2016-10-17 06:00:14 更新

概要

提督といろいろ話し、あふれる涙を止められなくなる金剛。
遂に、堅洲島に異動することを決意する。
そして、青ヶ島鎮守府の鳳翔の店で盛り上がる秘書艦たち。

提督のまさかの手腕に驚く横須賀本部と、参謀。
そして、女科学者には提督との接触許可が出る。

そしてついに、『敵』が少しずつ姿を現し始める。


前書き

金剛と提督のやり取り、泣き虫な金剛、
鳳翔さんのお店での秘書艦たちの感想がそれぞれ違うところ、
珍しがられて悪酔いする初風、
科学者と大淀のやり取り、
提督の正体についての仮説、

そしてついに出てくる敵側、

と言ったところが見所です。

このSSでは、艦娘は提督の影響を受けて、言動や身体が微妙に変化する設定です。


[第十三話 金剛石は砕けない・後編 ]




―青ヶ島鎮守府、深夜、『飲み食い処・鳳翔』


―途中から他の艦娘も加わり、相当盛り上がっている。


比叡「・・・じゃあ、今日来てくださってる秘書艦の皆さんて、みんな提督と特殊なかかわりをお持ちなんですね!」


陸奥「特殊と言えば、そうかもね。私は七光り提督の罠で、艤装爆発事故に見せかけて轟沈させられかけたところを、提督に助けられたし・・・」


磯波「私は、もう一人の仲間と捨て艦されたところを、提督が捜索任務を受けて下さって助けられて異動扱いになりました」


初風「私は、たらい回しの上でやっと今の鎮守府に落ち着いたと思っているの」


霧島「なんだか、艦娘を引き寄せているような・・・不思議な方ですね」


陸奥(言われてみれば、そうね。私は建造だったけど、不思議な引力みたいなものを感じる時がある。うまく表現できないけれど・・・)


榛名「あの・・・こんな事、榛名が言える事ではないんですけれど、もし、今回のお話で金剛さんがそちらに行く事になったら、よろしくお願いいたします。私たちも、提督も、いなくなったお姉さまの存在感が大きすぎて、思い出が多すぎて、どうしても・・・どうしても・・・ごめんなさい」グスッ


陸奥「無理もないわ。だって、例えば私にとっての提督が、事故か何かで死んじゃったとして、何もかもそっくりな人がまた現れたら、どうしていいかわからないもの」


初風「そうよね。人間だったら、心が壊れる人だって居ると思う。あなたたちの提督は、決して弱い人じゃないと私は思うの。それだけ、轟沈した金剛さんの事が大切だったのよ」


磯波「あの、轟沈した金剛さんて、どんな方だったんですか?」


比叡「金剛お姉さまですか?そうね、とっても強くて・・・」


鳳翔「とてもかわいらしい人だったの」


比叡「そう!お姉さまはとってもかわいらしいの!」


初風「かわいらしい?」


霧島「そうね。大規模作戦でも良く旗艦を務めていて、どんな時も動じず、一番強い敵を自分が引き受けて、みんなを絶対に沈ませないのに・・・」


榛名「帰ってくると、提督にダッシュして抱き着いて、震えながら涙目で『すごく怖かったヨ~!』って言うような人でした」


陸奥・初風・磯波(かわいい・・・)


比叡「そういえば、堅洲島の提督さんは、どんな方なんですか?」


陸奥「提督?そうね・・・いつもふざけているけれど、本気を出したらとても強くて獰猛な人ね」


初風(そうなの?)


磯波(ちょっとわかる気がします)


初風「人を不安にさせない・・・というより、安心させる不思議な空気を持っている人ね。それと、様々な事に引き出しが広い感じがするわ。自分の世界を持っているというか・・・」


陸奥(なるほどね)


磯波(そうなんですね)


―ここで、磯波は自分に視線が集中するのに気付いた。


磯波「あっ、私は、もう少しお話したいなって・・・あっ!違います!そういう意味ではなくて、どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、とても分かりづらい人だなって。いい意味でですよ?」


陸奥(確かにそうね)


初風(言えてるわね)


鳳翔「・・・とらえどころのない方、なんですね。でも、皆さんからとても慕われているんですね」


榛名「私たちではどうにもできなかった提督の心を、殴り合いをしてまで動かしてくださって、榛名は感動しました。会ってもいなかった人の心を動かせる方なんて、普通はいないと思います」


比叡「金剛さんの事も、同じように解決していくと良いのですが・・・。私たちにはどうにもできない事だったので」


霧島「心って、自分たちが思っている以上に難しいものだったんですね」


陸奥「・・・そうね。本当にそうだわ・・・」


―陸奥は束の間、遠くを見るような目でため息をついた。


―同じころ、青ヶ島鎮守府、提督の宿泊室。


―提督は金剛に、昼間のケンカの怪我の手当てを受けている。


金剛「傷だらけ、デスね。新しいのだけじゃなく、古い傷も沢山。提督さんは戦場にいたことがありますネ?」


提督「ごめんよ、ノーコメントだな」


金剛「そうでした。戦争経験者は、その経験を語ることを拒否する権利がありましたネ」


提督「・・・・いや、別に、聞かれれば何でも話すよ。でも、そんな事を話すために来たんじゃないだろう?きっと」


金剛「ごめんなさい。そうですよネ。・・・提督さん、私はどうすればいいと思いますカ?」


提督「悩み過ぎて、もう自分では答えを出せない?」


金剛「ハイ。なので、解体申請を出したくらいデス。今もその気持ちはあまり変わらないデス・・・」


提督「そうだろうな。でも、おれは君の望みがわかる気がするよ?可能なら君の提督になるつもりだったのだし」


―金剛は一瞬考え、少しだけ険しい表情を浮かべた。


金剛「・・・ずっと悩んできまシタ。だから、もし、高をくくった事を言われていると感じたら、私も怒るかもしれませんヨ?」


提督「・・・金剛さん「金剛で良いデス」」


金剛「いいデスよ?呼び捨てで」


提督「じゃあ金剛、ここに座って」


金剛「ハイ?」


―提督はベッドわきの椅子を示して、自分はベッドから立った。金剛はいぶかし気な表情だったが、言われたとおりにした。


提督「んで、手を出して」


―金剛は、提督に言われたように、右手を伸ばした。


金剛「何を・・・?えっ?」


―提督は、そっと金剛の手を取った。


―金剛は不思議そうに、掴まれた手を見、次に提督の顔を見た。


金剛「意味が・・・あっ!」


―金剛は、親の表情を伺う子供のような、そんな表情をした。


金剛「・・・私の手を、そうなの?」


提督「・・・そうだよ。だから来た。ついでに、ぶん殴られにな」ニコッ


―金剛の両目が潤んだかと思うと、涙がボロボロと溢れてきたようだった。


金剛「うう・・・提督さん・・・私の・・・グスッ、手を、取ってくれるのネ・・・。誰も・・・誰も私の手を引いてくれる人が居なくて・・・苦しくて・・・寂しくて・・・もう消えたかっタ・・・」グスッ・・・


―金剛はそのまましばらく、泣き続けていた。


提督(どれだけ我慢して頑張っていたんだよ・・・)


金剛「命がけでどんなに頑張っても、提督は辛そうにして・・・比叡達は戸惑って・・・。誰かをそんな気持ちにさせるつもりなんて無いのに・・・。生きていちゃいけないような、自分が偽物みたいな、そんな気持ちになって!辛かったヨ・・・」ポロポロ


提督「そうだよな・・・・君からしたら、本当に理不尽な話なのに、良く頑張ってきたな」


金剛「でも・・・こうして手を取ってくれる人が現れたなら、無駄じゃなかったデス」


提督「それだけの練度に至るまでの努力と、味わう必要のなかった苦痛、無駄になるはずがない。解体で消えるような運命では、はなからなかったんだよ」


金剛「提督さん、私、もし許可が出たら、あなたについて行ってもいいデスカ?」


提督「おれはそのつもり。ここは君の居場所じゃないと感じていたしな。それに・・・来てくれないと、ちょっと殴られ損だな。ふふ」


金剛「私、提督に話をしてきマス!」スクッ・・・サッ!・・・ガチャッ、バタン


―金剛は涙を拭くと、力強く立ち上がり、すばやく部屋を出ていった。


提督「こういうところが高速戦艦だな。切り替えも早い・・・。しかし、良く頑張ったもんだ」


―青ヶ島提督の私室。


―コンコン


金剛「提督、起きていますカ?」


青ヶ島提督「起きているよ。君の事だから、来るかもしれないと思っていたよ。入って大丈夫だ」


金剛「失礼します」ガチャ


青ヶ島提督「何かを決めた目をしているね」


金剛「ハイ。提督、私は堅洲島の提督さんについていきたいデス。ダメなら、解体でお願いします」


青ヶ島提督「わかった。僕も、この鎮守府も、君にとって良い環境では、全くなかった。解体まで希望していた君が行きたい場所があるなら、誰もそれを止める資格なんてない。正式な辞令は明日出すが、もうこの時間から、君の自由にしていい。今まで、本当に済まなかった!」フカブカ


金剛「提督、ありがとうございマス。では明日、また。おやすみなさい」ガチャッ、バタン


青ヶ島提督「・・・本当に、済まなかった」


―再び提督の宿泊室。


―ガチャッ、バタン


金剛「金剛、戻りましタ」


提督「おかえり。もう提督は寝てたんじゃないのかい?」


金剛「起きていました。正式な辞令は明日デスが、この時間から、もう自由だそうデス」


提督「そうか。お疲れ様!歓迎するよ。うちも楽しいぞ?まだ金剛型も一人もいなかったしね。ついでに、一番上の君から着任だから、色々楽なはず」


金剛「それよりも、まだ早いですケド、提督さんの事を色々教えて欲しいデス」


提督「え?おれ?・・・教えるって言っても、何を話せばいいのかわからないが」


金剛「それもそうですネー。じゃあ、あとは明日聞きます。モウ遅すぎだし、私は夜更かしも悲しみもキライだから、もう寝るヨー。おやすみ、提督さん」


提督「えっ?ああ。おやすみ」


―金剛は宿泊室の空いているベッドに横になると、すぐに寝息をたててしまった。


提督(ここで寝ちゃうのかい・・・。色々、限界だったのかな。無理もないか)


―提督も、酒と、昼間のケンカの疲れ等諸々で、すぐに眠りに落ちてしまった。


―その少し後。


提督(ん?なんだ?)


―・・・ック・・・グスッ・・・


提督「・・・金剛、泣いてるのか?(小声)」


金剛「起こしちゃいましたカ?ごめんなさい」


提督「おれは大丈夫。それより、どうして泣いていた?」


金剛「私、ここでは最後まで、何の役にも立てませんデシタ・・・。もう、あなたの所に移るから、未来が見えない苦しみは無いデス。でも、努力してもどうにもならない事もあるのが、悲しくて」


提督「それは半分正しいが、半分外れだな。努力の意味は間違いなくあったと言える」


金剛「そんな事は・・・」


提督「なぜなら、本音で話すと、おれの目的は、ただの高練度の金剛ではなく、ここで、そういう苦しみと悲しみを知った金剛だったからね。会って、話してみて、自分が思っていたより、もっといい子だったのが予想外だが」


金剛「・・・・もう、金剛と呼んでくだサイ」


提督「わかった。・・・見えないところでは、ここの提督や金剛の事を気にかけている誰かが居て、その何人かの人々の考えの結果、ここにおれが来て、金剛も新しい道が開けた。ここの提督も、おそらく希望を持ちなおして戦い続けるだろうよ。それは、君の努力が引き寄せた部分もとても大きいはず。決して無意味ではないね」


金剛「そう思って、いいんデスか?」


提督「いいよ。もう少し自分を認めてやりなよ。そんなに頑張ってきたのにさ」


金剛「私、泣いてばかりで、全然金剛っぽくも、戦艦っぽくもないデスね・・・」グスッ


提督「戦艦の前に、女の子だと思うけどな。ただし、心はとても強いと思う。ここまで頑張れないもんだよ、普通はさ」


金剛「・・・わかりました。嬉しいデス。とっても」


提督「ん。フライングだけど、これは命令。『自分を認めてやる事』いいね?」


金剛「わかりました!提督!」ピシィ


提督「とはいえ、人の心の問題はそう簡単じゃないのも良く分かる。これからは、辛かったら何でも言ってほしい」


金剛「何でも・・・ですか?」モジッ


提督「ん?まあ、おれにできる事なら・・・」


金剛「それなら、提督が眠った後に、くっついて眠ってもいいですか?」


提督「えっ?そうだな、別にいいんじゃないか?おれももう眠気がマックスだしな」ファ・・・


金剛「提督!ありがとうネー!」


提督「じゃあ、おやすみ・・・」ムニャ


―提督は言い終えるとほぼ同時に、深い眠りに落ちた。金剛が立ち上がったあたりで記憶が途切れてしまった。


―金剛は、寝息を立てている提督を静かに見つめた。


金剛(変な人ですネ。戦力として私が欲しいのなら、こんなにボロボロにならなくても済むのに。私の心なんか気にしなくても、兵器としてできる事はするのに。提督と殴り合って、提督に希望を与えて、私の手を引いて・・・私を泣かせて・・・)


―金剛のほほをまた、涙が伝った。ずっと堪えていた涙が、一気に決壊したような気分だった。


金剛(私、ずっと泣かなかったのに、信じてもらえないですネー。これでは泣き虫みたいデス。でも、提督・・・)


金剛(こんな私の手を取ってくれたから、これからずっと、沈まない限り、いつまでもあなたの武運でいます。よろしくお願いしますネ)


―金剛はほとんど心の声のように小さな声でそうつぶやくと、提督のベッドに入り、提督の腕をそっと掴んで、すぐに眠りに落ちた。


―翌日、早朝、マルロクサンマル。青ヶ島鎮守府、秘書艦の宿泊室。


陸奥(ん、いけない、あれから提督の事をほったらかしにしちゃったわ!)ガバッ


磯波「あ、陸奥さんおはようございます!今日も寒いですね」


―陸奥が慌てて起きると、磯波はもう秘書艦服に着替えて、三人分のお茶を煎れていたところだった。


陸奥「おはよう、磯波。早起きだし、私たちのお茶を煎れてくれているなんて、あなたって気が利くし一生懸命よね。提督もきっと、あなたのそういう部分に気づいて秘書艦にしたんだと思うわ」


磯波「ありがとうございます。そうだったら、嬉しいです(ハダカを見られたからなんて言えません・・・)」


??「うう・・・頭がいたーい。ごめんなさい、磯波、陸奥さん」


―隣のベッドの上の布団の塊の中から、初風の声がした。


陸奥「おはよう初風。大丈夫・・・ではなさそうね。こっちの鎮守府、初風がいないし、あなたの経歴も変わってるから、途中からみんなであなたにお酌して呑んでいたものね」


初風「『話したらご利益がありそう』って、嬉しいけどちょっと複雑。私はツチノコか白蛇みたいなイメージなのね」


陸奥「でも、ここのみんなが落ち着くまで対応していたあたり、あなたも相当気が良いわね」


初風「だってあんなに、『縁起が良さそう』とか『轟沈しないで済みそう』とか、実際に戦いに行く子たちに言われたら、断れないじゃない?ちょっとのジンクスだって、戦場には大切だもの・・・うう、しばらくお酒、呑みたくない」


陸奥「堅洲島に戻れば、提督スペシャル麦茶があるから、二日酔いも早く治るのだけれど。この後の予定も確認したいし、提督と打ち合わせをしたいわね」


磯波「あの、さっき提督を起こしに行ったんですけど、ちょっとどうしたらいいかわからなくて」


陸奥「どういうこと?」


磯波「提督の隣に、たぶん金剛さんだと思うんですけど、一緒に寝ている人が居て・・・起こしてもいいのかどうか、分からなかったんです」


初風「なんですって?」ガバッ


陸奥「(あら、起きたわこの子)・・・あらあら、馬鹿な事を聞くけど、まさか二人とも裸じゃないわよね?」


磯波「寒いから布団を深めにかけていたので、そこまではわからなかったです。でも、そういう事もあるのかなと思って、声を掛けられなかったんですよね・・・」


初風「いたた。さすがにそれは無いはずね。提督はそういう人ではないもの。金剛さんが、きっとすごく、辛かったのよ」


陸奥「私もそう思うわ。あまり無粋な感じにしても良くないし、起きてくるまで待ってましょ?」


磯波(みんなすごい信用しているんですね、提督の事)


初風「陸奥さんが言うとすごく説得力があるわ。やっぱり、実際に一緒にくっついて眠ったことがある人がそこまで言うと、全然違うわね」


陸奥「でもそれ、考えようによっては私に全然魅力が無いみたいにもなっちゃうから、ちょっと複雑なのよね。ふふ」


初風「そういえば、提督、陸奥さんが帰ってくる前に、「むっちゃんのスタイルはとてもいいと思うぞ」って言ってたわよ?」


陸奥「えっ?あらそう?あの人、あまり大きい胸は好きじゃなさそうだから、気になっていたのよね」


磯波「あ、私も聞きましたよ?陸奥さんはバランスがいいそうです」


陸奥「もー!私が居ない時に何を言ってるのかしら!でも、それはとても嬉しいわ。うふふ。帰ったら、二人に間宮さんの所で何かご馳走させてくれるかしら?」ニコニコ


初風「えっ?ありがとう(凄く嬉しそうね)」


磯波「はい、ありがとうございます!(わあ、陸奥さんとても嬉しそう)」


―同じ頃、提督の宿泊室。


提督「・・・ん、朝か」


―提督は、右腕に感じる温もりと、静かな寝息、そして、良い香りで、金剛の事を思い出した。横を見ると、金剛は腕に抱き着いたまま、まだ眠っている。


提督(あの後も泣いていたのか)


―金剛の眼尻やほほに、涙の跡が残っていた。艤装を外して寝ている姿は、どう見ても普通の女の子だ。いや、普通より遥かに魅力的な、か。


提督(これ以上は泣かせたくないな。・・・おれの事だって、どこまで信用していいか、まだ分からないはずだ。この子なりに自分の未来を信じてついてきてくれるんだ。絶対に無理はさせられないな・・・)


―提督は金剛の頭に、そっと手を置いた。


金剛「・・・ン?提督、撫でてくれてるの?おはようございマス」ファ


提督「あ、勝手に触ってごめん。あの後も泣いていたように見えたからさ」


金剛「イイデスよ。今はそういう時間と場所デス」


提督「ん?何のことだ?」


金剛「・・・何でもないデス」


提督「ふむ?」


金剛「提督は、何時ごろにここを発つ予定ですカ?」


提督「秘書艦や、ここの提督との打ち合わせ次第だが、昼前後だろうかな?それくらいで考えているよ」


金剛「わかりました。私はいつでも出られますからネ」


提督「やたら準備が早い・・・ああ、解体の予定だったからか」


金剛「ハイ。じゃあ、私は一旦、自分の部屋に戻りますね」


提督「わかった。正式な辞令と合わせて、そっちの提督から何かアナウンスもあるだろう。では、また後で」


―金剛と提督は、身支度を整えた。


金剛「提督!」


提督「ん?」


金剛「呼んでみたかったんデス。では、後でまた会えるのを楽しみにしていますネ」


提督「ああ、また後で」


―金剛はドアを開けて部屋を出ようとした、が、ターンして提督に抱き着いた。


提督「おわっ!」


金剛「やっと提督に抱き着けました。じゃあ、また後でネー!」


―金剛が廊下の曲がり角から消えて少し後に、陸奥たち秘書艦が来た。


陸奥「おはよう、提督。彼女、元気になったみたいね。随分楽しい夜を過ごしたのかしら?ふふ」


提督「まーたそんな事を言う。わかってて言っているんだろう?あれはすごい頑張り屋だよ。よく耐えていたと思う。涙が雨のようだったよ」


初風「じゃあ、うちの所属に?」


提督「正式な辞令はこの後出るだろうが、そういう話にまとまったよ」


磯波「良かった。みんな、金剛さんの事を心配していましたから」


提督「結構打ち解け合ったみたいだな。一緒に呑んだんだろう?ここの子たちと」


陸奥「そうね、たまにはこんなのもいいわよね。初風は大変みたいだけど」


提督「何で初風が?そういや、顔色が悪いな」


初風「うーん、なんか、ご利益があるとかで沢山の子たちにお酌されたのよね。珍しいという理由で」


提督「ゲン担ぎは大事だからなぁ。でも、それに付き合うあたり、意外と優しいんだな」


初風「艦娘は提督の影響を受けるというから、私にも影響が出ているんじゃないかしらね」


提督「なんにせよ、みんなそれなりに楽しめたのかな。磯波は?」


磯波「あっ、はい!わたしも楽しかったです。やっぱり、どこも結構楽しそうにしているものなんですね」


提督「そりゃそうだよ。でなきゃ、戦いなんてやってられないさ」


―マルハチマルマル、青ヶ島鎮守府、執務室。


青ヶ島提督「そうか、金剛はもうそんなに、君に懐いてしまってる感じに」


提督「いや、それだけ心が限界だったんだろうよ。ずっと泣いていたからな。わずかなよりどころでも、必要だったんだろうさ」


青ヶ島提督「そうか・・・本当に申し訳ない事をした。解体を何とか回避して、君が来てくれて、本当に良かったよ。辞令はこの後貼り出すつもりだから、彼女を大切にしてやってほしい」


提督「了承した。で、この鎮守府と君自身はどうする?」


青ヶ島提督「僕は君の仮説を信じて、金剛を取り戻す。提督は辞めず、この鎮守府は金剛の席を空けて、彼女以外の金剛の着任は無しでやっていく。鍛えに鍛えて、勝ち続けて、必ず見つけ出し、取り戻す!」ギュッ


提督「良い答えだ。うちはまだ弱小だが、いずれ必ず一緒に戦う時が来るだろう。その時はまた、よろしく頼む」


青ヶ島提督「何から何まで、ありがとう。ところで、一つ聞いていいかな?」


提督「なんだい?」


青ヶ島提督「君は何のために戦っているんだ?ただ提督をしているだけには、とても思えない。何か理由があるのかい?」


提督「理由か、特にないかな。ただ、自分の役割があるように感じる、それだけだよ」


青ヶ島提督「良い意味で、変な男だな、君は。一晩でここの様子をこんなに変えてしまうし。良かったら、たまに遊びに立ち寄ってくれ」


提督「そうだな、今後は殴り合い以外で。ふふふ」


青ヶ島提督「全くだ!本当にありがとう!お陰で目が覚めたよ」


―少し後に、辞令が貼りだされた。


辞令「高速戦艦・金剛、本日ヨリ当鎮守府カラ、堅洲島ニ異動トスル」


―そして、昼過ぎ、青ヶ島鎮守府港、水上機発着所。


―ほとんど身の回り品しか入っていない紙袋を持って、金剛は水上機の前に立った。


比叡「お姉さまと呼べなくて、本当にごめんなさい。最後まで何もできなくて。でも、あなたの武運を祈っています。違う私たちのお姉さまになって、ずっと生き延びてください」


榛名「新しい居場所で、本当の姉妹と出会えることを、榛名も祈っています。ご武運を!」ジワッ


霧島「お互いになじめなくてこうなった事は悲しいです。けれど、『本当の居場所』を見つけることは、本来とても難しい事だと思います。これから行く鎮守府が、あなたにとっての本当の居場所になるように、祈っていますね」


金剛「みんな、ありがとう。でも、私の事はもういいんデス。提督の大事な人、あなたたちのお姉さんだった金剛を、必ず取り戻してくだサイ。いつかきっと、そんな戦いの時に、私も力になるネ。それに、会ってみたいの。みんなが慕う金剛に」


吹雪「金剛さん!私、ずっと応援してます!解体にならなくて、行くところが見つかって、本当に・・・本当に・・・良かったぁ」グスッ


金剛「吹雪、いつも気にしてくれてありがとう。あなたの武運長久を祈っていますネ。絶対に沈まないで」ギュッ


提督「さて、別れの挨拶は済んだかな?そろそろ帰ろうか」


青ヶ島提督「堅洲島の提督、今回は何と礼を言えばいいのか。深甚に思うよ、ありがとう。次からは「鉄の提督」らしいところを見せる!期待していてくれ。それと、金剛、武運長久を!決して沈むな!」


金剛「ありがとうございマス。お世話になりました」フカブカ


提督「わかった。期待しているよ。もう殴り合いはごめんだしな。・・・あと、これを」ポイッ


青ヶ島提督「ん?これはなんだ?宝石、かな?」パシッ


提督「そいつはダイヤモンドの原石だよ。ここの建造システムの修理なり、助け出した金剛に本物の指輪を贈ってやるなり、好きに使ってくれ。金剛石と金剛の交換だから、実にフェアなトレードだろう?ここまで練度を上げたのは、ここの鎮守府なのは間違いないしな」


青ヶ島提督「なぜこんなものを?」


提督「不審船がらみの任務での、正式な報酬だよ。だから気にせずに受け取ってもらって問題ない」


青ヶ島提督「わかった。いただいておこう」


提督「じゃあ、そういうことで、金剛はもらっていくぞ」グイッ


金剛「あっ、提督!」


―提督は左腕を、金剛の肩を包むようにまわし、右手で水上機の取っ手を掴んだ。まるで、金剛が連れ去られていくような絵面にも見える。金剛がちょっと嬉しそうなのを除けば、だが。


―水上機のハッチがゆっくりと閉まり、港から飛び立った。吹雪ら、何人かの艦娘はいつまでも手を振り続けている。


榛名「変な方でしたね、提督」


霧島「銃を持った艦娘たちを従えた、悪の秘密組織のボスみたいでしたね、最後」


比叡「でも、さらわれた先で金剛さんは、きっと今より沢山笑える、そんな気がします」


青ヶ島提督「不思議な男だ。ケンカして、寝転んでから話をする彼は、誰よりも他人を気付かえる優しい男のようだが、さっきの彼は霧島の言うとおり、まるで大悪党のような雰囲気さえある。あんな男もいるんだな」


高雄「それに提督、あの方、相当強いですよね?」


青ヶ島提督「おそらく強い!ケンカを思い出すと、少なくとも複数の格闘技の心得はあると思うが、あれだけ殴り合ってもケンカに終始して、自分のスタイルを出さなかった。彼は殴り合いながら、僕を諭していた気さえする。そんなことが出来るくらい、強いって事だよ」


吹雪「なんだろう?何かが動き始めているような、そんな気がしますね」


青ヶ島提督「そうだな。そうなのかもしれない・・・」


―水上機『わだつみ』内部。


磯波「皆さん、コーヒー入りました!」


陸奥「ありがとう、いただくわね・・・あ、これ提督仕様ね?」


初風「うう・・・具合悪いけどいい香り。いただくわね」


提督「ふぅ、やはりコーヒーはこれだな。クリスマス前に胸に引っかかっていた件が片付いてよかった。あやうく金剛ちゃんが解体されるところだったよ。あ、金剛はコーヒーは嫌いなんじゃなかったっけ?」


金剛「前の鎮守府では気を使って紅茶もあまり飲めなかったので、コーヒーばかりでシタ。でも、あまりおいしいと思ったことは・・・アレ?おいしい・・・」


提督「お、コーヒーの味の趣味が合うね。でも、紅茶に期待しているよ。うちの鎮守府では、もう今までの事は忘れて、好きに過ごしたらいいさ」


金剛「提督、期待してて下さいネー!美味しい紅茶を淹れますヨー!」


初風「う・・・だめ、もう限界。この絶妙な揺れが・・・」ダッ!


―ガチャッ、バタン・・・・ウッ、オロロロロ・・・・


陸奥「あらあら・・・」


磯波「あっ、私、介抱してきますね!」


提督「あいつもなんだかんだで、うちの子っぽくなってきてるな、このいま一つしまらん感じが」


―同じころ、横須賀。対深海勢力特殊作戦総司令部、特殊帯通信室。


大淀「はい、わかりました。もう退職願は取り下げで、ですね。はい。ありがとうございます。金剛の移籍の処理は速やかに致します。それでは」プツッ


大淀「・・・どういうこと?」


―数分後、同施設内、フレーム観測室。


女科学者「ビックリね。青ヶ島鎮守府の提督さんは続投で、金剛は堅洲島に移籍かぁ。大したものね、あの提督。やっぱり一度会ってみたいなぁ」


大淀「たった一昼夜でこんな状況にしてしまうなんて、まだ信じられません。何だか、提督同士で殴り合ったみたいですけど、意味が分かりません」


女科学者「提督同士で?それで、今日はこの結果に?変な人ねえ。夕方以降に金剛の着任手続きをしたら、フレームを確認してみたいわね」


大淀「青ヶ島鎮守府の提督さんは、失った金剛を取り戻すまで、提督を辞めず、積極的に戦うそうです」


女科学者「そっか、堅洲島の提督、自分の説を推したのね。あながち外れではないもの。見て、これを・・・」


―女科学者がパネルを操作すると、かつての青ヶ島鎮守府の金剛のフレームが、海のような青い光の中に表示された。


大淀「そんな!これは!」


―金剛のフレームは、以前と同じ高い輝度のままだった。しかし、水平線より下には、どこまでも長く暗いフレームが伸びていた。その色は時に深海のように、時に血の混じった闇のように、禍々しく不気味に色合いを変えている。


女科学者「おそらく初めてリアルタイムに観測された『深海化』よ。一年前にフレームシステムを実装して初めて観測された、ね」


大淀「じゃあ、本当に彼女は死んでいないんですね」


女科学者「轟沈からのロストなら、どちらにもフレームは伸びないもの。彼女の魂や記憶は眠り続けたまま、彼女と真逆の何かに変わってしまったのよ。おそらくだけれどね」


大淀「元に戻す方法は、あるんですか?」


女科学者「ううん。いまのところは、全く分からないわ。堅洲島の提督と、このあたりも一度話してみたいのよ」


スピーカー「館内放送、館内放送。大淀と科学者はお手すきになりましたら、参謀室に来てください。参謀がお呼びです」


大淀「参謀が?」


女科学者「何かしら?」


―数分後、同施設、参謀室。


参謀「忙しいところすまない。青ヶ島鎮守府の件は私も聞いたよ。まったく、予想外の男だな、あの提督は。ところで、ここにも政府にもあの提督の情報が無い理由の見当がついたよ」


大淀「えっ?あの提督の情報はここにもなかったんですか?」


女科学者「ここにも政府にも?という事はあの提督はもしかして、個人情報・履歴の抹消・更新の資格保持者という事ですか?」


参謀「鋭いな。そうだ。しかも最低でも二回、この資格を取得しているようだ」


大淀「すいません、どういうことですか?」


参謀「中国戦線から施行された法律だが、戦場で敵勢力の多数の死傷を伴う、大きな功績を上げたものは、敵国の勢力やそれとつながる国内の売国奴どもや、脳内花畑の連中からの批判をかわし、身を守るために、学歴や名前等、全て無かったことにして変更できる。履歴書や有資格は国が厳格に査定して、以前と同じバランスや内容に再構成されるのだ。これを二回以上受けたものは、非常に面倒な手続きを経ないと、元の情報にアクセスできないほど厳重に管理される。彼はおそらく、そういう人間だ。『姫』でなければ見つけられなかったろう」


女科学者「なるほど、それなら辻褄が合いますね。でも大淀、堅洲島の提督ってそんな強そうな人なの?」


大淀「いえ、全然軍人っぽくはないですよ?身体は鍛えてあるようですが。親しみやすくて話題の豊富な方です」


参謀「そうなのかね?それで実際に私の見当通りだとしたら、予想以上にできる男だが」


女科学者「大淀の男を見る目なんて、あてにならなさそうだからなぁ・・・」


大淀「あともう少しで三十路に手が届くのに、男性経験が全くないあなたに言われたくはないですね」ムスッ


女科学者「いやー、やっぱりケッコンまで行った艦娘は言う事が違うわ。いいわね、色々経験出来て」ムカッ


大淀「わっ、私もそんな経験ありません!指輪をもらって、つける前に鎮守府が壊滅して、死にかけたんですから。今でも提督の事は慕っていますが、もう無理なのも分かっています・・・」


女科学者「えー、決定的な事は無くても、ケッコンするくらいなんだから、多少は色々あったんじゃないの?」


大淀「多少は色々・・・ですか」ボッ


女科学者「あーもう言わなくていい。私の負けだよどうせ。チクショー!」


参謀「・・・話は済んだかね?ところで、君が希望していた、堅洲島の提督との接触の件だが、情報レベル的にもあまり問題が無くなってきたので、連絡を取って研究に役立てたまえ。必要なら、鎮守府に行って来ても構わんよ。現時点での研究はもう、頭打ちなのだろう?」


女科学者「わかりました!行ってきます!」


大淀「参謀、いいんですか?こんな欲求不満で私欲にまみれた人を派遣して」


女科学者「んなっ!」


参謀「それなんだがね、彼の仮説によると、彼は艦娘には手を出さないはずだ。しかも離島で、歓楽街も無いと来ている。科学者君、君、清潔にしていれば満更でもないのだから、彼のカウンセリングをしながら、性的ストレスが溜まっているようなら、君が何とかしてあげたまえ」


女科学者「はい。・・・・ええっ?それとんでもないセクハラ発言ですよね?」


参謀「そうしないと自分を被検体にできないはずだが。申請時の君の希望はそうだったろう?そもそも、年頃を過ぎかけているのだ。花は咲いているうちに摘まれるべきだと思わないかね」ハァ


大淀「参謀、もしかして、娘さんのお見合い・・・」


参謀「なぜわかるんだ?昨日で72連敗中だよ。まったく、門限や男友達の件など、厳しくし過ぎたのだ。家内には何度も言ったのだがな・・・」


女科学者(あ、これめんどくさくなるやつだ)


大淀(うわぁ、今日はどれくらい話し続けるんでしょう?)


―大淀と科学者が自分の仕事に戻れたのは、それから2時間後の事だった。


―再び、水上飛行艇『わだつみ』内。


陸奥「堅洲島が見えてきたわね」


金剛「意外と大きい島なんですネー!」


初風「何日か前にこうして降り立った時と、今は全然違って見えるわ。不思議な感じ」


磯波「空から見るの、初めてです!」


提督「明日はクリスマスか。なんだかんだで息つく暇も無かったから、クリスマスと大掃除を終えたら、少しだけゆっくりしたいもんだな」


陸奥「あら?里帰りとかしないのかしら?」


提督「いや、特にそんな予定は決めてないかな。あまり、里帰りとかしないほうだ。何があるかわからないし、やる事も沢山あるからね。この島の神社に初詣くらいは行くかな」


―『わだつみ』のアナウンスが流れた。


―自動航行モード、間もなく着水シークエンスに移行します。搭乗している方は着席の上、ベルトの装着をお願いいたします。規定人数の着席・ベルトの生体認証を終えないと、本機は着水できません。


―既に港には、『わだつみ』を見たのか、何人か出迎えが出てきているようだった。


―堅洲島鎮守府、水上機発着場所。


漣「ご主人様おかえりなさい!聞きましたよ、金剛さんを連れてきたんですよね。こう、殴って奪い取ってきた感じですか?」シュシュッ


提督「いやいやそんな感じじゃ・・・(シャドーボクシングかな?)」


金剛「そうなんです。提督は向こうの提督と殴り合いをして、私を連れ去って来ちゃったんですヨー!」


提督「あれ、ノリがいいな?」


曙「大淀さんから通信があったわよ?クソ提督にしてはやるわね。ちょっとだけ、金剛さんを歓迎する雰囲気にしといたわ」


提督「そうかい?ありがとう!」


霞「あーあ、みんなが騒いでるから見に来てみれば、思ったよりボロボロにされてるじゃない!でも、辞意をひるがえさせて、金剛さんを連れてくるなんて、その部分は認めてあげるわ。次はもっと怪我しないようにしないとダメよ?」


提督「お、優しいね、わざわざ出迎えなんて。ありがとさん!」


霞「ふん、もっと精進しなきゃダメよ」


叢雲「おかえり。まーたアンタはボロボロになって!でも、良かった。たぶんアンタの思惑に一番近いところに落ち着いたんでしょ?」


提督「ん、まあそうだな。わずか一昼夜だが、やっぱり自分の古巣が一番だな」


望月「提督おかえりー!色々聞いたよ、やるじゃん!」


提督「あれ?珍しいなもっちー。何か手伝ってた?」


望月「川内さんの習字の紙を押さえるために、紙の端っこで寝てたんだよー」


提督「習字?ふむ」


―エントランスを入ると、『金剛さん着任大歓迎!!』という横断幕がぶら下がっていた。


―金剛が荷物の入った袋を落として、両手で口を押えた。感極まったのか、また涙があふれてきている。


金剛「嬉しいデス・・・とても」


提督「これはおれの指示じゃないな、皆が自発的にやってくれたことみたいだ」


川内「どう提督、わたしは字もまあまあなんだよ?結構見れるでしょ?」


提督「へぇ、大したもんだな!近々、各部屋の看板とか書いてもらってもいい?」


川内「いいよ!任せて!」


金剛「提督、私、頑張りますネ!」


提督「沈まないなら、いくら頑張っても構わんよ。但し、沈むのだけは絶対にダメ。それは約束してくれ」


金剛「わかりまシタ!」


曙「金剛さん、あなたの部屋に案内するわね。こちらに来て」


―金剛は8階の大きなルームに案内された。


金剛「うわ、素敵デス!でも広過ぎませんか?」


漣「これから金剛型の姉妹が増えるのかなって思って、この部屋にしたんですけど、個室の方がいいですか?」


金剛「姉妹・・・そうネ。うん、ここで良いデス。ありがとう!」


曙「一応、掃除はかなり念入りにして、備品も集めてきたつもりだけど、何か足りなかったら言ってくださいね?」


金剛「ありがとうございマス。十分ですヨー!」


曙(綺麗で、かわいい人ね・・・)


漣(これまた、破壊力抜群な人が(゚∀゚)キタコレ!!)


漣・曙「じゃあ金剛さん、一休みしたら、提督からの指示があるまで、自由に過ごしていてくださいね。温泉もありますから」


金剛「すごく素敵な鎮守府で、私のテンションも上がってきましたネー!ありがとうデス!」


―廊下


漣「噂には聞いてたけど、金剛さんてほんと美人で可愛い感じ。あれですごく強いとか、沢山の提督が嫁に選ぶのも分かる気がするわー。なんかいい香りがするし、あのおっぱい、触りたいなぁ。うへへ」


曙「でも、やっぱりたくさん悩んだみたいで、まだどっか元気ないよね。クソ提督の事だから、フォローは大丈夫だと思うけど、私たちもしばらく気を使った方が良さそうかも」


漣「そうだね。でもたぶん、すぐにここに染まっちゃう気がするなぁ」


曙「なんで?」


漣「なんかほら、戦艦のお姉さま方って、みんな結構心が強いでしょ?ご主人様が居れば、みんな意外とすぐに自分を見つめ直せて立ち上がれる気がするの」


曙「クソ提督って、ちょっと変なところがあるもんね」


漣「ぼのもやられちゃってからすっかり牙を抜かれちゃってるし」


曙「やられてないってば!あんたこそどうなのよ?」


漣「えっ私?」ジワッ


曙「ええっ?どうしたのよ?」


漣「ご主人様、死にたくなってて部屋に行った私に、何度も何度も・・・」


曙「はいはい、心配して損したわ。あんたのいつもの願望よね」


漣「どうせなんもねぇよ!大事にかわいがってくれてるから、何も言えないんだけどねー」


―金剛の私室。


金剛「なんでしょう?この、ズレていた歯車が噛み合いだした感じ。虚ろだった世界がキラキラして見えマス。私、浮かれているノ?」


―まだ日が高い時間だ。冬空も冬の海も明るく、遠くに白く丸い月が浮かんでいる。ただ、その月がとても大きく、綺麗に見えているような気がした。


金剛「不思議デス。冬なのに、何か温かい気がするネ。鎮守府の子もみんないい感じで。ここが私の本当の居場所なら、こんな素敵な事はないデス」


―金剛はベッドに身を投げ出すと、長い間の心の疲れが出たのか、深い眠りに落ちていった。


―夜。金剛は、誰かの気配を感じて目を覚ました。


金剛「ン・・・提督?」


―いつの間にか、自分には毛布が掛けてあり、近くの椅子に提督が座って、居眠りをしていた。


提督「・・・ん、起きたか?もう今日は執務をする気も起きないので、さっさと終わりにして、一人ぼっちで広い部屋にいる金剛の様子を見に来たんだよ。・・・また泣いてんじゃないかと思ってさ。ついでに、そういう理由を言い訳に、ここで眠らせてもらったよ」


金剛「女の子の部屋にこっそり入ってきて、寝顔をズット見ているのは感心しませんネー」


提督「確かにそうなんだよな。まあ、もう大丈夫そうだし、戻るよ」


金剛「でも、心配して見に来てくれたことには、すごく感心してマス!」ダッ、ダキッ


提督「おおっ?」


―金剛は一瞬で、椅子に座っている提督の膝の上に乗り、首に手を回した。


金剛「やっと提督に抱き着くことが出来たネー!」


提督「参ったな、隙をつかれた。というか、やっぱりすごく積極的なんだな」


金剛「ムツから色々聞かせてもらったヨ?提督、戦いが終わるまでは、誰ともケッコンしないし、深い関係にもならないんデショ?」


提督「うん、色々危険が潜んでいるんだ。もしかして、失望させた?」


金剛「ンーン、そんな事無いヨ。好きなだけ、でも、なるべく和を乱さないようにくっつくからいいんデス!」


提督「そうか。すまん、と言うのも変な話だが、ちょっとごめんな」


金剛「いいんデス。でも・・・」


―金剛は提督の頭を抱きしめ、金剛の口が、提督の耳元に来た。


金剛「私の手を取ってくれたあなたの武運として、私、頑張るからネ。でも、間違って沈んじゃったら、その時は少しだけ、泣いてネ(小声)」ギュッ


提督「沈ませないし、沈んじゃだめだ。金剛石は・・・ダイヤモンドは砕けないだろ?いつまでもそうやって、元気でいてくれ。おれは意外と寂しがり屋なんだよ。ふふ」


金剛「ウン・・・沈まない。私も寂しいのはもうイヤ」


提督「じゃあ、あらためてよろしくな」


金剛「ウン。Eternalによろしくネ、提督」


―同じ頃、太平洋上、マリアナ海溝付近。通称『E.O.B海域』最深部の要塞。


―暗い、会議室のような部屋に、喘息のように荒い呼吸をする、蒼白の男が入り、上座に座った。男は刀を杖代わりにし、苦し気に呼吸を整えている。その隣に、二人の戦艦棲姫が佇んでいた。


戦艦棲姫改二「ダイジョウブ?ゲンスイ、クルシソウ・・・」


深海元帥「くふ・・・大丈夫だ。・・・深海化の適合手術は終わったが、・・・まだ全ての臓器が馴染んだわけではない。肺の適合化が遅れているが、・・・このようなもの、かつて我々が味わった苦痛のかけらにも満たぬ。・・・恨みと憎悪の炎が、苦痛さえも力に変えて身を駆け巡り、私に新たな力を与えるのを感じるぞ・・・!」ゼイ・・・ゼィ・・・


―青い光が場を照らし、席についている沢山の提督たちの姿が浮かび上がった。


深海元帥「・・・八部衆はどうなっておる?」


深海学者提督「キヒヒ、良い素材が手に入りましてなぁ。以前の高速戦艦棲姫・帯剣から、改にしたものが出来上がりました。おい、ここへ来い!」


―部屋に面するゲートが空くと、戦艦棲姫と似ているが、やや細身、白い長髪に三本角、白い生体艤装を伴った姫が姿を現した。腰には、黒い禍々しい剣を帯びている。


深海元帥「ほう、良い仕上がりだな。胸のあたりの黒い宝石のようなものは何だ?」


深海学者提督「胸の穴埋めと、D波の受信・増幅装置ですな。たまたま、忌々しい指輪を持っていたので、コアとして逆に利用させていただいたのです」


深海元帥「良い趣向だ。するとこれの素体は、以前の八部衆と交戦して轟沈した金剛か」


深海学者提督「ええ。最高の素材ですな。あの鎮守府の艦隊が来たら、この姫で全員沈めて、素材に変えてやりましょう」


高速戦艦棲姫改・帯剣「スベテノカンムスニ、ゼツボウヲ!」ジャキッ!


深海元帥「これで、要塞を設計通りの完成状態まで持っていけるな」


深海参謀提督「ははっ!予定の通りに!」


深海元帥「前回の『大規模侵攻』で超干渉能力を使ったスサヒメ=ラケシスの所在は?」


深海参謀提督「ウイルスのせいもあり、もうほとんど活動を停止しているかと思います。少なくとも、あの姫の活動を証明する、強力な量子波は観測されておりません。日本の全ての場所を調べても、量子波ジャマー防壁を使用した巨大な施設は見当たりません」


深海元帥「だが、あのしたたかな姫の事だ。必ず死んではいないし、死んでいなければ何かを考えているはずだ。警戒は怠るな。要塞の稼働まで、まだまだ時間を要するのだ」


深海武人提督「ふん、姫だか何だか知らんが、ここに来る連中や邪魔する奴は、全て叩き潰せばいいのだ。全て叩き潰して、全て深海に沈める。これでいいだろうが!」


深海元帥「確かに、我々の力は強大になった。だが、それはこちら側の姫の存在ゆえでもある。同じような力を持つ姫は、最大の障害になりうる。これは排除せねばならぬのだ」


深海包帯提督「全ての提督どもに、我々がかつて味わった苦痛と苦しみを味わわせるのだ・・・ごふっ」


深海元帥「人類は必ず負ける。そういう仕組みだが、いずれここに攻めてくる艦隊もあるだろう。その時は好きなだけ暴れればよい」


―空母ヲ級が、元帥と提督たちにグラスを配り、赤い液体が注がれた。元帥はそれを掲げると、乾杯の音頭を取った。


深海元帥「全ては・・・」


深海提督たち「失われた愛の為に!」ザッ!


―そして、どこかの暗黒の中。


青ヶ島の金剛(誰か・・・タスケテ・・・)




第十三話 艦


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