2016-10-30 23:35:53 更新

概要

12月29日、元気に目覚めた提督は、秘書艦や一部の艦娘たちとともに、総司令部の有る横須賀に向かう。

目的は買い出しに調査に、その他諸々。

果たして、目的はどこまで、どのように果たせるのか?


前書き

しょうもないジジイと思われていた元帥と提督が、意外な展開で話すことになって行きます。

特務第八の提督はおばあちゃんですし、まだまだ色々な人が出て来そうですね。


[第二十六話 横須賀・前編 ]




―12月29日、朝。マルナナマルマル。堅洲島鎮守府、執務室ラウンジ。


―秘書艦全員が朝食の準備をしているところに、提督がやってきた。


提督「おはようみんな。お、今日の朝飯も旨そうだな!」


叢雲「おはよう。あら、元気そうね?今朝の朝ごはんは私が用意したのよ?バランスを考えてあるから、食べられそうなら好きなだけおかわりしなさいな」


提督「おう!食欲はばっちりだぜ。しかしいい朝ごはんだな!」


―今朝の執務室のメニューは十六穀米に海軍式味噌汁、サバの煮物にぬか漬け、ソーセージと目玉焼き、という内容だ。あとは、ポテトサラダと海藻サラダが大皿に盛られている。叢雲の料理はヘルシーだが食べごたえがある献立なのだ。


足柄「提督、元気そうだけど大丈夫なの?」


提督「ん、もう大丈夫。昨夜で今の自分の状態が分かった感じだよ」


磯波「すいません提督、昨夜は任務シフトで眠ってしまっていました」


提督「いや、大丈夫。磯波はきっちりやってくれてるから、問題ない」


初風「すごく心配したわよ?私はここやあなた以外の鎮守府も提督も嫌なの。身体には気を付けてね?」


提督「ごめん、心配をかけたな。そうだよな」


山城「まあ、金剛がつきっきりだったみたいですから、もう心配いらないって事なんでしょうね」ムスッ


提督「いや、実はまだすごく調子が悪いから、山城に看病してもらわないとだめかもしれない」フラッ


山城「ええっ?姉さまでなくて私なんですか?からかっているんですか?」アセリギミ


提督「いいねぇ、なんだかんだでそういう山城の優しいところ、好きよー?」


山城「・・・もうっ!提督はこの前の件から、ちょっと馴れ馴れしくないですか?」


提督「えっ、そんなに慣れ慣れしかった?ちょっと情が移ったかな?・・・ダメだなぁ、美人と一緒に眠ったくらいでこうなってしまうなんて」


山城「情が移ったって・・・えっ?美人って・・・そんな・・・いきなり何を言い出すのよ」


扶桑「山城、提督と言葉でやりとりしたら、あなたは勝てないわよ?・・・おはようございます提督。お加減はいかがですか?」


提督「おはよう扶桑。そこそこ良かったんだが、皆の顔を見ていたらすっかり調子が良くなったよ」ニコリ


扶桑「まあ!でも、顔色は悪くありませんものね」


提督「一時的に精神の限界値を超えたって事だろうな。でも、その限界値は毎日少しずつ、健常な値に戻って行ってる気がするんだよ。だから次第に、昨夜のようなことは起きづらくなるはずだな。そんな気がしているよ」


扶桑「私も自分なりに調べたのですが、提督は珍しいケースのようですね。重度の症状から回復していく方は滅多にいないとかで。提督のおっしゃるように、私たちの存在が、提督の心を軽くしているなら、こんなうれしい事は無いのですが」


提督「たぶん本当にそうなっている気がするよ。提督になってから、とにかくよく眠れるからさ」


曙「そりゃ、あんな綺麗な人と一緒に寝ていたら、元気にもなるでしょ。まったくこのクソ提督は!」


提督「いや、わかんね。もしかしたら曙と寝た方が元気になるのかもしれないし」


曙「はぁ?なっ、なんてことを言い出すのよ!何をされるか、分かったもんじゃないわ!」


提督「何かって、何をするんだろ?おれには全然わからないやー(棒)」


曙「くっ!このクソ提督!」


漣「ご主人様、ぼのが凄く嬉しそうにしてますよ~?おはようですご主人様!もうだいぶ良いみたいですねっ!あとは七駆としてはぼのを献上しますんで、回復に役立ててください。・・・あ、間宮券でいいですからね?」キラリ


提督「おはよう漣。おうわかった。間宮券何枚?」


漣「えーと、一人当たりこんなもんで、ぼのには追加で二枚くらいでは?」


―漣は片手を開いた。間宮券一人五枚に、曙は七枚という事になる。


提督「えっ、それ意外と安くないか?」


曙「ちょっ、漣?何勝手に仲間を売ろうとしているのよ!えっ?私の添い寝にそんな値段が?・・・ってちょっとそうじゃない!」


足柄「えっ、じゃあ提督、私だったら何枚なの?」


提督「いや冗談だよ?そんな事したら、妙高さんに今日がおれの命日にされてしまうって」


足柄「うーん、姉さんも提督の人柄は知っているし、それくらいで間宮券ならそう反対しないと思うけどなぁ」


提督「間宮券と引き換えで添い寝する鎮守府なんて、ちょっと踏み外しているだろそれ。それくらいって、うちの鎮守府の添い寝のハードル低すぎない?」


扶桑「あの、扶桑は別に間宮券などなくても・・・」カァッ


提督「ハードルも存在してねぇ!」


山城「金剛に負けたままにはできませんから、私も別に大丈夫ですが。提督は変な事をしませんし」キリッ!


提督「いやそういう話でもないからね?」


磯波(て、提督と・・・添い寝・・・)


如月「私も、間宮券なんてもらわなくて大丈夫よ。提督と一緒に眠っていればいいのでしょ?」キョトン


他のメンバー&提督(あ、この子見た目や雰囲気と違って、何も知らないんだ・・・)


提督「ほらー、漣が面白い事を言うから・・・」


漣「てへっ!じゃあここは、秘書艦代表で、いそっちで」


磯波「へ?な、何で私に?わ、私ですか?」


曙「あーわかった。漣、あんた提督と添い寝したいのね?」


漣「!」ギクゥ


提督「ほー・・・」


漣「もー、何をおっしゃるの曙さんたら、そんな事あるわけないわけないじゃないですか」


曙「否定しているようで肯定してる!」


提督「わかった。じゃあ、次に疲れたら漣に頼むよ」


漣「えっ!・・・わっ、わかりました」カァッ


曙(あれ?かわいい反応してる・・・なんかいつもと違う)


提督「・・・と、見せかけて曙にしよう」


漣「ええっ?」


曙「なっ・・・何でそうなるのよ!このクソ提督ー!」


磯波「あの・・・必要なら、私も大丈夫ですから」


提督「あの、皆さん真面目に考えてくれるのは嬉しいけど、冗談だよ?冗談ですからね?」


扶桑「いえ、提督はお気を使わなくて大丈夫です。この件は私たちで相談して、近いうちに最適化して提案いたしますね。既に前例もある事ですし、そういう時間が互いに有益なら、導入したほうが良いと思いますもの」ニコリ、メクバセー


提督「あー・・・わかりました」


山城(あら、何かしら?今の提督と姉さまのやり取り)


叢雲「へぇー、アンタって意外と扶桑さんに弱いのね。新しい発見だわ」クスクス



―30分後。


提督「さてと、食事も終わった事だし、今日の動きについて説明するよ。まず、マルキューマルマルにここにいる秘書艦と見習い、他何名かは全員、秘書艦服に着替えたのち、『わだつみ』にて、横須賀の総司令部に移動する。その後、横浜の街で私服を支給するので、予算の範囲内で好きに選んでほしい。ついでに、これは今後の休暇の際の過ごし方の練習も兼ねているので、それも念頭に置いて過ごしてほしい。基本的には単独行動だけは禁止。あとは自由。また、特務鎮守府の艦娘は逮捕権を持つので、事件・事故等の発見者になった場合は、『警察任務教範』に基づいた行動を取り、警察に状況を引き渡すまで持ち場を離れぬこと」


秘書艦たち「諒解いたしました!」


提督「他に、金剛、暁、川内、神通、那珂もこれに同行させるので、この後呼び出して準備をさせといて欲しい」


叢雲「わかったわ」


提督「他に、今日の鎮守府としての横須賀訪問の理由だが、まず進行中の特務案件がデリケートな状態になってきたので、総司令部の状態を把握しておきたいというのがある。次に、横須賀鎮守府・二部所属の榛名と会っておきたい。また、時間があれば特務案件の別の艦娘とも面会してこようかと考えている。あとはまあ、買い出しだな。鎮守府の正月の生活をより良いものにしたり、個人的に買いたいものもある。そんなところだな。あと、科学者さんが一時帰還するらしい」


扶桑(ああ、矯正施設の時雨とも、時間があれば会うんですね)


提督「では、各自、予定時刻までに準備をよろしく。時間は厳守で頼む」


秘書艦たち「諒解いたしました!」


―30分後、工廠。


提督「おはようバリちゃん。あれは出来てるかな?」


夕張「おはようございます提督。全部出来ていますよー!ところで、体調というか、心の調子はどうですか?見た感じ大丈夫かな?とは思うんですけど・・・」


提督「うん、もうほぼ問題ないと思われ。自分の今の限界が分かったから、かえって気が楽だよ」


夕張「それなら良かったです。では、さっそくこれ、どうぞ!」


―夕張は、木箱に入った幾つかの部品と、ショルダーホルスターを提督に手渡した。


提督「ちょっとこの椅子を借りるよ?・・・ん、さすが、いい出来だな」カチャガシャッ


―提督はショルダーホルスターを身に着けると、左わきの下に位置するホルスターに、H&K Mk.23を入れてみた。しかし、ぴったりとは収まらない。


提督「ん、良い感じだな。じゃあ早速組んでみるか」カシャッ、パラッ、カシャッ


―H&K Mk.23を慣れた手つきでバラすと、夕張が作ってくれた部品を組み合わせて再度組み立てる。


提督「ほら、できた!さすがだね、完璧だよ」


―提督のH&K Mk.23は銃身長が長くなり、サウンドサプレッサーの接続部は見えなくなった。銃身の下には、アタッチメントでソー・ブレードが付き、三か所程深めの切れ込みが入っている。そして、グリップにもハンドガードが付いた。


提督「ああ、結局こいつをまた使う感じか・・・でも、悪くないな」


夕張「提督の設計通りに作ったんですが、大丈夫だったみたいですね」


提督「完璧だよ。いい仕事をするね。ありがとう!」


夕張「いえ、そんな。完成した今でも各部品の意味が分からないんですが、これはどういう改造なんですか?」


提督「ああ、まず、この拳銃の先はサウンドサプレッサーが付くネジ山が付いていたろ?それを無しにして、銃身を延長し上部にマズルをつける。で、延長された銃身下部には、特殊鋼のノコギリ刃とグリップガードをつける。これで、刃物や格闘武器を銃で受けられる」


夕張「なるほどー!提督カスタムですね。じゃあ、この、ノコギリ刃に入ってる深い切れ込みは何ですか?」


提督「これは、いわゆる『ソードブレイカー』と一つだけ刃がついてるのが『ガットフック』だな。要するに、ナイフや刃物を受けてへし折ったり奪ったり、針金や糸、その他もろもろを切断するのに使うんだよ」


夕張「提督はこういう物も詳しいんですねー」


提督「趣味でナイフ作って売ってたんだ。ここでも時間があれば、作って売るかもしれないな。夕張の工作能力なら、月に一本作っても、そこそこ売れるものが作れると思うよ?たぶんだが」


夕張「へぇ~、面白そうですね!」


提督「いずれ工作機械を入れて、やってみようかね」


夕張「いいですね!ぜひ!」


提督「じゃあ、ありがとう。次回もまた何か作ってもらう予定だけど、よろしく頼むよ」


夕張「はいっ!任せて下さいね!」



―数分後、医務室。


提督「・・・というわけで、ちょっと留守を頼むよ」


陸奥「大丈夫よ!任せておいて」


提督「済まないな。本当は君も秘書艦だから、連れていきたいんだが・・・」


陸奥「仕方ないわよ。それに、留守を守る人も必要だわ。私への処分が解除されたら、二人でデートしてくれたら、それでいいわよ?」フフッ


提督「そうだな。ありがとう。後で扶桑にここに寄ってもらうから、服のサイズや希望は伝えてくれ」


陸奥「わかったわ。あ、一着はあなたの趣味で選んでくれないかしら?私に着せたい服か、似合うと思う服を選んでほしいの」


提督「ん?おお、構わないが。分かったよ」


陸奥「ところで、元気そうに見えるけど調子はどうなの?」


提督「ああ、心配をかけたが、もう大丈夫だよ。少し反省もしているしな」


陸奥「反省?」


提督「ああ。戦った自分や、戦える自分を否定するのは程々にするよ。今の自分には、守るべき君らもいる事だしな。夢の中で、誰かに少し怒られた気がする」


陸奥「そうよ。自分を否定しないで。あなたが戦ってくれたから、私はここにいられるの。ここの穏やかな時間は、あなたがその力で勝ち取ったものよ?」


提督「そうだな。程々にするよ。おれは今、良い意味で人間社会ではない場所にいるのだし」


陸奥「えっ?」


提督「君らの優しさは人とは違う。だからおれは回復していってると感じるんだよ。人は必ず裏切るが、君らは違う。その安心が、形を失った心を再生しているように感じるんだ」


陸奥「そう感じてくれるのは、とても嬉しいわ」


提督「だから、おれはまた戦うよ。以前より強くなってね」


陸奥「わかったわ。けど、無理はしないでね?」


提督「たぶん大丈夫だよ。じゃあ、留守中よろしく頼む。・・・あ、電と吹雪、五月雨をサポートにつけるから、秘書艦として色々教えてやってくれ」


陸奥「任せといて!」



―さらに数分後、射撃場。


提督「さて・・・」


―提督はカスタムの終わった拳銃を右手に構えると、遠くの的をなぞるように動かしながら連射した。まず、人型のターゲットの心臓を狙う。


―パパパパパンッガガガガガン


―次に、左手に持ち替えて同じように打つ。今度は頭の中心を狙う。


―パパパパパンッガガガガガン


提督「・・・どれ」


―ターゲットに歩み寄ってみると、右手側がややズレが多く、左手側はほぼ正確に中心を撃ち抜いている。


提督(悪くないが、右が少し腕が落ちているな・・・いや、昔からか。ふふ)


―出かけるのには問題は無さそうだ。


―マルキューマルマル。水上機『わだつみ』発着所。


提督「じゃあ、むっちゃんと電、吹雪、五月雨・・・あと、荒潮もかな?留守中よろしく頼むよ」


女科学者「じゃあね、陸奥。年明け、休暇が終わったらまた来るから、よろしくね」


陸奥「任せといて!・・・こちらこそ。良いお年を!」


電「留守中の秘書艦任務は任せてほしいのです!」


吹雪「は、はいっ!お任せください、司令官!」


五月雨「任命ありがとうございます!しっかり、やりますね!」


荒潮「次は私も一緒に行きたいなぁ、なんてね。任せといて」


―こうして、秘書艦服に着替えたメンバーと提督、そして科学者は、久しぶりに本土へと飛び立った。


陸奥「・・・行ったわね」


電「忙しい鎮守府だけど、私の出番はないのかなと思っていたら、ちゃんと秘書艦のお仕事を下さったのです!」


吹雪「私も!頑張って、扶桑さんたちと一緒に任務したいなぁ。磯波ちゃんみたいになりたい」


五月雨「時々私を呼んでくれるのって、やっぱり初期秘書艦だからでしょうか?」


陸奥「メンバーを見ると、提督も色々と考えてくれているのね、きっと。戻ってきてから、がっかりされないように、しっかりやりましょう?」


電「はいなのです!」


吹雪「そうですね!」


五月雨「私も、頑張っちゃいますから!」


陸奥(それにしても・・・)


―陸奥には少しだけ胸騒ぎがしていた。何も起きなければいいな、と少しだけ思う。



―水上機『わだつみ』内。


暁「ね、司令官、どうして私もこの中に入っているの?」


提督「それはな、レディーだからだ」


暁「え?ええっ?からかっているの?」


提督「いや、結構真面目。正確に言うと、暁はこの前、二丁の『レディ・スミス』を申請して、今日もどっちか装備しているだろ?」


暁「両方装備しているわよ?ほら!」


―暁は秘書艦服の下のホルスターをちらりと見せた。


提督「ふむ。今日は本土への外出のルールその他を色々と覚えてもらうので、お姉ちゃんで携帯可能な拳銃を持っている暁にも、勉強がてら来てもらおうと思ったわけだ。レディーのたしなみのお勉強だな」


暁「なるほどね!それなら良く分かったわ!」


提督「ちなみに、呼び出しているのはこっちだから、秘書艦と同じように好きな服を買って良いし、お昼も何か美味しいものを食べられます」


暁「わーい!ありがとね、司令官!」


川内「提督、私たちは何で呼ばれたの?」


提督「んー、一日、観光と買い物だけになってしまうかもしれないが、もしかすると勉強になる時間が発生するかもしれないからさ」


神通「勉強、ですか?」


提督「不確定なんだけどな。今日、少しだけ予定を前倒しにするかもしれないからさ」


那珂「戦闘状況が発生するって事?」


金剛「それはですネー、おそらく横須賀鎮守府二部に所属している、榛名の件ですねー。違いますか?提督。だから私も一緒なんでしょ?」


提督「当り。そんなところ」


那珂「ええっ!あの、アイドルだった榛名さんだよね?那珂ちゃんも知ってるよ?凄い有名人だけど、最近はやさぐれちゃったとかで、全然活動してないよね?どこかに異動したんじゃないの?」


神通「いえ、それ以前に、確かあの榛名さんは異動を拒んでいると聞きましたけど」


提督「正確には、異動を拒んでいるんじゃない。艦娘の技量と、提督の武技、この両方で自分を凌いだ鎮守府に異動したいと言っているわけさ。で、それに適う鎮守府が現れなかったんだな」


川内「えっ、じゃあ、もしかしてその榛名さんと、金剛さんや提督が戦うって事ー?」


提督「まあ、そうなるね。艦娘は何度か榛名を討ち破っている子がいるんだが、武技で勝てた提督はいないし、そもそも戦った絶対数がほとんどいない。榛名にとっては、提督は腰抜けばかりと思っているかもしれないな」


山城「何だか偉そうな子ですね。ちょっと気に入らないわ」


提督「山城、絶望的な戦いの時に、扶桑だけ戦場に呼ばれて、君は人間の都合で本土に残され、扶桑は轟沈、その上で意味の分からないアイドル活動を続けろと言われて、従えるかい?」


山城「・・・ごめんなさい、言いすぎました。人を信じられなくなっているのね、その子」


提督「そういう事だな。ただねじ伏せるだけではだめだし、考えどころだよ」


神通「そうなんですね・・・(提督は私や川内に戦いを見せるために呼んでくださったんだわ)」



―その一時間ほど後、横須賀総司令部、参謀室。


おばあちゃん提督「参謀さん、あたしゃ納得がいかないね!何でウチに異動の話が出ていた榛名の件が、その特務第二十一号にも出ているのさ!話がおかしいだろう?あれかね?うちとその二十一号鎮守府で、それぞれ榛名と腕試しをした上で榛名に選ばせるって事かね?」


参謀「すまないなヨシノばあさん、上層部がそれが一番良い、という結論を出して通達して来たんだよ。私の立場では、今あなたが言った方針に寄せるのが手一杯だったんだ」


おばあちゃん提督「どうにも気に入らないね!上層部上層部って。あたしらの知らないところから指示が出ているのも気に入らないよ!」


参謀「それはその通りだが、なにぶん、全て重要な機密に関わることでね。私が年明け以降に元帥になれば、もう少し情報は開示したいと思っているんだが」


おばあちゃん提督「ふん、あてにならないね。ともかくあたしゃ、最近やたらと目をかけられているその鎮守府の提督を見極めさせてもらうよ」


参謀「まあ、もうじき彼もここに来ることだし、それは問題ないですよ」


おばあちゃん提督「鳳翔、少しお茶でもして時間をつぶそうかい」


鳳翔「わかりました、提督」


―ガチャッ、バタン


大淀「参謀、特務第七の提督も同じような事を言っていましたが、皆さんなんだかんだで特務案件の子たちの事を考えているんですね」


参謀「ヨシノ婆さんがあんなに榛名の事を気にかけて、このタイミングでここに来るとは予想外だったよ。やはり特務鎮守府の提督は艦娘をよく気にかけているんだな」


大淀「そのようですね。でもこのタイミングだと、堅洲島の提督さんと確実に会う事になりますよね?」


参謀「成り行きに任せるほかあるまいよ。いやはや、仕事納めの日なのに、なかなか忙しい一日になりそうだな・・・」



―ヒトマルサンマル。横須賀総司令部、水上機発着所。


提督「久しぶりに本土に来てみると、空気がやはり違うな。様々な匂いというか、雑多な微粒子を感じる」


初風「ふぅん?詩人ね。私はその雑多が少し苦手よ。堅洲島のほうが好き」


足柄「ここが総司令部ね!何だかみなぎってきたわ!見てみて、軍艦がいろいろ!」


―提督は発着所付近にある警備員詰所で必要書類の記入を始めた。


暁「わぁ~、ここが総司令部、大きな建物が沢山あるのね!」


磯波「ここが、私たちの上層部なんですね・・・」


提督「とりあえず、総司令部に挨拶して、それから横浜の街に出よう」


女科学者「あ、では私はこれで失礼いたします。年明けにまた伺いますので、みなさんよろしくお願いいたしますね」



―同じころ、元帥執務室。


元帥「全く、どうせわしは今日で首になるのだ。こんな日にノコノコと挨拶に来られても迷惑この上ないのだがな。左遷されるジジイに筋を通すこともあるまいに。しかもわしは陸奥の件で粉を掛けるつもりだったからな。心苦しさもある」


元帥秘書の霧島「元帥、まあそうおっしゃらずに。私の計算によれば、この後の会見は良い結果がもたらされる可能性の方が高いようですが」


元帥「・・・不安が強くなってきた気がするのう」


霧島「元帥、ひどいですね!」


―ガチャッ


提督「私服で失礼いたします。特務第二十一号、堅洲島鎮守府提督、元帥にご挨拶に参りました。尚、私の名前は戦時情報法第26の2により、特別な保護の対象とされておりますので、名前を名乗らない事をご理解ください」


元帥「・・・いや、君をわしは知っておるぞ!これは、なんという事だ!」


―元帥の雰囲気から色々感じ取った提督は、ドアを開けると、待機していた秘書艦たちに指示をした。


提督「!・・・元帥、しばし失礼を。扶桑、人払いが必要になった。喫茶店かどこかで皆で休憩しててくれ」


扶桑「わかりました」


ー足音が廊下から立ち去っていき、人の気配が消えた。


元帥「すまないな。艦娘たちは詳しくは知らないのだな?」


提督「私は軍の関係の場所に来ると、こうして自分が知らない相手から自分を知られていて、いつも困惑します。私にとっては何ら意味のない過去でしたから」


元帥「上海軍閥事件の際は、『上海の鬼兵』、『最後のサムライ』。アフリカにおいては、『ソーイングマン』『ラスト・スタンディングマン』・・・その他、君の二つ名は数多く、生ける伝説であり、君の働きで君に感謝している者は数えきれないほどいる」


提督「全て、私に・・・いや、おれにとっては何の意味もない「意味がないことなど無い!」」


元帥「意味がないことなどあるものか!私は知っている。上海軍閥事件の際、君は世話になった外交官の家族が暴徒に見せかけた兵士たちに殺された際、その娘と、助けを求めた日本人たちを救援が来るまでたった一人で守り続けたではないか!あの時、子連れの商社マンの家族がいたろう?」


提督「・・・なぜ、それを?」


元帥「あれは、私の娘夫婦と孫だ」


提督「!」


元帥「私はな、娘も公務員にしたかった。しかし、娘は商社に勤めてバリバリ働く道を選び、そこで結婚した。あの時、私は嫌われてでも公務員にさせるべきだったと連日悔やんでいたのだ。娘も婿も孫も、多くの日本人同様、暴動で殺されたと思っておったからな。安否確認はできなかったが、毎日悔やんでいたのだ。しかし、特別法の施行と国連軍の介入で解放された上海で、娘と家族が無事だと知った時の私の気持ちは、とても言葉にはできん」


提督「それでも、自分には後悔しかありません。恩人を助けられなかった。ごくわずかな人々を守るのが手一杯だし、戦いで深い傷を心に与えてしまった・・・」


元帥「君はそういう男だと、噂には聞いていたよ。だが、誰にもできない事をやり遂げたのだ。そこは誇るべきだ」


提督「すいませんが、この話は、これくらいで。これでも、重病人が服を着て歩いている事になっていますから」


元帥「どういう意味かね?」


提督「戦闘ストレス障害の特級認定者ですから・・・」


元帥「なんという事だ・・・なんという・・・」ガタッ


霧島「元帥、何を?」


―元帥は席を立つと、提督の前に進み、提督の手を握った。


元帥「私は君に感謝と謝罪をしたい。私の家族を守ってくれて、本当にありがとう。そしてだ、罵ってくれて構わないが、私は自分の保身のために、上層から目をかけられている君の鎮守府に粉をかけようとした。恥ずべき行いだ。結果的に私の左遷を加速させただけだが、無能な私にはふさわしい結末と言える。知らなかったこととはいえ、本当に済まない。恩人になんという事をしようとしたのか」


―元帥は深々と頭を下げた。


霧島「元帥・・・」


提督「・・・自分も元帥も、成すべきと思ったことをした結果です。だから、こんな事は無しでお願いしますよ。何かがどこかで守られていたなら、少しだけ、心が軽くなりますが。とりあえず、今日は挨拶に伺ったのみです。そう気にされず、忘れて下さい。自分もそろそろ失礼いたしますので」


元帥「すまんな」


提督「いえ。では、失礼いたします」


―ガチャッ、バタン


元帥「霧島、笑うなら笑ってくれて構わんよ。わしは愚か者だな。国など守れるはずがない」


霧島「いえ。決してそんな事は。少し、驚きましたが。あの、特務第二十一号の提督さんは、どんな方なのですか?提督としての噂は聞いておりましたが、それ以前にも色々あったんですよね?」


元帥「軍の関係者なら、知らないものはおらんよ。上海事件の折には、まだ民間人だった彼は、暴動に見せかけた軍の蜂起が起きた街で、恩人の娘と何人かの日本人を半月もの間守り抜いたのだよ。表向きは軍人ではないために暴徒とされた新匪(ジンピー)たちを、彼は撃退し続けたのだ。闇に紛れて敵を斬り殺す彼は、『上海の鬼兵』と呼ばれ、恐れられ、暴動そのものが縮小していった。それほどの恐怖を与えたのだ。のち、その英雄的行動を称賛して、『最後のサムライ』と世界中で称賛されるが、日本人の残虐性を象徴する存在だと、一部の国や左翼的な思想の連中に騒がれ始めたのだ。それで、戦時情報法が施行されるに至るのだがな。彼はその後、志願兵として国の保護を受け、しばらく中国で戦った。その時も武功は数知れない。奇襲や伏兵の察知が天才的で、狙撃兵を見つけて排除する事に非常に長けていた。このせいで、上海軍閥には現在も、スカウトスナイパーのなり手がいないありさまだ」


霧島「それほどの人なんですか?初めて聞きました」


元帥「軍属以外は知らんよ。参謀も政府からの登用だから、おそらく知らんだろう。彼の事は話すことも禁じられているからな」


霧島「なぜそこまで秘密にされるんですか?」


元帥「解散した日本外人部隊は知っているかね?」


霧島「はい。噂程度ですが」


元帥「軍部最大のタブーだが、日本外人部隊の指揮系統には、ほかのアジアの国のスパイが入り込み、彼らが常に苦戦したり全滅するような工作がなされていた。これは、解散後に判明したことで、関わったスパイたちは全て消されている。この為、外人部隊の損耗率は非常に高かったが、この中で最後まで生き残り、多くの作戦を成功に導いたのも彼だ。だが、スコアが高すぎて表に出せない人間になってしまった。殺し過ぎと言われても仕方がないくらい、敵を殺したのだ。一つの部族が滅びかねないほどにね」


霧島「そんな方には全然見えませんでしたが。優し気な方のようにしか・・・」


元帥「優しい男なのだ。アフリカであれほど戦ったのも、報告書では『より技量を高め、大切なものを守るため』とある」


霧島「なぜ、そこまでしたんですか?」


元帥「わしは娘の家族がその場にいたから、真実を知っている。彼はな、恩人だった外交官の家族が殺された時、駆け付けるのが遅れたことを悔やんでいた。しかも、家に隠れていた外交官の娘や、わしの娘夫婦等、何人かを守り通したのだが、外交官の娘は気が触れてしまったのだ。そして、彼を恐れて暴言を吐いた。おそらくそれが、彼を責め続けているのだ」


霧島「悲しい・・・話ですね」


元帥「彼に救われた者は数えきれない。なのに、アフリカでも、味方が彼を殺そうとしたという噂もあるし、彼が心を閉ざしてしまうのも理解できる。その彼が、再び提督として戦場に戻ってきていたとはな。案外、戦いの流れが変わるかもしれん。上層部が目を掛けるのも理解できる。彼以上の人材はいないだろう」


霧島「この絶望的な状況が、変わりますか?」


元帥「霧島、わしはな、正直に言うと、人類がこのまま緩慢に敗れていくと思っておったよ。打つ手などなかったのだ。わしの元帥就任も、体の良い責任を取る立場に過ぎんと思っておった。だが、忘れていた。我々には、彼がいたのだ」



―総司令部、休憩室。提督は缶コーヒーを買って一息ついた。


提督(この流れ、本当に慣れないし面倒だな・・・)


―上海の件はともかく、それ以降の戦いについては、自分の仕事をできる限り行おうとしただけだ。それは、目の前の自販機の中身を入れ替えたり、横のごみ箱の中身を入れ替えたり、またはこの部屋を定時に掃除することと、何も変わらない。


提督(同じ仕事に過ぎないだろうに、なぜそう、命が助かった、助からない、で大事にするんだか・・・)


―戦場で誰かの命が助かるということは、その分誰かが命を落としているということだ。全体でみればプラスマイナスはゼロで、無益な争いだけが空しい。


提督(・・・いや、この手の考え方はやめよう。また、守るべきものができたのだし)


―守るものがあると、余計なことを考えずに済む。


提督(次は参謀室か・・・)


―提督は一息入れたら、参謀室に向かうことにしていた。



―その少し前、司令部の喫茶店。


鳳翔「提督、見慣れない子たちが入ってきましたね(小声)」


おばあちゃん提督「なんだいあの子たち、艦娘なのに銃を持っている子が何人かいるが、銃に負けてないし、大所帯だね・・・!もしかして、特務第二十一号の子たちかね?(小声)」


鳳翔「強そうな子がいますね。特にあの金剛は、相当なものだと思います(小声)」


おばあちゃん提督「じゃあやっぱり、特務第二十一号だね。最近、青ヶ島から高い練度の金剛を引き抜いたはずだから。あの子たちの感じだと、なかなか良い提督みたいだね(小声)」


足柄「扶桑さん、窓際の席とか、どうかしら?」


暁「わぁ!大きな軍艦がたくさん見えるわ!私も窓際の席がいいなぁ」


扶桑「そうですね。提督のお話も長くなるかもしれませんし、ここでいいんじゃないかしら?」


―ここで扶桑は、喫茶店の隅で時間をつぶす、鳳翔とおばあちゃん提督に気付いた。


扶桑「みんな、ほかの鎮守府の提督さんがいるわ。あいさつしましょう?(小声)」


ほかのメンバー「了解!(小声)」


扶桑「あのう・・・」


おばあちゃん提督「ん?なんだい?」


扶桑「おくつろぎのところ、失礼いたします。特務第二十一号鎮守府の秘書艦および、任務中の艦娘です。ほかの鎮守府の提督さんと鳳翔さんとお見受けいたしました。こちらの席に失礼いたしますが、まずご挨拶をさせていただこうと思いまして。よろしくお願いいたします」


―扶桑のあいさつに合わせて、全員が敬礼した。


おばあちゃん提督「ほう、なっちゃいるようじゃないか。よろしく。あたしゃ、特務第八、福島沖特別警戒鎮守府の提督、副村佳乃だ。ここじゃあ、ヨシノばあさんとよばれて、うるさい婆で通っているがね。ふっふっふ」


鳳翔「私は、同じく特務第八、福島沖特別警戒鎮守府の秘書艦、および、空母機動部隊教導艦、鳳翔です。特務第二十一の皆さん、よろしくお願いいたしますね」


金剛「あっ、聞いたことがありマース!姫クラスを何体も葬った、すごく強い鳳翔さんですネー」


鳳翔「いえ、そんな・・・たまたま運がよかったのと、出来ることをしようとしたまでです」カァッ


ヨシノばあさん「ほう、良かったじゃないか鳳翔。武名轟くってやつさね」


鳳翔「提督まで、そんな・・・からかわないでください」


ヨシノばあさん「すると、あんたは青ヶ島にいた金剛かい?」


金剛「oh!そうデース!ご存じなんですか?」


ヨシノばあさん「あんたのとこの提督に先を越されちまったがね、あたしもあんたの異動を申請しようかと思っていたのさ。しかし、見た感じ、今の鎮守府がいい感じじゃないか。提督がよいのかね?」


金剛「それは、気にかけてくださってありがとうデース。でも、私は今の鎮守府と提督がすごくマッチしている気がしているので、もう大丈夫なんですヨー!おっしゃる通り、とてもいい提督です」


ヨシノばあさん「ふむ・・・(嘘じゃないようだし、暗さもない。・・・なかなかやる提督みたいだが・・・)」


―そこに、提督が戻ってきた。


提督「ほお、なかなかいい喫茶室だな。みんなここにいたのか。そのままくつろいでてくれないか?参謀室にも挨拶に行ってくる」


磯波「あ、提督、早かったんですね!もう終わったんですか?」


提督「まあ、あいさつ程度だったからな。・・・ん?これは、どこか他の鎮守府の提督さんかな?初めまして。特務第二十一号鎮守府の提督です」


ヨシノばあさん「あたしゃ、この子たちには自己紹介したが、特務第八、福島沖特別警戒鎮守府の副村だよ。ここではうるさい婆で通っているがね。・・・それにしても、なんだい?ここで士官服を着ていない提督なんて、特務第七の女たらしくらいかと思ったが、あんたもその口かね?」


提督「いやいや、そんな立派な服を着れるほどの実績がないもので。中身の伴わない礼に意味など無いと考えるほうなので」


ヨシノばあさん「・・・ほう、あたしら先発組に喧嘩を売ってる皮肉かね?そりゃ?」


提督「あなたのところは、こんな言葉が皮肉にならないほどの実績があると思いますよ?」


―ここで、ヨシノばあさんはにこりと笑った。


ヨシノばあさん「ふっ、なかなか剛毅だし、口も回るじゃあないか!年寄りを機嫌よくさせるってのは大事なことだよ」


鳳翔(提督がほかの方と話して笑うなんて、珍しいですね・・・)


ヨシノばあさん(しかしこの男、何者かね?何も読めないよ。茫漠とした男だね・・・)


提督「いえいえ。本当は色々とお話を伺いたいところですが、予定が詰まっておりまして、改めて後ほど・・・」


ヨシノばあさん「その前に、あんた、ちょっとそこに立ってみてくれんかね?・・・なに、年寄りの小さなわがままだよ」


提督「ん?別に構いませんが、こうですか?」スッ


ヨシノばあさん「・・・・・・・・・ふむ。ありがとう。時間を取らせたね」


提督「いえ。では、いったん失礼します」


―提督は挨拶をすると、参謀室に向かい、喫茶店を立ち去った。


鳳翔「提督、先程のは?」


ヨシノばあさん「なーに、なんでもないよ。ただ・・・」


鳳翔「?」


ヨシノばあさん「長生きはするもんだね。いろんなものが見られる。鳳翔、あんたも長生きするんだよ?」


鳳翔「はい。ありがとうございます」



―参謀室。


大淀「提督さん、いつもお世話になっております」


参謀「忙しいところ、わざわざ挨拶すまないね。・・・しかし君のことだ。何か知りたいことがあってここに来たのではないかね?」


提督「特務案件の一つ、下田鎮守府から離反したとされる、二航戦を中心とした独立組織の案件について、どうにも辻褄の合わない部分が気になりまして。鎮守府からの報告書から、各部署を移動してきて特務案件になるまでの議事録等を一通り閲覧させていただきたいと思いまして」


参謀「もちろん、それは全く構わんよ。大淀君、一通り出力して渡してあげてくれ」


大淀「それが、その特務案件の書類はすべて特防が管轄しており、そこから降りてきた案件ですので、こちら側に資料が一切ない状態なのです」


提督(・・・ほう)


参謀「なら、私が閲覧許可を出そう。特防ではちょうど、堅洲島鎮守府に用事があるようだし」


提督「うちの鎮守府に特防が用事ですか?」


参謀「面倒をかけてすまないが、君がさっき会ってきた元帥の最後のあがきだよ。ただ、形式上は一度特防の査察を受けたことにしておいたほうが良いからね。それに、特防の瑞穂君は大規模侵攻を生き残ったうえ、今回も下田鎮守府の提督に害を与えられたが、それでも健気に任務に当たっているいい子だ。形式的な査察だが、彼女の息抜きになるような時間にしてもらって構わんよ」


提督「・・・」


参謀「大丈夫だ。陸奥に何かあるわけではない」


提督「・・・そういう事であれば」


参謀「午後には閲覧許可証を出せるようにしておくので、面倒をかけるがまた来てくれんかね?」


提督「了解いたしました」


―ガチャッ、バタン


提督(参謀は白。大淀は相変わらずグレーだな・・・。特防か。小細工が無ければ今日はっきりするな)


―再び、喫茶室。特務第八のヨシノばあさんと鳳翔は、すでにいなくなっていた。


提督「待たせたな。これから横浜まで移動だよ。お昼もそちらで取ることになると思う」


艦娘たち「諒解致しました!」



―提督たちは総司令部から横浜までの自動運転バスに乗って移動した。


―横浜、ベイサイドモール。昼食後。


提督「とりあえず、買い物に関しては打ち合わせ通りに頼むよ。単独行動は無しで。おれは近くのホームセンターその他で色々と買わなくちゃならない。ヒトヨンサンマルに指定バス発着所から発てるように買い物を終えてくれ」


扶桑「あの、提督、私はどういった服なら似合うと思いますか?陸奥が提督に服を選んでもらう事にしましたよね?・・・私も、普通の服を買うなんて初めてですから、何かご助言をいただけたら、嬉しいのですが」


提督「基本的に、みんな何を着てもある程度似合うとは思うけど、・・・そうだなぁ、扶桑なら、白やグレーのロングセーターとかがいいんじゃないのかな?」


扶桑「ロングセーター、ですね?わかりました」


山城「ロングセーター、ですか。聞きなれないですが、参考にしてみますね」


提督「うん。じゃあ、買い物が押しているからちょっと行ってくる。また後程!」ダッ


漣「行っちゃった・・・。ご主人様、忙しそう」


足柄「ホームセンターかぁ。服は嬉しいけれど、私は次回からはそっちのほうが楽しみだわ」


曙「ねぇ漣、私たちはどんな服を買おっか?」


漣「何しろ普段がメイド服だからねぇ・・・うーん」


初風「失敗したわ・・・」


磯波「何がですか?」


初風「自腹で黒のスーツを注文してたんだけど、まさかこんな機会を設けてくれるなんて」


磯波「黒のスーツですか?・・・あっ、提督が好きな「しーっ!」」


初風「小声でお願い」


磯波「サプライズ的な感じになるし、いいんじゃないですか?(小声)」


―磯波は初風の普段の艤装服が、黒のスーツとそう違わないんじゃないか?と、少しだけ思った。もちろん、そんな事は言わないのだが。


足柄「でも実際、こう寒いとセーターやカーディガンなんかは欲しいわね。私もセーターは欲しいなぁ」


暁「私は、予算の範囲内で妹たちの分も買いたいなぁ・・・」


金剛「暁はえらいですネー!お姉さんの鑑デース。艤装服に合わせて、カーディガンとかでいいんじゃないカナー?」


暁「ありがと、金剛さん!金剛さんはどんな服を買うの?」


金剛「ンー、提督の趣味に合わせるのもイイけど、ここはあえて自分の着たい服を選んでみマース。デニムのパンツとワイシャツに、あとは上着ですかネー?」


暁「わあ!オシャレね!レディーだわ!」


金剛「ありがとネー!」


―30分後、レディース服売り場、試着ルーム。


扶桑「・・・いけるかしら?」ジャッ


山城「!」


―扶桑は膝上までの丈の、白のロングセーター姿だ。『日常とセクシーさの高レベルな融合』という言葉が、山城の心のどこかで聞こえた気がした。


扶桑「山城、どうしたの?」


山城(ね、姉さまの魅力をあっさりここまで引き出すなんて、提督・・・いえ、あの男は危険だわ!)ツゥー


扶桑「どうしたの山城?・・・大変!鼻血が出ているわ!」


山城「・・・いえ、大丈夫です。姉さま、すごく似合っていますよ!(ああでも・・・嘘がつけない。なにより、この姿の姉さまは素敵すぎてもう・・・うっ!)」ポタタッ


扶桑「それなら良かった。似合っていなかったら、恥ずかしいもの。それにしても、これは提督の趣味なのかしら?それとも、私に似合うからと言ってくれたのかしら?洋服もいいものね。・・・ちょっと、セクシー過ぎる気もするのだけれど」


山城「そうですね。とても素敵です!姉さま!(こ、こうなったら私も似たような感じで、色々と薄めるしかないわ!)」


―山城の間違った熱意に火が付いた。


―同じころ、提督は近くのホームセンターで、外商部の担当者を呼び出してもらい、リストアップしておいた品物を、次から次へと買いまくっていた。鎮守府の備品、特に道具関係と、補修資材が全く足りないのだ。しかし、堅洲島は普通には荷物が届かないため、身元と守秘において上層部から指定された、各店舗の外商部の人間とやり取りし、面倒な経路を経て荷物を届けてもらう必要がある。資材部や酒保を通すと、安価な品物もあるが選択の幅は狭く、大抵のものは店で買うより高くなるため、予算の権限もある特務鎮守府では、結局自分たちで買い出しをしたほうが有益なのだ。


提督(予定を詰めすぎたかな・・・・)


―久しぶりの本土は、やらなくてはならないことが多すぎる気がする。


提督(だが面倒だ。全てこなしちまう!)



第二十六話 艦



次回予告。


買い物を終えて、参謀室と特防に顔を出す提督。


瑞穂は提督に何かを感じ取るが、堅洲島への査察の同意は得られ、「わだつみ」に下田提督の隠れた荷物を積み込む。


ヨシノばあさんは参謀に、提督について色々と質問するが、そこに元帥が訪れ、意外な話になって行く。


その後、提督と秘書艦たち、そしてヨシノばあさんは横須賀鎮守府・第二部の榛名と面会するが・・・。



次回、『横須賀・中編』乞う、ご期待!


扶桑『次回の話も、いけるかしら?』



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1: SS好きの名無しさん 2016-10-31 02:36:29 ID: MichHfZ2

いつも楽しく読ませてもらってます!
続きが楽しみ!

2: 堅洲 2016-11-03 08:16:51 ID: FjqyH4ce

応援コメントをいただくと、とても励みになります!物語的にはまだ三分の一にも到達していないので、じっくりお楽しみいただければと思います。

3: SS好きの名無しさん 2016-11-04 18:58:21 ID: WZXhwZlE

楽しみにしてます。


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