「地図に無い島」の鎮守府 第八話 漣・後編
硫黄島鎮守府の全滅の経緯と、そこでの漣の最期を聞いて、
相当なショックを受ける漣。なんだかんだで提督と添い寝をすることに。
そして、またもや急な任務と、加賀の着任。
不潔な女科学者の登場と、艦娘の状態を把握する方法が遂に明らかに。
そして深まる、提督とその他の謎。
漣回、その2です。
今回はちょっと長くなってしまいました。
初期から陸奥や他のキャラが言っていたS/Dフレームの仕組みが、少しだけわかる回です。
漣、良い子ですよね。
[第八話 漣・後編 ]
ー堅洲島鎮守府、7階エレベーターホール近くの物陰
青葉「もう30分くらい、あのままですね。(小声)」
曙「無理もないと思う。漣があんなにショック受けてたのなんて、見たことないもの。よほど怖い事があったんだとしか(小声)」
青葉「詳しく聞いてませんでしたが、どんな話なの?(小声)」
曙「詳しくはまだ話せないと言われたけど、全滅した鎮守府の話みたい(小声)」
青葉「うわー、シャレになりませんねそれは!(小声)」
―提督は、人の気配に気づいていた。
提督「漣、部屋に戻るか?または、執務室ラウンジでもいいし」
漣「・・・うん、近い方がいいです」
青葉「あれ?もしかして気付かれてます?(小声)」
曙「わからないけど、何だか覗きみたいだし、こんなもんで引き揚げようかな(小声)」
青葉「え?青葉は構いませんが、曙ちゃんはいいの?(小声)」
曙「え?何が?(小声)」
青葉「何でもないです(小声)。(この子、本当に良い子なんですね)」
―提督の私室に戻った。
提督「次はココアを淹れるよ。ちょっと待っててくれ」
漣「あ、ご主人様も何か飲むなら、同じものがいいです!」
提督「ん?おれと?・・・ブラックコーヒーだぞ?味は保証するし、薄めだが」
漣「それでお願いします」
―部屋に、コーヒーの良い香りが漂う。しかし、漣はコーヒーを飲んだことがない。
漣「・・・あれ?いい香りだし、美味しいです。なんで?」
提督「ストレスが限界を超えているから、だな。いわゆる、『コーヒーの味を覚えた』って状態だよ」
漣「そっか、こうやってコーヒーが美味しくなるんですね」
提督「それに、挽きたてだし、良い水も使っているから、ってのもあるが。・・・あと、かなり薄い」
漣「ご主人様、一人の時はいつもこれを飲んでいるんですか?」
提督「ん、まあ、あとはお茶だったり、酒だったり、色々かな」
漣「この後何か飲む時は、全部同じものがいいです」
提督「そうか、わかった。なんとなく、気持ちはわかるよ」
漣「ご主人様は、なんでそんな平然としているんですか?怖くないんですか?」
提督「漣の恐怖の原因までひっくるめて何とかするのがおれの仕事だよ。怖いって事は無いかな。・・・何かするか、考えるかで」
漣「・・・でも!」
提督「わかるよ。限界を超えた恐怖の話だな。・・・少し、昔話でもするか」
提督「4歳くらいの頃かな。人がいつか死ぬと知って、怖くて怖くて仕方がなかった。昼間、幼稚園で遊んで、家に帰り、弟妹と遊んだり、テレビを見たり、母親の飯を食べたり。・・・楽しく過ごすんだが、夜、布団に入ると死の恐怖が襲ってくる。一か月くらいかな?毎晩、声を殺して泣いていたよ」
漣「そんな小さい頃にそんな事を考えて?ご主人様ってほんと、ご主人様ですよね。・・・どうやって、克服したんですか?」
提督「ん、ある時、こう考えられるようになった。深く考えても時間の無駄だし、自分がいつ死ぬかもわからない。何より、多くの場合は大人になって歳をとってからだろうと。ただし、危険にはすごく慎重になったかな。ここでは酒をよく飲むが、ここに来る前は、外で酒を飲むことさえしない奴だったよ」
漣「なんで、ここではお酒を?」
提督「さあ?なぜかな?・・・で、次はオバケだ。夜の闇が怖くて仕方なかった。まあ実際、後になってわかるが、オバケや伝説の多い土地の生まれだったから、何か感じるものもあったんだろうが、自分なりにオバケ・・・要するに幽霊や妖怪の類を勉強して、自分なりに納得のいく理屈を組み上げ、恐怖を克服した感じだな」
漣「ふふっ、やだなー、そんな男の子!」
提督「そんな男の子が君らの提督ですよ。だから、昼間の話も良く考えている。今は、漣の気持ちをどうやったらいつもの漣に戻せるのか?それを一生懸命考えている感じだな。人の心は難しいから」
漣「ご主人様にとって、漣たち艦娘は『人』ですか?」
提督「人だよ?しかも女の子!・・・伊達に男で生きてきているわけではないから、そこそこ理性や耐性はあるつもりだったんだが、なかなか大変さ。ふふ」ニコッ
漣「噂が、あるじゃないですか。深海勢力って、形を変えた艦娘だって」
提督「その逆もある得るって事になるよな、もしそうなら」
漣「!・・・でも、怖くないんですか?ご主人様は」
提督「いや全然怖くないよ。自分の理性の崩壊の方が恐ろしいわ。今だってちょっと大変なんだぞ?」
漣「だったら、押し倒してめちゃめちゃにして、そのあと解体しちゃえばいいじゃないですか。今のわたしなんか・・・」
提督「バカなことを言うなよ!」
漣「あっ!ごめんなさい・・・」
提督「・・・すまない、つい大声を。・・・でも、そんな事言うなよ!」
―提督は、急に窓の方を見た。
提督「また雪か・・・」
漣(・・・ご主人様、今、目が潤んでた?わたしが居なくなったら、そんな悲しいって、思ってくれるんだ)ジワッ
提督「自分の力不足が嫌になる。状況は悪くても、人ひとり、女の子一人、安心も納得もさせられないなんてな・・・ふふ」
漣(違う、わたしが勝手に、怖がり過ぎて・・・。どうしよう、ご主人様をすごく心配させちゃった。わたし、自分で割り切って行動していたけど、思っていた以上に大事に思われていたのかも・・・)
提督「元気な漣の居ない毎日なんて、つまらん。というわけで、硫黄島鎮守府の件は完全に裏を取るまで調べるし、敵か、この状況を作った奴は必ずぶちのめす。鎮守府に攻めてきた敵は基本、全滅させるつもり。だってここはおれのお気に入りの職場だからな。姫クラスはなるべく死なさないつもりでいたが、ここの場所をバラすんなら話は違ってくる。それだけは、残念だが仕方ない」
漣(あちゃー、ご主人様の素を引っ張り出しちゃった!全部自分なりに答えを出しちゃっていたんですね。本当にやる気なんだ。負けるとか死ぬとか、これっぽっちも考えてないんですね。漣たち艦娘が化け物かもしれない、なんてことさえも)
提督「あとな、こんなかわいい『化け物』がどこにいるんだよ。そんな事、考えなくていい。艦娘が化け物なんじゃない。あえて言うなら、『反転』とでも言うべき現象が実際に起こりうると仮定した上で、そうなった後に仕組みの違う存在になってしまうってだけで、化け物なんかじゃあ、無い。・・・もっと言ってしまうと、深海勢力だって化け物ではないな。あの衛兵さんにはそう見えたかもしれないが、おそらくおれの目にはそうは映らない」
漣「どういう、意味ですか?」
提督「まず、昼間も言ったが、艦娘はみんな、魅力的。で、深海勢力も、もしかしたら自分には魅力的に見えるかもしれないって事さ」
漣「え、ええ~?ご主人様って守備範囲めちゃくちゃ広いとか、趣味が変わってるって事ですか?」
提督「そういうのもあるのかもしれないが、何かの因子で表裏一体の存在を、そんなに理解できず、恐怖を感じることは無いかもしれない、って意味だよ」
漣「・・・んー・・・」
提督「ではこう言おう。例えば漣が何らかの理由で、例えば駆逐棲姫になったとする。でも、おれの漣に対しての対応や気持ちは変わらない。何とかして、元に戻そうとするだろうが、ダメでも可能ならそのまま付き合っていくさ」
漣「!」
―漣の心に、暖かな何かがあふれてきて、心のゆとりが戻ってきた。
漣「そこまでですか?ご主人様ってば、漣の何がそんなにいいんですか?ロリコンなんですか?昼間もパンツがどうのって言ってましたが」
提督「(おっ?)・・・まず、おれ的に、漣たち七駆あたりからは、ロリコンではないと考えているんだよ。勝手にね。ふふ。・・・で、漣ってすごく気が利くけど、地味に思いやりのレベルを超えているところがある。そういうのが嬉しい。・・・あと、かわいい。もう一度言うぞ?かわいい!」
漣(うぐっ、ここで直撃かよ、この女の子殺しめー!)
漣「あー!もう!連撃やめてください。しんでしまいます!ここまで落ち込むとか、よーく考えたら、漣のキャラ的にあり得ないですよね。キャラにそぐわない事をすると、最後はこうして連撃からの夜戦スレスレの状態に自分を追い込んじゃう、と。もうなんも、不安な事なんてねーや!ちっくしょう!」
提督「ん?吹っ切れたの?」
漣「ご主人様にここまで言わせて、そういつまでもウジウジ悩んでないですよっと!」
提督「そうそう!ただの『漣』じゃなく、おれの『漣』なんだからさ。きっと大丈夫だよ」
漣「そうですね。ご主人様って、底が見えないです。昼間も、衛兵さんも言ってましたが、あんな怖い話と湧き水の場所を同列に扱うとか、普通じゃないです。何でそんなに強いんですか?」
提督「いや強くないよ。弱いから慎重なだけだって。失敗や後悔したくないしさ・・・」
漣「そうかなぁ?絶対、何かあると思うんだけど、分からないんですよねぇ、これが」
提督「そんなもんないって。おれより優秀で強い提督なんて、世の中にごまんといるさ。うちなんてまだ鎮守府の規模もひよっこレベルだからね」
漣「それに、時々すごく深い事や意味深な事を言うし・・・」
提督「一種の自己肯定や自己暗示だよ。ある程度そういう物がないと、意思決定の連続であるこの立場はきついさ」
―漣の中に、奇妙な冒険心や探求心が沸き上がってきた。
漣「ご主人様、漣、これから一度部屋に行って、また来ます。そのあと、昼間の権利使わせてもらっていいですか?」
提督「ん?この後から?・・・約束だからいいけど、遅くなると寝ちゃってるかもしれないぞ?」
漣「いいいですよ?寝ちゃってても。ただ、鍵は閉めないでくださいね?」
提督「・・・わかった。寝てたら、ごめんな?」
漣「いいんです。あまり、ご主人様を疲れさせたくないですし」
―漣は、七駆の部屋に戻った。曙が寝る準備をしていたところだった。
曙「あれ?早くない?もしかしたら泊まってくるのかと思ってたんだけど」
漣「ええっ?ぼのってば何でそんな事あっさり言うの?泊まりって、もしかしてわたしとご主人様が朝チュンして帰ってくるって事?」
曙「漣があんなに怯えるって、クソ提督にくっついて眠るくらいしないと、たぶんどうにもならないかと思ったんだけどなー。意外と大丈夫だった感じなの?」
漣(ぼの、恐ろしい子!)
漣「いや実はー、今からシャワー浴びてそんな感じになろうかな、的な」
曙「それで治るんなら、そうしたほうがいいよ。あんたがあんなに怯えてると、調子狂うもん。心配だしさ」
漣「ちょっ、ちょっと曙サン?・・・その、色々心配とか、複雑な気持ちになったりしないの?」
曙「なにが?」
漣「ご主人様だって男の人だよ?色々と間違いとか・・・あと、ぼのの気持ちとかも」
曙「まずさ、大丈夫だと思ってるから、これから行くんでしょ?」
漣「うぐ!なんも言えねぇ・・・」
曙「なので、わたしも何も複雑にならないの。はい論破」
漣「うーん、そんなあっさり言われると、何だかなぁ」
曙「クソ提督はもう少しクソ提督になった方が良いくらい。漣さ、少し迫り気味にしてみたら?・・・たぶんそれでも、何も変わらないはずなんだけどさ」
漣「あれ?ぼのってもしかして、すごくご主人様の事を信用してる?」
曙「信用してるし、扶桑さんが誘惑しても折れない人だから、そっちのが問題じゃないの?」
漣「そうだった!あの扶桑さんの誘惑で落ちない人なんだ、うちらのご主人様は」
―二人は思わず、部屋に置いてある姿見を見た。特に、自分の胸のあたりを。
曙「はぁ・・・」
漣「思い出さなきゃ良かった…」
曙「クソ提督って、どんな子ならいいんだろ?」
漣「それ考えると、見当もつかないっていう。誰とでも合わせられるけど、自分の好みのタイプって、絶対あると思うんだけどなぁ」
曙「データ取りの為にも、あんた行きなさいよ。もう押せ押せで」
漣「漣だとご主人様が落ちないって確信してるのがちょっとムカー!」
―一時間後。シャワーを浴びて、いつものようにメイド服に着替えた漣は、提督の私室に向かった。
漣「ご主人様、起きてますー?(小声)」
―ドアの隙間からは常夜灯の光がうっすら漏れているが、返事は無い。
漣「失礼しますよー?(小声)」
―提督はベッドで眠りに落ちていた。ベッドわきのチェストには、分厚い何冊かの本が無造作に重ねられている。
漣「寝ちゃってる・・・(小声)」
―少し前まで、待っていたのだろうか?横を向いて寝ている提督のそばに、開いたままの本があり、提督の手が添えられていた。
漣「なになに?・・・『世界不思議百科』?・・・難しそうな本ね。・・・こちらは、『戦艦大和図面集』ね。もう一冊は『エジプトと日本の死生観』か。これは?『量子の受容体としての脳』か。何気に読書家さんなんですね、ご主人様。(小声)」
提督「ん・・・漣か。悪い・・・寝ちまってたな。一緒に寝る・・・かい?」
―提督は目を開けないままそう言った。ほとんど寝ているようだ。
漣「漣、失礼しますね、ご主人様」
―すぅ、と深呼吸すると、メイド服をポイっと脱ぎ投げて、下着姿で提督のベッドにもぐりこんだ。
漣(ああ!やっちゃった!でももう、怯えるのも悩むのも嫌なんだもん。わたしが落ち込むと、結局はご主人様を悲しませるし・・・。万が一食べられちゃうなら、それでもいいの!もう悩まない!)
提督「・・・漣、おやすみ。・・・元気出せよ・・・」
―横向きで寝ている提督に、背中を向けるような姿勢で横になる。
漣(まだまだ、攻めなきゃダメ!)
―漣はくるりと向きを変えて、提督に向かい合うと、そのままくっついた。
提督「ん・・・」モゾモゾ・・・ギュッ
漣(・・・あっ!)
―提督は目を閉じたまま、ゆっくり両腕を伸ばすと、腕枕をしつつ、漣をゆっくり抱きしめた。
漣(うわぁぁぁ、陸奥さんも何度かこれを経験したみたいな事を言ってたっけ・・・)
漣(・・・あ・・・なんだろうこれ、あたたかい。すごく安心する)
提督「・・・なんもしないから、大丈夫。・・・おやす・・・み」ムニャ
漣(気づかなかったけど、ご主人様、腕も胸もかなり鍛えてあるのね・・・)ピトッ
―耳を提督の胸に当ててみた。思っていたよりかなり厚い胸の奥から、力強い鼓動が伝わってくる。それが、漣が恐れていた何もかもを、どこか遠くに吹き飛ばしてしまった気がした。
漣(なんか本当に、戦艦みたい、ご主人様・・・。すごいなぁ、何にも怖くないや。ぼのもこれを知ってるから、落ち着いちゃったのかな?・・・陸奥さんちょっとずるい。陸奥さんともこんな事はしても、それ以上は無いみたいだし、ほんと、なんなんですか?私のご主人様は)
―窓の外にまた雪が降っている。漣が今日想像した、沢山の恐ろしい未来も、もう窓の外の雪のように、遠くに感じられた。
漣(ご主人様、おやすみなさい・・・)
―漣の長い一日が、思ったよりずっと穏やかに終わった。
―夜明け前のどこかの海辺。
??「ねぇ、気持ちは落ち着いた?いいなぁ、あなたのご主人様。わたしも抱っこされたいな」
漣「ん?だれ?」
??「わたしだよ。こっちこっち」
―暗い海辺に、『漣』が、自分が立っていた。ただ、その姿は大破を遥かに超えてボロボロで、左腕が胸のあたりから吹き飛び、身体中傷だらけだった。
漣「そんな、あなたはもう・・・」
ぼろぼろの漣「・・・うん、今回は派手にやられてしまいましたなー。死んじゃったんだよね。聞いたでしょ?硫黄島の話」
漣「あなたが、硫黄島のわたしなの?」
ぼろぼろの漣「そうだよ。わたし、練度高いけどケッコンしてなくってね。ご主人様のそばにいたんだけど、深海化した榛名さんには歯が立たなかったよ。というか、ご主人様がかわいそうでさー。それでも、わたしも深海に沈みたくなかったから、明るい『漣』を探して、ずっと踏ん張ってたんだよね。辛かったけどさ。憲兵さん経由で、やっと会えた感じ」
―夜が明け始めた。硫黄島の漣の身体は、寒気がするほどボロボロだったが、顔に朝日が当たると、すがすがしい、どこか悟った笑顔をしていて、それが漣を安心させた。
ぼろぼろの漣「ずっと痛かったけど、何度も沈みそうになったけど、耐えていてよかった。まさに(゚∀゚)キタコレ!!。だからあなたに、わたしを託すね。これでわたしも、あなたのご主人様にかわいがってもらえるなぁ。消えちゃうけど。・・・手、出して」
―漣が手を伸ばすと、ボロボロの漣はその手に触れ、光になって漣に吸い込まれて消えた。
漣(そっか、好きだったのに、ご主人様に気持ちを伝えられなかったんだね・・・。みんなケッコンしてて。だからみんなに気を使って・・・それで、最期は・・・)グスッ
―漣の心の中に、誰かと眺める、どこまでも広く青い、島の海が浮かんだ。硫黄島の『漣』の記憶かもしれない。その景色の後に、硫黄島の『漣』の記憶が全て流れ込んできて、あの夜に漣が見たものがすべて理解できた。
漣(ああ、ご主人様の勘、やっぱり当たってたんだ。でも、硫黄島の提督はどこに行ったの?)
ボロボロの漣の声(心をズタボロにされて、それからはわたしもわからないの。でも、死んではいないみたい)
漣(それで、ここはどこなの?わたしはなぜここに?)
ボロボロの漣の声(ここはわたしも知らない場所だよ?・・・ねぇ、あなたの大好きなご主人様、ちょっと変じゃない?)
漣(そういえば、こいつ、脳に直接!)
ボロボロの漣の声(当たり前でしょ!融合したんだから。こんな時でもお約束を守る自分に感心するわ。でね、あなたのご主人様、ちょっと変よ?)
漣(そりゃ変ですよ。下着姿のわたしを抱っこして寝てて、何にもしないような人なんだから・・・。やっぱりご主人様は、もう少し大人な女の人がいいのかなぁ?)
ボロボロの漣の声(違うわ。あなたのご主人様、半分こっちの、死者の世界にいる。なのに、魂はとても明るい。どうなってんの?まるでこれじゃチートだよ。生きている死人か、または・・・)
漣(え?なに?どういうことなの?)
ボロボロの漣の声(ああ・・・そっか、そういうことか。本当にいたんだ・・・)
漣(わけがわからないよ!)
ボロボロの漣の声(ネタはいいから、良く聞け、自分!あなたのご主人様、本当にこの戦いを終わらせる人かもしんないよ?)
漣(だから全然意味がわかりませんって!)
ボロボロの漣の声(言って分かるような事じゃないから、今はいいよ。・・・あとね、もうじき誰か、危険な艦娘が現れるみたい。その子がかかわってきたら気を付けて。あなたのご主人様を、その子だけは殺せるから。その子だけは異質な存在なの)
漣(そんな事が?わかった、ありがとう。気を付けるね!)
ボロボロの漣(じゃあね、これから頑張ろうね、自分!)
―漣の中の違和感が消えて、不思議な気力が満ち溢れてきた。
漣(で、ここはどこなの?わたし、ご主人様に抱っこされて寝ていたと思うんだけどなぁ)
―水の冷たそうな深く青い海に、骨を粉にしたような白い砂の砂丘が、どこまでも続いている。
漣(なんだろう?熱いような、寂しいような、心強いような・・・この、胸に迫る感じ・・・)ツゥ
―頬を涙が伝っているのに気付いたが、真夏のように熱い風がすぐにそれを乾かしてしまった。
漣(まさかわたし、知らない間に死んじゃってるとか?まさかね・・・)
―ほとんど波のない海を見ながら、白い砂丘を歩き続けた。遥か彼方に、誰かが歩いている。
漣(えっ?あれは?待って!・・・待って!)
漣「んあっ?」パチッ
―提督の腕の中で目覚めた。眠りに落ちてから、結構な時間が過ぎていたらしい。
提督「どしたー?」ムニャ
漣「大丈夫です。漣、また寝ますね」
提督「ん・・・」
漣(わたし、泣いてた?)
―いつの間にか、不安も恐怖も消えている。
漣(また寝よっと・・・。なんか、びっくりするくらい落ち着いちゃったなぁ。ご主人様も、よっく寝ちゃってるし。・・・冷静に考えたら、すごい状況なんですけど。下着姿で、男の人のベッドの中で一緒に寝てるっていう・・・。安心だし、大事にされてるのはわかるんだけど、このモヤモヤはなんなの?)クスッ
―その時、提督のスマホと、パソコンから、ほぼ同時に緊急事態を告げる警報音が鳴った。
提督「・・・ん?何があった?」ガバッ!
漣「起きるのはやっ!」
―提督はパソコンを立ち上げながら、総司令部への回線を開いた。
大淀「おはようございます、提督!こんな時間からすいません。・・・あっ!」
提督(何にびっくりしてるんだ?大淀さんも寝起きか。顔が赤い)
提督「いえ。何がありました?」
大淀「国防自衛隊がマークしていた三艘の不審船が、公海上で深海勢力の襲撃を受け、逃走しながら堅洲島沖合50キロメートル付近に向かっています。不審船の撃沈は時間の問題ですが、撃沈確認後に、深入した深海勢力のせん滅をお願いいたします」
提督「不審船の撃沈は放置ですか?」
大淀「環太平洋条約機構非加盟の、それも正式な国家のものではない船です。武装諜報活動を行っている船団ですので、深海勢力による撃沈が最も『波風が立たない』結果となります。装備品や船種の分析の結果、最近活発化している上海軍閥所属の艦艇と思われますので、なおさらです。生存者は救助後に拘束、本土へ収監となります」
提督「わかりました。・・・という事は、浮遊している機密書類はなるべく回収したほうが良いですね?」
大淀「可能な限りで構いませんが、重要な情報が見つかれば、また何らかの優遇はあると思います。そして、これも例の『偶発的な幸運』の一環です。よろしくお願いいたします」
提督「諒解いたしました!直ちに任務を遂行いたします。・・・ところで、昨夜ご連絡いただいた件ですが、本日中に対応いたしますので、すいません」
大淀「いいえ、お気になさらずに。事情は呑み込めました。艦娘と良い関係を築かれているようで、何よりです」
―大淀は顔を真っ赤にして目を逸らした。
提督「何を?・・・あっ!」
―大淀には、寝起きの提督に寄り添う下着姿の漣の姿が、通信の最初から送信されていた。
大淀「すいません、大切な時間に色々と。それでは、失礼いたします。ご武運をお祈りいたします」
提督「・・・・・・・・」
漣「・・・・・・・・」
提督・漣「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
提督「これ絶対、そういう解釈をされているな。決定的な事はしなくても、それなりの事はしている関係的な・・・」
漣「これ絶対、そういう関係だって受け取られましたよね。大淀さん、顔真っ赤だったし。もうこれ、大淀さんと会ったらどんな顔したらいいのかって感じで」
提督「・・・いーや、堂々としていたらいい。何にも不自然じゃないし、さ」
漣「そうなんですか?」
提督「大淀さんは事情を知らないわけだしね。・・・さ、とにかく任務をこなすか」
漣「あっ、わたしも出撃したいです!」
提督「ん?もう大丈夫なのか?無理してない?」
漣「はい。戦いたいんです!」
―提督は漣の眼をじっと見た。
提督「・・・ん、大丈夫だな。よし、じゃあ頼むよ」
漣「じゃあ、出撃準備してきます!」
提督「おう、こちらは編成を考えてみんなを起こすよ」
―漣と提督は、いそいそと部屋を出た。
提督「執務室より、緊急放送。当鎮守府50キロメートル沖合に深海勢力を確認。正規空母・赤城、重巡洋艦・青葉、軽巡洋艦・夕張、駆逐艦・漣、駆逐艦・雪風、駆逐艦・曙、は、地下出撃船渠にて出撃準備!総員そろい次第出撃!旗艦、赤城、旗艦補佐として漣!磯波は執務室にて秘書艦としてサポートしてくれ。繰り返す・・・」
―数分後、堅洲島鎮守府沖合。
曙「ふふ、漣、残念だったんじゃない?もう大丈夫なの?」
青葉「えっ?そんな感じで聞けちゃうんだ?七駆ってすごい仲良しなんですね」
漣「あ、ちょっ、ちょっと待ってくださいって。ぼのも青葉さんも。そういうんじゃないんですから。・・・この出撃の緊急通信で大淀さんに思いっきり誤解されちゃったっぽいんですけどね」
赤城「あら?ガールズトークかしら?気を引き締めて、と言いたいところだけれど、まだもう少し時間もあるわね。漣さん、あなたから提督の匂いがするのって、つまりそういう関係ということなのかしら?」
漣「えっそんな匂いします?(嗅覚鋭すぎなんじゃ?)」
曙「へーどれどれ」クンクン
漣「ちょっ、ぼの、頭とか嗅がないでよー!」
曙「あ、ほんとだ。クソ提督の匂いがする。まさか、事後じゃないでしょうね?」クスクス
漣「わかってて弄らないでってば、ご主人様はそういう人じゃないでしょー?」
夕張「提督はやっぱり、胸の大きさにはこだわりがない感じなんですね」
漣「それちょっと微妙な気分になっちゃいますって!」
青葉「提督、なんだかんだでしっかりしてらっしゃる方なんですよね。あ、でも、扶桑さんの誘惑が通じない人だから、こうなるのも当然なのかなぁ?」
赤城「面白い話がたくさん出てくるのね。わたし、まだ来たばかりなので、色々と教えてもらってもいいですか?」
―一同は赤城に、鎮守府のこれまでの事や、今日の漣と提督についての事まで、話しながら移動した。
赤城「・・・つまり、漣さんが精神的にとてもつらいことがあって、提督さんに添い寝をしてもらっていた、という事かしら?で、提督さんは皆さんの事をとても大切に考えていると同時に、手を出すようなことはしない、と」
青葉「そうですね、そんな感じです」
赤城「放置された他の鎮守府の子の捜索を行ったりもしている、と」
青葉「磯波ちゃんや望月ちゃんは、そうやってここに転属になった子たちですね」
赤城「ふふっ、良い意味で、変な提督さんね。でも、ちょっと気になるわ。漣さん、あの提督さん、どんな女性が好きなのかしらね?気にならないかしら?あなただって、すごくかわいいのに」
漣「かわいいだなんてー、赤城さんてば。でもそれ、すっごい知りたいです!」
青葉「あ、それ凄くいいネタですね!わたしの妹とか、結構いい線行くと思うんだけどなぁ。・・・そうだ!ガサが着任したら、提督に色仕掛けさせてみるとか!」
曙「青葉さん、自分ではその、色仕掛けやらないの?」
青葉「え?青葉が、ですか?・・・考えてみたことも無かったです」
曙「青葉さんもかわいいと思うんだけどなー。提督にも評価されてる気がするし」
青葉「曙さん、青葉にそんなこと言っても、何も出ませんよー?でも、そう言われるのは嬉しいです。そういえば、捜索任務に抜擢された時も、ちょっと嬉しかったんですよね」
夕張「わたしも少し気になるかな。とりあえず巨乳は除外なのは間違いなさそうだし」
赤城「初めて色々お話しした時、沢山食べてもスタイルは気を付けて、みたいなことを言っていたから、なにがしかの女性観はあると思うのよね。そういえば、提督さんたら、大急ぎでお夜食を下さったけれど・・・みんな、食べるかしら?夜食と言うよりは、ちょっと早い朝食かしらね。えーと、肉まんと、あんまんね。ホカホカだわ!・・・気遣いが素敵ね」
雪風「雪風、いただきます!」
夕張「あ、わたしも!」
―全員で肉まんとあんまんを食べつつ、作戦海域に向かった。
―作戦海域の手前に到着するも、船影がどこにも見当たらない。
赤城「おかしいわ。不審船と言っても正体は軍艦。そう簡単に全滅するはずが・・・」
雪風「空母です!ヲ級確認!」
―双眼鏡を覗いていた雪風が声をあげた。
赤城「なるほどね、日の高い時間から攻撃を受け続けて、既にボロボロ、だったんでしょうか。この海域まで空母が深入だなんて、提督が言っていた『偶発的な幸運』というやつね!・・・雪風、敵戦力を確認して。今はまだ夜。わたしも役に立たないけれど、それは向こうも同じ!夜戦を仕掛けるわ!」
青葉「ちょっと待ってください、あれ、何をしているんでしょうか?あの丸い艦は・・・」
曙「撃破した船を、引っ張っているの?」
漣「太平洋での船のロストって、こんな風に起きていたのね」
赤城「あれは、輸送ワ級ね。タンカーだけではなく、あんな船まで攻撃しては回収して・・・いったい、どんな目的でそんな事をするのかしら?青葉さん、写真を撮れるかしら?提督に持っていけば、何かわかるかもしれないわ」
青葉「任せてください!望遠レンズもばっちりです!」パシャパシャッ
赤城「雪風、敵戦力を確認して!撮影後、限界まで静音接近ののち、集中夜戦を仕掛けます。砲雷撃戦準備!」
雪風「敵戦力、空母ヲ級1、軽母ヌ級1、重巡リ級1、輸送ワ級3、です!」
赤城「よし、ここは伝統の夜戦カマイタチ戦法で行くわ!酸素魚雷用ー意!」
青葉「敵が気付く前に射程ギリギリからの酸素魚雷一斉射ですね!」
赤城「そうよ。総員、魚雷一斉射!てーっ!」
―40本近い魚雷が、作業中の深海艦隊に一気に放たれた。わずかな雷跡も400mもすれば完全に消え、暁の水平線に向かって、魚雷が進んでいく。
―影絵のように、派手な水柱が何本も上がり、遅れてドーン、ドーン、と言う炸裂音が何度も聞こえてきた。
赤城「今よ!突撃!」
―相当な数の魚雷が命中し、軽母ヌ級1、重巡リ級1、輸送ワ級2の撃沈が確認できた。
赤城「ヲ級は既に大破状態。とどめを刺して。中破のワ級にもよ!近接砲戦、開始!」
―さらに一斉射した魚雷と砲弾が、敵の残存戦力に吸い込まれていった。ワ級と一緒に、けん引されていた船も沈んでいく。
赤城「ふう、低練度の私たちにとっては、ひやひやする戦いだったわね」
漣「んー、もう少しギリギリの戦いがしたかったんだけど、かと言ってまともに殴り合ったらヤバすぎるし、赤城さん流石って感じです」
赤城「あら、やる気満々ね!でも、昼間でもおそらく制空は取れたとは思うわ」
曙「なんかすごく動きが軽くない?しかも積極的になってるし。気が楽になったの?」
漣「気が楽になったというか、なんだろ?何か軽いの」
曙「ふーん、良かったわ。・・・馬鹿な事を聞くけど、その・・・添い寝しただけ?」
漣「あ、気になるんだ?ふーん・・・」ニヤニヤ
曙「そっ・・・そんなんじゃないわよ!」
漣「実は頑張って下着でベッドに入ったのに、ご主人様ってばもう寝てて、抱っこはしてくれたけど、そこまでだよちくしょーめ!(小声)」
曙「ちょっと!いくらなんでも下着って、攻め過ぎじゃない?クソ提督ったら、辛い思いをするって事は・・・ないか。まあ寝てなくても結果は同じだよね。そっか・・・ふふ」ニコニコ
漣「あからさまに安心して嬉しそうにしてー!もー!」
赤城「おしゃべりは帰り道にしましょう?まずは、浮遊物からめぼしい機密書類を探さないと。総員、浮いているカバン等を探して!」
青葉「青葉、航海記録を拾っちゃいました!」
赤城「上々ね!」
夕張「緊急浮遊型ケース入りの武器セットを見つけたわ!」
赤城「上々ね!」
雪風「雪風、船員さんの死体と手錠でつながっているスーツケースをはっけんしました!」
赤城「じょ、上々ね・・・(どうしましょうか、これ)」
曙「赤城さん、あそこ、海が光ってないかしら?」
夕張「もしかして、新しい仲間?」
―曙の指さしていた、ぼんやりと光る海面の光が増し、大きな光の柱が立った。赤城が近づいて、光の柱に触れる。
赤城「誰かしら?まだ出会っていない艦娘なら、提督も喜ばれるわね。・・・えっ!あなたは!」
加賀「航空母艦、加賀です。・・・あなたは、赤城、さん?」
赤城「驚いたわ、こんな事もあるのね!凄く嬉しいわ!」
加賀「まさか赤城さん、あなたと出会うなんて・・・!(これは嬉しいですね)」
夕張「すごい!一航戦が揃いましたね!」
赤城「こんな事もあるのね。提督に連絡して、帰投しましょう」
赤城(加賀さんと出会えたのは運なのでしょうけれど、提督の言うとおり、わたしたちの知らないところで、ずいぶん色々な事が起きているようね。わたしなりに、状況をよく把握しておかないとダメね)
―赤城は提督と連絡を取ると、付近をもう少しだけ捜索し、さらにいくつかの漂流物を発見すると、工作員の亡骸を救命ボートに乗せて、鎮守府に帰投した。
ーその頃、執務室。出撃予定でないメンバーも詰めている。
磯波「あの、提督、お疲れではないですか?何だかとても眠そうな・・・」
提督「ん、大丈夫だが、そうだな、30分ほどこのまま仮眠するので、声をかけてくれるかい?」トケイナガメー
磯波「はい!かしこまりました!」
秋雲「もー、提督ぅ、漣さんがそんなに良かったのかしらー?夜眠らないくらい、的な」
磯波・望月「えっ?」
提督「・・・・」ジロリ
秋雲「もー、ジョーダンよジョーダン。漣さん、解体申請を自分でしようかなってくらい悩んでたんでしょ?提督さぁ、添い寝とか言って、本当は寝たふりして抱っこしてあげてたんじゃないのー?このイケメン!」
提督「いや、早起きが苦手なだけだよ(へぇ、思ったより空気読めるし、鋭い子だな)」
望月「えー、いいなあ提督ー、あたしとも添い寝してよー、なんつって」ニコッ
磯波(添い寝・・・)
秋雲「ん?いそっちどうしたの?夜の秘書艦モード?執務中にあまりそっちの世界に行っちゃダメよ~?ふふ」
磯波「・・・そ、そんなんじゃないです!漣さん、大丈夫だったのかなって」
提督「大丈夫だった、と思いたいけれどなぁ。・・・少しだけ眠るよ」
―一時間半後、執務室。
赤城「旗艦、航空母艦赤城以下、艦隊六名、総員、無事帰投いたしました!」
提督「低練度状態でも、良くやってくれた。総員お疲れ様。気づいている人もいると思うが、今回の任務も、一連の「偶発的な幸運」の一環だと、おれは思う。しかし、その中でも最良の結果を出してきてくれたことは称賛に価すると思うんだよ。・・・というわけで、休息後、加賀さんの歓迎もかねて、昼過ぎから間宮さんに腕を振るってもらおうと思う。総員、休息の前に二階の『甘味処 まみや』仮店舗に張り出されたメニューをよく確認しておくこと!」
一同「やったぁ!!」
提督「あと、加賀さん」ツカツカ、ガシッ!
加賀「・・・はい(手を・・・びっくりしました)」
提督「本当に良く来てくれた!一航戦の二人がなるべく早めに着任してくれる事は、ここの運営と作戦展開上、マストな課題だったんだ。赤城さんにも話したが、この鎮守府はやがて激戦の日々に向かっていく。提督として、やれることはやるので、何でも言ってほしい!」
加賀「・・・いえ、あなたが私の提督なの?それなりに期待はしているわ。(でも、さすがに気分が高揚しますね)」
提督「うん、提督としては未熟者だから無理もないが、期待を超えてみせるよ!よろしく頼む!」
加賀「・・・そう。(私も、そうね、遅れは取れないわ)」
提督「それでは、各自、定時まで任務、演習、休息をそれぞれ遂行してくれ」
雪風「あの、しれぇ、質問いいですか?」
提督「ん?なんでしょう?」
雪風「しれぇ、物置に安置した船員さんの遺体、どうなりますか?」
提督「夕方ごろに本土の調査団が来て、今回の資料の精査と同時に、あの船員さんも検死と調査対象になる。その後、所属していた国に遺体の引き渡しになるか、相手国が無視すれば、無縁仏ということでどこかのお寺に葬られるだろうね」
雪風「無縁仏って、何ですか?」
提督「誰とも『縁』の『無い』仏さん、と言う意味だね。冥福を祈る人や、線香を上げに来る人もいない、ということ。・・・多くは、そのお寺のお坊さんが年に何度かお経をあげてくれるが」
雪風「もしそうなったら、この島のお寺に葬ってもらいたいです。雪風、たまにお線香を上げに行きます。無縁なんて、かわいそうなのです」
提督「!・・・ん、そうだな。かけあってみるよ。工作員とはいえ、死ねば永遠の休息だ。雪風に弔ってもらうなら、悪くない死後だろうね」
雪風「しれぇ、ありがとうございます!」
加賀(優しい子ね。提督もそれを聞いてあげてるし。良い鎮守府に来たようですね)
―少し前、横須賀、対深海勢力特殊作戦総司令部。艦娘特殊帯共鳴システム(通称、S/Dフレーム)管理室。
大淀「のぞきみたいで、こういうのはあまり好きじゃないんですが、動きがありましたので」
女科学者(くわえタバコ)「特務の堅洲島鎮守府の提督と、駆逐艦、漣ね?動きって?」
大淀「未明に緊急任務で連絡したら、提督は着衣でしたが、漣が下着姿で一緒に・・・」カァ
女科学者(くわえタバコ)「あー、要はヤッてたっぽいって事ね。早く言ってよ。もったいつけないで。あなただってとっくに経験したことでしょうに」
大淀「なっ!なななんて事を言うんですか!私はまだ、そんな・・・」
女科学者(くわえタバコ)「あーハイハイ、めんどくさいなぁ、もう・・・」
―天井のとても高い円筒形の部屋に、壁には沢山の可動式の棚がついており、棚には試験管のような透明な管が、ほぼ全面に何段にも並べられている。
女科学者(くわえタバコ)「んー、どれどれ、あの提督はこれと、あそこの漣は・・・これか」
―棚を、マニピュレーターと自走棚が連動して二つのガラス管を抜き出し、部屋の中央の端末付きの機械にそれらをセットした。ほぼ同時に部屋の電源が落ち、海の中のような青い光が満ちると、水面のような線が現れ、そこを基準として、上に光の、下に闇の線が伸びる。
大淀「えっこれは、どういうこと?」
女科学者(くわえタバコ)「あー、誰かさんのゲスな予想は外れ。ヤッてないよこの二人。Dフレームゼロだもの。しかも、何これ?漣のフレーム、綺麗ね・・・輝度がすごく高くなってる。どうしてこうなったのかしら?これ、大抵の深海勢力の攻撃では撃ち抜けないレベルよ?。・・・なのに、提督のはフレームアウト。計測不可能ね。いつも思うけど何なのコレ?死人?」
大淀「(ゲスな予想って)いえ、どちらかと言うと活発で、魅力のある方です」
女科学者(くわえタバコ)「ふーん、あの鎮守府さあ、陸奥も変だよね。ヤッてないのにDフレームが深海化するレベルまで伸びててさ。事件の時に何かイレギュラーがあったとは思うんだけど、全然普通だったよね?」
大淀「ええ。どこからどう見ても普通の陸奥ですし、言動にもD傾向はありません。提督とも関係は良好みたいですし」
女科学者(くわえタバコ)「医学的検査でも提督と関係なんて無かったしねぇ。・・・でも、他の鎮守府の状態はすごく正確に反映するから、壊れてるって事は無いと思うんだよなぁ~」
大淀「このシステムのおかげで、隠れ性犯罪者をだいぶ粛清できましたしね」
女科学者(くわえタバコ)「あのさぁ、陸奥なんだけど、抹消から復帰させて戦場に出せない?古鷹みたいな対深海傾向が発現するか実測したいんだけどなぁ」
大淀「あ、それは絶対に無理です。上層部はこれ以上艦娘の深海化を起こさせたくないらしくて、すごく神経質になっています。ほら、最近もあったじゃないですか、練度155の金剛とケッコンされていた提督の件とか。わたしも、あの鎮守府の陸奥は大丈夫としか思えないんですけれどね」
女科学者(くわえタバコ)「あたしも話したけど、普通にいい子だったよね、あの陸奥。・・・まあ、現実的に艦娘のD傾向をあんなに黒くするのは、そもそも難しい話だしね。やっぱり事故の時に何かあったね、これは」
大淀「普通にそこまで黒くする事も出来るんですか?」
女科学者(くわえタバコ)「条件が整えばできるけどさー、自称、男性経験もなく清楚で上品な大淀さんにはえぐい話だから、聞かない方が良いって」ニコッ
大淀「男性経験うんぬんは、あなたに言われる筋合いはないですねー。そもそも、臭いますよ?またしばらくお風呂に入ってませんね?」
女科学者(くわえタバコ)「あたしは研究が恋人だからいいの。昼も夜も研究とヤリまくってんの。・・・あ、そっか、あたしの試験体をフレームに同調させて、あの提督と色々すればいいんじゃん!」
大淀「・・・なっ!・・・それは・・・ダメです!いずれわたしの提督になるかもしれない方ですし、仲の良い艦娘も何人かいる方なんですから」
女科学者(くわえタバコ)「んー、我ながらいい方法だわ。・・・つーかさ、あなた一度ケッコンしてるでしょうに。何もなかったとは言わせないわよ?このシステム導入前で、提督も行方不明とはいえ、さ。まったく、とんでもないビッチだぜ。このエロ落ち委員長キャラめ」
大淀「うぐっ、そ、その話には触れないでください!」
女科学者(くわえタバコ)「いーよー、じゃああたしの考えも邪魔しちゃダメよー?知らなくちゃならないことが多すぎるんだから。さっそく申請してみよっと!」
大淀「くっ!だったらタバコはやめないとダメですね。あの提督は喫煙者はダメだそうですから」
女科学者(くわえタバコ)「そうとなれば禁煙するよ。風呂にも入るしオシャレもする。あたしの女子力に戦慄するんだね、ふふふ。あの提督の好きなタイプと、過去の遍歴の記録がある分、こっちが有利なんだ」
大淀(本気だわ、この人!)
女科学者(くわえタバコ)「大淀をやり込めて気分が良いから教えてあげる。これくらいフレームを黒くするには、例えば、そうね、大淀があの堅洲島の提督が好きだったとしようか。提督は大淀の気持ちに気づいている。その上で、提督には別の本命が居ながら、快楽のみは身勝手に大淀に求める・・・いいえ、もっと都合のよい女にされる感じね。しかもそれは、あなたが望まない、かなり嫌な行為ばかり。本命には求めない類の。しかも、体液の注入が必ず伴う事ね。でも、あなたはそれを断れない感じ。そして、裏切られ続ける。でも、愛を消せない・・・そんな感じ」
大淀「・・・きついですね」
女科学者(くわえタバコ)「でしょ?あの提督と陸奥がそんな関係とはちょっと思えないわね。『姫』に気に入られている時点で、あり得ない事だもの」
大淀「わからない事ばかりで、嫌になりそうね・・・」
―現在、堅洲島鎮守府、提督の私室。
提督「一安心、かな、少し寝るか」
??「ダメです」クスッ
提督「おわっ、漣!忍び込んでたのか?」
漣「えへっ、急いで先回りしたんですヨ」ニコッ
提督「いたずら者め!・・・無事帰ってきてよかった」
漣「ご主人様」ツカツカ、ギュッ
提督「えっ?どうしたんだ?」
漣「昨日から二回も抱っこされてダメな子にされかけていたので、お返しです。ご主人様、いそっちから聞きました。本当は寝たふりして、漣の事、抱っこしてくれていたんでしょ?」
提督「それはほら、理性とか色々と・・・」
漣「またそういう優しい嘘ついちゃってー。わたし、色々考えたんですけどね、一番辛い事って、きっとご主人様から離れる事かなって思ったんです。だから、これからもずっと近くにいて、最後まで近くにいて、沢山お話したいなって思いました。だって、楽しいんだもん。だから、漣、がんばります!」
提督「そうだよ。楽しい事、素敵な事は、もっとたくさんあるんだ。きっと大丈夫だよ」ナデナデ
漣「・・・ん、昨日からかなりウジウジしてごめんなさい」
提督「いいんだよ」
漣「あと、本当に漣相手に理性を働かせているんだったら、そんなもんいらねーです。ご主人様の手練手管で好みの悪い子に仕上げちゃってくださいよ」
提督「少なくとも、まだ駄目です!まだしばらく。今が一番楽しいんだ」
漣「実はわたしもですよ、ご主人様!ふふっ」ニッコリ
第八話 艦
1話から一気に読んでしまいました、どんどん引き込まれる内容です。続きが楽しみです。
ありがとうございます!
ミヤコワスレは曙が髪につけている花ですね。
このSSでも、曙はなかなか大事な役回りだったりします。
長いSSですので、じっくり楽しんでいただければ幸いです。