2016-10-17 05:56:20 更新

概要

活発化する、堅洲島鎮守府。
急な護衛任務の成功で間宮と伊良湖が、
編成任務で赤城が着任する。
そして出てくる、空母赤城と提督の祖父の関わり。

大淀はケッコンしていた?
謎がさらに深まる第六話です。


[第六話  赤城、着任 ]





―作戦行動6日目未明、特殊輸送船『にしのじま』艦橋司令室


提督(特殊帯通信)「こちら堅洲島鎮守府執務室より提督。にしのじま艦橋、応答願います。提示暗号は雪月花」


叢雲「暗号確認。叢雲よ。今は私が詰めているわ。何かあったのかしら?」


提督(特殊帯通信)「叢雲、任務御苦労!緊急通信網の回線を開いてくれ。その付近に大型タンカー『新海丸』が向かっているが、現在、深海勢力に追跡を受けている模様。至急、護衛任務及び深海勢力の撃退任務を開始してくれ!」


叢雲「なんですって?わかったわ。すぐに展開するわね」


―緊急通信網を開いた


??「こちら日本国籍油槽船『新海丸』。深海勢力の執拗な追跡を受けている。攻撃に移る気配濃厚。至急護衛願います!」ザザッ


叢雲「こちら、特務艦『にしのじま』。貴船の通信確認。直ちに護衛開始します。貴船の航路、座標、速度を提示願います。こちらの識別番号はJS-ASU-002K。繰り返す、こちらの識別番号はJS-ASU-002K。至急確認されたし!」


??「・・・確認いたしました。識別番号確認により、暗号化通信にて当方の位置情報等電送します。護衛、至急お願いいたします」


叢雲「データ確認いたしました。20分以内に到着いたします。何とか持ちこたえてください」


叢雲「館内緊急放送。扶桑、山城、加古、古鷹、朧、の五名は、艦尾出撃デッキに6分以内に集合、各自艤装展開プレートに待機。旗艦扶桑、わたしも出るわ!陸奥提督代理は艦橋司令室に来てください」


―六分後、艦尾出撃デッキ


扶桑「扶桑、艤装展開!出撃いたします!」


山城「山城、艤装展開。こんな時間に出撃だなんて、不幸を倍返ししてやるわ!」


加古「重巡加古、出撃!ねみぃけどぶっとばす!」


古鷹「重巡古鷹、出撃します。・・・なんか、気が高ぶりますね!」


朧「朧、出ます。きっと大丈夫!」


叢雲「叢雲、出るわ!」


―冬のほぼ満月、凍るように白い月が、遠くの船影を浮かびあがらせている


―が、その向こうは夜の闇とは違う、まがまがしい闇だ。何度も見た。深海勢力の力が強いと、景色まで歪むのだ。


叢雲「気に入らないわね、叩き潰してあげるわ!」


古鷹「あ、いけない!きっと強いのが居ます、これ」


加古「ぶっとばしゃあおんなじ―。あたしの眠りを妨げた罪は重いわ!なんつってねー」


―カッ


―彼方で、闇が一瞬、光のようにはじけた。艦娘のみが見える、深海勢力の砲撃の光、いや、闇だ。


―ドッ・・・ザーン!水柱が派手に上がる。


扶桑「戦艦ね。挑発しているわ」


山城「こちらの出方を読むような挑発、上等だわ」ドッ!


扶桑「山城、挑発に応じるそぶりで、なるべく精密に砲戦を開始して。斉射はなし。観測気味で挑発を!重巡、駆逐艦は両翼に展開。左翼、加古、朧!右翼、古鷹、叢雲!戦力確認と同時に両翼からの包囲夜戦開始。魚雷の射線は、右翼は通常予測!左翼、回避運動予測射線で!私たちは距離を詰めつつ正面から撃ち合うわ!みんな、気を付けてね!」


叢雲(良い指示だわ。これなら、戦艦の射線は扶桑と山城に集中しがち。穏やかなのに的確で無駄がないのよね。けど・・・)


山城「ふふふ、夜中にたたき起こされたわたしが、あなたたちに不幸を届けに来たわ!」


叢雲(ダウナー系の戦意高揚って、いつ聞いても慣れないわね。面白いけれど)


古鷹「叢雲さん、戦艦ル級・・・だと思います。何体いるかはわからないけれど」


叢雲「えっ?なぜそう?」


古鷹「時々、何となく感じる時があるんですよ。・・・あっ、やっぱり!」


―タンカーの後方、闇の深い海原から姿を現し、扶桑と山城に砲撃をしているのは、二体のル級だった


山城「先手必勝!不幸と砲弾は音速を超えるのよ!」ドッ・・・ガンッ!


―一体のル級の左側艤装が吹き飛んだ


山城「そして、不幸は続くものよっ!」ドッ!


叢雲(笑わせに来てるのか本気なのか、いつもわからないのよね)


古鷹「今です!」ドッ!


―ル級は右側の艤装も吹き飛び、大破状態になった


叢雲「あと一体ね・・・ああっ、山城、あぶないわ!雷跡よ!」


山城「えっ?」ドンッ!


山城「きゃっ!やだ魚雷?」


扶桑「大丈夫?山城、熱くならないで!雷巡以下の敵戦力を確認して!」


加古「あーいるね!雷巡チ級、軽巡へ級、各一体ずつ確認だよっ!・・・ぶっとばす!」


朧「駆逐ロ級も二体確認。やっつけるね!」


古鷹「戦艦を優先的に排除・・・そこです!」ドガッ!


扶桑「山城、大丈夫?砲撃を続けるわ。畳みかけるわよ!」ドンッドッ!


山城「やくもやってくれたわね。てーっ!」ドドドンッ!


叢雲「逃走なんかさせないわよ?くらいなさい!」シュバァッ!


―数分後


扶桑「敵戦力のせん滅を確認。これでもう、大丈夫かしら・・・司令室から通信だわ」


陸奥(特殊帯通信)「艦橋司令室より、旗艦、扶桑へ、敵戦力のせん滅を確認。『新海丸』より、『貴船ノ協力ニ深く感謝ス』の通信あり。・・・作戦成功ね」


扶桑「作戦、成功ね。みんなお疲れ様!」


加古「おー、帰ってまた寝よっとぉ!」


古鷹「深海勢力の黒いもやが晴れていきますね」


朧「白い月がきれい。冬にしては穏やかな海で、戦いやすかったね」


山城「・・・姉さま、見て!光の柱が!」


―二体のル級が沈んだ辺りの海面から、淡い光の柱が立った


扶桑「新しい仲間?それとも、既にいる誰かの素体かしら?」


―光の柱に扶桑がそっと触れると、弓を持った和装の艦娘が現れた


扶桑「あなたは・・・」


鳳翔「航空母艦、鳳翔です。不束者ですが、よろしくお願い致します」


山城「あら!うちの鎮守府初の空母ね!」


叢雲「緊急任務が予想外に良い結果を生んだわね!」


鳳翔「何だか期待のまなざしが嬉しいです。精一杯頑張りますね!」


扶桑(特殊帯通信)「旗艦、扶桑より艦橋司令室へ。鳳翔が着任しました。総司令部よりの任務確認をお願いいたします」


陸奥(特殊帯通信)「諒解。・・・帰投前に鳳翔を旗艦とした艦隊編成を行い、編成報告書の提出願います。正規空母の着任任務となる模様」


―『にしのじま』艦橋司令室。陸奥は鎮守府への特殊帯通信を開いた


陸奥「提督ー、起きてるかしら?作戦成功よ?」


提督「むっちゃんの声を聴くために起きているに決まってるさ」


陸奥「あらあら、いつでもお上手ね。ついでに、鳳翔さんが着任したわよ?」


提督「こっちも仲間は増えているが、鳳翔さんは嬉しいね。確か任務が・・・」


陸奥「空母機動艦隊の編成よね?今指示したから、明日には報告書を送信できるわよ?」


提督「それそれ!結構重要な任務らしくてね。それから、『新海丸』の護衛成功も何やら報酬が臨時で出るらしいよ。その海域は担当している鎮守府がどこもいなくて、通常なら新海丸はロストしていただろう、との事だから」


陸奥「指定航路は安全なはずなのに、深海勢力が出現してタンカーがロストでは、偉い人たちの首が一つや二つでは済まない、大問題になるものね」


提督「何でその海域に深海勢力が現れたのかは、全く見当がつかないそうだ。付近の海域に幾つかの鎮守府の強力な艦隊が展開していたから、それらを避けようとしていたら偶然に安全航路に迷い込んだのでは?という分析らしいがね」


陸奥「不幸な偶然が重なって、うちの鎮守府には幸運な展開になったというわけね」


提督「幸運、・・・そうだな、そういう結果にすべく努力するか」


陸奥「・・・何か引っかかるのかしら?」


提督「いや、そこまでのものは。今のところ『塞翁が馬』程度のものだよ。・・・ただ、もしかするとこのような偶然が増えるかもしれない。常にそのつもりで気を付けていてくれ」


陸奥「ふぅん?慎重ね。でもそうよね。気を付けるわ」


提督「うん。では、出撃したみんなともども、ゆっくり休んでくれ」


―翌日、ヒトマルマルマル、執務室


提督「さてと、昨夜の突発任務と空母機動艦隊任務の報告書送信っと。漣ー、休憩しようか。丁度みんないるしね」


漣「あいあいさー!ご主人様はお茶とコーヒーとわたしで、どれにしますか?」


曙(!)


提督「ん?漣は飲み物だったのか?どっちかつうと食べ物だと思ってたんだが。ふふ」


漣「あらー?それはいつか食べるかもって意味ですか?ご主人様」


曙「食べ物とか、何言っちゃってんのクソ提督!だいたいね、こんなの食べると胸焼けするわよ?」


提督「ほほう。じゃあ、例えば曙を食べると胸焼けしないのかな?」


曙「・・・ばっ、馬鹿ね、そんな意味で言ってるんじゃないわ!」


漣「いやー、胸のあたりがあっさり味の人は言う事が違うわー」


曙「いや大して違わないでしょ?そもそも提督はね、胸よりお尻派なのよ」


漣「いつの間にそんなデータ把握してたの?恐ろしい子!知ってたけど」


提督「いやちょっと待て、なんでおれの趣味を皆さん把握してらっしゃるので?」


磯波(・・・そうなんだ)


夕張「へぇー、提督は女の子の胸の大きさにこだわりがないんですね!そうですよね、とにかく大きい方が良い、的な風潮はどうかと思います。大切なのは大きさじゃないですし、控えめなくらいが奥ゆかしさとかがあって良いと思うんですよね。そもそも、富裕層や知的な層の男性になればなるほど、胸の大きさにこだわらないどころか、フェチの対象も胸よりお尻に推移していく傾向がありますし、大きな胸が好きな人の割合は、心の貧しさが経済的貧しさに結びついている傾向があるのか、貧困層に行けば行くほど多くなるというデータもあります。本来、胸は直立二足歩行をするようになった人類の目線にセックスアピールが移動していった結果とされていて、言ってしまえばお尻の偽物なんですよねー。そういう意味でも、物事の本質を理解されている提督は素敵な方だと思います!」


提督・漣・曙(あっ・・・(察し))


漣(ちょっとやべぇ)


曙(普通の人だと思ってたんだけど、意外と・・・)


提督(まずいなこれは、下手な受け答えは・・・)


雪風「あの、しれぇ!雪風はおだんごが食べたいです!」


提督(さすが幸運艦!いい仕事をする!)


提督「冷凍甘味にあったね、お団子。お茶とお団子にしようか」


雪風「しれぇ、ありがとうございます!」


提督「漣、というわけでお茶とお団子にしよう」


曙「じゃあお団子を用意するわね。解凍します」


夕張「ごめんなさい、メカと胸の事だと、どうしても熱くなっちゃう時があって」テヘッ


提督「そういうこともあるよね。うん、あるよ」


―総司令部からの特殊帯通信のコール音が鳴った


提督「ん?休憩のタイミングでこれか」


提督「はい、堅洲島鎮守府、提督です」


大淀「昨夜の『新海丸』護衛任務、ご対応ありがとうございました。上層部の喜びようは尋常ではなく、今回の作戦成功の功績を評価して、給糧艦『間宮』と『伊良湖』の常駐着任が決定いたしました。これにより、堅洲島鎮守府の設備充実の為に、近々調理設備の充実が図られます。給糧艦『間宮』と『伊良湖』の着任後に、鎮守府施設の確認を行ってもらい、装備拡充の申請をお願いいたします」


提督「やはり、上層部からしたら、昨夜の状況はかなりまずかったんですね。・・・いずれにせよ、これで支給された間宮券をいつでも使える状況になるのは、とても助かりますよ」


大淀「何しろ、総司令部が『絶対に大丈夫!』と断言していた航路での出来事ですから。あってはならない事でした」


提督「その、『有ってはならない事』が起きてしまった原因は判明しそうですか?あの海域に敵戦力が深入してくるとは、ちょっと考えづらいのですが。率直に申し上げて、私なりの推論では、内通者でもいないと発生しずらい状況に思えます」


大淀「あの海域に至るまでに、およそ七つの鎮守府の、十六もの高練度の艦隊の目をくぐらなくてはなりません。通常はそんな事はあの程度の深海艦隊には無理です。・・・が、各鎮守府の艦隊の移動、展開時間に偶然空隙が発生しており、たまたま深く侵入できた、と言うのが真相のようです」


提督「一番良くない答えですね。それは理由が見つかっていないに等しい」


大淀「おっしゃる通りです。実は、原因も、併せて結果も、判明しています」


提督「おっしゃっていることの意味が分かりませんが?」


大淀「現時点では情報レベルの関係で、答えようがないのです。先ほどの『真相』は表向きの事。実際には、何が起きているかほぼ把握できており、結果もセットなのです」


提督「・・・何者かの意思が、偶発的な状況を発生させ、この結果が出ることもその意思の一部である、とおっしゃっているように聞こえますよ?そして、それをあなた方は把握している、とも」


大淀「・・・」


提督「一つだけ答えてください。『結果』というのは、戦闘の発生までですか?それとも、戦闘の結果までですか」


大淀「戦闘の結果までです」


提督「!」


大淀「いずれ機会が訪れれば説明いたします。一つだけ言えるのは、このような「偶然」は、おそらく今後増える傾向にあり、その結果は失敗しない限り鎮守府に恩恵をもたらすものばかりになります。その恩恵をなるべく有効に利用していただきたいと思います」


提督「・・・わかりました。状況は私の想像をはるかに超えて複雑で根深いんですね」


大淀「そう、ですね。いずれ可能な限りはご説明いたします。今はひたすら、ご健闘を祈りつつサポートさせていただきます」


提督「諒解いたしました」


大淀「さらに、空母機動部隊の編成に成功されましたので、正規空母『赤城』が着任となります。この後、給糧艦『間宮』と『伊良湖』とともに、正規空母『赤城』も含む受動建造の手順を暗号化して送信いたしますので、手順に従って着任願います」


提督「わかりました。ありがとうございます」


大淀「それでは、わたしからは以上です。失礼いたします」


―執務室ラウンジに戻ると、団子とお茶の準備が終わっている。


望月「提督ー、呼ばれたので遊びに来たよー!今日も寒いねー」


提督「おはようもっちー!まだ任務はないから、少しのんびりしていたら良いよ」


望月「お、あたしの呼び名はもっちーなん?いい感じだねー」


雪風「おだんご、おいしいです!」


漣「そういえば、さっきの話なんですけど、酔っぱらった陸奥さんが言っていたんですよ。ご主人様の趣味について。『わたしじゃ胸がちょっと大きいのかしら?』みたいな感じで」


提督「あー、医務室の仕事になったから、そういう記録を見られるもんなぁ。というか、何を言ってんだむっちゃん。おれの趣味をつまみに飲んでいたのか。というか、別にむっちゃんはバランス的に問題ないだろうに」


漣「・・・そう言ってあげたら絶対喜ぶと思いますよ?」


秋雲「なになにー、提督は貧乳が好きなのー?じゃあ秋雲さんも油断できないねー。というか、今鎮守府にいる子って、胸が大きい子は一人もいないねー。一応、ここで一番おっきいのは・・・」キョロキョロ、マジマジ


磯波「な、なんですか?」


秋雲「提督ぅー、いそっちとか結構ストライクでしょー?もー、こういう子が陰では一番エロかったりするんだなぁ、これが!」


磯波「なっ、エ、エロってそんな、ひどいです・・・」


望月「んーでもさー、いそっちはエロかは分かんないけど、隠れ美少女なんだよね。ねー提督ー?」


提督「おい、意味深に振っちゃいかんだろそこは」


望月「だってお風呂場で「そういや正規空母が着任するんだ」」


提督「よなぁ。いやぁ楽しみだなぁ」


曙「なんか今、お風呂場がどうのこうのって「赤城っていうらしいんだが」」


提督「どんな感じか楽しみだなぁ」


秋雲「えー、でもでもー、それならもしもだよ?いそっちが夜中に提督の部屋に呼び出されて、普段妄想しているようなことをしたいって言われたら、きっぱり断るんだ?」


磯波「わたしは提督の言う事なら、断れないです」カアァ


秋雲「ふーん?で、何を妄想していたのかなぁ?」ニヤニヤ


磯波「あっ!ずるいですよ?そういうの!と、特に何も妄想とかしてません!でも、提督は命の恩人でもあるので・・・」アセアセ


秋雲「こーのむっつりスケベの夜の秘書艦めー!」


提督「そんな事言ってると、秋雲を呼び出して、題材に困らない状態にしてもいいんだぞ?」ニッコリ


秋雲「なになに~?セクハラ~?いいの~?」


漣「セクハラ担当ならここにも居るけど、ねえぼの」


曙「提督、漣が遠回しに、自分にセクハラしろって言ってるわ」


漣「んなっ、曙さんずいぶん強気ですな!本当に、この間の事故の時、何かあったんじゃないのー?」


曙「ねぇ提督、漣とどっか出かけるような仕事はないの?」


漣「えっ?ちょっ、曙さん、何をいきなり言い出すの?」


提督「あるある!そういえば大事な任務がほったらかしだ。北側の堅洲の港町に行って、関連施設や商店にあいさつ回りしないとダメなんだよね。上層部と関連のある施設や役所に行く日と、鎮守府に関連する民間のお店や施設にあいさつ回りをする日と、最低二回は行かなくちゃならない。もともと、とっくに行ってないとダメだったんだけど。・・・よし、一発目の各出張所回りは、漣と行くかー」


漣「え、ええー?いやもちろん行きますけど。行きますけどー!ぼのってばどうしたの?やっぱり今までと全然違うんだけど。後で詳しく色々聞かせてもらってもいい?」


曙「なにもないってば。ちょっと落ち着いただけよ。あえて言うなら、提督はもうちょっとクソ提督になってもらった方が良いのよ」


漣「ごめん全然わからないんですけど」


曙「そういうとこ、提督と漣そっくり」


漣「んん、全然わかりませんぞ」


提督「・・・まぁさ、漣、近々一緒に堅洲の町に行こうか。秘書艦の必要なあいさつ回りで二巡しなくてはならないんだ。二回目の、鎮守府に日用品や食糧の納品その他のサービスをしてくれる各業者には、磯波と回る予定だったし」


漣「もちろんご一緒しますよご主人様!一緒にイキますね」


秋雲「なんか言い方がちょっと狙ってなーい?」


磯波「あっ、わたしですか?はい。ご一緒させていただきます」



―ヒトフタマルマル、工廠、第一開発室、特殊帯端末前


提督「おー、来てる来てる!受動建造の手順とコードが配信済みだね。さっそくやってみるか。建造筒は二つだから、まず間宮さんと伊良湖さんで」


提督「総司令部配信の受動建造モードのコードを入力・・・受動建造モードに切り替え。えーと、次に、資材投入も受動転送に切り替え・・・承認済み確認、と。ほうほう、受動建造(報酬建造)の対象艦を確認、と。間宮、伊良湖、赤城を確認。・・・間宮、伊良湖で建造開始っと!」ポチッ


―建造筒の表示時間が「受諾中」という特殊なものに変わった


―プシュー、ガコン


間宮「初めまして!給糧艦、間宮です。激しい戦いで消耗した心に欠かせない、甘いものはお任せください!腕によりをかけて提供させていただきますね!よろしくお願いいたします!」


伊良湖「同じく、給糧艦、伊良湖です。甘いものに限らず、間宮さんのサポートをしながら、皆さんの食を支えさせていただきます。よろしくお願いいたしますね!」


提督「いやー、お二人さん、よろしく!まだ艦娘はそう多くないんだけど、この鎮守府は空き店舗がいくつもあります。めぼしい店舗を見つけたらそこを職場にして構わないので、必要なもの等、色々発注お願いいたします。なお、材料や備品の発注、卸し等は、秘書艦の磯波にお申し付けください。・・・磯波、よろしく頼むね」


磯波「はい!じゃあ、間宮さん、伊良湖さん、さっそくご案内させていただきますね!」


間宮・伊良湖「よろしくお願いいたしますね!」


―次に、同様の手順で赤城の受動建造を行った


―プシュー、ガコン


赤城「航空母艦、赤城です。空母機動部隊を編成するなら、わたしにお任せ下さいませ!」


提督「よろしく、赤城さん!最近の任務成功の報酬で、あなたと間宮さん、伊良湖さんが本日付で着任になりました。空母戦力は無くてはならないものです。よろしくお願いしますよ!」


赤城「あら、あなたがこの鎮守府の提督さんですか?感じの良い方ですね!よろしくお願いいたします。・・・ところで、間宮さんと伊良湖さんが常駐で着任された、という事かしら?」


提督「ん?そうだね。ついたった今ですが」


赤城「まあ!では、今後甘味処や食堂も充実していくんですね?」


提督「ん?ああ、飲食関連は私の趣味もあって、相当に充実させていくつもりではあるけれど」


赤城「提督は、その、沢山食べる女性には偏見等、ございませんか?」


提督「いや、まったくないよ。と言うよりも、赤城さんの話はよく聞いているから、好きなだけ食べたらいいよ。脳のマルチタスクを食事で補うんだ。腹が減って仕方がない時があるのはよくわかる。うちは結果とルールさえ守ってくれるんなら、出し惜しみはしないよ。・・・ただし」


赤城「はい?」


提督「若い女性なのだから、スタイルは崩さないように。自分自身の為にね」


赤城「諒解いたしました!火の中でも水の中でも、お任せくださいね!」


提督「まあ、堅い話は抜きにして、さっそくお茶でもどうかなと。まだ、冷凍甘味しか無くて申し訳ないが」


赤城「いえいえ!ぜひ、ご一緒させていただきますね!」


―30分後、執務室


提督・曙・漣(この人、すっごく食べるけど、それ以上に・・・)


赤城「なるほどー、おおよその概要はわかりました。とても素敵な鎮守府ですけれど、期待値が高すぎる気がしますから、いずれ、わたしたちは待遇にも比さないほどの激戦に身を置くことになるのかもしれませんね。実戦がなくとも、日々演習に演習を重ねていく事に致します」モグモグ


提督・曙・漣(話の理解がすごく早い!)


雪風(お団子、もうなくなりそうです)


赤城「鳳翔が着任したことで、わたしが今ここにいるわけですが、空母戦力は正規・軽を問わず、運用を始めると艦載機の機種性能により展開が大きく変わります。弱い艦載機を運用し続けると、結果としてボーキサイトが激減し、鎮守府の運営もままならなくなる可能性があります。幸い、ボーキサイトには少し余裕があるようですから、先行して各種艦載機の開発に投資した方が、全体としてのボーキの消費量は抑えられてお勧めです」ムグムグ


提督(あ、この人常時食べてないと頭がフル回転しないタイプの人だ)


提督「なるほど、確かにその通り。精強な艦載機を早めに開発すると、運用機数の面からも、常時制空権を掌握しやすくなるし、結果として消耗を防げる。・・・理に適っている」


赤城「ええ、ですので、まずは・・・・あれ?えーと、何だったかしら?」カラッ


提督「漣、ドーナツを準備。曙、冷凍ティラミスを出してくれ」アイコンタクト


漣・曙(諒解) アイコンタクト


―五分後


赤城「まあ!美味しそうなドーナツとティラミスですね!しかもこんなにたくさん!・・・いただいても?」


提督「もちろん、どうぞ!」


赤城「ん、おいしい~!・・・そうそう!思い出しました!開発の端末に、艦娘が手で触れて過去の装備のスペックを再現する、『特殊帯開発サルベーション読み取り機』があるじゃないですか?」


提督「ありますね」


赤城「わたし、提督が食べ物を出し惜しみしない方ですので、貴重な艦載機をかなり正確に思い出せると思います。食べた分の働きはいたしますので、お任せくださいね!」


提督「願ってもない!死んだ爺さんからの遺言で、女性にはひもじい思いはさせないのが信条の一つなので、よろしくね!」


赤城「まあ!素敵なお爺さまだったんですね」


提督「『デートの時は女に財布を持ってこさせるな!』とよく言っていたくらいですから。・・・あ、そういえば、若いころに赤城の乗組員だった老人と会ったことがある、と言っていましたね。その人からの教訓で、わたしの家はいつも肝油を絶やさない習慣があり、みんな視力が良かったりします」


漣・曙(提督の対女の子スキルは、お爺さん仕込みなのね・・・)


赤城「肝油!懐かしい響き。あら、ちょっと縁があるんですね!ほかに何かおっしゃっていましたか?」


提督「洗面器一つの水が配給されて、慣れるとそれで全身を洗って髭まで剃れるようになる、という話や、スコールが近づくと、艦内放送で全員甲板に身体を洗う準備をして立つけれど、他の船にしかスコールが来なくて暑い中突っ立ってるだけになった、なんて話とか」


赤城「・・・それは、どのあたりの海域か聞いていますか?」


提督「確か、インドの方に向かった時にスコールが来て、といった話だったと思います」


赤城「セイロン沖海戦の前だわ!ああ・・・まさか、ここでそんな話を聞けるなんて!」モヤッ


提督「あれ?」


赤城「どうかしましたか?」


提督「いいえ。なんでもないですよ(赤城さん、一瞬光った気がしたが・・・)」


赤城「『赤城』はたくさんいるでしょうけれど、今の時代(2060年代)にこんな話を聞ける『赤城』は、わたしくらいのものだと思います。提督、奇縁に感謝して、赤城、不惜身命で戦いますね!」


提督「でも、基本、必ず生き残って、好きなだけおいしいものを食べる為に戦ってください」


赤城「はい!・・・提督、建造前に、わたしたちが搭載可能、かつ、開発で作成可能な艦載機の、なるべく詳細なデータを下さい」


提督「わかった。用意しておくよ」


赤城「ありがとうございます。把握し次第、開発を行わせていただきます」


―夕方、第一開発室、『特殊帯開発サルベーション読み取り機』前


提督「では、よろしく頼むよ」


赤城「はい、建造開始いたします!まずは、戦闘機から・・・」


―開発用ポッドの蓋が開いた


赤城「零式艦戦62型(爆戦)ですね!次はもっと良いものを狙います!」


提督「いやこれだって無かったからね!」


―開発用ポッドの蓋が開いた


赤城「来ました!紫電改二!」


提督・漣・曙「おおっ!」


提督「赤城さん、ここでこれを食べて頑張って」


赤城「少しお腹がすいたところです。あ、チョコレートマフィンですね!いただきます!」モグモグ


漣・曙(お腹へるの早すぎなんじゃ・・・)


赤城「では、気合を入れてもう一度!せいっ!」


―開発用ポッドの蓋が開いた


提督「きたー!烈風!こりゃすごい!」


赤城「ふふっ、上々ね!」


漣・曙(開発ってなんなんだろ・・・)


磯波「あの、失礼します。お店の場所決めと、必要な備品、材料のリストアップ、全て出来上がりました。・・・あっ、烈風、ですか?」


赤城「あら、一目でわかるなんて、やるわね!」


磯波「機種の判別ができるように、なるべく勉強をしていただけです」テレ


提督「大したもんだ。・・・うん、リストも申し分ない。さっそく総司令部に納品依頼しよう。艦載機開発のカギは甘味にある!こうなると、堅洲町の調整もなる早でやらんとまずいな。・・・漣、明日はちょっと遠出するよ」


漣「ほいさっさー!デートの準備しておきますね!ご主人様!」


―翌日、鎮守府駐車場前。マルキューマルマル


漣「ご主人様―!今日はいつもの恰好じゃなく、艤装服にしてきましたよ!」


提督「まあそのほうが無難だよね。頭の固い人もいるかもしれないし」


漣「んん?それなら、いそっちとか、こう、髪の色とか見た目とか、落ち着いた感じの子の方が良くないですか?」


提督「商店とか、一般の年配者の比率が多い次回のあいさつ回りでは磯波と回るつもりだけど、今日はみんな国の機関に所属する人々だし、艦娘についての基礎教育も受けている人々だからね。問題ないんだよ」


漣「なるほどー。・・・で、この車で行くんですか?」


提督「ナンバーと車種は配給品一覧と合致しているが、これは・・・」


―鎮守府用車両の一台は、古いジープだった


提督「漣とラットパトロールか。うん、これはこれで」


漣「ラットパトロールって、何ですか?」


提督「ジープがメインで出てくる、古い映画。中々名作なのでお勧めだぞ。女の子が見ても面白くないかもしれないが」


漣「いえいえ、見てみますよー。共通の話題が増えたら、お互い楽しいじゃないですか!」


提督「じゃあ、感想楽しみにしてるよ。・・・ところでさ、この冬に峠を越えて町に行くには、ちょっと寒すぎだろ、この車。漣、もう少し防寒対策をした方が良いな。おれももう少し何か着こんでくる」


漣「大丈夫ですよご主人様、寒くなったらくっついて温め合えばいいんです!」


提督「くっついて温め合ってみても死にかけて先日のざまだからねー。準備は必要だよ」


漣「あ!そうでしたね!ご主人様、最近漣に冷たいからなー。ウサギは寂しいと死んじゃうんですヨ?」


―漣のマフラーから、ウサギのような生き物がぴょこっと現れて、またもぐりこんだ


提督「あっ、ウサギ!たまに姿を現すよね、その子」


漣「詳しくは話せませんが、大事なパートナーなのです!」


提督「謎が多いなぁ。・・・ところで、冷たくしてる気なんて全くないぞ?むしろ、ちょっと気にしてる。漣の言うとおり、最近色々あったからなぁ」


漣「冗談ですよ!ご主人様!ぼのの事では、漣も一言謝っといた方が良いかな、なんて思ってました」


提督「いやいや、漣が謝るような事なんて何もないだろう。何言ってんだい」


漣「いやー、そうでもないんだなぁ、これが」


提督「へ?まあさ、運転しながら話すか」


―堅洲町に向かって運転中


漣「ぼのってば、寂しがりやなくせに、何かあるとすぐ、『独りのほうが気楽』とか『自分の目で確かめるまでは納得しない』とか言うんですよ。実はこの前の一件の少し前にも、七駆でちょっとケンカになっちゃって、『だったら自分の目で色々確かめたらいいじゃん!』みたいな話になっちゃって」


提督「容易に想像つくなあ、理由が何であれ」


漣「ですよね?あんな無茶する子じゃないんですよ、本当は。戦い方もそうだけど、本来は慎重な子なので」


提督「そっか、それであそこまで無茶したのか。でも、実はかわいいやつだってのが分かっただけで、あまり問題は無いよ。まあ、本人から聞いたかもだけど、あと少し運が悪かったら、嫁艦になっちゃうところだったが」


漣「あー聞きました。すっごい泣いてましたよ、ぼの。ご主人様の対応がいちいちあの子の想定外だったみたいで。本当は、他人に迷惑を掛けたり、嫌な思いをさせるのがすごくキライな子だから、自分の姿勢が無意識にそうなっていると気づいた部分もあったみたいで」


提督「雨降って、地固まるってやつだな。結果オーライ、それでよかったじゃないか」


漣「だがここからが本題なのです!」


提督「え?」


漣「もともとすっごい気配りできる子だったんですがー、わたしとご主人様の関係に自分が変な水を差したか、またはぼのなりにフェアに行きたいんだか何だか、とにかくわたしとご主人様との関係を気にかけだしたんですよね。ほら、今日だってぼのの提案だったじゃないですか。これが正直、ちょっとペースを崩されてて。でも、どう言っていい事かわからないし、どうしましょって感じで」


提督「あー、確かに。自分のペースが大事な事ってのはあるね」


漣「しかもまた、中途半端に気が利くから微妙っていう」


提督「気にしないで、受け取っとけばいいんじゃないか?要するに『照れ』だろ?」


漣「うっ、二人っきりだと直球で来ますね、ご主人様!」


提督「いや実は、とても僭越な話になるが、おれも気にしてなかったかと言えばウソになるからさ」


漣「あー、確かにそれは僭越ですよねー。漣は仕事は一生懸命やりますが、本心なんてこれっぽっちも出してないわけで。ぼのはその辺を『ご主人様と似ている』って」


提督「誰かと親しくなりたいと時に思うが、全体のバランスを考えると、皆が心地よい距離を演出する事ばかり考えてしまって、いつの間にかそこに満足感を見出してしまう、と?」


漣「そうそう!それなんですよ・・・あっ!」カアッ


提督「まあ、似てるところがあるって曙の指摘は鋭いよね」


漣「くっ、なんも言えねぇ。ご主人様、漣にはタゲらないでくださいよー。わたしは自分自身で意外とめんどくさいところがあるんですから」


提督「いや、そこはおれもなのさ。で、すごく助かってるよ。やっぱり楽でさー。ありがとう!」


漣「もー!ぼののやつー!なんか他人の思惑に乗せられた感が半端ないんですけど!」


提督「ま、時にはあまり考えないで素直になるのもいいなと思ったよ」


漣「むー。言われっぱなしじゃ面白くないから、漣からもひとこと、いいですか?」


提督「な、何かな?」


漣「ご主人様、もともと、素の一人称は「おれ」ですよね?士官服もあまり着ないんだし、『私』って一人称はやめたほうがいいと思いまーす!素が出るのがわかりやすいし、似合ってません。ご主人様は「おれ」って言った方がかっこいいし、皆もなじみやすいと思います」


提督「あー、気になってたんだよね。うん、わかったそうする」


―堅洲の町に向かう山道に、雪が吹雪き始めていた


―同じ頃。横須賀。対深海勢力特殊作戦総司令部、特殊帯通信室


姫「一部の情報のレベルを4から5に変えるなんて、本当にあなたたちのやる事はダメね」


大淀「仕方がありません。あの提督がやる気をなくしてしまっては、元も子もありませんし」


姫「丸ごと壊滅した幾つかの鎮守府の事を全て隠ぺいするのは、賢いやり方ではないわね」


大淀「ではどうしろと!」


姫「指輪」


大淀「!」


姫「まだ後生大事に保管しているんでしょう?あなたのケッコン指輪」


大淀「どうして、それを・・・」


姫「さあね?『特殊帯通信』なんてごまかしの名前のせいで、この出来事の大元となった技術の事さえ忘れてしまったのかしら?」


大淀「待って!まさかそんな、生きているんですか?あの人が」


姫「約束を守らずに情報レベルを操作するような連中と話す口は持ってないの。余計なところだけ勘が良いのね。なら、あとはどうしたらいいか、自分で考えなさい。女の顔をしたあなたなら、簡単にわかるでしょ」


大淀「嘘よ、まさか、そんな事がありえるの?」


姫「しばらく眠るわ。話しかけないで」


―同日夜。官舎の大淀の部屋


―チューハイの大量の空き缶がある以外は、比較的きれいな部屋だ


―大淀はドレッサーの引き出しを開けると、小箱を取り出して開けた。


―血と、焼け焦げた跡のあるケッコン指輪だ


大淀「提督・・・」


―大淀は指輪をはめると、目を閉じ、すうと涙を流した。そして、そのまま眠りに落ちた





第六話 艦


後書き

作中の赤城の搭乗員との会話のエピソードは、筆者の実体験だったりします。


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2016-07-21 22:28:20

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2016-07-21 22:28:21

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1: SS好きの名無しさん 2016-07-21 22:29:33 ID: 5nVetTDG

どんどん続きが気になっていく

2: みがめにさまはんさみかたき 2018-09-17 17:58:23 ID: bacnzAaf

実体験!?

3: 堅洲 2018-09-18 18:17:05 ID: HUvu_9CF

1さん、今更ながらですがコメントありがとうございます!

4: 堅洲 2018-09-18 18:18:22 ID: HUvu_9CF

みがめにさまはんさみかたき さん、

そうです。作中で提督のお爺さんが聞いたという赤城の乗組員の話は、昔自分が聞いた話です。

セイロン沖海戦の前くらいまで乗っておられた方の話ですね。


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