「地図に無い島」の鎮守府 第六十四話 甘い言葉・前編
金剛の少し踏み込んだ提督への質問と、その答え。
そしてあくる朝、複数の案件と調整のために、多くの艦娘と共に提督たちは横須賀と横浜に移動する。
総司令部でのやり取りと、渡される機密資料。
特防での調整と、前元帥と霧島の話、そして霧島の異動が決定する。
再び高密度な本土での任務はどうなっていくのか?
忙しくて更新が遅くなってしまいました。
金剛がもう少しだけ提督に踏み込みますが、いい子ですねぇ、金剛。
また、明石や特務第七、志摩鎮守府の件もあり、多くの艦娘が提督と共に本土に渡ります。
遂に霧島が異動してきますが、そうなると金剛型で残るは比叡だけですね。比叡はいつまでも待つ覚悟の駆逐艦の子の話と絡んで来る予定です。
また、謎に包まれていた『運営』側の情報が少し出てきたり、提督が推論していたり、所属するエージェントが出てきます。
秋葉原も波乱の予感がしますが、気になるのは運営側の夕雲型です。果たして誰なのでしょうか?
第六十四話 甘い言葉・前編
―2066年1月7日、マルヒトマルマル(午前一時)過ぎ。堅洲島鎮守府、提督の私室。
―コンコン・・・コンコン
―気づかわし気なノックの音で、提督の腕を抱きしめて寝ていた金剛が目を覚ました。
金剛「・・・ン?・・・テートク、ノックだヨ?(小声)」ボソッ
提督「・・・ん?わかった」バサッ
―寝ている時も普段着のままの提督は、眠気を感じさせない所作で起き上がり、ドアに向かう。起きる動作と、枕の下の銃をホルスターに収める動作はほぼ一つで、金剛はいつも感心していた。
―ガチャッ
提督「どうした?」
磯波「お休みのところ、すいません。営倉の鳥海さんですが、異動を希望するそうです」
提督「わかった。出よう」
磯波「えっ?出られるんですか?報告だけのつもりだったんですが、すいません!」
提督「いや、磯波が謝ることじゃ無いよ。工作活動がばれると登録が抹消されるが、うちに実害はなかったし、いつまでも営倉に入れておく理由は無いからな。着任が終われば、ここに害をなす可能性はなくなるし」
磯波「そうなんですね?・・・あっ、じゃあ、色々整えてきます!」
提督「気が利くなぁ」
磯波「ありがとうございます。行って来ますね!」テレッ
―少し嬉しそうに、磯波は執務室に向かった。
金剛「あっ、大丈夫だとは思うケド、護衛につくヨー?」
提督「ありがとう。じゃあ半分寝たまま歩く。ぐぅー・・・」
―提督は金剛が見ている側の眼をつぶり、やや危なっかしく歩いて見せた。
金剛「そっ、それはダメデース!危ないヨー?」ソッ
―金剛が慌てて寄り添う。が、ここまでがお決まりの、これは提督が良くやる冗談なのだ。
提督「いやいや、流石にそれは無いから大丈夫だ。・・・ああ、でも、昔疲れすぎて、半分寝ながら戦ったことは何度かあるな。あれはいい。全てが夢のようで」
金剛「エッ?」
提督「長時間戦い続けてもまだ戦闘が終わらず、眠れない時は、片目をつぶって脳を休ませつつ任務を続けるんだ。知ってるかな?イルカはそうやって脳を半分眠らせつつ泳ぎ続けるんだよ。可愛い見た目に反して、すごくスパルタンに泳ぐ連中だよな」
金剛「そうなの!?」
提督「戦いが続くが、全く眠れないって時にこの話を思い出して、やってみたんだが、まあかなり効果があるよ。視覚ってのは脳をかなり使うんだろうな」
―そんな壮絶な戦い方など、金剛は聞いた事が無かった。
金剛「もう、そんな戦いをする事はないのよ?鳥海をいつまでも営倉に入れていたくないのは分かるけど、終わったらまたぐっすり眠ってね?私がいるんだから!」ニコッ
提督「そうさせてもらうよ。むっちゃんの事故の後から、何だかよく眠れるようになったんだ。・・・ほら、艦娘が看護婦をやっている病院は、患者の回復が早かったり、精神的なストレスがだいぶ緩和されるってデータがあるだろう?あれはたぶん本当だと思うんだよな。おれも、心の底に疲れがだいぶ隠れているんだろうか?君らが寄り添うと起きていられなくなるくらいだから」
金剛「もともと、戦闘ストレス障害なんだから、無理しちゃダメなのよ?」
提督「そうらしいけれどな」
―金剛は、提督のゆったりとした空気が好きだ。激しい嵐が去った後の、ぽっかりとした、しかしどこか寂し気な空に似ている気がしている。
―地下出撃船渠通路沿い、営倉。
提督「失礼してもいいかな?」
鳥海「・・・どうぞ?」
―カチッ・・・ガチャガチャッ・・・キイッ
鳥海「司令官さんに金剛さん?どうしたんですか?」
提督「ん?異動の意思は固めたんだろう?そんなに営倉が気に入ったかね?」
鳥海「えっ!?確かに磯波さんに異動の意思は言いましたが、この後着任・異動手続きをしてくださるんですか?」
提督「そうだよ?慰労休暇は残り半日だが、大浴場なり、ラウンジの酒なり、好きに楽しんだらいい。今夜から自分の部屋で寝るとかな。一応、下田のみんなもまだ楽しんでいるようだしさ」
鳥海「お心遣い、ありがとうございます!では早速・・・」
提督「いや、執務室で手続きする。ここではないよ」
鳥海「ええっ!?」
提督「大事な仲間を営倉で着任・異動ってのはちょっとな」
鳥海「でも、艦娘安全運用規約をやや無視して信頼されると?」
―着任していない艦娘は、高練度で自由意志が強くならない限り、本来の命令や指示を優先しがちになる。つまり、営倉から出されても自分なりに工作任務を継続しようとし、提督に危害を加える可能性もわずかにあるのだ。鳥海の着任は既に切られており、現在は自由意志のみの状態だったが、その鳥海を完全に信用すると言っている事になる。
金剛「だーいじょうぶデース!おかしな動きがあれば、一瞬でスクラップ寸前にしますヨー?」ニコッ
鳥海「はい、それは分かるのですが・・・」
提督「じゃあ、さっさと行こう。眠いから、おれは眠りながら歩くぞ?ついてきてくれ」
鳥海「ええっ?」
―確かに執務室の場所を知らないが、てっきり前を歩かされると思っていた。しかし、左目をつぶった提督に金剛が寄り添いつつ、二人は鳥海の前を歩いていく。
金剛「モー、またやってるヨ」フゥ
鳥海(お二人とも、私に背中を?工作員だった私に?)
―金剛の背中には、当然だが隙が無い。提督の背中は、困ったことに隙だらけなのか隙が無いのかわからない。二人とも相当な手練れなのはわかる。だが、自分に信用を示すと言っても、これはやり過ぎではないだろうか?
―ジワッ
鳥海(うっ・・・)
―冷静に状況を分析しようとしていた鳥海の胸に、何か熱いものがこみ上げ、眼が潤んでしまった。このように信用されたのはいつ以来だろう?
鳥海「まだ未着任ですから、艦娘安全運用規約に則り、前を歩きますので、ご指示をお願いします」スッ
―三人はほどなくして執務室ラウンジについた。
―執務室ラウンジ。
叢雲「遅くまでお疲れ様ね」
提督「実は今、眠っているんだぜ?すやすやとな!」
叢雲「はいはい。便利な能力ね。・・・冗談はともかく、アンタって艦娘には本当に優しいわよね」
磯波「提督、鳥海さんの私室その他、仮ですが準備はできています!」
提督「ありがとう。では鳥海、今後宜しく。知っての通り、ここの主任務は次回大規模侵攻の阻止となる。特務に必ずある二つ名はまだないが、特務では最も重要な任務に当たっていると自負している。敵を倒すのではなく、常に生き延びることを!いいね?」スッ
鳥海「諒解いたしました。では!」スッ
―鳥海は執務机の上に出された提督用のノートタブレットに触れた。
機械音声『高雄型重巡洋艦四番艦・鳥海、特務第二十一号鎮守府に異動・着任しました』
―ズアッ
鳥海「うっ!あれっ?」
―何か熱く強い風が吹き抜けていったような、妙な感じがした。
―ツウッ・・・ポタッ
―いきなり、涙が溢れて床に落ちた。懐かしいどこかに帰ってきたような、そんな気持ちがする。また何かが込み上げてきた。
金剛以外の艦娘たち「えっ?」
金剛「アレッ?」
提督「どうした!?」
鳥海「わかり・・・ません。なんだか・・・心が落ち着いたのかもしれません。ずっと不安でしたから」グスッ
叢雲「まっ、ここから異動はもうないし、うちの司令官は艦娘には優しいから、良かったんじゃないかしら?あとはとにかく死なないように、沈まないようにね、鳥海さん」
漣(なんか不思議。鳥海さん、落ち着いた顔になってる・・・)
提督「あとは、ここにいるみんなに部屋等の指示を仰いでくれ。辞令の受け取りは明日通達する。やや遅い時間だが、色々楽しんで寝たらいい」
鳥海「はい!ありがとうございます!司令官さん」
提督・金剛「ではおやすみ!」
―提督と金剛は部屋に戻った。
―廊下。
金剛「ねぇ提督、気付いた?鳥海の変化」
提督「顔から『険(けん)』が消えたな。何だあれは?」
金剛「春風が言ってた着任不良ですかネー?」
提督「という事は、鳥海もどこかでおれに引っ張られていたと?そんなバカな・・・」
金剛「でも、テートクは用心深いですからネ。可能性は考えているんデショ?」
提督「まあ、一応は。・・・しかし、そうだとするとおれがアフリカにいた頃には何者かが絵図を描いていたわけで、そうなると見当もつかんな。正直なところ、考えたくない部分はある。まあ、あまりに遠大な何かを前にした場合は、ただなすべきことに集中するのが一番なんだがな」
金剛「考えても仕方ない、という事ネ?」
提督「そうだな」
―しかし、提督の横顔は深く考えている時のものだった。必ず自分なりに何らかの推測をして備える提督の性格を、金剛はよく知っている。今もきっとそうなのだろう。
―提督の私室。
提督「おやすみ金剛。たぶんすぐに寝落ちするよ」
金剛「ウン。・・・あの・・・」
提督「どうした?」
金剛「ゴメン、何でもないヨ・・・」ギュッ
―提督の左腕を掴む金剛の身体が、少し熱くなったように感じられた。
提督「何でもなく無さそうだが、どうした?」
金剛「・・・無理とか、してない?大丈夫なものなの?・・・その、スッゴク自意識過剰な話かもしれないけれど、一応・・・そこそこの女ではあるつもりだから・・・///」カアァ
提督「ああ・・・確かにそうだな」
金剛「一応ね・・・その、覚悟はしているし、そんな事になっても良いと思っているノ。ただ、あなたはどうなのかなって。私に気遣ってくれているだけなのか、すごく我慢していたりするのか、全然わからないの。・・・ゴメンね?」
提督「気になるよなぁ、それは。正直に言うと・・・」
金剛「・・・うん」ゴクリ
提督「今はこの状態が手一杯なんだ。なぜかよく眠れるし、少し安心できる。それに・・・長い暗闇の中に居た者には、ライターの光さえも眼がつぶれるほどに眩しいだろうし、何らかの温もりを得た事が、後に計り知れない苦痛をもたらす事だってあるからさ。・・・でも、金剛が何か辛いなら「大丈夫!」」
金剛「ごめんね、提督がそう言ってくれるなら、私はこのままでいいわ。・・・今の、本音だったでしょ?」
―金剛は、胸が締め付けられる何かを感じた。
提督「本音だが、そうかい?無理とかは・・・」
金剛「してないわ」
―提督は一瞬、金剛の眼を見た。こういう眼を知っている。自分を気遣っている眼だ。
提督「色々とゆっくりで。戦いの行方も見えないしさ・・・」
金剛「うん。おやすみなさい、提督」ギュウ
提督「おやすみ・・・」
金剛(・・・それでも、私をこんな風にそばに置くという事は、これ以上はやっぱり、何をか言わんや、ダネ・・・)
―提督の性格を、金剛は何となく理解している。急速に親密な関係になるより、時間をかけてできていく関係の方が、その繋がりは分かちがたいものになって行くはずだ。そうなっても良い場所に自分を置いてくれている気がする。今はそれで十分だ。
―翌朝、2066年1月7日、マルナナマルマル(午前7時)過ぎ、堅洲島鎮守府、執務室。
―朝食を兼ねた会議が開かれており、様々な艦種のネームシップや秘書艦のほとんどが集められていた。金山刀提督と瑞穂、特務第七の川内の姿もある。
提督「今日は本土にて様々な任務や報告をこなさなくてはならない。・・・が、今日で全ての作戦を終えられるかは微妙だ」
叢雲「本土で行う任務と、司令官の動きについては、私から説明するわ。まず、秘書艦と護衛役は司令官と一緒に横須賀総司令部へ。司令官はそこでかなりの報告と調整があるのよ。その間に、私たちは約四グループ・・・でいいのよね?」
提督「ああ」
叢雲「四つのグループに分かれて行動するわ。まず、必要最小限の護衛・秘書艦たち、これは横須賀総司令部で司令官とともに行動するわ。次に、秘書艦の一部と、こちらで選び出したメンバーは、横須賀で要人監視・護衛訓練ね。私たちと司令官に見つからないように、私たちを見張り、報告書にその行動を記入していく事。見つかり過ぎたらペナルティだけど、見つからなかったら功績点追加ね。・・・次に特務第七の川内さんを含む、榛名さんのチーム。横浜の三越で私服を買いつつ、私たちとの合流時間を待ってて欲しいの。それと、一部艦娘は私たちを待たずに秋葉原に移動。秋葉原近辺を警戒して、特に艦娘や特務機関らしい人員が居ないかチェックしておくこと。・・・では、メンバーを発表するわね」
―まず、横須賀総司令部で提督と共に行動するメンバー。
―叢雲、磯波、初風
―次に、横須賀で要人監視・護衛訓練をするメンバー。
―陽炎、不知火、黒潮、磯風、浦風
―榛名と共に三越に行くメンバー。
―榛名、金剛、川内、特務第七の川内、赤城、加賀、利根、筑摩、卯月、弥生、如月、吹雪、足柄、鳥海、天龍、龍田、初雪、望月、春風
―さらに、そこから秋葉原に別れるメンバー。
―赤城、利根、筑摩、卯月、弥生、天龍、龍田、初雪、望月、春風
―という大所帯になった。
龍田「提督ありがとう!私と天龍ちゃんもメンバーに入れてくれて」
提督「いやー、あんな見事にハンカチを乗せられては、ちょっとリードしがたいしなぁ。してやられたって感じだが、見返りが任務とは、謙虚に過ぎるんじゃないか?」
龍田「ううん、そんな事無いのよ~?天龍ちゃんと一緒に、提督の面白そうな任務に加わるのって、わたしはとーっても好きよ?秋葉原の任務とか、楽しそうだわぁ!」
提督「そう言われるとこちらも嬉しいよ。秋葉原は何も起きなければ最高だが、未知の勢力との交戦状況が発生するかもしれない。色々鋭い君が居ると助かりそうだ」
龍田「うふふ、そう言われたら頑張りたくなるわねぇ」
天龍「へっ、相手が何者だろうが俺様もいるからな。ぶっ飛ばして任務をサクッと終わらせるぜ!」
提督「よろしく頼む。でも無理は駄目だからな?」
天龍「おうよ!わかってるぜ!」
―『ハンカチ乗せゲーム』で提督から圧倒的なリードを奪った龍田は、その報酬として今回の任務に天龍と一緒に参加させてもらう事にしていた。
提督「それと現時刻より、横浜と横須賀の任務には仮称をつけておく。横浜の任務は『チェンジリング』、秋葉原のものは『パッケージ』。それぞれ、特務完遂までの呼称とする」
金剛(ン?『パッケージ』は「人質」ですが、うーん、『チェンジリング』?「取り換え子」という意味だわ。何でそんな作戦名を・・・あっ!まさか・・・)
―金剛は特務第七の川内と、堅洲島の川内をよく見比べた。
金剛(もしかすると・・・なるほどネー。提督はほんと、敵からしたら厄介な男ネ・・・)
―イギリスの文化にやや詳しい金剛は、この『チェンジリング』という言葉に覚えがあった。本来ならそれは、妖精が赤子を取り換えていく、という伝説に起因する『取り換え子』を意味するものだが、それをこの任務に当てはめて考えると・・・。
鳥海「あの、質問よろしいでしょうか?」
提督「どうぞ」
鳥海「いきなり私が、この鎮守府の特務に抜擢されていますが、いいのですか?」
提督「ああ、それは・・・」
叢雲「私の意見具申によるものよ。鳥海さんはもう着任してうちの艦娘だし、艦娘は艦娘を見つけやすいし、工作員は工作員を見つけやすいでしょ?そういう意味でも適任だと思ったし、最初に実績があった方がこの後楽かなって」ニコニコ
提督「・・・という事だ。おれも同じ考えだな(叢雲が笑いかけてる。気を使っているんだな・・・)」
―上層部の都合で色々あった叢雲には、鳥海に思うところがあったのかもしれない。
鳥海「あっ!確かに、とても合理的な計算です。でも・・・いいえ!ありがとうございます!」
―今更「自分を疑わないのか?信用して大丈夫なのか?」という質問は野暮に過ぎる気がして、鳥海は礼を言うのにとどめた。
榛名「鳥海さん、任務の時間まで、一緒に服でも選びましょう?いろいろ揃えないとダメですよね?積もる話もありますし」ニコッ
鳥海「あ、はい!ぜひご一緒に」
―鳥海にとっても、『開耶姫』榛名はかつての憧れの人物だった。その武名が轟いていた頃に異動する事になり、作戦で一緒になる事はほとんどなかったが、同じ鎮守府で誇らしかった気持ちは今も変わりがない。
鳥海(よく見ると、ここは強いけれど行き場のない艦娘や、珍しい子が結構います。司令官さんが引き寄せているのか、様々な上層部の意図なのか・・・。私もいるべくしてここにいるのかもしれませんね・・・)
―こうして、再び高密度な本土での一日が始まろうとしていた。
―打ち合わせ後の鎮守府廊下。
榛名「あの・・・龍田さん?」
龍田「どうしたの~?私に用なんて何かしら?・・・見当はついているけれど」ニコッ
榛名「うっ、わかりますか?」
龍田「コレでしょう?」スッ
―龍田はポケットからカメラを取り出した。
榛名「・・・はい///」カアッ
龍田「(さすがに赤面してる姿も絵になるわねぇ・・・)うふふ。スマホに送るから、アドレス教えてくれるかしら?・・・それとねぇ、提督も榛名さんも、とてもいい寝顔だったわ。榛名さんや金剛さんくらい強かったら、提督も安心して眠れるのね、きっと。私も頑張らないとだわぁ」
榛名「ありがとうございます!・・・そうなんですか?」
龍田「提督が良く眠れるようになったのは、なんであれ、いい事よ」ニコニコ
―龍田は提督と榛名が寄り添って眠っている画像を榛名のスマホに送った。しかし、実は提督の寝顔だけの画像もあり、それは送らなかった。
龍田(ごめんなさいね、こっちだけは私のものにしときたいの。・・・でも、私が提督をこんな顔にできないとダメねぇ)フゥ
―龍田は天龍と共に自分を鍛えて行こうと考えていた。
―ヒトヒトマルマル(午前11時)過ぎ、横須賀総司令部、元帥執務室。
元帥(元参謀)「・・・朝から何事かと思ったが、ずいぶん様々な動きがあった様だね。・・・いや、既に我々海防部も、まとまりを欠きつつある、と言った方が正しいか。この総司令部及び、私の権限をも越えている形で、君の鎮守府が運営できる形にしておいて、まずは上々の成果が上がっていると言わざるを得んだろうな。・・・しかも、表向きの報告書と、実際の報告書の二通りを提出する徹底ぶり。・・・これは、良心的に解釈するなら総司令部側への信頼。そしてもう一つの意味で解釈するなら、この限定的な情報の存在自体が、既に身内の敵をあぶり出すのにも使われる、という解釈で合っているかな?」
提督「そこまでの意図はしておりませんが、内部にそのような意図を持つものが居た場合、確かに元帥のご指摘どおり、あぶり出しにも有効なものであろうとは思います」
元帥(元参謀)「謙遜かね?・・・いや、我々自身、君からの信頼はあまり無いのだったな」
提督「いえ、全くそんな事はありません。私の個人的な感情と、提督としての心情は厳格に切り離しておりますから」ニヤッ
元帥(元参謀)「あまり痛烈な皮肉を言わんでくれたまえ。・・・しかし、私がもう少し話すべきなのは理解している。・・・第二参謀室は、上海軍閥事件のやや後から台頭してきた、海防部再編派の急先鋒だった。だった、というのは、最近はその力を失いつつあるからだがね。政治的な力で作られた一部の旧態鎮守府や、艦娘への人権を無視した事件を起こしている提督は、大抵はこの第二参謀室とかかわりのある人脈だと見て間違いない。かつて防衛産業により利益を得ていた議員たちの力が大きく働いているが、要は『運営』に対抗して利益を得ようとしている人間たちの集まりなのだ。・・・表向きはな」
提督「・・・で、真の姿は?」
元帥(元参謀)「おそらく君の考えと同じだ。深海や上海軍閥と、何らかの繋がりがあると見て間違いない。以前から可能性は示唆されてはいたが、今回初めて、その影を踏めたとみていい」
提督「・・・状況の発生によっては、相手の立場が何であろうが、時には即断して撃滅しますが、よろしいですか?」
元帥(元参謀)「そのための君の鎮守府の司令レベルだよ。・・・ところで、君はここの先進医療病院に入院していたことがあったね?君の担当医は我々側だ。第二参謀室の神尾参謀室長は、身体が弱くて入院しがちだったが、ここしばらくは通院さえしていないらしい。何かわかるかもしれんな」
提督「・・・諒解いたしました(何か知っているという事か・・・)」
元帥(元参謀)「それと、これを持って行きたまえ」パサッ
提督「ん?・・・これは!」
元帥(元参謀)「この戦いの暗部の一つだ。政府の上層部と、私たち元帥クラスの人間、そして君しか知らない情報だ。私からの君への感謝と信頼だと思っていただきたい。内容は凄惨に過ぎるため、艦娘たちの目には触れないように願いたい」
提督「・・・・・・諒解いたしました」
―その資料は極秘扱いのもので、『人体の深海化と、その脅威』という題だった。提督はそれを、手錠付きの特殊帯アタッシュケースに入れると、元帥執務室を出た。
―一時間後。横須賀、特別防諜対策室(通称、特防)本部、室長室。
―提督は瑞穂が来てから現在に至るまでの状況を、機密に触れない範囲で説明し、さらにその後の対応について自分が組み上げた筋書きを説明していた。志摩鎮守府の件と『眠り花隊』の春風の件もだ。
大林室長「・・・何と言ったら良いのか、私はどうすれば?・・・いや、既にあなたは期待した答えを持ってここに来ておられますね。後は私の意思次第ですか」
―大林室長は深く考え込み、黙り込んでしまった。提督は特防の大林室長と、室長室で密会していた。ここは元帥執務室と同程度の防諜対策がなされており、密会内容はまず漏れない。
提督「あなたを脅すような気は全くない。ただ、今話した内容と現状には、既に流れが出来ていると見るべきかと思う」
大林室長「私も馬鹿ではありません。あなたが提督にされている意味も、私なりに解釈しています。まず、あなたの考えを聞きたい。なぜ、我々特防の内部に、深海化している艦娘が在籍していたと思いますか?」
提督「・・・一つは、全くの偶然。そしてもう一つは、防諜組織としては致命的な問題を何者かが仕込み、いつでもここを解体・または自分たちの都合の良いように使えるように布石を打っていた可能性、かな」
大林室長「志摩鎮守府の件は、総司令部からではなく、政府上層から、特務第七の活動を制限するように、という指示がありました。特務第七の任務はひそかに深海化した艦娘を秘密裏に葬り去る事であり、貴重なサンプルや情報源を失う事は深海を利する、という解釈でしたが、これも意味が変わってきますよね?」
提督「上層部の悪意ある部署に、その組織の内部に深海化した艦娘がいると把握されれば、潔く解散を選ばない限り、まず決定的な弱みを握られて良いようにされる可能性は高いでしょうね。皮肉なことに、ここさえも分かりやすい事例の一つになってしまっている。・・・まして、あなたの行動原理の根底には安定への憧れがある。そういう人にはこのようなやり方は効くはずだ」
大林室長「・・・ぐうの音も出ません。確かに、政治的な力の強い上層部の命令は優先せざるを得ません。しかし、既に志摩鎮守府の件は動き始めています。これをどうしたら・・・」
提督「全てこちらに任せていただければ、特防は何ら責を負わず、むしろ組織的に強化できる筋書きを考えていますが、乗りますか?志摩鎮守府の件も、おそらく丸く収めることは可能だと思いますし」
大林室長「従いますよ?私はあなたの怖さと能力は知っています。あなたに消された人々よりは賢いつもりですから。・・・今だって、私の態度によっては、この話が始まって早々に、私は頭から血を流して、ここに突っ伏していた可能性があったでしょうしね」
提督「怖がり過ぎですよ。私はあなたを脅しに来たわけではない。・・・あの地獄のような戦場で傷を縫い、生きて帰ってきた人に、末永く安定した毎日を送って欲しい。それだけですよ」ニコッ
―提督は笑ったが、大林室長は心が凍てつくほどに恐ろしい笑みだと思っていた。おそらく提督にはそんな意図は無いはずだが、ためらいなく自分の命を奪える相手との話は、心が恐怖を感じ過ぎていると、脅しでないと理解するのが難しいものだ。
大林室長「アフリカでは、あなたは戦場であれ、基地であれ、裏切り者を素早く特定してすぐに排除し、最後にはその大元まで壊滅させてしまった。・・・第九特殊情報作戦群は表向き、作戦行動中にゲリラの活動域に足を踏み入れた、とされていますが、政府の上層部も、私も真相を知っています。それに、あの裏切り者たちを陸防部に送り込んだ一部の国会議員たちは、あなたが帰国した後に皆、引退してこの国を出ている。何かに怯えたようになってね。果たして、何に怯えたのか・・・」
提督「・・・全て都市伝説ですよ。あまりそんなものに心を煩わされない方がいいですね」
大林室長「とにかく私は、あなたの考えに従います。それと、瑞穂君の件は本当にありがとうございました。消えたジョーカーは相手に対する強力な反撃手段になる事も理解していますし、あなたがそうしてくれた理由も理解しています」
提督「志摩鎮守府の件も、誰も犠牲者を出さずにまとめられると思います。それと・・・下田鎮守府の件は、特防に協力する鎮守府が一つくらいあっても良いと私は思っているので、最初から全て仕込みだったという形にすれば・・・」
大林室長「なるほど!確かに、そういう形にしてしまえば全てが丸く・・・流石ですな!」
提督「・・・いえ、では、志摩鎮守府の件にも対応するので、以降よろしくお願いいたします。全て終わり、安全その他が確認でき次第、瑞穂さんや下田鎮守府の提督との会談の場を設けたいと思っています」
―提督は挨拶をして室長室を出た。建物内の空気は変わっていない。最悪の場合は、敵対者を皆殺しにすることも想定して提督はここに来ていたが、流石にそうはならないだろう。そして、その時点でここは自分の敵ではなかった。敵でない者はなるべく味方にするべきだ。
―横須賀総司令部、公園通路。
??「あっ、特務の司令さんじゃないですか?お待ちをー!」
―遠くから、秘書艦制服の誰かが走って来る。が、堅洲島の艦娘ではないようだ。
提督「んっ?あれっ!君は確か?」
霧島「元帥秘書艦室の霧島です!以前一度お会いしたことがありますよね?突然ですが異動を希望したいのと、以前の元帥がお会いしたいとの事ですが」
提督「前元帥が?・・・いやいやちょっと待って、異動って、うちの主任務は・・・」
霧島「知っていますよ?次回の大規模侵攻で深海をボッコボコに殴り倒すご予定なんですよね?」ニコニコ
提督「ずいぶんポジティブな解釈をするもんだな。まあ、確かに成功すればそうなるだろうけれど、こちらが殴り倒される確率の方がはるかに高いよ?」
霧島「では、殴り倒す確率を上げましょう!というわけで異動希望なのですが」
提督「そんなあっさり?いやちょっと待って、話を聞いていたかな?」
霧島「聞いていましたよ?思う存分戦えるって事ですよね?」
提督「・・・えーと、知的な秘書ってイメージだったんだが、なかなかの武闘派だったって事かな?」
―提督は霧島の事をまだあまり知らなかった。
霧島「もちろん、艦隊の頭脳ですよ?そして戦艦ですからね、戦いにおいてはこの頭脳を活かし、とにかく相手を殴りますよ?」
提督(えーと・・・頭脳とは?)
前元帥「おおーい、霧島、なぜワシを置いて先に走っていくんじゃ!年寄りにはきついんじゃぞ・・・うむっ?特務第二十一の提督ではないか!」
提督「これは、前元帥。私に何かご用がありましたか?」
前元帥「なに、今はただのジジイじゃから気を使わんでくれ。しかしのう、まだワシの人事権が残っているうちに、霧島がそちらに異動したくて仕方ないようなので、独断ではあるが既に異動の申請は出しておいたのじゃ」
提督「は?いやそれは流石にどうかと思います。・・・むしろ、いかなる意図ですか?」
前元帥「確かにそう考えるのも無理はないのう。ワシは何ら隠し事をする気はない故、簡潔に話すぞ?・・・まず、霧島は以前の『開耶姫』榛名が、『最初の榛名』だったのではないか?と疑問を持っておる。つまりじゃな、君の所に異動した榛名について、確認したい事があるという事じゃ。次に、どうやら君に懐かしい何かを感じているらしい。・・・最後にワシの都合じゃが、国家総計画運営委員会・・・通称『運営』がコンタクトを取ってきたのじゃ。そこで霧島の発案じゃがの、君のサポートをしつつ君に関わっておれば、互いに有益ではないか?との考えなのじゃ」
提督「運営が?」
前元帥「このおいぼれに奴らが声を掛けてくる理由と言えば、ワシの存外広い人脈か、元帥経験者のみが有する『艦娘運用会議』の投票権やもしれぬ。推測に過ぎんがの」
提督「彼らがコンタクトを、ですか?意図がわかりませんね・・・。そもそも彼らはその存在自体が謎に包まれていますが」
前元帥「元帥経験者としては、確実に存在はしておるよ。なぜならのう、一部の重要書類は『運営』を経由して来るからじゃ。しゃべってはいかん事じゃが、わしなりに思うところと、腹をくくっとるところがあってのう」
霧島「味方が多く必要な司令さんには、私の異動と前元帥との繋がりは、決して不利益ではないと考えますよ?」ニコニコ
―提督は二人を見て、束の間考えた。前元帥は分かりやすい人な上に、隠し事のある眼はしていない。霧島もそうだ。自称、頭脳派だし元帥の秘書艦を任されているだけの有能さはあるはずだが、その眼には屈託がない。・・・いや、艦娘はあまり屈託のないものではあったが。
提督「話を聞きましょうか」
―提督は場所を変え、二人の話を聞くことにした。
―同じ頃、埼玉県さいたま市大宮区、ある住宅地の新しい家。その寝室。
スマートフォン音声「特殊帯秘匿通信に切り替えます。運営情報部より連絡。レベル3以上の状況発生の可能性あり。エージェントはアコースティックチューブを装備したのち、該当レベルの武装の上、ポイントA―Dにヒトフタマルマル(12時)までに移動し、配信されるタクティカルマップの定位置につき、任務に当たる事。本通信を確認後、確認認証を送信してください。また、チーフはエージェント・スミスが担当となります。概要説明を確認したのち、確認認証と対応オペレーションを送信してください」
―ガバッ!
眠そうな男「・・・レベル3以上だと?」
―男はスマホの情報を確認した。指向性を持つ特殊帯の通信は自分以外には聞こえないため、どこか夢のような雰囲気があるが、しかし夢ではない。いつものスマホはOSも全て『運営』の機密を護るエージェントの仕様の物に切り替わっていた。
眠そうな男「偽物ではない、本物の「警備」か・・・」
―男は起きると、身支度を整え、威圧感のある黒のスーツに着替え、リビングに下りる。
男の妻「あら?急なお仕事ですか?」
眠そうな男「得意先で急な打ち合わせの為に、警備員が足りなくなったそうだ。出ないわけにはいかなくてな」
男の妻「そうですか。何時ごろに戻りますか?」
眠そうな男「まだわからないが、そう遅くは無いだろう」
小さな女の子「パパー、お仕事なの?いってらっしゃい!」
眠そうな男「・・・ああ、行ってくる」
―男は寝室の特殊帯認証ロッカーから『警備』に必要な装備を取り出して身に着け、アコースティックチューブを耳にセットすると、家を出た。その新しい家には『澄洲』という表札がかけられている。
眠そうな男改めエージェント・スミス「オペレーションの準備は完了した。情報本部、状況の詳細を」
―男は歩きながら運営の情報本部と特殊帯で通信をした。すぐに、スマートフォンの映像通信にレスポンスがある。厳つい白髪の男が画面に表れた。
白髪の男「エージェント・スミス、対応が早いな。緊急の事態だ」
エージェント・スミス「おはようございます。エージェント・ヤマダ。レベル3以上とは?」
エージェント・ヤマダ「秋葉原DNNのパッケージ(人質)が異動をもくろんでいる。おそらく本日の午後以降に動きがあるだろう。問題はその異動先が、戦力的に我々があと3時間で展開できる戦力を大幅に上回っている可能性がある事だ」
エージェント・スミス「・・・『フォールタワー』の深海勢力ですか?」
エージェント・ヤマダ「いや。幸い、そうではないが、それを撃滅する設定の特務鎮守府だ。わずかの間に急速に戦力を整えつつある。我々はこのケースに予定された戦力で臨み、その結果を見届けなくてはならない」
エージェント・スミス「つまり、パッケージを死守するのではなく、一定ライン以上の戦力を確認した場合は、パッケージを引き渡しても良いと?」
エージェント・ヤマダ「あくまでの結果論の話だ。しかし、こちらの被害は無しで頼む」
エージェント・スミス「・・・把握しました。こちらの戦力は?」
エージェント・ヤマダ「エージェント・サトウと、エージェント・スズキ、あとはMOB(マン・オブ・ベーシック)クラスのエージェントたちを50名ほど。それから、格闘戦に長けた夕雲型を一人だ」
エージェント・スミス「・・・悪くないですが、能代は間に合いませんか?」
エージェント・ヤマダ「現在メンタル調整期間だが、そもそもこの任務にはあたらせる考えが無い」
エージェント・スミス「楽できそうにありませんね」
エージェント・ヤマダ「状況の変化に合わせて、作戦概要は順次ロック解除されて開示される。トータルでは能代までは必要ない任務という事だ。あとはいつも通りにやってくれたまえ」
エージェント・スミス「・・・諒解いたしました」
―エージェント・スミスは全てを迅速に理解した。今日もほぼ定時に家に帰り、食後はPCゲームのデイリー任務もこなせるようだ。全てを制御しきればの話だが。
エージェント・スミス(我々を用いるという事は、相手に属性の保持者が居るという事か。我々『エージェント』の属性保持者より上の属性は、あと二つないし三つしかない。予定された特務鎮守府の提督という事か・・・)
―正体も目的もはっきりしない『運営』こと、国家総計画運営委員会のエージェントたちが、密かに秋葉原で任務に当たり始めていた。
―横須賀総司令部、一階喫茶店のVIPルーム
提督「概要はわかりました。それにしても、彼らが何者で、何を目的にしているのか、今ひとつわかりづらいですね。しかし、何となく感じる事はあります。分からないままにしておくのは危険だと」
前元帥「一つだけ、ワシの立場でも腑に落ちんのはのう、奴らは艦娘だけではなく、深海もロールアウトしとった可能性があるのに、現状をほぼ放置しておる事じゃ。制御不能になってしまったのか、あるいは何か筋書きがあるのか、全くわからん」
提督「深海も?どういう事ですか?」
前元帥「あくまでも噂じゃがな。深海棲艦が現れ、さらに艦娘が表れた頃に、彼らの存在が知れ始めてきたのじゃが、当時の初期の鎮守府に彼らが渡した極秘の資料には、各種深海棲艦の呼び名と、詳細なスペックが記載されており、実際にその通りだったらしいのじゃ。その内容は、捕獲して観察したというレベルではなく、製作者が記載した仕様書のように精密だったというのじゃ」
提督「・・・・・・なるほど」
―姫と話した提督には、『運営』の正体の一部が推測できる気がした。深海の本拠地の過去の本来の施設、かつての『フォールタワー』に関係のある何かではないか?という気がしていた。そして、その一部とでも繋がりがあるのは、現状では無意味ではない。有益になる可能性が高い気がした。何より・・・。
提督「もしかすると、前元帥がこうしてこちらにもコンタクトを取る可能性も考慮しているかもしれませんね。彼らはなんとなく、全体を俯瞰して状況をある程度制御しようとしている気がしますから」
前元帥「ふむ。つまるところ、この話は君にとって有益かね?」
提督「決して無益ではないと感じます。そして、確かに何らかの情報の対価として、あなたをお守りする意味も出てきますね」
霧島「その部分はなるべく私が担当しますが、私だけでは足りない時にお力を借りられれば助かります。その分、私はそちらで十二分以上に働かせていただきますよ?」
提督「考えは理解できるが、いくら君が戦意溢れる艦娘だったとしても、わざわざうちに来たいという部分がいま一つ・・・」
霧島「理解できないのは分かります。でも、司令さんはたぶん、負けるなんて思っていませんよね?お気遣いでそう言ってはくれていますが、自分自身は負けるなんて全く思っていません。きっと」
提督「なぜそう思う?」
霧島「負けて死ぬ人の顔をしていないからです」
提督「っ!」
―??『大丈夫よ。あなたは死ぬ男の顔をしていないわ』
―提督は昔言われた言葉を思い出していた。
霧島「何か?」
提督「いや、なんでもない・・・そうか」
霧島「それに、何だか司令さんはとても懐かしい気がします。自分でもどこがどう、と言えないのがもどかしいのですが、実際にこうしてお会いしてみると、やっぱりどこか懐かしいんですよね」
前元帥「また古典的なアプローチじゃのう」
霧島「いえ、そういうんじゃありません。真面目な話ですよ。不思議な気持ちです」
提督「懐かしい?」
―しかし、提督が霧島を見ても、特に何か感じることは無い。最近話題になっている着任不良的なものの一端かもしれないな、と提督は考えていた。
霧島「それに、最近そちらに異動していった榛名さん、私にはどう見ても途中から違う榛名に入れ替わった気がして・・・」
提督「んっ?なぜそう思ったかな?」
霧島「ご存じないかもしれませんが、当時、横須賀第一に所属していた私と榛名は犬猿の仲でした。見えないところでしょっちゅう殴り合いのケンカをしたんです。その後、私の方が元帥執務室に異動になってしまい、直接ぶつかることは無くなったのです。・・・でも、途中から毒気が抜けたようになっただけではなく、私の事も知らないような雰囲気になってしまいました。とても同一人物とは思えません。それが私には、気になって仕方が無いのです」
提督「驚いたな。それはとても正しい指摘だよ」
前元帥「なんじゃと!?」
霧島「何か、把握してらっしゃったんですか?」
提督「その前に聞きたい。君はなぜ、例えばうちに異動してくる危険を冒してまで、榛名の件を知りたいんだ?」
霧島「そうですね・・・うまく言えませんが、あの榛名はとても悪い榛名でした。美しい瞳の奥には、冷たく残酷な闇が横たわっている気がしましたし、巧妙に仲間が轟沈するような場を作り上げていました。私がある時それを見抜いて、大喧嘩になったのです。でも、あの榛名は何かとても危険で、得体が知れません。気付いた私が何とかするべきだと思っていたのですが、なかなか強く、巧妙で、うまくいきませんでした。もしかしたら『最初の榛名』かもしれないと私は思っていますし、そういう噂もあります」
提督「どうやらそういう流れらしいな。異動は受け入れよう。それからでないと話せない機密がある。そして、きっと君はこの件で心強い力になると思う」
霧島「そうなんですね?ありがとうございます!」
提督「ただ、約束してくれ。大規模侵攻を勝つのではなく、生き延びることを第一にしてほしい。おれの中の勝利条件は、誰も沈まない事、なのだから」
霧島「知っていますよ?私たち、司令さんにとっては人質の側面があるんですよね?・・・でも、優しい方ですね。戦力としての私はかなり有用なはずなのに、そんなそぶりは全く見せないんですから」ニコッ
提督「参ったな・・・」チラッ
―提督は前元帥のほうを見た。
前元帥「これもワシの独断じゃ。しかしのう、恩人の心の負担をただ増やすような事は、ワシにはできんのじゃ。恨んでくれても構わんが、これで少しは霧島が異動しても重くならんじゃろう?」
提督「いえ・・・何というか、嬉しいですがいささか複雑なだけです」
霧島「大丈夫です!この霧島、伊達に元帥秘書室付きではありません。口の堅さには定評がありますから!」キリッ
提督「大丈夫。信用しているよ。本音を言うと、すごく助かる」フッ
霧島「あっ、それです!笑顔が何だか懐かしい気がしますよ?」
提督「そうかい?過去に出会った記憶は無いのだがなぁ。しかし、何か縁があるという事なんだろう。それと前元帥、お気遣いありがとうございます。身辺警護等、必要なら申し付けて下さい。何かあれば我々の鎮守府に来てくだされば、現状でほとんどの勢力はその消息を掴めません。彼女の異動はそれだけの恩があります」
前元帥「いや、むしろ協力したいのはワシのほうじゃ。よろしく頼むぞい!」
―提督と前元帥、霧島はそれぞれ握手をした。思わぬタイミングで金剛型四番艦・霧島が異動してくることになり、また堅洲島の戦力が大きく増える事となった。この霧島の加入が、のちに大きな危機を救う事になる。
霧島「では司令さん、私も異動の準備に入らせていただきますね。鎮守府への帰投は何時ごろになりそうですか?」
提督「・・・実は今も当鎮守府の特務を同時に複数展開中で、帰投時刻は未定の状態なんだ。今日全てが始まり、終わるとはいささか考えづらいが、着任はしてしまえるし、一度戻るべきか悩んでいるところだ」
前元帥「急速に強い艦娘が集まっているとは聞いていたが、いやはや、忙しそうじゃのう」
霧島「楽しそうですね!ノートタブレットをお持ちなら、着任させていただければ、すぐにでもお手伝いしますよ?」
提督「聞きたい話もあるだろうし、その方が良いだろうな」
霧島「ありがとうございます!やっと楽しくなってきました!」キラキラ
前元帥「ワシに関しては、何らかの特務のオブザーバーか、顧問や調整役にしてくれれば動けるからのう?」
提督「では、近々呉に行く予定がありますから、オブザーバーでお願いいたします」
前元帥「承知したぞ!」
―前元帥と霧島が席を外すと、近くに控えていた磯波と叢雲が戻ってきた。
叢雲「どういう事なの?霧島さんが異動して来るの?」
提督「そういう事らしい。まさかこんな早くに金剛型が三人も揃いつつあるとは・・・」
叢雲「訳が分からないけれど、悪くないと思うわ。勘だけれどね」
提督「おれも悪くないと思う。そう悪い流れではないと感じたし、前元帥は良くも悪くもわかりやすい人物だ。それがあの人の人徳なのかもしれないな」
磯波(あ、ちょっと信用しているんですね・・・)
提督「ところで、現時点での訓練はどんな様子かな?」
磯波「あっ、はい!まず、目視確認は陽炎ちゃん3回。黒潮ちゃん1回、浦風さん一回、磯風ちゃんは6回、というかたぶん隠れる気があまり無さそうです。あとはまだ見つかっていませんね」
提督「うーん、磯風は堂々としているからな。こういう訓練はあまり適性が無かったかもしれん。陽炎はまあ、伸びしろがあるからいいし、まあまあかな。こちらの観察記録次第ではあるが。不知火はいい感じだな」
―少し遅れて、初風が入って来る。
初風「ハンドレッドからショートメールが来たわ『運営に気を付けろ。動き始めている』ですって」
提督「なに?明石の件か前元帥の件か・・・いずれにせよ助かる。慎重に次の用件をこなすか」
―提督たちは横浜に向かう事にした。
第六十四話、艦
次回予告
横浜で再会する、提督と鷹島提督。そして、しばしの別れを告げる特務第七の川内。
提督たちはさらに秋葉原に移動するが、秋葉原では何らかの理由により交通規制が始まり、『運営』の大きな権力の一端を感じ取ることになる。
異常を察知した明石は異動の準備を急ぎ、提督たちと合流すべく行動を開始するが、既に展開していたエージェントたちと、運営側に所属する夕雲型の艦娘に行く手を阻まれてしまい・・・。
次回『甘い言葉・中編』乞う、ご期待!
明石『提督、最新式の3DプリンターやNC旋盤、欲しいなぁ~。・・・買ってくれてもいいのよ?キラキラ♡』キラキラ
提督『何を言う、既にすべて揃っているぞ?うちの工廠を見てみるといい』
明石『・・・何この充実ぶり。拳銃でもミサイルでもロボットでも作れるじゃない!ヘラしぼり用の機械まで・・・』
古鷹『じゃあぜひ実物大ベンジェンスとかをですね!あっ、明石さん、グラインドブレード作って下さいよ!』
提督『いや、流石にそれは・・・』
明石『作りますよ?』
提督『なにっ?』
古鷹『ええっ!?』
明石『私は運営に復讐してやるんだあぁぁぁぁ!!』
提督『・・・そう(またヤバいのが来たな)』
続きが更新されて良かった
作者さん、無理しないで下さい!!
やはり面白い!
まったり続き待ってます。
まさか連載中断!?と思ってビックリしました。
無理なさらずに・・・!
1さん、コメントありがとうございます。
いやー、心配をおかけしました。いつも色々な事をしているのですが、10月は働き方を変えたりしたので、特に忙しかったです。
でも、続きを書きたい欲求が強くて、毎日気が気でありませんでした。
あちこちに伏線のあるこの話は、幾つかの大きな見せ場でそれらが収束するのですが、どうしても書きたいシーンや読んで欲しいシーンが結構あるので・・・。
今後もよろしくお願いいたします。
2さん、コメントありがとうございます。
そう言われると書き手としてとても嬉しいです。
艦これも二期に入るみたいですし、この話もまだまだ続きますので、ゆっくりお楽しみください。
3さん、コメントありがとうございます!
この話を書き終えるのが一つの目標なので、たまに間が開いても中断は無いと思います。
いやぁ、心配をおかけしました。
話を書く時間は自分にとっても大事な時間なので、じっくりお付き合いいただければと思います。
更新頑張ります!
無理せず更新下さい、応援してます。
7さん、コメントありがとうございます。
描き終えるまでまだまだかかりそうですが、じっくりお付き合いください。
この提督と艦娘たちは、全ての謎を解き、全てを落ち着かせるために、なかなか壮大な冒険をしていく予定です。全て描き切っていくつもりです。
いつも応援してくださって、ありがとうございます。