2017-08-14 18:54:18 更新

概要

春風の話から、利島でのやり取り、帰投中の水上機でのあれこれまで。

そして、遂に現在の横須賀第一鎮守府の提督とともに、『内部の敵』が姿を現し始めます。

また、断片的にですが複雑なこの件のヒントや、下田鎮守府のメンバーのそれぞれの考えが出てきます。

用心深く対策を練る提督ですが、果たしてどうなっていくのか?


前書き

エラーメモリーの事を春風が『幻像』と表現しているシーンがあり、異動する艦娘にはたまにある事とされているようです。堅洲島に異動してくる子だけではない様ですね。

曙が触られているらしいことが、金剛と榛名に伝わってしまいます。

また、鬼鹿島は意味深なシーンを見ています。

榛名の夢に出てきていた横須賀第一鎮守府の小林提督が出てきます。何やら良くない事をしてきた人物のようですが、ビッグ・セブンの一角でもあるようです。

内部の敵らしい第二参謀室の参謀たちですが、以前出た人物と同じ苗字の人が居ますね。

下田鎮守府のメンバーも、胸中はそれぞれ異なるようです。秘密もあり、第二参謀室や横須賀の提督の話では、分かりやすいコードネームの内通者もいるようですが・・・。


第五十七話 涙と雨・前編




―2066年1月5日、ヒトロクマルマル(16時)過ぎ、旧利島鎮守府、武道館。


春風「総司令部はひた隠しにし、事実上現在も『無いこと』としていますが、私たち高練度の艦娘の間では、『着任不良』という深刻な問題が発生しているのです」


提督「密かな深海化ではなく、着任不良か。どういう事なんだ?」


春風「はい。簡単に申しますと、お仕えしている司令官様に、忠誠や信頼を捧げづらくなります。私の場合で言うなら、どこかに自分の本当の司令官様が居るような、今お仕えしている方が本当の司令官様ではないような、そんな感覚なのです。これは、艦娘としての自分にも疑問を感じる、多大なストレスにさらされることを意味しています」


榛名「すいません、それは・・・榛名も同じでした・・・」


金剛「ウーン、私は多分大丈夫でしたネー。でも、今の提督のもとに異動した時は、自分がそんなに軽い女じゃない筈なのにって、少しだけ悩んだネ・・・」


春風「着任不良と思われる艦娘について、私たち『眠り花隊』が特防の情報網を使用しつつ調べ続けた結果、ある仮説が二つ、浮かび上がってきたのです」


提督「・・・ほう」


春風「一つは、現在着任中の司令官様のほとんどが、司令官としての、提督としての適性をそれほどお持ちでない可能性。もう一つは、過去のある時期に、そのような司令官様しかいなかった特殊帯の情報の海の中に、非常に高い適性をお持ちの方が登録され、高練度の艦娘を無意識に引き寄せている可能性。この二点です」


提督「前者は実際そのような気がするな。全国の現在の提督の一覧を見たが、めぼしい者はあまりいないようだ。むしろ、戦闘中行方不明になった過去の提督には、優れた人物が多かったが・・・。しかし、後者のそれはどういう意味だい?現時点で、どこかにそんな提督が居ると?」


春風「はい。そこで質問なのですが、司令官様、今から三~四年ほど前に、どこかで特殊帯リーダーに触れ、認証を取った事はございませんか?」


堅洲島の艦娘たち「えっ?」


提督「その頃なら、おれはまだ外人部隊でアフリカに・・・いや待て!呉で特殊な装備を受け取った時に、そういえば特殊帯リーダーみたいなものに触れた気がする。データを取るのに必要とかで」


春風「ああ、仮説の実証にまた一歩近づきましたね。その頃からなのです。着任不良という言葉がささやかれ始めたのは」


提督「いやちょっと待ってくれ。それじゃあ、まるでおれに高い提督の適性があるように聞こえるが・・・」


春風「はい。おそらく高い適性をお持ちです。特務案件の子たちは、着任不良の子もかなり含まれていますから。実のところ、榛名さんもそうです」


榛名「ええっ?では、榛名の長い苦しみは・・・本当の提督に会えていなくて、今の提督が榛名の本当の?」


春風「榛名さんの艦娘としての無意識は、こちらの司令官様をずっと求めていたのかもしれませんね」


榛名「なんて事でしょう・・・」


金剛「じゃあ、ワタシが自分をライトな女なんじゃ?って悩んだのは、金剛寺さんよりもテートクがより高い適性を持っていたからなんですカー?」


春風「はい。とてもわかりやすい対比だと思います」


陽炎「何となくだけど、わかるわ。司令と話していると、それだけで強くなれる気がするくらいだもの」


浦風(ほうなんじゃね)


提督(いや、しかしそうすると、呉でのあの特殊帯認証にはどんな意味があったんだ?八分目人斬は特殊な材質だとは聞いたが・・・よく考えれば、刀を装備するのに認証というのは変な話だな。そもそもあの刀は、途中から何かおかしかった)


―提督は、自分と分かちがたく結びついていた、心強くも忌まわしい刀の事を思い出していた。ふと、脳裏に深海がよぎる。


提督(いや・・・まさかな・・・)


春風「どうされましたか?」


提督「いや、なんでもない。概要は分かったよ。臨む任務を考えたら、悪くない傾向とだけは思っておくさ。それと、君の異動、着任は歓迎するが、鹿島ちゃんは兼帯でもいいなら、ってところかな。目星をつけている別の鹿島がいるんだよ」


春風「波崎の鹿島ですね」


提督「うん。ただ、鬼鹿島ちゃんには確かにもう少し強くなって、全国の艦娘の実力を底上げしてもらいたい。そういう形で協力するのはやぶさかではないな」


鬼鹿島「是非もありません。従います・・・」


春風「さすがに、話とご理解の早い司令官様ですね。それと・・・鹿島さんに何らかの罰や制裁を考えておられますか?」


鬼鹿島「えっ・・・」ギュッ


提督「意地悪な質問だなぁ。考えていないさ、そんなん。楽しかったんだよ、さっきの立ち合いも。だからそれでいいだろう?」


春風「きっと、そう答えられると思っていました。でも司令官様、鹿島さんはもともと、魅力でも有名な艦娘です。こんなチャンスをものにしないなどと、司令官様はどのような艦娘がお好みなのですか?」ニコッ


提督「ん?それは、おれの趣味の話を聞いているのかな?」


春風「はい!後学の為に是非とも知っておきたいのです」


―ピクッ


―この時、ほぼすべての艦娘が心と耳を澄ませた。


提督「みんな好き。以上!これ以上聞くなら着任拒否るぞ?」ニヤッ


春風「あっ!それは困ります!わかりました」


―こうして、利島鎮守府の子たちよりも先に、鬼鹿島の兼帯と、春風の異動が決まった。


叢雲「それで、結局、利島からの異動は?」


浦風「あっ、ほうじゃったね!みんな、自己紹介しよ?」


涼風「おうよ!涼風だァ!あたいにまかしときな!提督の腕前はわかったよ。よろしくぅ!」


提督「いきなり元気がいいな!よろしく!」


涼風「あったぼうよ!任せとけっての!」


三日月「あの、三日月と申します。とても強そうな司令官で緊張していますが、よろしくお願いいたします」


提督「よろしく!でも、君も強そうだぞ?」


春風「良い太刀筋をお持ちなんです。きっと、強くなると思いますよ?」


提督「なるほど、期待しているよ!」


三日月「はい。頑張ります!」


浦風「あとは、うちが浦風じゃ。よろしくね!磯風の事、本当にありがとうじゃ!うちもがんばるけぇ、提督さん、見とってね!」


提督「取りまとめありがとう。うちの任務を理解した上で、異動して来てくれたり、仲間をまとめてくれて、本当に助かる。君らも磯風も、決して沈まないようにしてくれ。敵を倒すより、一定期間生き残れば勝ちってくらいに構えて欲しい」


浦風「あまり心配はしとらんけぇ、大丈夫じゃよ。それより提督さん、さっきの春風さんの質問、うちも気になっとるんじゃよ?」ニコッ


提督「悪いがその質問には答えられないな」ニヤッ


浦風「いけずじゃね。命がけで尽くそうと異動してくる艦娘に、少しは教えてくれないん?」ニコッ・・・ギュッ


堅洲島の艦娘たち(あっ!)


―浦風は言いながら、提督の左腕を抱きしめるように、胸を押しあてた。


漣「あー、あの装備は私もぼのも持ってないなぁ。積極的なのね・・・」


曙「ふーん・・・」


提督「ふっ。いきなりサービス精神旺盛だが、あまり露骨でない方がおれは好きだぞ?」


浦風「ほうなんじゃね?(へぇ、鼻の下を伸ばしとらんし、眉一つ動かしちょらんね。誰か好きな艦娘はおるんじゃろか?いい男じゃねぇ)」


金剛「浦風、その人はそんなに簡単な人じゃないデース。私とよく添い寝してくれますが、何も無いですし、服着たまま寝ているくらいの人ですからネー」


浦風「えっ?金剛姉さんとそういう関係なん?あっ、何もないんじゃね?」


叢雲「うちの司令官は、こんな雰囲気だけど実は上層部も何も信用していないの。だから警戒を解かないし、何があっても対応できるように、夜も普段着のまま浅い眠りについているわ。・・・でも、私たちが傍にいる時は眠れるみたいなのよ。親しくしたいなら、あなたも司令官と一緒に寝て構わないからね?」


漣(さっすが!叢雲ちゃんも言うなぁ)


―これは、積極的な行動を取った浦風への、叢雲なりのカウンターだった。


浦風「・・・面白そうじゃね。うち、ここでは前の提督から身を守るのに神経つかっとったけど、提督さんならそんな心配はいらなさそうじゃね。秘書艦さんの許可も貰えたし」ニコッ


叢雲「くっ!」


磯波「・・・・・・」


漣(おおっ!返されましたぞ!)


磯風「聞きずてならんぞ、らしくないな?浦風。試したくなる気持ちはわかるがな」


―微妙な緊張が漂いかけたが、浦風は手をほどき、皆に笑いかけた。


浦風「みんな自信があって活発で、良い鎮守府じゃね!叢雲ちゃん、ちょっと意地悪してごめんじゃ。和を乱すような事はせんよ。そもそも提督さんも、そういう子は嫌いじゃろ?」


提督「そういう子が嫌いかはともかく、状況把握に長けた子は好感が持てる、と言っておくさ」


浦風「さすがじゃねぇ」ニコッ


―こうして、利島鎮守府から、浦風、涼風、三日月が。特防別科『眠り花隊』からは春風が、総司令部教導隊からは鹿島が兼帯で異動および所属することになった。のち、鹿島の所属が全国の艦娘の練度を大きく底上げする結果を呼ぶのだが、それはまだ先の話になる。



―利島鎮守府、旧執務室。


提督「ああ、こちらにいたんですか。異動の件、ご助力ありがとうございました。・・・あれ?もしかして、以前一度会った事が?」


日向「ああ、特務第二十一号の提督さんか。少しはお役に立てただろうか?」


伊勢「時雨はいい子にしていますか?」


―提督は利島を立ち去る前に、武装憲兵隊の伊勢と日向に挨拶をするべく、旧執務室に顔を出していた。初期秘書艦である叢雲と、護衛秘書艦の磯波だけが一緒で、他の艦娘たちは『わだつみ』内でお茶の時間になっていた。


提督「君たちはやはり矯正施設の!そうか。何だか縁があるようだな。今回の件、ありがたい。みんないい子たちで助かります」


日向「なに、いまどき矯正施設の子を異動させたり、大破行方不明の子を探してくれる提督さんだ。こちらも協力したくなるというものだ。なあ?伊勢」


伊勢「そうね。もうじき因縁にケリがつきそうだけど、私たちの古巣、波崎の提督とは大違いだわ」


提督「君たちは波崎の出身だったのか!」


日向「そうなるな。・・・ただ、まさか波崎に手出しできる人物が現れるとは思っていなかったよ。波崎の提督はどうしようもないクズ犯罪者だが、その親が悪い。なにしろ・・・」


提督「有力な政治家の息子だものな。国防自衛隊に大変な影響力を持つ」


伊勢「えっ?やっぱり知ってて叩き潰すつもり?」


提督「色々あるんだよ。人と人との関係というのはさ」ニッ


日向「そういう事だったか」ニヤリ


提督「ところで、聞いていいものかどうかわからないが、『霧の夜事件』について・・・」


―言いかけたところで、急に伊勢と日向の空気が変わった。


伊勢「波崎の案件が終わるまで、その質問はしてはいけないわ」


日向「『リトマス』だぞ?(小声)」


提督「・・・ああ、失礼した」


―『リトマス』とは、紐づけされた思想分析用の危険な言葉であることを意味している隠語だ。何者かが、『霧の夜事件』について動きのある者を監視しているという意味だ。


伊勢「・・・海はとても深いわ。気を付けて」


日向「そろそろ帰投された方が良いだろう。横須賀だったかな?」


―二人は意味の良く分からない言葉を投げかけた。


提督「諒解した。また・・・」


―この利島には現在、勢力的には武装憲兵隊、総司令部、特別防諜対策室、そして特務第二十一号鎮守府が入り込んでいる形になっている。


提督(大事を取るとすれば総司令部か?海はとても深い・・・深海?横須賀?そうか!)


―上層部に深海とのつながりのある何者かが居る、という事だろう。


提督(やはり、『霧の夜事件』は榛名、ひいては深海とかかわりがある、という事か)


―榛名の記憶にも、横須賀の提督が出てきている。


―提督は廊下に出た。少し歩くと、叢雲が肘でわき腹をつついてくる。


叢雲「ねぇ、さっきのあれ、やっぱり・・・(小声)」


提督「ああ」


磯波「・・・気が抜けませんね。それに、少し、確かめたい事があるんです(小声)」


提督「確かめたい事?」


―そのすぐ後、廊下を玄関に抜ける曲がり角に差し掛かった時、春風と会った。


春風「あ、司令官様、こちらにいらしたんですね?」


磯波「春風さん、聞きたい事があります」


春風「何でしょうか?磯波さん」


磯波「あなたが心配していることは何ですか?」


春風「えっ?」


磯波「あなたの眼を見ていると、まだ大きな何かがある気がします。それは、着任してからでないと言えないような話ですか?」


叢雲(やるわね・・・)


―磯波は優しく聞いているが、現時点までの秘密は許しても、着任してからの秘密は許さない、という小さな圧力にもなる言い方だった。


春風「・・・流石ですね。はい。着任不良もありますが、このままだと私は、おそらく危険にさらされかねないのです。ご存知ですか?しばらく前から、そこそこの練度の艦娘たちが消息不明になっているのに、全く表ざたになっていない事実がある事を。私がここに来たのは、元々はその調査の為でした。当ては外れてしまいましたが・・・」


提督「まして君は、独自に知り過ぎているようだしな」


春風「そういう事でございます。信じがたい事ですが、お味方もあまり信用できません。私に必要なのは、私たち以外を信用していないような方なのです」


叢雲「どこで知ったの?うちの事を」


春風「特務案件『秋葉原』に使用している、特殊帯コードを利用してです。ただし、特防の権限の範囲を超えない範囲ではありますが・・・」


提督「・・・よくできているな」ボソッ


春風「えっ?」


提督「まだ全体の意図は見えないが、やはり誰かが巧妙に場を作っている気がするな。君は動かされているような印象を受けるんだよ。おれから見るとな。・・・まるで、アフリカにいた頃のおれのようだ。何かモヤモヤする」


春風「司令官様もそのように感じられますか。今のままだと、私の先には恐ろしい結末が待っているような気がして、仕方が無かったのです。そもそも・・・私たち艦娘の剣も、ほとんどが鹿島さんを経由した、山本様の剣ですが、そのままでは猫さえ斬れないような剣です」


提督「そう。死地にはかなり足りない剣だ。しかし、むしろ非常に強くなってからが山本の爺さんの剣の理念が生きるんだよ。『剣身合一』を経て『剣神合一』に至り、『天下の剣』ではなく『天と共にある剣』になる」


??「『天位(てんい)ノ剣』ですね?」


提督「ああ、鹿島ちゃんか」


―玄関から、鹿島も来た。


鬼鹿島「鹿島で結構です。提督さん、以前聞いた事があります。『天下三剣』ないし『天下五剣』の称号、それは、『天位ノ剣』を揮(ふる)う方の出現に合わせてできた呼称である。と。ただ、その方の存在に関しては、誰もかれもが実在を疑い、公式な書類もありません。その境地には、相当な数の人を斬り、全ての技に血と魂を通わせ、自らが新しい技を生み出す程の存在にならなければたどり着けない、と。そして、そんな経歴をお持ちの方は・・・」


提督「そこまでにしといてくれ。ただ、必要であれば、持てる限りの技と戦い方は皆に伝えることが出来る。こだわりは素晴らしいが、度が過ぎれば弱さになる。そういう柔軟な認識を持ってくれたら嬉しい」


鬼鹿島「持てる限り、ですか・・・はい。少し、自分を見つめ直すことにいたします」


―鹿島は確信した。この提督はおそらく、『隠者』の義理の孫だと。なら、自分が敵うはずがない。手錠もおそらく、自分の戦い方に付き合ってもらえたに過ぎない。


鹿島(『本当に恐ろしい者は、全く恐ろしく見えない』・・・山本様の言う通りでした。この方は、おそらく殺気さえ自在に消せるはずです)


提督「そろそろ、様々な要因が絡んで賑やかになってきたな。・・・今夜も特務がある、帰ろうか、みんな」


―こうして、新たな仲間を伴いつつ、提督たちは堅洲島に帰投することにした。



―利島~堅洲島間迂回航路、水上機『わだつみ』喫茶ラウンジ。


浦風「みんなさっきはごめんね、どんな提督さんか、ちょっと試してみたかったんじゃ。うちの前の提督は、あんなざまじゃったから・・・」


叢雲「ううん、構わないわ。得られた結果はそれだけではなかったでしょうけれど」ニコッ


浦風「かなわんなぁ、叢雲ちゃん。初期秘書艦なんじゃろ?あと、磯波が護衛秘書艦なんじゃね。随分強くなった気がするんよ」


磯波「いいえ。でも、よこしまな理由で提督に近づいちゃダメですからね?」ニコッ


浦風「じゃあ、真面目な気持ちなら良い言う事じゃね?」ニコッ


磯波「あっ・・・それは・・・ダメです!・・・たぶん」


磯風「浦風、胸部が戦艦並みだと言っても、司令は別に胸が好きとかそういうのではなくてだな、なぜか戦艦の姉さま方に人気なのだ。つまり、ここでは私は浦風に後れを取る要因は無いという事だな!」ドヤァ


―磯風が、やや的外れな情報をどや顔で言ってきた。


浦風「うち、そんな事聞いとらんよ?ふーん、戦艦のお姉さま方に人気なんじゃね?(胸ねぇ?そういえば・・・)」


―浦風はラウンジ内を見回した。秘書艦を務める駆逐艦の中に、胸の大きい艦娘は見当たらない。むしろ、控えめな子ばかりのようだ。


漣「ふっふーん、漣たちの胸を見て、ご主人様の趣味を推測したい感じですかぁ~?」ニヤリ


曙「気になるなら覚えておくことね。クソ提督はパーツじゃなくて女の子自身を見てるのよ」


漣(あ、これご主人様の受け売りだわ、ぼのったら!)


浦風「おそらくそうなんじゃろうけど、何でメイド服なん?あと、曙ちゃんは提督さんが大好きみたいじゃけど、珍しいねぇ。利島の提督は曙が大嫌いじゃったんよ・・・かばいきれなかったんじゃ・・・」


―利島で最も『捨て艦』されていたのは曙だった。


曙「大好き・・・なっ!いきなりなんて事を言うの!?」ボッ


―曙は耳まで真っ赤になった。


漣「うちのご主人様は奇特ですからねぇ。こんなクソクソ言う貧乳駆逐艦なんかにメイド服を着せて可愛がってるんですよ?」


曙「あんたのせいでしょうが!あれ?そう言えば何で漣はメイド服を着始めたのよ?」


叢雲(・・・)ピクッ


漣「・・・ご主人様が全然笑わなかった頃、これを着てお仕事してたら、ご主人様が笑ったのよ」


叢雲「あの時が初めてかもしれないわね。司令官が笑ったの。ここはもう戦場じゃなかったんだなって、いい笑顔をしていたわね。そっか、漣はそれでその服を着ていたのね」


磯波「そうだったんですね?実はずっと気になっていたんですよ?」


浦風「へぇ~、何か色々あったんじゃねぇ。漣ちゃん、いい子じゃね!」


漣「あっ!漣をそんな風に見るのやめてください!しんでしまいます!」カアッ


曙「ふーん、あんたが照れるなんて図星っぽいわね」ニヤッ


漣「こ、この~!」


浦風「・・・いい鎮守府じゃね。それにしても、うちらの迎えにしては艦娘が多いのはなぜなん?」キョロキョロ


陽炎「多い?そうかしら」


―浦風はラウンジを見回した。


浦風(金剛姉さん、榛名さん、足柄さん、陽炎姉さんに、磯風、磯波、叢雲、漣、曙じゃろ?あとは・・・ん?)


―浦風はここで、窓際の席でコーヒーを飲みつつ、景色を楽しんでいる艦娘に気付いた。赤い眼に長く黒い髪、ロングセーターが良く似合っている。浦風の視線に気づくと、にこりと笑って会釈した。浦風もぺこりと会釈する。


浦風「陽炎姉さん、あの窓際のぶち綺麗な人は誰じゃ?(小声)」


陽炎「へ?知らないの?扶桑さんよ。戦艦・扶桑。うちの秘書艦で、エースの一人。『主力航戦打撃艦隊』の旗艦でもあるわね。今のところ、うちで一番深海棲艦を沈めている人よ」


浦風「やっぱり扶桑さんなんじゃね?初めて見たけど綺麗な人じゃねぇ。でも、どこからの異動なんじゃ?大規模侵攻の後から、扶桑型は一人も建造出来てないって聞いたんじゃが」


陽炎「初めて聞いたけど、それ本当?うちの扶桑さんも山城さんも、普通に建造で着任したらしいわよ?」


浦風「山城さんもおるんじゃね?このあたりが、春風さんの言う適性とかの差なんじゃろか?」


陽炎「よそは結構深刻な状態なのね。知らなかったわ。ほとんどのメンバーは、年末に海域で見つけてきた子ばかりなのよ?私もそうなんだから」


―陽炎はそう言いながら、自分と同期の艦たちを指折り数え上げていった。


浦風「重巡や潜水艦なんて、今は本当に滅多に着任できないんじゃよ?やっぱり、何か違うんじゃね。利島なんて、軽巡が見つかったら話題になるくらいじゃったんだから」


陽炎「ま、うちの司令はちょっと違うからね。それが良い面もあり、不利な面もありって事よ」


浦風「不利な面?」


陽炎「聞いたでしょ?戦艦のお姉さまがたに好かれているのよ、うちの司令は。噂だけど、密かに扶桑さんと特に仲がいいんじゃないかって言われているのよ(小声)」


浦風「・・・一緒に眠ったりしてるん?」


陽炎「扶桑さんとはそういう事は無いみたいだけど・・・」


浦風「むしろ厄介じゃねぇ、それは」


―距離が近くなくても、はたで見ていて仲が良いような空気が感じられる、という事だろう。


漣「あー、なんか色々気にしてるみたいですが、大丈夫ですヨ?うちのご主人様は、ちゃんと駆逐艦も好きですから。戦艦のお姉さま方を差し置いて、一番触られてるのがこの女狐ですからねぇ」ニヤリ


曙「ちょっと!またなんて事を言うのよ!」アセアセ


浦風「意外じゃわ~!そうなんじゃね?よろしくじゃ先輩!・・・で、触られてるという部分を詳しく聞きたいんじゃが」ニヤリ


曙「先輩って、そっ、そんなんじゃないからね?」


磯波「そうでした。私もその部分、一度詳しく聞きたかったんですよ?」ニコッ


曙「目の奥が笑ってない気がする!」


磯波「そんなことないですよ~」


浦風「うちな、戦闘でエースじゃったから身を護れていたけど、毎日すごく怖かったんよ。いつ捨てられたり、ひどい事されるかって。ここだとむしろ、ひどい事じゃなくなりそうじゃけどねぇ」ニヤリ


磯風「私などは奴にしばしば刀を突きつけたり、手首を握りつぶそうとしていたからな。結局捨て艦されたが、それがきっかけで奴が更迭になったのだから、痛快と言う他はないな」フッ


春風(このお二人も着任不良気味だった気がいたしますね・・・。でも良かった。司令官様も程々に男性でいらしたようで)


―しかし、この話に聞き耳を立てている者が二人いた。金剛と榛名である。


金剛(ンン?曙は触られたりしているのね?)


榛名(意外です。触ったりもするんですね、提督は)


―二人には、なぜだかそれが悪い事には感じられない。むしろ、曙が自分より可愛がられているような気がして、焦りに似た気持ちが少しだけ湧いてくるのだ。


金剛(・・・一緒に眠っているだけでも嬉しいのに、私ったら何を考えているの?ダメよ・・・ダメ!・・・と思いたいのに・・・)フゥ


―しかし、何かがあったら何のブレーキも必要ない自分の事に、提督は気づいている気がする。失敗したら添い寝の時間まで失いかねない。


榛名(榛名は・・・まだ何の実績もありませんから。期待値だけですから・・・)ギュッ


―榛名は一日も早く、活躍の場が欲しいと思っていた。


扶桑(提督は・・・)コトッ


―扶桑はそんな周りの空気を知らず、飲み終えたコーヒーカップを置くと、コーヒーを二つ淹れ、姿の見えない提督を探すことにした。用心深い提督なら、おそらく・・・。



―水上機『わだつみ』コクピット。


―ガチャッ


提督「ん?ああ、扶桑、どうしたんだ?」


―提督はコクピットの操縦席に座り、リラックスした姿勢で冬の海原を眺めていた。


扶桑「計器その他の異常を見ていたんですね?コーヒーをお持ちしましたが、いかがですか?」ニコッ


提督「ありがとう!そろそろ賑やかになってきたし、今夜もなかなか難しい状況が発生するしな。それより扶桑、良い眺めだぞ!コ・パイロットの席は空いているから、一緒にどうだい?」


扶桑「はい、ご一緒させていただきますね」ストッ


―扶桑は知っている。提督はリラックスしているように見えるが、新規の艦娘を迎えつつ、旧態の鎮守府に着水したため、何らかの仕込みや罠が発生していないか、警戒しているのだ。何が起きても良いように、操縦席にいる。そしていつも、最低でも一艦隊は強力な編成ができるように随伴者を同乗させている。


扶桑「みんな、いい子だと思いますよ?春風さんも、あの子自身は何も問題ないと思います。ただ・・・」


提督「見張られているだろう?あの子」


扶桑「恐らくそうですよね。即興で異動したのは良い判断だったと思います」


提督「榛名の件もそうだが、味方の側に潜んでいる奴らも叩きのめさないと、深海側の提督の二番煎じになりかねないからな。じっくり丁寧に『駆除』していくさ」フッ


扶桑「・・・一つだけ、気がかりな事があります。いつか、何もかもが私たちの敵に回るような、そんな日が来たらと」


提督「恐らく来るよ?」


扶桑「えっ?」


提督「そのつもりでいる。だから心配しなくていいさ」


―それ以上何かを聞くのははばかられる気がした。提督の眼に、眼下の広い海と、霞たなびく空が映っている。


提督「アフリカにいた頃、途中からは自分の心にしか頼れなくなっていたんだ。あの日々に自分を生かし続けた言葉は『全ての敵を倒せ』だった。それは今でも変わらないし、上層部はそれを知っていておれを提督にしている。きっともう、みんなどうしたらいいかわからなくなっていて、うちの鎮守府の戦いの結果で未来を選んでいくくらいのものだろうよ。重く考えることは無い。少しずつ全部倒せば、やがて静かになる。そうだろう?」ニヤッ


扶桑「そうですね」ニコッ


―堅洲島鎮守府に提督以外の人間が居ない理由は、提督の人格を良く考慮した結果のような気がする。そうであれば確かに、提督の言うとおりの状況なのかもしれない。



―同日、ヒトナナマルマル(17時)過ぎ、堅洲島鎮守府、工廠。


―異動してきた艦娘たちは、水上機発着所からエントランスを通り、工廠に来ていた。普通の鎮守府とは何もかもが違う施設の様子に、驚きの声が上がる。


鬼鹿島「ここが、特務第二十一号、堅洲島鎮守府ですか。ああ、私、何て馬鹿な事を・・・これほどの特務に飛び込むような事をしてしまって」


提督「いや、その分全国の艦娘の能力を底上げしてくれたらいい。心が躍らないか?君を通して全国の艦娘が強くなっていくのは」


鬼鹿島「そうですね。こうなった以上、真摯にそうさせていただくしかありませんね」ニコッ


―鹿島は観念したような笑みを浮かべた。


提督「それに、さっきも言ったが、山本の爺さんのすごさはもっともっと強くなってから理解できる。無駄って事は無い。それは間違えないでくれ。これもまた『剣の導き』というやつだよ、きっと」


鬼鹿島「・・・ありがとうございます。では、私から」スッ


―ピッ・・・(パシッ!)


鬼鹿島「えっ?」


特殊帯リーダー音声『総司令部及び青ヶ島鎮守府所属、練習巡洋艦・鹿島、条件付き着任いたしました』


提督「どうした?」


鬼鹿島「いえ・・・今、何か見えた気が・・・」


春風「『幻像』が見えましたか?たまにある事だそうです。それが何であれ、正しい未来に進んでいる時に見えるという噂です。着任してすぐだと、夢として見る場合もあるそうです」


鬼鹿島「そうなんですね?(いくら何でも・・・今のは無いですよね)」


―鹿島には、大太刀を構え、自在に深海の姫らしき存在と戦っている自分の姿が見えた。心なしかその自分は、完全に自分とは言い難い雰囲気を持っており、しかも微かに青白い火花をまとっているようにも見えた。


鬼鹿島(自分の果てのない願望の見せる夢みたいなものです。きっと・・・。でも、こんな幻影を見てしまうくらいには、この方はきっと強いのですね・・・)


―どれほど技を磨いても、練習巡洋艦に過ぎない自分が、深海の姫と戦う機会など無いはずだ。


提督「・・・限界なんて、無いんだからな?戦いたかったらいつでも言ってくれ」


鬼鹿島「えっ!?・・・はい(私の心を見抜いたような事を言うんですね・・・)」


春風「では、次は私めが・・・」スッ


―ピッ


特殊帯リーダー音声『駆逐艦・春風、異動・着任いたしました』


春風「・・・あっ!」


―春風には、何かずしりとした感覚が流れ込んできた。肉体を除いた自分の精神が、急に密度が増したような、そんな妙な感覚だった。


春風(何でしょう?何かが漲るような・・・)


浦風「よし、じゃあ次はうちらじゃね!」


―春風は浦風たちの様子を見ていたが、特に何か変わった雰囲気は無いように見えた。



―同じ頃、横須賀総司令部、第二参謀室。


―厳重なセキュリティで守られた広い部屋の中、何も映っていない巨大なモニターパネルを前に、浅黒い肌に精悍と言ってもいい顔つきの、士官服の男が不機嫌そうに直立待機していた。その眼は闘争心か怒りか、ギラついた棘のある光を宿している。男は声にあえて不機嫌さをまとわせつつ、口を開いた。


横須賀の提督「新年早々こんな時間に何ですかな?突然の大規模作戦で多忙の極みなのだが・・・」フゥ


―ヴン・・・パチッ


―声に反応したのか、定時なのか、モニターに電源が入り、三分割された画面に三人の参謀が映し出された。左から、白髪交じりの軍人然とした短髪の男、中央は青白い肌に長髪の若い男、右はかなり太った、商人然とした剥げた中年の男だ。


長髪の若い参謀「小林提督、いささか耳障りの良くない私語が聞こえたが・・・」フッ


―あざけるようなため息とともに、若い参謀は笑った。


横須賀第一の提督改め、小林提督「これは失礼いたしました。神尾第二参謀室長」


太った参謀「大晦日からここまで、急な作戦により休息も何もない。悪態もつきたくなるというものだろう。しかし、声に出すのはいかがなものかねぇ?」ニコニコ


―太った参謀は小林提督に同意するように笑っているが、その細い眼の奥の表情は嘲笑的でさえあった。


小林提督「申し訳ございません、高橋参謀」


軍人然とした参謀「些事はいい。時間がない。・・・本題に入るべし」


小林提督「はっ!恐縮です。豊田参謀」


神尾参謀室長「君はこれから精強な艦隊を編成して出撃し、伊豆大島の真東、沖合100キロ付近を哨戒し、その海域にて密会している艦娘たちを全て撃滅・捕獲し給え。造反者たちだ」


小林提督「・・・は?(なぜそれを?まさか・・・!)」


―小林提督は驚愕で動けなくなった。それは今まさに、自分が密かに出撃準備をしていた案件だ。拳銃は無く、部屋にはおそらく鍵が掛けられている。


小林提督(全てバレているのか?どういう事だ?)


―動揺を隠していたが、じっとりと汗がにじむ。三人の参謀たちは、やや楽しげにも見える雰囲気で沈黙し、小林提督を見ていた。


神尾参謀室長「・・・くっ!ふふふ!我々は『味方』であり、君の同士だ。しかし、実に良い表情をするな」ニヤニヤ


―この言葉に、迂闊に返事は出来ない。


豊田参謀「している事の悪党ぶりからは信じがたい慎重さであるな・・・」フッ


小林提督「・・・私に何らかの嫌疑が掛けられており、それの尋問ですかな?」


高橋参謀「本題に入ろうではないか。年明けとともに、参謀が元帥に返り咲いた。知っての通り、あの男は艦娘を人間扱いしておる。だが、それでは我々は都合が悪いのだよ。艦娘と深海に対する基本的な思想を異にする我々第二参謀室は、遅かれ早かれ不要とされるだろう。それでは、我々が進めていた多くの事が頓挫し、人類が救われたとしても、我々の望む多くのものは失われてしまう。そこでだ・・・」


―代わりに豊田参謀が続けた。


豊田参謀「参謀・・・いや、元帥の切り札、特務第二十一号の評価を地に落とし、ゆくゆくはそこの提督を解任する必要がある。この為、命令をあえて二重発令し、君に花を持たせる、という方法に至って、君はここに呼び出されたわけだ。かねてより・・・」


―次に神尾第二参謀室長が続ける。


神尾第二参謀室長「君は我々の工作に自分の悪事を重ね、上前をはねるのに長けている。今回は正式な命令、正式な役得としてこれを行ってもらおう。我々はすでに負けて久しい。今更蚊程の反攻をするより、優れた技術を吸収し、人類をよりよい未来に導けばよいだけの事だと考えているのだ。艦娘も深海も無い。人類に有益であればそれで良いのだ」


小林提督「・・・まるで、あなた方が深海に通じており、私もそうだと言っているように聞こえますな」


神尾第二参謀室長「フッ。それはあくまで君の解釈だ。まあいい。その慎重さは嫌いではない。敵が存在したとして、攻撃を防ぐのに最も効率的な方法は、実態を掴ませない事だ。特務第二十一号はその内容も提督もはっきりしない。何より、その存在自体が我々をあぶり出すための罠に等しい。そこで君の出番というわけだ」


小林提督「おっしゃっている事の意味が分かりませんが・・・」


高橋参謀「何のことは無い。君がこっそり進めている下田鎮守府の造反した艦娘たちの案件、これを任務としてこなし、後は君の筋書き通りにしたらよい、という話だ。そうそう、何らかの事故で特務第二十一号の提督の詳細が判明したり、艦娘が轟沈したり、又は提督が不慮の事故で死亡したり、という事も起きるかもしれないねぇ」ニコニコ


小林提督(こいつら・・・私の事を知っていて、汚れ仕事をさせるつもりか!)


豊田提督「では、準備をしてすぐに任務に取り掛かりたまえ。・・・君のこれまでの行いを、我々は把握している。英雄的結末を迎えられると良いな」ニヤリ


小林提督「!!・・・はっ!直ちに!」


神尾第二参謀室長「作戦指示書はすでに君の机に届いている頃だ。それと、本案件の為に潜伏している工作員、コードネーム『シーバード』は、戦線復帰は認められない。君の役得になるように対応し給え。何も残らないようにな」


小林提督「はっ!」


―小林提督は苦虫をかみつぶしたような顔を隠すことなく一礼し、足早に退室した。



―少し後、横須賀第一鎮守府、執務室。


小林提督「いいか大淀、30分ほど、誰も入れるな。それと、例の出撃の準備を進めておけ、すぐに出る!」


大淀「諒解いたしました!」バッ


―大淀は空気を読んだのか、すぐに退室していった。


小林提督「・・・くそっ!・・・くそっくそっ!!くそったれめが!」ガンガンガスッ・・・バンッ


―小林提督は執務机を何度も蹴り、机の上に置いてある機密書類の袋を叩きつけた。


小林提督「何で漏れていやがるんだ!何であいつらが知っていやがるんだ!深海の奴らめ!みんなグルでおれを利用し倒すつもりか!クソどもめが!見ていろ、体よく使い捨てになどできなくしてやる!良いところだけ取って、必ず生き延びてやるぞ!手始めに、特務第二十一号の提督は事故に見せかけて行方不明にしてやる!それが奴らの望みならな!」ギラッ


―優れた提督は既にだいぶ少ない。特務のくせに何かと噂の二十一号の提督を葬り去れば、提督としての適性が低くない自分は、それだけ利用価値が上がるはずだ。深海が勝ちさえすれば、自分の地位は安泰なのだ。そうでなければ、千を超える罪がやがて自分を裁いてしまうだろう。



―同じ頃、横須賀総司令部、第二高次戦略解析室


神尾第二参謀室長「フッ、まさか本当だったとはな。奴の顔と来たら傑作だったな。意外なところに味方が沢山いるものだ・・・そうだろう?」


―参謀室長はビデオ通話の『Sound Only』と表示された画面に話しかけた。ボイスチェンジャーにより、男性とも女性ともつかない声で返事がある。


??「あれは便利だが、新たな時代には必要ない。しばらくは無理な汚れ仕事にはうってつけの人材だ。おのれの保身のために、身をとして任務に当たるであろう。・・・では、任務結果を期待しているぞ」プツッ


―参謀室長の机の上には、『バニッシュプラン』と銘打たれた、総司令部のものではない作戦指示書が置いてあった。


―『内部の敵』が動き出し始めていた。



―ニーマルマルマル、堅洲島~伊豆大島沖合間航路、特務司令船『にしのじま』艦橋司令室。


―呼び出された艦娘たちが集まっていた。


提督「さてと、現時刻より特務案件『SR』を開始する!本案件の最優先目標は、下田鎮守府の造反したとされる艦隊、またはその周辺にいると考えられる、深海化した艦娘または利敵工作活動を行っている者の特定と、その撃滅または確保だ。状況は全てを読み切れてはいないため、標的も目標も不確定となる。誰が深海化しているかも不明だ。この為、こちらは四段構えで対策を取る」


―提督は最悪の事態までを想定した編成を行った。直接交渉・情報交換する艦隊、不測の事態に備えるための伏兵、そしてさらに、より状況が不利になった場合の秘匿艦隊・・・。


提督「まず、当初の予定より少し編成を変え、鳳翔、赤城、五月雨、妙高、羽黒、叢雲を第一艦隊とする。夜間でも空母を編成している点だが、まず鳳翔、君は誰とでも落ち着いた話ができる。状況をよく聞き取り、彼女たちの動揺を軽くしてやってくれ。叢雲は首席秘書艦として、おれの代理。サミちゃんも敵意が無い前提で。妙高さんとはぐちゃんは、話のサポートと、万が一夜戦に突入した場合の火力担当で頼む。旗艦は鳳翔。状況発生時は赤城を旗艦とする」


鳳翔(なるほど、龍驤もいますし、そうですね)


赤城「あの、私が編成されている理由は・・・」


提督「可能であれば、話の不自然な点に注視し、罠や工作を見破って欲しい。また、乱戦状態になった場合の指揮も頼む」


赤城「私をそのような役割に?諒解いたしました!(これは、私の能力の評価と、信用を示してくれているのですね・・・?)」


―赤城が知る限り、叢雲は提督と、この鎮守府の大切な艦娘のはずだ。その叢雲を含んだ艦隊を赤城に預けるという事は、深く信頼するつもりである、という意思表示を兼ねている。


提督「次、第二艦隊。足柄、餓狼戦隊を組み、鳳翔・赤城の艦隊の後方に完全通信規制で待機。連絡は秘書艦用スマートフォンの秘匿回線で行う。赤城やおれの指示に従い、必要があれば敵を撃滅だ」


足柄「燃えるわねぇ!諒解いたしました!」


提督「次っ、第三艦隊、霞を旗艦とし、磯風と伊藤19、伊58、伊168、伊8の編成にする。これは完全な伏兵だが、戦闘が想定より大規模になった場合は、足柄の指示を聞き、最も有力な敵勢力に集中攻撃せよ」


霞「わかったわ。最悪の場合の状況立て直しね?」


提督「そういう事だ。難しい指揮になるかもしれないが、即断で動いてくれ」


霞「私を誰だと思っているのよ?任せておきなさい!」ニコッ


提督「わかっている。ただ、無茶はしないでくれ。最悪の場合、やたら高火力な艦隊でさらに支援するつもりだからさ」


―この時点でも、陸奥、金剛、榛名、扶桑、山城はまだ編成から抜けている。何者が現れるかわからないために、切り札は隠しておく必要があった。


初風「雨が降り出してきたわ。今夜は冷たい雨になるみたいね・・・」


提督「冬の雨か。果たしてどうなる事か・・・」


―春風には、まだ金山刀提督と瑞穂の事も、特務第七の川内の事も話していない。


鬼鹿島(何だろう?胸騒ぎがする・・・)


―鹿島には、自分が何かとても大きな事、非現実的な事に巻き込まれてしまったような、妙な感覚がまとわりついていた。



―同じ頃、太平洋上、伊豆大島沖合付近。


―下田鎮守府に所属していた、飛龍、蒼龍、摩耶、鳥海、龍驤、夕立、長月の艦隊は、予定よりだいぶ早く、特務第二十一号との合流地点に来ており、広範囲を手分けして索敵していた。万が一の場合に備えての事だ。


摩耶「緩衝海域の深部まで見てきたけど、深海の奴らは動きが無いようだぜ?噂の大規模作戦のせいなんだろうな」


龍驤「その辺は運が良かったけど、なーんか、ウチ、胸騒ぎがするんや・・・」


飛龍「敵意が無い事を示すとはいえ、肝心の私たちが戦えない夜だもの。無理もないわ」


龍驤「んー、それもあるけどな・・・」


―龍驤には二つ、気がかりな事があった。一つは、蒼龍と高雄、愛宕の事だ。戦闘中行方不明になった時間のある艦娘は、稀に深海化していることがあるという、根強い噂。そしてもう一つは・・・。


鳥海「おそらく、深海側の何らかの動きがある可能性はほぼないでしょう。あとは特務第二十一号とコンタクトを取って、私たちと提督の潔白を信じてもらい、何とか保護してもらうだけです。きっと何とかなります!」


摩耶「・・・お、おう!だよなぁ!」


龍驤(ウチな、総司令部から来た君が何でかずっと信用できないんや。何か絵を描いとらん?)


―下田鎮守府の艦娘のうち、鳥海だけは総司令部からの異動組だった。裏方に徹しているようでありながら、肝心なところでは今回の件も全て鳥海の発案によるものだ。龍驤にはその部分が気になっていた。


―ポツ・・・ポツ・・・


―冷たい雨が降りだして来ている。


龍驤(嫌な雨やな・・・。こんな雨の夜に裏切り者扱いされて沈むのだけは堪忍やで・・・)


―提督が行方不明になったあたりから、最悪の場合の想定はしている。だが、せめて沈み方くらいは選びたいと龍驤は考えていた。


飛龍(どうか・・・どうか誰も気づかないか、何とか救われるように・・・)ギュッ


―飛龍もまた、胸に秘めていたことがあった。


―ザアァ・・・


―冷たい雨は激しさを増し始めていた。



第五十七話、艦



次回予告


冷たい雨の中、提督の指示により、時間より早く合流地点に向かう堅洲島の艦隊。


下田鎮守府の艦隊と堅洲島の艦隊は互いに敵意の無い事を確認し、今後について話し合おうとするが、その時、予想外の艦隊が急襲してくる。


緊張と乱戦の末に幾つかの真実が明らかになり、裏切りと絶望、悲しみが訪れる。


絶望的な状況が展開していくかに見える中、堅洲島の提督は即興で全てを整え始め、状況が再び変わり始めていくが・・・。



次回『涙と雨・中編』乞う、ご期待!



飛龍『提督、いつまで私たちを着任させないんですか?私たち、ファンがすごく多いんですよー?』


提督『わかってるけど、これは苦労しながら仲間を増やしていく物語でもあってだな・・・』


飛龍『ふーん?そんな事言うと蒼龍を呼んであれをやってもらいますよ?』ニコッ


提督『何だと?ダメだ!あれはやめてくれ!』


蒼龍『・・・呼びました?』ニコッ


提督『いかん!』


飛龍『ねぇ、蒼龍、提督に私たちを早く着任してもらえるように、あれをやって!』


提督『ダメだ、やめろおぉぉぉぉ!』


蒼龍『提督、早く私たちを着任させてくださいよぅ!でないと・・・やだやだぁ!』フルフル・・・ジワッ


提督『くっ・・・やだやだは禁止したいが、見たくもある!』


叢雲『何を遊んでるのよ・・・』



後書き

浴衣の綾波ちゃんが百式機関短銃を装備してきましたね。いやはや。

イベントを現在甲で攻略中です。E3を今日中に抜けたいのですが、今回のは難しそうですね。

皆さんはどうでしょうか?キラ付けしつつSSを書いていたりします。


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