「地図に無い島」の鎮守府 第三十二話 働かない覚悟を持て!・前編
年末年始休暇を迎えた、堅洲島鎮守府の未明から。
眠れない時雨のもとを訪れ、質問に答える形で、そっと釘をさしておく山城。
時雨は、自分の心が見抜かれやすいのかと、少しだけ困惑する。
すぐに眠りに落ちてしまった提督に対して、何かの秘密を抱えている陸奥は、「心地よく、苦しい」時間を過ごす。
そして見る、他の艦娘たちとは違う夢。
その頃、志摩鎮守府では、特務第七と川内を追い詰める、綿密な計画が練られようとしていた。
未明までの騒動もあり、ゆっくりした朝を迎える鎮守府では、『深雪スペシャル』の探求が始まった。
秘書艦になろうとする陽炎はどうなるのか?
一方、深海側の大要塞では、深海学者提督が、何らかの有用なオブジェクトを発見していた。
一夜明けて、鎮守府に帰ったヨシノ婆さんは、矢矧の為に驚きの提案をする。
同じころ、目覚めた提督は、陸奥の意外な妹属性に気付いてほっこりする。
そして、珍しく『まみや』で食事を摂ろうとするのだが・・・。
年末年始休暇を迎えた波崎鎮守府では、鹿島がやっと調査に乗り出せる状況になっていた。
小さなエピソードの多い回ですが、それぞれ重要な話です。果たして提督は釣りに行けるのでしょうか?
間宮さんのお店のとんでもないサービス能力が明らかになり、提督が考えるのをやめるほどです。
陽炎がぽつぽつ出始めていますが、堅洲島のイベントメーカーは次第に彼女になって行きます。
理由は、山城と時雨の会話にヒントがあるかもしれません。
また、非常に重要な、『陸奥と提督の秘密』がここでやっと少し出てきます。彼女の秘密はなんでしょうか?
伏線回ですが、小ネタもありますので、楽しんでいただけたらと思います。
[第三十二話 働かない覚悟を持て!・前編 ]
―12月30日、マルサンマルマル(午前三時)、時雨の部屋。
―コンコン
時雨「どうぞ。開いてるよ」
―ガチャッ
山城「おにぎり、持ってきたわ。やっぱり眠れてないのね?」
時雨「ありがとう。・・・うん。僕も艦娘だから、これからお世話になるところで色々あれば、やっぱり眠れないよ。それに、今日だけでも沢山の出来事があったから」
山城「でしょうね。無理に眠る必要は無いわ。しばらく任務も入らないでしょうし、好きに過ごせばいい事よ。・・・座っても?」
時雨「うん、適当にかけて。僕も、少しお話がしたい気分だったんだ」
山城「そうなのね。提督の事でしょ?」
時雨「うん。悪い人じゃないのかなって。山城は、どう思ってるの?」
山城「・・・私の主観は、参考にならないわよ?」
時雨「それでもいいから、聞きたいな」
山城「そうね、良い人とか、悪い人っていうくくりは、あまり適切じゃないわね。味方ならとても心強くて、敵ならすごく厄介、そういう人ね。で、そういう人がたまたま、私やあなたの提督なのよ」
時雨「それはわかるなぁ。榛名さんとの戦い、びっくりしたよ。瑞穂さんと、どこかの提督の件も、侵入者の件も。自信家で嫌なやつって最初は思ったけれど、そうでもないみたいだね。あと、本当に誰とも、決定的な関係にはなっていないんだね・・・」
山城「ケッコンしたり『夜戦』すると、深海化しやすくなるからって話ね。正しかったみたいだけれど、どこか、それが提督にとって都合の良い事のようにも感じるのよ」
時雨「どういうこと?」
山城「誰とも深い関係、決定的な関係には、なりたくないように感じるのよ。望んだら、容易くそうなれるような子は、既に何人かいるし、金剛とは何度か一緒に眠っているわ。でも、決してそうはならない。理性だけの問題では無い気がするのよね。何かそういう雰囲気を感じるのよ」
時雨「なぜだろう?僕たち艦娘の事は嫌いなのかな?」
山城「違うわね。何となくだけれど、人間の女性でも同じか、もしかしたら、もっと避けるような気がするわ。でも、嫌っているわけではないようだし、良く分からない人よ。・・・昔の提督の事で傷を負ったらしいあなたには、悪くない環境とは思うわ」
時雨「・・・そうだね。ねえ、じゃあ、山城や扶桑は、提督の事、どう思っているの?」
山城「えっ?姉さまは、たぶん・・・提督の事が気になるみたい。提督も、姉さまにはどこか大事に接しているわね」
時雨「山城はどうなの?」
山城「そんな事を聞いて、どうするの?」
時雨「あっ、ごめん」
山城「冗談よ。誰にも言わないでほしいのだけれど、提督はなぜか、私と姉さまにだけ、この鎮守府で二つしかない、応急修理システムを積んでくれているの。これは、姉さまも知らない事よ。提督も、私がこれを知っていることは知らないはず。そして、いつも私たちを重要な、しかし無理のかからない位置に置いてくれてもいるわ。要は、大切にしてくれているのよ。私が嫌な事を言ったり、どんな態度を取っても、その姿勢は変わらないの。そんな人を嫌うのは、とても難しい事だわ」
時雨「そうなんだ。何でだろうね?(ちょっと回りくどい、かな。嫌いじゃないんだね)」
山城「提督になる前に、初めて会った艦娘が、どこかの泊地の私と姉さまだから、とは言っていたけれどね。・・・それよりも、気づいたことがあるのよ」
時雨「どんな事?」
山城「提督は多分、厄介な子や、性格の悪い子、面倒な子の方が好きよ」
時雨「えっ?何でそう思うの?」
山城「私がそういう女だから、良く分かるのよ。榛名さんとのやり取りも楽しそうだったし、あなたも、矯正施設でもしもちょっと揉めていたなら、心当たりがあるはずよ。絶対、提督は楽しそうにしていたはず」
時雨「あっ、そうかも・・・」
山城「でしょう?だからね、時雨、大事な事を二つ言うから忘れないで」
時雨「うん?」
山城「あなたがどれだけ厄介なものを心の中に潜めていても、それは全て、あの提督にとっては楽しみに近い事よ。だから、秘めている事があるなら遠慮なくぶつけなさい。それと、私たちやこの鎮守府にとっての『時雨』はもう、あなたなの。だから、私や姉さまを、皆を悲しませてはダメよ?」
時雨「えっ・・・!」
山城「じゃあ、そろそろ休むわね。おやすみなさい」ガチャッ、バタン
―山城はそれだけ言うと、時雨の返事を待たずに部屋を出ていった。
時雨「僕の事、全部見透かしているの?そんなに僕ってわかりやすいのかな?」
―秘密を保てていることに自信のあった時雨が、少しだけ自信を失った。しかし、秘密というのは、保とうとすればするほど、他人からは違和感が出るものなのを、時雨は長い矯正施設暮らしで少しだけ、忘れてしまっていた。
―提督の私室。
陸奥(ほんと、すぐ寝ちゃうのね・・・)
―提督の横で、少し左腕に触れて、話していたと思ったら、もう提督は深い寝息をたてている。しかし、堅洲島に来る前の提督を知っている陸奥からすれば、提督が深い眠りを得られているのは、とても良い事だった。
陸奥(あーあ、ほんと今日の失敗はあり得ないわね。私が涙ぐんでいたの、絶対気付いていたわよね・・・)
―しかし、自分の気持ちに気付かれたからと言って、良くも悪くも、それ以上何か起きる、という事はない。互いの事を気やすく好きだと言える関係以上に、楽な関係はない筈だ。自分以外の艦娘に対しては、提督はどうしても予防線を張る事を、・・・そもそも、提督が自分を含めた誰かと深い関係になることなど有り得ないのを、陸奥はよく知っていた。
陸奥(でも、この気持ちだって、本当かウソか、私にはわからない。仕方がなかったとはいえ、私とあなたは・・・)
―惹かれ合う、という感じではない。最初から分かり合えている感じが、心地よくて、そしてとても、悲しい。
―陸奥は、自分のフレームが暗い理由も、提督の心の状態がわかる理由も、全て見当がついている。もしかしたら、誰よりも分かり合えている感覚の原因もそれかもしれない。何も影響がなければと当初は願っていたが、明らかに影響は出始めている。それも、次第に強く。
陸奥(やっぱり、何も起きないなんて、都合のいいことは無いのよ・・・)
―願いが叶えば、代価は必ず支払わなくてはならない。しかし、その代価は・・・願ったものと同じくらい重い。
―いずれ、本当のことを提督に話さなくてはならなくなる。
陸奥(でもあなたは、きっと笑って私を許してしまう・・・許されない事なのに・・・)
―当初、最悪の場合、陸奥はどこかの海域で自分が轟沈すればいい、と思っていた。しかし、出撃は禁じられているし、もし今の自分がそうなったら、やっと眠れるようになっている提督の心に何が起きるかも、皮肉な事に理解できてしまっている。
陸奥(なんて心地よくて、苦しいのかしら・・・こんな、気持ち・・・)
―陸奥にとっては、例えば提督と深い関係になりたくても、そうなれないで焦がれている人生の方が、よほど幸せで楽だろうなと思えた。
陸奥(またきっと、あの夢を見るわね・・・。おやすみなさい、提督・・・)スゥ
―陸奥はこのあと見るであろう夢の事を思いつつ、眠りに落ちていった。
―灰色の世界。
陸奥(ああ、またここね、久しぶりだわ・・・)
―誰もいない、真夏の都会の真っただ中だ。色の違いは認識できても、それは記憶のせいで、ここでは全てが灰色に見えている。ビルも、空も、道路も、全てが灰色だ。最初の夢は、ここで始まり、終わった。陸奥はゆっくりと歩き始める。
―灰色の都会、灰色の寺院と墓地、灰色の、何かの道場、灰色の学校、灰色の森、灰色の、満開の桜並木、灰色の異国、そして・・・。
陸奥(ああ、今はここなのね・・・)
―色のせいで、雪なのか砂漠なのか分からない、灰色の滑らかな地平が広がり、灰とも雪ともつかないものが降り注いでいる。立ち止まる陸奥を、炭のような黒い人型が何体も、風のように通り過ぎていった。それらは、遠くにいる、別の黒い人型に向かっていく。
―バンッ、ザシュッ、ドガッ、ザン、ズシュッ、ババン・・・
―陸奥を通り過ぎていった無数の人型は、炭のように黒いが、赤い熾火や、深海棲艦の赤い濁りのようなぼやけた光をわずかにまとい、一体だけ、何の光も出さない影のような人型に襲い掛かっていくが、全て切り伏せられ、撃ち抜かれ、新たな灰になって飛び散っていく。それが延々と繰り返され、闇のような人型は少しずつ、戦いながら先へと進んでいく。
陸奥(そう、ずっと一人で、戦っていくのね・・・。あなたはどこへ行こうとしているの?)
―歩き続けるなら、いつかはどこかへたどり着くのだろう。きっと自分も・・・。
陸奥(すべて燃え尽きたような世界なのに、どこかに希望があるというのね・・・)
―そして陸奥は、より深い眠りに落ちていった。
―同じころ、志摩鎮守府、執務室。深夜というより、未明だが、眠そうにしている者は一人もいない。激しく静かな怒りが渦巻いている。
志摩鎮守府の提督「なるほどな、奴らの拠点はフェリーだったのか。道理で足取りが掴めないはずだ」
特防室長・大林「はい。特務第七だけ、違うルートの指揮系統が介入している形跡があります。また、彼らが訪れた場合の暗号は、丸ごとであれば『客船が入港した』。エージェント単位なら『清掃』という言葉が入るようです。そして、年明けに『客船が入港する』ようです。おそらく、横浜でしょう」
大井「清掃ですって?ふざけているわね!」ギリッ
志摩鎮守府の提督「大井、その感情はその時までとっておけ。・・・何か、特務があるという事かな?」
特防室長「最近、急速に進んでいる組織の再編の中で、特務第七に異動される予定だった艦娘が特務第二十一号に流れたり、我々の部署と任務がブッキングしていたりするため、これの調整や、功を焦っている雰囲気があります。横須賀近辺にも、下田鎮守府の提督の件や、榛名のマネージャーの不穏な動きの案件もありますから、全体で当たる意味もあるのかと」
志摩鎮守府の提督「なるほど。年明けでもあるしな。しかし、わからんな。なぜ、特務第七だけ、他の特務鎮守府と毛色が異なるのだ?諸悪の根源は解体されたはずだが、奴らの息がかかっている雰囲気を感じるな。実験的でもある」カチッ、シュボッ
―志摩鎮守府の提督は『ピアニッシモ・フランメンソール・ワン』に火を点けた。
特防室長「そこが、この件の最大の問題です。未確認ですが、形骸化したはずの大元帥と繋がる、国家総計画運営委員会、通称『運営』が関わっているようです」
志摩鎮守府の提督「待て、『運営』だと?それは以前なら・・・」
特防室長「はい、解体された『艦娘運用・軍営委員会』の通称です。理不尽な立案や干渉が多く、非人道的な実験の噂もあり、先の大敗北の原因とされ、解体された組織ですが、この人員をほぼそっくり取り込んだ形で、より多くのセクターを含んで立ち上げられたのが、この新しい『運営』こと、国家総計画運営委員会です」
志摩鎮守府の提督「道理で!『深海化しかけている艦娘の排除』など、奴らの考えそうなことだ!そうか、また『運営』が関わってきているのか。・・・厄介だな」
特防室長「ところが、そうとも言いきれません。最近、未確認ですがそれより大きな力が働き始めています。それが、旧態鎮守府の再編です。また、都内のある鎮守府が秘密裏に粛清されるなど、様々な事が起き始めています」
志摩鎮守府の提督「何が起きているんだ?」
特防室長「未確認ではありますが、それら組織とは別に、指揮系統が単独で生まれるようです。それが、月形さん、あなたがずっと探している人が提督を務める、特務第二十一号、通称『地図に無い島』、堅洲島の鎮守府ですよ」
志摩鎮守府の提督「にわかには、信じがたい。あの人が生きていたという事も、采配を振るえる状態だという事も、まして、提督に着任していたという事も。失礼な話だが、あなたの話自体が、罠ではないかと思えるくらいに」
特防室長「無理もありませんな。しかし、実は私も・・・」スッ
―特防室長・大林は、ここで丸レンズのサングラスを外した。
志摩鎮守府の提督「それは、あなたも縫われていたのか!」
特防室長「今日やっと、この傷を縫ってもらえたお礼を言えましたよ。あの人は、私の事は分かりませんでしたがね。でもやっと、胸のつかえがとれました」
志摩鎮守府の提督「失礼な事を言ったな、すまない。そうか、あの人が生きていたのか。あの人自身は人嫌いのままだろうが、私やあなたも、そしてたくさんの提督や軍属も、あの人だけは信用できる。だが、そうか、誰があの人を提督にしたかは分からないが、事態はそこまでひっ迫しているのだな・・・」
特防室長「困ったことに、特務第七の鷹島提督も、あの人とは何か因縁があるようですよ」
志摩鎮守府の提督「生き残り組に、あの人とのかかわりや因縁のないものなど居ないさ。しかし、そうか、決して裏切ることのない艦娘は、あの人とは非常に相性がいいな。私がそうであるように」
特防室長「噂通り、重度の戦闘ストレス障害だそうですが、奇跡的に回復しつつあるようです。艦娘の効果なのでしょうか?」
志摩鎮守府の提督「有り得ない事ではないな。・・・では、・・・その、すでにケッコンしているような艦娘もいるのかな?」コホン
大井(ん?何この空気・・・)
武蔵(ほう、珍しいな・・・)
特防室長「いえ、勘の鋭い方で、ケッコンシステムの問題点を見抜かれています。艦娘たちにもその部分を明言されているので、ケッコンや、関係の深くなる事は避けておられるようです。かと言って、総司令部の研究員の話によると、艦娘の状態はとても良いとかで。・・・あ、横須賀鎮守府・第二部の榛名と、青ヶ島鎮守府の二代目の金剛の異動先です」
木曾「なんだと!あの二人を?」ガタッ
大井(ふーん、その辺のサルどもとは違うようね)
武蔵(提督が気にかけるだけのことはあるようだな)
志摩鎮守府の提督「なるほど、いや、驚かない。私はあの人の戦いを間近で見て、命を救われたからな。そうか、あの榛名を連れて行ったか。しかし、私も面識があるが、あの榛名の抱えている問題は難しいかもしれん。あの人がどう対応するか、見ものだな。・・・いや、ケッコン等をしないなら、都合がいい部分もあるか」
大井「そんな事より、狩りの話よ!」
志摩鎮守府の提督「そうだな、すまん。私としたことが」
―その後、明け方までかかって、志摩鎮守府の提督と艦娘たち、そして特防室長は、特務第七と、出来れば川内の身柄を押さえる計画を練った。
―堅洲島鎮守府、マルナナマルマル(午前七時)、特殊演習場。
深雪「わりぃなあ綾波、朝早くから何度もこんな訓練に付き合ってくれて。あとで間宮奢るからさー、ありがとうな!」
綾波「そんな事しなくても大丈夫ですよ。こういうのも面白いです。でも、どう?イメージはできそうなの?」
深雪「うーん、イマイチなんだよなぁ。やっぱり、ちゃんとした『深雪スペシャル』を使いたいじゃん?今のままだと掛け声だけだし、せっかく体があるんだからさあ、何かこうもっと、すごいことが出来るはずなんだよね」
綾波「私はこういうの、思ったより楽しいなぁって。いつもの訓練と違って、何かに気付けそうな気がします」ニコッ
深雪「だからって演習でやると怒られちゃうけどな。あー、なんかいいアイデアないかなぁ?」
―綾波と深雪は、かれこれ一時間以上、さまざまな魚雷の打ち方と、砲撃の組み合わせを試していた。
綾波「それなら、司令官に色々聞いてみたらどうでしょうか?」
深雪「えっ、司令官に?綾波は話したことあんの?」
綾波「着任の時以来無いですけど、今日から休暇だし、それくらい聞いても、迷惑はかからないんじゃないかなって」
深雪「んー、そっかー、全然話したことないよなー、そういえば。話しかけてもいいのかな?」
綾波「いつも忙しそうだけれど、そんなに気にすることないと思いますよ?」
深雪「わかった。そうだな。司令官の知恵を借りるのもいいかもしれないな!ありがと、綾波!」
―昨夜遅くまで色々な事があったため、主力や秘書艦の艦娘たちはまだほとんど誰も起きていない。いつもなら、もう少し他の艦娘も来ているのだが、綾波と深雪以外はまだ誰も演習場に来ていない。
深雪「なあ、思うんだけどさ、あちこち回って、色んな人に意見を求めるのもありだよな?」
綾波「それはそうですけど、今日はみんなゆっくりですよね。昨日大変だったみたいですし」
―しかし、二人が演習場から出ると、射撃場から拳銃の発射音と、何人かの艦娘の声が聞こえてくる。
綾波「あっ、もう誰か射撃場にいる!」
深雪「いいねぇ、行ってみるかぁ!」
―射撃場。
初風「・・・というわけで、もしも陽炎型で拳銃を統一したいなら、やっぱりこれ、シグザウエルP220で統一して、あとはメインアームを差別化するとかした方が、陽炎一家らしくて良いと思うの」
陽炎「ふんふん、なるほどねー、高性能でかっこいい。私たちにぴったりね!」
不知火「確かに、統一感があった方はいいですね。昨夜のような状況が発生した時も、拳銃をかわるがわる撃ち続ければ、やがて準艤装は切れますから、決して無駄ではないですしね。そんな時、銃と弾丸が共通なら、陽炎型が重要な箇所を受け持てるかもしれません」
陽炎「これは決まりね!あとで司令に申請に行こう!」
不知火「これは、おはようございます。綾波さん、深雪さん」
綾波「おはようございます。申請する拳銃を選んでいたんですか?」
深雪「っはよー!うちらでは白雪と磯波だけだなー。あったほうがいいのかな?」
初風「どうかしら?あっても無くても、とは思うけれど、磯波なんかは真面目だから、攻撃力の高い拳銃を持たされて、大抵は提督のそばに置かれているわね」
深雪「磯波、なんか秘書艦が様になってるよなー。一生懸命だし」
綾波「もともと、真面目だもんね、磯波ちゃん」
陽炎「秘書艦って言えばよ?七駆だけ二人も秘書艦で、何だか潮にも特務が割り当てられるって噂じゃない?陽炎型としては見過ごせないのよね。最大勢力になるはずなのに、初風だけだもん」
不知火「まあ、そこは仕方がありません。ネームシップに特徴があまりありませんから」
陽炎「なーんですってぇ!どこに特徴が無いって言うのよ!こんなに元気で可愛いのに!」
深雪「すげーな、自分でそこまで言いきっちゃうんだ」
綾波「えーと、はい、元気だと思います」
初風「うーん、なんていうか・・・提督って少し癖のある子の方が良いみたい」
陽炎「なによなによ初風まで!私がそんなに特徴が無くて可愛いだけだって言いたいわけ?」
不知火「なるほど、多少癖はあるようですね。自己評価のあたりに」
陽炎「もうあったま来た!拳銃の申請の時に、司令に秘書艦にして貰えないか直談判してくる!」プンプン
不知火「へぇ、姉さんは司令と添い寝する覚悟もある、という事ですか。大したものです。私たち陽炎型の為に、そこまでする覚悟、さすがはネームシップですね」
陽炎「添い・・・ななな、なんて事を言い出すの!そっ、そんな事司令がするわけないじゃない!」
初風「提督は、今日は陸奥さんと眠ってるみたい。眠ってるだけだけれどね」
陽炎「・・・ふ、ふーん、さすがは大人の男ね。あの陸奥さんと、そ、そうなんだ」
―陽炎の声が少し震えている。
不知火(あ、これは想像力の限界を超えていますね)
初風「私も秘書艦みたいなものだから、提督とは話すことも多いけれど、別にそういう事が好きな人というわけではないわ。戦艦のお姉さま方から好かれているのよ、提督は。陸奥さんとは色々あったみたいだし」
不知火「だらっとしてそうで、やる時はなかなかやる方みたいですしね」
深雪(やっぱ話しやすいって事かな・・・)
綾波「え、えーと、そうそう、必殺技の話をしたかったんです」ポン
陽炎「必殺技?もー、早く言いなさいよそういう事は」
不知火「別に話題を無理に変える必要は無いかと「必殺技の方が大事なのっ!」」
陽炎「何より大切なのは戦いよ?必殺技を考えるのは重要な事だわ!」キリッ
深雪「そ、そーだろー?」
綾波(なんだか、話題を強引にでも変えたかっただけのような・・・)
―こうして、『深雪スペシャル』開眼までの探求が始まる。
―同じころ、太平洋上、マリアナ海溝付近、深海勢力の大要塞『E.O.B(エデン・オブ・ブラックレイジス)』、中深部研究フロア、立体走査室。
―忙しく作業している空母棲姫や戦艦棲姫の様子を見つつ、深海学者提督は立体走査装置のスイッチを入れた。部屋の中央に、巨大な、立体化された地球儀が浮かび上がる。
深海学者提督「ふむ、悪くないが、さて・・・『コフィン』と接続、D波走査を開始する!接続状況をメインモニタに反映しろ」
空母棲姫たち「ハッ!」パチパチッ
―壁面の大型モニターに、この要塞の断面図が浮かび上がり、海面付近の多層構造の浮力でバランスを取る、巨大な筒状の構造物だという事がはっきりわかる。そして、要塞はマリアナ海溝の途中で極端に細くなる構造になっていた。そこからは、長い一本のエレベーターシャフトが伸びており、海溝の底にある『コフィン』と表示された、なにがしかの構造物と接続していることがわかる。
―続いて、この『コフィン』とエレベーター・シャフトの接続部分が拡大され、色分けされた各接続状況が拡大された。電力、ネットワーク、酸素、純水、人工血液、S波、D波、そして、『珪化解除溶液循環』と神経接続・・・。
深海学者提督「接続状況は悪くはないな。珪化解除は、まだ18パーセントか・・・次の『ステイク』解除まで、まだかかるな・・・心の痛む事だ。放射線量は、だいぶ下がっているようだが。・・・D波走査開始!」
空母棲姫たち「ハッ!」ポチッ
―立体映像の地球儀に、この場所を中心とした黒い波紋が広がり、地球上のあちこちに黒点が浮かび上がる。
深海学者提督「次っ、ランドオブジェクト、エリア、構造物、非実体、等の、適用不可のD波発生源を除外!」
空母棲姫たち「ハッ!」パチパチッ
―この操作で、地球儀上の黒い点はほとんどが消えた。
深海学者提督「うむ、やはり使えないものを除外すると、ほぼ全て消えるか・・・うん?これは・・・?」
―深海学者提督は、オーストラリア、シドニー近郊に、強いD波を発するオブジェクトがある事に気付いた。
深海学者提督「これは何だ?調べる価値はあるな・・・。有用な物なら、姫の艤装に使えるやもしれん・・・」
―人と人とがそうであるように、武器と人にも運命はある。切られたはずのそれは、また静かに紡がれようとしていた。
―福島県いわき市、特務第八、福島沖特別警戒鎮守府、執務室。
加賀「おはようございます。おかえりなさい、提督、鳳翔さん」
鳳翔「ただいま、加賀さん」
ヨシノ婆さん「おはよう。留守中のお勤め、ご苦労だったね。・・・なに、今日から休暇なんだ。楽にしたらいい。後でみんなで間宮にでも行くかね、ふっふ」
加賀「それは・・・さすがに気分が高揚します!ありがとうございます」
ヨシノ婆さん「・・・あの子はどうしてるんだい?」
加賀「また、武道館でいつもの練習をしているわ。もう、止めても聞かないから、そのままよ」
ヨシノ婆さん「またかい。しょうのない子だねぇ。榛名を連れてこれれば、あの子のじゃじゃ馬っぷりと無気力っぷりの両方を解決できると思ったんだが、うまくいかなかったよ。・・・しかし、加賀、あんたまで諦めるようになるとはねぇ。あんなにぶつかり合っていたのに」
加賀「いえ、あの子なりの考えもあるし、無気力な時が心配でもあるから。・・・そうですか。やっぱり、あの榛名さんはそんなに強かったんですか?」
鳳翔「強かったです。が・・・」
ヨシノ婆さん「特務第二十一号の金剛と、提督が、榛名をストレートで下してしまったよ。どちらも、ろくに勝負にさえなっていなかった。あたしらは・・・引き分けだったんだがね」
加賀「青ヶ島の金剛ですか。事実上、現在最強の金剛ですよね。しかし、提督がそこまで強いというのは・・・」
ヨシノ婆さん「あれはね、信じられない数の人を斬り、撃ってきた男だよ。そうでなければたどり着けない強さだ。しかし、戦闘なんとか障害というのかね?どうもそれのせいでか、濁りがない。榛名も驚いたことだろうよ」
加賀「・・・そんな人が居るのね」
ヨシノ婆さん「さてこうなるとだ、うちのじゃじゃ馬をどうするか?という話になるんだが、良いことを思いついてね。特務第二十一号の提督は話の分かる男だから、貸しを一つ作ってきたんだよ。それを利用しようと思う」
加賀「どうやって?」
ヨシノ婆さん「ふっふ、まあ見てな、面白いものが見れるだろうよ」
―ヨシノ婆さんと鳳翔、加賀は、武道館に移動した。道着姿の艦娘たちが、木刀や竹刀、薙刀で、立ち合いや型の練習をしているが、それらのほぼ真ん中で、矢矧が目を閉じ、さまざまな受けや技を繰り出している。その足元には、汗で小さな水たまりができていた。
―ヨシノ婆さんたちが道場に入ると、矢矧は構えも解かず、目を閉じたまま、挨拶をした。
矢矧「おかえりなさい、おばあさまと・・・鳳翔さん、加賀さん」
ヨシノ婆さん(やれやれ、また腕を上げているよ。あたしらがわかるとはね・・・)
加賀「今、目を閉じたままだったわね・・・」
鳳翔「矢矧さん、気持ちは分かりますが、その練習は、提督から、もうやるなと言われていたものですよ?強さを求める気持ちも、あなたの退屈も分かりますが、規律は大切だと思います」
矢矧「ごめんなさい、わかってはいるんだけれど、無気力になりそうだったから、つい・・・」
ヨシノ婆さん「まあいいさ、矢矧、あんたはもうじきお払い箱だ。退屈なうちの鎮守府より、もっと広い世界を見てくるべきだと思ってね」
加賀・鳳翔「えっ?」
―ここで矢矧が目を開けた。驚いた顔をしている。
矢矧「ええっ?ごめんなさい!おばあさま。もうしませんから、ここに居させてください!」
ヨシノ婆さん「まあそれは冗談だが、近いうちにそうなったりしてね。矢矧、ちょっと荒療治と行こうかね。年明けにお見合いをしてもらうよ?異議は認めない。いいね?ふっふ」
鳳翔「えっ?お見合いと言いましたか?」
加賀「何を言っているの?提督」
矢矧「えっ?お見合い?・・・面白そうね!」
ヨシノ婆さん「なんだい?驚かないのかい?(そんなに退屈していたのかい、これは見込み違いだったかね…)」
矢矧「だって、面白そうなんだもの!ありがとう、おばあ様!矢矧の退屈にそんなに気を配ってくれるなんて!」
ヨシノ婆さん(・・・何だいこりゃ、あたしも歳取ったねぇ。もしかすると、この子はあたしのところから巣立つべき子だったのかもしれないね・・・ここまで育ったんだね)
矢矧「それで、おばあ様、相手はどんな人なの?」
鳳翔(まさか・・・)
―ヨシノ婆さんは、嬉しさと寂しさと、場合によってはある決意が必要だなと感じ始めていた。
ヨシノ婆さん「ああ、とっても強い男さ・・・」
―再び、執務室
加賀「提督、お見合いだなんて、まさか本当にあの子を嫁がせるんじゃないですよね?」
ヨシノ婆さん「そんなんじゃないさ、ただね、あたしゃ、少し限界を感じ始めているんだよ」
鳳翔「えっ?」
ヨシノ婆さん「いや、提督を辞めたりはしないよ?ただねぇ、わかっちゃいるんだ。本当はお前たち、もっと戦いたいだろう?」
加賀・鳳翔「!」
ヨシノ婆さん「お前さんたちの頑張りで、大規模侵攻でもうちの鎮守府は福島沖を守り切った。精鋭ぞろいの鎮守府と呼ばれ、実際に精鋭ぞろいだが、矢矧をはじめ、みんながくすぶり始めているのに気づいちまったんだよ」
鳳翔「そんな事は・・・」
加賀「っ!・・・そんな事はないわ!」
ヨシノ婆さん「いーや、加賀、お前も本当はそうだろう?前は矢矧があの練習をしていたら、怒って、大破するまで何度もやり合ってたのに、最近はそれもしないじゃないか」
加賀「それは・・・」
ヨシノ婆さん「いいかい?あんたたちは皆、いい子だ。だから、これからはもう少し好きにやりな。あたしも色々考えていくさ。矢矧の事は、その手始めだよ。きっとそれで、うちの鎮守府は、もっと強くなるよ」
加賀「・・・提督、矢矧があの練習をしていたのを、咎めるのを忘れていたわ。少し、演習をしてくるわね」
ヨシノ婆さん「行っておやり。鳳翔、あんたももう少し、やり合って構わないんだからね?」
鳳翔「正直なところ、昨日の榛名さんとの戦いで、もう少し自分を戦場に置きたい気持ちが出てきたのは、否定できない部分があります」
ヨシノ婆さん「だろう?それでいいんだ。これからもう少し楽しくなるよ。みんなでもっと、強くなろうじゃあないか。なあ」
鳳翔「そうですね。私ももっと、強くなれるような気がしています」
ヨシノ婆さん(ふっふ、特務第二十一号の提督さんよ、さっそく借りを返してもらうからねぇ)
―堅洲島鎮守府、昼前、提督の私室。
―ゾクッ
提督(・・・ん、なんか寒いな。・・・あっ!)モゾッ
―目覚めてみると、提督は毛布も布団もほとんどかかっておらず、隣の陸奥がほぼ全部にくるまって、深い寝息を立てている。そっと引っ張るのも難しい感じだ。
提督(あーなんか、すごく二番艦というか、妹っぽい。しっかりしているけど、やっぱり誰かの妹って感じだな。かわいい・・・)
―どこか気を使って、姿勢を保ったり、提督が寒くならないように気を遣う金剛はやっぱり長女だが、陸奥は眠ってしまうと毛布や布団を好きなように引っ張ってしまうあたりが、とても妹っぽく感じられる。普段のしっかりした大人っぽい雰囲気との差が、なかなか、可愛らしい。
提督(いい時間だな、起きるか・・・)
―まだ陸奥の寝息は深いようなので、提督は静かに起きると、シャツを着替えることにした。シャツを脱ぐと、銃創や無数の縫い傷が現れる。それをなるべく見ずに着替えた。次に、ミルにコーヒー豆を入れ、そっとベランダに出て挽くと、薄めのコーヒーを淹れる。
提督(もうじき、昼か。しかしなぜ、こんなに良く眠れるんだ・・・?)
―提督になる前や、少し前までのそれは、睡眠とも言い難い。『目を閉じ、できるだけ心身を休めようとしているだけ』で、長い間眠ることを忘れてしまっていたようだ。なのに、今はそれが、戻ってきている。
提督(ほとんど形を失っているはずのおれの『魂』を、まるで補ってくれているような・・・)
―そんな気がしていた。
―窓から前庭やグラウンドを見ても、今日はあまり艦娘たちの動きがない。昨夜遅くまでの騒動のせいだろう。それでも、長良が走り込みをしていたり、特殊演習場や射撃場には、何人かの出入りがある。
提督(決めた。今日は働かない!)
―予定を詰める悪い癖と、その少し後にぽっかりと予定を空ける癖。なら、平均的にやれば結局同じことだろうと思うのだが、どうしても波を作りたくなってしまう。そう、提督は一般職に向いていない男だった。
陸奥「ふぁ、おはよ・・・あれ?もう起きてたの?」モゾモゾ
提督「おはよう。よく眠れたよ。むっちゃんは?」
陸奥「えー、普通先に一人で起きちゃうかしら?こう、もう少しベッドの中で挨拶してくれるとか・・・あら?」カアァ
―陸奥は少しだけ不機嫌そうにしようとしたが、ここで自分が、布団と毛布を独り占めしていることに気付いた。
提督「ふふ。そうしてあげたかったんだけどな」
陸奥「・・・ええと、ごめんなさい、寒くなかった?」
提督「いや、いい感じで目が覚めた。・・・コーヒー淹れてあるぞ?飲むかい?」
陸奥「ありがとう、いただくわね。ごめんなさい、寒かったでしょ?」
提督「いや、それよりもさ、やっぱりむっちゃんも妹なんだなぁと。それ、すごく妹っぽい。ちょっと感心した。可愛くて」
陸奥「ちょっと!またそういう・・・うう・・・反論できないわ。私、昨日からダメねぇ。何だかあなたと一緒だと、今ひとつしまらな・・・あれ?青ヶ島から帰って来る時に、あなた、そんな事を言っていたわね。確か、初風に」
提督「おお、そういや言ったかもだな」
陸奥「もしかして、あなたの影響なの?」
提督「あ、それはちょっとズルくないか?今日のこれはむっちゃんの隠された妹属性の発露だろ」
陸奥「やーめーてー!弱みばかり増えて行っちゃうわ!」
提督「しかし、影響はあるのかもな。精強さの中に一点の緩さが無いと、何も見えなくなるもんだからな。強さをひたすらに求めても、緩さや、自分の中の情けなさも大事だと思っているんだよ。ガチガチに絞ってもダメなもんさ。強さってのは余裕だと思うからね」
陸奥「なるほどねぇ・・・それは参考になるわね」
―提督は陸奥の分のコーヒーを淹れると、ナイトテーブルに置いた。
陸奥「ありがとう。ねぇ、一つ聞いてもいいかしら?私や金剛や、例えば扶桑たち、それに、たぶん秘書艦の子たちは、あなたの事が良く分かるから、こうして一緒に眠ってもまず大丈夫だけれど、今後、あなたの事を気に入って、たやすく一線を超えようとしてくる子も必ず現れると思うの。そういうケースも、あなたは想定しているのかしら?」
提督「・・・ああ、想定しているし、それはそんなに難しい対処でもないんだよ」
陸奥「そうなの?どういうこと?」
提督「人間の女なら、情念の問題もあって難しいだろうが、君ら艦娘は、基本的に相手の事を考えることが出来るのにそうなっているわけだから、その辛さの根源に向き合ってあげれば、一線を超えなくても信頼が成り立つと理解できるはずなんだ」
陸奥「うーん、難しいわねぇ・・・つまりどういうことなのかしら?」
提督「砕けた言い方をすると、『突っ込むだけ』が愛情じゃないと、理解出来るって事さ」
陸奥「何か、あなたなりの確信があるわけね?」
提督「一応はね。こんな事言ってダメだったら、目も当てられないけれどな、ふふ」
―提督は、陸奥の心配する状況が、意外と早く発生しそうだと感じていた。
陸奥「ちゃんと考えてあるのね。ちょっと悔しい気もするけれど・・・ふふ。ところで、今日はどう過ごす予定なの?」
提督「んー、ほぼ思い付きだが、今日は徹底的にオフる事にした。つまり、何もしないで遊ぶ。最近、予定を詰めすぎたからさ」
陸奥「ふぅん?いいかもしれないわね。何をするの?」
提督「ちょっと気になる事を片付けたら、そこの砂浜で釣りでもしようかと」
陸奥「いいわね!後で見に行ってみるわね。ついでに、昨日選んでもらった服でも着てみるわ」
提督「そりゃ楽しみだな。気に入ってくれるといいんだが」
陸奥「じゃあ私、部屋に戻るわね」
―陸奥はその後、私室と繋がっている医務室に向かい、提督は『まみや』に向かった。
提督「おはよう、間宮さん、伊良湖ちゃん。えーと、『お任せサンドイッチセット』の空母クラス、耳なし、フルサイズでお願いします。あと、トマトジュースと、ホットコーヒーも」
伊良湖「かしこまりました提督!ホットコーヒーは食前になさいますか?」
提督「食前でよろしく!」
間宮「提督さん、おはようございます!今日は皆さん、まだほとんど寝てらっしゃるみたいですね」
提督「昨日は色々あったからね。今日から休暇でほんと良かったよ。思い返すと昨日の密度が濃すぎだな。今日はのんびり過ごすよ。なので、間宮さんたちの顔でも見ながら食事でもしようかと」
間宮「もう、お上手ですね!お陰様で、とても幅広いメニューに対応できるようになったんですよ!」
提督「それなら良かった」
―カラッ
叢雲「あら、おはよう。珍しいじゃない」
提督「おはよう。今日から休暇だしな。間宮さんの顔を見ながらゆっくり飯でも食う事にしたのさ。あと、叢雲の顔もか」
叢雲「ふーん?まあ、昨日があれだし、今日はゆっくりでいいんじゃないの?・・・間宮さん、『ホッケの塩焼き定食』と、『ごま団子』、それから『ほうじ茶』をお願いします」
伊良湖「かしこまりましたー!」
―カラッ
漣「あれっ?珍しいですねご主人様と叢雲さん、ここで会うなんて。・・・間宮さん、『ロコモコ丼』並盛と、『ホットチョコレート』のSサイズ、それと、『マンゴージュース』をヨーグルト入りでMサイズでお願いしますねー!」
伊良湖「かしこまりましたー!食前にお持ちするものはありますか?」
漣「全部食後で大丈夫だおー!」
提督「おはよう漣。すごいな、そんなものまでオーダー可能なんだ?」
―カラッ
五十鈴「あら、おはよう提督。この時間にここにいるなんて、珍しいわね。今日も何か開発する?」
提督「おはよう。いや、とりあえず今日はオフるつもりだから大丈夫だよ」
五十鈴「そう。まあ、そういうのも大事よね。・・・間宮さん、『季節の魚入りネギトロ丼』と、『季節の魚入りつみれ汁』、それから、『ポテトサラダ』を野菜マシマシで。あと、『ホットハニーレモン』を食前でお願い」
伊良湖「はい、喜んでー!」
提督(・・・あれ?なんかメニューすごい充実してるのか?)
―提督は壁に貼ってあるメニューを見た。和、洋、中の基本的なメニューと、甘味処のメニュー、そして、店の外の黒板に提示してある、『日替わり定食』と『週替わりセットメニュー』。提督が頼んだのは、この週替わりセットメニューのひとつだったのだが。
提督(メニューを見てみるか・・・)
―カラッ
天龍「おう!珍しいな提督、ここで飯なんてよ!」
龍田「あらー、おはようございます、提督。昨夜はちょっと欲求不満だったわ。また、『ハンカチ乗せゲーム』でもしませんか?」
叢雲・漣・五十鈴(ハンカチ乗せゲーム?)
提督「おはよう天龍。昨日はありがとさん。戦闘にならなかったのはすまんな。今日から一応休暇だからな、間宮さんの顔を見ながらゆっくり食事がしたくなったのさ」
間宮「提督さんったら、うふふ」
提督「おはよう龍田。あー、いいかもしれんね。休暇期間中の十本勝負でどうよ?」
龍田「ありがとう。次は負けないわね~」ギラッ
天龍「あ、なんだよその、ハンカチ乗せゲームって」
叢雲・漣・五十鈴(気になる・・・)
龍田「うふふ、内緒よ。・・・間宮さん、『ミックスグリル』のチキンステーキダブルで、『オニオンスープ』のクルトン多め、あとは『温野菜サラダ』の和風胡麻ドレッシングで。ドリンクはホットレモンウォーター、食前でお願いね」
伊良湖「かしこまりましたー!」
提督(なあッ!充実しすぎじゃないか?)
天龍「なんだよ~、教えてくれたっていいじゃねぇか。まあ、とりあえずメシにすっか!・・・間宮さん、『ネギとタマネギたっぷりの生姜焼き定食』、肉と野菜マシマシで。飯は十六穀米に変更、『ごぼうサラダ』のゴマ多めと、『タラの御吸物』、あとは緑茶で頼むわ。お茶は食前からで頼むぜ」
伊良湖「ご注文、ありがとうございます!」
提督(これは充実というレベルを超えかけているな・・・)
―提督は薄型ノートタブレット形式のメニューを開いた。が、壁に貼ってあるメニューと基本的には同じで、『こだわりのメニュー』というページは現在更新中だ。かわりに、『暫定メニュー』というページがある。
提督(どれどれ・・・)
―しかし、暫定メニューのページは『皆さんのオーダーがお店を育てていきます。随時更新していきますので、もう少しお待ちくださいね』という表示のみだった。
提督(くっ!これではわからん!)
―カラッ
赤城「あら?おはようございます。ここで会うなんて、珍しいですね、提督」
加賀「おはようございます。昨夜は度重なる想定外の状況発生、お疲れ様でした。見事なものだったわ」
提督「ああ、二人とも、おはよう。昨夜はお疲れさま。お陰で今日は穏やかな休暇だよ(いいぞ!この二人の注文を見てみたい!)」
赤城「良い休暇の朝で、何よりです。・・・間宮さん、『あなたはどこが好き?有名チェーン店の牛丼食べ比べセット、焼き牛丼もあるよ、五店舗コース』で。特盛つゆだく全マシマシ、しょうがはボックスでお願いします。卵は三個で。あとは、抹茶薄めでお願いしますね」
提督(なん・・・だと・・・!)
加賀「それなら良かったわ。こういう時はゆっくり休むべきよ。・・・間宮さん『回転ずしの気分を鎮守府で、全皿制覇コース、君は、食べきることが出来るか?』を100円の皿からストップまでお願い。ガリはボックスで。ワサビは多め、さらに別皿でもお願いするわ。ほうじ茶を薄めでお願いね」
伊良湖「わあ!オーダーありがとうございます!腕が鳴りますね!」
提督(ええ・・・?)
―提督は、それ以上考えるのはひとまずやめることにした。
―同じころ、波崎鎮守府、鹿島の私室。他のアルバイトの体調不良で、明け方までサポートで入っていた鹿島は、久しぶりにゆっくり眠って、起きることが出来た。
鹿島(確か、もう提督は海外旅行に行っているはず!)
―休暇中と言えども、コンビニの仕事はそこそこ入っている。鹿島は限られた休暇中に、なるべく多くの手がかりを得るつもりでいた。
第三十二話、艦
次回予告
休暇を利用して、なるべく多くの事を調べようとする鹿島に、助力を申し出る艦娘が二人現れる。
困惑しながらも、有益な情報に感謝する鹿島は、自分の鎮守府が、他のそれとだいぶ違う事を知り、驚きを隠せない。
特務第七の鷹島提督は、夕立との旅行を楽しんでいたが、連絡の取れない川内が気になり始め、旅行を早めに切り上げようとする。
しかし、約束を反故にする事に反発する夕立と衝突してしまう。
堅洲島鎮守府では、提督と龍田の謎の遊び「ハンカチ乗せゲーム」が始まる。
その内容を知りたがる艦娘たち。
しかし、提督は特に何もせずに釣りを始める。
いつの間にか眠ってしまっていた、特務第七の川内は、差し入れを持ってきた堅洲島の川内と色々話すが、『夜戦』についての話が噛み合わない。
一方、陸奥は瑞穂と下田鎮守府の提督のサポートをしながら、特殊な高速修復材についての質問をするのだが・・・。
次回『働かない覚悟を持て!・後編』乞う、ご期待!
陸奥『あらあら、読みだしてはまっても、お姉さん、知らないわよ?』フフッ
秋イベント丙で終わりました。朝風が一発で出てくれたのですが、資源は死んでしまいました。
終了までにもう少し、掘りたいですね。
更新乙です!
コメントありがとうございます!
イベントも終わったので、もう少しペースが上がりそうです。
伏線が増えましたね〜、続き気になります!
ポール社長もそろそろ再登場するのかなぁ
コメントありがとうございます。
分かりやすい伏線は楽しんでいただくために、わかりづらい伏線は後で驚いてもらうために、と言ったところでしょうか。
一見、ちょっとご都合主義に見える部分も、もしかしたら伏線かもしれませんね。
ポール社長は、もうじき再登場しますよ。
この物語では、重要な登場人物の一人です。
名前は、武蔵を見つけてくれたあの方から取っています。