2016-10-17 05:59:23 更新

概要

ちょっとひと段落した鎮守府。香取の着任祝いで、
非番の前日に呑む提督と艦娘たち。

そして、『にしのじま』が帰還し、沢山の艦娘が着任する。
一人一人と言葉を交わす提督。

同じころ、高練度で最愛の金剛を失った青ヶ島鎮守府では、
全てが狂い始めていた。

一息つきたい、第十一話です。


前書き

大淀さんに提督や一部のメンバーが違和感を感じるところ、
曙の意外な凝り性と、提督専用SNSについて聞いた時のリアクションが見所。

そして、話の最後では、以前からたまに話題になっていた、
最愛の金剛を失った提督と、その鎮守府の話が、そろそろ出てきます。


[第十一話 帰還、そしてクリスマスの前 ]




―夜、堅洲島鎮守府、執務室ラウンジ。秘書艦と提督はまだ執務をこなしている。


提督「・・・なぁ、みんなちょっと質問いい?大淀さんてさ、なんか、艦娘っぽくない気がするんだけど、おれの気のせいかね?」


初風「偉い立場の女なんて、あんなもんじゃないかしら?」


曙「わたしは、特に何とも思わないかな」


磯波「提督が大淀さんに、ちょっとそっけない気がしますけど、何か考えがあっての事だったんですか?」


提督「いや、なんか大淀さんて、人間の女の子っぽいというか、ちょっと線を引きたくなるんだよなぁ。良く分からない感じがしてさ」


漣「んー、大淀さんがちょっとクールと言うか、なんか人間っぽい気がする。って、わたしだけ?」


提督「お!漣は何でそう思ったの?」


漣「夕方、色々な任務で困ってるっぽい他の艦娘の名前が出た時、わたしは、自分だったら・・・って考えて、心配になったりしたんですけどね、大淀さんは結構他人事っぽいというか」


曙「言われてみれば、ちょっと冷たい気もするわね・・・」


提督「やっぱり、同じところで引っかかったか。なんか、艦娘っぽくないと思ったんだよなぁ。まあ、今は気のせいにしておくか」


初風「今は気のせいにしておくって、面白い言い回しね。ところで、提督とみんなは、自分の銃を決めたの?」


提督「ん、磯波の目録の中から使えるのを選んで、後は色々発注するよ。カスタムや復刻、そういったものも対応してくれるのかな?」


初風「・・・問題ないわ。何でも手配可能と言っていたから」


曙「わたしはいらないかな。撃てないし」


漣「わたしも、もう少し考えたいです」


提督「・・・じゃ、磯波はこないだのVP70を装備って事で。ボディガードは必要だからね。ベルトやホルスターは初風にサイズ採ってもらったらいい。・・・初風、ホルスターは腿に装着するタイプで採寸頼むよ」


磯波「えっ、ええっ?・・・わかりました」


初風「いいと思う」


提督「どうやら、出かける時はほとんど磯波と一緒になりそうか。初風は?」


曙(なにぃ?)


初風「私は、シグザウエルのどれかにするつもり。たぶん、P220」


提督「・・・ほう、趣味が良いな」


初風「扱いやすいだけよ。でも、ありがとう」


漣「あれ?ご主人様、銃に詳しいんですか?」


提督「!・・・いや、ただのオタク的なアレだ(あっぶな)」


曙(ん!珍しい。クソ提督、ちょっと焦ってた。銃に詳しい過去があるの?)


初風(そうか、この子達は提督が戦場にいたらしい事は知らないのね・・・)


提督「ところで曙、明日はおれと一緒だよ。町を回ったり、色々あるからさ」


曙「えっ?クソ提督と二人っきり?漣とかは?」


提督「嫌なら変えるが、明日の予定の割り振り、出来ればもう弄りたくないんだよな」


曙「そういう事なら「私で良ければ行くわ」」


初風「私でも問題ないならね」


提督「ん?そりゃあ」


曙「人の話をさえぎらないでよ!私が行くから大丈夫よ、もう!」


漣「くっくっく」ニヤニヤ


曙「何よ!」


初風「そう、ならいいわ」


磯波(何だか楽しいなぁ・・・あっ!)


磯波「提督、押収した銃火器のリストが出来ましたので、後で目を通してもらっていいですか?」


提督「仕事が早いね!わかった。後で見ておく。ロケットランチャーも一丁あった気がするが、あれは大淀さんの装備だな」


漣「執務室に入るとロケラン装備した大淀さんが秘書艦とか、物騒過ぎる鎮守府ですね」


初風「意外とあの人、火力や力の信者かもしれないわよ?」


提督「高速戦艦・霧島がそんな感じらしい。砲撃戦も十分強いのに、熱くなると眼鏡を捨てて、徹甲弾を指の間に挟み、姫クラスに拳で直接ぶち込むらしい」


曙「うわぁ・・・」


―翌日、昼過ぎ。堅洲町。


提督「さてと、買い出しも、ホトケさんの件も無事終わり。あとは曙とデートして帰るかな」


曙「デートって・・・最近ちょっと調子に乗ってない?わたしは迷惑をかけた借りを返しているだけよ?色々誤解されたりして、かえって迷惑だわ!」


提督「そっか・・・そうだよな。・・・悪い。つい調子に乗ってしまったよ。最近忙しいから、何かうまい店に連れて行こうと思ったんだが、確かに、迷惑だよな」


曙(あれ?え?あれあれ?)


提督「まっすぐ帰って、間宮さんとこで昼にするか。・・・ふぅ、勝手に盛り上がった自分が馬鹿みたいだよ・・・済まなかったな」ハァ


曙(え、やだ、そんなつもりじゃ・・・)


―提督は心底気落ちした様子で、ジープに乗った。


提督「さ、帰ろうか。午後も忙しい」


曙「ちょっと待ってよ!」


提督「ん?」


曙「・・・せっかくだから、何かご馳走になろうかなぁ、なんて」


提督「最初からそのつもりだぞ?可愛い奴め!」フフン


曙「・・・こっ、こんのクソ提督ぅー!わたしで遊ぶな!このっこのっ!」ポカポカ


提督「いていてっ!いてってば!せっかく町に来たんだから、何か楽しい時間も無いとダメだろ。今更意地張らなくていいだろっての」


曙「だからって、なんか面白くない!」ムスー


―30分後、地魚料理専門店。


曙「ねえなんなの?ただのイワシの天ぷらなのに、この美味しさは・・・」キラキラ


提督「イワシだけじゃないぞ。このアジフライ、スーパーのが☆一つとすると、ここのは☆六つくらいの美味さだな。これは調理だけでは無理だ。やはり素材かな。うまっ!」


曙「美味しいけれど、これ、作れないかなぁ?」


提督「ん?作るかい?・・・同じことを考えていたみたいだな。帰りに材料を調達して、ちょっと作ってみるか。美味いものを食べると、感心すると同時に、自分で作れないかと思ってしまう」


曙「ひねくれてるわねー」フフ


提督「こういう時は上昇志向が強いって言うんだよ」


曙「じゃあ、今夜のみんなのご飯はイワシの天ぷらとアジフライね」


提督「ふむ。それでいこう。しかしわからんな」


曙「何が?」


提督「鎮守府も沢山あるから、『提督専用SNS』という意見交換の場もある」


曙「ふんふん?」モグモグ


提督「『うちのぼのたんがデレてくれません』というスレと、『ぼのたんに提督の心はリタイヤ寸前』というスレが、それぞれ300を突破したところだ」


曙「ブフー!げほげほ!なにそれ?そんなのあるの?(ぼのたん?)」


提督「特務鎮守府は閲覧だけで書き込みできないけどな。他の曙は知らないが、そんな難しい子ではないと思うんだがなぁ」


曙「借りを返し終わったら難しくなるから心配しないで。イ~っだ」


提督「そうなのか?お手柔らかに頼むよ」フフ


曙(いつ返し終わるか、わかんないけどね。・・・どんな態度をとっても優しいのは、やっぱり子ども扱いされてるからなのかなぁ?)


―夕方、執務室。


香取「特殊技能研修、ですか?」


提督「着任早々すいませんね。年明けからで構いませんが、鹿島、鳥海・・・どちらもまだ、当鎮守府に居ない子たちですが、彼女たちが揃い次第、受けていただくことになると思います。詳細はまだ私にも知らされていないのですが、おそらくは港湾の防御兵装の運用に関わるものだと思います」


香取「わかりました。・・・提督、他の子に話すのと同じ口調で、私の事は香取、と呼び捨てで構いませんよ?」


提督「そうかい?じゃあ、そうさせてもらうよ。ところで、酒は結構いけるほう?」


香取「あら!奢ってくださるのですか?そう簡単にはつぶれませんよー?・・うふふ」


提督「いいね!今日は着任祝いを兼ねて呑むかい!」


―五時間後、執務室ラウンジ。


提督「んー、酒がうまい。呑める子があまりいないと思ってたんだが、意外と皆呑むのな」


曙「あたしだって多少は付き合えるわよ。もー、早く言いなさいよクソ提督。・・・というかね、納得がいかないの、わたしは。わかる?納得が、いかないの!」


漣「ちょっとご主人様、ぼのが酔っ払ってますよ?(小声)」


提督「お、おう・・・何に納得がいかないって?」


曙「このクソ提督!あんたはそれでも料理人かー!そこそこ美味しかったけどさ、わたしのも提督のも、ぶっちゃけ☆4つくらいだよね、このアジフライとイワシ天ぷら。納得がいかなーいー!」


提督「いや、料理人じゃないからね?君らの提督だからね?こいつ・・・凝り性か!」


香取「えっ?これ、提督と曙さんが作ったんですか?とてもおいしいですが」


加賀「さすがに気分が高揚していたところですが(これよりおいしいのがあるんですか?)」


初風「おいしいけど、ダメなの?」


曙「もーねー、昼間食べたのはこんなもんじゃないの。これはただの美味しいってレベルだけどね、あれは別次元よ。Cond値が・・むぐ」ムグムグ


香取「曙さん、酔ってるからって何でも話していいわけじゃないのよー?うふふ」クチトジー


青葉「今、曙ちゃんは何を言おうとしていたのでしょうか?」


初風「気にしない方が良いと思うの」


赤城「提督、お酒なら、おっしゃって下されば、私も加賀さんも、お付き合いしますよ?」


提督「そうだった、もう赤城さんと加賀さんもいるんだよな。でもね、曙や漣まで呑めるなんて知らなかったからね。呑ませちゃダメかと思っていたよ」


雪風「雪風はジュースの方が好きなのです!しれぇ、工作員さんの事、ありがとうございました!」ペコリ


提督「いや、あのままじゃ腐っちゃうし、許可も出たからね。死んでからも工作員としか呼ばれない生き方をして、何が欲しかったんだか・・・」


赤城「そういえば、提督。銃の携帯のお話ですが、警備任務に必ず就かなくてはならないんですよね?」


提督「ん、建前上も、実際も、必須みたいだね」


赤城「その件なのですが、拡大解釈して、弓を使っても良いですか?ここ何年かの紛争で、戦闘用の弓もかなり発展していますし、鍛錬がてら、わたしたちはそのような武器の方が良いかなと思ったのですが」


提督「ああ、それは構わないよ。弓は使い方は異なるが、非常に役に立つ。ストッピングパワーも、ポイント(矢じり)を切り替えればよいし、問題ない。ただ、サブで銃を持つか、銃を持つ誰かが必ず近くにいるようにはしておいてほしい」


香取「提督、お詳しいですね」


提督「あ、いやいや、そんなことないけどね。実は自分も、弓を一つ、購入しようか迷っていたところだから」


加賀「!(一緒に練習ができますね!)」


赤城「まあ!さすがに和弓では・・・?」


提督「ないなぁ。コンパウンドボウにしようかと。車のドアをぶち抜けるくらいのやつ」


赤城「そ、そんな弓を何のために?」


提督「狩猟の練習と、あとは鍛錬かな。弓はいいよね。集中できる」


加賀「同感です」


提督「弓を改造して、魚を獲ってみたいってのもあるな」


夕張「えっ?面白そうですね!そんな事できるんですか?」


提督「うん。実はこれ、夕張の協力が必要不可欠なんだよ、加工が必要だからさ。クロスボウ・フィッシングってやつだね。併せて、夏までにはカヌーを作りたいんだが」


夕張「カヌーって、作れるんですか?」


提督「3Dソフトでデザインすれば、いけるよ!」


夕張「へえぇ~!面白そうですね!」


漣「ご主人様、結構趣味人ですよね」


提督「せっかくこんな島に来たんだし、少しは潤いのある生活をしたいさー。もう殺伐とした毎日は沢山だからな」トオイメー


提督「・・・まあ、もう一つ理由はあるんだけどな。友人から譲られた会社があるんだが、その名義で色々デザインして売ろうかと思っているんだよ。兼業提督の特権だな。ここの運営の足しにしたいし」


一同(なるほど・・・)


赤城「そういえば提督、漣ちゃんの件て何だったんですか?」


提督「ああ、それも話す頃合いだね。この島の縦断道路は、須佐山あたりでゲートで仕切られているんだが、そこの衛兵さんは、しばらく前に全滅した鎮守府の憲兵さんで、漣を良く知っている人だったんだよ。ただ、全滅だから色々とえぐい話も出るわけで、それで漣がだいぶショックを受けていたんだ。もう今は大丈夫だけどね」


漣「にへへ~、あの時は皆さんに心配かけました!もう大丈夫ですよっと!」


赤城「全滅・・・ですか。鎮守府自体がですか?」


提督「正確に言えば、精鋭の鎮守府が五か所、泊地と言う形で出張していたんだが、おそらく特殊な方法で、一晩で全滅した。ただし、うちの鎮守府にはおそらく、この手は通用しない。なので、そう心配は要らないと思ってるよ」


赤城「一年半ほど前の、『大規模侵攻』の時の件でしょうか?」


提督「そうだね。データの残りづらい場所の鎮守府でだけ、実証を兼ねてやってみた気がするな。そして、それが上手くいった。・・・最大の切り札をそっくり敵の手札に変えられたら、まず勝てんよなぁ」


赤城「どうやって、そんな事を?そんな事が可能なんですか?」


提督「艦娘を作り出した存在に近いものなら、それができると思う。君らのあり方を真逆の存在に変えてしまうんだ。ただし、条件が整わなければ流石に無理だが。誰か人間のやった『余計な事』をまんまと利用された感じだな」


赤城「・・・!まさか、それは・・・ケッコンシステムですか?」


提督「おそらくね。(仮)とついているのがまた、笑えない冗談だよ。ここから先は仮説だが、あの指輪は量子通信デバイスじゃないのか?常時交感型の。特殊帯通信だって、最初は確か、量子通信と呼ばれていた。いつの間にか、どこをどう探しても、量子通信なんて言葉が見当たらなくなり、全て特殊帯通信という言葉に置き換えられている。このあたりに何かある気がしてならないんだよ」


赤城「興味深い話ですね・・・」モグモグ


香取(いつの間にか、天ぷらがふた皿消えていますね・・・)


提督「ま、酒の場の話にふさわしくないから、この話はここまでとするけどさ。・・・あれ?つまみが・・・」


磯波「あ、私、もってきますね!」


提督「すまんね。明日はみんな非番だから、間宮さんたちにも声を掛けてきて。ある程度したらこれは、つまみ無しでいく感じだな」


曙「ダメだわ!納得がいかない!」ガタッ


漣「どうしたのぼの?急に立ち上がって」


曙「もう一度天ぷら作る!」フン


提督「凝り性だな!」


初風「酔ってて油は危ないわ」


曙「・・・それもそうね」ストッ


提督・漣「素直か!」


―一日半後、堅洲島鎮守府、正面港。特殊輸送船『にしのじま』係留場所。


提督「みんな、着任及び任務、そして帰還ごくろう!・・・って、すごい人数だな!」


陸奥「ただいま、あ・な・た♡」フフッ


提督「ふふ。いきなり情熱的な挨拶だな!・・・おかえりむっちゃん。お疲れ様」


叢雲「帰ってきたわよ。私が居ない間も、ちゃんと仕事していたんでしょうね?・・・ま、アンタの事だから心配はしてないけど」


提督「お疲れ、叢雲!おうよ!短い間にずいぶん色々あったよ。しかしあれだな、最初から組んでるむっちゃんと叢雲が居ないと、なかなか寂しいもんだよ」


陸奥「あらあら。でも、素直に嬉しいわ。クリスマスだし、近々一緒に呑みたいわね」


提督「そうだな。聞きたい事もあったし」


陸奥「ん、何かしら?」


提督「いや、あとでゆっくり聞くよ~」ニコッ


陸奥「あら、そう?(まさか・・・)」


叢雲「ところで、怪我はどう?お風呂にゆっくり入れてる?」


提督「いや、忙しくてな・・・シャワーと部屋の風呂くらいだよ」


叢雲「・・・しょうがないわね。この前みたいのでいいなら、・・・ま、また一緒にお風呂に入ってもいいわよ?」


提督「ありがとう。・・・そうだ!時間が空いたら、執務時間じゃない時に、部屋か執務室に来てくれないかな?人目のない時の方がいい。渡したいものがあるんだよ」


叢雲「何かしら?・・・いいけど」


??「あなたが司令官?」


提督「ん?そうだよ。よろしく!」


満潮「私、何でこんな部隊に配属されたのかしら」


提督「ん?そりゃもちろん、そういう縁なんだろ。ちなみに、他と違って間宮さんたちが常駐しているし、温泉にも入れるんだ。ちょっといいだろ?」


満潮「そ、そうなの?」


提督「そうだよ?聞いてなかったか?・・・ほら、これあげるよ」ゴソゴソ


満潮「バターサンド?食べてもいいの?」


提督「いいよ。執務室にいつも置いてあるから、好きに食べに来なよ」


満潮「調子狂うわね。・・・でも、ありがとう(小声)」


山城「姉さま、さっそく満潮が。ふふ」


満潮「そ、そういうんじゃないから!・・・(これ、おいしい!)」キラキラ


提督「(曙の妹か何かかな?)おかえり!扶桑、山城!無事で何より」


扶桑「提督、扶桑、無事帰ってまいりました!」


山城「私もです。提督も元気そうね」


提督「連絡で無事だと分かっていても、二人の顔を見るとホッとするな。元気に帰ってきてくれて、何よりだよ。本当にお疲れ様!」


山城「そんな大げさね。姉さまとも話していましたけれど、提督って私たちの事、少し気にかけて下さっていませんか?」


扶桑「自意識過剰だったら、笑ってくださいね。でも、いつもそんな気がしているんですよ」


提督「んー・・・さりげないつもりだったんだが、そうか、そんな感じかー。気のせいではないし、理由はあるよ」


扶桑・山城「えっ?」


提督「いずれゆっくり話すが、昔、遭難した時に、別の鎮守府の君らに助けられたことがあるんだよ。『大規模侵攻』の半年くらい前だから、もう二年になるか。お礼を言おうにも、もう言えないんだけどな・・・」


扶桑「どのあたりの話ですか?」


提督「オーストラリアからの帰りだった。東大東島泊地の扶桑、山城だったそうだよ」


山城「『大規模侵攻』で無くなった泊地の一つですね・・・」


扶桑「そんな事が・・・」


提督「悪い。湿っぽい話をするつもりは無かったんだけどさ。理由がないのになんか大事にされたら気持ち悪いだろ?これくらいは話しておくべきかと思ってさ。・・・いずれ、こんな話がぴったりの時の酒の場ででも話すよ。だから、君らに沈まれたら、おれは恩知らずになってしまうんだ。それだけはちょっと覚えといてくれたら、嬉しいね」


叢雲(へぇ・・・。ひょうひょうとしているようで、どっか堅いところがあるのよね)


扶桑(とても納得できるのに、少しだけ残念な気持ち。・・・わたし、嫌な女ね)


山城「・・・」


―誰かが、提督の腕をギュッと抱きしめているのに気付く。


提督「ん?君は?」


??「あら?自己紹介まだでしたかー。私、荒潮です」


提督「おお、よろしく!」


荒潮「うふふ。司令官さん、扶桑さんや陸奥さんみたいな大人の女性が好き?」


提督「好きっつーか、まあ良い相棒だね。一緒に呑めるし」


荒潮「あらあら、率直なのね。じゃあ、私とかはどう?」


提督「どう?って言われても、何とも答えようがないぞ?まだ、かわいい子だな、くらいしか感想がないが・・・」


荒潮「もー、かわいいとか、素敵な事言うのね!司令官さん、お手伝いが足りてないんでしょ?好きな時にお手伝いしてもいいかしら?」


提督「それは助かるね。ありがとう」


荒潮「じゃあ、後でまた執務室に挨拶に行くわね」


??「ねぇねぇ、司令かーん!」


提督「んっ?」


卯月「司令官にぃ~、敬礼!ぴょん!」ピシィ!


提督「君は、卯月だな。着任よろしく!」ピシィ!


卯月「司令かぁ~ん、思ってたよりずっとステキ!」ニコニコ


提督「んっ?そうかな?(キリッ!)」キメガオ


卯月「なぁ~んて、うっそぴょ~ん!あははは!面白い司令官っぴょん!」


提督「ふふ!よろしく!執務室に行くと、新任の子には秘書艦が間宮券配ってるから、なんか食べてきたらいいぞ」


卯月「卯月の事はうーちゃんでいいっぴょん!さっそく行ってくるっぴょん!あっ、こっちが弥生っぴょん!凄く嬉しそうな顔してるっぴょん」


弥生「・・・初めまして。弥生、です。よろしく」


提督「嬉しそうな顔、かね?やっぱり親しいと色々とわかるもんなんだな」


弥生「・・・今は普通の顔・・・です。でも、ちょっと嬉しいです」


提督「それは何よりだ。よろしく!」


??「あなたが私の提督なの?」


提督「えーと、君は・・・」


足柄「重巡洋艦、足柄よ!砲雷撃戦が得意なの!ふふ、よろしくね!とても獰猛で好戦的なシルエットから、「餓えた狼」なんて呼ばれたこともあるのよ!」


提督「よろしく!しかし、ずいぶんかわいい狼さんもいたもんだな」


足柄「まあ!かわいいだなんて!」


妙高「足柄、全員でご挨拶する段取りだったでしょう?・・・提督、妙高型重巡洋艦、妙高以下、四姉妹、着任いたしました!最後の日まで、共に頑張りぬきましょう」


提督「これはすごい。妙高型が全員そろっているとは!」


那智「貴様が司令官か。私は那智。よろしくお願いする。・・・ところで、小耳に挟んだのだが、ここは拳銃の携帯許可が下りているそうだが。後で詳しく聞かせてもらっても構わないか?」


提督「もちろん。協力、感謝するよ。那智さんはドイツの拳銃とかが好きそうだな」


那智「む!呼び捨てで構わんぞ。しかし、貴様、良く分かっているな。私はワルサーP38か、ルガーP08を申請しようかと考えていたところだ。貴様とは美味い酒が呑めそうだな」


提督「おお、いい趣味してるねぇ。おれの相棒はこれだよ」スッ


那智「これは、大きな自動式拳銃だな。ふむ、後で撃たせてもらってもいいか?」


提督「ここは射撃場もあるからね。構わんよ」


羽黒「あの・・・」


提督「あっ、ごめん!」


羽黒「羽黒です。妙高型重巡洋艦姉妹の末っ子です。・・・あの、ごめんなさい!」


提督「ごめん、失礼した。ついつい銃の話になると。君が羽黒だね。オッス、オラ提督!よろしくな」


羽黒「あの・・・ふふっ!」


妙高(最初に羽黒を笑わせるなんて、やりますね!人心の把握が上手い、というより、もとから親しみやすい方なんでしょうか?)


??「妙高型ばかりが重巡ではないぞ?のう筑摩よ」


提督「ん?」


利根「吾輩が利根である。吾輩が艦隊に加わる以上、もう索敵の心配はないぞ!のう筑摩よ!」


筑摩「初めまして!利根型二番館艦、筑摩と申します。最後の重巡、利根型姉妹なんですよ。姉さんも言っていますが、索敵はお任せくださいね!」


提督「あ、確か、最終的な改装には設計図が必要だけど、すごく強くなるんだよな、君らも」


利根「ほう、わかっておるのう。ところで、間宮が常駐していると聞いたのじゃが、本当かの?」


提督「ん?新規着任の艦娘は執務室で間宮券を配っているから、受け取って何か食べてきたら良いよ」


利根「なんじゃと!筑摩よ、こうしてはおれん。券が無くなる前に急ぐのじゃ!」ダッ


筑摩「あっ、姉さん!・・・すいません提督、また後でご挨拶に伺いますね!」


提督「ん、また後で!」


足柄「ねぇ、提督、後で執務室に伺ってもいいかしら?秘書艦が足りないと聞いたのだけれど」


提督「重巡の秘書艦はまだいなかったからね。狼さんがやってくれるなら歓迎するよ?」


足柄「はい!ぜひとも足柄にお任せくださいね!」


提督「うん、よろしく頼むよ!(ずいぶん一生懸命な子だなぁ)」


那智「姉さん、足柄のやつ・・・(小声)」


妙高「提督の事を気に入っちゃったみたいね・・・(小声)」


羽黒「提督さん、たぶん気さくな感じで『かわいい狼さん』みたいな事を言ってましたから・・・(小声)」


??「あの、提督!・・・ああっ!」ガッ、ステッ!ドガッ!


提督「おおっ?いっつつ・・・大丈夫か?」


五月雨「す、すいません!すいません!さ、五月雨っていいます!よろしくおねがいします。護衛任務はお任せくださいね!」


提督「だ、大丈夫・・・怪我しなかったか?」


五月雨「大丈夫です!提督こそ、お怪我はありませんでしたか?」


提督「いや大丈夫。しかしすごいな、おれが受け身を取る暇もない転び方とか。隠れた潜水艦を沈めて、江風を見つけてきただけの事はある。やっぱり、初期秘書艦に選ばれるだけの事はあるね」


五月雨「そんな、ほめ過ぎですよ!」テレテレ


??「ぜんぜン褒めてないと思うんだけどなぁ。よぉ提督、改白露型二番艦の江風だよ。よろしくな。読み方間違えンなよ?」


提督「おう、よろしくな!駆逐艦トナカイ。クリスマスパーティの準備はしてあるぜ!待ちきれなかったみたいだが」


江風「絶対そういう事を言ってくる提督だと思ったンだよなぁ。突っ込まれ過ぎてもう説明するのも面倒なンだよー」


提督「いや、うちの鎮守府、なぜかサンタもいるからタイミングは悪くないぞ?パーティの準備もしているし、楽しんでくれよ」


初風「・・・・」


江風「お、いいねぇ~!楽しみにしてンぜ。じゃあまたな、提督!」


提督「おう!・・・元気があっていいねぇ」


初風「・・・今度、黒スーツにする。絶対」


提督「どっかのバカみたいに地下室に繋いだりはしないが、毎日眼福だな、それは」


初風「男の人のそういうの、あまりわからないんだけど、そんないいものなの?」


提督「うん、かなりいい。どれくらい補正がかかるかと言うと、命中+10くらい?」


初風「そんなに?あまり理解できないわね・・・」


提督「男と女の間にある、溝の一つだよ。ふふ・・・ノリのいい子はわかってくれたりもするが」


初風「だから、漣と仲がいいの?」


提督「それもあるけど、あいつはあまり本音を話さないからさ、ああやってるけど周りにかなり気を配っているからね。だから気に掛けときたい」


初風「優しいのね」


提督「どうかな。自分が優しくされたいだけかもしれないぞ?人の優しさなんてさ・・・」


初風「ふふ」


提督「ん?」


初風「なんでもないわ。ほら、吹雪型が来たわよ」


吹雪「はじめまして!吹雪です。吹雪型のみんなともども、よろしくお願いいたします!」


提督「よろしく!これで、初期秘書艦も全員揃ったのか?なぜか縁があって、磯波に秘書艦をしてもらっているよ。君に会いたがっていたな」


吹雪「あ、聞いています。ひどい目に遭っていたところを、助けて下さったんですよね?」


深雪「聞いた聞いた!ありがとね、司令官。かっこいいじゃんか!」


提督「同じ立場の人間の不始末だからな、カッコつかんよ」


敷波「そうだな、司令官の言うとおりだよ。でも、ありがとな!」


綾波「ごきげんよう、特型駆逐艦、綾波と申します。微力ながらお力添えさせてくださいね!」


提督「微力どころか、期待しているよ。狼に黒豹か・・・メンツが揃ってきたなぁ」


初雪「初雪・・です・・・よろしく」


提督「君はお人形さんみたいだな!着物が似合いそうだ」


初雪「よく・・・言われる」


提督「さりげなく美人さんって事だぞ?」


初雪「ありがと・・・ちょっと嬉しい・・・」ニコッ


白雪「白雪です。よろしくお願いします。・・・あの、司令官、銃器携帯の件、聞いたのですが。私も警備任務に参加したいです」


提督「おお、ありがとう。どんな銃を持つかは決めてるの?」


白雪「・・・ショットガンとアサルトライフルは最低でも押さえておきたいと思っています。やっぱり、火力が何より大事だと思いますから」


初風(この子、火力信者ね)


提督「確かに。君が機関銃を持つと、何だっけ?昔の映画、セーラー服とマシンガンだっけか」


初風「それがロケットランチャーだと大淀さんになるのよね」


白雪「・・・それで、聞きたかったのですが、ソードオフ加工したショットガンも含まれますか?」


提督「(すげーな、おれと初風の話をガン無視だよ、この子・・・)ソードオフか!・・・確かに有効だが、そこまでの脅威がここに存在するかは微妙だな。しかし・・・実際有用だから、大っぴらに持ち歩かなきゃ良しとしよう」


白雪「わかりました!警備任務は積極的にこなしますので、よろしくお願いいたします!」


初風(やっぱりこの人は、銃を良く知っている気がする)


雷「司令官、初期秘書官は電を入れないと、揃ったことにならないのよ?失礼しちゃうわ!」


提督「ん?あっ、ごめん!それが電だよね?雷ではない、はず。で、君は雷か。(紛らわしい)」


電「当たったのです。電です。どうか、よろしくお願いいたします」


提督「こちらこそ、よろしく。ごめん、初期秘書艦をすっかり覚えてなかったな。初期秘書艦着任率ナンバーワンの君を忘れるとは」


電「いいのです。よろしくね、司令官!」


響「響だよ、その活躍ぶりから不死鳥の通り名もあるよ。よろしく、司令官」


提督「よろしく。なぜだろう?艦歴が違うからなのかねぇ?君の髪の色が違うのは」


響「うーん、そこは自分でもわからないんだ」


暁「ちょっと、暁の事をほったらかして話を進めないで!・・・暁よ。一人前のレディーとして扱ってよね!」


提督「ごめん。そんなレディーには間宮券だ。執務室で配ってるから、貰ってきたらよいよ」


暁「えっ?そうなの?・・・ありがとう、いただくわね!またね、司令官!」タタッ


雷・電・響「走って行っちゃったね・・・」


初風「レディ・・・」


提督「レディーには甘い物が必要不可欠だから・・・」


??「そうね、たまには甘い物も大切よ!えーと、司令よね?」


提督「ん?そうだが、君は・・・」


陽炎「やっと会えた!陽炎よ!よろしくね!」


提督「よろしく!元気があっていいな!」


陽炎「ね、司令、ここって図書室みたいなのはあるの?」


提督「んー、読書ラウンジみたいなのはあったが、まだ手を付けてないな。ん?君は本が好きなのかな?」


陽炎「当たりっ!もし図書室とか整理するなら、私、司書みたいな仕事がしたいんだけど!」


提督「あ、それはアリだな。ふむ。後で頃合いを見て執務室に来てくれるかな?打ち合わせをして、少し本を導入しよう」


陽炎「さーんきゅ!よろしくね、司令!じゃあまたねっ!」


初風「・・・本、好きよね?」


提督「人が一生の間に読める本は、どう頑張っても一万冊程度なのが悲しいところだよ」


初風「艦娘は何冊くらい読めるのかしら?」


提督「そういや、謎だね。確か君らは、歳を取らない、または、ある程度調整できると聞いたことがあるな。うわさに過ぎないが」


??「えーと、提督、ですか?士官服を着ていないけど、そうだよね?」


提督「あっ、君は・・・当てよう。青葉の妹で、漣のお姉さん、衣笠だろ?」


衣笠「はーいっ!衣笠さんの登場よ!青葉ともども、よろしくね!・・・って、提督、前半は当たってるけど、後半は冗談でしょ?髪型はおんなじだけどね」


提督「えっ?違うの?(真顔)」


衣笠「ええっ?」


青葉「もー!提督、初対面からガサをからかっちゃダメですよ?この子、真面目なところがあるんだから。ガサー、会いたかったよー!」


衣笠「青葉、ただいま!・・・なあんだぁ、もー!びっくりした。提督ー、これ後でお返しするからね?ふふふ」


提督「しまった。お手柔らかに頼むよ。・・・さて、あとは?」


黒潮「黒潮や、よろしゅうな!司令はん、ウチらも陽炎と同じ部屋でええんやろ?」


提督「よろしく、そうだよ。ただ、部屋数が相当あるから、望めば個室でも大丈夫だが」


黒潮「ん、なるほどな。とりあえず、皆と一緒の部屋にして、そっから色々考えるわ。ほな、また後でな」


不知火「同様に、私もそれでお願いします。不知火です。ご指導ご鞭撻、よろしくです」


提督「よろしく。まあ、慣れるまでは共同生活の方が良いだろうしな」


不知火「はい。それと司令、先ほどの陽炎の司書の話。一人だけではやや荷が重いかと。私も加わってもよろしいでしょうか?」


提督「いや、全然かまわんが、陽炎と話はしてあるのかな?」


不知火「はい。一緒に話すつもりだったのが、先に行ってしまいました。少し・・・テンションが上がっていたようです」


提督「なるほど。いずれ24時間体制になるし、それは全然かまわんよ。では、後で打ち合わせをしようか」


不知火「かしこまりました!それでは失礼いたします」


提督「うーん、武人ぽいねえ。駆逐艦とは思えない威厳だな」


??「もう。荒潮ったらどこに行ったのかしら!」プン


提督「ん?君んとこの4番艦なら、もう少し前に行っちゃったぞ?執務室で間宮券配ってるからね」


霞「え?何で私の事がわかるの?あなた、司令官?」


提督「当たり!1司令官ポイントをあげよう。で、君は霞だな。当たってる?」


霞「当たり。だけど、・・・たるんでるわね!」


提督「おおっ?そんなに腹出てるか?まだガッチリ引き締まってるはずなんだが」


霞「お腹じゃないわ、服装よ。何で士官服着てないの?信じられないわ。・・・まあいいわ。霞よ、私が来たからにはガンガン行くわよ。ついてらっしゃい!」


提督「そうだな。ガンガン行くってのはおれも同感だよ。ただ、ここは特務鎮守府だし、今や士官服は無能の象徴とまで言われている。必要な時しかおれは着ない。よろしくな!」


霞「大きく出たわね。ふん、いずれ実力を見てやるから、覚悟なさいよ。じゃあね!」


提督「・・・ん、士気高くていいな。ちっちゃいのに偉い。無理はさせられないな」


初風(なるほどね・・・)


初春「いくさなど、少し肩の力を抜いたほうが良いとわらわは思うんじゃがの。・・・わらわが初春じゃ、よろしく頼みますぞ」


提督「同感だね。『いくさ巧者には戦旗が読める』と言うやつかな」


初春「ほう、すっとぼけた感じとは裏腹に、良く分かっておるのう。結局は視界の広いものが勝ちや命を拾うものじゃと、わらわは思うのじゃ」


提督「作戦時はそんな感じの視野でよろしく頼むよ。みんなが熱血では、時に危ういからね」


初春「任せておくのじゃ。しかし、何ぞ良さげな鎮守府じゃな。いかに戦う毎日とはいえ、潤いも必要じゃ」


提督「なるべく、そんな感じで行くつもりだよ。あ、執務室のお茶は湧き水なので、違いの分かりそうな客人は歓迎するよ」


初春「良いのう。後程楽しませていただくとするかの」


提督「茶を楽しむ心は大事だからね」


??「ねーねー提督、かな?」


提督「いや、ただの用務員です。提督さんなら・・・」


川内「うっそだあ!もー、いきなりそんな冗談言ってー!そんな強そうな用務員さんとか、いるわけないよー」


提督「ん?強そう?そう見える?(この子・・・)」


川内「あっ、そうだね。何でそう思ったんだろ?でもとにかく!川内、参上!夜戦なら任せておいて」


提督「うわさは聞いてるよ。確か夜戦が大好き、なんだっけ?」


川内「そうそう、さっすが提督!ちゃんと把握してくれてるんだねー」


提督「ふむ。夜戦と演習に関しては、後程詳しく説明しよう。・・・という事は、君が神通で、君が那珂、だね?」


神通「はい。あの・・・軽巡洋艦、神通です。どうか、よろしくお願いいたします・・・」


提督「控えめだけど、何だかすごい強そうな気配がするんだが」


神通「そんな事ありません。・・・でも、練兵場か道場のような場所の使用許可を頂けたら、もう少しお役に立てるかと思っています」


提督「なるほど・・・。神通さんは剣とか、武術は何か使えるのかな?」


神通「少しだけ、記憶の中に古武術や剣の扱いに関するものがあります。ただ、モヤモヤとしていて、これをもう少し形にする場所が欲しいんです。そうすれば、より強くなれるような気がして・・・」


提督「なるほど、わかった。協力しよう。ホールが幾つかあるから、どれかをそのように使ってもいいし、近くの廃校の体育館でもいいな。近々相談しようか」


神通「はい!ありがとうございます!」


那珂「神通ちゃんはすっごい強いよ!あ、提督、私は艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー。よっろしくぅ!ここの鎮守府はアイドル活動に寛容だったりする?」


提督「仲間もまだまだ増えるし、一服の癒しになるような活動なら、全然かまわないな。大食堂の横にシアタールームがあるから、そこのステージを使って飯時に何かやっても構わんよ」


那珂「えっ、いいの?」


提督「これだけ広い建物なんだし、使わなきゃ建物が泣くよ」


那珂「やったー!じゃあまたね、提督!」


初風「・・・新規で着任した全員と、なにがしか話すつもり?」


提督「そうだよ?」


初風「それはなぜ?」


提督「なぜだろうな?何となくだが、大切な事のように思えるんだよ」


初風「いいと思う」


提督「ところで、・・・済まないな、人間の理不尽をずいぶん経験させてしまって」


初風「えっ?」


提督「曙から聞いたよ。おれもそうだが、人間てバカばっかりなんだ。ゴメンな」


初風「あなたもなの?」


提督「黒スーツが好きなくらいには」


初風「ふふ。私、ずいぶんあちこち、たらい回しだったし、ここは温泉もあって間宮さんたちもいるから、もう他に行きたくないの。友達もできたしね」


提督「他に行く必要は、たぶんないぞ?」


初風「そのつもりよ。・・・睦月と如月が来たわね」


睦月「睦月です!はりきって、まいりましょー!よろしくね、提督!」


如月「如月と申します。おそばに置いてくださいね。・・・ところで」


睦月・如月「「叢雲さんから聞いたんですけど、ここって温泉に入れるんですか?」」


提督「見事なハモり具合だな!入渠施設とは別に温泉があるよ。色々な温泉があるんだが、メンバーが少なくて管理しきれていなかった。君らも手伝ってくれると助かるね」


睦月「あ、睦月たちもやります!」


如月「美容に良さそうね、素敵!・・・あの、司令官のお手伝いをしたいんですけど、お仕事ってありますか?」


提督「色々あるはずなんだが、何しろまずは新規着任したメンバーを把握しないと何も言えない状態かな。忙しいのは間違いないから、助かるよ」


如月「わかったわ。頃合いを見て、司令官の所に行きますね!」


提督「よろしく頼むよ!(ん、ちょっと薄幸の相があるな・・・気を付けないとダメか)」


??「あなたが提督なの?士官服を着ていないのはちょっとどうかと思うけど、一人一人に声を掛けているのは、民間ならではと言ったところかしらね。悪くないわ」


提督「待っていたよ。今回も活躍してくれたそうで。確か、初音ミ「違うわよ!」」


五十鈴「わかってて言ってるでしょ?五十鈴です。水雷戦隊の指揮ならお任せ。全力であなたを勝利に導くわ。よろしくね」


提督「ありがとう。じゃあここで、冗談の詫びもかねて豆知識。君の名前『五十鈴』っていうのは、古代の王の権威の象徴、黄金でできた三つの鈴のついた装飾品なんだよな。古墳時代の遺跡からも発掘されていたりするんだ。実に由緒正しい名前と言える」


五十鈴「あら、ふざけた人かと思ったら、意外と学がある感じなのね。ふふっ、そういう提督は嫌いじゃないわよ?ところで、対潜装備、全然足りてないんじゃないかしら?」


提督「ん、確かに足りてないな・・・」


五十鈴「だと思ったわ。開発手伝ってあげるから、早めに声をかけてね。潜水艦退治は重要度が高い任務だし、練度の上昇のバランスが良くてお勧めよ?」


提督「それは助かる。ここは地理的に潜水艦狩りが最重要だからね。所在地を絶対に知らせちゃいけない場所だから、人数が増えた分だけ、対潜哨戒任務があると言っても差し支えない。しばらく対潜哨戒の旗艦を任せることになると思うから、よろしく頼むよ」


五十鈴「任せときなさい!五十鈴が居れば大丈夫よ!じゃあ、また後でね」


提督「ん、ありがとう。ひとまず旅の疲れを癒してくれ」


??「おっと、軽巡はほかにもいるクマよ?」


提督「この特徴的な語尾は!」


球磨「・・・ふっふっふーん、球磨ちゃん、地味にとっても強いクマー。よろしくだクマ。ちなみにこっちが多摩だけど、やっぱり猫ではないクマ」


多摩「軽巡、多摩です。猫じゃないにゃ」


提督「ちょっと待った!今語尾が『にゃ』って言ったぞ?」


多摩「でも、猫じゃないにゃ」


提督「・・・この違和感。・・・思い出した!昔、ラーメンの美味い店を紹介してくれた奴がいたんだが」


球磨「ほうほう?」


多摩「にゃ?」


提督「そいつ、店に一緒に行ったらチャーハンだけ頼んでやがった!」


球磨「わけがわからないクマ!」


提督「だろ?そんな気分って事だ」


多摩「とりあえず、よろしくだにゃ。ちなみに、今来たのが木曾にゃ」


提督「ちょっと待っててくれ、今、キソって動物を思い出しているところだ」


球磨「そんな動物いねークマ」


木曾「木曾だ。お前に最高の勝利を与えてやる」


提督「語尾にキソが」


球磨「つくわけねークマ!」


多摩「つくわけないニャ」


木曾「提督、殴り合いなら任せてくれよ。姉さんたちはちょっと動物っぽいけど、実はかなり強いんだぜ。この木曾もだ。よろしく頼むぜ」


提督「冗談はともかく、期待してるぞ。殴り合いも大事だ。よろしく頼む」


木曾「ああ、任せておけ」


提督(ずいぶん男前な女の子だな・・・ん?)


―提督は殺気を感じ、その方向を見た。


龍田「あら提督さん、ちょっとだけ怖い顔してどうしたのかしら?何か感じたのかしら?そんなわけないわね。初めまして、龍田だよ。天龍ちゃんがさっそく迷惑かけちゃってごめんなさいね」


天龍「おれの名は天龍。フフフ、怖いか?」フラフラ


提督「いきなりフラフラで別の意味で怖いわ!・・・ん?船酔いかな?ずいぶんひどいようだが」


龍田「天龍ちゃんには何度も、船酔いで死んだ人は居ないから大丈夫って言ったのに、最後には船から出て自分で移動するなんて言っちゃって。結局、船から出てくるのも手間取っちゃったわ」


提督「手間取った?」


龍田「ちょっとその、あちこち汚れちゃって」


提督「あー・・・。手伝いは大丈夫?」


天龍「流石にそこまで、迷惑はかけらんねぇ・・・大丈夫だ」フラフラ


提督「船酔いだからすぐに治るとは思うが、秘書艦に部屋を割り当ててもらったら、少しゆっくりしたらいい」


天龍「くっそ、すまねぇ」


龍田「提督、挨拶もそこそこでごめんなさい。後で改めて挨拶しますね~(ふ~ん、とぼけてるけど隙のない提督さんね)」


提督「ん、お大事に(殺気はこの子だな。隙が無い)」


長良「あの、軽巡、長良です。五十鈴が先に行ってしまいましたが、よろしくお願いします!・・・こちらが名取です」


名取「名取と申します。ご迷惑をお掛けしないように、が、がんばります!五十鈴も言っていましたが、特務鎮守府は対潜哨戒が大切だと思いますので、きっとお役に立てると思います」


長良「地図にない島の利点は、知られてしまったら失われてしまうもんね。私たちも、頑張りますね!」


提督「聞いているかもしれないが、最近も不審船がらみで急な任務が発生したりしたしね。確かに重要な役回りだから、よろしく頼むよ」


長良・名取「「はい!」」


初風「これで、今回の遠征で増えた仲間は全員みたいね」


提督「みんな個性的で、しかしやる気があっていいな。一人も沈めさせられないよ。当たり前のことだが」


―同じ頃、青ヶ島鎮守府、執務室。


金剛(練度98)「提督ぅー!・・・もう少しで練度が最高になりマス。希望、叶えていただけますカ?」


―提督は、助からない病気を宣告された人のような顔をしていた。


純愛提督「・・・・すまない」


金剛(練度98)「やっぱり、無理なんですネ・・・わかってましたヨ・・・」


純愛提督「僕はもう、提督を辞めることにしたよ。ごめん、もう耐えられないんだ。本当にすまない!」ガタッ、ドゲザ


金剛(練度98)「そんな事、しないでくだサイ・・・。立って、提督」


純愛提督「君は何も悪くない。でも、もう耐えられないんだ・・・」


金剛(練度98)「提督は辞める必要ないデス。みんな悲しみマス。・・・私、解体申請・・・出しますネ・・・。私も、耐えられないデス」


純愛提督(誰か、誰か僕らを救ってくれ!何でこんなことに・・・こんな・・・事に。・・・くっ・・・金剛!)ボロボロ


―提督が両手をついた床に、涙の点が、降り出した雨のように増えていった。かつて「鉄のような提督」と言われていた男の姿は、今は見る影もない。


―金剛も、少女のようにぺたりと床に崩れると、静かに泣き始めた。


比叡「提督!お・・・金剛、さん・・・」


―駆け付けた比叡、その後に続いた榛名と霧島も、何も言えずに立ち尽くしていた。


―半年前に、以前の金剛が轟沈してから、全てが狂っていた。




第十一話 艦


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