「地図に無い島」の鎮守府 第十二話 金剛石は砕けない・前編
半年前、最難関とされる『E.O.B海域』への侵入に成功した、
青ヶ島鎮守府の金剛率いる連合艦隊。
しかし、強力な新手の出現で、金剛は轟沈してしまう。
半年たった現在、青ヶ島鎮守府は全てが狂い、提督は辞任願を出し、
新しく着任した高練度の金剛は、なじめず解体申請を出していた。
そこにやってくる堅洲島の提督と秘書艦たち。
序盤、金剛の轟沈描写があるので、苦手な人はスルーしてください。
提督にプレゼントを貰う叢雲、青葉と衣笠のからみ、
はっちゃんが買った下着はなんなのか?
そして、提督の単装砲のスペック?がなぜか明らかに。
シリアスだけど小ネタも満載の第十二話です。
[第十二話 金剛石は砕けない・前編 ]
―半年前、太平洋上、マリアナ付近。通称「E.O.B海域」外縁部。青ヶ島鎮守府の艦隊。
高速戦艦棲姫・帯剣「オノレ!オノレェェェ!コレヨリサキヘハ・・・ナントシテモ・・・」
金剛(練度155)「あなたも高速戦艦なら、誇りを思い出すネー!・・・Fire!」ドゴォォォォ
高速戦艦棲姫・帯剣「ギッ・・ガッ!アッアッ・・・アア・・・ソウダ・・・カツテ・・・・・ウミヲジザイニ・・・翔けていた・・・ま・・・た・・・」
大淀「やりました!作戦、成功です。これで、長らく謎だった「E.O.B海域」への侵入が可能となります!」
筑摩「待ってください、電探に感あり!・・・えっ、これはなに?」
利根「・・・筑摩、これは航空機じゃ。ものすごい数の」
筑摩改二「そんな・・・あっ、索敵機、通信途絶えました。しかし、新たな姫クラスを確認。未確認の新型と思われます」
榛名「姉さん、どうしますか?」
―金剛は、連合艦隊の仲間を見回した。無傷の艦娘は一人もいなかった。
金剛「・・・撤退するネ。もう勝てないヨ。生き延びて対策を練りなおすしかないヨ」ギュッ
榛名(姉さん、すごく悔しそう・・・無理もないですよね・・・)
金剛「総員、最大戦速で撤退!損傷の軽微な者は殿を務めるネー!」
大淀「わかりました!総員、最大戦速で撤退!」
利根(でも、無理じゃろう。この戦力差では、いずれ・・・)
―3時間後。
航空要塞棲姫・帯剣「ムダダ!ミズカラノヤクワリモハタセズ、シズンデイケ!」オオォォォォォ
赤城「あの、剣を持っているタイプの姫クラス、異常に強すぎます・・・。もう、艦載機も。加賀さん、大丈夫?」
加賀「まだ、まだやれます。ただ、艦載機がもうないわ」ゲホッ
海風「私も、もう弾薬が少ししか・・・」
阿賀野「もうほとんど底を尽きかけているわ」
金剛「・・・私が、奴の足を止めます。みんなはその間に逃げてネ。要塞と言っても空母だから、弱点はありマス。イイですか?燃料切れに近い状態に見せかけて、奴を油断させたら、残る弾薬と艦載機で一斉に正面攻撃してくだサイ。私は、そこに突っ込んで、奴の懐に入り、残った弾薬を至近距離でたたき込みマス。みんなは振り向かずに、全力で走るネー!」
吹雪「そんな!金剛さんだって、もう弾薬がほとんどないんじゃ?」
金剛「ブッキー、そんな事無いネ。戦艦の戦いは一発の徹甲弾でもケリがつくネ。大丈夫デース!」
吹雪「わかり、ました。グスッ・・・吹雪、全力で作戦を遂行します!」ビシィ
利根「・・・来たようじゃの」
―横にした金床を背負ったような姿の、航空要塞棲姫・帯剣は、航空攻撃をする最適な距離で進むのを止めると、航空機をいったん収納し始めた。
航空要塞棲姫・帯剣「ククク、シュショウナコトネ。イイワ、コナゴナニ、ショケイシテ、アゲル・・・」
金剛「みんな、今ネー!私が突っ込んだら、全力で逃げるネー!」
―残る航空機と、砲、魚雷が全て航空要塞棲姫・帯剣に向けて放たれ、金剛は全速力で突っ込んだ。
赤城「みんな、振り向かずに全速力で離脱。金剛の作ったチャンスを無駄にしてはダメよ・・・」グスッ
加賀(金剛さん、あなた、もう弾薬が・・・)
榛名(大破)「姉さん!」
金剛「うぁぁぁぁ!お前だけはヴァルハラに引きずってでも連れていくネー!」
航空要塞棲姫・帯剣「ガァァ!カンムス・・・フゼイガ・・バカニシテ!」
―金剛は姫の懐に入ると、最後の徹甲弾を撃とうとした。が、姫の背後の生体艤装部から生えている、巨大な手が、金剛の砲塔ユニットを素早く握りつぶして爆発させた。
航空要塞棲姫・帯剣「ムダダ。クラエ!」
―姫の右手側の艤装腕が、金剛を海面に叩きつけた。
金剛「あうっ!」グシャッ
―中破状態だった艤装はほぼ粉々になったが、なぜか金剛の身体は傷一つ負わなかった。しかし、金剛には、もう、それに気づくゆとりは無かった。全身に、全く力が入らなかった。
航空要塞棲姫・帯剣「イマイマシイ・・・コノ・・・マブシイヒカリ・・・イツワリノ・・・ヒカリ・・・」
金剛「何を・・・言っている・・・の?・・・ぐっ!」ガンッ!
―姫は艤装腕で金剛の左腕を掴むと、空中に持ち上げた。右腕のカギ爪で金剛を八つ裂きにしようとしたが、艤装服が裂けただけで、爪の方が折れてしまった。
金剛(なぜ?傷つかないの?)
―金剛は、もう死を覚悟していた。
航空要塞棲姫・帯剣「オノレ!キサマノヒカリ・・・ツヨイ・・・ナラ・・・」チャキ・・・ズラッ
―姫は金剛を自分の本体に近づけると、禍々しい、黒い剣を抜いた。
金剛(やめて・・・)
航空要塞棲姫・帯剣「コレデ、オマエノアリヨウヲカエテヤロウ・・・シヌガイイ・・・」
金剛(やだ・・・やめて・・・!)
航空要塞棲姫・帯剣「シネ!ソシテ、ワレワレノチカラトナレ!」ドシュッ!
金剛「あっ・・・かはっ・・・て・・・とく・・・」
―金剛は、誰かに助けを求めるように右手を伸ばしたが、すぐにだらりと垂れ下がった。黒い剣はかなりの抵抗を伴ったが、金剛の胸を貫き、同時に、金剛のペンダントの鎖も切ってしまった。キラキラ光る指輪と、おそらく金剛の涙が、幾つか海に落ちた。
航空要塞棲姫・帯剣「フン・・・イマイマシイ・・・ヒカリヲ・・・」ズシャッ・・・バシャン
―姫は剣を引き抜き、金剛はそのまま海に落ちた。姫はとても嫌なものを見た、といった表情を浮かべると、そのまま振り向きもせずに帰還の途についた。
金剛(ああ、水面が・・・遠い・・皆、無事に帰ってくれれば・・・いつか・・・)
―水面が少しずつ、遠ざかっていく。
金剛(提督・・・どうか・・・武運長久を・・・私、ヴァルハラから見ているネ・・・。長い時が一巡したら・・・いつか・・・また・・・提督と・・・)
―海の中でも、涙は視界を曇らすのだろうか?すべてがぼやけ始めた。しかし
―ズキッ!
金剛(いっ!)
―すさまじい痛みと寒さが、胸の傷から広がり始めた。視界が、急速に暗くなっていく・・・というより、自分の身体から、自分自身が引きはがされ、身体の背後にある得体のしれない闇に引きずり込まれるような恐怖が襲ってきた。
金剛(何これ?怖い怖い怖い!)
―身体が、海底に引きずり込まれるように急激に沈み始めた。
金剛(光、光を・・・!)
―意識を失いかけながらも、金剛はすぐそばでゆっくり沈んでいく小さな光に気づき、それを必死で掴んた。ペンダントにしていた、ケッコン指輪だった。
金剛(誰か、助けて!これはきっと、死じゃない・・・)
―金剛は身体から自分が引きはがされる恐怖を感じた。遠くに、2つの穴・・・おそらく、自分の両目が見えたが、それもどんどん遠ざかっていった。そして、全てが暗黒になり、いつの間にか、自分がなぜこんな目に遭うのか?という、怒りと、いつか自分以外の誰かが提督の横に立つことに、激しい怒りを感じた。
金剛(違う!これは私じゃない。私の気持ちじゃない!)
―しかし、もうここは誰もいない暗黒の中だった・・・金剛は、肉体から離れた故に叫ぶことも、身をよじることもできない、いつまで続くかわからない苦悶の中に閉じ込められてしまった・・・。
―そして現在、青ヶ島鎮守府。提督の私室。深夜。
青ヶ島提督「金剛!」ガバッ
―いつもと変わりない、私室だ。ただ、しばしば勝手に忍び込んできて、横で眠っていた金剛は、もういない。
青ヶ島提督「はぁ・・・はぁ・・・くっ、またこの夢か!」
―ガチャ
吹雪「吹雪です。提督、今夜もうなされていますね。大丈夫ですか?」
青ヶ島提督「ああ・・・すまない。大丈夫だ」カラン・・・ゴクッ
―提督は、ベッドわきに置いてあった強い酒を瓶のままで飲むと、ベッドに腰かけ直した。
吹雪「提督、お気持ちはわかります。でも、最近お酒を飲んでも寝られないじゃないですか。顔色も悪いし、よした方が・・・」
青ヶ島提督「他に何もないんだ!わかっているけど、眠れないんだよ!」ダンッ!
吹雪「あっ・・・すいません、余計な事を言いました・・・」
青ヶ島提督「・・・悪かった。大声を出して。でも、こんな、暗く冷たい夜よりも寂しい、海の底に金剛を沈めて、なんで僕は生きているんだ。クソっ!」
吹雪「提督・・・」
青ヶ島提督「『鉄のような提督』なんて言われて、大規模作戦を何度成功させても、結局このざまだよ。なるようになっていたんだ。・・・ごめん、もう大丈夫。寝るよ。来年1月いっぱいで提督は辞めることになるだろうから、もうそんなに、気を使わなくていいよ」
吹雪「そんな・・・。失礼しました・・・」ガチャッ、バタン
青ヶ島提督「金剛・・・すまない。僕ももう、無理だよ・・・」
―吹雪は提督の部屋を出ると、青ヶ島鎮守府の休憩室に向かった。窓際に、夜空を眺める人影を見つける。
吹雪「金剛さん、やっぱりここにいたんですか」
金剛「あ、見つけられましたネ・・・。提督、またうなされていましたカ?」
吹雪「はい。来年の1月いっぱいで、提督もやめるって・・・」
金剛「少し早いけど、私も明日でお別れネ」
吹雪「そんな!本当に、解体受けるんですか?」
金剛「うん。もう疲れちゃったネ。ここでみんなに認められようと、必死にやってきました。・・・でも、以前の金剛の面影が強すぎて、私はみんなを戸惑わせたり、傷つけるだけデス。他の鎮守府に行く、というのもイメージできまセン。だから、これでいいんデス」
吹雪「でも、だからって解体なんて!あんなに一生懸命、やってきたじゃないですか!」グスッ
金剛「もう、私が頑張ることで提督が辛そうにしたり、顔を合わせるたびに比叡や榛名や霧島が戸惑うのも、見たくありまセン。でも、妹みたいに接してくれたあなたが居てくれて、すごく嬉しかったデスよ・・・」ギュッ
吹雪「金剛さん・・・嫌だよ。また金剛さんが居なくなるの・・・」
金剛「ありがとう。でも、ごめんなさい」
―翌日、ヒトマルマルマル、工廠。
金剛「じゃあ、明石、よろしくお願いするわネ・・・」
明石「私は、個人的には反対です。何か間違っています。提督や、比叡さんたち、金剛さんと親しかった艦娘たちの気持ちは理解できますけど、これじゃあ、あなたは何のために・・・」ギュッ
金剛「いいんデス。解体任務をこなしてくだサイ。今まで、ありがとう」
―『建造キャニスター、解体モードに移行。素体・資源還元作業開始します。キャニスター、ロック。内部の艦娘は目を閉じ、リラックスしてください。本工程は苦痛等は発生いたしません・・・』
金剛(これで、終わる・・・)
―金剛は静かに目を閉じた。しかし、遠くからバタバタと、誰かが走ってくる気配に気づいた。
金剛(えっ?提督?)
青ヶ島提督「だめだっ!やっぱり、こんな事は間違っている!」
明石「ダメです、もうロックが!」
青ヶ島提督「くっ、それなら!」ガシッ、バギィ、ガゴッ、ブシュー!
―提督は近くの防火備品ハンガーから斧を取り出すと、機械をめちゃくちゃに破壊して解体作業を止めた。
明石「ああ!そんな、なんてことを!」
―提督はオロオロする明石に目もくれず、解体キャニスターの接合部もめちゃくちゃに破壊すると、キャニスターをこじ開けて金剛を引っ張り出した。
金剛「ええっ?」
青ヶ島提督「はあっ、はあっ・・・くっ、間に合って良かった。金剛、本当に済まない!とんでもない過ちを犯すところだった。この通り、許してくれぇっ!そして、解体なんてしないでくれ!」ポイッ、ドゲザ
金剛「でも、私はここでは・・・」
青ヶ島提督「ここがダメでも、以前の金剛がそうだったように、君が誰かの特別な存在になることは絶対にあるはずなんだ!君は失われちゃいけない!ここがどうしようもなくなっているだけなんだ!以前の金剛みたいに、誰かにとってかけがえのない金剛になるはずなんだ!」
金剛「!・・・わかりました。もう少しだけ、考えさせてくだサイ・・・」
―工廠に吹雪も入ってきた。
吹雪「あっ、解体無しになったんですね?良かった。良かったぁ・・・」ジワッ
青ヶ島提督「吹雪、何か用があってここに来たんじゃ?」
吹雪「あっ、はい!特務鎮守府の提督さんから連絡があり、『これから向かう』との事でした」
青ヶ島提督「いや、何も聞いてないが、どういう事だろう?まだ引き継ぎの話も何も通達は無かったのに・・・」
―前日夕方、堅洲島鎮守府、にぎやかな執務室。
鳳翔「あの、提督さん、先ほどは本当にすいませんでした。私がいきなり声を掛けなければ・・・」
提督「いや、鳳翔さんは何も悪くないから、気にしないで。叢雲から聞いていたのに、鳳翔さんと潜水艦チームの事を失念していたのが悪いので・・・」
陸奥「本当に大丈夫なの?医務室で診てあげましょうか?ふふ」
提督「からかわんでくれ、本当に痛いんだぞ、もう・・・大丈夫だけどさ」
―間宮の調理の手伝いをしていた磯波が戻ってきた。
磯波「磯波、戻りました。・・・あれ?何かあったんですか?」
叢雲「全員に挨拶していて殊勝だなと思ったら、寄港前に付近を哨戒してくれていた鳳翔さんたちの事を忘れて、物陰で立ちションしていたらしいのよ。鎮守府側からは見えないけれど、海からは丸見えの場所でね。そこに・・・鳳翔さんたちが帰ってきて、慌てて、チャックに挟んじゃったらしくて・・・馬鹿ね」
提督「叢雲だって鳳翔さんたちが哨戒に出てくれてるって言ってなかったろー?くそっ、おれの単装砲が中破しちまったよ・・・いつつ」
叢雲「アンタの5.56㎜砲がどうしたって?まったく、しまらないわね」
提督「やかましい!おれの34㎜5口径砲を馬鹿にすんな。いつか快楽の海に沈めんぞ!ナンドデモ、シズンデイケ(声マネ)!的な」
磯波「34㎜5口径・・・えーと」
初風「磯波、真面目に計算しちゃダメよ」
陸奥「ちょっとやめて、笑っちゃうから!」
叢雲「なっ、なんてこと言うのよ!しかも、妙にリアルな数字は生々しいからやめて!くっ・・・あはは。アンタってほんとおもしろいわね」
伊58「魚雷と言うよりはゾウさんだったでち!」
提督「寒いからだ!というか、そんな事言わんでいい。あーもー、沢山の提督や艦娘の癒し、と言われる鳳翔さんと、こんな最悪な出会い方する提督はおれくらいのもんだろうな。なんというしまらない第一印象だか」
鳳翔「いえ、とても気さくな方だと思っていますから、そんな気にされなくて大丈夫ですよ?」
提督「ほらなー、こんな気を使ってくれる人なんだよ。でも、気を使わなくて大丈夫だよ、鳳翔さん。それから、色々な鎮守府での話は聞いているので、ここでも食事処等、やりたかったら言ってね。目安としては、あなたが改になってしまったら、あとは自由にやってもらって構わないと考えているので」
鳳翔「はい、ありがとうございます。でも、ここは特務鎮守府ですから、改装後も鍛錬は怠りません。よろしくお願いいたしますね」
提督「海に砲撃して勝手に中破するような提督だが、よろしく頼むよ」
鳳翔「ふふ・・・でも私は、あなたが弱い人には全く見えませんよ?」
提督「そんな鳳翔さんも、達人の気配が隠しきれてないがね」
鳳翔「あら、うふふ・・・」
提督「ふふふ・・・」
初風(へぇ・・・そうなのね)
伊19「展開状態の艤装も見てみたい気がするのね!」クスッ
提督「さらっととんでもない事言わないでねイクちゃん。噂の資源回収任務に出てもらうかもしれんよ?」
伊19「ちょーっとそれは、まだ遠慮しときたいのね」
伊8「でも、本をたくさん持って行ってもいいなら、はっちゃん、頑張りますよ!」
提督「図書室なら、陽炎と不知火・・・面倒だな、かげぬいコンビが管理する事になったから、時間が不規則になりがちなはっちゃんも加わって良いかもしれんね。ひと声かけとくよ」
伊8「ありがとうございます」
伊168「ね、提督、イムヤとSNSのID交換しようよ!」
提督「ん、構わんよ。珍しい生き物の画像とれたら、送ってくれたらお礼するよ。マンボウがいいな」
伊168「諒解!じゃあこれね」テロン
提督「ん、よろしく!」
他メンバー(スマホか・・・)
漣「あのー、潜水艦の皆さん、私服がすごい可愛いですけど、自分の趣味ですか?」
伊19「任務がない時くらい、可愛い恰好したいのね。でも、一番エッチな下着を発注してたのは、はっちゃんなのね!」
伊8「あれはエッチなんじゃなくて、かわいいの!」
伊58「でも、何でねこラ・・・・もごもご」クチオサエー
伊8「それ以上言ったら、20㎜連装砲が火を噴くわ。ただの趣味だから(小声)」ニコニコ
伊58(ヒィィィィィ!)ガタガタ
伊168「あまり着る暇はないけれど、服を買っておくのは楽しみね。私はスマホで注文しちゃうけど」
曙「服の注文に便利そうね、スマホ」
漣「服の注文だけかなぁ?」ニヤニヤ
曙「はいはい。あんたと同じ考えよ、漣」
漣「うぐっ」
提督「ところで、現状の秘書艦が全員そろっているこの場で、ちょっと相談があるのだが」
叢雲「何かしら?」
提督「明後日のクリスマスパーティの前に、この案件を対応したいと思うのだが、どうかな?・・・磯波、皆に資料を配ってくれ」
磯波「はい!これです、皆さん」
―秘書艦と初風、陸奥に、青ヶ島鎮守府の経緯と現状の書かれた資料が配られた。
叢雲「対応って・・・どうするつもり?」
提督「さあ?幾つか結末は考えてあるが、行ってみなくてはだな。早い方が良い気がするんだよ」
陸奥「これ、他人が行ってどうこうできる様な案件ではない気がするのだけれど」
提督「その判断は正しい。事実上、もうやれる事は無いように見える。・・・だからこそ、何かをやってみて状況を動かすことには意味があるってわけさ」
陸奥「要するに、何もやらないよりはマシだけど、どうなるかはわからない、という事ね」
曙「大事な人がいなくなって、みんなバラバラになりかけているんだね・・・」
提督「そ。だから、いつも言ってるが、君らは沈んじゃダメ」
漣「ご主人様はどうしてこの案件を対応しようと思ったの?」
提督「上からの命令ではあるんだが、何となく、おれにできる事がある気がしてね」
初風「私も、それなら早い方が良いと思うの」
提督「よし、明日、いきなり連絡して行ってみるか。同行予定は陸奥、初風、磯波で考えている。では、今日の執務はここまで。各自解散。任務外の者は以降、自由時間とする。羽は伸ばし気味で良いよ」
―数分後、執務室。
叢雲「で?残ったけど、用件て何かしら?」
提督「叢雲、お疲れさま。これ、進水日は前鎮守府の始動前だし、かと言って次のは先すぎるし、風呂とかでもお世話になっているからな。ほんの気持ちだよ。受け取ってくれ。クリスマスプレゼントとは別だな。誕プレみたいなもんか」カラッ
―提督は小さな包みを叢雲に渡した。
叢雲「えっ、いきなりそんな、私に?」パチクリ
提督「何でそんな、目をまん丸にしてんだよ。ふふ」
叢雲「こういう事、しない人だと思ってたから、アンタって」
提督「するってば、普通にする。それに、秘書艦には進水日に何か渡すつもりでいたのだよ。叢雲が第一号だな。初期艦でもあるし」
叢雲「開けてもいいかしら?」
提督「もちろん、そいつはお前さんの獲物だ」
叢雲「ふふ、獲物って。じゃあ・・・ありがとう。開けてみるわね」ゴソゴソ
―叢雲はプレゼントの包みを、一か所も破らず丁寧に開封した。
叢雲「うそ、これ!あなたが選んだの?」
提督「半分選んで、半分デザインした感じかな」
―箱の中には、紫と朱の組み紐でできた髪紐が4組と、銀色の、小さなウサギ型の鈴、猫型の鈴が四つ、入っていた。髪紐とその飾りのようだ。
提督「説明しよう!紐は本物の組みひも職人さんに、女性の髪紐なので柔らかく、と無理を言って頼んである。色は全て着物用の染料で染めてある。で、その紐に付ける髪飾りだが、『月に叢雲』って言葉もあるし、叢雲の艤装や目の色から、まずウサギ。しかし、立ち振る舞いはシャムネコっぽいところがあるので、猫もモチーフにした。デザインはおれ。3Dプリンターでデザインしたのち、仏教法具の職人に頼んで、沙玻璃(さはり)という金属で作ってあるのだよ。あ、これは鉛を抜いて、違う物で調整してるけどな。控えめな良い音がするのだよ。ふっふっふ、どうかね、このデザインと組み合わせのセンス!」ドヤァ
―しかし、叢雲はプレゼントを見たまま、顔を上げようとしない。
提督「・・・あ、あれ?叢雲サン、お気に召しませんでしたか?もしかして、大外れ?」
叢雲「・・・しい」
提督「ん?」
叢雲「すごく嬉しい。ありがとう。・・・じっくり見たいから、部屋に戻るわね」
提督「お、おう・・・」
―叢雲は執務室ラウンジを静かに出ると、執務室から見えない角を曲がり、全力でダッシュして部屋に戻った。
提督「うーむ、気に入ってもらえた・・・のか?イマイチ不安だな・・・」
―叢雲の私室。
叢雲(なんなのアイツ、趣味良すぎでしょ!すっごい可愛い、品があるし、嬉しいっ!)
―叢雲は猫とウサギの小さな鈴を手に乗せた。
叢雲(かわいい・・・おしゃれだし)
―鈴と言っていたので、さっと振ってみた。サリリ、と小さな音がする。
叢雲(きれいな音ね・・・。良く分からない人だけど、こんなセンスも持っていたのね・・・。凄く嬉しい・・・嬉しいなぁ)
―同じころ、執務室ラウンジ近くの物陰。
青葉「青葉、見ちゃいました(小声)」
衣笠「ちょっと青葉、こんなの良くないよー(小声)」
青葉「ガサー、記者に必要なのは真実を伝える事なのよ(小声)」
衣笠「うーん・・・(記者なの?)」
青葉「初期艦である叢雲さんに、提督が何かプレゼントしたみたいね。さあ、何をプレゼントしたか、真実を追い求めるのよ!」
提督「髪紐と髪飾りの鈴だよ。さて、偵察任務中の敵勢力を発見。隠密に奇襲可能な位置まで接近成功。この後どうするんだっけ?作戦教練指導書、第89貢3-2の問題だな。素早く答えよ。さもなくば・・・」
青葉「ヒィィィィィ!提督、なぜここに?」
提督「ほれ、あれだ」チョイチョイ
―提督は親指で、背後の給湯室を指し示した。
提督「執務室はあそこまでドアで繋がってんだろーが。詰めが甘いなぁ。なーんか、気配がすると思ったら・・・まったく、内緒にしようと思ったのに」
衣笠「提督、ごめんなさい。盗み聞きするみたいな。姉さんにはやめた方がいいって言ったんだけど・・・」
提督「いや別にいいんだけどさ。ここまで全部、予定調和の遊びみたいなもんだよ。衣笠さんはふとももが素敵なんで不問にします」
衣笠「ああー、セクハラだぁー!」
青葉「お、提督、ガサの魅力がわかりますねー!」
提督「まあ、冗談はともかくさ、秘書艦には進水日に何かプレゼントする事にしていたんだが、叢雲はタイミングが合わなかったので、このタイミングになったのさ。あとは、本人に許可取って取材したらいいんじゃないか?」
青葉「わかりました!青葉、取材に行ってみます!」
提督「でも、次に盗み聞きがばれたら、次からは・・・」
青葉「な、なんでしょうか?」ゴクリ
提督「罰として、君の大切な衣笠さんのくびれや太ももを触るからね?」
青葉「ええっ?・・・あ、大丈夫です。それくらいなら」
衣笠「なにその理不尽!」
青葉「取材にはこういう汚い裏取引も必要な面があるのよ」キリッ
衣笠「すがすがしい顔で汚い裏取引とか言っちゃってるし、大切なはずの妹を使うなー!」
―翌日、ヒトマルサンマル。水上機係留場所。
提督「じゃあ叢雲、帰って来て早々で悪いが、留守中の執務の代理を頼むよ。漣と、曙もよろしく頼む。おそらく、明日には帰ってこれると思うんだがな」
叢雲「任せときなさい!」フフン♪
曙「大丈夫よ。頑張ってね(なんか叢雲さん、すごい上機嫌)」
漣「漣の本気を見るのです!(叢雲さん、なんで上機嫌なの?)」
提督「こら、人のセリフ取っちゃダメだろ」
漣「てへへ!ご主人様、できれば、何とかしてあげてくださいね」
提督「ま、やってみるよ」
―この日、陸奥と初風、磯波は秘書艦服に着替え、磯波と提督は銃を携帯している。
―ヒトサンマルマル、青ヶ島鎮守府、執務室。特殊帯通信室。
青ヶ島提督「つまり、僕の進退もこの鎮守府の事も、その特務鎮守府の提督に丸投げ、という事ですか?」
大淀「本部としては、あなたに続投してほしいと願っています。しかし、それが無理ならいずれにせよ、その鎮守府は後任を決めるか、再編となります。堅洲島の提督には、その前段階、つまり現時点でのあなたとその鎮守府の問題の対応をお願いしています」
青ヶ島提督「意味が分かりません。何も解決したり、好転するようなことは考えられませんが」
大淀「我々にもわかりません。この指示はもっと上からのものですから。本部としては、この接触で何らかの事態の好転を願っています。お答えできることはそれだけです。では」プツッ
青ヶ島提督「切られた。意味が分からないな」
吹雪「提督、港に見たことのない水上機が接岸しようとしています!」
青ヶ島提督「特務鎮守府の提督だな。一応、出迎えよう」
―青ヶ島鎮守府、港。飛行艇のハッチが空き、スロープが下りてきた。
提督「やあ宜しく。急で済まないが、視察と言う名の遊びに来たよ。特務第21号鎮守府、堅洲島鎮守府の提督です」
陸奥「同じく、特務秘書艦、陸奥です」
初風「同じく、特務、銃火器等取り扱い責任者・秘書艦、初風」
磯波「同じく、護衛秘書艦、磯波です」
青ヶ島提督「青ヶ島鎮守府の提督です。特務鎮守府の方とは初めて話しますが、秘書艦は拳銃携帯の上に制服でも、提督はほぼ私服なんですね」
提督「ああ、無能の象徴とされる士官服など、式典くらいでしか着る気はないですからな。白くまぶしい士官服を着て、冷暖房完備の場所にいながら、女の子を戦わせて沈めるようなバカばっかりではね」
青ヶ島提督「な、なるほど・・・(嫌な感じだな)。今日はどういったご用件でこちらへ?」
提督「ほう、そのような重要な話を、冬にこんな場所で立ち話でしろと・・・」
青ヶ島提督「あ、失礼いたしました。執務室へご案内しましょう」
吹雪(なんだか、嫌な感じ・・・)
陸奥(打ち合わせ済みとはいえ、ずいぶん煽るのね・・・)
―青ヶ島鎮守府、執務室。
提督「なるほど、ずいぶん立派な施設ですな。民宿を改装したうちの鎮守府とは大違いだ。これだけの建物に、これだけ練度の高い艦娘がいたのに、こんなざまとは情けない。鎮守府全体が随分沈んだ雰囲気を出している。これでは、勝てるものも勝てませんな」
青ヶ島提督「おっしゃる通りです。すいません」
初風(うちの鎮守府のが遥かに立派なのに、民宿を改装したなんて、良くそんな事をスラスラと言えるものね。ふふ)
提督「さて、今日はあなたに幾つか、高い情報レベルのお話をしようと思ってきましたが、どうやらその必要は無さそうですな」
青ヶ島提督「どういう意味ですか?」
提督「女の姿をした兵器と仲良くなり、その兵器がロストした程度でやる気をなくすような腑抜けは、役に立たないと言っているんですよ。練度155の金剛と言うのも、ロストも、どこまで本当か・・・」
青ヶ島提督「なん・・・だと・・・」
陸奥(ふふ、かけらほども思ってない事を、よくこんな上手に。これでは本心なんてはかり様がないわ)
提督「兵器が使える人形に過ぎない、・・・いやむしろ兵器の使えるダッ○ワイ○みたいなものだというのに、全く・・・」
磯波(ダッ○ワイ○ってなんでしょうか?)
青ヶ島提督「やめろ・・・」
提督「ふっ、どうせ、魅力だけはある艦娘の事だ。身体を使って取り入っていたら、多少難しい海域に入ってしまい、化けの皮がはがれた、と言ったところが真実でしょうな。・・・ああ、これはその金剛との写真ですかな?まったく、下らない。女の姿をした兵器に過ぎないというのに。どれどれ」ポイ、ガシャ
―提督は、青ヶ島提督の机の上にあった、金剛と提督の写真を床に投げた。ここで、青ヶ島提督が切れた。
青ヶ島提督「貴様いい加減にしろ!」バキッ!
磯波「あっ!」
提督「ぐっ!・・・ふん、やはり腑抜けはパンチまで腑抜けか。・・・表に出ろ!根性を叩き直してやる」
青ヶ島提督「金剛を馬鹿にするのは許さない。お前は許さない!僕の怒りを全部ぶつけてやる!」
―青ヶ島鎮守府、グラウンド。非番の艦娘や秘書艦の見守る中で、青ヶ島提督と提督の殴り合いが始まった。
青ヶ島提督「僕の事を腑抜け呼ばわりはまだいい。でも金剛を馬鹿にするのは許さない。この苦悩と、苦しみも知らずに!お前だけは許さない!」
提督「御託はいいからかかって来い、童貞野郎。兵器なんかに骨抜きにされやがって」
青ヶ島提督「まだ言うか、このっ!」バキッ!
提督「ああ全然きかねぇな。てめえの股の役立たず並みにやわいパンチだぜ、マザコン野郎!」バキッ、ドゴッ!
青ヶ島提督「黙れえぇ!」ドガッ
提督「ぬるい蹴りだな。ゴキブリも潰れねぇよ。金剛に対しての愛とやらも随分希薄だなぁ」ガスッ!
青ヶ島提督「何も、何も知らないくせに!」ドゴッ!
提督「ああ知らねぇな。女一人死んで、鎮守府全体をこんなざまにする奴の事なんざ」バキッ!
青ヶ島提督「僕がどれだけ、金剛の事を大切に思っていたか!お前なんかに、お前なんかに!」グスッ・・・ドガッ!
陸奥(打ち合わせ通りとはいえ、大丈夫なの?こんなことになって・・・)
青ヶ島の高雄「堅洲島の陸奥さん、あなたの所の提督、かなりやるのね。うちの提督、複数の格闘技の有段者よ?なのに、対等以上に殴り合ってる。まるでケンカさせてくれているみたいに」
陸奥「よく分からない人だから。うちの提督は(この子も、提督の事が好きなのね)」
―そして、二時間半が経過した。青ヶ島の提督は途中から、泣きながら提督とケンカしていたが、やがてどちらも体力と気力が尽きてきた。
青ヶ島提督「はぁ・・・はぁ・・・くっ、くそっ!」トスッ、ドシャッ
提督「ふん・・・根性なしじゃないようだな・・・やれやれ」ドサッ
―二人の提督はボロボロになってグラウンドに寝っ転がった。いつの間にか雪が降ってきていた。
提督「・・・悪かったな。女との別れ方は色々あるが、死に別れは辛いよなぁ」
青ヶ島提督「・・・死に別れたことが?」
提督「昔、な。・・・少しスッキリしたかい?おれん時は、殴り合う相手もいなかったからさ」
青ヶ島提督「まさか、君はわざと僕を怒らせて・・・」
提督「磯波ぃー!」
磯波「は、はいっ!」
提督「飛行艇から酒と、レポート持ってきてくれ。ふぅ、いっつつ・・・あんたんとこの金剛に、おれの手当てをお願いできるかな?あとは、酒はいけんだろ?痛みとレポートをつまみに、ちょっと付き合ってくれよ」スクッ
青ヶ島提督「・・・わかった」
―青ヶ島鎮守府、医務室。
金剛「提督さん、ボロボロだネー。うちの提督はすごい強いのに、あなたもとても強いんデスね」
提督「久しぶりにまともなケンカをしたよ。おれも少しスッキリしたかな」
金剛「でも、なんで私に手当てを頼んだんですカ?」
提督「うちの鎮守府にはまだ金剛型が一人もいない。金剛って言ったら、可愛くて強いって有名だ。一度くらい見ておきたいさ」
金剛「・・・お上手ですネ。デモ、私が聞きたいのは本当の理由デス」
提督「鋭いな。・・・もしかしたら、君をうちの鎮守府に呼ぶかもしれないからさ。どんな子か、見ておきたかったんだ。しかし、話に聞いていた金剛のイメージより、君はとても静かだ。随分悩んだんだな」
金剛「・・・今日、本当は解体の予定でした。でも、提督が機械を壊して、私を引っ張り出したんデス」
提督「そうか・・・誰も悪くないのに、辛い思いをしなくてはならなかったんだもんな。でも、解体にならなくて良かった。さっきの話、まだどうなるかはわからないが、考えてくれたら嬉しいよ」
金剛「・・・わかりましタ」
―夜、青ヶ島鎮守府、休憩所。
提督「さて、じゃあ今日は泊まらせてもらうとして、ゆっくりこいつでもやりあうか」
―提督はバーボンの瓶を引っ張り出した。
青ヶ島提督「怪我は大丈夫かい?」
提督「なんてことない。まあ、飯の味がわからなかったが、お互い様だし」
青ヶ島提督「確かに。で、この君のレポートの内容なんだが・・・」
提督「うむ・・・飲みながら話そうか」
―一時間後。
青ヶ島提督「つまり、君の考えだと、僕の金剛は『死んだ』のではなく、活動を停止しているか、深海勢力の何かに『反転』してしまっている可能性があり、艦娘や深海勢力の謎が解ければ、そして、彼女ともう一度会えれば、以前の金剛とまた出会える可能性がある。という事になるのか」
提督「ああ。今までのところ、おれの組み立てた考えはなかなかいい線行ってる。例えば・・・君と金剛はプラトニックで、肉体関係は無かったんじゃないか?または、指輪は渡していても、指に付けていなかったとか」
青ヶ島提督「なぜ、それを?・・・両方正解だ」
提督「当りか。それだと、度々戦艦の砲弾が命中しても無傷だった、と言う幾つかの証言と辻褄が合うんだよ。もう一つ言うなら、これはオフレコで頼むが、罷免された提督にケッコン艦が居た場合、解体等無しでそのまま一緒に暮らすことをかなり強制されている。表向きには艦娘の精神的影響だとか、責任論になっているが、実際には深海化を避けるための措置と言われているし」
青ヶ島提督「なんだって!じゃあ僕の金剛は!」
提督「死んでいない可能性が結構高いって事さ。そもそも、死に別れを経験するとわかるが、相手が『永遠に失われた』という感覚はあるかい?無いなら生きているはずだぞ」
青ヶ島提督「いや、彼女がどこか暗いところで苦しんでいる夢にうなされてばかりで、心配で仕方ないんだ」
提督「ふむ。希望があるな、それなら」
青ヶ島提督「なんてことだ・・・」
提督「本当に行くところまで行った女と死に別れると、そいつが死んだことを悲しいくらい理解できてしまうもんだ。変なタイミングで身近に感じたりして、生身が失われたのを理解できてしまう感じと言うかな・・・。これは、おれだけの話ではないよ。・・・でも、そういう感覚は無さそうだな」
青ヶ島提督「僕が感じるのは、彼女が暗い海の底に一人で閉じ込められて、助けを待っているような感覚だよ。だから、辛くて仕方ないんだ・・・」
提督「失われた感じとは違うな。もしかしたら金剛型の妹たちも、本能的に何かを感じていて、それで、今いる金剛の事を受け入れられないのかもしれない。艦娘の絆は、なかなか深い気がするからね」
青ヶ島提督「・・・少し、考えを整理しながら飲ませてくれ」
提督「冬の夜は長いから、構わんよ。じっくり考えるべきだ。おれのレポートは可能性に過ぎないしね。おれは信じているけどさ」
青ヶ島提督「・・・・」
―同じころ、青ヶ島鎮守府『飲み食い処・鳳翔』
青ヶ島の鳳翔「鎮守府はうちの提督とそちらの提督さんの大げんかの話でもちきりですよ。噂は少しだけ聞いていましたけど、本当に型破りな方なんですね」
陸奥「噂ですか?」
青ヶ島の鳳翔「艦娘をかばって、太東鎮守府の七光り提督を半殺しにした提督がいるという噂です。あなたの所の提督さんじゃないですか?」
陸奥「えっ、そんな噂が?・・・それ、私と提督の事だわ」
青ヶ島の鳳翔「うふふ、やっぱりそうでしたか。そんな事をしそうな提督さんだと思いました。うちもあの七光り提督さんが視察に来たことがあったんですけど、本当に感じの悪い方で、しばらく鎮守府の雰囲気が悪くなったくらいなんですよ」
陸奥「うちの提督に殴られて、漏らしてたわよ、あの提督。でも、その後うちの提督、大怪我で意識を失ってしまって、ちょっと大変だったの。今はもう元気だけど・・・」
青ヶ島の鳳翔「不思議な方ですね。うちの提督が他の鎮守府の提督とお酒を呑んでいるのなんて、初めて見ました。いつも規律や風紀を重んじていて、人に酔っている姿を見せるのを嫌う人でしたから」
陸奥「拳でわかり合う、というものかしらね」
初風「男の人はよくわからないわ。でも、なぜか、いい方向に進みそうね」
磯波「殴り合いの時、すごいハラハラしましたよー、もう」
―ガラガラ
??「鳳翔さん、堅洲島の人たちはいますか?・・・あっ!」
陸奥「あなたたちは・・・」
比叡「初めまして。あの、うちの提督が、ごめんなさい」
霧島「情報を整理すると、あなたたちの所の提督は、うちの鎮守府の為に来てくださったんだとしか思えません」
榛名「榛名も、心から感謝いたします。自分たちがどこか間違っていても、心がそれを拒んでいて、どうにもできなくて・・・」
陸奥「うーん、・・・うちの提督はきっと、あなたたちとこの鎮守府の事だけじゃなく、うちの鎮守府の事も考えている気がするのよね」
比叡「どういう事ですか?」
初風「今この鎮守府にいる金剛さんの事、だと思う。どういう方向に進んでも、金剛さんがここにいると、うまくいかないはず。だって、誰も最初の金剛さんが死んだなんて思ってないように見えるもの」
比叡・榛名・霧島「!」
磯波「提督は、たぶん、最初の金剛さんが死んでいない可能性があると伝えようとしているんだと思います。提督のレポートの内容をよく読むと、たぶんそういう事ですから。でも、そうなったら金剛さんの居心地のいい場所は、ここにはなくなるんじゃないかな、って」
比叡「姉さまと、また会えるかもしれないって事?」
磯波「たぶん、今、そちらの提督さんと、そういう話をしているんだと思います」
霧島「そんな事があり得るの?でも・・・」
榛名「あの金剛お姉さまが轟沈して、ただ失われてしまったなんて、榛名にはどうしても思えません」
比叡「・・・・」
陸奥「戦力の増強が急務な、うちの鎮守府の都合とも、見事にかみ合っているわね。でも、どこまでが計算で、どこまでが真心なのか、本当にわからない人だわ。あんなに殴り合うなんて・・・」
鳳翔「もしかしたら、感覚的に動く方なのかもしれませんよ?うちの提督も言っていましたが、人を率いる立場の人間に必要な才能らしいですけれどね」
陸奥「だと良いけれど・・・(あの人は時々、何でも見通しているような眼をする。それが、私にはいつも心がざわつくのよね・・・)」
比叡「あの、そちらの鎮守府や提督さん、皆さんの事、もう少し聞かせてもらってもいいですか?」
陸奥「ええ、わたしたちの知る範囲で良ければ」
―同日深夜、青ヶ島鎮守府、休憩室。
提督「ん、もうだいぶ酔ったな。昼間の痛みも消えた。聞きたい事はそんなもんでいいかな?なかなか、美味い酒だったが、そろそろ休もうかなと」
青ヶ島の提督「すまない。こんな時間まで。なんだかんだで、君は全然酔ってないな。・・・一つ教えて欲しい。もし、うちの金剛が欲しい人材だったとしても、別に申請しただけでも何とかなるような状況だったはず。僕はもうじき提督を辞める考えでいたから。なのになぜ、殴り合いの相手までして、ここまでしてくれる?」
提督「殴り合った相手でないと、本音で話せないだろう?・・・一つ聞きたいが、深海勢力を今のままで何とかできると思うかい?」
青ヶ島の提督「・・・・いや、一つ一つの作戦には勝てても、全体としてはどうか。僕もそこはわからなかったところだ」
提督「おそらく、今のままじゃ負ける」
青ヶ島の提督「!それはなぜ?」
提督「ひとつひとつの鎮守府や泊地で、一応大規模作戦なんてやってるが、全部局地戦や戦術レベルの話に過ぎない。もう、戦略レベルでないと勝てないよ。それには、ある程度連携した集団が必要になってくる。しかも、なるべくひっそりとね」
青ヶ島の提督「やっぱり、今のままでは勝てないのか・・・」
提督「しかも、まともな鎮守府や提督があまりいない。大規模侵攻の時に大活躍した『ビッグ・セブン』と呼ばれる七つの鎮守府を除くと、あとは数える程度だ。そして、ここもその希少な鎮守府の一つだとおれは見ている」
青ヶ島の提督「そんな状況で、君はどうやって戦い抜くつもりなんだ?」
提督「んー、これは勘だが、この戦いにケリをつける要素は、戦力だけではない気がする。何かある。深い何かが。そして、決定的な戦い以外で艦娘たちを命の危険にさらすことは、ほとんど意味がないとみている。だから、無理な戦いは最初からしない。無理な命令をする奴がいるなら、そいつを消してでもね」
青ヶ島の提督「君の考えには、時々ついていけないな・・・」
提督「今はそうだろう。だが、それは語るに落ちるんじゃないか?」
青ヶ島の提督「どういう意味だ?」
提督「兵器であるはずの彼女たちは、なぜあんなに、可憐で献身的なのか?彼女たちを創ったのは何者か?・・・そして、そんな彼女たちと純粋な愛情を育んだ者がいるわけで・・・」
青ヶ島の提督「!」
提督「もし金剛が居たとして、絶対に金剛が死ぬような、無意味な命令を君は聞くのか?と言う話だ。おれは腹をくくってる。不幸な死人が出ない事を祈るばかりだよ。ふふふ」
青ヶ島の提督「確かにそうだ、すまない。何も言い返せない」
提督「だから、君が辞めると大変なことになるわけさ。殴られながらそれを言いに来たんだよ。あと、金剛がどうしてもここになじめないなら、うちの鎮守府に連れていきたいしね」
青ヶ島の提督「・・・わかった。一晩、良く考えてみる」
提督「おう、じゃあそろそろ寝るよ。失礼する」
青ヶ島の提督「堅洲島の提督!」
提督「なんだい?」
青ヶ島の提督「本当に済まない。ありがとう、色々と・・・」
提督「・・・感謝の言葉は、全てがおれの理想通りに収まったら聞くよ。まだだ。じゃあ、また明日」
―30分後、提督の宿泊室、洗面室の鏡の前。
提督「くぅー、あの野郎、なかなか鍛えてやがんな。いっつつ・・・だがまあ、ケンカもたまにはいいな・・・」
―提督はシャワーを浴び、ズボンだけ履いて部屋に戻った。
提督「あれ?君は・・・」
金剛「こんな時間に、勝手に入ってごめんなさい。傷の手当と、お話にきまシタ・・・」
提督「ありがとう、構わないよ」
―夜はまだ、長い。
第十二話 艦
とても面白かったですまたこれから金剛がどうなるのか気になりました次が楽しみです
コメントありがとうございます!金剛は今後も堅洲島で重要なポジションて頑張っていきます。今後もじっくりお楽しみくださいね。
きさま!ジョジョをみているなッ!
おもしろーい
みがめにさまはんさみかたき さん。
はい、時々ジョジョネタやら色々な小ネタが仕込まれていますので、見つけたら指摘して突っ込んでくださると、とても励みになります。