「地図に無い島」の鎮守府 第六十一話 地を固めるために
臨時の慰労休暇となった堅洲島鎮守府。
ここでやっと、異動扱いになった艦娘たちの辞令受け取りになる。しかし、鹿島と浦風を見てあわあわする如月と、フォローする漣。
特殊演習場では、陽炎たちが白露と一戦交えていた。無茶なようでいてそれなりに筋の通った演習理由に黒潮は感心しかけるが、不知火の名づけた連携攻撃のネーミングに負けフラグを感じ取る。
そんな陽炎たちの演習を見る香取と、話す鬼鹿島。
一方、展望台で海を見つつ泣いていた摩耶に、青葉がホットチョコレートを渡しつつ言葉を交わす。
しかし、そのマグカップには盗聴器が仕込まれており・・・。
気を取り直した摩耶は雪風の単独訓練を見つつ、瑞穂と合流し、行き違いが解消するのだった。
間宮さんの店で話し始める摩耶と瑞穂に、聞き耳を立てる艦娘たち。一方で、ガンガン飲み食いする飛龍と一航戦。遂に高雄型が来たと焦る妙高を秘書艦にしようとする妹たち。
金剛と榛名は、昨夜の事について少しだけ言葉を交わし、扶桑と提督の間に起きた事について話す。
様々な動きのある中で、提督は金山刀提督に今後についての腹案を話し始め、さらに特務第七の鷹島提督と連絡を取り、海に出る事に決めた川内と演習を行う事になるのだった。
新しい子が沢山入ってきて落ち着かない堅洲島の、慰労休暇中の出来事が展開していきます。
陽炎が少しだけ、内面の成長を感じさせる発言をしていますが、不知火が台無しにしてしまいます。
摩耶様と青葉が真面目に話すシーンがありますが、なんと青葉はマグカップに盗聴器を仕込んでいたりします。提督の影響を受けているのか、堅洲島の艦娘たちも次第に『らしさ』が出てきているようですね。
そしてまた、雪風が一人で訓練しています。今後も折に触れ、彼女は独自の訓練をしていますが、いつかそれらの訓練の成果が一気に開花する時も来るのでしょうか?
飛龍がかなりの大酒呑みだと判明します。が、やはり赤城さんの飲み食いっぷりは別次元です。
また、妙高さんのフラグが立ち始めていますね。足柄さんが戦闘に出たがるため、確かに妙高型の秘書艦がもう一人はいたほうが良さそうです。
新規着任時の如月ちゃんのリアクションは、おそらくテンプレになって行きます。如月ちゃん自身のお話は、動き出すのはもう少し先の予定です。
そして、特務第七の案件がそろそろ動き出します。提督と鷹島提督の関係と、アフリカでのこと、鷹島提督がどうして提督を『ヤバい奴』と言うのかが、そろそろ語られ始めます。
また、鬼鹿島ちゃんですが、戦況の事を言っている香取に対して、違うものを思い出しています。これはもしかして・・・?
第六十一話 地を固めるために
―2066年1月6日、ヒトヨンマルマル(14時)過ぎ、堅洲島鎮守府。
―多くの艦娘が一時的に、または異動で堅洲島に来ており、さらに慰労休暇が出たため、活気と開放感に満ちていた。しかし、厨房は大忙しだ。
―執務室ラウンジ。
―臨時の慰労休暇を前に、異動・着任の辞令を終えておく必要があった。
如月「ねえ司令官、この後、異動着任の挨拶よね?お客さんがいっぱいで、誰が異動かわからないんだけど、可愛い新人さんだと良いわね」ニコッ
提督「お客さんも仲間も沢山だからなぁ」
―ガチャッ・・・ゾロゾロ
三日月「し、失礼いたします!旧利島鎮守府所属、睦月型駆逐艦十番艦、三日月!異動・着任辞令の受け取りに参じました!」
如月(うふふ、可愛い新人さんね)
涼風「失礼するよー!旧利島鎮守府所属、白露型駆逐艦十番艦、涼風だ!よろしくぅ!」
如月(ふぅん、とても元気な子ねぇ)
浦風「失礼いたします!旧利島鎮守府所属、陽炎型駆逐艦十一番艦、浦風!異動・着任辞令の受け取りに参じました!」
―バササーッ!
―如月は書類を取り落としてしまった。
如月(胸部が・・・軽巡じゃないの?駆逐艦なの?しかもとってもかわいい子ね!)
提督「大丈夫か?」
如月「だっ、大丈夫よ、司令官」ササッ
―続いて、春風が入ってきた。
春風「失礼いたします!特別防諜対策室別科、内偵任務部隊『眠り花隊』所属、神風型駆逐艦三番艦、春風、辞令の受け取りに参じました。やや無理な意図を酌んでいただき、ありがとうございます。司令官様」ニコッ
如月(わあ・・・強そうだし雅な魅力にあふれる子ねぇ・・・)
―そしてさらに・・・。
鬼鹿島「失礼いたします。横須賀総司令部教導隊・主席教導艦、青ヶ島鎮守府兼帯、練習巡洋艦・鹿島、辞令の受け取りに参じました!・・・この度は思い込みから大変なご迷惑をお掛け致しました。しかし、一昼夜の提督さんの作戦行動や判断を見させていただき、奇縁に感謝しているところです。よろしくお願いいたします!」
如月「かっ・・・」
提督「ん?」
如月「ごめんなさい、何でもないの!(鹿島さんて、噂には聞いていたけれど、危険だわ!危険よ!)」
提督「ならいいが、一応今日はもう休暇だ。疲れているなら無理に「大丈夫よ!」」
如月「もうぜんっぜん大丈夫よ!」ニコニコ
―しかし、目ざとい漣はこの如月の様子を見逃さなかった。
漣「ねえねえご主人様~!」
提督「なんだい漣様?」
漣「新しい仲間が沢山増えてきているじゃないですか?でも、一人一人雰囲気や魅力が違うと思うんですよ。・・・で、例えば如月ちゃんの魅力やポイントってどんなところだと思います?」
如月「えっ?ちょっと漣ちゃん?」
提督「何だいいきなり?如月なら・・・唯一と言えば、可憐って言葉が一番似合うのが如月じゃないのかねぇ?どう思う?」
漣「あっ、そうかも!そんな感じしますね!」
如月「えっ!・・・可憐だなんてそんな、何も出ないわよ?司令官たらぁ、もう!」ニコニコ
漣(良かったね、らぎっち!)パチッ
如月(ありがとう、漣ちゃん!)ニコッ
漣「・・・で、ご主人様、そうすると漣はどんな感じですかぁ?」ニコニコ
提督「漣かぁ・・・漣は、漣としか言いようがない気がする。特徴的過ぎて」
漣「要するに、賢くてかわいくて優秀でよく気が付く、というのを一言にまとめると、漣になるって事ですね?わかります!」ドヤァ・・・キラキラ
提督「・・・なるほど、斬新な解釈だな」
如月(すごいなぁ、司令官とそんな風に話せるなんて)
春風「ところで司令官様、まさかこちらに、特防が大きくかかわった案件が二つもあったとは驚きです。昨夜の件を見てしまいますと、誰が正しく、誰が正しくないのか、私たち艦娘には判断がつきかねてしまいますね・・・」
鬼鹿島「・・・・・・横須賀の件はとても驚きました。最初は、提督さんの対処は無法に過ぎるかとも思いましたが、横須賀さえ深海の手先になっていた今、もう何も信用が出来ませんね。あれくらいしないと、いつ寝首をかかれるか・・・」
提督「特防の件は落としどころを見つけている。だから春風、君はここが拠点ともなるし、あまり不安はない。ただ・・・鹿島、君はここに兼帯したのは隠して行動したほうが良いだろうな。剣の腕も、表向きは今までと変わりなく、しかし全国の艦娘の素の能力を底上げするような指導をした方が良いだろう。ついでに言うと、何も起きなかった形にした方が話もまとめやすい。だから、何かまずい事になったら、ここに来ればいい。誰も足取りを追えないし、ここにとっては敵の尻尾が見えるしな」ニヤリ
春風「瑞穂さんの件と、特務第七に対する対応ですね?大林室長は危ない橋は決して渡りませんし、司令官様の考えに反する行動はとらない筈です。おっしゃる通りかと存じ上げます」
鬼鹿島「ありがとうございます。僭越ですが、この私も、青ヶ島での悪い評判で鬼呼ばわりされて身を護れていますが、そうなる前は、こちらの榛名さんや鳥海さんのような危険に良くさらされました。身を隠せる場所があるのは、今後は心強いです!」
提督「ああ。やらねばならない事は多いが、そう悪くない経過をたどっている。みんなよろしく頼む!」
異動してきた艦娘たち「諒解いたしました!」
―こうして、異動の確定した艦娘たちの辞令は終わったかに見えたが・・・。
提督「あれ?白露が来てないな・・・?」
―少し前の館内放送で辞令受け取りの通知を出していたのだが、これが緊急時以外は届かない場所が一つだけある。
漣「もしかしてもう演習しているとか?香取先生に繋いでみますね~!」
提督「ああ、もうみんなは大丈夫。慰労休暇だから、好きに楽しんで欲しい」
―辞令受け取りを終えた艦娘たちは、それぞれ執務室を立ち去る。
漣「えーと、香取先生の話だと、陽炎ちゃんたちと白露ちゃんが演習中だそうです」
提督「三対一かな?さっそくぶつかったんだろうか?」
―磯波の読みは早くも的中していた。
―特殊演習場。
―現在、設定は『初夏の夕方の海、天候は快晴、南西の風微風、波高2メートルまで』といったところだ。
陽炎「だめ、ぜんっぜん当たらない!さすがは横須賀の高練度ね、やるじゃない!」ドウッ!ドウッ!
不知火「まったく大したものです。完全に陽炎型の攻撃を知り尽くしていますね」ザアッ
黒潮「なあ陽炎、負けても仕方ないのは分かるんやけど、今日負けたら連敗やで?肝心な時に負けるって意味やけどな」
―黒潮が言っているのは、曙との演習と、今回の演習の事だ。
陽炎「勝つことばかりが大事じゃないけどね。戦い続ければ必ず負けるわ。生きていれば積みあがる負けの数は、演習の時だけにしたいのよ。その分実戦で勝てばいいわ!」
黒潮「うーん、前向きなのか都合がええのか・・・変な説得力があるなぁ」
白露「ねえねえ、高練度のあたしと演習したくて、わざわざあんな話に持って行ったんだね?真面目じゃないの!でもさー、最初から言ってくれたらいくらでも相手するよー?」
不知火「分析も正確ですね。さすが、歴戦」
陽炎「ネームシップにはネームシップの、私には私の、話の持って行き方ってものがあるのよ!・・・ぬい、黒潮、アレやるわ!」
不知火「わかりました!アレですね?」
黒潮「ああ、連携攻撃やな?」
白露「おっ!雰囲気が変わったね!ちょっと嬉しいかな」
―やや離れた場所から、白露の楽しげな声が聞こえてきた。夕日を背に、片足でゆっくり移動しつつ、腰の後ろで手を組んでいるその姿は、自信に満ちていてとても強いのが良く分かる。
陽炎(いいのよ。たくさん負けても、その分強くなっていくから!)ザアッ
―陽炎たち三人は、白露に向けて突進し、白露から見て単縦陣の形を維持したまま回頭した。さらにそのまま、互いの距離を開ける。
―ザアァァァ・・・・バッ!
―陽炎たちは散開したが、その直前にそれぞれが白露の予測位置に雷撃し、さらに牽制と攻撃で砲撃した。
白露「やるじゃなーい!これはいい二択攻撃だね!なんだか元気が出るなぁ。横須賀みたいにダレてないんだね、ここって」
陽炎「当り前よ!さあ、少しは冷や汗くらい流してもらうわ!」
黒潮(陽炎、ちょっと変わってきたな。相手と自分を正確に見極めてるやん。司令はんのおかげやな)
―黒潮は感心しかけていたが、すぐに覆された。
不知火「ふっ、これからです。受けると良いでしょう、私たち三人の高速連携攻撃、名づけて『ジェットストリームアタック』を!」ドヤァ
黒潮「なんやて?」
不知火「はぁ、『ジェットストリームアタック』と言いましたが?」
黒潮「あかーん!絶対に負ける名前やそれぇぇ!」
陽炎「飛行機雲って意味よ?悪くないじゃない」キョトン
黒潮「ああもう、司令はんにでもやられて、もうふた皮くらい剥けてしまえば良かったんや!この世間知らず!」
陽炎「はあぁぁ?連携攻撃の名前くらいで姉にそこまで言う?」
黒潮「うちにはわかるんや!全力では戦うけれどな、なーんとなく、誰かが踏み台にされるような、そんな気がするんや」
陽炎「意味が全然分かんないわ!」
―そんな二人をよそに、不知火は激しく牽制しつつ白露に迫っている。全弾撃ち尽くすほどの勢いで、高機動で回避する白露に本気で当てる気で突撃していた。
不知火「さあ、左右は魚雷、そして突撃する私に、さらには姉さんと黒潮が控えています!流石に三対一では無理のようですね!観念しなさい」ドヤァ
陽炎(うわぁ、嬉しそう・・・)
―現在、白露の左右は魚雷で封じられつつあり、正面には激しく肉薄する不知火、その背後に陽炎、そして、やや離れて白露の予想回避進路を狙う黒潮が居た。通常ならほぼ詰みだ。
白露「いやー、これ本当に強いよ!負けちゃうだろうなぁ・・・あたしでなかったらね」ニコッ
不知火「なんですと?」パチクリ
―白露はいきなり、不知火に向かって突進してきた。
白露「いっちばーん!」ザアッ・・・バッ!
―ガッ!
不知火「私を踏み台にしたぁ!?」
白露「いただきぃ!」ドバウッ!
陽炎「えっ、ちょっ!ジャンプするなんて、そんな機動あり?きゃあっ!」
黒潮「だから言うたんやあぁぁぁ!陽炎と不知火、後で話があるからな!」
―白露は不知火の装填時間を読んで突進すると、跳躍してさらに不知火の肩を踏み台にし、背後の陽炎を撃ち抜いた。着水と同時に不知火の背後も撃ち抜き、黒潮に迫る。
白露「いいなぁ、伸びしろがあるし、強くなりたい子ばかりで。鎮守府はこうでなくちゃね!」ドウッ!
黒潮「くっ!どういたしましてやで、付き合ってくれてありがとうや!」
―こうして、陽炎たちは善戦したものの、白露に敗れてしまった。
―演習施設レストルーム。
香取「あら、あなたは!」
鬼鹿島「こんにちは。堅洲島の姉さん。今後、こちらと総司令部、青ヶ島を行き来することになりました。総司令部教導隊・主席教導艦の鹿島です。私の思い込みからこちらの提督さんに立ち合いを挑み、あっさり敗れてしまいました。よろしくお願いいたしますね」ニコッ
香取「よろしくね。提督のお話では、うちに異動してくる目星のついている鹿島が居るらしいけれど、まさか噂に名高いあなたもここに来るなんて」ニコッ
鬼鹿島「立ち合いでも、一昼夜の任務の遂行を見ても、衝撃の連続です。まさかまだ、あんな方が隠れていたなんて。全ては燃え尽きて、もう終わりかと思っていたんです。総司令部では、冗談めかして『もう全ては灰の中』と言われている程だったのに・・・」
香取「同じような話を提督とお酒の席でした時に言っていたの。『派手な炎は容易く収まるが、本当に消えない火は、灰の中で高熱の熾火を宿しているものだ』って。そして、それが次の炎を起こす火種になると」
鬼鹿島「次の炎を起こす火種、ですか・・・」
―香取は全体の戦況の事を言っていたし、鹿島もそうだった。が、なぜか鹿島の心の中に、別の事が思い出されていた。
―鹿島の回想。
金剛寺提督「鹿島、すまないが君の気持には応えられない。僕は・・・金剛とケッコンするよ。いつもありがとう、としか言えないが、本当にありがとう!」
鹿島「・・・いえ、仕方ありませんよね。・・・おめでとう・・・ございます。別に、複数でも、二番目でも、私は構わないのですが、提督さんはそういう考え方はしないですもんね・・・」
金剛寺提督「そうだな、すまない・・・」
鹿島「いいんです。分かっていましたから。・・・では、失礼いたします」
―ガチャッ・・・バタン・・・。
鹿島「ふぅ・・・負けちゃったな・・・」グスッ
―鹿島は見上げるように涙をこらえて、自室に戻った。
―それからしばらくして、鹿島はより深く剣の道に進み、総司令部との兼帯を申し出た。
―再び、現在。
香取「・・・何か?」
鬼鹿島「あっ!いいえ。あまり関係の無い事を思い出していただけです。・・・そうですね、また大きな火が起きて、深海を焼き尽くせればいいのですが」
香取「そうね。でも、うちの提督は火と言うより・・・何かしら?」
―香取は思い当たるものに行きついたが、そこで黙ってしまった。闇や夜を思い起こしたからだ。
鬼鹿島「・・・香取さん、こちらの提督さんは、誰か親しい艦娘はいるのですか?戦艦の方々と親しいようですが」
―香取はすぐには答えず、眼鏡を外すと、その曇りを拭きながら話した。
香取「私の勝手な見立てだけれど・・・。誰とも親しくて、ある一定の所から先は、誰も踏み込めない感じ。だからみんなと仲良くて、そして特別な人はいないわ。噂では昔、大切な人と死に別れたからとか。・・・でも、そんな人ではない気がするの。昔の女を引きずるタイプではない気がするという意味ね」
鬼鹿島「確かに、そんな気がします。あまり煩悶を抱えるタイプの人ではありませんよね。そういう人は、昨夜のような善悪定かならない最適解を用いれないはずですから。何を考えているのか、わかりづらい方です」
香取「だから興味が出てきたって?」ニヤリ
鬼鹿島「そういう興味かはわかりませんが、ここしばらくで一番興味深い方なのは間違いありません。最初期の有能な提督の方々の中にも、こちらの提督さんのような方は居ませんでした。横須賀第一を絡めた複数の案件の取りまとめは、一見無法のように見えますが、とても合理的です。命のやり取りを繰り返してきた方にしか身につかない、ためらいの無さがあるように感じられます」
機械音声「演習が完了いたしました」
―ブーン・・・プシューン
白露「ふう、終わったぁ!なかなか楽しかったよ!」
陽炎「良いところまで行けたんだけどなぁ。まだまだ鍛えないとダメねぇ、私たち」
黒潮「何言うとるんや!名前からして負けフラグびんびんだったやろ!ぬいのネーミングセンスはどうなんや!」
不知火「そうですか。まあ、ゲン担ぎも大事なのは理解しています。では、名前を変えましょう。三位一体ですから・・・そうですね、トリプルをもじって、『トリプラー』などどうでしょう?」
黒潮「あー・・・うん、ぬいのセンスには問題があるってはっきりわかったで」
不知火「不知火に落ち度でも?」
黒潮「ゲンはきっちり担ぎたいだけやで?名前は大事なんや。その二つの名前はどっちもやられキャラ三人組のもんや。うちはやられキャラは嫌や。ぬいも陽炎もそうやろ?」
不知火「なるほど。三位一体の攻撃で調べて出てきたのですが、そこまでは調べていませんでしたね」
陽炎「まあどっちにせよ、まだまだ練習しないとダメって事よ!連携でも、一人ずつでもね」
黒潮「まぁな。連携かぁ・・・」
―黒潮は連携という言葉で、陽炎たちとはまた違った姉妹を思い出していた。
黒潮(親潮って、今はもうほとんどおらんのやろ?会えるかなぁ・・・)
不知火「どうかしましたか?」
黒潮「色んな子が仲間になってきているけど、親潮と会えるかなって思っとったんや」
陽炎「親潮かぁ。今は全然いないのよね?・・・でもまぁ、勝ち続けていれば会えるでしょ!まだまだ特訓よっ!」
鬼鹿島「良い心がけだと思います。では、この後は私がみっちり鍛えて差し上げますね。・・・それから白露さん、辞令の受け取りからあぶれてしまっていますよ?」
不知火「いいですね。ご指導・ご鞭撻よろしくお願いいたします」
白露「わあぁ!そうだった大変!すぐに行ってくるねー!」ダッ!
―元気の溢れる陽炎たちは、こうして鬼鹿島に演習の相手をしてもらえることになった。・・・が、それは終わらない地獄の演習の始まりだった。
―堅洲島、須佐山第一展望台。
―摩耶は霞たなびく海原をぼんやり眺めていた。
摩耶(ザマねぇなぁ。あたしがこんなになるなんて。普段の対応からしたら、嫌われてるってしか思わねーに決まってるよな。こうなってから取り乱すなんて、馬鹿だ、あたし・・・)グスッ
―姉たちには自分の気持ちがばれていたが、いつも言われていた。『もう少し素直にならないと後悔する』と。そして、その日が今日、来てしまった。もうどうにもならない。摩耶の心の中に、今までの様々な言葉が思い出される。
―金山刀提督『お前さあ、みんなを庇うのはいいけど、沈んだらダメだろ?』
―金山刀提督『突っ込み過ぎなんだよ!戦果なんか程々でいいんだっての!』
―金山刀提督『一回もお前のおっぱいを触ってないのに、沈むんじゃねーぞ?』
―金山刀提督『どうにも総司令部が信用できねぇ。裏を取りたいんだ。難しい作戦だけど、頼まれてくれるか?』
―高雄・愛宕『提督はあまり女の子の気持ちは分からない方だと思うから、摩耶ももう少し素直にならないと、いつか泣くことになるわよ?』
摩耶(ほんとバカだ、あたし・・・)
―今更こんな事をしても、提督からしたら困惑するだけだろう。
青葉「あっ、こっちにいたんですね?一応、立ち入り可能箇所の通知と、明日昼まで臨時の慰労休暇になった事、間宮さんのお店が飲食無料開放されていることを伝えておきたくて」
摩耶「ああ?・・・マジかよ、えらい気を使わせちまったな。そっか・・・落ち着いたらゴチになるよ」
青葉「少しだけ、独り言を話しても?」
摩耶「独り言なら、好きに話せばいい事だろ・・・」
青葉「それなら、これを。間宮さんのお店のなので、とても美味しいですよ?」コトッ、コポコポコポ・・・カタッ
―青葉はマグカップにホットチョコレートを注いで、摩耶と自分のそばに置いた。
青葉「・・・提督さん、瑞穂さんにひっぱたかれていました」
摩耶「・・・悪い事しちまったな。そうか・・・冷えてきたな・・・これ、いただくぜ?」
青葉「どうぞ」ニコッ
―少しだけ沈黙が流れた。摩耶を見つけるのに手間取り、執務室を出てから時間が経っていたが、それでもまだ摩耶の目は泣きはらしている。
青葉「肝心な部分が端折られていましたけれど、二人がこの島に来た時、うちの提督は二人に銃を突き付けて、どちらか一人だけは生かすことが出来る、と言って、五分の時間を与えたんです」
摩耶「あのバカ、自分が死ぬって言って瑞穂さんを庇ったんだろ?」
青葉「やっぱり、わかります?」
摩耶「わかるよ。バカだからわかりやすいんだ。バカだから上層部に逆らって、大規模作戦に参加せず、情報漏えいの裏取りをしたんだ。自分の立場なんかより、あたしらの事を考えてさ。・・・あーあ、タイミング悪かったなぁ・・・ちくしょう」グスッ
青葉「うちの提督は・・・」
摩耶「うん?」
青葉「たぶん、誰も信じていません。上層部も何もかも。・・・でも、そんな提督の信頼を引き出した金山刀提督は、きっととてもいい人なんだろうなって、青葉は思いますよ?」
摩耶「・・・いい奴だよ。だから、あんないい人と仲良くなって、救われて、元気で、すげー良かったのは分かってんだよ。祝福して・・・やりたいけどよぉ・・・へっ、ダメだな、あたし・・・」グスッ
青葉「青葉はわかりませんが、きっと今はそういう気持ちで、たくさん泣いてもいい時だと思うんですよねぇ。あまり身体を冷やさないうちに、食べて呑んで、ゆっくりしてくださいね?じゃあ」ニコッ・・・スタッ
摩耶「・・・あ、待ってくんねーか?面倒ついでに、こっちの提督がどんな人か教えて欲しいんだ」
青葉「・・・あまり参考になりませんよ?」
摩耶「構わねーよ」
青葉「表向きは、私たち艦娘には親しげで、優しく、鋭くて、たぶんとても強い人です。・・・・でも、その心の中は誰にもわかりません。だからこっそり取材してても、謎だらけで面白い・・・そんな人です」
摩耶「そんなに本心と差があるのか?」
青葉「・・・うちの提督って、結構好かれているんですよ。金剛さんと一緒に眠っていたり、今日も榛名さんが一緒だったり。でも、なーんにも無いし、女の子の裸を見ても、リアクションは取ってくれますが、眉一つ動かさないんです。とっても冷静なんですよ。上司と部下とか、理性的とか、女の子に慣れているとか、そういうのだけじゃないですね」
摩耶「そんなにか?・・・じゃあ、あんたはどう思っているんだ?」
青葉「えっ?青葉がですか?・・・興味が尽きない感じですねー。提督の本当の人物像を知りたいです」
摩耶「能力とかの心配は全然ないのかよ?」
青葉「あ、それは全然心配してないです。うちの提督でダメなら、他の誰でもダメって事だと思うので、その時はみんなで沈むしかないです」
摩耶「なるほどなぁ・・・うん、ありがとよ!」
青葉「じゃあ、行きますね。みんな心配しているので、おちついたら鎮守府でゆっくりしてください」
摩耶「おう、すまねえな。ガラじゃねぇから、いつまでも落ち込んじゃいねぇよ。・・・こんなの、あたしらしくないしな」グスッ・・・ニコッ
―目は泣きはらしているが、それでも摩耶は元気に笑った。
青葉「そんな事無いですよ。それに、とても素敵な事だと思います。・・・これ、置いていきますね」パサッ
―青葉は立ち入り制限箇所の明示された鎮守府の案内図を置くと、鎮守府に戻った。
―さらに30分後。
―摩耶は山を下りてきて、港をぶらぶらしてから鎮守府に戻ろうとしていた。
摩耶「キレーな島だな。けっ、ガラにもなく乙女みたいになっちまって、ザマねーなぁ・・・」グスッ
―ドウッ・・・ドウッ
摩耶「あん?休暇だってのに真面目なのがいてら。・・・見ない艦娘だな・・・えっ!雪風がいんのかよ!」
―摩耶は港のベンチに座り、雪風の訓練を見ることにした。
―ドウッ・・・チッ・・・ドウッ・・・バンッ
―やや遠方の標的に、一発目はかすり、二発目は命中する。
摩耶(正確だが、そう百発百中とはいかねぇよなぁ・・・あん?マジか!?)
―よく見ると、雪風は照準を合わせきる一瞬前に目をつぶっている。
摩耶「なあ、それなんの練習なんだ?どういう意味があるんだ?」
雪風「あっ!こんにちは!」ペコリ
摩耶「邪魔しちまって悪い、気になっちまってよ」
雪風「大丈夫です!これは、しれぇに教わった流し撃ちの練習です。最後まで照準を合わせると隙が出るので、感覚だけで照準を合わせて撃ち、次の標的に素早く合わせる練習なんです」
摩耶「流し撃ちか。戦場帰りらしいもんな、ここの提督」
―通常の戦闘では、アサルトライフルで正確な射撃をしようとすると隙が大きく、数を撃って当てる方式になりがちだ。しかし、熟練者が身体の一部のように扱うアサルトライフルでの流し撃ちは、一度に数人を薙ぎ払う危険極まりないものになる。雪風はそれを習得しようとしているのだ。
摩耶「雪風が居て、こういう練習をしている鎮守府、か・・・。邪魔しちまったな」
雪風「いいえ。雪風、練習に戻りますね!」ペコリ
瑞穂「あっ、摩耶さん、ここにいらしたんですか!」
摩耶「ああ?あたしの事は気にしないでくれよ。さっきは悪かった。・・・その、取り乱しちまってさ」
瑞穂「・・・いいえ、私こそ、本当にごめんなさい。廻りあわせだったり、深海化してそこまで考えられなかったりで、ずっとあの人のもとで任務に当たっていた摩耶さんを、すごく傷つけてしまって。そういう人が居る可能性を、どうして考えられなかったのか・・・あんないい人なんだから、慕っている子がいるはずだったのに、考えが及ばなくて」ペコリ
摩耶「なーに言ってんだよ。あんたが居なかったら、あいつは死んでたか、どっちにせよひどい目に遭ってたって事だろ?あたしがあんたの立場だったら、あいつを助けて二人生き延びるなんて器用な事は出来ねぇと思うんだよな。だから、これで良いと思うんだ。・・・その、本当にありがとよ、あいつを守ってくれて」ペコリ
―二人はぼ同時に頭を下げたが、それを見て互いに笑った。どこかに、とても分かり合える部分がある。そんな連帯感のお陰かもしれない。
瑞穂「摩耶さん、良かったら一緒にこの後、お話しませんか?こちらの提督さんのはからいで、間宮さんのお店が解放されているんですよ」
摩耶「ガラにもなく泣いちまって、腹も減ったし冷えたからな。それに、色々聞きたい話もあるし。いいぜ!」
瑞穂「決まりですね!」ニコッ
―こうして、摩耶と瑞穂は意気投合した。
―同じ頃、第一展望室。
金山刀提督「マジかよ・・・」
青葉「ふぅ、良かったです。まあこんなところみたいですよ。じゃあ、提督を呼んできますね」プチッ・・・ゴソゴソッ・・・ガラッ
―言いながら、青葉は盗聴機器を片付けて立ち去った。実は、青葉が摩耶に渡したマグカップは二重底になっており、盗聴器が仕込まれていた。自分が摩耶にも好かれていたことを認められない金山刀提督への、手っ取り早い事実確認だった。
―ガラッ
提督「男のおれが立ち会うような話ではなかったから、場を離れていたが、これで概要は分かっていただけたかと思う。摩耶ちゃんのさっきの言動はつまり、そういう事だ」
金山刀提督「なんてこった・・・あいつ、いつもつれない態度を取っていたのに、任務その他は誰よりもきっちりこなしてくれていたんだ。意味が分からなかったが、そういう事だったんだな。でもさ、瑞穂にしても摩耶にしても、わかんねーよ。おれは女に関してはいい思い出なんてほとんど無かったんだぜ?ろくに付き合ったこともねぇしよ」
提督「・・・女の側でわかる事、察して欲しい事も、我々男にはわからない事が多いからな。金ちゃんにとってはこの流れは災難に等しいが、まあ女難も人生には必要だ。今そんな時が来た、それだけじゃないかね?私見で言わせてもらうが、人はこいつの前では正直者になる。こいつを突き付けられても女を護って死ねる男は、なかなかいい男だとおれは思うがね」ポンッ
―提督は黒いワイシャツの右わきのホルスターをポンと叩いた。
金山刀提督「何だか少し変な感じだ。あんたにまでそんな事を言われると、少しは自分にいい点があるのかなって気になっちまう」
提督「自身への評価は、過大もダメだが、過小もダメなものだ。もし今後も提督を続けるなら大事な事だと思うけどな。まして艦娘は女の子だ。あまり察せられないのも度が過ぎるとまずいぞ?」ニヤッ
金山刀提督「えっ?いやもう提督は無理だろう?」
提督「そうでもない。むしろ、返り咲かないとずっと逃げ隠れしなくてはならないぞ?特務に協力する鎮守府、という形で返り咲ける筋書きを考えていたんだが、意思確認をしたくてね。今後、どうしたい?」
金山刀提督「考えようも無かったってのが正直なところだぜ。命は助かったが、それでこれからどうするのか?自分でどうにかする方法なんて思いつかねぇよ。・・・むしろ、あんたが何か考えているのなら、それに乗るのが一番な気がしているぜ?」
提督「ふむ・・・肝心なところでは正しい判断をするが、生まれ持っての才能かな?・・・わかった。では、上層部の出方次第ではあるが、いくつか考えられる分岐と、今考えている筋書きを話そうか」
金山刀提督「すまねぇ。それと、摩耶なんだが、もし本気であんたの所に異動したいってんなら、その時は頼むぜ?」
提督「いや、一時的なもので、あれは本気ではないと思うがな。それに、今回の件で白露と、おそらく鳥海を得るだろうから、うちとしては十分な戦果だし、何よりあの鳥海と下田の子たちは、しばらくはうまくいかないと思うが」
金山刀提督「どうかな。あいつは言い出したら聞かないからさ」
提督「そうなのかい?まあ、落ち着いてからの意思確認次第かな」
―こうして、提督は下田鎮守府と金山刀提督、瑞穂について、今後考えられる幾つかの展開の打ち合わせを始めた。
―甘味・食事処『まみや』
瑞穂「えっ?じゃあ一度も気持ちを伝えた事が無かったんですか?」
摩耶「そうなんだよな・・・だからさっきのは怒りすぎっつーか、あたしも悪いんだ・・・」
瑞穂「そ、そうだったんですね・・・(やりすぎてしまいました!)」
―カウンター席で並ぶ瑞穂と摩耶を、他の艦娘たちは遠巻きにしていたが、聞き耳だけは全員が立てていたため、一部を除いて妙に店が静かだった。
間宮(な、なんだか変にお店が静かね・・・お客さんは沢山いるのに)
―盛り上がっているのは、赤城たちと飛龍の席、そして妙高型の席くらいだ。
飛龍「聞いてくださいよ一航戦の先輩方!こんな絶望的な状況で、どうやったら深海に勝てると思います?」ダンッ
―大ジョッキを飲み干した飛龍は、蒼龍の事をひとまず忘れたいのか、すっかり出来上がっている。
加賀(この子ずいぶん飲むわね。ビール大ジョッキで二十杯は超えたはずだわ。でも・・・)チラッ
赤城「良い話題だわ!そうそう、艤装には潤滑油、心にはお酒、胃袋にはご飯よね!・・・伊良湖ちゃん、ホッケの塩焼き追加でお願いします!」
伊良湖「かしこまりましたー!」
―赤城は飛龍に付き合いつつビールを大ジョッキで呑みながら、加賀とは日本酒を呑み、さらに様々なつまみや食事、時に丼物やおにぎりなどを交えて食べ続けている。なのに、全く酔っていない。
加賀(さすが赤城さんだわ・・・)
赤城「ほらほら、加賀さんももっと食べて呑んで、飛龍ちゃんも!せっかく提督がこんな場を設けてくれたんですよ?」ニコニコ
加賀「そうね、夜間だったけれど、赤城さんを起用する提督の判断は流石だわ。全てが順調に流れた今、こんな時間も大切ね」
―その一方で、密談気味に話している雰囲気の席もあった。妙高達のテーブルである。
妙高「ついにこの日が来てしまったわ。高雄型がもしかすると異動してくるかもしれないわ!」
羽黒「そうでしょうか?摩耶さんのは一時的な発言だと思うし、高雄さんたちは戻りますよね?鳥海さんは分からないけれど・・・」
那智「どちらにしても、元々戦力が足りてないのだから、時間の問題だと思うがな。姉さんは何を心配しているんだ?うちの提督はスタイルとかそういうのはあまり考えていないようだぞ?」
妙高「わからないの?作戦時以外で提督と特にかかわりがある重巡がほとんどいない事に気付いているかしら?提督にも話したけれど、身近にいるのは駆逐艦の子ばかり、任務時間外で傍にいるのは戦艦の方たちばかりなのよ?」
足柄「私は気にしてないけどなぁ。戦いたいって言えば再優先で出してくれるし、戦隊名まで頂いたもの。大事な仕事も任せてくれるし、秘書艦をしていると分かるんだけど、戦艦のお姉さま方も駆逐艦の子たちも、さりげなく提督に気を使っている子ばかりが身近にいるのよね。あれでいいんじゃないかしら?」
羽黒「あの・・・」
那智「どうした?」
羽黒「それなら妙高姉さんが秘書艦をしたらいいんじゃないですか?」
妙高「ええっ!?」
那智「それだ羽黒!いい事言うなぁ!」
妙高「そっ・・・それはどうかしら?」
足柄「そうねぇ、私も戦隊旗艦任務が増えてきているし、姉さんが秘書艦なら色々と楽だわ。妙高型四人のうち二人が秘書艦なら、高雄型の事を気にする必要もないでしょ?いい案ね!」
妙高「三人とも、変な所で息ぴったりね。分かったわ。そうするわよ」フゥ
足柄「姉さん、なぜか浮かない感じね?」
妙高「大晦日にやらかしてしまったからね・・・」
那智「あー・・・。まあ、そんな事を気にする提督ではないから大丈夫だろう」
妙高「私は気にするのよ!」
足柄「大丈夫よ!早速提督に伝えてくるわね!」ガタッ・・・ダッ!
妙高「えっ、ちょっと、足柄?そんないきなり!?」
―しかし、素早い足柄はもう店を出てしまっていた。妙高は知らない。これが実は妹たちの仕組みだったことを。
―金剛と榛名の部屋。
榛名「お姉さま、お茶と紅茶でどちらがよろしいですか?」キラキラ
金剛「ンー、榛名の好きな方で良いデース。・・・って榛名、何だかすごくキラキラしてませんか?」
榛名「そうでしょうか?そんな事は別にないと思いますよ?」ニコッ、キラキラ
―しかし、榛名は自分で気づいていなかったが、金剛から見た榛名はいつもと違っている。足取りが軽く、鼻歌を口ずさみ、笑顔が絶えない。
金剛「あやしいですネー。提督はあんな感じの人ですが、私の妹ながら、あなたは一番魅力のある『榛名』ですからネ。ちょっと気になるのが正直なところデース・・・」
榛名「提督は、私が隣に座ったら、すぐに眠りに落ちてしまいました。でも、お傍にいる事を許してもらえたのと、榛名でも安心していただけたのが嬉しかったんです!お姉さまは提督の眠りを護っていたんですね。本当に警戒を解かない方なんだなって、わかりました」
金剛「ンー、そうだったのね?それはそれで良いのですが、扶桑に会いませんでしたか?」
榛名「えっ?はい、ばったり会いました。なぜわかったんですか?」
金剛「やっぱりネー。提督はいつもヘーゼンとしていますが、昨夜は疲れたはずデース。一人の時の休み方だとあまり疲れが取れないはずですが、私が眠ってしまっていました。そういう大事な時はそっと気を使うのが扶桑の良いところなのデース」
榛名「あれくらいさり気ない方が、提督は好きなんでしょうか?扶桑さんのそういう気遣い、きっと提督には伝わっていますよね?それに昨夜、何だか提督と海に飛び込んだことがあるというお話をしていました」
金剛「二人で海に?・・・やっぱり、ちょっとだけ何かありますネー、あの二人は。ほんの少しだけ、私たちより距離が近い気がしマース。・・・あれくらいの距離感のほうがいいのカナー?」
榛名「でも、みんなで引っ張らないとダメだというような事も言っていましたよ?」
金剛「みんなで?・・・叢雲や扶桑は、何か知っている気がしますネー」
榛名「でも、お姉さまの方が距離は近くないですか?」
金剛「大事なのは心の距離よ。でも、提督は私を十分に近くに置いてくれているもの。出会った時にたくさん泣いたからね、きっと。今これを乱すのは、愚か者のすることだと私は思うわ」
榛名「難しいですね。それとお姉さま、今もそうですが、時々、口調が変わりませんか?」
金剛「そうネー、いずれ話そうと思っていましたが、青ヶ島では仕方のないこととはいえ、『金剛』である自分を否定せざるを得ない程に追い込まれてしまいましたからネ。大事な話では、なるべく片言をやめて話すようにしているのよ」
榛名「そうだったんですね・・・。青ヶ島の提督さんが最初の金剛さんだけを愛していたから、でしょうけれど・・・残酷ですよね」
金剛「愛は時に残酷とは言うけど、自分があんな目に遭うとは思わなかったわ。とても堪えたもの。・・・でも、だからきっと最後の提督に出会えたのよ」
榛名「最後の提督ですか。・・・そうかもしれませんね」キラキラ
―マグカップを持ち、遠くの海を眺めている榛名は、今日もカチューシャを外している。自分の妹ながらその姿はとても綺麗で、出会った頃に漂っていた濁った空気は感じられない。
金剛「やっぱり榛名は何かキラキラしてますネー」
榛名「そういえば、なぜか心がとても軽いんです!」
金剛(提督と一緒に眠ると、なぜか心が軽くなる気がしていたけれど、気のせいじゃないという事かしら?)
―金剛と榛名は、冬の霞たなびく海に視線を移した。この綺麗な海の遥か向こうは、暗く恐ろしい海で、それは今も少しずつ広がってきていた。
―同じ頃、執務室ラウンジ。特務第七の川内は、鷹島提督と改めて連絡を取っていた。
特務第七の川内「じゃあボス、そういう事だから、こちらの提督さんと代わるね?・・・はい、提督さん」
―一方、特務第七の鷹島提督はフェリー『いかるがⅡ』の秘匿司令室で通話している。
提督「・・・久しぶりだな、鷹島。その後元気そうで何よりだ」
鷹島提督「信じがたいが、この声は間違いなくあんただな。やっぱり死んではいなかったんだな・・・誰かにやられて死ぬタマじゃないしな。まず最初に礼を言いたい。川内の件、迷惑をかけたな。それと特防と志摩鎮守府の件も。要は、あんたの案に乗れば何とかなるって事なんだな?」
提督「そういう事だ。志摩鎮守府がこんな私的制裁に乗り出す意味が分からんが、こんなごたごたはさっさと収めるに限る」
鷹島提督「というか、そう難しくないぜ、きっと。特防の大林はあんたに恩を感じているし、志摩鎮守府の月形は、あんたの熱烈なファンだからな。ファンというか命の恩人で、そっからひとめぼれ的なパターンらしいぜ?」
提督「月形?・・・聞いた事がある気もするが、済まないが記憶にない。どういう事だ?」
鷹島提督「アフリカであんたに縫われて救われた奴の一人だよ。ったく、相変わらずだな。途中からあんたへの支給や補給だけは手厚かったのは、全てあいつの差し金だ。犠牲者も出たが、結局あんたの働きが大きいし、あんたとのつながりが疑われて、あいつには誰も手出しができなかった。色々あって、今はビッグ・セブンの一角を担っているというわけだ」
提督「それは全くあずかり知らない話だな。いずれにせよ、今は作戦目標でしかないし、その提督の胸中はおれには関係ない。誰かさえ記憶にないしな」
鷹島提督「相変わらず他人に興味が無いんだな。まあいい。あんたは昔からそういう奴だよ。幸い、昨夜の航路規制でうちが横浜に着くのは明日以降だ。あんたの考えに合わせるさ。どうせそれが一番いいだろうしな。・・・それと、川内の奴が海に出たいと言ってる。申し訳ないが、一度演習をしてやってくれ。礼はするぜ?」
提督「演習?わかった。では、作戦の詳細は特殊帯で送る。よろしく頼む」
―スマートフォンを再び川内に戻した。川内は鷹島提督と話し、少し驚いた顔をして提督を見ると、通話を切った。
特務第七の川内「海に出てもいいけど、提督さんと模擬戦闘演習をしろって」
提督「ああ、聞いている。幸い、ここの演習場なら何とかできるはずだ。鷹島なりに君にとって大事な事だろうし、おれは構わんよ?」
特務第七の川内「なんかごめんなさい。でも、やるからには全力でやりたいし、とても楽しみなのも正直な所かな。ボスの意図は分からないんだけどね」
提督「いずれわかる。鷹島は本当に君が大事なんだな」
特務第七の川内「えっ?」
提督「海に出てまた戦う前に、戦闘の経験を積んでおけ、という意味だろうよ」
特務第七の川内「戦闘の経験はそれなりにあるつもりだし、たくさんの『川内』の中では、わたしはそこそこ強い方なんだけどなぁ」
提督「姫クラスと戦っても帰ってこれるくらいになって欲しいって意味だろうよ」
特務第七の川内「うーん・・・」
―川内は釈然としない、といった顔をした。
特務第七の川内(ボスにとっては、この提督さんが姫クラスと同じか、それ以上に強いって考えてるって事?そんなはずはないと思うけど・・・)
―あくまで人間としての強さの筈だ。と思いかけて、川内は鷹島提督の言葉を思い出した。『艦娘でも勝てないから、絶対に戦うな』と言っていた。
特務第七の川内(どういう意味なんだろう?・・・まっ、戦ってみればわかるよね!)
―こうして、特務第七の川内は、堅洲島の提督と演習で対峙することになった。この数十分後に、特務第七の川内は戦慄することになる。
第六十一話、艦
次回予告。
特殊演習場、『船の墓場』という設定で、夜戦演習に入る提督と、特務第七の川内。
特務第七の川内はそこで初めて、人間との戦い、達人との戦いを経験し、新たに開けた戦いの世界の広さに衝撃を受ける。
青葉のいたずらで、休暇中の鎮守府には演習の様子が映し出されるが、それが艦娘たちにそれぞれの影響を与える。一夜明けて決意する、摩耶と飛龍。考え込む鳥海。
一方、小笠原の向島要塞に航空機を運ぶ方法を検討する提督たちだったが、航空機の分解に工作艦・明石が必要な事が判明してしまう。
そして翌日、再び何人かの艦娘と共に横須賀に向かう提督だったが、横須賀でも様々な事柄が動いていた。
次回『慰労休暇』乞う、ご期待!
白露『ねぇねぇ提督、スマホ使ってていっつも思うんだけどさー、リンゴ社のスマホ、あれノーマルナンバー買う人って情弱だよね?もう一年待ってアップグレード版出てから買うのが普通だと思うんだけど、何なんだろ?』
提督『乗るしかないビッグウェーブってもんを感じているんだろ。まあ、大幅な変化を感じられやすいってメリットもあるんじゃないのか?』
白露『なーるほどねー、一番に変化を感じられるって事ね?・・・じゃあさ、提督、あたしの秘書艦用スマホ、最新の機種でお願いねー!』
提督『そう来たか・・・』フゥ
皆さん夏イベいかがだったでしょうか?
今回、天霧、狭霧とルイージは無理でしたが、最後にグラーフも入ったので、自分としてはとても有意義なイベントでした。
何より、親潮が入ったのがとても大きいです。彼女はこのSSでは、とても重要な役割を果たす艦娘なので、流石に未所持で話を進めるのは厳しいものがありました。でも、これで何とかなりそうです。
夏イベント、お互いお疲れさまでした。
私のところはなんとか全員お迎えできまして、フルコンプ継続出来ました。
次回の提督vs川内 楽しみにしています。
夏イベ&投稿お疲れ様です!
初のイベ完走出来て私は今回楽しめました。
如月ちゃんの書類落としはもう固定ネタかな?
バリちゃんは良識持ちだけど胸コンプ
お淀様はワケありロケラン
そしてようやくアキバ系のアイツが本編に!!
訓練の負けすら実戦の経験値にする陽炎の心意気には成長を感じますが、不知火の落ち度で台無しになる展開は黒潮同様に頭抱えたくもなります。
ひとまずは、三角関係も落ち着きが見えましたね。その後の食堂のシーンでマイペースを続ける一二航…コマンドー蒼龍もゆくゆくはここに入るんでしょうか。
1さん、コメントありがとうございます!
フルコンプはすごいですね!自分はまだ雲龍も居なかったりします。
提督VS川内、もうじきアップされますが、特務第七の川内が大きく成長していくきっかけとなる出来事です。
人間と艦娘の戦い方の違いもクローズアップされたり、多くの艦娘に影響を与えるエピソードですので、お楽しみに!
いつも読んでくださって、ありがとうございます!
2さん、コメントありがとうございます!
今回もとてもいいイベントでしたねー!
新規艦娘の辞令受け取りと、如月ちゃんの『可愛い新人さんだと良いわね』→書類バササーであわあわする。は、固定ネタです。
ヘタレ可愛いけど、きらりと光るものがある・・・そんな感じが堅洲島の如月ちゃんなので、定期的にこのネタはやってきます。
各艦娘への感想を一番述べているのが如月ちゃんなので、何気にその部分も面白いかもしれません。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!
3さん、コメントありがとうございます!
アキバ系のあの人も、もうじき出てきます。非常に優秀なのですが、やっぱり訳ありで復讐心から来る実験精神にあふりており、かなり色々やらかしてくれます。
何しろ彼女は『運営』から追われていますから、ガンちゃんをル級に変えたり、サラさんを浮遊要塞に変えるなど、朝飯前です。
この話の見どころは、他人に無関心で高い技量を持つ提督が、次第に個性的過ぎる艦娘たちに振り回されがちになって行くところでもあります。
お楽しみに!
4さん、コメントありがとうございます!
堅洲島の陽炎の良いところは、負けるんだけど誰にでも勝負をふっかけて経験を積むところです。しばらくは今回のように失笑的な結末が多いですが、次第に頭角を・・・特に撤退戦と生存戦に優れた力を発揮し始めます。
二航戦や摩耶たちですが、これから段階的に状況が片付き、立場も変わっていきます。
ショートランドの蒼龍はフラグが立っていますが、現在ショートランドの事を知っているのは、苦労人のあの子だけですので、まずはあの子が加入してからになると思います。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!
このシリーズ大好き、楽しみに続き待ってます。
9さん、コメントありがとうございます!
そう言われるのが何よりの励みになります。
当初の予定より、ずっと長い話になりそうですが、じっくり楽しんでいただければと思います。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!