちなみに、この北上さんも二つ名を持っており、とても面白い子だったりします。