2016-10-17 05:56:51 更新

概要

曙のちょっかいで堅洲の町に漣と提督があいさつ回りに向かう。
途中で、「過去に壊滅した鎮守府の生き残り」という元憲兵の衛兵に出会い、
衝撃的な話を聞く二人。相当なショックを受ける漣と、
ケッコンシステムに何らかのリスクを見出す提督。

そして、大淀は独自に動き始めるが・・・。


前書き

漣回です。前後編に分かれます。
提督の懸念や、実際の戦況、上層部の隠ぺい体質等が、そろそろわかりかけてくる回です。


[第七話  漣・前編]




―堅洲島中心部、南北縦断道路、須佐山登山道付近


漣「距離はどうってことないのに・・・」


提督「この山のせいで、意外と島の縦断は面倒っていうね。・・・ん、良い山だな。春になったら登ってみるか」


漣「へぇ?ご主人様、登山とか好きなんですか?」


提督「お遊び程度のなら、だぞ。本格的なのは全く興味がない。人生の危険度を好んで増すような真似はしない主義だしさ。一人ピクニックのちょっとハード版くらいかな」


漣「一緒に登ってもいいですか?」


提督「ん?もちろん構わないぞ。ふふ。登ったら焼きそばでも作って食べるか?」


漣「へ?何で焼きそばですか?」


提督「いや、一度山登りして焼きそばを作って食べたら、これが結構楽しく、かつ、美味しくてさ。フライパンと具材はちょっと重かったが、そういうバカバカしさがまた、達成感をより上げるっていうね」


漣「ご主人様って、ほんと面白いですよね。引き出しが広いというか。話していると、必ず一度は、『おおっ!』ってなります」


提督「ん?そうかい?」


漣「知ってます?艦娘って、実はみんなたくさん知識を持っているんですよ。そう見えないだけで。話せば話すほど、色々な事を思い出していく感じなんです。『練度』って、もしかしたら戦闘を含めて、自分を思い出している度合いだったりして」


提督「ん・・・考えさせられるね。それは。近代化改修と練度の関係ともつじつまが合う。・・・考えなくてはならない事は毎日増えていくなぁ」


漣「ご主人様って、何気にいつも考え事をしていますよね。おもに何を考えているんですか?」


提督「おー。・・・漣のパンツの柄がイチゴなのか、ニンジンなのか、それともまた別の何かなのか?とかじゃないのか?」


漣「あー、それはですね、イチゴ柄とニンジン柄を気分によってほぼ交互に履いて、勝負パンツは買うかどうか迷っているところです。・・・さ、どうでもいいような謎が一つ解けたところで、実際の所を話してくださいよ」


提督「漣も二人っきりだと攻めるねー!」


漣「さっきのお返しですよー。・・・でも、実際どうなんですか?話したくない事ならいいですけど。あと、ほんとにエッチな事とかでも話さなくていいですが」


提督「いずれ話す時も来るけどさ、昨日の赤城さんの推測通り、うちの鎮守府はいずれ激戦に巻き込まれていくんだよ。だから、考えなくてはならない事、準備しなくてはならない事、が、とても多いのさ」


漣「えっ?どれくらいの激戦ですか?鎮守府自体が戦場になるって事ですか?」


提督「うん、下手するとおれも死ぬかもだよ。それくらい。ただし、まだ時間はそこそこある、はず」


漣「うっわあ、いきなりヘビーなの来ましたね!」


提督「と言っても、下手はしないけどな。その為に色々考えているってのが正解」


漣「わたしも、たぶん大丈夫って気がしますよ?」


提督「え?なぜそう思うの?」


漣「・・・言っても、漣の事、頭を怪我してる子って思わないですか?」


提督「ないない。それはないな。」


漣「ご主人様はそう言うと思ってましたよ。だから話そうと思ったんですけどね」


提督「漣っぽくない深刻さだな」


漣「時々、すっごい嫌な夢を見るんですよ。大抵、どこかの海の上で、大破してからボロボロになって、海に沈む夢とかなんですけどね。あ、たまーに、どこか知らない鎮守府にすごい数の敵が攻めてきて、蜂の巣にされて死ぬ夢も見るなぁ」


提督「なんだって!それはまるで・・・」


漣「うん、わたしは、他の『漣』の、最期の気持ちに共鳴してるんじゃないかな?って思ってます。地味にこういう夢、増えてきていますしね」


提督「増えているのか?」


漣「じわじわですよ?それに、何の確証も無い話ですから、話半分に聞いてくださいね。たただ、こういう夢を見ているのは、わたしだけではなく、ほぼみんなだと思います」


提督「なんてこった!いや、当たり前か。脳共鳴みたいな現象だな」


漣「でも、朝になってご主人様の顔を見ると、安心するんですよねぇ」


提督「へ?」


漣「理屈はわからないけど、なぜか『そう』なんです。だから、夜中にご主人様のところに行っちゃう子が居ても、わたしとしては理解出来ちゃうわけで」


提督「全然知らなかった。まあ、まだそんな子はいなかったけどさ」


漣「どうかなぁ?こっそりご主人様の寝顔を見て安心している子とか、絶対出てくると思うけどなぁ」


提督「なるべく許容するようにしとくよ。事情がそうなら、理解できるしね。・・・しかし、自分が複数存在したとして、その断末魔を夢で何度も見るって、きつすぎるな」


漣「何の確証も無いから、本当に仮説ですよ?」


提督「でも、辻褄は合うからさ。あり得ない話ではないと思うんだよ」


漣「こういう話も、ご主人様の考え事に役立ったりします?」


提督「正直、かなり役立つよ。とにかくパズルのピースが足りないんだよ」


漣「パズルのピースかあ。ご主人様の戦いの目標はどこなんですか?」


提督「目標か。全員轟沈しないように、とはいっても、確率という、努力を超越した概念がある以上、戦い自体を終わらす方法は無いものかな?と考えているよ。ただ、何を考えるにせよ、謎が多すぎるんだよな」


漣「んー、うまく言えないけど、ご主人様は何だか大丈夫な気がするんですよ。さっきの夢、どうして他の『漣』の最期って思い始めたかと言うとですね、知らない提督や知らない艦娘、知らない敵が出てきたりするからなんですが、どの提督の表情も、絶望的で暗いんです。『あ、これ助からないな』ってすぐ思えるような」


提督「いやそれはさ、鎮守府が壊滅しかけるとか、艦娘が轟沈する、なんて状況だったら、誰だってそうだろう。おれだって漣が轟沈したら死にたくなるぞ」


漣「えへへ。死にたくなっちゃいます?」ノゾキコミー


提督「(しまった!)・・・ん、まあな」


漣「でも、漣の言いたいことはちょっと違うかな。なんて言ったらいいんでしょ?『そうなる人』と『そうならない人』がいて、ご主人様は『そうならない人』っていう妙な安心感があるんですよ。自分の提督だから、っていうのとは絶対に違う気がするんだけどなぁ」


提督「いや全然わからんぞ?」


漣「じゃあこう言ったらわかります?普通の提督は、わたしたち艦娘で言えば駆逐艦で、ご主人様は戦艦とか装甲空母、みたいな」


提督「んー・・・ニュアンスは伝わったけど、ではどういう部分がそんなに違うと?」


漣「そこでいつもうまく説明がつけられなくなるんですよねー」


提督「それじゃダメだろー」


漣「でも、言葉にできない感覚も大事ですよ?言葉にできないこの気持ち、大切にしたい。なんちゃって」


提督「なーにを言ってんだか、まったく。でも、励みにして頑張るよ。・・・ん、ゲートが見えてきたな」


―道の向こう、道路が頑丈なフェンスとゲートで閉ざされて、境界にまたがるように詰所が建っている。


漣「あれ?結構、厳重なんですね。関所みたい」


提督「実際、関所だもんな、このゲートの役割って」


―ジープを停めて、挨拶する


提督「すいません、衛兵さんいらっしゃいますか?すいませーん!」


―アー、チョットマッテテクレー!


―ゲートわきの森、細い山道があるが、その向こうから声がした。


―待っていると、まさに山男、といった風情の、髭もじゃに迷彩服の男が二つのポリタンクを持って、山道から現れた。大きな明るい眼がとても親しげだ。


衛兵「いやー、すまんね。ちょっと水汲みに行ってたもんでね。・・・でも提督さん、通過時間の連絡いただいてませんでしたよ?・・・おっ、そっちの艦娘さんは『漣』さんじゃないかい?」


提督「あ、申し訳ありません。通過予定時刻を事前に連絡する約束でしたな。失念しておりました!」


衛兵「本来なら、連絡なしなら提督さんでも『誰かわからないから回れ右』になっちゃうんだけど、漣さん連れてるんだったら、まあいいか。適当に書類作っときますよ」


漣「衛兵さん、漣をご存じなんですか?」


衛兵「ご存じも何も、以前自分は別の鎮守府で憲兵だったんだけど、そこでの秘書艦が漣さんでさー。提督さんもいい人で、差し入れをよく持ってきてくれてたりしたもんだからね。そりゃ知ってるよ」


漣「えーっ!びっくりですよ!」


提督「いや、初耳です。驚きました。どちらの鎮守府だったのですか?」


―ここで少しだけ、衛兵の表情が曇った


衛兵「特務鎮守府の提督さんなら知ってるかもしれないな。硫黄島第二鎮守府ですよ。歴戦の提督と艦娘が着任して、最前線を守っていた。第五鎮守府まであったんだよね、確か。でもあとは、ご存じのとおりですよ。深海勢力が奇襲してきて、一晩で全滅しちまったじゃないですか」


漣(!)


提督「(なんだって?)・・・ああ、衛兵さんはそちらの生き残りで、ここへ異動になったんですか?」


衛兵「憲兵を辞退して、本土の閑職を希望したのに、なぜかここに配属ですわ。はっはっは!・・・提督さん、自分も元憲兵だったからわかるんだけど、硫黄島鎮守府の話、知らされてないんじゃないかね?」


提督「!・・・参りました。初耳ですよ。非常に興味のあるところではありますが・・・」


衛兵「別に口止めも何もされていないし、知ってる限りのことは話せるよ。うまいお茶でも用意するので、帰りにでも寄ってもらったらいいね」


提督「それは助かります!何か、土産物でも買ってきますが、何がよろしいですか?」


衛兵「すまんですな。何か甘いお茶菓子や和菓子でもあればありがたいです」


提督「わかりました!では、後程。夕方の早い時間には来れると思います」


―ゲートを通り、堅洲町への下り坂に入った


漣「・・・ご主人様、全滅って言ってましたよね、確か」


提督「硫黄島に鎮守府がある、あった、なんて話も記録も耳目にしたことは無いぞ。五つの精鋭の鎮守府が一晩で壊滅って、とんでもない事だ。・・・うちの港湾防御施設の重武装ぶりは、この出来事をある程度は事実だと裏付けているが」


漣「あれ?もしかするとですよ?そんな大兵力を最悪の場合、うちの鎮守府で食い止めなきゃならない可能性もある、って事ですよね?ご主人様」


提督「最悪の場合は、そうなるね」


漣「・・・できます?」


提督「やるしかないだろうな。でもさ、色々不自然なんだよ、この話。いくら深海勢力が大兵力だったとしても、精鋭ばかりで構成された五つの、しかも高速修復ローテし放題の鎮守府を、一晩で壊滅できるとは考えずらい。それほどの大兵力があったら、そもそもここだってこんなにのんびりなんかしていられないどころか、とっくに制海権を奪われていなきゃおかしい」


漣「言われてみれば、そうですね」


提督「わからないことが多すぎだよ。うちの鎮守府の港湾防衛施設のスペックをよく見て、予想される侵攻戦力の規模を割り出してみるか。それと、衛兵さんから色々聞かなくてはならないな」


漣「そこの『漣』がどうなったのかも知りたいです」


提督「そうだよなぁ。とにかく、日々これ決戦、日々これ準備、だな」


漣「あ!わかった!そういうところですよ、ご主人様。全然動じないの。どんな時でも。必ず方法探したり、手札が有ったり」


提督「あー、そういうしぶとさなら確かにあるかも」


漣「でしょー?絶望した顔とか想像つかないんですよ」


提督「漣とか、うちの鎮守府の誰かが轟沈したら絶望するぞ?」


漣「ご主人様のそういう顔、すっごい見てみたいけど、それは嫌だなぁ」


提督「ほう。・・・あ、なんか急に、漣の色々な表情が見てみたい気になってきたなぁ」


漣「スイマセン冗談です。でも、分からない事があるんですよねー」


提督「ん?何が?」


漣「ご主人様って、わたしたちの事、すごく大事に思ってくれてるみたいじゃないですか?でも、誰とも深い関係になろうとはしてないように見えるんですよねー」


提督「いや、そんなことないぞ?」


漣「漣にウソは通じませんよ?ご主人様」ニコッ


提督「あー・・・本音を言うとさ、誰かと仲良くなったり、深い関係になるのも、別にいいかと思ってるんだ」


漣「ほうほう!」


提督「でもねー、ケッコン(仮)って仕組みを調べれば調べるほど、安直に深い関係になるのは、君らを危険にさらしかねないって仮説が成り立ちそうなんだよな」


漣「やっぱりなんか考えていたんですねぇ。つまり、何をするとどれくらい、どういう事が起きそうって考えているんですか?」


提督「おそらくね、プラトニックを超えてしまうと、つまり、肉体関係とかができちゃうと、たぶんリスクが発生し始めると思うんだよ。君らはちょっと強くなるが、それは深海勢力に近い属性を持つことと同じじゃないかなと思う。彼らからの認識が少し下がり、彼らを以前より理解でき、彼らの攻撃のタイミングが分かったり、彼らの攻撃が効きづらくなる。しかしそれは、君らの純粋な強さの上昇とは違う気がする。・・・何より、もしかしたら深海側の何かに反転する因子みたいなものを宿してしまうような気がする」


漣「確証はあるんですか?」


提督「まだないけど、この感じの時の勘は外れたことがないからさ」


漣「じゃあ、戦いが終わらない限り、ご主人様はだーれも押し倒さないって事になりますか?」


提督「そう言い切りたいところだけど、そこまで理性に自信を持て無さそうだよ。すでにおれの理性の防御力はゼロに近いっての。やめたげてよう!って感じ」


漣「あーあー、大変だー」ニヤニヤ


提督「なんでそんな嬉しそうなの?」


漣「こういうのが漣の萌えなんですっ!」


提督「どういうのだよ!」


漣「普段、『みんなが大事だから(キリッ!)』とか言ってるご主人様が、度重なる艦娘の誘惑と激務で、ある夜、理性が崩壊しちゃうわけですよ。それで、近くにいた漣に手を出しちゃうわけです。謝りながらも、自分を止められないご主人様と、『なんで?なんで?』みたいなわたし。止まらないご主人様は、漣に欲求をぶつけまくって、気が付くと目の前には、ぐったりしているレ○プ目の漣、自分のしでかしたことに愕然とするご主人様、みたいな」


提督「・・・・」


漣「その後、紆余曲折あって、ラブラブになるまでがテンプレなんですがー・・・聞いてます?ご主人様」


提督「いや、どう答えろと・・・」


漣「・・・という妄想もありかなと思いました」テヘッ


提督「妄想力は大事だからいいけれどな。でも、現実が妄想よりもある意味過激だったりしたらどうするんだろうな?ふふ」


漣「えっ?」


提督「なんでもない・・・そろそろ着くぞ」


漣(またご主人様は意味深な一言を。もう!)


漣「そういえば、今日はどこを回るんですか?」


提督「派出所と、役所、港湾管理事務所と、海上保安庁の出張所、国防自衛隊の出張所、堅洲島リゾート管理事務所、あとは漁協だね」


漣「結構多いですねー!」


提督「いや、各所そんなに時間は食わないよ。次回の磯波と来る時の方が、回る場所は少なくても時間がかかる感じなんだ。・・・ちなみに、漁協の食堂やリゾート管理事務所の食堂はなかなか美味しいらしいので、お昼はその辺で済まそうかと考えてるよ」


―堅洲島の官公署の出張所を一通り回り、和菓子屋に寄って帰路に就いた


提督「ふむ、懸念は少し軽くなったかな」


漣「何でです?ご主人様」


提督「役所も言っていたけれど、新しい大型リゾート施設を工事していたし、港も拡張工事をしている。官公署の各出張所には、エリートや若い人も配属されているしね。少なくとも、上の方はこの島が壊滅的な打撃をそうすぐに受けるとは考えていないって事になる」


漣「なるほどー、良く見ているんですね」


提督「とはいえ、知らなくてはならない事が多すぎる」


―再び、ゲートに到着した


提督「衛兵さん、お土産をお持ちしましたよ」


衛兵「いやー、すまんですなぁ。まさか本当に買ってきてくれるとは。提督さんは軍属ではないですな?」


提督「民間からの登用ですよ。裁判員制度の呼び出しを無視したら、ここに配属されたんです」


衛兵「ははは、まさかそんな。面白い事を言いますね。・・・お茶でもどうぞ」


提督・漣「いただきます」


提督「ん・・・これは、水が違いますか?美味しいお茶で!」


衛兵「おっ、水の味がわかるなんて、なかなかの提督さんだね。ここの山の湧き水ですよ。とてもうまい水なんだ。こりゃあ、なるべく協力したくなるね」


提督「水はわたしもこだわりがあります。この島で湧き水の汲める場所をいずれ探したいと思っていたくらいですから」


衛兵「なら、後で水の汲める場所の一覧をあげますよ。この島の水は美味しいんだ」


提督「ありがとうございます!」


衛兵「いえいえ、じゃあ、本題に入りますかね。・・・一年半ほど前ですよ。硫黄島鎮守府が壊滅したのは。自分はもともとは横須賀第一鎮守府の憲兵でしたが、そこが硫黄島第二鎮守府として前線に出張扱いとなり、自分も一緒に配属されたわけです」


提督「そうでしたか。任務や作戦の進行状況はどうでしたか?」


衛兵「連戦連勝!いつも順調で、和気あいあいで、盛り上がってましたよ。憲兵としても、仕事なんて何もなかった。提督も良い男でね、結構な数の艦娘さんと、ケッコンてやつをしていたし。このまま深海勢力は全滅して、もうすぐ本土に帰れるもんだとばかり思っていましたから、あの夜までは」


提督「何があったんです?」


―ここで、衛兵の目から光が消えた


衛兵「何日か、妙に寝苦しいというか、不快な夜が続いたんですよ。艦娘さんたちも、寝不足や不機嫌が続いてたんだ。悪夢を見るというか、とにかく何かおかしい。そんな日々が少し続いたある夜、第一鎮守府から火の手があがり、そこの憲兵から救援要請があったんですがね、同じころに、こちらは執務室のあたりが大爆発ですよ」


提督・漣「!」


衛兵「あの時ほど、自分の弛緩を恥じた日は無い。慌てて武装して執務室に向かったんですが、ひどいもんだった。ドアを開けたら、がれきの山と夜の闇がぽっかり口を開けていた。とにかく提督を探そうとして、うめき声に気づいて探すと、漣さんががれきの中にいてさ。掘り出したけど、ひどい怪我で息も絶え絶えだった」


漣「・・・」


衛兵「しかしね、こちらも憲兵が長いから、多少の知識はある。漣さんを担いで、入渠施設まで必死で走ったんだよ。・・・そうしたらさ、入渠施設は無くなっていて、でかい化け物と黒い女がいやがったんだ。あれで、自分の心は完全にダメになった。覚えているのは、『憲兵さん、逃げて!』っていう漣さんの叫び声と、必死に山に登って身を隠し、岩陰から五つの鎮守府の様子を見ていたことだけだ。震えたし、漏らしたよ。怖くて怖くて、誰かを守るなんて、とてもできなかったんだ・・・」


提督「なんてことだ・・・」


衛兵「今でも、五つの鎮守府から上がる火の音や爆発、絶叫が耳から離れない。怖くなってたまらなくて、耳をふさいで地面に突っ伏して震えていたよ」


漣「・・・」


衛兵「でもね、本当に怖かったのは、そのあと見たものだ。あれの意味が分からない」


提督「何を、見たんです?」


衛兵「だいぶ時間がたっていたから、真夜中だったと思うんだ。風が止まって、月が出ていたが、海は墨みたいに真っ黒だった。鎮守府だった建物は、ところどころに小さい火が燃えていて、近くの海には、焼けた鉄みたいな、赤黒い光の柱が立っていた。その光の柱を見ると、とにかく気分が悪くなる。なのに、目が離せない。吐きながら何度もその光の柱を見てしまうんだ。・・・そして、鎮守府だった建物から、たくさんの人影がふらふらと出てきた。列になって、ふらふら、ふらふらと海に消えていった。かなりの数だった。目の錯覚かもしれないが、人の形には程遠い影もいくつかあったし、片足でぴょんびょん跳ねているのやら、頭や腕が無いように見えるもの、腹から出た何かを引きずったまま歩いているのもいた」


提督「深海勢力の連中ですか?」


衛兵「いや・・・あれはたぶん、死んだ艦娘だ」


提督・漣「!!」


衛兵「そうとしか思えない。逃げる途中に拳銃を落としてしまったらしくて、日が昇ってから、鎮守府に捜索に行ったんだ。自決する為と、まだ怪我してても生き残っている艦娘や提督が居るかもしれない、と思ったし、敵の気配も無くなっていたからね。しかしさ、だれ一人いなかった。いなくなっていたんだよ」


提督「・・・」


衛兵「怖かった。自分一人だし、夜になったら海のどこかから、あの化け物や人影が姿を現すかと思うと、死にたい気分だった。憲兵仲間も一人も見つからなかった。みんな化け物にされて海に行ったのかと思って、気が狂いそうだった。自衛隊の航空機が来たときは、気が狂ったように叫んだものだ。助けてくれ!と」


提督「最初に、敵は、海から攻めてきたんですか?」


衛兵「わからないんだよ。まるで突然現れたようだった。何かこちらの知らないやり方で奇襲されたのだとしか」


提督「ふーむ・・・」


漣「これ、もしかしてご主人様の言ってた・・・」


提督「・・・艦娘が化け物に変わった、なんて、考えたことはありませんか?」


―衛兵は、驚いたような、怯えとも不安ともつかない眼で、提督を見た


衛兵「・・・提督さん、何か知っているのかい?自分はずっとずっと、その妄想に苦しんでいたんだ。でもさ、漣さんとか、あんないい子たちが、あんな化け物になるなんて、自分には耐えられないんだ。事実がどう、というよりも。・・・だから、考えたくなかった」


提督「では・・・?」


衛兵「でも、そうとしか考えられないんだ!そう考えると全て合点がいくんだよ!」


―重苦しい沈黙が続いたが、漣は一瞬、提督の顔に何かを確信した時の微笑が浮かぶのを見た


衛兵「・・・お茶、おかわりを煎れるよ」


提督「ありがとうございます。衛兵さん、おそらく推測は当たっていると私も思いますよ。だが、彼女たちや、この漣も、本来そんな化け物になるはずのない存在です。・・・平たく言うなら、人間が・・・おそらく上層部の誰かの浅知恵で、見せかけの強化をしたことが原因かと思います」


―提督はそう言って、漣の頭をポンポンした。


衛兵「ああ、そう言ってくれる人が現れないかと、ずっと思っていたんだ。やっとこれで、胸のつかえが取れるよ。あの化け物や影も艦娘なら、抜け殻になっていた自分に、ここに来るように促したのも、艦娘なんだ」


提督「誰かの紹介で、ここに?」


衛兵「いや、誰もいなくなって最初の夜、山に登って拳銃を頭に当てたんだけどね、漣さんの声が聞こえたんだ。『生きて、誰かにこの話をして。また会えるから』って。そうしたら、なんだかんだで助けられ、生き延びて、こうして提督さんと漣さんと会って、胸のつかえが取れたんだよ。良かった。あんないい子たちが、化け物なはずがないんだ。本当に良かった!ずっとずっと、苦しかったんだよ・・・」ウッウッ


漣「衛兵さん・・・」


提督「大丈夫ですよ。断言致します。ここの鎮守府はそんな事にはなりません。目星はついていますからね。そして、あなたの話はこの鎮守府や、戦い全体への計り知れない良いヒントとなります。お任せください。そして、もう心を落ち着けて大丈夫ですよ。・・・ところで、湧き水の場所の地図についてですが・・・」


衛兵「ふっ、その話から、湧き水の話かい。あんたは水の味がわかるうえに、鋭くて豪胆な男だなぁ。漣さんにも会えたことだし、今夜からは落ち着いて寝られるよ。この島に来て本当に良かった!」


漣「衛兵さん、以前の漣の事、大事に思ってくれてありがとうございます。とてもうれしいですよ。今の漣のご主人様は、この通り、一味もふた味も違う人なんです。今度はきっと大丈夫ですから、安心してくださいね」


衛兵「うん、うん。本当に良かった。ずっと生き延びてね、漣さん。あの時守ってあげられなくて、本当にごめんね。その後もこんな自分に助言してくれて、本当にありがとう。それだけは言いたかったんだ」


―頭を下げた衛兵のテーブルの上に、涙がいくつも落ちた。大の男が、ボロボロに泣いていた。


―漣は衛兵のごつい手を握った。漣も、無言で涙を流している。


提督「さて、そうであれば、やる事は多い。衛兵さん、ちょくちょく漣を連れて遊びに来ます。今後とも、よろしくお願いいたします。そして、任せといてください」


漣「衛兵さん、漣、また来ますね。ありがとう!」グスッ


―ジープは鎮守府に向かう道を進み始めた。


提督「漣、泣くんなら今のうちに好きなだけ泣いとけ。・・・胸貸そうか」


漣「だ、大丈夫です。色々やられてしまいましたが、いったん心を整えます。・・・あの」


提督「なんだ?」


漣「胸を借りる権利、保留にしてもらってて、好きな時に使える感じでもいいですか?」


提督「しっかりしてんなぁ。構わないよ。漣の立場では、色々混乱するだろう?あれでは」


漣「ご主人様は、ちょっと嬉しそうでしたね」


提督「・・・軽蔑するかい?」


漣「頼もしいですよ。ちょっと怖いけど」


提督「おれに怖さがあるとしたら、君らを守るためにしか使わんよ」


漣「さっきの話、怖くなかったんですか?」


提督「いや、おれは安易な選択はしないから、ああはならないからね。石橋を叩いて調べ、超音波とエックス線による非破壊検査をし、やっぱり早起きして別の道を行く・・・そういう男だよ。おれは」


漣「石橋叩く意味ねぇ!」


提督「ふふ。ケッコンシステムを考え出した連中は、もしかしたら途中で絶望したろうな。人の心に愛は無かったのだと気づいて」


漣「えっ?」


提督「何でもないよ。世界と人のかかわりの話さ」


漣(今、人の心に愛は無いって言わなかった?)


―涙がいつの間にか引いていた。泣く以上の何かが、急に漣の心に横たわった。


―フタサンマルマル、執務室


―提督用スマホの通知音が鳴った。


提督「ん?だれだ氷結って」


氷結(SNS)「提督さんのIDで間違いありませんか?」


提督(SNS)「あなたは誰ですか?」


氷結(SNS)「あっ、すいません大淀です。いきなりごめんなさい」


提督(SNS)「・・・忙しいので冗談はやめといて。後でネタばらししてね。じゃ!」


―今度は通話が鳴った。提督は一応取ってみた。


大淀(通話)「本当に大淀です!すいません」


提督(通話)「なんでこのIDをご存じなんですか?しかもいきなりSNSって。随分積極的なんですね」


大淀(通話)「青葉さんに教えていただきました。それと、どうしてもいくつか私的にお話ししたい事がありまして」


提督(通話)「そうですか。忙しいのでチャット形式なら大丈夫です。それでは」プツッ


―横須賀、官舎の大淀の部屋


大淀「なっ!・・・普通、いくらなんでも、女の子からのSNSをこんなそっけなく対応するものかしら?」


―堅洲島鎮守府、執務室


曙「提督、今のって誰から?」


提督「お、気になる?」


曙「べっつにぃー。クソ提督」


提督「大淀さんだよ。青葉から聞いたとかで、いきなりチャット飛ばしてきた」


磯波「えっ?なんかすごくそっけない感じで対応してませんでしたか?」


曙「ちょっと!あんな対応でいいの?まずくない?」


提督「んー、おれの勘がなんかそう言ってるんだよな。あれは頼みごとをしてくる女の雰囲気だよ。女の頼みごとに碌なもんはないからな。それに、個人的な話って言ってたから、別にいいだろ」


磯波「そうなんですか?」


提督「女ってのはね、自分の大切な人には迷惑かけまいとして、絶対に頼み事はしないもんなんだ。頼みごとをしてくる時点で、二の次以下って思われてるって事。磯波だって、自分の好きな人には無理なお願いはしないだろう?」


磯波「好きな人が居たことがないので、いまいちわからないです。でも、迷惑はかけたくないですよね」


提督「そうそう、その感覚。しかし久しぶりだな、こういう、女の子のめんどくさい感じ」


曙「へえぇ~、ずいぶん「頼み事」をされた経験があるのね、二の次提督」


提督「ふふ。いわゆる普通の頼み事なら、突っぱねればいい。けど問題は「おれでなきゃダメな事」が振られた時だな。生き方の都合上、対応しなくちゃならなくなる。そういうもんでなきゃいいがな」


曙(あれ?言い返してこない?)


提督「そうそう、初出撃の時に風邪で寝込んでた誰かさんは、『にしのじま』が戻ってきたら、優先的に近代化改修するからね?」


曙「き、近代化改修とか言って、わたしのハダカが見たいだけなんでしょ?このクソ提督!」


提督「近代化改修とか入渠は、むっちゃんとか秘書艦にサポートしてもらうから、おれが曙のハダカを見ることは無い。・・・が、ハダカを見たいか?見たくないか?と言われれば、これはもちろん見たい。ガン見したい。男の子だからね」テヘッ


曙「くっ、はばかりも無く堂々と、こんのクソ提督ー!」


磯波(仲いいなあ、曙さんと提督さん)


提督「ふっふっふ、投げかけた質問にカウンターを食らった気分はどうかね?」


曙「最悪の気分って言ってやるわ!このクソ提督!・・・と言いたいところだけれど、漣が帰ってくるなり寝込んじゃったでしょ?気になるのよね」


提督「いや、あれは無理もないさ。寝込んでるならまだいい方だ。自分で整理しようとしているわけでさ」


曙「町で、何かあったの?」


提督「いや、町と言うより、別の鎮守府に勤めていて、別の『漣』とかかわりのあった人物と偶然出会ったんだよ。出会い自体は良いものと言えるが、もたらされた情報は漣にはかなりショッキングなものでさ。おれもショック受けているよ」


磯波「それで、この時間まで過去の資料を調べることになったんですね」


提督「今日はこの辺で切り上げるか。流石に遅すぎる」


曙「んー・・・詳しくは、まだ話せないような事?」


提督「提督権限で詳細はまだ保護しておくよ。ただ、あの漣が寝込むような話だから、察して、そっとしといてやって欲しい」


曙「言われなくてもそうするわよ!わたしが考えているのは、漣が一人で抱えきれなくなった時の事。提督の所にあの子が行ったら、優しく対応してあげてね?クソ提督なら大丈夫だとは思ってるけどさ」


磯波(優しい・・・)


提督「・・・お、おう。もちろん!」


曙「その間は何かしら?」


提督「いやー、おれ以外の人にはほんと優しいなと」


曙「ふん!部屋に戻るわね。おやすみ!」


―曙は部屋を出る時、小声で「よろしくね」と言って出ていった。


磯波「曙さん、優しいですね」


提督「おれには手厳しい口調だが、すっかり角が取れちゃったんだよなあ。もともと、優しい子なんだよ。仲間思いなんだよな」


磯波「仲間、かあ」


提督「望月と仲いいじゃないか。色々あったから自然な事だが」


磯波「あ、はい!お部屋に戻ると、楽しいです。でも、これからたくさん仲間が増えるから、うまくやっていけるか不安で。以前の鎮守府では、他の誰かと話す、なんてこと自体無かったですから」


提督「あ、それは全然心配いらないと思うよ?うちの鎮守府はこんな感じだから。ついでに、昨夜吹雪が着任したから、もうじき会えるよ?」


磯波「えっそうなんですか?楽しみです!」


提督「期待して、今日はもうゆっくり休んだらよいよ。遅くまでお疲れ様!」


磯波「おやすみなさい、提督!」


―マルヒトマルマル、提督の私室


―氷結と言う名のIDから、何度か通知があったが、今夜は無視する事にした。


提督(大淀さん、ごめん、話は明日じっくり聞きますよ。・・・今夜は)


―コンコン、キイッ


漣「ご主人様、まだ起きてます?(小声)」


提督「起きてるよ。来るかもなって思ってた。やっぱり、無理っぽい?」


漣「それもあるし、ご主人様からもらった権利を使おうかなって」


提督「なに!昼間のあれ?・・・そうか。そりゃ辛いよなぁ」


漣「あっ、一応ギリギリまで温存します!色々、お話がしたいんです」


提督「いいよ。いくらでも。・・・何か飲み物作るから、適当に座っててくれ」


―漣は提督のベッドに腰かけた。提督が、甘酸っぱい匂いのする湯気の上がるマグカップを渡す。


漣「なんですか?これ」


提督「ん、まず最初は、蜂蜜とレモンの果汁をお湯で割ったやつ。気持ちが落ち着くから、ゆっくり飲むと良いよ」


漣「へぇ~!いただきます。・・・おいしっ!・・・ほんと、ご主人様ってば、気が利くんだよなぁ・・・うっ・・・ぐっ・・・。どうしよう、安心する。すごく怖いのに・・・」ボロボロ


提督「あーあ、ダメか、相当参ってるね。・・・無理もないけれどさ」


漣「漣、かなりダメな子になってます。もう、やだなぁこんなの。はぐらかす余裕もないなんて」グスッ


提督「いーや、あんな話じゃ無理もない。一つ一つ、不安を消していくから、全部ぶつけてみてくれよ」


漣「これだけでも相当安心しますけどね。でも、陸奥さんが言っていたんですよ?一度、提督の胸にギュッされてみなさいって。すごく安心するって言ってました。「陸奥さんだけじゃないですか?」って言ったら、顔が真っ赤になってましたけど。まだその切り札も温存しているので、大丈夫です!」


提督「あっはっは!なーにやってんだか、むっちゃんらしいなまったく!・・・でも、そんな事あったっけ?」


漣「というか、ご主人様は怖くないんですか?漣たちは化け物かもしれないし、ご主人様だって死んだり行方不明になったりするかもしれないんですよ?鎮守府がどれだけ強くなっても、そういう危険が付いて回るわけで。漣はすっごい怖くて、ずっと震えていたんですけど!」


提督「うちはそうはならないから、心配いらないんだよなぁ、おそらく。だってあれが、ケッコン(仮)の唯一のリスクだとしたら、すごく自然に理解できるしな。おそらくビンゴだろう。・・・で、そんな状態では、おれは安易にケッコンしないし」


漣「言ってましたね。でも、それって・・・」


提督「ずっと距離を取り続けるって事でもないぞ?君ら、みんな魅力的でかわいいしな。・・・あ、今の内緒でお願いします!部下にそんなこと思ってちゃいけないんで」


漣(どうしてそんな優しい顔で、そんな事をおもしろくサラッと言えちゃうかなぁ・・・)


提督「あとねぇ、確かに今日の話は衝撃的だったが、まだ裏も取れていない話なんだ。疑うわけではないが、自分で確信を得られないことで、不安だけ増長させてしまうのは良くないよ。戦いに行くときに、最初から死ぬ前提で落ち込みつつ行く人はいないだろう?現時点でそこまで影響を受けるのは、時間と、気力の無駄だよ」


漣「ご主人様は、今日の衛兵さんの話をどう思っていますか?」


提督「事実だろうよ。・・・あの人の見たものと、解釈については。ただし、なんら真実は無い。全てあの人の推測の話だよ。肝心な部分はさ」


漣「あっ!」


提督「真実は、人の数だけあるもんだよ。非常に興味深い話だったのは事実だが、まだその段階に過ぎないって事さ。見てない部分も多すぎるしね。衛兵さんの言う漣も、案外生きているかもしれない」


漣「うー・・・漣、もしかして気にし過ぎでした?」


提督「いや、そんなことはない。普通にそうなるはず。それでも、心のコントロールの仕方の話と、本当に確定してから感情に従うべきでは?って話をしているのさ」


漣「うぅ、なんも言えねぇ・・・」


提督「そんな事は無いってば。普通にそうなるよ。解体してください、とか、もう海に出たくないです、みたいな話も最悪、想定していたし」


漣「そうなんですか?」


提督「あれはそれくらいのショックを受けてもおかしくないって!」


漣「ですよねー?良かった!」


提督「お、涙ひいたね。・・・おれも、漣が動揺したり、泣いてると、心が結構痛むんだぞ?普段そんな姿を見せない子だからさ。・・・その分、どっか無理してないか心配で」


漣「ぶっちゃけ帰って来てからしばらくなんて、解体申請しようかと思ったくらい悩んでましたよ・・・」


提督「・・・やっぱりか」


漣「でも、解体したところで果たして楽になるのかな?とか、またいろいろ考えちゃって。まー無限ループってやつですよ。でも、色々気持ちの整理がついたんで、もう大丈夫です!」


提督(あれ?思っていたより立ち直り早すぎないか?これ)


提督「無理してないか?時には抱えてるものを全部出さないと、思っている以上に辛くなるもんだぞ?」


漣「だーいじょうぶですって!確かに、ご主人様の言う通り、漣、色々気にし過ぎていたかもしれないです。うん、遅くまですいませんでした!ぼのも心配すると思うので、そろそろ部屋に戻りますね!」


提督「わかった。とにかく、無理するなよ?」


漣「大丈夫ですよ!蜂蜜レモン、美味しかったです。また作ってくださいね!」


提督「夜が長くなりそうだったんで、高級ココアとかも用意していたんだが、まあ、美味しかったようで何より。あんなもん、いつでも作るからさ、元気出してくれ」


―漣をエレベーターホールまで送る。


漣「ここで大丈夫ですよ!おやすみなさい!ご主人様」


提督「そうか、おやすみ。辛かったらすぐに言ってくれよ」


漣「ありがとうです、ご主人様!」


―漣はうつむくようにお辞儀をした。


提督「じゃあ」


―きびすを返して、部屋に戻ろうとする。


―グイッと、服が引っ張られた。


提督「んっ?どうした?」


漣「ごめんなさい、嘘ついてました。強がってました。漣、すごく怖いです。ご主人様の言ってることも、ちゃんと頭に入ってこなくて。・・・ごべんなざい」グスッ


―漣の大きな目が、涙でいっぱいだった。


提督「納得して落ち着くのが早すぎだと思ったんだよ。でもよかった。本音を言ってくれたな。・・・ほら」ギュッ


漣「えっ?あっ!」


提督「権利は保留でいい。なので、セクハラで訴えないでな。ふふ」


漣「あーあ、抱きしめられちゃった。漣、どんどんダメな子になって行っちゃうなぁ。」グスッ


―エレベーターホール近くの物陰。


青葉「青葉、見ちゃいました!(小声)」


曙「そんな感じじゃないわよ、あれは。まったくもう、わたしよりよっぽどめんどくさいじゃん、漣ったら。(小声)」


青葉(ええー?曙ちゃんよりはめんどくさくないと思うんだけどなぁ・・・)


―同じ頃、横須賀、官舎の大淀の部屋。


大淀「な~んなんですかねぇ、あの提督さんは。普通、一応上司に位置して、しかも若い女の子からのSNSを、ここまで無視しますかねぇ?」ポイッ


―スマホをベッドの上に放り投げた。提督に向けたメッセージは、全て未読のままだ。


大淀「なんだかんだで、いつも夜中まで起きてらっしゃる方なのは知っています。艦娘と深い関係にならないであろうことも把握しています。つまり、分析の結果、現時点では私は無視されていることになるわけですね」グビッ、カラッ


大淀「はいはい、お酒も空ですか」コンッ


―大淀は、「氷結」とプリントされている、空になったチューハイの缶をテーブルに置き直した。


大淀「いつも待ってばかりですね、私・・・」ジワッ


―昔の事が色々と思い出されてくる。昔の鎮守府と、提督の事が。




第七話、艦


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3件コメントされています

1: SS好きの名無しさん 2016-07-30 22:16:20 ID: VDgzfbOI

とても読まされる、続きの気になるSSです
深海の要素の件で、あの重巡さんもしや…

2: 堅洲 2016-08-24 23:38:20 ID: 4LPtE2r8

こんばんは。応援ありがとうございます!

そうですね、いずれその重巡さんの話も出てきます。
のち、大活躍するかもしれませんし。

3: 堅洲 2016-08-25 02:07:20 ID: Eh0ct6mC

こんばんは。応援ありがとうございます!

そうですね、いずれその重巡さんの話も出てきます。
のち、大活躍するかもしれませんし。


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